(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】赤かび病の防除またはかび毒の低減のための薬剤
(51)【国際特許分類】
A01N 43/40 20060101AFI20221012BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221012BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20221012BHJP
A01N 43/16 20060101ALI20221012BHJP
A01N 57/16 20060101ALI20221012BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A01N43/40 101K
A01P3/00
A01N37/44
A01N43/16 Z
A01N57/16 102B
A01N25/00 102
(21)【出願番号】P 2018153382
(22)【出願日】2018-08-17
【審査請求日】2021-06-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本農薬学会第43回大会講演要旨集、平成30年5月25日発行、日本農薬学会第43回大会組織委員会 日本農薬学会第43回大会、平成30年5月26日開催
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、農林水産省、「麦及び飼料作物の有用遺伝子の同定とDNAマーカーの開発」研究課題名「オオムギ赤かび病抵抗性遺伝子の単離と機能解明」委託プロジェクト研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西内 巧
(72)【発明者】
【氏名】馬場 裕美
(72)【発明者】
【氏名】木村 眞
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 佑一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和広
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095370(JP,A)
【文献】特開2016-052296(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00493670(EP,A1)
【文献】Sivakumar K. Chamarthi et al.,European Journal of Plant Pathology,2014年,Vol.138, No.1,p.67-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/ JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための薬剤であって、トリゴネリ
ンを含む薬剤。
【請求項2】
さらに、トレオニン
および/またはセコロガニンを含む、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
さらに、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための薬剤であって、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む薬剤と請求項1または2に記載の薬剤との組み合わせからなる薬剤。
【請求項5】
植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための方法であって、請求項1から4のいずれかに記載の薬剤で植物を処理することを含む方法。
【請求項6】
植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための方法であって、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む薬剤で植物を処理した後に、請求項1または2に記載の薬剤で植物を処理することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ムギ類赤かび病菌(Fusarium graminearum、 Fusarium asiaticumなど)は、コムギ、オオムギなどのムギ類やトウモロコシの穂などに感染し、これらに甚大な被害を及ぼす難防除性の植物病原糸状菌である。加えて、本菌が産生するトリコテセン系かび毒が食物や飼料に混入すると、ヒトや家畜に免疫抑制や食中毒などの深刻な健康被害を及ぼすことから、世界的に問題になっている。また、トリコテセン系かび毒は熱に安定で、調理過程でほとんど分解されないため、穀物中におけるかび毒蓄積を低減化することが求められる。
【0003】
これまで、赤かび病の防除には、チューブリン合成阻害剤であるチオファネートメチルや、エルゴステロール合成阻害剤であるテブコナゾールやメトコナゾールが使用されてきたが、耐性菌が生じるなどの問題があり、これら化学合成殺菌剤に代わる安全で効果的な防除剤や防除法の開発が望まれていた。
【0004】
このような状況の下、本発明者らは、赤かび病原菌に対する感受性または抵抗性に関与する遺伝子を複数見出し、その発現制御により、赤かび病抵抗性植物を作出することが可能であることを報告した(特許文献1)。また、天然成分であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が、オオムギやアラビドプシスにおいて、赤かび病に対する抵抗性を誘導することを報告した(非特許文献1)。
【0005】
さらに、赤かび病抵抗性品種や変異体においてもトリコテセン系かび毒の蓄積が期待通りに減少しないことも多いことから、本発明者らは、トリコテセン系かび毒の蓄積を抑制する天然成分を探索し、トレオニン(Thr)とそのアナログが赤かび病菌によるトリコテセン系かび毒の蓄積を抑制することを見出した(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Miwa A. et al., Scientific Reports, 7:6389 (2017)
【文献】Maeda K. et al., Arch Microbiol, 199:945-952 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、これまでに植物における赤かび病の防除やトリコテセン系かび毒の低減に有用ないくつかの技術が開発されてきてはいるものの、より優れた効果をもたらす技術の開発が、今なお、望まれている。従って、本発明の目的は、赤かび病の防除およびトリコテセン系かび毒の低減の双方に対して、より効果的な薬剤および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、天然物であるトリゴネリン(TRG)およびセコロガニン(SCG)が、赤かび病の防除のみならず、トリコテセン系かび毒の低減に有効であることを見出した。さらに、本発明者らは、これら分子を、同じく天然物であるニコチンアミドモノヌクレオチドやトレオニンと組み合わせて、植物に施用することにより、上記効果を顕著に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、上記の天然物を含む、赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための薬剤、並びに、当該薬剤を利用した赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための方法に関し、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
【0011】
[1]植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための薬剤であって、トリゴネリンおよび/またはセコロガニンを含む薬剤。
【0012】
[2]さらに、トレオニンを含む、[1]に記載の薬剤。
【0013】
[3]さらに、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、[1]または[2]に記載の薬剤。
【0014】
[4]植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための薬剤であって、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む薬剤と[1]または[2]に記載の薬剤との組み合わせからなる薬剤。
【0015】
[5]植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための方法であって、[1]から[4]のいずれかに記載の薬剤で植物を処理することを含む方法。
【0016】
[6]植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための方法であって、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む薬剤で植物を処理した後に、[1]または[2]に記載の薬剤で植物を処理することを含む方法。
【発明の効果】
【0017】
赤かび病の病徴が弱い植物でもかび毒が高蓄積するなど、赤かび病による病徴とかび毒の蓄積が相関しない事例が多く報告されているが、本発明によれば、植物において赤かび病を防除しながら、トリコテセン系かび毒を低減させることができ、しかも、その効果が顕著である。また、有効成分であるトリゴネリン、セコロガニン、トレオニン、ニコチンアミドモノヌクレオチドは、いずれも天然物であるため、植物に対する薬害もなく、環境性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】セコロガニンによる赤かび病菌のかび毒(3A-DON)の低減効果を示す写真(電気泳動像)である。
【
図2】トリゴネリンによる赤かび病の防除効果を示すグラフである。
【
図3】罹病性六条オオムギ(H.E.S.4)における、各種天然物またはその組み合わせによる赤かび病の防除効果およびかび毒の低減効果を示すグラフである。
【
図4】罹病性二条オオムギ(Turkey45)における、各種天然物またはその組み合わせによる赤かび病の防除効果およびかび毒の低減効果を示すグラフである。
【
図5】矮性の罹病性コムギにおける、天然物の組み合わせによる赤かび病の防除効果およびかび毒の低減効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための薬剤であって、トリゴネリンおよび/またはセコロガニンを含む薬剤を提供する。また、本発明は、植物における赤かび病の防除またはトリコテセン系かび毒の低減のための方法であって、当該薬剤で植物を処理することを含む方法を提供する。
【0020】
本発明における「赤かび病」は、主としてFusarium属菌によって引き起こされる植物病害である。上記の通り、本発明の薬剤は、赤かび病の防除効果のみならず、トリコテセン系かび毒の低減効果をも有する。従って、本発明の対象とする赤かび病菌は、トリコテセン系かび毒を産生する赤かび病菌が好ましい。このような赤かび病菌としては、例えば、Fusarium graminearum、Fusarium asiaticum、Fusarium culmorumなどのトリコテセン系かび毒を産生する赤かび病菌が挙げられるが、これらに制限されない。本発明における赤かび病の「防除」は、対照(本発明の薬剤を添加しない場合)と比較して、植物における赤かび病の発症を抑制すればよく、その機序が、例えば、赤かび病菌の殺菌であるか、赤かび病菌の増殖抑制であるか、あるいは感染防御であるかは問わない。
【0021】
本発明における「トリコテセン系かび毒」は、セスキテルペノイドであり、C8位のカルボニル基の有無によって,タイプBとタイプAに分けられる。タイプBには、デオキシニバレノール(DON)とニバレノール(NIV)が含まれ、特にデオキシニバレノールは、日本だけでなく世界中で穀物汚染が報告されている。一方、タイプAには、T-2トキシンとHT-2トキシンが含まれる。本発明の薬剤により低減を行うトリコテセン系かび毒としては、特に制限はない。後述の有効成分を組み合わせて植物に施用した場合には、幅広いトリコテセン系かび毒の低減効果が期待できる。例えば、有効成分の一つであるトレオニンは、トリコテセン系かび毒の生合成経路の初発段階の酵素であるTRI5とその発現を調節する転写因子TRI6の遺伝子発現を抑制することから(非特許文献2)、側鎖が異なるトリコテセン各分子種に対して幅広い低減効果をもたらすことができると考えられる。
【0022】
本発明におけるトリコテセン系かび毒の「低減」は、対照(本発明の薬剤を添加しない場合)と比較して、植物における当該かび毒の量が減少すればよく、その機序が、例えば、蓄積した当該カビ毒の分解であるか、当該カビ毒の生成自体の抑制であるかは問わない。
【0023】
本発明の薬剤を適用する「植物」としては、赤かび病菌に感染する植物であれば、特に制限はないが、例えば、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、イネ、ライムギ、エンバク、アワ、モロコシなどのイネ科植物や、実験植物であるシロイヌナズナが挙げられるが、イネ科植物が好ましい。
【0024】
本発明の薬剤は、トリゴネリンおよび/またはセコロガニンを含む。有効成分である「トリゴネリン」は、下記構造を有する化合物である。
【0025】
【0026】
また、「セコロガニン」は、下記構造を有する化合物である。
【0027】
【0028】
本発明においては、トリゴネリンおよび/またはセコロガニンを、トレオニンおよび/またはニコチンアミドモノヌクレオチドと組み合わせて植物に施用することで、赤かび病の防除効果およびトリコテセン系かび毒の低減効果が顕著に向上することが見出された(実施例3~5、
図3~5)。従って、本発明の薬剤の好ましい態様は、上記のトリゴネリンおよび/またはセコロガニンに加えて、トレオニンおよび/またはニコチンアミドモノヌクレオチドを含む。
【0029】
トレオニン(L-トレオニン)は、赤かび病菌によるトリコテセンの蓄積を抑制することが報告されており(非特許文献2)、下記構造を有する化合物である。
【0030】
【0031】
また、ニコチンアミドモノヌクレオチドは、植物において赤かび病に対する抵抗性を誘導することが報告されており(非特許文献1)、下記構造を有する化合物である。
【0032】
【0033】
本発明の薬剤は、目的の効果(赤かび病の防除効果およびトリコテセン系かび毒の低減効果)が阻害されない限り、他の任意成分を含んでもよい。他の任意成分としては、例えば、展着剤、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、稀釈剤、賦形剤などを挙げることができる。また、剤型は、施用方法などに応じて各種の形態を採ることができるが、例えば、水和剤、水溶剤、粉剤、粒剤、錠剤、乳剤、液剤、油剤、エアゾール、フロアブル剤などが挙げられる。また、目的の効果が阻害されない限り、他の有効成分を含有していてもよく、また、他の農薬(例えば、殺虫剤、殺ダニ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤など)と組み合わせてもよい。
【0034】
施用時における各有効成分の濃度は、当業者であれば、目的の効果を有する範囲で適宜選択することができる。例えば、トリゴネリン、セコロガニン、トレオニン、ニコチンアミドモノヌクレオチドを、それぞれ10-300mg/L、10-100mg/L、1-20g/L、10-300mg/Lで施用することができ、より好適には、それぞれ50-200mg/L、10-100mg/L、10-20g/L、10-100mg/Lで施用することができる。
【0035】
本発明の薬剤の植物への施用方法としては、例えば、散布、塗布、土壌潅注、土壌混和、浸漬などが挙げられるが、赤かび病は、主として穂に感染することから、施用方法としては、穂や植物体全体への散布や塗布などが好ましい。
【0036】
本発明の薬剤の植物への施用時期は、当業者であれば、赤かび病の植物への感染時期などを考慮して適宜選択しうるが、赤かび病は、主として植物の開花期に感染することから、開花期が適期である。また、感染後に治療的な防除を行うよりも高い効果が期待できる点で、予防的な防除が好ましい。
【0037】
本発明の薬剤の施用回数は、有効成分の種類や施用時期などにより変動し得るが、1回であっても、複数回(例えば、2回、3回以内、5回以内)であってもよい。高い効果が期待できる点で、複数回の施用が好ましい。複数回の施用を行う場合には、同一の有効成分を含む薬剤を複数回施用してもよいが、異なる有効成分を含む薬剤との組合せで施用(すなわち、併用)してもよい。例えば、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む薬剤で植物を処理した後に、トリゴネリンおよび/またはセコロガニンを含む薬剤(さらに、トレオニンを含む薬剤)で植物を処理してもよい。実際、本実施例においては、ニコチンアミドモノヌクレオチドを植物に施用した後に、トリゴネリン、セコロガニン、およびトレオニンの混合物を施用することにより、優れた効果が得られることを見出している(実施例3~4、
図3~4)。複数回の施用を行う場合の施用の間隔は、赤かび病の植物への感染時期などを考慮して適宜選択しうるが、通常、半日~3週間である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]セコロガニンによる赤かび病菌のかび毒産生抑制
赤かび病菌(H3株)を、0、10、または100μMのセコロガニンを添加した合成Gln液体培地で培養した。培養後、2、3、4日後のかび毒(3アセチルデオキシニバレノール)の蓄積について、薄層クロマトグラフィーにより分析した。
【0040】
その結果、3日後および4日後において、100μMのセコロガニンによるかび毒産生の抑制効果が見られた(
図1)。一方、菌糸の乾燥重量により生育に対するセコロガニンの影響を調べたところ、100μMのセコロガニンを添加した場合でも菌糸の生育には影響しなかった。
【0041】
以上から、セコロガニンは、菌糸の生育には影響を与えずに、濃度依存的にかび毒産生を抑制することが判明した。
【0042】
[実施例2]トリゴネリンの赤かび病防除効果
トリゴネリンはアルカロイドの一種であり、赤かび病菌にも有効な抵抗性誘導剤として報告されているニコチンアミドモノヌクレオチド(非特許文献1)を前駆体として合成される。トリゴネリンの赤かび病に対する防除効果およびかび毒抑制効果を解析するため、矮性コムギ品種(USU-Apogee)を用いた。トリゴネリンについては、トリゴネリン塩酸塩溶液の使用により酸性溶液(pH2.0)となったため、pHを6.0に調整したものも準備した。
【0043】
開花期のコムギの穂に、予めトリゴネリンを噴霧し、吸収させた後、赤かび病菌(H3株)の分生子懸濁液(10000胞子/ml)を噴霧器により噴霧し、接種48時間後まで高湿度に保持した後、湿度を下げた。接種後6日後に、病徴観察を行った後、試料を採取し、液体窒素により凍結した。試料を破砕後、ゲノムDNAを抽出し、植物ゲノムDNAおよび赤かび病菌ゲノムDNA量について、リアルタイムPCRによる定量を行い、赤かび病菌の菌体量を算出した。一方、かび毒(デオキシニバレノール)については、イムノクロマト法により測定を行った。なお、本実施例におけるトリゴネリンの施用濃度は、137mg/Lである。
【0044】
その結果、トリゴネリン(pH6.0)について、赤かび病菌の菌体量およびかび毒の低減化効果が見られた(
図2)。トリゴネリン(pH2.0)は、より顕著な効果が見出されたが、トリゴネリンそのものの防除効果に加えて、酸性化による相乗的な防除効果を示したものと考えられた(
図2)。
【0045】
[実施例3] 罹病性六条オオムギ(H.E.S.4)における天然物による赤かび病防除とかび毒低減化
いずれも天然物である、ニコチンアミドモノヌクレオチドとトレオニンに、トリゴネリンおよびセコロガニンを組み合せて、赤かび病の防除効果およびかび毒低減化効果を検討した。六条オオムギの罹病性品種であるH.E.S.4を圃場で育成し、穂を切り出し、止め葉を残して、温室内のチャンバーで赤かび病菌の接種試験を行った。具体的には、開花期のオオムギの穂に、接種日の1日前に天然物または水を噴霧した後に、接種約4時間前に、上記天然物または水を噴霧した。その後、赤かび病菌(H3株)の分生子懸濁液(10000胞子/ml)を噴霧器により噴霧し、接種48時間後まで、高湿度に保った後、湿度を下げた。接種後7日後に、病徴観察を行った後、試料を採取し、液体窒素により凍結した。試料破砕後、ゲノムDNAを抽出し、植物ゲノムDNAおよび赤かび病菌ゲノムDNA量について、リアルタイムPCRによる定量を行い、赤かび病菌の菌体量を算出した。一方、かび毒(デオキシニバレノール)については、イムノクロマト法により測定を行った。なお、本実施例におけるトリゴネリン、セコロガニン、ニコチンアミドモノヌクレオチド、トレオニンの施用濃度は、それぞれ137mg/L、38.8mg/L、100mg/L、10g/Lである。
【0046】
その結果、六条オオムギの罹病性品種において、接種4時間前のセコロガニンの噴霧によって、かび毒の低減化効果が見られたが、菌体量の減少は見られなかった(
図3;「水/SCG」)。トリゴネリン(pH2.0)では、菌体量の減少とかび毒蓄積の低下が見られた(
図3;「水/TRG」)。接種前日にニコチンアミドモノヌクレオチドを投与し、接種4時間前にトリゴネリン、セコロガニン、およびトレオニンの混合液を噴霧した場合に、最も顕著な赤かび病防除効果およびかび毒低減化効果が見られた(
図3;「NMN/TRG+SCG+Thr」)。
【0047】
[実施例4] 罹病性二条オオムギ(Turkey45)における天然物による赤かび病防除とかび毒低減化
いずれも天然物である、ニコチンアミドモノヌクレオチドおよびトレオニンに、トリゴネリン、セコロガニンを組み合せて、赤かび病の防除効果とかび毒低減化効果を検討した。二条オオムギの罹病性品種であるTurkey45を圃場で育成し、穂を切り出し、止め葉を残して、温室内のチャンバーで赤かび病菌の接種試験を行った。具体的には、開花期のオオムギの穂に、接種日の1日前に天然物または水を噴霧した後、接種約4時間前に天然物または水を噴霧した。その後、赤かび病菌(H3株)の分生子懸濁液(10000胞子/ml)を噴霧器により噴霧し、接種48時間後まで、高湿度に保った後、湿度を下げた。接種後7日後に、病徴観察を行った後、試料を採取し、液体窒素により凍結した。試料破砕後、ゲノムDNAを抽出し、植物ゲノムDNAおよび赤かび病菌ゲノムDNA量について、リアルタイムPCRによる定量を行い、赤かび病菌の菌体量を算出した。一方、かび毒(デオキシニバレノール)については、イムノクロマト法により測定を行った。なお、本実施例におけるトリゴネリン、セコロガニン、ニコチンアミドモノヌクレオチド、トレオニンの施用濃度は、それぞれ137mg/L、38.8mg/L、100mg/L、10g/Lである。
【0048】
その結果、二条オオムギの罹病性品種において、六条オオムギの場合とほぼ同様の結果が得られ(
図4)、接種前日にニコチンアミドモノヌクレオチドを投与し、接種4時間前にトリゴネリン、セコロガニン、およびトレオニンの混合液を噴霧した場合に、最も顕著な赤かび病防除効果およびかび毒低減化効果が見られた。
【0049】
[実施例5]矮性の罹病性コムギにおける天然物カクテルによる赤かび病防除とかび毒低減化
いずれも天然物である、ニコチンアミドモノヌクレオチド、トレオニンに、トリゴネリン、セコロガニンを組み合せて、赤かび病の防除効果およびかび毒低減化効果を検討した。矮性でコムギの罹病性品種であるUSU-Apogeeを高照度型の人工気象器で育成し、開花期の穂を用いて、赤かび病菌の接種試験を行った。具体的には、開花期のコムギの穂に、予めトリゴネリンを噴霧し、吸収させた後、赤かび病菌(H3株)の分生子懸濁液(10000胞子/ml)を噴霧器により噴霧し、接種48時間後まで、高湿度に保った後、湿度を下げた。接種後6日後に、病徴観察を行った後、試料を採取し、液体窒素により凍結した。試料破砕後、ゲノムDNAを抽出し、植物ゲノムDNAおよび赤かび病菌ゲノムDNA量について、リアルタイムPCRによる定量を行い、赤かび病菌の菌体量を算出した。一方、かび毒(デオキシニバレノール)については、イムノクロマト法により測定を行った。なお、本実施例におけるトリゴネリン、セコロガニン、ニコチンアミドモノヌクレオチド、トレオニンの施用濃度は、それぞれ137mg/L、38.8mg/L、100mg/L、10g/Lである。
【0050】
その結果、矮性で罹病性のコムギ品種において、接種前日および接種4時間前ともにニコチンアミドモノヌクレオチド、トリゴネリン、およびトレオニンの混合液を噴霧すると、非常に顕著な赤かび病防除効果およびかび毒低減化効果が見られた(
図5)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
赤かび病は、コムギ、オオムギ、トウモロコシなどの主要穀物に甚大な被害を与える他、本菌が産生するトリコテセン系かび毒がヒトや家畜の免疫抑制や食中毒などの深刻な健康被害を及ぼす。本発明によれば、これら主要穀物において、赤かび病の防除とともに、トリコテセン系かび毒の低減化も図ることができることから、本発明は、農業分野における生産性の向上や健康被害の防止などに大きく貢献しうる。