(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ピンホール検査方法及びピンホール検査装置
(51)【国際特許分類】
G01M 3/40 20060101AFI20221012BHJP
G01N 27/92 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01M3/40 A
G01N27/92 A
(21)【出願番号】P 2019124530
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110952
【氏名又は名称】ニッカ電測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】上村 久仁男
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-195140(JP,A)
【文献】特開昭48-068296(JP,A)
【文献】特開昭58-182548(JP,A)
【文献】特開2015-224984(JP,A)
【文献】特開平04-186102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
G01N 27/60- 27/70
G01N 27/92
G01N 27/00- 27/10
G01N 27/14- 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査容器を介して配置した第1電極と第2電極の間に
交流矩形高電圧パルスを印加し、前記第1電極と前記被検査容器との間に放電を生じさせ、前記第2電極側における電圧の検出値の変化により、前記被検査容器におけるピンホールの有無を判定するピンホール検査方法であって、
前記被検査容器に帯電を生じさせた後、
前記第1電極に、前記被検査容器における前記第1電極側に集中している電荷と逆極性の電荷を生じさせる電圧を印加し、
前記第1電極と前記被検査容器との間の放電を生じさせて検査を行うことを特徴とするピンホール検査方法。
【請求項2】
前記第2電極側における検出値は、容量性成分インピーダンスの両端電圧であることを特徴とする
請求項1に記載のピンホール検査方法。
【請求項3】
前記検出値の検出は、放電抵抗を
近似させた際に算出される検出電圧の時定数に応じて定められるディレイ時間を確保した後、予め定めた検出時間内に行うことを特徴とする請求項1
または2に記載のピンホール検査方法。
【請求項4】
被検査容器を介して配置した第1電極と第2電極の間に高電圧を印加し、前記第1電極と前記被検査容器との間に放電を生じさせ、前記第2電極側における電圧の検出値の変化により、前記被検査容器におけるピンホールの有無を判定するピンホール検査装置であって、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する出力パルス生じさせる高電圧電源回路と、
前記被検査容器を介して減衰した電圧の変化を検出する検出回路と、を備え、
前記高電圧電源回路は、前記被検査容器に帯電を生じさせ、当該帯電状態を維持しているタイミングで、前記第1電極および前記第2電極に逆極性の電圧の出力パルスを印加する切替スイッチを備えていることを特徴とするピンホール検査装置。
【請求項5】
前記検出回路には、検出抵抗に加え、前記検出抵抗に対して静電容量を並列に接続し、容量性の等価回路を構成することを特徴とする
請求項4に記載のピンホール検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンホール検査に係り、特に、電圧を印加することで密封容器のピンホールの有無を検査する方法、及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンプルやレトルトパッケージなどの密封容器に生じた微小な孔や傷(以下、ピンホールと称す)の検出方法としては一般的に、高電圧印加可能な電極間に被検査容器を配置し、検査によって検出される電流や電圧の相違によってピンホールの有無を判定するという技術が知られている。
【0003】
具体的には、特許文献1から4に開示されているような技術である。特許文献1に開示されているピンホール検査方法は、正弦波交流高電圧を被検査容器に印加するものであり、特許文献2に開示されているピンホール検査方法は、直流高電圧を被検査容器に印加するものである。
【0004】
また、特許文献3に開示されているピンホール検査方法は、直流高電圧を被検査容器に印加する際、陰極側に補助電極を配置し、この補助電極にON-OFFスイッチを設け、ON-OFFスイッチを制御することで、被検査容器に対する帯電と放電を制御して放電時に流れる電流値の相違を検出するというものである。
【0005】
さらに、特許文献4に開示されているピンホール検査方法は、直流高電圧に微弱な交流高電圧を重畳させて被検査容器への電圧の印加を行うというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-182548号公報
【文献】特開2003-254941号公報
【文献】特開昭53-86294号公報
【文献】特表2019-505006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献に開示されているような技術によれば、検出される電流や電圧の変化に応じて被検査容器に関するピンホールの有無を判定することができると考えられる。ここで、電極と被検査容器間にコロナ放電を生じさせるためには、電極と被検査容器との間に定められる間隙を絶縁破壊できる電圧の印加が要求される。一般に平等電界の場合大気中で1mmの距離の放電を行うには3kV以上の印加電圧が必要となるとされている。
【0008】
電極と被検査容器との間隙は一般に2~5mm程度とされているため、コロナ放電を主体とした不平等電界の場合であっても15kV以上の印加電圧が必要とされ、ピンホール部の放電距離を考慮すると、20kV程度の印加電圧が求められていた。
【0009】
近年では、被検査容器の小型化、薄型化が進んでおり、検査装置における電極間距離が近くなる傾向にある。これに対し、放電側の電極と被検査容器との間に定められる間隙については従来の間隔と相違が無い。自動検査においては、被検査容器の移動、配置にバラツキが生じると共に、被検査容器と電極との接触を避ける必要があるためである。
【0010】
このため、上記特許文献に開示されているような技術をそのまま適用した場合には、一方の電極から放電された電流が被検査容器の外側面を通って他方の電極へ流れてしまう現象(沿面放電)が生じることがあり、電流や電圧の変化に応じたピンホールの検査ができなくなってしまうことがある。
【0011】
そこで本発明では、上記問題を解決し、放電側の電極に対する印加電圧を抑制し、被検査容器が小型であっても、適切にピンホール検査を行うことのできるピンホール検査方法、及び当該方法を実施可能なピンホール検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るピンホール検査方法は、被検査容器を介して配置した第1電極と第2電極の間に高電圧を印加し、前記第1電極と前記被検査容器との間に放電を生じさせ、前記第2電極側における電圧の検出値の変化により、前記被検査容器におけるピンホールの有無を判定するピンホール検査方法であって、前記被検査容器に帯電を生じさせた後、前記第1電極に、前記被検査容器における前記第1電極側に集中している電荷と逆極性の電荷を生じさせる電圧を印加し、前記第1電極と前記被検査容器との間の放電を生じさせて検査を行うことを特徴とする。
【0013】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法では、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される電圧は、交流矩形高電圧パルスとすると良い。このような特徴を有する事によれば、被検査容器における帯電状態が維持されたまま、逆極性の電圧の出力パルスを印加することが可能となる。
【0014】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記第2電極側における検出値は、容量性成分インピーダンスの両端電圧とすると良い。このような特徴を有する事によれば、検出側のS/Nを向上させることができる。よって、放電抵抗の変動に起因した検出電圧の変化を抑制しピンホールを検出する際の判定精度を向上させることができる。
【0015】
さらに、上記のような特徴を有するピンホール検査方法において前記検出値の検出は、放電抵抗を近似させた際に算出される検出電圧の時定数に応じて定められるディレイ時間を確保した後、予め定めた検出時間内に行うようにしても良い。このような特徴を有することによれば、時間経過によって生じる検出電圧の差を検出することができるようになる。よって、ピンホールを検出する際の判定精度を向上させることができる。
【0016】
また、上記目的を達成するための本発明に係るピンホール検査装置は、被検査容器を介して配置した第1電極と第2電極の間に高電圧を印加し、前記第1電極と前記被検査容器との間に放電を生じさせ、前記第2電極側における電圧の検出値の変化により、前記被検査容器におけるピンホールの有無を判定するピンホール検査装置であって、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する出力パルスを生じさせる高電圧電源回路と、前記被検査容器を介して減衰した電圧の変化を検出する検出回路と、を備え、前記高電圧電源回路は、前記被検査容器に帯電を生じさせ、当該帯電状態を維持しているタイミングで、前記第1電極および前記第2電極に逆極性の電圧の出力パルスを印加する切替スイッチを備えていることを特徴とする。
【0017】
また、上記のような特徴を有するピンホール検査装置において前記検出回路には、検出抵抗に加え、前記検出抵抗に対して静電容量を並列に接続し、容量性の等価回路を構成すると良い。このような特徴を有する事によれば、検出側のS/Nを向上させることができる。よって、放電抵抗の変動に起因した検出電圧の変化を抑制しピンホールを検出する際の判定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
上記のような特徴を有するピンホール検査方法、及び装置によれば、放電側の電極に対する印加電圧を抑制し、被検査容器が小型であっても、適切にピンホール検査を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るピンホール検査方法を実施するためのピンホール検査装置の一例を示す概略図である。
【
図2】ピンホール検査装置における高電圧電源回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図3】ピンホール検査装置における検出回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図4】基本実施形態における出力パルスの波形を示すグラフである。
【
図5】ピンホール検査装置についての等価回路を示す図である。
【
図6】スイッチS2をON、スイッチS1をOFFとした場合における電流の流れと被検査容器における帯電状態を説明するための等価回路図である。
【
図7】スイッチS1をON、スイッチS2をOFFとした場合における電流の流れと、相対的な電位差の生じる仕組みを説明するための等価回路図である。
【
図8】実施形態に係るピンホール検査方法における検査時の出力パルスの波形と、放電時における検出電圧の波形を示すグラフである。
【
図9】検出回路を検出抵抗のみで構成した場合における検出電圧の様子を示す図である。
【
図10】良品とされる被検査容器を検査する際のピンホール検査装置の等価回路を示す図である。
【
図11】不良品とされる被検査容器を検査する際のピンホール検査装置の等価回路を示す図である。
【
図12】検出回路に静電容量を加えて構成した場合における検出電圧の様子を示す図である。
【
図13】放電時における検出電圧の変化の様子を示すグラフである。
【
図14】出力パルスの変化による放電のタイミングと電圧の検出タイミングを示す図である。
【
図15】検出回路と判定回路との間にゲートSを設け、電圧の検出タイミングの切り替えを実施可能とした場合の等価回路を示す図である。
【
図16】出力パルスの電圧波形における立ち上がりtrと立ち下がりtfに時間的なズレを生じさせた場合の例を示す図である。
【
図17】出力パルス間に定められた電圧を印加する様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のピンホール検査方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
[ピンホール検査装置の概要]
まず、
図1から
図3を参照して、本発明のピンホール検査方法を実施するためのピンホール検査装置10の概略構成について説明する。なお、
図1においては一例として、被検査容器30の形態としてアンプルの形態を採用している。
【0022】
図1に示すピンホール検査装置10は、高電圧電源回路12と、第1電極14、第2電極16、および検出回路18とを基本として構成されている。高電圧電源回路12は、第1電極14と第2電極16との間に検査用電圧を印加するための電源である。本実施形態では、検査用電圧として、交流矩形高電圧パルスを採用している。このため高電圧電源回路12には、交流矩形高電圧パルスを生じさせるための要素を備える。
【0023】
高電圧電源回路12の具体的な構成の一例として、
図2に示すようなスイッチング回路を備えたものを上げることができる。
図2に示すスイッチング回路において、スイッチS1とスイッチS2には、それぞれのスイッチのON-OFFを切り替えるための制御回路20が接続されている。制御回路20を介してS1とS2にON-OFF信号を出力することで、スイッチS1とスイッチS2のそれぞれについて個別に制御することができる。なお、
図2におけるRnは、回路抵抗である。
【0024】
第1電極14は、被検査容器30との間に間隙を設けて備えられる電極である。
図1に示す例では、被検査容器30としてのアンプルにおける折り取り部の先端側近傍に配置されている。
【0025】
第2電極16は、被検査容器30の一部に対して密接する部分を有する電極である。
図1に示す例では、被検査容器30としてのアンプルにおいて内容物を貯留する部分(胴体部分)に密接するように配置されている。
【0026】
検出回路18は、被検査容器30におけるピンホールの有無を判定するための要素である。本実施形態では、検出回路18の両端電圧(
図1、
図3中におけるc-d間の電圧)を検出する際に生じる電圧の変化に基づいてピンホールの有無を判定可能な構成としている。本実施形態では
図3に示すように、検出抵抗18a2に対して並列に静電容量18bを設けるようにしている。この時、回路のインピーダンスZの抵抗成分Rと、静電容量成分(容量性リアクタンス)1/jωCとの関係が、R>>1/jωCとなるようにする。これにより、抵抗r側への電流の流れを抑制し、検出回路18を容量性とすることができる。このような回路構成とすることにより、被検査容器30にピンホールがある場合、静電容量の分圧比を得る事ができ、検出抵抗18a1,18a2のみの回路により電圧を検出する場合に比べS/Nが向上し、ピンホールが無い場合における検出電圧の差分判定が容易となる。なお、具体的な事例に関しては、後述する。
【0027】
[ピンホール検査方法:基本形態]
次に、上記のような構成のピンホール検査装置によるピンホール検査とその仕組みについて説明する。本実施形態では、高電圧電源回路12から、
図4に示すような交流矩形高電圧パルスを出力(以下、出力パルスと称す)する。制御回路20によりスイッチS1とスイッチS2のON-OFF切替を瞬時的に行う事により、電圧の出力パルスを矩形波とすることができる。
【0028】
また、
図4から読み取れるように、本実施形態における出力パルスは、プラス側の波形Eの立ち上がり(t1)と立ち下がり(t2)と、マイナス側の波形-Eの立ち上がり((t4)と立ち下がり(t5)との間にギャップ(t4-t2)を設けるようにしている。プラス側とマイナス側とにおける電圧の立ち上がりと立ち下がりが錯交することにより、電力の打ち消し合いが生じる事を防ぐためである。
【0029】
ここで、
図1に示すピンホール検査装置10を概略的に回路図に示すと、
図5に示すようなものとなる。なお、
図5においてRaは第1電極14と被検査容器30との間の放電抵抗であり、C1は、被検査容器30における第1電極14側における容器素材(例えばガラス)の静電容量であり、C2は、被検査容器30における第2電極側における容器素材(例えばガラス)の静電容量である。なお、被検査容器30の内容物の抵抗値については、極めて低いものであるとして省略している。
【0030】
ピンホール検査装置10において、第1電極14と第2電極16との間に出力パルスを印加すると、被検査容器30は、静電容量としての働きを担い、被検査容器30には帯電が生じ、入出力端(第1電極14近傍と、第2電極16近傍)にはそれぞれ電荷が集中し、入出力端において電位差が生ずる。入出力端に集中する電荷は、入力側にプラスの電荷、出力側にマイナスの電荷が集中する。このため、
図6に示すようにスイッチS2をONとして電流iが矢印Aで示す方向に流れた場合、静電容量C1には、図中右側にプラスの電荷(+q)が集中し、図中左側にマイナスの電荷(-q)が集中した状態が生じることとなる。
【0031】
この状態で、スイッチS2をOFFとし、静電容量C1の帯電が放電される前に
図7に示すように、スイッチS1をONとした場合、高電圧電源回路12から出力される出力パルスの極性が逆転され、電流iは、矢印Bで示す方向に流れることとなり、第1電極14には、プラスの電荷(+q)が集中することとなる。
【0032】
この時、被検査容器30における帯電状態は維持されているため、第1電極14側(静電容量C1における図中左側)には、マイナスの電荷(-q)が集中した状態にあり、第1電極14と被検査容器30との間に生じる電位差が大きなものとなる。
【0033】
ここで、
図8に示すように、高電圧電源回路12からの出力パルスの電圧が10kV程度である場合、被検査容器30における第1電極14側に帯電する電荷の電位は、-10kV程度となると仮定する。また、高電圧電源回路12から第1電極14側に高電圧が印加された場合、第1電極14に印加される電位は、+10kV程度となる。このため、第1電極14と被検査容器30との間には、20kV程度の電位差が生ずることとなり、両者間にコロナ放電が生じることとなる。
【0034】
この現象について、
図6に示すように、スイッチS2をONしている時間を0≦t<aとし、
図7に示すように、スイッチS1をONしている時間をa≦t<2aとして、第1電極14と被検査容器30との間に生ずる電圧Vaを求めることで証明することができる。なお、以下の数式においてCは、C=(C1×C2)/(C1+C2)としている。
【数1】
【数2】
【0035】
なお、数式1、数式2において、電荷qを数式3とした場合、電圧Vaは数式4で示すことができる。数式3において、eは、自然対数の底である。
【数3】
【数4】
【0036】
ここで、時間tは、t=a+Δtで表すことができるため、a=Δt-tと示すことができる。また、C、R、t、Δtについてそれぞれ次の具体的定数を入力すると、電圧Vaは、数式5のように表すことができる。
C=1×10
-12
R=100MΩ=10
8
t=10
-3
Δt=10
-6
【数5】
【0037】
数式5より、第1電極14と第2電極16に印加する電圧を逆転させた場合、第1電極14と被検査容器30との間には、出力電圧Eのほぼ2倍の電圧Vaが印加されることがわかる。よって、出力パルスの電圧を低くした場合であっても第1電極14と被検査容器30との間にコロナ放電を生じさせることが可能となり、
図1の第1電極14と第2電極16の間に過剰な高電圧に起因した沿面放電を避けることができる。
【0038】
なお、
図4に示す波形で出力パルスを印加する場合において、被検査容器30の帯電状態を保ち、第1電極14と被検査容器30との間の電位差を高めるためには、スイッチS1とスイッチS2の切り替えタイミング、並びに出力電圧を次のように定めると良い。
【0039】
まず、
図4に示すように、出力パルスの周期を2aとした場合、1周期(2a)を1秒~100マイクロ秒の範囲とする。また、各スイッチS1、S2をONにする時間、すなわちt2-t1、及びt5-t4は、半周期(a)の1/2以上の時間とする。この時出力パルスの電圧Eは、2kV~30kVの範囲とすることができる。
【0040】
[ピンホールの有無の判定について]
上記のようにして被検査容器30のピンホール検査を行った場合、ピンホールの有無により、検出回路18で検出される電圧に差が生じる。これは、ピンホールに起因して、ピンホール検査装置10を構成する等価回路の一部が短絡状態となるためである。具体的な電圧の変化としては、ピンホールが無い被検査容器30(良品)の検査を行った際の検出電圧に比べ、ピンホールが有る被検査容器30(不良品)の検査を行った際の検出電圧は大きくなる。このため、検出電圧の差分に基づいて被検査容器30に関するピンホールの有無を判定することができる。
【0041】
ここで、検出回路18を検出抵抗18a1、18a2のみで構成した場合、第1電極14と被検査容器30との間の空隙距離の多寡、すなわち空隙部の抵抗(放電抵抗)の変化が検出電圧に与える影響が大きくなる。このため、ピンホールが無い被検査容器30(良品)において、第1電極14との空隙が小さい場合(抵抗値が低い場合)と、ピンホールが有る被検査容器30(不良品)において、第1電極14との空隙が大きい場合(抵抗値が高い場合)とでは、放電時における検出電圧に差分が生じ難くなる事がある。
【0042】
放電時における検出電圧の一例を
図9に示す。まず、
図9における
図9(A)は、空隙部の抵抗値をRaとした場合における良品の検出電圧の波形を示すグラフである。次に、
図9(B)は、空隙部の抵抗値をRaとした場合における不良品(短絡時の放電抵抗Rp=0.01Ra)の検出電圧の波形を示すグラフである。最後に、
図9(C)は、空隙部の抵抗値を0.01Raとした場合における良品の検出電圧の波形を示すグラフである。
【0043】
また、
図10は、良品の検査を行う際のピンホール検査装置10の等価回路を示すものである。検出回路18の回路抵抗rの両端電圧Vaは、数式6のように示すことができる。
【数6】
【0044】
ここで、通常の検査においては、良品検査時における空隙部の抵抗値Ra=100MΩ(10
8)、被検査容器30における容器素材であるガラスの静電容量C1、C2をそれぞれ2pF、回路抵抗r=1kΩと仮定することができる。この場合C0は1pF(=10
-12)となるため、これらを数式6に代入すると、
【数7】
と示すことができる。また、空隙部の抵抗値が0.01Ra、すなわちRa=1MΩ(10
6)とした場合における良品検査時における検出電圧Vaは、
【数8】
と示すことができる。これに対し不良品の検査を行う際のピンホール検査装置10の等価回路は、
図11のように示すことができる。
図11に示す等価回路では、短絡によりRaとC1が、放電抵抗Rpに置き換えられることとなる。こうした場合における検出電圧Vpは、数式9のように示すことができる。
【数9】
【0045】
ここで、不良品検査時における放電抵抗Rpについて、Rp=1MΩとし、各値を数式9に代入すると、
【数10】
と示すことができ、数式8と数式10を比較すると、VaとVpは時定数のみがその差として現れることを理解できる。
【0046】
このため、
図9、並びに
図10、
図11、及び数式6~数式10を参酌すると、放電時における条件(空隙部の抵抗値)が一致している場合には、検出電圧に基づいてピンホールの有無を判定することは容易である。一方で、放電時の条件が異なる場合には、検出電圧の検出値(ピーク値)に基づくピンホールの有無を判定することが困難になることがある。このため、実際にはピンホールが無い被検査容器30(良品)であっても、ピンホールが有ると判定されてしまう可能性があり、判定精度の低下を招く恐れがある。
【0047】
これに対し、本実施形態における検出回路18のように、検出抵抗18a2に対して並列に静電容量18bを配置し、インピーダンスZの抵抗成分Rを静電容量成分1/jωCに比べて十分に大きくし、等価回路を容量性とすることで、分圧比を得る事によるS/Nの向上を図ることができ、検出電圧に基づくピンホールの有無の判定を容易にすることができる。
【0048】
本実施形態における放電時の検出電圧の一例を
図12に示す。まず、
図12における
図12(A)は、空隙部の抵抗値をRaとした場合における良品の検出電圧の波形を示すグラフである。次に、
図12(B)は、空隙部の抵抗値をRaとした場合における不良品(短絡時の放電抵抗Rp=0.01Ra)の検出電圧の波形を示すグラフである。最後に、
図12(C)は、空隙部の抵抗値を0.01Raとした場合における良品の検出電圧の波形を示すグラフである。
【0049】
図9と
図12とを比較した場合、
図12に示す検出電圧では、放電時における条件(空隙部の抵抗値)の変化による検出電圧への影響が少なく、いずれの条件においても良品と不良品の識別が容易となることを読み取ることができる。よって、被検査容器30のピンホールの判定精度の向上を図ることができる。
【0050】
[効果]
従来、第1電極14と被検査容器30との間の空隙を2~5mm設けた場合、高電圧電源回路12による印加電圧は20kV程度必要とされていた。これに対し本実施形態に係るピンホール検査方法では、第1電極14に電圧を印加した際に生ずる電荷と、被検査容器30に帯電させた際に生ずる電荷の極性を異ならせることで、両者間に相対的な電位差を生じさせることができる。これにより、高電圧電源回路12からの出力パルスの電圧を規定の電圧よりも低くしたとしても、第1電極14と被検査容器30との間にコロナ放電を生じさせることができる。よって、被検査容器30が小型、薄型化された場合であっても、沿面放電の発生を避けることができ、確実なピンホール検査を行うことが可能となる。
【0051】
また、上記のような検出回路18を備える事により、第1電極14と被検査容器30との間に生ずる空隙の多寡に起因した放電抵抗の変化が、検出電圧に及ぼす影響を小さくすることができる。よって、被検査容器30におけるピンホール検査の検査精度を向上させることができる。
【0052】
[ピンホール検出精度向上についての応用例]
上述したように、第1電極14と被検査容器30との間に設けられる空隙部の抵抗値が変化する場合において、良品検査時における空隙部の抵抗値Raと、不良品検査時における放電抵抗Rpとが近似(上記実施形態では両者が一致)する場合、検出電圧の差は、時定数にのみ現れることとなる。電圧検出時のグラフの一例を
図13に示す。なお、
図13において実線は、良品1(Ra=100MΩ、C=1pF)、破線は良品2(Ra=1MΩ、C=1pF)、二点鎖線は不良品(Rp=1MΩ、C=2pF)に関するデータの例である。
【0053】
図13によれば、放電直後の電圧値については良品2のグラフ(破線)と不良品(二点鎖線)との間に殆ど差が無い。一方、放電後2μsから5μsの間では、時定数の差に起因して、2つのグラフに比較的大きな差が生じていることを読み取ることができる。
【0054】
このため、放電時における電圧値の検出については、
図14に示すように、放電開始からtdのディレイ時間を設けた後、所定の時間tsの間に行うようにすると良い。このような検出方法を採用することで、良品2と不良品との間で、検出電圧の値に差異を生じさせることができ、ピンホール検査の検査精度を向上させることができる。ここで、ディレイ時間tdと、検出時間tsについては、被検査容器30の素材等に起因した時定数の差(数式8と数式10参照)に応じて適宜定めるようにすれば良い。
【0055】
なお、このような方法で検査を行う場合には、
図15に示すように、検出回路18に接続される判定回路22との間にゲートSを設けるようにすれば良い。そして、上述したディレイ時間tdと検出時間tsに応じてゲートSの開閉を行い、電圧値のサンプリングを行うことで、良品2と不良品との間においても、検出電圧に違いを得ることができる。
【0056】
[出力パルスの変形例1]
上記実施形態では、出力パルスの波形は、完全に矩形であるように説明した。しかしながら、波形の立ち上がり、立ち下がりに関しては、
図16に示すように、トップとボトムの間に時間差(立ち上がり時間trと立ち下がり時間tf)を設けた場合であっても、電位差に基づく電圧の確保が可能となる。よって、出力パルスの電圧が、所定の空隙間におけるコロナ放電に必要とされる電圧に比べて低い場合であっても、第1電極14と被検査容器30との間にコロナ放電を生じさせることが可能となる。
【0057】
ここで、
図16における波形の1周期である時間2aを1秒~100マイクロ秒、出力パルスの電圧Eを2kV~30kVとした場合、波形の立ち上がり時間trと立ち下がり時間tfはそれぞれ、0<tr(tf)≦数十マイクロ秒の範囲とすることができる。この範囲であれば、被検査容器30の帯電状態を維持することができるからである。
【0058】
[出力パルスの変形例2]
また、上記実施形態ではいずれも、プラス側の波形Eの立ち下がり(t2)と、マイナス側の波形-Eの立ち上がり(t4)との間にギャップ(t4-t2)を設ける旨記載した。しかしながら、波形の周期2aを1秒~100マイクロ秒の範囲とした場合には、
図4、あるいは
図16に示す波形におけるt1=0とした上で、t2=t3、t3=t4、t5=t6とし、
図17に示す波形のように、前述のギャップを0とする出力パルスとすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
上記実施形態では、被検査容器30の形態について一例として、アンプルの形態を示している。しかしながら被検査容器30としては、袋状の容器や、箱型の容器、さらに複雑な形態の容器等であっても良い。
【符号の説明】
【0060】
10………ピンホール検査装置、12………高電圧電源回路、14………第1電極、16………第2電極、18………検出回路、18a1,18a2………検出抵抗、18b………静電容量、20………制御回路、22………判定回路、30………被検査容器。