(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】IgG抗原エピトープおよび標的としての使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20221012BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20221012BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C07K14/705
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2020564988
(86)(22)【出願日】2018-08-08
(86)【国際出願番号】 CN2018099279
(87)【国際公開番号】W WO2019153674
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】201810330585.1
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201810146884.X
(32)【優先日】2018-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520302833
【氏名又は名称】北京艾賽吉生物医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Beijing SIG Biopharmaceutical Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Room 519-21, 5th Floor, No. 5, Kaituo Rd., Haidian District, Beijing 100085,P. R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】邱 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】唐 ▲ジン▼▲シュ▼
(72)【発明者】
【氏名】楊 志
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲チォン▼
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲ジン▼▲ゼン▼
(72)【発明者】
【氏名】朱 華
(72)【発明者】
【氏名】耿 子涵
(72)【発明者】
【氏名】劉 洋
(72)【発明者】
【氏名】姜 文華
(72)【発明者】
【氏名】黄 晶
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525075(JP,A)
【文献】VALLIERE-DOUGLASS, J. F. et al.,Asparagine-linked Oligosaccharides Present on a Non-consensus Amino Acid Sequence in the CH1 Domain of Human Antibodies,Journal of Biological Chemistry,2009年,Vol.284, No.47,P.32493-32506,DOI:https://doi.org/10.1074/jbc.M109.014803
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮性腫瘍である、腫瘍を診断および/または治療する薬物の調製における、薬物作用標的としてのIgG抗原エピトープの使用であって、
前記IgG抗原エピトープは、非B
細胞
である腫瘍細胞由来のIgGのCH1ドメインであり、かつ、該CH1ドメインのAsn162部位においてN-グリコシル化シアル酸修飾され、
前記IgG抗原エピトープのアミノ酸配列はSEQ ID NO.1であることを特徴とする、IgG抗原エピトープの使用。
【請求項2】
前記上皮性腫瘍は非小細胞肺癌、腸癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、嚢胞腺癌、胃癌、膵臓癌または食道癌であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学における腫瘍の診断および治療の技術分野に属し、非B細胞由来のIgG、具体的にはIgG抗原エピトープおよび標的としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に、RP215モノクローナル抗体の由来および研究の現状を説明する。卵巣癌を特異的に認識するモノクローナル抗体を得るために、カナダのコロンビア大学のLee課題研究グループは、1980年代との早い時期から、卵巣癌細胞株から抽出されたタンパク質で動物に免疫し、約3000のハイブリドーマ細胞を得た。そして、選別中に、RP215と呼ばれる1つのハイブリドーマ細胞が正常な卵巣細胞ではなく、卵巣癌細胞を十分に認識できることが発見された。しかし、当時、どの抗原が認識されたか不明であったため、認識した抗原を一時的に「CA215」と命名することとした。その後、RP215は卵巣癌を十分に認識できるだけでなく、さらに、他の種類の腫瘍細胞の認識においても高い特異性が示されることが発見されたため、CA215を「pan-cancer-marker」と定義した。2017年に、Lee課題研究グループはCA215の同定を行った。アフィニティークロマトグラフィー法で卵巣癌細胞株の培養上清から「CA215」が多く得られ、質量分析同定したところ、提供した32のペプチド断片はいずれもIgGの重鎖であった。この結果をさらに確認するために、再度、精製した「CA215」を抗原として使用して、特異的モノクローナル抗体を5つ調製し、試験を経て、5つのモノクローナル抗体はすべてIgG分子を認識できることを確認した。よって、CA215が癌細胞によって発現されるIgGであることが明らかになった。その後の結果から、癌細胞によって発現されるIgGは、グリコシル化修飾および循環において明らかに異なることが確認された。RP215が認識するエピトープは、このようなIgG重鎖可変領域に固有のグリコシル関連エピトープである(中国特許公開番号102901817Aを参照)。
【0003】
つまり、RP215は、形質細胞への分化後にBリンパ球から分泌されたIgG(循環IgG)を認識できないが、非B細胞によって発現されるIgGを認識できる。研究によると、RP215が認識するIgG(以下、RP215-IgGという)は、様々な系統由来の細胞によって発現できるが、発現レベルが非B細胞由来の腫瘍細胞より低いため、非B細胞由来IgG(non B-IgG)と総称される。non B-IgGは構造や機能の面で従来の常識となっているB細胞由来IgGと大きく異なる。
【0004】
腫瘍幹細胞様細胞によって過剰発現されるRP215-IgGは、細胞表面と細胞の間の接合部、特に局所接着構造に局在される傾向がある。また、高レベルのRP215-IgG細胞は、細胞外マトリクス(ECM)への接着性が高く、インビトロでもインビボでも高い遊走や浸潤能力を持っており、腫瘍幹細胞の自己再生および腫瘍形成能力が高まる。しかし、RP215が認識する特有の抗原エピトープの具体的な構造、性質、および、RP215-IgGによる腫瘍の形成や発達の詳細なメカニズムはまだ不明であるため、RP215以外のIgGを特異的標的とする他の診断または治療薬を調製することはできない。
【0005】
これまでの取り組みの結果、RP215によって特異的に認識可能なIgGは非B細胞由来のIgGであり、且つ該IgGにおける認識される部位は高度にシアリル化されており、シアリル化グリコシルがO-グリコシル化と無関係であることは明確に意識されている。このような特別なシアリル化IgGは、マーカーとして幹細胞または前駆細胞を認識し、さらに該糖タンパク質に基づいて関連製剤の調製に用いることができる。
非B細胞由来のIgGと上皮癌細胞との密接な相関性を考慮して、該IgGの分子構造をさらに研究すれば、様々な悪性腫瘍への介入の強化にさらに役立てることができる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、非B細胞由来のIgGの分子構造および機能に関するさらなる研究によって、標的として使用可能な、抗原エピトープを分析し、該抗原エピトープの新しい使用を提供することを目的とする。
【0007】
関連するプロテアーゼ消化によって非B細胞由来IgGを分析し、かつ、グリコシル化分析およびタンパク質の機能的部位の分析を経て、最終的に、非B細胞由来のIgGは、その腫瘍関連機能が主に特定の部位のシアリル化によることが発見された。
【0008】
上記研究結果に基づいて、本発明の第1の態様では、非B細胞由来のIgGのCH1ドメインであり、かつ、該ドメインのAsn162部位においてN-グリコシル化シアル酸修飾されたIgG抗原エピトープを提供する。
上記IgG抗原エピトープのアミノ酸配列はSEQ ID NO.1に示すとおりであることが好ましい。
【0009】
本発明の第2の態様では、腫瘍を診断および/または治療する薬物の調製における、薬物作用標的としての上記IgG抗原エピトープの使用を提供する。ここで、上記腫瘍が上皮性腫瘍である。上記Asn162の特異的部位のシアリル化抗原エピトープを含むIgGは、腫瘍の増殖、遊走および浸潤能力を促進できることが実証されている。
【0010】
上記使用において、上記腫瘍は非小細胞肺癌、腸癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、嚢胞腺癌、胃癌、膵臓癌または食道癌であることが好ましい。
【0011】
本発明の第3の態様では、α6β4-FAK-c-Met経路によって媒介される疾患の診断および/または治療薬の調製における、インテグリンα6β4のリガンドとしての上記IgG抗原エピトープの使用を提供する。研究により、上記抗原エピトープを含むIgGは、インテグリンα6β4と結合して複合体を形成するのみで、インテグリン-FAKシグナル伝達経路の活性化を促進できることが示されている。
【0012】
本発明の第4の態様では、さらに腫瘍治療薬の調製における、薬物作用標的としてのシアリルトランスフェラーゼST3GAL4の使用を提供する。ここで、上記腫瘍は上皮性腫瘍である。上記抗原エピトープを含む特異的部位のシアリル化は、シアリルトランスフェラーゼST3GAL4に依存する。
【0013】
本発明は、さらに腫瘍治療薬の調製における、薬物作用標的としての、シアリルトランスフェラーゼST3GAL4とシアリルトランスフェラーゼST3GAL6との結合の使用を提供する。ここで、上記腫瘍は上皮性腫瘍である。研究により、シアリルトランスフェラーゼST3GAL6は、上記抗原エピトープの特異的部位のシアリル化過程においても所定の補助的な役割を果たしたことが発見されている。このため、両者を結合すれば、薬物作用標的として抗原エピトープのシアリル化に介入し、さらにその後段の機能の発現に影響を与えることができる。
【0014】
本発明の第5の態様では、さらに上皮性腫瘍の検出を補助する薬物の調製における、マーカーとしてのインテグリンβ4の使用を提供する。上記抗原エピトープを含むIgGとインテグリンβ4は、組織レベルや細胞レベルでは、共発現・共局在するため、インテグリンβ4が検出されることは、IgGが検出されることに相当し、さらに、上皮性腫瘍の存在が検出されることに相当する。
本発明により提供される上記技術的解決手段は下記有益な効果を有する。
【0015】
本発明では非B細胞由来のIgGの機能的分子構造が明確にされている。それは、IgGのCH1ドメインにおけるAsn162部位のN-グリカンが高度にシアリル化された構造であり、上皮性腫瘍幹細胞において過剰発現され、様々な上皮性悪性腫瘍の発癌性に非常に重要である。さらに、抗体療法、Car-T細胞療法、および低分子化合物に対して魅力的な標的である。本発明では、後期の関連する癌症治療のために効果的な薬物標的を提供し、抗体薬物の研究のために抗原エピトープを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1-1】実施例1--RP215アフィニティークロマトグラフィーカラムによる腫瘍由来タンパク質におけるRP215-IgGの濃縮およびグリコシル化の分析の結果である。AはProteinGを使用してRP215-CNBrアフィニティークロマトグラフィーカラムと組み合わせて、肺扁平上皮癌から濃縮されたRP215によって認識したIgGの概略図であり、Bは各糖鎖の構造図および異なるグリカンの含有量であり、Cはシアル酸を認識するSNAおよびMAL Iをそれぞれ使用してアフィニティークロマトグラフィーカラムでの各成分におけるIgGシアル酸の状況を同定するものであり、Dはシアリル化IgGをN-グリコシダーゼ、O-グリコシダーゼおよびシアリダーゼでそれぞれ消化した後のWestern blot検出結果であり、elutionは溶出液であり、buffer1はN-グリコシダーゼおよびO-グリコシダーゼの消化緩衝液であり、buffer2はシアリダーゼの消化緩衝液である。
【0017】
【
図1-2】実施例1--突然変異部位の配列表示および抗原エピトープの同定結果である。Aは突然変異していないRP215-IgG(WT)および二つの突然変異体(C
H1muとC
H2mu)のアミノ酸配列であり、枠で囲まれた部分は対応する突然変異部位であり、Bは293T細胞内でRP215-IgG(可変領域配列はV
H5-51/D3-9/J
H4である)および対応する突然変異体を過剰発現した後、Western blotでRP215認識状況を検出するものであり、CはNCI-H520細胞内でRP215-IgG(可変領域配列はV
H5-51/D3-9/J
H4である)および対応する突然変異体を過剰発現し、Western blotでRP215認識状況を検出するものであり、そのうち、mockは陰性対照であり、vectorは空ベクターである。
【0018】
【
図2-1】実施例2--非小細胞肺癌細胞株でのRP215-IgGの発現である。AはWestern blotsで非小細胞肺癌細胞株でのRP215-IgG発現状況を検出するものであり、GAPDHは内部標準であり、BはWestern blotsでNCI-H520細胞およびSK-MES-1細胞培養上清におけるRP215-IgG分泌結果を検出するものであり、Cは免疫蛍光法でNCI-H520細胞およびSK-MES-1細胞でのRP215-IgG(緑色)の局在を検出するものであり、細胞核(青色)がHochestで標識化され、二次抗体はヤギ抗マウスAlexa Flour 488であり、スケール仕様が25μmであり、Dはフローサイトメトリーによって非小細胞肺癌細胞株の細胞膜でのRP215-IgG発現状況(生細胞染色)を検出するものであり、二次抗体はヤギ抗マウスAlexa Flour 488である。
【0019】
【
図2-2】実施例2--IgGのノックダウンによる肺扁平上皮癌細胞のクローン形成能力への阻害の試験結果である。AはNCI-H520細胞に対して、対照のまたはIgGに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、Western blotでノックダウン結果を検出するものであり、GAPDHは内部標準であり、BはNCI-H520細胞にsiRNAを36hトランスフェクトした後、Transwell試験を行い、細胞遊走能力を検出するものであり、CはNCI-H520細胞にsiRNAを36hトランスフェクトした後、Matrigel-Transwell試験を行い、細胞浸潤能力を検出するものであり、DはIgGのsiRNAでSK-MES-1におけるIgGをノックダウンし、Western blotでノックダウン結果を検出するものであり、GAPDHは内部標準であり、EはSK-MES-1細胞にsiRNAを36hトランスフェクトした後、Transwell試験を行い、細胞遊走能力を検出するものであり、FはSK-MES-1細胞にsiRNAを36hトランスフェクトした後、Matrigel-Transwellを行い、浸潤能力を検出する結果である。*:P<0.05;**:P<0.01;スケール仕様が200μmである。
【0020】
【
図2-3】実施例2--IgGのノックダウンによる肺扁平上皮癌細胞のクローン形成能力への阻害の試験結果である。AはNCI-H520細胞からIgGをノックダウンした後、クローン形成試験で細胞増殖および自己再生能力を検出するものであり、BはSK-MES-1細胞からIgGをノックダウンした後、クローン形成試験を行って細胞増殖および自己再生能力を検出するものである。**:P<0.01。
【0021】
【
図2-4】実施例2--インビトロ試験でRP215-IgGの腫瘍促進効果とC
H1ドメインにおけるシアリル化N-グリコシル化エピトープとの関係を検出するものである。AはWestern blotでRP215認識状況を検出するものであり、市販の抗ヒトIgGは陰性対照であり、GAPDHは内部標準であり、Bはクローン形成試験による細胞のクローン形成能力の検出結果であり、CはTranswell試験による細胞遊走能力の検出結果であり、DはMatrigel-Transwell試験による細胞浸潤能力の検出結果である。WTは野生型IgGであり、C
H1muはC
H1突然変異型IgGであり、Vectorは空の対照ベクターであり、mockは陰性対照である。ns:not significant(非有意);*:P<0.05;**:P<0.01;***:P<0.001。
【0022】
【
図2-5】実施例2--NCI-H520細胞がWT、C
H1muおよびVectorをそれぞれ発現した安定株のヌードマウス体内での腫瘍形成状況である。Aは試験終了時のWT、C
H1mu、Vectorとの三群の腫瘍サイズの画像であり、BはWT、C
H1mu、Vectorとの三群の腫瘍体積の成長曲線であり、Cは試験終了時のWT、C
H1mu、Vectorとの三群の腫瘍体積のヒストグラムであり、Dは試験終了時のWT、C
H1mu、Vectorとの三群の腫瘍重量のヒストグラムである。ns:notsignificant(非有意);**:P<0.01;***:P<0.001。
【0023】
【
図3-1】実施例3--RP215-IgGシアリル化に対する四種類のシアリルトランスフェラーゼの影響およびWestern blot検出結果である。Aは四種類のシアリルトランスフェラーゼのサイレンシング後のRP215認識の結果であり、Bは四種類のシアリルトランスフェラーゼの過剰発現後のRP215認識の結果であり、このうち。GAPDHは内部標準である。
【
図3-2】実施例3--肺腺癌および肺扁平上皮癌組織においてRP215、抗ST3GAL4および抗ST3GAL6抗体をそれぞれ使用して免疫組織化学的検出を行った結果である。
【0024】
【
図4-1】実施例4--RP215-IgG特異的相互作用タンパク質の同定である。AはGene OntologyソフトウェアによるRP215-IgG特異的相互作用タンパク質の分析結果であり、BはGO term分析法で質量スペクトルペプチド断片のスコアが高いタンパク質を分析するものである。
【0025】
【
図4-2】実施例4--RP215-IgGとインテグリンα6β4との相互作用検証試験結果である。AはRP215とNCI-H520細胞溶解液をインキュベートして免疫沈降を行い、インテグリンβ1、インテグリンβ4、インテグリンα6抗体およびRP215を使用してWestern blot検出を行った結果であり、Bはインテグリンβ4抗体とNCI-H520細胞溶解液をインキュベートして免疫沈降を行い、インテグリンβ4抗体およびRP215を使用してWestern blot検出を行った結果であり、Cはインテグリンα6抗体とNCI-H520細胞溶解液をインキュベートして免疫沈降を行い、インテグリンα6抗体およびRP215を使用してWestern blot検出を行った結果である。mIgGは対照抗体であり、rIgGはco-IP対照となるウサギ抗体である。
【
図4-3】実施例4--免疫組織化学的検出による肺扁平上皮癌組織でのRP215-IgGおよびインテグリンβ4の染色の局在結果であり、肺扁平上皮癌組織の隣接する切片において、RP215およびインテグリンβ4の抗体染色パターンが類似することを示している。スケール仕様が50μmである。
【0026】
【
図4-4】実施例4--肺扁平上皮癌細胞でのRP215-IgGおよびインテグリンβ4の共分布・共局在の試験結果である。Aはフローサイトメトリーを使用して、肺扁平上皮癌PDXモデルの細胞表面でのRP215-IgGおよびインテグリンβ4の発現レベルを分析するものであり、分析ポリシーは、まず細胞サイズや粒度ゲートで細胞破片を除外し、7-AAD陰性細胞ゲートで生細胞を得て、次にRP215-FITCゲートで、RP215-IgG陽性およびRP215-IgG陰性との二つの細胞集団を得て、さらに、抗インテグリンβ4-PEで上記二つの細胞集団におけるインテグリンβ4の発現レベルを分析する、ということであり、Bはフローサイトメトリーを使用して、RP215の強陽性および弱陽性のNCI-H520細胞を選別し、Western blotsでRP215-IgG高発現(RP215-IgG
high)およびRP215-IgG(RP215-IgG
low)低発現細胞におけるインテグリンβ4の発現レベルを検出するものである。
【0027】
【
図4-5】実施例4--免疫蛍光法によるNCI-H520細胞でのRP215-CIgG(左から1列目)およびインテグリンβ4(左から2列目)の局在の分析である。スケール仕様は10μmである。
【0028】
【
図4-6】実施例4--二種類の肺扁平上皮癌細胞株におけるIgGのノックダウンによるIntegrin-FAKシグナル伝達経路の阻害への影響である。AはNCI-H520細胞に対照のまたはIgGに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、Western blotsでノックダウン効果およびIntegrin-FAKシグナル伝達経路関連分子を検出するものであり、GAPDHは内部標準であり、BはSK-MES-1細胞に対照のまたはIgGに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、Western blotsでノックダウン効果およびIntegrin-FAKシグナル伝達経路関連分子を検出するものであり、GAPDHは内部標準である。
【
図4-7】実施例4--RP215-IgG特異的相互作用タンパク質の一部の質量スペクトルスコア結果である。
【0029】
【
図4-8】実施例4--RTKリン酸化チップを使用して、RTK受容体のリン酸化に対するIgGの効果を検出するものである。AはNCI-H520細胞に対して、対照のまたはIgGに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、細胞溶解液とRTKリン酸化チップをインキュベートした後の発色の統計結果であり、BはSK-MES-1細胞に対して、対照のまたはIgGに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、細胞溶解液とRTKリン酸化チップをインキュベートした後の発色の統計結果である。
【
図4-9】実施例4--二種類の肺扁平上皮癌細胞株におけるIgGのノックダウンによるc-Metシグナル伝達経路への影響のWestern blot試験結果である。AはNCI-H520細胞に対して、対照のまたはIgGに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、Westernblotsでノックダウン効果、c-Metリン酸化レベルおよびその下流のシグナル伝達経路関連分子を検出するものであり、GAPDHは内部標準であり、BはSK-MES-1細胞に対して、対照のまたはIgGに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、Westernblotsでノックダウン効果、c-Metリン酸化レベルおよびその下流のシグナル伝達経路関連分子を検出するものであり、GAPDHは内部標準である。
【0030】
【
図4-10】実施例4--インテグリンβ4を介するRP215-IgGとc-Metの相互作用である。AはRP215およびc-Met抗体をそれぞれNCI-H520細胞溶解液とインキュベートして免疫沈降を行い、c-Met抗体およびRP215を使用してWestern blots検出を行った結果であり、BはNCI-H520細胞に対して、対照siRNAおよびc-Metに対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、Western blotsでノックダウン効果を検出し、および、RP215を、対照siRNAおよびc-Metに対するsiRNAをトランスフェクトしたNCI-H520細胞溶解液とそれぞれインキュベートし、インテグリンβ4抗体およびRP215を使用してWestern blots検出を行った結果である。CはNCI-H520細胞に対して、対照siRNAおよびインテグリンβ4に対するsiRNAをそれぞれトランスフェクトし、Western blotsでノックダウン効果を検出し、および、抗体RP215を、対照siRNAおよびインテグリンβ4に対するsiRNAをトランスフェクトしたNCI-H520細胞溶解液とそれぞれインキュベートし、c-Met抗体およびRP215を使用してWestern blots検出を行うものである。
【0031】
【
図4-11】実施例4--抗体RP215の外因的添加によるNCI-H520細胞のIntegrin-FAKシグナル伝達経路およびクローン形成能力への阻害の試験結果である。NCI-H520細胞培養上清において、対照抗体mIgG(50μg/ml)または異なる濃度の抗体RP215(2μg/ml、10μg/ml、50μg/ml)を加える。Aは12h、24hや36hに細胞を収集し、Western blotsでIntegrin-FAKシグナル伝達経路を検出するものであり、Bはクローン形成試験による細胞クローン形成能力の検出である。ns:notsignificant;***:P<0.001。
【0032】
【
図4-12】実施例4--RP215-IgGの外因的添加によって抗体RP215を逆転写できることによるSK-MES-1細胞のIntegrin-FAKシグナル伝達経路およびクローン形成能力への阻害作用の試験結果である。SK-MES-1細胞培養上清において、抗体RP215(10μg/ml)および異なる濃度のRP215-CIgG(2μg/ml、10μg/ml、50μg/ml)または透過液成分(10μg/ml、50μg/ml)を加える。Aは48hに細胞を収集し、Western blotsでIntegrin-FAKシグナル伝達経路を検出するものであり、Bはクローン形成試験による細胞クローン形成能力の検出の培養結果およびデータ統計結果である。ns:notsignificant;***:P<0.001。
【
図5】実施例5--肺癌組織、肺組織、流入領域リンパ節でのRP215-IgGの発現および
【0033】
それと肺癌予後の相関性である。Aは242例の肺癌組織の免疫組織化学的染色スコア結果であり、Bは様々な肺癌患者組織におけるRP215-IgGの免疫組織化学的染色切片であり、Cは正常な肺胞組織(Alveolus)、流入領域リンパ節組織(Lymph node)および気管支組織(Bronchus)のRP215免疫組織化学的染色結果であり、DはKaplan-Meier生存曲線でRP215染色スコアリング等級と肺扁平上皮癌患者の5-7年生存率との相関性を分析する曲線グラフである。
【0034】
【
図6】実施例7--RP215のインビボ抗腫瘍試験結果である。Aは試験手順の概略図であり、BはRP215(モノクローナル抗体)および対照mIgGをそれぞれ注射した腫瘍の変化であり、CはPDX腫瘍モデルにおける腫瘍体積の経時変化であり、D、Eはそれぞれ異なる日数の二つの試験における腫瘍重量変化の散布図および線グラフである。
【
図7】実施例7--腫瘍インビボモデルでの
124I-PR215の現像結果である。Aは
124I-PR215の放射性標識の概略図であり、Bは精製前後の
124I-PR215標識のRadio-TLC分析結果であり、Cは異なる時点での
124I-PR215のMicro-PET/CT現像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の実施例において、RP215-IgGとは、モノクローナル抗体RP215によって特異的に認識可能な非B細胞由来のIgGである。
生体材料の供給源:
モノクローナル抗体RP215:
【0036】
フロイントアジュバントによって感作されたBALB/cマウスの腹腔内で、ハイブリドーマクローンを培養してRP215を含む腹水を生成し、プロテインGアフィニティークロマトグラフィー(GE healthcare、USA)を使用して腹水から抗体を精製し、その後、濃縮してPBSを溶媒として使用することにより得られるハイブリドーマ細胞株。
【0037】
癌細胞株:
LSCC細胞株のNCI-H520、SK-MES-1および293Tは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Manassas、VA、USA)から得られ、かつ北京大学ヒトゲノム研究センターによって保存されている。
実施例1 RP215-IgG機能構造の決定
1、癌組織からのIgGの精製
【0038】
(1)protein G-Sepharose 4 Fast Flow(GE healthcare、USA)を使用して、非小細胞肺癌組織、乳癌若しくは卵巣癌の組織、または肺扁平上皮癌(LSCC)によって確立されたPDX腫瘍モデルから腫瘍IgGを事前に精製する。末梢血由来のIgGの影響を排除するためにPDX腫瘍モデルを使用する。
【0039】
(2)RP215アフィニティーカラムでRP215-IgGを精製する。
RP215アフィニティーカラムの調製方法は、モノクローナル抗体RP215とCNBr活性化されたSepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare、USA)を結合する。その後、
図1-1Aを参照して、(1) 330mgのCNBr-sepharese 4Bを1mMの塩酸で活性化した後、結合緩衝液(0.1M NaHCO
3、0.5M NaCl、pH8.3)を使用して平衡化する。(2) 5mgのRP215抗体を結合緩衝液に溶解し、活性化されたCNBrアガロースゲルフィラーに加えて4℃で一晩インキュベートする。(3) pH 8.0、0.1MのTris-HClを用いて、4℃で、結合したゲルを洗浄して一晩再懸濁させ、非結合活性化部位をブロッキングする。(4) 酸性洗浄液(0.1M NaAc、0.5M NaCl、pH4.0)およびアルカリ性洗浄液(0.1M Tris、0.5M NaCl、pH8.0)を交互に使用してアフィニティーカラムを少なくとも3回洗浄して、過剰なRP215を除去する。
【0040】
RP215アフィニティーカラムでRP215-IgGを精製する:PBS内で1μg/μLに調節した約5mgの腫瘍IgGを、アフィニティーカラムにて4℃で一晩インキュベートし、アフィニティーカラム中のRP215を腫瘍IgGと結合させる。少なくともカラム容量の5倍のPBSで洗浄した後、0.1MのTris-グリシン(pH2.4)を使用して溶出を行う。さらに分析するために、溶出液を収集してPBSを用いて限外ろ過して濃縮する。濃縮した溶出液は、分離されたIgGを含み、RP215-IgGとして標識化する。
2、IgGグリコシル化の分析
N-グリカンの放出
【0041】
50μgのRP215-IgG、2.5μLの200mM DTTおよび150μLの20mM炭酸水素アンモニウム緩衝液を、限外ろ過反応器(PALL、USA)に加え、50℃で1時間インキュベートし、さらに、溶液に10μlの200mM IAAを加える。光照射なしで、室温で45分間インキュベートしてタンパク質を変性させる。200μlの20mM炭酸水素アンモニウム緩衝液で変性したタンパク質を二回洗浄する。反応器に1μlのPNGase Fおよび200μlの20mM炭酸水素アンモニウム緩衝液を加える。37℃で一晩インキュベートして複雑なN-グリカン放出を実現する。
放出したN-グリカンを含む溶液を遠心分離して収集する。誘導体化する前に、溶液を凍結乾燥する。
N-グリカンのUPLC-HRMS分析
【0042】
UPLC-HRMS分析を行う前に、10%酢酸を1μl含む10μlの水溶液、2,4-ビス(ジエチルアミノ)-6-ヒドラジノ-1,3,5-トリアジンを30mg/ml含む7μlのイソプロピルアルコール、および2μlの水からなる誘導体化溶液に、収集したN-グリカンを加える。37℃で誘導体化反応を2時間進行させる。
【0043】
UPLC-Orbitrap(Thermo Fisher Scientific、Bremen、ドイツ)によって、さらなる精製を経ず、直接誘導体化した生成物をさらに分析する。流動相Aは10mMギ酸アンモニウム水溶液である。流動相Bはアセトニトリルである。流動相Aを15分間以内に20%から50%に増加し、5分間保持する。続いて流動相Aを5分以内に20%に低減し、さらに5分間保持する。ここで、流速は0.4ml/minで、カラム温度は10℃で、注入量は3μlとする。品質データを収集するために、ESI電圧を3.2kVに設定し、ESIを安定化するために、35のarbシースガスおよび10のarbアシストガスを使用する。誘導体化したオリゴ糖をポジティブモードで検出する。フルスキャン質量範囲は800から3000m/zである。
【0044】
上記の結果、循環IgGに一般的に見られないフコースおよびシアル酸を含むN-グリカンが28種類検出された。N5M3FG2とN5M3FG1(両方ともシアル酸を含まない)、および、N4M3FG1S1とN5M3FG1S1(両方とも一つの末端シアル酸残基を含む)の四種類のグリカンはRP215非結合成分において多い。N5M3FG2S2(シアリル化バイアンテナ状構造を持つ)の比率は該RP215非結合成分中で明らかに低下した(
図1-1B)。対照的に、N5M3FG2S2はRP215結合成分中の存在量がより高い(
図1-1B)。
3、IgGエピトープ部位の分析
認識部位のグリコシル化分析:
精製したRP215-IgGを脱グリコシル化する。
【0045】
上記1の溶出液(RP215-IgGを含み、elutionとして標識化する)をサンプルとし、N-結合型およびO-結合型のグリカンを消化するために、サンプルを変性緩衝液に加えて100℃で10分間変性させる。続いて、NP-40および適量のグリコシダーゼを含むG7反応緩衝液において、37℃で2時間インキュベートしてタンパク質を消化する。
【0046】
グリコシダーゼは、ほとんどすべてのN-糖鎖を加水分解可能なN-グリコシダーゼ(PNGase F)(NEB、USA)であり、O-グリコシダーゼ(O-glycosidase)(NEB、USA)はO-糖鎖を加水分解する。
【0047】
シアル酸を消化するために、ノイラミニダーゼ(Nueraminidase、即ちシアリダーゼ)(NEB、USA)を含むG1反応緩衝液中において、サンプルを37℃で2時間消化する。
【0048】
試験結果を
図1-1Dに示す。PNGaseFおよびノイラミニダーゼを使用して処理した場合、RP215により認識するバンドが消え、O-グリコシダーゼを使用して消化した場合、RP215の認識に影響がない。また、RP215-IgGの最も内側のGlcNAcとAsn残基の間の全てのN-結合炭水化物間の分子量は55kDから50kDに減少するが、O-グリコシダーゼ処理後のIgGは変化しないことが確認されている。上記結果から、RP215が認識するエピトープとIgG上のN-グリカンのシアル酸残基は関連していることが明らかになった。
【0049】
図1-1Aの電気泳動図から、精製して溶出された生成物elution(対象IgGを含む)はRP215により認識可能であり、カラムを通過していないサンプル溶液はinputバンドがわずかに示されており、通過液(flow through)はRP215によって認識できないことが示されている。
【0050】
図1-1Cは、主にα2,6結合シアル酸を認識するニワトコレクチン(Sambucusnigra agglutinin,SNA)、主にα2,3結合シアル酸を認識するイヌエンジュレクチンI(MaackiaamurensisleukoagglutininI、MAL I)というシアル酸を特異的に認識可能なレクチンを使用して、RP215アフィニティーカラムがシアリル化IgGを濃縮できるかを同定する試験の結果である。溶出液は、α2,6、α2,3の二種類の結合形態で結合されているシアル酸を含むことが示されている。
4、RP215-IgGのシアリル化認識部位の分析
【0051】
IgGのFabフラグメントは、CH1および幅広い多様性を示す可変領域からなる。RP215により認識可能なN-グリカン部位はCH1にあると仮定すれば、従来の研究に基づき、RP215は異なる組織の上皮癌由来のIgGを認識可能である。様々なVDJ組換えパターンがあるため、RP215が認識するエピトープは可変領域ではなく、CH1上にあるはずだと推測される。よって、CH1ドメインで発見された非定型グリコシル化モチーフTVSWN162SGAL(S160AおよびN162C)において、初期探索のために、部位指定突然変異を導入するとともに、対照のために、さらに、CH2ドメインにおける古典的なグリコシル化部位アスパラギン(N)297を導入したグルタミン(Q)として置き換えられる。
【0052】
図1-2Aを参照すれば、突然変異部位は、WTは野生型であり、C
H1muは162部位突然変異のS160AおよびN162Cであり、C
H2muは297部位突然変異のN 297 Qである。
【0053】
突然変異部位を含む二つの定常領域を、それぞれ可変領域V
H5-51/D3-9/J
H4(肺扁平上皮癌細胞で検出される優先発現配列)と融合し、それぞれC
H1muおよびC
H2muと名付ける。同時に、野生型C
H1およびC
H2ドメインを持つIgG(WT)を対照として構築する。まず、これらの組換えIgGプラスミド(WT、C
H1muおよびC
H2mu)を293T細胞で過剰発現し、Western blotを使用して野生型および突然変異型IgGに対するRP215の認識状況を検出した。この結果、RP215はWTおよびC
H2muを認識できるが、C
H1muを認識できないことが確認された(
図1-2Bを参照)。
【0054】
次に、肺扁平上皮癌細胞株NCI-H520により、RP215が認識するエピトープを検証する。これにより、内因性RP215-IgGの影響を排除し、flagタグ付きの組換えIgGプラスミドを構築する。続いてanti-flag beadsを使用してIPを行い、外因的に発現された野生型または突然変異型IgGを得る。293Tの結果と同様に、NCI-H520細胞において、RP215は、WTまたはC
H2muをよく認識できるが、C
H1muへの認識性が非常に低いことが確認された(
図1-2Cを参照)。
【0055】
RP215によって認識されるRP215-IgGにおけるエピトープは、古典的なN-グリコシル化部位Asn297ではなく、CH1ドメインの非古典的なN-グリコシル化部位Asn162である。
【0056】
したがって、該Asn162部位にN-グリコシル化シアル酸修飾されたCH1ドメインは、非B細胞由来IgGの特有の抗原エピトープとすることができる。
実施例2 IgG抗原エピトープを標的として、非B細胞由来の腫瘍細胞の増殖、遊走および浸潤を促進する能力を持つIgGを識別する
【0057】
実施例1では非B細胞由来IgGの特有の抗原エピトープが確認された。該抗原エピトープはRP215によって特異的に認識可能であるため、該抗原エピトープを特異的認識部位として、RP215を用いて非B細胞由来IgG(RP215-IgG)の機能を検出する。
【0058】
LSCC細胞株は、A549(腺癌ヒト肺胞基底上皮細胞)、Calu-3(ヒト肺腺癌細胞)、NCI-H1299(ヒト肺癌細胞)、NCI-H520(ヒト肺癌細胞)、SK-MES-1(ヒト肺扁平上皮癌細胞)である。
【0059】
まず、上記複数のLSCC細胞株からRP215-IgGの発現を検出し、LSCC細胞株によって発現や分泌可能なRP215-IgGが細胞表面およびECMに局在していることを発見した(
図2-1を参照)。
【0060】
NCI-H520細胞およびSK-MES-1細胞における重鎖定常領域のsiRNAを標的としてIgGを低減することにより、これらの細胞によって形成されたクローンのサイズが小さくなり、クローン形成数も明らかに減少した。また、細胞の遊走および浸潤能力は、Transwellおよびマトリゲルで被覆されたTranswellアッセイにおいて明らかに低下することが確認された(
図2-2、
図2-3)。同様の試験結果であることから、シアリル化IgGは肺ADC、乳癌および腎臓癌における細胞遊走、浸潤および転移に関連していることが示されている。
【0061】
インビトロ試験において、野生型IgG(WT)の過剰発現は細胞の遊走能力、浸潤能力、およびクローン形成能力を明らかに促進することができた。C
H1ドメイン上のグリコシル化部位を突然変異させると、WTと比較して、細胞遊走、浸潤、およびクローン形成を促進するC
H1突然変異型IgG(C
H1mu)の能力はいずれも顕著に低下した。その活性は空ベクター群と比較して一定の遊走促進効果を有するが、浸潤能力には有意差がなかった(
図2-4)。
【0062】
さらに、野生型IgG、C
H1突然変異型IgGおよび空ベクターを安定的に発現するNCI-H520細胞を、それぞれヌードマウスにおいて皮下腫瘍形成モデルを確立し、野生型IgG、C
H1突然変異型IgGの腫瘍成長促進能力を観察した。その結果、野生型IgGの過剰発現は、腫瘍の成長を大幅に促進するが、C
H1mu群の細胞成長が相対的に遅く、その腫瘍形成数、腫瘍体積および腫瘍重量は、いずれもWT群よりも顕著に低く、空ベクター(Vector)群と有意差がないことが確認された(
図2-5)。
【0063】
以上により、インビボ・インビトロの試験を通じて、RP215-IgGは肺扁平上皮癌の生存、遊走および浸潤を促進し、その生物学的活性はCH1ドメインの非古典的なグリコシル化部位に依存することが確認された。
【0064】
実施例3 シアリルトランスフェラーゼST3GAL4のRP215-IgGのシアリル化への関与
【0065】
シアリル化オリゴ糖配列の生合成は、シアリルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素ファミリーによって触媒される。各シアリルトランスフェラーゼはいずれもその特異的基質を持つ。
【0066】
従来の研究により、N-グリカンと結合する古典的なN-グリコシル化部位(Asn297)上のシアル酸は、シアリルトランスフェラーゼST6GAL-1によって媒介され、シアル酸とN-グリカンβ-D-ガラクトピラノシル(Gal)残基はα2,6-形態で結合していることが明らかになった。
【0067】
N-グリカンと結合する非古典的なN-グリコシル化部位(Asn162)上のシアル酸は、MALIを介してβ-D-ガラクトピラノシル(Gal)残基に結合することが確認されている。このため、三つのシアリルトランスフェラーゼであるST3GAL3、ST3GAL4、ST3GAL6(ST3β-ガラクトシドα-2,3-結合に関与する)、およびST6GAL1(対照とする)はさらに選別のための候補となる。
【0068】
いずれのシアリルトランスフェラーゼがRP215-IgGグリカン合成に関与するかを確定するために、RP215を四種類のシアリルトランスフェラーゼがそれぞれサイレンシングしたWesternブロットに用いた。その結果、ST3GAL4およびST3GAL6のノックダウンはいずれもRP215-IgGの発現を低下させ、ST3GAL4およびST3GAL6の過剰発現によって、RP215が認識するIgGが増加した。市販の抗-IgG抗体のWesternブロットが変化していないため、RP215が認識するIgGはシアル酸の影響を大きく受けることが明らかになった(実施例3-1)。
【0069】
シアリル化IgG(即ちRP215-IgG)とST3GAL4/ST3GAL6の関係を調べるために、NSCLCでの発現プロファイルおよび分布を分析した。免疫組織化学の結果によると、肺腺癌組織における気管支上皮細胞基底細胞および肺扁平上皮癌組織において、いずれもRP215-IgGおよびST3GAL4染色があり、ST3GAL6陽性染色は制限されていない。IHC結果によると、ST3GAL4はRP215-IgGのシアリル化に関連していることがわかった(実施例3-2)。
【0070】
したがって、ST3GAL4酵素の活性をブロッキングすれば、IgGのシアリル化を止め、腫瘍細胞の遊走および浸潤の機能を阻害し、腫瘍細胞の成長、遊走および浸潤を止めることができる。
【0071】
実施例4 RP215-IgGのインテグリンα6β4との相互作用とc-Metとの架橋
肺扁平上皮癌の増殖、遊走および浸潤の進行におけるRP215-IgGのメカニズムを検討するために、まず、RP215-IgGと相互作用するタンパク質を探した。肺扁平上皮癌細胞株のNCI-H520タンパク質を抽出し、RP215を使用して共免疫沈降(Immunoprecipitation,IP)を行い、次に、抗体RP215および対照抗体mIgGのIPによって得られたタンパク質を全てそれぞれLC-MS/MSを通過させて質量スペクトル分析を行った。
【0072】
質量スペクトルを利用して潜在的な相互作用タンパク質を分析すると共に、ラベルフリー定量的なプロテオミクス(label-free quantification,LFQ)の手法を使用してこれらのタンパク質の相対存在量を定量化した。RP215のIPによって得られたタンパク質と陰性対照抗体mIgGのIPによって得られたタンパク質を比較すると、LFQ値がゼロのmIgG群におけるタンパク質のみがRP215-CIgGと特異的に相互作用可能なタンパク質であると考えられる。続いて、データベースhttps://david.ncifcrf.gov/を使用して選別された全てのタンパク質に対して、細胞成分のGene Ontology(GO)分析、即ちGene Ontology Cellular Component analysisを行った。その結果から、RP215-IgGと特異的に相互作用するタンパク質成分は主に細胞膜関連タンパク質であり、細胞-細胞間の接着結合、局所接着および半接着斑の形成等に関与することが示された(
図4-1A)。上記複数のGO term中のタンパク質成分をさらに分析し、その質量スペクトルスコアを比較した(結果は
図4-1Bを参照)。最後に、腫瘍の形成および転移の促進に重要な役割を果たすという近年のいくつかの文献で報告されたインテグリンファミリーに焦点を当てることとした。
【0073】
MSの発見を実証するために、RP215を使用してIP(免疫沈降)を行うと、シアリル化IgG(即ちRP215-IgG)がインテグリンβ4またはインテグリンα6と相互作用するが、インテグリンβ1とは相互作用しないことが確認された。なお、インテグリンβ4またはインテグリンα6を使用して免疫沈降を行うと、両方の親和性溶出画分においてもRP215-IgGが検出され、シアリル化IgGとインテグリンα6β4複合体の特異的相互作用が示されている(
図4-2を参照)。
【0074】
シアリル化IgGの発現がインテグリンβ4の発現に関連するか否かを明確にするために、まず、臨床肺扁平上皮癌組織を使用して、免疫組織化学の手法で隣接するパラフィン切片上において、シアリル化IgGおよびインテグリンβ4の組織分布パターンをそれぞれ検出した。肺扁平上皮癌では、RP215および抗インテグリンβ4抗体が細胞膜でいずれも強陽性の染色性を示しており、且つ両者の分布パターンが非常に類似することが確認された(
図4-3)。
【0075】
また、細胞レベルでRP215-IgGとインテグリンβ4の発現レベルの相関性を検討した。コラゲナーゼIVおよびDNA酵素Iで肺扁平上皮癌PDXモデルの腫瘍組織を消化し、単細胞懸濁液を得、続いてフローサイトメトリーで細胞膜上での両者の発現状況を分析した。7-AAD陰性ゲートで生細胞を得た後、RP215-IgGは肺扁平上皮癌PDX腫瘍においていずれも高レベルで発現した。さらにフローサイトメトリーを行ったところ、RP215-IgG陽性細胞集団におけるインテグリンβ4の陽性率(79.3%-92.6%)がRP215-IgG陰性細胞集団におけるインテグリンβ4の陽性率(14.1%-57.2%)よりも明らかに高いことが示された(
図4-4 A)。
【0076】
また、肺扁平上皮癌細胞株において、RP215-IgG陽性細胞におけるインテグリンβ4の発現をさらに評価した。フローサイトメトリー細胞選別技術を使用し、NCI-H520細胞株から濃縮してシアリル化IgGの高発現(RP215-IgG
high)および低発現(RP215-IgG
low)の二つの細胞集団を得た。その後、Western blotsにより二つの細胞集団におけるインテグリンβ4の発現状況を検出した。検出結果から、LSCC細胞株では、RP215-IgGとインテグリンβ4のタンパク質発現レベルが正の相関関係にあることが示された(
図4-4 B)。
【0077】
最後に、免疫蛍光法を使用して、細胞中のRP215-IgGおよびインテグリンβ4の局在を検出した。検出結果から、RP215-IgGは細胞膜および細胞質のいずれにおいても発現し、インテグリンβ4は主に細胞膜で発現し、かつ、両者は細胞膜で明らかに共局在することが示された(
図4-5)。
【0078】
以上の結果、RP215-IgGおよびインテグリンβ4は、組織レベルおよび細胞レベルで共発現・共局在することが確認された。これにより、自然条件下での両者の相互作用に関する物質的基礎が提供された。
【0079】
RP215-IgGおよびインテグリンβ4の共発現および共局在により、インテグリンβ4がRP215-IgGの分布や発現を特徴づけるマーカーとしてRP215-IgGの検出に用いられることが証明された。そして、RP215-IgGが上皮性腫瘍の増殖、遊走および浸潤を進行させるため、インテグリンβ4はマーカーとして上皮性腫瘍の検出を補助する薬物の調製に用いることができる。
【0080】
悪性腫瘍細胞において、インテグリンα6β4は、様々な受容体チロシンキナーゼ(RTK)に関連し、かつ腫瘍細胞の浸潤および転移を進行させるためにシグナルが増幅することが実証されている。抗体RP215を使用してNCI-H520細胞で免疫沈降を行い、質量スペクトルを使用してRP215-IgG相互作用タンパク質を見つける時、RP215と結合する成分として、RTKファミリーのc-MetおよびEGFRが検出され、かつ、そのスコアが相対的に高く、RP215-IgGとRTKファミリーが相互作用することが示されている(
図4-7)。
【0081】
シアリル化IgGによって活性化される特異的RTKを研究するために、NCI-H520およびSK-MES-1においてIgGをノックダウンした後、リン酸化チップを使用して、RTKファミリーにおけるEGFR、HER2、c-MetおよびこれらのRTK下流シグナル伝達の主要分子のリン酸化レベルを検出した。その結果、二つの細胞株でIgGをノックダウンすると、c-MetのTyr1234/1235部位のリン酸化レベルは大幅に低下するが、EGFRおよびHER2のリン酸化レベルは変化していないことが明らかになった(
図4-8)。同時に、RTK下流Ras-MAPKおよびPI3K-Akt経路の主要分子のMEK、Erk1/2、Aktのリン酸化レベルはすべて大幅に低下した。Western blotsを使用してリン酸化チップの結果をさらに確認した(
図4-9)。
【0082】
IgGのノックダウンにより、Metのチロシンリン酸化が大幅に低減するため、LSCCにおいてシアリル化IgGがどのようにインテグリンβ4またはMetと複合体を形成するかさらに検討する。
【0083】
まず、NCI-H520細胞において、内因性共免疫沈降によって、RP215-IgGとc-Metの相互作用が実証されている。次に、同様に共免疫沈降法を使用してRP215-IgG、インテグリンα6β4、c-Metの三者の相互作用を検討する。NCI-H520細胞において、c-Metおよびインテグリンβ4をそれぞれノックダウンし、その後、RP215を用いて免疫沈降を行った。その結果、ノックダウンしていないNC群と比較して、c-MetのノックダウンはRP215-IgGとインテグリンβ4の相互作用に影響を及ぼさないが、インテグリンβ4をノックダウンした後、RP215-IgGとc-Metの相互作用が消えることが確認された(
図4-10B、Cを参照)。このことから、シアリル化IgGはインテグリンβ4と複合体を形成しなければMetと相互作用しない可能性が考えられる。
【0084】
インテグリン-FAKおよびMetシグナル伝達経路はシアリル化IgGの調節による細胞の増殖および遊走に関与する。
【0085】
続いて、シアリル化IgGがLSCC細胞株の増殖および遊走を促進する分子メカニズムを研究する。インテグリンファミリーは、細胞外マトリクスタンパク質受容体として、それ自体は内在的なチロシンキナーゼ活性を持たないが、主に非受容体チロシンキナーゼを動員や活性化することによりシグナル伝達を行う。インテグリンβ4は、対応するリガンドと結合した後、その細胞質領域のドメインを介して局所接着キナーゼ(focal adhesion kinase,FAK)を動員し、FAKのTyr397部位をリン酸化し、さらにSrcのSH2ドメインと結合してSrcのTyr416部位のリン酸化を促進できる。Srcのリン酸化後に、フィードバック調節によってFAKのTyr925部位をリン酸化し、最終的に下流のRas-MAPKまたはPI3K-Aktのカスケード反応を引き起こすことができる。
【0086】
シアリル化IgGがFAKまたはMetシグナル伝導に関与するか否かを把握するために、siRNAによりLSCC細胞株でIgGをサイレンシングする。当然ながら、二つの異なるsiRNAによってIgGをノックダウンすると、FAKおよびSrc関連部位のリン酸化レベルを大幅に低下させることができ、RP215-IgG発現レベルのダウンレギュレーションがFAK-Srcシグナル伝導の不活性化を引き起こすことを示している。また、paxilinは局所接着複合体のメンバーとして、FAKが直接活性化する標的である。そのTyr118部位のリン酸化レベルのアップレギュレーションにより、paxilinを活性化して、細胞骨格リンカータンパク質としての機能を発揮し、細胞の運動または細胞分裂に関連するシグナル伝達経路を活性化することができる。同様に、IgGがノックダウンされると、パキシリン(paxilin)のTyr118部位のリン酸化レベルも明らかに抑えられることが確認されている(
図4-6を参照)。
【0087】
シアリル化IgGは上清に分泌され、LSCC細胞膜上のインテグリンβ4と共局在する。このため、IgGがサイレンシングされたLSCC細胞におけるFAKシグナルの観察された変化が分泌したIgGによって誘導されるか否かを研究するために、モノクローナル抗体RP215を使用してIgGおよびインテグリンβ4からなる複合体をブロッキングおよび破壊した。アイソタイプ対照と比較すると、RP215処理後にFAK、Src、paxilinおよびAktのリン酸化の濃度は時間に依存して大幅に低下し、また、Metシグナル伝導を媒介したErk1/2の活性が大幅に低下した(試験結果が
図4-10を参照)。
【0088】
分泌型IgGの機能と作用をさらに検証するために、RP215アフィニティークロマトグラフィー法を使用して、LSCC PDX腫瘍から精製された外因性シアリル化IgG(RP215-IgG)をNCI-H520細胞の培地に加え、RP215の外因的添加またはIgGのノックダウンによるFAKシグナル伝導を媒介した。投与量を増やしたRP215-IgGと共にインキュベートすると、FAKシグナル伝導への阻害が徐々に逆転することが確認されている。また、RP215-IgGの外因的添加によって、IgGのノックダウンによるクローン形成能力および遊走能力の低下も顕著に救済することができるが、RP215アフィニティークロマトグラフィーにおける通過液のIgG成分はこのような機能を実現できない(
図4-11および
図4-12を参照)。
【0089】
シアリル化IgGによって中和したFAKシグナルの活性化がシアリル化N-グリカン修飾に依存するか否かをさらに研究するために、RP215-IgGをノイラミニダーゼで消化した。10μg/mlのRP215と36時間インキュベートした後、ノイラミニダーゼ消化後のFAK活性に対するRP215-IgGの効果が認められないため、シアリル化IgGの機能活性はシアル酸構造に依存することが明らかになった。
以上により、インテグリン-FAKシグナル伝導は、シアリル化IgGが癌細胞の増殖および遊走を促進する重要な分子メカニズムであることが確認された。
【0090】
従来の研究から、シアリル化IgGとインテグリンα6β4を結合して複合体を形成しなければ、インテグリン-FAKシグナル伝達経路の活性化を促進できないことも示されている。シアリル化IgGはインテグリンα6β4のリガンドとしてα6β4-FAK経路によって媒介される疾患の診断または治療薬の調製に用いることができ、当然ながら、該IgGのCH1ドメインのAsn162部位はN-グリコシル化シアル酸によって修飾されている。
【0091】
実施例5 RP215-IgGが非小細胞肺癌を特異的に標識化する
患者検体:
【0092】
ハルビン医科大学付属腫瘍病院(ハルビン市黒竜江省)の242人の患者の手術からホルマリン固定・パラフィン包埋の肺癌組織切片が得られた。臨床病理学的特徴は医療レポートにより得られた。腫瘍標本の診断および組織学的分類は世界保健機関(WHO)の分類に準拠して行われた。腫瘍-リンパ節転移(TNM)の病期分類は米国癌合同委員会(AJCC)のガイドラインに従って決定された。
【0093】
患者は25~82(56.6±10.6)歳の年齢範囲にあり、このうち、121例はSCC(扁平上皮癌)、76例はADC(肺腺癌)、21例はSCLC(小細胞肺癌)、5例は大細胞肺癌、5例は気管支肺胞癌、14例は未分化癌である。女性患者は62名(25.6%)である。組織病理学的等級付けでは、26.8%のサンプル(n=65)が十分に分化し(グレードI)、49.2%(119例)が中程度に分化し(グレードII)、24.0%(58例)があまり分化していない(グレード3)。TNM病期分類標準によると、134例(55.4%)がI期、50人(20.7%)がII期、56人(23.1%)がIII期、2人(0.8%)がIV期である。
モノクローナル抗体RP215を使用して様々なタイプの肺癌患者の242個の癌症組織においてシアリル化IgGを測定した。
【0094】
まず、SCLC(0/21)ではなく、NSCLCにおいてシアリル化IgGの高発現(140/221、63%)が確認された。また、NSCLC症例では、シアリル化IgGはSCCにおいて高頻度で発現され(102/121、84.3%)、ADC(28/76、36.8%)、小細胞肺癌(2、5、40.0%)および未分化癌(8/14、57.1%)では、低頻度で発現され、気管支肺胞癌(0/5)では染色が見られなかった。
【0095】
さらに、シアリル化IgGの発現パターンおよび病理学的スコアを比較すると、SCCのシアリル化IgG陽性組織では、全ての癌細胞、特に細胞表面において非常に強い染色性(スコア:110.9)を示した。しかし、非SCC組織では、わずかな癌細胞のみが弱いまたは中程度の染色性(スコア:21.1)を示すことが確認された。このことから、シアリル化IgGはNSCLCの進行を促進し、かつ、SCCの細胞表面におけるシアリル化IgGが肺SCC治療のための標的として使用可能であることが明らかになった。
【0096】
次に、シアリル化IgGが正常な肺組織に発現するか否かを検討した。剖検(6例)または隣接する癌組織(23例)の流入領域リンパ節では、偽重層円柱状繊毛様上皮細胞、正常な肺胞上皮細胞および流入領域リンパ節のリンパ球が染色されていないことが確認された。しかし、気管支上皮細胞の基底細胞では末梢染色が観察された。これまでのところ、LSCCは、この細胞集団、特に癌組織に隣接する気管過形成性基底細胞に由来するものであると考えられている(
図5A-Cを参照)。
【0097】
実施例6 RP215-IgGが同様に他の上皮性腫瘍を特異的に標識化する
患者検体:
【0098】
癌組織切片には、100例の大腸癌、200例の乳癌、87例の前立腺癌、70例の腎臓癌、45例の膀胱癌、80例の嚢胞腺癌、70例の胃癌、20例の膵臓癌、50例の食道癌が含まれている。それぞれ陝西超英バイオテクノロジーおよび上海芯超バイオテクノロジー社から購入した。臨床病理学的特徴は医療レポートから得られる。腫瘍標本の診断および組織学的分類は世界保健機関(WHO)の分類に準拠して行われる。腫瘍-リンパ節転移(TNM)の病期分類は米国癌合同委員会(AJCC)のガイドラインに従って決定される。
モノクローナル抗体RP215を使用して、様々なタイプの上皮性腫瘍組織においてRP215-IgGを測定した。
【0099】
大腸癌組織での発現頻度は74%(74/100)で、乳癌での発現頻度は94.5%(189/200)で、前立腺癌組織での発現頻度は85%(74/87)で、腎臓癌組織での発現頻度は77%(54/70)で、膀胱癌組織での発現頻度は100%(54/54)で、嚢胞腺癌組織での発現頻度は94%(75/80)で、胃癌組織での発現頻度は86%(60/70)で、膵臓癌組織での発現頻度は100%(20/20)で、食道癌組織での発現頻度は100%(50/50)であることが確認された。RP215-IgGは様々な上皮由来の腫瘍で高頻度に発現することが明らかになった。
【0100】
剖検(6例)または隣接する癌組織(23例)の流入領域リンパ節では、偽重層円柱状繊毛様上皮細胞、正常な肺胞上皮細胞(
図5Cの左上の画像)および流入領域リンパ節のリンパ球(
図5Cの右上の画像)が染色されていないことが確認された。しかし、気管支上皮細胞の基底細胞において、末梢染色(
図5Cの下の二つの画像)が観察された。これまでのところ、LSCCは、細胞集団、特に癌組織に隣接する気管過形成性基底細胞に由来するものであると考えられている。
【0101】
また、発現頻度と腫瘍転移および予後不良の関係を比較すると、RP215-IgGの発現レベルおよび頻度はいずれも腫瘍の転移および予後不良と正の相関関係を示していることが確認された。よって、RP215-IgGは上記上皮性腫瘍の形成および転移に関与し、上皮性腫瘍に対する様々な治療標的があり、かつ腫瘍の転移および予後不良の予測に使用可能であることが示唆されている(
図5D)。
【0102】
実施例7 RP215-IgGのブロッキングによって、癌を治療することができる
抗体RP215の機能的ブロッキングは、LSCC PDXモデルに対してインビボで治療効果を示している。
【0103】
従来の試験結果から、RP215-IgGのCH1ドメインのAsn162部位のN-グリコシルは、シアル酸で修飾されるとRP215により認識可能になり、且つ該機能構造を持つIgGは、そのグリコシル化修飾がシアリルトランスフェラーゼST3GAL4によって媒介されることが実証されている。以下では、この特有の構造を認識するモノクローナル抗体RP215をRP215-IgGと結合することによりその機能をブロッキングする。
腫瘍細胞の遊走および浸潤の関与
PDX腫瘍モデルの確立および抗体療法:
【0104】
6週齢の重症複合免疫不全症(SCID)-BeigeマウスはVital River Laboratoriesテクノロジー有限公司(中国北京)から入手した。全ての動物の管理および使用は、いずれも北京大学医学部の動物投薬と管理に関するガイドラインに従って行われた。
【0105】
北京大学腫瘍病院で外科的切除を受けた肺扁平上皮癌患者から、腫瘍組織を3つ得た。第4世代のPDXを抗体療法に用いた。RPMI 1640を含む滅菌ペトリ皿に、転移した腫瘍を入れ、その後、2×2×2mm3の組織ブロックに切った。通常、各フラグメントを右側および左側の皮下領域に埋め込んだ。腫瘍が~100mm3になってから、抗体療法を開始した。マウスをそれぞれの治療群にランダムで割り当てた。mIgGまたはRP215(PBSに溶解したもの)を、5mg/kgで、週に二回で6週間尾静脈注射した。一日おきに腫瘍の成長状況を監視した。
LSCCにおけるRP215-IgGの発癌性を把握した場合、RP215が静脈注射によってPDXモデルの治療効果を達成できるか否かを検出した。
【0106】
PDX腫瘍は、原発性腫瘍で発現する主要な遺伝子の大部分を保持しており、最初に確立された細胞株よりも元の臨床腫瘍に近い。研究では、LSCC患者由来の腫瘍が3つ使用されており、移植腫瘍の組織学的分析により、異種移植片がLSCCの表現型を維持していることが確認された。
【0107】
図6に示すように、マウスごとに5mg/kgのRP215処理を行うと、事前に確認された腫瘍の成長率が、mIgG対照と比較して、60%低下した。試験終了時RP215処理群の腫瘍の平均重量は0.31±0.14gであり、対照群(0.81±0.29g)よりも大幅に低かった。別の二つのケースでも同様の効果があった。
実施例8
124I-PR215の製造、品質管理およびMicro-PET/CT初期研究
【0108】
124TeO
2(99.0%)はロシアのCenter of Molecular Research会社から、Sumitomo HM-20サイクロトロンおよび
124I精製システム(Industrial Equipment Division)は日本住友会社から、放射能測定放射能計は米国Capintec会社から、Micro-PET/CTはハンガリーMediso会社から購入した。放射性標識の概略図は
図7Aを参照する。
【0109】
標識化と品質管理:
1.標識抗体:PR215、投与量:0.2mg、抗体濃度は2.0mg/mlである。
2.放射性124I:本機関のサイクロトロンによって製造され、バッチ番号:2018-I-124-003、放射能濃度は5×37MBq/mLである。
3.精製カラム:米国Sigma社製 PD-10カラム。
4.酸化剤:ブロモコハク酸イミド(以下、NBSという)、米国Sigma社製。
5.リン酸緩衝溶液(以下、PBという):pH7.2およびpH7.4の0.1および0.01Mのリン酸緩衝溶液、自社製。
6.ヒト血清アルブミン(以下、HSAという):含有量は10%であり(20%のHASで希釈される)、華北製薬製。
【0110】
試験機器:放射能計:(中国計量科学研究院)、表面汚染測定機器(スウェーデン)、放射性ヨウ素標識用グローブボックス(上海同普会社)。
抗体溶液の標識化:
7.0.2mgのPR215(容量200μL)を、0.3ml 0.1MのPH7.4のPBに加えた。
【0111】
8.必要な放射性Na124I溶液を0.5ml抽出した。放射能は2.5×37MBqであり、標識化する抗体溶液において該放射性溶液を加えると、直ちに10μgのNBS(1mgあたりの抗体に50μgのNBSを加え,0.01M PBSで調製することに相当する)を加え、60s反応させた後、10%のHSAを0.3ml加えて反応を終了させた。続いてサンプリングして標識率を測定し、PD-10カラムを通過して精製分離した。カラム注入量は1.5mCiであり、収率は2.0mCiであり、比放射能は10mCi/mgであり、放射能濃度は1mCi/mLであった。
【0112】
9.標識率の測定:アセトン展開剤を使用した。ITLC-SGを固定相としてアップリンク展開を行った。標識物は原点にあり、遊離
124Iはフロントにある。Radio-TLCを使用して放射能カウントを測定し、かつ標識率を算出した。
放射性標識の精製前後のRadio-TLC分析は
図7Bを参照する。
24I-PR215のMicro-PET現像
【0113】
18.5MBqの124I-PR215生理食塩水溶液を、ヒト肺扁平上皮癌PDXモデル動物に尾部静脈注射した。薬物注射後20時間、60時間、80時間、120時間に、Matrx VIP 3000動物用麻酔器を使用して、300mL/minの酸素で3.0%イソフルランを吹き付けてマウスに麻酔をかけ、マウスを腹臥位でスキャンベッドに固定した。150mL/miの酸素で1.0-1.5%イソフルランを吹き付けて麻酔状態を維持し、Micro-PET/CTスキャンを行った。スキャンエネルギーウィンドウは350-700KeVで、断面視野は80mmで、3Dモードで15min収集し、収集後に、ランダムおよび散乱減衰補正を使用してOsemアルゴリズムで3D画像を再構築し、再構築後、MMWKS SUPERARGUSソフトウェアを使用して画像を処理した。
【0114】
調製した
124I-PR215溶液を正常なマウスに尾静脈注射した後、Micro-PET/CTを使用して結像試験を行った。結果を
図7Cに示しており、
124I-PR215溶液の尾静脈注射後20時間、60時間、80時間、120時間に、心血液プールから腫瘍までの範囲で、放射能濃縮が明らかに認められ、他の正常な組織器官では放射能濃度が低かった。また、
124Iは主に膀胱で代謝される。Micro-PET現像に基づき、本研究で調製した
124I-PR215はヨウ素シリーズのモノクローナル抗体の生体内での代謝挙動に適合し、かつ、モデル動物腫瘍で放射能の取り込みが良好であることが証明された。
【0115】
本明細書では、具体的な個別例を用いて発明の概念を詳しく説明したが、以上の実施例の説明は本発明の中心的な思想に対する理解を助けるためのものに過ぎない。当業者であれば、該発明の概念から逸脱せずになされる修正、同等置換または他の改善はいずれも本発明の保護範囲内に含まれることは明らかである。
【配列表】