(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
C01G23/00 C ZNM
(21)【出願番号】P 2022523246
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047661
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2021001069
(32)【優先日】2021-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江副 諒太
(72)【発明者】
【氏名】村田 賢史
(72)【発明者】
【氏名】水谷 英人
(72)【発明者】
【氏名】矢野 誠一
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-188334(JP,A)
【文献】特開2019-026542(JP,A)
【文献】特開2017-202942(JP,A)
【文献】特開2012-240904(JP,A)
【文献】特開2010-064938(JP,A)
【文献】特開2008-030966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
H01G 4/12
H01B 3/12
C08K 3/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末であって、
前記粉末の透過型電子顕微鏡による像を用いて求められる前記粉末の平均円相当径Ldが、12nm以下であり、
前記粉末のX線回折測定で得られるX線回折パターンにおける前記ナノ結晶の(111)面に対応する回折ピークの半値全幅を用いてScherrerの式により求められる前記ナノ結晶の結晶子径Lcが、12nm以下であり、
前記ナノ結晶の表面に有機カルボン酸が被着しており、
前記粉末を非極性の分散媒中に分散させて動的光散乱法により求められる前記粉末の平均粒子径Lpが、18nm以下であ
り、
前記分散媒は、粘度が0.567mPa・sのトルエンである、
チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末。
【請求項2】
前記平均円相当径Ldを求める過程で測定される前記ナノ結晶の円相当径の変動係数が、20%以下である、請求項1に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末。
【請求項3】
前記ナノ結晶において、チタンに対するバリウムのモル比:Ba/Tiが、0.95以上、1.1以下であり、
前記ナノ結晶は、チタン酸バリウムの単相で構成されている、請求項1または2に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末。
【請求項4】
前記有機カルボン酸は、オレイン酸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末。
【請求項5】
前記粉末において、前記有機カルボン酸の被着量は、前記粉末の全体に対して、15質量%以上、25質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末。
【請求項6】
バリウムを含む水溶性の化合物と、チタンを含む化合物と、有機カルボン酸と、アルカリ成分と、水と、を含む原料混合物を得る調製工程と、
前記原料混合物を加熱し、チタン酸バリウムナノ結晶を得る加熱工程と、
を含み、
前記チタンを含む化合物は、四塩化チタンおよび非晶質水酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記原料混合物において、バリウムイオンに対する前記有機カルボン酸のモル比は、0.5以上、2.0以下であり、かつ、バリウムイオンに対する水酸化物イオンのモル比は、3.4超、6.0以下である、チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末の製造方法。
【請求項7】
前記バリウムを含む水溶性の化合物は、水酸化バリウムおよび塩化バリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末の製造方法。
【請求項8】
前記有機カルボン酸は、オレイン酸を含む、請求項6または7に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末の製造方法。
【請求項9】
更に、前記加熱工程の後、前記ナノ結晶をアルコールに分散させて洗浄する洗浄工程を含む、請求項6~8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BT)の微粒子(ナノ結晶)は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)等の電子デバイスに広く用いられている。例えば、MLCCに使用する内部電極には、内部電極層(金属)と誘電体層(セラミックス)との接合強度を高める目的で、BT微粒子が添加されている(例えば、非特許文献1)。また、MLCCの焼成では、セラミックスと金属を同時に焼成するため、焼成収縮曲線をマッチングさせる等の目的でもBT微粒子が添加されている。MLCC等の電子デバイスの小型化に伴って、BT微粒子のサイズをより小さくすることが求められている。
【0003】
また、樹脂の屈折率および誘電率の向上を目的として、BT微粒子を樹脂に含ませることがある。微粒子が均一に分散している樹脂では、レイリー散乱による透過光の減衰が抑制され、透明性が向上する。よって、より微細でかつ分散性に優れたBT粒子が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】上山竜祐ら他2名、「Ni粉体の製造方法の違いとBaTiO3共材微粒子添加量がNi電極ペーストの焼結特性に及ぼす影響」、Journal of the Ceramic Society of Japan, 110, 676-680(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BT微粒子は、分散媒に分散させた状態で保管するよりも粉末状にして保管する方が、省スペース化、管理や運搬の際における取り扱い易さ等の面で有利である。しかし、BT微粒子を一度乾燥させて粉末状にすると、強い凝集力により分散媒に再度分散させにくく、BT微粒子の分散体を得るのに膨大な時間と労力を要する。BT微粒子が微細になるほど凝集性が高まり、特に、シングルナノサイズのBT微粒子は分散媒中で均一に分散しにくい。
【0006】
例えば、内部電極の作製時に、BT微粒子を含む粉末と電極材料と分散媒とを配合して電極スラリーを調製する場合、電極スラリー中でBT微粒子が凝集し、均質な電極スラリーが得られにくく、内部電極の性能が安定して得られない。
【0007】
BT微粒子を含む粉末と樹脂と分散媒とを配合してスラリーを得、当該スラリーを用いてBT微粒子を含む樹脂を得る場合においても、スラリー中でBT微粒子が凝集し、均質なスラリーが得られにくく、BT微粒子を含む樹脂の誘電特性等に対する信頼性が十分に得られない。
【0008】
微細なBT微粒子を含む粉末の分散媒中での分散性は、依然として不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上に鑑み、本発明の一側面は、チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末であって、前記粉末の透過型電子顕微鏡による像を用いて求められる前記粉末の平均円相当径Ldが、12nm以下であり、前記粉末のX線回折測定で得られるX線回折パターンにおける前記結晶の(111)面に対応する回折ピークの半値全幅を用いてScherrerの式により求められる前記結晶の結晶子径Lcが、12nm以下であり、前記結晶の表面に有機カルボン酸が被着しており、前記粉末を非極性の分散媒中に分散させて動的光散乱法により求められる前記粉末の平均粒子径Lpが、18nm以下である、チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末に関する。
【0010】
また、本発明の別の側面は、バリウムを含む水溶性の化合物と、チタンを含む化合物と、有機カルボン酸と、アルカリ成分と、水と、を含む原料混合物を得る調製工程と、前記原料混合物を加熱し、チタン酸バリウムナノ結晶を得る加熱工程と、を含み、前記チタンを含む化合物は、四塩化チタンおよび非晶質水酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種を含み、前記原料混合物において、バリウムイオンに対する前記有機カルボン酸のモル比は、0.5以上、2.0以下であり、かつ、バリウムイオンに対する水酸化物イオンのモル比は、3.4超、6.0以下である、チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細なチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末の分散媒中での分散性を高めることができる。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】非晶質水酸化チタンおよび結晶性水酸化チタンのXRDパターンの一例を示す図である。
図1中のa1は、実施例2の粉末作製に用いる非晶質水酸化チタンのXRDパターンを示し、
図1中のb1は、比較例7の粉末作製に用いる結晶性水酸化チタンのXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[チタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末]
本発明の一実施形態に係る粉末は、チタン酸バリウム(BT)の微粒子(ナノ結晶)を含む。上記粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)による像を用いて求められる上記粉末の平均円相当径Ldが、12nm以下である。BTナノ結晶の結晶子径Lcが、12nm以下である。結晶子径Lcは、上記粉末のX線回折測定で得られるX線回折パターンにおける上記結晶の(111)面に対応する回折ピークの半値全幅を用いてScherrerの式により求められる。上記粉末に含まれるBTナノ結晶の表面には有機カルボン酸が被着している。上記粉末を非極性の分散媒中に分散させて動的光散乱(DLS)法により求められる上記粉末の平均粒子径Lpが、18nm以下である。なお、平均円相当径Ldとは、粉末に含まれる各ナノ結晶の円相当径の平均値(算術平均)を指す。円相当径とは、BTナノ結晶の一側面の面積に相当する大きさの円の直径を指す。平均粒子径Lpとは、個数基準の粒度分布における積算値50%のときの粒子径(メジアン径)を指す。
【0014】
後述の実施形態の製造方法により、平均円相当径Ldが12nm以下および結晶子径Lcが12nm以下である微細なBTナノ結晶を含むとともに、平均粒子径Lpが18nm以下の分散媒中での分散性に優れた粉末が得られる。結晶表面に有機カルボン酸が被着していることが、粉末の分散性向上の要因の一つとして考えられる。
【0015】
後述の実施形態の製造方法により、平均円相当径Ldが10nm以下(もしくは9nm以下)および結晶子径Lcが10nm以下(もしくは9nm以下)である微細なBTナノ結晶を含むとともに、平均粒子径Lpが10nm以下の分散媒中での分散性に優れた粉末を得ることも可能である。
【0016】
平均円相当径Ldが12nm以下および結晶子径Lcが12nm以下である場合、電子デバイスの小型化、BTナノ結晶を含む樹脂の透明性の向上の面で有利である。また、上記の場合、低温での焼結(例えば、MLCCの作製過程での焼成を低温で行うこと)が可能となる。
【0017】
平均粒子径Lpが18nm以下である場合、BTナノ結晶と電極材料と分散媒とを含む電極ペーストが均質化し易く、電極ペーストを用いて作製される内部電極の性能が安定して得られる。また、樹脂中にBTナノ結晶が均一に分散し易く、BTナノ結晶を含む樹脂の誘電率および屈折率に対する信頼性が向上する。
【0018】
Lp値は、結晶サイズの分布(結晶の円相当径の範囲およびばらつき)や有機カルボン酸の被着の状態により変わり得る。粉末のTEM像で結晶同士の凝集が観察されない場合でも、分散媒中で結晶同士が強く凝集することがあり、Lp/Ldが2以上になることがある。TEM像で観察される結晶の凝集状態は、分散媒中での粉末の分散性を示唆するものではない。
【0019】
本発明におけるBTナノ結晶を含む粉末では、分散性の向上により、平均円相当径Ldに対する平均粒子径Lpの比(以下、凝集度とも称する。):Lp/Ldは、例えば、1よりも大きく、2未満の範囲、もしくは、1.1以上、1.75以下の範囲で得られる。
【0020】
粉末のTEM像を用いて平均円相当径Ldを求める過程で測定されるナノ結晶の円相当径の変動係数が20%以下であることが好ましい。この場合、結晶サイズのばらつきが低減され、BTナノ結晶と電極材料と分散媒とを含む電極ペーストが均質化し易く、電極ペーストを用いて作製される内部電極の性能が安定して得られる。
【0021】
BTナノ結晶において、チタンに対するバリウムのモル比:Ba/Tiが、0.95以上、1.1以下であり、BTナノ結晶はチタン酸バリウムの単相で構成されていることが好ましい。この場合、BTナノ結晶は結晶性が高く、結晶子径Lcは平均円相当径Ldに近い値が得られ易い。この場合、平均円相当径Ldに対する結晶子径Lcの比(以下、結晶化度とも称する。):Lc/Ldは、例えば、0.9以上、1.1未満の範囲で得られる。この場合、BTナノ結晶を含む樹脂の誘電率および屈折率の向上の面で有利である。また、BTナノ結晶を含む粉末におけるBa/Tiのモル比が0.95以上の場合、BTナノ結晶の表面におけるバリウム欠損が非常に小さくなり、誘電率の向上の面で有利である。BTナノ結晶を含む粉末におけるBa/Tiのモル比が1.1以下の場合、粉末中に含まれるチタン酸バリウム以外のバリウムを含む化合物(炭酸バリウム等)の量が非常に小さくなり、誘電デバイスの薄膜化や信頼性の向上の面で有利である。
【0022】
BTナノ結晶の表面に被着している有機カルボン酸は、オレイン酸を含んでもよい。上記粉末において、有機カルボン酸の被着量は、上記粉末の全体に対して、15質量%以上、25質量%以下であってもよい。後述の洗浄工程および/または分級工程を行った後においても、得られる粉末に含まれるBTナノ結晶の表面に上記範囲の量の有機カルボン酸が残留し得る。有機カルボン酸の被着量が上記範囲である場合、粉末の分散媒中での分散性が向上し易い。
【0023】
本発明の一実施形態に係る粉末(BTナノ結晶を含む粉末)は、以下の(1)~(9)のうちの少なくとも1つに記載の構成を満たしてもよい。
(1)平均円相当径Ldは、4.0nm以上、または7.0nm以上であってもよい。平均円相当径Ldは、12.0nm以下、または11.3nm以下であってもよい。平均円相当径Ldは、4.0nm以上で12.0nm以下であってもよく、7.0nm以上で11.3nm以下であってもよい。
(2)結晶子径Lcは、4.0nm以上、または7.5nm以上であってもよい。結晶子径Lcは、12.0nm以下、または11.1nm以下であってもよい。結晶子径Lcは、4.0nm以上で12.0nm以下であってもよく、7.5nm以上で11.1nm以下であってもよい。
(3)平均粒子径Lpは、4.0nm以上、または9.4nm以上であってもよい。平均粒子径Lpは、18.0nm以下であってもよい。平均粒子径Lpは、4.0nm以上で18.0nm以下であってもよく、9.4nm以上で18.0nm以下であってもよい。(4)BTナノ結晶におけるチタンに対するバリウムのモル比:Ba/Tiは、0.95以上、または0.99以上であってもよい。当該モル比Ba/Tiは、1.10以下、または1.09以下であってもよい。当該モル比Ba/Tiは、0.95以上で1.10以下であってもよく、0.99以上で1.09以下であってもよい。
(5)粉末の全体に対する有機カルボン酸の被着量の割合は、15質量%以上、または19質量%以上であってもよい。当該割合は、25質量%以下、または21質量%以下であってもよい。当該割合は、15質量%以上で25質量%以下、または、19質量%以上で21質量%以下であってもよい。
(6)上述した比Lc/Ldは、0.90以上、または0.94以上であってもよい。比Lc/Ldは、1.10未満であってもよく、1.08以下であってもよい。比Lc/Ldは、0.90以上で1.10未満であってもよく、0.94以上で1.08以下であってもよい。
(7)上述した比Lp/Ldは、1.0より大きいか、または1.1以上であってもよい。比Lp/Ldは、2.0未満、または1.6以下であってもよい。比Lp/Ldは、1.0より大きく2.0未満であってもよく、1.1以上で1.6以下であってもよい。
(8)上記変動係数は、0.0%以上、または7.0%以上であってもよい。上記変動係数は、20.0%以下、または19.1%以下であってもよい。上記変動係数は、0.0%以上で20.0%以下であってもよく、7.0%以上でw19.1%以下であってもよい。
(9)上記BTナノ結晶粒子(表面に有機カルボン酸が被着しているBTナノ結晶粒子)が粉末に占める割合は、90質量%以上、95質量%以上、または99質量%以上であってもよい。粉末は、実質的に当該BTナノ結晶粒子で構成されてもよく、当該BTナノ結晶粒子のみで構成されてもよい。
【0024】
以下、測定方法について述べる。
(平均円相当径Ld)
平均円相当径Ldは、粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)による像を用いて求められる。具体的には、以下の方法により求められる。
【0025】
(i)BTナノ結晶のTEM観察用試料の作製
BTナノ結晶の粉末0.1gをトルエン10mLに投入し、超音波洗浄機(エスエヌディ社製、US-106)を用いて超音波を1分間照射し、BTナノ結晶の分散液を得る。BTナノ結晶の分散液をTEMグリッドの支持膜上に滴下し、風乾し、TEM観察用試料を得る。
【0026】
(ii)TEM画像の撮影
TEM(日本電子社製、JEM-2100F)に上記のTEM観察用試料を供し、BTナノ結晶の画像を得る。TEM画像の倍率は、300~600個程度の結晶粒子を含む範囲で適宜調節する。なお、300個程度以上の結晶粒子を測定することによって、ばらつきが小さい適正な評価が可能である。
【0027】
(iii)画像処理
画像解析ソフト(三谷商事社製、WinROOF2015)を用いて、集合体のTEM画像の処理を行う。具体的には、TEM画像についてコントラストを適宜調整し、二値化処理を行い、結晶が占める領域と結晶が占める領域以外の領域とを区別する。なお、結晶表面に被着している有機カルボン酸は、結晶が占める領域以外の領域に含まれる。コントラスト値は、例えば、20以上に設定する。二値化処理では、輝度ヒストグラムを元に、輝度範囲の指定による処理を行う。閾値の下限は0に設定し、閾値の上限については、0よりも大きく、かつ、ヒストグラムのピークトップ以下の範囲内で適宜設定すればよい。
【0028】
(iv)円相当径の測定および平均円相当径Ldの算出
二値化処理の後、「形状特徴」機能から「円相当径」を選択し、300~600個程度のBTナノ結晶に対してそれぞれ円相当径を求め、これらの算術平均を平均円相当径Ldとして求める。なお、円相当径とは、BTナノ結晶の一側面の面積に相当する大きさの円の直径を指す。
【0029】
(円相当径の変動係数)
円相当径の変動係数は、粉末の平均円相当径Ldを求める過程で測定される各ナノ結晶の円相当径を用いて算出される。具体的には、円相当径の変動係数は、上記(iv)の300個~600個程度のBTナノ結晶に対してそれぞれ求められる円相当径を用いて算出される。なお、変動係数は、相対標準偏差であり、標準偏差を算術平均で除した値である。
【0030】
(BTナノ結晶のBa/Tiモル比)
BTナノ結晶のBa/Tiモル比は、BTナノ結晶の粉末について、蛍光X線分析(XRF)法による組成分析を行うことにより求められる。XRF分析には、リガク社製の蛍光X線分析装置(ZSX PrimusII)を用いることができる。定量分析には検量線法を用いる。
【0031】
(平均粒子径Lp)
平均粒子径Lpは、粉末を非極性の分散媒中に分散させてDLS法により求められる。非極性の分散媒は、低極性の有機分散媒を含む。上記の分散媒としては、非極性(低極性)の芳香族炭化水素系分散媒(例えば、トルエン、ベンゼン)や脂肪族炭化水素系分散媒(例えば、ヘキサン)を用いることができる。具体的には、以下の方法により求められる。
【0032】
BTナノ結晶の粉末0.1gをトルエン10mLに投入し、超音波洗浄機(エスエヌディ社製、US-106)を用いて超音波を1分間照射し、分散液を得る。分散液を石英セルへ移し、動的光散乱粒度分布測定装置(堀場製作所社製、Nanopartica SZ-100-HZ)を用いて平均粒子径Lpを測定する。溶媒屈折率は1.496、溶媒粘度は0.567mPa・sである。分布形態は「スタンダード」とし、分散度は「単分散」とする。なお、平均粒子径Lpは、個数基準の粒度分布における積算値50%のときの粒子径(メジアン径)を意味する。上記では分散媒にトルエンを用いているが、トルエン以外の非極性の分散媒を用いてもよい。ただし、特に問題が生じない限り、トルエンを分散媒に用いて測定すればよい。
【0033】
粉末に含まれるBTナノ結晶の表面には、後述の原料混合物に投入される材料に由来する有機カルボン酸が被着している。粉末を分散媒に投入すると、表面に有機カルボン酸が被着したBTナノ結晶が分散媒中に分散する。表面に有機カルボン酸が被着したBTナノ結晶の平均粒子径は、DLS法によって求められる。
【0034】
(BTナノ結晶表面の有機カルボン酸の被着量)
BTナノ結晶の粉末5gをアルミナ坩堝に入れ、130℃の恒温槽中で30分間加熱し、乾燥後の固形分の質量W1(g)を測定する。次いで、乾燥後の固形分を800℃で2時間焼成し、焼成後の固形分の質量W2(g)を測定する。上記の焼成時に結晶表面に被着している有機カルボン酸が分解し、揮発する。得られたW1およびW2を用いて、下記式より有機カルボン酸の被着量(質量%)を求める。
有機カルボン酸の被着量=(1-W2/W1)×100
【0035】
[チタン酸バリウムナノ結晶の製造方法]
本発明の一実施形態に係る製造方法(BTナノ結晶を含む粉末の製造方法)は、バリウムを含む水溶性の化合物と、チタンを含む化合物と、有機カルボン酸と、アルカリ成分と、水と、を含む原料混合物を得る調製工程と、原料混合物を加熱し、BTナノ結晶を得る加熱工程と、を含む。BTナノ結晶は、キューブ状またはキューブ状に近い形状を有し得る。
【0036】
チタンを含む化合物は、四塩化チタンおよび非晶質水酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。原料混合物において、バリウムイオンに対する有機カルボン酸のモル比は、0.5以上、2.0以下であり、かつ、バリウムイオンに対する水酸化物イオンのモル比は、3.4超、6.0以下である。
【0037】
バリウムイオンに対する有機カルボン酸のモル比は、Baイオンのモル量に対する有機カルボン酸のモル量の比であり、以下、(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比とも称する。バリウムイオンに対する水酸化物イオンのモル比は、Baイオンのモル量に対する水酸化物イオンのモル量の比であり、以下、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比とも称する。なお、上記のBaイオンのモル量とは、原料混合物において、バリウムを含む水溶性の化合物由来のBaの全てがイオンとして存在するときのBaイオンのモル量を指す。
【0038】
上記の有機カルボン酸のモル量とは、原料混合物に投入される有機カルボン酸のモル量を指し、有機カルボン酸は電離していてもよく、電離していなくてもよい。ただし、有機カルボン酸の1分子中にカルボキシ基が2つ以上含まれる場合(有機カルボン酸が、例えば、ジカルボン酸またはカルボン酸無水物(原料混合物中ではその加水分解物)である場合)、有機カルボン酸のモル量は、有機カルボン酸に含まれるカルボキシ基のモル量に換算する。
【0039】
上記の水酸化物イオンのモル量とは、原料混合物中に存在している水酸化物イオンのモル量を指す。原料混合物中に存在している水酸化物イオンとは、原料に含まれるアルカリ成分および酸成分の中和反応後の原料混合物において残存している水酸化物イオンを指す。水酸化物イオンのモル量は、原料の仕込み量から算出することができる。
【0040】
チタン源に特定の化合物を用い、かつ、(有機カルボン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比を特定の範囲に調節することにより、シングルナノサイズの微細なBTナノ結晶を含みつつ、分散性に優れた粉末を得ることができる。微細なBTナノ結晶を含む粉末の分散性が向上する理由は明らかでないが、チタン源に用いる化合物および上記の2つのモル比が、BTナノ結晶の微細化および粉末の分散性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0041】
粉末の分散性を高める方法としては、粉末に分散剤を添加して、ビーズミルにより強力なシェアをかける方法が考えられる。しかし、この方法では、ビーズに由来する不純物が混入して、粉末の品質が低下し易い。低品質の粉末は、例えば、電子デバイスの性能を低下させる。また、時間と手間がかかり、コストおよび生産性の面でも不利である。
【0042】
一方、本発明の実施形態に係るBTナノ結晶の製造方法は、上記のビーズミルを用いる方法とは異なり、原料に用いる有機カルボン酸を利用して効率的に粉末の分散性を高めることができ、生産性の面で有利である。また、本実施形態の製造方法では、ビーズを用いないため、ビーズ由来の不純物の混入による粉末の品質低下が抑制され、当該粉末の品質低下に伴う電子デバイスの性能低下が抑制される。
【0043】
本実施形態の製造方法では、BTナノ結晶の円相当径の変動係数が20%以下である粉末を得ることができる。一方、上記のビーズミルを用いる方法では、ビーズの強い衝撃による粉末の更なる微細化に伴い結晶サイズが不均一化し易く、上記の変動係数が20%以下の粉末を得ることは難しい。
【0044】
本実施形態の製造方法では、Lc/Ldが0.9以上、1.1未満である高結晶性のBTナノ結晶を含む粉末を得ることができる。一方、上記のビーズミルを用いる方法では、ビーズの強い衝撃により粉末の結晶性が低下し易く、Lc/Ldが上記範囲内の高結晶性のBTナノ結晶を含む粉末を得ることは難しい。
【0045】
(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比が0.5未満である場合、結晶表面に付着している有機カルボン酸の量が小さくなり、BTナノ結晶が不均一に成長し、平均円相当径Ldが12nmよりも大きくなることがある。また、粉末の分散性も低下する。結晶表面に有機カルボン酸が付着していることが、粉末の分散性向上の要因の一つとして考えられる。(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比が2を超える場合、原料混合物の粘度が上昇し、得られるBTナノ結晶のサイズが不均一化し、平均円相当径Ldが12nmよりも大きくなることがある。また、反応性が低下し、BTナノ結晶が十分に得られない。
【0046】
(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が小さいほど、平均円相当径Ldおよび結晶子径Lcが大きくなる傾向がある。(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が3.4以下である場合、平均円相当径Ldおよび結晶子径Lcが12nmよりも大きくなることがある。また、粉末の分散性が低下することがある。(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が6超である場合、結晶成長が不均一化し、粗大な結晶の存在等によりサイズばらつきが増大する。
【0047】
(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、3.6以上、6.0以下であってもよく、3.8以上、5.5以下であってもよく、3.8以上、5.0以下であってもよい。
【0048】
原料混合物中の水酸化物イオンの濃度は、例えば、0.5mol/L以上、3.0mol/L以下であってもよく、0.8mol/L以上、2.0mol/L以下であってもよい。なお、原料混合物中の水酸化物イオンの濃度は、原料混合物中に存在している水酸物イオンのモル量を、原料混合物の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0049】
[原料混合物の調製工程]
本工程では、バリウムイオン(Ba2+)およびチタンを含む原料混合物を得る。原料混合物中のチタンは、チタンイオン(Ti4+)および/または化合物(例えば沈殿)の状態で存在しうる。原料混合物の調製において、バリウム源(バリウムを含む水溶性の化合物)と、チタン源(チタンを含む化合物)とは、例えば、チタンに対するバリウムのモル比:Ba/Tiが0.95以上、1.5以下(好ましくは0.97以上、1.2以下)の範囲内となるように加えればよい。この場合、高結晶性のBTナノ結晶が得られ易い。調製工程では、バリウムを含む水溶性の化合物と、チタンを含む化合物と、水と、を加えて、バリウムイオンおよびチタンを含む水溶液(または混合物)を得た後、当該水溶液(または混合物)に有機カルボン酸とアルカリ成分とを添加してもよい。バリウムを含む水溶性の化合物およびチタンを含む化合物は、それぞれ水溶液として用いてもよい。
【0050】
バリウムを含む水溶性の化合物は、例えば、水溶性のバリウム塩であり、上記の調製工程で水に溶解するものであってもよく、上記の調製工程では水に溶解しにくいが、上記の加熱工程での加熱により溶解するもの(例えば、オレイン酸バリウム等の高級脂肪酸のバリウム塩)であってもよい。水溶性バリウム塩としては、塩化バリウム、水酸化バリウム、脂肪酸のバリウム塩、硝酸バリウム等が挙げられる。中でも、水溶性バリウム塩は、水酸化バリウムが好ましい。水酸化バリウムはチタン酸バリウムおよび水の構成元素以外の他の元素を含まない。よって、バリウム源に水酸化バリウムを用いる場合、BTナノ結晶の合成において他の元素に由来する不純物の混入が抑制され、高品質のBTナノ結晶が安定して得られ易い。バリウムを含む水溶性の化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
原料混合物中のBaイオンの濃度は、0.2mol/L以上、2.0mol/L以下であってもよく、0.2mol/L以上、1.0mol/L以下であってもよい。この場合、高品質のチタン酸バリウムナノ結晶を効率的に得易い。なお、原料混合物中のBaイオンの濃度は、原料混合物において水溶性バリウム塩由来のBaの全てがイオンとして存在するときのBaイオンのモル量を、原料混合物の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0052】
(チタンを含む化合物)
チタンを含む化合物は、四塩化チタンおよび非晶質水酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。これらの化合物を用いる場合、BTナノ結晶を微細化しつつ、結晶サイズの均一性を高めることができる。
【0053】
なお、水酸化チタンが非晶質であることは、CuKα線のX線回折(XRD)測定で得られる水酸化チタンのXRDパターンに基づいて確認することができる。具体的には、水酸化チタンのXRDパターンにおいて、2θが20°以上、22°以下の範囲における反射強度の平均値Bおよび標準偏差σと、2θが24°以上、26°以下の範囲における反射強度の最大値Pとが、(P-B)<20×σの関係を満たす場合、水酸化チタンは非晶質であるとみなす。
【0054】
ここで、
図1は、非晶質水酸化チタンおよび結晶性水酸化チタンのXRDパターンの一例を示す。
図1中のa1は、後述の実施例2の粉末作製に用いる非晶質水酸化チタンのXRDパターンを示す。
図1中のb1は、後述の比較例7の粉末作製に用いる結晶性水酸化チタンのXRDパターンを示す。a1のXRDパターンでは、(P-B)=71.7および20×σ=152.6であり、上記の関係を満たす。b1のXRDパターンでは、(P-B)=258.1および20×σ=169.0であり、上記の関係を満たさない。
【0055】
非晶質水酸化チタンは、例えば、四塩化チタン水溶液を5℃~40℃に保持しながら、水酸化ナトリウム等を含むアルカリ溶液を加えて加水分解させ、コロイド状の非晶質水酸化チタンを析出させることにより得られる。
【0056】
(有機カルボン酸)
有機カルボン酸は、結晶サイズを制御する役割を有する。有機カルボン酸はチタン酸バリウムの結晶表面に配位し、これにより結晶成長が制御され、結晶サイズを調節することができる。
【0057】
有機カルボン酸は、主鎖の炭素数が6以上の脂肪酸を含むことが好ましい。脂肪酸の主鎖の炭素数は、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。脂肪酸は、飽和脂肪酸でも、不飽和脂肪酸でもよい。主鎖の炭素数が15以上の飽和脂肪酸は、例えば、パルミチン酸、およびステアリン酸等を含む。主鎖の炭素数が15以上の不飽和脂肪酸は、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、およびアラキドン酸等を含む。六面体のナノ結晶を得易い観点から、中でも、オレイン酸が好ましい。有機カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
原料混合物において、(有機カルボン酸/Baイオン)のモル比は、0.7以上、1.65以下であってもよく、0.7以上、1.5以下であってもよい。この場合、チタン酸バリウムの結晶の(100)面と(111)面とがバランス良く成長し易く、結晶の形状やサイズのばらつきも低減できる。
【0059】
原料混合物中の有機カルボン酸(例えば、オレイン酸)の濃度は、例えば、0.15mol/L以上、0.5mol/L以下であってもよい。なお、原料混合物中の有機カルボン酸の濃度は、原料混合物に投入される有機カルボン酸のモル量を、原料混合物の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0060】
(アルカリ成分)
原料混合物にアルカリ成分を含ませることにより、結晶成長を促進させたり、結晶形状のばらつきを小さくしたりすることができる。コスト低減および環境負荷の軽減等の観点から、アルカリ成分は、アルカリ金属の水酸化物を含むことが好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等を含む。中でも、アルカリ金属の水酸化物は、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0061】
原料混合物中の水酸化ナトリウムの濃度は、例えば、0.5mol/L以上、3.0mol/L以下であってもよい。なお、原料混合物中の水酸化ナトリウムの濃度は、原料混合物に投入される水酸化ナトリウムのモル量を、原料混合物の調製に用いられる各原料(水を含む)に含まれる水の総量(リットル)で除して求められる値を指す。
【0062】
アルカリ成分は、結晶形状のばらつきを小さくする目的でアミン化合物を含んでもよい。アミン化合物は、例えば、tert-ブチルアミン等の1級アミン化合物、ジメチルアミン等の2級アミン化合物、トリメチルアミン等の3級アミン化合物を含む。アミン化合物は、生態毒性が強く、高価である等の観点から、アルカリ成分はアミン化合物を含まないことが好ましい。アミン化合物を用いずに、アルカリ金属の水酸化物を用いて水酸化物イオンの濃度を調整することにより、結晶形状のばらつきを小さくすることができる。
【0063】
[原料混合物の加熱工程]
本工程では、原料混合物を加熱し、チタン酸バリウムを合成する。すなわち、BTナノ結晶を得る。水熱反応を利用してチタン酸バリウムを得ることができ、原料混合物を撹拌しながら加熱すればよい。高品質のBTナノ結晶を効率的に得易い観点から、加熱温度は、150℃以上、240℃以下であることが好ましい。加熱温度が150℃以上の場合、チタン酸バリウムの合成反応が円滑に進み易い。加熱温度が240℃以下の場合、有機カルボン酸の分解が抑制され、有機カルボン酸による結晶の形状制御の効果がより確実に得られる。反応を十分に進行させ、生産性を高める観点から、加熱時間は、例えば、1時間以上、80時間以下であってもよく、12時間以上、48時間以下でもよい。
【0064】
[BTナノ結晶の洗浄工程]
更に、加熱工程の後、BTナノ結晶をアルコールに分散させて洗浄する洗浄工程を行ってもよい。アルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール等が用いられる。洗浄工程では、加熱工程で得られたBTナノ結晶と、水(水に溶解している有機カルボン酸等の残留成分を含む。)とを分離する。洗浄工程の後においても、結晶表面には有機カルボン酸がある程度付着している。
【0065】
洗浄工程は、例えば、加熱工程後の反応液(BTナノ結晶を含む水)にアルコールを加えた後、遠心分離により沈殿物を得る工程(a)と、沈殿物をアルコールに分散させた後、遠心分離により沈殿物を得る工程(b)とを含む。工程(b)は、複数回繰り返し行ってもよい。工程(a)では、遠心分離の前に、反応液とアルコールとを十分に混合させておくことが好ましい。
【0066】
[BTナノ結晶の分級工程]
更に、加熱工程の後、BTナノ結晶を非極性の分散媒に分散させ、遠心分離により分級する分級工程を行ってもよい。分級工程は、洗浄工程の後に行うことが好ましい。分散方法としては、例えば、超音波処理や撹拌翼による撹拌等が挙げられる。非極性の分散媒は、低極性の有機分散媒を含む。上記の分散媒としては、非極性(低極性)の芳香族炭化水素系分散媒(例えば、トルエン、ベンゼン)や脂肪族炭化水素系分散媒(例えば、ヘキサン)を用いることができる。分級工程では、チタン酸バリウムの結晶から粗大なものを除去し、適度なサイズのBTナノ結晶を回収する。
【0067】
[BTナノ結晶を含む粉末を得る工程]
上記の洗浄工程および/または分級工程の後、風乾等により上澄み液中の分散媒を除去し、BTナノ結晶の粉末を得てもよい。このとき、粉末に含まれるBTナノ結晶の表面には有機カルボン酸の残留分がある程度被着している。BTナノ結晶は、分散媒に分散させた状態で保管するよりも粉末状にして保管する方が、省スペース化、取り扱い易さ(管理し易さ)、およびコスト等の面で有利である。
【0068】
本発明の一実施形態に係る製造方法(BTナノ結晶を含む粉末の製造方法)は、以下の(1)および(2)のうちの少なくとも1つに記載の構成を満たしてもよい。
(1)原料混合物において、バリウムイオンに対する有機カルボン酸のモル比は、0.5以上であり、0.8以上であってもよい。当該モル比は、2.0以下であり、1.6以下であってもよい。当該モル比は、0.5以上で1.6以下であってもよく、0.8以上で2.0以下であってもよく、0.8以上で1.6以下であってもよい。
(2)原料混合物において、バリウムイオンに対する水酸化物イオンのモル比は、3.4より大きく、3.8以上であってもよい。当該モル比は、6.0以下であり、5.3以下であってもよい。当該モル比は、3.4より大きく5.3以下であってもよく、3.8以上で6.0以下であってもよく、3.8以上で5.3以下であってもよい。
【0069】
[実施例]
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
《実施例1》
(原料混合物の調製工程)
容量300mLのポリテトラフルオロエチレン製ビーカーに、四塩化チタン水溶液7gと、イオン交換水50gと、水酸化バリウム八水和物6gとを投入し、3分間撹拌した。このようにして、チタン源である四塩化チタンおよびバリウム源である水酸化バリウムを含む水溶液を得た。四塩化チタン水溶液には、大阪チタニウムテクノロジーズ社製の四塩化チタン水溶液(濃度:TiO2換算で3.9mol/L)を用いた。水酸化バリウム八水和物には、富士フイルム和光純薬社製の製品コード020-00242(試薬特級)を用いた。
【0070】
チタン源およびバリウム源を含む水溶液を撹拌しながら、当該水溶液に、7.5M水酸化ナトリウム水溶液15.8mLと、オレイン酸5.9mLとを、この順に加え、5分間撹拌した。水酸化ナトリウムには、富士フイルム和光純薬社製の製品コード198-13765(試薬特級)を用いた。オレイン酸には、ミヨシ油脂社製の製品名PM500を用いた。このようにして、原料混合物を調製した。原料混合物中に含まれるBaとTiのモル比は、1:1であった。
【0071】
原料混合物中のBaイオンおよびチタンの濃度は、それぞれ0.25mol/Lであった。原料混合物中の水酸化ナトリウムの濃度は、1.63mol/Lであった。原料混合物中のオレイン酸の濃度は、0.20mol/Lであった。原料混合物中の水酸化物イオンの濃度は、1.01mol/Lであった。原料混合物において、(オレイン酸/Baイオン)のモル比は、0.80であった。原料混合物において、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、4.04であった。
【0072】
(原料混合物の加熱工程)
上記で調製した原料混合物を、容量100mLのPTFE製容器(三愛科学社製、HUT-100)に移し、ホットスターラー反応分解装置(三愛科学社製、アルミブロック:RDV-TMS-100およびホットスターラー:HHE-19G-U)を用いて撹拌しながら加熱した。撹拌は回転数536rpmで行い、加熱温度は230℃とし、加熱時間は24時間とした。このようにして、水中でチタン酸バリウムを合成した。すなわち、BTナノ結晶を得た。
【0073】
(BTナノ結晶の洗浄工程)
加熱工程で得られたBTナノ結晶をエタノールに分散させて洗浄した。
具体的には、水熱反応後の反応液(BTナノ結晶を含む水)にエタノールを20mL加え、これを遠沈管に移し、遠沈管を50℃~70℃で温度制御された温浴中で5分間静置することで加熱した後、遠沈管を振ることで撹拌し、反応液をエタノールに分散させた。遠沈管をテーブルトップラボ遠心機(Sigma社製、3-16L)にセットし、遠心加速度2500Gで遠心分離を10秒間行い、上澄み液を全量除去し、沈殿物を得た(工程(a))。
【0074】
次に、遠沈管内の沈殿物にエタノールを40mL加えた後、上記と同様に加熱および撹拌を行い、沈殿物をエタノールに分散させた。その後、上記と同様に遠心分離を行い、上澄み液を全量除去し、沈殿物を得た(工程(b))。工程(b)を2回行った。
【0075】
(BTナノ結晶を含む粉末を得る工程)
洗浄工程の後、BTナノ結晶の分散液を蒸発皿に移し、ドラフト内で一晩風乾させ、BTナノ結晶を含む粉末を得た。
【0076】
《実施例2および比較例4》
非晶質水酸化チタンを、以下の方法により作製した。
四塩化チタン水溶液(大阪チタニウムテクノロジーズ社製、濃度:TiO
2換算で3.9mol/L)の7.4mLに水74mLを加えた後、温度36℃で撹拌しながら7.5M水酸化ナトリウム水溶液9.5mLを加え、さらに5分間撹拌した。このようにして、四塩化チタンを加水分解させて、沈殿物を得た。水酸化ナトリウムには、富士フイルム和光純薬社製の製品コード198-13765(試薬特級)を用いた。得られた沈殿物を濾過し、これを濾液の電導度が5mS/m以下になるまで純水で洗浄した。このようにして非晶質水酸化チタンを得た。得られた非晶質水酸化チタンのXRDパターンは、
図1中のa1に示す。
【0077】
非晶質水酸化チタンを水に分散させ、非晶質水酸化チタンを含むスラリー(濃度:Ti換算で0.52mol/L)を得た。原料混合物の調製工程において、四塩化チタン水溶液の代わりに非晶質水酸化チタンを含むスラリーを用いた。
【0078】
また、原料混合物の調製工程において、チタン源およびバリウム源を含む水溶液に加える水酸化ナトリウムの量を変えて、原料混合物中の水酸化ナトリウムの濃度を、それぞれ表1に示す値とした。原料混合物中の水酸化物イオンの濃度および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。
上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を含む粉末を作製した。
【0079】
【0080】
《実施例3および比較例2、3、5》
原料混合物の調製工程において、水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料混合物中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。原料混合物中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。
上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を含む粉末を作製した。
【0081】
《比較例1》
原料混合物の調製工程において、四塩化チタン水溶液の代わりにチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド(TALH)水溶液を用いた。
【0082】
また、水酸化ナトリウムの投入量を変えて、原料混合物中の水酸化ナトリウムの濃度を、表1に示す値とした。原料混合物中の水酸化物イオンの濃度および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。
上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を含む粉末を作製した。
【0083】
《比較例6》
原料混合物の調製工程において、水酸化バリウム八水和物(バリウム源)および非晶質水酸化チタンを含むスラリー(チタン源)の投入量を変えて、原料混合物中のBaイオンおよびチタンの濃度を、それぞれ表1に示す値とした。
【0084】
また、原料混合物の調製工程において、水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料混合物中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。原料混合物中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。
上記以外、比較例4と同様の方法によりBTナノ結晶を含む粉末を作製した。
【0085】
《比較例7》
結晶性水酸化チタンを、以下の方法により作製した。
四塩化チタン水溶液(大阪チタニウムテクノロジーズ社製、TiO
2換算で3.9mol/L)の6.8mLに水74.4mLを加えた後、温度60℃で撹拌しながら7.5M水酸化ナトリウム水溶液を8.8mL加え、さらに5分間撹拌した。このようにして、四塩化チタンを加水分解させて沈殿物を得た。水酸化ナトリウムには、富士フイルム和光純薬社製の製品コード198-13765(試薬特級)を用いた。得られた沈殿物を濾過し、濾液の電導度が5mS/m以下になるまで純水で洗浄した。このようにして結晶性水酸化チタンを得た。得られた結晶性水酸化チタンのXRDパターンを
図2中のb1に示す。
【0086】
結晶性水酸化チタンを水に分散させ、結晶性水酸化チタンを含むスラリー(濃度:Ti換算で0.52mol/L)を得た。原料混合物の調製工程において、四塩化チタン水溶液の代わりに結晶性水酸化チタンを含むスラリーを用いた。
【0087】
また、原料混合物の調製工程において、水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の投入量を変えて、原料混合物中の水酸化ナトリウムおよびオレイン酸の濃度を、それぞれ表1に示す値とした。原料混合物中の水酸化物イオンの濃度、(オレイン酸/Baイオン)および(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比は、表1に示す値であった。
上記以外、実施例1と同様の方法によりBTナノ結晶を含む粉末を作製した。
【0088】
[評価]
上記で得られた実施例の各粉末についてXRD測定を行い、チタン酸バリウム単相であることを確認した。また、上記で得られた実施例および比較例の各粉末について、それぞれ、以下の評価を行った。既述の方法(上記(i)~(iv)の手順)により、平均円相当径Ldおよび円相当径の変動係数を求めた。
【0089】
なお、上記(iii)の画像処理については、画像解析ソフト(三谷商事社製、WinROOF2015)を用いて、粉末試料のTEM画像について、以下の手順で処理を行った。
粉末試料のTEM像を上記の画像解析ソフトで読み込み、スケールのキャリブレーションを行った。具体的には、「マニュアルキャリブレーション」機能を用い、TEM像の分析条件欄に記載されているスケールバーの長さを図り、実寸値と対応させた。次に、長方形ROIにより、上記のTEM像の下方に表示されている分析条件欄を除く全ての領域を選択し、選択領域の切り抜きを行い、結晶粒子に関する画像領域を抽出した。次に、TEM像のコントラストを強調するため、「明るさ・コントラスト」機能を用い、コントラスト値を60とした。次に、輝度を平均化するため、メディアン処理を行った。メディアン処理は、「フィルタ」機能を用い、フィルタサイズを9×9ピクセルとした。次に、TEM像における結晶粒子と背景との境界を強調するため、鮮鋭化処理を行った。鮮鋭化処理は、「エッジ」機能を用い、フィルタサイズを7×7ピクセルとした。さらに、上記処理後の画像について、輝度ヒストグラムを元に、輝度範囲の指定による二値化処理を行った。閾値の下限は0に設定し、閾値の上限はヒストグラムのピークトップに設定した。閾値設定後、二値化処理が不十分な個所については、ペンツールを使用して若干の修正を行った。
【0090】
平均円相当径Ldを求める過程で用いた粉末試料のTEM画像を
図2~11に示す。
図2~4は、実施例1~3の粉末試料のTEM画像を示す。
図5~11は、比較例1~7の粉末試料のTEM画像を示す。
【0091】
また、既述の方法により、結晶子径Lc、平均粒子径Lp、およびBTナノ結晶のBa/Tiモル比、BTナノ結晶表面の有機カルボン酸(オレイン酸)の被着量を求めた。
【0092】
実施例1~3および比較例1~7のBTナノ結晶を含む粉末の評価結果を表2に示す。表2の粉末の分散性に関して、○は分散性が優れていることを表し、×は分散性が低いことを表す。
【0093】
【0094】
実施例1~3では、平均円相当径Ldおよび結晶子径Lcが12nm以下であり、平均粒子径Lpが18nm以下であった。また、凝集度(Lp/Ld)が2未満であり、結晶化度(Lc/Ld)が0.9以上であった。このように、実施例1~3では、微細でありながら、高結晶であり、かつ、優れた分散性を有するBTナノ結晶の粉末が得られた。このような粉末をMLCCの共材に用いる場合、微細な電極材料を均質に被覆することができ、MLCCの小型化および信頼性の向上に有利である。また、このような粉末を樹脂に添加する場合、高透明性を有し、屈折率や誘電率に優れるフィルムを得ることができる。
【0095】
比較例1~7はいずれも、平均粒子径Lpが非常に大きく、凝集度が2を大きく超えており、低分散性の粉末が得られた。チタン源にTALHを用いた比較例1では、平均円相当径Ldおよび結晶子径Lcが実施例3と同程度であったが、円相当径の変動係数が20%を超えており、結晶サイズのばらつきが大きな粉末が得られた。また、平均粒子径Lpも234.9nmと非常に大きく、粉末の分散性も低かった。
【0096】
比較例2、6では、結晶化度が0.9未満であり、低結晶性のBT粒子が得られた。これは、比較例2では(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が3.4未満であり、比較例6では(オレイン酸/Baイオン)のモル比が2を超えているため、反応性が低下したことによるものと考えられる。
【0097】
比較例4、5では、結晶化度が0.9を超えており、平均円相当径Ldが比較例1と同程度であるが、円相当径の変動係数がさらに増大した。これは、比較例4では(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が6を超えており、比較例5では(オレイン酸/Baイオン)のモル比が0.5未満であるため、反応性が高く、粗大な結晶粒子が生成したことによるものと考えられる。
【0098】
比較例3では、平均円相当径Ldおよび結晶子径Lcのいずれも30nmを超えた。また、結晶のBa/Tiモル比が0.95を大きく下回っていることから、結晶中にチタン酸バリウム以外の化合物が含まれているものと考えられる。
【0099】
比較例3では、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が3.4を大きく下回っており、反応性が著しく低下した。また、(オレイン酸/Baイオン)のモル比が0.5を下回っており、水熱反応時にBaイオンの多くがオレイン酸との反応に寄与できなかった。よって、未反応のBaイオンが多く残留し、洗浄工程で取り除かれた。このため、結晶のBa/Tiモル比が非常に小さくなったものと考えられる。
【0100】
比較例7では、(水酸化物イオン/Baイオン)のモル比が3.4超、6.0以下および(オレイン酸/Baイオン)のモル比が0.5以上、2.0以下の範囲内であったが、チタン源に結晶性水酸化チタンを用いたため、平均円相当径Ldおよび結晶子径Lcが20nmよりも大きくなり、分散性も低下した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明に係るチタン酸バリウムナノ結晶は、積層コンデンサ等の電子デバイスに有用である。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【要約】
本発明は、微細なチタン酸バリウムナノ結晶を含む粉末の分散媒中での分散性を高めることを目的とする。
本発明の粉末はチタン酸バリウムナノ結晶を含み、上記粉末の透過型電子顕微鏡による像を用いて求められる上記粉末の平均円相当径Ldが、12nm以下である。上記粉末のX線回折測定で得られるX線回折パターンにおけるチタン酸バリウムナノ結晶の(111)面に対応する回折ピークの半値全幅を用いてScherrerの式により求められるチタン酸バリウムナノ結晶の結晶子径Lcが、12nm以下である。チタン酸バリウムナノ結晶の表面に有機カルボン酸が被着しており、上記粉末を非極性の分散媒中に分散させて動的光散乱法により求められる上記粉末の平均粒子径Lpが、18nm以下である。