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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】継目無管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 19/02 20060101AFI20221012BHJP
   C21D 7/02 20060101ALI20221012BHJP
   F16L 15/04 20060101ALI20221012BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20221012BHJP
   B21B 19/10 20060101ALN20221012BHJP
   B21B 19/04 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
B21B19/02
C21D7/02 C
F16L15/04 A
C21D8/10 D
B21B19/10 Z
B21B19/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021516501
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2021001455
(87)【国際公開番号】W WO2021171826
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2020030531
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】柚賀 正雄
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】木島 秀夫
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-168903(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182128(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/113790(WO,A1)
【文献】特許第5500324(JP,B1)
【文献】特開2001-009508(JP,A)
【文献】特開平07-265910(JP,A)
【文献】特開昭64-031504(JP,A)
【文献】特開平11-057842(JP,A)
【文献】特開2012-167329(JP,A)
【文献】日本鉄鋼協会,鉄鋼便覧,第3版, III巻(2),日本,丸善株式会社,1980年11月20日,p.929-933, 1198-1203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 19/02
C21D 7/02
C22C 38/00
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管周方向での薄肉部が管軸方向に形成された継目無管であって、
管表面に沿って前記薄肉部の一端と他端とを前記薄肉部の形成方向に最短距離で結んで形成される線分が、管軸方向に対して15°以上39.0°以下の角度αで傾斜し、管軸方向圧縮降伏強度[MPa]/管軸方向引張降伏強度[MPa]が0.85以上である、継目無管。
【請求項2】
管軸方向1.0mの長さ、および管周方向に前記薄肉部が1回転する管軸方向長さの90%の長さのうち、より短い長さで選択される管中の領域から、前記薄肉部における前記一端及び前記他端が設定される、請求項1に記載の継目無管。
【請求項3】
平均外径Dave[mm]と前記角度α[°]とが下記式(1)を満たす、請求項1又は2に記載の継目無管。
ave/α=0.5~15.0[mm/°] ・・・式(1)
【請求項4】
両側の管端部のうち少なくとも一方に雄ネジまたは雌ネジの締結部を備え、前記締結部のフランク面とネジ谷底面で形成される角部の曲率半径が0.2mm以上である、請求項1~3のいずれかに記載の継目無管。
【請求項5】
両側の管端部のうち少なくとも一方に雄ネジまたは雌ネジの締結部を備え、前記締結部にメタルタッチシール部とトルクショルダ部を備える、請求項4に記載の継目無管。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の継目無管の製造方法であって、
マンネスマン法を用いて管素材を回転させると共に管軸方向に進行させながら、熱間圧延により前記管素材に対して穿孔を行い、
前記熱間圧延後の管に対する冷間加工として管の曲率の最小値に向けて曲げ戻しによるひずみが加わるように、管の周方向全体に間欠的、または連続的に与える管周方向の曲げ曲げ戻し加工を行い、
熱間圧延後管長LF[mm]、穿孔圧延後管長LP[mm]、および穿孔圧延中の管1回転における管の圧延方向進行量X[mm]が、下記式(2)を満たす、継目無管の製造方法。
(LF/LP)×X≦1100[mm] ・・・式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐圧性能に優れる継目無管と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力容器の連結や油井・ガス井採掘用に利用される継目無管は、強度や靭性などの機械的特性や腐食環境に耐える耐食性能に加え、様々な温度環境や圧力環境に耐える耐圧性能を有することが求められる。継目無管に加わる圧力や外力の形態は様々にあるが、例えば、圧力容器やその配管では大きな内圧が発生する場合が多い。また、内容物が高温の場合や外気温が高い場合は継目無管が熱膨張するため、管端の連結部間に管軸方向圧縮応力が発生する。また、逆に内容物や外気温が低い場合は熱収縮により管軸方向に引張応力が発生する。つまり、内圧に加え管軸方向の応力が発生する。
【0003】
また、例えば、油井・ガス井用に利用される継目無管は、採掘で地中や海中に挿入され、その場合は継目無管に高い外圧が発生する。外圧は深度が増すほど増加するが、同時に温度も高くなり材料は軟化するため、外圧による塑性変形が起こりやすくなる。また、資源採掘用の継目無管は地上から直列につながれるため、自重による高い引張応力が外圧とともに加わることが多い。さらに、継目無管は採掘中に進行方向を曲げられることもあり、曲げ曲率半径の小さい内側では高い圧縮応力、曲率半径の大きい外側では高い引張応力が発生する場合もある。
【0004】
継目無管は管周方向に継目が無いため、このような過酷な圧力、応力環境でも使用されることが多い。ここで、圧力が原因で継目無管が塑性変形して破壊することを圧潰という。圧潰は、継目無管の降伏強度に対し、発生する内圧、外圧が大きくなった場合に発生する。また、管軸方向の引張応力や圧縮応力が外内圧と同時に発生すると、より発生しやすくなる。さらに、継目無管の真円度の低下や、偏肉(肉厚の不均一さ)の増大も圧潰を発生させやすくする。
【0005】
圧潰は、鋼管の材料の降伏強度を向上させ、優れた耐圧性能を確保することで防止できる。そのため、継目無管の周方向、管軸方向降伏強度を高めた継目無鋼管(引用文献1)が開示されている。また、継目無管の真円度、偏肉の低減も圧潰の抑制に効果的であるため、真円度、偏肉を改善する継目無鋼管の製造方法(引用文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6596954号
【文献】特許第5831195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1や引用文献2では、耐圧性能を向上させるために継目無鋼管の高強度化や寸法精度の向上方法を検討しているが、優れた耐圧性能を確保する技術としてはまだ十分とは言えなかった。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、優れた耐圧性能を有する継目無管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
耐圧性能を向上させるには、継目無管の管周方向や管軸方向などの降伏耐力(降伏強度)を高め、様々な方向から加わる圧力や外力に耐えられるようにすることが効果的である。
また、真円度をできるだけ良好にすることが耐圧性能を高めるうえで有効であり、継目無管の寸法の調整が可能な定径圧延や矯正圧延の製造条件の最適化により耐圧性能を向上させることができる。
【0009】
一方で、管の製造時に発生する偏肉が耐圧性能に与える影響として、偏肉が少なくなると耐圧性能が向上することと、偏肉が原因となって圧潰する場合は偏肉による薄肉部が圧潰の起点となることが知られている。
この点、生産性が良好な各種圧延プロセスにより偏肉の無い継目無管を提供できれば、耐圧性能の高い製品の供給が可能になり、その用途において、設計の自由度向上や利用範囲の拡大、安全性の向上が図れる。
この偏肉については、熱間圧延時の管素材の偏熱や工具の摩耗、摩擦の変化や設備の配置位置からのずれなど、様々な要因で発生することが分かっている。
このような種々の要因で発生した偏肉の中でも特に、熱間圧延初期の管素材に孔をあけるプロセスで発生する偏肉、例えば、ユジーンセジュルネ法やエルハルトプッシュベンチ法、マンネスマン法で発生した偏肉は、その後の熱間圧延下工程や、さらにその後の冷間圧延工程で修正することが難しく、製品に残存することになる。
しかしながら、高い耐圧性能を得るために、前述した降伏強度や真円度は、添加する化学成分や定径圧延条件等の最適化で調整することが可能であるものの、偏肉についてはある程度の発生は不可避であり、予め偏肉を見込んで製品設計を行う必要がある。
そのため、偏肉による耐圧性能低下を見込み、寸法制限をしたり、安全性も考慮しつつ高価な添加元素を使用したりするといったことが必要であった。
【0010】
これまでも、偏肉をなくすために様々な検討がされてきているが、偏肉の原因は複雑で様々であるため、安定して偏肉を低減できる技術はなく、偏肉の最大量を規制するのみでしか管理ができていない。
【0011】
本発明者らは上記課題を鑑み、鋭意検討した結果、不可避的に発生する偏肉の分布を制御することで耐圧性能を向上できることを知見した。つまり、これまでは偏肉の発生を抑制する視点での検討が主であったが、本発明者らは偏肉の発生は不可避であると考え、その偏肉により発生する薄肉部を管軸上に特定のらせん状等に分布させることにより、薄肉部が管軸方向に直線状に近い形で分布する管に比べて耐圧性能を向上させられることを見出した。
【0012】
以上の知見に基づき、また、更なる検討を加えて完成させた本発明の要旨構成は以下のようになる。
[1]管周方向での薄肉部が管軸方向に形成された継目無管であって、
管表面に沿って前記薄肉部の一端と他端とを前記薄肉部の形成方向に最短距離で結んで形成される線分が、管軸方向に対して5.0°以上の角度αで傾斜している継目無管。
[2]管軸方向1.0mの長さ、および管周方向に前記薄肉部が1回転する管軸方向長さの90%の長さのうち、より短い長さで選択される管中の領域から、前記薄肉部における前記一端及び前記他端が設定される、前記[1]に記載の継目無管。
[3]平均外径Dave[mm]と前記角度α[°]とが下記式(1)を満たす、前記[1]又は[2]に記載の継目無管。
ave/α=0.5~15.0[mm/°] ・・・式(1)
[4]管軸方向圧縮降伏強度[MPa]/管軸方向引張降伏強度[MPa]が0.85以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の継目無管。
[5]両側の管端部のうち少なくとも一方に雄ネジまたは雌ネジの締結部を備え、前記締結部のフランク面とネジ谷底面で形成される角部の曲率半径が0.2mm以上である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の継目無管。
[6]両側の管端部のうち少なくとも一方に雄ネジまたは雌ネジの締結部を備え、前記締結部にメタルタッチシール部とトルクショルダ部を備える、前記[5]に記載の継目無管。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の継目無管の製造方法であって、管素材を回転させると共に管軸方向に進行させながら、熱間圧延により前記管素材に対して穿孔を行い、
前記熱間圧延後の管に対する冷間加工として管周方向の曲げ曲げ戻し加工を行い、
熱間圧延後管長LF[mm]、穿孔圧延後管長LP[mm]、および穿孔圧延中の管1回転における管の圧延方向進行量X[mm]が、下記式(2)を満たす、継目無管の製造方法。
(LF/LP)×X≦1100[mm] ・・・式(2)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた耐圧性能を有する継目無管およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、各実施形態の継目無管において、偏肉により発生した薄肉部の分布を説明するための図である。
図2図2は、管周方向の曲げ曲げ戻し加工を説明するための図である。
図3図3は、雄ネジと雌ネジの締結部の管軸方向断面図(管軸方向に平行な断面図)であり、図3(a)は台形ネジの場合、図3(b)は三角ネジの場合である。
図4図4は、ネジ継手の管軸方向断面図(管軸方向に平行な断面図)であり、図4(a)はAPIネジ継手の場合、図4(b)はプレミアムジョイントの場合である。
図5図5は、ピンの延長部であるノーズ部付近の模式図であり、図5(a)はピンとカップリング締結部の管軸方向平行の切断断面図、図5(b)はピンのネジ先端部をピン先端部正面から見たトルクショルダ部である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、図を用いて本発明の第1実施形態を説明する。
本実施形態の継目無管は、管周方向での薄肉部が管軸方向に形成された継目無管であって、管表面に沿って薄肉部の一端と他端とを薄肉部の形成方向に最短距離で結んで形成される線分が、管軸方向に対して5.0°以上の角度α(以降、傾斜角度α又は偏肉ねじれ角度αとも記す)で傾斜しており、耐圧性能に優れる。
本実施形態の継目無管の薄肉部は、管軸方向に周回するように形成され、例えば、らせん状のような形態を有している。
【0016】
ここで、薄肉部とは、穿孔圧延や冷間加工に傾斜圧延を使うことで生じる偏肉(1次偏肉)により形成される管周方向で肉厚が最小となる部位のことを指す。また、上記管表面は、管内表面、管外表面のいずれでもよい。また、上記薄肉部の一端、他端とは、管軸方向に任意に測定領域を選択した際の当該領域での薄肉部の一端、他端であることを指す。
【0017】
上記の一端と他端の設定位置は特に限定されないが、角度αの測定の精度をより向上させるために、(1)管軸方向1.0mの長さ、および(2)管周方向に薄肉部が1回転する管軸方向長さの90%の長さのうち、より短い長さで選択される管中の領域から、薄肉部における一端及び他端が設定されることが好ましい。
上記の管中の領域の選択として、(2)の条件を選ぶ場合、その長さは、管周方向に薄肉部が1回転する管軸方向長さの90%でなくてもよく、例えば、40%または40%未満としてもよい。
【0018】
傾斜角度α:5.0°以上
図1は、本実施形態の継目無管において、偏肉により発生した薄肉部の分布を説明するための図である。
図1のtmin部は、製品時の継目無管に対する非破壊肉厚分布調査により測定でき、穿孔圧延によりもたらされた偏肉により発生した薄肉部を示す。なお、上記の非破壊肉厚分布調査では、非破壊検査後にフーリエ変換を行う。
【0019】
図1中、(a)、(b)はそれぞれ、継目無管を管軸方向に切断して展開し、tmin部の管軸上の分布を示した図である。図1(a)が比較例(従来例)、図1(b)が本発明の実施形態に係る展開図である。αは、管表面に沿って薄肉部の一端と他端とを薄肉部の形成方向に最短距離で結んで形成される線分の管軸方向の偏肉ねじれ角度である。好ましくは、αは、管軸方向1.0mの長さ、および管周方向に薄肉部が1回転する管周方向長さの90%(好ましくは40%)の長さのうち、より短い長さで選択される管中、一端の偏肉部と他端の偏肉部とを、薄肉部の形成方向に管表面に沿って最短距離で結んで形成される線分の管軸方向に対する傾斜角度とすることができる。
ここで傾斜角度αの測定は、管の長さ方向中央部を測定対象領域の長さ方向中心として行うことが好ましい。
【0020】
本発明者らは、不可避的に偏肉が発生し、同一偏肉量を有し、傾斜角度αが夫々異なる複数の継目無管により、傾斜角度αと耐圧性能の関係を検討した結果、傾斜角度αが5.0°以上で優位に耐圧性能が向上することを見出した。
【0021】
また、この優位性は内外圧に加え、同時に引張応力、圧縮応力、曲げ応力が発生する場合でも発揮されることを確認した。上記傾斜角度αは、耐圧性能をより向上させるという点から、好ましくは15°以上であり、より好ましくは25°以上である。また、上記傾斜角度αは、角度を大きくし過ぎると傾斜圧延能率が低下する場合があるため、好ましくは80°以下であり、より好ましくは60°以下である。
【0022】
偏肉量
偏肉は熱間、冷間を含む圧延で製造する継目無管には不可避的に発生する。偏肉量[%]は、穿孔圧延で生じた製品時の管における肉厚分布において、管全体で最も厚い部分の肉厚:最大肉厚tmax[mm]、最も薄い部分の肉厚:最小肉厚tmin[mm]と、管の肉厚分布の平均値:平均肉厚tave[mm]を用いて下記式(3)で表される。
((tmax-tmin)/tave)×100[%] ・・・式(3)
上記式(3)中、平均肉厚taveは、管の長さ方向中央部において薄肉部を起点として管周方向に11.25°間隔で32点の肉厚tを測定し、これらの数平均を算出することにより得られる。厚みの測定は超音波等を用いた非破壊試験により行うことができる。
【0023】
圧延により製造した継目無管では、製品厚にもよるが2~15%程度の偏肉量は不可避的に発生する。偏肉は穿孔圧延時に最も発生しやすい。その時の偏肉の発生原因は穿孔前素材の温度ムラ、工具の摩擦係数、設備のガタつきなど多岐にわたるため、発生は不可避であり、ある程度の偏肉発生を見込んだ製品仕様が必要となる。また、偏肉の過大なものは耐圧性能を満たせないため廃却となる。そのため、製造条件の制約による生産性の低下が発生したり、耐圧性能を確保するために製品形状の制約や化学成分の制約が発生したりする。この点、本実施形態の管においては、不可避的に発生する偏肉について、偏肉量が2%以上から上限無く効果を確認できる。一方で、本実施形態においても、あまりに大きな偏肉が存在すると、耐圧性能以外の特性にも悪影響を与える場合があるため、偏肉量は20%以下に管理されることが好ましい。より好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0024】
なお、前述したように、肉厚は、種々の非破壊検査により測定できる。例えば、超音波により、管全長の肉厚分布を測定でき、上記の最大肉厚tmax、最小肉厚tmin、平均肉厚taveを出力できる。
また、管全長の肉厚分布に対し、フーリエ変換で周波数解析を行うことで偏肉分布(一次偏肉の分布)のみを抽出でき、管の長さ方向中央部の傾斜角度(偏肉ねじれ角度)αを算出することができる。本発明では、このように測定された傾斜角度αを有意に制御して耐圧性能を制御することが可能となる。
【0025】
偏肉の形態(D ave /α=0.5~15.0)
本実施形態では、不可避的な偏肉が管上に発生する場合でも、偏肉の形態制御により耐圧性能を向上させられ、上述した偏肉に関わる様々な制約を減らすことができる。
具体的に、図1に示す傾斜角度αを5.0°以上とし、例えば、薄肉部を継目無管の管軸方向にらせん状に分布させる形態をとることで、5.0°未満で直線状に薄肉部が分布する形態に比べ管軸方向の剛性を高めて耐圧性能を優位に向上させられる。
【0026】
また、傾斜角度αを管の外径に応じて管理すると更に効果が高まる。本発明者らは、様々な形態について調査を行った結果、継目無管の平均外径Dave[mm]に対し、傾斜角度α[°]を下記式(1)で管理すると、より良好な耐圧性能を得られることを確認した。
ave/α=0.5~15.0[mm/°] ・・・式(1)
ave/αが0.5mm/°以上であれば良好な耐圧性能を得られるが、Dave/αが0.5mm/°未満になると傾斜圧延の能率が低下する場合がある。また、Dave/αが15.0mm/°以下であれば良好な耐圧性能が得られるが、Dave/αが15.0mm/°を超えると耐圧性能の向上効果が低減する可能性がある。
このように、傾斜角度αを5.0°以上とし、上記式(1)を満たすことが好ましい範囲となる。より好ましくは、Dave/αは、3.0mm/°以上であり、さらに好ましくは、5.0mm/°以上であり、さらにより好ましくは6.0mm/°以上である。また、より好ましくは、Dave/αは、12.0mm/°以下であり、さらに好ましくは、11.0mm/°以下であり、さらにより好ましくは8.0mm/°以下である。
上記平均外径Daveは、薄肉部を起点として管周方向に40°間隔で9点の外径Dを測定し、これら9点の数平均を算出することにより得られる。また、この平均外径Daveは、管長lに対し管端から管軸方向l/5~(4×l)/5の間の位置で測定する。また、その範囲で1ヶ所又は複数個所測定して平均とすることができる。
【0027】
管軸方向圧縮降伏強度[MPa]/管軸方向引張降伏強度[MPa]:0.85以上
また、本実施形態の継目無管では、「管軸方向圧縮降伏強度[MPa]/管軸方向引張降伏強度[MPa]」が0.85以上であることが好ましい。「管軸方向圧縮降伏強度[MPa]/管軸方向引張降伏強度[MPa]」が0.85以上であることで、耐圧性能はより優れる。
また、「管軸方向圧縮降伏強度[MPa]/管軸方向引張降伏強度[MPa]」は、上限は特に設ける必要はないが、管軸方向圧縮降伏強度が管軸方向引張降伏強度に対して過度に大きいと、靭性等の他の機械的特性にも方位依存性が強くなるため、1.15以下であることが好ましい。
【0028】
なお、管軸方向圧縮降伏強度の測定は、円柱圧縮試験により測定できる。圧縮を行う円柱試験片は管軸方向に平行に肉厚中心部より採取する。また、円柱外径d[mm]と円柱高さh[mm]をh/d≦2.0とすればよい。具体的には、管の肉厚中心部から円柱外径d=5.0mm、円柱高さh=8.0mmとして試験片を切り出す。圧縮試験は、常温(25℃)で、平板間に試験片を挟んで荷重を与える形式を採用し、圧縮した際に得られる応力ひずみ曲線を利用して圧縮降伏強度を算出する。応力ひずみ曲線は、圧縮試験機で圧縮速度1.0mm/minで30%圧縮を行うことで得られる。
また、管軸方向引張降伏強度は、JIS Z2241に従い、まず、試験片としては、管軸方向に平行に管の肉厚中心部から平行部径5.0mmの丸棒引張試験片を切り出す。そして、常温(25℃)で、クロスヘッド速度1.0mm/minで破断まで引張試験を実施する。これにより得られる応力ひずみ曲線を利用して、引張降伏強度を算出する。
【0029】
継目無管の製造方法(傾斜角度αの制御方法)
熱間圧延
傾斜角度αを5.0°以上とするための好適な継目無管の製造方法について説明する。本発明者らによる鋭意検討の結果、本発明者らは、傾斜型圧延機を使用し、その製造条件を管理すれば、本実施形態を満足する継目無管が得られることを見出した。
具体的には、継目無管を製造する穿孔圧延には、ユジーンセジュルネ法、エルハルトプッシュベンチ法、マンネスマン法等、いくつか存在する。
このうち、本実施形態では、管素材を回転させずに工具により穿孔して押し出す方法を採用するユジーンセジュルネ法やエルハルトプッシュベンチ法は適しておらず、傾斜型圧延を利用するマンネスマン法が適している。
【0030】
前述したような不可避的に発生する偏肉について、ユジーンセジュルネ法やエルハルトプッシュベンチ法の様に、管素材を回転させずに工具により穿孔する場合は、薄肉部が管軸方向に平行に近い形状で形成され、傾斜角度αは0°に近くなる(5.0°未満となる)。また、ユジーンセジュルネ法やエルハルトプッシュベンチ法の様な穿孔方法では、その偏肉ねじれ角度を制御することは考えられておらず、装置構造上もその制御は不可能である。
【0031】
一方で、マンネスマン法では、管素材を回転させて穿孔圧延を行う。また、マンネスマン法では管軸方向に管のねじれ変形が発生する。従来は、マンネスマン法で穿孔圧延を行う場合、偏肉を減少させるために圧延条件を種々変更する制御が行われてきた。また、管の管軸方向のねじれ変形についても過剰なひずみを抑制するための検討がなされてきたが、素材の一回転当たりの管軸方向の進行量やねじれ変形について、積極的にその分布を制御することは考慮されていなかった。この点、本実施形態では、マンネスマン法を採用し、管のねじれ変形と回転を制御して、傾斜角度αを制御して耐圧性能に優れる継目無管を製造する。
【0032】
また、本実施形態の偏肉の形態を制御した継目無管の製造方法では、マンネスマン法による傾斜圧延機を利用した穿孔圧延において、圧延中に以下の式(2)を満たすような制御を行うことが好ましい。
(LF/LP)×X≦1100[mm] ・・・式(2)
式(2)中、
X[mm]:穿孔圧延中、管が1回転した際の管の圧延方向進行量
LF[mm]:熱間圧延後管長
LP[mm]:穿孔圧延後管長
管の圧延方向進行量Xは、同じ平均肉厚、外径を有する管を製造する場合においても、圧延ロールの傾斜角度やロール間隔、内面を圧延するプラグの突出し量の調整により様々に変更することが可能である。具体的に、例えば、圧延ロールの傾斜角度を大きくすれば進行方向の分力が増加し、管素材は少ない回転数で前進する。そのため、管の圧延方向進行量Xは増加する。
また、管の平均肉厚は、ロール間隔とプラグの突出し量のバランスで制御されるが、その組み合わせは同じ平均肉厚を有する管を得る場合にも様々であり、その組み合わせによって管の圧延方向進行量Xを制御できる。具体的には、例えば、プラグを突き出さずにロール間隔を小さくする場合と、プラグを突き出してロール間隔を大きくする場合とで、同じ肉厚を得ることもできるが、プラグを突き出した方がプラグの抵抗によって圧延方向進行量Xをより低減させることができる。
【0033】
本実施形態では、熱間圧延工程において、穿孔圧延を行う。LPはこの穿孔圧延後の管長である。
また、穿孔圧延後、減肉(熱間減肉圧延)、定径圧延といった処理を経て、熱間圧延を終了する。LFは、熱間圧延後の管長である。
【0034】
本実施形態において熱間圧延を行う際、LF、LP、Xとしては、穿孔圧延条件およびその他の熱間圧延条件に基づいて予め推定される値を用いる。そして、これらの値による「(LF/LP)×X」を1100mm以下とすることで、最終的に得られる管の傾斜角度αを5.0°以上にすることが可能になる。
また、穿孔圧延後にLFおよびXを測定し、熱間圧延後にLPを測定し、さらに穿孔圧延時の圧延条件およびその他の熱間圧延時の圧延条件と共に、次の管の製造のためにデータを蓄積しておく。
【0035】
上記のX[mm]の調整については、具体的には、まず、穿孔圧延後の素管外径、外周長を調整することができる圧延ロールやガイド間隔から予測できる。また、圧延ロールの外径と回転数から、圧延ロールの最大周速が求められる。すなわち、穿孔圧延中の管回転数[回転/s]は、(ロール周速[mm/s]/外周長[mm])×圧延効率で求まる。
また、穿孔圧延時の管の進行速度[mm/s]はTAN(圧延ロール傾斜角[°]×π/180)×ロール周速[mm/s]×圧延効率で求められる。
圧延効率は、圧延機と管素材の強度により値が決まっており、0.4~0.8程度である。
このように、管回転数と管の進行速度、圧延機と管素材の強度の情報は穿孔圧延前に得られているため、圧延前に圧延方向進行量Xを予測することができる。圧延効率が分からない材料については、圧延効率を0.5~0.7の範囲で予測しておき、次回以降は実際の穿孔圧延時間や圧延効率を利用することができる。
【0036】
上記のLF[mm]、LP[mm]の調整については、圧延開始前の管素材の体積と各圧延後の狙い管外径、管肉厚から予測できる。つまり、塑性加工においては加工前後で体積が変化しない。そのため、既知の圧延開始前の初期体積を、圧延機の設定条件で決定される狙い管外径、管肉厚から得られる断面の面積で割れば長さを予測できる。なお、熱間塑性加工ではスケールロスや熱膨張、熱収縮で僅かな体積変化を生じるが、LFやLPは実質的に変化しない。
【0037】
また、各種熱間圧延後には、更に冷間で減肉や外径圧延を行うことも可能である。
なお、上記の熱間減肉圧延には、例えば、エロンゲーターやアッセルミル、マンドレル圧延やプラグミル圧延、熱間ピルガー圧延などの減肉圧延方式を利用できる。また、定径圧延には、サイザーやレデューサー、矯正機等を利用できる。冷間加工では引き抜きや冷間ピルガー、曲げ曲げ戻し加工が利用できる。
【0038】
LFやLPは、圧延後の管長であるため容易に測定可能であり、この値のLF/LPは、造り込んだらせん状等の薄肉部がどの程度、管軸方向に延伸されたかを示している。
「(LF/LP)×X」が小さくなればなるほど、傾斜角度αが大きくなり、耐圧性能が高まる。「(LF/LP)×X」を1100mm以下とし、後述の曲げ曲げ戻し加工を施すことで、傾斜角度αを5.0°以上とすることができる。よって、「(LF/LP)×X」は1100mm以下とすることが好ましい。また、「(LF/LP)×X」は、1000mm以下がより好適な範囲となり、800mm以下がさらにより好適な範囲となる。一方で、「(LF/LP)×X」が小さすぎると、穿孔圧延中の管1回転当たりの圧延方向進行量Xが小さくなることになるため生産性が悪化する。そのため、「(LF/LP)×X」は100mm以上とすることが好ましい。
【0039】
冷間圧延
管周方向の曲げ曲げ戻し加工
特に、強度が要求される継目無管では熱間圧延後に冷間圧延が行われることが多い。
特に、油井用の管では、強度を得るための冷間圧延としては、冷間引き抜き圧延および冷間ピルガー圧延が規格化されており、これらの手法のいずれかで冷間圧延が行われる。これらの方法は、いずれも管内面に内面圧延用の工具を挿入し、軸方向に延ばす加工方法である。
【0040】
しかしながら、これらの加工方法で管を製造すると、熱間圧延における穿孔圧延と同様に、摩擦係数のムラや装置のがたつきなどにより不可避的に偏肉が発生する。そして、これらの加工方法では、管を軸方向に延ばす加工を行うため、最終製品では、偏肉分布が管軸方向に平行に近くなりやすく、結果として耐圧性能が低下する。
更に、熱間穿孔圧延をユジーンセジュルネ法やエルハルトプッシュベンチ法等の直線状の偏肉分布となる方法と上記の加工方法とを組み合わせると、偏肉が助長され、より偏肉量が大きくなり、より耐圧性能が低下する。また、これらの加工方法では、管軸方向への延伸により管を高強度化することから、管軸方向圧縮降伏強度がバウシンガー効果で20~25%低下することが知られており、製品時に外内圧に加え、管軸方向の圧縮応力を受ける環境で圧潰する可能性が高まってしまう。
【0041】
これに対し、本発明者らは、熱間圧延後に得られた耐圧性能に優れる偏肉分布形態を維持しつつ、上記課題を鑑み、管軸方向の圧縮降伏強度を低下させない冷間圧延方法を鋭意検討した。その結果、本発明者らは、管周方向の曲げ曲げ戻し加工による冷間加工方法を着想した。この曲げ曲げ戻し加工を用いれば、優れた耐圧性能を得ることができる。この冷間加工方法について図2を用いて説明する。
【0042】
図2は、管周方向の曲げ曲げ戻し加工を説明するための図である。本実施形態では、以下に説明するように、管周方向への曲げ曲げ戻し加工により、偏肉の分布形態を維持しつつ、管の高降伏強度化を行う。この手法は、圧延によるひずみが管軸方向(管軸長手方向)へ生じる冷間引抜圧延や冷間ピルガー圧延加工と異なり、図2に示すように、ひずみは管の扁平による曲げ加工後(1回目の扁平加工)、再び真円に戻す際の曲げ戻し加工(2回目の扁平加工)により与えられる。この手法では、初期の管形状を大きく変えることなく、曲げ曲げ戻しの繰り返しや曲げ量の変化を利用してひずみ量を調整する。つまり、本実施形態の冷間加工方法を用いた加工硬化による管の高強度化は、従来の冷間圧延法が管軸方向への伸びひずみを利用するのに対し、管周方向への曲げひずみを利用する。この冷間加工方法の制御とそれによる管軸方向へのひずみを抑制するため、従来の冷間圧延法で発生する管軸方向へのバウシンガー効果が原理的に発生しない。更に、管内面から圧延を行わず、管外面からの外力により管を扁平させるため、熱間加工で造り込んだ偏肉形態に影響を与えない。そのため、耐圧性能に優れる偏肉の分布を維持しつつ、管軸方向の引張降伏強度、圧縮降伏強度を同時に高め、これらの外力が複合的に作用する環境での耐圧性能を飛躍的に高めることが可能になる。
【0043】
なお、図2(a)、(b)は、工具接触部を2ヶ所とした場合の断面図であり、図2(c)は工具接触部を3か所とした場合の断面図である。また、図2における太い矢印は、管に偏平加工を行う際の力の掛かる方向である。図2に示すように、2回目の偏平加工を行う際、1回目の偏平加工を施していない箇所に工具が接触するように、管を回転させるように工具を動かしたり、工具の位置をずらしたりなどの工夫をすればよい(図2中の斜線部は1回目の扁平箇所を示す。)。
【0044】
図2に示すように、管を扁平させる管周方向への曲げ曲げ戻し加工を、管の周方向全体に間欠的、または連続的に与えることで、管の曲率の最大値付近で曲げによるひずみが加えられ、管の曲率の最小値に向けて曲げ戻しによるひずみが加わる。その結果、管の強度向上(転位強化)に必要な曲げ曲げ戻し変形によるひずみが蓄積される。また、この加工形態を用いる場合、管の肉厚や外径を圧縮して行う加工形態とは異なり、多大な動力を必要とせず、偏平による変形であるため加工前後の形状変化を最小限にとどめながら加工可能な点が特徴的である。
【0045】
図2に示すような管の扁平に用いる工具形状について、ロールを用いてもよく、管周方向に2個以上配置したロール間で管を扁平させ回転させれば、容易に繰り返し曲げ曲げ戻し変形によるひずみを与えることが可能である。更に、ロールの回転軸を管の回転軸に対し、90°以内で傾斜させれば、管は偏平加工を受けながら管回転軸方向に進行するため、容易に加工の連続化が可能となる。また、このロールを用いて連続的に行う加工は、例えば、管の進行に対して扁平量を変化させるように、適切にロールの間隔を変化させれば、容易に一回目、二回目の管の曲率(扁平量)を変更できる。したがって、ロールの間隔を変化させることで中立線の移動経路を変更して、肉厚方向でのひずみの均質化が可能となる。また同様に、ロール間隔ではなく、ロール径を変更することにより扁平量を変化させることで同様の効果が得られる。また、これらを組み合わせても良い。設備的には複雑になるが、ロール数を3個以上とすれば、加工中の管の振れ回りが抑制でき、安定した加工が可能になる。
【0046】
熱間穿孔圧延で式:(LF/LP)×X≦1100を満たすようにし、更に上述したように冷間加工を曲げ曲げ戻し加工により行うことで、傾斜角度αを5.0°以上にすることができ、様々な圧力、応力環境でもより優れた耐圧性能が得られる。
【0047】
本実施形態の継目無管は、管の化学成分や強度レベルに因らず、不可避的に発生する偏肉による薄肉部の分布が管軸方向に対して平行に近い管(α:5.0°未満である管)よりも耐圧性能の向上効果が得られる。
【0048】
本実施形態の継目無管の製造方法によれば、管素材の化学成分や強度に関わらず、製造された継目無管の偏肉分布について、α:5.0°以上とすることができる。本実施形態の継目無管は、例えば、炭素鋼管や各種ステンレス鋼管、非鉄金属とすることができる。
【0049】
また、本実施形態の継目無管は、厳しい腐食環境で高い外圧と管軸方向応力が加わる油井用の鋼管に適用する場合、質量%で、C:0.20~0.35%、Mn:0.1~1.2%、Cr:0.3~2.0%、Mo:0.1~1.5%を有し、残部がFeおよびSやP、AlやOなどの不可避的不純物からなる成分組成を有し、マルテンサイト組織を有する、高強度を有し、耐サワー性に優れる耐サワー鋼管を用いることもできる。また、耐食性に優れ、かつ前述した曲げ曲げ戻し加工により高強度化した二相ステンレス鋼(UNS S32205、S31260、S32750、S32760)を用いることもできる。二相ステンレス鋼としては、質量%で、Cr:11.5~35.0%、Mo:0.5~6.0%を含有する成分組成を有し、フェライトとオーステナイトを有する鋼とすることができる。また、この二相ステンレス鋼の成分組成としては、耐食性向上の観点から、前述した成分組成に加えて、質量%で、C:0.08%以下、Si:1.0%以下、Mn:10.0%以下、Ni:15.0%以下、N:0.400%未満を含有し、残部がFeおよびSやP、AlやOなどの不可避的不純物からなることが好ましい。この二相ステンレス鋼の成分組成としては、耐食性向上の観点から、質量%で、W:6.0%以下、Cu:4.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することがさらに好ましい。また、この二相ステンレス鋼の成分組成としては、強度向上の観点から、さらに、質量%で、Ti:0.30%以下、Al:0.30%以下、V:1.0%以下、Nb:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。また、この二相ステンレス鋼の成分組成としては、熱間成形時の加工性向上や酸性雰囲気中の耐食性向上の観点から、さらに、質量%で、B:0.010%以下、Zr:0.010%以下、Ca:0.010%以下、Ta:0.30%以下、Sb:0.30%以下、Sn:0.30%以下、REM:0.010%以下、Ag:0.30%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0050】
また、本実施形態の継目無管は、さらに厳しい油井採掘時の腐食環境に曝される場合においては、Ni基合金(UNS N06600、N08800)を用いることもできる。Ni基合金としては、質量%で、Cr:11.5~35.0%、Ni:23.0~60.0%、Mo:0.5~17.0%を含有し、残部がFeおよびSやP、AlやOなどの不可避的不純物からなる成分組成を有し、オーステナイト相の組織を有することが好ましい。また、このNi基合金は、耐食性向上の観点から、質量%で、C:0.05%以下、Si:1.0%以下、Mn:5.0%以下、N:0.400%未満を含有することが好ましい。また、Ni基合金は、耐食性向上の観点から、質量%で、W:5.5%以下、Cu:4.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することが好ましい。また、Ni基合金は、強度向上の観点から、質量%で、Ti:1.5%以下、Al:0.30%以下、V:1.0%以下、Nb:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。また、Ni基合金は、熱間成形時の加工性向上、酸性雰囲気中の耐食性向上の観点から、B:0.010%以下、Zr:0.010%以下、Ca:0.010%以下、Ta:0.30%以下、Sb:0.30%以下、Sn:0.30%以下、REM:0.20%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0051】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
本実施形態の継目無管は、前述した第1実施形態の継目無管に対し、両側の管端部のうち少なくとも一方に雄ネジまたは雌ネジの締結部を有しており、この締結部のフランク面とネジ谷底面で形成される角部の曲率半径が0.2mm以上であることを特徴とする。その他の構成およびその機能は、本実施形態の継目無管は、前述した第1実施形態の継目無管と同様であるため、以下では、この雄ネジ、雌ネジの締結部についてのみ説明する。なお、本実施形態の耐圧性能に優れた継目無管は、他の管と直接連結(インテグラル型)されるネジ継手、または、カップリングを介して連結(T&C型)されるネジ継手に用いることができる。
【0052】
ここで、まず、管端部に設けられるネジについて説明する。
油井・ガス井用あるいは地熱井用の管は、火災防止や抜き差しを繰り返す観点から、管同士の連結に溶接を利用せずに、ネジによる締結が利用される場合がある。
高い外圧に曝される油井やガス井、熱水採掘の用途で使用される継目無管は、高い管軸方向引張降伏強度を有することが求められ、また、管の連結部については高い管軸方向圧縮降伏強度を有することも求められる。
ネジ継手は、雄ネジを有するピンと雌ネジを有するボックス(カップリング)から構成される。ネジ継手としては、API(米国石油協会)規格に規定された標準的なネジ継手や、ネジ部だけでなくメタルタッチシール部とトルクショルダ部とを備えるプレミアムジョイントと呼ばれる高性能の特殊なネジ継手が挙げられる。
ネジの強固な締結を実現するために、ネジは、直径方向に接触面圧が発生するように設計することができ、例えば、テーパーネジが用いられる。
直径方向の接触面圧に伴い、ピン(雄ネジ側)は縮径変形して管軸方向に伸び、ボックス(雌ネジ側)は拡管変形して管軸方向に縮むため、ネジ両端のフランク面において接触面圧が発生する。
そのため、ネジ山には、締結力に応じた管軸方向圧縮応力が発生する。したがって、高い外圧に曝される油井やガス井、熱水採掘の用途で使用される場合の継目無管では、高い耐圧性能に加えて、圧縮応力にも耐えることができる管軸方向圧縮降伏強度が求められる場合が多い。特に、プレミアムジョイントにおいては、トルクショルダ部に大きな管軸方向圧縮応力が発生するため、高い管軸方向圧縮降伏強度を有することが好ましい。
【0053】
この点、本実施形態の継目無管は、両側の管端部のうち少なくとも一方に雄ネジまたは雌ネジの締結部を有しており、さらに、前述した第1実施形態の継目無管の構成および機能を有する。
前述したように、ネジの締結部では締め付け時、締め付け後の曲げ変形により管軸方向引張と圧縮応力が発生する。
本実施形態においては、強度を向上させるために冷間加工で曲げ曲げ戻し加工を行うため、管軸方向引張降伏強度に対する管軸方向圧縮降伏強度(管軸方向圧縮降伏強度[MPa]/管軸方向引張降伏強度[MPa])を0.85以上とすることができ、高い耐圧性能に加えて優れたネジ継手性能を得られる。
【0054】
図3は、雄ネジと雌ネジの締結部の管軸方向断面図(管軸方向に平行な断面図)であり、ネジの締結部における、角部Rの曲率半径の位置を示す模式図である。図3(a)は台形ネジの場合の模式図であり、図3(b)は三角ネジの場合の模式図である。
本実施形態の継目無管をネジで締結する場合には、両側の管端部のうち少なくとも一方の管端部に雄ネジまたは雌ネジの締結部を備え、締結部のフランク面とネジ谷底面で形成される角部の曲率半径が0.2mm以上であることが好ましい。
すなわち、本実施形態で曲げ曲げ戻し加工を利用すれば、ネジの種類によらず、締結により雄ネジと雌ネジが互いに接触し、締結により圧力が発生するフランク面とネジ谷底面で形成される角部Rの曲率半径を0.2mm以上とすることにより、ネジの締結部の疲労特性を向上させることができる。なお、フランク面については、雄ネジ(ピン)において管端に近い側のネジ山斜面をスタビングフランク面と呼び、管端から遠い側のネジ山斜面をロードフランク面と呼ぶ。雌ネジ(ボックス)においては、ピンのスタビングフランク面に対向するネジ山斜面をスタビングフランク面と呼び、ピンのロードフランク面に対向するネジ山斜面をロードフランク面と呼ぶ。
【0055】
なお、ネジの加工方法は切削による方法やネジ形状を塑性加工で転写する転造など、いずれの方法も利用できる。切削の方がより良い寸法精度が得られ、管内外表面の表層に変形を生じにくくするため好ましい。
【0056】
図4は、ネジ継手の管軸方向断面図(管軸方向に平行な断面図)であり、図4(a)はネジ継手がAPIネジ継手の場合の断面図であり、図4(b)はネジ継手がプレミアムジョイントの場合の断面図である。APIネジ継手のようにネジのみで構成されるネジ継手においては、ネジ締結時にはネジの両端に最大面圧が発生し、ピン先端側のネジはスタビングフランク面で接触し、ピン後端側のネジはロードフランク面で接触する。プレミアムジョイントの場合にはトルクショルダ部による反力も考慮する必要があり、ネジ締結時にはネジの両端のロードフランク面に最大面圧が発生する。曲げ曲げ戻し加工ではない冷間加工法の場合は、管軸方向におけるバウシンガー効果の影響で管軸方向引張降伏強度に対する管軸方向圧縮降伏強度が低くなり、応力集中部に圧縮応力が発生する。そして、圧縮降伏強度が低いためにミクロな変形が生じ、ネジでの締結方法を採用するとネジの疲労寿命が低くなる。これに対し、本実施形態の曲げ曲げ戻し加工を利用し、角部Rの曲率半径を0.2mm以上とすることにより、継目無管におけるネジの疲労特性が向上し、かつ良好な耐圧性能が得られる。
【0057】
角部Rの曲率半径を0.2mm以上に大きくすることは、さらなる応力集中の緩和に有効である。しかしながら、大きな角部Rはネジの設計の自由度を奪い、ネジ加工できる管のサイズに制約をもたらしたり、設計を不能にしたりする可能性がある。また、角部Rを大きくすると、接触する雄ネジと雌ネジのフランク面の面積が低下するために密封性や締結力の低下が発生し得る。そのため、角部Rは0.2~3.0mmの範囲とすることがより好ましい。あるいは、角部Rの大きさで減少するフランク面の面積はネジ山高さと関係づけて定義するのが適切であり、上記の角部Rの曲率半径について、ネジ山の高さの20%未満の径方向長さ(管軸中心側から直径方向の長さ)を角部Rが占めるような曲率半径とし、かつ、角部Rの曲率半径を0.2mm以上に設計するとよい。
【0058】
図4(b)に示すプレミアムジョイントは、ネジだけでなくメタルタッチシール部とトルクショルダ部とを備える。プレミアムジョイントでは、メタルタッチシール部(図4(b)中のSeal)により締結され、管の密閉性が保証される。一方で、トルクショルダ部(図4(b)中のShoulder)は、締め付け時のストッパーの役割をしており、安定した締め付け位置を保証するのに重要な役割を担うが、締め付け時に高い圧縮応力が発生する。高い圧縮応力によりトルクショルダ部が変形すると、密閉性が損なわれる。また、内径側への変形により内径が縮径する。そのため、トルクショルダ部が変形しないように肉厚を大きくして圧縮強度を向上させる必要が発生し、薄肉形状の管を設計できなくなる。また、余剰な肉厚により材料の無駄が発生する。
さらに、通常、ネジを締結する場合は、締付けトルク値(ネジを締めつけている間のトルクの値)を確認する。そして、密閉されたトルク値(締め付けにより、ある基準を超えると密閉状態を示すトルク値となるため、締め付けている間のトルク値をいう)と、上限として、トルクショルダ部が変形しないトルク値(ある基準を超えてトルク値が大きくなるとネジ先端が変形してしまうため、この基準を超えないトルク値)を管理する。すなわち、密閉されたトルク値からトルクショルダ部が変形しないトルク値の範囲で管理して締結を行う。
この時、管の管軸方向圧縮降伏強度が小さい場合は、トルクショルダ部の変形を抑止するためにトルク値の上限が小さくなる。そのため、トルク値の管理範囲が狭くなり、安定した締め付けをできなくなる。
【0059】
図5は、ピンの延長部であるノーズ部付近の模式図であり、図5(a)はピンとカップリング締結部の管軸方向平行の切断断面図、図5(b)はピンのネジ先端部をピン先端部正面から見たトルクショルダ部である。
本実施形態において、曲げ曲げ戻し冷間加工により、管軸方向圧縮降伏強度が高い管が得られれば、高い耐圧性能を維持したまま、トルクショルダ部の変形を抑止できる。トルクショルダ部の変形を抑止して安定して締め付けを行うには、図5中で示す雄ネジ(ピン)のトルクショルダ部である先端厚み(カップリング側の雄ネジ先端を受ける部分であり、(Ds1-Ds0)/2)の断面積を素管の断面積に対して25%以上確保すればよい。雄ネジのトルクショルダ部である先端厚みを厚くすると、ノーズ剛性が高くなりすぎて締め付け時に焼き付きが発生しやすくなるため、好ましい範囲は25~60%である。
また、トルクショルダ部の耐圧縮強度をさらに上げるようにノーズ部を設計することにより、更にハイトルク性能(変形しないトルク値が高くなり、より高い締付けトルクを与えられるようにすること)を実現できるため好ましい。ハイトルク性を実現するためには、図5(a)に示すように、管端からのシールポイント位置をxとしたときのピン先端のネジ無し部であるノーズ長さLに対する比x/Lを0.01以上0.1以下とするのが良い。シールポイント位置をショルダ部近傍に設置することにより、実質的なショルダ部の断面積(ショルダ部の断面積:π/4×(Ds1-Ds0))が上昇しハイトルク性が得られる(図5(b)参照)。このとき、ノーズ長さLが長すぎるとノーズ剛性が低下して高い圧縮力に耐えられなくなるため、ノーズ長さLは0.5インチ以下とするのが良い。一方、ノーズ長さLが短すぎるとシール部を配置する余地がなくなるため0.2インチ以上とするのが望ましい。
なお、図5において、
δ:シール干渉量を意味し、図面を重ね合わせたときの重なり代の最大値で定義される
Ds1:ショルダ接触領域の外径
Ds0:ショルダ接触領域の内径
である。
【0060】
気密性を示すシール性もネジの特性として重要であり、ISO13679:2019のシール試験で示す圧縮率85%以上を満たすことが好ましく、高強度化に本発明の曲げ曲げ戻し冷間加工を利用すると実現可能となる。高いシール性を実現するためには、ピン先端のネジ無し部であるノーズ長さLを0.3インチ以上とし、管端からのシールポイント位置をxとしたときのノーズ長さLに対する比x/Lを0.2以上0.5以下とするのが良い。ただし、ノーズ長さを必要以上に長くすると切削に時間がかかるのとノーズ剛性が低下して性能が不安定となるため、ノーズ長さLは1.0インチ以下とするのが望ましい。
【実施例
【0061】
[実施例1]
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0062】
各種材料について耐圧性能を評価した。まず、表1に供試材の規格を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
この材料について、表2に示す熱間穿孔圧延(ユジーンセジュルネ法、エルハルトプッシュベンチ法、又はマンネスマン法)を行い平均外径Φ45~460mmの継目無管を製造した。熱間圧延は素材を1300℃の加熱炉で加熱し、その後、各熱間穿孔圧延と、それに引き続く減肉、定径圧延を実施し、その後、空冷により製品形状とした。材料Aについては空冷後の管をそのまま利用した。材料B、C、Dについては空冷後の管を1000~1150℃に昇温し水焼き入れを行う熱処理を施した。マンネスマン法により熱間穿孔圧延を行ったものについては、熱間圧延後管長LF[mm]、穿孔圧延後管長LP[mm]、および穿孔圧延中の管1回転における圧延方向進行量X[mm]に関し、「(LF/LP)×X」を表2に示す値に制御した。
また、一部、各種冷間圧延を行った(表2中、冷間引抜(冷間引き抜き加工)、曲げ曲げ戻し(管周方向の曲げ曲げ戻し加工)参照)。
冷間引抜については製品寸法に仕上げる際に15%の減肉を与えた。曲げ曲げ戻し加工については管軸方向に対し2~5°傾いた回転軸を有し管周方向に120°間隔で配置されたロールを回転させて管を引き込み、曲げ曲げ戻し変形を与える方式で行った。なお、管の初期外径に対してロール間隔を5~15%小さくしたロールを通過する管に曲げ曲げ戻しを与えた。
【0065】
製造した継目無管については、管軸方向の降伏強度特性(管軸方向引張降伏強度(管軸引張降伏強度)、管軸方向圧縮降伏強度(管軸圧縮降伏強度))と、傾斜角度αを測定した。
傾斜角度αは、管表面に沿って薄肉部の一端と他端とを薄肉部の形成方向に最短距離で結んで形成される線分の管軸方向に対する傾斜角度である。また、上記の一端と他端の設定位置について、(1)管軸方向1.0mの長さ、及び(2)管周方向に薄肉部が1回転する管軸方向長さの90%の長さのうち、より短い長さで選択される管中の領域から、薄肉部における一端及び他端を設定した。各管で測定した傾斜角度αについては、管周方向に薄肉部が1回転する管軸方向長さの40%で選択される管中の領域から、薄肉部における一端及び他端を設定した場合においても、同様の値が得られることを確認した。
また、傾斜角度αの測定は、管の長さ方向中央部を測定対象領域の長さ方向中心として行った。
上記の傾斜角度αは、製品長さの状態で超音波による肉厚分布を測定し、管全体の最大肉厚tmax[mm]、最小肉厚tmin[mm]、平均肉厚tave[mm]と、その分布を用いたフーリエ変換による穿孔圧延時の偏肉分布に基づいて算出した。平均肉厚taveは、管の長さ方向中央部において薄肉部を起点として管周方向に11.25°間隔で32点の肉厚tを測定し、これらの数平均を算出することにより得た。
【0066】
管軸方向圧縮降伏強度、管軸方向引張降伏強度は、耐圧試験に用いる管の端部の肉厚中心部より外径(直径)5.0mmの丸棒引張試験片と円柱圧縮試験片を切り出し、それぞれ圧縮、引張速度を1.0mm/minとして試験を行い、常温引張、圧縮試験で応力ひずみ曲線を測定した。この応力ひずみ曲線から管軸方向引張降伏強度、管軸方向圧縮降伏強度を算出した。
【0067】
具体的には、まず管軸方向圧縮降伏強度の測定は、円柱圧縮試験により測定した。圧縮を行う円柱試験片は管軸方向に平行に肉厚中心部より採取した。試験片は、管の肉厚中心部から円柱外径d=5.0mm、円柱高さh=8.0mmとして切り出した。圧縮試験は、常温(25℃)で、平板間に試験片を挟んで荷重を与える形式を採用し、圧縮した際に得られる応力ひずみ曲線を利用して圧縮降伏強度を算出した。応力ひずみ曲線は、圧縮試験機で圧縮速度(=クロスへット速度)1.0mm/minで30%圧縮を行うことで得た。
【0068】
また、管軸方向引張降伏強度は、JIS Z2241に従い、まず、試験片としては、管軸方向に平行に管の肉厚中心部から平行部径5.0mmの丸棒引張試験片を切り出した。そして、常温(25℃)で、クロスヘッド速度1.0mm/minで破断まで引張試験を実施した。これにより得られる応力ひずみ曲線を利用して、引張降伏強度を算出した。
【0069】
評価は供試材と偏肉量、tmin、外径、管軸方向引張降伏強度を揃えた継目無管について種々の傾斜角度αを与え、それぞれに耐圧試験を行い、傾斜角度αが5.0°未満の比較例を100とした場合の相対評価で行った。
【0070】
上記の耐圧試験は、得られた管の管端部を閉塞し、管外径よりも大きな内径を有するケースに挿入して密閉し、管内外へ水圧を与えて行った。耐圧試験条件a、bは、夫々、外圧、または内圧を0MPaから150MPaまで1MPaずつ上昇させ、管の圧潰により水圧の変動が観察された点の圧力を圧潰強度(耐圧性能)とした。c、dについての外内圧の与え方は、夫々順にa、bと同じであるが、管に一定の曲げモーメントを与えながら実施した。曲げモーメントは管外面の軸引張応力が、引張試験により得られた管の軸方向引張降伏強度に対して80%で一定となるように与えた。圧潰強度(耐圧性能)の判定は、条件a、bと同様に水圧の変動が確認された点の圧力とした。
【0071】
なお、平均外径Daveは、薄肉部を起点として管周方向に40°間隔で9点の外径Dを測定し、これら9点の数平均を算出することにより得た。
【0072】
また、偏肉量は、穿孔圧延で生じた肉厚分布について、最大肉厚tmax[mm]と最小肉厚tmin[mm]と、平均肉厚tave[mm]を用いて下記式(3)で表される。
偏肉量=((tmax-tmin)/tave)×100[%] ・・・式(3)
表2の結果から、本発明例はいずれも耐圧性能に優れていることが分かった。さらに冷間加工に曲げ曲げ戻し加工を適用したものは管軸方向の強度特性に優れ、軸方向圧縮応力の発生する耐圧試験でも良好な耐圧性能を発揮した。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
[実施例2]
次に、一部の管にネジ継手における締結部を設け評価を行った。管の端部に機械加工により台形のネジを形成し(図3(a)参照)、二本の管をネジで締結したのちに管軸方向引張降伏強度に応じて両管端を3~10%偏芯させた状態で回転させるネジの疲労試験を行った。なお、ネジについては応力集中部である角部Rを、表4に示すように変化させ、応力集中部の疲労き裂や疲労き裂の進展によるネジ山の破断までの回転回数を比較した。なお、回転回数の評価は、よりネジ特性に優れ、好ましい製法である曲げ曲げ戻し加工の効果を示すため、鋼種、サイズを同一として、その他の冷間加工方法での回転回数を1とした際の比で表すこととし、比が1.00より大きいものがより優れていると判断して疲労寿命延長効果を評価した。
【0076】
表4に示すように、本発明例である材料A、Bについて、外径Φ88.9mm、肉厚t6.5mmのピン(管サイズ)とそれに対応するカップリングからなるネジ継手と、外径Φ244.5mm、肉厚t13.8mmのピンとそれに対応するカップリングからなるネジ継手とを用意した。ネジ継手のタイプはネジのみからなる継手と、ネジとメタルタッチシール部とショルダ部とからなるプレミアムジョイントを用意し、上述の疲労試験を行った。表4に、ピンのネジ底のロードフランクおよびスタビングフランクの角部Rの曲率半径、カップリングのネジ底のロードフランクおよびスタビングフランクの角部Rの曲率半径を示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4の結果から、本発明の継目無管はいずれも疲労特性に優れていることが分かった。
【0079】
次に、プレミアムジョイントにおいて、トルクショルダ部の設計の評価を行った。表5に示すように、外径Φ88.9mm、肉厚t6.5mmのピンとそれに対応するカップリングからなるネジ継手(プレミアムジョイント)において、ISO13679:2019に基づいて締め付け試験(Yieldトルク評価試験)を実施した。
【0080】
【表5】
【0081】
ショルダ部の断面積がピン未加工部断面積(素管の断面積)の25%以下となると(ショルダ部の断面積比が0.25以下となると)、締付けトルク(Yieldトルク)3000N・mでYieldが発生してしまうことがわかった。ここで、Yieldとは、ネジ継手に十分大きな塑性変形が生じて継手の性能が保証できなくなる状態をいう。Yieldトルクが高いことで、使用可能なトルク範囲が広くなり、使いやすいネジ継手であると言える。表5に示す結果においては、3000N・mでは十分なYieldトルクがあるとは言えず、4000N・mで性能の高いネジ継手であると言える。
この点、本発明の鋼では、ショルダ部の断面積はピン未加工部断面積の20%でもYieldトルクが4000N・m以上となり、十分高いトルクが確保でき締付け可能となることがわかった。
この値については、従来の耐圧縮強度が低い二相ステンレス鋼では25%以上必要であるため、本発明の二相ステンレス鋼におけるショルダ部の断面積はピン未加工部断面積の20%以上で同等のトルクを確保できるという優位性を確認できた。
【0082】
また、第2の高性能なネジ継手としてISO13679:2019のシール試験に合格する高いシール性を有するネジ継手の実現が挙げられる。そこで、表6に示すように、外径Φ88.9mm、肉厚t6.5mmのピンとそれに対応するカップリングからなるネジ継手(プレミアムジョイント)、外径Φ244.5mm、肉厚t13.8mmのピンとそれに対応するカップリングからなるネジ継手(プレミアムジョイント)において、ISO13679:2019に基づいてシール試験を実施した。
【0083】
【表6】
【0084】
まず、前述したように、表5の結果から、本発明の継目無管の適用により、より低いショルダ断面積でも締め付け可能なネジ継手の実現が可能であることがわかった。
また、表6の結果から,管軸方向圧縮降伏強度に優れる本発明の継目無管は85%以上のシール圧縮率が得られて合格し、優れたネジ特性を得られた。
【0085】
この特徴はネジ継手設計の自由度を増すことができ、以下の2種類の高性能なネジ継手の実現を可能とする。
まず、第1の高性能なネジ継手として、高い締め付けトルクを適用してもシール性能を確保できるハイトルクネジ継手が挙げられる。本発明のような耐圧縮強度の高いステンレス継目無管をネジ継手に採用することにより、ハイトルク性が得られる。加えてネジ継手の設計の適正化によりさらなるハイトルクの実現が可能となる。具体的にはピン先端のネジ無し部であるノーズ長さを0.2インチ以上0.5インチ以下とし、管端からのシールポイント位置をxとしたときのノーズ長さLに対する比x/Lを0.01以上0.1以下と設計する。
【0086】
また、シール試験の結果から、気密性の高いメタルタッチシール部を実現するためには、ピン先端のネジ無し部であるノーズ長さLを0.3インチ以上1.0インチ以下とし、管端からのシールポイント位置をxとしたときのノーズ長さLに対する比x/Lを0.2以上0.5以下とするのが良い。上記のようにノーズ長さを長くしてシールポイントを管端から離すとショルダ部の断面積が小さくなり、従来材料ではYieldの問題が発生してしまう断面積となって設計不可となる可能性が高い。薄肉でこの問題は顕著となり肉厚6.5mm以下では実現不可能であった。
【0087】
本発明の継目無管では、耐圧縮強度が高いためにショルダ部の断面積を20%確保できればYieldの問題は回避でき、ショルダ部の断面積確保と高いシール性のデザインの両立が可能となった。表6に示すように、管軸方向圧縮降伏強度/管軸方向引張降伏強度が0.85以上となる管No.28、30を用いたネジでは、ISO13679:2019の試験荷重において圧縮率85%以上でシール試験に合格することが確認された。具体的に、管軸方向圧縮降伏強度/管軸方向引張降伏強度が1.0以上となる管No.28、30を用いたネジであれば圧縮率100%でシール試験に合格することが確認された。


図1
図2
図3
図4
図5