(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】炎症性疾患の患者における抗TNFα応答の予測テスト
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/689 20180101AFI20221012BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221012BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20221012BHJP
C12Q 1/6809 20180101ALI20221012BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20221012BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20221012BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z ZNA
G01N33/53 M
G01N33/569 F
C12Q1/6809
C12Q1/6813
C12Q1/686
(21)【出願番号】P 2020501459
(86)(22)【出願日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2018068864
(87)【国際公開番号】W WO2019012018
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-23
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506424209
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】516324917
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニベルシテール・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】513267062
【氏名又は名称】インスティテュート ポリテクニーク デ ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】504007888
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェバーベエク,シエリー
(72)【発明者】
【氏名】バザン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】フックス,カタルジーナ
(72)【発明者】
【氏名】ニコルスキ,マチャ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/109059(WO,A1)
【文献】Cell Host Microbe. 2017May 10;21(5):603-610, e1-e3, Supplemental Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)任意の抗TNFα処置の前に(M0)、患者の糞便試料においてバークホルデリア目(Burkholderiales)のレベルL
Mを測定するステップ、及び
b)スコアS1=L
M/L
refを計算するステップ、
を含み、
ここで:
・ S1>1であれば、前記患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性があると見なされる、又は
・ S1≦1であれば、前記患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性がないと見なされる、
抗TNFαへの応答を、この処置が一般に適応される
脊椎関節炎の患者において予測するためのエクスビボ方法であって、
L
refが
、
TNFαによる処置後に臨床改善を有した
少なくとも60名の患者の群(1)
のそれぞれの患者試料におけるM0のバークホルデリア目のレベルを測定すること、
TNFαでの処置後に任意の臨床改善を示さなかった
少なくとも60名の患者の群(2)
のそれぞれの患者試料におけるM0のバークホルデリア目のレベルを測定すること、
及び
群(
1)
における測定レベルと群(
2)
における測定レベルとの平均値
を決定すること、によ
り確定され
た値である、方法。
【請求項2】
前記ステップa)の尺度が、定量ポリメラーゼ連鎖反応又はハイブリダイゼーション反応を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
定量ポリメラーゼ連鎖反応が実現される場合、前記バークホルデリア目の代表的値と、体内の全細菌の代表的値と、の比率を計算するステップをさらに含み、前記代表的値が、前記バークホルデリア目を増幅する少なくとも1つのプライマーセットと、前記全細菌を増幅する少なくとも1つのプライマーセットと、を用いることにより得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記定量ポリメラーゼ連鎖反応が、前記患者の糞便試料中のバークホルデリア目の種の少なくとも90%を検出するプライマーを使用する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記患者の糞便試料において、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)、ウェイセラ・キバリア(Weissella cibaria)及びコプロコッカス・オイタクツス(Coprococcus eutactus)から選択される少なくとも1つの細菌のレベルを測定するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記患者が、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)及び/又は疾患修飾抗リウマチ薬(DMARD)に対して臨床応答を有さない、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記脊椎関節炎が、強直性脊椎炎である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患の患者において抗TNFα応答を予測するためのエクスビボ方法に言及する。
【0002】
それゆえ本発明は、医療及び医薬の分野において有用である。
【0003】
以下の記載において、括弧([])参照は、文書の末尾にある参考資料の列挙を指す。
【背景技術】
【0004】
脊椎関節炎(SpA)は、軸性及び/又は末梢関節に、そして場合により目、皮膚及び消化管などの関節外臓器に影響を及ぼす慢性炎症性疾患群である。その病態生理学的性質は、依然として理解が不完全であるが、遺伝子的背景が同定されており、HLA-B27遺伝子型との強い関連性、及び最大40の他の遺伝子(IL-23R、ERAP1、TNFRSF15など)との弱いつながりを特徴とする。喫煙などの幾つかの環境要因の役割も示されている。より近年になり、大量のエビデンスで、SpAの病態生理学的性質、より具体的には腸内ディスバイオーシスの病態生理学的性質における、腸管の関与が強調された。HLA-B27トランスジェニックネズミモデルにおいて、無菌動物は、食物供給物中の細菌の導入により、具体的にはバクテロイデス門の菌種を含有する幾つかの細菌カクテルにより、回復された疾患表現型を表すことができなかった。ヒトにおいては、SpAと炎症性腸疾患(IBD)とのオーバーラップが頻繁に見られ、SpA患者の約5~10%がIBDを発症し、IBD患者の最大30%が炎症性関節炎を発症する場合があり、さらにSpA患者の最大60%が、微視的な腸管炎症を示す。加えて、SpAの臨床寛解は必ず、正常な消化器の組織学的性質に関連するが、リウマチ症状の持続は、大部分が持続的な腸炎症に関連する。これらの要素は、これら2つの疾患群の間にある密接な生理病態学的つながりを示唆しており、IBDでの腸内微生物叢の重大な役割についての近年の実証がSpAにおいて同じ疑問を投げかけている。
【0005】
3つの次世代シーケンシング(NGS)試験で、疾患患者と健常対照との腸内微生物叢が比較された。第一にStollらは、腱付着部炎関連の関節炎の小児患者25名、及び健常
対照13名の腸内微生物叢を検査した(Stoll ML, Kumar R, Morrow CD, et al. Altered microbiota associated with abnormal humoral immune responses to commensal organisms in enthesitis-related arthritis. Arthritis Res Ther 2014;16:486 ([1]))。彼らは、これらの患者がSpAに関連することの多い病気であるクローン病で観察されるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)の有意な減少を呈することを示した。第二にCostelloらは、AS患者9名と対照9名の大腸内視鏡検査の際に得られた回腸末端部生検を試験した。彼らは、患者におけるラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ベイヨネラ科(Veillonellaceae)、ポルフィロモナス科(Prophyromonadaceae)及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の増加、並びにルミノコッカス科(Ruminococcaceae)及びリケネラ科(Rikenellaceae)の減少を観察した(Costello M-E, Ciccia F, Willner D, et al. Intestinal dysbiosis in ankylosing spondylitis. Arthritis Rheumatol Hoboken NJ Published Online First: 21 November 2014 ([2]))。第三にTitoらは、SpA患者27名の回腸及び結腸生検により細菌組成の調査を実施した(Tito RY, Cypers H, Joossens M, et al. Dialister as microbial marker of disease activity in spondyloarthritis. Arthritis Rheumatol Hoboken NJ Published Online First: 7
July 2016 ([3]))。彼らは、組織の炎症状況に関連した異なる微生物プロファイルを見
出し、ジアリスタ(Dialister)sp.の存在比と強直性脊椎炎活動性スコア(ASDA
S)の間に正の相関を観察した。まとめると、これらの3つの試験から、SpA患者がク
ロストリジウム目(Clostridiales order)の減少、バクテロイデス属(Bacteroides genus)の顕著な変化、及びベルコミクロビウム科(Verrucomicrobiaceae family)の減少を呈することが示される。
【0006】
腫瘍壊死因子α(TNF-α)阻害剤は、NSAID及び従来の疾患修飾抗リウマチ薬(DMARD)に応答しない脊椎関節炎患者の処置に革命を起こした。しかし、患者のおよそ30%~50%のみが有意義な臨床応答を呈するため、これらの処置への非応答が、医師にとって重大な懸念となっている(Molto A, Paternotte S, Claudepierre P, et al.
Effectiveness of tumor necrosis factor α blockers in early axial spondyloarthritis: data from the DESIR cohort. Arthritis Rheumatol Hoboken NJ 2014;66:1734-44
([4]); Maxwell LJ, Zochling J, Boonen A, et al. TNF-alpha inhibitors for ankylosing spondylitis. Cochrane Database Syst Rev 2015;:CD005468 ([5]))。これらの広く使用される分子の作用機序は、依然として議論が続いている。最も一般に受け入れられる仮説は、それらが宿主免疫細胞上で作用することにより、炎症カスケードを下方制御して臨床症状に導く、というものである(Byng-Maddick R, Ehrenstein MR. The impact of biological therapy on regulatory T cells in rheumatoid arthritis. Rheumatology 2015;54:768-75 ([6]))。
【0007】
慢性炎症性疾患としては、強直性脊椎炎、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、乾癬性関節炎などのリウマチ学的な病態、並びにクローン病及び潰瘍性大腸炎などのIBDが挙げられる。これらの病態も、抗TNFαで処置されており、この処置への非応答者患者に同じ問題があてはまる。
【0008】
したがって、炎症性疾患、特に抗TNFαでの処置が一般に適応され、及び/又は抗TNFαの販売許可が存在する炎症性疾患の患者において、抗TNFα応答を予測するための方法が求められている。本発明は、これら及び他の要件を満たす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
出願人らは、驚くべきことに、微生物叢組成の幾つかの改変が慢性炎症性疾患患者、特にSpA患者の抗TNF処置3ヶ月(M3)後に観察されるが、どんな臨床応答であれ、特異的分類群が改変されないことを、見出した。
【0010】
出願人らは、驚くべきことに、抗TNF-α処置の後、処置が不成功に終わるとしても、登録時(M0)の非応答者患者における微生物多様性の低下が修正されることを示した。
【0011】
出願人らは、将来の応答者患者ではバークホルデリア目(Burkholderiales order)の
割合が高いことから、臨床応答を予測し得る抗TNF-α処置前の特別な分類ノードをバイオマーカーとして同定した。高い割合のバークホルデリア目は、抗TNF-α処置への臨床応答の予測となることが見出された。
【0012】
出願人らはまた、非応答者の微生物叢組成が経時的に不安定性を増すことを特徴とすることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって一態様において、本発明は、
a)任意の抗TNFα処置の前に、患者の糞便試料においてバークホルデリア目のレベルLMを測定するステップ、及び
b)スコアS1=LM/Lrefを計算するステップ、
を含み、
ここで:
・ S1>1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性があると見なされる、又は
・ S1≦1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性がないと見なされる、
抗TNFαへの応答を、この処置が一般に適応される炎症性疾患の患者において予測するためのエクスビボ方法を提供する。
【0014】
言い換えれば、本発明の方法は、炎症性疾患の患者の抗TNFαでの任意の処置前に、患者の病気がそのような処置により改善され得るかどうかを、又は該患者の病気が該処置により改善される可能性がないかどうかを、確定することができる。病気の改善は、例えば、特にM3での、疾患の重篤度の低下であってもよい。
【0015】
本発明の方法は、患者の糞便試料中で実施される。有利には糞便試料の使用は、特に消化器症状に罹患しておらず、それゆえ内視鏡を必要としない患者において、腸内微生物叢を評定するための最も容易な方法である。さらに、非侵襲性のエクスビボ方法は、バイオマーカーを開発するのに一般により望ましい。糞便からの細菌の採取は、当該技術分野で知られている。便微生物叢採取/分析の場合、以下にさらに記載される通り細菌分析の一部としてDNA抽出及び配列/定量のために、新鮮な糞便を採取して直ちに処理してもよく、-80℃で貯蔵してもよい。
【0016】
バークホルデリア目のレベルLMの測定は、当業者に知られるバークホルデリア目の量を定量することが可能な任意の尺度であってもよい。それは、バークホルデリア目のDNA、ペプチド及び/又はタンパク質の少なくとも1つの測定であってもよい。例えば総DNAは、糞便試料から抽出することができる。プロトコルは、機械的破壊を含む抽出ステップを用いた総DNAの抽出を含んでいてもよい。
【0017】
有利には測定のステップは、該DNA、ペプチド及び/又はタンパク質材料のハイブリダイゼーション又は増幅のステップを含んでいてもよい。該増幅は、2つの配列の量を比較するのに適当な当該技術分野で知られる任意の方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの定量DNA解析、16s DNAシーケンシング、NGS、培養に基づく方
法、フローサイトメトリー、顕微鏡検査、免疫染色などのマイクロチップハイブリダイゼーションに基づく方法、及び当業者に自明の任意の他の手段により実現されてもよい。該ポリメラーゼ連鎖反応は、16S DNA増幅、又は好ましくは定量ポリメラーゼ連鎖反
応(qPCR)であってもよい。qPCRは、試料中のDNAの検出及び精密な定量に適用されてこれらの試料中の特別なDNA配列の存在及び存在比を決定し得るため、特に有利である。
【0018】
特にqPCRの場合、測定ステップにおいて、比較される試料の間の差を修正するための正規化ステップを導入することが可能である。正規化ステップは、当該技術分野で知られる任意の公知方法により実現されてもよい。それは、例えば、用いられるDNAの重量単位あたりのバークホルデリア目のコピー数及び16S rRNAのコピー数を正規化す
ること、又はバークホルデリア目のプライマー及びユニバーサルプライマーで2つのPCR産物を増幅すること、それらをクローニングする若しくはそれらをゲルから除去すること、qPCRでそれらを用いて標準曲線を作成し、その後、rRNAコピー数によりバークホルデリア目のコピー数を正規化すること、を含む方法であってもよい。
【0019】
有利には該定量ポリメラーゼ連鎖反応は、患者の糞便試料においてバークホルデリア目の種の少なくとも90%、好ましくは少なくとも92%、例えば少なくとも95%、又は
少なくとも98%、又は少なくとも99%を検出するプライマーを使用する。有利にはバークホルデリア目の種以外の細菌は、5%未満、好ましくは3%未満の量で検出される。
【0020】
当業者は、バークホルデリア目の所望の検出率、及び/又は細菌への所望の特異性に応じて、プライマーペアを設計する方法を知っている。
【0021】
例えば用いられるプライマーは、バークホルデリア目の種に特異的であってもよく、又は系統発生的階級の上流にある細菌、例えばベータプロテオバクテリアに特異的なプライマーに由来してもよい。例えばそれは、以下の配列を有するプライマーペア、又は該配列と少なくとも90%の同一性を有する配列であってもよい:
・ ペアN°1:5’-GGG GAA TTT TGG ACA ATG GG-3
’(配列番号1)と5’-GWA TTA CCG CGG CKG CTG-3’(配
列番号2)。
・ ペアN°2:5’-CCT ACG GGA GGC AGC AG-3’(配列
番号3)と5’-ATT ACC GCG GCT GCT GGC A-3’(配列番号4)。この2番目のプライマーペアは、Watanabeらにより公開された(Watanabe et al.:“Design and evaluation of PCR primers to amplify bacterial 16S ribosomal DNA fragments used for community fingerprinting.” J. Microbiol. Methods. 44, 253-262
(2001) ([7]))。
・ ペアN°3:5’-CAC GAC ACG AGC TGA CGAC-3’(配列番号7)と5’-TGA CGC TCA TGC ACG AAA GC-3’(配列番号8)。
【0022】
任意に、それは、バークホルデリア目の保存された領域に設計されたプライマーであってもよい。
【0023】
プライマーペアの数は、1~10の間に含まれてもよく、例えばそれは、1つ、又は2つ、又は3つのプライマーペアであってもよい。
【0024】
qPCRが用いられる場合、それは、バークホルデリア目の代表的値と、体内の全細菌又は少なくとも腸内に見出される全細菌の代表的値との比率を計算するステップを含んでいてもよい。これらの値は、バークホルデリア目を増幅する少なくとも1つのプライマーセットと、試料の全細菌を増幅する少なくとも1つのプライマーセットと、を用いることにより得られてもよい。
【0025】
全細菌の代表的値は、例えば配列番号3及び/又は配列番号4のようなユニバーサル細菌プライマーでのqPCRを利用して、当該技術分野で知られる任意の定量法により得られてもよい。
【0026】
Lrefは、一方でTNFαによる処置後に、例えば少なくとも3ヶ月の処置後に臨床改善を有した患者(応答者)の群(1)と、他方でTNFαでの処置後に任意の臨床改善を示さなかった患者(非応答者)の群(2)と、を含む、有意義な患者試料で確定されてもよい。これらの群それぞれにおけるM0のバークホルデリア目のレベルを測定することにより、Lref値を、群(2)の患者の群(1)から患者を分別する平均値として決定することができる。例えば「有意義な患者試料」は、患者約60名、好ましくは患者約90名の試料を指してもよい。
【0027】
本発明によれば、バークホルデリア目(Burkholderiales)は、バークホルデリア目に
属する任意の細菌であってもよい。それは、アルカリゲネス科(Alcaligenaceae)、バークホルデリア科(Burkholderiaceae)、コマモナス科(Comamonadaceae)、オキサロバク
ター科(Oxalobacteraceae)、ラルストニア科(Ralstoniaceae)及びサテレラ科(Sutterellaceae)から選択される少なくとも1つの細菌であってもよい。より詳細にはそれは
、消化管内に存在するが病原でないバークホルデリア目であってもよい。それは例えば、バークホルデリア・アンビファリア(Burkholderia ambifaria)、バークホルデリア・アンドロポゴニス(Burkholderia andropogonis)、バークホルデリア・アンチナ(Burkholderia anthina)、バークホルデリア・ブラシレンシス(Burkholderia brasilensis)、
バークホルデリア・カレドニカ(Burkholderia caledonica)、バークホルデリア・カリ
ベンシス(Burkholderia caribensis)、バークホルデリア・カリオフィリ(Burkholderia caryophylli)、バークホルデリア・セノセパシア(Burkholderia cenocepacia)、バ
ークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、バークホルデリア・セパシア複合体(Burkholderia cepacia complex)、バークホルデリア・ドロサ(Burkholderia dolosa)、バークホルデリア・フンゴラム(Burkholderia fungorum)、バークホルデリア・グラジオリ(Burkholderia gladioli)、バークホルデリア・グラセリ(Burkholderia glathei)、バークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)、バークホルデリア・グラミニス(Burkholderia graminis)、バークホルデリア・ホスピラ(Burkholderia hospita)、バークホルデリア・クルリエンシス(Burkholderia kururiensis)、バークホルデ
リア・マレイ(Burkholderia mallei)、バークホルデリア・マルチボランス(Burkholderia multivorans)、バークホルデリア・フェナジニウム(Burkholderia phenazinium)
、バークホルデリア・フェノリピトリクス(Burkholderia phenoliruptrix)、バークホ
ルデリア・フィマタム(Burkholderia phymatum)、バークホルデリア・フィトファーマ
ンス(Burkholderia phytofirmans)、バークホルデリア・プランタリ(Burkholderia plantarii)、バークホルデリア・シュードマレイ(Burkholderia pseudomallei)、バークホルデリア・ピロシニア(Burkholderia pyrrocinia)、バークホルデリア・サッカリ(Burkholderia sacchari)、バークホルデリア・シンガポレンシス(Burkholderia singaporensis)、バークホルデリア・ソルディディコラ(Burkholderia sordidicola)、バークホルデリア・スタビリス(Burkholderia stabilis)、バークホルデリア・テリコーラ(Burkholderia terricola)、バークホルデリア・タイランデンシス(Burkholderia thailandensis)、バークホルデリア・トロピカ(Burkholderia tropica)、バークホルデリア
・チュベラム(Burkholderia tuberum)、バークホルデリア・ウボネンシス(Burkholderia ubonensis)、バークホルデリア・ウナマエ(Burkholderia unamae)、バークホルデ
リア・ベトナミエンシス(Burkholderia vietnamiensis)及びバークホルデリア・キセノボランス(Burkholderia xenovorans)を含む群から選択されるバークホルデリア属に属
する種であってもよい。
【0028】
好ましくはバークホルデリア目の菌は、ヒトの腸内に存在する可能性があるものである。
【0029】
該炎症性疾患は、抗TNFα処置により改善する可能性がある任意の炎症性疾患であってもよい。それは、慢性炎症性疾患、特にリウマチ科の病態又はIBD、より特にはリウマチ科の病態であってもよい。これらの疾患は、脊椎関節炎、特に強直性脊椎炎、乾癬、リウマチ性多発関節炎、乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎及び若年性特発性関節炎を含む群から選択されてもよい。
【0030】
本発明によれば、本発明のエクスビボ方法により予測される臨床応答は、強直性脊椎炎活動性スコア(ASDAS)及び/又はバス強直性脊椎炎活動性指数(BASDAI)スコア(複数可)、メイヨースコア、乾癬面積及び重篤度指数(PASI)、関節リウマチ活動性指数(RADAI)、乾癬性関節炎の疾患活動性(DAPSA)、クローン病活動性指数(CDAI)、小児性クローン病活動性指数(PCDAI)ハーベイブラッドショー指数、潰瘍性大腸炎活動性指数(UCAI)、小児潰瘍性大腸炎活動性指数(PUCAI)、小児クローン病のパリ分類、若年性疾患活動性スコア(JADAS)及び同様のも
のなどの疾患に対応する疾患活動性指数に記載されるような症状のレベルを指してもよい。例えばSpA患者において、臨床応答の非存在は、M3の際の≦1のASDAS改善を指してもよく、臨床応答の存在は、≧1.1のASDAS改善を指してもよい。
【0031】
有利にはリウマチ疾患の場合、本発明の方法が実施された場合に、患者が非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)及び/又は疾患修飾抗リウマチ薬(DMARD)に対して臨床応答を有さないことが、既に知られていてもよい。
【0032】
特定の実施形態において、本発明の方法は、患者の糞便試料において、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)
、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)、ウェイセラ・キバリア
(Weissella cibaria)及びコプロコッカス・オイタクツス(Coprococcus eutactus)か
ら選択される少なくとも1つの細菌のレベルを測定するステップをさらに含んでいてもよい。この実施形態において、M0での高い割合のセラチア・マルセセンス、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロコッカス・ガリナルム、ウェイセラ・キバリアは、非応答者患者の予測になり得、及び/又はM0での高い割合のコプロコッカス・オイタクツスは、応答者患者の予測になり得る。この実施形態において、少なくとも1つの細菌の測定ステップは、バークホルデリア目のレベルLMの測定ステップの前に、それと同時に、又はその後に、実現されてもよい。有利にはこれは、同時又は後に実現される。例えば高い割合は、腸微生物叢の少なくとも1/10000を指してもよい。或いは該予測は、以下のステップ:
a)任意の抗TNFα処置の前に、患者糞便試料においてセラチア・マルセセンス、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロコッカス・ガリナルム、ウェイセラ・キバリア及びコプロコッカス・オイタクツスから選択される少なくとも1つの細菌のレベルLNを測定するステップ、及び
b)細菌の各タイプについて、スコアS2=LN/Lref2を計算するステップ、
により実現され得もよく
ここで、コプロコッカス・オイタクツスに関しては、測定された場合に:
・ S2>1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性があると見なされる、又は
・ S2≦1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性がないと見なされ、
セラチア・マルセセンス、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロコッカス・ガリナルム及びウェイセラ・キバリアに関しては、測定された場合に、
・ S2>1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性がないと見なされる、又は
・ S2≦1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性があると見なされる。
【0033】
Lref2を、これらの細菌それぞれについて、一方でTNFαによる処置後、例えば少なくとも3ヶ月の処置後に臨床改善を有した患者の群(1)と、他方でTNFαでの処置後に任意の臨床改善を示さなかった患者の群(2)と、を含む、有意義な患者試料で確定することができる。これらの群それぞれにおいて、M0で少なくとも1つの細菌のレベルを測定することにより、Lref2値が、群(2)の患者の群(1)から患者を分別する平均値として決定することができる。例えば「有意義な患者試料」は、患者約60名、好ましくは患者約90名の試料を指してもよい。
【0034】
本発明の方法は、患者の糞便試料において、リポ多糖、ユビキノン及びフェニルプロパノイドのうちの少なくとも1つの合成に関与する遺伝子のレベルを測定するステップをさらに含んでいてもよい。有利には、リポ多糖、ユビキノン及びフェニルプロパノイドの合
成に関与する遺伝子の、参照値と比較して高い割合が、非応答者患者の予測であってもよい。遺伝子割合の評価は、当該技術分野で知られている。それは、PCRにより、より詳細にはqPCRにより実現されてもよい。
【0035】
本発明によれば、炎症性疾患の患者において抗TNFα応答を予測するためのエクスビボ方法は、
a)任意の抗TNFα処置の前に、患者糞便試料における便微生物叢のα多様性指数LVを測定するステップ、及び
b)微生物叢α多様性スコアD1=LV/Lref3(ここでLref3は、α多様性指数の参照値である)を計算するステップ、
を含んでいてもよく、
ここで:
・ D1>1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性があると見なされる、又は
・ D1≦1であれば、該患者が抗TNFα処置への臨床応答を有する可能性がないと見なされる。
【0036】
特定の実施形態において、便微生物叢のα多様性指数LVを含むこの方法は、それ自体が炎症性疾患の患者の抗TNFα応答の予測法になり得るため、単独で、即ちバークホルデリア目を含む方法を用いずに、実現されてもよい。好ましくはこの方法は、バークホルデリア目を含む方法の前に、それと同時に、又はその後に実施されてもよい。
【0037】
本発明によれば、微生物叢α多様性は、群生内多様性、即ち一試料の規模での多様性を評価する。
【0038】
便微生物叢の組成は、当該技術分野で知られた方法により、例えばOTU又はTangoでの分類割り当てにより解析されてもよい。それは多様性指数により表されてもよく、例えばOTU生起行列(occurrence matrix)から、算出することができる。
【0039】
α多様性指数は、多くの異なるタイプ(種など)がどのようにデータセット(群生)内に存在するかを反映させ、そして同時に基本的物体(個体など)がどのようにしてそれらのタイプの間で均一に分布されるかを説明する定量的尺度である。複数のα多様性指数、例えばシャノン、シンプソン及びソレンソンが存在する。好ましくはα多様性指数の参照値は、例えばWangら (Wang et al.: << Reduced diversity in the early fecal microbiota of infants with atopic eczema >>,J Allergy Clin Immunol. 2008 Jan;121(1):129-34 ([8])) に示される通り、シャノン及び/又はシンプソン指数に基づいて計算される
。
【0040】
Lref3は、一方でTNFαによる処置後、例えば少なくとも3ヶ月の処置後に臨床改善を有した患者の群(1)と、他方でTNFαでの処置後に任意の臨床改善を示さなかった患者の群(2)と、を含む、有意義な患者試料で確定され得る。これらの群それぞれにおけるM0の便微生物叢を分析することにより、Lref3値が、群(2)の患者の群(1)から患者を分別する平均値として決定することができる。例えば「有意義な患者試料」は、患者約60名、好ましくは患者約90名の試料を指してもよい。
【0041】
本発明の任意の実施形態において、先に説明された技術的特色が、適用可能である。
【0042】
本発明の別の目的は、炎症性疾患における抗TNFα処置の臨床結果の予測バイオマーカーとしての、バークホルデリア目、セラチア・マルセセンス、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロコッカス・ガリナルム、ウェイセラ・キバリア及びコプロコッカス・オイタ
クツスを含む群から選択される少なくとも1つの細菌の使用に関する。先に示された通り、バークホルデリア目及びコプロコッカス・オイタクツスは、抗TNFα処置への臨床応答の予測バイオマーカーであるが、セラチア・マルセセンス、クレブシエラ・オキシトカ、ウェイセラ・キバリア及びエンテロコッカス・ガリナルムは、抗TNFα処置への臨床応答の非存在の予測バイオマーカーである。
【0043】
本発明の別の目的は、配列5’- GGG GAA TTT TGG ACA ATG
GG -3’(配列番号1)を有するバークホルデリア目のシーケンシング及び/又は増幅のためのプライマーに関する。
【0044】
本発明は、添付の図面に関連した以下の実施例によりさらに例示されるが、それらの図面に限定されるものととらえるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】異なる門に割り当てられたリードの割合を表す。各患者について、Tangoで割り当てられたリードを、門のレベルで合計した。上記の凡例に従った5つの優勢な門に属するリードの割合を示す。各列は、それぞれ左及び右がM0及びM3の患者1名に対応する。P1~P5は応答者、P7~P11は部分応答者、P12~P19は非応答者。門あたりの割合中央値±SDは以下の通りである:ファーミキューテス門(黒)-0.82±0.15、バクテロイデス門(白)-0.05±0.08、テネリクテス門(暗灰色)-0.03±0.03、プロテオバクテリア門(右下がり斜線)0.02±0.15。
【
図2】目レベルでのzスコア解析を表す。各ポイントは、患者1名の1つの目についてのM0とM3の間のzスコアを表す。0の黒い点線より上のドットは、TNFα処置後の対応する患者の腸管マイクロバイオームにおける対応する分類群の割合の増加を表し、この線より下のドットは、減少を表す。Tangoで割り当てられたリードを、目レベルで各患者について合計し、正規化した。zスコアを、各患者についてM0とM3の間で各目のリードの割合を計算して(試料中のリード総数に対して)、|z|>100によりフィルタリングした。P1~P5は応答者、P7~P11は部分応答者、P12~P19は非応答者。
【
図3】微生物叢の患者試料についての多様性プロットを表す。A)M0及びM3で患者の各タイプについてのOTU解析に基づいて計算されたシャノン(左)及びシンプソン(右)多様性指数。NRのシャノン指数は、M0ではRと有意に異なる(不等分散を含む両側t検定、p値=0.04)。B)OTU生起表での加重ユニフラック距離により計算されたβ多様性のPCoAプロット。タイムポイントM0(丸)及びM3(三角)は、別のクラスターを形成していない(ANOSIM、R=-0.011、p値0.641)。右のプロットは、患者の応答に応じて分類されている:非応答者=白い丸;応答者=正方形(明瞭にするため部分応答者は除外されている)。異なる応答レベルを有する患者は、有意なクラスターを形成している(ANOSIM、R=0.1032、p値0.042)
【
図4】応答者及び非応答者のバイオマーカーを表す。M0(A)及びM3(B)での応答者(白)と非応答者(黒)の分類学的組成の特徴を識別するLEfSE解析。バイオマーカーを、応答に従って色付けしている。応答者(白)及び非応答者(黒)。種より高レベルの分類群を、以下の通り表す:G:属、C:綱及びO:目。C)PICRUStによる予測で、応答者と非応答者の間で最も多様に活性化された経路を示したヒートマップ(経路活性を淡灰色から黒色で変動させた)
【実施例】
【0046】
実施例1:
この試験の目的は、抗TNF-α処置の導入後3ヶ月の、SpAに罹患した患者におけ
る腸微生物叢の改変を調査すること、及び(i)微生物叢組成の特徴と処置への臨床応答の間の関係を探索すること、及び(ii)臨床応答と相関する分類群を見出すこと、であった。
【0047】
方法
試験計画及び患者
二施設の観察病院を基にした前向き探査試験(bicentric prospective observational hospital-based exploratory study)を実施した。患者の組み入れ基準は、以下の通りであった:(i)少なくとも18歳で、ASAS基準を満たす軸性のみ、又は軸性及び末梢の脊椎関節炎の診断を受けている、(ii)抗TNF-α処置を受けたことがなく、現行のガイドライン(フランスリウマチ学会の推奨)に従って抗TNF-α処置の開始を正当化した、及び(iii)健康保険に加入している。除外基準は、以下の通りであった:(i)炎症性腸疾患、(ii)糞便採取前3ヶ月間以内に腸摘出若しくは消化管ストーマの治療歴、又は抗生物質投与、(iii)抗TNF-α治療の禁忌、(iv)インフォームドコンセントの署名を拒否、又は同意書の完全な理解ができないほどの言語上若しくは認知上の問題、(v)試験期間全体の間に効果的な避妊法に従うことを拒否(女性の場合)。
【0048】
インフォームドコンセントを、試験参加者から求めた。患者19名を、動員した。SpAの臨床的特徴を、登録時(M0)及び3ヶ月後(M3)の2回の糞便採取時に登録し;ASDAS及びBASDAIスコアを利用して重篤度を評定した(Braun J, Kiltz U, Baraliakos X, et al. Optimisation of rheumatology assessments - the actual situation in axial spondyloarthritis including ankylosing spondylitis. Clin Exp Rheumatol 2014;32:S-96-104 ([9]))。CRPレベル及びHLA-B27状態を、系統的血液検査
(systematic blood test)により得た。
【0049】
抗TNF-α薬及び投与量の選択は、標準的実務に従って医師の裁量に任された。他の処置(免疫抑制剤、副腎皮質ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤)との可能な併用は、医師に任され、以下の表1に記録されている。
【0050】
【0051】
試料採取及びDNA抽出
糞便試料をM0及びM3で採取して、採取後24時間以内に-80℃で凍結した。便に含まれるDNAをDNeasy Blood & tissue handbook(Qiagen)に従い、Dneasy(登録商標)Blood & Tissue Kit(Qiagen)で抽出した。グラム陽性菌の抽出を最適化するために、本発明者らは、リソスタフィンとリゾチームの組み合わせ(溶解溶液中の20mg/ml)を添加した。本発明者らはその後、過去に記載されたキットで提供されたシリカカラムを用いて、DNAを他の原核細胞成分から分離した。
【0052】
16S増幅
試料38本(19×2)からの16S DNAを、2×Phusion GC Master mix、並びにプライマー515F及び806R(それぞれ5’CTTTCCCT
ACACGACGCTCTTCCGATCTGTGCCAGCMGCCGCGGTAA(配列番号5)及び5’GGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCTGGACTACHVGGGTWTCTAAT(配列番号6))を用いて増幅し、16S細菌DNAの可変V4領域を標的化させた。予期される最大アンプリコン長347bpは、直接ペアエンドMiSeq Illuminaシーケンシングと一致した。このDNAを、M
aster Mix Phusion GC Buffer (New England
Biolabs(登録商標))を用いて増幅させた。PCR条件は、以下の通りであった
:DNA 30ng、それぞれ最終濃度10μMの2種のプライマー、Master M
ix Phusion GC Buffer 25μl、最終容量が50μlになるように
水を補充。サイクル条件は、以下の通りであった:98℃で30秒を1サイクル(ホットスタート式活性化);98℃で10秒(変性)/60℃で30秒(ハイブリダイゼーション)/72℃で45秒(伸長)を25サイクル;及び72℃で7分間(最終伸長)。その後、磁気ビーズを用いた精製を実施した(Beckman Agencourt(登録商
標)AMPure)。
【0053】
ライブラリーの構築及びシーケンシング
Illuminaのプロトコルに従って、得られたライブラリーをプールして正規化し、変性させた。その後、試料をMiSeq flowcell 15M上に沈積させ、ボルドー大学のゲノムトランスクリプトーム施設にてMiSeq Illumina(登録商
標)シーケンサーを用いてシーケンシングし、2×250bpのペアエンドリードを作製した。生データは、ENA配列リードアーカイブに寄託させた(ENAアクセション番号PRJEB19186)。
【0054】
16Sバイオインフォマティックス配列解析
NGS QCツールキット(version2.3.3)を用いて、生データのリードを
クオリティーフィルターにかけ(Patel RK, Jain M. NGS QC Toolkit: a toolkit for quality control of next generation sequencing data. PloS One 2012;7:e30619 ([10]))
、ペアリードの両方がフィルター基準を合格すれば、保持した。品質スコアのカットオフは、>20 Q30であり、70%より大きな総リード長が、高品質塩基を有するはずである。デフォルトパラメータと共にBWA(version 0.7.12)を用いてヒトゲノム(Homo sapiens alternate assembly HuRef GCF_000002125.1)に対して残留する高品質リードをマッピングすること
により、可能なヒトコンタミネーションをフィルタリングした(Li H, Durbin R. Fast and accurate short read alignment with Burrows-Wheeler transform. Bioinforma Oxf Engl 2009;25:1754-60 ([11]))。可能なキメラ配列をさらに同定し、DECIPHER(
version 2.14.1)を用いて排除した (Wright ES, Yilmaz LS, Noguera DR. DECIPHER, a search-based approach to chimera identification for 16S rRNA sequences. Appl Environ Microbiol 2012;78:717-25 ([12]))。残留するリードを、Green
Genesデータベース(v13.5)に含まれる16S配列に対してBWAでアライメントさせて (DeSantis TZ, Hugenholtz P, Larsen N, et al. Greengenes, a chimera-checked 16S rRNA gene database and workbench compatible with ARB. Appl Environ Microbiol 2006;72:5069-72 ([13]))、ヒットを全て保存した。
【0055】
微生物叢組成を分析するための2つの補足的方法:操作的分類単位(OTU)及びTangoを用いた分類割り当てを用いた。最初に、フィルタリング後に残留したリードを、97%同一性閾値のGreenGenesデータベースから16S OTUに対して、V
SEARCH v2.3.0のUSEARCH_global法(Rognes T, Flouri T, Nichols B, et al. VSEARCH: a versatile open source tool for metagenomics. PeerJ 2016;4:e2584 ([14]))を用いて階級にした。本発明者らはさらに、R package vegan(Oksanen J, Blanchet FG, Friendly M, et al. vegan: Community Ecology Package. 2017. https://cran.r-project.org/web/packages/vegan/index.html ([15]))でのOTU算出法に基づいてレアファクション曲線を構築することにより、試料の微生物叢の豊富さを分析した。シャノン及びシンプソン指数により表される微生物叢α多様性を、OTU生起行列から算出した。本発明者らは、系統発生学的β多様性を計算するために、OTU表及びGreenGenes OTUツリーを入力することにより、R package phyloseq (McMurdie PJ, Holmes S. phyloseq: an R package for reproducible
interactive analysis and graphics of microbiome census data. PloS One 2013;8:e61217 ([17]))により実行される加重ユニフラックメトリック(Lozupone C, Lladser ME, Knights D, et al. UniFrac: an effective distance metric for microbial community c
omparison. ISME J 2011;5:169-72 ([16])) を用いた。その後、本発明者らは、複数の分類群にマッピングされたリードをロバストに取り扱うために、0.5に設定されたq値パラメータでの分類割り当てのためにTangoを用いた(Alonso-Alemany D, Barre A, Beretta S, et al. Further steps in TANGO: improved taxonomic assignment in metagenomics. Bioinforma Oxf Engl 2014;30:17-23 ([18]))。このアプローチは、それらをより高い分類学的ランクに割り当てることにより不明瞭なリードを使用することができる。その結果、ルートに割り当てられたリード数が、試料の高品質リードの総数と等しくなった。各分類ノードに割り当てられたリードの数を、各試料中のリード総数により正規化した。全試料の正規化されたカウントを、全体的な生起行列にまとめた。
【0056】
細菌機能の予測
割り当てられた微生物叢の生物学的機能を、機能的メタゲノムPICRUSt予測法(Langille MGI, Zaneveld J, Caporaso JG, et al. Predictive functional profiling of microbial communities using 16S rRNA marker gene sequences. Nat Biotechnol 2013;31:814-21 ([19]))を用いて予測した。手短に述べると、OTU表を、GreenGen
esからの遺伝子カウントの予備算出された表を利用してコピー数により正規化した。0.082±0.018の加重最近接配列決定分類群指数(weighted nearest sequenced taxon index)(NSTI)スコアの平均から、良好な推定品質が示唆される。KEGGオルソログ予測を利用して、遺伝子ファミリーを同定した。全328のKEGGにおいて、経路を帰属させた。90%より高い割合を有さない経路を除去し、279の経路が残留した。経路を、DESeq2を用いて解析し、5%のp値閾値及び5%を超える比率変化を、有意と見なした。
【0057】
統計解析
ノンパラメトリックウイルコクソン-マン-ホイットニー検定を用いて、群間の定量的変数を比較した。スピアマン法を利用して、相関を計算した。多重検定の補正を、ベンジャミニ・ホックバーグ検定を用いて実施した。LEfSe法を用いて、メタゲノミックバイオマーカーを発見した(Segata N, Izard J, Waldron L, et al. Metagenomic biomarker discovery and explanation. Genome Biol 2011;12:R60 ([20]))。
【0058】
結果
患者
レアファクション曲線を考えると、患者P6のM0試料では漸近線に達しないため、本発明者らは、この患者を除外した(補足
図1)。結果として、微生物叢シーケンシングの解析を、試験に参加した患者19名中18名で実施した(以下の表1及び表2)。
【0059】
【0060】
患者らはいずれも、試験前にDMARDのいずれにおいても処置されておらず、患者らは、抗TNF-α処置に適格であると見なされた。患者9名は、Cochin Hosp
italにより照会され、9名はBordeaux Hospitalにより照会され、男性13名及び女性5名は、軸性強直性脊椎炎(N=3)又は軸性及び末梢強直性脊椎炎(N=15)を示した。患者らのうちの15名は、HLA-B27陽性であった。試験開始前に、強直性脊椎炎活動性スコア(ASDAS)の中央値は、2.9±0.8であった。患者15名はエタネルセプトを投与され、2名はアダリムマブを投与され、1名はインフリキシマブを投与された。M3の際に、患者8名は、処置に応答しない(ASDAS改善≦1)と決定されたが、患者5名は、実質的な改善を呈し(ΔASDAS≧1.1)、別の患者5名は、大きな陽性応答を呈した(ΔASDAS≧2)。
【0061】
微生物叢組成の記載
患者あたりのリード数の中央値は、671,920であった。シングルトンを除去した後、リードは24,732の特有のOTUに割り当てられた。本発明者らは、分類割り当てを利用して、患者の微生物叢のプロファイルを門レベルで比較した(
図1)。ほとんどの患者の便微生物叢は、非常に高割合のファーミキューテス門と、続いてバクテロイデス門、テネリクテス門、及びプロテオバクテリア門を特徴とした。負のΔASDASスコアにより示される、処置に反して最も増悪した疾患と、M0に対比してM3でより高レベルの赤血球沈降率(表1)により確認された炎症増加と、を呈した19番の患者は、M0及
びM3で他の患者よりも多くのプロテオバクテリア門を有する明らかに異なる微生物叢プロファイルを呈した。
【0062】
微生物叢組成に及ぼす抗TNF-α処置の影響
最初に本発明者らは、M0及びM3で便微生物叢の全体的組成を比較した。全ての患者について、そして応答者又は非応答者のサブグループについて、幾つかの改変が処置後に観察されたが、多重検定補正後に差が有意にならなかった。
【0063】
次に本発明者らは、処置前及び処置後の微生物叢組成を分類学的レベル:目、科、属及び種で比較した。2つのタイムポイントで割合が異なる分類群が複数存在し(表3)、M3で4つの分類群は減少し、15の分類群は増加した。ここでもこれらの差は、多重検定補正後に有意にならなかった。加えて、M0又はM3の微生物叢組成の特徴は、LEfSe法を用いて観察されなかった。
【0064】
【0065】
その後、本発明者らは、なおも分類割り当てを利用して、全ての患者の平均変動値を有する各患者についてM0とM3の間の各分類群の割合の変動を比較した。この比較は、値
全ての平均から該当する値を分離する標準偏差の数であるzスコアとして表される。平均未満の値が、負のzスコアを与えれば、分類群の有意な減少を示し、平均を超える値が、正のzスコアを与える場合には、分類群の割合の有意な上昇に対応する。Tangoで割り当てられた比率で正規化されたリードを、目レベルで合計し、zスコアを、各患者についてM0とM3の間で計算し、|z|>100によりフィルタリングした。処置に充分応答した患者は、処置後に変動した分類群をほとんど有さず、変動は穏やかであり、分類群のほとんど(8のうち6)が減少した。非応答者患者のそれぞれでは、多くの細菌目が、大幅な変動を呈したが(
図2)、対応する分類群は、割合が支離滅裂に上昇又は低下した。これらの結果から、抗TNF-α処置に応答しなかった患者が高い疾患活動及び不安定な微生物叢組成を有したことが示唆される。
【0066】
最後に、本発明者らは、試料のα及びβ多様性を解析した。α多様性は、群生内多様性、即ち一試料の規模での多様性を評価する。β多様性は、異なる群生、即ち異なる試料の組成を比較する。本発明者らは、シャノン及びシンプソン指数による評定でα多様性を比較して、M0での応答者(R)患者と非応答者(NR)患者の差を観察した(
図3A)。M3の所与の患者について観察された抗TNF-α処置への臨床応答は、M0で観察された試料の多様性と相関した(スピアマンr=0.54、p値=0.022)。このことから、初期微生物叢の多様性が低い患者ほど、抗TNF-α処置が不成功に終わる可能性がより高いことが示唆される。しかしこの処置は、M3で計算されたシャノン及びシンプソン指数の間の任意の差の非存在により示される患者群間の差を排除しており、抗TNF処置が臨床応答と独立して全ての患者において便微生物多様性を回復させ得たことが示唆される。任意の特異的処置(エタネルセプト、アダリムマブ及びインフリキシマブ)又は疾患の臨床特色(軸性、末梢、重篤度など)と、試験開始時又は終了時の微生物多様性の間に関係はなかった。加重ユニフラックによる評定で、系統発生学的β多様性を用いて、患者間の微生物叢距離を確定した場合、処置前及び処置後の患者に明白な群分けが存在しなかった(
図3Bの左グラフ)。対照的に、応答者の微生物叢プロファイル(M0+M3)は、非応答者に比較して集合しているようであった(
図3Bの右グラフ)。応答患者の微生物叢は、非応答患者のものに比較してより均一であると思われ、後者ではPCoAプロットの点が無作為に分散することが明らかになった(
図3Bの右グラフ)。
【0067】
微生物組成は抗TNF-α処置への応答を予測し得る
本発明者らは、2つの患者サブグループ、つまり抗TNF-α処置に強く応答した(R、ΔASDAS≧2)サブグループと、応答を示さなかったサブグループ(NR、ΔASDAS≦1)に焦点を当て、本発明者らは、処置結果の予測が可能な微生物叢組成を探索した。本発明者らは、M0のRとNRの間で差次的に存在する異なるレベルの複数の分類群を見出したが、多重検定補正後に、これらの結果は有意にならなかった(表4)。
【0068】
【0069】
興味深いこととして、NR患者は、病原性セラチア・マルセセンス、細胞傷害作用を呈するクレブシエラ・オキシトカ(Joainig MM, Gorkiewicz G, Leitner E, et al. Cytotoxic effects of Klebsiella oxytoca strains isolated from patients with antibiotic-associated hemorrhagic colitis or other diseases caused by infections and from healthy subjects. J Clin Microbiol 2010;48:817-24 ([21]))、重篤な感染症を誘発し得るエンテロコッカス・ガリナルム(Reid KC, Cockerill III FR, Patel R. Clinical and epidemiological features of Enterococcus casseliflavus/flavescens and Enterococcus gallinarum bacteremia: a report of 20 cases. Clin Infect Dis Off Publ Infect Dis Soc Am 2001;32:1540-6 ([22]))、及び日和見感染病原のウェイセラ・キバリアをよ
り高い割合で有するが、R患者は、コプロコッカス・オイタクツス(IBD症状の重症度と負に相関することが知られる(Malinen E, Krogius-Kurikka L, Lyra A, et al. Association of symptoms with gastrointestinal microbiota in irritable bowel syndrome. World J Gastroenterol 2010;16:4532-40 ([23]))をより高い割合で有する。本発明者ら
は、LEfSe解析を利用して、M3の臨床応答を予測し得る2つの分類ノード:ベータプロテオバクテリア綱及びそれに属するバークホルデリア目を見出した(
図4A)。
【0070】
同様に、RとNRを比較した場合に、M3での多くの分類学的レベルが、差次的に存在するようである(
図5)。LEfSe解析で、ウィルコクソン検定の結果を確認し、ジアリスタ属がM3の応答患者と最も強く相関することを示した。非応答者は、サルモネラ属の存在を特徴とした(
図4B)。M0及びM3の両方でRとNRの間で一貫して異なる唯
一の種が、バクテロイデス・エゲルチイである。M3のR患者はまた、より高い割合のラクトバチルス・デルブルエキイを呈する。
【0071】
【0072】
細菌機能の予測
加えて本発明者らは、KEGG経路データベースを用いて微生物叢により実施される機能を推測するためにPICRUSt(Langille et al. ([19]))を用いた。この計算解析により、メタゲノム機能の量を予測して、本発明者らの試料中で見出された種の遺伝子を、遺伝子配列を代謝機能に結びつけるデータベースとマッチングすることができる。本発明者らは、M0では、NR患者の半数の微生物叢がリポ多糖、ユビキノン及びフェニルプロパノイドの合成に関与する遺伝子をより高い割合で示すことを見出し(
図4C)、それはR患者では決して見出されなかった。他の非応答患者は、応答者と非常に類似した微生物叢機能プロファイルを有する。不定形の門組成を有する19番の患者は、この微生物経路に関しても他の患者に比較して最も離れている。
【0073】
考察
TNF-α阻害剤での処置前及び処置3ヶ月後の微生物叢組成解析に基づくこの試験では、全患者において処置により一貫して改変された特異的分類群は、観察されなかった。NR患者はそれぞれ、目レベルの微生物叢組成において処置前と処置後に大幅な差を示したが、R患者は、極めて少ない軽微な差のみを示しており、R患者における微生物叢組成のより高い安定性が示唆される。非応答者のα多様性は、他の2群に比較してM0でより低く、この差は、抗TNFα処置後に修正された。M0での高い割合のバークホルデリア目は、M3での高い割合のジアリスタsp.のように、M3では臨床応答に関連した。多重検定の補正後に差が有意にならなかったとしても、バクテロイデス・エゲルチイは、両方のタイムポイントでNR患者においてより高い濃度で見出された。これらの結果全てから、SpA患者における抗TNF-αの効能に関する可能なバイオマーカーが示唆される
。
【0074】
この試験の強み及び弱点
本発明者らは、この2つが同等でないとしても、便微生物叢分析により腸微生物叢を推定した(Hong P-Y, Croix JA, Greenberg E, et al. Pyrosequencing-Based Analysis of the Mucosal Microbiota in Healthy Individuals Reveals Ubiquitous Bacterial Groups and Micro-Heterogeneity. PLoS ONE 2011;6 ([24])。しかし、糞便試料の使用は、特
に消化器症状に見舞われておらず、それゆえ内視鏡を必要としない患者において、腸内微生物叢を評定するための最も容易な方法である。さらに、非侵襲性の方法は、バイオマーカー開発のために、より望ましい。
【0075】
本発明者らの試験は、16S rDNAシーケンシングに基づき、細菌に焦点を当てた
微生物叢の部分的観察のみを可能にする。それゆえ腸管のビロビオータ(Virobiota)、
マイコビオータ(mycobiota)及びユーカリオータ(eucaryota)は、この試験では考慮されず、結果的にこれらの成分全ての間の動力学的相互作用は、含まれないが、多くの試験は、詳細にはIBDの生理病態学的性質、そして一般にはヒトの健康におけるこれらの行為者の関与を示している(Clemente JC, Ursell LK, Parfrey LW, et al. The impact of the gut microbiota on human health: an integrative view. Cell 2012;148:1258-70 ([25]))。さらに、本発明者らは、所与の分類ノードのリード数と細菌リードの総数との比率を利用するため、分類ノードの定量は、相対的に過ぎない。さらに、16S rDNA
解析は、近縁種では判別されない。定量PCRは、より精密な試料間比較を可能にする。本発明者らの予測的代謝機能解析は、計算的であるが、定量可能な不確かさを有する遺伝子ファミリーの存在比を予測する(Langille ([19]))。
【0076】
本発明者らは、本発明者らの母集団において炎症性の消化器所見を具体的にスクリーニングしておらず、そのため本発明者らは、結果に影響を及ぼし得るリウマチ性の臨床所見と消化器の臨床所見のオーバーラップを評価していない。本発明者らはまた、患者の食事の差異を考慮していない。
【0077】
微生物叢に及ぼすTNF-α阻害剤の影響
この試験において、本発明者らは、処置後に特定の分類群の有意な改変を示さなかったが、NRのM3では多様性が回復されたようであった。
【0078】
TNF-α阻害剤による微生物叢組成の改変は、間接的又は直接的影響のいずれかにより誘発され得た。これらの処置は、損傷した消化管粘膜の炎症を治癒して著しく下方制御し、それゆえ消化管上皮の正常な機能、並びに粘膜微生物叢への制御及び耐性機能を回復させることが周知である。したがってそれらは、微生物叢組成を間接的に変動させることが可能である。
【0079】
より精密には、エタネルセプトは、構造により説明され得る特異的作用を宿主で発揮する。エタネルセプトは、組換えTNF受容体-Fc融合タンパク質である。エタネルセプトは、TNF-αのみならず、可溶性TNFβ、別名リンフォトキシン-αも阻害するが、インフルキシマブ及びアダリムマブは、排他的にTNF-αに向けられるモノクローナル抗体である。リンフォトキシン-αの可溶性形態は、粘膜固有層におけるIgA誘導を制御し、この工程を通して微生物叢組成を制御する。したがってエタネルセプトの効果は、IgAレベルの低下を介して患者における腸内微生物叢組成を改変することができ、このことによって、薬物動態的及び補体依存性の細胞傷害に関する差と共に、IBDにおける臨床効能の非存在が説明される。
【0080】
レイン(reigns)間の調節(界間相互作用)を介した腸微生物叢への直接作用が、複数
の試験により示唆される。特に宿主の状態に応じた宿主の神経内分泌ホルモンの感知及び適応を可能にする、細菌アドレナリン作動性受容体が、近年になり病原中で同定されている。TNF-αへの膜結合細菌受容体の存在が、特にグラム陰性菌において、古くから疑われており、この試験では、TNF-αの存在が、シゲラ・フレックスネリの毒性を増加させると思われた。インビトロ試験で、細菌腸管共生生物に及ぼす、臨床実務で用いられるTNF-α阻害剤の影響をテストする必要がある。
【0081】
処置への応答のバイオマーカーとしての微生物叢の特徴
本発明者らのより驚くべき結果の1つは、微生物叢組成が抗TNFへの臨床応答を予測し得る、ということであった。異なる治療選択が存在するため、どの処置が最も効果的であるかをベースライン時に予測し得るテストを有することが、SpA処置に特に適切になり得る。例えば、ASの処置における新しい選択肢である抗IL17薬は、腸のホメオスタシスにおいて重大な役割を担うCD4+ エフェクターT細胞(Th17)によるIL17の分泌を特異的に遮断するため、微生物叢組成を、抗TNFαが行うものと異なる形で改変し得る。微生物叢組成に及ぼすこれらの処置の異なる影響を同定するため、そしてベースライン時にそれらの効率を予測し得る微生物バイオマーカーを探索するために、実験を実施しなければならない。
【0082】
興味深いこととして、そのような予測能力は、様々な疾患に関する複数の試験において重要視されてきた。全多様性に加え、特異的分類群の存在又は非存在が、疾患又は他の障害における処置への応答のバイオマーカーになることが示されている。例えば腸微生物叢は、大腸癌における予後因子として提案されている。大腸癌の進行したステージでは、シクロモジュリンを生成する大腸菌、並びに腸内毒素原性B.フラジリス及びF.ヌクレアタムによる結腸内コロニー形成の増加が、報告されており、大腸癌予後マーカーとしての微生物叢の潜在的利用が示唆される。さらに、化学療法毒性が微生物叢組成に依存する可能性が示唆されている。実際に、微生物が生成するβ-グルクロニダーゼは、イリノテカンの消化器毒性をモジュレートする。消化器腫瘍の場合、無傷の腸内微生物叢が、オキサリプラチンへの最適応答を得るのに必要である。実際に、微生物叢は免疫系と共に、腫瘍内オキサリプラチン傷害を増加させて、腫瘍の酸化的微小環境をモジュレートする(Iida N, Dzutsev A, Stewart CA, et al. Commensal Bacteria Control Cancer Response to Therapy by Modulating the Tumor Microenvironment. Science 2013;342:967-70 ([26]))。メラノーマでは、微生物叢組成により、免疫療法による大腸炎への耐性を予測し得る。さらに、抗CTLA4治療への応答が、腸微生物叢における異なるバクテロイデス種の存在に左右されることが示されている。この試験において著者らは、B.シータイオタオミクロン又はB.フラジリスが、抗CTLA4治療の効能に関連する特異的T細胞応答を誘導すること、そして抗生物質処置された腫瘍又はGFマウスの腫瘍がこの処置に応答しないことを示した。マウスにおいて、共生のビフィドバクテリウム属は、メラノーマに対する自然な抗腫瘍免疫効果に関連し、抗PD-L1治療と相乗的に作用する。抗TNF治療により処置される潰瘍性大腸炎患者における別の近年の試験で、ベースライン時の非応答者に比較して、応答者では腸内ディスバイオーシス指数がより低く、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィの存在比がより高いことが明らかとなった。さらに著者らは、応答者と非応答者が異なる粘膜抗菌ペプチド発現パターンを呈することを示した。さらに、近年の試験で、低濃度のF.プラウスニッツィが抗TNF-α処置の中断後のCDの早期再発と相関することが示された。リウマチ学の分野における試験で、関節リウマチ患者がDMARD処置後に部分的に正常化された腸管及び口腔マイクロバイオームの改変を有し、処置への応答を予測し得ることが示された。しかし、腸管マイクロバイオームへの影響は、口腔マイクロバイオームに比較して穏やかであることが示された。処置に充分に応答した患者は、処置前のより多数の毒性因子と、処置後のホールデマニア・フィリフォルミス及びバクテロイデスsp.の減少を特徴とした。
【0083】
過去の結果との比較
処置前及び処置後の腸内微生物叢組成の大きな差を見出さなかった過去のアプローチと同様に、本発明者らのコホートにおいて本発明者らは、限定的な統計学的有意性を有する穏やかな変動のみを観察した。しかしそれらの差は、脊椎関節炎における微生物叢の過去の試験と一致している。第一に、本発明者らは、19番の患者におけるプロテオバクテリアの増加を観察した。この門は、健常対象の腸管フローラにおいて低い存在比を有し、その増加は、胃のバイパス、代謝障害、炎症及び癌に関連し、それはこの患者の解消されない炎症の観察と一致する。第二に本発明者らは、NR患者において、より高い割合の病原性及び潜在的病原性菌種、具体的にはクレブシエラ・オキシトカ及びサルモネラsp.を観察した。以前に、AS患者が、自己抗原HLA B27と相互作用して疾患進行を促進すると仮説を立てられた抗クレブシエラ及び抗エンテロバクター分泌IgAをより高レベルで生成することが示された。幾つかの胃腸内(サルモネラsp.、シゲラsp.、エルシニアsp.及びカンピロバクターsp.)及び尿道感染(クラミジアsp.)が反応性関節炎を惹起する可能性があり、これらの症例の最大20%が10~20年以内にASを発症することも知られている。本発明者らは、NR患者が特にM3でのサルモネラsp.の存在を特徴とすることを考慮して、これがSpA発症における寄与因子であり得るとの仮説を立てた。第三に過去の報告から、バクテロイデスの変動がこの疾患の状況に関連することが示された。この変動の方向性は、コホートに応じて変化する(Costello et al. ([2]); Tito et al. ([3]))。本発明者らの試験において、本発明者らは、全NR患者がバクテロイデス目の変動を示し、それらの5名が増加を有し、2名が減少を有するが、R患者が影響を受けないことが観察された。この結果から、この細菌目の割合がリウマチ病において有意に変化することが示唆される。
【0084】
興味深いこととして、M3でのR患者は、ケフィアの発酵を実行し、IBDへの処置におけるプロバイオティクスとして過去に提案されている菌種ラクトバチルス・デルブルエキイもより高い割合で呈する。
【0085】
Magnussonらは、F.プラウニッツィの存在比がRにおける抗TNF-αによる誘導治
療の間に増加し、NRでは増加しないことを示した。クローン病における近年の試験は、TNF-α阻害剤(アダリムマブ)処置後の微生物叢組成の変動、及びファイログループ(phylogroups)(ファーミキューテス、バクテロイデス及びアクチノバクテリア)の回
復、並びに処置の際の大腸菌減少を示した。本発明者らは、本発明者らの試験において同等の結果を見出していないが、本発明者らの母集団及び処置分子が異なっていた。
【0086】
本発明者らは、NRにおいて微生物叢組成の経時的な不安定性を観察した。微生物叢組成の大部分のシフトは、IBD及び神経発達障害などの疾患に関連するもので、脊椎関節炎とは決して関連しなかった。
【0087】
展望
無症候性の腸管炎症又は症候性の腸管炎症でさえもがSAに関連することは、現在、明確に確定されているが、それでも原因と効果の関係は、依然として確定されていない。本発明者らは、同じ方法で、微生物叢組成のクラスターと臨床応答との関連性を観察したに過ぎず、因果関係を推定していない。それでもなお、これらの結果から、特異的便微生物叢の痕跡が、バイオマーカーが現在、存在しない抗TNF-α処置への良好な臨床応答の予測になり得ることが示唆される。第一に症状の緩和の遅延を回避するため、そして第二に健康サービスにおける金銭的負担を軽減するために、このタイプの処置の開始前に信頼性のあるテストを有することが、特に臨床的に適切になり得る。
【0088】
微生物叢組成の安定性は、一般にヒトの健康にとって重大であると見なされ、微生物叢の多様な細菌、真菌及びウイルス組成内の競合平衡からもたらされる。患者における微生
物叢の安定性は、それ自体が良好な予後因子になり得る。この仮説は、確認されるのに縦断的な長期試験が必要となろう。
【0089】
実施例2:炎症性腸疾患及び/又は脊椎関節炎の患者の腸微生物叢:特徴付け及び抗TNFα治療の影響
1.方法論選択の正当化
これは、抗TNFαで処置された、又は処置されていない潰瘍性大腸炎、クローン病又はSpA患者の暴露された/暴露されていないタイプの単一施設前向き観察コホート試験である。糞便試料からの腸微生物叢の試験が全体として非侵襲性であるという事実が、この非介入的態様を正当化する。
【0090】
さらに、抗TNFα処置に特異的な便微生物叢の改変を同定することができるように、抗TNFαの開始を適応された患者30名(クローン病10名、潰瘍性大腸炎10名、SpA10名)に加えて、抗TNFα以外の処置の開始を適応された患者30名(クローン病10名、潰瘍性大腸炎10名、SpA10名)の対照群を試験に含める。これは、本発明者らが微生物叢の有意な改変を探索して、比較的少数の患者であっても抗TNFと対照で処置された患者間の有意な対比が可能な試験計画で説明する、探査的試験である。
【0091】
さらに、日常的ケアの関連でD0(病変の評価)及びM3(粘膜治癒の評価)で内視鏡の恩恵を受けている潰瘍性大腸炎患者では、本発明者らは介入なしに生検を自由に使用して、患者のサブグループにおける粘膜組織学的性質の分析を可能にする。
【0092】
2.研究の目的
2.1.第一の目的
第一の目的は、抗TNFαの開始前(D0)及び開始3ヶ月後(M3)の便微生物叢を比較することである。
【0093】
2.2.第二の目的
1)TNF-αアンタゴニスト治療について応答者と非応答者の患者間で0日目(D0)及びM3の便微生物叢を比較すること。
2)D0とM3の間の腸内微生物叢の変動と、臨床応答と、Th17/Treg比と、の関連性を推定すること。
3)潰瘍性大腸炎群の中で、処置(抗TNFα又は他の処置)に従って、D0とM3の間の便の腸微生物叢の改変と、内視鏡的改変と、消化器組織学的性質との関連性を推定すること。
4)抗TNFα治療の特異的処置の前/後の微生物叢の変動を同定すること。
【0094】
3.研究の計画
これは、抗TNFαで処置された、又は処置されていない潰瘍性大腸炎、クローン病又はSpA患者の暴露された/暴露されていないタイプの単一施設前向き観察コホート試験である。
【0095】
4.適格性の基準
4.1.組み入れ基準
・18歳を超える患者
・以下の条件のいずれかを有する患者:
o ECCO基準に適合する潰瘍性大腸炎
o ECCO基準に適合するクローン病
o ASAS基準に適合する軸性のみの、又は軸性及び末梢の脊椎関節炎
・抗TNFを受けたことがなく:
o 現行の基準(IBDのECCO推奨、脊椎関節炎の管理のためのフランスリウ
マチ学会の推奨)に従う抗TNF処置、又は
o 同等群のための別のタイプの処置、
のいずれかの開始を正当化した患者
・社会保障計画の加入者又は受益者
・無償の、説明を受けて、参加者及び調査者により署名された同意記入書(少なくとも組み入れ当日及び研究に必要となる任意の研究の前)
【0096】
4.2.非組み入れ基準
・潰瘍性大腸炎、クローン病又は脊椎関節炎以外の炎症性疾患の患者
・腸摘出物又は消化器ストーマの病歴
・糞便採取前3ヶ月以内に抗生物質を投与された
・処置が禁忌の患者
・説明書を読んだ後にこの試験への参加を拒否
【0097】
5.検査手順(複数可)
5.1.腸微生物叢を試験する方法
腸微生物叢は、便微生物叢を試験することにより評価される。D0及びM3の糞便の試料を、採取後遅くとも24時間目に-80℃で凍結するか、又は室温に保持し、適切な環境でBiological Resource Centerに郵送して、微生物叢の試験について検証する(DNA Genotek のOMNIGene Gut(登録商標)(2))。採取時に、臨床活動データを採取する。加えて、詳細には食事の変動に関する偏
りを排除するために、採取前7日間にわたる詳細な食物の問診票を、全患者及び立会人が記入する。
【0098】
微生物叢の分析を、以下の方法:機械的溶解(BeadBeater)のステップを含む標準的方法による鞭虫に含まれるDNAの抽出、Claessonらにより過去に記載された方法 (Claesson et al. Comparison of two next-generation sequencing technologies for resolving highly complex microbiota composition using tandem variable 16S rRNA
gene regions. Nucleic Acids Res. dec 2010;38(22):e200,([(27])) に従う16S D
NAの増幅、第二世代シーケンサーIllumina MiSeqによるアンプリコンのシーケンシング、406000を超える細菌配列の分類階級を含むGreengenesデータベースとの比較により得られた配列の分類割り当てについてのバイオインフォマティクス解析、に従って実行する。Soetaらにより記載された方法 (Soeta et al. An improved rapid quantitative detection and identification method for a wide range of fungi. J Med Microbiol. aout 2009;58(Pt 8):1037-44a, ([28])) に従って、ITS2領域の増幅に基づき、マイコバイオームの特徴付けも実施する。
【0099】
それは、微生物群生の組成及び多様性の試験で検証された定性分析(門のスケール、綱、目、科、属及び種での組成)及び定量(相対的)の方法である。
【0100】
バークホルデリア目(本発明者らの探査試験における臨床応答の予測マーカーとして同定)での定量PCRを、INRAにより記載された方法 (Sokol et al. Faecalibacterium prausnitzii is an anti-inflammatory commensal bacterium identified by gut microbiota analysis of Crohn disease patients. Proc Natl Acad Sci U S A. 28 oct 2008;105(43):16731-6 ([29])) に従い、この目の大部分の種に特異的なプライマーを用いて
実行する。
【0101】
5.2.内視鏡及び組織学的検査 - 潰瘍性大腸炎患者での補助的試験
潰瘍性大腸炎患者から採取された試料で、補助的試験を実施する。
・健常な粘膜の場合に組織学的分析のために5つの全身部位で実行された10の生検に加え、内視鏡的病変の場合にターゲットとなった生検を用いて、内視鏡を標準的ケアの一部として潰瘍性大腸炎患者全て(I及びIt群)でD0に実施する。組織学的分析の試料を直ちに10%ホルマリン溶液で固定して、解剖病理学的検査に送る。2回目の内視鏡(直腸S字結腸鏡検査)を、これらの同じ群への日常的ケア(粘膜治癒の評価)に関連して3ヶ月目に実施する。
・内視鏡活動性スコアは、UCEISである。
・組織学的活動性スコアは、ライリーのスコアである。
・結腸調製物のタイプを各検査の際に通知する。
【0102】
5.3.循環する免疫細胞
免疫表現型決定をTh17及びTregリンパ球の型の決定と共に、GRIC(Clinical Immunology Research Group, Claire Larmonier)にてフローサイトメトリー技術によりEDTA管の新鮮な血液で実施する。
【0103】
第二のEDTA管を、CRBに送る。Ficollタイプの調製物は、一方では次のPBMC分析を可能にし、他方では科学的問題が生じた場合に次の分析のための血漿アリコートの生成を可能にする。
【0104】
6.関連の処置
6.1.認可された関連の処置
6.1.1.補助薬品
抗TNF及びその投与量の選択は、販売許可に従いながら、現行の実務に応じ、医師の裁量に任される。
【0105】
6.1.2.他の処置/手順
他の処置:免疫抑制剤、コルチコイド、非ステロイド系抗炎症剤の併用的又は排他的処方もまた、医師の裁量に任されており、観察帳で通知し、得られた分析のために考慮される。
【0106】
6.2.禁止された関連の処置/手順
抗生物質の使用に関連して腸内微生物叢が大幅に変化するため、組み入れ前の3ヶ月間、又は組み入れの際の任意の全身抗生物質治療は、プロトコルから除外する理由となる。同様にプレバイオティクス又は投薬されたプロバイオティクス(非食品)の摂取は、禁止される。
【0107】
7.判定の基準
7.1.一次エンドポイント
一次エンドポイントは、5.1.の節に記載された方法から得られたD0及びM3での便微生物叢プロファイルである。
【0108】
7.2.二次エンドポイント
・臨床応答
o クローン病ではハーベイブラッドショースコア
□ J0~M3の間の少なくとも3点の減少により定義される臨床応答
□ 4以下のスコアによる臨床寛解
o 潰瘍性大腸炎ではメイヨースコア
□ J0~M3の間の少なくとも2.5点の減少により定義される臨床応答
□ 2.5未満のスコアによる臨床寛解
o 純粋な軸性SpAではBASDAIスコア、そしてSpAの臨床形態全てのAS
DASスコア
□ 1以下のより低いASDASスコアにより定義される非応答者
□ 1.1以上及び2未満の減少を有する部分応答者
□ 2以上の減少を有する応答者
・循環Th17/Tregリンパ球の比率
o D0~M3の間の比率、並びにD0~M3の間のTreg及びTh17リンパ球
の絶対血中濃度
・潰瘍性大腸炎サブグループにおける分析では
o 内視鏡での態様(D0及びM3でのUCEISスコア)
o 消化器の組織学的検査(D0及びM3での改変ライリースコア)
【0109】
8.研究の工程:調査の予定表
- 組み入れ期間=21ヶ月
- 各参加者の参加期間=3ヶ月
- 総調査時間=24ヶ月
【0110】
9.統計学的態様
9.1.試験サイズの計算
主な目的は、抗TNFα処置の開始前(D0)及び開始3ヶ月後の便微生物叢の組成を比較することである。施設の収容人数は、抗TNFα治療の開始を適応された患者30名(クローン病10名、潰瘍性大腸炎10名、SpA10名)の組み入れを可能にする。SpAでのパイロット試験からのデータにより、80%の検定力で少なくとも0.2(存在比をのみを考慮しない加重ジャッカード法)及び少なくとも0.04(存在比及び系統樹を考慮する加重ユニフラック法)のw2を得るために、患者30名の組み入れがPERMANOVA法(Kelly BJ, Gross R, Bittinger K, Sherrill-Mix S, Lewis JD, Collman RG, et al. Power and sample-size estimation for microbiome studies using pairwise distances and PERMANOVA. Bioinforma Oxf Engl. 1 aout 2015;31(15):2461-8 ([30]))により可能になる。w2は、R2の不偏推定値である(群間変動/総変動の比率)。
【0111】
加えて、抗TNFα処置により特異的に改変された分類ノードを同定することが可能になるように、抗TNFα以外の処置で処置された対象患者30名(クローン病10名、潰瘍性大腸炎10名、SpA10名)を組み入れる。
【0112】
9.2.用いられた統計法
9.2.1.解析の方策
推定は全て、第一種過誤のリスクは、α=5%で行われる。
【0113】
9.2.2.用いられた統計法
定性的変数は、正確二項法に従ってサイズ、パーセンテージ及び95%信頼区間に関して記載される。
【0114】
定量的変数は、サイズ、平均、平均の標準偏差及び95%信頼区間、中央値、最小値、最大値、第一及び第三四分位数に関して記載される。
【0115】
本発明者らは、可能な限り、グラフ表示を分析と関連づけようと試みる。
【0116】
9.2.3.用いられたソフトウエア
解析は、SAS(登録商標)ソフトウエア(version 9.3以降)及びR(登
録商標)ソフトウエアで実施する。
【0117】
9.3.判定の基準
9.3.1.一次エンドポイント
各患者についてTANGOソフトウエア(version1.0)を用いた分類割り当てを実施することにより、微生物叢の組成の解析を実行する。リードは最初、GreenGenesデータベースに含まれる16S参照配列にマッピングする。不充分にマッピングされたリードを含む試料は、解析に含めない。
【0118】
本発明者らは、各試料について、系統樹を有し、それの分類ノードがこのノードに割り当てられたリードアカウントによりタグ付けされる。その後、以下の原理に従って各試料の割り当て結果から、インスタンスマトリクスを構築する:n個のリードがNのノードに割り当てられたら、系統樹内のN-1のノードは、n個増加したカウントを有する。それゆえルートノード(細菌分類群)への割り当ての数は、試料の参照配列にマッピングされたリードの総数に対応する。その後、アカウントをリード総数により正規化する。
【0119】
試料の豊富さを測定するα多様性を、シャノン又はシンプソン指数を用いて各試料について推定する。J0とM3の間の全指数の比較を、t検定を利用して実施する。
【0120】
主な目的は、抗TNFα療法の開始前及び開始3ヶ月後の便微生物叢の組成を比較することである。
【0121】
最初のステップとして、複数の群生の間の組成変化を比較することが可能なβ多様性を、ジャッカード距離及びユニフラック距離のような異なる尺度の相違度を利用して試験する、これらの距離から、PCoA(又はMDS)などの外挿解析又はクラスター解析を実施する。その後、PERMANOVA法を利用した解析が、提示される。
【0122】
第二のステップでは、系統樹の各ノードについて、モデルZIBR(変量効果を含む2パートゼロ過剰β回帰モデル)を利用して比較を行う。偽発見率(ベンジャミニ及びホックバーグ)を利用してp値を調整することにより、検定の多重性を考慮する。
【0123】
加えて、先に記載された解析もまた、各サブグループ(クローン病、潰瘍性大腸炎、SpA)内で実施する。
【0124】
9.3.2.二次エンドポイント
1)抗TNFαで処置された患者と別の処置を受けた患者の間の、1日目、その後M3での便微生物叢の比較を、組成データについてのANOVAに類似した発現差異解析ツールであるALDE×2法を利用して実行する(Fernandes AD, Reid JN, Macklaim JM, McMurrough TA, Edgell DR, Gloor GB. Unifying the analysis of high-throughput sequencing datasets: characterizing RNA-seq, 16S rRNA gene sequencing and selective growth experiments by compositional data analysis. Microbiome. 2014;2:15, ([31]))
。
【0125】
こうして得られた結果を、変数選択法から得られたものと比較する(Shankar J, Szpakowski S, Solis NV, Mounaud S, Liu H, Losada L, et al. A systematic evaluation of high-dimensional, ensemble-based regression for exploring large model spaces in microbiome analyses. BMC Bioinformatics. 1 fevr 2015;16:31 ([32]))。
【0126】
2)J0とM3の間で有意な改変を有した各分類ノードについて、J0とM3の間のこのノードの改変と、一方では臨床応答との、そして他方ではTh17/Treg比との関連性を、ZIBRモデルを用いてモデル化する。偽発見率(ベンジャミニ及びホックバーグ)を利用してp値を調整することにより、検定の多重性を考慮する。
【0127】
3)潰瘍性大腸炎群の中、そして各処置(抗TNFα又は他の処置)の中で、J0とM3の間に有意な変動を有した各分類ノードについて、便の腸微生物叢の改変と、
・内視鏡の態様、
・消化器組織学的性質
との関連性を、ZIBRモデルを用いてモデル化する。偽発見率(ベンジャミニ及びホックバーグ)を利用してp値を調整することにより、検定の多重性を考慮する。
【0128】
4)特異的な抗TNFα処置前/処置後の便微生物叢の変動を同定するために、主な目的で記載されたものと同じ解析、及び各分類ノードの進化のサブグループ解析を、抗TNFα以外の処置を受けた患者の微生物叢で実施する。
【0129】
詳細な統計解析計画を定義して、試験の科学委員会及び任意の続く改変により検証する。
【0130】
10.結論
本発明者らの仮説は、粘膜微生物叢に対して制御及び耐性の機能を取り戻させる消化管上皮での一次作用により、又は複数の試験で示唆された腸内微生物叢への直接作用により、SpA及びIBDにおける抗TNFαの効能が消化器粘膜と腸微生物叢の境界レベルでのホメオスタシスの回復作用に少なくとも部分的につながる、ということである。
【0131】
本発明者らは、3ヶ月の抗TNFα治療後の便微生物叢組成における変動をこの試験で観察することを予期する。
【0132】
患者において、該臨床応答は、便微生物叢組成における特色及び/又は変動と相関するはずである。
【0133】
参考資料
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