(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】海洋生物等の養殖方法、養殖キット、養殖システムおよび、その養殖方法で養殖した海洋生物等
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20221012BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A01K63/04 F
B01D21/01 102
(21)【出願番号】P 2018153765
(22)【出願日】2018-08-18
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】517303627
【氏名又は名称】ISF合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】230117846
【氏名又は名称】長友 隆典
(72)【発明者】
【氏名】澤井 隆郎
(72)【発明者】
【氏名】弓田 太
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-022903(JP,A)
【文献】特開平04-275916(JP,A)
【文献】特開昭62-042736(JP,A)
【文献】特開平03-293003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-63/10
B01D 21/01
C01B 33/00-33/193
C02F 1/52- 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む原料を1600℃以上の温度で融解させて二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を生成する工程と、
前記の化合物を冷却して得られた岩石状のブロックを微細粉砕して粉末状の凝集性素材を生成する工程と、
前記粉末状の凝集性素材を用いて、所定の形状に成型して、複数の微細な空洞を含むように発泡加工を行う工程と、
を備えたことを特徴とする不純物凝集用ブロック製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の不純物凝集用ブロック製造方法において、
二酸化ケイ素および酸化アルミニウムの含有比率が、原料全体に占める二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの重量比率で、二酸化ケイ素の比率が60~90重量%、酸化アルミニウムの比率が4.5~20重量%であって、
二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの合計に対する重量比率で、酸化アルミニウムの比率が5~33%であること、
を特徴とする不純物凝集用ブロック製造方法。
【請求項3】
請求項
1の不純物凝集用ブロック製造方法において、さらに、
二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末状の凝集性素材をPH値が11以上のアルカリ性の水に溶かして得た化合物のコロイド溶液を、PH7~8に調整したコロイド溶液に、前記不純物凝集用ブロックを浸潤させた後、乾燥するというサイクルを少なくとも1回以上繰り返す工程、
を備えたことを特徴とする不純物凝集用ブロック製造方法。
【請求項4】
請求項
2の不純物凝集用ブロック製造方法において、さらに、
前記の二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末状の凝集性素材をPH値が11以上のアルカリ性の水に溶かして得た化合物のコロイド溶液を、PH7~8に調整したコロイド溶液に、前記不純物凝集用ブロックを浸潤させた後、乾燥するというサイクルを少なくとも1回以上繰り返す工程、
を備えたことを特徴とする不純物凝集用ブロック製造方法。
【請求項5】
請求項
1~4のいずれか一つに記載の不純物凝集用ブロック製造方法において、さらに、
前記不純物凝集用ブロックの複数の微細な空洞にバクテリアを定着させる工程を備え、
微細な空洞に凝集した不純物を分解させることにより、不純物の凝集と分解のサイクルを確立させることを特徴とする不純物凝集分解用ブロック製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナマコ、ウニ、魚類、貝類などの海洋生物ないし淡水生物(以下、「海洋生物等」という)の生育に適した環境を担保して、生育用の淡水又は海水(以下、「飼育水」という)に餌を十分に投入したり、海洋生物等による糞尿が排出される場合でも、飼育水が汚濁するのを防止して、雑菌が繁殖するのを抑えた、魚介類の養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水等を利用した海洋生物等の養殖に際して、滅菌する技術としては、例えば、特許文献1(海洋魚介類の養殖方法)には、塩素を利用して殺菌する発明が記載されている。
また、特許文献2(開放式海洋養殖システムと海生動物の養殖方法)には、オゾンで殺菌する発明が記載されている。
また、特許文献3(甲殻類養殖システム及び方法)には、飼育槽に、海水を電気分解した強アルカリ海水を添加することにより、飼育水のペーハー値が約8.2に維持されるように調整する発明が記載されている。
また、特許文献4(フグの疾病予防)には、フィルターで濾過して滅菌する発明が記載されている。
また、特許文献5(貝類の養殖用土壌改良剤及びそれを用いた貝類の養殖方法)には、貝殻を主成分とする養殖用土壌改良剤を、養殖場に散布することにより、土壌をアルカリ性にする発明が開示されている。
また、特許文献6(排水処理方法)には、凝集処理に関して、粉末の活性炭や凝集剤を利用することが開示されている。
また、特許文献7(汚水の清浄化装置と循環装置)には、多孔質の珪藻土等を不織布に屈曲形成状に含有させ、フィルター効果と濾過効果をなす流路を設けてなることを特徴とした汚水の清浄化装置と、汚水の清浄化循環装置および珪藻土あるいは木質破砕の多孔質物質構造の微細な孔にバクテリアを付着させることにより、汚水の微生物が分解され汚水を清浄化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-020501号公報
【文献】特表平11-501524号公報
【文献】特開平11-169011号公報
【文献】特開2004-275020号公報
【文献】特開平6-169664号公報
【文献】特開2004-275884号公報
【文献】特開2010-234351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、給水後の海洋生物等の糞用等や給餌の際に余った餌等により、飼育水が酸化したり雑菌が繁殖するといった不都合を回避するために、養殖槽に入れる海水や淡水を、滅菌した上で毎日交換することで、雑菌の繁殖や酸化を抑えたりすることも行なわれていたが、養殖槽の海水等を全部入れ替えるには、大量の海水等の滅菌のために、さらに費用や手間が嵩むという不都合や、大量の海水等の温度を海洋生物等の生育温度に保つための電気代も嵩むなどの不都合があった。例えば、冬場なら5度以下の海水等を暖める必要があるし、夏場で水温が25度になるような場合には海水等を冷却する必要があるからである。
【0005】
また、海水等を全部入れ替える場合は、一度、養殖槽を空にする際や、入替えた後の海水等の温度変化や成分、及びペーハー値の変化により、海洋生物等に余計なストレスを掛けるリスクもあった。加えて、濾過器の負担も大きく、高価なフィルターを頻繁に交換する必要が出てくるという不都合もあった。
あるいは、抗生物質を養殖槽に投入することで殺菌することも行なわれていたが、費用が掛かるほか、後述のように海洋生物等の種類や用途によっては、抗生物質の使用ができない場合もあり、万能の対策ではなかった。
【0006】
特に、ナマコ養殖においては、日本国の法令等で抗生物質の使用が制限されていることや、仮に諸外国のように抗生物質の使用制限が緩和されるようになった場合でも、抗生物質の使用によって、耐性菌を生み出し、その海域において繁殖させることが知られており、その海域を汚染してしまうからである。
【0007】
そこで、このような不都合を回避するために、種々の対策案が示されていた。
例えば、特許文献1には、海洋魚介類に対し、餌となる飼料生物を給餌する前に、飼料生物を海水または希薄塩水を電解して生成された殺菌能を有し、有効塩素濃度が一定の範囲にある電解生成水で洗浄処理した上で、海洋魚介類に給餌する技術が開示されている。
しかし、餌を殺菌しても、残留した餌や、海洋魚介類が排出した糞などによる海水等の酸化や雑菌の繁殖を抑えることはできず、時間経過とともに酸化したり、雑菌が繁殖してしまうという欠点がある。
【0008】
また、特許文献2には、オゾンを利用して海水中の雑菌を殺菌する方法が開示されている。しかし、残留したオゾンは海洋生物等にも悪影響があるため、相応の装置を付加して除去する必要があり、かなり大掛かりな設備が必要になり、コストがかかるという欠点がある。
【0009】
また、特許文献3でも、海水を電気分解した強アルカリ海水を添加することにより、飼育水のペーハー値が維持されるように調整する必要があるため、電気分解するための大掛かりな設備を要することや、大量の海水を電気分解するために電気代などのコストが嵩むという不都合があった。
また、こういった設備面の不都合を回避するために、特許文献4では、給水の際に、ミクロフィルターを利用して雑菌を除去する技術が開示されているが、給餌の際に余った餌や海洋生物などが排出した糞尿などで海水が酸化するのを防止することができないという不都合があった。
【0010】
また、特許文献5では、350~600℃の温度で加熱処理した貝殻を主成分とする貝類の養殖用土壌改良剤を、養殖場に散布することにより、貝殻の主成分である炭酸カルシウムが溶出することで、土壌をアルカリ性にする効果が促進され、貝類の生育に好影響を与える発明が開示されている。しかし、これを比較的小さな飼育槽に利用した場合、局所的にアルカリ性の度合いが高くなって海洋生物自体に影響が出たり、貝殻が水槽の下部に沈殿して、浴槽の清掃の際にじゃまになるなどの不都合があった。
【0011】
また、特許文献6では、粉末状の凝集剤を飼育水に直接投入する必要があり、飼育水に何度も散布する手間や費用、および凝集させた不純物が水槽の下部などに沈殿して、頻繁に清掃、回収しなければならないなどの不都合があり、養殖用の水槽に用いることは困難であった。
そこで、凝集剤をブロック状に固めて、飼育水に設置することが考えられるが、通常の凝集剤を普通に固めてブロック状にして設置しても、飼育水の全体に分布している不純物を十分に凝集させて回収することはできなかった。
【0012】
また、特許文献7では、自然界に存在する多孔質の珪藻土をそのまま焼成するので、凝集作用が十分ではなく、その結果、バクテリアによる分解、浄化作用も不十分であった。
【0013】
そこで、本願発明では、上記のような不都合を回避しつつ、飼育水を浄化するための大規模な設備を要することなく、魚介類の生育に適した環境を担保して、生育用の水又は海水に餌を十分に投入した場合でも、残留する餌や魚介類が排出する糞尿および糞尿などから出るアンモニア、海水等に含まれる有害な重金属イオン、細菌やウィルス及びこれらの死骸などの不純物により飼育水が汚濁するのを防止して、適切な飼育環境を維持すると共に、雑菌が繁殖するのを抑えた、低コストかつ手間の掛からない魚介類の養殖方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、シラスなどの火山灰に含まれる二酸化ケイ素には、不純物を凝集させる性質があり、これを所定の処理(活性化等の処理)を施して高めた上で利用して、海洋生物等の飼育水を浄化し、安定した飼育系を維持することで海洋生物の収穫量を増やすことを目的とする。
【0015】
また、二酸化ケイ素は、稲、麦、竹、トウモロコシ、サトウキビなど、いわゆるケイ酸植物中にも豊富に含まれており、例えば、稲の籾殻には約20%、稲わらには約12%、大麦の殻にも約5%の二酸化ケイ素が含まれている。これらを900~1500℃程度で焼却することで得られる灰には90%以上の比率で二酸化ケイ素が含まれている。稲の籾殻や稲わら、大麦の殻は火力発電の原料としても用いることができ、これらの灰は産業廃棄物でもあるが、本発明の原料として効果的に利用することが可能となり、最終的な産業廃棄物の排出量を削減することにも貢献できる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、少なくとも二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む原料を1600℃以上の温度で融解させて二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を生成し、前記の化合物を冷却して得られた岩石状のブロックを微細粉砕して粉末状の凝集性素材を得て、前記粉末状の凝集性素材に基づいて、発泡加工によって生成した、複数の微細な空洞で構成された不純物凝集用ブロックを生成することを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明に記載の二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含有比率が、原料全体に占める二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの重量比率で、二酸化ケイ素の比率が60~90重量%、酸化アルミニウムの比率が4.5~20重量%であって、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの合計に対する重量比率で、酸化アルミニウムの比率が5~33%である不純物凝集用ブロックを生成することを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明に記載の前記不純物凝集用ブロックを、前記の二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末状の凝集性素材をPH値が11以上のアルカリ性の水に溶かして得た化合物のコロイド溶液を、PH7~8に調整したコロイド溶液に、浸潤させた後、乾燥するというサイクルを少なくとも1回以上繰り返して得た、不純物凝集用ブロックを生成することを特徴とする。
第4の発明は、第2の発明に記載の前記不純物凝集用ブロックを、前記の二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末状の凝集性素材をPH値が11以上のアルカリ性の水に溶かして得た化合物のコロイド溶液を、PH7~8に調整したコロイド溶液に、浸潤させた後、乾燥するというサイクルを少なくとも1回以上繰り返して得た、不純物凝集用ブロックを生成することを特徴とする。
第5の発明は、前記不純物凝集用ブロックの複数の微細な空洞にバクテリアを定着させて、微細な空洞に凝集した不純物を分解させることにより、不純物の凝集と分解のサイクルを確立させること、を特徴とする。
第6の発明は、取水した海水または淡水(以下「海水等」と呼ぶ)による飼育水の中の微生物や細菌を除去するための濾過手段と、飼育水を貯水する飼育槽と、を備えた海洋生物または淡水生物(以下「海洋生物等」と呼ぶ)の養殖システムであって、前記飼育槽に海水等を給水する手段と、飼育槽内の水流を維持する手段と、前記飼育槽内に、前記の不純物凝集分解用ブロックを1以上設置することにより、海洋生物等を投入した前記飼育槽の飼育水において、海洋生物等の排出する糞尿や給餌の際に余った餌などの不純物を凝集して分解する手段と、前記不純物凝集分解用ブロックに酸素を供給するエアレーション供給手段と、を備えたことにより、飼育水を清浄に保ち、海洋生物等に対する給餌や、海洋生物等から排出される糞尿による、飼育水の酸化ないし汚染、及び雑菌の繁殖を抑制することを特徴とする。
第7の発明は、少なくとも二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを含む原料を1600℃以上の温度で融解させて二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を生成する工程と、前記の化合物を冷却して得られた岩石状のブロックを微細粉砕して粉末状の凝集性素材を生成する工程と、前記粉末状の凝集性素材を用いて、所定の形状に成型して、複数の微細な空洞を含むように発泡加工を行う工程と、を備えたことを特徴とする不純物凝集用ブロック製造方法である。
第8の発明は、第7の発明に記載の不純物凝集用ブロック製造方法において、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムの含有比率が、原料全体に占める二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの重量比率で、二酸化ケイ素の比率が60~90重量%、酸化アルミニウムの比率が4.5~20重量%であって、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの合計に対する重量比率で、酸化アルミニウムの比率が5~33%であること、を特徴とする。
第9の発明は、第7の発明の不純物凝集用ブロック製造方法において、さらに、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末状の凝集性素材をPH値が11以上のアルカリ性の水に溶かして得た化合物のコロイド溶液を、PH7~8に調整したコロイド溶液に、前記不純物凝集用ブロックを浸潤させた後、乾燥するというサイクルを少なくとも1回以上繰り返す工程、を備えたことを特徴とする。
第10の発明は、第8の発明の不純物凝集用ブロック製造方法において、さらに、前記の二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末状の凝集性素材をPH値が11以上のアルカリ性の水に溶かして得た化合物のコロイド溶液を、PH7~8に調整したコロイド溶液に、前記不純物凝集用ブロックを浸潤させた後、乾燥するというサイクルを少なくとも1回以上繰り返す工程、を備えたことを特徴とする。
第11の発明は、第7~10の発明のいずれか一つに記載の不純物凝集用ブロック製造方法において、さらに、前記不純物凝集用ブロックの複数の微細な空洞にバクテリアを定着させる工程を備え、微細な空洞に凝集した不純物を分解させることにより、不純物の凝集と分解のサイクルを確立させることを特徴とする。
第12の発明は、取水した海水または淡水(以下「海水等」と呼ぶ)による飼育水の中の微生物や細菌を除去するための濾過手段と、飼育水を貯水する飼育槽と、を備えた海洋生物または淡水生物(以下「海洋生物等」と呼ぶ)の養殖方法であって、前記飼育槽に海水等を給水する工程と、飼育槽内の水流を維持する工程と、前記飼育槽内に、前記の不純物凝集分解用ブロックを1以上設置することにより、海洋生物等を投入した前記飼育槽の飼育水において、海洋生物等の排出する糞尿や給餌の際に余った餌などの不純物を凝集して分解する工程と、前記不純物凝集分解用ブロックに対するエアレーション供給工程と、を備えたことにより、飼育水を清浄に保ち、海洋生物等に対する給餌や、海洋生物等から排出される糞尿による、飼育水の酸化ないし汚染、及び雑菌の繁殖を抑制することを特徴とする。
第13の発明は、第12の発明に記載の養殖方法を用いて養殖した海洋生物等である。
第14の発明は、第1の発明に記載の粉末状の前記凝集性素材を、PH値が11以上のアルカリ性の水に溶かした水溶液をPH7~8に調整して得た二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含むコロイド溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明による不純物凝集用ブロック、不純物凝集分解用ブロックなどの養殖用ブロックを利用した養殖方法、養殖キット、ないし養殖システムでは、まず、シラスや火山灰や稲わらの灰などに含まれる二酸化ケイ素を利用して、所定の工程により凝集性素材を生成し、内部に微細な空洞部分を多く含むように凝集性素材をブロック状に固めた養殖用ブロックを製造する。
養殖用ブロックには、適宜ケイ素等の溶液に浸潤させて、内部の微細な空洞部分に二酸化ケイ素がコーティングされるようにしたり、適宜バクテリアを定住させた上で、飼育水に設置する。そして、適度な酸素を含む飼育水を循環させることにより、ブロックの中を糞尿等の不純物で汚れた飼育水が通り抜ける際に、飼育水が凝集性素材と接することで不純物を十分に凝集させたり、凝集した不純物をバクテリアに分解させたりすることができ、凝集剤の粉末を投入せずとも、一定の凝集作用を長期間維持することができるという効果を奏する。
【0018】
なお、バクテリアを飼育水中に放育しても、不純物が飼育水中にコロイド状に浮遊しているので、バクテリアが不純物を捕捉して分解することは殆どできないことが実験により判明している。
【0019】
また、抗生物質や塩素などの物質を不用意に養殖槽に投入することなく、安定した飼育環境を維持しつつ、残留した餌や、飼育する海洋生物等が排出する糞尿などにより、飼育水が汚濁したり、雑菌が繁殖するのを防止しつつ、飼育する海洋生物等に余計な環境ストレスを与えない、低ストレスな環境を提供することで収穫量を増大させるという効果を有する。
【0020】
これにより、例えば、ナマコ養殖の場合、約800万個の卵から、孵化するものが50万個程度あり、35~50mmサイズの稚ナマコになるのは、自然界では10匹程度、従来の養殖技術で成績の良いものでも、約800万個の卵から35~50mmサイズの稚ナマコになるのは1~3万匹程度だった。これに対し、本発明の養殖方法によれば、5~15倍の15万匹程度まで引き上げることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】は、本発明の養殖システム100の構成の概要図である。
【
図2】は、本発明における給排水方法の変形例を示す。
【
図3】は、本発明の養殖システム100の貯水部130に対し、飼育槽150が複数、並列に接続されている例を示す図である。
【
図4】は、本発明の養殖過程のフローを示す図である。
【
図5】は、二酸化ケイ素などの原料から、本発明の粉末状の凝集性素材を生成する工程を示すフロー図である。
【
図6】は、本発明の粉末状の凝集性素材を水に溶かし、ケイ素等の溶液を生成するフローを示す図である。
【
図7】は、本発明の養殖用ブロックの製造フローを示す図である。
【
図8】は、養殖用ブロックを飼育水中で用いた場合の作用効果を説明する図である。
【
図9】は、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの総重量に対する酸化アルミニウムの重量比率が5~25の場合において、加熱温度と生成した化合物を凝集性素材として用いた場合の凝集性能の変化傾向(相対値)を示したものである。
【
図10】は、加熱温度が1600℃以上の場合において、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合比に応じて、不純物の凝集性能が変化する様子(相対値)を示している。
【
図11】は、養殖用ブロックとして不純物凝集分解用ブロックを用い、ブロック1個の大きさが20cm×10cm×5cm(ティッシュ箱相当)などの大きさの直方体を選択した場合において、養殖システムの水質維持効果ないし海洋生物の収量の相対的効果の差異を示したものである。
【0022】
<用語の説明>
◇不純物とは、残留する餌、魚介類が排出する糞尿および糞尿などから発生するアンモニア、海水等に含まれる有害な重金属イオン、細菌やウィルス及びこれらの死骸、その他海洋生物等の飼育に有害な成分を意味する。
◇シラスとは、通常の火山灰とは異なり、ガラス質の二酸化ケイ素を特に多く含んだ火山灰を意味し、その組成は斜長石、石英、輝石が3割で、他の約7割は非晶質のガラス質からなる。その組成は7~8割は二酸化ケイ素を主成分とするガラス質からなり、酸化アルミニウムを約10数%、酸化ナトリウムを約数%含む。天然状態のシラスでは二酸化ケイ素のうち可溶性のある部分の割合は25~30%程度と低く、天然状態のままでは凝集性素材として不十分である。
◇活性二酸化ケイ素とは、二酸化ケイ素の表面に関する性質を変質させて、水に溶けやすくした二酸化ケイ素をいう。なお、二酸化ケイ素等が水に溶けている状態とは、微粒子である以上、あくまでコロイド状になって水に分散している状態をいう。
◇ゼータ電位とは、粒子間の静電気または電荷反力・引力の大きさの評価基準であり、不純物等の粒子の分散、凝集または沈殿等の作用の強さと相関関係がある指標となる。端的には粒子の表面に関する特性であり、詳細には、電気二重層中の滑り面と海面から十分に離れた部分との間の電位差をいう。二酸化ケイ素などの酸化物のゼータ電位は、水溶液のPH値や水溶液中に存在する他のイオンによっても左右され、例えば、ALアコイオン(アルミニウムアコイオン)が存在する場合は、酸化物(本件では二酸化ケイ素)の表面に、プラスの電荷を有するALアコイオンが配位子置換反応を伴って化学吸着することによりゼータ電位の絶対値や符号(極性)が変化する。
本願発明では、水可溶性のアルミニウム化合物(例えば硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムなど)を添加することなく、凝集性(ないしゼータ電位)を高めるための工程として、シラス等の二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを一定の比率で含む素材を1600℃以上の高温で融解させる工程により、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を生成して凝集性素材として用いることとした。
◇不純物凝集用ブロックとは、二酸化ケイ素や酸化アルミニウムを所定の重量比率で混合した原料から、高温加熱して化合物を生成し、化合物を微細粉砕して得られたものを、さらに発泡加工して所定の大きさに固めたものをいう。ブロックの形状は直方体などが設置や交換に適するが、これに限られない。
◇不純物凝集分解用ブロックとは、不純物凝集用ブロックに対しバクテリアを定着させて、凝集した不純物を分解させる作用を付加したものである。
◇養殖用ブロックとは、不純物凝集用ブロックまたは不純物凝集分解用ブロックのいずれか、あるいは両方を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の養殖システムにおける実施例について説明する。
なお、本発明の対象とする飼育生物として、ナマコはあくまで例示であって、ナマコと同類のウニなどの棘皮動物はもちろん、魚類その他の海洋生物、淡水生物(以下、「海洋生物等」という)にも適用できる。
【0024】
1.本発明の養殖システムの全体フロー
まず、本発明の養殖システムの全体フローについて
図4を用いて説明する。
適宜、親ナマコから採卵して受精させ(ステップ400)、波状の波板に、収卵した受精卵を付着させる(ステップ410)。
波板は、長手方向に10~15個の波状に凹凸が形成されて、卵が付着しやすい形状となっている。波板は、樹脂製などの約30×20cm~約40×30cmほどのものを用いることができ、適宜複数枚を縦方向ないし横方向に重ねたうえで飼育槽に沈めて用いる。
【0025】
この状態で、約20℃の水温を保ち、約1日経過すると孵化して(ステップ420)、嚢胚期幼生となって泳ぎだし、浮遊生活を始める。幼生のステージは複数段階に分かれており、オーリクラリア幼生(前期、後期)、ドリオラリア幼生、ペンタクチュラ幼生と変態が進み、14日前後で稚ナマコに変態する個体が出現しはじめる。
本システムでは、孵化後10日程度経過した幼生を採集して(ステップ430)、布製の付着床を飼育槽に複数枚浮遊させた中に放って飼育する(ステップ440)。
【0026】
飼育中は海藻の粉末等の給餌を行なうが(ステップ450)、余った餌やナマコなどの海洋生物等の糞尿などによる飼育水の酸化や雑菌の繁殖を抑えるために、後述のような各種の工夫が必要となる。
飼育槽(布)の中で、20~22℃の水温で180日程度飼育すると、50mm程のナマコに生育するので(ステップ460)、これを採集して(ステップ470)、海洋等に散布する(ステップ480)。
50mm程度に生育したナマコは生命力が強く、またホロトキシンなどの毒素を保有するため他の海洋生物等から忌避されるなど、他の海洋生物との競争にも打ち勝って、その海域で順調に生育することが分かっている。
その後、その海域で、自然繁殖し、継続的に漁をすることができるようになる。
【0027】
2.本発明の養殖システムの構成
図1は、本発明の養殖システム100の構成の概要図である。
本発明の養殖システム100には、海水又は淡水(以下、「海水等」という)を取水するためのパイプや電動ポンプ(図示せず)で構成される取水部110がある。
海水等にはミジンコに代表されるコペポーダなどの数mm以下の小型甲殻類 でカイアシ類(橈脚類)などのプランクトンが生息し、飼育対象となる海洋生物等の幼生を餌として繁殖することから、これらを除去することが必要となる。
また、雑菌などの細菌類、ウィルスなどの微生物によって、飼育する海洋生物等が病気になったり、飼育水が酸化したり汚染させるのを防止するため、これらを除去することが望ましい。
【0028】
そこで、濾過手段120を設けて、これらの微生物等を除去することとしている。
濾過手段には各種の方法が考えられるが、例えば、ナノサイズのフィルターを用いることができる。ナノサイズのフィルターは5~200nmの繊維をベースに積層したフィルターを用いることができ、前記のカイアシ類(0.5~3mm程度)はもちろん、細菌(0.1~10μm程度)のほか、ウィルス(100nm程度)を捕捉することもできる。
【0029】
濾過手段は、ナノサイズのフィルター以外にも電気分解などの利用も可能であるが、電気分解などの大掛かりな設備を要しない点で、ナノサイズのフィルターが好適である。その他、水道水を浄化するような砂利やセラミックスなどを積層したフィルターなど、何らかの濾過手段を用いることもでき、上記の手段に限られない。
海水等10が濾過手段120を通過することで、海洋生物等の飼育水20として利用することができるようになる。
【0030】
飼育水20は、貯水部130によって、所望の分量を備蓄することができる。
貯水部130で備蓄された飼育水20は、パイプなどで構成された給水部140により、飼育槽150に給水する。
貯水部130や飼育槽150には、本発明で製造した養殖用ブロック180を適宜、設置する。
【0031】
なお、図示はしないが、貯水部130や飼育槽150には、適宜、水温を調整するための電熱機構ないし冷却機構が備えられていてよい。
また、
図2に図示したように、飼育水中の酸素濃度(溶存酸素量)を適正に確保するために、適宜エアポンプなどのエアレーション装置190を設置することが望ましい。エアレーション装置(酸素供給装置)190は、養殖用ブロックの下部に酸素を供給するように設置した場合には、養殖用ブロックに定着させたバクテリアの活性度を調整することにも有効である。
【0032】
飼育槽150の飼育水は、適宜入れ替えることができ、排水部170の制御によって排水管160から排出される量やタイミングを調整する。この場合、餌や飼育する海洋生物等の糞用等の汚れたものが沈殿しやすい飼育槽の下部から排出することが望ましいが、これに限られない。
なお、排水部170による調整によらずに、
図2に示すような、配水管161の排出口を飼育水の水位と同じ位置に配置するような自動調節機構を設けても構わない。
また、
図3は、本発明の養殖システム100の貯水部130に対し、飼育槽150が複数、並列に接続されている例を示す。
【0033】
3.粉末状の凝集性素材の生成フロー
次に、
図5を用いて、原料の火山灰やケイ酸植物を焼成した灰を活性化させ、粉末状の凝集性素材を生成するフローについて説明する。
【0034】
特に、二酸化ケイ素などのガラス質を多く含んだ火山灰土をシラスといい、その組成は7~8割は二酸化ケイ素を主成分とするガラス質からなり、酸化アルミニウムを約10数%、酸化ナトリウムを約数%含む。埋蔵量は日本全国で2億トンといわれており、豊富な資源として活用できる。
また、シラス以外の火山灰を原料として利用することもでき、その場合には、シラスの成分比率に近づけるため、二酸化アルミニウム(アルミナ)などを添加して用いるが、埋蔵量はさらに無尽蔵にある。
【0035】
シラスには、不純物を凝集させる性質があり、この性質を利用して、海洋生物等の飼育水を浄化することができるが、自然界に存在するシラスの場合、水溶性のケイ素成分が少ないことや二酸化ケイ素単独でのゼータ電位特性等により、そのままでは凝集力が不十分な場合がある。
この点は、前述の従来技術のように、自然界に存在する珪藻土をそのままの成分比率で焼成して用いる場合も同様の不都合が生じる。
【0036】
特に、ブロック状に固めた場合には、凝集作用を十分に発揮させることが難しいので、所定の工程を経ることで、二酸化ケイ素を活性化して水に溶けやすくすると共に、凝集性を高めるようにすることが必要となる。
【0037】
二酸化ケイ素の表面特性を活性化するための所定の工程として、熱処理や電気的な処理が知られているが、本願発明では、シラスなど素材である二酸化ケイ素の融点に近い温度である1600℃~1750℃程度に加熱して、二酸化ケイ素を活性化ないし非結晶化(非晶質化)させて、後にアルカリと反応させて、水に溶ける性質を付与するための処理を行なうことで、不純物の凝集能力を高めることが可能である。
【0038】
なお、一般的なシラスに含まれる二酸化ケイ素のうち、非晶質の割合は10~20%であるが、本願発明の工程によれば、100%までは達成できないものの、50~90%程度の割合で非結晶化(非晶質化)できることが判明している。これにより、二酸化ケイ素の表面特性が活性化して、水に溶けやすくなる。
【0039】
また、凝集性素材の主成分である二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを高温で処理することで、融解した二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合ないし結合関係を均一にすることができ、水に溶けにくい成分である酸化アルミニウムが、水に溶けやすくなった活性ニ酸化ケイ素に付随して一体的にコロイド化して水に溶けやすくすると共に、凝集性素材を水に溶かした際に、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物のゼータ電位特性を利用して、凝集能力を向上させることが可能となる。
【0040】
以下、
図5を用いて詳述する。
まず、凝集性素材として、二酸化ケイ素を含むシラス(火山灰)、又は、シラス以外の火山灰やケイ酸植物を焼却した二酸化ケイ素を含む灰に酸化アルミニウムなどを所定の割合で添加して、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの成分比率を所定の比率に近づけた素材、あるいは、ケイ酸植物を焼却した二酸化ケイ素を含む灰に二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの成分比率を所定の比率に近づけた素材を用意する。
【0041】
そして、この素材を1600度以上の高温に加熱して溶解させる(ステップ500~520)。
10分程度で1600~1750℃まで上昇させる場合は、160~175℃/分と設定する(ステップ510)。
ここで、加熱する温度やその際の温度勾配は、一例であり、これに限定されるわけではない。二酸化ケイ素の表面特性を活性化したり、二酸化ケイ素をある程度融解させ、酸化アルミニウムとの化合物の生成に必要な範囲であればよい。
二酸化ケイ素の融点は1700℃前後であるが、完全に液体状態にまで融解させなくても、ある程度流体性を帯び、酸化アルミニウムと融合して均一に交じり合えばよいので、1600~1700℃の範囲でもよく、あるいは、さらに上昇させて、酸化アルミニウムの融点である概ね2070℃までの範囲である1700~2100℃を選択しても良い。
【0042】
もっとも、温度を上げるほど多くの熱エネルギーを要してコストがかかるし、炉の材質の耐火温度を上げる必要がある。
従って、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムとが十分に均一に交じり合った化合物の生成という観点と、その他コストなどの観点から、上記の1600~1750℃程度がバランスが良い。
要するに、概ね1600℃以上であれば足り、その温度範囲で二酸化ケイ素と酸化アルミニウムとが十分に均一に交じり合った化合物の生成ができるので、凝集性を向上させた凝集性素材を得ることができる。
【0043】
図9は、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの総重量に対する酸化アルミニウムの重量比率が5~25の場合において、生成した化合物を凝集性素材として用いた場合の、加熱温度と凝集性能の変化傾向(相対値)を示したものである。
図9によれば、1000℃程度で二酸化ケイ素に対する活性化の効果が出始め、1500℃付近から急激に凝集性能が高まり、1600℃以上では最大値の80%以上になり、原料を化合物化したことで、さらに凝集性能が高まっていることが分かる。
【0044】
1600~1750℃まで上昇させた後、完全に溶解させるための安定時間として、例えば、10分程度、高温状態を維持する(ステップ530)。
その後急激に冷却して、非結晶状態のまま安定化させる(ステップ540)。
この段階で、シラスの主成分である二酸化ケイ素などが活性化した状態で、安定化した岩石状のブロックが生成される(ステップ550)。
この粉末状の凝集性素材からなる岩石状のブロックは、非結晶状態の二酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの金属成分を含有するので、金属光沢を有している。
【0045】
次に、活性化した二酸化ケイ素および酸化アルミニウムの化合物で構成された岩石状のブロックを微細粉砕し(ステップ560)、活性化した二酸化ケイ素および酸化アルミニウムの化合物で構成された微細粉末状の凝集性素材を生成する(ステップ570)。
微細粉砕の粒径は、特に限定されないが、一定の凝集能力を維持するためにある程度微細であることが好ましいが、微細粉砕するコストとの関係で平均粒径10μm~300μmの範囲を選択するのが望ましい。
【0046】
なお、温度上昇時の温度勾配や、上昇させる温度、冷却時の温度勾配は一例であって、ある程度の幅があっても、非結晶化や凝集能力の向上を図ることができ、
図5や
図9に記載した例に限られない。
また、温度条件に加え、圧力の条件を変化させることで、凝集能力に相違が生じるが、少なくとも、上記の温度条件を一定範囲にすることで、非結晶化や凝集能力の向上を図ることができるので、圧力条件は限定されない。
【0047】
このような工程を経ることにより、シラスなどの火山灰やケイ酸植物を焼却した二酸化ケイ素を含む灰に含まれる二酸化ケイ素は非結晶状態のものが多いが、新たに高温で加熱することで、全てを非結晶状態にするほか、ケイ素と酸素の結合状態を変える等して、表面の物理的ないし化学的特性を変化させて水に溶けやすくする。そして、シラスなどの素材に含まれる二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの結合状態を均一にすることで、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムとが化合物となった状態で有するゼータ電位特性を利用して不純物の凝集能力を向上させることができる。
【0048】
ここで、ケイ素と酸素の結合状態を変えるメカニズムについては詳しい研究が進んでいないが、概ね、弱いπ 結合を切断して新たにより強いσ 結合を形成することでエネルギー状態や電子の結合状態、引いてはイオン化した状態での性質を変更させることによるものと推察される。
【0049】
また、シラスの成分比率として、その組成は7~8割は二酸化ケイ素を主成分とするガラス質からなり、酸化アルミニウムを約10数%含むことにより、これを1600℃以上の高温で融解して化合物を生成した際、二酸化ケイ素の表面に、含有割合に応じて、適宜、酸化アルミニウムが表出した状態となる。これにより、化合物としてのゼータ電位特性により、水に溶かした際にプラスイオン化して、ゼータ電位の絶対値が高まり、マイナスの電荷を有する不純物の凝集性を高めているものと考えられる。
【0050】
二酸化ケイ素単独のゼータ電位特性は、PH8付近で絶対値で10mV程度の負の値となるが、硫酸アルミニウムや塩化アルミニウムなどに由来したアルミニウムアコイオンが一定割合存在すると、ゼータ電位は絶対値で30~40mV程度の正の値になる。また、酸化アルミニウム単独のゼータ電位特性はPH5~8付近で絶対値で数十mV程度の正の値となっている。
【0051】
二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物のゼータ電位は、二酸化ケイ素単独の状態に、硫酸アルミニウムや塩化アルミニウムなどに由来したアルミニウムアコイオンが一定割合存在した場合と類似する状況となり、所定の絶対値の正の値をとることで凝集能力を得ている。
【0052】
従って、シラス以外の火山灰や、ケイ酸植物を焼却した二酸化ケイ素を含む灰を用いる場合には、酸化アルミニウムの量を適宜調整することで、高温で融解した後の化合物におけるゼータ電位特性を調整するとよい。
【0053】
なお、シラスの組成は約7~8割(代表例は約74%)は二酸化ケイ素を主成分とするガラス質からなり、酸化アルミニウムを約10数%(代表例は約14%)、酸化ナトリウムを約数%含み、凝集性素材の原料としてそのまま用いることができる。ただし、本発明の凝集性素材としてもちいる原料に含まれる二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの比率はこの数値に限定されず、例えば、二酸化ケイ素が6割、酸化アルミニウムが5%程度でも十分な凝集作用があることが判明しているため、一定の範囲内の比率が許容される。
【0054】
これを図示したのが
図10である。
図10は、加熱温度が1600℃以上の場合において、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混合比に応じて、不純物の凝集性能が変化する様子(相対値)を示している。
図10によれば、原料中の二酸化ケイ素に対する酸化アルミニウムの重量比(%)が5%になるくらいから、素材である二酸化ケイ素単体に対して、2倍程度の凝集性能が発揮され、10~20%の範囲で最大値の8割程度以上の凝集性能を発揮できることが示されている。
【0055】
4.粉末状の凝集性素材を水に溶かしケイ素等の溶液を生成する工程
次に、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末状の凝集性素材を利用して、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む粉末を水に溶かしたコロイド溶液(以下「化合物のコロイド溶液」という)を生成する工程を
図6を用いて説明する。
本工程で生成した化合物のコロイド溶液は、養殖用ブロックの凝集性を高めるために用いるため、養殖用ブロックの製造工程(
図7参照)に先立って説明する。
【0056】
図5で説明したように、所定の高温環境化で生成した岩石状のブロックを微細粉砕し、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物を含む凝集性素材で構成された微細粉末状の素材を得る。
水100に対し、この微細粉末状の素材を0.5~10%程度の重量比で、水に撹拌しながら混合する(ステップ600)。その際、水のPH値を11以上にすることで水に溶かしていく(ステップ610)。もちろん、予め、PH値を11以上にした水溶液を用いてもよい(ステップ600と610の混在)。
【0057】
なお、微細粉末状の素材は活性化された二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物で構成され、アルカリ性の水に溶けやすい性質を有し、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物がコロイド状ないしイオン化して水に溶けていく(ステップ620)。
こうして、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物の粉末などが高濃度で溶けた溶液(化合物のコロイド溶液)を得ることができる(ステップ630)。
【0058】
ただし、このままだとPH値が高すぎるため、PH値が7~8程度になるように、適宜、水で希釈しながら調整する(ステップ640)。希釈化の度合いは、概ね水100に対し0.5~1%程度の重量比が望ましいが、これに限定されない。
一度、イオン化ないしコロイド状になった二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物のコロイド溶液は、イオン化ないしコロイド化した状態を維持したままPH値を下げることができ、最終的にPH7~8程度の化合物のコロイド溶液を得ることができる(ステップ650)。
【0059】
5.養殖用ブロックの製造工程
次に、本発明の養殖用ブロックの製造工程について、
図7を用いて説明する。
図5の工程で得た二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物で構成された粉末状の凝集性素材を用意する(ステップ700)。そして、所定の形成助剤(例えばコンクリートやモルタルなどのつなぎ剤)と、発泡剤(例えば、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなどの炭酸塩)を加え、適宜混ぜ合わせた後、ブロックの形にプレス成形し、800~1300℃程度の高温で、発泡させながら焼成する(ステップ710)。
ブロックの形状や大きさは特に限定されず、球形や立方体、直方体その他の形状でもよいが、持ち運びや設置、交換のし易さを考慮して、20cm×10cm×5cm(ティッシュ箱相当)などの大きさの直方体を選択しても良い。
【0060】
適宜、冷却することで固形化したブロック状の素材を得る(ステップ720)。
このブロック状の素材(不純物凝集用ブロック)は、発泡剤の効果により、微細な空洞が多数あり、飼育水などがブロックを透過する性質を有している。
このため、手に持った感触では、体積当りで軽石かそれ以上に軽い感触のブロックである。
なお、この段階でも、十分な凝集性能を有しているが、後述のように、さらに凝集性能を高めることができる。
その後、ブロック状の素材(不純物凝集用ブロック)に対し、バクテリアなどの微生物を添加する(この状態を不純物凝集分解用ブロックという)。バクテリアは、微細な空洞部分に付着し、飼育水に含まれる不純物を餌として永続的に定着させることができる(ステップ730)。
【0061】
ここで、バクテリアとしては、飼育生物などの糞尿から出るアンモニアなどを硝酸で分解する硝化バクテリアのほか、有機スズや鉛やカドミウムなどの重金属を分解する好気性菌や海洋性バクテリアなどのバクテリア、鉄酸化バクテリアが知られているが、いずれか一種類もしくは複数種類を組み合わせて選択する。
【0062】
その後、ブロック状の素材を、
図6で作成した化合物のコロイド溶液に浸潤させて、微細な空洞部分の表面に、二酸化ケイ素ないし酸化アルミニウムの化合物の微細粉末のコロイドをさらにコーティングして、凝集性を高めていく。
なお、化合物のコロイド溶液に浸潤/乾燥を一定程度繰り返した後、バクテリアを定着させるようにしてもよい。バクテリアを定着させる前の状態の、化合物のコロイド溶液に浸潤/乾燥させたもの(化合物のコロイド溶液でコーティングされた不純物凝集用ブロック)を利用することもできる。
【0063】
化合物のコロイド溶液に浸潤/乾燥させる工程は、以下に限定されないが、例えば、化合物のコロイド溶液に一定時間(例えば30分程度)浸潤させ(ステップ740)、一度、空気中で一定期間(例えば1~2日程度)乾燥定着させ(ステップ750)、このサイクルを一定期間(数日から数十日)繰り返すこととしても良い。
そうして、一定のサイクルを経た後、本発明の養殖用ブロック(不純物凝集分解用ブロック)が完成する(ステップ760)。
【0064】
6.本発明の養殖用ブロックを用いた養殖システムにおける飼育水の環境維持作用について
本発明の養殖用ブロックを用いて、海洋生物や水生生物などを養殖する養殖システムがどのように機能するかを
図1、
図2、
図8などを用いて、以下説明する。
なお、以下の説明において、本発明の養殖用ブロックとは、不純物凝集分解用ブロックが中心だが、不純物凝集用ブロックを数ヶ月単位で適宜交換して使用することも可能である。
【0065】
まず、
図1、
図2に記載したように、貯水部130や飼育槽150内に、本発明の養殖用ブロック180を複数並べて設置する。そして、適当な水流を維持させると、養殖用ブロックの中を飼育水が通過する際に、ブロックの素材となっている活性二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物の微細粉末、あるいは化合物のコロイド溶液に浸潤/乾燥させる工程でコーティングされた活性二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物に触れることで、雑菌の繁殖の元になる余った餌や飼育する海洋生物等の糞尿等の不純物を凝集させていく。
【0066】
並行して、養殖用ブロックの微細な空洞部分に定着させたバクテリアが、凝集した不純物を分解していく。
そして、このサイクルを繰り返すことで、長期間にわたって、飼育水が飼育生物の糞尿等に含まれるアンモニアに汚染されたり、細菌などが繁殖するのを防止することができる。
【0067】
また、本願発明の養殖用ブロックを用いた養殖システムでは、ナマコなどの海洋生物を大量に飼育した場合でも、数年間の無交換運用が可能である。
例えば、15トンの飼育水を溜める水槽に対し、10~50mm程度のナマコを数十万匹~1000万匹程度飼育する場合に、20cm×10cm×5cmなどの大きさを選択して100~600個程度の養殖用ブロックを用いた環境下で、少なくとも5年程度は、飼育水から不純物を除去する効果を新品に対して9割以上維持できる見込みである(加速試験による)。そして、飼育生物の量などを調整すれば、半永久的に交換しない運用も可能な見込みである。
【0068】
これら本願発明の作用効果を図示したのが
図8である。
図8によれば、飼育水が、水透過性のある気泡部分で構成された養殖用ブロックを通過する際に、飼育水に含まれる不純物を凝集させ、凝集させた不純物を定着させたバクテリアが分解することで、飼育水から不純物が除去される様子が示されている。
【0069】
すなわち、本願発明の養殖用ブロックの製造工程によれば、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムの混合物からなる原料を所定の工程で活性化ないし凝集性を高めた化合物を生成した上で(
図5参照)、気泡を含むようにブロック化し(
図7前半)、別途、活性化された二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物で構成される化合物のコロイド溶液を生成して(
図6)、ブロックを浸潤ないし乾燥させる工程により気泡部分にも凝集性素材を高密度で付着させることができる(
図7後半)。
【0070】
また、ブロックの気泡部分にはバクテリアを定着させることで(
図7後半)、気泡部分の凝集性素材が飼育水から分離凝集した不純物を分解させることができ、気泡部分の凝集性素材の凝集力を維持することができるようになる。
【0071】
この点、先行技術の一例では、珪藻土あるいは木質破砕の多孔質物質構造を含む材料を不織布に含有させている技術があったが、この場合、汚水が通り抜けやすいものの、布に凝集性素材を含有させているため、体積で凝集力を稼ぐことができないという不都合がある。
これに対し、本願発明では、ブロック状にすることで、体積で凝集力を高めることができる。また、先行技術では、汚水に含まれる不純物の凝集能力と、バクテリアによる分解のバランスが悪く、水流の調整が困難であったが、本願発明では、飼育水がブロックの中の摩擦抵抗を受けて穏やかに通り抜けるため、水流の調節も容易になるという効果を奏する。
【0072】
また、先行技術の一例では、800℃以上で珪藻土を焼成するとはあるものの、本願発明のように、より高い1600℃以上といった高温で酸化アルミニウムと二酸化ケイ素の化合物を生成することの臨界的意義や、酸化アルミニウムと二酸化ケイ素の含有量の臨界的意義については記載も示唆もされていなかった。
他方、本願発明では、二酸化ケイ素を含む素材(火山灰やケイ酸植物を焼却した灰)において、二酸化ケイ素の融点の近傍である1600~1750℃程度まで温度を上げることによる二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの化合物における両者の結合状態の均一化や、活性化特性などによる、水への溶けやすさや凝集能力の向上について、数値の臨界的意義を見いだしたものである(
図9参照)。
【0073】
また、従来技術では、単に珪藻土(二酸化ケイ素を主成分とする)を焼成するだけに留まっていたが、本願発明では、活性二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを高濃度で含む化合物のコロイド溶液を生成し、ブロック化した後の工程として、微細な空洞部分に化合物のコロイド溶液を浸潤/乾燥の処理工程を経ることで、ブロック全体として、さらに凝集能力を高めることができる。
【0074】
また、バクテリアの定着ないし付着については、ミクロな視点では、多孔質物質の微細な孔という点で、本願発明と先行技術の一例との類似性がある。
しかし、本願発明では、ブロック化した上で、ブロックという体積のある構成の中で、微細な空洞部分があって、ある程度の通路としての長さを確保した上での空洞部分であるという点で相違する。これにより、本願発明では、ブロックという比較的長さのある経路の中を流れる水流を穏やかに整える作用により、凝集能力を最大限に向上させることや、穏やかな水流の中でバクテリアが安定して、凝集された不純物を分解できる効果については、先行技術に記載も示唆もされていなかった。
【0075】
なお、対比実験として、本願発明の養殖用ブロックに代えて、多孔のスポンジ状の物質にバクテリアを定着させて、不純物の除去実験を行なったが、通常のスポンジでは不純物の凝集性に乏しく、凝集した不純物をバクテリアが分解するという過程を経ることができないため、殆ど不純物の除去効果がなかった。
【0076】
以上のように、本発明の養殖用ブロックを用いた養殖システムによれば、
図1、
図2に記載したように、貯水部130や飼育槽150内に、本発明の養殖用ブロック180を複数並べて設置して、適当な水流を維持することで効果を発揮できる。すなわち、養殖用ブロックを飼育水が通過する際に、雑菌の繁殖の元になる余った餌や飼育する海洋生物等の糞尿等の不純物を凝集させる作用と、養殖用ブロックに定着させたバクテリアが不純物を分解させることにより、飼育水が飼育生物の糞尿等に含まれるアンモニアに汚染されたり、細菌などが繁殖するのを高いレベルで防止することができる。
【0077】
また、本願発明によれば、飼育水を殆ど入れ替える必要はないので、従来技術のように、全量を入れ替える場合に比して、プランクトンや微生物、ウィルスが混入するリスクが低減できる。加えて、濾過手段120の負担を軽減して、フィルター等の交換サイクルを長くすることや、飼育水の入れ替えの際の加温や冷却等の電気代を節約すること等により、コストを低減するほか、飼育する海洋生物等の環境の変化を最小限に抑えることができるという効果を奏する。
【0078】
また、このような低コストでありながら、飼育生物の収穫量を大幅に引き上げることができる。例えば、ナマコ養殖の場合、約800万個の卵から、孵化するものが50万個程度あり、35~50mmサイズの稚ナマコになるのは、自然界では10匹程度であった。従来の養殖技術で成績の良いものでも、約800万個の卵から35~50mmサイズの稚ナマコになるのは1~3万匹程度だったのに対し、本発明の養殖方法によれば、5~15倍の15万匹程度まで引き上げることができるという効果がある。
【0079】
この効果を示したのが
図11である。
図11では、養殖用ブロックとして不純物凝集分解用ブロックを用い、ブロック1個の大きさが20cm×10cm×5cm(ティッシュ箱相当)などの大きさの直方体を選択した場合において、養殖システムの水質維持効果ないし海洋生物の収量の相対的効果の差異を示したものである。
図11によれば、従来の養殖技術の水準に対し、100個程度の不純物凝集分解用ブロックを用いることで従来の養殖技術に対する優位性が出始め、500個程度用いれば、従来の養殖技術の水準に対し、5~15倍の収量が得られたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の養殖システムは、ナマコやウニなどの養殖の他、貝類や魚類の養殖などの用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
10 海水又は淡水(海水等)
20 濾過後の海水等
30 排水
100 本発明の養殖システム
110 取水部
120 濾過手段
130 貯水部
140 給水部
150 飼育槽
160 排水管
161 排水管(変形例)
170 排水部
180 養殖用ブロック
190 エアレーション装置(酸素供給装置)