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特許7156625ステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液
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  • 特許-ステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液
(51)【国際特許分類】
   C25F 1/06 20060101AFI20221012BHJP
   B23H 9/00 20060101ALI20221012BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C25F1/06 B
B23H9/00 A
B23K31/00 A
B23K31/00 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017254627
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019119907
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】511121388
【氏名又は名称】株式会社日本科学エンジニアリング
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 千秋
(72)【発明者】
【氏名】氏田 智子
(72)【発明者】
【氏名】左藤 眞市
(72)【発明者】
【氏名】西村 崇
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 真那実
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/036999(WO,A1)
【文献】特開2017-160484(JP,A)
【文献】米国特許第03342711(US,A)
【文献】特公昭48-012612(JP,B1)
【文献】特開2003-027296(JP,A)
【文献】特開2017-214615(JP,A)
【文献】特表2009-503908(JP,A)
【文献】特開昭61-207600(JP,A)
【文献】特開2006-002209(JP,A)
【文献】特開2013-245391(JP,A)
【文献】米国特許第05068017(US,A)
【文献】中国特許出願公開第103290464(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00-7/02
B23H 1/00-11/00
B23K 31/00-33/00
B23K 37/00-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流法又は交直重畳電流法によりステンレス鋼を電解研磨処理して溶接スケールを除去するための電解研磨液であって、
リン酸と、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩と、カリウム塩とを含有し、且つ、酸性であり、
前記リン酸の含有量が30~80質量%であり、前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量が0.01~30質量%であり、前記カリウム塩の含有量が0.01~10質量%である、ステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
【請求項2】
前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、pHが0.6の水溶液における溶解度が、0.5質量%以上である、請求項1に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
【請求項3】
さらに、ゲル化剤を含有する、請求項1又は2に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液を用いて電解する、ステンレス鋼から溶接スケールを除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼に溶接を施すと、その溶接部分に「溶接焼け」と呼ばれる酸化スケール(溶接スケール)が発生する。この溶接スケールは種々のトラブル要因となるため除去する必要がある。溶接スケールを除去する方法としては、物理的研磨法、化学的研磨法及び電解研磨法が知られているが、なかでも、溶接スケールの除去性能に優れる電解研磨法が広く採用されている。電解研磨法は、陽極としてのステンレス鋼母材を正極に接続し、陰極を負極に接続して、陽極と陰極との間に電解液を介在させて両極間に電流を通電することにより、ステンレス鋼表面に生じた溶接スケールを除去する方法である。
【0003】
この電解研磨法に用いられる電解液は、酸性電解液及び中性電解液に大別される。このうち、中性電解液は、酸性電解液と比較すると処理速度が遅いため、近年、種々の酸性電解液が提案されている。なかでも、近年の工業界においては、リン酸を主成分とする酸性電解液が多く使用されている。これは、リン酸が、他の酸に対して取扱い性が比較的良好な弱酸であるためである。このようなリン酸を主成分とする酸性電解液を用いた電解研磨方法としては、交流電流法、直流電流法及び交直重畳電流法が知られており、なかでも、処理速度が速いことから、交流電流法又は交直重畳電流法が多用されている。しかしながら、このリン酸を酸性電解液として使用し、交流電流法又は交直重畳電流法により電解研磨処理を行うと、不溶性のリン酸鉄塩が生成され、ステンレス鋼の表面処理部分が白濁化してしまう。
【0004】
このため、例えば、特許文献1においても、白濁化を避けるため、リン酸を50乃至70質量%、リン酸系キレート剤を0.5質量%以上含有する水溶液を用いて直流電流法によりステンレス鋼表面の電解研磨処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-043596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、リン酸とリン酸系キレート剤を含む電解研磨液を用いて、直流電流法で電解研磨処理をすることが開示されており、特に交流電流法又は交直重畳電流法を採用する場合に顕著に問題となる白濁化を解決できているとは言い難い。本発明は、このような課題を解決しようとするものであり、リン酸を主成分とする電解研磨液を使用して電解研磨処理を行った場合の白濁化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、リン酸とアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩とカリウム塩とを含有する電解研磨液を用いて交流電流法、直流電流法又は交直重畳電流法により電解研磨処理する場合には上記の課題を解決できることを見出した。この知見に基づいて更に研究を重ね本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.交流電流法、直流電流法又は交直重畳電流法によりステンレス鋼を電解研磨処理して溶接スケールを除去するための電解研磨液であって、
リン酸と、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩と、カリウム塩とを含有する、ステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
項2.前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、pHが0.6の水溶液における溶解度が、0.5質量%以上である、項1に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
項3.前記リン酸の含有量が20~80質量%であり、前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量が0.01~30質量%であり、前記カリウム塩の含有量が0.01~10質量%である、項1又は2に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
項4.さらに、ゲル化剤を含有する、項1~3のいずれか1項に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
項5.酸性である、項1~4のいずれか1項に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液。
項6.項1~5のいずれか1項に記載のステンレス鋼の溶接スケール除去用電解研磨液を用いて電解する、ステンレス鋼から溶接スケールを除去する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リン酸を主成分とする電解研磨液を使用して電解研磨処理を行った場合の白濁化を抑制することができる。特に、処理速度向上のために白濁化が発生しやすい交流電流法又は交直重畳電流法を採用した場合であっても、白濁化を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の電解研磨液を用いて交流電流法で電界処理した場合の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電解研磨液は、交流電流法、直流電流法又は交直重畳電流法によりステンレス鋼を電解研磨処理して溶接スケールを除去するための電解研磨液であって、リン酸と、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩と、カリウム塩とを含有する。このような構成を採用することにより、溶接スケールの除去性能を十分に維持しつつもステンレス鋼表面の白濁化を効果的に抑制することができる。
【0011】
(1)リン酸
リン酸を使用することで、ステンレス鋼の表面に発生した溶接スケールを溶解する力を向上させることができる。
【0012】
リン酸としては、特に制限はなく、ピロリン酸、オルトリン酸、メタリン酸、亜リン酸、メタ亜リン酸、次リン酸、次亜リン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸、トリメタリン酸、ピロ亜リン酸等が挙げられる。これらのリン酸は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0013】
本発明の電解研磨液中のリン酸の含有量は、20~80質量%が好ましく、25~75質量%がより好ましい。なお、ピロリン酸は加水分解するとオルトリン酸になるため、リン酸の含有量は、使用するリン酸の種類によって若干異なり、例えば、ピロリン酸を使用する場合は20~75質量%(特に30~70質量%)が好ましく、オルトリン酸を使用する場合は20~75質量%(特に30~75質量%)が好ましい。なお、上記の含有量において、ピロリン酸の含有量は、オルトリン酸に換算した場合の含有量である。また、2種以上のリン酸を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。リン酸の含有量をこの範囲とすることにより、電解研磨処理により、ステンレス鋼表面に発生した溶接スケールをより十分に除去することができる。
【0014】
(2)アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩
本発明において使用するアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、金属イオンを捕捉する非リン酸系キレート剤としての機能を有する。このように、リン酸系ではなく、非リン酸系のキレート剤としての機能を有する化合物を使用することで、ステンレス鋼の溶接スケールを除去するための電解研磨処理時に、表面に発生する白濁化を効果的に抑制することができる。このような観点から、本発明において使用するアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、リンを含まない化合物が好ましい。
【0015】
ステンレス鋼母材を陽極として電解研磨処理を行うと、陽極のステンレス鋼に含まれる鉄が電解液中に溶出する際に、その鉄がイオン化する。このイオン化した鉄が、電解研磨液中のリン酸イオンと反応すると、不溶性のリン酸鉄塩が生成され、これにより、ステンレス鋼表面が白濁化する。本発明では、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩が、このイオン化した鉄を捕まえて不活性化させることによって、電解研磨液中のリン酸イオンと鉄イオンとが反応してリン酸鉄塩が生成することを抑制するため、ステンレス鋼表面の白濁化を抑制することができる。アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、リン酸溶液中において安定性が高く、リン酸溶液に対する溶解性が高いため、溶液中で経時劣化することなく、ステンレス鋼の表面白濁化防止効果を維持することができる。
【0016】
このようなアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩としては、鉄イオンを捕捉しやすいため、リン酸溶液内で分離又は析出しにくく、リン酸溶液に対する溶解度が高いことが好ましい。このような観点から、使用するアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、pHが0.6の水溶液における溶解度が、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。なお、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の溶解度は高ければ高いほど優れているため上限値は特に制限はないが、通常30質量%である。
【0017】
このようなアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩としては、具体的には、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸(DPTA-OH)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)等のアミノカルボン酸化合物や、これらの塩が挙げられる。なかでも、白濁化防止機能、酸性水溶液中での溶解度等の観点から、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)やその塩が好ましい。これらアミノカルボン酸化合物の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水和物を用いることも可能である。なお、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のように、酸性水溶液中での溶解度があまり高くない化合物を使用する場合は、アミノカルボン酸の塩を使用することが好ましい。これらは単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0018】
本発明の電解研磨液中のアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量は、0.01~30質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、2~8質量%がさらに好ましい。アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量をこの範囲とすることにより、電解研磨処理中に鉄イオンをより効果的に捕捉することができ、不溶性のリン酸鉄塩の生成をより抑制することができる結果、溶接スケール除去時のステンレス鋼表面の白濁化をより抑制することができる。
【0019】
(3)カリウム塩
本発明では、カリウム塩を含ませることにより、電解研磨処理中に鉄イオンをより効果的に捕捉することができ、不溶性のリン酸鉄塩の生成をより抑制することができる結果、溶接スケール除去時のステンレス鋼表面の白濁化をより抑制することができる。この際、カリウム塩の代わりにナトリウム塩を使用しても、白濁化抑制の効果は得られない。
【0020】
このようなカリウム塩としては、特に制限はなく、硫酸カリウム、フッ化カリウム等の他、リン酸類(ピロリン酸、オルトリン酸、メタリン酸、亜リン酸、メタ亜リン酸、次リン酸、次亜リン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸、トリメタリン酸、ピロ亜リン酸等)を水酸化カリウムで完全あるいは一部中和して生成するカリウム塩(ピロリン酸カリウム、リン酸カリウム等)等も挙げられる。これらのカリウム塩は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0021】
本発明の電解研磨液中のカリウム塩の含有量は、0.01~10質量%が好ましく、0.05~8質量%がより好ましい。カリウム塩の含有量をこの範囲とすることにより、電解研磨処理中に鉄イオンをより効果的に捕捉することができ、不溶性のリン酸鉄塩の生成をより抑制することができる結果、溶接スケール除去時のステンレス鋼表面の白濁化をより抑制することができる。
【0022】
(4)電解研磨液
本発明の電解研磨液には、上記したリン酸と、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩と、カリウム塩以外にも、様々な成分を含ませることもできる。
【0023】
例えば、本発明の電解研磨液には、ゲル化剤を含ませることもできる。ゲル化剤を含有させることにより、本発明の電解研磨液により適切な粘性を付与し、ペースト状の電解研磨液を得ることも可能である。電解研磨処理の際の液だれを避けたい場合、例えば、ステンレス鋼母材が垂直方向に設置された現場で溶接され、その溶接焼けを除去したい場合等に有用である。このような観点から、本発明の電解研磨液にゲル化剤を含ませる場合、その含有量は、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。このようなゲル化剤としては、特に限定されないが、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の化学修飾されたセルロース誘導体、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドガム、ローカストビーンガム、ペクチン等の多糖類等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0024】
また、本発明の電解研磨液には、ジエチレングリコールを含ませることもできる。ジエチレングリコールを含有させることにより、ステンレス鋼表面の白濁化を抑制しつつも、溶接スケール除去性能をさらに向上させることが可能である。このような観点から、本発明の電解研磨液にジエチレングリコールを含ませる場合、その含有量は、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。
【0025】
その他、本発明の電解研磨液には、シュウ酸、グリセリン等を含ませることもできる。シュウ酸、グリセリン等を含有させることにより、ステンレス鋼表面の白濁化をより効果的に抑制することが可能である。このような観点から、本発明の電解研磨液にシュウ酸、グリセリン等を含ませる場合、その合計含有量は、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。
【0026】
このような本発明の電解研磨液は、溶接スケールを効果的に除去するとともに、電解研磨処理中に鉄イオンをより効果的に捕捉することができ、不溶性のリン酸鉄塩の生成をより抑制することができる結果、溶接スケール除去時のステンレス鋼表面の白濁化をより抑制することができる観点から、水溶液が好ましい。水の使用量は、本発明の電解研磨液中の各成分の含有量を上記範囲となるように調整することが好ましい。この結果、本発明の電解研磨液を酸性とすることができ、溶接スケールを効果的に除去することができる。
【0027】
(5)電解研磨処理
本発明の電解研磨液は、ステンレス鋼表面の溶接スケールを除去するために使用される。この際、電解研磨処理中の白濁化を抑制することができる。
【0028】
この本発明の電解研磨液を用いてステンレス鋼表面の溶接スケールを除去する際には、交流電流法、直流電流法又は交直重畳電流法により電解研磨処理する。ただし、直流電流法を採用した場合は、そもそも電解研磨処理時に白濁化が生じにくいため、本発明の電解研磨液を使用することによる効果が分かりにくい。一方、交流電流法又は交直重畳電流法を採用した場合には、通常、リン酸を主成分とする電解研磨液を使用した場合は電解研磨処理時に白濁化が生じやすいが、このような場合であっても、本発明の電解研磨液を使用した場合には、白濁化を効果的に抑制することができる。
【0029】
この場合、交流電流法、直流電流法又は交直重畳電流法において、本発明の電解研磨液を使用すること以外は従来と同様の条件で行うことができる。例えば、交直重畳電流法を採用する場合は、ステンレス鋼母材を、交流電流や、直流に交流を重ねた交直重畳電流の陽極側に接続し、本発明の電解研磨液を使用して電解処理することができる。この際、電解液の保持性が良好な布又はフェルトに本発明の電解研磨液を含浸させて陽極であるステンレス鋼母材に押し当てることにより、本発明の電解研磨液を電気分解における電解質とすることもできる。これにより、陽極で溶解が起こり、陽極であるステンレス鋼母材表面から溶接スケールが溶出することにより、溶接スケールが除去されるとともに、リン酸鉄塩の生成が抑制されるために白濁化も抑制される。これらの電流方式や条件は、ステンレス鋼の表面処理の用途、電解処理液の仕様、表面処理を行う母材の材質、母材の表面処理加工の種類等によって、最適な方式を選択することが好ましい。なお、交流電流法、直流電流法又は交直重畳電流法による電解研磨処理時の電流、電圧等の各種条件は常法にしたがい調整することができる。例えば、出力電圧は10~70Vの範囲で調節し、5~90Aの電流を流すことが好ましい。
【実施例
【0030】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されないことは言うまでもない。
【0031】
なお、実施例において、各種試薬は以下のものを使用した。
SUS-N:(株)日本科学エンジニアリング製
ピロリン酸:大道製薬(株)製
オルトリン酸:ラサ工業(株)製
1.3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA;キレストPD-4H):キレスト(株)製
ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA;キレストPA):キレスト(株)製
フッ化カリウム:ステラケミファ(株)製
硫酸カリウム:大塚化学(株)製
フッ化アンモニウム:ステラケミファ(株)製
フッ化ナトリウム:ステラケミファ(株)製
なお、本実施例で使用したアミノカルボン酸化合物については、PDTAは酸性水溶液(pH0.6)中での溶解度が1質量%以上の化合物である。
【0032】
速度試験用ステンレス鋼板には、SUS-304(50mm×100mm×1.6mm;2B材)に溶接でビードを作成したものを使用した。溶接条件は、初期電流20A、溶接電流60A、クレーター電流20A、ガス流量6L/min、スピード約1000m/m/分とした。
【0033】
また、白濁化確認用ステンレス鋼板には、SUS304(50mm×100mm×1.6mm;鏡面材;ビード無し)を使用し、電解研磨処理にはマイト工業(株)製のマイトスケーラMS-2100を用いた。
【0034】
上記したステンレス鋼板に対して、表1~7に示す電解研磨液を用いて、交流電流法(AC)又は直流電流法(DC)による電解研磨処理を施した。なお、ピロリン酸は加水分解するとオルトリン酸になるため、表中のピロリン酸の含有量は、オルトリン酸に換算した場合の含有量である。具体的には、交流電流法及び直流電流法を採用する場合いずれも、上記したステンレス鋼板を電源の一極に接続し、他の一極は上記したステンレス鋼板と同じ材質の電極を合成繊維製の不織布で巻き、その不織布に表1~7に示す電解研磨液(pHは約0.6である)を染み込ませて摺動させた。この際、交流電流法(AC)では電圧35.4V及び電流6A、直流電流法(DC)では電圧34.8V及び電流19Aとした。電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)及び美観(白濁化)に関する結果を表1~7に示す。また、上記したステンレス鋼板に対して、表8に示す電解研磨液を用いて、交直重畳電流法による電解研磨処理を施した。上記と同様に、上記したステンレス鋼板を電源の一極に接続し、他の一極は上記したステンレス鋼板と同じ材質の電極を合成繊維製の不織布で巻き、その不織布に表8に示す電解研磨液(pHは約0.6である)を染み込ませて摺動させた。この際、モード切替スイッチを交直重畳電流を印加できるマスターモードに合わせ、出力切替スイッチを交流(AC)に合わせて測定した(電圧36.7V及び電流19A)。結果を表8に示す。なお、美観(白濁化)の評価については、電極を当てた箇所の周囲の白い部分の幅から、現行酸性液のものを3としてエキスパートが5段階で評価した(数字が大きいほど優れており、5は白い部分が全くないことを示す)。参考までに、実施例1の電解研磨液を用いて交流電流法で電解研磨処理した場合の外観を図1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
【表8】
図1