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特許7156551転炉吹錬制御方法及び転炉吹錬制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】転炉吹錬制御方法及び転炉吹錬制御システム
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/30 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
C21C5/30 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021557858
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2021017239
(87)【国際公開番号】W WO2022004119
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020113970
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】天野 勝太
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直樹
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 悠喬
(72)【発明者】
【氏名】野中 俊輝
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-011521(JP,A)
【文献】特開平07-173516(JP,A)
【文献】特開平01-229943(JP,A)
【文献】特開2019-073799(JP,A)
【文献】特開平03-010012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/00
C21C 5/28- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉での吹錬終了時の溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するための供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量を熱収支計算及び物質収支計算により算出し、算出された供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量に基づいて転炉での吹錬を制御する転炉吹錬制御方法であって、
前記熱収支計算で用いる装入溶銑温度として、前記熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中に測定された溶銑の温度を用いる、転炉吹錬制御方法。
【請求項2】
転炉での吹錬開始時及び吹錬中に得られる転炉の操業条件及び計測値に基づいて吹錬中に熱収支計算及び物質収支計算を逐次行うことにより吹錬進行時点での溶湯の温度及び成分濃度を逐次推定し、推定された溶湯の温度及び成分濃度に基づいて転炉での吹錬を制御する転炉吹錬制御方法であって、
前記熱収支計算で用いる装入溶銑温度として、前記熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中に測定された溶銑の温度を用いる、転炉吹錬制御方法。
【請求項3】
前記熱収支計算で用いる装入溶銑温度として、前記熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が溶銑保持容器から前記転炉に流入する際に非接触の光学的方法を用いて測定された溶銑の温度を用いる、請求項1又は2に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項4】
前記非接触の光学的方法が、溶銑から放射される発光スペクトルを測定し、測定された発光スペクトルより選ばれる異なる2波長の放射エネルギー比から溶銑の温度を算出する方法である、請求項3に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項5】
前記異なる2波長をλ1及びλ2(>λ1)としたとき、λ1及びλ2が共に400nmから1000nmの範囲内にあり、λ1とλ2の差の絶対値が50nm以上600nm以下である、請求項4に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項6】
前記異なる2波長をλ1及びλ2(>λ1)としたとき、λ1及びλ2が共に400nmから1000nmの範囲内にあり、λ1とλ2の差の絶対値が200nm以上600nm以下である、請求項4に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項7】
予め定めた前記異なる2波長の発光スペクトルの放射率の比によって溶銑の温度の測定値を補正する、請求項4~6のうち、いずれか1項に記載の転炉吹錬制御方法。
【請求項8】
転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の温度を装入溶銑温度として光学的に測定する温度計測器と、
前記温度計測器によって測定された装入溶銑温度を用いて、転炉での吹錬終了時の溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するための転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量を熱収支計算及び物質収支計算により算出する計算機と、
前記計算機によって算出された転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、
を備える、転炉吹錬制御システム。
【請求項9】
転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の2色温度情報を測定する分光カメラと、
前記分光カメラによって測定された2色温度情報を用いて前記溶銑の温度を装入溶銑温度として算出する第一計算機と、
前記第一計算機によって算出された装入溶銑温度を用いて、転炉での吹錬終了時の溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するための転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量を熱収支計算及び物質収支計算により算出する第二計算機と、
前記第二計算機によって算出された転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、
を備える、転炉吹錬制御システム。
【請求項10】
転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の温度を装入溶銑温度として光学的に測定する温度計測器と、
前記温度計測器によって測定された装入溶銑温度を用いて吹錬中の溶鋼の温度を逐次算出する計算機と、
前記計算機によって算出された吹錬中の溶鋼の温度に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、
を備える、転炉吹錬制御システム。
【請求項11】
転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の2色温度情報を測定する分光カメラと、
前記分光カメラによって測定された2色温度情報を用いて前記溶銑の温度を装入溶銑温度として算出する第一計算機と、
前記第一計算機によって算出された装入溶銑温度を用いて吹錬中の溶鋼の温度を逐次算出する第二計算機と、
前記第二計算機によって算出された吹錬中の溶鋼の温度に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、
を備える、転炉吹錬制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹錬終了時の溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するための転炉吹錬制御方法及び転炉吹錬制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
転炉操業は、転炉内に装入された溶銑やスクラップ等からなる主原料に酸素を供給して酸化精錬(吹錬)を行うことにより溶鋼を得る製鋼工程である。転炉操業では、吹錬終了時(吹止め)における溶鋼の温度及び炭素濃度等の成分濃度を目標値に制御するために、スタティック制御とダイナミック制御とを組み合わせた吹錬制御が行われる。スタティック制御では、熱収支及び物質収支に基づいた数式モデルを用いて溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するために必要な供給酸素量と冷材又は昇熱材の投入量とを吹錬開始前に決定する。一方、ダイナミック制御では、サブランスを用いて吹錬中に溶湯の温度及び成分濃度を測定し、スタティック制御で決定した供給酸素量や冷材又は昇熱材の投入量を熱収支及び物質収支と反応モデルに基づいた数式モデルに基づき修正する。そして、ダイナミック制御では、吹止めまでの供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量を最終的に決定・制御する。
【0003】
スタティック制御とダイナミック制御とを組み合わせた吹錬制御では、スタティック制御における誤差が大きすぎると、ダイナミック制御での修正が困難になり、吹止めにおける溶鋼の温度や成分濃度を目標値に制御することができなくなる場合がある。このため、スタティック制御における誤差をなるべく小さくする必要がある。スタティック制御に用いる数式モデルは、熱収支計算と酸素収支計算との2種類の計算から構成されている。このうち熱収支計算では、転炉内への入熱量の総和と出熱量の総和とが等しくなるように冷材又は昇熱材の投入量を算出する。
【0004】
熱収支計算に用いる数式は、入熱確定項、出熱確定項、冷却項又は昇熱項、誤差項、及びオペレーターによる温度補正項により構成されている。スタティック制御における誤差を小さくするためには、数式を構成する各項に適切な値を与えて熱収支計算を行う必要があり、適切な値を求めるための方法が検討されてきた。例えば特許文献1には、放射温度計によって測定された転炉の内張耐火物の表面温度と時刻情報とから求められた放冷曲線に基づいて、その後の吹錬での溶鋼の温度降下量を予測してスタティック制御における熱収支計算に取り入れる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-87345号公報
【文献】特開2012-117090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法を適用しても、依然としてスタティック制御における誤差が解消せず、その結果、吹止めにおける溶鋼の温度の制御精度を顕著に向上させるには至らなかった。なお、吹錬中の排ガス情報(排ガス流量や排ガス成分)等、サブランスによる測定の前から吹錬中に逐次得られる情報を活用して転炉操業に反映させることにより、数式モデルによる溶鋼の温度や成分濃度の推定精度を高める手法も提案されている。例えば特許文献2には、排ガス情報を活用して吹錬中の脱炭特性を特徴づける脱炭酸素効率減衰定数及び最大脱炭酸素効率を推定し、推定結果を用いて溶鋼の温度及び炭素濃度を推定する方法が開示されている。特許文献2に開示されている方法によれば、脱炭反応で発生する反応熱が溶鋼の温度の推定に精度よく反映されるので、吹止めにおける溶鋼の温度の制御精度は向上する。しかしながら、溶鋼の温度に影響を及ぼす因子は脱炭反応以外にも存在するため、依然として吹止めにおける溶鋼の温度の制御精度は満足できるレベルには至らなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、吹錬終了時の溶鋼の温度を目標値に精度よく制御可能な転炉吹錬制御方法及び転炉吹錬制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様に係る転炉吹錬制御方法は、転炉での吹錬終了時の溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するための供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量を熱収支計算及び物質収支計算により算出し、算出された供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量に基づいて転炉での吹錬を制御する転炉吹錬制御方法であって、前記熱収支計算で用いる装入溶銑温度として、前記熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中に測定された溶銑の温度を用いる。
【0009】
本発明の第二の態様に係る転炉吹錬制御方法は、転炉での吹錬開始時及び吹錬中に得られる転炉の操業条件及び計測値に基づいて吹錬中に熱収支計算及び物質収支計算を逐次行うことにより吹錬進行時点での溶湯の温度及び成分濃度を逐次推定し、推定された溶湯の温度及び成分濃度に基づいて転炉での吹錬を制御する転炉吹錬制御方法であって、前記熱収支計算で用いる装入溶銑温度として、前記熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中に測定された溶銑の温度を用いる。
【0010】
前記熱収支計算で用いる装入溶銑温度として、前記熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が溶銑保持容器から前記転炉に流入する際に非接触の光学的方法を用いて測定された溶銑の温度を用いるとよい。
【0011】
前記非接触の光学的方法が、溶銑から放射される発光スペクトルを測定し、測定された発光スペクトルより選ばれる異なる2波長の放射エネルギー比から溶銑の温度を算出する方法であるとよい。
【0012】
前記異なる2波長をλ1及びλ2(>λ1)としたとき、λ1及びλ2が共に400nmから1000nmの範囲内にあり、λ1とλ2の差の絶対値が50nm以上600nm以下であるとよい。
【0013】
前記異なる2波長をλ1及びλ2(>λ1)としたとき、λ1及びλ2が共に400nmから1000nmの範囲内にあり、λ1とλ2の差の絶対値が200nm以上600nm以下であるとよい。
【0014】
予め定めた前記異なる2波長の発光スペクトルの放射率の比によって溶銑の温度の測定値を補正するとよい。
【0015】
本発明の第一の態様に係る転炉吹錬制御システムは、転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の温度を装入溶銑温度として光学的に測定する温度計測器と、前記温度計測器によって測定された装入溶銑温度を用いて、転炉での吹錬終了時の溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するための転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量を熱収支計算及び物質収支計算により算出する計算機と、前記計算機によって算出された転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、を備える。
【0016】
本発明の第二の態様に係る転炉吹錬制御システムは、転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の2色温度情報を測定する分光カメラと、前記分光カメラによって測定された2色温度情報を用いて前記溶銑の温度を装入溶銑温度として算出する第一計算機と、前記第一計算機によって算出された装入溶銑温度を用いて、転炉での吹錬終了時の溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するための転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量を熱収支計算及び物質収支計算により算出する第二計算機と、前記第二計算機によって算出された転炉への供給酸素量及び冷材又は昇熱材の投入量に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、を備える。
【0017】
本発明の第三の態様に係る転炉吹錬制御システムは、転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の温度を装入溶銑温度として光学的に測定する温度計測器と、前記温度計測器によって測定された装入溶銑温度を用いて吹錬中の溶鋼の温度を逐次算出する計算機と、前記計算機によって算出された吹錬中の溶鋼の温度に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、を備える。
【0018】
本発明の第四の態様に係る転炉吹錬制御システムは、転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が吹錬開始前に前記転炉へ装入されている期間中における溶銑の2色温度情報を測定する分光カメラと、前記分光カメラによって測定された2色温度情報を用いて前記溶銑の温度を装入溶銑温度として算出する第一計算機と、前記第一計算機によって算出された装入溶銑温度を用いて吹錬中の溶鋼の温度を逐次算出する第二計算機と、前記第二計算機によって算出された吹錬中の溶鋼の温度に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る転炉吹錬制御方法及び転炉吹錬制御システムによれば、吹錬終了時の溶鋼の温度を目標値に精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態である転炉吹錬制御システムの構成を示す模式図である。
図2図2は、熱電対を用いて装入鍋に充填された溶銑の温度を測定してから2色温度計を用いて装入鍋から転炉に流入する際の溶銑の温度を測定するまでの経過時間と、2色温度計によって測定された溶銑の温度と熱電対によって測定された溶銑の温度との差の関係の一例を示す図である。
図3図3は、350トンの転炉を用いて300~350トンの溶銑を吹錬したときの発明例及び比較例における途中推定温度と途中実績温度との関係を示す図である。
図4図4は、350トンの転炉を用いて300~350トンの溶銑を吹錬したときの発明例及び比較例における吹錬終了時における目標値に対する溶銑の温度誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る転炉吹錬制御方法及び転炉吹錬制御システムについて説明する。
【0022】
〔転炉吹錬制御方法〕
転炉操業では、吹錬終了時(吹止め)における溶鋼の温度及び炭素濃度等の成分濃度を目標値に制御するために、スタティック制御とダイナミック制御とを組み合わせた吹錬制御が行われている。スタティック制御は、熱収支計算及び物質収支計算に基づいた数式モデルを用いて、溶鋼の温度及び成分濃度を目標値に制御するために必要な供給酸素量及び冷材又は昇熱材(以下、冷材等と表記)の投入量を吹錬開始前に決定する。そして、決定された供給酸素量及び冷材等の投入量に基づいて吹錬を開始、進行させ、一定時間継続した後(例えば、スタティック制御で計算された供給酸素量の80~90%を吹精した時点等)、サブランスを用いて溶湯の温度及び成分濃度を測定する。ダイナミック制御では、サブランスを用いて測定された溶湯の温度及び成分濃度並びに熱収支及び物質収支と反応モデルとに基づいた数式モデルを用いて、スタティック制御で決定した供給酸素量や冷材等の投入量を修正し、吹止めまでの供給酸素量及び冷材等の投入量を最終的に決定する。
【0023】
スタティック制御における熱収支計算の計算式は、例えば入熱確定項、出熱確定項、冷却項又は昇温項、誤差項、及びオペレーターによる温度補正項によって構成されている。このうち、入熱確定項には、装入される溶銑の顕熱を表す項が含まれる。なお、上述した特許文献2に開示されている方法であっても、初期値として装入される溶銑の顕熱を与えなければならない点は、スタティック制御とダイナミック制御とを組み合わせた吹錬制御法と同様である。
【0024】
装入される溶銑の顕熱は、(溶銑の比熱)×(装入される溶銑の質量)×(装入される溶銑の温度)によって算出される。溶銑の比熱は、便覧等に記載されている物性値を用いる。装入される溶銑の質量は、例えば溶銑装入前にロードセル等で測定した溶銑を充填した装入鍋(溶銑保持容器)の重量と溶銑装入後にロードセル等で測定した空の装入鍋の重量との差を用いる。また、装入される溶銑の温度(装入溶銑温度)は、例えば装入鍋に充填された溶銑に熱電対を浸漬させて測定した値を用いる。
【0025】
本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、吹止めにおける溶鋼の温度の制御精度が向上しない原因として、スタティック制御やダイナミック制御における熱収支計算において、装入される溶銑の顕熱の値が不正確であることを知見した。特に、装入される溶銑の顕熱を計算する際、上述した溶銑の温度の測定値を用いることが必ずしも適当でない場合があることを知見した。
【0026】
一般に、溶銑の温度測定は、溶銑が装入鍋に装入され、除滓が行われた後に行われる。しかしながら、温度測定後、溶銑が転炉に装入されるまでの経過時間は、転炉や転炉よりも後の製鋼工程の操業状況に応じて大きく異なる。例えば、溶銑の温度測定後、すぐに転炉に装入されて吹錬を開始する場合もあれば、溶銑の温度測定後、そのまま装入鍋に充填された状態で、転炉装入まで待機を余儀なくされる場合もある。すなわち、溶銑の温度測定後、転炉装入までの期間の溶銑の温度降下量が異なることにより、実際の装入溶銑温度も異なることになる。
【0027】
特に、転炉装入までの待機時間が長いと、熱対流により装入鍋深さ方向に溶銑の温度分布が生じる。充填量が200トンを超える装入鍋は、溶銑充填時の溶銑浴の深さが数mオーダーであるのに対して、測温時の熱電対の浸漬深さは数十cmである。このため、たとえ転炉装入前に装入鍋で再度溶銑の温度を測定したとしても、測温値に溶銑の温度分布の影響が十分反映されず、誤差が生じる要因となる。また、使用する装入鍋の状態も、溶銑温度の測定後、転炉装入までの期間の溶銑の温度降下量に影響を及ぼす。例えば、充鍋時間(一定の期間内で溶銑が充填された状態の時間)の比率が高い装入鍋は溶銑の温度降下量が小さく、逆に充鍋時間の比率が低い装入鍋は溶銑の温度降下量が大きい。
【0028】
さらに近年では、2基の転炉を用い、一方の転炉で脱珪処理や脱燐処理を行い(脱珪・脱燐炉)、もう一方の転炉で脱炭処理を行う(脱炭炉)場合がある。このような操業形態の場合、脱珪・脱燐炉での処理を終えた溶銑を炉下で待機する装入鍋で受湯し、装入鍋に受湯した溶銑を脱炭炉に装入して脱炭処理を行う。この脱炭処理においても上述したスタティック制御やダイナミック制御を行うが、その熱収支計算における装入溶銑温度には、脱珪・脱燐処理終了時又は出湯中に転炉内で測定した溶銑温度、あるいは脱珪・脱燐処理終了時又は出湯中に転炉内で測定した溶銑温度を出湯中の溶銑の温度降下量等で補正した温度を用いることになる。しかしながら、このような場合においても、出湯から装入までの時間が操業状況により大きく異なる等、上記と問題点は同じである。
【0029】
このように、現状、装入される溶銑の顕熱の計算に用いている溶銑の温度の値が必ずしも適当でない場合があることがわかったが、溶銑の温度測定後、転炉に装入されるまでの経過時間を一定にして操業することは困難である。そこで、本発明の発明者らは、熱収支計算で用いる装入溶銑温度として、熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が転炉に装入されている期間中に測定された溶銑の温度を用いることにした。これにより、従来よりも熱収支計算の精度が向上し、溶鋼の温度を精度よく目標値に制御することが可能となる。
【0030】
なお、装入溶銑温度として、熱収支計算の対象である吹錬の原料として用いる溶銑が装入鍋から転炉に流入する際に非接触の光学的方法により測定された溶銑の温度を用いることが好ましい。このタイミングで溶銑の温度を測定することにより、装入鍋で待機した時間の影響等が反映された後の測定値となるので、上記の問題が解消される。測温方法としては、溶銑が装入鍋から転炉に流入する際の注入流に熱電対等を浸漬させて測定する方法も考えられるが、注入流に熱電対を浸漬するためには大掛かりな設備が必要となる。このため、より簡便に温度測定が可能な非接触の光学的方法を採用することが好ましい。
【0031】
非接触の光学的方法としては、2色温度計、放射温度計、又はサーモビュア等を用いた測温方法を例示できる。また、非接触の光学的方法で測温を行う場合、装入鍋に充填された静止状態の溶銑では浴面上にスラグが浮遊しているため、正確な測定が難しい場合がある。これに対して、装入鍋から転炉に流入する際の注入流に対して測定を行えば、溶銑面が露出した部位が現れるので、より正確な測定が可能になる。
【0032】
前述した非接触の光学的方法のうち、溶銑から放射される発光スペクトルを測定し、得られた発光スペクトルより選ばれる異なる2波長の放射エネルギー比から温度を算出する方法、すなわち2色温度計を用いる方法がより好ましい。本発明において測温の対象となる、装入鍋から転炉に流入する際の注入流については、測定条件によって放射率が変動する可能性がある。2色温度計を用いる方法では、測温対象の放射率が変動する場合であっても、波長の異なる2つの分光放射率の関係が比例関係を保って変動するならば、2つの分光放射率の比は温度のみに依存するので、放射率の変動によらず正確な温度測定が可能になるからである。
【0033】
なお、上記の異なる2波長をλ1及びλ2(λ1<λ2)とすると、λ1及びλ2が以下の関係を満たすように波長を選ぶことが好ましい。すなわち、λ1及びλ2が共に400nmから1000nmの範囲内にあり、λ1とλ2との差の絶対値が50nm以上600nm以下であることが好ましい。2色温度計を用いる方法でも、波長の異なる2つの発光スペクトルの放射率が互いに比例関係を保って変動しない場合には測定誤差を生じる。高精度な測定を行うためには、波長の異なる2つの発光スペクトルの放射率ελ1,ελ2の比である放射率比R(R=ελ1/ελ2)の変動を小さくする条件を選択することが望まれる。本発明の発明者らの検討によれば、放射率比Rの変動の要因である溶銑表面の酸化膜や炉壁からの迷光は、放射率が比較的小さい長波長側でそれらの影響が大きくなると考えられる。そのため、放射率が大きい短波長側で検出波長を選択することが好ましい。
【0034】
具体的には、λ1及びλ2を共に400nmから1000nmの範囲内で選択することが好ましい。波長が400nm未満である場合、波長が短いために通常の分光カメラでは放射エネルギーの検出が難しくなる。一方、波長が1000nmを超える場合には、波長が長いため放射率比変動の影響が大きくなる。さらに、λ1とλ2の差の絶対値が50nm以上600nm以下であることが好ましい。λ1とλ2の差の絶対値が50nm未満である場合、λ1とλ2の波長が近いため、通常の分光カメラでは分光が難しくなる。一方、λ1とλ2の差の絶対値が600nmを超える場合には、必然的に片方の波長を長波長の条件から選択していることになり、波長が長いため放射率比変動の影響が大きくなる。
【0035】
なお、λ1とλ2の差の絶対値が200nm以上600nm以下であると放射率比Rの変動の影響が小さくなるので、さらに好ましい。また、予め実験や文献値に基づき放射率比Rを定めておき、溶銑の温度の測定値を予め定めた放射率比Rで補正してもよい。但し、測定誤差低減のために溶銑の温度の測定値を予め定めた放射率比Rで補正しても測定誤差が生じる場合がある。例えば、溶銑装入時に溶銑と大気中の酸素の反応により発生する煤煙によって、溶銑から放射される光の強度は減衰する。そして、測定波長によって放射光の減衰率が異なる場合、λ1とλ2の放射エネルギー比I(λ1)/I(λ2)が変化して測定誤差の原因となる。ここで、煤煙は抑制することが困難であり、その濃度や発生頻度も予測できないため、事前の補正によって煤煙の影響を高い精度で考慮することは難しい。また、溶銑の装入中に発生する火花や火炎等も煤煙と同様の影響を及ぼすことがある。
【0036】
そこで、本発明の発明者らは、上記の煤煙等の影響を低減し、より高精度な温度測定を可能にするための対策をさらに検討した。具体的には、本発明の発明者らは、煤煙や火炎を測定した場合、400~1000nmの波長域において、放射エネルギーが波長によって大きく異なることに着目した。そして、λ1及びλ2の放射エネルギーI(λ1)及びI(λ2)にそれぞれ上下限閾値を設け、I(λ1)及びI(λ2)が上下限閾値に収まる場合にのみ、測定した放射エネルギー値を温度の算出に採用することにした。これにより、煤煙による放射強度減衰及び火炎による放射強度増大の影響を低減し、さらに高精度な温度測定を行うことができる。
【0037】
なお、上述した放射エネルギーの上下限閾値は、例えば以下のように定めるとよい。すなわち、予め実験設備等で温度Tが既知の溶湯を準備し、分光カメラを用いて温度Tにおける測定予定波長(λ1,λ2)の放射エネルギー値(I’(λ1)T0,I’(λ2)T0)を測定しておく。例えば測定対象の溶湯温度の範囲が1200~1350℃である場合、1200℃におけるI’(λ1)1200,I’(λ2)1200を測定しておき、これを実際の測定のI(λ1)及びI(λ2)の下限値とする。また同様に、1350℃におけるI’(λ1)1350,I’(λ2)1350を測定しておき、これを実際の測定のI(λ1)及びI(λ2)の上限値とする。
【0038】
I(λ1)及びI(λ2)の下限値は、Tを測定予定温度範囲の最低温度Tminとして予め得たI’(λ1)Tmin,I’(λ2)Tminの値とするとよい。又は、溶銑装入中の温度降下量も考慮し、Tminを上記最低温度よりも50℃程度以内低い温度としてもよい。一般に、放射エネルギー値は温度が低くなるほど小さくなるので、上記温度より低い温度でのI’(λ1)T0,I’(λ2)T0の値は小さすぎて閾値として機能しない。一方、I(λ1)及びI(λ2)の上限値は、Tを測定予定温度範囲の最高温度Tmaxとして予め得たI’(λ1)Tmax,I’(λ2)Tmaxの値とするとよい。上限値を設ける理由は、一般に火花や火炎によって発生する放射エネルギーの値は大きいので、測定値における火花や火炎の影響が相対的に大きくなり、溶銑温度測定値としての精度が低下するためである。
【0039】
〔転炉吹錬制御システム〕
本発明の第1の実施形態である転炉吹錬制御システムは、転炉での吹錬の原料として用いる溶銑が転炉へ装入されている期間中における溶銑の温度を装入溶銑温度として光学的に測定する温度計測器と、温度計測器によって測定された装入溶銑温度を用いて、吹錬終了時の溶鋼の成分及び温度を目標値に制御するための供給酸素量及び冷材等の投入量を算出する計算機と、計算機によって算出された転炉への供給酸素量及び冷材等の投入量に基づいて転炉での吹錬を制御する制御装置と、を備えている。
【0040】
なお、計算機は、温度計測器によって測定された装入溶銑温度を用いて吹錬中の溶湯の温度を逐次算出し、制御装置は、計算機によって算出された吹錬中の溶湯の温度に基づいて転炉での吹錬を制御するようにしてもよい。
【0041】
ここで、温度計測器としては、2色温度計、放射温度計、又はサーモビュア等を例示できる。温度計測器は、例えば溶銑が装入鍋から転炉に流入する際の注入流が観測できる場所に設置される。注入流を見上げるような角度で温度計測器を設置すると溶銑装入時の発塵の影響を受けにくくなるので好ましい。温度計測器は、溶銑の装入開始から終了までの間、予め設定されたタイミングや期間で溶銑の温度を測定する。温度計測器によって測定された溶銑の温度は操作室等に設置された計算機に送信され、計算機は受信した溶銑温度を装入溶銑温度としてスタティック制御計算等の吹錬計算を実行する。
【0042】
本発明の第2の実施形態である転炉吹錬制御システム1は、図1に示すように、転炉11での吹錬の原料として用いる溶銑12が装入鍋13から転炉11へ装入されている期間中における溶銑12の2色温度情報を測定する分光カメラ2と、分光カメラ2から2色温度情報を受信して装入溶銑温度を算出する第一計算機3と、転炉11の排ガスの流量を計測する排ガス流量計4と、転炉11の排ガスの組成を分析する排ガス分析計5と、第一計算機3によって算出された装入溶銑温度、排ガス流量計4によって計測された排ガスの流量、及び排ガス分析計5によって分析された排ガスの組成を用いて、吹錬終了時の溶鋼の成分及び温度を目標値に制御するための供給酸素量及び冷材等の投入量を算出する第二計算機6と、第二計算機6によって算出された転炉11への供給酸素量及び冷材等の投入量に基づいて転炉11での吹錬を制御する制御装置7と、を備えている。
【0043】
なお、制御装置7は、転炉11に供給する酸素等のガスの流量を制御するガス流量制御装置7a、サブランスを用いた溶湯の温度及び成分濃度の測定動作を制御するサブランス制御装置7b、及び転炉11への副原料の投入動作を制御する副原料投入制御装置7cを備えている。また、第二計算機6は、第一計算機3によって算出された装入溶銑温度、排ガス流量計4によって計測された排ガスの流量、及び排ガス分析計5によって分析された排ガスの組成を用いて吹錬中の溶湯の温度を逐次算出し、制御装置7は、第二計算機6によって算出された吹錬中の溶湯の温度に基づいて転炉11での吹錬を制御するようにしてもよい。
【0044】
ここで、分光カメラ2とは、一般的にいわゆるサーモビュアのような測定温度の平面イメージに加え、分光データを撮影できるカメラを総称したものである。また、分光データとは、放射光に含まれる多数の波長を波長毎に分けて採取したデータである。分光カメラ2によって2色温度情報を測定する方法としては、分光カメラ2で多数の波長データを採取しておき、得られたデータから計算機等で任意の2波長のデータを抽出してもよいし、分光カメラ2内にバンドパスフィルターを有するカメラであれば、このバンドパスフィルターによって任意の2波長を抽出してもよい。また、分光カメラ撮像はCCD素子によって行なうものが多いが、複数のCCD素子を搭載し、各CCD素子が別の波長範囲を測定するものであってもよい。なお、分光カメラ2としては、点状の領域を測定箇所とするタイプ(スポット計測)のものより、線状の領域を測定箇所とするタイプ(ライン計測)のものを採用するとより好適である。溶銑装入時の注入流では、常に露出位置が移動するため、スポット計測タイプでは正確な計測ができない場合がある。一方、ライン計測タイプであれば、注入流のスペクトル測定を複数位置で行うことになり、高い確率で正確な計測を行うことができる。なお、ライン計測タイプの分光カメラを使用する場合は、測定領域内の測定値の平均をとることで代表値とすることができる。
【0045】
分光カメラ2は、例えば転炉装入側の炉前で、溶銑12が装入鍋13から転炉11に流入する際の注入流が観測できる場所に設置される。注入流を見上げるような角度で分光カメラ2を設置すると、溶銑装入時の発塵の影響を受けにくく好ましい。分光カメラ2を溶銑装入時の注入流より上方に設置すると、煤煙が上昇するために、分光カメラと注入流との間の煤煙量が多くなり、測定誤差が大きくなる。通常、操作室が置かれる操業床は、溶銑装入時の注入流位置より下方となるので、分光カメラ2は操業床上に設置するとよい。さらに、分光カメラ2の設置位置は、溶銑装入時の注入流より下方であって、溶銑装入時に転炉炉口と装入鍋の口元を合わせた位置を起点に、転炉及び装入鍋の水平方向中心を結んだ線から水平方向に5~15°移動した地点とするとさらに好適である。溶銑装入中の転炉及び装入鍋の角度は溶銑装入の進行と共に変化するため、注入流を観察可能な視野も変化する。これに対し、測定確度や測定精度の向上及び測定機器の簡素化の観点から、溶銑装入中、分光カメラ2の視野を固定した状態で測定できることが好ましい。
【0046】
例えば、転炉及び装入鍋の水平方向中心を結んだ線に対して直角の位置に分光カメラを配置した場合、溶銑装入の進行と共に注入流は分光カメラ2の視野内で比較的大きく上下左右に移動する。一方で、分光カメラ2を転炉及び装入鍋の水平方向中心を結んだ線上で比較的転炉に近い位置に配置した場合には、注入流は分光カメラ2の視野内でさほど動くことはない。但し、転炉に近いと熱で分光カメラ2が耐用せず、遠いと転炉や装入鍋に視界を遮られて注入流を測定できない。そのため、分光カメラ2の設置位置は、溶銑装入時の注入流より下方であって、転炉及び装入鍋の水平方向中心を結んだ線から水平方向に5~15°移動した地点とするとよい。なお、分光カメラ2は転炉から20m程度以上離すことが好ましい。転炉からの距離が20mより短いと、装入時や吹錬時に転炉から飛散する高温溶融物が分光カメラ2と接触して、分光カメラ2が破損する可能性があるからである。
【0047】
分光カメラ2では、溶銑装入開始から終了までの間、予め設定されたサンプリングレート(例えば1秒おき)で2色温度情報が採取される。分光カメラ2によって採取された2色温度情報は操作室等に設置された第一計算機3に送信され、第一計算機3で装入溶銑温度が算出される。算出された装入溶銑温度を用いてスタティック制御計算等の吹錬計算が行われる。装入溶銑温度を算出する第一計算機3と吹錬計算を行う第二計算機6は、同一の計算機でもよいし、別の計算機でもよい。
【実施例
【0048】
図2は、熱電対を用いて装入鍋に充填された溶銑の温度を測定してから2色温度計を用いて装入鍋から転炉に流入する際の溶銑の温度を測定するまでの経過時間と、2色温度計によって測定された溶銑の温度と熱電対によって測定された溶銑の温度との差(温度差)の関係の一例を示す図である。図2に示すように、温度差と経過時間との間には相関関係があるものの、ばらつきが大きいこと。すなわち、装入鍋で溶銑の温度を測定した後、転炉に装入するまでの溶銑の温度変化量はばらつくので、装入鍋で測定した溶銑の温度を熱収支計算の装入溶銑温度として用いると、熱収支計算の精度を低下させる要因となることがわかる。
【0049】
図3は、350トンの転炉を用いて300~350トンの溶銑を吹錬したときの、発明例及び比較例における、操業条件と排ガス情報から推定された吹錬中の溶湯の温度(途中推定温度)と吹錬中に投入したサブランスにより測定された溶湯の温度(途中実績温度)との関係を示す図である。ここで、発明例は、装入中の溶銑の温度を装入溶銑温度として熱収支計算に反映させた場合の途中推定温度を示し、比較例は、前工程(転炉での脱燐処理)の終了時点温度と推定温度降下量から推定した装入溶銑温度を用いて計算した途中推定温度を示している。図3に示すように、発明例の方が比較例よりも途中推定温度と途中実績温度との差が小さいことがわかる。これにより、装入中の溶銑の温度を装入溶銑温度として熱収支計算に反映させることによって、熱収支計算の精度が向上することが確認できた。
【0050】
以下に示す表1は、350トンの転炉を用いて300~350トンの溶銑を吹錬したときの、発明例及び比較例における吹錬終了時の目標溶鋼温度に対する実績溶鋼温度の誤差を示す。図3に示した例と同様、発明例は、溶銑装入中に測定した溶銑の温度を装入溶銑温度として熱収支計算に反映させた場合であり、比較例は、前工程の終了時点温度と推定温度降下量から推定した装入溶銑温度を用いた場合である。表1に示すように、溶銑装入中に測定した溶銑温度を熱収支計算に反映させることにより、途中サブランス温度を狭い範囲で制御可能になり、その結果として吹き止め時の溶鋼温度の精度が向上している。すなわち、溶銑装入中に測定した溶銑の温度を装入溶銑温度として熱収支計算に反映させることにより、吹錬終了時の溶鋼温度を精度よく制御できることが確認できた。
【0051】
【表1】
【0052】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、吹錬終了時の溶鋼の温度を目標値に精度よく制御可能な転炉吹錬制御方法及び転炉吹錬制御システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 転炉吹錬制御システム
2 分光カメラ
3 第一計算機
4 排ガス流量計
5 排ガス分析計
6 第二計算機
7 制御装置
7a ガス流量制御装置
7b サブランス制御装置
7c 副原料投入制御装置
11 転炉
12 溶銑
13 装入鍋
図1
図2
図3
図4