IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-副室式内燃機関 図1
  • 特許-副室式内燃機関 図2
  • 特許-副室式内燃機関 図3A
  • 特許-副室式内燃機関 図3B
  • 特許-副室式内燃機関 図3C
  • 特許-副室式内燃機関 図4
  • 特許-副室式内燃機関 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】副室式内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 19/18 20060101AFI20221012BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F02B19/18 B
F02B19/12 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021509556
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013492
(87)【国際公開番号】W WO2020196685
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2019061135
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】田中 大
(72)【発明者】
【氏名】城田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】野中 一成
(72)【発明者】
【氏名】津田 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 遼太
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 捷
(72)【発明者】
【氏名】菅田 佳博
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-284665(JP,A)
【文献】特開2009-270538(JP,A)
【文献】特開2004-308656(JP,A)
【文献】特開2011-094603(JP,A)
【文献】特開2018-172974(JP,A)
【文献】特開2019-031961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダヘッドと、ピストンと、で画定される主室と、
前記シリンダヘッドから前記主室に向かって突出し、隔壁によって前記主室と隔てられる副室と、
前記主室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記主室と前記副室を連通する第1連通路及び第2連通路と、
を備え、
前記燃料噴射弁は、吸気ポート側に設けられ、前記ピストンのシリンダ軸に対して前記燃料を噴霧するように配置され、
前記隔壁は、前記燃料噴射弁に対向する第1領域と、前記第1領域とは反対側の第2領域とを有し、
前記第1連通路は前記第1領域に設けられ、前記第2連通路は前記第2領域に設けられており、
前記第1領域は、前記燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧のうち前記隔壁に直接当たる一部の燃料噴霧の噴射範囲である空間と隣接し、
前記第1連通路の最小断面積は、前記第2連通路の最小断面積よりも大きい、
副室式内燃機関。
【請求項2】
前記ピストンによって回転されるクランクシャフトをさらに備え、
前記ピストン側からみた前記主室の断面視において、
前記隔壁を、前記副室の中心を通り前記クランクシャフトの軸方向に延びる第1境界線で二分した場合に、前記第1領域は、前記第1境界線よりも前記燃料噴射弁側に設けられる、請求項1に記載の副室式内燃機関。
【請求項3】
前記ピストンによって回転されるクランクシャフトをさらに備え、
前記ピストン側からみた前記主室の断面視において、
前記隔壁を、前記主室の中心を通り前記クランクシャフトの軸方向に延びる第2境界線によって二分した場合に、前記第1領域は、前記第2境界線よりも前記燃料噴射弁側に設けられる、請求項1に記載の副室式内燃機関。
【請求項5】
前記ピストン側からみた前記主室の断面視において、
前記副室の中心は、前記主室の中心に対して前記シリンダの内壁面に向かってオフセットして設けられる、請求項1から3のいずれか1項に記載の副室式内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、副室式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主室およびその主室に連通路を介して連結された副室を備えた副室式内燃機関が提案されている(例えば、日本国特許第4561522号公報参照)。このような副室式内燃機関では、主室に噴射された燃料から混合気が形成される。形成された混合気は、圧縮時に連通路を介して副室内に供給され、副室内で点火プラグによって点火され、火炎を形成する。副室内で形成された火炎は、連通路を介して主室に噴射され、主室の混合気に着火する。このように、副室で形成された火炎を主室に噴射することは、主室の燃焼速度を高める。燃焼速度の向上は、より希薄な空燃比での運転を可能とし、燃費を向上させる。
【0003】
日本国特許第4561522号公報の副室式内燃機関では、第1の噴射口は、圧縮上死点近傍に位置するピストンのピストン冠面に衝突せずにシリンダ内壁面を指向する中心軸線を有する。また、第2の噴射口は、圧縮上死点近傍に位置するピストンのピストン冠面のキャビティーの底面外周部を指向する中心軸線を有する。
【0004】
一般に、主室に混合気が偏在すると不均質な燃焼が生じる可能性がある。日本国特許第4561522号公報の副室式内燃機関では、周方向に並んだ噴射口は同一形状を有する。このような構造では、燃料噴射弁に近い領域では噴射された燃料が拡散しにくくなるため、その領域に存在する混合気の空燃比が低くなりやすい。つまり、空燃比が理論空燃比より低いリーンな混合気が主室内の燃料噴射弁側の空間に偏在しやすい。そのため、その空間では不均質な燃焼が生じやすい。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、主室に混合気が偏在しても、主室の混合気を均質に燃焼させる副室式内燃機関に関する。
【0006】
本開示の実施形態によれば、副室式内燃機関は、主室と、副室と、燃料噴射弁と、第1連通路と、第2連通路と、を備える。主室は、シリンダヘッドと、シリンダと、ピストンとで画定される。副室は、シリンダヘッドから主室に向かって突出し、隔壁によって主室と隔てられる。燃料噴射弁は、主室内に燃料を噴射する。第1連通路及び第2連通路は、主室と副室を連通する。隔壁は、燃料噴射弁に対向する第1領域と、第1領域とは反対側の第2領域とを有し、第1連通路は第1領域に設けられ、第2連通路は第2領域に設けられている。第1連通路の最小断面積は、第2連通路の最小断面積よりも大きい。
【0007】
燃料噴射弁に対向する第1領域に設けられた第1連通路の最小断面積を第1領域と反対側の第2領域に設けられた第2連通路の最小断面積よりも大きくすることは、第1連通路が噴射する火炎の量を、第2連通路が噴射する火炎の量よりも増やす。すなわち、燃料噴射弁側の空間に噴射される火炎の量が他の空間に噴射される火炎の量よりも多くなる。このため、主室の燃料噴射弁側の空間の混合気が着火しやすい。この結果、空燃比がリーンとなる混合気が主室の燃料噴射弁側の空間に偏在した場合であっても、主室の混合気が均質に燃焼する。
【0008】
副室式内燃機関は、ピストンによって回転されるクランクシャフトをさらに備えてもよい。副室式内燃機関は、ピストン側からみた主室の断面視において、副室の中心を通りクランクシャフトの軸方向に延びる第1境界線で隔壁を二分した場合に、第1領域は、第1境界線よりも燃料噴射弁側に設けられてもよい。
【0009】
この構成によれば、副室から燃料噴射弁までの間の空間に噴射される火炎の量が他の空間に噴射される火炎の量よりも多くなる。このため、副室から燃料噴射弁までの間の空間の混合気がリーンであっても、混合気が着火しやすい。
【0010】
副室式内燃機関は、ピストン側からみた主室の断面視において、主室の中心を通りクランクシャフトの軸方向に延びる第2境界線で隔壁を二分した場合に、第1領域は、第2境界線よりも燃料噴射弁側に設けられてもよい。
【0011】
この構成によれば、主室の中心から燃料噴射弁までの間の空間に噴射される火炎の量が他の空間に噴射される火炎の量よりも多くなる。このため、主室の混合気が主室の中心から着火しやすい。混合気が主室の中心から着火すると、主室の混合気がさらに均質に燃焼する。
【0012】
第1領域は、燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧のうち隔壁に直接当たる一部の燃料噴霧の噴射範囲である空間と隣接してもよい。
【0013】
燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧のうち隔壁に直接当たる一部の燃料噴霧の噴射範囲である空間は、混合気の空燃比がリーンとなりやすい。この構成によれば、燃料噴射弁から噴射される燃料噴霧のうち隔壁に直接当たる一部の燃料噴霧の噴射範囲である空間に噴射される火炎の量が他の空間に噴射される火炎の量よりも多くなる。
【0014】
ピストン側からみた主室の断面視において、副室の中心は、主室の中心に対してシリンダの内壁面に向かってオフセットして設けられてもよい。
【0015】
この構成によれば、副室が主室の形状に合わせて最適な位置に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の第1実施形態による副室式内燃機関の概略構成を示す縦断面図。
図2図1の副室式内燃機関の連通路形成部を示す横断面図。
図3A図1の副室式内燃機関の吸気行程および圧縮行程を示す模式図。
図3B図1の副室式内燃機関の吸気行程および圧縮行程を示す模式図。
図3C図1の副室式内燃機関の吸気行程および圧縮行程を示す模式図。
図4図1の副室式内燃機関の点火後の火炎の状態を示す模式面図。
図5】本開示の第2実施形態による副室式内燃機関の連通路形成部を示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本開示の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、シリンダ軸方向Qとは、シリンダに沿ってピストンの摺動する方向を示す。また、上下方向と記す場合には、シリンダ軸方向Qを示し、シリンダヘッド側を「上」、ピストン側を「下」とする。左右方向Rとは、シリンダ軸方向Qに直交し、吸気ポート及び排気ポートが配置される方向を示す。
【0018】
図1に示すように、副室式内燃機関1は、主室4と、副室6と、主室4と副室6を連通する複数の第1連通路8と、主室4と副室6を連通する複数の第2連通路9と、点火プラグ10と、主室4に設けられる燃料噴射弁12と、クランクシャフト15と、を備える。本実施形態では、副室式内燃機関1は、主室4および副室6を有する気筒Nが、直列に複数配列された直列型内燃機関である。すなわち、主室4、副室6、複数の第1連通路8、複数の第2連通路9、点火プラグ10、および、燃料噴射弁12は、各気筒Nに備えられる。しかし、気筒Nの配列についてはこれに限定されず、V型であっても水平対向型であってもよい。
【0019】
主室4は、シリンダブロック101のシリンダ101a、シリンダヘッド102、およびピストン103で画定された空間である。本実施形態では、主室4はペントルーフ形状を有し、シリンダヘッド102の吸気ポート105側、および、排気ポート109側に向けて延びる2つの斜面を、シリンダ101aの内壁面101cによって形成された中心X1の円筒形状の端部に有する。主室4は、吸気カム(図示せず)によって駆動される2つの吸気バルブ104aおよび吸気バルブ104bを介して吸気ポート105に接続している。吸気ポート105は、図示しない吸気通路、スロットルバルブ、および、エアクリーナに接続している。また、主室4は、排気カム(図示せず)によって駆動される2つの排気バルブ109aおよび排気バルブ109bを介して、排気ポート110、排気通路(図示せず)、および、排気浄化触媒(図示せず)に接続している。
【0020】
クランクシャフト15は、気筒Nの配列方向に延びている。本実施形態では、副室式内燃機関1は、気筒Nが直列に配置される直列型内燃機関である。すなわち、クランクシャフト15の軸方向Pは、シリンダ軸方向Qに直交し、気筒Nが配置される方向を示し、縦置きエンジンの場合は車両の前後方向と一致する。しかし、気筒Nが各バンクに交互に配列されるV型内燃機関や水平対向型内燃機関であっても、クランクシャフト15が延びる方向がクランクシャフト15の軸方向Pとなる。クランクシャフト15は、主室4の燃料圧を受けたピストン103がシリンダ101aに沿ってシリンダ軸方向Qに摺動することによって回転され、ピストン103の往復運動を回転運動に変換する。
【0021】
副室6は、ペントルーフ形状の主室4の頂上部に設けられており、主室4と隣接している。副室6は、隔壁61で画定された空間である。副室6は、シリンダヘッド102から主室4に向かって突出し、隔壁61を介して主室4と隔てられる。本実施形態では、副室6は、ペントルーフ形状の主室4の2つの斜面の交線(稜線)から、排気ポート110側へオフセットしている。しかし、副室6は、吸気ポート105側へオフセットしてもよいし、クランクシャフト15の軸方向Pのいずれか一方にオフセットしてもよい。いずれにせよ、副室6は、主室4の形状に合わせて設けられる。
【0022】
図2は、第1連通路8および第2連通路9の形成部における主室4のピストン103のシリンダ軸方向Qと垂直な断面を、ピストン103側からみた横断面図である。図1および図2に示すように、隔壁61は、中心X2を中心とした円形断面を有し、半球状の底部61aを有する。副室6の容積は、主室4の容積よりも小さく、点火プラグ10で点火された混合気の火炎が副室6内に素早く伝播する。
【0023】
隔壁61は、複数の第1連通路8を底部61aに有する。第1連通路8は、主室4と副室6とを連通し、主室4の混合気を副室6に導く。図2示すように、第1連通路8は、副室6で燃焼した火炎を噴射する第1噴射口8aを、隔壁61の外周61bの面に有する。また、第1連通路8は、混合気を副室6に導入する第1導入口8bを、隔壁61の内周61cの面に有する。
【0024】
本実施形態では、第1連通路8は、例えば、3つ設けられ、それぞれの第1連通路8は、円筒形状であり、第1連通路8の内径D1は一定である。しかし、第1連通路8の内径は、隔壁61の外周61bに向かって拡大してもよい。この場合、内径D1は第1連通路8の最も狭い内径を示す。
【0025】
第1連通路8は、図2において二点鎖線で囲まれる第1領域40に設けられる。第1領域40は、隔壁61のうち、燃料噴射弁12に対向する領域である。より具体的には、図2に示す断面視において、副室6の中心X2を通りクランクシャフト15の軸方向Pに延びる第1境界線C1で隔壁61を二分した場合に、第1領域40は、第1境界線C1よりも燃料噴射弁12側に位置する。すなわち、第1領域40は、主室4を第1境界線C1で二分した場合に、燃料噴射弁12側に位置する第1空間V1と隣接する。
【0026】
また、第1領域40は、燃料噴射弁12から噴射される燃料噴霧12aのうち副室6の隔壁61に直接当たる一部の燃料噴霧の噴射範囲である第2空間V2と隣接する。より具体的には、第2空間V2は、図2に示す断面視において、主室4をピストン103側からシリンダ軸方向Qにみた場合に、隔壁61の外周61bと燃料噴射弁12の中心X3を結ぶ一対の接線S1と、隔壁61の外周61bによって囲まれた部分である。すなわち、第1領域40は、接線S1と外周61bの交点O1から交点O2の区間で、第2空間V2と隣接する。
【0027】
隔壁61は、複数の第2連通路9を底部61aに有する。第2連通路9は、主室4と副室6とを連通し、主室4の混合気を副室6に導く。第2連通路9は、副室6で燃焼した火炎を噴射する第2噴射口9aを、隔壁61の外周61bの面に有する。第2噴射口9aは、隔壁61の外周61bの面に沿って形成される。また、第2連通路9は、混合気を副室6に導入する第2導入口9bを、隔壁61の内周61cの面に有する。第2導入口9bは、隔壁61の内周61cの面に沿って形成される。
【0028】
本実施形態では、第2連通路9は、例えば、4つ設けられ、それぞれの第2連通路9は円筒形状であり、第2連通路9の内径D2は一定である。しかし、第2連通路9の内径は、隔壁61の外周61bに向かって拡大してもよい。この場合、内径D2は第2連通路9の最も狭い内径を示す。
【0029】
第2連通路9は、第1領域40と反対側の第2領域42に設けられる。隔壁61を第1境界線C1で二分した場合に、第2領域42は、第1境界線C1を挟んで燃料噴射弁12と反対側のシリンダ101aの内壁面101cに対向した領域である。すなわち、第2領域42は、主室4を第1境界線C1で二分した場合に、燃料噴射弁12側の第1空間V1と反対の第3空間V3と隣接する。
【0030】
第1連通路8の最小断面積Aは、第2連通路9の最小断面積Bよりも大きい。ここで最小断面積は、各連通路の最も狭い内径の断面積の合計値を示す。例えば、第1連通路8が3つの場合、第1連通路8の最小断面積Aは、第1連通路8の最も狭い内径D1に基づいた断面積に連通路の数である3を掛け合わせた値となる。同様に、例えば、第2連通路9が4つの場合、第2連通路9の最小断面積Bは、第2連通路9の最も狭い内径D2に基づいた断面積に連通路の数である4を掛け合わせた値となる。
【0031】
図1および図2示すように、点火プラグ10は、副室6の中心X2に重なる位置に中心電極10cが配置される。点火プラグ10は、副室6の混合気に点火することで燃焼させる。
【0032】
燃料噴射弁12は、主室4に面する。また、燃料噴射弁12は、副室6の外に設けられる。本実施形態では、燃料噴射弁12は、主室4に直接燃料を噴射する。すなわち、副室式内燃機関1は、直噴型の内燃機関である。燃料噴射弁12は、噴射量と噴射時期を制御する。また、燃料噴射弁12は、図示しない燃料噴射ポンプ、および、燃料タンクに接続している。本実施形態では、副室式内燃機関1の空燃比は、理論空燃比よりもリーンな値に設定される。すなわち、副室式内燃機関1は、希薄燃焼で運転される。これによって、燃費性能が向上する。
【0033】
図1および図2に示すように、本実施形態では、燃料噴射弁12は、シリンダヘッド102の吸気ポート105側に設けられる。また、燃料噴射弁12は、燃料噴射弁12の中心X3の周囲に設けられた燃料噴射口(図示せず)からピストン103のシリンダ軸方向Qに対して第1噴霧角α、クランクシャフト15の軸方向Pに対して第2噴霧角βで燃料噴霧12aを噴射する。燃料噴射弁12の位置、および、噴射角は主室4の形状にあわせて適宜変更される。
【0034】
次に図3Aから図3Cおよび図4を用いて、副室式内燃機関1の圧縮行程における混合気の状態と、点火後の火炎の状態を説明する。
【0035】
図3Aに示すように、吸気行程では、吸気バルブ104aおよび吸気バルブ104bが開弁するとともに、ピストン103が下降し、吸気が主室4および副室6に導入される。本実施形態では、吸気は、図示しない過給機によって加圧される。主室4および副室6の圧力は、吸気の圧力に合わせて上昇する。吸気行程では、燃料噴射弁12は、主として主室4に燃料を供給するための第1噴射を行う。第1噴射によって噴射された燃料は、主室4内で吸気と混じり混合気を形成する。混合気は、ピストン103が下がるとともに主室4全体に供給される。
【0036】
図3Bに示すように、圧縮行程では、吸気バルブ104aおよび吸気バルブ104bが閉弁するとともにピストン103が上昇し、主室4の混合気が圧縮される。このとき、主室4の圧力は上昇する。また、第1連通路8および第2連通路9から副室6に導入される混合気は、第1連通路8および第2連通路9で絞られて、圧力損失が生じる。これにより、副室6の圧力は、主室4に対して遅れて上昇する。すなわち、副室6の圧力は、主室4の圧力よりも低くなる。
【0037】
副室6の圧力が主室4の圧力よりも低くなった際に、燃料噴射弁12は、第2噴射を行う。第2噴射は、第1連通路8、および、第2連通路9を介して副室6に燃料を供給するために行われる。このとき、燃料噴射弁12から噴射された燃料噴霧12aの一部は、隔壁61に向けて噴射される。これによって、燃料噴霧12aの一部は、第1領域40に設けられた第1連通路8を介して副室6に供給される。図3Cに示すように、この結果、第1境界線C1よりも燃料噴射弁12側の第1空間V1の混合気の空燃比は、第1境界線C1を挟んで燃料噴射弁12と反対側の第3空間V3(第3空間V3のドットで示す混合気)よりもリーンとなる。特に、燃料噴射弁12から噴射される燃料噴霧12aと副室6の隔壁61に囲まれた第2空間V2の混合気(第2空間V2のドットで示す混合気)は、第1連通路8に燃料が直接供給されるため、他の空間の混合気の空燃比よりもリーンになる。
【0038】
ピストン103が上昇し、さらに圧縮が進むと、副室6に導入された混合気は、点火プラグ10によって点火されて燃焼する。図4に示すように、副室6の混合気が燃焼すると、第1連通路8は火炎G1を噴射し、第2連通路9は火炎G2を噴射する。火炎G1および火炎G2によって主室4の混合気が着火されて燃焼すると、副室式内燃機関1は膨張行程に進み、ピストン103がシリンダ軸方向Qに押し下げられる。本実施形態では、第1連通路8の最小断面積Aは、第2連通路9の最小断面積Bよりも大きい。これによって、第1連通路8が噴射する火炎G1の量は、第2連通路9が噴射する火炎G2の量よりも多い。このため、第3空間V3よりも、混合気の空燃比がリーンとなる第1空間V1に向けてより多くの火炎が噴射される。この結果、第1空間V1と第3空間V3において、混合気が均質に燃焼する。
【0039】
また、第1連通路8は、第2空間V2に隣接する第1領域40に設けられる。これによって、第1連通路8は、第2空間V2に対して第3空間V3よりも多い火炎G1を噴射する。この結果、第2空間V2と第3空間V3においても、混合気が均質に燃焼する。
【0040】
排気行程では、排気バルブ109aおよび排気バルブ109bが開弁するとともに、ピストン103が下死点から上昇し、シリンダ内の燃焼ガス(排気)が排気ポート110に排出される。そして、ピストン103が上死点に達すると、再び吸気行程が始まる。このようにピストン103が2往復すると4つの行程が完了する。
【0041】
以上説明した通り、第1実施形態の副室式内燃機関1では、燃料噴射弁12に対向する第1領域40に設けられた第1連通路8の最小断面積Aが、第1領域40と反対側に設けられた第2連通路9の最小断面積Bよりも大きい。これが、主室4の第1空間V1と、第2空間V2と、第3空間V3において、混合気を均質に燃焼させる。
【0042】
<第2実施形態>
次に、図5を用いて第2実施形態の副室式内燃機関201について、説明する。なお、本実施形態では第1実施形態と異なる点のみ説明する。
【0043】
図5は、隔壁261において第1連通路208および第2連通路209が形成されている部分の、主室204のピストン403のシリンダ軸方向Qと垂直な断面を、ピストン403側からみた横断面図である。
【0044】
図5に示すように、第1連通路208は、第1領域240に設けられる。第1領域240は、隔壁261のうち、燃料噴射弁12に対向する領域である。より具体的には、第2実施形態では、図5における断面視において、主室204の中心X201を通りクランクシャフト15の軸方向Pに延びる第2境界線C2で隔壁261を二分した場合に、第1領域240は、第2境界線C2よりも燃料噴射弁212側に位置する。すなわち、図5に示すように、第1領域240は、主室204を第2境界線C2で二分した場合に、燃料噴射弁12側に位置する第1空間V201と隣接する。なお、本実施形態では、副室206は、主室204のペントルーフ形状の2つの斜面の交線(稜線)から、排気ポート109側へオフセットして設けられる。このため、第2境界線C2は、第1境界線C1よりも燃料噴射弁12に近い位置にある。
【0045】
また、第1実施形態と同様に、第1領域240は、燃料噴射弁212から噴射される燃料噴霧212aのうち副室206の隔壁261に直接当たる一部の燃料噴霧の噴射範囲である第2空間V202と隣接する。
【0046】
第2連通路209は、第1領域240と反対側の第2領域242に設けられる。より具体的には、第2実施形態では、隔壁261を第2境界線C2で二分した場合に、第2領域242は、第2境界線C2を挟んで燃料噴射弁12と反対側のシリンダ101aの内壁面101cに対向した領域である。すなわち、図5に示すように、第2領域242は、主室204を第2境界線C2で二分した場合に、燃料噴射弁212側の第1空間V201と反対の第3空間V203と隣接する。
【0047】
このように構成された副室式内燃機関201では、主室204の中心X201から燃料噴射弁212に向けた第1空間V201に噴射される火炎の量が、第3空間V203に噴射される火炎の量よりも多い。また、主室204の混合気が中心X201付近から着火すると、主室204の混合気が均質に燃焼する。
【0048】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0049】
上記実施形態では、副室式内燃機関1は、直噴型の内燃機関であるが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、副室式内燃機関1は、吸気ポート105に設けられる吸気ポートインジェクタと、主室4内に設けられる直噴インジェクタを備えてもよい。
【0050】
上記実施形態では、副室式内燃機関1は、3つの第1連通路8を有するが、本開示はこれに限定されない。また、副室式内燃機関1は、4つの第2連通路9を有するが、本開示はこれに限定されない。第1連通路8および第2連通路9は、1つ以上であればよい。
【0051】
上記実施形態では、底部61aが半球状であるが、本開示はこれに限定されない。底部61aの形状は円錐台形状、円錐状など種々形状がであってもよい。
【0052】
上記実施形態では、副室の形状はシリンダ軸方向に垂直な面による断面が円形となる形状(半球や円筒形状など)を例にしている。しかしながら、副室の形状はこれに限られない。断面が楕円や正多角形となる形状であってもよい。火炎伝播の観点からは、対称性のある形状が好ましいが、これに限られない。なお、本開示における「直径方向」「径方向」「接線」などの幾何学的表現は、断面が円形以外の場合であっても、当業者であれば適宜理解することができるであろう。つまり、副室の断面が円形以外になる実施態様であっても、当業者であれば本開示と同様の効果が奏されるように本開示の特徴を適宜適用できるであろう。
【0053】
上記実施形態では、副室に設けられた点火プラグで混合気が点火される火花点火内燃機関を例にしている。本開示の内燃機関では燃料としてガソリンが使用されるが、当然これに限定されず、アルコールなどの他の燃料であってもよい。また、本開示の特徴は、火花点火内燃機関に限られず、ディーゼルエンジンなどの圧縮着火内燃機関にも適用可能である。つまり、副室内に点火プラグ等の火花発生手段を設けることは必須ではなく、内燃機関の1燃焼サイクル(4ストロークエンジンであれば吸入、圧縮、燃焼、排気からなるサイクル)の中で最初の正常燃焼(予備燃焼)が副室内で生じるように設計された内燃機関であれば同様の作用効果が期待される。なお、圧縮着火内燃機関であっても、インジェクタから副室内に燃料を直接噴射させることや圧縮比を適宜設定することで、副室内で予備燃焼を発生させられることは従来周知である。また、圧縮着火内燃機関であっても、燃料は特に軽油に限定されず、ガソリンやアルコール等であってもよい。
【0054】
本開示の実施形態によれば、副室式内燃機関(1)は、
シリンダ(101a)と、シリンダヘッド(102)と、ピストン(103)と、で画定される主室(4)と、
前記シリンダヘッド(102)から前記主室(4)に向かって突出し、隔壁(61)によって前記主室(4)と隔てられる副室(6)と、
前記主室(4)内に燃料を噴射する燃料噴射弁(12)と、
前記主室(4)と前記副室(6)を連通する第1連通路(8)及び第2連通路(9)と、
を備え、
前記隔壁(61)は、前記燃料噴射弁(12)に対向する第1領域(40)と、前記第1領域(40)とは反対側の第2領域(42)とを有し、
前記第1連通路(8)は前記第1領域(40)に設けられ、前記第2連通路(9)は前記第2領域(42)に設けられており、
前記第1連通路(8)の最小断面積は、前記第2連通路(9)の最小断面積よりも大きい。
【0055】
前記ピストン(103)側からみた前記主室(4)の断面視において、前記隔壁(61)を、前記副室(6)の中心を通り前記クランクシャフト(15)の軸方向に延びる第1境界線(C1)で二分した場合に、前記第1領域(40)は、前記第1境界線(C1)よりも前記燃料噴射弁(12)側に設けられてもよい。
【0056】
前記ピストン(103)側からみた前記主室(4)の断面視において、前記隔壁(261)を、前記主室(204)の中心を通り前記クランクシャフト(15)の軸方向に延びる第2境界線(C2)によって二分した場合に、前記第1領域(240)は、前記第2境界線(C2)よりも前記燃料噴射弁(212)側に設けられてもよい。
【0057】
前記第1領域(40)は、前記燃料噴射弁(12)から噴射される燃料噴霧のうち前記副室(6)の前記隔壁(61)に直接当たる一部の燃料噴霧の噴射範囲である空間(V2)と隣接してもよい。
【0058】
前記ピストン(103)側からみた前記主室(4)の断面視において、前記副室(6)の中心は、前記主室(4)の中心に対して前記シリンダ(101a)の内壁面に向かってオフセットして設けられてもよい。
【0059】
本出願は、2019年3月27日出願の日本特許出願特願2019-061135に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0060】
1 201:副室式内燃機関
4 204:主室
6 206:副室
8 208:第1連通路
9 209:第2連通路
12 212:燃料噴射弁
15:クランクシャフト
61 261:隔壁
40 240:第1領域
42 242:第2領域
101a:シリンダ
102:シリンダヘッド
103:ピストン
C1:第1境界線
C2:第2境界線
V3 V203:第3空間
A:第1連通路の最小断面積
B:第2連通路の最小断面積
X1 X201:主室の中心
X2 X202:副室の中心
P:クランクシャフトの軸方向
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5