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  • 特許-津波予測装置、方法、及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】津波予測装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 10/00 20060101AFI20221012BHJP
   G01V 1/00 20060101ALI20221012BHJP
   G01C 13/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01M10/00
G01V1/00 Z
G01C13/00 W
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018186537
(22)【出願日】2018-10-01
(65)【公開番号】P2020056649
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000221546
【氏名又は名称】東電設計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】木村 達人
(72)【発明者】
【氏名】金戸 俊道
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭平
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/079848(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/192326(WO,A1)
【文献】泉宮 尊司,海洋レーダーによる海表面流速場を用いた津波のリアルタイム予測に関する研究,海岸工学論文集,第52巻,2005年,pp.246-250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00- 15/00
G01C 13/00
G01M 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各観測地点での波の視線方向の流速を入力として、予測対象地点での波の水位を予測する津波予測装置であって、
各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付ける入力部と、
前記予測対象地点での波の水位を含む状態を予測する予測部と、
各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付けた場合に、
入力された各観測地点での波の視線方向の流速と、観測地点について予測された前記予測対象地点での水位を含む波の状態を、予め定められた観測行列を用いて変換することにより得られる各観測地点での波の視線方向の流速との差分に基づいて、前記予測対象地点での水位を含む波の状態を推定する推定部と、
前記予測部による前記状態の予測と、前記推定部による前記状態の推定とを予め定められた条件を満たすまで繰り返させる判定部と、
を含み、
前記状態は、水位と前記視線方向の線流量と前記視線方向と直交する方向の線流量とを含み、
前記予測部による前記状態の予測は、繰り返しの一つ前に前記推定部で推定された前記状態、又は繰り返しの一つ前に前記予測部で予測された前記状態に基づいて予測する津波予測装置。
【請求項2】
前記観測行列は、前記視線方向の流速と前記視線方向の線流量と静水深との関係を線形近似により求めたものとする請求項に記載の津波予測装置。
【請求項3】
コンピュータを、請求項1又は請求項2に記載の津波予測装置の各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波予測装置、方法、及びプログラムに係り、特に、波の水位を予測するための津波予測装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、津波の波高(波の水位の高さ)を予測する技術がある。例えば、海洋レーダで観測される視線方向の津波流速分布から津波の水位分布を推定し、推定結果を初期条件として津波伝播シミュレーションを行うことで、予測対象地点での津波到達時間、及び津波の水位を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-85206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、特許文献1の技術では、津波の水位分布の推定に際し、運動方程式を簡略化している等の原因により、津波の波高、及び到達時間に関する予測精度があまり高くないという課題があった。原因の内容としては、例えば、円筒座標系におけるθ方向の流速を入力値として使っていないことがある。また、運動方程式の各項のうち複数の項を無視して解いている。予測精度に関しては、各シミュレーション結果の包絡線で最大水位、最小水位を予測するため、波形を正確に表現できるものではなかった。シミュレーション結果の比較に関しては、最新のシミュレーション結果が最も良い結果になるとは限らないため、過去の予測結果と大きさ等を比較する手間が必要であった。
【0005】
また、経済性や実用性の観点からも、単一の基地局の海洋レーダから観測できる視線方向の流速のみから津波を予測できることが望ましいものである。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、精度よく波の水位を予測することができる津波予測装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る津波予測装置は、各観測地点での波の視線方向の流速を入力として、予測対象地点での波の水位を予測する津波予測装置である。津波予測装置は、各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付ける入力部を含む。津波予測装置は、前記予測対象地点での波の水位を含む状態を予測する予測部を含む。津波予測装置は、各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付けた場合に、入力された各観測地点での波の視線方向の流速と、観測地点について予測された前記予測対象地点での水位を含む波の状態を、予め定められた観測行列を用いて変換することにより得られる各観測地点での波の視線方向の流速との差分に基づいて、前記予測対象地点での水位を含む波の状態を推定する推定部を含む。津波予測装置は、前記予測部による前記状態の予測と、前記推定部による前記状態の推定とを予め定められた条件を満たすまで繰り返させる判定部を含む。そして、前記予測部による前記状態の予測は、繰り返しの一つ前に前記推定部で推定された前記状態、又は繰り返しの一つ前に前記予測部で予測された前記状態に基づいて予測するように構成されている。
【0008】
また、本発明に係る津波予測装置において、前記状態は、水位と線流量とを含むようにしてもよい。
【0009】
また、本発明に係る津波予測装置において、前記状態は、水位と前記視線方向の線流量と前記視線方向と直交する方向の線流量とを含むようにしてもよい。
【0010】
また、本発明に係る津波予測装置において、前記観測行列は、前記視線方向の流速と前記視線方向の線流量と静水深との関係を線形近似により求めたものとするようにしてもよい。
【0011】
本発明に係るプログラムは、コンピュータを、津波予測装置の各部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の津波予測装置、方法、及びプログラムによれば、各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付ける。予測対象地点での波の水位を含む状態を予測する。各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付けた場合に、入力された各観測地点での波の視線方向の流速と、予測された予測対象地点での水位を含む波の状態を、予め定められた観測行列を用いて変換することにより得られる各観測地点での波の視線方向の流速との差分に基づいて、予測対象地点での水位を含む波の状態を推定する。状態の予測と、状態の推定とを予め定められた条件を満たすまで繰り返させる。状態の予測は、繰り返しの一つ前に推定された状態、又は繰り返しの一つ前に予測された状態に基づいて予測する。これにより、精度よく波の水位を予測することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る津波予測装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る津波予測装置における津波予測処理ルーチンを示すフローチャートである。
図3】実験例における海洋レーダによる観測範囲の一例を示す図である。
図4】実験例におけるデータ同化津波予測の計算領域を示す図である。
図5】実験例における各波源の位置を示す図である。
図6】実験例における予測の結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明の実施の形態におけるデータ同化手法、及び予測の原理を説明する。
【0016】
本実施の形態では、海洋レーダから得られる視線方向の津波の流速分布から水位分布を想定することなく、流速分布を用いて津波伝播のシミュレーションを行うことで、津波の到達時間、及び津波の波高(水位の高さ)を予測する。シミュレーションの際、気象予測などに用いられているデータ同化手法を用いることで解析値と観測値の親和性を高める。
【0017】
次に、データ同化手法を用いた津波予測の方法について説明する。
【0018】
データ同化とは、モデル(シミュレーション)に観測値を取り込み、より真値に近い結果を出す手法である。本実施の形態では、解析の計算負荷の観点から、背景場の誤差情報が時間的に変化しないものとする静的な同化手法である最適内挿法を用いることとする。最適内挿法では、最適な推定値xを以下(1)式のように、シミュレーション結果である予報値xと、観測値yとの誤差に重みをかけたものとの和で与える。
【0019】
【数1】

・・・(1)
【0020】
Hは観測行列、Wは重み行列である。観測行列Hは、計算格子点における予報値xから、観測点における値への変換行列であり、観測値yと予報値xとが同じ物理量の場合は空間内挿を表す。計算格子点は、観測範囲において所定の格子間隔で設定した格子点である。重み行列Wは、推定値xの誤差分散が最小となるように設定する。推定誤差は、以下(2)式で与えられる。
【0021】
【数2】

・・・(2)
【0022】
シミュレーションの誤差である背景誤差εと測定誤差εとは無相関とすると、推定誤差共分散は以下(3)式のようになる。
【0023】
【数3】

・・・(3)
【0024】
ここで、BとRとは以下(4)式、(5)式のように定義する。
【0025】
【数4】

・・・(4)

・・・(5)
【0026】
上記(3)式の推定誤差共分散の対角成分が推定値の誤差分散である。対角成分の和を重み行列Wで微分すると以下(6)式のようになる。
【0027】
【数5】

・・・(6)
ここで、BとRとが対称行列であることを用いる。これを0とおくと、最適な重み行列Wは以下(7)式を満たす。
【0028】
【数6】

・・・(7)
観測点i,j間の背景誤差共分散行列HBHの成分をbij、観測誤差共分散行列Rの成分をrij、計算格子点gと観測点iとの間の背景誤差共分散行列BHの成分をbgiとすると、計算格子点gの対する観測点jの観測値の持つ重みwgjは以下(8)式の連立一次方程式から求めることができる。
【0029】
【数7】

・・・(8)
【0030】
σ を観測点iにおける背景誤差の標準偏差、σ を計算格子点gにおける背景誤差の標準偏差、σ を観測点iにおける観測誤差の標準偏差として、両辺をσ 及びσ で割ると以下(9)式のように変形できる。
【0031】
【数8】

・・・(9)
【0032】
μij は、観測点iと観測点jとの背景誤差の相関係数であり

と表せる。
【0033】
μij は、観測点iと観測点jとの観測誤差の相関係数であり

と表せる。
【0034】
μgi は、計算格子点gと観測点iとの背景誤差の相関係数であり

と表せる。
【0035】
さらに観測点間の観測誤差には相関がないものとして

と仮定することで、以下(10)式のように単純化できる。
【0036】
【数9】

・・・(10)
【0037】
以上のデータ同化手法を用いて、水位を含む波の状態を予測する。
【0038】
次に予測の原理について説明する。特許文献1に記載されているように、津波の挙動について、x軸及びy軸を有する2次元直交座標系の以下の質量保存式である(11)式と運動方程式である(12)式、及び(13)式とから構成される長波理論の基礎方程式によって、津波の到達時間、及び津波の水位ηの状態を予測するシミュレーションが導出できる。
【0039】
【数10】

・・・(11)

・・・(12)

・・・(13)
【0040】
(11)~(13)式において、ηは津波の波高であり、Mはx軸方向の線流量であり、Nはy軸方向の線流量であり、nは海底摩擦係数である。Dは全水深であり、静水深h及び波高ηを用いると、D=h+ηとなる。tは時間であり、gは重力加速度である。
【0041】
長波理論では、津波の流速は深さ方向(z軸方向)に一定と仮定できるので、津波のx軸方向の流速U及びy軸方向の流速VはそれぞれU=M/D、V=N/Dとして算出される。すなわち、計測された海面のx軸方向の流速U及びy軸方向の流速Vは、xy平面上の座標により決定付けられる。従って、波高の推定では、x軸方向の流速U及びy軸方向の流速Vと津波の波高ηとを関連付けるためのデータベースや経験式を必要とすることなしに、上述した津波の基礎方程式に基づいて、計測された津波のx軸方向の流速U及びy軸方向の流速Vから波高ηを算出できる。
【0042】
以上の説明に基づいて、以下、津波予測装置の構成を説明する。
【0043】
<本発明の実施の形態に係る津波予測装置の構成>
【0044】
次に、本発明の実施の形態に係る津波予測装置の構成について説明する。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る津波予測装置100は、CPUと、RAMと、後述する津波予測処理ルーチンを実行するためのプログラムや各種データを記憶したROMと、を含むコンピュータで構成することが出来る。この津波予測装置100は、機能的には図1に示すように入力部10と、演算部20と、出力部50とを備えている。
【0045】
入力部10は、各観測地点iでの波の視線方向の流速uの観測値yを受け付ける。観測値yは、海洋レーダから随時に受け付けるものとする。
【0046】
演算部20は、重み算出部30と、予測部32と、推定部34と、判定部36とを含んで構成されている。
【0047】
重み算出部30は、観測値yを用いて求められた、背景誤差共分散行列HBH、観測誤差共分散行列R、及び背景誤差共分散行列BHに基づいて、上記(8)式に従って、重みwgjからなる重み行列Wを算出する。重み行列Wは、推定値xの誤差分散が最小となるような重み行列である。なお、観測値y以外に、背景誤差共分散行列HBH、観測誤差共分散行列R、及び背景誤差共分散行列BHを求めるのに必要な値は、実験等により定めればよい。
【0048】
ここで、観測値yの観測結果は流速uとして観測される。一方、津波解析のシミュレーションでは、水位ηと、視線方向の線流量Mと、視線方向と直交する方向の線流量Nとを解析に用いる必要があるため、視線方向の流速uから観測行列Hを用いて変換する必要がある。流速uは以下(14)式で与えられる。
【0049】
【数11】

・・・(14)
【0050】
Dは全水深、hは静水深を表す。ただし、上記(14)式のままでは非線形であるため観測行列Hは作成できない。そのため、静水深に対し水位の変化は非常に小さいものとして、以下(15)式の線形近似で観測行列Hを作成し、重み行列Wの算出に用いる。
【0051】
【数12】

・・・(15)
【0052】
以下、推定部34でも観測行列Hを用いる際には同様に線形近似したものを用いればよい。
【0053】
予測部32は、予測対象地点での波の水位ηと、視線方向の線流量Mと、視線方向と直交する方向の線流量Nとを含む波の状態の予報値x を予測する。予測対象地点が上述した計算格子点gに対応する。具体的には、予測部32は、一時刻前(n-1)の状態の推定値xn-1 に基づき、上述した津波の基礎方程式から導出できるシミュレーションを行って、次の時刻nの状態の予報値x を予測する。推定部34で一時刻前(n-1)の状態の推定を行っていなければ、一時刻前(n-1)の状態の予報値xn-1 を用いる。水位ηは、上記(11)式の連続式に従って更新できる。線流量M、及び線流量Nは、上記(12)式、及び(13)式の運動方程式に従って更新できる。なお、nは時刻でなく回数としてもよい。
【0054】
推定部34は、各観測地点iでの波の視線方向の流速uの観測値yの入力を受け付けた場合に、上記(1)式に示すデータ同化手法により、重み行列Wを係数として、入力された各観測地点iでの波の視線方向の流速uの観測値yと、予測された予測対象地点での水位ηを含む波の状態の予報値x を、予め定められた観測行列Hを用いて変換することにより得られる各観測地点iでの波の視線方向の流速Hx との差分に基づいて、予測対象地点での水位ηを含む状態の推定値x を推定する。
【0055】
判定部36は、予測部32による波の状態の予報値x の予測と、推定部34による状態の推定値x の推定とを予め定められた条件を満たすまで繰り返させる。条件としては所定の時間や回数を定めておけばよい。予測部32から繰り返しの度に予報値x を出力部50に出力させてもよいし、繰り返しの終了後に出力させるようにしてもよい。
【0056】
<本発明の実施の形態に係る津波予測装置の作用>
【0057】
次に、本発明の実施の形態に係る津波予測装置100の作用について説明する。津波予測装置100は、入力部10で観測値yを随時受け付けているときに、図2に示す津波予測処理ルーチンを実行する。例えば、観測値yを2分ごとに受け付けているものとする。
【0058】
まず、ステップS100では、観測値yを用いて求められた、背景誤差共分散行列HBH、観測誤差共分散行列R、及び背景誤差共分散行列BHに基づいて、上記(8)式に従って、重みwgjからなる重み行列Wを算出する。
【0059】
次に、ステップS102では、繰り返しの単位のカウントであるnをn=1と設定する。例えば、nは、時刻であり、計算時間間隔が1秒である場合には、1秒ごとに1カウントするものとする。
【0060】
ステップS104では、予測対象地点での波の水位ηと、視線方向の線流量Mと、視線方向と直交する方向の線流量Nとを含む波の状態の予報値x を予測する。予測は、一時刻前(n-1)の状態の推定値xn-1 に基づき、上述した津波の基礎方程式から導出できるシミュレーションを行って、波の状態の予報値x を予測する。ステップS108で一時刻前(n-1)の状態の推定を行っていなければ、一時刻前(n-1)の状態の予報値xn-1 を用いる。
【0061】
ステップS106では、各観測地点iでの波の視線方向の流速uの観測値yの入力を受け付けたかを判定し、受け付けていればステップS108へ移行し、受け付けていなければステップS110へ移行する。
【0062】
ステップS108では、上記(1)式に示すデータ同化手法により、重み行列Wを係数として、入力された各観測地点iでの波の視線方向の流速uの観測値yと、観測地点iについて予測された予測対象地点での水位ηを含む波の状態の予報値X を、予め定められた観測行列Hを用いて変換することにより得られる各観測地点iでの波の視線方向の流速Hx との差分に基づいて、予測対象地点での水位ηを含む状態の推定値x を推定する。
【0063】
ステップS110では、n=nendであるかを判定する。nendはnについて予め定められた条件である。nendであれば条件を満たしたものとして津波予測処理ルーチンを終了し、nendでなければステップS112へ移行してn=n+1とカウントアップしてステップS104~S110の処理を繰り返す。
【0064】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るによれば、各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付け、予測対象地点での波の水位を含む状態を予測し、各観測地点での波の視線方向の流速の入力を受け付けた場合に、入力された各観測地点での波の視線方向の流速と、予測された予測対象地点での水位を含む波の状態を、予め定められた観測行列を用いて変換することにより得られる各観測地点での波の視線方向の流速との差分に基づいて、予測対象地点での水位を含む波の状態を推定し、状態の予測と、状態の推定とを予め定められた条件を満たすまで繰り返させ、状態の予測は、繰り返しの一つ前に推定された状態、又は繰り返しの一つ前に予測された状態に基づいて予測することにより、精度よく波の水位を予測することができる。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0066】
例えば、上述した重み算出部30で重み行列Wを一度算出して推定に用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、判定部36による時刻nの繰り返しの度に、背景誤差共分散行列HBH、観測誤差共分散行列R、及び背景誤差共分散行列BHを更新して、重み行列Wを算出するようにしてもよい。
【0067】
[実験例]
本実施の形態の手法による津波予測の可能性を検討するため、実際に設置されている海洋レーダを対象とした実地形モデルにおいて、海洋レーダの流速観測値として予め実施した津波波源を配置した数値シミュレーションから得られる視線方向流速のみを与え、データ同化による津波予測の実験を行った。実験では、海底露出や陸上への遡上を考慮し、非線形長波理論を用いた検討を行った。データ同化津波予測の計算領域は図4に示すように、海洋レーダによる観測範囲近傍(東西43.2km、南北57.6km)に限定した。格子間隔は、240m→80m→40m→20m→10m→5mと順次細分化し、10m以上の格子領域は陸上完全反射条件、5m格子領域のみ遡上境界条件とした。
【0068】
津波波源は敷地周辺海域活断層(長さ29・55・72km、幅21・26・26km、走向0・55・30°、上縁深さ2.5km、傾斜角45・35・35°、すべり角62・96・90°、すべり量7.7m、Mw8.0)を想定した。各波源の位置を図5に示す。
【0069】
計算条件を表1に示す。


【表1】
【0070】
図6に実験における予測の結果を示す。実験では、敷地周辺海域の活断層について、途中までの観測値でデータ同化を行い、どの程度先の時刻まで予測可能かの検討を行った。検討では、背景誤差相関係数μは、8kmで固定とした。使用する観測値を地震発生後2分、4分、6分までと変えた場合の水位時刻歴波形を検証している。流速の測定間隔を2分としているため、地震発生後2分までの観測値を使用した場合、データ同化は1回のみとなる。この場合でも、水位の予測は過小評価となるものの、津波の到達時間は概ね予測できている。地震発生後4分までの観測値を用いてデータ同化が2回になると第一波に関しては最後まで同化した結果とほぼ同等となっている。地震発生後6分までの観測値を用いてデータ同化が3回になると地震発生から34分後まで概ね予測できている。このように、津波の到達時間については、データが入力されれば短時間で予測可能であり、複数回同化が進めば30分程度先まで水位波形を精度よく予測可能となることが確認できた。
【0071】
以上のように、データ同化手法を用いることにより短時間で精度よく波の水位を予測できることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
10 入力部
20 演算部
30 重み算出部
32 予測部
34 推定部
36 判定部
50 出力部
100 津波予測装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6