(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】カーボンナノ構造化材料及びカーボンナノ構造化材料の形成方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/18 20170101AFI20221012BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20221012BHJP
H01L 31/0352 20060101ALI20221012BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20221012BHJP
H01G 11/36 20130101ALI20221012BHJP
C23C 16/26 20060101ALN20221012BHJP
H01M 4/587 20100101ALN20221012BHJP
【FI】
C01B32/18
H01M4/88 C
H01L31/04 342Z
H01G11/86
H01G11/36
C23C16/26
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2020568541
(86)(22)【出願日】2018-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2018065365
(87)【国際公開番号】W WO2019238206
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】513114342
【氏名又は名称】インスティテュート ヨージェフ ステファン
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】ザプロトニック・ロック
(72)【発明者】
【氏名】モーゼティック・ミラン
(72)【発明者】
【氏名】プリムク・グレガー
(72)【発明者】
【氏名】ベセル・エーレンカー
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/117777(WO,A1)
【文献】特開2011-038797(JP,A)
【文献】国際公開第2019/035438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
COサイクルを用いて基板上にCNWの層を堆積させる方法であって、
固体又は液体材料である炭素含有前駆体材料を反応チャンバに供給する工程と、
酸素含有雰囲気を前記反応チャンバに供給する工程と、
前記反応チャンバ内で前記酸素含有雰囲気においてプラズマ放電を形成する工程と、
を備え、
前記プラズマ放電におけるCO分子が前記炭素含有前駆体材料と相互作用してx>yであるC
xO
y分子を形成し、該C
xO
y分子が前記基板に拡散して前記基板において分解してCO分子及び炭素を形成し、該炭素がCNWを形成する、方法。
【請求項2】
前記C
xO
y分子の分解によって前記基板において形成された前記CO分子が続いて前記炭素含有前駆体材料に拡散して更なるC
xO
y分子を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記C
xO
y気体分子の少なくとも一部が帯電されることにより、前記基板との相互作用の前に前記プラズマと前記基板の間のシースにおいて加速されてCNWの形成を促進する、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
x≧2である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
y≧1である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基板が100~1500℃の範囲の温度に加熱される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基板が700~1000℃の範囲の温度に加熱される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素含有前駆体材料が100℃よりも高い温度に加熱される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記炭素含有前駆体材料が300℃よりも高い温度に加熱される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
CNWの堆積中の前記反応チャンバの圧力が1Paと100Paの間である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応チャンバにおける前記酸素含有雰囲気が、水素含有ガスを実質的に含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記CNWの前記基板上に堆積する方向の成長速度が1nm/秒よりも大きい、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記CNWの前記基板上に堆積する方向の成長速度が少なくとも10nm/秒である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
CNW材料の製造方法であって、該製造方法は、
請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって取得され又は取得可能であるCNW材料の製造方法。
【請求項15】
前記CNW材料が、燃料電池又は光電池デバイスに使用される、
請求項14に記載のCNW材料の製造方法。
【請求項16】
基板上にCNWの層を堆積させる方法であって、
x>yであるC
xO
y分子を含有する雰囲気を反応チャンバに供給する工程と、
基板を前記反応チャンバに供給する工程と、
前記反応チャンバ内で前記x>yであるC
xO
y分子を含有する雰囲気においてプラズマ放電を形成する工程と、
を備え、
前記x>yであるC
xO
y分子が前記基板に拡散し、前記基板において分解してCO分子及び炭素を形成し、該炭素がCNWを形成する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ構造化材料及びカーボンナノ構造化材料の形成方法に関する。垂直配向カーボンナノウォール(CNW)などのカーボンナノウォール材料が、特に注目されている。そのような材料は、例えば、燃料電池、リチウムイオン電池などの充電可能電池、光電池デバイス及び標的気体分子のセンサなどのアプリケーションにおいて注目されている。
【背景技術】
【0002】
「カーボンナノウォール」(以下、CNWという)材料は、定義された形態を有する一群の炭素含有構造体を表す。CNW材料は、標準的には約100nm以下の厚さ、約100nmと100,000nmの間の高さを有し、基板の表面から略垂直に延在する。それらは、通常、基板上の高密度アレイに形成され、ランダムに配向されるので、ネットワークを形成することが多い。CNWは、主に炭素で構成されるが、水素、フッ素、窒素、酸素又は金属原子を含む他の所定の元素を含み得る。CNWの構造は、グラフェンシートに富んでいることもあるが、他の種類の炭素も含有し得る。そのような構造体は、滑らかな炭素材料と比べて非常に大きな特異表面積を可能とするが、それでも優れた電気的及び化学的特性の利益を受ける。CNWは、グラフェン状材料の大きな特異表面が必要なデバイスにおけるアプリケーションに対する有望な材料とみなされている。その例は、燃料電池、リチウムイオン電池、光電池デバイス、薄膜トランジスタ、特定の気体分子のセンサ、電界放射デバイス、電池、吸光体、電気化学的気体センサのための強化された検出器、電気二重層コンデンサ、及び再生医学のための骨格を含む。
【0003】
CNW構造体の合成に関する最初の報告は、2002年の科学文献(Wu他(2002))に登場した。彼らは、最終圧力3×10-9torrの超高真空システムを用いた。使用された気体は、流量がそれぞれ40及び10seemのメタン及び水素であった。メタンは部分的に解離してプラズマ条件に応じてイオン化するため、そのようなガス混合物は、ダイヤモンド、ナノチューブ及びフラーレンなどの他の任意のカーボンナノ材料を堆積させるための自然な選択である。結果として、C、CH、CH2及びおそらくはCH3などのラジカルは、基板表面に付着する。水素がほとんどないカーボン構造体を成長させるのに適したほぼ純粋な炭素への水素化炭素の好適な分解のために、約700℃の非常に高い基板温度が用いられた。成長するCNWに応じてより高いエネルギーを基板に伝達するように、更なる直流バイアスが印加された。成長を刺激するために、触媒(標準的にはNiFe)が適用された。水素の付加は、原子の水素並びにプラスに帯電した分子及び原子の水素が弱い結合の炭素の除去をもたらすので、CNWの適切な構造に有益なことであり、不可欠なこととして開示された。Wu他(2002)は、電池、発光及び変換デバイス、触媒、並びに大きな表面積材料を必要とする他の分野におけるアプリケーションに適した独自のCNWを見出した。同じグループが、CNWテンプレートにおける磁気ナノ粒子の電気化学的合成も報告した(Yang他(2002))。
【0004】
2005年に、M.Horiのグループが、フッ化炭素/水素混合物を採用する、容量結合された無線周波プラズマ強化化学蒸着による二次元カーボンナノ構造体(CNW)の製造を報告した(Shiji他、2005)。CNW成長と、炭素原料ガスなどの製造条件との相関関係が調査された。さらに、CNWの成長メカニズムを議論するために、プラズマにおけるH原子密度の影響が真空紫外線吸収分光法を用いて測定された。
【0005】
また、2005年に、Tanaka他(2005)が、マイクロ波プラズマ強化化学蒸着によるSiO2基板におけるCNWの成長を報告した。彼らは、成長プロセスを調査し、(Wu他(2002)とは逆に)CNWがSiO2の細粒質構造において成長し、成長プロセスは触媒を必要としなかったことを明らかにした。CNWは、初期に半円形を有していた。高さ、厚さ及びメッシュサイズは、成長時間とともに増加した。時間の関数としてのCNWの高さは二乗則に従うことが見出された。時速約10μmの非常に高い成長速度が達成された。彼らは、有用な気体混合物として、水素とともに炭化水素も用いた。
【0006】
2006年に、Itoh他(2006)が、触媒化学蒸着技術を用いてCNWの調製及び電界放出を報告した。CNW膜は、CH4ガスのみを用いて調製された。プラズマに水素は付加されなかった。基板上のCNW構造体は、約500℃の基板温度において観察された。より低い温度に加熱された基板では、壁構造は観察されなかった。
【0007】
Dikonimos他(2007)は、10~200nmの範囲の最大長さ寸法及び5nm未満の壁厚のCNWを報告した。そのような構造体は、高周波化学蒸着反応炉においてSi基板上に成長した。成長前駆体は、希ガス(ヘリウム)に希釈されたメタンからなるものであった。成長速度及び膜形態に対する直流プラズマの効果が調査された。実験の設定は、基板表面におけるプラズマ電圧及び電流密度を独立して変化させることを可能とした2グリッドシステムからなるものであった。成長速度の増加は、基板電流密度が増加したときに膜厚が数ナノメートルから約200nmに増加したこととして観察された。
【0008】
気体混合物における水素の重要性が、Shimabukuro他(2008)において詳述された。上記の内容とは異なり、Shimabukuro他(2008)は、メタン系前駆体の部分的解離のための熱表面(配線)を採用した。異なる水素希釈比のCH4が、水素希釈に対するCNWにおける構造変形に用いられた。10%と25%の間の水素希釈比(H2/CH4+H2)で調製されたサンプルにおける壁高及び幅は、水素希釈なしで調製されたサンプルに対するものよりも大きかった。
【0009】
米国特許出願公開第2007/184190号は、CNWを生成する方法及びその方法を実施するのに適した装置を開示する。炭素を含有する原料ガスは、平行プレート状容量性結合プラズマ(CCP)発生器を有する反応チャンバに導入される。反応チャンバの外部に配置される第2のラジカル生成チャンバにおいて、RF波又は他の波動を用いて、水素を含有するラジカル原料ガスを分解することによって水素ラジカルが生成される。水素ラジカルはプラズマ雰囲気に導入され、それにより、CNWはCCPの第2の電極に配置された基板上に堆積される。この方法によるCNWの成長は、非常に遅く、約5時間で約1pmの高さのCNWである。米国特許出願公開第2007/184190号の開示は、高品質CNWの成長に不可欠とみなされていた原子の水素の遠隔ソースのアプリケーションに特化している。本発明者は、米国特許出願公開第2007/184190号に開示される方法の欠点は長い処理時間にあると考えた。
【0010】
特開2008-063196号は、そのような欠点を抑制して、カーボンナノ構造体を形成する基材が連続的に供給されることにより大量生産を容易化するカーボンナノ構造体のための生産方法及び生産装置を提供することを目的とする。特開2008-063196号に記載される方法は、米国特許出願公開第2007/184190号に基づく。
【0011】
米国特許出願公開第2011/045207号は、CNWの結晶性を改善するために、米国特許出願公開第2007/184190号に開示される方法を改善することを目的とする。ここで、彼らは、成長速度を約60nm/分まで向上させた。しかし、結晶性の更なる向上は、成長速度を約20nm/分に低下させた。
【0012】
基材におけるCNWの成長のための方法は、米国特許出願公開第2009/274610号にも開示される。この方法は、
・所定量の炭化水素ガスを所定量の少なくとも1つの非炭化水素ガスに混合する工程と、
・前記基材を反応チャンバに配置する工程と、
・炭化水素ラジカル及び非炭化水素ラジカルを備えるラジカルを反応チャンバ内で生成する工程と、
・前記ラジカルを前記基材に付加する工程と、
・前記炭化水素ラジカルに基づいて前記基材上にCNWを成長させる工程と
を備える。
【0013】
米国特許出願公開第2009/274610号では、CNWは大気圧下で生成され、この方法でのCNW成長には標準的には数十分のオーダーがかかる。
【0014】
中国特許出願公開第103420354号は、CNW調製の2段階方法を開示する。中国特許出願公開第103420354号に開示される方法は、濃度0.01~1mol/Lの酸溶液によって金属基板をエッチングし、反応チャンバにおける金属基板を700~1100℃に加熱しながら化学蒸着を行うことを含む。CNWは、時間スケールで成長する。
【0015】
CNWは、国際公開第2016/024301号に開示されるCO2還元デバイス及び方法における副産物としても形成される。この二酸化炭素還元方法は、マイクロ波プラズマ化学蒸着を用いるとともにキャリアガスとして水蒸気を用いてCO2ガスを炭素源に変換することによって副産物としてCNWを生成する。二酸化炭素還元装置は、マイクロ波誘導ユニットの隣接部分の内部に設けられてガス導入チューブ及びガス排気チューブで構成されたU字型反応チューブを有する。マイクロ波プラズマは、反応チューブにおいて、特にU字型反応チューブの屈曲部において生成される。好適な実施形態では、この発明の二酸化炭素還元装置のマイクロ波導波路のサイズは、装置を小型化するために、400mm以下の長さ、200mm以下の幅及び100mm以下の高さを有する。マイクロ波プラズマ化学蒸着法は、反応チューブの内部を流通する酸化炭素含有ガスにおけるCO2ガスを還元するのに用いられる。水蒸気ガスは、酸化炭素含有ガスのキャリアガスとして用いられる。全ての前述の引用文献とは異なり、国際公開第2016/024301号に開示される方法は、炭化水素を気体プラズマに注入することによるものではない。CO2ガスは不動とされ、CNWはガス排気チューブの内部に位置する基材上に生成される。反応チューブ内の圧力は、100~200Paの間に設定される。反応チューブ内の圧力が100Paよりも低い場合又は反応チューブ内の圧力が200Paよりも高い場合、マイクロ波を用いてプラズマを発生させるのは難しくなる。したがって、国際公開第2016/024301号は、ガス排気チューブが後段の二酸化炭素還元装置のガス導入チューブに接続された前段の二酸化炭素還元装置を有する二酸化炭素還元システムと、マイクロ波プラズマCVD法及びキャリアガスとしての水蒸気ガスを用いてCO2ガスを炭素源とすることによってCNWを生成する二酸化炭素還元方法とを開示する。CO2ガスと水蒸気ガスとの流量比は、3:7~5:5である。国際公開第2016/024301号では、二酸化炭素分解の観点において最善の結果は、やや低い合計ガス流量で得られる。標準的な分解率は100seemにおいて約50%であるが、それは500seemでは15%となる。分解率は、放電パワーの増加に伴って増加する。光電池によって生成される電力は、一実施形態ではマイクロ波プラズマの生成のための入力電力として用いられる。さらに、CNWに加えて基材上に蒸着された堆積物も、グラフェンを含有する。
【0016】
米国特許出願公開第2011/0033367号は、概略として、カーボンナノ構造体の生成のための処理、及びナノチューブで構成されるナノ構造化膜、特定の実施形態では、固体カーボンナノロッド(SCNR)に関する。カーボンナノロッド、カーボンナノチューブ及びナノクラスタの成長は、酸化/還元処理によって得られる。反応ガス(H2、N2、NOx、CO、CO2、H2O、CI2、F2)が、反応チャンバにリークされ、副産物が除去されつつ、インサイチュで生成され、カーバイド(SiC、TiC、B4C、Cr3C2)と反応させられる。カーボンナノ構造体は、高温、標準的には1700℃までの加熱に応じてカーバイドの表面に成長する。発明の方法は、好ましくは、高温に耐えるグラファイト反応炉を採用する。圧力レベルは、0.0001~5Torrの範囲にある。成長は、標準的には、約1時間の時間尺度で達成される。放電は適用されないため、気体プラズマを採用することなく、処理は熱平衡付近で進行する。カーボンナノ構造体は、炭素を含有する材料上で、標準的には、シリコンカーバイド又は他の種類のカーバイド上で成長する。
【0017】
韓国特許出願公開第200631291号は、反応ガス(CxHy又はCxOyのいずれか)のイオン化のための遠隔プラズマ源を用いてカーボンナノチューブを合成する工程、活性化された反応ガスを処理チャンバ内に噴霧する工程、及びガラスなどの非導電基板を含む任意の適切な基板にカーボンナノチューブを堆積させる工程のための方法を開示する。ナノチューブは、緩衝層又は金属触媒層の補助により成長する。直流電源が触媒層の上部に接続されて負の電位を基板の表面に伝達することにより、基板の表面への気体イオンの加速を補助する。韓国特許出願公開第200631291号は、カーボンナノチューブの成長の方向性に有益な、基板の上部での電界の形成を必要とする。その構成は、低温での遠隔プラズマモードにおける成長を可能とする。さらに、アーク放電を含む基板の損傷が低減され得る。
【0018】
CNWは、燃料電池、リチウムイオン電池、ダイオード、光電池デバイスなどといった様々な目的に使用可能であることが知られている。
【0019】
特開2008-239369号では、燃料電池のための触媒層を製造する方法が開示される。ここで、CNWは、反応に参加する水素及び酸素分子と燃料電池における金属触媒及び電解質との接触を向上して充分に三相界面を形成することによって燃料電池の電力生成効率を高めるために改良される。
【0020】
米国特許出願公開第2008/274392号は、燃料電池のための電極層を製造するための処理を簡素化し、触媒成分及び電解質の分散性を改善し、それにより燃料電池の生成効率が改善可能となる方法を開示する。
【0021】
CNWは、リチウム電池のための負電極材料としても有用である。特開2010-009980号では、リチウムイオン電池の負電極材料が、10~30nmの範囲を有する微結晶が配向された集合体からなる薄片状のCNWを用いて調製される。その材料を用いる薄いリチウム電池も、提供される。
【0022】
リチウム電池の負電極としての用途のためのCNWは、特開2010-009980号、中国特許出願公開第102668180号、米国特許出願公開第2014/170490号、台湾特許出願公開第201448327号に開示される。リチウム電池の正電極としての用途のためのCNWは、中国特許出願公開第102668181号に開示される。
【0023】
CNWは、ダイオード及び光電池デバイスにも使用され得る。米国特許出願公開第2010/212728号は、カーボンナノ構造体を採用して有用な特性を示す電子デバイスを提供する。n導電型CNWとp導電型CNWの間のpn接合を有するダイオードが提示される。
【0024】
CNWは、米国特許出願公開第2012/175515号に開示されるようなレーザ脱離イオン化質量分析(LDI-MS)のためのサンプル基板の一部としても使用され得る。CNWは、広い吸収帯、高い吸光率及び高い変調深さを有する可飽和吸収素子として用いられる(特開2015-118348号)。それらは医療用途においても使用可能であり、一方で移植可能医療デバイスの基板上に成長可能である(国際公開第2016/059024号)。CNWは、グラフェンナノリボン(中国特許出願公開第103935975号、中国特許出願公開第103935982号、中国特許出願公開第103935983号)又は金属支持ナノグラフェン(米国特許出願公開第2014/127411号)のような他の材料を生成するための原料としても用いられる。
【0025】
従来技術をまとめると以下のようになる。
・気体プラズマ又は熱配線のいずれかが、表面基板に付着して当該基板上にCNWの成長をもたらす反応性炭素含有分子の生成に用いられる。
・前記反応性炭素含有分子は、K.Shiji他(2005)にあるようにフッ化されることもある水素化炭素前駆体から、又は国際公開第2016/024301号にあるように二酸化炭素及び水蒸気の混合物から生成される。
・前駆体は基本的に気体であり、CNWの成長を促進するように反応チャンバに連続的にリークされる。気体は、反応チャンバから連続的に除去される。
・水素が、高品質のナノウォールを得るために、水素化炭素前駆体と同時に反応チャンバにリークされる。希ガスが、反応チャンバにリークされる気体混合物に付加されることもある。二酸化炭素が前記反応性炭素含有分子のソースである国際公開第2016/024301号では、水蒸気が水素の代わりとして作用する。
・金属触媒が初期の文献では適用されたが、最近のものでは省略されている。
・前記反応性炭素含有分子のソースとして固体材料は報告されていない。
・プラズマなしでの米国特許出願公開第2011/0033367号及びカーボンナノチューブを堆積させる前に触媒膜で覆われた基板の直流バイアスによる遠隔プラズマ源を用いる韓国特許出願公開第200631291号におけるカーボンナノチューブ及びナノロッドを成長させること以外に、前駆体として、CxOy気体分子は報告されていない。
・基板の昇温が、CNWの成長に応じて適用される。ある文献では、約500~1700℃の範囲の温度が報告されるが、多くの文献では基板の正確な温度は報告されていない。
【0026】
CNW堆積のための全ての上記に引用された方法は、非常に低い堆積レートに阻まれ、ほとんどは工業的な規模拡大には適さない。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、上記考察に照らして発案された。
【0028】
概略の態様において、本発明は、COサイクルを用いる基板上のCNWの堆積を提案する。以下に、COサイクルをより詳細に述べる。
【0029】
第1の好適な態様では、本発明は、COサイクルを用いて基板上にCNWの層を堆積させる方法を提供する。その方法は、
濃縮形態の炭素含有前駆体材料を反応チャンバに供給する工程と、
酸素含有雰囲気を前記反応チャンバに供給する工程と、
前記反応チャンバ内で前記酸素含有雰囲気においてプラズマ放電を形成する工程と、
を備え、
前記プラズマ放電におけるCO分子が前記炭素含有前駆体材料と相互作用してCxOy分子を形成し、該CxOy分子が前記基板に拡散して前記基板において分解してCO分子及び炭素を形成し、該炭素がCNWを構成する。
【0030】
第2の好適な態様では、本発明は、CxOy気体分子を合成する方法を提供する。その方法は、
濃縮形態の炭素含有前駆体材料を反応チャンバに供給する工程と、
酸素含有雰囲気を前記反応チャンバに供給する工程と、
前記反応チャンバ内で前記酸素含有雰囲気においてプラズマ放電を形成する工程と、
を備え、
前記プラズマ放電におけるCO分子が前記炭素含有前駆体材料と相互作用してCxOy分子を形成する。
【0031】
第3の好適な態様では、本発明は、基板上にCNWの層を堆積させる方法を提供する。その方法は、
任意付加的に本発明の第2の態様によって、CxOy分子を含有する雰囲気を反応チャンバに供給する工程と、
基板を前記反応チャンバに供給する工程と、
前記反応チャンバ内で前記CxOy分子を含有する雰囲気においてプラズマ放電を形成する工程と、
を備え、
CxOy分子が前記基板に拡散し、前記基板において分解してCO分子及び炭素を形成し、該炭素がCNWを構成する。
【0032】
第4の好適な態様では、本発明は、第1、第2又は第3の態様による方法によって取得され又は取得可能なCNW材料を提供する。
【0033】
第5の好適な態様では、本発明は、燃料電池又は光電池デバイスにおける第4の態様のCNW材料の用途を提供する。
【0034】
本発明の更なる任意付加的な特徴がここに提示され、本発明のいずれかの適切な態様と組み合わせられてもよい。
【0035】
前記CxOy分子の分解によって前記基板において形成された前記CO分子は、続いて前記炭素含有前駆体材料に拡散して更なるCxOy分子を形成し得る。
【0036】
前記CxOy気体分子の少なくとも一部が、帯電されることにより、前記基板との相互作用の前に前記プラズマと前記基板の間のシースにおいて加速されてCNWの形成を促進し得る。
【0037】
CxOy気体分子を検討すると、x>yが当てはまり得る。ある実施形態では、x≧2である。ある実施形態では、y≧1である。
【0038】
前記基板は、100~1500℃の範囲の温度に加熱され得る。例えば、基板は、少なくとも400℃又は少なくとも700℃の温度に加熱されてもよい。前記基板は、最大で1200℃又は最大で1000℃の温度に加熱されてもよい。
【0039】
前記炭素含有前駆体材料は、100℃よりも高い温度に加熱され得る。例えば、前記炭素含有前駆体材料が300℃よりも高い温度に加熱されてもよい。
【0040】
CNWの堆積中の前記反応チャンバの圧力は、1Paと100Paの間であり得る。
【0041】
前記反応チャンバにおける前記酸素含有雰囲気は、炭化水素、水、水素などの水素含有ガスを実質的に含まなくてもよい。
【0042】
本発明を用いると、1nm/秒よりも大きく、少なくとも10nm/秒、好ましくは約100nm/秒といったCNWの成長速度を得ることができる。
【0043】
本発明の更なる任意付加的特徴及び本発明の好適な実施形態の更なる技術的説明を以下に提示する。
【0044】
反応チャンバに、少なくとも1片の固体の炭素含有前駆体材料が搭載され得る。反応チャンバは、任意の適切な酸素含有ガスで、好ましくは約1022m-3の密度まで充填され得る。気体プラズマは、任意の適切な放電によって生成され得る。
【0045】
前記酸素含有ガスは、これに限定されないが、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素及び酸素含有有機気体分子を含むガスの一覧から選択され得る。前記酸素含有ガスは、従来の開示にあるように連続してリーク及びポンピングされなくてもよく、ここでは、標準的には、前記固体の炭素含有前駆体材料から基板への炭素の移送のための媒体として作用するだけである。そして、CNWは、前記基板上で成長する。前記気体放電の点火に応じて、前記酸素含有ガスは、COラジカルを形成する前記固体の炭素含有前駆体材料と相互作用する酸素原子に解離する。前記COラジカルは、プラズマ条件に応じて部分的にイオン化される。中性の又はイオン化された前記COラジカルは、CxOy気体分子を形成する前記固体の炭素含有材料と相互作用する。CxOy気体分子のyの値は、標準的には1又は2である。前記CxOy気体分子は、プラズマ条件に応じて部分的にイオン化され、前記基板と相互作用するまで、反応チャンバにおいて拡散する。前記基板は、高温に加熱され得る。前記加熱された基板と中性の又はイオン化された前記CxOy気体分子との間の相互作用は、前記CxOy気体分子の分解をもたらし、その炭素がCNWを構成し、COラジカルを放出する。COラジカルは、前記加熱された基板から脱着し、気相に移行し、部分的にイオン化し、反応チャンバにおいて拡散し、最終的に前記炭素含有材料に到達する。前記COラジカルは、CxOy気体分子を形成する前記炭素含有材料と相互作用する。前記CxOy気体分子は、プラズマ条件に応じて部分的にイオン化し、拡散し、最終的に、加熱された基板上で分解するので、前記加熱された基板上により多くのCNWを構成するための炭素の供給を示す。上述の手順をここでは「COサイクル」という。COサイクルは、放電が続く限り、動作し続ける。
【0046】
COラジカルは、標準的には、前記炭素含有材料をアブレーション(ablation)して前記CxOy気体分子を形成し、それは基板上で分解し、前記炭素含有材料をさらにアブレーションするCOを放出し、結果としてより多くの前記CxOy気体分子などを形成する。好ましくは、前記COサイクルは、基板上でのCNWの均一な成長をもたらす。基板のサイズ又は形状は、CNWの成長に大きくは影響せず、前記CxOy気体分子の充分な供給を与えることが確実とされる。本発明の実施形態を用いるCNWの成長速度は、反応チャンバ内のCOラジカルの濃度、並びに前記炭素含有材料及び前記加熱された基板の双方の温度に依存する。プラズマ条件は、COサイクルの持続性に重要なものであると考えられる。好適な実施形態では、成長速度は、秒速約100ナノメートルである。これは、従来技術の方法よりも優れている。好ましくは、発明の方法によって成長されたCNWは、炭素以外の測定可能な量のいずれの原子も含有しない。
【0047】
好適な実施形態では、反応チャンバにおける前記気体放電によって生成されたプラズマに面する全表面は、実質的に前記加熱された基板及び/又は炭素含有前駆体材料の温度以下の温度に維持される。更なる好適な実施形態では、反応チャンバにおける前記気体放電によって生成されたプラズマに面する全てのそのような表面の温度は、100℃以下に維持される。
【0048】
加熱された基板の温度は、300℃と1500℃の間であり得る。前記加熱された基板の低温側は前記CxOy気体分子の分解を抑制し、前記加熱された基板の高温側はCNW以外の形態的及び/又は構造的炭素材料の成長をもたらす。更なる好適な実施形態では、前記加熱された基板の温度は700℃と1000℃の間である。
【0049】
好ましくは、前記炭素含有材料の温度は0℃と2000℃の間であり、好ましくは200℃と1500℃の間であり、最も好ましくは500℃から1000℃である。温度は、前記CxOy気体分子のアブレーション速度及び構造/組成の双方に影響する。
【0050】
好ましくは、前記炭素含有前駆体材料は、任意の形態のグラファイトであり、より好ましくは大きく配向された熱分解グラファイトを含む熱分解グラファイトの形態である。他の実施形態では、前記炭素含有材料は、任意の種類のポリマーである。
【0051】
好適な実施形態では、方法は、以下の工程:
i.前記炭素含有前駆体材料及び前記加熱された基板を反応チャンバ内に位置決めする工程と、
ii.前記処理チャンバからガスを排気することにより、前記処理チャンバを減圧する工程と、
iii.排気後の反応チャンバに前記酸素含有ガスを導入する工程と、
iv.電気放電を印加して気体プラズマを反応チャンバに形成する工程と、
v.所望の厚さのCNWが達成されるまで前記COサイクルを動作させておく工程と、
vi.任意付加的に、前記加熱された基板若しくは前記炭素含有前駆体材料のいずれか又は双方を、抵抗加熱、誘導加熱又は光子、電子若しくはイオンの照射による加熱など、プラズマ以外の外部熱源によって加熱する工程と、
vii.前記加熱された基板及び前記炭素含有前駆体材料の双方を温度が300℃以下に低下するまで冷却する工程と、
viii.前記処理チャンバを通気することにより、処理チャンバ内の圧力を大気圧まで増加させる工程と
を備える。
【0052】
酸素含有ガスが工程v及びviにおける電気放電の印加に応じて反応チャンバに存在することが理解されるべきである。
【0053】
本発明の他の態様は、CNWコーティングの生成に関し、当該方法は、加熱された基板を提供する工程と、上述したような本発明の方法によって前記加熱された基板を変性させる工程と、それにより所望の特性を有するCNWコーティングを得る工程とを備える。
【0054】
本発明の他の態様は、さらに、CNWコーティングの堆積のための前記COサイクルの使用に関し、前記堆積は上述した方法のように実質的に達成される。
【0055】
本発明の他の態様は、本発明の方法によって堆積されたCNWコーティングを備える製品に関する。そのような製品は、本発明によると、非常に高い表面積対質量比、増加した疎水性及び/又は可視域波長での高い放射率を有する。
【0056】
本発明の他の態様は、燃料電池における本発明のCNW材料の用途に関する。
【0057】
本発明の更なる態様は、燃料電池及び/又は光電池デバイスについての本発明の材料又は製品の用途に関する。
【0058】
好適な製品は、燃料電池、リチウムイオン電池、光電池デバイス、薄膜トランジスタ、特定の気体分子のセンサ、電界放射デバイス、吸光体、電気化学及び気体センサのための強化された検出器、電気二重層コンデンサ、再生医学及び体内移植のための骨格である。
【0059】
本発明の他の態様は、CxOy気体分子の生成に関し、当該方法は、
・真空チャンバを提供する工程と、
・少なくとも1片の炭素含有前駆体材料を前記真空チャンバ内に配置する工程と、
・前記真空チャンバを脱気する工程と、
・前記真空チャンバに酸素含有ガスを充填する工程と、
・前記酸素含有ガスで充填された前記真空チャンバ内で気体プラズマを点火し、プラズマ条件における前記酸素含有ガスと前記炭素含有前駆体材料との間の相互作用を可能とする工程と、
・前記酸素含有ガスが少なくとも部分的に前記CxOy気体分子に変換されるまで気体プラズマを維持する工程と
を備える。
【0060】
本発明の他の態様は、プラズマ条件におけるCxOy気体分子からのCNWの生成に関する。この態様は、加熱された基板上のCNWの生成に関し、当該方法は、
・真空チャンバを提供する工程と、
・少なくとも1片の前記加熱された基板を前記真空チャンバに配置する工程と、
・前記真空チャンバを脱気する工程と、
・前記真空チャンバにCxOy気体分子を含有する気体を充填する工程と、
・前記CxOy気体分子を含有する気体で充填された前記真空チャンバ内で気体プラズマを点火し、プラズマ条件における前記CxOy気体分子を含有する気体と前記加熱された基板との間の相互作用を可能とする工程と、
・前記CxOy気体分子を含有する気体が少なくとも部分的に前記CNWに変換されるまで気体プラズマを維持する工程と
を備える。
【0061】
したがって、一般的な観点において、気体プラズマなどの非平衡気体を用いて垂直配向カーボンナノウォール(CNW)を堆積させる方法が提供される。均一に分布されたナノウォールの急速な堆積が可能となることが示され、これは反応性気体種による大量の炭素材料のアブレーション、酸化炭素含有気体分子の形成、前記分子のイオン化を用いて、中性の又はプラスに帯電された前記分子を基板と相互作用させることによって任意の適切な基板の大表面に行われ得る。発明の方法によって調製されたCNWは、燃料電池、リチウムイオン電池、光電池デバイス、及び特定の気体分子のセンサのような様々なアプリケーションに有用である。
【0062】
本発明は、上記態様及び好適な特徴の組合せを、その組合せが明らかに許容されず又は明示的に回避される場合を除いて、含む。
【0063】
ここで、本発明の原理を説明する実施形態及び実験を添付図面を参照して述べる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、COサイクルの概略を示す。CO分子は、炭素含有材料の表面に到達するまで気相で拡散(diffusion)する。CO分子は、揮発性C
xO
y分子の形成をもたらす炭素含有材料と相互作用する。炭素含有材料の表面に形成されたC
xO
y気体分子は、加熱された基板の表面に到達するまで気相で拡散する。C
xO
y気体分子は、加熱された基板と相互作用する。C
xO
y気体分子は、加熱された基板上で分解(decomposition)してCNWの成長及びCO分子の形成をもたらす。加熱された基板から放出されたCO分子は、炭素含有材料の表面に到達するまで気相で拡散する。CO及びC
xO
y分子の双方が部分的にイオン化されるものと考えられる。
【
図2】
図2は、COサイクルの更なる概略を示す。(中性の又はイオン化された)CO分子1が、炭素含有前駆体材料2と相互作用し、炭素含有前駆体材料2の表面3上でC
xO
y気体分子4の形成をもたらす。C
xO
y気体分子は拡散経路5を辿り、最終的には、加熱された基板7の表面6に到達する。C
xO
y気体分子4は、加熱された基板の表面6で分解し、1以上のCO分子1を放出する。CO分子1はその拡散経路8を辿り、最終的には、炭素含有前駆体材料2の表面3と相互作用してC
xO
y気体分子を形成する。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態を用いて、加熱された基板上に堆積されたCNWのSEM画像を示す。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態を用いて、加熱された基板上に堆積されたCNWの表面の水滴の画像を示す。
【
図5】
図5は、実施例1によるCNWを成長させるのに適した設定の概略を示す。
【
図6】
図6は、実施例1による処理時間に対するCNWの厚さを示す。
【
図7】
図7は、実施例2によるCNWを成長させるのに適した設定の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図面で使用される符号は以下の通りである。
1 (中性の又はイオン化された)CO分子
2 炭素含有材料
3 炭素含有材料の表面
4 (中性の又はイオン化された)CxOy気体分子
5 CxOyの拡散経路
6 加熱された基板の表面
7 加熱された基板
8 COの拡散経路
9 反応チャンバ
10 2段階回転真空ポンプ
11 ゲートバルブ
12 酸素含有ガスを有する高圧容器
13 リークバルブ
14 無線周波発生器
15 アンテナ
16 グラファイトブロック
17 サンプル
18 反応チャンバをポンピングするのに使用されるダクト
19 酸素含有ガスを反応チャンバ内にリークさせるのに使用されるダクト
20 炭素含有材料を有するホルダを反応チャンバ内に配置するのに使用されるダクト
21 炭素含有材料を有するホルダ
22 基板を有するホルダを反応チャンバ内に配置するのに使用されるダクト
23 基板を有するホルダ
【0066】
本発明の態様及び実施形態を、添付図面を参照してここに述べる。更なる態様及び実施形態が、当業者には明らかとなる。この文章で言及する全ての文献は、参照によりここに取り込まれる。
【0067】
本発明は、基板をCxOy気体分子に接触させることによってCNWを堆積する方法に関する。本発明の好適な実施形態では、上記CxOy気体分子のソースは、炭素含有前駆体材料である。上記炭素含有前駆体材料は、気相からその表面に到達する(中性の又はイオン化された)CO分子と相互作用するように残される。上記炭素含有前駆体材料との上記CO分子の相互作用は、上記CxOy気体分子の形成をもたらす。CxOy気体分子は、上記炭素含有前駆体材料の表面から脱着され、気相に移行し、基板に到達するまで気相で拡散する。上記基板が高温に加熱されると、上記(中性の又はイオン化された)CxOy気体分子は上記基板の表面で炭素原子又は炭素クラスタ及びCO分子に分解する。C原子又はクラスタは上記基板の表面にCNWを構成し、一方でCO分子は上記基板の表面から脱着され、気相に移行し、気相において拡散し、最終的には上記炭素含有前駆体材料の表面に到達する。炭素含有前駆体材料は、その表面に気相から到達する上記CO分子と相互作用するように残される。上記炭素含有材料との上記CO分子の相互作用は、上記CxOy気体分子の形成をもたらす。この処理は「COサイクル」といわれるものである。COサイクルでは、上記CO分子は、上記炭素含有材料のアブレーションのための媒体として作用して上記CxOy気体分子を形成する。CxOy気体分子は、CNWの成長のための構成材料として作用する。CNWの成長は、上記基板の表面の上記CxOy気体分子の分解の結果である。
【0068】
「COサイクル」は、本発明の背景内では、
・炭素含有前駆体材料、好ましくはグラファイトとのCO分子の相互作用と、
・CxOy気体分子の形成をもたらす上記相互作用と、
・基板に到達してそれと相互作用するまで、気相で拡散する上記CxOy気体分子と、
・上記CxOy気体分子の分解をもたらす、上記CxOy気体分子と上記基板の間の上記相互作用と、
・上記基板の表面のCNWの成長をもたらす、上記CxOy気体分子の上記熱分解と、
・上記基板の表面のCO分子の形成ももたらす、上記CxOy気体分子の上記熱分解と
を関与させる手順として理解されるべきである。
【0069】
「COサイクル」は、本発明の背景内では、
図1及び2に模式的に示される。
【0070】
「炭素含有前駆体材料」は、本発明の背景内では、炭素原子を含有する任意の濃縮材料(例えば、固体又は液体材料)として理解されるべきである。「炭素含有前駆体材料」は、例えば、これに限定されないが、グラファイト、大きく配向された熱分解グラファイト、スート、CNW、フラーレン、カーボンブラックを含む任意の形態で純粋な(又は実質的に純粋な)炭素;フッ化、窒化、酸化ポリマーを含む任意の種類のポリマー;又はケトン、アルコール、脂質などの室温で液状のものを含む任意の種類の炭化水素であり得る。
【0071】
「CxOy気体分子」は、本発明の背景内では、少なくとも2個の炭素原子(すなわち、x≧2)及び少なくとも1個の酸素原子(すなわち、y≧1)を含有する任意の分子であればよく、炭素原子数は酸素原子数よりも大きい(すなわち、x>y)。「CxOy気体分子」は、好ましくは、室温で適切な安定性を、高温で適正な不安定性を有すべきである。「CxOy気体分子」の列挙は、本発明の背景内では、これに限定されないが、C4O、C6O、C7Oを含むxが2から約1000までの任意の整数であるCxO;xが3から約1000までの任意の整数であるCxO2などの分子を含む。
【0072】
「基板」は、本発明の背景内では、金属及び合金、セラミック及びガラスを含む半導体、金属酸化物、金属窒化物及び金属炭化物、ポリマー並びに他の形態の炭素系材料を含む任意の固体材料であり得る。
【0073】
「CNW」材料は、本発明の背景内では、約100nmまでの厚さ、約100nmと100,000nmの間の高さを有し、基板の表面から延在する炭素含有構造体として理解されるべきである。CNW材料は、本発明の背景内では、ネットワークを形成する基板上にランダムに配向された約100nmまでの厚さの高密度構造体としても理解されるべきである。CNW材料は、本発明の背景内では、主に炭素で構成されるものとして理解されるべきであるが、水素、フッ素、窒素、酸素又は金属の原子を含む他の元素を含有してもよい。CNWの構造体は、本発明の背景内では、グラフェンに富むシートとして理解されるべきであるが、他の種類の炭素も含有し得る。そのような構造体は、滑らかな炭素材料と比べて非常に大きな表面を可能とするが、それでもグラフェンの優れた電気的及び化学的特性の利益を受ける。
【0074】
好適な実施形態では、CNWは、COサイクルを用いて合成される。このアプローチを用いると、固体基板の広い範囲でCNWの急速な合成が可能となり、成長速度は執筆時に本発明者に知られていた合成手順よりも優れる。
【0075】
CNW材料は、グラフェン特性が好適であって大きな表面積対質量比が必要な場合の大量適用に対して有望である。簡単に上述した公知の技術は、標準的には1nm/秒のオーダーの低い堆積速度に阻まれていた。現技術の低い堆積速度は、CHxラジカルからの炭素の堆積に基づく合成手順に起因する。ラジカルは、気体プラズマにおいて、あるいは熱配線を用いて形成される。処理チャンバ内の圧力は、プラズマにおけるCHxラジカルの密度を制限する。圧力が高すぎると、CHxラジカルの気相凝集が起こり、基板表面で吸着する生成CxOyクラスタは、CNWの形成を可能としないが水素化炭素の薄膜の形成を可能とする。現技術の他の欠点は、CNWの成長に応じた炭素含有材料(ほとんどの技術では炭化水素)の連続供給の必要があることである。現技術のさらに他の欠点は、堆積したCNWの品質を高めるために原子形態で作用する水素が必要となることである。本発明は、CNWの優れたグラフェン状構造を失うことなく成長速度を実質的に増加させることによって現技術のそれら短所に対処する。成長速度は炭素源としてCxOy気体分子を用いて高められ、合成手順は、反応チャンバへの前駆体の連続供給を与えることを要さずに、大幅に制御可能となる。またさらに、発明の方法では、水素は用いられない。
【0076】
発明の方法では、CxOy気体分子が、CNWの構成材料として適用される。CxOy気体分子は、文献ではほとんど言及されない。C及びOのみを含有する一般に知られている気体分子は、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、二酸化三炭素(C3O2)及び二酸化五炭素(C5O2)である。これらの分子は、室温で気体であるが、炭素原子数が3より大きい場合には本来的に不安定である。グラフェン酸化物は、他のタイプのCxOy気体分子である。これらは、酸素原子によって終端され(エポキシ結合であることが多い)又はOHラジカルによって終端された幾つかの六角形炭素環を含有し得る。グラフェン酸化物は、室温で固体であり、非常に安定的である。非平衡条件下で、酸素を炭素含有材料と相互作用させると、様々なCxOy気体分子が生成される。
【0077】
多くのCxOy気体分子は、不安定であり、自発的に分解する。分解速度は、温度に依存する。一般則として、分解速度は、温度の増加とともに増加する。多くのCxOy気体分子は、室温では低速分解するが、高温では非常に速く分解する。本発明の好適な実施形態は、CxOy気体分子の分解速度の温度依存性を利用する。好適な実施形態では、反応チャンバ全体は、反応チャンバの壁面又は反応チャンバの他の部分における熱分解によるCxOy気体分子の実質的な喪失を防止するために、室温に又は室温よりもわずかに高く維持される。一方、基板は、その表面でのCxOy気体分子の急速な熱分解を促進するために、好ましくはより高い温度に維持される。
【0078】
炭素含有気体分子のそれ自体による熱分解は、基板表面での炭素原子の必要なCNW配置を必ずしも確実にしない。理解されるように、炭素は、通常はCNW以外の多数の形態で成長する。CNWは、プラスに帯電したCxOy気体分子の基板との同時相互作用に起因して優先的に成長するものと考えられる。プラスに帯電したイオンは、気体プラズマと基板の間のシースで加速され、基板と相互作用する直前に10eVのオーダーのエネルギーを得る。このエネルギーは、基板上の炭素原子の適正な配置を可能とするので有益であり、上記炭素原子はCNWの形態で配列する。
【0079】
方法は、反応チャンバに配置された炭素含有前駆体材料のアブレーションの工程を含み得る。炭素含有前駆体材料のアブレーション速度は、材料の温度に依存する。好適な実施形態では、炭素含有前駆体材料は、炭素含有前駆体材料の急速なアブレーションを確実にするために、非常に高温に加熱される。炭素含有前駆体材料は、好適な実施形態では、反応性プラズマ種によって、特に、上記炭素含有前駆体材料とのCO分子の相互作用によってアブレーションされる。CO分子は、中性とされ又はプラスに帯電され得る。気体プラズマにおける中性のCO分子は、振動的に励起されるようになり、それにより炭素含有材料のアブレーション速度を増加させる。炭素含有材料のアブレーションは、好適な実施形態によると、上記炭素含有材料の表面でのCxOy気体分子の形成をもたらし、上記CxOy気体分子は上記炭素含有材料の表面から脱着される。
【0080】
本発明によるCOサイクルに影響を与えると考えられる他のパラメータは、ガス純度である。理論に拘束されることを望まないが、存在する場合には酸素含有以外のガスも同様に、酸素含有ガスへの曝露に応じて炭素含有前駆体材料と、例えばその表面で反応するものと想定される。したがって、好適な実施形態では、酸素含有ガスは、反応ガスにおいて比較的高いレベルの純度、例えば、90%、95%、99%又は99%のモル濃度の酸素含有ガスで炭素含有材料と接触している。この目的のため、処理チャンバは、他の気体を反応チャンバから除去するために、まず比較的低い圧力に脱気されてから、酸素含有ガスのみがチャンバに付加される。したがって、処理チャンバは、まず適切な真空ポンプによって脱気される。脱気後の処理チャンバ内の圧力は、好ましくは10Pa以下であり、さらにより好ましくは1Pa以下である。脱気が成功した後、処理チャンバは、例えば1000Pa、100Pa又は10Paの(より高い)圧力まで酸素含有ガスで充填される。これは、大気圧よりも低い。そのような適度な圧力は、酸素含有ガスと炭素含有材料の間の親和性の観点で有利なことが分かった。したがって、真空チャンバの使用は、COサイクルを適切に利用するために、酸素含有ガスの高い純度を確実にし、適切な圧力を確実にするのに有利である。
【0081】
処理の最適な継続時間は、炭素含有材料及び基板の双方の温度、(放電パラメータに同様に依存する)プラズマパラメータ並びに酸素含有ガスの圧力のような処理パラメータに依存する。
【0082】
CNW堆積速度は、炭素含有前駆体材料の温度の上昇とともに増加する。約300℃の炭素含有前駆体材料において、満足なアブレーション速度が達成される。炭素含有前駆体材料の温度の更なる上昇は、より高いアブレーション速度をもたらす。より高いアブレーション速度は、同様に、CNW堆積速度の増加をもたらす。ある実験では、炭素含有材料の温度が約800℃であり、約100nm/秒の堆積速度が達成された。
【0083】
基板の温度は、役割を果たす。基板の温度が約100℃であって温度の上昇とともに増加する場合に、基板上のCNWの堆積速度は低いことが分かる。約400℃の基板温度において、より高いCNW堆積速度が達成可能である。基板温度の更なる上昇は、増加するCNW堆積速度をもたらす。ある実験では、基板の温度は約1000℃であり、約100nm/秒の堆積速度が達成された。
【0084】
好適な実施形態では、酸素含有ガスの圧力は、1Paと100Paの間である。この範囲での動作は、種々の電気放電による反応チャンバにおけるプラズマの確実な点火及び維持を可能とする。好適な実施形態では、プラズマは、高周波無電極放電によって維持される。適切な周波数は、0.1MHzと10GHzの間である。プラズマに面する材料のスパッタリングが抑制されるので、そのような無電極結合は有益である。好ましくは、放電は、無線周波数(13.56MHz、27.12MHz、又は13.56MHzの他の任意の高調波)又はマイクロ波周波数(例えば、2.45GHz)で動作する標準的な高周波発生器によって電力供給される。放電発生器の電力は、処理チャンバにおける気体プラズマを維持するのに充分高いものであるべきである。発生器電力の適切な範囲は、反応チャンバの体積及び酸素含有ガスの圧力に依存する。標準的には、より大きな体積及びより高い圧力は、より高い放電電力を必要とする。ある実験では、酸素含有ガスの圧力は30Paであり、高密度プラズマの体積は約1リットルであり、放電電力は800Wであった。
【0085】
好ましくは、加熱された基板とCxOy気体分子との接触時間は、0.1sと1000sの間である。更なる好適な実施形態では、処理時間は、1sと100sの間である。この好適な処理時間は、本発明による、炭素含有材料の好適な圧力及び好適な温度並びに基板の好適な温度において最適なCNWの堆積効率を可能とする。好ましくは、処理中の基板の温度は、700℃と1000℃の間である。より低い温度では、最適なCNW堆積に要する処理時間が長くなりすぎ、より高い温度では、CNWの所望の特性が失われ得るほどにCNWが劣化してしまうことになる。これは、約1500℃以上の温度で、又は他の形態的若しくは構造的形態での炭素の堆積が観察される2000℃でも、特に当てはまる。
【0086】
以下の処理パラメータ:圧力30Pa、放電電力800W、発生器周波数13.56MHz、炭素含有前駆体材料の温度800℃、基板温度1000℃及び強度の気体プラズマの体積1リットルは、特に有利であることを示した。
【0087】
ここで、本発明のいくつかの好適な実施形態を、以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0088】
CNWを、
図1及び2に模式的に示す処理に従ってチタン基板上に堆積させた。約1000℃まで加熱された(チタン)基板を酸素含有ガス(この場合、純粋な二酸化炭素)に接触させた圧力は30Paであり、放電発生器の周波数は13.56MHzであり、炭素含有材料の温度は800℃であった。処理時間は20sであった。
【0089】
チタン基板上に堆積したCNWを走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した。
図3は、標準的な製品のSEM画像を示す。堆積したCNWコーティングは、超疎水性特性を有する。CNWコーティングの表面上の水滴の画像を
図4に示す。
【0090】
本実施例のための実験の設定を
図5に模式的に示す。反応チャンバ9は、ホウケイ酸ガラスからなり、2段階回転真空ポンプ10が装備される。真空ポンプ10を反応チャンバ9から切り離すためのゲートバルブ11がある。酸素含有ガスは、リークバルブ13で反応チャンバ9から切り離された高圧容器12に保存された二酸化炭素であった。気体プラズマは、周波数13.56MHz及び出力電力800Wで動作する無線周波発生器14によって反応チャンバ内に生成される。発生器は、気体プラズマにアンテナ15を介して結合される。炭素含有前駆体材料、この場合では一片のグラファイト16、及びサンプル17を同じ反応チャンバ9内に相互に隣接させて配置した。
【0091】
まず、反応チャンバ9を真空ポンプ10によって1Pa以下の圧力まで脱気した。その後、ポンプを、ゲートバルブ11を閉じることによって反応チャンバ9から切り離した。反応チャンバ9において圧力30Paに達するまで、高圧容器12からの二酸化炭素を脱気後の反応チャンバ9にリークバルブ13を用いてリークさせた。圧力30Paに達すると、リークバルブを閉じた。その後、RF発生器14を用いてプラズマを反応チャンバ9内部で生成した。グラファイトブロック16及びサンプル17の双方をRF発生器14によるプラズマへの電力拡散によって反応チャンバ9の内部で加熱したので、この実施例1では外部加熱を行わなかった。プラスに帯電したイオンの密度は、1018m-3のオーダーであった。
【0092】
この実施例での処理時間を変化させ、CNWの厚さを各処理時間について測定した。処理時間に対するCNWの厚さを
図6に示す。
【実施例2】
【0093】
実施例2は、C
xO
y気体分子の合成に適した構成を開示する。炭素含有前駆体材料及び加熱された基板の気体プラズマへの独立した曝露を可能とするために、
図5に示す設定を修正した。全体として、実験の設定は、反応チャンバ9の配置以外は、実施例1に対する
図5のものと同様である。実施例2で用いた反応チャンバ9を
図7に模式的に示す。反応チャンバ9には、いくつかのダクトが装備されている。ダクト18は、反応チャンバ9をポンピングするために用いられる。ダクト19は、酸素含有ガスを反応チャンバ9にリークさせるために用いられる。ダクト20は、炭素含有前駆体材料21を有するホルダを反応チャンバ9内に配置するために用いられる。炭素含有前駆体材料21を有するホルダは可動であるので、ダクト20内又は反応チャンバ内部(
図7の破線位置)のいずれかに配置される。炭素含有前駆体材料21を有するホルダは、これに限定されないが、抵抗加熱、誘導加熱又は光子、電子若しくはイオンの照射を含む任意の適宜の方法を用いて外部加熱され得る。
【0094】
炭素含有前駆体材料21を有するホルダは、ダクト20内部の位置に搭載された。まず、反応チャンバ9を真空ポンプ10によって1Pa以下の圧力まで脱気した。その後、ポンプを、ゲートバルブ11を閉じることによって反応チャンバ9から切り離した。反応チャンバ9において圧力30Paに達するまで、高圧容器12からの二酸化炭素を脱気後の反応チャンバ9にリークバルブ13を用いてリークさせた。圧力30Paに達すると、リークバルブ13を閉じた。その後、RF発生器14を用いてプラズマを反応チャンバ9内部で生成した。炭素含有材料21を有するホルダをダクト20内部の位置から反応チャンバ9の中心まで移動させた。反応チャンバ9の中心における炭素含有材料21を有するホルダの位置を
図7では破線で印す。反応チャンバ9の内部のプラズマは、光学分光法によって特徴付けられた。反応チャンバ内のプラズマのスペクトルでは、炭素含有材料21を有するホルダがダクト20の位置に搭載される限りは原子の酸素のスペクトル線が優勢であった。炭素含有材料21を有するホルダがダクト20内部の位置に搭載される限り、777nmにおける酸素のスペクトル線とC
2帯域の最も強いスペクトル線の比は約7であった。炭素含有材料21を有するホルダをダクト20内部の位置から反応チャンバ9の中心-
図7の破線位置-へ移動させると、777nmにおける酸素のスペクトル線とC
2帯域の最も強いスペクトル線の比は1秒以内に0.5に低下し、安定的なC
xO
y気体分子への酸素の結合を示した。したがって、実施例2に開示される方法によって安定的なC
xO
y気体分子の合成が可能となり、これはCNWの成長に有益であると考えられる。
【実施例3】
【0095】
実施例3は、C
xO
y気体分子からのCNWの合成に適した構成を開示する。炭素含有材料及び加熱された基板の気体プラズマへの独立した曝露を可能とするために、
図5に模式的に示す設定を修正した。実施例3に有用な反応チャンバ9を、関連する詳細について
図7に模式的に示す。反応チャンバ9には、いくつかのダクトが装備されている。ダクト18は、反応チャンバ9をポンピングするために用いられる。ダクト19は、酸素含有ガスを反応チャンバ9にリークさせるために用いられる。ダクト20は、炭素含有材料21を有するホルダを反応チャンバ9内に配置するために用いられる。ダクト22は、基板23を有するホルダを反応チャンバ9内に配置するために用いられる。基板23を有するホルダは可動であるので、ダクト22内又は反応チャンバ内部(
図7の破線位置)のいずれかに配置される。基板23を有するホルダは、これに限定されないが、抵抗加熱、誘導加熱又は光子、電子若しくはイオンの照射を含む任意の方法を用いて外部加熱され得る。
【0096】
基板23を有するホルダをダクト22の位置に搭載した。C
xO
y気体分子を実施例2に開示される手順に従って合成した。C
xO
y気体分子が反応チャンバにおいて生成されると、放電をオフし、炭素含有材料21を有するホルダをダクト20の内部の位置に移動させた。そのような放電をオフした状態の構成を数分にわたって維持した。その後、基板23を有するホルダを、
図7に示すような反応チャンバ9の内部の破線位置に移動させ、放電をオンした。放電がオンされ、
図7の破線位置において基板23を有するホルダが500℃の高温まで加熱されるとすぐに、CNWが、実施例1と同様に、基板23を有するホルダ上で約100nm/秒の成長速度で成長を開始した。
【0097】
それらの具体的形態で又は開示される機能を実行するための手段、又は開示される結果を得るための方法若しくは処理の観点で表現された以上の説明、以下の特許請求の範囲又は添付図面において開示した特徴は、別個に又はその特徴のいずれかの組合せにおいて、その多様な形態において本発明を実現するのに適宜利用され得る。
【0098】
本発明を上述の例示的実施形態との関連で説明したが、本開示が与えられれば、当業者には多数の均等な変形例及びバリエーションが明らかとなるはずである。したがって、以上の本発明の例示的実施形態は、限定ではなく例示とみなされるべきである。記載した実施形態に対する種々の変更が、本発明の主旨及び範囲から離れることなくなされ得る。
【0099】
疑義を回避するため、ここに与えられるいずれの理論的説明は、読者の理解を向上する目的で与えられるものである。発明者は、これらの理論的説明のいずれかに拘束されることを望まない。
【0100】
ここに使用されるいずれの見出しも、整理のみを目的とするものであり、記載される主題を限定するものとして解釈されてはならない。
【0101】
以降の特許請求の範囲を含み、本明細書の全体を通じて、文脈がそれ以外を要件としない限り、文言「備える」及び「含む」、並びに「備える」、「備えている」及び「含んでいる」などの変化形は、記載される完全体若しくは工程又は完全体若しくは工程の群の包含を意味するものであるが、他のいずれかの完全体若しくは工程又は完全体若しくは工程の群の除外を意味するものではないことが理解されるはずである。
【0102】
本願及び添付の特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、明らかにそれ以外を述べていない限りは複数形のものを含むことが留意されるべきである。範囲は、「約」一方の特定値から及び/又は「約」他方の特定値までとしてここでは表現され得る。そのような範囲が表現された場合には、他の実施形態は、その一方の特定値から及び/又は他方の特定値までを含む。同様に、先行する「約」の使用によって値が概数として表現される場合、特定値が他の実施形態を形成することが理解されるはずである。数値との関係での文言「約」は、選択的であり、例えば±10%を意味する。
【0103】
参照文献
本発明及び本発明が関連する現状の技術をより完全に説明及び開示するために、多数の刊行物が上記で引用されている。これらの参照文献についての全引用を以下に与える。これらの参照文献の各々の全体がここに取り込まれる。
Y.Wu、P.Qiao、T.Chong and Z.Shen、Carbon nanowalls grown by microwave plasma enhanced chemical vapor deposition、Advanced Materials vol.14、No.1(2002)
BJ Yang et al.、Nano Letters Vol.2 Iss.7、p.751-754(2002)
K.Shiji et al、Diamond and Related Materials Vol.14 Iss.3-7、p.831-834(2005)
K.Tanaka et al.、Japanese Journal of Applied Physics Vol.44 Iss.4A、p.2074-2076(2005)
Itoh et al、Thin Solid Films Vol.501 Iss.1-2、p.314-317(2006)
Dikonimos et al.、Diamond and Related Materials Iss.4-7 p.1240-1243(2007)
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米国特許出願公開第2011/045207号明細書
米国特許出願公開第2009/274610号明細書
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韓国特許出願公開第200631291号明細書
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米国特許出願公開第2008/274392号明細書
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米国特許出願公開第2014/170490号明細書
台湾特許出願公開第2014-48327号明細書
中国特許出願公開第102668181号明細書
米国特許出願公開第2010/212728号明細書
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特開第2015-118348号
国際公開第2016/059024パンフレット
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中国特許出願公開第103935982号明細書
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米国特許出願公開第2014/127411号明細書