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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ブッシュ及び車両用サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/393 20060101AFI20221012BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20221012BHJP
   F16F 1/387 20060101ALI20221012BHJP
   B60G 7/02 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F16F1/393
F16F1/38 H
F16F1/38 U
F16F1/387 A
B60G7/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018189084
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020056481
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000138244
【氏名又は名称】株式会社モルテン
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 晋
(72)【発明者】
【氏名】執行 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】平松 大弥
(72)【発明者】
【氏名】井芹 晴明
(72)【発明者】
【氏名】奥山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】倉田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三輪出 洋巳
(72)【発明者】
【氏名】吉村 匡史
(72)【発明者】
【氏名】小川 諒
(72)【発明者】
【氏名】辻 智広
(72)【発明者】
【氏名】望月 雅之
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第02562967(FR,A1)
【文献】西独国特許出願公開第03536283(DE,A1)
【文献】特開平06-106931(JP,A)
【文献】実開平03-012029(JP,U)
【文献】米国特許第04129394(US,A)
【文献】特開2006-200643(JP,A)
【文献】特開2000-002279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00- 6/00
F16F 15/00- 15/36
B60G 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブッシュであって、
外筒と、内筒と、前記外筒と前記内筒との間に設けられた弾性体と、を備え、
前記外筒は、前記内筒の軸と同心に又は前記内筒の軸に対して偏心して形成された一定半径の円筒状の内周面を有するとともに、軸方向の中央部で軸方向に直交する半径方向に前記内周面から窪んだ中央凹部を有し、かつ、両端部の厚みが中央部の厚みよりも厚く、
前記中央凹部は、軸方向に沿った断面視において、表面形状が曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、前記内筒の軸から最も離れた頂点は曲線上に位置し、
前記内筒は、軸方向の中央部の前記中央凹部に対応する位置で軸方向に直交する半径方向に外周面から膨出する中央凸部を有し、
前記中央凸部は、軸方向に沿った断面視において、曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、最大外径が前記外筒の前記内周面の最小内径よりも大き
前記中央凹部の曲線は、軸方向に沿った断面視において、前記内筒の軸から前記中央凹部の前記曲線の側へと半径方向に偏位する第1位置を中心とする円弧で形成され、
前記中央凸部の曲線は、軸方向に沿った断面視において、前記内筒の軸から前記中央凸部の前記曲線の側へと半径方向に偏位し、前記第1位置とは異なる第2位置を中心とする円弧で形成されている、
ことを特徴とするブッシュ。
【請求項2】
前記中央凸部の前記円弧の半径は、前記中央凹部の前記円弧の半径よりも小さい、
ことを特徴とする請求項に記載のブッシュ。
【請求項3】
前記外筒は、一定半径の円筒状の外周面を前記中央凹部に対応する位置に有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のブッシュ。
【請求項4】
前記弾性体は、前記外筒及び前記内筒の双方に接着されている、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のブッシュ。
【請求項5】
車両用サスペンション装置であって、
車輪を回転可能に支持するナックルと車体との間に設けられ、前記車輪を上下方向に変位可能に位置決めするアーム部材と、
前記アーム部材を前記車体に対して揺動可能に支持するとともに、車両前後方向に離間して配設された2つのブッシュとを有し、
前記2つのブッシュのうち一方は、
前記車体または前記アーム部材のうち一方に固定された外筒と、前記車体または前記アーム部材のうち他方に固定された内筒と、前記外筒と前記内筒との間に設けられた弾性体と、を備え、
前記外筒は、前記内筒の軸と同心に又は前記内筒の軸に対して偏心して形成された一定半径の円筒状の内周面を有するとともに、軸方向の中央部で軸方向に直交する半径方向に前記内周面から窪んだ中央凹部を有し、かつ、両端部の厚みが中央部の厚みよりも厚く、
前記中央凹部は、軸方向に沿った断面視において、表面形状が曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、前記内筒の軸から最も離れた頂点は曲線上に位置し、
前記内筒は、軸方向の中央部の前記中央凹部に対応する位置で軸方向に直交する半径方向に外周面から膨出する中央凸部を有し、
前記中央凸部は、軸方向に沿った断面視において、曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、最大外径が前記外筒の前記内周面の最小内径よりも大きく、
前記中央凹部の曲線は、軸方向に沿った断面視において、前記内筒の軸から前記中央凹部の前記曲線の側へと半径方向に偏位する第1位置を中心とする円弧で形成され、
前記中央凸部の曲線は、軸方向に沿った断面視において、前記内筒の軸から前記中央凸部の前記曲線の側へと半径方向に偏位し、前記第1位置とは異なる第2位置を中心とする円弧で形成され、
前記2つのブッシュのうち他方は、
車両走行時に前記車輪に加わる外力により生じる、前記一方のブッシュを中心とした前記アーム部材の回動を許容するよう構成されている、
ことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブッシュ特に防振用のブッシュ、及び車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、自動車のサスペンションを構成する各種パーツの取付け部に介在させる防振用のブッシュが知られている。ブッシュは、振動吸収やサスペンションの位置決めの役割があり、相対的に低い周波数の振動は、スプリングやダンパ等の大きなパーツで吸収されるのに対し、相対的に高い周波数の振動は、小さなパーツであるブッシュ等で吸収される。
【0003】
ブッシュは、軸方向に中空で金属製の内筒と、その内筒の外周面に固着された弾性体(ゴム等)と、その弾性体の外周面に固着された金属製の外筒とを備えている。そして、ブッシュは、防振連結される各種パーツの一方が内筒に取り付けられるとともに、防振連結される各種パーツの他方が外筒に取り付けられることにより、取付け部に装着される。この際に必要となる、他方のパーツの装着穴に挿入した際のストッパー機能のために、外筒を絞り成形することによって、端部及びフランジ部を設け、フランジ部の周囲に弾性体(ゴム)を設けることによって、ストッパー機能を発揮する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1は、装着穴に装着した状態で内筒の軸方向に力が作用した場合、外筒が変形することによって、内筒に対するストッパー機能が消失することから、ブッシュの耐久性に問題があった。また、ブッシュのストッパー機能が十分に発揮できないと、車両に入力される種々の外力に対して車輪の挙動を規定するよう設計されているサスペンションの性能を、十分に発揮しきれない恐れもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平3-12029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような課題に鑑みなされたものであり、外筒の内筒に対する自己完結型ストッパー機能を向上させたブッシュを提供することを目的とする。また、車両走行中の挙動に規則性を持たせることができかつ耐久性の高いブッシュを備えたフロントサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の第1の観点は、ブッシュであって、外筒と、内筒と、前記外筒と前記内筒との間に設けられた弾性体と、を備え、前記外筒は、前記内筒の軸と同心に又は前記内筒の軸に対して偏心して形成された一定半径の円筒状の内周面を有するとともに、軸方向の中央部で軸方向に直交する半径方向に前記内周面から窪んだ中央凹部を有し、かつ、両端部の厚みが中央部の厚みよりも厚く、前記中央凹部は、軸方向に沿った断面視において、表面形状が曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、前記内筒の軸から最も離れた頂点は曲線上に位置し、前記内筒は、軸方向の中央部の前記中央凹部に対応する位置で軸方向に直交する半径方向に外周面から膨出する中央凸部を有し、前記中央凸部は、軸方向に沿った断面視において、曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、最大外径が前記外筒の前記内周面の最小内径よりも大きい、ことを特徴とする。
【0008】
(2)上記(1)の構成において、前記中央凹部の曲線は、軸方向に沿った断面視において、前記内筒の軸から半径方向に偏位する第1位置を中心とする円弧で形成され、前記中央凸部の曲線は、軸方向に沿った断面視において、前記内筒の軸から半径方向に偏位し、前記第1位置とは異なる第2位置を中心とする円弧で形成される。
【0009】
(3)上記(2)の構成において、前記中央凸部の前記円弧の半径は、前記中央凹部の前記円弧の半径よりも小さい。
【0010】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの構成において、前記外筒は、一定半径の円筒状の外周面を前記中央凹部に対応する位置に有する。
【0011】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つの構成において、前記弾性体は、前記外筒及び前記内筒の双方に接着されている。
【0012】
(6)本発明の第2の観点は、車両用サスペンション装置であって、車輪を回転可能に支持するナックルと車体との間に設けられ、前記車輪を上下方向に変位可能に位置決めするアーム部材と、前記アーム部材を前記車体に対して揺動可能に支持するとともに、車両前後方向に離間して配設された2つのブッシュとを有し、前記2つのブッシュのうち一方は、前記車体または前記アーム部材のうち一方に固定された外筒と、前記車体または前記アーム部材のうち他方に固定された内筒と、前記外筒と前記内筒との間に設けられた弾性体と、を備え、前記外筒は、前記内筒の軸と同心に又は前記内筒の軸に対して偏心して形成された一定半径の円筒状の内周面を有するとともに、軸方向の中央部で軸方向に直交する半径方向に前記内周面から窪んだ中央凹部を有し、かつ、両端部の厚みが中央部の厚みよりも厚く、前記中央凹部は、軸方向に沿った断面視において、表面形状が曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、前記内筒の軸から最も離れた頂点は曲線上に位置し、前記内筒は、軸方向の中央部の前記中央凹部に対応する位置で軸方向に直交する半径方向に外周面から膨出する中央凸部を有し、前記中央凸部は、軸方向に沿った断面視において、曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されるとともに、最大外径が前記外筒の前記内周面の最小内径よりも大きく、前記2つのブッシュのうち他方は、車両走行時に前記車輪に加わる外力により生じる、前記一方のブッシュを中心とした前記アーム部材の回動を許容するよう構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外筒の中央凹部が、弾性体を挟んで、内筒の中央凸部を包み込むような態様となり、外筒と内筒のラップ構造を実現でき、かつ外筒の軸方向両端部の厚みが中央部よりも厚く構成されていることから、外筒の内筒に対する自己完結型ストッパー機能を向上させたブッシュを提供することができる。また、車両走行中の挙動に規則性を持たせることができかつ耐久性の高いブッシュを備えたフロントサスペンション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るブッシュを採用した自動車のサスペンションの一部を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るブッシュを採用したサスペンションシステムにおける、走行時のサスペンション挙動を示す模式図であって、(a)は前後方向の外力に対する挙動を、(b)は左右方向の外力に対する挙動を、それぞれ示す。
図3】本発明の実施形態に係るブッシュの(X)軸方向に沿った断面図である。
図4】ブッシュの側面図であって、外筒と内筒が同心である場合を示す図である。
図5】ブッシュの側面図であって、外筒と内筒が(y)軸方向に偏心している場合を示す図である。
図6】ブッシュの絞り加工前と絞り加工後を一般的に説明する図である。
図7】ブッシュの第1絞り加工を説明する図である。
図8】ブッシュの第2及び第3絞り加工を説明する図である。
図9】ブッシュの特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0016】
(サスペンション)
図1は、自動車のフロントサスペンション1の例を示している。ここではフロントサスペンション1として、いわゆるストラット式のサスペンションが採用された例を示している。また、サスペンションシステムの車両進行方向Fの右側の図示は一部省略しているが、左側のものと基本的に対称の構成を有している。
【0017】
ストラット式サスペンションは周知のものであるため、その概略についてのみ説明する。左側の前輪Tは、回転可能にナックル2に支持されている。ナックル2は、アーム3に、ステアリングホイール(不図示)の回転により変位するタイロッド4(操舵機構)により転舵可能に支持されている。アーム3の、ナックル2とは反対側の端部は、車両前後方向に離間した2つのブッシュ5a,5bによりサブフレーム6(車体)に支持されている。また、ナックル2とその上方の車体部材(図示省略)との間には、コイルダンパ7が設けられている。
【0018】
このような構成により、車両走行時に前輪に上下方向の変位が生じると、アーム3の、2つのブッシュ5a,5bを結ぶ線分を中心とした揺動により、所定の軌跡に沿って車輪(前輪T)の変位が生じることになる。
【0019】
2つのブッシュ5a,5bのうち、前方側ブッシュ5aは、後述するように、外筒60と、内筒70と、外筒60と内筒70との間に設けられた弾性体80とを備えている。その配設向きは、軸方向が車両の前後方向に略沿うようにされている。内筒70はサブフレーム6に、外筒60はアーム3に固定されている。
【0020】
2つのブッシュ5a,5bのうち、後方側ブッシュ5bは、前方側ブッシュ5aと同様に外筒60、内筒70、及びそれらの間に設けられた弾性体80とを備えている。その配設向きは、前方側ブッシュ5aと異なり、一例として軸方向が上下方向となるようにされているとともにすぐり部5c(弾性体80に開けられた空間部)が設けられており、アーム3の水平方向の変位を、前方側ブッシュ5aよりも許容するよう構成されている。
【0021】
2つのブッシュ5a,5bの上記のような構成と配置によって、車両走行時(車両進行方向F)に車輪に対して種々の方向に加わる外力によるアーム3の水平方向の変位は、図2(位置決め機能を示しており、(a)は前後方向の外力に対する挙動を、(b)は左右方向の外力に対する挙動を、それぞれ示す)に示すように、前方側ブッシュ5aを中心とした回動変位が主となる。このため、車両走行中のフロントサスペンション1の挙動に規則性がもたらされ、ドライバの予見性を向上させることができる。また、そのようなサスペンション装置の挙動に起因した、操舵機構とステアリングホイールを介してドライバが感じる手応え感も規則性のあるものとなり、ドライバに対して安心感や安定感を与えることができる。
【0022】
(ブッシュ)
ところで、上記のようなアーム3の挙動を生じさせる場合、前方側ブッシュ5aは、アーム3の水平方向の回動を積極的に許容し自己完結型ストッパー機能を構造させているため、耐久性確保のための工夫が必要となる。以下、2つのブッシュ5a,5bについて、図3から図5を用いて説明する。なお、以下では、ブッシュ5a,5bをまとめてブッシュ50として説明するが、ブッシュ50は、上記したフロントサスペンション1に用いられるものに限定されるわけではなく、広く種々のサスペンションに用いられるものである。
【0023】
図3は、ブッシュ50の断面図を示している。ブッシュ50は、外筒60と、内筒70と、外筒60と内筒70との間に設けられた弾性体80とを備える。図3では、内筒70の(x)軸方向中心と外筒60の(x)軸方向中心が一致した位置に設けられている態様を示しているが、本実施形態の要旨の適用にあたっては、外筒60は、内筒70の(x)軸方向中心に対して両端部74のいずれか一方に片寄って位置する態様であってもよい。いずれの態様とするかは、ブッシュ50が自動車に実装される際の諸条件に応じて選択すればよい。
【0024】
以下の説明では、外筒60の両端部64の間という意味において外筒60の中央部63と、また、内筒70の両端部74の間という意味において内筒70の中央部73という用語を用いている。したがって、外筒60の中央凹部62及び内筒70の中央凸部72が内筒70の(x)軸方向中心に対して両端部74のいずれか一方に片寄って位置するような場合も含めて、中央凹部62及び中央凸部72と呼称している。
【0025】
また、図3では、図4の側面図に示すように、外筒60と内筒70は中心Oにおいて同心する(オフセットなし)ように描画しているが、図5の側面図に示すように、外筒60と内筒70は、外筒60の中心O1、内筒70の中心O2というように(y)軸方向に互いに偏心して形成されてもよい(オフセットあり)。この点についても、ブッシュ50が自動車に実装される際の諸条件に応じて選択すればよく、本実施形態の要旨はいずれの態様にも適用されるものである。
【0026】
図3に戻り、ブッシュ50について、詳しく説明する。外筒60は、内筒70の(x)軸と同心に又は内筒70の(x)軸に対して偏心して形成された一定半径の円筒状の内周面61を有する。そして、外筒60は、(x)軸方向の中央部63で(x)軸方向に直交する半径方向(すなわち(y)軸方向)に内周面61から窪んだ中央凹部62を有しており、かつ、両端部64の厚みが中央部63の厚みよりも厚く形成されている。外筒60は、一定半径の円筒状(表面がストレート)の外周面65を中央凹部62に対応する位置に有する。
【0027】
図3では、外筒60の中央凹部62の曲線について、(x)軸方向に沿った断面視において、内筒70の(x)軸から半径方向(すなわち(y)軸方向)に偏位する第1位置C1を中心とする半径R1の円弧状を例示している。しかし、この点、中央凹部62は、(x)軸方向に沿った断面視において、表面形状が円弧状以外の曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されてもよい。外筒60の中央凹部62の曲線上には、内筒70の(x)軸から最も離れた頂点Vが位置する。
【0028】
一方、内筒70は、(x)軸方向の中央部73において、外筒60の中央凹部62に対応する位置で(x)軸方向に直交する半径方向(すなわち(y)軸方向)に外周面71から膨出する中央凸部72(「バルジ」ともいう)を有する。
【0029】
図3では、外筒60の中央凹部62の曲線と同様に、内筒70の中央凸部72の曲線について、(x)軸方向に沿った断面視において、内筒70の中央凸部72の曲線は、内筒70の(x)軸から半径方向(すなわち(y)軸方向)に偏位し、第1位置C1とは異なる(同心ではない)第2位置C2を中心とする半径R2の円弧状を例示している。しかし、この点も中央凹部62と同様に、(x)軸方向に沿った断面視において、円弧状以外の曲線形状又は曲線及び直線を組み合わせた形状に形成されてもよい。
【0030】
ここで、内筒70の中央凸部72の最大外径D2は、外筒60の内周面61の最小内径D1よりも大きく形成されている。中央凸部72の最大外径D2とは、図中上下における、外筒60の中央凹部62の曲線上に位置する内筒70の(x)軸から最も離れた2つの点、すなわち中央凸部72の2つの頂点V間の距離である。また、外筒60の内周面61の最小内径D1とは、中央凹部62を除いた内周面61における内筒70の(x)軸から最も近い2つの点間の距離である。
【0031】
以上のような構成から、図3の破線によって示されているように、ブッシュ50は、外筒60の中央凹部62が、弾性体80を挟んで、内筒70の中央凸部72を包み込むような態様となり、外筒60と内筒70のラップ構造を獲得することができる。
【0032】
ブッシュ50は、このラップ構造を獲得することにより、外筒60の内筒70に対する自己完結型ストッパー機能を向上させることができ、従来のブッシュで設定されているようなストッパーを廃止することで、異音等の不具合を防止することができる。また、従来の発明にあるラップ構造を持たないバルジ構造のブッシュでは、特性の調整はできてもストッパーとしての機能は果たすことができないのに対し、ブッシュ50は、ストッパー機能が向上するとともに、従来の発明で謳われている軸直/軸方向の特性を高めたり、こじり方向の特性を低めたりする機能も有している。
【0033】
また、ブッシュ50は、外筒60に中央凹部62が形成され、両端部64の厚みが中央部63の厚みよりも厚く形成されていることから、この肉厚差によって、ストッパーの強度を上げて、入力荷重が増えても機能を維持できる。ストッパー効果を一層高めるため、ブッシュ50を圧入する圧入相手部品P(例えば、アーム3など)の圧入口の長さW2は、ブッシュ50の外筒60の長さW1と同等か又はより長くし、外筒60の全体を包み込むことが望ましい。
【0034】
さらに、外筒60に肉厚差を設けたことで、外周面65の表面をストレートにして圧入性能を損ねることなく、内周面61を自由に形状設定でき、特性の調整自由度を広げることができる。また、内筒70と外筒60間に設定される弾性体80のひずみを下げる形状設定ができ、耐久性を向上させることができる。例えば、前述した、中央凹部62と中央凸部72(バルジ)を構成する曲線を、互いに同心ではない第1位置C1と第2位置C2を中心とする半径Rの円弧状とし、中央凸部72(バルジ)の半径R2を中央凹部62の半径R1より小さくすることによって、弾性体80の肉厚が中央凸部72の頂点Vに対応する部位を最薄部として徐々に増えていくことで耐久性を改善させることができる。
【0035】
弾性体80は、後述するように、外筒60の内周面61及び内筒70の外周面71の双方に接着されている。従来の発明のように、外筒のフランジ部に設けたゴムとブッシュの周辺部品間で、ストッパー機能を持たせる場合、接触時にスティックスリップ(「びびり」と言われる振動現象)による異音発生の問題があるが、ブッシュ50は、外筒60の内周面61及び内筒70の外周面71の双方に接着されており、自己完結ストッパー機能によってスティックスリップを発生させず、ひいては異音を発生させないことができる。
【0036】
以上説明したラップ構造は、絞り加工による外筒60の縮径で設定することができる。絞り加工はゴムのインサート成形(加硫成形)の前後どちらで行ってもよいが、詳しくは項をあらためて次に説明する。
【0037】
(絞り加工)
次に、上記で説明したラップ構造の造成に係る絞り加工について、図6から図8を用いて説明する。図6は、絞り加工を概念的に説明する図であって、ラップ構造を設けていないブッシュ50Aを例にとって図示したものである。(a)は、外筒60Aと内筒70Aと弾性体80Aをインサート成形(加硫成形)した後であって絞り加工を施す前のブッシュ50A、(b)は、インサート成形後に絞り加工を施したブッシュ50Aである。絞り加工は、一般に、弾性体80Aのゴム収縮を取る目的や、その耐久性を向上する目的で、外筒60Aに対し縮径方向に施される。
【0038】
本実施形態では、ブッシュ50にラップ構造を付与するに際し、3つの絞り加工が可能である。まず、第1絞り加工について、図7を用いて説明する。第1絞り加工は、インサート成形後に絞り加工を施してラップ構造を設けるものである。
【0039】
図7(a)は、外筒60と内筒70と弾性体80をインサート成形した後であって絞り加工を施す前のブッシュ50、図7(b)は、インサート成形後に絞り加工を施したブッシュ50を示している。外筒60に対し縮径を施す絞り加工によって、内筒70の中央凸部72が外筒60の中央凹部62に弾性体80を挟んで包み込まれ、ラップ構造(破線参照)が造成される。
【0040】
外筒60及び内筒70は、化成処理、接着剤塗布を終えた後、弾性体80とともに、金型を用いて所望の形状のブッシュ50を得るべくインサート成形される。次に、得られた成形品に対し、バリ取りなどの仕上げを終えた後、絞り加工を施す。そして、検査をパスしたブッシュ50は、梱包され、出荷される。
【0041】
次に、第2絞り加工について、図8を用いて説明する(図8は、第3絞り加工と兼用)。第2絞り加工は、インサート成形前に1回目の絞り加工を施すとともに、インサート成形後に2回目の絞り加工を施してラップ構造を設けるものである。
【0042】
図8(a)は、外筒60と内筒70と弾性体80をインサート成形する前であって絞り加工を施す前のブッシュ50、図8(b)は、インサート成形する前に絞り加工を施したブッシュ50、図8(c)は、インサート成形後に絞り加工を施したブッシュ50を示している。第2絞り加工は、図8(a)から図8(c)までが該当する。2回の絞り加工により、第1絞り加工と同様に、外筒60に対し縮径を施す絞り加工によって、内筒70の中央凸部72が外筒60の中央凹部62に弾性体80を挟んで包み込まれ、ラップ構造(破線参照)が造成される。
【0043】
第2絞り加工においては、外筒60及び内筒70の化成処理、接着剤塗布を終えた後、弾性体80とともにインサート成形される前の1回目の絞り加工が施される。そして、1回目の絞り加工が施された後にそれらをインサート成形する。次に、得られた成形品に対し、バリ取りなどの仕上げを終えた後、インサート成形後の2回目の絞り加工を施す。そして、検査をパスしたブッシュ50は、梱包され、出荷される。
【0044】
第3絞り加工は、インサート成形前に絞り加工を施してラップ構造を設けるものである。第3絞り加工については、図8(a)及び図8(b)を援用することにより、その説明は省略する。
【0045】
上記のように構成されたブッシュ50の特性を、図9(a)及び(b)に示す。図9(a)は、横軸にブッシュ50の軸方向の内筒70と外筒60の相対変位量、縦軸にブッシュ50の軸方向の内筒70と外筒60の相対変位に対する反力の大きさを示している。また、図9(b)は、縦軸に内筒70の外筒60に対する相対回転時のモーメント、横軸に内筒70の外筒60に対する相対回転角を示している。図中、実線は本実施形態に係るブッシュ50、破線は従来のラップ構造を持たないブッシュの特性である。
【0046】
図9(a)から分かるように、本実施形態に係るブッシュ50は、従来のブッシュに比して、内筒70と外筒60の軸方向の相対変位量が小さい領域から反力が立ち上がる。また、図9(b)から分かるように、本実施形態にかかるブッシュ50は、従来のブッシュに比して、内筒70の外筒60に対する相対回転時のモーメントが小さくても大きな相対回転角が得られる。
【0047】
このことは、図1に示すフロントサスペンション1を備えた車両の走行時、車輪からブッシュ50の軸方向(車両前後方向)に対して外力が加わった際に、ブッシュ50の軸方向の相対変位、ひいてはアーム3の前後方向の変位が生じにくい(自己完結機能が高い)こと、またブッシュ50の相対回転、ひいては水平面内のアーム3の回転挙動が生じやすいこと、を意味する。つまり、車幅方向の外力のみならず車両前後方向の外力に対してもアーム3の回転挙動が生じやすく、車両走行中のフロントサスペンション1の挙動に規則性(回転挙動を主とした挙動)がもたらされ、ドライバの予見性を向上させることができることになる。
【0048】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0049】
1…フロントサスペンション
2…ナックル
3…アーム
4…タイロッド
5a…前方側ブッシュ
5b…後方側ブッシュ
5c…すぐり部
6…サブフレーム
7…コイルダンパ
50…ブッシュ
60…外筒
61…内周面(外筒の)
62…中央凹部(外筒の)
63…中央部(外筒の)
64…両端部(外筒の)
65…外周面(外筒の)
70…内筒
71…外周面(内筒の)
72…中央凸部(内筒の)
73…中央部(内筒の)
74…両端部(内筒の)
80…弾性体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9