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特許7156541接合継手、自動車用部材、及び接合継手の製造方法
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  • 特許-接合継手、自動車用部材、及び接合継手の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】接合継手、自動車用部材、及び接合継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
B23K20/12 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021540768
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 JP2020030906
(87)【国際公開番号】W WO2021033647
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019150448
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】松井 翔
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
(72)【発明者】
【氏名】吉永 千智
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022184(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/011862(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110531(WO,A1)
【文献】特開昭63-060081(JP,A)
【文献】特開2002-294404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部を有する第1の鋼材と、
表面から0.2mm以上内側の炭素量が0.25質量%以上であり、前記軸部が圧入された第2の鋼材と、
前記軸部と前記第2の鋼材とを接合する摩擦圧接面と
を備え、
前記第2の鋼材は、前記摩擦圧接面に接する塑性変形部を有し、
前記塑性変形部は、前記第2の鋼材の外部に向けて突出する突出部を有し、
前記摩擦圧接面に垂直であり、且つ前記摩擦圧接面の中心を含む面において測定される、前記突出部の基部のビッカース硬さが600HV以下であり、
前記第2の鋼材が、前記表面から0.2mm以上内側の炭素量をC(質量%)とするとき、ビッカース硬さが896C 3 -2232C 2 +2175C+138(HV)以上の硬質部を前記摩擦圧接面の深さ方向近傍に有す
ことを特徴とする接合継手。
【請求項2】
前記軸部の、軸方向に垂直な断面が、回転対称形状であることを特徴とする請求項1に記載の接合継手。
【請求項3】
前記軸部の、軸方向に垂直な断面が、円状又は正多角形状であることを特徴とする請求項1に記載の接合継手。
【請求項4】
前記第2の鋼材の表面から45μmの深さまでの領域における炭素量の最大値が0.25質量%未満であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項5】
前記第2の鋼材の表層のビッカース硬さが、内部のビッカース硬さより15%以上低いことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項6】
前記第2の鋼材が鋼板であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項7】
前記第1の鋼材が、前記軸部よりも断面径が大きい頭部を有し、
前記接合継手は、前記頭部と前記第2の鋼材との間に設けられた第3の部材をさらに備え、
前記第1の鋼材の前記軸部は、前記第3の部材を貫通し、
前記第3の部材は、前記第1の鋼材の前記頭部と、前記第2の鋼材の接合面とによって挟持されている
ことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の接合継手。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の接合継手を有する自動車用部材。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の接合継手の製造方法であって、
表面から0.2mm以上内側の炭素量が0.25質量%以上である第2の鋼材の表層を脱炭処理する工程と、
脱炭処理された前記第2の鋼材に、第1の鋼材の軸部を、前記第1の鋼材を回転させながら押し付けて、摩擦圧接面を形成する工程と、
を備える接合継手の製造方法。
【請求項10】
前記第1の鋼材が、前記軸部よりも断面径が大きい頭部を有し、
前記接合継手の製造方法が、前記摩擦圧接面の形成の前に、さらに、
脱炭処理された前記第2の鋼材に、第3の部材を重ねる工程と、
前記第3の部材に、前記第1の鋼材の前記軸部を貫通させる工程と、
を備えることを特徴とする請求項に記載の接合継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合継手、自動車用部材、及び接合継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材を接合して接合継手を製造する方法の一つとして、摩擦圧接接合が知られている。摩擦圧接接合とは、部材同士を摩擦しながら加圧することにより、部材同士を固相接合する技術である。部材同士の摩擦は、例えば、一方の部材の圧接面を回転対称形状(例えば円状又は多角形形状)とし、これを高速回転させることにより行われる。
【0003】
摩擦圧接接合の特徴のひとつは、接合部において部材の溶融又は撹拌が生じない点にある。溶接は、部材を溶融及び再凝固させることにより接合部を形成する接合方法である。摩擦撹拌接合は、圧入部材を高速回転させて部材同士の接触部を撹拌することにより接合部を形成する接合方法である。従って、溶接又は摩擦撹拌接合によって形成された接合継手の接合部では、部材が混じり合っている。一方、摩擦圧接接合によって形成された接合継手では、部材が混じり合った領域は存在しないか、又は極めて小さい。摩擦圧接接合によって形成された接合継手の接合部の断面を観察すると、摩擦圧接面を介して部材が分かれている様子が判別できる。例えば特許文献1及び特許文献2等に、摩擦圧接接合の方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-297398号公報
【文献】特開2004-141933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩擦圧接接合は、異種金属部材を容易に接合することができるので、近年その適用範囲が広がりつつある。一方、本発明者らは、摩擦圧接接合を高炭素鋼部材に適用した場合に、接合強度が確保し難い現象を見出した。本発明者らの検討の結果、鋼部材の摩擦圧接接合部に亀裂が生じやすく、この亀裂が接合強度を低下させていることを見出した。
【0006】
ここで着目すべきは、上述の亀裂が、摩擦圧接接合の終了後になんら外力が加えられなかった接合継手に発生していた点にある。この亀裂は、接合継手に加えられた外力に惹起されたものではなく、自然発生していたものと推定された。このような亀裂の問題について検討された例は存在しない。
【0007】
例えば、上述した特許文献1においては、鋼材からなる部材を摩擦圧接接合した部品の接合部の表面を振動数10~60kHz、振幅0.3~50μmで振動する超音波振動端子で打撃して、前記接合部における段差およびバリを低減することにより該接合部における応力集中を緩和する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1は耐疲労特性に優れた摩擦圧接接合部品およびその疲労特性向上方法に関するものであり、バリを起点とした疲労破壊の抑制しか考慮されていない。即ち、疲労破壊を惹起するような応力が接合継手に印加される前の亀裂発生については、特許文献1では何ら検討されていない。
【0008】
特許文献2においては、薄肉パイプと厚肉パイプを同軸配置し、それらの端面を当接させて相対回転することにより生じる摩擦熱にて両端面を圧接するプロペラシャフトの摩擦圧接方法において、薄肉パイプの内径を厚肉パイプの内径より小径にすることを特徴とするプロペラシャフトの摩擦圧接方法が開示されている。しかしながら、特許文献2も疲労破壊を発明の課題とするものであり、バリを起点とした疲労破壊の抑制しか考慮されていない。
【0009】
上記の事情に鑑みて、本発明は、摩擦圧接面の近傍における亀裂発生を抑制可能な接合継手、自動車用部材、及び接合継手の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)軸部を有する第1の鋼材と、表面から0.2mm以上内側の炭素量が0.25質量%以上であり、前記軸部が圧入された第2の鋼材と、前記軸部と前記第2の鋼材とを接合する摩擦圧接面とを備え、前記第2の鋼材は、前記摩擦圧接面に接する塑性変形部を有し、前記塑性変形部は、前記第2の鋼材の外部に向けて突出する突出部を有し、前記摩擦圧接面に垂直であり、且つ前記摩擦圧接面の中心を含む面において測定される、前記突出部の基部のビッカース硬さが600HV以下であることを特徴とする接合継手。
【0012】
(2)前記軸部の、軸方向に垂直な断面が、回転対称形状であることを特徴とする前記(1)の接合継手。
【0013】
(3)前記軸部の、軸方向に垂直な断面が、円状又は正多角形状であることを特徴とする前記(1)の接合継手。
【0014】
(4)前記第2の鋼材が、前記表面から0.2mm以上内側の炭素量をC(質量%)とするとき、ビッカース硬さが896C3-2232C2+2175C+138(HV)以上の硬質部を前記摩擦圧接面の深さ方向近傍に有することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかの接合継手。
【0015】
(5)前記第2の鋼材の表面から45μmの深さまでの領域における炭素量の最大値が0.25質量%未満であることを特徴とする前記(1)~(4)のいずれかの接合継手。
【0016】
(6)前記第2の鋼材の表層のビッカース硬さが、内部のビッカース硬さより15%以上低いことを特徴とする前記(1)~(5)のいずれかの接合継手。
【0017】
(7)前記第2の鋼材が鋼板であることを特徴とする前記(1)~(6)のいずれかの接合継手。
【0018】
(8)前記第1の鋼材が、前記軸部よりも断面径が大きい頭部を有し、前記接合継手は、前記頭部と前記第2の鋼材との間に設けられた第3の部材をさらに備え、前記第1の鋼材の前記軸部は、前記第3の部材を貫通し、前記第3の部材は、前記第1の鋼材の前記頭部と、前記第2の鋼材の接合面とによって挟持されていることを特徴とする前記(1)~(7)のいずれかの接合継手。
【0019】
(9)前記(1)~(8)のいずれかの接合継手を有する自動車用部材。
【0020】
(10)表面から0.2mm以上内側の炭素量が0.25質量%以上である第2の鋼材の表層を脱炭処理する工程と、脱炭処理された前記第2の鋼材に、第1の鋼材の軸部を、前記第1の鋼材を回転させながら押し付けて、摩擦圧接面を形成する工程と、を備える接合継手の製造方法。
【0021】
(11)前記第1の鋼材が、前記軸部よりも断面径が大きい頭部を有し、前記接合継手の製造方法が、前記摩擦圧接面の形成の前に、さらに、脱炭処理された前記第2の鋼材に、第3の部材を重ねる工程と、前記第3の部材に、前記第1の鋼材の前記軸部を貫通させる工程と、を備えることを特徴とする前記(10)の接合継手の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、摩擦圧接面の近傍における亀裂発生を抑制可能な継手、自動車用部材、及び継手の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る接合継手の一例の断面図である。
図2】接合継手の突出部付近の拡大断面図である。
図3】本実施形態に係る接合継手の別の例の断面図である。
図4】突出部の基部の硬さ測定方法を説明する図である。
図5】第1の鋼材の軸部が中空構造の場合の摩擦圧接面の近傍における硬質部の検出方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
亀裂状欠陥について、図1及び図2を挙げながら詳細に説明する。図1は、軸部111を有する第1の鋼材11と、表面よりも0.2mm以上内側の炭素量が0.25質量%以上であり、軸部111が圧入された第2の鋼材12と、軸部111と前記第2の鋼材12とを接合する摩擦圧接面13とを含む接合継手1の断面概略図である。図2は、摩擦圧接面13の拡大断面図である。第2の鋼材12は、第1の鋼材11の軸部111が圧入されることによって摩擦圧接面13に接して形成された塑性変形部14を有する。塑性変形部14は、第2の鋼材12の外部に向けて突出する突出部141を有する。
【0025】
本発明者らが種々の接合継手の断面を観察した結果、亀裂状欠陥は、突出部141の基部を起点として生じることがわかった。図2に、亀裂状欠陥2を一点鎖線で示す。
【0026】
本発明者らは、突出部141の基部において水素脆化が生じている可能性があると考えた。そこで、突出部141の基部及びその周辺の硬さを測定したところ、突出部141の基部が非常に高硬度であることがわかった。通常、水素脆化は、鋼の強度が高いほど生じやすいとされている。上述の硬度測定結果は、突出部141の基部における亀裂が水素脆化に起因するという推測を裏付けるものであった。
【0027】
そして本発明者らは、突出部141の基部におけるビッカース硬さを600HV以下にすることによって、突出部141の基部における亀裂発生を抑制可能であることを知見して、本発明を完成するに至った。
【0028】
本発明の一態様に係る接合継手1は、軸部111を有する第1の鋼材11と、表面よりも0.2mm以上内側の炭素量が0.25質量%以上であり、軸部111が圧入された第2の鋼材12と、軸部111と第2の鋼材12とを接合する摩擦圧接面13とを備え、第2の鋼材12は、摩擦圧接面13に接する塑性変形部14を有し、塑性変形部14は、第2の鋼材12の外部に向けて突出する突出部141を有し、摩擦圧接面13に垂直であり、且つ摩擦圧接面13の中心を含む面において測定される、突出部141の基部のビッカース硬さが600HV以下である。以下、本実施形態に係る接合継手について詳細に説明する。
【0029】
(第1の鋼材11)
第1の鋼材11は、第2の鋼材12と接合される軸部111を有する。軸部111は、第2の鋼材12と摩擦圧接接合されることが可能な形状を有する。例えば、摩擦圧接接合が、第1の鋼材11を高速回転させながらその軸部111を第2の鋼材12に押し付けることよって実施される場合、軸部111の、軸方向に垂直な断面の外形は、回転対称形状、例えば円状(真円状、楕円状等)又は正多角形状であることが好ましい。また、軸部111は中空構造(例えば円筒状構造等)でも、中実構造であってもよい。軸部111が中空構造である場合の、軸部111の軸方向に垂直な断面の内形は回転対称形状、例えば円状(真円状、楕円状等)又は正多角形状であることが好ましい。
【0030】
なお、軸部111は、第2の鋼材12に圧入され、この際に塑性変形する場合がある。従って接合継手1では、軸部111の先端(塑性変形部14の近傍)が塑性変形部となっている場合がある。本実施形態では、この軸部111の塑性変形部も、軸部111に含まれるものとみなす。軸部111の先端が塑性変形部である場合、その一部が円柱状又は正多角形柱状である軸部111は、上述の好ましい軸部111であるとみなす。
【0031】
第1の鋼材11は、さらに、軸部111よりも断面径(つまり軸方向に垂直な断面における最大の幅)が大きい頭部112を備えてもよい。頭部112は、後述する第3の部材15を固定する働きを有する。この場合、第1の鋼材11はリベット形状であってもよい。頭部112の直径は、軸部111の直径の1.5倍以上であることが好ましい。また、軸部111の軸方向の長さは、第3の部材15の厚さの1.5倍以上であることが好ましい。軸部111の直径は、例えば30mm未満とすることが好ましい。なお、軸部111及び頭部112の直径とは、これらの断面形状が真円形である場合はその直径を意味し、真円以外の円形又は多角形である場合はその外接円の直径を意味する。軸部が円筒の場合は、軸部111及び頭部112の直径とはその外径を意味する。一方、接合継手1が第3の部材15を含まなくてもよいし、第1の鋼材11が軸部111のみからなる棒状部材であってもよい。
【0032】
(第2の鋼材12)
第2の鋼材12は、表面から0.2mm以上内側において0.25質量%以上の炭素(C)を含有する。そのため、第2の鋼材12を含む接合継手1は高強度を有し、種々の機械部品に適用可能である。第2の鋼材12の炭素含有量を0.27質量%以上、0.29質量%以上、0.30質量%以上、0.32質量%以上、又は0.35質量%以上としてもよい。第2の鋼材12の炭素含有量の上限値は特に限定されないが、例えば0.60質量%以下、0.55質量%以下、0.50質量%以下、又は0.45質量%以下としてもよい。
【0033】
第2の鋼材12には、第1の鋼材11の軸部111が圧入される。そのため、第2の鋼材12における軸部111の圧入箇所には凹状の塑性変形部14が形成され、塑性変形部14の外周では、凹部から移動した鋼が突出する。凹部の形状は、圧入前の軸部111の先端形状に応じて決定される。例えば圧入前の軸部111の先端が円錐状又は角錐状であれば、圧入後の凹部の断面形状は円形となる。一方、圧入前の軸部111の先端が平坦であれば、圧入後の凹部の断面形状は、その底部が比較的平坦なものとなる。いずれにせよ、凹部の形状は特に限定されない。
【0034】
第2の鋼材12の形状は特に限定されない。例えば、第2の鋼材12が鋼板であってもよく、丸鋼棒や角鋼棒であってもよい。また、第2の鋼材12がめっき鋼材及び塗装鋼材などの表面処理鋼材であってもよい。なお、第2の鋼材12には第1の鋼材11の軸部111が圧入されるので、摩擦圧接接合の際には、第2の鋼材12の当接面(第1の鋼材11と当接される面)の面積が、第1の鋼材11の当接面(第2の鋼材12と当接される面)の面積よりも大きいことが通常である。
【0035】
(摩擦圧接面13)
摩擦圧接面13は、第1の鋼材11の軸部111と、第2の鋼材12との界面であり、接合部の断面観察によって明瞭に確認することができる。摩擦圧接面においては、原子間引力によって材料が強固に接合されていると言われている。これは、摩擦圧接の際に、摩擦熱によって軟化して変形抵抗が低下した2つの材料において、原子間距離が接近したからであるとされる。従って、摩擦圧接面13は、軸部111と第2の鋼材12とを接合するものであるといえる。上述したように、摩擦圧接面13の形状は圧接前の第1の鋼材11の軸部の先端形状に応じて決定され、特に限定されない。
【0036】
(塑性変形部14)
塑性変形部14は、圧接時に生じる第2の鋼材12の塑性変形によって形成される。なお、軸部111の先端も塑性変形していることが多い。しかしながら、軸部111の先端の塑性変形部は、摩擦圧接面13を介して第2の鋼材12の塑性変形部14と明瞭に区別される。
【0037】
(突出部141)
塑性変形部14の突出部141は、軸部111の圧入によって第2の鋼材12に形成された凹部から押し出された鋼によって形成されたものである。そのため、塑性変形部14の突出部141は、凹部の周囲(即ち、摩擦圧接面13の周囲)に、第2の鋼材12から放射状に突出するように形成される。
【0038】
通常の接合継手において、突出部141の基部は、摩擦圧接の後に発生する亀裂の起点となる個所である。通常の接合継手において突出部141の基部が亀裂発生の起点として働く原因は、以下の2点にあると考えられる。
【0039】
まず、突出部141の基部は、応力が集中しやすい箇所である。摩擦圧接の際の温度変化によって生じる部材の膨張及び収縮は、部材に歪みを生じさせるが、この歪みによる応力が摩擦圧接後に突出部141の基部に集中すると考えられる。
【0040】
また、突出部141の基部は、摩擦圧接の際の摩擦熱によって一旦高温となり、次いで急冷される箇所である。このような熱履歴を経ることにより、通常の接合継手において、突出部141の基部は少なくとも一部が焼入れされる。さらに、第2の鋼材12は、その表面よりも0.2mm以上内側の炭素量が0.25質量%以上であり、焼入れ性が非常に高い。そのため、通常の接合継手において、突出部141の基部は摩擦圧接によって高硬度化される。高硬度を有する鋼材は水素脆化感受性が非常に高く、そのため、通常の接合継手の突出部141の基部では水素脆化が生じていると推定される。なお、本発明者らが接合継手の亀裂を調査したところ、突出部141の基部における亀裂は結晶粒界に沿って進展していた。これは、亀裂の原因が水素脆化である可能性を示唆している。溶接の技術分野においては、拡散性水素に起因する低温割れが問題となることがあるが、摩擦圧接接合の際に形成された突出部141の基部においても、低温割れと同様の機構で水素脆化割れが生じている可能性がある。
【0041】
本実施形態に係る接合継手では、水素脆化を回避するために、突出部141の基部におけるビッカース硬さは600HV以下と規定される。鋼材の水素脆化感受性と、鋼材の硬度とは、正の相関関係がある。従って、突出部141の基部の硬度を低下させることにより、突出部141の基部の水素脆化感受性を低下させ、亀裂発生を抑制することができる。突出部141の基部のビッカース硬さは小さいほど好ましく、例えば590HV以下、580HV以下、560HV以下、又は550HV以下としてもよい。突出部141の基部のビッカース硬さの下限値は特に限定されない。一方、第2の鋼材の内部のビッカース硬さは、接合部を含む部材の強度を向上させるために、高くされることが望ましい。即ち、第2の鋼材の内部と表層とで、硬さの差を大きくすることが好ましい。例えば、第2の鋼材12の表層のビッカース硬さが、内部のビッカース硬さより15%以上、17%以上、又は20%以上低くてもよい。
【0042】
突出部141の基部のビッカース硬さを減少させる手段は特に限定されない。例えば、摩擦圧接接合の終了直後に接合継手に焼戻しを施してもよい。この場合、塑性変形部14、及び突出部141の基部を含む第2の鋼材12全体のビッカース硬さが600HV以下とされる。ただし、接合継手全体を焼戻すことによって突出部141の基部における亀裂発生を防止するためには、亀裂発生よりも前にビッカース硬さを低下させる必要があるため、焼戻しを摩擦圧接接合の終了直後に実施する必要があると考えられ、接合継手の製造設備が極めて大型化、複雑化することとなる。また、摩擦圧接接合の終了直後に接合継手全体を焼戻してしまうと、摩擦圧接接合の熱影響を受けていない母材部も焼戻されることとなり、母材の特性が広い領域で損なわれ、好ましくない。
【0043】
本発明者らが知見した、突出部141の基部のビッカース硬さを減少させる好適な手段の一例は、第2の鋼材12の表面脱炭である。摩擦圧接接合に供される前の第2の鋼材12に脱炭処理を行うと、第2の鋼材12の表層が脱炭され、軟質化される。次いで、軸部111と表面脱炭された第2の鋼材12とを摩擦圧接接合すると、第2の鋼材12に、突出部141を有する塑性変形部14が形成される。この突出部141の基部は、第2の鋼材12の主に脱炭層の塑性変形によって形成されたものである。従って、塑性変形部14の突出部141の基部は、脱炭された焼入れ性が低い鋼から構成されるものとなり、摩擦圧接接合の際の摩擦熱による硬度上昇が抑制され、そのビッカース硬さが600HV以下となる。
【0044】
第2の鋼材12の脱炭処理によって突出部141の基部が軟化された接合継手1の第2の鋼材12は、(摩擦圧接接合後に接合継手1全体が熱処理されない限り)脱炭されており摩擦熱による焼入れ硬化が小さい軟質部に加えて、脱炭されておらず摩擦熱による焼入れ硬化が大きい硬質部を有することとなる。具体的には、脱炭処理によって突出部141の基部が軟化された接合継手1の第2の鋼材12は、表面から0.2mm以上内側の炭素量をC(質量%)としたとき、ビッカース硬さが896C3-2232C2+2175C+138(HV)以上の部位を摩擦圧接面13の深さ方向近傍に有する。何故なら、摩擦圧接面13の深さ方向近傍においては、脱炭層が塑性変形によって除去された状態(即ち脱炭処理の影響を受けない状態)で摩擦熱による焼入れを受ける部分も必然的に存在するからである。例えば、少なくとも摩擦圧接面13の中心付近では、脱炭層はほぼ存在しないと推定される。また、硬質部を有するということは摩擦圧接接合後に接合継手1全体が焼戻しされていないことを示す。
【0045】
摩擦圧接する前に第2の鋼材を脱炭処理することによって、接合継手の突出部141の基部は、その炭素量が第2の鋼材の内部の炭素量に比べて低くなるので、軟化する。この場合、第2の鋼材の表面から45μmの深さまでの領域(この領域を本明細書において「表層」と称す)における炭素量の最大値が0.25質量%未満となるように脱炭することが好ましい。即ち、摩擦圧接後、接合継手における第2の鋼材12の、摩擦圧接面から離れた位置では、表面から45μmの深さまでの領域における炭素量の最大値が0.25質量%未満となることが好ましい。これは、第2の鋼材12の内部と表層とで炭素量の差を大きくすべきである旨を意味する。第2の鋼材12の内部を高炭素量にすることで、接合継手1の強度が一層向上する。従って、第2の鋼材12の内部と表層とで炭素量の差を大きくすることにより、継手強度の向上と、亀裂発生の抑制との両方を達成することができる。第2の鋼材12の表面から45μmの深さまでの領域における炭素量の最大値が、0.22質量%以下、0.20質量%以下、又は0.15質量%以下でもよい。
【0046】
接合継手1は、上述した部材に加えて、第3の部材15を備えてもよい。例えば図3に示されるように、第1の鋼材11を、リベットのような軸部111と頭部112とを有する形状とし、第3の部材15に軸部111を貫通させ、第3の部材15を頭部112及び第2の鋼材12の接合面(第1の鋼材11と摩擦圧接される面)によって挟持してもよい。この場合、第2の鋼材12及び第3の部材15が、第1の鋼材11を用いて緊密に接合されるので好ましい。接合継手1が、さらに別の部材を有することも妨げられない。
【0047】
第3の部材15の形状は特に限定されない。例えば、第2の鋼材12及び第3の部材15の両方を板とすると、本実施形態に係る接合継手1を、板を接合して形成される機械部品(例えば自動車用部材)に適用することが可能となり好ましい。第3の部材15は、複数枚の板部材であってもよい。
【0048】
第3の部材15は、軸部111が挿通される穴を有することとなる。穴は、軸部111を挿通させる前に予め第3の部材15に設けられていてもよく、高速回転する軸部111を第3の部材15に押し付けることにより形成されてもよい。穴の形状は特に限定されない。頭部112を用いて第3の部材15を固定するためには、貫通孔の直径を頭部112の直径より小さくすることがよい。
【0049】
突出部141の基部のビッカース硬さの測定方法は以下の通りである。接合継手1を、摩擦圧接面13に垂直であり且つ摩擦圧接面13の中心を含む面、言い換えると軸部111の軸方向に平行であり且つ軸部111の中心軸を含む面において切断する。この切断面を顕微鏡で観察し、突出部141の基部を特定する。突出部141の基部は、突出部141の外縁と、第2の鋼材12の表面との交点、及びその近傍である。そして、第2の鋼材12における突出部141の基部の4箇所で、測定荷重を25gfとしてビッカース硬さ測定を実施し、その平均値を算出することで突出部141の基部のビッカース硬さを得る。第2の鋼材12における突出部141の基部の4箇所とは、図4に示されるように
(A)第2の鋼材12の表面に沿った仮想線a
(B)仮想線aに並行であって、第2の鋼材12の表面から0.05mm離れた仮想線b
(C)仮想線aに垂直であって、突出部141の基部における前記交点から0.01mm離れた仮想線c、及び
(D)仮想線aに垂直であって、突出部141の基部における前記交点から0.06mm離れた仮想線d
によって形成される、一辺の長さが0.05mmの正方形の四つの頂点である。
【0050】
第2の鋼材における表面から0.2mm以上内側の炭素量は、第2の鋼材の表面を0.2mm以上、鑢などを用いて削り取った後に、鋼板成分を分析することで得ることができる。また、鋼板表層の炭素量、つまり表面から45μmの深さまでの領域における炭素量の最大値はグロー放電発光分光分析により、鋼板表面から深さ方向の炭素量分布を分析することにより得ることができる。
【0051】
第2の鋼材12の表層及び内部のビッカース硬さの測定方法は以下の通りである。第2の鋼材12を、その表面に垂直に切断する。この切断面における、鋼材の表面から深さ0.02mmの5箇所で、測定荷重を25gfとしてビッカース硬さ測定を実施し、その平均値を算出することで、第2の鋼材12の表層のビッカース硬さを得る。また、この切断面における、鋼材の表面から深さ0.2mmの5箇所で、測定荷重を25gfとしてビッカース硬さ測定を実施し、その平均値を算出することで、第2の鋼材12の内部のビッカース硬さを得る。第2の鋼材12の表層および内部のビッカース硬さは、接合後の接合部近傍における、摩擦圧接接合による焼入れや焼戻しといった熱の影響を受けていない箇所において測定することができる。
【0052】
摩擦圧接面の深さ方向近傍における硬質部の検出方法の一例は以下の通りである。接合継手1を、摩擦圧接面13に垂直であり且つ摩擦圧接面13の中心を含む面(言い換えると軸部111の軸方向に平行であり且つ軸部111の中心軸を含む面)において切断する。次に摩擦圧接面13の中心を通り且つ摩擦圧接面13に垂直な方向(言い換えると軸部111の中心軸を通り且つ軸部111の軸方向に平行な方向)に沿って、測定荷重を100gfとして、切断面のビッカース硬さを連続的に測定する。連続測定において、ビッカース硬さが896C3-2232C2+2175C+138(HV)以上(なお第2の鋼材の表面から0.2mm以上内側の炭素量をC(質量%)とする)となる測定値が認められた場合、硬質部が存在すると判断する。測定間隔は、例えば30~100μmの範囲内とすればよい。測定間隔が狭すぎると、ある点における硬さ測定結果が他の点の測定において形成された圧痕の影響を受けることとなり、測定精度が損なわれる。一方、測定間隔が広すぎると、硬質部が検出できない場合がある。なお、測定箇所は上述に限られない。硬質部が最も生じやすいと考えられる箇所を上記測定方法の説明で例示したが、接合部の別の箇所において硬質部が検出された場合も、その接合継手は硬質部を有するものと判断される。また、接合後に接合部全体を焼入れした場合、摩擦圧接面13の深さ方向近傍における硬質部と第2の鋼材12とが一体化することがある。この場合も、その接合継手1が硬質部を有するものと判断される。第2の鋼材12の表層が脱炭されている場合は、接合部全体を焼入れした場合においても、突出部141の基部は脱炭された鋼から構成されるのでビッカース硬さが600HV以下となる。
【0053】
硬質部の検出方法に関し、第1の鋼材11の軸部111が中空構造の場合について、図5を用いて説明する。まず、摩擦圧接面13に垂直であり(言い換えると軸部111の軸方向に平行であり)且つ軸部111の中心軸を含む面において接合継手1を切断し、切断面で観察される2箇所の摩擦圧接部の内どちらか片方の中心を通り摩擦圧接面に垂直な方向(言い換えると軸部111の軸方向に平行な方向)に沿って(図5のH)、軸部が中実構造の場合と同様に、測定荷重を100gfとして、切断面のビッカース硬さを第二の鋼材の深さ方向に連続的に測定する。
【0054】
次に、本発明の別の態様に係る自動車用部材について以下に説明する。本実施形態に係る自動車用部材は、本実施形態に係る接合継手を有する。これにより、本実施形態に係る自動車用部材は、高強度を有するとともに、その接合部の摩擦圧接面の近傍における亀裂発生を抑制可能である。
【0055】
次に、本発明の別の態様に係る接合継手の製造方法について以下に説明する。本実施形態に係る接合継手の製造方法は、表面から0.2mm以上内側における炭素量が0.25質量%以上である第2の鋼材の表層を脱炭処理する工程と、脱炭処理された第2の鋼材に、第1の鋼材の軸部を、第1の鋼材を回転させながら押し付けて、摩擦圧接面を形成する工程と、を備える。
【0056】
(脱炭処理)
まず、表面から0.2mm以上内側における炭素量が0.25質量%以上である第2の鋼材の表層を脱炭処理する。脱炭処理の条件は特に限定されず、第1の鋼材による第2の鋼材の表層の塑性変形量などに応じて適宜選択すればよい。例えば、露点-10℃、及び温度750℃の環境で鋼材を10分保持後、これを空冷する脱炭処理条件とすることが好ましい。また、接合継手の用途に応じて、第2の鋼材内部の組織制御が必要な場合、脱炭処理後に熱処理等による組織制御を行えば、表層の炭素量が低い状態で、所望の内部組織を得ることができる。また、脱炭が生じる温度域や雰囲気で組織制御することにより、所望の内部組織制御と脱炭を同時に行ってもよい。
【0057】
(摩擦圧接接合)
次に、脱炭処理された第2の鋼材に、第1の鋼材の軸部を、第1の鋼材を回転(通常は第1の鋼材の軸部の中心軸を中心にして回転)させながら押し付けて、摩擦圧接面を形成する。脱炭層を有する第2の鋼材に摩擦圧接接合を行うことにより、摩擦圧接接合によって形成される突出部の基部の炭素量を減少させ、基部の焼入れ性を低下させる。摩擦圧接接合の条件は特に限定されず、第1の鋼材及び第2の鋼材の形状等に応じて適宜選択すればよい。例えば、直径30mm未満の軸部111の回転を利用して摩擦圧接接合を行う場合、軸部111の回転数を1000~8000rpmとし、軸部111を第2の鋼材12に押し付ける際の加圧力を5kN以上とすればよい。
軸部111の回転を利用して摩擦圧接接合を行う場合、摩擦圧接接合の前の軸部111の先端の形状は、例えば円錐形状、角錐形状、又は部分球形状とすることが好ましい。軸部111の先端の頂点は、軸部111の中心軸上にあることが好ましい。
【0058】
接合継手の製造方法がさらに、摩擦圧接面の形成の前に、脱炭処理された第2の鋼材に第3の部材を重ねる工程と、第3の部材に第1の鋼材の軸部を貫通させる工程と、を備えてもよい。第1の鋼材は、軸部よりも断面径(つまり軸方向に垂直な断面における最大の幅)が大きい頭部を有するものとすればよい。これにより、第1の鋼材の頭部及び第2の鋼材の接合面によって第3の鋼材が挟持される構成を有する接合継手1を製造可能である。
【0059】
第3の部材15に軸部111を貫通させる手段は特に限定されない。例えば、第3の部材15の硬さが軸部111よりも大幅に軟質である場合、軸部111を高速回転させながら第3の部材15に押し付けることにより、第3の部材15を容易に貫通することができる。例えば、第1の鋼材11が高強度鋼材であり、第3の部材15が軽金属や板厚の薄い軟鋼である場合に、上述の貫通手段を利用可能である。上述の貫通手段は、貫通及び摩擦圧接接合を連続的に実施することができるので、接合作業効率上好ましい。
【0060】
一方、第3の部材15に予め貫通孔を設け、軸部111を貫通孔に挿通させてもよい。貫通孔の直径は、軸部111の直径より大きいことが好ましい。ただし、材質及び軸部111の回転数などを適切に選定すれば、たとえ貫通孔の直径が軸部111の直径より小さくとも、軸部111を第3の部材15に貫通させることは可能である。一方、頭部112を用いて第3の部材15を固定するためには、貫通孔の直径を頭部112の直径より小さくすることが求められる。
【0061】
なお、上述の接合継手の製造方法は、上述された本実施形態に係る接合継手1の製造方法の一例にすぎない。上述の製造方法では脱炭処理を用いて突出部の基部の軟質化を達成しているが、その他の方法を用いることも妨げられない。例えば、上述したように、摩擦圧接接合の直後に接合継手を焼戻しすることによっても、突出部の基部の軟質化を達成できる。また、第2の鋼材12を、炭素量0.25質量%以上の鋼材と、低炭素鋼材とを貼り合わせたクラッド鋼とすることによっても、突出部の基部の軟質化を達成できる。このとき、両者を貼り合わせた後の低炭素鋼材の厚みを45μm以上とする。
【実施例
【0062】
以下の条件で、種々の摩擦圧接接合継手を作製した。第2の鋼材は脱炭処理の有無や、接合前の焼入れや、焼戻し、もしくは焼入れ焼戻し処理によって、様々な内部ビッカース硬さのものを作製した。実施例の内1つは、接合後直ちに炉加熱による焼戻しを行った(実施例の番号3)。
【0063】
【表1】
【0064】
作製した摩擦圧接接合継手を、摩擦圧接面の中心を通り摩擦圧接面に垂直な面(言い換えると軸部の中心軸を通り軸部の軸方向に平行な面)で切断し、切断面の観察を行って、亀裂の有無を確認した。また、切断面において、第2の鋼材の突出部の基部の硬さを測定した。
【0065】
第2の鋼材12の表面から45μmまでの領域における炭素量の最大値、及び内部の炭素量の測定方法は以下の通りとした。鋼板表層の炭素量については、グロー放電発光分光分析により、鋼板表面から深さ方向の炭素量分布を分析した。第2の鋼材における内部の炭素量は、第2の鋼材の表面を0.2mm以上、鑢などを用いて削り取った後に、鋼板成分を分析することで測定した。そして、第2の鋼材における内部の炭素量が0.25質量%以上であり、表面から45μmまでの分析結果がいずれの深さにおいても炭素量が0.25質量%未満であった場合、有効な脱炭層有と判断した。また、表面から45μmまでの分析結果がいずれの深さにおいても炭素量が0.25質量%以上であった場合、有効な脱炭層無と判断した。
【0066】
第2の鋼材12の表層のビッカース硬さは、第2の鋼材12を、その表面に垂直に切断し、この切断面における、鋼材の表面から深さ0.02mmの5箇所で、測定荷重を25gfとしてビッカース硬さ測定を実施し、その平均値を算出することで測定した。また、この切断面における、鋼材の表面から深さ0.2mmの5箇所で、測定荷重を25gfとしてビッカース硬さ測定を実施し、その平均値を算出することで、第2の鋼材12の内部のビッカース硬さを測定した。第2の鋼材12の表層、および内部のビッカース硬さは、接合部から十分に離れており、摩擦圧接接合による焼入れや焼戻しといった熱の影響を受けていない箇所を測定した。
【0067】
突出部141の基部のビッカース硬さの測定方法は以下の通りとした。接合継手1を、摩擦圧接面13に垂直であり且つ摩擦圧接面13の中心を含む面、言い換えると軸部111の軸方向に平行であり且つ軸部111の中心軸を含む面において切断した。この切断面を顕微鏡で観察し、突出部141の基部を特定した。そして、第2の鋼材12における突出部141の基部の近傍の4箇所で、測定荷重を25gfとしてビッカース硬さ測定を実施し、その平均値を算出することで突出部141の基部のビッカース硬さを得た。第2の鋼材12における突出部141の基部の近傍の4箇所とは、上述の仮想線a~dによって画定される一辺の長さが0.05mmの正方形の四つの頂点である。亀裂が測定箇所と重なり、ビッカース硬さの測定が困難な場合は、同条件にて複数体の接合部を前記方法で断面観察し、亀裂と4箇所の測定箇所が重ならない断面を得たのちにビッカース硬さ測定した。この突出部141の基部のビッカース硬さが600HV以下であった場合が発明例である。
【0068】
さらに、摩擦圧接面の深さ方向近傍における硬質部を以下の手順で検出した。接合継手1を、摩擦圧接面13に垂直であり且つ摩擦圧接面13の中心を含む面、言い換えると軸部111の軸方向に平行であり且つ軸部111の中心軸を含む面において切断した。次に摩擦圧接面13の中心を通り且つ摩擦圧接面13に垂直な方向、言い換えると軸部111の中心軸を通り且つ軸部111の軸方向に平行な方向に沿って、測定荷重を100gfとして、切断面のビッカース硬さを連続的に測定した。連続測定において、ビッカース硬さが896C3-2232C2+2175C+138(HV)以上(なお第2の鋼材の表面から0.2mm以上内側の炭素量をC(質量%)とする)となる測定値が認められた場合、硬質部が存在すると判断した。測定間隔は50μmとした。
【0069】
評価結果を表2、表3に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
有効な脱炭層が摩擦圧接接合の前に第2の鋼材に設けられた発明例1、4、5、6、10、11、12は、突出部の基部のビッカース硬さが600HVを大きく下回った。発明例3では、摩擦圧接接合の前に有効な脱炭層が設けられなかったが、摩擦圧接接合の後直ちに継手全体を炉で加熱し、焼戻すことによって、突出部の基部のビッカース硬さを600HV以下に低下させることができた。また、これら発明例では亀裂が生じなかった。一方、有効な脱炭層が第2の鋼材に設けられなかった比較例2、7、8、9、13、14では、突出部の基部の硬化を抑制できず、突出部の基部のビッカース硬さが600HVよりも高く、亀裂が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、摩擦圧接面の近傍における亀裂発生を抑制可能な継手、自動車用部材、及び継手の製造方法を提供することができる。従って、本発明は極めて高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0074】
1 接合継手
11 第1の鋼材
111 軸部
112 頭部
12 第2の鋼材
13 摩擦圧接面
14 塑性変形部
141 突出部
15 第3の部材
2 亀裂状欠陥
図1
図2
図3
図4
図5