(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】タービンホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
F02B 39/00 20060101AFI20221012BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20221012BHJP
F01D 5/04 20060101ALI20221012BHJP
F01D 5/14 20060101ALI20221012BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F02B39/00 U
B22D27/04 A
F01D5/04
F01D5/14
F01D5/28
F02B39/00 Q
F02B39/00 R
(21)【出願番号】P 2021512055
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014267
(87)【国際公開番号】W WO2020203868
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2019069698
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】筑後 一義
(72)【発明者】
【氏名】内藤 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佳樹
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-180007(JP,A)
【文献】特開2002-283043(JP,A)
【文献】特開2002-331352(JP,A)
【文献】特開2007-162041(JP,A)
【文献】特開2008-255895(JP,A)
【文献】特開2016-223332(JP,A)
【文献】実開平04-014702(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 27/04
F01D 5/04
F01D 5/28
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機用のタービンホイールの製造方法であって、
軸体をNi合金で鋳造し、複数の翼体をNi合金で一方向凝固鋳造または単結晶鋳造する鋳造工程と、
前記複数の翼体を、結晶成長方向と遠心力方向とが同じ方向となるようにして、前記軸体の周りに組み立てる組立工程と、
を備え、
前記鋳造工程は、前記複数の翼体の1つと、前記軸体を軸方向に分割した複数の分割軸体の1つと、を一体とした複数の単翼構造体をNi合金で鋳造すると共に、前記単翼構造体の翼体を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造し、
前記組立工程は、前記複数の単翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記複数の単翼構造体の分割軸体同士を一体で接合する、タービンホイールの製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のタービンホイールの製造方法であって、
前記組立工程は、前記単翼構造体の分割軸体に軸方向に貫通するピン穴を形成し、前記複数の単翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記ピン穴にNi合金で形成されるピンを挿通し、前記複数の単翼構造体の分割軸体同士を前記ピンと一体で接合する、タービンホイールの製造方法。
【請求項3】
過給機用のタービンホイールの製造方法であって、
軸体をNi合金で鋳造し、複数の翼体をNi合金で一方向凝固鋳造または単結晶鋳造する鋳造工程と、
前記複数の翼体を、結晶成長方向と遠心力方向とが同じ方向となるようにして、前記軸体の周りに組み立てる組立工程と、
を備え、
前記鋳造工程は、前記複数の翼体における前記軸体に対して対向する2つの翼体と、前記軸体を軸方向に分割した複数の分割軸体の1つと、を一体とした複数の2枚翼構造体をNi合金で鋳造すると共に、前記2枚翼構造体の2つの翼体を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造し、
前記組立工程は、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体同士を一体で接合する、タービンホイールの製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載のタービンホイールの製造方法であって、
前記組立工程において、前記2枚翼構造体の分割軸体に軸方向に貫通するピン穴を形成し、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記ピン穴にNi合金で形成されるピンを挿通し、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体同士を前記ピンと一体で接合する、タービンホイールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タービンホイール及びその製造方法に係り、特に、過給機用のタービンホイール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機は、タービンホイールと、コンプレッサインペラと、を備えている。タービンホイールと、コンプレッサインペラとは、ロータ軸で連結されている。タービンホイールは、高温の燃焼ガスに曝される。このため、過給機用のタービンホイールは、Ni合金で鋳造されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、過給機用のタービンホイールは、中心軸の周りに複数の翼が設けられて構成されている。タービンホイールは、複数の翼がNi合金により中心軸と一体で普通鋳造されて製造されている。このことから翼は、Ni合金の等軸晶からなる金属組織で形成されている。翼の金属組織が等軸晶からなる場合には、翼の遠心力方向に対して高温クリープ強度等の機械的強度が低くなり、タービンホイールの耐熱性が低下する可能性がある。
【0005】
そこで本開示の目的は、耐熱性を向上させることが可能なタービンホイール及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るタービンホイールは、過給機用のタービンホイールであって、Ni合金で形成される軸体と、前記軸体の周りに設けられ、Ni合金の柱状晶または単結晶で形成されており、結晶成長方向と遠心力方向とが同じ方向である複数の翼体と、を備える。
【0007】
本開示に係るタービンホイールにおいて、前記軸体は、等軸晶で形成されていてもよい。
【0008】
本開示に係るタービンホイールの製造方法は、過給機用のタービンホイールの製造方法であって、軸体をNi合金で鋳造し、複数の翼体をNi合金で一方向凝固鋳造または単結晶鋳造する鋳造工程と、前記複数の翼体を、結晶成長方向と遠心力方向とが同じ方向となるようにして、前記軸体の周りに組み立てる組立工程と、を備える。
【0009】
本開示に係るタービンホイールの製造方法において、前記鋳造工程は、前記複数の翼体を、翼体ごとに単翼で鋳造し、前記組立工程は、前記複数の翼体を、前記軸体の周りに接合してもよい。
【0010】
本開示に係るタービンホイールの製造方法において、前記組立工程は、前記軸体の周りに軸方向に沿って前記翼体を嵌合可能な嵌合溝を形成し、前記翼体を前記嵌合溝に嵌合させて接合してもよい。
【0011】
本開示に係るタービンホイールの製造方法において、前記鋳造工程は、前記複数の翼体の1つと、前記軸体を軸方向に分割した複数の分割軸体の1つと、を一体とした複数の単翼構造体をNi合金で鋳造すると共に、前記単翼構造体の翼体を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造し、前記組立工程は、前記複数の単翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記複数の単翼構造体の分割軸体同士を一体で接合してもよい。
【0012】
本開示に係るタービンホイールの製造方法において、前記組立工程は、前記単翼構造体の分割軸体に軸方向に貫通するピン穴を形成し、前記複数の単翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記ピン穴にNi合金で形成されるピンを挿通し、前記複数の単翼構造体の分割軸体同士を前記ピンと一体で接合してもよい。
【0013】
本開示に係るタービンホイールの製造方法において、前記鋳造工程は、前記複数の翼体における前記軸体に対して対向する2つの翼体と、前記軸体を軸方向に分割した複数の分割軸体の1つと、を一体とした複数の2枚翼構造体をNi合金で鋳造すると共に、前記2枚翼構造体の2つの翼体を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造し、前記組立工程は、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体同士を一体で接合してもよい。
【0014】
本開示に係るタービンホイールの製造方法において、前記組立工程において、前記2枚翼構造体の分割軸体に軸方向に貫通するピン穴を形成し、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、前記ピン穴にNi合金で形成されるピンを挿通し、前記複数の2枚翼構造体の分割軸体同士を前記ピンと一体で接合してもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成のタービンホイール及びその製造方法によれば、タービンホイールの耐熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の第一実施形態において、タービンホイールの構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の第一実施形態において、タービンホイールの構成を示す断面模式図である。
【
図3】本開示の第一実施形態において、タービンホイールの製造方法の構成を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の第一実施形態において、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
【
図5】本開示の第一実施形態において、過給機の構成を示す断面模式図である。
【
図6】本開示の第二実施形態において、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
【
図7】本開示の第三実施形態において、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
【
図8】本開示の第三実施形態において、単翼構造体を鋳造する鋳型の構成を示す断面模式図である。
【
図9】本開示の第四実施形態において、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
【
図10】本開示の第五実施形態において、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
【
図11】本開示の第五実施形態において、2枚翼構造体を鋳造する鋳型の構成を示す断面模式図である。
【
図12】本開示の第六実施形態において、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第一実施形態]
以下に本開示の第一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、タービンホイール10の構成を示す模式図である。
図2は、タービンホイール10の構成を示す断面模式図である。タービンホイール10は、車両用や船舶用等の過給機に用いられる。タービンホイール10は、軸体12と、軸体12の周りに設けられる複数の翼体14と、を備えている。
【0018】
軸体12は、タービンホイール10の中心に設けられており、中心軸としての機能を有している。軸体12は、Ni合金の鋳造品で形成されている。軸体12は、Ni合金の柱状晶、単結晶または等軸晶で形成することができる。軸体12は、等軸晶で形成されているとよい。軸体12を等軸晶で形成することにより、疲労強度等を高めることができる。
【0019】
複数の翼体14は、軸体12の周りに設けられている。翼体14は、Ni合金の鋳造品で形成されている。翼体14は、軸体12の周りに偶数個設けられていてもよいし、奇数個設けられていてもよい。翼体14が軸体12の周りに奇数個設けられている場合には、タービンホイール10の共振等を抑制することができる。翼体14は、軸体12の周りに等間隔で設けられているとよい。
図1では、翼体14の枚数は8枚であるが、翼体14の枚数は、2枚以上であれば特に限定されない。
【0020】
翼体14は、Ni合金の柱状晶または単結晶で形成されており、結晶成長方向と遠心力方向とが同じ方向で形成されている。これによりタービンホイール10が回転したときに、翼体14に負荷される遠心力方向が結晶成長方向と同じ方向となるのでクリープ強度等を高めることができる。
図2には、翼体における結晶成長方向を矢印で示している。柱状晶または単結晶は、結晶成長方向が一方向で形成されている。柱状晶または単結晶は、結晶成長方向が最も高い機械的強度を発現する。このことから結晶成長方向と遠心力方向とを同じ方向とすることにより、翼体14の機械的強度を高めることができる。Ni合金の結晶成長方向は、ミラー指数の[001]方向である。
【0021】
軸体12及び翼体14を鋳造するNi合金は、特に限定されないが、耐熱性を有するNi合金を用いるとよい。Ni合金には、MarM247、Rene’N4、CMSX-2等を適用可能である。軸体12と翼体14とは、同じNi合金で形成されていてもよいし、異なるNi合金で形成されていてもよいが、同じNi合金で形成されているとよい。
【0022】
次に、タービンホイール10の製造方法について説明する。
図3は、タービンホイール10の製造方法の構成を示すフローチャートである。タービンホイール10の製造方法は、鋳造工程(S10)と、組立工程(S12)と、を備えている。
図4は、タービンホイール10の製造方法を説明するための模式図である。
【0023】
鋳造工程(S10)は、軸体12をNi合金で鋳造し、複数の翼体14をNi合金で一方向凝固鋳造または単結晶鋳造する工程である。
【0024】
軸体12は、Ni合金を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造して形成してもよいし、Ni合金を普通鋳造して形成してもよい。軸体12を一方向凝固鋳造した場合には、軸体12の金属組織が柱状晶で形成される。軸体12を単結晶鋳造した場合には、軸体12の金属組織が単結晶で形成される。軸体12を普通鋳造した場合には、軸体12の金属組織が等軸晶で形成される。なお、軸体12は、複数の翼体14と別体で鋳造する。
【0025】
複数の翼体14は、Ni合金を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造して形成される。複数の翼体14は、翼体ごとに単翼で鋳造される。翼体14を一方向凝固鋳造した場合には、翼体14の金属組織が柱状晶で形成される。翼体14を単結晶鋳造した場合には、翼体14の金属組織が単結晶で形成される。なお、
図4には、翼体14における結晶成長方向を矢印で示している。
【0026】
軸体12及び翼体14の鋳造方法には、一般的なNi合金の一方向凝固鋳造法、単結晶鋳造法または普通鋳造法を用いることができる。軸体12及び翼体14の鋳造方法には、精密鋳造法等を用いるとよい。
【0027】
組立工程(S12)は、複数の翼体14を、結晶成長方向と遠心力方向とが同じ方向となるように軸体12の周りに組み立てる工程である。複数の翼体14は、結晶成長方向が遠心力方向と同じ方向となるように軸体12の周りに接合して組み立てられる。複数の翼体14は、翼体同士が干渉しないようにして接合される。接合方法は、特に限定されないが、一般的なNi合金の接合方法を適用可能である。接合方法は、例えば、溶接、拡散接合、摩擦圧接等とすることができる。また、複数の翼体14を軸体12の周りに接合する際には、位置決め等のためにインロー等を設けるようにしてもよい。このようにしてタービンホイール10を製造することができる。
【0028】
タービンホイール10は、車両用や船舶用等の過給機に用いることができる。
図5は、過給機20の構成を示す断面模式図である。過給機20は、タービンホイール10と、コンプレッサインペラ22と、を備えている。タービンホイール10と、コンプレッサインペラ22とは、ロータ軸24で連結されている。タービンホイール10の翼体14は、結晶成長方向と遠心力方向とが同じ方向であるので、クリープ強度等が高められている。これによりタービンホイール10の耐熱性が向上するので、回転数を上げたり、燃焼温度をより高温にして過給機20の性能を高めることができる。
【0029】
以上、上記構成によれば、翼体の結晶成長方向が遠心力方向と同じ方向となるので、翼体のクリープ強度等を高めることができる。これにより、タービンホイールの耐熱性を向上させることが可能となる。
【0030】
[第二実施形態]
以下に本開示の第二実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、上記の実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。第二実施形態は、第一実施形態とタービンホイールの製造方法が相違している。
【0031】
第二実施形態では、組立工程は、軸体の周りに軸方向に沿って翼体を嵌合可能な嵌合溝を形成し、翼体を嵌合溝に嵌合させて接合する。なお、第二実施形態の鋳造工程は、第一実施形態の鋳造工程と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0032】
次に、第二実施形態におけるタービンホイールの製造方法についてより詳細に説明する。
図6は、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
図6の矢印は、翼体14における結晶成長方向を示している。軸体30は、翼体14を嵌合可能な嵌合溝32を有している。嵌合溝32は、翼体14の側縁を嵌合可能に形成されている。嵌合溝32は、軸体30の外周面に軸方向に沿って形成されている。軸体30は、第一実施形態の軸体12を鋳造した後に、嵌合溝32を機械加工等して形成すればよい。なお、複数の翼体14は、第一実施形態と同様の鋳造法で鋳造される。
【0033】
次に、複数の翼体14が、軸体30の嵌合溝32に嵌合させて取り付けられる。翼体14を軸体30の嵌合溝32に嵌合させて取付ければよいので、翼体14の位置決め精度が向上する。また、翼体14を軸体30の嵌合溝32に嵌合させて取付ければよいので、翼体14と軸体30との接合が容易になる。接合方法は、例えば、溶接、拡散接合、摩擦圧接等とすることができる。
【0034】
上記構成によれば、第一実施形態の効果を奏すると共に、軸体の周りに軸方向に沿って翼体を嵌合可能な嵌合溝を形成し、翼体を嵌合溝に嵌合させて接合するので、翼体の位置決め精度が向上し、翼体と軸体との接合が容易になる。これにより、タービンホイールの生産性を向上させることができる。
【0035】
[第三実施形態]
以下に本開示の第三実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、上記の実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。第三実施形態は、第一実施形態とタービンホイールの製造方法が相違している。
【0036】
鋳造工程では、複数の翼体の1つと、軸体を軸方向に分割した複数の分割軸体の1つと、を一体とした複数の単翼構造体をNi合金で鋳造すると共に、単翼構造体の翼体を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造する。組立工程では、複数の単翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、複数の単翼構造体の分割軸体同士を一体で接合して組み立てる。
【0037】
次に、第三実施形態におけるタービンホイールの製造方法についてより詳細に説明する。
図7は、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
図7の矢印は、翼体14の結晶成長方向を示している。
図7では、タービンホイールは、例えば8つの単翼構造体42、46、48~58を組み立てて形成されている。軸体は、軸方向に8つの分割軸体に分割されている。単翼構造体42は、翼体14と分割軸体44とが一体で鋳造されている。分割軸体44は、翼体14の上端側に設けられている。単翼構造体46は、翼体14と分割軸体47とが一体で鋳造されている。分割軸体47は、翼体14の下端側に設けられている。単翼構造体48~58についても、単翼構造体42、46と同様に鋳造されている。単翼構造体48~58では、単翼構造体48~58に対応する各々の分割軸体が、翼体14における上端側と下端側との中間に各々設けられている。
【0038】
次に、単翼構造体42、46、48~58の鋳造方法について説明する。例として単翼構造体42の鋳造方法について説明するが、他の単翼構造体46、48~58についても同様にして鋳造可能である。
図8は、単翼構造体42を鋳造する鋳型60の構成を示す断面模式図である。
図8の矢印は、鋳型60の引抜方向を示している。鋳型60は、セラミックス等で形成されている。鋳型60は、単翼構造体42の翼体14を形成するためのキャビティ62と、単翼構造体42の分割軸体44を形成するためのキャビティ64とを備えている。鋳型60には、結晶を成長させるための成長パス(図示せず)を設けるようにしてもよい。
【0039】
単翼構造体42の翼体14と分割軸体44とを柱状晶または単結晶で形成する場合には、鋳型60のキャビティ62とキャビティ64とを同じ引抜速度で引き抜いて、一方向凝固鋳造または単結晶鋳造すればよい。例えば、Ni合金溶湯を注湯した鋳型60を、固液界面に温度勾配を設けて引抜速度100mm/時間以上400mm/時間以下で引き抜いて凝固させればよい。これにより鋳型60の引抜方向と同じ方向にNi合金が結晶成長することにより、鋳型60の引抜方向が結晶成長方向となる。翼体14を柱状晶または単結晶で形成し、分割軸体44を等軸晶で形成する場合には、キャビティ64の引抜速度を、キャビティ62の引抜速度よりも速くすればよい。例えば、キャビティ62の引抜速度を100mm/時間以上400mm/時間以下とし、キャビティ64の引抜速度を1000mm/分以上とするとよい。また、鋳型60におけるキャビティ64に対応する箇所に結晶粒微細化剤を適用することにより、等軸晶をより微細化することができる。結晶粒微細化剤には、アルミン酸コバルトや酸化コバルト等コバルト化合物を適用可能である。
【0040】
組立工程では、
図7に示すように、複数の単翼構造体42、46、48~58の分割軸体を軸方向に積層する。複数の単翼構造体42、46、48~58は、お互いの翼体14が干渉しないようにして積層される。複数の単翼構造体42、46、48~58には、位置決めのためのインロー等を用いてもよい。そして、複数の単翼構造体42、46、48~58の分割軸体同士を一体で接合する。接合方法は、例えば、溶接、拡散接合、摩擦圧接等とすることができる。これによりタービンホイールを製造することができる。
【0041】
以上、上記構成によれば、翼体の結晶成長方向が遠心力方向と同じ方向となるので、翼体のクリープ強度等を高めることができる。これにより、タービンホイールの耐熱性を向上させることが可能となる。また、上記構成によれば、翼体と分割軸体とを一体とした単翼構造体を鋳造してタービンホイールを製造するので、翼体と軸体との間の機械的強度を高めることができる。
【0042】
[第四実施形態]
以下に本開示の第四実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、上記の実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。第四実施形態は、第三実施形態とタービンホイールの製造方法が相違している。
【0043】
第四実施形態では、組立工程は、単翼構造体の分割軸体に軸方向に貫通するピン穴を形成し、複数の単翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、ピン穴にNi合金で形成されるピンを挿通し、複数の単翼構造体の分割軸体同士をピンと一体で接合する。なお、第四実施形態の鋳造工程は、第三実施形態の鋳造工程と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0044】
次に、第四実施形態におけるタービンホイールの製造方法についてより詳細に説明する。
図9は、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
図9の矢印は、翼体14の結晶成長方向を示している。
図9では、タービンホイールは、例えば8つの単翼構造体70、74、78~88を組み立てて形成されている。単翼構造体70は、分割軸体44の軸方向にピン穴72を有している。単翼構造体70は、第三実施形態の単翼構造体42を鋳造した後に、ピン穴72を機械加工等して形成すればよい。また、単翼構造体74は、分割軸体47の軸方向にピン穴76を有している。単翼構造体74は、第三実施形態の単翼構造体46を鋳造した後に、ピン穴76を機械加工等して形成すればよい。単翼構造体78~88についても、単翼構造体70、74と同様に形成する。
【0045】
次に、単翼構造体70、74、78~88を軸体の軸方向に沿って積層し、積層した単翼構造体70、74、78~88のピン穴にNi合金で形成されるピン(図示せず)を挿通して一体で接合する。これにより単翼構造体70、74、78~88の位置決め精度が向上すると共に、接合作業が容易になる。また、ピンを挿通することにより、軸体の機械的強度を高めることができる。ピンは、単翼構造体70、74、78~88と同じNi合金で形成されているとよい。接合方法は、例えば、溶接、拡散接合、摩擦圧接等とすることができる。これによりタービンホイールを製造することができる。
【0046】
上記構成によれば、第三実施形態の効果を奏すると共に、単翼構造体のピン穴にピンを挿通して一体で接合するので、単翼構造体の接合が容易になる。これによりタービンホイールの生産性を向上させることができる。
【0047】
[第五実施形態]
以下に本開示の第五実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、上記の実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。第五実施形態は、第一実施形態とタービンホイールの製造方法が相違している。
【0048】
鋳造工程は、複数の翼体における軸体に対して対向する2つの翼体と、軸体を軸方向に分割した複数の分割軸体の1つと、を一体とした複数の2枚翼構造体をNi合金で鋳造すると共に、2枚翼構造体の2つの翼体を一方向凝固鋳造または単結晶鋳造する。組立工程は、複数の2枚翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、複数の2枚翼構造体の分割軸体同士を一体で接合する。
【0049】
次に、第五実施形態におけるタービンホイールの製造方法についてより詳細に説明する。
図10は、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
図10の矢印は、翼体14の結晶成長方向を示している。
図10では、タービンホイールは、例えば4つの2枚翼構造体90、94~98を組み立てて形成されている。軸体は、軸方向に4つの分割軸体に分割されている。2枚翼構造体90は、軸体に対して対向する2つの翼体14と、分割軸体92とが一体で鋳造されている。分割軸体92は、2つの翼体14の上端側に設けられている。2枚翼構造体94~98についても、2枚翼構造体90と同様に鋳造されている。2枚翼構造体98では、分割軸体は2つの翼体14の下端側に設けられている。2枚翼構造体94、96では、2枚翼構造体94、96に対応する各分割軸体が、2つの翼体14の上端側と下端側との中間に設けられている。
【0050】
次に、2枚翼構造体90、94~98の鋳造方法について説明する。例として2枚翼構造体90の鋳造方法について説明するが、他の2枚翼構造体94~98についても同様にして鋳造可能である。
図11は、2枚翼構造体90を鋳造する鋳型100の構成を示す断面模式図である。
図11の矢印は、鋳型100の引抜方向を示している。鋳型100は、セラミックス等で形成されている。鋳型100は、2枚翼構造体90の一方の翼体14を形成するためのキャビティ102と、他方の翼体14を形成するためのキャビティ104と、2枚翼構造体90の分割軸体92を形成するためのキャビティ106とを備えている。鋳型100には、結晶を成長させるための成長パス(図示せず)を設けるようにしてもよい。
【0051】
2枚翼構造体90における2つの翼体14と分割軸体92とを柱状晶または単結晶で形成する場合には、鋳型100のキャビティ102、キャビティ104及びキャビティ106を同じ引抜速度で引き抜いて、一方向凝固鋳造または単結晶鋳造すればよい。例えば、Ni合金溶湯を注湯した鋳型100を、固液界面に温度勾配を設けて引抜速度100mm/時間以上400mm/時間以下で引き抜いて凝固させればよい。これにより鋳型100の引抜方向と同じ方向にNi合金が結晶成長することにより、鋳型100の引抜方向が結晶成長方向となる。2つの翼体14を柱状晶または単結晶で形成し、分割軸体92を等軸晶で形成する場合には、キャビティ106の引抜速度を、キャビティ102及びキャビティ104の引抜速度よりも速くすればよい。例えば、キャビティ102及びキャビティ104の引抜速度を100mm/時間以上400mm/時間以下とし、キャビティ106の引抜速度を1000mm/分以上とするとよい。また、鋳型100におけるキャビティ106に対応する箇所に結晶粒微細化剤を適用することにより、等軸晶をより微細化することができる。結晶粒微細化剤には、アルミン酸コバルトや酸化コバルト等コバルト化合物を適用可能である。
【0052】
組立工程では、
図10に示すように、2枚翼構造体90、94~98の分割軸体を軸方向に積層する。2枚翼構造体90、94~98は、お互いの翼体14が干渉しないようにして積層される。2枚翼構造体90、94~98には、位置決めのためのインロー等を用いてもよい。そして、2枚翼構造体90、94~98の分割軸体同士を一体で接合する。接合方法は、例えば、溶接、拡散接合、摩擦圧接等とすることができる。これによりタービンホイールを製造することができる。
【0053】
以上、上記構成によれば、翼体の結晶成長方向が遠心力方向と同じ方向となるので、翼体のクリープ強度等を高めることができる。これにより、タービンホイールの耐熱性を向上させることが可能となる。また、上記構成によれば、2つの翼体と分割軸体とを一体とした2枚翼構造体を鋳造してタービンホイールを製造するので、翼体と軸体との間の機械的強度を高めることができる。
【0054】
[第六実施形態]
以下に本開示の第六実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、上記の実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。第六実施形態は、第五実施形態とタービンホイールの製造方法が相違している。
【0055】
組立工程において、2枚翼構造体の分割軸体に軸方向に貫通するピン穴を形成し、複数の2枚翼構造体の分割軸体を軸方向に積層した後に、ピン穴にNi合金で形成されるピンを挿通し、複数の2枚翼構造体の分割軸体同士をピンと一体で接合する。なお、第六実施形態の鋳造工程は、第五実施形態の鋳造工程と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0056】
次に、第六実施形態におけるタービンホイールの製造方法についてより詳細に説明する。
図12は、タービンホイールの製造方法を説明するための模式図である。
図12の矢印は、翼体14の結晶成長方向を示している。
図12では、タービンホイールは、例えば4つの2枚翼構造体110、114~118を組み立てて形成されている。2枚翼構造体110は、分割軸体92の軸方向にピン穴112を有している。2枚翼構造体110は、第五実施形態の2枚翼構造体90を鋳造した後に、ピン穴112を機械加工等して形成すればよい。2枚翼構造体114~118についても、2枚翼構造体110と同様に形成する。
【0057】
次に、2枚翼構造体110、114~118を軸体の軸方向に沿って積層し、積層した2枚翼構造体110、114~118の分割軸体のピン穴にNi合金で形成されるピン(図示せず)を挿通して一体で接合する。これにより2枚翼構造体110、114~118の位置決め精度が向上すると共に、接合作業が容易になる。また、ピンを挿通することにより、軸体の機械的強度を高めることができる。ピンは、2枚翼構造体110、114~118と同じNi合金で形成されているとよい。接合方法は、例えば、溶接、拡散接合、摩擦圧接等とすることができる。これによりタービンホイールを製造することができる。
【0058】
上記構成によれば、第五実施形態の効果を奏すると共に、2枚翼構造体のピン穴にピンを挿通して一体で接合するので、2枚翼構造体の接合が容易になる。これによりタービンホイールの生産性を向上させることができる。
【0059】
[第七実施形態]
次に、本開示の第七実施形態について詳細に説明する。なお、上記の実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。第七実施形態は、第五実施形態または第六実施形態と、第一実施形態とを組み合わせて構成されている。第五実施形態と第一実施形態とを組み合わせる場合には、2枚翼構造体90、94~98の分割軸体同士を一体で接合して軸体を形成した後に、軸体に1つの翼体14を接合して取り付ける。第六実施形態と第一実施形態とを組み合わせる場合には、2枚翼構造体110、114~118の分割軸体のピン穴にNi合金で形成されるピンを挿通して一体で接合して軸体を形成した後に、軸体に1つの翼体14を接合して取り付ける。これによりタービンホイールの翼体14の枚数を奇数枚にすることができる。
【0060】
以上、上記構成によれば、翼体の結晶成長方向が遠心力方向と同じ方向となるので、翼体のクリープ強度等を高めることができる。これにより、タービンホイールの耐熱性を向上させることが可能となる。また、上記構成によれば、2枚翼構造体を用いてタービンホイールを製造する場合でも、タービンホイールの翼体の枚数を奇数枚にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示は、タービンホイールの耐熱性を向上させることができることから、車両用や船舶用等の過給機用のタービンホイールに適用可能である。