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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】カーボン材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/158 20170101AFI20221012BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20221012BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20221012BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20221012BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221012BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20221012BHJP
   H01G 11/50 20130101ALN20221012BHJP
   H01G 11/06 20130101ALN20221012BHJP
【FI】
C01B32/158
C01B32/168
H01M4/96 B
H01B1/04
H01M4/62 Z
H01G11/36
H01G11/50
H01G11/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018085585
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019189495
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507046521
【氏名又は名称】株式会社名城ナノカーボン
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
(72)【発明者】
【氏名】ブラテスク マリア アントワネッタ
(72)【発明者】
【氏名】蔡 尚佑
(72)【発明者】
【氏名】橋見 一生
(72)【発明者】
【氏名】虎澤 研示
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】八名 拓実
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195351(JP,A)
【文献】特開2012-054157(JP,A)
【文献】特開2016-209798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/158
H01M 4/00
H01B 1/04
H01G 11/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブからなる炭素材料と、
前記炭素材料の表面の少なくとも一部を覆う窒素ドープナノカーボンであって、窒素原子がドープされたグラフェン構造を有する窒素ドープナノカーボンと、
を含
前記窒素ドープナノカーボンにおける窒素原子の導入量は、炭素原子に対する原子比で、0.05以上0.3以下である、カーボン材料。
【請求項2】
前記窒素ドープナノカーボンは、X線回折分析において、2θ=25°近傍に(200)面に帰属される回折ピークが観測される、請求項1に記載のカーボン材料。
【請求項3】
前記窒素ドープナノカーボンは、X線光電子分光分析によって、400eV近傍に、
ピリジン型結合に由来するピーク、
アミン型結合に由来するピーク、
ピロール型結合に由来するピーク、
クォータナリー型結合に由来するピーク、および、
ピリドン型結合に由来するピークからなる群から選択される少なくとも一つのN1sピークが観測される、請求項1または2に記載のカーボン材料。
【請求項4】
前記窒素ドープナノカーボンは、X線光電子分光分析によって、N1sピークとして少なくともアミン型結合に由来するピークとクォータナリー型結合に由来するピークとが観測され、
前記アミン型結合ピークの強度Iに対する、前記クォータナリー型結合ピークの強度Iの比(I/I)は、0.5以上である、請求項3に記載のカーボン材料。
【請求項5】
当該カーボン材料100質量部と、バインダ21質量部とを用いて、厚み180μm、目付量17mg/cmのシートを形成したとき、当該シートのシート抵抗が、15Ω/□以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボン材料。
【請求項6】
当該カーボン材料100質量部と、バインダ21質量部とを用いて、厚み180μm、目付量17mg/cmのシートを形成したとき、当該シートの電気伝導度が50S/cm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のカーボン材料。
【請求項7】
前記炭素材料は、カーボンナノチューブ全体に占める単層カーボンナノチューブの割合が90質量%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のカーボン材料。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のカーボン材料を含む、電極材料。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のカーボン材料を含む、導電助材。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のカーボン材料を電極材料として含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム空気電池は、金属リチウムを負極活物質、空気中の酸素を正極活物質として、リチウムと酸素との化学反応により放出されるエネルギーを電力として取り出すことができる電池である。このようなリチウム空気電池は、種々のタイプの電池の中でも、環境への負荷が低い、単位重量あたりの理論エネルギー密度が最も高い等の利点を有することから、その実用化が精力的に進められている。リチウム空気電池は、基本的には、正極がガス拡散電極であって、触媒を含む炭素材料を集電材料として多孔質に形成することで構成されている。正極集電材料としての炭素材料としては、カーボンブラック等の比表面積の大きな炭素粉末のほかに、最近では、カーボンナノチューブを用いることが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Scientific Reports volume 7, Article number: 45596 (2017)
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-100617号公報
【文献】国際公開第2015/012186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウム空気電池の実用化に向けては様々な課題がある。例えば、大気中の水分や二酸化炭素が正極に浸入することによる過酸化リチウムや炭酸リチウム等の析出や、放電生成物の析出による空気拡散路の閉塞、充放電における過電圧、正極集電材料の劣化等によって十分なサイクル特性が得られないことである。そのため、例えば、リチウム空気電池の正極集電材料等として使用する炭素材料には改善の余地があった。
本発明は上記課題に鑑み、例えば、リチウム空気電池等の電極材料等として好適に用いることができる、電気的特性に優れた新規なカーボン材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この出願は、上記の課題を解決するものとして、グラフェン構造を有する炭素材料と、上記炭素材料の表面の少なくとも一部を覆う窒素ドープナノカーボンと、を含む、カーボン材料を提供する。窒素ドープナノカーボンとは、ナノカーボン材料に窒素原子が導入された材料であり、典型的には、グラフェン構造における炭素原子位置に窒素原子がドープ(置換または導入)された構造を有する。このような窒素ドープナノカーボンが、炭素材料の表面の少なくとも一部に配置されていることにより、このカーボン材料は、窒素ドープナノカーボンの単体や、炭素材料の単体はもちろんのこと、これらを足し合わせたよりも顕著に優れた電気伝導性が発現され得ることが明らかとなった。ここに開示される技術は、かかる知見に基き完成されたものであり、優れた電気伝導性を備えるカーボン材料を提供する。
【0007】
ここに開示されるカーボン材料の好ましい一態様では、上記窒素ドープナノカーボンは、X線回折分析において、2θ=25°近傍に(200)面に帰属される回折ピークが観測される。かかる構成により、炭素材料の表面を覆う窒素ドープナノカーボンがグラフェンの積層構造を備えることを確認することができる。これにより、電気伝導性がより確実に高められたカーボン材料が提供される。
【0008】
ここに開示されるカーボン材料の好ましい一態様では、上記窒素ドープナノカーボンは、X線光電子分光分析によって、400eV近傍に、ピリジン型結合に由来するピーク、アミン型結合に由来するピーク、ピロール型結合に由来するピーク、クォータナリー型結合に由来するピーク、および、ピリドン型結合に由来するピークからなる群から選択される少なくとも一つのN1sピークが観測される。かかる構成により、炭素材料の表面を覆う窒素ドープナノカーボンは、グラフェンに窒素原子が導入された構造を備えていることが確認できる。このような窒素ドープナノカーボンについては、ヘテロ元素としての窒素原子が触媒活性(例えば、酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction:ORR)活性を含む。)を発現することが知られている。これにより、高い電気伝導性と、自己触媒機能との両方を備えるカーボン材料が提供される。
【0009】
ここに開示されるカーボン材料の好ましい一態様では、上記窒素ドープナノカーボンは、X線光電子分光分析によって、N1sピークとして少なくともアミン型結合に由来するピークとクォータナリー型結合に由来するピークとが観測され、上記アミン型結合ピークの強度Iに対する、上記クォータナリー型結合ピークの強度Iの比(I/I)は、0.5以上である。これにより、窒素ドープナノカーボンにおいて、ヘテロ元素としての窒素原子はグラフェンシートの端部に導入されているだけでなく、比較的高い割合でグラフェンシートの内部に炭素原子と置換して導入されていることが確認できる。このことにより、窒素ドープナノカーボンは、例えば、グラフェン構造の連続性が高められたり、窒素原子のドープ量が増大されたりしたものとして実現される。その結果、上記の電気伝導性と自己触媒機能との少なくとも一方がより改善されたカーボン材料が提供される。
【0010】
ここに開示されるカーボン材料の好ましい一態様では、当該カーボン材料100質量部と、バインダ21質量部とを用いて、厚み180μm、目付量17mg/cmのシートを形成したとき、当該シートのシート抵抗が、15Ω/□以下である。このカーボン材料は、例えばこのような高いシート抵抗を備えるものとして提供され得る。
【0011】
ここに開示されるカーボン材料の好ましい一態様では、当該カーボン材料100質量部と、バインダ21質量部とを用いて、厚み180μm、目付量17mg/cmのシートを形成したとき、当該シートの電気伝導度が50S/cm以上である。このカーボン材料は、例えばこのような高い電気伝導度を備えるものとして提供され得る。
【0012】
ここに開示されるカーボン材料の好ましい一態様では、上記炭素材料は、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT、以下単に「CNT」と示す場合がある。)を含む。CNTは、例えば高強度で導電性に優れる等といった優れた物理的・化学的物性を備えているのみならず、その得意な形状から、様々な物品に利用しやすい。したがって、カーボン材料中の炭素材料として、CNTを利用することで従来のCNTに取って代わる新しい材料が提供され得るために好ましい。
【0013】
ここに開示されるカーボン材料の好ましい一態様では、上記窒素ドープナノカーボンの原料化合物として、化学組成に炭素と窒素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意し、上記原料化合物とグラフェン構造を有する炭素材料と酸とを含む液中でプラズマを発生させることによって、原料化合物を炭素材料の表面において重合させることで形成される。このカーボン材料は、例えば上記に例示された特徴では、当該カーボン材料の特長をその構造または特性によって直接かつ十分に特定することが不可能であるか、おおよそ実際的ではないと考えることができる。かかる観点において、このカーボン材料は、その製法によって特定することも許容される。
【0014】
以上のように、ここに開示される技術によって、新規なカーボン材料が提供される。このカーボン材料は、例えば極めて高い電気伝導性を備えることから、各種の電極材料、導電助材として好適に用いることができる。また、このカーボン材料は、高い電気伝導性とORR活性とを兼ね備える観点からは、一例として、リチウム空気電池や、固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)等の電極材料として特に好ましく用いることができる。かかる観点から、ここに開示される技術は、上記のカーボン材料を含む電極材料、導電助材や、さらには上記カーボン材料を電極材料として含む各種電池をも提供する。このような電池は、一次電池であって二次電池であってもよいし、例えば燃料電池であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】液中プラズマ発生装置の構成を示す模式図である。
図2】例1~3の試料に係るSEM像である。
図3】例1~3の試料に係るX線回折パターンである。
図4】XPS分析における(a)ワイドスキャンと、(b)ナロースキャンとの結果を示した図である。
図5】一実施形態にかかるリチウム空気電池の構成を示す分解斜視図である。
図6】一実施形態にかかるリチウム空気電池の(a)初回充放電時と、(b)10回までのサイクル充放電時の電位曲線である。
図7】一実施形態にかかるリチウム空気電池のカソードの(a)充放電前、(b)初回放電後、(c)初回充電後のX線回折パターンである。
図8】一実施形態にかかるリチウム空気電池のカソードの(a)充放電前、(b)初回放電後、(c)初回充電後、(d)10回充電後のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のカーボン材料について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(カーボン材料の構成や製法)以外の事柄であって、本発明の実施に必要な事柄(例えば、原料の入手や、各種電池の構成および組立等)は、当業者であれば、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいてその内容を把握し、本発明を実施することができる。なお、本明細書における数値範囲を示す「A~B」との記載は、A以上B以下を意味する。
【0017】
[カーボン材料]
ここに開示されるカーボン材料は、グラフェン構造を含む炭素材料と、この炭素材料の表面の少なくとも一部を覆う窒素ドープナノカーボンと、を含む。以下、各要素について説明する。
【0018】
[炭素材料]
炭素材料としては、その構造の少なくとも一部にグラフェン構造を有する材料であれば特に制限することなく使用することができる。炭素材料は、少なくとも一部にグラフェン構造を有する限り、全部がグラフェン構造を呈していなくてもよい。このような材料としては、結晶性が相対的に低い炭素質と、結晶性が相対的に高い黒鉛質のいずれであってもよい。一例として、グラフェン、グラフェンがファンデルワース力によって1~10枚程度積層したグラフェンフレーク、グラフェンフレークよりも積層数が覆い黒鉛、シート状グラフェンが筒状に丸まった形態のカーボンナノチューブ、複数のグラフェンシートが同心球殻状に閉じた構造をしたオニオンライクカーボン、シート状グラフェンをらせん状に巻いた形状のカーボンナノスクロール、シート状グラフェンをホーン(角)状に丸めた形態のカーボンナノホーン、シート状グラフェンをコーン(円錐)状に丸めた形態のカーボンナノコーン、シート状グラフェンが任意の断面形状で基板に垂直に成長した形態のカーボンナノウォール、多数のグラファイト結晶子からなるカーボンブラック等が例示される。なかでも、炭素材料としては、一次粒子(一次構造体であり得る。)の少なくとの一つの次元における寸法が100nm以下であるカーボンナノ材料であることが好ましい。炭素材料は、一次粒子が多数集合した集合体であってもよいし、この一次粒子が強く凝集した強凝集体(アグリゲート)であってもよいし、弱く凝集した弱凝集体であってもよい。
【0019】
[CNT]
炭素材料としては、カーボンナノ材料の中でも、他の一つの次元における寸法がマイクロメートルオーダーであって、アスペクト比の非常に高い形態をとり得るCNTであることが好ましい。CNTは、グラフェンシートが筒状に丸まった形状を有する炭素同位体であり、その製法や具体的構造等に依らず、各種のCNTを特に制限なく使用することができる。CNTは、一枚の円筒形のグラフェンシートからなる単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube:SWNT)であってもよいし、円筒径の異なる二つのSWNTが入れ子状になった二層カーボンナノチューブ(DWNT)であってもよいし、円筒径の異なる三つ以上のSWNTが入れ子状になった多層カーボンナノチューブ(MWNT:例えば3~200層、典型的には4~200層、さらには4~60層)であってよい。なお、CNTは、様々な層数のCNTが混ざった状態で製造されることがある。したがって、CNTは、SWNT、DWNTおよびMWNのいずれか2以上が混在していてもよい。例えば、カーボン材料の導電性や結晶性をより高めるとの観点からは、CNTはSWNTであるか、SWNTをより高い割合で含むことが好ましい。CNTがSWNTであることで、欠陥が少なく結晶性の高いCNTが得られ易くなる。
【0020】
必ずしもこれに限定されないが、CNT全体に占めるSWNTの割合は、例えば、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、例えば90質量%以上であってよく、95質量%以上(実質的に全て)であってよい。なお、CNTがSWNT以外を含むとき、SWNT以外の残部はWCNTであることが好ましい。
【0021】
ここに開示されるカーボン材料を高い電子伝導性を要する用途で使用する場合、炭素材料は結晶性の高いものであることが好ましい。炭素材料の結晶性は、様々な指標によって表され得るが、例えば、ラマン分光分析により得られるG/D比によって評価するとよい。炭素材料は、これに限定されるものではないが、一例として、G/D比が50以上の高結晶性のものを好ましく用いることができる。G/D比が高いほど、グラフェン構造における欠陥の割合が少なく、結晶性が高いと評価することができる。より具体的には、例えば炭素材料がCNTの場合、G/D比が大きいCNTほど、表面欠陥が少なく、スムーズで低抵抗な電子伝導が可能となる。炭素材料のG/D比は、70以上のものがより好ましく、90以上のものがさらに好ましく、100以上のものが特に好ましい。炭素材料のG/D比の上限は制限されず、例えば、120以上、130以上、150以上、180以上、200以上のものを特に好適に用いることができる。なお、生産性やコストの観点からは、例えば、G/D比は500以下、典型的には400以下、例えば300以下であってもよい。
【0022】
本明細書における「G/D比」とは、炭素材料についてのラマンスペクトルにおいて、1590cm-1付近に見られるG-bandと呼ばれるピークと、1350cm-1付近に見られるD-bandと呼ばれるピークとのピーク強度比を意味する。なお、G-bandとは、グラファイト構造(炭素六員環構造)に由来するピークであり、D-bandとは、グラファイト構造の欠陥およびアモルファスカーボン(以下、欠陥等という。)に由来するピークである。このG/D比を用いることで炭素材料の欠陥等の割合を評価することができ、G/D比の高いものが欠陥等が少なく、品質(結晶性)が高いといえる。このG/D比は、例えば、ラマン分光光度計(例えば、B&W Tek社製、innoRam)を用いて測定することができる。
【0023】
炭素材料の平均一次粒子径は特に制限されない。しかしながら、グラフェン構造を有する炭素材料は、少なくとも一つの次元が100nm以下のナノカーボン材料となると、表面積の増加と量子効果の発現によって特異な性状が現れ得る点において好ましい。例えば、炭素材料がCNTである場合、CNTの平均直径(平均チューブ径)は特に制限されない。一例として、CNTの密度を高めて導電面(グラフェンシート)を効率的に増やすためには、CNTの平均直径は小さいほうが好ましく、例えば30nm以下、さらには概ね10nm以下であるとよい。なお、二層以上のCNTについては、最外層のCNTについての平均直径(平均チューブ径)をいう。CNTの平均直径の平均値は、例えば10nm以下であってよく、好ましくは8nm以下、より好ましくは6nm以下、さらに好ましくは5nm以下、特に好ましくは3nm以下、例えば2nm以下であり得る。CNTの平均直径の下限は特に限定されない。CNTの平均直径は、約0.4nm以上にすることが適当であり、例えば0.5nm以上であってよく、1nm以上とすることができる。同様にCNT以外の他のナノカーボン材料についても、少なくとも一つの次元が上記のように、30nm以下、さらには概ね10nm以下であるとよい。
【0024】
なお、炭素材料の平均直径や、後述の平均長さ、平均アスペクト比等に係る寸法は、電子顕微鏡観察により、20以上の炭素材料(一次粒子)について測定した値の算術平均値とすることができる。電子顕微鏡としては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)等を用いることができる。また、炭素材料の各寸法の測定に際しては、これに限定されるものではないが、炭素材料の形態にダメージが発生しない手法によって分散処理を施してから行うとよい。
【0025】
また、炭素材料がCNTである場合、CNTは、隣接するCNT間に生じるファンデルワールス力によって凝集(バンドルの形成)が生じやすい。この傾向は、構成原子が全て表面原子となるSWNTにおいて顕著となる。さらに、G/D比の高いCNTは表面欠陥が少ないことからかかるファンデルワールス力も強くなり得る。したがって、CNTは、バンドルを形成していてもよく、またバンドル構造が通常よりも太いものであってもよい。バンドルは、例えば、全体の断面寸法(以下、直径と表現する。)が10~500nm程度であってよく、15~200nm程度であってよく、例えば、20~100nm程度であり得る。同様にCNT以外の他のナノカーボン材料についても、一次粒子が凝集した形態では、その凝集体の少なくとも一つの次元が上記のように、10~500nm程度であるとよい。
【0026】
さらに炭素材料は、製造時の触媒等の不純物の少ないもの(例えば、純度90質量%以上)であると好ましい。炭素材料のうち、一つの次元の寸法の大きい材料(例えば、CNT等)については、その長手方向の寸法(長さ)については、ここに開示されるカーボン材料の調製において、後述する溶液中で好適な分散状態が実現できるものであれば特に制限されず、例えば、100μm以下、好ましくは50μm以下、例えば30μm以下程度のものを好ましく使用することができる。炭素材料の長さは、一般的に50nm以上、例えば500nm以上、例えば1μm以上であってよい。
【0027】
[窒素ドープナノカーボン]
窒素ドープナノカーボンは、下記の化学構造式に例示されるように、炭素原子を主体として構成されるグラフェン構造(炭素六員環構造)中に、ヘテロ元素として窒素原子(N)が導入されたものであり得る。式中、薄い丸は炭素原子を示し、濃い黒丸は窒素原子を示す。窒素原子は、炭素骨格の途中において炭素と置換して導入されていてもよいし、炭素骨格の端部(エッジ)において炭素と結合して導入されていてもよい。なお、以下の化学構造式では、明瞭化のために1枚のグラフェンシートについてその構造を示しているが、窒素ドープナノカーボンを構成するグラフェンシートの積層数は限定されない。窒素ドープナノカーボンは、グラフェンシート1枚により構成されていてもよいし、2枚、3枚、4枚、5枚、あるいはそれ以上の多数枚のグラフェンシートが積層されて構成されていてもよい。典型的には、窒素ドープナノカーボンにおいて、グラフェンシートは多数のものが積層されていてよく、かつ、窒素ドープナノカーボンはそのような積層体の複数のものが重畳されたり、一体化されたりして構成されていてもよい。
【0028】
【化1】
【0029】
なお、上記構造式で表される窒素ドープナノカーボンは、式中に(1)~(5)で示したように、窒素原子が異なる5とおりの結合状態で存在している。そのため、窒素原子の結合エネルギーを例えばXPS法により測定すると、そのXPS-N1sスペクトルは、5とおりの結合状態を表すピークにそれぞれ分離することができる。このことから、ここに開示するカーボン材料において、窒素ドープナノカーボンは、結合状態の異なる以下の(1)~(5)の5とおりのXPS-N1sピークのうちの、いずれか1以上を含むものとして特徴付けられる。
【0030】
(1)398.5±0.2eV近傍のピリジン型の結合ピーク
(2)399.5±0.2eV近傍のアミン型の結合ピーク
(3)400.5±0.2eV近傍のピロール型の結合ピーク
(4)401.2±0.2eV近傍のクォータナリー型の結合ピーク
(5)402.9±0.2eV近傍のピリドン型の結合ピーク
【0031】
窒素ドープナノカーボンは、製造時に窒素原子がクォータナリー型で配置されるように合成が進むと、比較的大面積の窒素ドープナノカーボンが得られたと言える。したがって、窒素ドープナノカーボンは、XPS-N1sスペクトルにおいてクォータナリー型結合ピークの強度が高いほど好ましいといえる。また、窒素ドープナノカーボンは、後述する製造方法を簡便にして結晶性・秩序性の高いグラフェンシートを構成するとの観点から、XPS-N1sスペクトルが、アミン型結合に由来するピークとクォータナリー型結合に由来するピークとを含むとよい。このとき、クォータナリー型結合が多いと、グラフェンシートが面方向に発達していることや、窒素原子の導入量が相対的に多いことを示し得る。したがって、一例として、アミン型結合ピークの強度Iに対する、クォータナリー型結合ピークの強度Iの比(I/I)は、0.3以上であってよく、0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.51以上がさらに好ましく、0.52以上がより一層好ましく、例えば0.53以上が特に好ましい。これにより、窒素ドープナノカーボンにおいて、ヘテロ元素としての窒素原子はグラフェンシートの端部に導入されているだけでなく、比較的高い割合でグラフェンシートの内部に炭素原子と置換して導入されていることが確認できる。
【0032】
なお、上記説明からもわかるように、本明細書において、「グラフェンシート」とは、厳密に炭素原子のみからなるシート状のグラフェンに限定されず、当該グラフェンシートの炭素原子に窒素原子等のへテロ元素を含む態様のものを包含する。
【0033】
窒素ドープナノカーボンにおける窒素原子の導入量は厳密には制限されない。窒素原子の導入量は、例えば、炭素原子に対する原子比で、0.05以上、すなわち5原子%以上であるとよく、好ましくは6原子%以上、より好ましくは7原子%以上である。窒素原子の導入量に上限はないが、グラフェンシートに由来する物理的・化学的性質を維持しつつ、窒素原子を安定して導入するとの観点からは、窒素原子の導入量はおおよそ30原子%以下とすることが好適な例として挙げられる。カーボン材料において、炭素原子に対する窒素原子の導入量は、例えば、X線光電子分光(XPS)法に基づき算出することができる。例えば、後述の実施例の手法に準じて算出することができる。
【0034】
ここに開示されるカーボン材料において、窒素ドープナノカーボンは、炭素材料の表面の少なくとも一部を覆うように備えられている。より具体的には、窒素ドープナノカーボンは、炭素材料の表面に、窒素ドープグラフェンシートが一層ずつないしは数層ずつ、堆積するように密に付着して形成されている。一例として、窒素ドープナノカーボンは、複数の炭素材料の隙間を埋めるように、炭素材料の表面に堆積されている。一例として、後述の実施例に示す窒素ドープナノカーボンは、複数のCNTにまたがるように、CNTの表面に堆積されている。一例として、窒素ドープナノカーボンは、CNTの表面において、CNTのグラフェンシートと窒素ドープグラフェンシートとが平行となるように堆積されている。これらのことから、一例として、窒素ドープナノカーボンは、炭素材料の表面におけるグラフェン構造を鋳型とし、当該グラフェン構造の規則性を受け継いで、形成および堆積されていくものと考えられる。例えば、炭素材料がCNTの場合、CNTのグラフェン構造の規則性を管壁面に沿う方向および積層方向(チューブ軸に直交する方向)の少なくとも一つで受け継いで、あたかもCNTの外層を延設するかのように窒素ドープグラフェンシートが積層されていると考えられる。一例として、窒素ドープナノカーボンは、複数の炭素材料の凝集体の表面を覆うように、炭素材料の表面に層状に堆積されている。窒素ドープナノカーボンは、窒素ドープグラフェンシートが炭素材料上に順次堆積していくことで、全体として任意の厚み(堆積厚み)を備え得る。炭素材料がCNTの場合は、窒素ドープナノカーボンは、複数のCNTからなるバンドルの表面を覆うように、CNTの表面に層状に堆積され得る。
【0035】
詳細は明らかではないが、窒素ドープナノカーボンが炭素材料の表面を覆うことにより、炭素材料の一次粒子間、あるいは凝集体間での電子伝導性が改善されて、カーボン材料にこれまでにない高い電気伝導性が付与されるものと考えられる。たとえば、CNTにおいては管壁に沿って電子が移動する。しかしながら、CNTはその一次元的な特異な管状構造に起因して、所定のカイラリティの場合にのみチューブ軸方向の電気伝導性が極めて高くなることが知られている。そしてチューブ軸に直交する方向には長距離的に電子を移動させることができない。しかしながら、ここに開示されるがカーボン材料は、窒素ドープナノカーボンがCNTの表面を覆うことにより、CNTを移動する電子をチューブ軸方向に限定することなく、二次元ないしは三次元的に移動可能にする効果が発現されると考えられる。例えばCNTのチューブ軸に直交する方向などにも電子を移動させることができるようになると考えられる。このことにより、ここに開示されるがカーボン材料は、これまでにない高い電気伝導性を備える材料となり得る。
【0036】
窒素ドープナノカーボンによる炭素材料の被覆率は制限されず、面積基準で10%以上であってよく、20%以上であってよく、30%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってよく、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよく、実質的に100%であってよい。換言すれば、窒素ドープナノカーボンは、炭素材料の表面の一部または全部をコーティングすることで、カーボン材料を構成している。かかる被覆率は、例えば、透過型電子顕微鏡像について画像解析することによって算出することができる。
【0037】
炭素材料の表面を覆う窒素ドープナノカーボンの厚みは制限されず、例えば1nm以上であってよく、5nm以上であってよく、10nm以上であってよく、20nm以上であってよく、50nm以上であってよく、100nm以上であってよい。窒素ドープナノカーボンの厚みは、例えば200nm以下であってよく、150nm以下であってよく、120nm以下であってよい。かかる被覆率は、例えば、電子顕微鏡像について画像解析することによって算出することができる。
【0038】
このようなカーボン材料は、例えば、所定のスペックの膜状に堆積されたときに、一例として、20Ω/□以下、好ましくは15Ω/□以下、より好ましくは13Ω/□以下、さらに好ましくは12Ω/□以下、例えば11Ω/□以上のシート抵抗を実現し得る。また、同様のスペックの膜状に堆積されたときに、一例として、50S/cm以上、好ましくは60S/cm以上、より好ましくは70S/cm以上、特に好ましくは80S/cm以上、例えば90S/cm以上や100S/cm以上、110S/cm以上の電気伝導度を実現し得る。このような性状を備える膜状体のスペックとは、以下のとおりである。
カーボン材料100質量部と、バインダ21質量部とを用いて、厚み180μm、目付量17mg/cmとなるように膜状体(シート)を形成する。
【0039】
[カーボン材料の製造方法]
なお、以上のカーボン材料は、例えば以下の手順で好適に製造することができる。
(S1)窒素ドープナノカーボンの原料化合物として、化学組成に炭素と窒素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意する。
(S2)上記原料化合物と少なくともグラフェン構造を有する炭素材料と酸とを含む液中でプラズマを発生させることによって、当該原料化合物を炭素材料の表面において重合させて、窒素ドープナノカーボンを形成する。
これらの工程の詳細に関しては、例えば、特許文献1を参照することができる。特許文献1に記載の全内容は、参照として、本明細書に組み込まれる。
【0040】
工程S1では、窒素ドープナノカーボンの原料化合物として、化学組成に炭素と窒素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意する。
環構造を有する環式化合物については、化学構造において構成原子が少なくとも一つの環状に結合した有機化合物の一群を意味する。すなわち、炭素骨格を基本とした環状構造を有する有機化合物を総称するものである。したがって、この環式化合物には、一つの分子中に一つの環が存在する単環化合物や、2以上の環が存在する多環化合物であってよく、また、1種類の元素により環が構成される単素環式化合物や、2種以上の元素により環が構成される複素環式化合物等の多様な環式化合物を含むことができる。また環は、共役不飽和環構造を有する芳香族環状化合物(典型的には、芳香族炭化水素)であってもよいし、芳香族性を有しない飽和または不飽和の炭素環を1以上含む脂環式化合物であってよい。好ましくは、不飽和結合を少なくとも一つ有する環状化合物である。かかる環構造を構成する原子の数には制限はなく、例えば、小員環、中員環または大員環を有する化合物であってよく、典型的には、3員環~10員環程度の環式化合物を考慮することができる。
【0041】
かかる原料化合物としての環式化合物としては、具体的には、ピロール、ピロリジン、イミダゾール、チアゾール、ピペリジン、ピリジン、2-シアノピリジン、ピラジン、ピリミジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キサキノリン、シンノリン、プテリジン、インドール、プリン、アニリン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、フェニレンジアミンやこれらの誘導体が好適例として挙げられる。
【0042】
以上に代表される環式化合物は、置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、各種の有機官能基であってよく、例えば、一例として、炭化水素基、窒素含有基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲノ基、ケイ素含有官能基、硫黄含有官能基、窒素含有官能基、リン含有官能基が挙げられる。より好ましくは、例えば、炭素数1~10の直鎖,分岐又は環状のアルキル基,ビニル基,アリール基等に代表される炭化水素基、アミノ基,ニトロ基,ニトロソ基に代表される窒素含有基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、フルオロ基,クロロ基,ブロモ基等のハロゲノ基、アルキルシリル基等に代表されるケイ素含有官能基、チオール基、スルホ基等に代表される硫黄含有官能基、アルデヒド基、ニトロ基等に代表される窒素含有官能基、ホスホン酸基等に代表されるリン含有官能基が挙げられる。
【0043】
また、環式化合物としては、上記例示に代表される環式化合物を構造の一部に含む形態のも化合物であってもよい。例えば、ピリジンを構造の一部に含むビピリジン化合物やフェニルピリジン化合物等のような化合物であってよい。また、例えば、ピロール等がそれぞれ複数結合した形態のポリピロール等に代表されるポリマー等であってよい。
以上のことからも明らかなように、本発明における原料化合物には、窒素原子のほかに、硫黄(S)、水素(H)および酸素(O)が当然のものとして含まれ得る。
【0044】
なお、グラフェンシートに類似の構成を有するカーボン系触媒を好適に製造するためには、5員環または6員環あるいはその両方を化学構造に有する環式化合物を用いるのが好ましい。あるいは、5員環を化学構造に有する環式化合物と6員環を化学構造に有する環式化合物との両方を原料化合物とするのが好ましい。また、製造されるカーボン系触媒の化学構造をより詳細に制御するためには、環式化合物として、例えば、化学構造内に5員環または6員環の環構造を少なくとも1つ有する単環化合物を用いることが好ましい。より好ましくは6員環の環構造を1つ有する化合物である。かかる環式化合物としては、アニリン、ピリジン、ピラジン、トリアジンまたはこれらの誘導体が例示される。また、4電子系反応による酸素還元活性を示すカーボン系触媒を製造するためには、環構造が炭素のみで構成された環式化合物であるよりは、環構造に炭素以外の元素を含む複素環式化合物を用いるのが好ましい。かかる複素環式化合物としては、例えば、ピリジン、トリアジンおよびその誘導体等が例示され、これらは上述のように、単独で、あるいは他の環式化合物と混合して原料化合物として用いることができる。原料化合物は、いずれか1種のものを単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0045】
なお、原料化合物としては、グラフェン構造を有する窒素ドープナノカーボンの形成を促進させる目的で、上記の窒素含有環式化合物に加えて、ベンゼン、アントラセンなどに代表される芳香族化合物を付加的に含有してもよい。
【0046】
工程S2では、まず、上記原料化合物と炭素材料と酸とを含む反応液を用意する。
炭素材料については既に詳細に説明しているため、重ねての説明は省略する。そして、上記原料化合物と炭素材料とを液媒体に均一に混合することで、反応液を調製することができる。液媒体中での原料化合物および炭素材料の濃度は特に制限されない。炭素材料は、例えば撹拌処理を施すことによって反応液中に分散可能な濃度であるとよい。一例として、1g/L以上3g/L以下程度、例えば、1.2g/L以上2.5g/L以下程度を目安とすることができる。原料化合物は、例えば応液中に溶解可能であって、液中プラズマにおける後述の反応性物質との接触効率が適切に確保できる濃度であるとよい。原料化合物の濃度は、一例として、0.5mM以上5mM以下程度、例えば1mM以上3mM以下程度を目安とすることができる。
【0047】
ソリューションプラズマ処理における反応液は、炭素材料を分散可能であって、かつ、上記の原料化合物を分散または溶解可能な液媒体(以下、分散媒という。)であればその組成等は特に制限されない。このような分散媒としては、純水、超純水、イオン交換水等の水;メタノール、エタノール、1-プロパノール(n-プロピルアルコール)、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール(n-ブチルアルコール)、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール(2-メチルプロピルアルコール)、1-ペンタノール(n-ペンチルアルコール)、2-ペンタノール(sec-アミルアルコール)、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール(イソアミルアルコール)、2-メチル-2-ブタノール(tert-アミルアルコール)、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(ネオペンチルアルコール)等の一価のアルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価のアルコール、グリセリン等の多価アルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル等のエステル類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;等が好適例として挙げられる。これらの分散媒はいずれか1種を単体で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。特に、水、メタノール,エタノール等の低級アルコール、およびこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0048】
反応液は、さらに酸を含んでいるとよい。酸は、液中プラズマによる反応系において、窒素ドープナノカーボンにおけるグラファイト骨格に水素イオン、水素ラジカル等を好適に供給するために好ましく添加される。このような酸としては、液中プラズマに晒されたときに、水素イオンや水素ラジカル等を形成しうるものであれは特に制限なく使用することができる。好適な一例では、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸等の強酸や、酢酸、ギ酸、炭酸、リン酸等の弱酸が挙げられる。水素イオンや水素ラジカルを好適に供給できるとの観点からは、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸を好ましく用いることができる。これらの酸はいずれか1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
分散媒における酸濃度は、プラズマ処理の対象となる原料化合物の反応性や、化学構造、濃度等にもよるため一概には言えないが、おおよそ0.01mol/L以上50mol/L以下程度を目安に設定するとよい。溶媒中の酸濃度が0.01mol/Lよりも少なすぎると、水素イオン、水素ラジカル等の供給が十分に行えなくなる場合があり得る。また、酸濃度が50mol/Lを大きく越えると、副反応が生じたり、窒素ドープナノカーボンにおけるキャリア移動度が低下される可能性があるために好ましくない。
【0050】
次いで、原料化合物の重合および炭素化の反応場として、用意した反応液中に液中プラズマを発生させる。液中プラズマとは、溶液中で発生させたプラズマであり、例えば溶液中で対向するように配置された2つの電極の間に電圧を印加することにより、当該電極間に発生させることができる。このとき、印加電圧条件を調整することで、電極間にジュール熱によって気相を形成するとともに、この気相中にプラズマ相を発生させることができる。このようなプラズマ反応場は、反応液に応じて電圧条件を調整することで、電極間に定常的に維持することができる。その結果、液中で、気相がプラズマ相を取り囲んだ状態が実現される。このような液中プラズマを、特にソリューションプラズマという。
【0051】
ソリューションプラズマによる反応場では、高いエネルギーを有した活性種が、プラズマ相から液相に向けて供給される。このような活性種としては、一例として、電子、水素イオン、水素ラジカル、ヒドロキシラジカル等が含まれ得る。そしてソリューションプラズマにおいては、これらの活性種は液相よりも内側において相対的に高密度に閉じ込められ、プラズマによる「高エネルギー状態」が形成されている。これによりプラズマの周囲の気相、液相またはその界面では、様々な化学反応が強く促進される。一方、液相から気相およびプラズマ相に向けては、液相に含まれる原料化合物が供給される。そしてこれらは、主として液相と気相の界面において接触(衝突)する。このようなソリューションプラズマを利用して原料化合物を重合させることにより、原料化合物は高度に重合されてグラフェン化され、窒素ドープナノカーボンが好適に形成される。
【0052】
そしてこのとき、反応液中には炭素材料が存在し、反応系にも炭素材料が存在する。このことにより、炭素材料を構成するグラフェン構造が核生成の場として提供され、炭素材料の表面に、窒素ドープナノカーボンが優先的に形成されていくと考えられる。また、炭素材料を構成するグラフェン構造を鋳型として、炭素材料の表面に、高い秩序性を備えて窒素ドープナノカーボンが順次形成されていくと考えられる。これにより、ここに開示されるカーボン材料が製造される。
【0053】
なお、ここに開示されるカーボン材料は、後述の実施例に示されるように、例えば特に優れた導電性を示しうる。この点に関し、かかるカーボン材料において、窒素ドープナノカーボンが、炭素材料の表面を核生成の場として利用することにより受ける影響は、例えば、窒素ドープナノカーボンの結晶構造に表れるとも予想される。しかしながら、実際に窒素ドープナノカーボンの結晶構造をX線回折分析に供してみても、その分析結果に特異な特徴点(影響点)を見出すことは不可能であった。そしてこのような影響を、構造上又は特性上、忠実かつ明確に特定する測定及び解析の手段は存在していないのが実情であり、現時点では、このような影響を、構造上又は特性上、忠実かつ明確に特定する文言も存在しないといえる。したがって、ここに開示されるカーボン材料を、その製造方法で特定することには、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在するといえる。
【0054】
液中プラズマの発生条件は、原料化合物の構成等にもよるため一概には言えないが、例えば、電極間電圧:約1kV~2kV、周波数:約10kHz~30kHz、パルス幅:約0.5μs~3μsの範囲で調整するとよい。さらに、安定したソリューションプラズマの発生を可能とするために、原料含有液の電気伝導度は300μS・cm-1~3000μS・cm-1程度の範囲であるのが好ましい。より詳細な液中プラズマの発生条件等については、特許文献1の開示を参照することができるため、重ねての説明は省略する。なお、必ずしも必要ではないが、ソリューションプラズマによる処理後の反応液に対して、酸化作用を有する酸化剤(例えば過酸化水素)を0.1~1質量%程度の割合で加えて静置することで、炭素材料の表面に形成された窒素ドープナノカーボンを安定化させることができるために好ましい。
【0055】
以上、ここに開示されるカーボン材料について、その製造方法とともに説明したが、本発明はこれらの例に限定されず、適宜に態様を変化して行うことができる。例えば、原料化合物を含む液には、本願発明の目的を損ねない範囲において、原料化合物以外の化合物が含まれていてもよい。また、ソリューションプラズマの発生に際しては、図1と後述の実施例に開示の液中プラズマ発生装置1を好ましく用いることができる。この液中プラズマ発生装置1について、後述の例示のとおり、必ずしもタングステンからなる針状電極6を用いる必要はなく、例えば、他の導電性材料からなる任意の形状の電極を用いるようにしてもよい。さらには、電極を用いることなく、低インダクタンスの誘導コイルによりソリューションプラズマを発生するようにしてもよい。また、液中プラズマは、ソリューションプラズマ(グロー放電プラズマ)によるものに限定されず、例えば、液中でのアーク放電プラズマ等を利用して実施してもよい。
【0056】
また本発明によって提供されるカーボン材料は、優れた電気的特性を備えることに加え、ORR反応活性を備え得る。これにより、ここに開示されるカーボン材料は、従来公知のカーボン材料が備えている電気伝導性や触媒活性を始めとする各種特性を改善し得る。したがって、ここに開示されるカーボン材料は、従来のカーボン材料に置き換えて、各種の用途にて利用することができる。そのような用途の一例は、リチウム空気電池、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ等の一次電池や二次電池であり得る。また、各種用途における導電材料、導電助材、触媒、触媒担体、活物質、などであり得る。
【0057】
次に、本発明に関する実施例を示すが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0058】
〔試験例1〕
原料化合物としてアニリン(和光純薬工業(株)製、試薬一級)と単層カーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン製、EC1.5、G/D比は100以上、以下「CNT」と記す。)とを用意し、1Mの塩酸中にアニリンを2mMの濃度で、CNTを1.3g/Lの割合で添加し、混合することで例1の原料化合物含有液を調製した。参考のために、SWNTをいれずにその他の条件は同様にして、例2の原料化合物含有液を調製した。
【0059】
次いで、図1に示す液中プラズマ発生装置1を用い、それぞれの原料化合物含有液2の液中でプラズマ4を発生させた。液中プラズマ発生装置1は、原料化合物含有液2を収容するガラス製の反応容器5と、反応容器5に固定された一対のプラズマ発生電極6と、反応容器5に収容した原料化合物含有液2を撹拌する撹拌装置7と、電極6に電圧を印加する電源8とを備えている。電極6は、直径1.0mmのニッケルワイヤによって構成され、電極間距離は0.5mmに設定されている。ワイヤは、先端部を露出させ、その他の部分はセラミック管からなる絶縁部材9で被覆している。撹拌装置7としては、マグネチックスターラーが備えられている。電源8には、バイポーラ直流電源が備えられている。
【0060】
上記で用意した原料化合物含有液2は、反応容器5に入れて撹拌装置7によって撹拌した。原料化合物含有液2の量は、対向配置された電極6部分が原料化合物含有液2の中心付近に配置されるように調整した。次いで、電源8から電極6間に所定のバイポーラパルス電圧を印加することで、液中の電極6間にプラズマを15分間発生させた。このソリューションプラズマ処理後の原料化合物含有液150mLに対し、6質量%の過酸化水素水を18mL加えて被覆安定化のために24時間静置した。
【0061】
各例の原料化合物含有液は、いずれも無色透明であったが、プラズマの発生直後から黄色みを帯び、約5分後には褐色ないしは黒色の不透明な液に変化した。発明者らのこれまでの研究によると、窒素含有の環状有機分子を含む液中でソリューションプラズマを発生させることで、粉末状の窒素含有炭素材料が得られることがわかっている。したがってこの変色も、原料化合物が重合してグラファイト骨格を形成したためであると予想される。例1および例2の原料化合物含有液からそれぞれ得られた生成物を下記の分析に供し、その性状を調べた。
【0062】
[電子顕微鏡観察]
例1および例2で得られた生成物について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用い、その微細構造を観察した。各生成物は、フィルタ上に回収してSEM観察に供した。SEM観察には、電解放出型走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、S-4800)を用いた。その結果を、図2に示した。なお、参考のため、例3として、市販のポリアニリン(Aldrich製、428329)をSEM観察した結果について併せて示した。
【0063】
図2に示すように、例1の生成物は、本質的には原料の一つとして用いたCNTに対応するワイヤ形状またはそのバンドル状を大まかに維持し、その表面に反応性生物が付着、堆積している様子が観察された。本例では、おおよそCNTの全表面が反応生成物によって覆われていた。用いたCNTの外形はバンドルの直径が凡そ50~100nm程度であることから、大まかに見積もってCNTの表面に100nm~150nm程度の厚みで反応性生物が堆積していると考えられる。また、本例では、後述する例2のような粒子状の反応生成物は見られなかった。また、高倍率の観察像からも、例2のようなシート状の反応生成物の端部などは見られなかった。このことから、ソリューションプラズマの反応系内にCNTが存在することで、このCNT表面が核生成の場となって、液中に含まれる環状有機分子の反応が進行するものと考えられる。
【0064】
例2の生成物は、凡そ1~100μmの寸法の多数の粒子から構成されていることがわかった。そしてそれぞれの粒子は、厚みが10nm以下程度の微細なシートが、様々な方向で複雑に集合または結合したような形態を有していることがわかった。本発明者らはこれまでに、例えば、環状有機分子を含む液中でプラズマの発生条件を制御することで、ナノサイズのグラフェンシートが数枚ほど積層した二次元構造を有するナノグラフェンを製造できることを確認している。したがって、本例では、ナノグラフェンが三次元的にランダムな方向で一体化された形態の粒子が生成されたものと考えられる。
【0065】
例3は、ポリアニリンのSEM観察像である。ポリアニリンは、アニリンを電解重合して得られる導電性高分子である。図2に示されるように、ポリアニリンは0.1μm~数μm程度の一次粒子が一体化された二次粒子の形態を有している。そして各々の一次粒子は、ナノメートルオーダーで観察した場合であっても三次元的に連続な形態(粒状)であって、その構造に方向特異性は見られないことが確認された。
特許文献2には、CNT表面の少なくとも一部に有機物と、所定の官能基とが付着したカーボンナノチューブ複合体が開示され、有機物の付着によってCNTを溶液中に均一に分散できることが記載されている。また、有機物の一例としてポリアニリンが記載されている。しかしながら、特許文献2のカーボンナノチューブ複合体は、その構成および特性から、ここに開示されるカーボン材料としての例1の反応生成物とは明確に区別される。
【0066】
[電気的特性]
次いで、例1および例2の生成物について、電気的特性を調べた。電気的特性の測定に際しては、各生成物等を用いて測定用塗膜を形成し、この塗膜について測定を実施した。具体的には、各生成物等の100質量部に対して、バインダとしての5質量%ナフィオンを21質量部の割合で配合し、分散媒としての酢酸イソプロピルに混合してペーストを調製したのち、このペーストをガラス板の表面に、厚み180μm、塗布量17mg/cmの条件で膜状に塗布し、乾燥させることで測定用試料とした。測定には、デジタル式の抵抗測定器を用い、電気抵抗および電気伝導率を測定し、この測定結果から、シート抵抗および抵抗率を算出した。参考のために、上記で用意したポリアニリン(例3)と、原料として用いたCNT(例4)とについても、同様に電気的特性を調べた。その結果を、下記の表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、例1~4の全ての試料が導電性を示すことがわかった。例4のCNTについては、グラフェンシート内、換言すると、チューブ壁に沿って電流が流れる。したがって、CNTを用いてランダムな配向状態のシートを形成した場合には、全例中で最も抵抗が高く、電気伝導性が低くなるという結果となった。また、例3のポリアニリンは、導電性高分子であることから、比較的良好な電気伝導性を示すことが確認された。また、例2の生成物は、窒素含有環状有機分子であるアニリンを液中プラズマ法によって合成することで得られたものであるから、本発明者らによって確認されているように、当該反応生成物はグラフェン構造を有し、このことにより良好な導電性を示すと考えられる。
【0069】
そして例1の生成物については、電気抵抗、シート抵抗および抵抗率の全ての抵抗が全例中でひときわ低く、電気伝導率は極めて高いことが確認できた。例えば、例1の生成物の電気的特性を、CNTを含まない例2の生成物についての値と比較すると、電気抵抗については2%未満、シート抵抗については1%未満、抵抗率は13%、電気伝導度は約30倍という、優れた特性を示すことがわかった。さらに、例1の反応生成物の電気的特性は、例2の反応生成物についての値と、例4のCNTについての値とを、単に足し合わせたものとは何ら一致しないことも確認できた。このことから、例1の生成物中に含まれる反応生成物は、例2の反応生成物と同等ないしはそれ以上に規則性の高いグラフェン構造を備えていることが予想される。また、液中プラズマ法により、環状有機分子からグラフェン構造物を合成するとき、反応系内にCNT等のπ共役電子系が高度に発達した構造を有する炭素材料を存在させることで、この炭素材料を核成長の場として、グラフェン構造物をより秩序性を高めて一体的かつ連続的に形成できるものと考えられる。本例の場合、CNTのチューブ面に平行にグラフェンシートが積層配置され、あたかもバームクーヘンのように積層構造の反応生成物が形成されていると予想される。また、この反応生成物は、図2のSEM観察から、CNTのバンドルの隙間を埋めるようにCNTの表面を覆っていることから、CNT間を架橋して、CNT間を繋ぐ新たな導電経路を提供していることが予想される。
【0070】
[X線回折分析]
例1および例2の生成物と、例3のポリアニリンとについて、低角X線回折(X-ray Diffraction:XRD)分析を行うことで、各試料の表面近傍の結晶構造を調べた。X線回折分析装置としては、(株)リガク製のSmartLab(9kW)を用い、分析条件は以下のとおりとした。得られたXRDパターンは、図3に示した。
X線源:Cu-Kα線
X線発生電流:200mA
X線発生電圧:45kV
スリット角:0.5°
スリット幅:1.0mm
2θ=10~80°
ステップ間隔:0.02°
ステップ測定時間:3s
【0071】
図3に示されるように、例3のポリアニンは、2θ=15°および20°付近にブロードな、24°付近に明瞭なピークを有し、ポリマー鎖が秩序性をもって密集した結晶領域を有することがわかる。また、これらのピークは、ポリアニリンの分子構造からグラファイトの(011)面、(020)面、(200)面からの回折ピークであると考えられる。
例1および例2の生成物についても同様に、2θ=15°、20°および25°付近にピークが見られ、これらの生成物(換言すれば反応生成物)中にグラフェン構造が含まれることがわかった。(200)面の回折ピークから算出されるグラファイト構造の層間距離は、約2.4Åである。
【0072】
[X線光電子分光分析]
次いで、例1および例2の生成物についてX線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)分析を行い、各生成物を構成する元素の特定と、その化学状態とを調べた。具体的には、全エネルギー範囲(0~1100eV)にて試料をX線で走査し、高感度に定性分析するワイドスキャン分析を行ったのち、394~406eVの狭いエネルギー範囲を走査するナロースキャン分析を行うことで、粉末中の窒素原子の結合状態を調べた。XPS分析装置としては、アルバック・ファイ株式会社製のVersaProbe IIを用い、以下の分析条件にて分析を行った。これらの結果を図4に示した。
X線源:Mg-Kα線
X線発生電流:1.7mA
X線発生電圧:25kV
【0073】
図4(a)はXPSのワイドスキャン分析の結果を示す。
例1および例2の生成物のXPSスペクトルの両方において、結合エネルギーが200eV付近にCl(2p)のピークが、285eV付近にC(1s)のピークが、400eV付近にN(1s)のピークが、531eV付近にO(1s)のピークが観測された。このことから、例1および例2の生成物は、表面が、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)および塩素(Cl)を含む化合物から構成されていることがわかった。またこれらのピーク強度を基に各生成物の定量分析を行った結果を、図4(a)の右端に記している。例1の生成物はNを7.8原子%、例2の生成物はNを9原子%含んでいることが確認できた。
【0074】
図4(b)は400eV付近のN(1s)ピークについて、ナロースキャン分析した結果を示す。N(1s)ピークは結合状態によってピーク位置がシフトする。そして結合エネルギーが395~405eVの領域を高解像度でスキャンすることで、さまざまな結合状態の窒素原子スペクトルを観察することができる。そこで、XPS分析に基づくN1sピークのナロースキャンスペクトルを、窒素原子の以下の5通りの結合状態を示すピークに分離した。
(1)398.5±0.2eV近傍のピリジン型の結合ピーク
(2)399.5±0.2eV近傍のアミン型の結合ピーク
(3)400.5±0.2eV近傍のピロール型の結合ピーク
(4)401.2±0.2eV近傍のクォータナリー型の結合ピーク
(5)402.9±0.2eV近傍のピリドン型の結合ピーク
【0075】
図4(b)に示されるように、本例では、例1および例2の生成物の両方について、N(1s)ピークを、ピリジン型結合ピーク、アミン型結合ピーク、クォータナリー型結合ピークおよびピリドン型結合ピークの4とおりに分離することができた。しかしながら、本例では、例1および例2の生成物の両方について、5員環構造の結合に対応するピロール型結合ピークへの分離はみられなかった。また、例1および例2の生成物の両方について、アミン型結合ピークが最も高かった。このことは、例1および例2の原料化合物として6員環構造のアニリンのみを用いたこととよく一致する。このことから、例1および例2の生成物は、原料化合物として用いたアニリンが重合することで形成されていることがわかる。また、XRD分析の結果などと総合して、例1の生成物の表面、すなわちCNTの表面に堆積した反応生成物と、例2の反応生成物は、炭素原子からなるグラフェン構造の骨格の一部に窒素原子が置換している、Nドープナノグラフェンを含むことがわかった。
【0076】
また、例1および例2の生成物の両方について、2番目にクォータナリー型結合ピークが高かった。しかしながら、例1の生成物は、例2の生成物と比較して、相対的にクォータナリー型の結合ピークが高く、ピリジン型結合ピークが低いという結果であった。そこで、これらの生成物について、アミン型結合ピークの強度Iに対するクォータナリー型結合ピークの強度Iの比(I/I)を調べた。その結果、比(I/I)は、例1の生成物については0.55であり、例2の生成物では0.29であった。このことから、例1の生成物は、例2の生成物と比較して、窒素原子がグラフェン構造の端部ではなく内側に取り込まれるように重合が進んでいること、換言すると、グラフェン構造の連続性(重合度)のより高い生成物が得られているといえる。このことから、液中プラズマの反応場にCNT等を存在させることで、その表面に形成されるNドープナノグラフェンの結晶性および連続性を高められることがわかった。また、ここに開示される技術により、CNTの表面にNドープナノグラフェンが層状に堆積したNドープナノグラフェン・CNT複合体が得られることがわかった。
【0077】
〔試験例2〕
試験例1で作製した例1のNドープナノグラフェン・CNT複合体(NDG@CNT)をカソード構成材料として用い、リチウム空気電池を作製した。なお、以下に説明するリチウム空気電池の作製は、酸素濃度を1ppm未満、水分量を露点-80℃以下に管理したAr充填グローブボックス内で実施した。図5は、本試験例で作製したリチウム空気電池10の構成を説明する分解斜視図である。
【0078】
まず、カソード集電材料としてケッチェンブラック(KB)を、導電助材として試験例1で作製した例1のDG@CNTを用意した。そして、KB18mgとNDG@CNT2mgとを秤量し、乳鉢で均一に混合したのち、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)6mgと、分散媒としての1-メチル-2-ピロリドン(NMP)約7mLとを加えて撹拌し、超音波バスで約20分間超音波分散させることで、カソード用スラリーを調製した。次いで、このカソード用スラリーを、カソード支持体の表面に塗布し、乾燥させることでカソード(正極20)とした。支持体としては、燃料電池用電極基材として市販されているカーボンペーパー(東レ(株)製、TGP-H-060)を直径15mm(約1.77cm)に打ち抜いて用いた。また、カソード用スラリーのローディング量は、1.5mg(30質量%)とした。
【0079】
負極30としては、直径15mm×厚み0.2mmの円板状の金属リチウムを用いた。セパレータ40としては、結合剤フリーのガラス繊維ろ紙(Whatman製、GF/A)を用いた。電解液45は、電解質としてのLiNOを、1Mの濃度でテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)に溶解させて調製した。電池ケース50としては、市販のリチウム空気電池評価用に設計されたコイン型のテストセルケース(MTI Corporation製、Split Test Cell-EQ-STC-LI-AIR)を用意した。
【0080】
そして用意した電池ケース50に、底側から、負極30、予め電解液45を十分に含浸させたセパレータ40、正極20の順に収容し、正極20が十分に濡れるように電解液45を注液したのち、電池ケース50を蓋して気密に封止した。電解液量は、合計で1mL未満であった。これにより、評価用のリチウム空気電池10を構築した。
【0081】
用意したリチウム空気電池10の正極20に対し、50mL/minの流量で乾燥空気を供給しながら、放電充電システムを利用し、カットオフ電圧を2.4V(放電)および4.5V(充電)にセットして、0.1mAの定電流で放電と充電とを繰り返すサイクル充放電試験を行い、放電プロファイルおよび充電プロファイルを取得した。
その結果、得られた(a)初回放電時と初回充電時の電圧プロファイルを図6(a)に、10回目までの放電時および充電時の電圧プロファイルを図6(b)に示した。なお、図6(a)中の点線は、放電生成物である過酸化リチウムの標準酸化還元電位である2.96V(vs Li/Li+)を示している。
【0082】
また、同様のリチウム空気電池を複数作製し、(a)充放電前、(b)初回放電後、(c)初回充電後、の各タイミングでカソードの低角XRD分析とSEM観察とを行い、これらの結果をそれぞれ図7および図8に示した。なお、SEM観察については、(d)10回充電後のカソードについても実施し、図8(d)にそのSEM像を示した。
【0083】
図6(a)に示されるように、充電電圧が約3.6Vに抑えられ、正極過電圧が約0.64Vと低いことが確認できた。一般的なリチウム空気電池やリチウムイオン電池では、充電電圧がリチウム基準で4~4.5V以上にまで上昇し、正極過充電が大きいことが課題とされている。正極過充電が大きくなると、エネルギー効率が低下したり、正極表面に還元され難いリチウム炭酸塩が形成されて容量が低下したり、負極表面に金属リチウムがデンドライト状に析出して短絡の原因となり得る等の不都合が生じていた。これに対し、ここに開示されるNDG@CNT(カーボン材料)を用いることで、正極過電圧が低下され、延いてはエネルギー効率の改善と、容量低下の抑制、ならびに、負極表面でのデンドライト析出の抑制とが実現される。
【0084】
放電特性については、11000mAh/g-carbonという高い放電容量が得られることが確認された。具体的には示していないが、発明者らの追試験によると、同様の構成のリチウム空気電池において、12000mAh/g-carbonの放電容量が得られることが確認されている。このような値は、導電助材としてのNDG@CNTの使用以外は、上記のとおり特別な最適化を施していないリチウム空気電池として、極めて高い値であるといえる。
また、図6(b)に示されるように、導電助材の使用以外は特に最適化を施していないリチウム空気電池であるにもかかわらず、10回のサイクル充放電が可能であることが確認された。すなわち、ここに開示されるガーボン材料を用いることで、例えば、一次電池のみならず、二次電池を好適に作製できることが確認できた。
【0085】
リチウム空気電池では、図7および図8に示されるように、放電によって負極から溶出された電荷担体としてのリチウムイオンが、正極において酸素と反応し、過酸化リチウム(Li)等の放電反応生成物となって大量に析出する(図8(b)参照)。例えばこの過酸化リチウムは、次の充電時に還元分解されて、再びリチウムイオンとなって負極に析出する。このようにリチウム空気電池では、正極と負極との間をリチウムイオンが可逆的に移動し、正極または負極に貯留されることで、繰り返し充放電することができる。しかしながら、正極に水分や二酸化炭素等が混入すると、例えば図7(b)に示されるように、正極には炭酸リチウムや水酸化リチウムといった、過酸化リチウム以外の化合物が形成され得る。このうち、炭酸リチウム(LiCO)は正極で還元分解され難く、従来は正極に炭酸リチウムが形成されると電荷担体が消費されて充放電に寄与できず、容量低下につながっていた。
【0086】
これに対し、正極材料としてここに開示されるNDG@CNT(カーボン材料)を用いることで、図7(c)および図8(c)に示されるように、正極に析出した炭酸リチウム(LiCO)が充電によりほぼ全て分解されることがわかった。このことにより、このリチウム空気電池は例えば繰り返し充放電を行った場合でも、容量低下が抑制されて高い耐久性を備えるものとして実現され得る。なお、図8(d)に示されるように、このリチウム空気電池においては、例えば10回の充放電後であっても、正極表面に目立った析出物は確認されない。これは、例えば、ここに開示されるNDG@CNT(カーボン材料)が窒素原子に由来する触媒活性を発現し得ることから、正極表面の析出物の還元分解が促進されていると予想される。換言すると、ここに開示されるNDG@CNT(カーボン材料)を用いて電極を構成することで、セルフクリーニング機能を備える電極を作製できるといえる。
【0087】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。
【符号の説明】
【0088】
1 液中プラズマ発生装置
2 反応液(液相)
4 プラズマ
6 電極
8 直流パルス電源
10 リチウム空気電池
20 正極
30 負極
45 電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8