(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置における検査室環境改善装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20221012BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A61B5/055 390
G03B21/00 D
(21)【出願番号】P 2020064699
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501392730
【氏名又は名称】株式会社総合企画
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 忠
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-180834(JP,A)
【文献】特表2013-546024(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0283068(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0099144(US,A1)
【文献】米国特許第05514833(US,A)
【文献】国際公開第2017/221527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055、6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
検査室外部に設置した導波管の固定角度を任意に設定することで、投影映像の光路を調整して、壁面の所望の位置に投影することが可能であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の磁気共鳴イメージング装置における検査室環境改善装置。
【請求項3】
検査室外部より投影する投影映像の投影角度から生じる画像ひずみをあらかじめ計測しておき、この逆ひずみを投影画像データに施すことで、画像ひずみの影響を補正して投影することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の磁気共鳴イメージング装置における検査室環境改善装置。
【請求項4】
動画または静止画映像を表示する装置と別途具備した検査室用音響装置にて投影映像と同期した音声信号を再生することで、音楽や環境音を映像と併用して提供することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の磁気共鳴イメージング装置における検査室環境改善装置。
【請求項5】
検査室外部より投影する投影映像の投影角度から生じる画像ひずみを光学的手法によりリアルタイムに補正して投影することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の磁気共鳴イメージング装置における検査室環境改善装置。
【請求項6】
検査室外部より投影する投影映像の投影角度から生じる画像ひずみをデジタル画像処理手法にてリアルタイムに補正して投影することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の磁気共鳴イメージング装置における検査室環境改善装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴を利用して被検者の所望箇所を画像化する磁気共鳴イメージング装置(以下MRI装置)の検査室環境向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、磁気共鳴現象を利用して被検者中の所望の検査部位における原子核スピンの密度分布,緩和時間分布等を計測して、その計測データから被検者の断面を画像表示するものである。均一で強力な静磁場発生装置内に置かれた被検者の原子核スピンは、静磁場の強さによって定まる周波数(ラーモア周波数)で静磁場の方向を軸として歳差運動を行なう。そこで、このラーモア周波数に等しい周波数の高周波パルスを外部より照射すると、スピンが励起され高いエネルギー状態に遷移する(磁気共鳴現象)。この照射を打ち切ると、スピンはそれぞれの状態に応じた時定数でもとの低いエネルギー状態にもどり、このときに外部に電磁波(NMR信号)を放出する。これをその周波数に同調した高周波受信コイルで検出する。このとき、空間内に位置情報を付加する目的で、三軸の傾斜磁場を静磁場空間に印加する。この結果、空間内の位置情報を周波数情報として捕えることが可能である。
上記構成のため、MRI装置は強い磁場形成を必要とし、広い範囲に大きな漏洩磁場を生じている。さらに、微弱な高周波信号を受信するために、信号周波数にて電磁波シールドされた検査室に設置される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「ヘルスケア 総合カタログ2018-2019」,株式会社オカムラ,p.391-p.392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MRI装置における検査は検査室内で行われ、電磁波シールドのために閉塞的な環境となり、被検者に苦痛を与えるものとなっている。
そこで、従来からこの検査室環境を改善する目的で壁面に風景写真を透過光表示などの手段で提供することが実施されている。しかし、この方法では動画の表示が不可能であり、表示画像を変更することもできない。
別の方法としては液晶モニタなどの映像表示デバイスを使用することも行われるが、この場合、使用する液晶モニタはMRI装置の近傍に配置されるため、強い磁性の影響を受けても破損しないように特別に設計された耐磁場性能を有することが必要である。また、この液晶モニタから生じる電磁波ノイズがMRI装置の撮像に影響を与えないように液晶モニタ自体にノイズシールドを施す必要がある。
以上述べたように、従来のMRI装置の検査室環境改善装置は特別に設計された映像表示装置が必要であり、このために高額となり、その環境改善効果が高いにもかかわらず、普及していないという問題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の従来手法による問題点は検査室内の映像提供に透過光写真やシールドされた特別な液晶モニタを使用していたことに起因している。
そこで、本発明は、検査室内の壁面に光学的に映像を投影することで、この課題を解決するものである。
図1に示すようにMRI装置(1)の検査室壁面に映像投影装置(2)の映像を投影して閉塞感を改善する。MRI装置近傍は強い漏洩磁場があり、この影響の及ばない範囲まで映像投影装置を遠距離に設置する必要がある。また、MRI装置が高周波ノイズの影響を受けないように、映像投影装置はノイズシールドされた検査室の外部である機械室もしくは操作室に設置する。
この2部屋の境界面に導波管(3)を設け、これを介して映像を投影することで、光路を確保し、高周波ノイズの進入を阻止することが可能である。
さらに、投影映像の光路に被検者や操作者が入ると眩惑の問題が生じるため、映像投影をできるだけ壁面に沿わせて斜め方向から投影することで、この問題を解決する。投影映像内容は、このため、投影角度により生じる画像ひずみを相殺するように逆ひずみを与えておく。または、画像ひずみをレンズシフトなどの光学的手法またはデジタル画像処理手法により補正しても良い。この場合はリアルタイム補正が可能となる。
【発明の効果】
【0006】
以上述べたように本発明によれば、MRI装置の閉塞的な検査室に静止画や動画による環境映像などを投影表示することで、被検者が感じる閉鎖感、圧迫感などを低減することができ、MRI検査室環境の改善が可能である。さらに、投影映像に同期した音声情報の併用提供により改善効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るMRI装置における検査室環境改善装置の実施例
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るMRI装置における検査室環境改善装置の実施例である。本図において、映像投影装置(2)は一般的なプロジェクター装置を使用することが可能である。
プロジェクター装置はMRI装置(1)から生じる漏洩磁場に対して十分に離して設置する必要があり、このため、プロジェクター装置は検査室外部に設置する。
静磁場強度1.5テスラのMRI装置では信号周波数は約64MHzであり、この微弱な信号を受信するために検査室は電磁波シールドルームとなっている。この内部にプロジェクター装置などの映像投影装置を設置した場合、ここから生じる高周波ノイズがMRI画像劣化の原因となる。特に電源回路に用いられるスイッチング回路は大きなノイズ源である。そこで、検査室外から導波管(3)を使用して投影映像のみを室内に導くことで、ノイズ対策を実施する。この導波管は適切な形状とサイズを有する円形または角形の筒状の導電体にて、高周波ノイズの進入を防ぐ機構である。
一例としては導電体筒の内径(円筒の場合は直径、角形の場合は対角長)が50mmであった場合、この4倍の長さである200mm以上の長さであれば64MHzの高周波ノイズは十分に減衰する。計算例では4倍の長さでの減衰量は108dBであり、一般的なMRI装置における高周波シールド要求性能は減衰量80dB以上なので問題が無いことがわかる。
ここで、導波管に一般的な一定内径の筒を用いた場合、その奥行きが長いために映像投影装置の光路に干渉して映像に影(以下ケラレと記す)を生じる。
これは映像投影装置の設計が投影画角を拡大するように設計されているためで、一例では5mの投影距離において9:16画面比の100インチ(高さ1,245mm、幅2,214mm)の画像サイズが得られるプロジェクター装置の場合、レンズ前面から200mm位置でのケラレの生じない画面の上下方向の要求高さは50mmであり、想定した対角径50mmの方形導波管の高さ36mmよりも大きく、対角径は70mmが必要である。また、この開口部でケラレの生じない対角径70mmの方形導波管とした場合、長さは280mmが必要となり、開口部の要求高さも70mmに増加するため、この導波管であっても相対的な形状が変わらないために、同様にケラレが生じる。
そこで、本発明では導波管を
図2に示すように、形状を一定対角径ではなく、ホーン状の広がり形状を有した方形導波管とすることで、平均対角径が全長の中央位置対角径となり、この4倍にてノイズ遮断の性能を達成することができる。すなわち、レンズ側の対角径(a)を30mm、投影側の対角径(b)を80mmに設定すると、平均対角径(d)は55mmとなり、この4倍の導波管長(c)は220mmであり、220mm位置の要求高さは55mmとなり開口部の対角径80mmにおける高さ57mm以下に収まるので、この形状であれば画像の上下方向にはケラレの生じない導波管とすることができる。もちろん、レンズ側の導波管対角径はプロジェクター装置のレンズ口径に応じて設定する必要がある。
これはつまり、導波管の形状をプロジェクター装置の光路の広がりに合わせて最適に設計するということであり、この導波管設計により、プロジェクター装置の投影画像を最大の大きさで利用することが可能となり、検査室壁面に効率良く大きな映像を投影しうる。
このホーン状の方形導波管においても映像の左右方向にはケラレを生じる。これは投影映像が左右方向に長い画角を有するからである。そこで、映像投影を投影壁面から横側の斜め方向にずらすことでこの問題に対応する。この斜め方向の投影は被検者や操作者の視界に投影光路が入ると眩惑するという問題を回避するためにも重要である。
斜め方向投影においては、その投影角度に応じて投影映像が引き伸ばされる。
この変形量は非線形であり、近距離側と遠距離側で異なり、さらに投影面距離でも異なってくる。
一例では30度投影においては、おおよそ2倍の横方向の引き伸び変形が生じる。
一般的な動画映像の画角は9:16であり、縦横比は2倍以下なので30度程度の角度で斜投影すれば、映像データの横方向サイズを2分1に縮めておくことで、ホーン状の方形導波管において左右方向の映像ケラレ無く投影可能であることがわかる。
さらに、この導波管形状は一般的なプロジェクター装置の光軸が上下方向にずれて設計されていることに対応できるように変形する。この光軸シフトはスクリーン位置がプロジェクター装置の設置位置よりも上下にずれて設置されるために設けられるものである。プロジェクター装置の天吊設置の場合は、スクリーンが天井に設置したプロジェクター装置から下方向にずれることになる。
また、導波管の内面に光反射が生じると画像の明瞭度が低下するので、黒マット塗装で処理する必要がある。
映像の投影位置に関しては、被検者が検査室に入室した際に、認識しうる最適なポジションに設定する。
さらに、被検者の移動導線に光路が無いように配慮して投影する。
投影映像は静止画映像だけでなく、動画映像も利用可能であり、再生内容も複数のコンテンツから選択ないしは自動的に再生できる。また、音声信号を同時に再生することで、別途用意したMRI検査室内の音響設備により、映像と音声が同期したコンテンツを提供することもできる。
この映像出力機器にパーソナルコンピューターなどのデバイスを使用することで、リアルタイム変更など、投影映像を多彩にアレンジすることもできる。
映像投影に使用する画像データは、あらかじめ計測した投影映像の画像変形ひずみ量に応じて、これを補正するように逆変形ひずみ処理を行っておく。
リアルタイム補正を行う場合は、レンズを横方向に移動して、光軸をずらして実施する横キーストン補正の手法が応用できる。またはデジタル画像処理手法にて補正対応することができる。
【符号の説明】
【0009】
1 MRI装置
2 映像投影装置
3 ホーン状導波管