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特許7156701ナノカーボン含有構造体、ナノカーボン分散液及び該分散液を用いたナノカーボン含有構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ナノカーボン含有構造体、ナノカーボン分散液及び該分散液を用いたナノカーボン含有構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20221012BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20221012BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221012BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221012BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20221012BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20221012BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08L101/12
C09D17/00
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/174
C08K7/00
C08L89/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019128892
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2021014498
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】511163735
【氏名又は名称】ナノサミット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 翔一
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043145(WO,A1)
【文献】特開2017-145406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノカーボン、ナノセルロース、ゼラチン及び親水性構造体を含み、前記親水性構造体中に、前記ナノカーボン、ナノセルロース及びゼラチンが含有されている、ナノカーボン含有構造体。
【請求項2】
前記親水性構造体が親水性多孔質体または親水性繊維である、請求項1に記載のナノカーボン含有構造体。
【請求項3】
前記親水性多孔質体が親水性スポンジ構造体である、請求項2に記載のナノカーボン含有構造体。
【請求項4】
前記親水性スポンジ構造体が親水性軟質ポリウレタンフォームである、請求項3に記載のナノカーボン含有構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のナノカーボン含有構造体を含む消臭剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のナノカーボン含有構造体を含む静電的放電材又は電磁シールド材。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のナノカーボン含有構造体を含む放熱材。
【請求項8】
ナノカーボン、ナノセルロース、ゼラチン及び溶媒を含み、前記溶媒が水及び水溶性溶媒からなる群から選択される一種以上の溶媒である、ナノカーボン分散液。
【請求項9】
前記ナノカーボン1重量部に対して前記ナノセルロースが0.1~30重量部、前記ナノカーボン1重量部に対して前記ゼラチンが0.01~10重量部で含まれる、請求項8に記載のナノカーボン分散液。
【請求項10】
前記ナノカーボンが、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン、カーボンナノファイバー、これらの誘導体、及びこれらの二種以上の混合物からなる群から選択される、請求項8または9に記載のナノカーボン分散液。
【請求項11】
請求項1に記載のナノカーボン含有構造体の製造方法であって、
前記親水性構造体が、親水性ポリマー多孔質体であり、
請求項8のナノカーボン分散液と、前記親水性ポリマー多孔質体の原料モノマー及び/又はプレポリマーとを混合する工程と、
得られた混合物中の前記原料モノマー及び/又はプレポリマーを重合・発泡処理する工程と、を含む製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載のナノカーボン含有構造体の製造方法であって、
前記親水性構造体が、親水性繊維であり、
前記親水性繊維中に請求項8のナノカーボン分散液を含浸させる工程と、を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン含有構造体及び該ナノカーボン含有構造体を製造するのに好適なナノカーボン分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブなどのナノカーボンは疎水性が非常に高く、ファンデルワールス力等により容易に凝集してしまうため、水や汎用有機溶媒への分散は極めて困難である。このため、親水性構造体中に凝集の少ないナノカーボンを取り込ませるのは容易ではなく、これまで種々の検討がなされてきた。
たとえば、強酸処理による表面酸化など、ナノカーボン表面に溶媒和を可能にする官能基を共有結合により導入する、化学修飾法が知られている(特許文献1)。しかし、このような化学修飾法は、ナノカーボンの物性の変化を避けることができないし、また時間と費用がかかってしまい大量生産に向かないという問題があった。
他方で、分散剤を用いてナノカーボンを分散させる技術が知られている。たとえば、分散剤として界面活性剤[たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム塩(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(NaDDBS)などのアニオン界面活性剤;オクチルフェノールエトキシレート(Triton(商標)X-100等)などの非イオン界面活性剤]を用いて、ナノカーボンであるカーボンナノチューブを水中へ分散させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-115087号公報
【文献】国際公開第2014/115560号
【文献】国際公開第2006/008978号
【文献】特開昭53-106798号公報
【文献】特開2008-56779号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】高分子 58巻、2月号、第90-91頁(2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、界面活性剤によって分散させたナノカーボン分散液を、親水性構造体であるウレタンスポンジの中に取り込ませようとしたところ、界面活性剤の影響でウレタンスポンジがうまく形成できないことがわかった(実施例の作製例6参照)。すなわち、界面活性剤が共存することで、応用場面が限定されてしまう場合のあることがわかった。
したがって、本願発明の課題は、界面活性剤を必須成分として用いなくても、凝集が少ないナノカーボン分散液を得ることである。また、本願発明の別の課題は、該ナノカーボン分散液を用いることにより、凝集の少ないナノカーボンを取り込んだ親水性構造体を、簡便に大量生産に適した方法で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の第一の態様は、ナノカーボン、ナノセルロース、ゼラチン及び親水性構造体を含み、前記親水性構造体中に、前記ナノカーボン、ナノセルロース及びゼラチンが含有されている、ナノカーボン含有構造体である。
本願発明の第二の態様は、ナノカーボン、ナノセルロース、ゼラチン及び溶媒を含み、前記溶媒が水及び水溶性溶媒からなる群から選択される一種以上の溶媒である、ナノカーボン分散液である。
本願発明の第三の態様は、本願発明の第一の態様であるナノカーボン含有構造体の製造方法であって、
前記親水性構造体が、親水性ポリマー多孔質体であり、
本願発明の第一の態様であるナノカーボン分散液と、前記親水性ポリマー多孔質体の原料となるモノマー及び/又はプレポリマーを混合する工程と、
得られた混合物中の前記原料モノマー及び/又はプレポリマーを重合・発泡処理する工程と、を含む製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のナノカーボン分散液を用いることにより、凝集が少ないナノカーボンを含有する親水性構造体の大量生産も可能であり、これにより得られたナノカーボン含有構造体は、ナノカーボンの多様な特性(化学的、機械的、電気的、熱的、光学的特性)を利用して、消臭剤、静電的放電材又は電気的シールド材、あるいは放熱材等の種々の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施品ナノカーボン分散液1[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/水]の原子間力顕微鏡(AFM)写真(倍率9000倍)である。
図2】動的光散乱式粒径分布測定装置による、実施品ナノカーボン分散液1[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/水]のカーボンナノチューブの粒度分布測定結果である。
図3】比較品ナノカーボン分散液2[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/水]の原子間力顕微鏡写真(倍率9000倍)である。
図4】動的光散乱式粒径分布測定装置による、比較品ナノカーボン分散液2[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/水]のカーボンナノチューブ粒度分布測定結果である。
図5】比較品ナノカーボン分散液3[カーボンナノチューブ(CNT)/ゼラチン/水]の走査電子顕微鏡(SEM)写真(倍率15000倍)である。
図6】比較品ナノカーボン分散液3[カーボンナノチューブ(CNT)/ゼラチン/水]の走査電子顕微鏡(SEM)写真(倍率5000倍)である。
図7】カーボンナノチューブ/ナノセルロース/ゼラチンの分散状態を示す模式図である。
図8】カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチンの分散メカニズムを示す図である。
図9】実施品ナノカーボン分散液1[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/水]のフーリエ変換赤外分光スペクトル(FT-IR)である。カーボンナノチューブ(CNT)及びゼラチンのフーリエ変換赤外分光スペクトル(FT-IR)も参考までにそれぞれ併記している。
図10】実施品ナノカーボン含有構造体1[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/ポリウレタン(PUF)]のラマンスペクトルである。対応するカーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン混合粉末、及びカーボンナノチューブ(CNT)のラマンスペクトルも、参考までにそれぞれ併記している。
図11】実施品ナノカーボン含有構造体1[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/ポリウレタン(PUF)]のスポンジ構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図12】(b)実施品ナノカーボン含有構造体1[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/ポリウレタン(PUF)]及び(c)比較品ナノカーボン含有構造体2[カーボンナノチューブ(CNT)/界面活性剤/ポリウレタン(PUF)]の外形を示す写真である。対応する(a)無配合のポリウレタンスポンジ(PUF)の外形写真も、参考までに併記している。
図13】実施品ナノカーボン含有構造体[実施品構造体4~9(実線);カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/ポリウレタン(PUF)]と比較品ナノカーボン含有構造体[比較品構造体3~8 (破線);カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ポリウレタン(PUF)]の導電率を、ナノカーボン(カーボンナノチューブ、CNT)含有量に対してプロットした図である。
図14】実施品ナノカーボン含有構造体1[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/ポリウレタン(PUF)]と対応する無配合のポリウレタンスポンジ(PUF)の、遠赤外領域の分光放射率を示すスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.本願発明の第一の態様
本態様では、ナノカーボン、ナノセルロース、ゼラチン及び親水性構造体を含み、前記親水性構造体中に、前記ナノカーボン、ナノセルロース及びゼラチンが含有されている、ナノカーボン含有構造体を提供する。
後記する本願発明の第二の態様のナノカーボン分散液を用いれば、簡便に大量生産することも可能である。
【0010】
(1-1)ナノカーボン
(1-1-1)
本態様にいうナノカーボンとは、炭素原子により、円筒状、球状、シート状等の種々の幾何学的構造を形成し、少なくとも一つの寸法が1nm~1000μm程度、より好ましくは1nm~50μm程度、更に好ましくは1nm~1μm程度のサイズを有する炭素化合物である。より具体的には、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、カーボンナノファイバー、フラーレン、ダイヤモンド様カーボン、カーボンナノクリスタル、これらの誘導体又はそれらの二種以上の混合物を挙げることができ、好ましくはカーボンナノチューブ(CNT)である。また、機械的強度の観点からは、アスペクト比ができるだけ大きいものが好ましく、たとえば平均で少なくとも5以上であることが好ましい。この点で、数千程度の極めて大きなアスペクト比を有することも可能なカーボンナノチューブが特に好ましい。
カーボンナノチューブ等のナノカーボンは、分散性向上等のために官能基により修飾、例えば、酸化処理等の化学的修飾がなされていてもよいが、大量生産という観点からも、また、ナノカーボンの性質をできるだけ損なわない観点からも、酸化処理等の化学的修飾は行われないことが好ましい。
【0011】
(1-1-2)
カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素によって構成される六員環ネットワークが単層あるいは多層の同軸管状の円筒形構造を形成した炭素化合物であり、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又はこれらの混合物を挙げることができる。費用対効果の実用面からは、二層ないし多層のカーボンナノチューブが好ましい。多層のカーボンナノチューブの層数はたとえば2~50、好ましくは3~30である。
単層カーボンナノチューブには、複数の単層ナノチューブが非同軸で束になったもの、あるいは単層ナノチューブの中にフラーレンが入った構造(ピーポッドないしサヤエンドウ構造)でもよい。炭素によって構成される六員環ネットワークが円錐台形構造になった炭素化合物も本願発明のカーボンナノチューブに含めてもよい。また、カーボンナノチューブの先端が閉じて牛の角のような形状を有するカーボンナノホーンと呼ばれる構造も、本願発明のカーボンナノチューブに含めてもよい。
カーボンナノチューブの平均円筒直径は0.4nm~1μm程度であり、好ましくは1nm~50nm程度である。また、カーボンナノチューブの平均円筒長さは、長い方が好ましいが、50nm以上であればよく、1μm以上がより好ましい。より具体的には、50nm~10mm程度が好ましく、100nm~10mm程度がより好ましく、500nm~100μm程度が更に好ましく、1μm~10μm程度が更に好ましい。ここでカーボンナノチューブのアスペクト比は、平均円筒長さを平均円筒直径で割った値として得ることができる。高い機械的強度の観点からは、高いアスペクト比であることが好ましく、たとえば平均で少なくとも5以上が好ましく、少なくとも50以上がより好ましく、100以上が更に好ましい。
【0012】
(1-1-3)
グラフェンは炭素によって構成される六員環ネットワークが、1炭素原子厚さのシート状構造を形成した炭素化合物である。シート状構造の平均の長さは、好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは200nm~50μmである。また、シート状構造の平均の長さと平均の幅との比は、好ましくは1:0.1~1:10、より好ましくは1:05~1:5である。グラフェンを円筒形に折り曲げた構造がカーボンナノチューブの構造に対応する。
【0013】
(1-1-4)
カーボンナノファイバーとは、前記(1-1-3)で説明したグラフェンのシート構造が複数積層して形成された繊維である。かかるカーボンナノファイバーにも、グラフェンのシート構造が繊維長方向に対して斜めに積層し中空のコアを取り囲んだ構造を有する繊維[へリンボン型(herring-bone)あるいは積層カップ型(cup-stacked、多層カーボンナノチューブの一種);カーボンナノファイバーの内側及び外側に沿ってグラフェンのシート構造のエッジ面が露出した構造]が知られている。また、グラフェンのシート構造が垂直に積層した構造[小板型(platelet)]も知られている。特に積層カップ型のカーボンナノファイバーは、カーボンナノチューブと同様、特に優れた機械的強度が期待できる。機械的強度の観点から、高いアスペクト比であることが好ましく、たとえば平均で少なくとも5以上が好ましく、少なくとも50以上がより好ましく、100以上が更に好ましい。ここでカーボンナノファイバーのアスペクト比は、平均繊維長さを平均繊維直径で割った値として得ることができる。
【0014】
(1-1-5)
フラーレンは多数の炭素原子により閉殻空洞構造を形成したクラスター化合物である。フラーレン自体の平均直径は1nm程度である。
【0015】
(1-1-6)
なお、前記で言及したナノカーボンの寸法(カーボンナノチューブの平均円筒直径、平均円筒長さ、多層カーボンナノチューブの平均層数;グラフェンのシート状構造の平均長さと平均幅;カーボンナノファイバーの平均繊維直径、平均繊維長さ;フラーレンの平均直径など)は、たとえば透過型電子顕微鏡写真あるいは原子間力顕微鏡写真により、無作為に十分な数(たとえば100個)選ばれたナノカーボンの寸法を測定し、その数平均を採ることで求めることができる。なお、カーボンナノチューブが円筒構造というよりも、むしろ円錐台形構造を有する場合等、直径が変化する場合には、カーボンナノチューブの半分の長さ部分における直径を、平均円筒直径を求めるための円筒直径として代表してもよい。
【0016】
(1-1-7)
本態様において、ナノカーボンは、ナノセルロースとゼラチンが共存しているため、凝集の程度が低く、好ましくは単峰性の粒度分布を示し良好な均一分散性を示す。これにより、ナノカーボンが容易に脱落することを抑制できる。
親水性構造体中のナノカーボンの存在は、たとえば、構造体断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真により観察することができる。
【0017】
(1-2)ナノセルロース
(1-2-1)
本態様にいうナノセルロースとは、植物の細胞壁の主成分であるセルロースをナノレベルにまで微細化したものである。より具体的には、原料パルプに、好ましくは適切な前処理を与えた後、機械的処理(サンドミル、ビーズミル、ブレードミル等による微細化処理)を加えて、平均の直径が1nm~800nm程度;平均の長さが100nm~1000μm程度、より好ましくは10μm~1000μm程度になるまで微細化している。
特に、天然セルロースをTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル ラジカル)触媒酸化後、分散・解繊処理して得ることのできるTEMPO酸化セルロースナノファイバーのような、カルボキシル基含量の多いナノセルロースがナノカーボン分散の観点で好ましい。静電反発による分散性改善がより多く期待できるためである。好ましいカルボキシル基含量は、たとえば0.3mmol/g以上が好ましく、0.6mmol/g以上がより好ましく、1.3mmol/g以上が更に好ましい(非特許文献1)。
なお、図9には「CNF」(cellulose nano-fiber)と表記されたTEMPOナノセルロース(第一工業株式会社製)のFT-IRスペクトルを示している。1600cm-1付近にカルボキシレートのC=O伸縮によると思われる特性吸収ピークが、1400cm-1付近にカルボキシレートのC―O伸縮振動によるとみられる特性吸収ピークを観察することができる。
【0018】
(1-2-2)
ナノセルロースは、分散媒に対するカーボンナノチューブの分散剤として機能することは知られている(たとえば特許文献2)。しかし、後記する本発明の第二の態様においてより詳しく説明するが、分散剤としてナノセルロースを使用するのみではナノカーボンの凝集を十分に抑えることはできず、分散媒体中において、ナノカーボンが多峰性の粒度分布を示し、不均一な分散を示すことがわかった。これはナノセルロースそのものが繊維状であり、ナノカーボン凝集体の中に十分に浸入することができないためと思われた。
しかし、後記するゼラチンと併用することによって、分散性が改善され、ナノカーボンが単峰性の粒度分布を有し、更にナノカーボンの均一分散性も改善することも可能となる。
【0019】
(1-3)ゼラチン
(1-3-1)
動物の結合繊維を構成する繊維状タンパク質であるコラーゲンを処理することによって得られる水溶性タンパク質である。コラーゲン型螺旋を形成している3本のポリペプチド鎖が別々にほどけ、コラーゲン型螺旋構造のような規則性のある構造はとっていない。
ゼラチンはそのゲル化作用を利用して、カーボンナノチューブ含有体の透明バインダーとして用いられることが知られている(たとえば特許文献3)。しかし、ゼラチン単独ではナノカーボンを十分に分散させることはできず、凝集体が残存する。一時的にある程度の分散ができても長時間、分散を維持することはできなかった。
しかし、後記する本発明の第二の態様においてより詳しく説明するが、ナノセルロースと併用することにより、ナノカーボンの分散性が改善され、ナノカーボンが単峰性の粒度分布を有するようにでき、均一分散性を改善できることを、本発明者らは見出した。ゼラチンがナノカーボンの表面に巻き付く、ないし覆うと共に(ラッピング効果)、ナノカーボンを覆ったゼラチンとナノセルロースとの間の静電反発により分散安定化しているのではないかと考えている(図7及び8参照)。
【0020】
(1-3-2)
ゼラチンのアミノ酸組成では、側鎖に極性基[水酸基、酸性基、塩基性基(アミノ基、イミダゾール基など)、酸アミド基]を持つアミノ酸の割合が約35%程度あるとされている。しかし、ゼラチンの製造工程中に、コラーゲン中の酸アミドが加水分解されカルボキシル基に変化する。特にアルカリ処理ゼラチンでは、100%近く酸アミドを加水分解することができ、等イオン点がおよそpH5となる。これに対して、酸処理ゼラチンでは脱アミド化率が低く、コラーゲンに近いpH8~9の等イオン点を有する。静電反発による分散性改善を考慮すると、等イオン点の低いゼラチン(たとえば等イオン点が7以下、より好ましくは6以下)やアルカリ処理ゼラチンが好ましい。
なお、図9には、ゼラチン[市販ゼラチン粉末(和光純薬株式会社製)]のFT-IRスペクトルを示している。1650cm-1、1540cm-1、1240cm-1にそれぞれペプチド結合に由来するアミドI、アミドII及びアミドIIIの特性吸収が観察できる。1400cm-1付近の吸収はカルボキシレートのC―O伸縮振動によるものではないかと思われる。
【0021】
(1-4)親水性構造体
(1-4-1)
親水性構造体とは、水性分散液によって浸潤し得る、言い換えれば、水性分散液が構造体内に浸透することができる、あるいは少なくとも構造体表面層中に拡散することができる構造体を意味する。ここで、水性分散液とは、水及び水溶性溶媒からなる群から選択される一種以上の溶媒(水性媒体)による分散液であり、分散液は溶解液及び懸濁液を包含する広義の分散液を意味する概念として用いる。
かかる性質を有することにより、ナノカーボン、ナノセルロース及びゼラチンが含有された親水性構造体を製造するために、
(a)親水性構造体中にナノカーボンの水性分散液を浸潤させる、あるいは、
(b)親水性構造体を製造する過程で、親水性構造体原料(たとえば、原料モノマー及び/又はプレポリマー)とナノカーボンの水性分散液を混合することができる。
親水性構造体の材料全体に渡ってナノカーボンが分散配合され、またナノカーボンが容易に脱落しないとの観点からは、前記(b)がより好ましい。
したがって、親水性構造体中に、ナノカーボン、ナノセルロース及びゼラチンが含有されているとは、少なくとも親水性構造体の表面層中に、より好ましくは親水性構造体のほぼ全体に渡って、ナノセルロース及びゼラチンを用いて分散されたナノカーボンが含まれていることを意味する。
なお、前記(b)の方法により、親水性構造体が親水性ポリマー多孔質体である場合の、ナノカーボン含有構造体の製造方法については、後記3.の本発明の第三の態様で説明する。
また、親水性構造体が親水性繊維である場合、紡糸工程がポリビニルアルコール等の湿式紡糸のような場合、紡糸原料溶液にナノカーボンの水性分散液を混ぜて紡糸することも考えられる。
【0022】
(1-4-2)
親水性構造体としては、表面積を大きくすることのできる親水性多孔質体や親水性繊維を例示することができ、その中でも、耐衝撃性、クッション性が要求される用途[製品の梱包や輸送のための緩衝材、種々のパッド、靴用インソール(中敷き)など]に用いる観点からは、親水性軟質多孔質体、すなわち親水性スポンジ構造体が好ましい。ここで、軟質多孔質体あるいはスポンジ構造体とは、連続気泡型の多孔質体を意味する。
親水性構造体の原料としては、天然材料、人工材料、合成材料のいずれでもよく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、結晶性樹脂、非結晶性樹脂を含む種々の樹脂、たとえばポリウレタン類、フェノール類、ポリエステル類、ポリイミド類、シリコーン類等の種々の樹脂を用いることができる。この中でもウレタン樹脂発泡体(特にポリウレタンフォーム、更に好ましくはポリウレタンスポンジ)やメラミン樹脂発泡体が好ましい。
親水性を付与するためには、用いる原料モノマーの少なくとも一部に親水性モノマーを用いる等、公知の任意の方法を用いることができる。たとえば、
- 親水性ポリウレタンフォームを製造するために、エチレンオキシド含有量が20重量%以下のポリエーテルポリオールを用いてプレポリマーを生成後、イソシアネートと反応させる、
- アクリル酸カリウム等の親水性を有する有機酸金属塩をポリウレタンの配合原料中に加える等、が例示できる。
あるいは、(多孔質)樹脂表面を表面処理後、親水性ポリマーを結合させることによって親水化する方法も知られている。
また、多孔質体とするには例えば、原料ポリマー及び/又はプレポリマーを重合・発泡処理することによって得ることができる。詳細は、後記3.の本発明の第三の態様で説明する。
また、連通化処理を行うことにより、独立気泡型の多孔質体を連続気泡型の多孔質体とすることができる。
【0023】
(1-4-3)
親水性構造体中における、ナノカーボン/ナノセルロース/ゼラチンの好ましい配合比は、ナノセルロースとゼラチンの併用により、ナノカーボンを水性媒体[前記(1-4-1)参照]中でよりよく分散させる観点から決めることができる。
用いる水性媒体にもよるが、一般的には、ナノカーボン含有構造体中、
ナノカーボン1重量部に対して、ナノセルロースが0.1~30重量部で含まれることが好ましく、1~20重量部で含まれることがより好ましく;
ナノカーボン1重量部に対して、ゼラチンが0.01~10重量部で含まれることが好ましく、0.1~5重量部で含まれることがより好ましい。
また、ナノセルロースとゼラチンとの含有重量比は、ナノセルロース/ゼラチンが、1/1~100/1であることが好ましく、5/1~50/1であることがより好ましい。
また、親水性構造体中におけるナノカーボンの含量は、均一分散性による有意な効果を得る観点からは、4重量%以上が好ましく、より好ましくは5重量%以上である。また、親水性構造体からのナノカーボンの脱落防止の観点からは、50重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましい。
【0024】
(1-5)種々の用途
本態様のナノカーボン含有構造体は、ナノカーボンの多様な特性(化学的、機械的、電気的、熱的、光学的特性)を利用して、たとえば以下のような用途に使用することができる。
(1-5-1)消臭剤
(i)
アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン、ベンゼン、キシレン、ホルムアミド等の悪臭の原因となる物質を、空気中から除去する手段として、様々な消臭剤ないし脱臭剤が知られている。その中には、活性炭、ゼオライト、セラミックス、シリカゲルといった多孔質体が用いられてきた。
カーボンナノチューブなどのナノカーボンについても、親水性多孔質体中に含有させることで、消臭剤として利用する方法が考えられるが、ナノカーボンそのままでは親水性基材との親和性が高くないため、親水性多孔質体中に混合することは困難であった。
しかし、本願発明のナノカーボン含有構造体である親水性多孔質体または親水性繊維を用いれば、凝集の少ないナノカーボンを親水性基材中に取り込んでおり、消臭剤として好ましく用いることができる。
(ii)
本用途では、悪臭の原因となる物質(標的物質)を含む気体(空気)中に、本態様のナノカーボン含有構造体、特に親水性多孔質体または親水性繊維である前記構造体(多孔質消臭剤又は繊維消臭剤)を曝すことで、標的物質を構造体中のナノカーボンないしナノセルロースと優先的に結合させ、気体(空気)中の標的物質(アンモニア、キシレン、ホルムアルデヒド等)を低減ないし除去することができる(実施例の消臭試験1参照)。
更に、本態様の構造体中に銅を付加することで、硫化水素やアンモニアなどの標的物質を、更に効率よく低減ないし除去できる。例えば、本態様のナノカーボン含有構造体、特に親水性多孔質体または親水性繊維である前記構造体に、塩化銅、硫酸銅などの水溶液を含浸させる(数分ないし数時間程度)ことで、銅を付加することができる(実施例の消臭試験2参照)。
【0025】
(1-5-2)静電的放電材又は電磁シールド材
静電的放電材とは、帯電防止材の一種であり、静電気を生じても直ぐに放電するようにして帯電を防止する材である。従って、導電性物質は静電的放電材となり得る。繊維製品や頭髪などの傷み、電子機器の破損、火災や爆発の危険を回避するのに有用である。
また、電磁シールド材とは、電磁波の反射・吸収・多重反射によって電磁波エネルギーを滅衰させ、人体への危険性や精密機器への影響を回避させる材料である。電磁波の反射はシールド材の導電性に影響され、電磁波の吸収はシールド材の厚さ、透磁率及び導電性に影響される。電磁波の多重反射は、シールド材料の内部における繰り返し反射である。
本態様のナノカーボン含有構造体は、含有する導電性を有するナノカーボンの凝集が少なく、均一分散性も改善されているので、これらの用途に用いる材料としても均一な効果を得るのに好適と考えられる。この用途に用いる場合のナノカーボンの含有重量%は、好ましくは4重量%以上、より好ましくは5重量%以上である(実施例の導電性試験参照)。また、親水性構造体からのナノカーボンの脱落防止の観点からは、50重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましい。
【0026】
(1-5-3)放熱材
放熱材は、遠赤外線を放射することで、人体等に吸収され、その内部に浸透して加熱効果を生じさせることができる。カーボンナノチューブ等のナノカーボンも、黒体吸収/放射により、遠赤外線を放射することができ、健康器具、美容器具、暖房器具、調理器具等に用いるための材料(放熱保温材ないし放熱加温材)としての応用が期待できる。たとえば、靴用インソール(中敷き)として用いることで、遠赤外効果により人体を温め、血行を促進して健康維持に役立てることが考えられる。
他方で、電子機器用部品の小型化、高性能化にともない、高発熱への対策はますます重要になっている。一般的にヒートシンクなどの放熱部品を使用した熱対策があるが、発熱体と放熱部品との間に挟み込んで放熱効果を高める役割をする放熱シート等への応用(放熱冷却材)も考えられる。
カーボンナノチューブ等のナノカーボンは熱伝導性が高い材料であり、しかもナノカーボンの凝集が少なく、均一分散性も改善されていることから、本態様のナノカーボン含有構造体は、これら用途にも好適に用いることが期待できる。実際にも本態様のナノカーボン含有構造体に遠赤外線放射が確認できた(実施例の遠赤外測定試験参照)。
【0027】
2.本願発明の第二の態様
(2-1)
本態様では、ナノカーボン、ナノセルロース、ゼラチン及び溶媒を含み、前記溶媒が水及び水溶性溶媒からなる群から選択される一種以上の溶媒(水性媒体)である、ナノカーボン分散液を提供する。
本態様によれば、ナノセルロースをナノカーボンの分散剤ないし安定剤として用いると共に、ゼラチンを添加することでナノセルロースの分散効果を増強し、ナノカーボンの分散状態を維持することができる。言い換えれば、ナノセルロース及びゼラチンを併用することにより、ナノカーボンの凝集をより有効に抑制でき、水性分散液中のナノカーボンの粒度分布を単峰性にし、均一分散性を改善することも可能であり、安定な分散状態を維持することができる。
なお、ここにいう「分散」とは、溶解及び懸濁を包含する広義の分散を意味し、例えば、ナノカーボン、ナノセルロース及びゼラチンが全て溶解している態様、全て懸濁している態様、一部が溶解し一部が懸濁している態様を含む。
【0028】
(2-2)溶媒
本態様の分散液の分散媒である溶媒は、水及び水溶性溶媒からなる群から選択される一種以上の溶媒(水性媒体)である。好ましくは、水、あるいは水を主溶媒とする水溶性溶媒との混合溶媒であり、より好ましくは水である。
水溶性溶媒としては、アルコール類、多価アルコール類、極性非プロトン性溶媒等、分散液調製に必要な限度で水に溶解し得る、任意の有機溶媒を用いることができる。たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t-ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,2-ジメトキシエタン(Glyme)、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、トリエチルアミン、ピリジン、酢酸が含まれ、より好ましくは、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンである。
【0029】
(2-3)
ナノカーボン、ナノセルロース及びゼラチンについては、本発明の第一の態様の前記1.(1-1)~(1-3)で、それぞれ説明した。
【0030】
(2-4)
ナノカーボン分散液を調製する場合、例えば、ナノカーボン、ナノセルロース、ゼラチン、溶媒の所定量を、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等の混合装置を用いて混合することによって調製することができる。また、超音波分散処理を行ってもよいが、ナノカーボンをできるだけ破壊しない観点からは前記の混合装置を用いるのが好ましい。
ナノカーボンやナノセルロースはそれぞれ公知の方法により、事前にナノカーボン分散液やナノセルロース分散液として用意し、該分散液を用いて混合してもよい。もっとも、大量生産の観点からは、ナノカーボン粉末、ナノセルロース(粉末でも、水等と混ざったゲル状物でもよい)を用いて、溶媒と混合するのが好ましい。
好ましい配合重量比は、
ナノカーボン1重量部に対して、ナノセルロースが、好ましくは0.1~30重量部、より好ましくは1~20重量部であり;
ナノカーボン1重量部に対して、ゼラチンが、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。
また、ナノセルロースとゼラチンとの配合重量比は、ナノセルロース/ゼラチンが、1/1~100/1であることが好ましく、5/1~50/1ですることができる。
また、溶媒量については、分散に必要な程度で用いればよいが、ナノカーボンの濃度として、たとえば、0.001~30重量%、あるいは、0.01~20重量%、あるいは、0.1~10重量%、あるいは1~5重量%とすることが好ましい。
【0031】
(2-5)
本態様のナノカーボン分散液では、ナノセルロースとゼラチンを併用することにより、それぞれを単独で用いた場合よりもナノカーボンの凝集を抑制することができ、ナノカーボンの粒度分布を単峰性にし、均一分散性を改善することも可能である。
本発明の第一の態様の前記(1-2-2)でも説明したように、ナノセルロースは、カーボンナノチューブの分散剤として機能することは知られているが(たとえば特許文献2)、分散剤としてナノセルロースを使用するのみでは、ビーズミル等の分散処理工程を経ても、ナノカーボンの凝集を十分に抑えることはできず、分散媒体中において、ナノカーボンが多峰性の粒度分布を示すことがわかった[図3及び4(カーボンナノチューブ/ナノセルロース/水)参照]。粒度分布が多峰性を示すのは、種々の凝集体が残存していることを示している。これは、ナノセルロースそのものが繊維状であり、ナノカーボン凝集体の中に入り込み難く、いわゆるラッピング効果が働かないためと考えられた。
また、本発明の第一の態様の前記(1-3-1)でも説明したように、ゼラチン単独ではナノカーボンを十分に分散させることはできず、凝集体が残存する。一時的にある程度の分散ができても分散を維持することはできなかった[図5及び6(カーボンナノチューブ(CNT)/ゼラチン/水)参照]。
しかし、ナノセルロースとゼラチンを併用すると、単峰性の粒度分布を有し、均一分散性の改善されたナノカーボン(カーボンナノチューブ)の分散液を得ることができた[図1及び2(カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/水)参照]。
【0032】
(2-6)
ナノセルロースとゼラチンとの併用により、ナノカーボンの分散性が向上するのは、ゼラチンがナノカーボンの表面に吸着する(巻き付く、ないし覆う)ことにより[図7参照(ラッピング効果)]、ナノセルロースの分散剤としての機能を向上させたためではないかと考えている。より具体的には、ナノカーボンの表面を覆ったゼラチンが、ナノセルロースと静電反発することによって、ナノカーボンの凝集を抑制し、もって分散安定化しているのではないかと考えている(図8参照)。
本発明の第一の態様の前記(1-3-2)でも説明したように、ゼラチンのアミノ酸組成には、側鎖に極性基(水酸基、酸性基、塩基性基、酸アミド基)を持つアミノ酸の割合が約35%あり、カルボキシル基が含まれている。また、ゼラチンの製造工程中に、コラーゲン中の酸アミドが少なくとも一部が加水分解されてカルボキシル基が更に増加する。これにより等イオン点が低下する。また、ナノセルロースについてもC6位の1級水酸基の少なくとも一部がカルボキシル基に酸化されていると考えられる。このため、これらの極性基の間の静電反発によってナノカーボンが分散安定化しているものと考えている。
そして、かかる分散機構からすれば、用いるゼラチンは等イオン点の低いカルボキシル基含有量の多いゼラチン、たとえばアルカリ処理ゼラチン(等イオン点がpH8~9程度)を用いることが好ましい[本発明の第一の態様の前記(1-3-2)]。同様に、ナノセルロースについても、カルボキシル基を有するナノセルロース、特にTEMPO酸化セルロースナノファイバーのようなカルボキシル基含量の多いナノセルロースが好ましい[本発明の第一の態様の前記(1-2-1)参照]。ナノセルロースのカルボキシル基含量については、0.3mmol/g以上が好ましく、0.6mmol/g以上がより好ましく、1.3mmol/g以上が更に好ましい。
【0033】
3.本願発明の第三の態様
(3-1)
本態様は、本願発明の第一の態様であるナノカーボン含有構造体の製造方法であって、
前記親水性構造体が、親水性多孔質体であり、
本願発明の第一の態様であるナノカーボン分散液と、前記親水性多孔質体の原料モノマー及び/又はプレポリマーとを混合する工程と、
得られた混合物中の前記原料モノマー及び/又はプレポリマーを重合・発泡処理する工程と、を含む製造方法である。
【0034】
(3-2)
親水性多孔質体については、本発明の第一の態様の前記(1-4-2)で説明した。
本態様においては、まず、本願発明の第一の態様であるナノカーボン分散液と、前記親水性多孔質体の原料となるモノマー及び/又はプレポリマーとを混合する。
親水性多孔質体の原料モノマーとしては、たとえば親水性多孔質体がポリウレタンフォームの場合、親水性ポリオールモノマーとポリイソシアネートモノマーを用いることが例示される。
親水性ポリオールモノマーとしては、ポリエーテルポリオール(グリコール、グリセリン、ソルビトール、蔗糖等の低分子ポリオールにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合したもの)やポリエステルポリオール(アジピン酸等の二塩基酸とエチレングリコール等の多価アルコールを縮合させ、末端を水酸基にした化合物)などが例示できる。
ポリイソシアネートモノマーとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを例示できる。
また、親水性多孔質体のプレポリマーとしては、たとえば親水性多孔質体がポリウレタンフォームの場合、ポリオールとポリイソシアネートとを、NCO/OH比においてNCO過剰で反応させ、イソシアネート基末端とした中間反応生成物(イソシアネート基末端プレポリマー、たとえば特許文献4参照);あるいはNCO/OH比においてOH過剰で反応させ、水酸基末端とした中間反応生成物(ヒドロキシ末端プレポリマー、たとえば特許文献5参照)が挙げられる。イソシアネート基末端プレポリマーはポリイソシアネートモノマーの代わりに、ヒドロキシ末端プレポリマーはポリオールモノマーの代わりに用いることができる。
【0035】
(3-3)
次いで、得られた混合物中の原料となるモノマー及び/又はプレポリマーを重合・発泡処理する。
この際、必要に応じて、重合反応を調節するための触媒、泡の状態を調節するための整泡剤、発泡剤、架橋剤などが用いられる。
触媒としては、アミン化合物(N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミンなど)や金属系触媒(ジラウリン酸ジブチルスズなど)を例示できる。
整泡剤としては、たとえば界面活性剤、特にシリコーンオイルが挙げられる。
発泡剤としては、水、ヒドロフルオロカーボン化合物、炭化水素(ペンタン、シクロペンタンなど)、炭酸ガス等を例示できる。
架橋剤としては、グリセリン、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコール、エタノールアミン類、ポリエチレンポリアミン類等のアミンなどを例示できる。
【0036】
(3-4)
本態様の製造方法により、ナノカーボンが親水性多孔質体の材料中に、分散性よく含有させることができ、ナノカーボンの脱離の少ない、ナノカーボン含有の親水性多孔質体を提供できる。
【実施例
【0037】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0038】
[ナノカーボン分散液]
(作製例1:実施品ナノカーボン分散液1)
以下の手順に従い、カーボンナノチューブ、ナノセルロース及びゼラチンを含む水分散液(実施品ナノカーボン分散液1)を調製した。
すなわち、多層カーボンナノチューブ粉末(KUMHO株式会社製、円筒径10~15nm)80g、TEMPOナノセルロース(第一工業株式会社製)1.5kg、市販のゼラチン粉末(和光純薬株式会社製)40g、及び脱イオン水1580g (合計:3200g)をよく混合し、ビーズミル機を用いて6時間分散処理をし、2.5重量%カーボンナノチューブ分散液を調製した。
この水分散液のフーリエ変換赤外分光スペクトルを図9に示す。
【0039】
(作製例2:比較品ナノカーボン分散液2)
以下の手順に従い、カーボンナノチューブ及びナノセルロースを含むが、ゼラチンを含まない水分散液(比較品ナノカーボン分散液2)を調製した。
すなわち、多層カーボンナノチューブ粉末(KUMHO株式会社製、円筒径10~15nm)80g、TEMPOナノセルロース(第一工業株式会社製)1.5kg、及び脱イオン水1620g (合計:3200g)をよく混合し、ビーズミル機を用いて6時間分散処理をし、2.5重量%ナノカーボン/ナノセルロース混合水液を調製した。
【0040】
(作製例3:比較品ナノカーボン分散液3)
以下の手順に従い、カーボンナノチューブ及びゼラチンを含むが、ナノセルロースを含まない水分散液(比較品ナノカーボン分散液3)を調製した。
すなわち、多層カーボンナノチューブ粉末(KUMHO株式会社製、円筒径10~15nm)80g、市販のゼラチン粉末(和光純薬株式会社製)40g、及び脱イオン水3080g(合計:3200g) をよく混合し、ビーズミル機を用いて6時間分散処理をし、2.5重量%ナノカーボン/ゼラチン混合水液を調製した。
【0041】
(作製例4:比較品ナノカーボン分散液4)
以下の手順に従い、ナノセルロース及びゼラチンの代わりに界面活性剤でカーボンナノチューブの分散液(比較品ナノカーボン分散液4)を作製した。
すなわち、多層カーボンナノチューブ粉末(KUMHO株式会社製、円筒径10~15nm)80g、両性イオン界面活性剤(CHAPS:
3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammmonio]propanesulfonate)40g、ポリビニルピロリドン:PVP(和光純薬工業)40g、及び脱イオン水3040g(合計:3200g)をよく混合し、ビーズミル機を用いて6時間分散処理をし、2.5重量%ナノカーボン/界面活性剤混合水液を調製した。
【0042】
[ナノカーボン含有構造体]
(作製例5:実施品ナノカーボン含有構造体1)
作製例1で作製した実施品ナノカーボン分散液1(カーボンナノチューブ2.5重量%含有)を100g採取し、これにウレタンプレポリマー/トリレンジイソシアネート混合液[プレポリマーAFPP、(株)東洋クオリティワン製]40g、及び整泡剤0.8gを添加し、混合・発泡処理を行った。ここでは、水が発泡剤となっている。
その後、恒温乾燥機に入れ、80℃で24時間乾燥させ、カーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジ(実施品ナノカーボン含有構造体1)を得た。用いたポリウレタン原料を基準にしたカーボンナノチューブの含量は6.25重量%(=100×2.5/40)である。
なお、用いたウレタンプレポリマー/トリレンジイソシアネート混合液の組成は、ウレタンプレポリマー(ヒドロキシ末端)が75~85%、トリレンジイソシアネートの異性体混合物(2,6-体及び2,4-体)が15~25%であった。
なお、カーボンナノチューブがポリウレタンスポンジ中に含まれることは、ラマンスペクトルにより確認することができる(図10参照)。すなわち、ラマン分光法において、カーボンナノチューブ(CNT)粉体そのものと比較して、CNT/CNF/ゼラチン粉末およびCNT/CNF/ゼラチン粉末/PUFスポンジ中にも、CNT単独由来のピークと一致しており、かつピークシフトを示さないことが確認された。ここで、CNFはナノセルロース(cellulose nanofiber)を意味し、PUFはポリウレタン(polyurethane)を意味する。
また、得られた実施品ナノカーボン含有構造体1の走査電子顕微鏡写真を図11[(a)~(d)の写真]に示す。CNT/CNF/ゼラチン/PUFスポンジには、写真(a)により 100μm~200μm程度の多数のセルが確認された。また、写真(b)(c)においては、100μm以下のスポンジセルは示されていないことが確認された。更に、写真(d)からは、多くのCNTが、スポンジのセル内に取り込まれていることが確認された。
【0043】
(作製例6:比較品ナノカーボン含有構造体2)
作製例1において実施品ナノカーボン分散液1の100gを、作製例4で得られた比較品ナノカーボン分散液4の100gに置き換えた以外は同じ方法により、比較品ナノカーボン含有構造体2の作製を試みた。
しかし、図12からも明らかなように、うまくウレタンスポンジを形成することができなかった。より具体的には、表面はゴムのように固く、内側は空洞になっておりスポンジ状構造の形成には至らなかった。これは、界面活性剤による影響でスポンジの形成が阻害されたことによるものと考えられる。
【0044】
(作製例7:実施品ナノカーボン含有構造体3)
作製例5で作製した実施品ナノカーボン含有構造体1(カーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジ)100gを、4ミリモル/リットルの硫酸銅水溶液1リットルに3時間含浸させた。その後、硫酸銅水溶液中から当該ポリウレタンスポンジを取り出し、恒温乾燥機に入れ、80℃で24時間乾燥させて、実施品ナノカーボン含有構造体3(銅含有のカーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジ)を得た。
【0045】
[分散確認試験]
(分散確認試験1)
作製例1,2で得られた実施品ナノカーボン分散液1及び比較品ナノカーボン分散液2の各ナノカーボン分散液について、原子間力顕微鏡写真(装置:Agilent 5500:倍率9000倍)及び分散しているカーボンナノチューブの粒度分布を測定した(装置HORIBA LB-550)。得られた原子間力顕微鏡写真及び粒度分布測定結果を図1及び2(実施品ナノカーボン分散液1)及び図3及び4(比較品ナノカーボン分散液2)に示す。当該原子間力顕微鏡写真により、カーボンナノチューブとナノセルロースの状態を観察することができる。
なお、この粒度分布にいう、カーボンナノチューブの粒度とは、動的光散乱法により求められる、流体抵抗力相当径(拡散係数相当径)であり、検出量は粒子の個数に対応する頻度である。
粒度分布測定結果からも明らかなとおり、ナノセルロースを含むがゼラチンを含まない比較品ナノカーボン分散液2では二峰性の粒度分布を示すのに対して、ナノセルロース及びゼラチンを両方含む実施品ナノカーボン分散液1では、単峰性の粒度分布を示している。これはナノセルロース単独では、カーボンナノチューブの分散には不十分で、凝集がまだ残存しているのに対して、ナノセルロース及びゼラチンを併用することで、カーボンナノチューブの凝集がほとんどなくなり、孤立分散ないしそれに近い状態になっていることを示す。
対応する原子間力微鏡写真を観察しても、比較品ナノカーボン分散液2では、繊維状のカーボンナノチューブないしナノセルロースに加えて、ところどころにカーボンナノチューブないしナノセルロースの凝集体と思われる塊が観察できると共に、カーボンナノチューブないしナノセルロースの観察できない領域も多く、分散が不均一であることがわかる。これに対して、実施品ナノカーボン分散液1では、写真全体に繊維状のカーボンナノチューブないしナノセルロースが広がり、かなり均一に分散している状態が観察できる。
【0046】
(分散確認試験2)
得られた比較品ナノカーボン分散液3についての走査電子顕微鏡写真を図5及び6に示す。
走査電子顕微鏡写真からも明らかように、カーボンナノチューブないしナノセルロースの凝集体と思われる塊は観察できるが、分散確認試験1で観察されたような繊維状のカーボンナノチューブないしナノセルロースはほとんど見られなかった。
なお、分散確認試験1と異なり、原子間力顕微鏡ではなく走査電子顕微鏡を用いたのは、比較品ナノカーボン分散液3では、カーボンナノチューブが分散せず凝集体を形成していることから、測定サンプルの厚みが厚くなり、原子間力顕微鏡での観察は不適切となったためである。
【0047】
[消臭試験]
(消臭試験1)
作製例5で調製した実施品ナノカーボン含有構造体1(カーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジ)を用いて、標的物質(アンモニア、キシレン、ホルムアルデヒド)に対する消臭試験を行った。
すなわち、実施品ナノカーボン含有構造体1を18.75g入れた、密閉された9リットルサイズの容器を3つそれぞれ準備した。そして一つの容器にアンモニアを濃度100ppmで、他の一つの容器にキシレンを濃度100ppmで、残りの一つの容器にホルムアルデヒドを濃度40ppmで加え、各容器における各標的物質の空気中濃度の経時変化を測定した[測定機器:ガス検知管(株式会社 ガステック製)]。
また、別途、当該カーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジを入れず、各標的物質のみをそれぞれ入れた同様の容器を用いた空試験も行った。
その結果を下記表1に示す(空試験の結果は括弧内)。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1から明らかなように、測定開始から3時間後の時点で、アンモニアは96%が、キシレンは約87%が、ホルムアルデヒドは99%以上が、それぞれカーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジにより吸着除去されていた。
標的物質が硫化水素についてのデータは上記表1には記載されていないが、多少の吸着効果は観察することができた。
【0050】
(消臭試験2)
作製例7で作製した実施品ナノカーボン含有構造体3(銅含有のカーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジ)を用いて、消臭試験を行った。
すなわち、実施品ナノカーボン含有構造体3の6.25gを入れた、密閉された9リットルサイズの容器を4つ準備した。そして一つの容器にアンモニアを濃度100ppmで、他の一つの容器にキシレンを濃度100ppmで、さらに別の他の一つの容器にホルムアルデヒドを40ppmの濃度で、残りの一つの容器に硫化水素を濃度40ppmで加え、各容器における各標的物質の空気中濃度の経時変化を測定した[測定機器:ガス検知管(株式会社 ガステック製)]。
また、別途、実施品ナノカーボン含有構造体3を入れず、各標的物質のみをそれぞれ入れた同様の容器を用いた空試験も行った。
その結果を下記表2に示す(空試験の結果は括弧内)。
【0051】
【表2】
【0052】
上記表2から明らかなように、測定開始から3時間後の時点で、アンモニアはほぼ100%が、キシレンは約73%が、ホルムアルデヒドは91%以上が、硫化水素はほぼ100%が、それぞれ銅含有のカーボンナノチューブ含有ポリウレタンスポンジにより吸着除去されていた。
【0053】
[導電性試験]
作製例5に準じて(実施品ナノカーボン含有構造体4~8)あるいは作製例5に従って(実施品ナノカーボン含有構造体9)、種々のカーボンナノチューブ含有量(重量%)を有する実施品ナノカーボン含有構造体4~9[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ゼラチン/ポリウレタンスポンジ(PUF)]を作製した。ここで、カーボンナノチューブ含有量(重量%)の調節は、ウレタンプレポリマー/トリレンジイソシアネート混合液[プレポリマーAFPP、(株)東洋クオリティワン製]40g、及び整泡剤0.8gは固定し、実施品ナノカーボン分散液1の用いる量を変動させることで行った。
同様に、作製例5において、用いるナノカーボン分散液を作製例2の比較品ナノカーボン分散液2に置き換えた変形作製例に準じて(比較品ナノカーボン含有構造体3~7)あるいは当該変形作製例に従って(比較品ナノカーボン含有構造体8)、種々のカーボンナノチューブ含有量(重量%)を有する比較品ナノカーボン含有構造体3~8[カーボンナノチューブ(CNT)/ナノセルロース(CNF)/ポリウレタンスポンジ]を作製した。ここで、カーボンナノチューブ含有量(重量%)の調節は、ウレタンプレポリマー/トリレンジイソシアネート混合液[プレポリマーAFPP、(株)東洋クオリティワン製]40g、及び整泡剤0.8gは固定し、比較品ナノカーボン分散液2の用いる量を変動させることで行った。
なお、実施品ナノカーボン含有構造体について、採用したカーボンナノチューブ含有量(重量%)は、1.51重量%(実施品ナノカーボン含有構造体4)、2.00重量%(実施品ナノカーボン含有構造体5)、2.52重量%(実施品ナノカーボン含有構造体6)、3.77重量%(実施品ナノカーボン含有構造体7)、5.04重量%(実施品ナノカーボン含有構造体8)、及び6.25重量%(実施品ナノカーボン含有構造体9)の6つであった。
また、比較品ナノカーボン含有構造体について、採用したカーボンナノチューブ含有量(重量%)は、1.50重量%(比較品ナノカーボン含有構造体3)、2.02重量%(比較品ナノカーボン含有構造体4)、2.52重量%(比較品ナノカーボン含有構造体5)、3.76重量%(比較品ナノカーボン含有構造体6)、5.02重量%(比較品ナノカーボン含有構造体7)、及び6.25重量%(比較品ナノカーボン含有構造体8)の6つであった。
ここで、カーボンナノチューブの含有量(重量%)は、作製例5で説明したのと同様、用いたポリウレタン原料を基準にしたカーボンナノチューブの含量を重量百分率で表示したものである。このため、実施品ナノカーボン含有構造体9は、実施品ナノカーボン含有構造体1とは同一の構造体である。
得られた各ナノカーボン含有構造体について、表面抵抗計[Loresta EP, Model MCP-T610;三菱化学(製)]を用い、JIS K-7194に基づいて、室温にて導電率(S/cm)を測定した。その結果を表3及び図13(導電率)に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
なお、上記表3において括弧内の数値は、対応する比較品構造体の値を示す。また、表3中のデータは9回測定した平均値である。
【0056】
その結果、ナノカーボンの含有量が2.0~3.8重量%の間において、実施品ナノカーボン含有構造体と比較品ナノカーボン含有構造体とは、導電率において有意な差はなかったが、実施品ナノカーボン含有構造体のカーボンナノチューブ含有量(重量%)が4重量%程度から、比較品ナノカーボン含有構造体と比べ、導電性の明らかな差が現れ始めるように考えられた(図13参照)。
このように、ナノカーボンの含有量がおおよそ4重量%程度以上、より好ましくは5重量%以上で、導電率に明らかな差が観察できたのでは、実施品ナノカーボン含有構造体の凝集抑制効果が、一定濃度以上のナノカーボン濃度において有意に表れたためではないかと考えられる。
適切なカーボンナノチューブ含有量(重量%)を採用することにより、改善された導電性を有することが示されており、静電的放電材や電気的シールド材等の導電性が要求される材料に好適に用いることが期待できる。
【0057】
[遠赤外線測定試験]
作製例5によって作製された実施品ナノカーボン含有構造体1について、パーキンエルマー社製のフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR Spectrum One Frontier T)を用いて、分光放射率を測定した(FT-IR法;測定温度40℃一定)。
この際、比較品として、カーボンナノチューブ(CNT)、ナノセルロース(CNF)、及びゼラチンを配合していない、対応する無配合の比較品ポリウレタンスポンジ(PUF)を別途、同様に作製し分光放射率を比較した。結果を図14に示す。
比較品ポリウレタンスポンジと比較して、5μm~20μmの間の遠赤外の波長領域の放射率が全体的には13%程度増加したことがわかった。これは、本発明のナノカーボン含有構造体が改善された放熱作用を有することを示しており、放熱材として好適に用いることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明を用いることで、消臭剤、帯電防止剤、静電的放電材又は電磁シールド材、放熱材等、ナノカーボンの多様な特性(化学的、機械的、電気的、熱的、光学的特性)を利用することができる、ナノカーボン含有構造体の大量生産も可能となる。
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