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特許7156537ステンレス継目無鋼管およびステンレス継目無鋼管の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ステンレス継目無鋼管およびステンレス継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221012BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20221012BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20221012BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D8/10 D
C21D9/08 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021533662
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009892
(87)【国際公開番号】W WO2021187331
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2020048550
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】加茂 祐一
(72)【発明者】
【氏名】柚賀 正雄
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/035329(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155041(WO,A1)
【文献】特開2015-110822(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020886(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102534418(CN,A)
【文献】特公昭44-015054(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/10
C21D 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.06%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.01%以上1.0%以下、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:15.2%以上18.5%以下、
Mo:1.5%以上4.3%以下、
Cu:1.1%以上3.5%以下、
Ni:3.0%以上6.5%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.10%以下、
O:0.010%以下、
Sb:0.001%以上1.000%以下
を含有し、
かつC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびNが以下の式(1)を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
体積率で、30%以上のマルテンサイト相、65%以下のフェライト相、および40%以下の残留オーステナイト相を含む組織を有し、
降伏強さが758MPa以上である、ステンレス継目無鋼管。

13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦55.0‥‥(1)
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロとする。
【請求項2】
質量%で、
C:0.06%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.01%以上1.0%以下、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:15.2%以上18.5%以下、
Mo:1.5%以上4.3%以下、
Cu:1.1%以上3.5%以下、
Ni:3.0%以上6.5%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.10%以下、
O:0.010%以下、
Sb:0.001%以上1.000%以下
を含有し、
かつC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびNが以下の式(1)を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
体積率で、40%以上のマルテンサイト相、60%以下のフェライト相、および30%以下の残留オーステナイト相を含む組織を有し、
降伏強さが862MPa以上である、ステンレス継目無鋼管。

13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦55.0‥‥(1)
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロとする。
【請求項3】
前記成分組成が、前記Crに代えてCr:15.2%以上18.0%以下とし、前記Niに代えてNi:3.0%以上6.0%以下とし、
前記式(1)に代えて、以下の式(1)´を満足する範囲にて含有する、請求項2に記載のステンレス継目無鋼管。

13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦50.0‥‥(1)´
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロとする。
【請求項4】
前記成分組成に加えてさらに、質量%で、下記A群~E群のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のステンレス継目無鋼管。

A群:V:1.0%以下
B群:W:0.9%以下
C群:Nb:0.30%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
D群:Ta:0.3%以下、Co:1.5%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.3%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
E群:Ca:0.01%以下、REM:0.3%以下、Mg:0.01%以下、Sn:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のステンレス継目無鋼管の製造方法であって、
前記成分組成の鋼管素材を熱間加工して継目無鋼管を造管し、
ついで該継目無鋼管を850~1150℃の温度に再加熱したのち、空冷以上の冷却速度で該継目無鋼管の表面温度が50℃以下の冷却停止温度まで冷却する焼入れ処理を施し、
ついで該継目無鋼管を500~650℃の温度に加熱する焼戻処理を施す、ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井およびガス井(以下、単に油井と称する)での利用に好適な、ステンレス継目無鋼管に関する。本発明は、とくに炭酸ガス(CO)、塩素イオン(Cl)を含む高温の厳しい腐食環境下や、硫化水素(HS)を含む環境下等における耐食性を向上させたステンレス継目無鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、近い将来に予想されるエネルギー資源の枯渇という観点から、従来、省みられなかったような、高深度の油田や炭酸ガスを含む環境下、およびサワー環境と呼ばれる硫化水素を含む環境下など、厳しい腐食環境の油井の開発が盛んに行われている。このような環境下で使用される油井用鋼管には、高強度かつ高い耐食性を有することが要求される。
【0003】
従来から、COおよびCl等を含む環境下にある油田およびガス田では、採掘に使用する油井用鋼管として13Crマルテンサイト系ステンレス鋼管が一般的に使用されてきた。しかし、最近では、更なる高温(200℃までの高温)の油井の開発が進められ、13Crマルテンサイト系ステンレス鋼管では耐食性が不足する場合があった。このような環境下でも使用できる、高い耐食性を有する油井用鋼管が要望されている。
【0004】
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.05%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.01~1.0%、P:0.05%以下、S:0.002%未満、Cr:16~18%、Mo:1.8~3%、Cu:1.0~3.5%、Ni:3.0~5.5%、Co:0.01~1.0%、Al:0.001~0.1%、O:0.05%以下、及び、N:0.05%以下を含有し、Cr、Ni、Mo、Cuが特定の関係を満足する組成を有する油井用ステンレス鋼が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、質量%で、C:0.05%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.1~0.5%、P:0.05%以下、S:0.005%未満、Cr:15.0%超え19.0%以下、Mo:2.0%超え3.0%以下、Cu:0.3~3.5%、Ni:3.0%以上5.0%未満、W:0.1~3.0%、Nb:0.07~0.5%、V:0.01~0.5%、Al:0.001~0.1%、N:0.010~0.100%、O:0.01%以下を含有し、Nb、Ta、C、N、Cuが特定の関係を満足する組成を有し、さらに体積率で、45%以上の焼戻マルテンサイト相と、20~40%のフェライト相と、10%超え25%以下の残留オーステナイト相と、からなる組織を有する、油井用高強度ステンレス継目無鋼管が記載されている。これにより、降伏強さYS:862MPa以上の強度と、CO、Cl、HSを含む高温の厳しい腐食環境においても十分な耐食性を示す油井用高強度ステンレス継目無鋼管を得られるとしている。
【0006】
また、特許文献3には、質量%で、C:0.005~0.05%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.20~1.80%、P:0.030%以下、S:0.005%以下、Cr:14.0~17.0%、Ni:4.0~7.0%、Mo:0.5~3.0%、Al:0.005~0.10%、V:0.005~0.20%、Co:0.01~1.0%、N:0.005~0.15%、O:0.010%以下を含有し、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、Nが特定の関係を満足する組成を有する油井用高強度ステンレス継目無鋼管が記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.15~1.0%、P:0.030%以下、S:0.005%以下、Cr:14.5~17.5%、Ni:3.0~6.0%、Mo:2.7~5.0%、Cu:0.3~4.0%、W:0.1~2.5%、V:0.02~0.20%、Al:0.10%以下、N:0.15%以下を含有し、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、N、Wが特定の関係を満足する組成を有し、さらに体積率で、主相としてマルテンサイト相を45%超、第二相としてフェライト相を10~45%、残留オーステナイト相を30%以下含有する組織を有する、油井用高強度ステンレス継目無鋼管が記載されている。これにより、降伏強さYS:862MPa以上の強度と、CO、Cl、HSを含む高温の厳しい腐食環境においても十分な耐食性を示す油井用高強度ステンレス継目無鋼管を得られるとしている。
【0008】
また、特許文献5には、質量%で、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.15~1.0%、P:0.030%以下、S:0.005%以下、Cr:14.5~17.5%、Ni:3.0~6.0%、Mo:2.7~5.0%、Cu:0.3~4.0%、W:0.1~2.5%、V:0.02~0.20%、Al:0.10%以下、N:0.15%以下を含有し、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、N、Wが特定の関係を満足する組成を有し、さらに体積率で、主相としてマルテンサイト相を45%超、第二相としてフェライト相を10~45%、残留オーステナイト相を30%以下含有する組織を有する、油井用高強度ステンレス継目無鋼管が記載されている。これにより、降伏強さYS:862MPa以上の強度と、CO、Cl、HSを含む高温の厳しい腐食環境においても十分な耐食性を示す油井用高強度ステンレス継目無鋼管を得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2013/146046号
【文献】国際公開第2017/138050号
【文献】国際公開第2017/168874号
【文献】国際公開第2018/020886号
【文献】国際公開第2018/155041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、更なる高温での油井の開発が進められることにより、油井用鋼管は高い耐食性を有することが要望されている。油井用鋼管を、200℃までの高温の油井で使用する際に求められる耐食性の評価手法の一つとして、「20質量%NaCl水溶液(液温:200℃、30気圧のCOガス雰囲気)中に、試験片を浸漬し、浸漬時間を336時間として実施した際の腐食速度が0.127mm/y以下」であることがある。
【0011】
また、寒冷地で使用する場合には、油井に用いられる鋼管には優れた低温靭性を有することも求められる。優れた低温靭性の評価手法の一つとして、「-40℃におけるシャルピー衝撃試験による吸収エネルギーvE-40が200J以上」であることを求められる場合がある。
【0012】
ところで、特許文献1、2、4、5に開示されているステンレス鋼は、高い耐硫化物応力割れ性を有していることが述べられている。具体的には、例えば特許文献2および4には、オートクレーブ中に保持された試験液:20質量%NaCl水溶液(液温:25℃、0.9気圧のCOガス、0.1気圧のHS雰囲気)に、酢酸+酢酸ナトリウムを加えてpH:3.5に調整した水溶液中に、試験片を浸漬し、浸漬時間を720時間とし、降伏応力の90%を負荷応力として負荷し、試験後の試験片に割れが発生しない、耐硫化物応力割れ性を改善した鋼管が製造できると記載されている。特許文献1、2、4における耐硫化物応力割れ性は、NACE TM0177 Method Aに準拠した丸棒状引張試験片に対して実際の降伏応力の90%に相当する応力を、特許文献5における耐硫化物応力割れ性は、NACE TM0177 Method Cに準拠したCの形をした試験片に降伏応力の100%に相当する応力を、それぞれ付与した後に特定の腐食環境に晒し、720時間経過後の割れの有無により判定するものである(以後、「定荷重試験」と称する)。ところが、近年ではRipple Load Test(Cyclic SSRTやRipple SSRTと呼ばれる場合もある。以後「RLT試験」と称する。)と呼ばれる試験が、耐硫化物応力割れ性の評価に用いられる場合がある。定荷重試験とRLT試験との主な違いは、定荷重試験では常に一定応力が付与されるのに対し、RLT試験では試験期間中に応力の変動がある点である。
さらに、前述した問題の他に、石油を採掘する際に、石油が貯まっている層(貯留層)の性状(主に浸透率)が悪く、十分な生産量が得られない場合や、貯留層内の目詰まりなどにより予期した生産量が得られない場合がある。そこで、生産性の向上を図る手法の一つとして、貯留層に塩酸などの酸を注入する酸処理(acidizing)が行われることがある。このとき、油井に用いられる鋼管には優れた酸環境における耐食性を有することが求められる。
【0013】
特許文献1~5には、耐食性を改善したステンレス鋼が開示されているが、高温での耐食性と、高い耐硫化物応力割れ性と、優れた酸環境における耐食性と、高い低温靭性とを兼備することが十分なされない場合があった。
【0014】
本発明は、このような従来技術の問題を解決し、降伏強さ:758MPa(110ksi)以上という高強度と、優れた耐食性と、ならびに優れた低温靭性とを有するステンレス継目無鋼管を提供することを目的とする。
【0015】
なお、ここでいう「優れた耐食性」とは、「優れた耐炭酸ガス腐食性」、「優れた耐硫化物応力割れ性」、および「優れた酸環境における耐食性」を有する場合をいうものとする。
【0016】
ここでいう「優れた耐炭酸ガス腐食性」とは、オートクレーブ中に保持された試験液:20質量%NaCl水溶液(液温:200℃、30気圧のCOガス雰囲気)中に、試験片を浸漬し、浸漬時間を336時間として実施した際の腐食速度が0.127mm/y以下の場合をいうものとする。
【0017】
また、ここでいう「優れた耐硫化物応力割れ性」とは、オートクレーブ中に保持された試験液:0.165%質量NaCl水溶液(液温:25℃、0.99気圧のCOガス、0.01気圧のHS雰囲気)に、酢酸+酢酸ナトリウムを加えてpH:3.0に調整した水溶液中に試験片を浸漬し、降伏応力の100%と80%の間において、1×10-6の歪み速度による応力増加と5×10-6の歪み速度による応力減少とを1週間の間繰返す試験(RLT試験)を実施し、試験後に試験片に破断または割れを生じていない場合をいうものとする。
また、ここでいう「優れた酸環境における耐食性」とは、80℃に加熱した15質量%塩酸溶液中に試験片を浸漬し、浸漬時間を40分として実施した際の腐食速度が600mm/y以下の場合をいうものとする。
【0018】
また、ここでいう「優れた低温靭性」とは、JIS Z 2242(2018年)の規定に準拠して、試験片長手方向が管軸方向となるように、Vノッチ試験片(10mm厚)を採取してシャルピー衝撃試験を実施し、試験温度:-40℃における吸収エネルギーvE-40が200J以上である場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、ステンレス鋼の耐食性、特に耐硫化物応力割れ性および酸環境における耐食性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、Cr、Mo、Cuに加え、Sbを所定量以上含有させることで、優れた耐炭酸ガス腐食性および優れた耐硫化物応力割れ性と優れた酸環境における耐食性が得られた。また、Niを所定量以上含有させることに加え、Moの過剰な添加を抑制することで、優れた低温靭性を兼備させることができた。
【0020】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
[1] 質量%で、
C:0.06%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.01%以上1.0%以下、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:15.2%以上18.5%以下、
Mo:1.5%以上4.3%以下、
Cu:1.1%以上3.5%以下、
Ni:3.0%以上6.5%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.10%以下、
O:0.010%以下、
Sb:0.001%以上1.000%以下
を含有し、
かつC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびNが以下の式(1)を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
体積率で、30%以上のマルテンサイト相、65%以下のフェライト相、および40%以下の残留オーステナイト相を含む組織を有し、
降伏強さが758MPa以上である、ステンレス継目無鋼管。

13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦55.0‥‥(1)
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロとする。
[2] 質量%で、
C:0.06%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:0.01%以上1.0%以下、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:15.2%以上18.5%以下、
Mo:1.5%以上4.3%以下、
Cu:1.1%以上3.5%以下、
Ni:3.0%以上6.5%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.10%以下、
O:0.010%以下、
Sb:0.001%以上1.000%以下
を含有し、
かつC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびNが以下の式(1)を満足し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
体積率で、40%以上のマルテンサイト相、60%以下のフェライト相、および30%以下の残留オーステナイト相を含む組織を有し、
降伏強さが862MPa以上である、ステンレス継目無鋼管。

13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦55.0‥‥(1)
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロとする。
[3] 前記成分組成が、前記Crに代えてCr:15.2%以上18.0%以下とし、前記Niに代えてNi:3.0%以上6.0%以下とし、
前記式(1)に代えて、以下の式(1)´を満足する範囲にて含有する、[2]に記載のステンレス継目無鋼管。

13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦50.0‥‥(1)´
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロとする。
[4] 前記成分組成に加えてさらに、質量%で、下記A群~E群のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載のステンレス継目無鋼管。

A群:V:1.0%以下
B群:W:0.9%以下
C群:Nb:0.30%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種
D群:Ta:0.3%以下、Co:1.5%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.3%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
E群:Ca:0.01%以下、REM:0.3%以下、Mg:0.01%以下、Sn:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載のステンレス継目無鋼管の製造方法であって、
前記成分組成の鋼管素材を熱間加工して継目無鋼管を造管し、
ついで該継目無鋼管を850~1150℃の温度に再加熱したのち、空冷以上の冷却速度で該継目無鋼管の表面温度が50℃以下の冷却停止温度まで冷却する焼入れ処理を施し、
ついで該継目無鋼管を500~650℃の温度に加熱する焼戻処理を施す、ステンレス継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、降伏強さ:758MPa(110ksi)以上という高強度と、優れた耐食性と、優れた低温靭性とを有するステンレス継目無鋼管が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明のステンレス継目無鋼管は、質量%で、C:0.06%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.01%以上1.0%以下、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:15.2%以上18.5%以下、Mo:1.5%以上4.3%以下、Cu:1.1%以上3.5%以下、Ni:3.0%以上6.5%以下、Al:0.10%以下、N:0.10%以下、O:0.010%以下、Sb:0.001%以上1.000%以下を含有し、かつC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびNが以下の式(1)を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、体積率で、30%以上のマルテンサイト相と、65%以下のフェライト相と、40%以下の残留オーステナイト相と、を含む組織を有し、降伏強さが758MPa以上である。
【0024】

13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦55.0‥‥(1)
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロとする。
【0025】
まず、本発明のステンレス継目無鋼管の成分組成の限定理由について説明する。以下、とくに断らない限り、質量%は単に「%」で記す。
【0026】
C:0.06%以下
Cは、製鋼過程で不可避に含有される元素である。0.06%を超えてCを含有すると、耐食性が低下する。このため、C含有量は0.06%以下とする。C含有量は、好ましくは0.05%以下であり、より好ましくは0.04%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。脱炭コストを考慮すると、C含有量の好ましい下限は0.002%であり、より好ましくは0.003%以上であり、さらに好ましくは0.005%以上である。
【0027】
Si:1.0%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素である。しかしながら、1.0%を超えてSiを含有すると、熱間加工性、耐食性が低下する。このため、Si含有量は1.0%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.7%以下であり、より好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.4%以下である。脱酸効果が得られれば良いので特に下限は設けない。十分な脱酸効果を得る目的から、Si含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
【0028】
Mn:0.01%以上1.0%以下
Mnは、脱酸材および脱硫材として作用し、熱間加工性を向上させる元素である。脱酸素、脱硫の効果を得るとともに、強度を向上させるためには、Mn含有量は0.01%以上とする。一方、1.0%を超えてMnを含有しても効果が飽和する。このため、Mn含有量は0.01%以上1.0%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.8%以下であり、より好ましくは0.6%以下であり、さらに好ましくは0.4%以下である。
【0029】
P:0.05%以下
Pは、耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力割れ性を低下させる元素であり、本発明ではできるだけ低減することが好ましいが、0.05%以下であれば許容できる。このため、P含有量は0.05%以下とする。P含有量は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。
【0030】
S:0.005%以下
Sは、熱間加工性を著しく低下させ、熱間造管工程の安定操業を阻害する元素である。また、Sは、鋼中では硫化物系介在物として存在し、耐食性を低下させる。そのため、Sは、できるだけ低減することが好ましいが、0.005%以下であれば許容できる。このため、S含有量は0.005%以下とする。S含有量は、好ましくは0.004%以下であり、より好ましくは0.003%以下であり、さらに好ましくは0.002%以下である。
【0031】
Cr:15.2%以上18.5%以下
Crは、鋼管表面の保護皮膜を形成して耐食性向上に寄与する元素である。Cr含有量が15.2%未満では、所望の耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力割れ性を確保することができない。このため、15.2%以上のCrの含有を必要とする。一方、18.5%を超えるCrの含有は、フェライト分率が高くなりすぎて、所望の強度を確保できなくなる。このため、Cr含有量は15.2%以上18.5%以下とする。Cr含有量は、好ましくは15.5%以上であり、より好ましくは16.0%以上であり、さらに好ましくは16.30%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは18.0%以下であり、より好ましくは17.5%以下であり、さらに好ましくは17.0%以下である。
【0032】
Mo:1.5%以上4.3%以下
Moは、鋼管表面の保護皮膜を安定化させて、Cl-や低pHによる孔食に対する抵抗性を増加させ、これにより耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力割れ性を高める。所望の耐食性を得るためには、1.5%以上のMoを含有する必要がある。一方、4.3%超えてMoを添加すると靭性(低温靭性)が低下する。このため、Mo含有量は1.5%以上4.3%以下とする。Mo含有量は、好ましくは1.8%以上であり、より好ましくは2.0%以上であり、さらに好ましくは2.3%以上である。また、Mo含有量は、好ましくは4.0%以下であり、より好ましくは3.5%以下であり、さらに好ましくは3.0%以下である。
【0033】
Cu:1.1%以上3.5%以下
Cuは、鋼管表面の保護皮膜を強固にし、耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力割れ性を高める効果を有する。所望の強度および耐食性、特に耐炭酸ガス腐食性を得るためには、1.1%以上のCuを含有する必要がある。一方、Cuの含有量が多すぎれば鋼の熱間加工性が低下するため、Cu含有量は3.5%以下とする。このため、Cu含有量は1.1%以上3.5%以下とする。Cu含有量は、好ましくは1.8%以上であり、より好ましくは2.0%以上であり、さらに好ましくは2.3%以上である。また、Cu含有量は、好ましくは3.2%以下であり、より好ましくは3.0%以下であり、さらに好ましくは2.7%以下である。
【0034】
Ni:3.0%以上6.5%以下
Niは、固溶強化により鋼の強度を増加させるとともに、鋼の靭性(低温靭性)を向上させる。所望の靭性(低温靭性)を得るためには、3.0%以上のNiの含有が必要である。一方、6.5%を超えるNiの含有は、マルテンサイト相の安定性が低下し、強度が低下する。このため、Ni含有量は3.0%以上6.5%以下とする。Ni含有量は、好ましくは3.8%以上であり、より好ましくは4.0%以上であり、さらに好ましくは4.5%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは6.0%以下であり、より好ましくは5.5%以下であり、さらに好ましくは5.2%以下である。
【0035】
Al:0.10%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。しかしながら、0.10%を超えてAlを含有すると、耐食性が低下する。このため、Al含有量は0.10%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.07%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。脱酸効果が得られれば良いので特に下限は設けない。十分な脱酸効果を得る目的から、Al含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.01%以上であり、さらに好ましくは0.015%以上である。
【0036】
N:0.10%以下
Nは製鋼過程で不可避に含有される元素であるが、鋼の強度を高める元素でもある。しかしながら、0.10%を超えてNを含有すると、窒化物を形成して耐食性を低下させる。このため、N含有量は0.10%以下とする。N含有量は、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.07%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。N含有量の下限値は特に設けないが、極度のN含有量の低減は製鋼コストの増大を招く。そのため、N含有量は、好ましくは0.002%以上であり、より好ましくは0.003%以上であり、さらに好ましくは0.005%以上である。
【0037】
O:0.010%以下
O(酸素)は、鋼中では酸化物として存在するため、各種特性に悪影響を及ぼす。このため、本発明では、できるだけ低減することが望ましい。とくに、Oが0.010%を超えると、熱間加工性、耐食性が低下する。このため、O含有量は0.010%以下とする。
【0038】
Sb:0.001%以上1.000%以下
Sbは、耐食性、特に耐硫化物応力割れ性を向上させるため、本特許において重要な元素である。所望の耐食性を得るためには、Sbを0.001%以上含有する。一方、Sbを1.000%超えて含有させても効果が飽和する。よって、本発明では、Sb含有量を0.001%以上1.000%以下とする。また、Sb含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.01%以上であり、さらに好ましくは0.02%以上である。また、Sb含有量は、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.3%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0039】
本発明では、上記成分組成を満足すると共に、さらにC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびNが次の(1)式を満足するように含有する。
13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦55.0‥‥(1)
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロ(零)とする。
(1)式の「-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)」(以下、単に「(1)式の中央の多項式」、あるいは「中央値」とも記す)は、フェライト相の生成傾向を示す指数として求めたものである。(1)式に示された合金元素を(1)式が満足するように調整して含有すれば、マルテンサイト相とフェライト相、あるいはさらに残留オーステナイト相からなる複合組織を安定して実現することができる。なお、(1)式に記載される合金元素を含有しない場合には、(1)式の中央の多項式の値は、当該元素の含有量を零%として扱うものとする。
【0040】
上記の(1)式の中央の多項式の値が、13.0未満であると、フェライト相が少なくなり、製造時の歩留まりを低下させる。一方、上記の(1)式の中央の多項式の値が、55.0超えであると、フェライト相が体積率で65%を超え、所望の強度を確保できなくなる。このため、本発明で規定する(1)式は、下限となる左辺値を13.0とし、上限となる右辺値を55.0とする。
本発明で規定する(1)式の下限となる左辺値は、好ましくは15.0であり、より好ましくは20.0であり、さらに好ましくは23.0である。また、上記右辺値は、好ましくは50.0であり、より好ましくは45.0であり、さらに好ましくは40.0である。
すなわち、(1)式の中央の多項式の値は、13.0以上とし、55.0以下とする。好ましくは、以下の(1)´に記載のように、中央の多項式の値は、13.0以上とし50.0以下とする。より好ましくは、中央の多項式の値は、15.0以上とし、45.0以下とする。さらに好ましくは、20.0以上とし、40.0以下とする。さらに一層好ましくは、23.0以上とし、40.0以下とする。
13.0≦-5.9×(7.82+27C-0.91Si+0.21Mn-0.9Cr+Ni-1.1Mo+0.2Cu+11N)≦50.0‥‥(1)´
ここで、C、Si、Mn、Cr、Ni、Mo、Cu、およびN:各元素の含有量(質量%)であり、含有しない場合はゼロ(零)とする。
【0041】
本発明では、上記した成分組成以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
【0042】
以上の必須元素で、本発明のステンレス継目無鋼管は目的とする特性が得られる。本発明では、特性をさらに向上させることを目的として、必要に応じて、上記した基本の成分組成に加えてさらに、下記の選択元素(V、W、Nb、B、Ta、Co、Ti、Zr、Ca、REM、Mg、Sn)を1種または2種以上含有してもよい。
【0043】
具体的には、本発明では、上記した成分組成に加えて、V:1.0%以下を含有することができる。
また、本発明では、上記した成分組成に加えて、W:0.9%以下を含有することができる。
さらに、本発明では、上記した成分組成に加えて、Nb:0.30%以下、B:0.01%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することができる。
さらに、本発明では、上記した成分組成に加えて、Ta:0.3%以下、Co:1.5%以下、Ti:0.3%以下およびZr:0.3%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することができる。
さらに、本発明では、上記した成分組成に加えて、Ca:0.01%以下、REM:0.3%以下、Mg:0.01%以下およびSn:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することができる。
【0044】
V:1.0%以下
Vは、強度を増加させる元素であり、必要に応じて含有することができる。一方、1.0%を超えてVを含有させても、その効果は飽和する。このため、Vを含有する場合、V含有量は1.0%以下とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。また、V含有量は、より好ましくは0.01%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。
【0045】
W:0.9%以下
Wは、鋼の強度向上に寄与するとともに、鋼管表面の保護皮膜を安定化させて、耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力割れ性を高めることができる元素である。Wは、Moと複合して含有することにより、とくに耐食性を顕著に向上させる。Wは、上記の効果を得るため、必要に応じて含有することができる。一方、0.9%を超えてWを含有すると、靭性(低温靭性)が低下する。このため、Wを含有する場合、W含有量は0.9%以下とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは0.50%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。また、含有させる場合には、W含有量は、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.10%以上である。
【0046】
Nb:0.30%以下
Nbは、強度を増加させる元素であるとともに、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有することができる。一方、0.30%を超えてNbを含有させても、効果が飽和する。このため、Nbを含有する場合、Nb含有量は0.30%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.20%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。また、Nb含有量は、より好ましくは0.03%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。
【0047】
B:0.01%以下
Bは、強度を増加させる元素であり、必要に応じて含有することができる。また、Bは熱間加工性の改善にも寄与し、造管過程において亀裂や割れの発生が抑制する効果も有する。一方、0.01%を超えてBを含有させても、熱間加工性の改善効果がほぼ現出しなくなるだけではなく、低温靭性が低下する。このため、Bを含有する場合、B含有量は0.01%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.008%以下であり、さらに好ましくは0.007%以下である。また、B含有量は、より好ましくは0.0005%以上であり、さらに好ましくは0.001%以上である。
【0048】
Ta:0.3%以下
Taは、強度を増加させる元素であるとともに、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有することができる。このような効果を得るためには、0.001%以上のTaを含有することが好ましい。一方、Taは0.3%を超えて含有させても効果が飽和する。このため、Taを含有する場合には、Ta含有量を0.3%以下に限定することが好ましい。Ta含有量は、より好ましくは0.1%以下である。Ta含有量は、より好ましくは0.040%以下である。
【0049】
Co:1.5%以下
Coは、強度を増加させる元素であり、必要に応じて含有することができる。Coは、上記した効果に加えて、耐食性を改善する効果も有する。このような効果を得るためには、Coを0.0005%以上含有することが好ましい。より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。一方、Coは1.5%超えて含有させても効果が飽和する。このため、Coを含有する場合には、Co含有量を1.5%以下に限定することが好ましい。Co含有量は、より好ましくは1.0%以下である。
【0050】
Ti:0.3%以下
Tiは、強度を増加させる元素であり、必要に応じて含有することができる。このような効果を得るためには、Tiを0.0005%以上含有することが好ましい。一方、Tiを0.3%超えて含有すると、靭性(低温靭性)が低下する。このため、Tiを含有する場合には、Ti含有量を0.3%以下に限定することが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.1%以下であり、より好ましくは0.001%以上である。
【0051】
Zr:0.3%以下
Zrは、強度を増加させる元素であり、必要に応じて含有することができる。Zrは、上記した効果に加えて、耐硫化物応力割れ性を改善する効果も有する。このような効果を得るためには、Zrを0.0005%以上含有することが好ましい。一方、Zrは0.3%を超えて含有させても効果が飽和する。このため、Zrを含有する場合には、Zr含有量を0.3%以下に限定することが好ましい。
【0052】
Ca:0.01%以下
Caは、硫化物の形態制御を介して耐硫化物応力腐食割れ性の改善に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、Caを0.0005%以上含有することが好ましい。一方、Caは0.01%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Caを含有する場合には、Ca含有量を0.01%以下に限定することが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.007%以下であり、より好ましくは0.005%以上である。
【0053】
REM:0.3%以下
REM(希土類金属)は、硫化物の形態制御を介して耐硫化物応力腐食割れ性の改善に寄与する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、REMを0.0005%以上含有することが好ましい。一方、REMは0.3%超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、REMを含有する場合には、REM含有量を0.3%以下に限定することが好ましい。
なお、本発明でいう「REM」とは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)と原子番号39番のイットリウム(Y)及び、原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までのランタノイドである。本発明における「REM濃度」とは、上述のREMから選択された1種または2種以上の元素の総含有量である。
【0054】
Mg:0.01%以下
Mgは、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、Mgを0.0005%以上含有することが好ましい。一方、Mgは0.01%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Mgを含有する場合には、Mg含有量を0.01%以下に限定することが好ましい。
【0055】
Sn:1.0%以下
Snは、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、Snを0.001%以上含有することが好ましい。一方、Snは1.0%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Snを含有する場合には、Sn含有量を1.0%以下に限定することが好ましい。
【0056】
次に、本発明のステンレス継目無鋼管の組織の限定理由について説明する。
【0057】
本発明のステンレス継目無鋼管は、上記した成分組成を有し、体積率で、30%以上のマルテンサイト相と、65%以下のフェライト相と、40%以下の残留オーステナイト相とを含む組織を有する。
【0058】
本発明のステンレス継目無鋼管では、所望の強度を確保するために、マルテンサイト相を体積率で30%以上とする。マルテンサイト相は、好ましくは40%以上とし、より好ましくは45%以上とする。マルテンサイト相は、好ましくは70%以下とし、より好ましくは65%以下とする。
【0059】
また、本発明のステンレス継目無鋼管は、体積率で65%以下のフェライト相を含む。フェライト相を含有すると、硫化物応力腐食割れおよび硫化物応力割れの進展を抑制でき、優れた耐食性が得られる。一方、体積率で65%を超えて多量のフェライト相が析出すると、所望の強度を確保できなくなる場合がある。好ましくは、フェライト相は体積率で5%以上である。より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。また、好ましくは、フェライト相は体積率で60%以下であり、より好ましくは50%以下である。さらに好ましくは45%以下である。
【0060】
さらに、本発明のステンレス継目無鋼管は、マルテンサイト相とフェライト相に加えて、体積率で40%以下のオーステナイト相(残留オーステナイト相)を含む。残留オーステナイト相の存在により、延性、靭性(低温靭性)が向上する。一方、体積率で40%を超える多量のオーステナイト相が析出すると、所望の強度を確保できなくなる。このため、残留オーステナイト相は体積率で40%以下とする。好ましくは、残留オーステナイト相は体積率で5%以上である。また、好ましくは、残留オーステナイト相は体積率で30%以下である。残留オーステナイト相は、より好ましくは10%以上であり、より好ましくは25%以下である。
【0061】
ここで、本発明のステンレス継目無鋼管の上記の組織の測定は、次の方法で行うことができる。まず、組織観察用試験片をビレラ試薬(ピクリン酸、塩酸およびエタノールをそれぞれ2g、10mlおよび100mlの割合で混合した試薬)で腐食して走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)で組織を撮像し、画像解析装置を用いて、フェライト相の組織分率(面積率(%))を算出する。この面積率をフェライト相の体積率(%)と定義する。
【0062】
そして、X線回折用試験片を、管軸方向に直交する断面(C断面)が測定面となるように、研削および研磨し、X線回折法を用いて残留オーステナイト(γ)相の組織分率を測定する。残留オーステナイト相の組織分率は、γの(220)面、α(フェライト)の(211)面、の回折X線積分強度を測定し、次式
γ(体積率)=100/(1+(IαRγ/IγRα))
(ここで、Iα:αの積分強度、Rα:αの結晶学的理論計算値、Iγ:γの積分強度、Rγ:γの結晶学的理論計算値とする。)
を用いて換算する。
【0063】
また、上記測定方法により求めたフェライト相および残留γ相以外の残部を、マルテンサイト相の分率とする。
なお、上記の各組織の観察方法は、後述の実施例でも詳述している。
【0064】
以下に、本発明のステンレス継目無鋼管の好適な製造方法について説明する。
【0065】
上記した成分組成の溶鋼を、転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊-分塊圧延法等、通常の方法でビレット等の鋼管素材とすることが好ましい。熱間加工前の鋼管素材の加熱温度は、好ましくは1100~1350℃である。これにより、造管の際の熱間加工性と最終製品の低温靭性との両立が可能である。
ついで、得られた鋼管素材に対して、通常公知の造管方法である、マンネスマン-プラグミル方式、あるいはマンネスマン-マンドレルミル方式の造管工程を用いて、熱間加工して造管し、所望寸法の上記した組成を有する継目無鋼管とする。熱間加工後には、冷却処理を施してよい。この冷却処理(冷却工程)は、とくに限定する必要はない。上記した本発明の成分組成範囲であれば、熱間加工後、空冷程度の冷却速度で室温まで冷却することが好ましい。
【0066】
本発明では、得られた継目無鋼管に対して、さらに焼入れ処理と焼戻処理とからなる熱処理を施す。
【0067】
焼入れ処理は、加熱温度:850~1150℃の範囲の温度に再加熱したのち、空冷以上の冷却速度で冷却する処理とする。この時の冷却停止温度は、継目無鋼管の表面温度で50℃以下である。
【0068】
加熱温度(焼入れ温度)が850℃未満では、マルテンサイトからオーステナイトへの逆変態が起こらず、また冷却時にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が起こらず、所望の強度を確保できない。一方、加熱温度(焼入れ温度)が1150℃を超えて高温となると、結晶粒が粗大化する。このため、焼入れ処理の加熱温度は850~1150℃の範囲の温度とする。好ましくは、焼入れ処理の加熱温度は900℃以上である。好ましくは、焼入れ処理の加熱温度は1100℃以下である。また、冷却停止温度は50℃超えであると、オーステナイトからマルテンサイトへの変態が十分に起こらず、残留オーステナイト分率が過剰となる。そのため、本発明では、焼入れ処理における冷却での冷却停止温度は50℃以下とする。ここで、「空冷以上の冷却速度」とは、0.01℃/s以上である。
【0069】
また、焼入れ処理において、均熱時間(焼入れ時間)は、肉厚方向における温度を均一化し、材質の変動を防止するために、5~30分とすることが好ましい。
【0070】
焼戻処理は、焼入れ処理を施された継目無鋼管に、焼戻温度:500~650℃に加熱する処理とする。また、この加熱の後、放冷することができる。
【0071】
焼戻温度が500℃未満では、低温すぎて所望の焼戻効果が期待できなくなる。一方、焼戻温度が650℃を超える高温では、金属間化合物が析出し、優れた低温靭性が得られなくなる。このため、焼戻温度は500~650℃の範囲の温度とする。好ましくは、焼戻温度は520℃以上である。好ましくは、焼戻温度は630℃以下である。
【0072】
また、焼戻処理において、保持時間(焼戻時間)は、肉厚方向における温度を均一化し、材質の変動を防止するために、5~90分とすることが好ましい。
【0073】
上記した熱処理(焼入れ処理および焼戻処理)を施すことにより、継目無鋼管の組織は、所定の体積率で特定されるマルテンサイト相とフェライト相と残留オーステナイト相とを含む組織となる。これにより、所望の強度と、優れた耐食性とを有するステンレス継目無鋼管とすることができる。
【0074】
以上、本発明により得られるステンレス継目無鋼管は、降伏強さが758MPa以上となる高強度鋼管であり、優れた耐食性を有する。好ましくは、降伏強さは862MPa以上(125ksi)である。好ましくは、降伏強さは1034MPa以下である。本発明のステンレス継目無鋼管は、油井用ステンレス継目無鋼管(油井用高強度ステンレス継目無鋼管)とすることができる。
【実施例
【0075】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0076】
表1-1および表1-2に示す成分組成の溶鋼を用いて、鋼管素材を鋳造した。その後、鋼管素材を加熱し、モデルシームレス圧延機を用いる熱間加工により造管し、外径83.8mm×肉厚12.7mmの継目無鋼管とし、空冷した。このとき、熱間加工前の鋼管素材の加熱温度は1250℃とした。
【0077】
得られた継目無鋼管から、試験片素材を切り出し、表2-1および表2-2に示す焼入れ温度に再加熱し、表2-1および表2-2に示す焼入れ時間で保持し、30℃の冷却停止温度まで、冷却(水冷)する焼入れ処理を施した。そして、さらに表2-1および表2-2に示す焼戻温度に加熱し、表2-1および表2-2に示す焼戻時間で保持し、空冷する焼戻処理を施した。焼入れ処理時の水冷での冷却速度は11℃/sであり、焼戻処理時の空冷(放冷)での冷却速度は、0.04℃/sであった。なお、表1-1および表1-2の空欄は、意図的に添加しないことを表しており、含有しない(0%)の場合だけでなく、不可避的に含有する場合も含む。
【0078】
【表1-1】
【0079】
【表1-2】
【0080】
得られた熱処理済みの試験片素材(継目無鋼管)から、各試験片を採取し、組織観察、引張試験、耐食性試験およびシャルピー衝撃試験を実施した。試験方法はつぎの通りとした。
【0081】
(1)組織観察
得られた熱処理済み試験材から、管軸方向断面が観察面となるように組織観察用試験片を採取した。得られた組織観察用試験片をビレラ試薬(ピクリン酸、塩酸およびエタノールをそれぞれ2g、10mlおよび100mlの割合で混合した試薬)で腐食して走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)で組織を撮像し、画像解析装置を用いて、フェライト相の組織分率(面積率(%))を算出した。この面積率をフェライト相の体積率(%)とした。
【0082】
また、得られた熱処理済み試験材から、X線回折用試験片を採取し、管軸方向に直交する断面(C断面)が測定面となるように、研削および研磨し、X線回折法を用いて残留オーステナイト(γ)相の組織分率を測定した。残留オーステナイト相の組織分率は、γの(220)面、α(フェライト)の(211)面、の回折X線積分強度を測定し、次式
γ(体積率)=100/(1+(IαRγ/IγRα))
(ここで、Iα:αの積分強度、Rα:αの結晶学的理論計算値、Iγ:γの積分強度、Rγ:γの結晶学的理論計算値とする。)
を用いて換算した。なお、マルテンサイト相の分率は、フェライト相および、残留γ相以外の残部である。
【0083】
(2)引張試験
得られた熱処理済み試験材から、管軸方向が引張方向となるように、API(American PetroleumInstitute)弧状引張試験片を採取し、APIの規定に準拠して、引張試験を実施し引張特性(降伏強さYS)を求めた。ここでは、降伏強さYSが758MPa以上のものを高強度であるとして合格とし、758MPa未満のものは不合格とした。
【0084】
(3)耐食性試験(耐炭酸ガス腐食性試験および耐硫化物応力割れ試験)
得られた熱処理済み試験材から、厚さ3mm×幅30mm×長さ40mmの腐食試験片を機械加工によって作製した。腐食試験片を用いて、腐食試験を実施し、耐炭酸ガス腐食性を評価した。
【0085】
耐炭酸ガス腐食性を評価する腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:20質量%NaCl水溶液(液温:200℃、30気圧のCOガス雰囲気)中に、上記腐食試験片を浸漬し、浸漬期間を14日間(336時間)として実施した。試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から計算した腐食速度を求めた。ここでは、腐食速度が0.127mm/y以下のものを合格とし、0.127mm/y超えのものを不合格とした。
また、酸環境における耐食性を評価する腐食試験は、80℃に加熱した15質量%塩酸溶液中に試験片を浸漬し、浸漬時間を40分として実施した。試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から計算した腐食速度を求めた。ここでは、腐食速度が600mm/y以下であるものを合格とし、600mm/y超えのものを不合格とした。
【0086】
さらに、得られた試験片素材から、丸棒状の試験片(直径:3.81mm)を機械加工によって作製し、耐硫化物応力割れ試験(耐SSC(Sulfide Stress Cracking)試験)を
実施した。
【0087】
耐SSC試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:0.165質量%NaCl水溶液(液温:25℃、0.99気圧のCOガス、0.01気圧のHS雰囲気)に、酢酸+酢酸ナトリウムを加えてpH:3.0に調整した水溶液中に試験片を浸漬し、降伏応力の100%と80%の間において、1×10-6の歪み速度による応力増加と5×10-6の歪み速度による応力減少とを1週間の間繰返す試験(RLT試験)を実施した。試験後の試験片について割れの有無を観察した。ここでは、割れ無のものを合格(表2-1および表2-2において記号「○」で示す。)とし、割れ有のものを不合格(表2-1および表2-2において記号「×」で示す。)とした。
【0088】
(4)シャルピー衝撃試験
JIS Z 2242の規定に準拠して、試験片長手方向が管軸方向となるように、Vノッチ試験片(10mm厚)を採取してシャルピー衝撃試験を実施した。ここでは、試験温度:-40℃における吸収エネルギーvE-40が200J以上である場合を合格とした。
【0089】
得られた結果を表2-1および表2-2に示す。
【0090】
【表2-1】
【0091】
【表2-2】
【0092】
表2-1および表2-2に示すように、本発明例は、いずれも、降伏強さYS:758MPa以上の高強度と、CO、Clを含む200℃という高温の腐食環境下における耐食性(耐炭酸ガス腐食性)と、耐硫化物応力割れ性と、低温靭性とに優れたステンレス継目無鋼管であった。