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特許7156607IGおよびITIMドメインを持つT細胞免疫受容体(TIGIT)に対する抗体およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】IGおよびITIMドメインを持つT細胞免疫受容体(TIGIT)に対する抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20221012BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20221012BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221012BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/13 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P31/04
A61P31/10
A61P33/00
A61P31/12
A61P31/18
G01N33/53 D
C12P21/08
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020526880
(86)(22)【出願日】2019-02-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 CN2019074775
(87)【国際公開番号】W WO2019154415
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-07-10
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2018/075477
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521182504
【氏名又は名称】アイ-エムエービー バイオファーマ (ハンジョウ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クイ、フェイフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、レイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ、ビンシ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ゼンイ
(72)【発明者】
【氏名】ザン、ジンウ
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/030823(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/28
C07K 16/46
C12N 15/13
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
A61P 35/00
A61P 35/02
A61K 39/395
A61P 31/04
A61P 31/10
A61P 33/00
A61P 31/12
A61P 31/18
G01N 33/53
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IgおよびITIMドメインを持つヒトT細胞免疫受容体(TIGIT)タンパク質に対する特異性を有する抗体またはその断片であって、前記抗体またはその断片は、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域と、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含み、前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、
(a)HCDR1:ENTMH(配列番号29)、HCDR2:GINPNQGGNRNNQKFKG(配列番号30)、HCDR3:SGLRDYAMDY(配列番号31)、LCDR1:KASQHVSTAVV(配列番号32)、LCDR2:SPSYRYT(配列番号33)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号34);および、
(b)HCDR1:DYYMY(配列番号43)、HCDR2:SITKGGGSTYYPDTLKG(配列番号44)、HCDR3:QSSYDFVMDY(配列番号45)、LCDR1:KASQDVDTAVA(配列番号46)、LCDR2:WASARHT(配列番号47)およびLCDR3:QQYSNYPLT(配列番号48);
からなる群から選択される、抗体またはその断片。
【請求項2】
重鎖定常領域、軽鎖定常領域、Fc領域、またはそれらの組合せをさらに含む、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項3】
前記抗体またはその断片が、IgG、IgM、IgA、IgEまたはIgDのアイソタイプである、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項4】
前記抗体が、キメラ抗体、またはヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項5】
前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3が、HCDR1:ENTMH(配列番号29)、HCDR2:GINPNQGGNRNNQKFKG(配列番号30)、HCDR3:SGLRDYAMDY(配列番号31)、LCDR1:KASQHVSTAVV(配列番号32)、LCDR2:SPSYRYT(配列番号33)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号34)である、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項6】
ヒト化されており、前記重鎖可変領域が、配列番号1のアミノ酸番号に従って12V、20、24T、38K、48I、68A、70L、72Vおよび91S、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む、請求項5に記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
ヒト化されており、前記軽鎖可変領域が、配列番号2のアミノ酸番号に従って13T、73F、78Vおよび104L、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む、請求項5に記載の抗体またはその断片。
【請求項8】
配列番号1および35~38からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、または配列番号1および35~38からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む、請求項5に記載の抗体またはその断片。
【請求項9】
配列番号2および39~42からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、または配列番号2および39~42からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む、請求項5に記載の抗体またはその断片。
【請求項10】
前記HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3が、HCDR1:DYYMY(配列番号43)、HCDR2:SITKGGGSTYYPDTLKG(配列番号44)、HCDR3:QSSYDFVMDY(配列番号45)、LCDR1:KASQDVDTAVA(配列番号46)、LCDR2:WASARHT(配列番号47)およびLCDR3:QQYSNYPLT(配列番号48)である、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項11】
ヒト化されており、前記重鎖可変領域が、配列番号27のアミノ酸番号に従って3K、44Rおよび8R、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む、請求項10に記載の抗体またはその断片。
【請求項12】
ヒト化されており、前記軽鎖可変領域が、配列番号28のアミノ酸番号に従って3V、42Q、43Sおよび87F、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む、請求項10に記載の抗体またはその断片。
【請求項13】
配列番号27および49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、または配列番号27および49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む、請求項10に記載の抗体またはその断片。
【請求項14】
配列番号28および53~56からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、または配列番号28および53~56からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む、請求項10に記載の抗体またはその断片。
【請求項15】
二重特異性である、請求項1から14のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項16】
前記二重特異性が、免疫チェックポイントタンパク質または腫瘍抗原に対する第2の特異性を含む、請求項15に記載の抗体またはその断片。
【請求項17】
前記二重特異性が、PD-L1、PD-1、CTLA-4、LAG3、CD28、CD122、4-1BB、TIM3、OX-40、OX40L、CD40、CD40L、LIGHT、ICOS、ICOSL、GITR、GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVM、BTLA、KIR、CD47、CD73、EGFR、Her2、CD33、CD133、CEAおよびVEGFからなる群から選択されるタンパク質標的に対する第2の特異性を含む、請求項15に記載の抗体またはその断片。
【請求項18】
前記二重特異性が、PD-L1に対する第2の特異性を含む、請求項15に記載の抗体またはその断片。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の抗体またはその断片と、薬学的に許容される担体とを含む組成物。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載の抗体またはその断片をコードする、1つまたは複数のポリヌクレオチド。
【請求項21】
請求項20に記載の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む、単離された細胞。
【請求項22】
癌の治療を必要とする患者において癌を治療するための、請求項1から18のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項23】
前記癌が、膀胱癌、乳癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、膵臓癌、前立腺癌および甲状腺癌からなる群から選択される、請求項22に記載の抗体またはその断片。
【請求項24】
感染症の治療または抑制を必要とする患者において感染症を治療または抑制するための、請求項1から18のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項25】
前記感染症が、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症または寄生虫感染症である、請求項24に記載の抗体またはその断片。
【請求項26】
前記感染症がHIV感染症である、請求項24に記載の抗体またはその断片。
【請求項27】
サンプル中のTIGITの発現を検出する方法であって、請求項1から18のいずれか一項に記載の抗体またはその断片が前記TIGITに結合する条件下で前記サンプルを前記抗体またはその断片と接触させることと、前記サンプル中の前記TIGITの発現を示す結合を検出することとを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
TIGIT(IgおよびITIMドメインを持つT細胞免疫受容体とも呼ばれる)は、特定のT細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞上に発現した免疫受容体である。研究では、TIGIT-Fc融合タンパク質が樹状細胞上のPVRと相互作用し、LPS刺激下でIL-10分泌量を増加させ、IL-12分泌量を減少させ、さらにはin vivoでT細胞の活性化を阻害し得ることが明らかになっている。TIGITのNK細胞毒性阻害は、PVRとの相互作用に対する抗体によって遮断され、その活性はITIMドメインを介して誘導される。
【0002】
TIGITは、活性化された細胞毒性T細胞および制御性T細胞によって発現され、また、複数の癌モデルのT細胞上でアップレギュレートされることが確認されている。リガンドCD155とCD112は樹状細胞とマクロファージに見られ、いくつかのタイプの癌でも高発現される。さらに、TIGITの発現は、PD-1をはじめとする共抑制性分子の発現と高い相関がある。全体的に、このことは、腫瘍が他の抑制性チェックポイントネットワークと共にTIGIT経路をアップレギュレートし、免疫抑制機構を促進することを示唆している。
【0003】
さらに、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染中には、TIGITを発現するCD8T細胞が拡大し、HIV感染者の多様な群におけるHIV疾患の進行の臨床マーカーに関連付けられることが確認されている。TIGITレベルの上昇は、ウイルス量が検出不可能な患者でも保持され続け、HIV特異的CD8T細胞の大部分が同時に、TIGITと、別のネガティブチェックポイント受容体であるプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)との両方を発現し、疲弊したT細胞のいくつかの機能を維持した標的化モノクローナル抗体を用いてこれらの経路を遮断することで、HIV特異的CD8T細胞応答が相乗的に回復した。この経路は「Shock and Kill」HIV治癒アプローチ中にHIV感染細胞の殺傷を高めるために潜在的に標的化され得る。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、IgおよびITIMドメインを持つヒトT細胞免疫受容体(TIGIT)タンパク質に対する特異性を有する抗体およびその断片を提供する。実験データは、これらの抗体がTIGITに対して高い親和性を示し、機能的に活性であることを実証している。癌およびウイルス感染症などの疾患の治療および診断に抗体またはその断片を使用する方法も提供される。
【0005】
本開示の一実施形態は、IgおよびITIMドメインを持つヒトT細胞免疫受容体(TIGIT)タンパク質に対する特異性を有する単離された抗体またはその断片を提供し、抗体またはその断片は、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域と、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含み、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、
(a)HCDR1:ENTMH(配列番号29)、HCDR2:GINPNQGGNRNNQKFKG(配列番号30)、HCDR3:SGLRDYAMDY(配列番号31)、LCDR1:KASQHVSTAVV(配列番号32)、LCDR2:SPSYRYT(配列番号33)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号34);
(b)HCDR1:DYYMY(配列番号43)、HCDR2:SITKGGGSTYYPDTLKG(配列番号44)、HCDR3:QSSYDFVMDY(配列番号45)、LCDR1:KASQDVDTAVA(配列番号46)、LCDR2:WASARHT(配列番号47)およびLCDR3:QQYSNYPLT(配列番号48);ならびに
(c)HCDR1:SDYAWN(配列番号57)、HCDR2:YISYSGNTRYNPSLKS(配列番号58)、HCDR3:KYYGSWFPY(配列番号59)、LCDR1:KASQDVFTAVA(配列番号60)、LCDR2:SASYRYT(配列番号61)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号62)
からなる群から選択される。
【0006】
いくつかの実施形態では、抗体または断片はさらに、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、Fc領域、またはそれらの組合せを含む。いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、IgG、IgM、IgA、IgEまたはIgDのアイソタイプである。いくつかの実施形態では、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体である。
【0007】
いくつかの実施形態では、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、HCDR1:ENTMH(配列番号29)、HCDR2:GINPNQGGNRNNQKFKG(配列番号30)、HCDR3:SGLRDYAMDY(配列番号31)、LCDR1:KASQHVSTAVV(配列番号32)、LCDR2:SPSYRYT(配列番号33)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号34)である。
【0008】
そのような抗体または断片は、ヒト化することができ、重鎖可変領域は、Kabat番号付けに従って12V、20L、24T、38K、48I、68A、70L、72Vおよび91S、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖可変領域は、Kabat番号付けに従って13T、73F、78Vおよび104L、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、抗体または断片は、配列番号1および35~38からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、または配列番号1および35~38からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む。いくつかの実施形態では、抗体または断片は、配列番号2および39~42からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、または配列番号2および39~42からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、HCDR1:DYYMY(配列番号43)、HCDR2:SITKGGGSTYYPDTLKG(配列番号44)、HCDR3:QSSYDFVMDY(配列番号45)、LCDR1:KASQDVDTAVA(配列番号46)、LCDR2:WASARHT(配列番号47)およびLCDR3:QQYSNYPLT(配列番号48)である。
【0011】
そのような抗体または断片は、ヒト化することができ、重鎖可変領域は、Kabat番号付けに従って3K、44Rおよび82R、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖可変領域は、Kabat番号付けに従って3V、42Q、43Sおよび87F、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、抗体または断片は、配列番号27および49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、または配列番号27および49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む。いくつかの実施形態では、抗体または断片は、配列番号28および53~56からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、または配列番号28および53~56からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、HCDR1:SDYAWN(配列番号57)、HCDR2:YISYSGNTRYNPSLKS(配列番号58)、HCDR3:KYYGSWFPY(配列番号59)、LCDR1:KASQDVFTAVA(配列番号60)、LCDR2:SASYRYT(配列番号61)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号62)である。
【0014】
そのような抗体または断片は、ヒト化することができ、重鎖可変領域は、Kabat番号付けに従って49M、68I、72R、83Fおよび97S、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖可変領域は、Kabat番号付けに従って13T、73Fおよび78V、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の復帰突然変異を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、抗体または断片は、配列番号3および63~66からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、または配列番号3および63~66からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、抗体または断片は、配列番号4および67~70からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、または配列番号4および67~70からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む。
【0017】
また、一実施形態では、IgおよびITIMドメインを持つヒトT細胞免疫受容体(TIGIT)タンパク質に対する特異性を有する単離された抗体またはその断片が提供され、抗体またはその断片は、重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域と、軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変領域とを含み、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、
(a)HCDR1:ENTMH(配列番号29)、HCDR2:GINPNQGGNRNNQKFKG(配列番号30)、HCDR3:SGLRDYAMDY(配列番号31)、LCDR1:KASQHVSTAVV(配列番号32)、LCDR2:SPSYRYT(配列番号33)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号34);
(b)HCDR1:DYYMY(配列番号43)、HCDR2:SITKGGGSTYYPDTLKG(配列番号44)、HCDR3:QSSYDFVMDY(配列番号45)、LCDR1:KASQDVDTAVA(配列番号46)、LCDR2:WASARHT(配列番号47)およびLCDR3:QQYSNYPLT(配列番号48);
(c)HCDR1:SDYAWN(配列番号57)、HCDR2:YISYSGNTRYNPSLKS(配列番号58)、HCDR3:KYYGSWFPY(配列番号59)、LCDR1:KASQDVFTAVA(配列番号60)、LCDR2:SASYRYT(配列番号61)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号62);ならびに
(d)(a)~(c)で示されるHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3であって、ただし、そのうちの少なくとも1つが、1つ、2つもしくは3つのアミノ酸付加、欠失、保存的アミノ酸置換またはそれらの組合せを含む、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3、
からなる群から選択される。
【0018】
いくつかの実施形態では、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、HCDR1:SDYAWN(配列番号57)、HCDR2:YISYSGNTRYNPSLKS(配列番号58)、HCDR3:KYYGSWFPY(配列番号59)、LCDR1: KASQDVFTAVA(配列番号 60)、LCDR2:SASYRYT(配列番号61)およびLCDR3:QQHYSTPWT(配列番号62)、または配列番号57~62であって、そのうちの少なくとも1つが、1つ、2つもしくは3つのアミノ酸置換を含む、配列番号57~62である。
【0019】
いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、Kabat番号付けに従ってVH-31S、VH-57N、VH-59R、VH-66S、VH-100Y、VH-103S、VH-107Y、VL-53Y、VL-55Y、VL-56TおよびVL-91H、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の残基である。いくつかの実施形態では、置換は、表13から選択される1つまたは複数である。
【0020】
また、それぞれ配列番号3および71~75からなる群から選択される重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2およびHCDR3のアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2およびHCDR3と、それぞれ配列番号4および76~80からなる群から選択される軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2およびLCDR3のアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2およびLCDR3とを有する抗体またはその断片も提供される。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体または断片は、二重特異性である。二重特異性は、免疫チェックポイントタンパク質または腫瘍抗原に対する第2の特異性を含み得る。いくつかの実施形態では、第2の特異性は、PD-L1、PD-1、LAG3、CD47、CD73、EGFR、Her2、CD33、CD133、CEAおよびVEGFからなる群から選択されるタンパク質標的に対するものである。いくつかの実施形態では、第2の特異性はPD-L1である。
【0022】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体または断片と、薬学的に許容される担体とを含み得る組成物も提供される。また、本開示の抗体または断片をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む単離細胞も提供される。
【0023】
方法も提供される。一実施形態では、癌の治療を必要とする患者において癌を治療する方法であって、本開示の抗体またはその断片を患者に投与することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、癌は、膀胱癌、乳癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、膵臓癌、前立腺癌および甲状腺癌からなる群から選択される。
【0024】
別の実施形態では、感染症の治療または抑制を必要とする患者において感染症を治療または抑制する方法であって、本開示の抗体またはその断片を患者に投与することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症または寄生虫感染症である。いくつかの実施形態では、感染症はHIV感染症である。
【0025】
さらにまた、一実施形態では、癌の治療を必要とする患者において癌を治療する方法であって、(a)請求項1から27のいずれか一項に記載の抗体またはその断片を用いて、T細胞をin vitroで治療するステップ;および(b)治療されたT細胞を患者に投与するステップを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、方法はさらに、ステップ(a)の前に、個体からT細胞を単離することを含む。いくつかの実施形態では、T細胞は、腫瘍浸潤性Tリンパ球、CD4T細胞、CD8T細胞、またはそれらの組合せである。
【0026】
また、一実施形態では、サンプル中のTIGITの発現を検出する方法であって、本開示の抗体またはその断片がTIGITに結合する条件下でサンプルを抗体またはその断片と接触させることと、サンプル中のTIGITの発現を示す結合を検出することとを含む、方法が提供される。
【0027】
さらにまた、一実施形態では、抗TIGIT療法による治療に適した患者を同定する方法であって、癌患者から細胞を単離することと、本開示の抗体またはその断片を用いてTIGITタンパク質の存在を検出することとを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】抗体90D9H、101E1Hおよび350D10Hについての、ヒトおよびカニクイザルTIGITタンパク質に対する結合のEC50を示す。
【0029】
図2】90D9H、101E1H、350D10H抗体がJurkat細胞株上に発現したTIGITに用量依存的に結合したことを示す。
【0030】
図3】90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体が、活性化されたヒトCD8T細胞上に発現したTIGITに用量依存的に結合したことを示す。
【0031】
図4】90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体が、CD155のその受容体TIGITに対する結合を用量依存的に阻害したことを示す。
【0032】
図5】90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体が、CD155の細胞表面に発現したその受容体TIGITに対する結合を用量依存的に阻害したことを示す。
【0033】
図6】90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体がJurkat細胞媒介性IL-2産生を用量依存的に増強したことを示す。
【0034】
図7】抗TIGIT抗体および抗PD-L1抗体が相乗的にIL-2の産生を増強したことを示す。
【0035】
図8】抗TIGIT抗体および抗PDL1抗体によるCD8T細胞によるIFN-r産生の相乗的刺激の結果を示す。
【0036】
図9】90D9および101E1が腫瘍増殖の軽度の阻害を示したことを示す。
【0037】
図10】乳酸脱水素酵素(LDH)の放出によって測定されたin vitro細胞毒性アッセイを示す。
【0038】
図11】MC38同系マウスモデルにおける(mIgG2a)ADCC効果を有する場合または(mIgG1)ADCC効果を有しない場合の90D9および101E1抗体のin vivo効力を示す。
【0039】
図12】MC38同系マウスモデルにおける異なる350D10抗体のin vivo効力を示す。
図13】MC38同系マウスモデルにおける異なる350D10抗体のin vivo効力を示す。
【0040】
図14】抗TIGITまたは対照抗体処置群の後の脾臓および腫瘍浸潤性CD4TおよびCD8T細胞のパーセンテージを示す。
【0041】
図15】抗TIGIT抗体または抗PDL1抗体の併用療法が、単剤療法と比較して相乗的に腫瘍増殖を阻害したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
定義
「a」または「an」の実体という用語は、その実体の1つまたは複数を指すことに留意されたい;例えば、「抗体(an antibody)」とは、1つまたは複数の抗体を表すものと理解される。このように、「a」(または「an」)、「1つまたは複数」および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に使用することができる。
【0043】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、単数の「ポリペプチド」および複数の「ポリペプチド」を包含することを意図しており、アミド結合(ペプチド結合としても知られている)によって直線的に結合されたモノマー(アミノ酸)で構成された分子を指す。「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖または複数の鎖を指し、産物の特定の長さを指すものではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸の鎖または複数の鎖を指すために使用される他の任意の用語が、「ポリペプチド」の定義内に含められ、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語の代わりに、またはこれらの用語のいずれかと互換的に使用することができる。「ポリペプチド」という用語はまた、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解的切断、または非天然に存在するアミノ酸による修飾を含むがこれらに限定されないポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことを意図している。ポリペプチドは、天然の生物学的起源に由来するものであってもよいし、組換え技術によって産生されたものであってもよいが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成をはじめとする任意の方法で生成してもよい。
【0044】
細胞、核酸、例えばDNAまたはRNAに関して本明細書で使用される「単離された」という用語は、高分子の天然源に存在する、それぞれ他のDNAまたはRNAから分離された分子を指す。本明細書で使用される「単離された」という用語はまた、組換えDNA技術によって産生された場合には細胞材料、ウイルス材料または培地を実質的に含まない核酸もしくはペプチド、または化学的に合成された場合には化学的前駆体または他の化学物質を指す。さらに、「単離された核酸」とは、断片として天然には存在せず、天然の状態では見られないであろう核酸断片を含むことを意味する。「単離された」という用語はまた、他の細胞タンパク質または組織から単離された細胞またはポリペプチドを指すために本明細書で使用される。単離されたポリペプチドは、精製ポリペプチドと組換えポリペプチドの両方を包含することを意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関連する「組換え」という用語は、天然には存在しないポリペプチドまたはポリヌクレオチドの形態を意図しており、その非限定的な例は、通常は一緒に存在しないであろうポリヌクレオチドまたはポリペプチドを組み合わせることによって作製することができる。
【0046】
「相同性」または「同一性」または「類似性」とは、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較のためにアラインメントされていてもよい各配列における位置を比較することによって決定することができる。比較された配列における位置が同じ塩基またはアミノ酸で占められている場合、分子はその位置で相同性がある。配列間の相同性の程度は、配列によって共有される一致した位置または相同な位置の数の関数である。「非関連」または「非相同」配列は、本開示の配列の1つと40%未満の同一性を共有するが、好ましくは25%未満の同一性を共有する。
【0047】
ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドまたはポリペプチド領域)が、別の配列と「配列同一性」の一定のパーセンテージ(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%)を有するとは、アラインメントされたときに2つの配列を比較すると、塩基(またはアミノ酸)のそのパーセンテージが同じであることを意味する。このアラインメントおよびパーセント相同性または配列同一性は、当該技術分野で知られているソフトウェアプログラム、例えば、Ausubel et al.eds.2007)Current Protocols in Molecular Biologyに記載されているものを用いて決定することができる。好ましくは、アラインメントにはデフォルトパラメータが使用される。デフォルトパラメータを使用する1つのアラインメントプログラムがBLASTである。特に、プログラムは、以下のデフォルトパラメータを使用したBLASTNおよびBLASTPである:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;ストランド=両方;カットオフ値=60;基体値=10;マトリックス=BLOSUM62;記述=50配列;ソート順=HIGH SCORE;データベース=非重複性,GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳物+SwissProtein+SPupdate+PIR。生物学的に同等のポリヌクレオチドとは、上記の特定のパーセント相同性を有し、かつ同一または類似の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
【0048】
「同等の核酸またはポリヌクレオチド」という用語は、核酸またはその相補体のヌクレオチド配列とある程度の相同性または配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を指す。二本鎖核酸の相同体とは、当該核酸またはその相補体とある程度の相同性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むことを意図している。一態様では、核酸の相同体は、核酸またはその相補体にハイブリダイズすることができる。同様に、「同等のポリペプチド」とは、参照ポリペプチドのアミノ酸配列とある程度の相同性、すなわち配列同一性を有するポリペプチドを指す。いくつかの態様では、配列同一性は、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%である。いくつかの態様では、同等のポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、参照ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと比較して、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つの付加、欠失、置換およびそれらの組合せを有する。いくつかの態様では、同等の配列は、参照配列の活性(例えば、エピトープ結合)または構造(例えば、塩橋)を保持する。
【0049】
ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシー」の条件下で行うことができる。一般に、低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション反応は、約10×SSC中または同等のイオン強度/温度の溶液中で約40℃にて行われる。中程度のストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、典型的には約6×SSC中で約50℃にて行われ、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション反応は、一般的には約1×SSC中で約60℃にて行われる。ハイブリダイゼーション反応は、当業者に周知である「生理学的条件」下で行うことができる。生理学的条件の非限定的な例は、細胞内に通常見られるMg2+の温度、イオン強度、pHおよび濃度である。
【0050】
ポリヌクレオチドは、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4つのヌクレオチド塩基の特定の配列で構成されており、ポリヌクレオチドがRNAである場合にはチミンの代わりウラシル(U)で構成されている。このように、「ポリヌクレオチド配列」という用語は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表記である。このアルファベット表記は、中央処理装置を有するコンピュータのデータベースに入力することができ、機能的ゲノミクスおよびホモロジー検索などのバイオインフォマティクスアプリケーションに使用することができる。「多型」という用語は、遺伝子またはその一部の形態が2つ以上共存していることを意味する。少なくとも2つの異なる形態、すなわち2つの異なるヌクレオチド配列が存在する遺伝子の一部は、「遺伝子の多型領域」と呼ばれる。多型領域は単一のヌクレオチドである可能性があり、その同一性は異なる対立遺伝子によって異なる。
【0051】
「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドまたはそのアナログのいずれかの任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有することができ、既知または未知の任意の機能を果たすことができる。ポリヌクレオチドの非限定的な例を以下に示す:遺伝子または遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、ESTまたはSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、dsRNA、siRNA、miRNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログなどの修飾ヌクレオチドを含むことができる。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリヌクレオチドのアセンブリの前または後に付与することができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識成分とのコンジュゲートによるなどの重合後にさらに修飾することができる。この用語はまた、二本鎖分子と一本鎖分子の両方を指す。特に指摘または要求されない限り、ポリヌクレオチドである本開示の任意の実施形態は、二本鎖形態と、二本鎖形態を構成することが既知または予測される2つの相補的な一本鎖形態の各々との両方を包含する。
【0052】
ポリヌクレオチドに適用されるときの「コードする」という用語は、本来の状態で、または当業者に周知の方法によって操作された場合に、ポリヌクレオチドが転写および/または翻訳されて当該ポリペプチドおよび/またはその断片のmRNAを産生することができるならば、ポリペプチドを「コードする」と言われるポリヌクレオチドを指す。アンチセンス鎖はそのような核酸の相補体であり、コード化配列をそこから推定することができる。
【0053】
本明細書で使用される場合、「抗体」または「抗原結合ポリペプチド」とは、抗原を特異的に認識および結合するポリペプチドまたはポリペプチド複合体を指す。抗体は、抗体全体、任意の抗原結合断片またはその単鎖であってもよい。したがって、「抗体」という用語は、抗原に結合する生物学的活性を有する免疫グロブリン分子の少なくとも一部を含む任意のタンパク質またはペプチド含有分子を含む。そのような例として、重鎖もしくは軽鎖の相補性決定領域(CDR)もしくはそのリガンド結合部分、重鎖もしくは軽鎖の可変領域、重鎖もしくは軽鎖の定常領域、フレームワーク(FR)領域、またはそれらの任意の部分、または結合タンパク質の少なくとも1つの部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」または「抗原結合断片」という用語は、F(ab')、F(ab)、Fab'、Fab、Fv、scFvなどの抗体の一部分を意味する。構造に関係なく、抗体断片は、インタクトな抗体によって認識される抗原と同じ抗原と結合する。「抗体断片」という用語は、アプタマー、Spiegelmerおよびダイアボディを含む。「抗体断片」という用語はまた、特定の抗原と結合して複合体を形成することによって抗体のように作用する、合成または遺伝子操作されたタンパク質も含む。
【0055】
「単鎖可変断片」または「scFv」とは、免疫グロブリンの重鎖(V)および軽鎖(V)の可変領域の融合タンパク質を指す。いくつかの態様では、領域は、10~約25個のアミノ酸の短いリンカーペプチドで接続されている。リンカーは、可動性のためにグリシンだけでなく、溶解性のためにセリンまたはスレオニンも豊富に含み得、VのN末端をVのC末端と接続することができ、またはその逆も可能である。このタンパク質は、定常領域が除去され、かつリンカーが導入されているにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持している。ScFv分子は当該技術分野で知られており、例えば、米国特許第5,892,019号明細書に記載されている。
【0056】
抗体という用語は、生化学的に区別することができるポリペプチドのさまざまな広範なクラスを包含する。当業者であれば、重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)に分類され、それらの中にはいくつかのサブクラス(例えば、γ1~γ4)があることを理解する。この鎖の性質により、抗体の「クラス」がそれぞれIgG、IgM、IgA IgGまたはIgEとして決定される。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgGなどは、十分に特徴付けられており、機能的な特殊性を付与することが知られている。これらのクラスおよびアイソタイプのそれぞれの修飾バージョンは、本開示を考慮して当業者に容易に識別可能であり、したがって、本開示の範囲内にある。すべての免疫グロブリンクラスは、明らかに本開示の範囲内にあるが、以下の議論は、一般的には免疫グロブリン分子のIgGクラスに向けられる。IgGに関して、標準的な免疫グロブリン分子は、分子量約23,000ダルトンの2つの同一の軽鎖ポリペプチドと、分子量53,000~70,000の2つの同一の重鎖ポリペプチドとを含む。4本の鎖は、典型的には「Y」字型のジスルフィド結合によってつながれており、軽鎖は、「Y」の口部で始まり、可変領域を通じて続く重鎖を囲む。
【0057】
本開示の抗体、抗原結合ポリペプチド、変異体、またはそれらの誘導体として、ポリクローナル、モノクローナル、多特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体またはキメラ抗体、単鎖抗体、エピトープ結合断片、例えば、Fab、Fab'およびF(ab')、Fd、Fvs、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)、VKまたはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリーによって産生された断片、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書に開示されるLIGHT抗体に対する抗Id抗体を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の免疫グロブリンまたは抗体分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであり得る。
【0058】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(Κ、λ)のいずれかに分類される。各重鎖クラスは、カッパまたはラムダ軽鎖のいずれかに結合され得る。一般に、軽鎖および重鎖は互いに共有結合的に結合しており、2つの重鎖の「尾」部は、ハイブリドーマ、B細胞または遺伝子操作された宿主細胞のいずれかによって免疫グロブリンが産生されたときに、共有結ジスルフィド結合または非共有結合によって互いに結合される。重鎖では、アミノ酸配列は、Y字型の分岐した端部のN末端から各鎖の下部のC末端まで延びる。
【0059】
軽鎖と重鎖の両方は、構造的相同性と機能的相同性の領域に分けられる。「定常」および「可変」という用語は、機能的に使用される。これに関して、軽鎖(VK)と重鎖(VH)の部分の両方の可変ドメインが抗原の認識および特異性を決定することが理解されよう。逆に、軽鎖(CK)および重鎖(CH1、CH2またはCH3)の定常ドメインは、分泌、経胎盤移動、Fc受容体結合、補体結合などの重要な生物学的特性を付与する。慣例により、定常領域ドメインの番号付けは、それらが抗体の抗原結合部位またはアミノ末端から、より遠位になるにつれて増加する。N末端部分は可変領域であり、C末端部分は定常領域である;CH3およびCKドメインは、実際にはそれぞれ重鎖および軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0060】
上記のように、可変領域により、抗体は抗原上のエピトープを選択的に認識し、特異的に結合することが可能である。すなわち、抗体のVKドメインおよびVHドメイン、または相補性決定領域(CDR)のサブセットが結合して、三次元の抗原結合部位を画定する可変領域を形成する。この四次抗体構造は、Yの各アームの端部に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖およびVK鎖のそれぞれの3つのCDR(すなわち、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3)によって定義される。いくつかの例では、例えば、ラクダ科の種に由来する、またはラクダ科の免疫グロブリンに基づいて操作された特定の免疫グロブリン分子では、完全な免疫グロブリン分子は、重鎖のみからなり、軽鎖は含まれない場合がある。例えば、Hamers-Casterman et al.,Nature 363:446-448(1993)を参照。
【0061】
天然に存在する抗体では、各抗原結合ドメインに存在する6つの「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体が水性環境でその三次元配置をとったときに、抗原結合ドメインを形成するように特異的に配置されたアミノ酸の短い非連続配列である。「フレームワーク」領域と呼ばれる、抗原結合ドメインのアミノ酸の残りの部分は、分子間変動がより少ない。フレームワーク領域は、大部分がβ-シート構造をとり、CDRは、β-シート構造を接続し、場合によってはβ-シート構造の一部を形成するループを形成する。したがって、フレームワーク領域は、鎖間、非共有結合の相互作用によって、CDRを正しい方向に位置決めするための足場を形成するように機能する。位置決めされたCDRによって形成される抗原結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに対して相補的な表面を画定する。この相補的な表面は、その同族のエピトープに対する抗体の非共有結合的な結合を促進する。CDRおよびフレームワーク領域をそれぞれ含むアミノ酸は、それらが正確に定義されていることから、当業者によって任意の所与の重鎖または軽鎖の可変領域について容易に同定することができる。(「Sequences of Proteins of Immunological Interest,」Kabat,E.,et al.,U.S.Department of Health and Human Services,(1983);およびChothia and Lesk,J.MoI.Biol.,196:901-917(1987)を参照)。
【0062】
当該技術分野で使用および/または許容される用語の定義が2つ以上ある場合、本明細書で使用される用語の定義は、そうではないと明示されていない限り、そのような意味をすべて含むことを意図している。特定の例は、「相補性決定領域」(「CDR」)という用語の使用であり、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見られる非隣接抗原結合部位を説明する。この特定の領域は、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」(1983)およびChothia et al.,J.MoI.Biol.196:901-917(1987)によって説明されている。KabatおよびChothiaによるCDRの定義には、互いに比較した場合、アミノ酸残基の重複またはサブセットが含まれる。それにもかかわらず、抗体またはその変異体のCDRに言及するためのいずれかの定義の適用は、本明細書で定義および使用される用語の範囲内であることを意図している。上記で引用される参考文献のそれぞれによって定義されるCDRを含む適切なアミノ酸残基を、比較として下記の表に示す。特定のCDRを含む正確な残基番号は、CDRの配列およびサイズによって異なる。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列が与えられれば、どの残基が特定のCDRを含むかを日常的に決定することができる。
【表1】
【0063】
Kabat et.al.はまた、任意の抗体に適用可能な可変ドメイン配列の番号付け体系を定義した。当業者は、配列自体を超える実験データに依存することなく、この「Kabat番号付け」の体系を任意の可変ドメイン配列に明確に割り当てることができる。本明細書で使用されるように、「Kabat番号付け」は、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,「Sequence of Proteins of Immunological Interest"(1983)」によって示される番号付け体系を指す。
【0064】
上記の表に加えて、Kabat番号体系では、CDR領域は次のように説明されている:CDR-H1は、およそアミノ酸31(すなわち、最初のシステイン残基の後からおよそ9残基目)で始まり、およそ5~7個のアミノ酸を含み、次のトリプトファン残基で終わる。CDR-H2は、CDR-H1の端部の後から15番目の残基で始まり、およそ16~19個のアミノ酸を含み、次のアルギニンまたはリジン残基で終わる。CDR-H3は、CDR-H2の端部の後からおよそ33番目のアミノ酸残基で始まり、3~25個のアミノ酸を含み、配列W-G-X-Gで終わり、ここで、Xは任意のアミノ酸である。CDR-L1は、およそ残基24(すなわち、システイン残基の後)で始まり、およそ10~17個の残基を含み、次のトリプトファン残基で終わる。CDR-L2は、CDR-L1の端部の後からおよそ16番目の残基で始まり、約7個の残基を含む。CDR-L3は、CDR-L2の端部の後からおよそ33番目の残基(すなわち、システイン残基の後)で始まり、およそ7~11個の残基を含み、配列FまたはW-G-X-Gで終わり、ここで、Xは任意のアミノ酸である。
【0065】
本明細書に開示される抗体は、鳥および哺乳動物を含む任意の動物起源に由来し得る。好ましくは、抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマまたはニワトリの抗体である。別の実施形態では、可変領域は、軟骨魚類(condricthoid)由来(例えば、サメ由来)であり得る。
【0066】
本明細書で使用される場合、「重鎖定常領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。重鎖定常領域を含むポリペプチドは、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中央および/または下部のヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそれらの変異体もしくは断片の少なくとも1つを含む。例えば、本開示で使用するための抗原結合ポリペプチドは、CH1ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH2ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインおよびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖、またはCH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含み得る。別の実施形態では、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示で使用するための抗体は、CH2ドメインの少なくとも一部(例えば、CH2ドメインの全部または一部)が無い場合がある。上記のように、重鎖定常領域は、天然に存在する免疫グロブリン分子とはアミノ酸配列が異なるように修飾され得ることが当業者によって理解される。
【0067】
本明細書に開示される抗体の重鎖定常領域は、異なる免疫グロブリン分子に由来し得る。例えば、ポリペプチドの重鎖定常領域は、IgG分子に由来するCH1ドメインおよびIgG分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖定常領域は、一部はIgG分子に由来し、一部はIgG分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖部分は、一部はIgG分子に由来し、一部はIgG分子に由来するキメラヒンジを含み得る。
【0068】
本明細書で使用される場合、「軽鎖定常領域」という用語は、抗体軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。好ましくは、軽鎖定常領域は、定常カッパドメインまたは定常ラムダドメインのうちの少なくとも1つを含む。
【0069】
「軽鎖-重鎖ペア」は、軽鎖のCLドメインと重鎖のCH1ドメインとの間のジスルフィド結合を介して二量体を形成することができる軽鎖および重鎖の集合を指す。
【0070】
前述のように、さまざまな免疫グロブリンのクラスの定常領域のサブユニット構造および三次元配置は周知である。本明細書で使用される場合、「VHドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖のアミノ末端可変ドメインを含み、「CH1ドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖の最初(最もアミノ末端)の定常領域ドメインを含む。CH1ドメインはVHドメインに隣接し、免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域のアミノ末端にある。
【0071】
本明細書で使用される場合、「CH2ドメイン」という用語は、例えば、従来の番号付けスキーム(残基244~360、Kabat番号付け体系;および残基231~340、EU番号付け体系;Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」(1983)を参照)を使用して、抗体の約244残基から360残基まで延びる重鎖分子の部分を含む。CH2ドメインは、別のドメインと密接にペアリングされていないという点で特殊である。それどころか、インタクトなネイティブIgG分子の2つのCH2ドメイン間に2つのN結合型分岐炭水化物鎖が挿入されている。また、CH3ドメインは、CH2ドメインからIgG分子のC末端まで延びており、およそ108残基を含むことも十分に立証されている。
【0072】
本明細書で使用される場合、「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインにつなげる重鎖分子の部分を含む。このヒンジ領域は、およそ25残基を含み、可動性があるため、2つのN末端抗原結合領域を独立して移動させる。ヒンジ領域は、3つの異なるドメインに分割され得る:上部、中央および下部のヒンジドメイン(Roux et al.,J.Immunol 161:4083(1998))。
【0073】
本明細書で使用される場合、「ジスルフィド結合」という用語は、2つの硫黄原子間に形成される共有結合を含む。アミノ酸システインは、ジスルフィド結合を形成するか、または第2のチオール基と架橋することができるチオール基を含む。ほとんどの天然に存在するIgG分子では、CH1領域とCK領域とはジスルフィド結合によって結合されており、2つの重鎖は、Kabat番号付け体系を使用して239および242に対応する位置(位置226または229、EU番号付け体系)で2つのジスルフィド結合によって結合されている。
【0074】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗体」という用語は、免疫反応性領域または部位が第1の種から得られるかまたは由来し、定常領域(本開示に従ってインタクト、部分的または改変されいてもよい)が第2の種から得られる任意の抗体を意味すると考えられる。特定の実施形態では、標的結合領域または部位は、非ヒト起源(例えば、マウスまたは霊長類)に由来することになり、定常領域はヒトである。
【0075】
本明細書で使用される場合、「ヒト化パーセント」は、ヒト化ドメインと生殖系列ドメインとの間のフレームワークのアミノ酸の相違(すなわち、非CDR相違)の数を求め、その数をアミノ酸の総数から減算し、次にそれをアミノ酸の総数で割って100を掛けることにより算出される。
【0076】
「特異的に結合する」または「特異性を有する」とは、一般的には、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合すること、およびその結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間でいくらかの相補性を伴うことを意味する。この定義によれば、抗体は、それがランダムな関連のないエピトープに結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介してそのエピトープに結合するとき、そのエピトープに「特異的に結合する」と言われる。本明細書では、「特異性」という用語は、ある抗体があるエピトープに結合するときの相対親和性を表すために使用される。例えば、抗体「A」は、抗体「B」よりも所定のエピトープに対して高い特異性を有するとみなすことができるか、または抗体「A」は、関連エピトープ「D」に対するよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言うことができる。
【0077】
本明細書で使用される場合、「治療する」または「治療」という用語は、治療処置と予防的または防止的措置の両方を指し、その目的は、癌の進行などの望ましくない生理学的変化または障害を防止または遅延(軽減)させることである。有益なまたは望ましい臨床結果として、症状の緩和、疾患の範囲の減少、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患の進行の引き延ばしまたは遅延、疾患の状態の改善または緩和、および寛解(部分的もしくは全体的であるかどうかにかかわらず)が挙げられるが、これらに限定されない。「治療」はまた、治療を受けていない場合、予想される生存期間と比較して、生存期間を延ばすことを意味し得る。治療を必要とする人たちとして、すでに病的状態もしくは障害を患っている人、および病的状態もしくは障害を起こしやすい人、または病的状態もしくは障害が予防されるべき人が挙げられる。
【0078】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」とは、診断、予後診断または治療が望まれる任意の対象、特に哺乳動物の対象を意味する。哺乳動物の対象として、ヒト、飼育動物、有用動物、および動物園用、スポーツ用またはペット用動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、雌ウシ、家畜ウシなどが挙げられる。
【0079】
本明細書で使用される場合、「治療を必要とする患者に」または「治療を必要とする対象」などの語句は、例えば、検出、診断手順および/または治療のために使用される本開示の抗体または組成物の投与から恩恵を受ける対象、例えば哺乳動物の対象を含む。
抗TIGIT抗体
【0080】
本開示は、ヒトTIGITタンパク質に対して高い親和性および阻害活性を有する抗TIGIT抗体を提供する。抗体は、遊離TIGITと、Jurkat細胞および活性化CD8T細胞などの細胞表面のTIGITとの両方に効果的に結合することができる。さらに、抗体は、溶液中であろうとTIGITが細胞表面で発現される場合であろうと、受容体CD155に対するTIGITの結合を効果的に阻害することができる。その他に、そのような結合および阻害は、Jurkat細胞媒介性IL-2産生の増強および腫瘍増殖の阻害をもたらす。
【0081】
本開示の一実施形態によれば、VH-VLペアに示されるCDR領域を有する重鎖および軽鎖の可変ドメインを含む抗体が提供される。
【表2】
【0082】
特に、CDR領域は、90D9-VH(配列番号29~31のCDR)および90D9-VL(配列番号32~34のCDR)、101E1-VH(配列番号57~59のCDR)および101E1-VL(配列番号60~62のCDR)、または350D10-VH(配列番号43~45のCDR)および350D10-VL(配列番号46~48のCDR)からのCDR領域であり得る。
【0083】
これらの抗体は、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であり得るが、これらに限定されない。ヒト化中に、抗体の結合親和性を確保するのに役立つ特定の復帰突然変異が同定された。いくつかの実施形態では、90D9のCDRを有する抗体のそのような復帰突然変異は、すべてKabat番号付けに従って、重鎖では12V(すなわち、ヒト化抗体の12位の残基がValに復帰突然変異する)、20L、24T、38K、48I、68A、70L、72Vおよび91S、ならびに軽鎖では13T、73F、78Vおよび104Lを含む。
【0084】
350D10のCDRを有する抗体または断片の場合、復帰突然変異は、すべてKabat番号付けに従って、重鎖における3K、44Rおよび82R、ならびに軽鎖における3V、42Q、43Sおよび87Fの1つまたは複数であり得る。
【0085】
101E1のCDRを有する抗体または断片の場合、復帰突然変異は、すべてKabat番号付けに従って、重鎖における49M、68I、72R、83Fおよび97S、ならびに軽鎖における13T、73Fおよび78Vの1つまたは複数であり得る。
【0086】
実験例で示されているように、これらのCDR領域を含む抗体は、マウス抗体であれ、ヒト化抗体であれ、キメラ抗体であれ、強力なTIGIT結合および阻害活性を有していた。更なる実験により、CDR内の特定の残基を修飾して、抗体の特性を保持または改善できることが示された。そのような残基は「ホットスポット」と呼ばれ、下記の表で下線を引いている。いくつかの実施形態では、本開示の抗TIGIT抗体は、1つ、2つまたは3つの更なる修飾を伴う、下記に列挙されるようなVHおよびVL CDRを含む。そのような修飾は、アミノ酸の付加、欠失または置換であり得る。いくつかの実施形態では、1つまたは2つまたは3つを超えないCDRがアミノ酸置換を含む。101E1に由来するCDRを有する抗体に関するいくつかの置換の例を下記に示す。
【表3】
【表4】
【0087】
いくつかの実施形態では、修飾は、各CDRからの1つを超えないホットスポット位置での置換である。いくつかの実施形態では、修飾は、1つ、2つまたは3つのそのようなホットスポット位置での置換である。一実施形態では、修飾は、ホットスポット位置の1つでの置換である。そのような置換は、いくつかの実施形態では、保存的置換である。
【0088】
「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが、当該技術分野で定義されている。これらの側鎖として、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、免疫グロブリンポリペプチドの非必須アミノ酸残基が、好ましくは、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置き換えられる。別の実施形態では、アミノ酸のストリングが、側鎖ファミリーメンバーの順序および/または組成が異なる、構造的に類似したストリングで置き換えられ得る。
【0089】
保存的アミノ酸置換の非限定的な例を下記の表に示すが、ここで、0以上の類似性スコアが2つのアミノ酸間の保存的置換を示す。
【表5】
【表6】
【0090】
本明細書に開示される抗体は、それらが由来する天然に存在する結合ポリペプチドとはアミノ酸配列が異なるように修飾され得ることも当業者によって理解される。例えば、指定されたタンパク質に由来するポリペプチドまたはアミノ酸配列は類似していてもよく、例えば、出発配列と一定の同一性パーセントを有していてもよく、例えば、それは出発配列と60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一であってもよい。
【0091】
特定の実施形態では、抗体は、通常は抗体と関連しない、アミノ酸配列または1つもしくは複数の部分を含む。例示的な修飾を、下記でより詳細に説明する。例えば、本開示の抗体は、可動性リンカー配列を含んでもよいし、機能的部分(例えば、PEG、薬物、毒素または標識)を付加するように修飾されてもよい。
【0092】
本開示の抗体、それらの変異体または誘導体として、修飾された誘導体、すなわち、共有結合が抗体のエピトープに対する結合を妨げないように、任意のタイプの分子の抗体に対する共有結合によって修飾された誘導体が挙げられる。例えば、限定するものではないが、抗体は、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解的切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質に対する結合などによって修飾することができる。多数の化学的修飾のいずれかを、特異的化学切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成などを含むがこれらに限定されない既知の技術によって行うことができる。さらに、抗体は、1つまたは複数の非古典的アミノ酸を含み得る。
【0093】
いくつかの実施形態では、抗体は、治療剤、プロドラッグ、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物学的応答修飾因子、医薬品またはPEGにコンジュゲートされてもよい。
【0094】
抗体は、検出可能な標識、例えば放射性標識、免疫調節剤、ホルモン、酵素、オリゴヌクレオチド、光活性治療剤または診断剤、薬物もしくは毒素であり得る細胞毒性剤、超音波増強剤、非放射性標識、それらの組合せ、および当該技術分野で既知の他のそのような試剤を含み得る治療剤にコンジュゲートまたは融合され得る。
【0095】
抗体は、それを化学発光化合物にカップリング結合することにより検出可能に標識することができる。次に、化学発光タグ付き抗原結合ポリペプチドの存在は、化学反応の過程で現れる発光の存在を検出することによって決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。
【0096】
抗体はまた、152Euなどの蛍光発光金属、またはランタニド系列の他のものを使用して検出可能に標識することができる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を使用して抗体に結合することができる。さまざまな部分を抗体にコンジュゲートするための技術は周知である(例えば、Arnon et al.,「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」,in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeld et al.(eds.),pp.243-56(Alan R.Liss,Inc.(1985);Hellstrom et al.,「Antibodies For Drug Delivery」,in Controlled Drug Delivery(2nd Ed.)、Robinson et al.,(eds.),Marcel Dekker,Inc.,pp.623-53(1987);Thorpe,「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review」,in Monoclonal Antibodies '84:Biological And Clinical Applications、Pinchera et al.(eds.),pp.475-506(1985);「Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」,in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwin et al.(eds.),Academic Press pp.303-16(1985)、およびThorpe et al.,「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」,Immunol.Rev.(52:119-58(1982)を参照)。
二官能性分子
【0097】
TIGITは、一部のT細胞およびNK細胞に存在する免疫受容体である。免疫受容体標的分子として、TIGITに特異的な抗体または抗原結合断片を、腫瘍細胞または免疫チェックポイントに特異的な第2の抗原結合断片と組み合わせて二重特異性抗体を産生することができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、食細胞、ナチュラルキラー細胞、好酸球、好塩基球およびマスト細胞からなる群から選択される。標的化され得る免疫細胞上の分子として、例えば、CD3、CD16、CD19、CD28およびCD64が挙げられる。他の例として、PD-1、PD-L1、CTLA-4、LAG-3(CD223としても知られている)、CD28、CD122、4-1BB(CD137としても知られている)、TIM3、OX-40もしくはOX40L、CD40またはCD40L、LIGHT、ICOS/ICOSL、GITR/GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVMまたはBTLA(CD272としても知られている)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)およびCD47が挙げられる。二重特異性の特定の例として、TIGIT/PD-L1、TIGIT/PD-1、TIGIT/LAG3およびTIGIT/CD47が挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
免疫受容体阻害剤として、TIGITに特異的な抗体または抗原結合断片を腫瘍抗原に特異的な第2の抗原結合断片と組み合わせて二重特異性抗体を産生することができる。「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞で産生される抗原性物質であり、すなわち、それは宿主において免疫応答を誘発する。腫瘍抗原は腫瘍細胞の同定に有用であり、癌治療で使用するための潜在的な候補である。体内の正常なタンパク質は抗原性ではない。しかしながら、特定のタンパク質は腫瘍形成中に産生または過剰発現されるため、体にとって「異質」であるように見える。このタンパク質として、免疫系から十分に隔絶された正常なタンパク質、通常は非常に少量で産生されるタンパク質、通常は発生の特定の段階でのみ産生されるタンパク質、または変異により構造が修飾されたタンパク質が挙げられる。
【0100】
豊富な腫瘍抗原が当該技術分野で知られており、スクリーニングによって新しい腫瘍抗原を容易に同定することができる。腫瘍抗原の非限定的な例として、EGFR、Her2、EpCAM、CD20、CD30、CD33、CD47、CD52、CD133、CD73、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CIX、PSMA、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、GM2、VEGF、VEGFR、インテグリン、αVβ3、α5β1、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAPおよびテネイシンが挙げられる。
【0101】
いくつかの態様では、一価単位は、対応する非腫瘍細胞と比較して、腫瘍細胞上で過剰発現されるタンパク質に対する特異性を有する。本明細書で使用される「対応する非腫瘍細胞」は、腫瘍細胞の起源と同じ細胞型である非腫瘍細胞を指す。そのようなタンパク質は必ずしも腫瘍抗原と異なるわけではないことに留意されたい。非限定的な例として、ほとんどの結腸、直腸、乳房、肺、膵臓および胃腸管の癌で過剰発現される癌胎児性抗原(CEA);乳癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌および子宮頸癌で頻繁に過剰発現されるヘレグリン受容体(HER-2、neuまたはc-erbB-2);乳房、頭頸部、非小細胞肺および前立腺の固形腫瘍をはじめとする幅広い固形腫瘍で高度に発現される上皮成長因子受容体(EGFR);アシアロ糖タンパク質受容体;トランスフェリン受容体;肝細胞上に発現されるセルピン酵素複合体受容体;膵管腺癌細胞上で過剰発現される線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR);抗血管新生遺伝子治療のための血管内皮増殖因子受容体(VEGFR);非ムチン性卵巣癌の90%で選択的に過剰発現される葉酸受容体;細胞表面糖衣;炭水化物受容体;ならびに呼吸器上皮細胞への遺伝子送達に有用であり、かつ嚢胞性線維症などの肺疾患の治療に魅力的な高分子免疫グロブリン受容体が挙げられる。この点における二重特異性の非限定的な例として、TIGIT/EGFR、TIGIT/Her2、TIGIT/CD33、TIGIT/CD133、TIGIT/CEAおよびTIGIT/VEGFが挙げられる。
【0102】
異なるフォーマットの二重特異性抗体も提供される。いくつかの実施形態では、抗TIGIT断片および第2の断片の各々は、Fab断片、単鎖可変断片(scFv)または単一ドメイン抗体からそれぞれ独立して選択される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体はFc断片をさらに含む。
【0103】
抗体または抗原結合断片だけを含むのではない二官能性分子も提供される。腫瘍抗原標的分子として、TIGITに特異的な抗体または抗原結合断片、例えばここに記載されているものは、任意選択的にペプチドリンカーを介して免疫サイトカインまたはリガンドと組み合わせることができる。結合された免疫サイトカインまたはリガンドとして、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、GM-CSF、TNF-α、CD40L、OX40L、CD27L、CD30L、4-1BBL、LIGHTおよびGITRLが挙げられるが、これらに限定されない。そのような二官能性分子は、免疫チェックポイント遮断効果を腫瘍部位の局所免疫調節と組み合わせることができる。
抗体をコードするポリヌクレオチドおよび抗体を調製する方法
【0104】
本開示はまた、本開示の抗体、その変異体または誘導体をコードする、単離されたポリヌクレオチドまたは核酸分子を提供する。本開示のポリヌクレオチドは、同じポリヌクレオチド分子または別個のポリヌクレオチド分子上の抗原結合ポリペプチド、その変異体または誘導体の重鎖および軽鎖可変領域全体をコードし得る。さらに、本開示のポリヌクレオチドは、同じポリヌクレオチド分子または別個のポリヌクレオチド分子上の抗原結合ポリペプチド、その変異体または誘導体の重鎖および軽鎖可変領域の部分をコードし得る。
【0105】
抗体を作製する方法は、当該技術分野で周知であり、本明細書に記載されている。特定の実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチドの可変領域と定常領域の両方は、完全にヒトのものである。完全ヒト抗体は、当該技術分野で記載されている技術を使用し、本明細書で記載されているように作製することができる。例えば、特異的抗原に対する完全ヒト抗体は、抗原投与に応答してそのような抗体を産生するように修飾されているが、内因性遺伝子座が欠損しているトランスジェニック動物に抗原を投与することにより調製することができる。そのような抗体を作製するために使用することができる例示的な技術は、米国特許第6,150,584号明細書、米国特許第6,458,592号明細書、米国特許第6,420,140号明細書に記載されており、それらは参照により全体が組み込まれる。
治療方法
【0106】
本明細書に記載されるように、本開示の抗体、変異体または誘導体は、特定の治療および診断方法で使用され得る。
【0107】
本開示はさらに、本明細書に記載される障害または病的状態の1つまたは複数を治療するための、動物、哺乳動物およびヒトなどの患者に本開示の抗体を投与することを含む抗体ベースの治療を対象とする。本開示の治療化合物として、本開示の抗体(本明細書に記載されるその変異体および誘導体を含む)ならびに本開示の抗体(本明細書に記載されるその変異体および誘導体を含む)をコードする核酸またはポリヌクレオチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
いくつかの実施形態では、癌の治療を必要とする患者において癌を治療する方法が提供される。この方法は、一実施形態では、有効量の本開示の抗体を患者に投与することを伴う。いくつかの実施形態では、患者の癌細胞(例えば、間質細胞)の少なくとも1つがTIGITを過剰発現する。
【0109】
癌の非限定的な例として、膀胱癌、乳癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、頭頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、膵臓癌、前立腺癌および甲状腺癌が挙げられる。
【0110】
細胞療法、より具体的にはキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法もまた、本開示で提供される。本開示の抗TIGIT抗体と接触させられる(あるいは本開示の抗TIGIT抗体を発現するように操作される)適切なT細胞を使用することができる。そのように接触または操作されると、次にT細胞は治療を必要とする癌患者に導入され得る。癌患者は、本明細書に開示されるタイプのいずれかの癌を有し得る。T細胞は、例えば、腫瘍浸潤性Tリンパ球、CD4T細胞、CD8T細胞、またはそれらの組合せであり得るが、これらに限定されない。
【0111】
いくつかの実施形態では、T細胞は、癌患者本人から単離された。いくつかの実施形態では、T細胞は、ドナーによって、または細胞バンクから提供された。T細胞を癌患者から単離すると、望ましくない免疫反応を最小限に抑えることができる。
【0112】
本開示の抗体、またはその変異体もしくは誘導体を用いて治療、予防、診断および/または予後診断され得る、細胞生存の増加に関連する更なる疾患または病的状態として、悪性腫瘍ならびに関連疾患、例えば白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性および、赤血球性白血病を含む)を含む)および慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病および慢性リンパ性白血病))、真性赤多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病および非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、および固形腫瘍であって、肉腫および癌腫、例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫を含むがこれらに限定されない固形腫瘍の進行および/または転移が挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
特定の患者の特定の投与量および治療レジメンは、使用される特定の抗体、その変異体または誘導体、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、および食事、および投与時間、排泄率、薬物の組合せ、および治療下の特定の疾患の重症度を含むさまざまな要因に依存する。医療介護者によるそのような要因の判断は、当該技術分野の通常の技術の範囲内である。量はまた、治療される個々の患者、投与経路、製剤のタイプ、使用される化合物の特徴、疾患の重症度、および所望の効果に依存する。使用量は、当該技術分野で周知の薬理学的および薬物動態学的原理によって決定され得る。
【0114】
抗体、その変異体または誘導体の投与方法は、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路を含むが、これらに限定されない。抗原結合ポリペプチドまたは組成物は、任意の好都合な経路、例えば、注入またはボーラス注射により、上皮または粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)を介した吸収により投与され得、かつ他の生物学的活性薬剤と一緒に投与され得る。したがって、本開示の抗原結合ポリペプチドを含有する医薬組成物は、経口、直腸、非経口、大槽内、膣内、腹腔内、局所的(粉末、軟膏、点滴または経皮パッチによる)、口腔内に、または経口もしくは経鼻スプレーとして投与され得る。
【0115】
本明細書で使用される「非経口」という用語は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下および関節内の注射および注入を含む投与方法を指す。
【0116】
投与は全身的でも局所的であってもよい。さらに、脳室内および髄腔内注射を含む任意の適切な経路によって、本開示の抗体を中枢神経系に導入することが望ましい場合がある。脳室内注射は、例えば、Ommayaリザーバーなどのリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって促進され得る。例えば、吸入器またはネブライザーの使用、およびエアロゾル化剤を用いた処方によって、肺投与も使用され得る。
【0117】
本開示の抗原結合ポリペプチドまたは組成物を、治療を必要とする領域に局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定するものではないが、手術中の局所注入によって、例えば、手術後の創傷被覆材と組み合わせた局所塗布によって、注射によって、カテーテルによって、坐剤によって、またはインプラント(前述のインプラントは、多孔性、非多孔性、またはゼラチン状の材料からなり、膜、例えばサイラスティックな膜、または繊維を含む)によって達成され得る。好ましくは、本開示の抗体を含むタンパク質を投与する場合、タンパク質が吸収しない材料を使用するように注意を払わなければならない。
【0118】
更なる実施形態では、本開示の組成物は、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤、抗菌剤または抗生剤または抗真菌剤と組み合わせて投与される。当該技術分野で知られているこれらの薬剤のいずれも、本開示の組成物と組み合わせて投与することができる。
【0119】
別の実施形態では、本開示の組成物は、化学療法剤と組み合わせて投与される。本開示の組成物と共に投与され得る化学療法剤として、抗生物質誘導体(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、およびダクチノマイシン);抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン);代謝拮抗剤(例えば、フルオロウラシル、5-FU、メトトレキサート、フロクスウリジン、インターフェロンα-2b、グルタミン酸、プリカマイシン、メルカプトプリン、6-チオグアニン);細胞毒性薬(例えば、カルムスチン、BCNU、ロムスチン、CCNU、シトシンアラビノシド、シクロホスファミド、エストラムスチン、ヒドロキシ尿素、プロカルバジン、マイトマイシン、ブスルファン、シスプラチン、硫酸ビンクリスチン);ホルモン(例えば、メドロキシプロゲステロン、エストラムスチンリン酸ナトリウム、エチニルエストラジオール、エストラジオール、酢酸メゲストロール、メチルテストステロン、2リン酸ジエチルスチルベストロール、クロロトリアニセン、およびテストラクトン);ナイトロジェンマスタード誘導体(例えば、メファレン、クロラムブシル、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)およびチオテパ);ステロイドとその組合せ(例えば、リン酸ベタメタゾンナトリウム);ならびにその他(例えば、ジカルバジン、アスパラギナーゼ、ミトタン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチン、およびエトポシド)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0120】
追加の実施形態では、本開示の組成物は、サイトカインと組み合わせて投与される。本開示の組成物と共に投与することができるサイトカインとして、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、抗CD40、CD40LおよびTNF-αが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
追加の実施形態では、本開示の組成物は、例えば放射線療法などの他の治療または予防レジメンと組み合わせて投与される。
【0122】
本開示の抗TIGIT抗体は、いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤と共に使用することができる。免疫チェックポイントは、シグナルを上げる(共刺激分子)か、またはシグナルを下げる免疫系の分子である。多くの癌は、T細胞シグナルを阻害することによって免疫系からその身を守っている。免疫チェックポイント阻害剤は、細胞によるそのような保護機構の停止を助けることができる。免疫チェックポイント阻害剤は、以下のチェックポイント分子:PD-1、PD-L1、CTLA-4、LAG-3(CD223としても知られている)、CD28、CD122、4-1BB(CD137としても知られている)、またはBTLA(CD272とも知られている)のいずれか1つまたは複数を標的化することができる。
【0123】
プログラムT細胞死1(PD-1)は、T細胞の表面に見られる膜貫通タンパク質であり、これは腫瘍細胞上のプログラムT細胞死リガンド1(PD-L1)に結合すると、T細胞活性が抑制され、T細胞媒介性細胞毒性が減少されることになる。したがって、PD-1およびPD-L1は、免疫ダウンレギュレーターまたは免疫チェックポイント「オフスイッチ」である。PD-1阻害剤の例として、ニボルマブ(オプジーボ)(BMS-936558)、ペムブロリズマブ(キトルーダ)、ピディリズマブ、AMP-224、MEDI0680(AMP-514)、PDR001、MPDL3280A、MEDI4736、BMS-936559およびMSB0010718Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
プログラム死リガンド1(PD-L1)は、分化クラスター274(CD274)またはB7ホモログ1(B7-H1)とも呼ばれ、ヒトではCD274遺伝子によってコードされるタンパク質である。PD-L1阻害剤の非限定的な例として、アテゾリズマブ(Tecentriq)、デュルバルマブ(MEDI4736)、アベルマブ(MSB0010718C)、MPDL3280A、BMS935559(MDX-1105)およびAMP-224が挙げられる。
【0125】
CTLA-4は、免疫系をダウンレギュレートするタンパク質受容体である。CTLA-4阻害剤の非限定的な例として、イピリムマブ(ヤーボイ)(BMS-734016、MDX-010、MDX-101としても知られている)およびトレメリムマブ(かつてのチシリムマブ、CP-675,206)が挙げられる。
【0126】
リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)は、細胞表面上の免疫チェックポイント受容体であり、Tregに対する作用による免疫応答を抑制するだけでなく、CD8T細胞に直接作用する。LAG-3阻害剤として、LAG525およびBMS-986016が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
CD28は、ほぼすべてのヒトCD4T細胞上、およびすべてのCD8T細胞の約半分で恒常的に発現され、T細胞の増殖を促す。CD28阻害剤の非限定的な例として、TGN1412が挙げられる。
【0128】
CD122は、CD8エフェクターT細胞の増殖を増加させる。非限定的な例として、NKTR-214が挙げられる。
【0129】
4-1BB(CD137としても知られている)は、T細胞増殖に関与している。CD137媒介性シグナル伝達は、T細胞、特にCD8T細胞を活性化誘導細胞死から保護することも知られている。PF-05082566、ウレルマブ(BMS-663513)およびリポカリンはCD137阻害剤の例である。
【0130】
上記の併用治療のいずれにおいても、抗TIGIT抗体は、他の抗癌剤と同時にまたは別々に投与することができる。別々に投与する場合、抗TIGIT抗体は、他の抗癌剤の前または後に投与することができる。
【0131】
一実施形態では、感染症の治療または抑制を必要とする患者において感染症を治療または抑制する方法であって、有効量の本開示の抗体またはその断片を患者に投与することを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症または寄生虫による感染症である。
【0132】
感染症は、病原体による生物の体組織への侵入、それらの増殖、ならびにこれらの生物およびそれらが産生する毒素に対する宿主組織の反応である。感染症は、ウイルス、ウイロイド、プリオン、細菌、線虫類、例えば寄生性回虫およびギョウチュウ、節足動物、例えばマダニ、ダニ、ノミおよびシラミ、菌類、例えば白癬、ならびに他の大型寄生虫、例えばサナダムシおよび他の蠕虫などの感染性因子によって引き起こされ得る。一態様では、感染性因子は、グラム陰性菌などの細菌である。一態様では、感染性因子は、ウイルス、例えばDNAウイルス、RNAウイルス、および逆転写ウイルスである。ウイルスの非限定的な例として、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エプスタイン・バーウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、1型単純ヘルペスウイルス、2型単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、8型ヒトヘルペスウイルス、HIV、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヒトパピローマウイルス、パラインフルエンザウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸系発疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスが挙げられる。
【0133】
本開示の抗体はまた、微生物および免疫細胞を標的化して微生物の排除をもたらすことにより、微生物によって引き起こされる感染症を治療するか、または微生物を殺傷するために使用することができる。一態様では、微生物は、RNAおよびDNAウイルスをはじめとするウイルス、グラム陽性菌、グラム陰性菌、原虫または真菌である。
診断方法
【0134】
TIGITの過剰発現は、特定の腫瘍サンプルで観察され、TIGIT過剰発現細胞を有する患者は、本開示の抗TIGIT抗体を用いた治療に応答する可能性が高い。したがって、本開示の抗体はまた、診断および予後診断の目的で使用することができる。
【0135】
好ましくは細胞を含むサンプルは、癌患者または診断を望む患者であり得る患者から得ることができる。細胞は、腫瘍組織の細胞または腫瘍ブロック、血液サンプル、尿サンプルまたは患者からの任意のサンプルとする。サンプルの任意の前処理の際、サンプルは、抗体がサンプル中に潜在的に存在するTIGITタンパク質と相互作用することを可能にする条件下で、本開示の抗体とインキュベートすることができる。ELISAなどの方法を使用して、抗TIGIT抗体の利点を活かし、サンプル中のTIGITタンパク質の存在を検出することができる。
【0136】
サンプル中のTIGITタンパク質の存在(任意選択的に量または濃度と共に)を、患者が抗体を用いた治療に適していることを示すものとして、または患者が癌治療に応答した(もしくは応答しなかった)ことを示すものとして、癌の診断に使用することができる。予後診断の方法の場合、検出は、治療の進行を示すために癌治療の開始時に、特定の段階で1回、2回、またはそれ以上行うことができる。
組成物
【0137】
本開示はまた、医薬組成物を提供する。そのような組成物は、有効量の抗体と、許容される担体とを含む。いくつかの実施形態では、組成物はさらに第2の抗癌剤(例えば、免疫チェックポイント阻害剤)を含む。
【0138】
特定の実施形態では、「薬学的に許容される」という用語は、連邦政府もしくは州政府の監督機関によって承認されたこと、または動物、より具体的にはヒトでの使用のために米国薬局方もしくは他の一般に認可された薬局方にリストされていることを意味する。さらに、「薬学的に許容される担体」は、一般には、無毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、封入材料、または任意のタイプの製剤補助剤である。
【0139】
「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、添加剤または賦形剤を指す。そのような薬学的担体は、無菌液体、例えば、水、および石油起源、動物起源、植物起源または合成起源の油、例えば落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む油であり得る。水は、医薬組成物が静脈内投与されるときの好ましい担体である。生理食塩水およびデキストロース水溶液およびグリセロール溶液も、特に注射可能な溶液のための液体担体として用いることができる。適切な医薬品添加剤として、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩もしくはリン酸塩も含むことができる。抗菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調節するための試剤も想定される。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの形態をとることができる。組成物は、従来のバインダーおよび担体、例えばトリグリセリドを用いて坐剤として処方することができる。経口製剤として、標準的な担体、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられることができる。適切な薬物担体の例は、E.W.Martin著Remington's Pharmaceutical Sciencesに記載されており、この文献は参照により組み込まれる。そのような組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するために、適切な量の担体と一緒に、好ましくは精製された形態で治療有効量の抗原結合ポリペプチドを含む。処方は投与方法に適合しなければならない。親製剤は、ガラス製もしくはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与用バイアルに封入することができる。
【0140】
一実施形態では、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として、日常的な手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物はまた、可溶化剤および注射部位の疼痛を和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔薬を含んでもよい。一般的には、成分は、例えば、活性薬剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密閉容器内の乾燥凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、別々にまたは一緒に混合して単位剤形で供給される。組成物が注入により投与される場合、無菌の医薬品グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルで調剤することができる。組成物が注射により投与される場合、投与前に成分を混合することができるように、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0141】
本開示の化合物は、中性または塩の形態として処方され得る。薬学的に許容される塩として、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどのアニオンを用いて形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどのカチオンで形成されるものが挙げられる。
実施例
例1 ヒトTIGITに対するマウスモノクローナル抗体の作製
【0142】
この例は、ハイブリドーマ技術を使用した抗ヒトTIGITマウスモノクローナル抗体の産生を示している。
免疫化
【0143】
ヒト免疫グロブリンFcドメインに融合したヒトTIGITの細胞外領域全体を含む組換えヒトTIGIT融合タンパク質を、抗ヒトTIGIT抗体を惹起させるための免疫原として使用した。C57BL/6、Balb/cまたはSJLマウスを、最初に皮下(s.c.)に50μgの免疫原を用いて免疫化し、次に腹腔内(i.p.)または皮下に隔週で25μgの免疫原を用いて免疫化した。免疫応答を眼窩後出血により監視した。血漿をELISA結合アッセイによりスクリーニングした。要するに、Hisタグ付きTIGITを0.5μg/mlで一晩コーティングし、次にPBS中5%BSAで遮断した。連続希釈血清を、コーティングされた抗原と共に室温で1時間インキュベートした。得られたプレートをPBS/Tで洗浄し、ヤギ抗マウスIgG-HRPと共に室温で1時間インキュベートした。プレートはTMB基質を用いて開発し、分光光度計によりOD450~630nmで分析した。高力価の抗TIGIT免疫グロブリンを有するマウスを融合および更なるスクリーニングのために選択した。屠殺および脾臓の除去の4日前に、マウスを25μgの抗原を用いて腹腔内に追加免疫した。脾臓を融合に使用した。
融合およびハイブリドーマのスクリーニング
【0144】
脾臓細胞をマウス黒色腫細胞株SP2/0細胞と電気融合させ、96ウェル培養プレートに播種した。ハイブリドーマ上清をヒトTIGIT結合について試験した。陽性クローンの上清を、ELISAベースの受容体遮断アッセイにより、hTIGITのそのリガンドhCD155に対する結合を遮断する機能についてスクリーニングした。簡単に言えば、ヒトTIGIT huIgG Fcタンパク質(0.3μg/mL)を96ウェルプレートに一晩コーティングした。上清をPBSで希釈し、コーティングされたTIGIT-huFcと共に室温で1時間インキュベートした。ビオチン化hCD155-ECD-hFcタンパク質(0.3μg/mL)を抗体-抗原複合体と共に室温で1時間インキュベートした。ストレプトアビジンHRPを使用して、ビオチン化hCD155を、それがコーティングされたTIGITに結合したときに検出した。このアッセイで強い遮断能を示すクローンをサブクローニング用に選択した。1ラウンドのサブクローンの上清を使用して、ELISAベースのヒトおよびカニクイザルTIGIT結合能ならびに受容体遮断能を確認し、その後、シーケンシングおよび更なる解析を行った。これらのスクリーニングの後、14個のクローン(90D9、101E1、116H8、118A12、131A12、143B6、167F7、221F11、222H4、327C9、342A9、344F2、349H6および350D10)を選択した。これらのクローンの配列を表1に示す。これらのハイブリドーマのヒトIgG1 Fcに融合されたキメラ抗体を、更なる特性決定のために生成した。
【表7】
【表24】
【表25】
*元のマウス配列からの一部のアミノ酸を変異させて抗体の安定性を高めた(たとえば、一部のNは、脱アミド化またはグリコシル化を回避するためにQまたはSに変異させた)。
例2 抗TIGITマウスモノクローナル抗体の結合特性
【0145】
この例では、TIGITタンパク質に対する抗TIGITマウス抗体の結合特性をテストした。
【0146】
ELISAアッセイの結果を表2にまとめており、この表は、ヒトおよびカニクイザルTIGITタンパク質に対する結合のEC50を示している。結果は、すべてのクローンの中で、90D9、101E1、222H4および350D10が、ヒトTIGITに対する最も強力で選択的なバインダーであることを示した。90D9および350D10は、ヒトTIGITに対するものに匹敵するカニクイザルTIGITに対する結合能を示した。222H4は、カニクイザルTIGITタンパク質に対する弱い結合を示した。101E1は、カニクイザルTIGITタンパク質に結合しなかった。効果的なカニクイザルTIGIT結合は、in vivo毒性研究に役立ち得るため、付加価値を有する。
【表8】
N.B.=結合しない TIGIT抗体BIACORE解析
【0147】
組換えHisタグ付きヒトTIGIT-ECDタンパク質に対する抗体の結合を、Biacore T200によってキャプチャー法を使用して調べた。抗TIGIT抗体を、チップ上にコーティングされた抗ヒトFc抗体またはタンパク質Aを使用してキャプチャーした。hisタグ付きヒトTIGIT-ECDタンパク質(0~8nM)の連続濃度を30μl/minの流速でキャプチャー抗体に注入した。解離領域は600秒または1200秒であった。結果を下記の表3に示す。抗TIGIT抗体のBiacoreの結果により、これらの抗TIGIT抗体がヒトTIGITに対する高親和性バインダーであることが実証された。
【表9】
例3 抗TIGITマウスモノクローナル抗体をスクリーニングするためのin vitro機能アッセイ
【0148】
ヒトTIGITとそのカウンター受容体CD226は、T細胞にそれぞれ負または正のシグナル伝達を提供するために、競合してそれらのコリガンドCD155に結合し、その結果、TIGITを発現したT細胞の増殖、およびインターロイキン2(IL-2)などのサイトカイン産生が阻害される。T細胞活性化時のTIGITシグナル伝達の遮断における抗TIGIT抗体の機能を評価するために、堅牢なin vitro細胞ベースの機能アッセイを確立した。簡単に言えば、ヒトTIGITとそのカウンター受容体CD226を、固定化されたヒトT細胞株であるJurkat T細胞上で同時に過剰発現させ、一方で、それらのコリガンドヒトCD155は、ヒトバーキットリンパ腫Raji細胞上で強制的に過剰発現させた。これら2つの細胞タイプをスーパー抗原の存在下で共培養した場合、TIGIT-CD155ライゲーションによってJurkat細胞に送達された負のシグナル伝達は、インターロイキン2の産生を阻害する。連続希釈された抗TIGIT抗体を培養システムに追加すると、抗体はJurkat-TIGIT細胞のIL-2産生を用量依存的に増強する。このアッセイを利用することにより、上述のキメラ抗体をスクリーニングした。これらの抗体のEC50を表4に示す。これらの抗体のうち、90D9、101E1および350D10抗体は、Jurkat細胞媒介性IL-2産生の増強に優れた効力を示した。したがって、90D9、101E1および350D10を、ヒト化および更なる特性評価のために選択した。
【表10】
例4 マウスmAbヒト化および親和性成熟
A.90D9
【0149】
マウス抗体90D9可変領域遺伝子を用いて、ヒト化MAbを作製した。このプロセスの最初のステップでは、90D9のVHおよびVKのアミノ酸配列をヒトIg遺伝子配列の利用可能なデータベースと比較して、全体的に最も一致するヒト生殖系列Ig遺伝子配列を同定した。重鎖の場合、最も近いヒトマッチはIGHV1-3*01遺伝子であった。軽鎖の場合、最適なヒトマッチはIGKV1-39*01遺伝子であった。
【0150】
次に、90D9 VHのCDR1(配列番号29)、CDR2(配列番号30)およびCDR3(配列番号31)配列がIGHV1-3*01遺伝子のフレームワーク配列に移植されたヒト化可変ドメイン配列を設計し、90D9軽鎖のCDR1(配列番号32)、CDR2(配列番号33)および3(配列番号34)をIGKV1-39*01遺伝子のフレームワーク配列に移植した。次に、3Dモデルを生成して、マウスアミノ酸をヒトアミノ酸に置き換えた場合に結合および/またはCDR構造に影響を及ぼし得る任意のフレームワーク位置があるかどうかを判断した。重鎖の場合、ヒトフレームワークのK12、V20、A24、R38、M48、V68、I70、R72およびT91(Kabat番号付け)を同定し、それらの対応するマウスアミノ酸、すなわち、K12V、V20L、A24T、R38K、M48I、V68A、I70L、R72VおよびT91Sに復帰突然変異させた。軽鎖の場合、ヒトフレームワークのA13、L73、L78およびV104(Kabat番号付け)を同定し、それらの対応するマウスアミノ酸、すなわち、A13T、L73F、L78VおよびV104Lに復帰突然変異させた。
【表11】
【0151】
ヒト化配列を表6に示す:90D9-VH1、90D9-VH2、90D9-VH3、90D9-VH4、90D9-VL1、90D9-VL2、90D9-VL3および90D9-VL4。
【表12】
B.350D10
【0152】
マウス抗体350D10可変領域遺伝子を用いてヒト化抗体を作製した。このプロセスの最初のステップでは、350D10のVHおよびVKのアミノ酸配列をヒトIg遺伝子配列の利用可能なデータベースと比較して、全体的に最もマッチするヒト生殖系列Ig遺伝子配列を検索した。重鎖の場合、最も近いヒトマッチはIGHV3-7*01/JH6遺伝子であった。軽鎖の場合、最適なヒトマッチはIGKV1-33*01/JK2遺伝子であった。次に、350D10 VHのCDR1(配列番号43)、CDR2(配列番号44)およびCDR3(配列番号45)配列がIGHV3-7*01/JH6遺伝子のフレームワーク配列に移植されたヒト化可変ドメイン配列を設計し、350D10軽鎖のCDR1(配列番号46)、CDR2(配列番号47)および3(配列番号48)をIGKV1-33*01/JK2遺伝子のフレームワーク配列に移植した。次に、3Dモデルを生成して、マウスアミノ酸をヒトアミノ酸に置き換えた場合に結合および/またはCDR構造に影響を及ぼし得る任意のフレームワーク位置があるかどうかを判断した。重鎖の場合、ヒトフレームワークのQ3、G44、S82(Kabat番号付け)を同定し、それらの対応するマウスアミノ酸、すなわち、Q3K、G44RおよびS82Rに復帰突然変異させた。軽鎖の場合、ヒトフレームワークのQ3、K42、A43、Y87(Kabat番号付け)を同定し、それらの対応するマウスアミノ酸、すなわち、Q3V、K42Q、A43S、Y87Fに復帰突然変異させた。
【表13】
【0153】
ヒト化配列を表8にリストする:350D10-VH1、350D10-VH2、350D10-VH3、350D10-VH4、350D10-VL1、350D10-VL2、350D10-VL3および350D10-VL4。
【表14】
C.101E1
【0154】
マウス抗体101E1可変領域遺伝子を用いてヒト化抗体MAbを作製した。このプロセスの最初のステップでは、101E1のVHおよびVKのアミノ酸配列をヒトIg遺伝子配列の利用可能なデータベースと比較して、全体的に最もマッチするヒト生殖系列Ig遺伝子配列を検索した。重鎖の場合、最も近いヒトマッチはIGHV4-30-4*01遺伝子であった。軽鎖の場合、最適なヒトマッチはIGKV1-39*01遺伝子であった。次に、101E1 VHのCDR1(配列番号57)、CDR2(配列番号58)およびCDR3(配列番号59)配列がIGHV4-30-4*01遺伝子のフレームワーク配列に移植されたヒト化可変ドメイン配列を設計し、101E1軽鎖のCDR1(配列番号60)、CDR2(配列番号61)および3(配列番号62)をIGKV1-39*01遺伝子のフレームワーク配列に移植した。次に、3Dモデルを生成して、マウスアミノ酸をヒトアミノ酸に置き換えた場合に結合および/またはCDR構造に影響を及ぼし得る任意のフレームワーク位置があるかどうかを判断した。重鎖の場合、ヒトフレームワークのI49、V68、V72、L83およびA97(Kabat番号付け)を同定し、それらの対応するマウスアミノ酸、すなわち、I49M、V68I、V72R、L83FおよびA97Sに復帰突然変異させた。軽鎖の場合、ヒトフレームワークのA13、L73およびL78(Kabat番号付け)を同定し、それらの対応するマウスアミノ酸、すなわち、A13T、L73FおよびL78Vに復帰突然変異させた。
【表15】
【0155】
ヒト化配列を表10にリストする:101E1-VH1、101E1-VH2、101E1-VH3、101E1-VH4、101E1-VL1、101E1-VL2、101E1-VL3および101E1-VL4。
【表16】
定義
ヒト化VHおよびVK遺伝子を合成により生成し、次にそれぞれヒトγ1およびヒトκ定常ドメインを含むベクターにクローニングした。ヒトVHとヒトVKのペアリングにより、親抗体ごとに16のヒト化抗体を作製した。
Biacoreによるヒト化抗体の親和性ランキング
【0156】
ヒト化抗体の結合動態を調査するために、Biacore 8KまたはBiacore T200を使用して親和性ランキング(90D9の場合は3.125nM、12.5nMおよび50nM、350D10の場合は12.5nMおよび25nM、101E1の場合は3.125nM、12.5nMおよび50nM)を行った。表11に示されるように、90D9H-3、90D9H-5、90D9H-6、90D9H-7、350D10H-4、350D10H-8、350D10H-12、350D10H-16、101E1H-6および101E1H-13は優れた親和性を示した。
【表17】
例5 TIGIT抗体BIACORE解析
【0157】
それぞれ90D9H、101E1Hおよび350D10Hと呼ばれる3つのヒト化抗体の組換えHisタグ付きヒトTIGIT-ECDタンパク質に対する結合を、キャプチャー法を使用してBiacore T200によって調べた。抗TIGIT抗体を、チップ上にコーティングされた抗ヒトFc抗体またはタンパク質Aを使用してキャプチャーした。Hisタグ付きヒトTIGIT-ECDタンパク質(0~8nM)の連続濃度を30μl/minの流速でキャプチャー抗体に注入した。解離領域は600秒または1200秒であった。結果を下記の表12に示す。抗TIGIT抗体のBiacoreの結果により、これらの抗TIGIT抗体がヒトTIGITに対する高親和性バインダーであることが示された。表に示されるように、90D9Hおよび350D10Hは、個々の親キメラ抗体に匹敵する親和性を示し、一方で、101E1Hは、ヒト化後にわずかな親和性の喪失を示す。
【表18】
例6 抗TIGITヒトモノクローナル抗体の結合特性
【0158】
この例では、TIGITタンパク質に対するヒト化抗TIGIT抗体の結合特性をテストした。
TIGITタンパク質に対する抗TIGITモノクローナル抗体の結合特性
【0159】
結合特異性を評価するために、90D9H、101E1Hおよび350D10Hモノクローナル抗体を、Hisタグ付きヒトTIGITおよびカニクイザルTIGIT抗原のELISA結合試験に供した。ELISAの結果を図1にまとめており、これは、ヒトおよびカニクイザルTIGITタンパク質に対する結合のEC50を示し、90D9H、101E1H、350D10HがヒトTIGITに対する強力で選択的な結合剤であることを実証している。90D9Hおよび350D10Hは、カニクイザルTIGITタンパク質に対する結合を示さない101E1Hを除いて、ヒトTIGITに匹敵するカニクイザルTIGITに対する結合能を示す。
TIGITを発現したJurkat細胞株に対する抗TIGITヒトモノクローナル抗体の結合特性
【0160】
TIGITを過剰発現したJurkat細胞株を使用して、細胞表面に発現したTIGITに対するTIGIT抗体の結合能を評価した。ヒト化抗体をFACS緩衝液で連続的に希釈し、Jurkat-TIGIT-CD226細胞と共に氷上で30分間インキュベートした。標識された細胞をFACS緩衝液で洗浄し、続いて氷上で30分間、PEコンジュゲート抗ヒトIgG抗体を用いて標識した。得られた細胞をFACS緩衝液で1回洗浄した。標識された細胞を、BD FACSCelesta(商標)でのフローサイトメトリーによって蛍光強度について評価した。図2に示されるように、90D9H、101E1Hおよび350D10Hは、Jurkat細胞株上に発現したTIGITに対して用量依存的に結合することができる。
活性化されたヒト初代CD8T細胞上のTIGITに対する抗TIGIT抗体の結合特性
【0161】
TIGITを、活性化または消耗したヒトT細胞上に発現させる。CD8T細胞を、CD8磁気ビーズを使用して単離した。精製ヒトCD8T細胞をDynabeads(登録商標)ヒトT-Activator CD3/CD28で72時間刺激した。抗体をFACS緩衝液で段階的に希釈した。結合を評価するために、氷上で30分間、さまざまな濃度のTIGIT抗体を活性化ヒトCD8T細胞に添加した。標識された細胞をFACS緩衝液で洗浄し、続いて氷上で30分間、PEコンジュゲート抗ヒトIgG抗体を用いて標識した。得られた細胞をFACS緩衝液で1回洗浄した。標識された細胞を、BD FACSCelesta(商標)でのフローサイトメトリーによって蛍光強度について評価した。図3に示されるように、90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体は、活性化ヒトCD8T細胞上に発現したTIGITに対して用量依存的に結合することができる。
例7 抗TIGITマウスモノクローナル抗体の機能特性
TIGITタンパク質のそのリガンドCD155に対する結合の遮断
【0162】
TIGITのそのリガンドCD155に対する結合を遮断する抗TIGIT抗体の能力を評価するために、例1に前述したELISAベースの受容体遮断アッセイを使用した。90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体を、PBSで10μg/mLから段階希釈した。図4に示されるように、90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体は、CD155のその受容体TIGITに対する結合を用量依存的に阻害することができる。
K562細胞上に発現したTIGITのそのリガンドCD155に対する結合の遮断
【0163】
細胞表面TIGITのそのリガンドCD155に対する結合を遮断する抗TIGIT抗体の能力を評価するために、細胞ベースの受容体遮断アッセイを設計した。簡単に言えば、ヒトTIGITを、ヒト慢性骨髄性白血病リンパ芽球細胞株K562細胞上に過剰発現させた。抗体をPBSで10μg/mLから段階希釈し、TIGITを過剰発現させたK562細胞(1×10細胞/テスト)と共に4℃で30分間インキュベートした。次に、hCD155-hFcタンパク質(3μg/mL)を抗体-細胞複合体と共に4℃で30分間インキュベートした。PE抗ヒトCD155抗体(R&D、FAB25301P)を使用して、hCD155を、それが細胞表面上に発現したTIGITに結合したときに検出した。図5に示されるように、90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体は、CD155の細胞表面上に発現したその受容体TIGITに対する結合を用量依存的に阻害することができる。
Jurkat機能アッセイにおけるTIGIT抗体によるTIGIT-CD155シグナル媒介性IL-2産生阻害の遮断
【0164】
ヒト化抗体のTIGIT遮断機能を評価するために、例3に記載されているin vitro Jurkat機能アッセイを使用した。図6に記載されるように、90D9H、101E1Hおよび350D10H抗体は、Jurkat細胞媒介性IL-2産生を用量依存的に増強することができる。
例8 101E1の親和性成熟
【0165】
101E1のKoffを最適化するために、この例では親和性成熟手順を開始した。簡単に言えば、CDR領域でアラニンスキャニングを使用してパラトープマッピングを行って、TIGITに対する抗体の結合または産生に影響を及ぼす主要な残基を同定した。次に、主要な残基を囲むCDRアミノ酸を選択してNNKライブラリーを構築し、親和性ランキングによりスクリーニングして、ヒトTIGITのオフレートは改善するが、抗体の発現レベルには影響を及ぼさない変異を同定した。101E1のKoff結合を改善することができる突然変異アミノ酸を表13にリストする。これらのアミノ酸のすべての変異型を組み込んだコンビナトリアルライブラリーを構築し、スクリーニングした。ヒトTIGITのオフレートがより低いリードクローンの配列を表14に示す。これらの配列の抗体を生成し、Biacore T200により親和性ランキングを行った。結果を表15に示す。ここで説明されるように、101E1HM-3は、親抗体と比較してKoffレートの向上を示す。
【表19】
【表20】
【表21】
例9 in vitro細胞ベースの機能アッセイにおける抗TIGITと抗PDL1抗体の相乗効果
Jurkat T細胞によるIL2放出の刺激
【0166】
T細胞活性化を高めた時の抗TIGIT抗体と抗PDL1抗体の相乗効果を評価するために、堅牢なin vitro細胞ベースの機能アッセイを確立した。簡単に言えば、ヒトTIGIT、CD226およびPD1を、Jurkat T細胞上で同時に過剰発現させ、一方で、それらの個々のリガンドCD155およびPDL1はRaji細胞上で強制的に過剰発現させた。これら2つの細胞タイプをスーパー抗原の存在下で共培養した場合、TIGIT-CD155およびPD1-PDL1ライゲーションによってJurkat細胞に送達された負のシグナル伝達は、IL-2の産生を阻害した。図7に示されるように、連続希釈された抗TIGIT抗体または抗PDL1抗体を培養システムに追加すると、抗体は、Jurkat-TIGIT細胞のIL-2産生を穏やかにかつ用量依存的に増強することができた。しかしながら、抗TIGIT抗体と抗PDL1抗体の組合せにより、IL-2産生が有意に増強され、これら2つの抗体の強力な相乗効果が示された。
活性化CD8T細胞によるIFN-γ放出の刺激
【0167】
初代CD8T細胞活性化に及ぼす抗TIGIT抗体と抗PDL1抗体の相乗効果を、健康なドナーからPBMCを使用してさらに研究した。簡単に言えば、操作されたT細胞受容体(TCR)アクチベーターを構成的に発現するCHO-K1細胞、ヒトCD155およびPDL1(CHO-TCR-CD155-PDL1細胞)を1ウェルあたり35,000個の細胞の密度で播種し、一晩インキュベートした。健康なドナーから単離された精製CD8T細胞を、1ウェルあたり50,000個の細胞の密度でCHO-TCR-CD155-PDL1細胞と共にインキュベートした。次に、段階希釈された抗TIGIT、抗PDL1、またはこれら2つの抗体の組合せを3日間共培養システムに追加し、標準的なELISAキットを使用してIFN-γ測定のために培地を回収した。図8に示されるように、抗TIGITまたは抗PDL1抗体は、初代CD8T細胞のIFN-γ産生を濃度依存的に弱く刺激し得るが、これら2つの抗体の組合せはIFN-γ産生を有意に増強し、in vitroでの初代CD8T細胞活性化に及ぼすこれら2つの抗体の強力な相乗効果を実証した。
例10 抗TIGIT抗体単独療法のin vivo効力
【0168】
マウス結腸癌細胞株MC38細胞をTIGITヒト化C56/BL6マウスの皮下(s.c.)に移植した。マウスは、平均腫瘍体積が150±50mmに達したら腫瘍体積に従って分類し、3日毎に異なるTIGIT抗体(10mg/kg)を6回投与した。腫瘍体積は週2回監視した。図9に示されるように、90D9および101E1は、腫瘍増殖の穏やかな阻害を示した(TGI:30.4%および30.9%;P値:分類後18日目に0.034および0.136)。
【0169】
次に、抗TIGIT抗体のin vivo効力に及ぼすADCC効果の寄与を評価した。In vivo研究を行う前に、ヒトシステムにおいて強力なADCC効果を示した野生型ヒトIgG1を有する90D9、101E1および350D10のADCC活性をin vitro ADCCアッセイで評価した。簡単に言えば、TIGITを過剰発現するJurkat細胞(Jurkat-TIGIT)を、1ウェルあたり2E4の密度で標的細胞として使用した。Fcγ受容体CD16a(NK92-CD16a)の発現が強化されたヒトナチュラルキラー細胞株NK92細胞をエフェクター細胞として使用した。NK92-CD16aをJurkat-TIGIT細胞と3:1の比率で4時間共培養した。連続希釈された抗TIGIT抗体を共培養システムに追加した。抗RAC-hIgG1抗体を、無関係のネガティブコントロールとして使用した。細胞毒性を、乳酸脱水素酵素(LDH)の放出によって測定した。図10に示されるように、3つの抗TIGIT抗体はすべて、50%の最大ADCC活性および同等のEC50でJurkat-TIGIT細胞を効果的に溶解し、これらの抗体がin vitroでTIGITを発現する細胞に細胞毒性を誘発し得ることを示している。
【0170】
In vivo効力に及ぼすADCC効果の寄与を評価するために、強力なADCC効果を有するmIgG2aをADCC有効アイソタイプとして使用し、マウスシステムにおいてADCC無効アイソタイプであるmIgG1と比較した。図11に示されるように、90D9-mIgG2aは、90D9-mIgG1と比較して腫瘍増殖を抑制する強力な効力を示した(TGI:47.2%対31.7%;P値:0.012対0.066)。101E1の場合、101E1-mIgG2aは101E1-mIgG1よりも強い腫瘍阻害効果を示した(TGI:68.8%対30.9%、P値:0対0.136)。用量と効力の関係を評価するために、MC38マウスモデルでは、複数回用量の350D10-mIgG2a(1、3および10mg/kg)を投与した。図12および図13に示されるように、350D10-mIgG2aの3つすべての用量群での単剤治療は、賦形剤と比較して腫瘍増殖を有意に抑制し、初回投与から24日後に10mg/kgで最大77.5%の腫瘍増殖阻害(TGI)を達成した(P値<0.05、表16)。対照的に、350D10-mIgG1治療は、非常に弱い腫瘍阻害を示し、TIGIT抗体による抗腫瘍効力に対するADCC機能の重要性を示している。
【表22】
注:a、平均±SD;b、スチューデントのt検定による初回投与から24日後の抗体治療群と賦形剤群との間の腫瘍体積の統計分析。P<0.05が統計的に有意であると見なされる。
【0171】
抗TIGIT抗体媒介性腫瘍増殖阻害のメカニズムを評価するために、研究の終わりに、腫瘍浸潤性細胞を、賦形剤、350D10-mIgG1および350D10-mIgG2a 10mg/kgの群の腫瘍組織から単離した(図12)。脾臓および腫瘍浸潤性CD4T細胞、CD8T細胞、CD4制御性T細胞およびNK細胞の割合をFACSで解析した。図14に示されるように、CD4TおよびCD8T細胞は、賦形剤および350D10-mIgG1群と比較して350D10-mIgG2a処置群の脾臓および腫瘍組織の両方で有意に濃縮された。NK細胞は3つの群間で有意な変化はなかった。興味深いことに、350D10-mIgG2aの群では、他の2つの群と比較してCD4Treg細胞の穏やかな減少が観察されたが、この変化は統計的に有意ではなかった。これらのデータは、ADCC機能を備えた抗TIGIT抗体が腫瘍微小環境を調節して抗腫瘍CD4TおよびCD8T細胞の浸潤を促進することで腫瘍増殖を抑制し得ることを示している。
例11 抗TIGIT抗体および抗PDL1抗体の併用療法のin vivo効力
【0172】
抗TIGIT抗体および抗PDL1抗体の相乗効果をin vivoで評価するために、ヒト化PDL1を含むMC38腫瘍細胞をPDL1およびTIGIT二重ヒト化マウスに移植した。平均腫瘍体積が100mmに達したら、抗TIGIT、抗PDL1、またはこれら2つの抗体の組合せを、3日毎に1mg/kgで腹腔内(i.p.)に6回投与した。結果は、抗TIGIT抗体または抗PDL1抗体の単剤療法が、初回投与から20日後にIgG群と比較して腫瘍増殖を穏やかに阻害したことを示した(TGI:47.5%および24.5%)(図15)。これら2つの抗体の組合せは、IgG群と比較して腫瘍増殖の抑制に有意な相乗効果を示し(TGI:58.5%、P値:0.045)、将来の免疫療法における併用療法の潜在的な利益を示している。
【0173】
本開示は、本開示の個々の態様の単一の例示として意図されている、記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるべきではなく、機能的に同等である任意の組成物または方法は、本開示の範囲内にある。本開示の精神または範囲から逸脱することなく、本開示の方法および組成物にさまざまな修正および変更を行うことができることは、当業者には明らかである。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内に入るという条件で、本開示の修正および変更を網羅することを意図している。
【0174】
本明細書で言及されるすべての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0175】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
【配列表】
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