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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】局部防食装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20221012BHJP
   B24C 1/00 20060101ALI20221012BHJP
   B05C 9/10 20060101ALI20221012BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20221012BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20221012BHJP
   B05C 15/00 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
E01D22/00 A
B24C1/00 Z
B05C9/10
C23F11/00 Z
E01D1/00 E
B05C15/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018112277
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019214869
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】518208967
【氏名又は名称】片山 英資
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173810
【氏名又は名称】一般財団法人土木研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】511211368
【氏名又は名称】株式会社特殊高所技術
(73)【特許権者】
【識別番号】518208978
【氏名又は名称】極東メタリコン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】片山 英資
(72)【発明者】
【氏名】永田 佳文
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕真
(72)【発明者】
【氏名】安波 博道
(72)【発明者】
【氏名】中島 和俊
(72)【発明者】
【氏名】和田 聖司
(72)【発明者】
【氏名】中田 直人
(72)【発明者】
【氏名】小寺 悟史
(72)【発明者】
【氏名】小寺 健史
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-077543(JP,A)
【文献】特開平07-276241(JP,A)
【文献】特開2005-153069(JP,A)
【文献】実開昭59-082653(JP,U)
【文献】特開2011-206858(JP,A)
【文献】特開2015-196205(JP,A)
【文献】特開2004-025382(JP,A)
【文献】特開2005-155015(JP,A)
【文献】登録実用新案第3057919(JP,U)
【文献】特開平07-276237(JP,A)
【文献】特開2000-345717(JP,A)
【文献】特開2004-351348(JP,A)
【文献】特開2014-015750(JP,A)
【文献】特開平10-151568(JP,A)
【文献】特開2003-021621(JP,A)
【文献】特開平11-291172(JP,A)
【文献】特開平08-071921(JP,A)
【文献】特開昭61-103777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
B24C 1/00
B05C 9/10
C23F 11/00
E01D 1/00
B05C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面を開口した開口面を有する強化段ボール製の箱型の筐体と、
前記開口面以外の前記筐体の外周面に、
前記筐体の内部に給気する空気の流量を調節可能な給気口と、
腕挿入口と、
ブラストホース挿入口と、
観察窓と、
バキュームホース接続口と、を備え、
前記開口面により鋼材の表面の腐食部位を密閉して取付けられることを特徴とする局部防食装置。
【請求項2】
前記筐体の内側にはブラスト処理における研削材の衝撃を吸収する吸収シートが貼付されていることを特徴とする請求項1に記載の局部防食装置。
【請求項3】
鋼材の表面の腐食部位を囲むように枠体を取り付け、この枠体を光透過性のあるシートで覆うことにより鋼材の表面に密閉された直方体の内部空間を形成し、
前記シートに、
前記内部空間に給気する空気の流量を調節可能な給気口と、
腕挿入口と、
ブラストホース挿入口と、
バキュームホース接続口と、
を備えたことを特徴とする局部防食装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局部防食装置に関し、詳しくは、橋梁等の補修作業において、特に腐食が進行している箇所を局部的に補修することが可能な、局部防食装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路や鉄道などの橋梁の主要部(特に橋桁部分)には、I型(H型)や箱型の鋼材が強度、加工性、経済性に優れるという特性を有するため好適に用いられている。このような鋼材は、防食(防錆も含む)のため主に樹脂製(エポキシ樹脂、フッ素樹脂等)の塗料により塗装されているが、橋梁の施工後では塗装が経年劣化して腐食(錆等)が発生する可能性があり、定期的に補修作業を行っている。
【0003】
このような橋梁施工後の補修作業では、鋼材で構成された主桁の下部に縦横の鋼管や足場板から形成された足場を組み、この足場板上で作業者が橋梁の鋼材の補修作業を行っていた。しかしながら、高速道路や鉄道等の大型の橋梁において足場を構築する作業は、現場における足場用の大量の資材の搬入、組立工程に多くの日数を要し補修作業の工期の長期化及びコスト増加の要因となる。
【0004】
このため、橋桁間に作業用ゴンドラを吊下げることにより作業足場の設置効率を向上させることを可能とする橋桁補修塗装作業用足場の設置方法及び橋桁補修塗装作業用足場装置が開示されている。(特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-155015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の橋桁補修塗装作業用足場装置によれば、橋脚間にゴンドラ支持ワイヤーを二本帳設し、このゴンドラ支持ワイヤーに作業用ゴンドラを吊下げて橋軸方向へ移動させる構成のため、作業用足場の設置及び解体時間を大幅に短縮することができる。しかしながら、橋梁の鋼材の局部的な補修作業を行う場合には、全体的に作業場所を確保する必要はなく、ゴンドラの吊下げ工事そのものも大掛かりな工事となる。
【0007】
また、橋梁の鋼材の補修作業は、まず、鋼材の表面の腐食部に研削材を高速度で吹き付けて清浄するブラスト処理を行い、その後、防食のために塗料を鋼材の清浄した後の表面に塗装したり金属溶射したりすることで行われる。このとき、ブラスト処理によって鋼材の表面の腐食部に高速で吹き付けられた研削材やこの研削材で剥がされた防食部の錆びや塗料等が大量に飛散する。この飛散する塗料等には有害物質(例えば、鉛等)が含有されている場合があり、作業者の安全や周囲の環境保全のために、ブラスト処理はできるだけ密閉化して有害物質の飛散を防止する必要があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、橋梁の鋼材の局部的な補修作業を行う場合に、大掛かりな足場を設置することなく橋梁の鋼材の腐食部位に着脱が容易であり、さらに、ブラスト処理を行う箇所を完全密閉化できる局部防食装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術を提供する。
【0010】
本発明は、一面を開口した開口面を有する強化段ボール製の箱型の筐体と、前記開口面以外の前記筐体の外周面に、前記筐体の内部に給気する空気の流量を調節可能な給気口と、腕挿入口と、ブラストホース挿入口と、観察窓と、バキュームホース接続口と、を備え、前記開口面により鋼材の表面の腐食部位を密閉して取付けられることを特徴とする局部防食装置とした。
【0011】
また、前記筐体の内側にはブラスト処理における研削材の衝撃を吸収する吸収シートが貼付されていることを特徴とする。
【0012】
また、鋼材の表面の腐食部位を囲むように枠体を取り付け、この枠体を光透過性のあるシートで覆うことにより鋼材の表面に密閉された直方体の内部空間を形成し、前記シートに、前記内部空間に給気する空気の流量を調節可能な給気口と、腕挿入口と、ブラストホース挿入口と、バキュームホース接続口と、を備えたことを特徴とする局部防食装置とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、一面を開口した開口面を有する箱型の筐体と、前記開口面以外の前記筐体の外周面に、給気口と、腕挿入口と、ブラストホース挿入口と、観察窓と、バキュームホース接続口と、を備え、前記開口面により鋼材の表面の腐食部位を密閉して取付けられることを特徴とする局部防食装置である。
【0015】
本実施形態においては、橋梁を構成する鋼材の補修作業において、鋼材表面の腐食部位を清浄するブラスト処理を行う場合に、まず、筐体の開口面で鋼材の表面の腐食部位(錆等が発生している箇所)を密閉して覆うように、鋼材の表面に箱型の本体を取り付ける。続いて、ブラストホース挿入口からブラスト噴出用ホースを筐体内に挿入し、作業者は腕挿入口から片手の前腕を筐体内に挿入する。そして、作業者は観察窓から鋼材の腐食部位を確認しながら、片手でブラスト噴出用ホースを操作して腐食部位に対するブラスト処理を行う。このとき、ブラスト噴出用ホースから噴出される高速の研削材やこの研削材によって鋼材の表面から剥離され飛散する大量の腐食部の錆びや塗料等は、バキュームホース接続口に接続されたバキュームホースから筐体外に排出される。
【0016】
上記構成により、ブラスト噴出用ホースから噴出される高速の研削材や研削材で剥がされた腐食部の錆びや塗料等が周囲に飛散することなく、ブラスト処理を密閉された筐体内で行うことができる。つまり、局部的な橋梁の補修作業を行う場合に、橋梁の鋼材の腐食部位に着脱が容易であり、さらに、ブラスト処理を行う箇所を完全密閉化できる局部防食装置とすることができる。
【0017】
また、筐体には給気口が設けられている。この給気口は、ブラスト処理を行う際に、空気を筐体内に給気するためのものであり、筐体内に給気する空気の流量を手動で調節可能な開閉羽根付きの丸型レジスター等が好適に用いられる。作業者は給気口としての開閉羽根付きの丸型レジスターの羽根の状態を手動で調整することにより、密封された筐体内を負圧に保ったまま筐体内に給気する。これにより、バキュームホース接続口に接続されたバキュームホースから、研削材や研削材で剥がされた腐食部の錆びや塗料等の破片を筐体体外にスムーズに排出することができる。
【0018】
また、筐体の内側にはブラスト処理における研削材の衝撃を吸収する吸収シートが貼付されている。本実施形態の箱型の筐体の素材としては、例えば、強化段ボールや薄板等の軽量な素材が好適に用いられる。これは鋼材の腐食部位への筐体による密閉を容易とするためであるが、一方では強度不足が否めない。ブラスト処理においては、ブラスト噴出用ホースから噴出される研削材はかなりの高速であるため、この研削材により筐体内部を損傷する恐れがある。このため。筐体の内側(内周面)に例えばゴムシートからなる吸収シートを貼付することで、ブラスト噴出用ホースから噴出される研削材による筐体内部の損傷を防止することができる。
【0019】
また、鋼材の表面の腐食部位を囲むように枠体を取り付け、この枠体を光透過性のあるシートで覆うことにより鋼材の表面に密閉された直方体の内部空間を形成し、前記シートに、給気口と、腕挿入口と、ブラストホース挿入口と、バキュームホース接続口と、を備えた局部防食装置とすることもできる。
【0020】
つまり、橋梁を構成する鋼材の補修作業を行う場合に、まず、鋼材の表面の腐食部位(錆等が発生している箇所)を囲むように枠体を取り付ける。この枠体の鋼材の表面への取り付けは、例えば、枠体の鋼材への取付部(接触部)に磁石(ネオジム磁石)を設けることで、鉄製の鋼材に枠体を固定する。そして、この枠体を光透過性のあるシート(例えば、厚手のビニールシート等)で密閉して覆うことで、鋼材の表面に密閉された直方体の内部空間を形成する。続いて、作業ホース挿入口からブラスト噴出用ホースを本体内に挿入し、作業者は腕挿入口から片手の前腕を本体内に挿入する。そして、作業者は光透過性のあるシートを介して鋼材の腐食部位を確認しながら、片手でブラスト噴出用ホースを操作して腐食部位に対するブラスト処理を行う。このとき、ブラスト噴出用ホースから噴出される高速の研削材やこの研削材によって鋼材の表面から剥離され飛散する大量の腐食部の錆びや塗料等は、バキュームホース接続口に接続されたバキュームホースから外部に排出される。さらに、給気口から密閉された直方体の内部空間の負圧を保った状態で給気することにより、研削材や研削材で剥がされた腐食部の錆びや塗料等の破片を、バキュームホース接続口に接続されたバキュームホースから外部にスムーズに排出することができる。
【0021】
上記構成によれば、枠体とシートという簡単な構成で、さらに、このシートに給気口、腕挿入口、ブラストホース挿入口、バキュームホース接続口等を設けるだけで、局部的な橋梁の補修作業を行う場合に、橋梁の鋼材の腐食部位に着脱が容易であり、さらに、ブラスト処理を行う箇所を完全密閉化できる局部防食装置を提供することができる。なお、給気口、腕挿入口、ブラストホース挿入口、バキュームホース接続口等のビニールへの配設位置は特に限定されるものではなく、作業者が作業し易い位置に任意に配設することができる。
【0022】
また、鋼材の表面の局部的な腐食部位を密閉可能な局部防食装置を用い、前記局部防食装置を取り付けるステップと、前記局部防食装置の内部でブラスト処理を行うステップと、前記局部防食装置を取り外すステップと、前記ブラスト処理により清浄された腐食部位の防食処理を行うステップと、を備えたスポットリフレ工法とした。
【0023】
上記工法により、橋梁の鋼材の局部的な補修作業を行う場合に、橋梁の鋼材の腐食部位に着脱が容易な小型軽量の局部防食装置を用い、この局部防食装置の内部でブラスト処理を行うことで、ブラスト処置における研削材や研削材で剥がされた腐食部の錆びや塗料等が周囲に飛散することを防止できる。さらに、補修が必要な橋梁の鋼材の局部的な腐食部位を効率よく補修することが可能となり、橋梁の補修作業における工期の短縮やコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る局部防食装置の構成を示す前面斜視図である。
図2】本実施形態に係る局部防食装置の構成を示す背面斜視図である。
図3】本実施形態に係る局部防食装置の取り付けを説明する斜視図である。
図4】本実施形態に係る局部防食装置の他の実施形態の構成を示す正面斜視図である。
図5】本実施形態に係る局部防食装置を用いた橋梁の局部的な補修作業の工法であるスポットリフレ工法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、一面を開口した開口面を有する箱型の筐体と、前記開口面以外の前記筐体の外周面に、給気口と、腕挿入口と、ブラストホース挿入口と、観察窓と、バキュームホース接続口と、を備え、前記開口面により鋼材の表面の腐食部位を密閉して取付けられることを特徴とする局部防食装置に関するものである。
【0026】
以下、図1図5を参照して、本発明における局部防食装置の構成の実施形態の一例を説明する。図1は、本実施形態に係る局部防食装置の構成を示す前面斜視図である。図2は、本実施形態に係る局部防食装置の構成を示す背面斜視図である。図3は、本実施形態に係る局部防食装置の取り付けを説明する斜視図である。図4は、本実施形態に係る局部防食装置の他の実施形態の構成を示す正面斜視図である。図5は、本実施形態に係る局部防食装置を用いた橋梁の局部的な補修作業の工法であるスポットリフレ工法を説明するフローチャートである。
【0027】
なお、以下の実施形態においては、高速道路等の橋梁の主要構成部材である鋼材(I型(H型)や箱型の鋼材等)の局部的な補修作業を行う場合を一例として説明する。本実施形態においては、橋梁の鋼材の補修作業において、まず、鋼材表面の腐食部位に対してブラスト処理を行う。このブラス処理は、ブラスト噴出用ホースから高速で噴出される研削材により、鋼材表面の腐食部位を清浄する処理(素地調整処理ともいう)である。そして、ブラスト処理を行った腐食部に、防食(防錆も含む)のために樹脂製(エポキシ樹脂、フッ素樹脂等)塗料の塗装や金属溶射が行われる。なお、以下の説明における局部防食装置は、鋼材の補修作業におけるブラスト処理で用いられるものである。
【0028】
[第一実施形態]
以下、本発明の局部防食装置の第一実施形態を、図1図3を参照して説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態の局部防食装置1は、一面を開口した開口面を有する箱型に形成された筐体9により構成される。この筐体9としては、強化段ボール箱等が好適に用いられ、前面10と対抗する背面12は一面を開口した開口面であり、背面12を封止するフラップ(図中、上、左右のフラップ)Fを開口することにより、背面12が開口面として形成される。なお、筐体9を構成する素材としては、段ボールに限定するものではなく、段ボールと同様なベニヤ板や発泡スチロール等の軽量の素材を用いて、箱型(直方体や立方体)の筐体9を構成することもできる。
【0029】
筐体9の上面11には2個の給気口2が設けられている。筐体9の前面10には、腕挿入口3、ブラストホース挿入口4及び観察窓5が設けられている。筐体9の底面13にはバキュームホース接続口6が設けられている。
【0030】
筐体9の前面10の下部の略中央部に設けられたブラストホース挿入口4は、ブラストホース挿入口4からブラスト噴出用ホース(図示せず)を筐体9の内部に挿入するためのものである。このため、図2に示すように、ブラストホース挿入口4の筐体9の内部側には、前後端を開口した筒状のビニール4aが設けられている。このビニール4aによりブラスト噴出用ホースを包み込むことで、ブラスト噴出用ホースから筐体9の内部に噴出される研削材がブラストホース挿入口4から筐体9の外部に漏れないようにしている。
【0031】
筐体9の前面10のブラストホース挿入口4と略同一水平面に設けられた腕挿入口3は、ブラスト作業を行う場合に、作業者の片手前腕部を筐体9の内部に挿入するためのものである。このため、図2に示すように、腕挿入口3の筐体9の内部側には、作業者の前腕を保護するビニール手袋3aが設けられている。このビニール手袋3aにより作業者の前腕を保護することで、ブラスト噴出用ホースから筐体9の内部に高速で噴出される研削材により作業者の前腕部が傷つくことがないようにしている。
【0032】
筐体9の前面10のブラストホース挿入口4の上部に設けられた観察窓5は、ブラスト作業を行う場合に、ブラストホース挿入口4から筐体9の内部に挿入したブラスト噴出用ホースを、作業者が腕挿入口3から筐体9の内部に挿入した片手前腕部で保持し、ブラスト噴出用ホースを操作して鋼材の表面の腐食部位に対するブラスト処理を行う場合に、作業者が観察窓5から鋼材の表面の腐食部位のブラスト作業の進行状況を確認するためのものである。観察窓5はガラス枠5bに透明なガラス5aを嵌め込んで構成され作業者の視認性を確保している。ガラス5aとしては、ブラスト噴出用ホースから筐体9の内部に噴出される研削材が当たっても壊れにくく、なおかつ、この研磨剤によって鋼材の表面から剥離され飛散する大量の腐食部の錆びや塗料等が付着しにくい強化ガラス等が好適に用いられる。
【0033】
筐体9の底面13に設けられたバキュームホース接続口6は、ブラスト噴出用ホースから噴出される高速の研削材やこの研削材によって鋼材の表面から剥離され飛散する大量の腐食部位の錆びや塗料等(以下、粉塵ともいう)を筐体9の外部に排出するためのものである。このため、バキュームホース接続口6には、塩化ビニール製のL字継手6aの一端が連結され、他端にはバキュームホース6bが連結されている。
【0034】
ここで、上述してきたブラスト噴出用ホース(図示せず)やバキュームホース6bは、ブラスト処理における専用の機材であり、ブラスト噴出用ホースが研削材を筐体9の内部に噴出するのと同期して、バキュームホース6bにより筐体9の内部に噴出された研削材や粉塵を吸引する構成としている。このため、ブラスト噴出用ホースから研削材を噴出する機材やバキュームホース6bから吸引する機材は、例えば、ブラスト機材として専用のトラックに積み込んで、橋梁の鋼材の補修作業を行う位置に合わせて移動可能な構成とすることが望ましい。
【0035】
上記構成の局部防食装置1によれば、ブラスト噴出用ホースから噴出される高速の研削材や研削材で剥がされた腐食部の錆びや塗料等の粉塵が周囲に飛散することなく、ブラスト処理を密閉された筐体9の内部で行うことができる。つまり、局部的な橋梁の補修作業を行う場合に、橋梁の鋼材の腐食部位に容易に取り付け、ブラスト処理を行う箇所を完全密閉化することができる。
【0036】
筐体9の内側の両側面や底面13には、ブラスト処理における研削材の衝撃を吸収する吸収シートSが貼付されている。この吸収シートとしてはゴムシート等が好適に用いられる。これにより、軽量で強度不足な素材で形成された筐体9の内部が、ブラスト噴出用ホースから噴出される高速な研削材により損傷することを防止することができる。
【0037】
また、筐体9の内部の下部両角部は、補強部材7で補強されている。この補強部材7は、金属や強化段ボール等で形成され、ブラスト噴出用ホースから筐体9の内部に噴出される研削材が、筐体9の内部の下部両角部に集中して、当該下部両角部が破損して、研削材や粉塵が筐体9の内部から外部に漏れることを防止することができる。
【0038】
以下、図3を参照して局部防食装置1の鋼材の表面への取り付けを説明する。図3(a)に示すように、局部防食装置1は、筐体9の開口面である背面12で鋼材Hの表面Haの腐食部位Rを覆うように、筐体9を鋼材Hの表面Haに設置される。このとき、この筐体9の配置は、背面12を開放したフラップF(例えば、2枚のサイドフラップと1枚のフラップ)を鋼材Hの表面Haに重ねるようにして配置される。
【0039】
そして、図3(b)に示すように、背面12を開放したフラップFを鋼材Hの表面Haに重ねるようにして配置した状態で、粘着テープTにより、当該フラップを鋼材Hの表面Haに固定することで、局部防食装置1の鋼材Hの表面Haへの取り付けが行われる。なお、粘着テープTとしては、取り扱いが容易で粘着強度の大きいガムテープ(所謂、周知のクラフト粘着テープ、布粘着テープ、OPP粘着テープ等の総称)が好適に用いられる。
【0040】
なお、上述したブラスト作業における局部防食装置1の鋼材表面の局部的な腐食部への取り付けやブラスト作業は、例えば、機械足場である高所作業車に作業者が乗り込んだり特殊高所技術である高所から吊下げる作業者用ロープで作業者を吊り下げたりすることで行われる。本実施形態においては、局部的な橋梁の補修作業を行う場合に、小型軽量の筐体9を用いた局部防食装置1としているため、危険な高所作業にも関わらず従来のような大掛かりな足場を設置することなく作業者が橋梁の鋼材Hの腐食部位Rに着脱が容易であり、さらに、ブラスト処理を行う箇所を完全密閉化できるため、作業者の安全を確保することができる。
【0041】
[第二実施形態]
以下、本発明の局部防食装置の第二実施形態を、図4を参照して説明する。なお、以下の説明では、上記第一実施形態と同じ構成は省略し異なる点のみを重点的に説明する。
【0042】
図4に示すように、本実施形態の局部防食装置1では、上述した第一実施形態とは異なり、鋼材Hの表面Haの腐食部位Rを囲むように枠体Wを取り付ける。この枠体Wは、四角枠Waの四隅の角部に、4本の取付足部Wbをそれぞれ連結し、この4本の取付足部Wbの先端の鋼材Hへの接触部には、磁石Gがそれぞれ設けられている。この磁石Gとしては、周知のネオジム磁石が好適に用いられる。この磁石Gの磁力により、鋼材Hの表面Haの腐食部位Rを囲むように枠体Wを取り付けることを可能としている。
【0043】
さらに、枠体Wを光透過性のあるシートBSで覆い、このシートの四方端部を粘着テープTにより鋼材Hの表面Haに固定する。シートBSとしては、透明な厚手のビニールシートが好適に用いられる。これにより、鋼材Hの表面Haに密閉された略直方体の内部空間を形成することができる。
【0044】
シートBSには、給気口2と、腕挿入口3と、ブラストホース挿入口4と、バキュームホース接続口6とが任意の位置に設けられている。これら、給気口2、腕挿入口3、ブラストホース挿入口4及びバキュームホース接続口6は上述した第一次実施形態と同様である。
【0045】
上記第二実施形態の構成によれば、枠体WとシートBSという簡単な構成で、さらに、このシートに給気口2、腕挿入口3、ブラストホース挿入口4、バキュームホース接続口6を設けるだけで、局部的な橋梁の補修作業を行う場合に、橋梁の鋼材の腐食部位に着脱が容易であり、さらに、ブラスト処理を行う箇所を完全密閉化できる局部防食装置を提供することができる。なお、給気口2、腕挿入口3、ブラストホース挿入口4、バキュームホース接続口6のシートBSへの配設位置は特に限定されるものではなく、作業者が作業し易い位置に任意に配設することができる。
【0046】
以下、図5を参照して、本実施形態における局部防食装置1を用いた橋梁の鋼材の局部的な補修工法であるスポットリフレ工法の手順を説明する。
【0047】
図5に示すように、本実施形態のスポットリフレ工法においては、まず、橋梁を構成する鋼材の表面の腐食部位に局部防食装置1を取り付ける(ステップS10)。続いて、鋼材の表面の腐食部位を清浄するブラスト処理を行う(ステップS11)。続いて、鋼材の表面の腐食部位に取り付けた局部防食装置1を取り外す(ステップS12)。続いて、ブラスト処理において清浄(素地調整)した腐食部位に防食処理を行う(ステップS13)。最後に、橋梁を構成する鋼材の表面に腐食部位が残っているか否かを判断(ステップS14)し、腐食部位が残っていると判別(ステップS14:Yes)した場合は上記ステップS10からの工程を繰り返す。一方、腐食部位が残っていないと判別(ステップS14:No)した場合は本工程を終了する。
【0048】
上記ステップS13における防食処理では、上記ステップS11のブラスト処理で、清浄した鋼材の表面の腐食部位に対して、防食(防錆も含む)のための樹脂製(エポキシ樹脂、フッ素樹脂等)の塗料による塗装や金属溶射が行われる。この防食処理は、橋梁を構成する鋼材に要求される耐久性能に応じて行われる。塗装の場合は、複数の下塗と中塗及び上塗等が行われる。複数の下塗りとしては、一例として、有機ジンクリッチペイント、弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗、弱溶剤形変性エポキシ樹脂塗料下塗が行われ、中塗として弱溶剤形フッ素樹脂塗料中塗、上塗として弱溶剤形フッ素樹脂塗料上塗等が行われる。なお、省工程塗装の場合は一層で塗膜厚を十分確保する。また、金属溶射を行う場合は、亜鉛アルミ合金やアルミマグネシウム合金を溶射する。
【0049】
上述してきたように、本実施形態における局部防食装置1によれば、橋梁の鋼材の表面に発生した局部的な腐食部位の補修作業において、設置現場での設置作業が容易であり、かつ、工期を短縮することができるため、補修作業における経済的な効果が大きい。
【0050】
以上、本発明の好ましい各種実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 局部防食装置
2 給気口
3 腕挿入口
4 ブラストホース挿入口
5 観察窓
6 バキュームホース接続口
H 鋼材
S 吸収シート
R 腐食部位
図1
図2
図3
図4
図5