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特許7156592ガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムおよびそれを用いた積層フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムおよびそれを用いた積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20221012BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221012BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B15/082 Z
B32B27/30 102
C23C14/06 N
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018567382
(86)(22)【出願日】2018-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2018003152
(87)【国際公開番号】W WO2018147137
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2017020180
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝司
(72)【発明者】
【氏名】石井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊樹
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-300875(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0092526(KR,A)
【文献】特開2004-323616(JP,A)
【文献】特開2015-030113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム表面の少なくとも片面に、膜厚が25nm以上、125nm以下のアルミニウム金属層から膜厚が5nm以上、25nm以下の酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層が形成され、さらにその上に膜厚が0.1~4μmのガスバリア樹脂層が積層され、該ガスバリア樹脂層はビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物を重縮合して得られるガスバリア性組成物からなり、蒸着層とガスバリア樹脂層の間の密着強度が3.0N/15mm以上であり、5%引っ張り後の水蒸気透過率が0.1g/m ・24hr以下であり、酸素透過率が0.1cc/m ・24hr・atm以下であり、屈曲疲労試験後の水蒸気透過率が0.5g/m ・24hr以下であり、酸素透過率が0.2cc/m ・24hr・atm以下であり、赤外分光光度計を使用して、反射装置の相対反射角度12度で測定をした赤外線反射率が60%以上であることを特徴とするガスバリア性アルミニウム蒸着フィルム。
【請求項2】
シーラントフィルムとガスバリア性フィルムとプラスチックフィルムがこの順で積層され、ガスバリア性フィルムが、請求項1に記載のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムからなることを特徴とする積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた酸素および水蒸気バリア性能を有し、ラミネート強度、耐屈曲性、耐引張性を有するガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム箔を用いた包装材料は、金属光沢による意匠性に加え、光遮断性・優れたガスバリア性能を有することから、レトルト食品用包装材料をはじめとする包装材料や、冷蔵庫用の断熱材、住宅用の断熱パネル等の真空断熱材用外層包装材料として用いられている。しかし、アルミニウム箔を用いた包装材料は、ピンホールが発生しやすいことからアルミニウム箔の取り扱いが難しく、焼却後の残渣のために焼却炉に対する負荷が大きいという問題があった。
【0003】
上記のアルミニウム箔の問題点を解消するため、ポリエステルフィルム等の熱可塑性フィルムに真空蒸着法等の物理気相成長法を用いたアルミニウム蒸着フィルムがアルミニウム箔代替品として使用されている。しかし、アルミニウム蒸着フィルムは、ボイル・レトルト食品用途にはガスバリア性能が不十分であり、さらにボイル・レトルト殺菌時に蒸着アルミニウム層が消失し、ガスバリア性能が大幅に悪化することから使用できるものではなかった。
【0004】
ボイル・レトルト食品用途のためのガスバリア性フィルムとして、プラスチックフィルムの少なくとも片面に、無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される蒸着層と、特定の樹脂層を積層したガスバリア性フィルムが開示されている(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
また、アルミニウム蒸着フィルムの耐アルカリボイル性、耐酢酸レトルト性を向上させ、アルミニウム蒸着層の外観変化を抑えるため、基材(a)、金属蒸着層(b)および保護層(c)がこの順序で積層されてなる積層体であり、保護層(c)が特定のダイマー酸系ポリアミド樹脂を含有するものが開示されている(例えば特許文献2を参照)。
【0006】
一方で、アルミニウムの熱伝導率は約200W/m・Kであり、代表的な包装材料の素材であるポリエチレンテレフタレートの熱伝導率の約0.14W/m・Kや空気の熱伝導率約0.02W/m・Kに比べ大きいことから、アルミニウム箔を積層した断熱材は、熱がアルミニウム箔部分を伝って移動するヒートブリッジが発生し、真空断熱材の断熱性能が大幅に低下するという問題があった。また、真空断熱材用フィルムは、外部からのガス(空気)の侵入を防ぎ、長期間の真空状態を保持するために優れたガスバリア性能が求められる。さらに、近年、真空断熱材の周囲のヒレ部(溶着シールした部分)は、芯材が入っている部分に比べて断熱性能が低く、全体の断熱性能を保つために、ヒレ部は折り曲げられ、また、真空断熱材自体も、複雑な形状(例えば、円弧形状や直角形状)の箇所に用いられる場合、収納スペースの形状に従って変形されるようになっている。以上のことより、真空断熱材用フィルムには、折り曲げや変形に際してガスバリア性能が低下しないことも求められている。
【0007】
この真空断熱用途におけるアルミニウム箔の問題を解消するため、すなわち真空断熱材のヒートブリッジ低減とガスバリア性の向上とを両立するため、無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される蒸着層と、特定の樹脂層を積層したガスバリア性フィルムを積層した真空断熱材料が開発されている(例えば特許文献3を参照)。 また、2枚の透明バリアフィルムをポリオレフィン樹脂で押出ラミネーションにより貼り合せた真空断熱材用フィルムが提案されている(例えば特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-131756号公報
【文献】特開2012-210744号公報
【文献】特開2005-132004号公報
【文献】特開2007-290222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係るガスバリア性フィルムは、透明なガスバリア性フィルムであって、アルミニウム箔に代わるものではない。
【0010】
特許文献2に係る積層体は、ガスバリア性能が十分なものではなかった。
【0011】
特許文献3に係る真空断熱材料は、透明なガスバリア性フィルムであって、熱伝導のうち輻射に対しては、熱が赤外線として伝わることにより、真空中でも熱が伝導してしまうため、赤外線反射率が十分なものではなかった。
【0012】
特許文献4に係る真空断熱材用フィルムは、透明バリアフィルムに押出されたポリオレフィン樹脂の熱によって、蒸着層が劣化しガスバリア性が低下するという問題を有していた。
【0013】
本発明は、優れた酸素および水蒸気バリア性能を有し、ラミネート強度、耐屈曲性、耐引張性を有するガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムおよびそれを用いた積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。
【0015】
(1)基材フィルム表面の少なくとも片面に、膜厚が25nm以上、125nm以下のアルミニウム金属層から膜厚が5nm以上、25nm以下の酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層が形成され、さらにその上に膜厚が0.1~4μmのガスバリア樹脂層が積層され、該ガスバリア樹脂層はビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物を重縮合して得られるガスバリア性組成物からなり、蒸着層とガスバリア樹脂層の間の密着強度が3.0N/15mm以上であり、5%引っ張り後の水蒸気透過率が0.1g/m ・24hr以下であり、酸素透過率が0.1cc/m ・24hr・atm以下であり、屈曲疲労試験後の水蒸気透過率が0.5g/m ・24hr以下であり、酸素透過率が0.2cc/m ・24hr・atm以下であり、赤外分光光度計を使用して、反射装置の相対反射角度12度で測定をした赤外線反射率が60%以上であることを特徴とするガスバリア性アルミニウム蒸着フィルム。
【0021】
)シーラントフィルムとガスバリア性フィルムとプラスチックフィルムがこの順で積層され、ガスバリア性フィルムが、上記のいずれかに記載のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムからなることを特徴とする積層フィルム。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた酸素および水蒸気バリア性能を有し、ラミネート強度、耐屈曲性、耐引張性を有するガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムおよびそれを用いた積層フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明のガスバリア性アルミウム蒸着フィルムは、基材フィルム表面の少なくとも片面に、膜厚が25nm以上のアルミニウム金属層から膜厚が5nm以上の酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層が形成され、さらにその上に膜厚が0.1~4μmのガスバリア樹脂層が積層され、該ガスバリア樹脂層はビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物を重縮合して得られるガスバリア性組成物からなることを特徴とする。
【0025】
背景技術で述べたように、従来技術によるアルミニウム蒸着フィルムのガスバリア性能はアルミニウム箔に比べて不十分であるが、アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層と特定のガスバリア樹脂層を設けることで、アルミニウム金属層の不完全なガスバリア性能を補うだけではなく、酸化アルミニウム蒸着層が蒸着層とガスバリア樹脂層との密着強化層の効果を発揮し、ガスバリア樹脂層を構成する樹脂が本来有するガスバリア性能を発揮する。
【0026】
[基材フィルム]
本発明のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムにおける基材フィルムとしては、用途により耐薬品性、機械的強度(フィルムのコシ、外部からの磨耗、突き刺し強度)、耐熱性、耐候性などの特性を考慮する限り特に制限はされないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルムなどが用いられる。好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムが実用的である。
【0027】
基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、通常延伸(一軸または二軸)されているものが機械特性や厚さの均一性に優れ、二軸延伸フィルムがより好ましい。延伸法としては、ロール延伸、圧延延伸、ベルト延伸、テンター延伸、チューブ延伸や、これらを組み合わせた延伸などの慣用の延伸法が適用できる。
【0028】
基材フィルムの厚さは特に制限はないが、ポリエチレンテレフタレートフィルムであれば6μm~30μm程度、ポリプロピレンフィルムであれば20μm~40μm程度、ナイロンフィルムであれば10μm~30μm程度が実用的である。
【0029】
[アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層]
本発明においては、上記基材フィルム上にアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層を形成する。アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層とは、蒸着の初期にはアルミニウム金属層が形成され、膜が成長するにつれ酸化アルミニウムに変化する傾斜構造を有する蒸着層である。ところで、アルミニウム蒸着層は、蒸着後大気に取り出した段階でアルミニウム金属膜表面に薄い自然酸化膜が形成されるが、この自然酸化膜は高々3nm程度であり、本発明における酸化アルミニウム層は、後述する分析法によれば5nm以上である。好ましくは10~25nmである。25nmを超えるとアルミニウム金属層の金属調の外観が損なわれ、赤外線反射率が低下することがある。
【0030】
アルミニウム金属層の膜厚は25nm以上であることが重要である。25nm未満ではガスバリア性能が不十分であり、金属調の外観も不十分なものとなる場合がある。また、真空断熱材用途においては、赤外線反射率が60%未満となり断熱性能が不十分なものとなる場合がある。好ましくは40~125nmである。125nmを超えてもガスバリア性能は頭打ちであり、アルミニウム金属層蒸着時の凝集エネルギーが大きくなり、基材フィルムが熱で変形し、外観が実用に耐えない場合がある。
【0031】
アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層の全膜厚は、30~150nmであることが好ましい。膜厚が30nm未満では、目的とする酸素バリア性能、水蒸気バリア性能を発現することが困難となる。150nm以上では、蒸着層の凝集力が低下し、剥離が蒸着層内での凝集破壊によるものとなり、見かけのラミネート強度が低くなる。また、蒸着時の凝集エネルギーが大きくなり、基材フィルムが熱で変形し、外観が実用に耐えない状態になることがある。
【0032】
アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層の作成方法は、真空槽内でアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層が形成される方法が好ましい。蒸着のための方式は蒸着やスパッタリング等の公知の方法により行えばよいが、蒸着による方式が生産性の点から好ましく、そのためのアルミニウムの加熱蒸発も抵抗加熱、高周波加熱、電子ビーム加熱などの方法が適用できる。これら蒸着による方法において、反応性蒸着によりアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層を形成することが好ましい。すなわち、基材フィルムは一般に長尺であって、ロール状で供給され、真空槽中でロールから巻き出され蒸着が行われて再びロール状に巻き取られるが、蒸着の初期の段階で通常のアルミニウム金属層が形成され、蒸着の後半部分に酸素が導入され、金属アルミニウムと酸素の反応により酸化アルミニウムが形成されるというものである。蒸着の後半部分に導入した酸素は、基材フィルムの巻取り側から巻出し側に向って拡散するため、金属アルミニウム層と酸化アルミニウム層が厳密に分離して形成されるのではなく、基材フィルムが通過する蒸着ゾーンの位置に従ってアルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に酸素の反応が連続的に進み、組成が膜厚方向に連続的に変化する傾斜構造を形成する。
【0033】
[ガスバリア樹脂層]
本発明において、ガスバリア樹脂層は、ビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物を重縮合して得られるガスバリア樹脂を塗布してなるものである。これにより、下地層であるアルミニウム蒸着層を保護しガスバリア性を向上させることができる。すなわち、アルミニウム金属および酸化アルミニウムからなる蒸着層はピンホール、クラック、粒界などの欠陥が生じる可能性があり、それによりガスバリア性が劣化する恐れがあり、ガスバリア樹脂層は蒸着層のこれらの欠陥を補うとともにガスバリア性能そのものを強化することができる。
【0034】
ガスバリア性樹脂層を形成するための具体的方法は、蒸着層に対して親和性の高いビニルアルコール系樹脂を主剤とし、アルコキシ基を有する有機珪素化合物およびその加水分解物のいずれかを含む水溶液またはアルコール混合水溶液から形成される。
【0035】
ガスバリア樹脂層を形成する主剤としてのビニルアルコール系樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等のビニルアルコール系樹脂であれば特に限定することはない。その中では、特に、ポリビニルアルコールを本発明の塗剤に用いた場合に、ガスバリア性が優れるのでより好ましい。ここでいうポリビニルアルコールは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよく、特に限定されない。ガスバリア樹脂層を形成する塗剤には、さらにアルコキシ基を有する有機珪素化合物を添加する。アルコキシ基とは、アルキル基Rが酸素に結合したRO-の構造を有するものであり、加水分解による脱アルコール反応を経てシラノール基に変化するものであり、メトキシ基やエトキシ基が代表的なものである。これらアルコキシ基を有する珪素化合物とは、具体的にはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、ジメチルジエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシランなどがあげられ、中でもテトラエトキシシランが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0036】
ビニルアルコール系樹脂に対するアルコキシ基を有する有機珪素化合物の混合比率は、有機珪素化合物をSiO換算した質量比率で、ビニルアルコール系樹脂/有機珪素化合物=15/85~85/15の範囲が好ましく、40/60~60/40の範囲がさらに好ましい。SiO換算した質量比率とは、有機珪素化合物中の珪素原子のモル数からSiO質量に換算したものであり、ビニルアルコール系樹脂/有機珪素化合物(質量比)で表される。この値が85/15を超える場合は、ビニルアルコール系樹脂を固定化することができず、ガスバリア性能が低下する場合がある。一方、15/85未満であると、有機珪素化合物の比率が高くなり、ガスバリア樹脂層が固くなるため、耐屈曲性や引張性能が低下する場合がある。
【0037】
本発明において、ガスバリア樹脂層は上記ビニルアルコール系樹脂と1種以上の上記のアルコキシ基を有する有機珪素化合物およびその加水分解物の少なくとも一方を含む水溶液あるいはアルコール混合水溶液からなる塗剤を用いて形成される。上記のビニルアルコール系樹脂単独では、塗膜として固化する過程で分子鎖中の水酸基同士が水素結合で結合することで分子鎖が拘束され、酸素や窒素等のガスに対しては優れたバリア性能を発現するが、水分子に対しては水素結合が可塑化するためにバリア性能を発現することはできない。ビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物からなる樹脂組成物とすることで、有機珪素化合物同士で重縮合したシロキサン結合を骨格とする無機構造と、ビニルアルコール系樹脂のお互いの水酸基で水素結合、さらには脱水反応で酸素を介してSi-O-の共有結合を有するいわゆる有機無機ハイブリッド構造が出現する。このような構造においては単独のビニルアルコール系樹脂よりも分子鎖の拘束が強固となり、水蒸気バリア性能を発現することができる。さらには、蒸着膜表面の水酸基と結合して密着力を向上させ、さらには蒸着層のピンホール、クラック、粒界などの欠陥を充填、補強することで緻密な構造を形成することができるため、折り曲げや変形に際してガスバリア性能の劣化を抑制することができる。
【0038】
[ガスバリア樹脂層の形成]
本発明におけるガスバリア樹脂層を形成する方法としては、特に制限はなく、基材フィルムに応じた方法で形成することができる。例えばオフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法などの印刷方式やロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ダイコーティング法、ナイフエッジコーティング法、グラビアコーティング法、キスコーティング法、スピンコーティング法等やこれらを組み合わせた方法を用いて、コーティング液をコーティングすればよい。
【0039】
アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に組成変化する蒸着層上に設けるガスバリア樹脂層の膜厚は、0.1~4μmとする必要があり、より好ましくは0.2~1μmである。
【0040】
ガスバリア樹脂層の膜厚が0.1μm以下であると、ガスバリア性能が発現しない場合がある。一方、ガスバリア樹脂層の膜厚が4μmを超えると、ガスバリア樹脂層の凝集力が低下し、剥離がガスバリア樹脂層内での凝集破壊によるものとなり、見かけのラミネート強度が低くなる。またコーティング乾燥条件が高温、長時間必要であり、製造コストが高騰するといった問題点も起こる。
【0041】
[積層フィルム]
本発明のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを用いて作成する積層フィルムは、熱融着層であるシーラントフィルムとガスバリア性フィルムと表面保護層であるプラスチックフィルムがこの順で積層されてなる。
【0042】
シーラントフィルムは、用途により耐薬品性、機械的強度(フィルムのコシ、外部からの磨耗、突き刺し強度)、耐熱性、耐候性などの特性を考慮する限り特に制限はされないが、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムなどが用いられる。好ましくはポリエチレンフィルムが実用的であり、特に直鎖状低密度ポリエチレンフィルムが好ましい。
【0043】
ガスバリア性フィルムであるガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムは、蒸着面がプラスチックフィルム側になっても、シーラントフィルム側になってもよく、設計に応じて選択される。また、必要に応じてガスバリア性フィルムは、ガスバリア性アルミニウム蒸着フィルム同士を複数枚積層したものでもよく、その場合も蒸着面同士を貼り合せてもよく、基材フィルム面同士を貼り合せてもよく、蒸着面と基材フィルム面を貼り合せても良い。これらの複数のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを積層した場合も、その積層体の一方の面にシーラントフィルムと、もう一方の面にプラスチックフィルムが積層されて本発明の積層フィルムが構成される。
【0044】
プラスチックフィルムは用途により耐薬品性、機械的強度(フィルムのコシ、外部からの磨耗、突き刺し強度)、耐熱性、耐候性などの特性を考慮する限り特に制限はされないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルムなどが用いられる。未延伸フィルムであってもよいが、通常延伸(一軸または二軸)されているものが機械特性や厚さの均一性に優れ、二軸延伸フィルムがより好ましい。厚さは特に制限はないが、ポリエチレンテレフタレートフィルムであれば6μm~30μm程度、ポリプロピレンフィルムであれば20μm~40μm程度、ナイロンフィルムであれば10μm~30μm程度が実用的である。
【0045】
これらプラスチックフィルムを要求に応じて複数枚積層したものを表面保護層として使用してもよい。
【0046】
本発明のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを用いて作成する積層フィルムの作成方法は、2液硬化型ウレタン系接着剤を用いたドライラミネート法や、エクストルージョンラミネート法などが採用できるが、特に制限されるものではない。
【実施例
【0047】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0048】
(評価方法)
(1)蒸着層とガスバリア樹脂層の間の密着強度(N/15mm)
ガスバリア性フィルムの蒸着面に、ポリエステルウレタン系主剤(DIC(株)製、LX500)と芳香族イソシアネート硬化剤(DIC(株)製、KW75)からなる接着剤を介して、シーラントフィルムとして40μm膜厚の直鎖状低密度ポリエチレンフィルムをドライラミネート法により積層し、積層フィルムを作製した。次に積層フィルムを幅15mm、長さ150mmに切断してカットサンプルを作成し、引っ張り試験機(テンシロン)を使用してガスバリア性フィルムと直鎖状低密度ポリエチレンフィルム間を界面として、Tピール法により引っ張り速度50mm/minで剥離強度(ラミネート強度)を測定し、蒸着層とガスバリア樹脂層間の密着強度を評価した。密着強度の値は3.0N/15mm以上を合格とした。
【0049】
(2)酸素透過率(cc/m・24hr・atm)
ガスバリア性フィルムを、温度23℃、湿度0%RHの条件で、米国MOCON社製の酸素透過率計(OXTRAN2/20)を使用して、JIS K7126-2:2006に記載の等圧法に基づいて酸素透過率を測定した。酸素透過率の値は0.1cc/m・24hr・atm以下を合格とした。
【0050】
(3)水蒸気透過率(g/m・24hr)
ガスバリア性フィルムを、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国MOCON社製の酸素透過率計(PERMATRAN W3/31)を使用して、JIS K7129:2008 付属書Bに記載の赤外線センサ法に基づいて水蒸気透過率を測定した。水蒸気透過率の値は0.1g/m・24hr以下を合格とした。
【0051】
(4)赤外線反射率(%)
ガスバリア性フィルムを、赤外分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ、U-4000)を使用して、反射装置の相対反射角度12度で赤外線の波長領域を含む波長240nm~2600nmの範囲で反射光強度を測定した。このうち、波長1500nm・2000nm・2500nmの3点における反射光強度について、リファレンスとしたアルミニウム蒸着平面鏡の反射光強度に対して、ガスバリアフィルムの反射光強度の比率を赤外線反射率(%)とし、3点の平均値を計算した。この値は100%に近いほど反射特性に優れていることを意味し、赤外線反射率の値は60%以上を合格とした。
【0052】
(5)5%引っ張り後の酸素透過率、水蒸気透過率
ガスバリア性フィルムの140mm×90mmの試験片の90mm辺の両端から、速度5mm/minで5%(7mm)引っ張った試験片を用いて、酸素透過率と水蒸気透過率を測定した。
【0053】
(6)屈曲疲労試験後の酸素透過率、水蒸気透過率
ガスバリア性フィルムの200mm×300mmの試験片の300mm辺の両端を貼り合せて円筒状に丸め、筒状にした試験片の両端を固定ヘッドと駆動ヘッドで保持し、440度のひねりを加えながら固定ヘッドと駆動ヘッドの間隔を7インチから3.5インチに狭めて、さらにひねりを加えたままヘッドの間隔を1インチまで狭め、その後ヘッドの間隔を3.5インチまで広げて、さらにひねりを戻しながらヘッドの間隔を7インチまで広げるという往復運動を40回/minの速さで、3回行なう屈曲疲労試験の前後の試験片を用いて、酸素透過率と水蒸気透過率を測定した。
【0054】
(7)突き刺し強度測定(N)
ガスバリア性フィルムに、ポリエステルウレタン系主剤(DIC(株)製LX500)と芳香族イソシアネート硬化剤(DIC(株)製KW75)からなる接着剤を介して、シーラントフィルムとして40μm膜厚の直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(三井化学東セロ(株)製T.U.X FC-S)、プラスチックフィルムとして15μm膜厚の二軸延伸ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製ONUM)を、ガスバリア性フィルムは蒸着面をプラスチックフィルム側となるようにドライラミネート法により積層し、積層フィルムを作製した。次に積層フィルムを50mm×50mmの試料片を引っ張り試験機(テンシロン)を使用して、JIS Z1707-1997に記載されている方法に基づき、突き刺し強度を測定した。
【0055】
(8)蒸着膜厚測定
走査型オージェ電子分光装置(アルバックファイ(株)社製SAM-670型)で深さ方向組成分析評価を行い、デプスプロファイルにより、酸化アルミニウム/金属アルミニウムの膜構成を確認した。Al濃度とO濃度に注目し、蒸着膜の表層からArイオンエッチングを行いながらデータを収集し、そのAl濃度とO濃度の濃度比率が、50:50となる深さを界面と規定した時の酸化アルミニウム蒸着層とアルミニウム蒸着層の膜厚を算出した。別途、透過電子顕微鏡による断面観察で膜厚の分かっている金属アルミニウム膜を同様のエッチング方法でエッチングをし、エッチング速度を算出することで上記のデータのエッチング時間をエッチング深さの絶対値に変換した。
【0056】
(実施例1)
基材フィルムとして12μm膜厚の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製「ルミラー」(登録商標)P60)を使用し、ロール・ツー・ロール真空蒸着機により高周波誘導加熱のるつぼ方式のアルミニウム蒸発源を用い、アルミニウム金属層膜厚が40nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が10nmになるように連続的に形成した。基材フィルムには、冷却された回転ドラム上で基材フィルム進行方向の一定幅のゾーン内でその位置に応じた組成の膜が厚さ方向に順次形成される。蒸着を最後に受ける位置から酸素を供給することで、アルミニウム金属層から酸化アルミニウム層に連続的に変化する蒸着層を形成した。
【0057】
次に、上記で得られた蒸着層の上に、下記組成の水溶液をグラビアコート法により塗布、乾燥して膜厚0.3μmのガスバリア樹脂層を形成し、ガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを作製した。なお、下記組成の(A液)/(B液)との混合比(重量%)は35/65とした。
【0058】
(ガスバリア樹脂層形成用の水溶液)
(A液):テトラエトキシシラン(TEOS)に塩酸(0.1N)を加え、120分間攪拌して加水分解し、A液を調整した(固形分30重量%:SiO換算)。
【0059】
(B液):ポリビニルアルコール(PVA、重合度1,700、けん化度98.5%))の10重量%水溶液とメチルアルコールとを35/65(重量比)で配合して攪拌し、B液を調整した。
【0060】
(実施例2)
蒸着層を、アルミニウム金属層膜厚が25nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が5nmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。
【0061】
(実施例3)
蒸着層を、アルミニウム金属層膜厚が80nmおよび酸化アルミニウム層膜厚が20nmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。
【0062】
(実施例4)
ガスバリア樹脂層厚さが0.1μmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。
【0063】
(比較例1)
蒸着層へ酸素を供給することなくアルミニウム金属層のみで膜厚を50nmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。
【0064】
(比較例2)
蒸着層全面へ酸素ガスを供給しながら金属アルミニウムを蒸発させ、酸化アルミニウム層のみで膜厚を10nmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。
【0065】
(比較例3)
ガスバリア樹脂層膜厚が5μmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。
【0066】
(比較例4)
ガスバリア樹脂層膜厚が0.05μmとなるようにすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。
【0067】
(比較例5)
ガスバリア樹脂層を、下記組成の水溶液をグラビアコート法により塗布、乾燥して膜厚0.3μmのガスバリア樹脂層とすること以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムを得た。なお、下記組成の(A液)/(B液)との混合比(重量%)は20/80とした。
【0068】
(ガスバリア樹脂層形成用の水溶液)
(A液):アクリロニトリル(AN)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)の各モノマーをそれぞれ20/50/30重量%の割合で配合し、酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、n-プロピルアルコールの混合溶剤に溶解させてA液を調整した(固形分30重量%)。
【0069】
(B液):キシリレンジイソシアネート、メチルエチルケトンを10/90で配合して攪拌し、B液を調整した。
【0070】
実施例、比較例で作成したフィルムの構成、特性を表1に示した。
【0071】
(参考例1)
12μm膜厚のエチレン・ビニルアルコール共重合体フィルム((株)クラレ製「エバール(登録商標)」フィルムVMXL)を用い、実施例1と同じ条件でアルミニウム金属層と酸化アルミニウム層を蒸着し、蒸着層の上にはガスバリア樹脂層を設けないものを準備した。水蒸気透過率が2.0g/m・24hrと不十分であった。
【0072】
(参考例2)
ガスバリア性フィルムを6μm膜厚のアルミニウム箔とし、実施例1と同様にシーラントフィルムとして40μm膜厚の直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、プラスチックフィルムとして15μm膜厚の二軸延伸ナイロンフィルムをドライラミネート法により積層し、積層フィルムとした。突き刺し強度は9Nであり、本発明の実施例の積層フィルムと比べて小さな値となった。
【0073】
【表1】
【0074】
以上の各実施例の結果より明らかなように、本発明のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムは、酸素バリア性能、水蒸気バリア性能に優れ、引っ張りや屈曲に対してもこれらガスバリア性能が維持できる良好なものであった。
【0075】
一方、比較例1はアルミニウム層とガスバリア樹脂層の密着性が低いためにラミネート強度が劣り、比較例2はアルミニウム層がないため赤外線反射率が劣り、比較例3はガスバリア樹脂層が厚いために剥離がガスバリア樹脂層内での凝集破壊により発生し、蒸着層とガスバリア樹脂層間の密着強度が低いものとなった。比較例4はガスバリア樹脂層が薄くバリア性が劣り、比較例5はガスバリア樹脂層がビニルアルコール系樹脂とアルコキシ基を有する有機珪素化合物ではないため、5%引っ張り後および屈曲疲労試験後の酸素バリア性能、水蒸気バリア性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のガスバリア性アルミニウム蒸着フィルムは、優れた酸素バリア性能および水蒸気バリア性能を有するため、高いガスバリア性が要求される、真空断熱材外装材としても有用である。