IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジの特許一覧

特許7156726機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料
<>
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図1
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図2
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図3
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図4
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図5
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図6
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図7
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図8A
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図8B
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図8C
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図8D
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図9
  • 特許-機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】機能的タンパク質配列をディスプレイする生合成アミロイドに基づく材料
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20221012BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221012BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221012BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221012BHJP
   C07K 14/245 20060101ALI20221012BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20221012BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20221012BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/31
C12P21/02 C ZNA
C07K19/00
C12N1/21
C07K14/245
C07K7/06
C07K7/08
C12N15/63 Z
A61K35/74 A
A61P1/00
A61P1/04
A61P35/00
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021030187
(22)【出願日】2021-02-26
(62)【分割の表示】P 2017552146の分割
【原出願日】2016-04-06
(65)【公開番号】P2021097687
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】62/143,560
(32)【優先日】2015-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ニール エス. ジョシ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター キュー. グエン
(72)【発明者】
【氏名】アンナ ドゥラジ-タッテ
(72)【発明者】
【氏名】ピチェト プラベスチョティノント
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/176311(WO,A1)
【文献】Zhang, Y. et al.,Panning and identification of a colon tumor binding peptide from a phage display peptide library,J. Biomol. Screen.,Vol. 12,2007年,pp. 429-435
【文献】Higgins, L. M. et al.,In vivo phage display to identify M cell-targeting ligands,Pharm. Res.,2004年,Vol. 21,pp. 695-705
【文献】NIH Public Access, Author Manuscript, [online], available in PMC 2012 Apr 12, PMCID: PMC3324975, Hsiung, P. et al.,Detection of colonic dysplasia in vivo using a targeted fluorescent septapeptide and confocal microendoscopy,Nat. Med.,2008年,Vol. 14,pp. 454-458,Internet, [retrieved on 2022.08.22], <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3324975/>
【文献】Costantini, T. W. et al.,Targeting the gut barrier: identification of a homing peptide sequence for delivery into the injured intestinal epithelial cell,Surgery,2009年,Vol. 146,pp. 206-212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00-7/08
A61K 35/00-35/768
A61K 38/00-38/58
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルムを作製する方法であって、
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質の融合物をコードする核酸を含む細菌細胞を増殖させるステップであって、前記融合物を発現し、かつ前記ネイティブでない機能性ポリペプチドが付着したバイオフィルムを形成する細菌細胞の集団を産生するステップを含み、
前記リンカーが、CsgAタンパク質のC末端に付着した[GGGS]n(式中、nは、3、6、または12である整数である)(配列番号5~7)からなり、前記ネイティブでない機能性ポリペプチドがCP15、P8、A1、またはT18から選択される腸管結合性の短鎖ペプチドである、方法。
【請求項2】
前記核酸を前記細菌細胞に導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細菌細胞がEscherichia coliである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌細胞が、csgA遺伝子のゲノム欠失を含み;
前記細菌細胞が、csgA遺伝子の発現を欠失しており、必要に応じて前記csgA遺伝子の発現を欠く前記細菌細胞が、Nissle 1917株(EcN)、MG1655、LSR10、またはPHL628である;
前記細菌細胞が、CsgAタンパク質をコードする核酸(単数または複数)が除去されるように遺伝子改変されている;
前記細菌細胞が、CsgAタンパク質が除去されるように遺伝子改変されている;または
前記細菌細胞が、csgA遺伝子に関してノックアウトである、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細菌細胞が、Nissle 1917株(EcN)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質のC末端の天然に存在しない融合物であって、前記リンカーが、[GGGS]n(式中、nは、3、6、または12である整数である)(配列番号5~7)からなり、前記ネイティブでない機能性ポリペプチドがCP15、P8、A1、またはT18から選択される腸管結合性の短鎖ペプチドである、融合物。
【請求項7】
請求項6に記載の融合物をコードする核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含むベクター。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸を含む細菌細胞。
【請求項10】
請求項6に記載の融合物を発現する細菌細胞。
【請求項11】
請求項9に記載の細菌細胞を含むバイオフィルム。
【請求項12】
細菌細胞を生物内の組織に送達するための医薬組成物であって、
請求項9に記載の細菌細胞を有効成分として含み、前記ネイティブでない機能性ポリペプチドが、組織結合性ポリペプチドである、医薬組成物。
【請求項13】
前記細菌細胞が増殖し、前記組織に付着するバイオフィルムを産生することができる、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記生物内の組織が、胃腸管上皮組織、パイエル板、感染部位、上皮の損傷を受けた領域、腫瘍組織、炎症部位、結腸癌細胞、またはM細胞である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
胃腸管の炎症を有する生物を処置するための医薬組成物であって、
請求項9に記載の細菌細胞を含み、前記ネイティブでない機能性ポリペプチドが、組織結合性ポリペプチドであり、前記細菌細胞が、E.coli細菌細胞であり、
前記細菌細胞が、胃腸管の組織に前記組織結合性ポリペプチドによって付着することができ、それにより、前記細菌細胞が前記組織に、炎症を軽減する様式で局在化する、医薬組成物。
【請求項16】
前記炎症が、結腸癌、炎症性腸疾患、クローン病、または潰瘍性大腸炎に由来する、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
胃腸管の炎症を有する生物を処置するための医薬組成物であって、
請求項9に記載の細菌細胞を含み、前記ネイティブでない機能性ポリペプチドが、抗炎症性ポリペプチドであり、前記細菌細胞が、E.coli細菌細胞であり、
前記細菌細胞が前記胃腸管内で増殖することができ、前記抗炎症性ポリペプチドを含むバイオフィルムを、炎症を軽減する様式で形成することができる、医薬組成物。
【請求項18】
前記炎症が、結腸癌、炎症性腸疾患、またはクローン病に由来する、請求項17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2015年4月6日に出願された米国仮出願第62/143,560号に基
づく優先権を主張しており、この仮出願は、すべての目的のためにその全体が本明細書に
よって本明細書中に援用される。
【0002】
(政府利益の陳述)
本発明は、米国国立科学財団によって授与されたDMR-1410751の下の政府支
援でなされた。政府は本発明において特定の権利を有している。
【0003】
(分野)
本明細書に記載されている技術は、操作されたポリペプチド、そのようなポリペプチド
を含む細菌、操作された細菌、前記細菌細胞を含むバイオフィルム、操作された細菌細胞
によって産生される、操作されたポリペプチドを含むバイオフィルム、および、操作され
た細菌細胞によって産生される、アミロイドに基づく細胞外マトリックス成分に関する。
【背景技術】
【0004】
(背景)
天然では、大多数の細菌が、環境の厳しさから防御する、タンパク質、糖、脂質、およ
び細胞外DNAの、自己生成する保護的なナノスケール足場内に存在するバイオフィルム
群集として存在する。バイオフィルム形成は、天然の表面および人間により作製された表
面のどちらに関しても細菌の接着および定着に必須である。これらの高度に進化した細胞
外マトリックスは、有益なナノバイオテクノロジー操作プラットフォームとしての、まだ
利用されていない潜在性を保持する。バイオフィルムは、排水処理および生体変換などの
有益な目的に関して調査されているが、これらの試みは、天然に存在する生物の使用に焦
点を当てたものである。バイオフィルムの構造を操作する試みが存在する。WO/201
2/166906およびPCT/US2014/035095を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/166906号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(要旨)
本開示の実施形態は、細菌を遺伝子改変して、アミロイドに基づく材料、例えば、ネイ
ティブでない機能性ポリペプチドが発現しており、ネイティブでない機能性ポリペプチド
が機能するように最適化されたリンカードメインが接続した、アミロイドファイバにより
創出されたバイオフィルムなどを創出する方法を対象とする。一態様によると、リンカー
ドメインは、CsgAタンパク質を、アミロイドの状態にアセンブルする際に機能するよ
うに、および機能性ポリペプチドが機能するように最適化されたものである。例示的なバ
イオフィルムは、生存細菌細胞、非生存細菌細胞または生存細菌細胞と非生存細菌細胞と
の組合せを含み得る。
【0007】
本明細書に記載される例示的な細菌としては、E.coliが挙げられる。本明細書に
記載される例示的な細菌としては、非病原性細菌が挙げられる。本明細書に記載される例
示的な細菌としては、Nissle 1917株(EcN)、MG1655、K12由来
株、例えばLSR10およびPHL628などが挙げられる。本明細書に記載される例示
的な細菌としては、CsgAタンパク質をコードする核酸配列(単数または複数)、すな
わち、CsgA遺伝子が除去されるように遺伝子改変された細菌が挙げられる。本明細書
に記載される例示的な細菌としては、CsgAタンパク質をコードする核酸配列(単数ま
たは複数)、すなわち、CsgA遺伝子のゲノム欠失を含むように遺伝子改変された細菌
が挙げられる。本明細書に記載される例示的な細菌は、同じく本明細書に記載される方法
、例えば、本明細書に記載される治療方法なまたは診断方法などにおいて有用である。
【0008】
一態様によると、機能性ポリペプチドをCsgAタンパク質にリンカーによって連結し
てCsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造を形成する。一態様によると、CsgA
-リンカー-機能性ポリペプチド構造をコードする1つもしくは複数の核酸配列を細菌細
胞に含めるか、または、細菌細胞を、CsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造をコ
ードする1つもしくは複数の核酸配列を含むように遺伝子改変する。外来核酸配列であっ
てよい1つまたは複数の核酸配列を、当業者に公知の方法を使用して細菌に挿入し、細菌
にCsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造を発現させる。一態様によると、天然に
存在する細菌を、1つまたは複数の外来核酸配列を含むように改変し、それにより、天然
に存在しない細菌を生じさせる。一態様によると、天然に存在しないCsgA-リンカー
-機能性ポリペプチド構造を分泌およびアセンブルさせて、機能性ポリペプチドを含むア
ミロイドナノファイバーネットワークを産生させる。例示的な実施形態では、機能性ポリ
ペプチドは、アミロイドナノファイバーネットワークの表面上にあり、機能性ポリペプチ
ドの性質または特性を有するアミロイドナノファイバーネットワークがもたらされる。ア
ミロイド形成をなお可能にしながら、また、機能性ポリペプチドの性質、特性、機能をバ
イオフィルムに付与しながら、CsgAタンパク質に付着させるものとして、種々の長さ
、二次構造、性質、特性、機能などの機能性ポリペプチドが構想される。
【0009】
一態様によると、CsgAタンパク質がリンカーおよび機能性ポリペプチドを含み、操
作された細菌がCsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造をコードする1つまたは複
数の核酸配列を含む限りでは、操作されたCsgAタンパク質と同様に、操作された細菌
が提供される。操作された細菌は、上記の天然のCsgA遺伝子のゲノム欠失を含んでも
よく、含まなくてもよい。この態様によると、操作された細菌および操作されたCsgA
タンパク質はどちらも天然には存在しない。
【0010】
一態様によると、CsgAには、それぞれが機能性ポリペプチドまたは官能基に付着し
た2つまたはそれ超のリンカーを付着させることができる。一態様によると、アミロイド
ネットワークは、それぞれがそれ自体のリンカーに付着した2つまたはそれ超のCsgA
種を含んでよい。この態様によると、CsgAタンパク質には、それぞれに機能性ポリペ
プチドまたは官能基が付着していても付着していなくてもよい2つまたはそれ超または複
数のリンカーを付着させて、2つまたはそれ超または複数の機能性ポリペプチドまたは官
能基が付着したCsgAタンパク質をもたらすことができる。各機能性ポリペプチドまた
は官能基は同じであっても異なってもよい。例えば、第1のリンカーを介してCsgAタ
ンパク質に付着した1つの機能性ポリペプチドまたは基は、細胞に特異的な結合性機能性
ポリペプチドまたは官能基であってよく、第2のリンカーを介して異なるCsgAに付着
した異なる機能性ポリペプチドまたは官能基は、治療用または診断用の機能性ポリペプチ
ドまたは官能基であってよい。この態様によると、2つのCsgAバリアントで構成され
るアセンブルしたハイブリッドアミロイドファイバは、特定の型の組織または細胞を標的
とすることが可能であり、また、その型の組織または細胞に治療剤または診断剤を送達す
ることも可能である。リンカーは、N末端、C末端、またはN末端とC末端との間の位置
を含む、CsgAタンパク質の任意の可能な位置に付着させることができる。さらに、2
つまたはそれ超または複数のリンカードメインを、各リンカーに付着した機能性ポリペプ
チドまたは基に連続して付着させ、それにより、2つまたはそれ超または複数の機能性ポ
リペプチドまたは基をCsgAタンパク質にもたらすことができる。
【0011】
したがって、本明細書に記載の方法は、機能性ポリペプチドを含むcurliファイバ
およびバイオフィルムを創出するために、細菌細胞(単数または複数)を増殖させて外来
核酸を発現する細菌細胞の集団を創出することを含む。
【0012】
本開示による態様は、本明細書に記載の細菌を、治療目的または診断目的で生物に投与
することを含む。生物は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物などの哺乳動物を含む。
【0013】
本発明のある特定の実施形態のさらなる特徴および利点は、以下の実施形態の説明およ
びその図面において、ならびに特許請求の範囲から、より詳細に明らかになる。
【0014】
本特許または出願のファイルは、カラーで製作された少なくとも1つの図面を含有する
。カラーの図面(単数または複数)を伴う本特許または特許出願公開のコピーは、要請し
、必要な料金を支払えば、特許庁により提供される。本実施形態の前述および他の特徴お
よび利点は、以下の例示的な実施形態の詳細な説明を付属の図面と併せて利用して、より
詳細に理解される。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
バイオフィルムを作製する方法であって、
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする核酸配列を含む細菌細胞を増殖させるステップであって、前記融
合物を発現し、前記ネイティブでない機能性ポリペプチドが付着したバイオフィルムを形
成する細菌細胞の集団を産生するステップを含み、
前記リンカーが、CsgAタンパク質のC末端またはN末端のいずれかに付着した7つ
またはそれ超のアミノ酸を含むポリペプチドである、方法。
(項目2)
前記核酸配列を前記細菌細胞に導入する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記細菌細胞がE.coliである、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記細菌細胞が非病原性細菌である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記細菌細胞が、Nissle 1917株(EcN)、MG1655、LSR10ま
たはPHL628である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記細菌細胞が、CsgA遺伝子のゲノム欠失を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記細菌細胞が、前記CsgAタンパク質をコードする核酸(単数または複数)が除去
されるように遺伝子改変されている、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記細菌細胞が、前記CsgAタンパク質が除去されるように遺伝子改変されている、
項目1に記載の方法。
(項目9)
細菌細胞が、天然のCsgA遺伝子の発現を欠き、Nissle 1917株(EcN
)、MG1655、LSR10またはPHL628である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記天然のCsgA遺伝子の発現を欠く細菌細胞が、Nissle 1917株(Ec
N)、MG1655、LSR10またはPHL628である、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記細菌細胞が、前記CsgA遺伝子に関してノックアウトである、項目1に記載の方
法。
(項目12)
前記リンカーが、7アミノ酸~250アミノ酸である、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記リンカーが、柔軟なリンカーまたは剛性リンカーである、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記リンカーが、親水性または疎水性である、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記リンカーが、反復アミノ酸サブユニットを含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記リンカーが、2つまたはそれ超の反復アミノ酸サブユニットを含む、項目1に記載
の方法。
(項目17)
前記リンカーが、3つまたはそれ超の反復アミノ酸サブユニットを含む、項目1に記載
の方法。
(項目18)
前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列
番号12)を含む、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、3、6、または12である整数である
)(配列番号5~7)を含む、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記リンカーが、[P](式中、nは、1から30までの整数である)(配列番号1
3)を含む、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記リンカーが、[P](式中、nは、12または24である整数である)(配列番
号8~9)を含む、項目1に記載の方法。
(項目22)
前記リンカーが、[EAAAK](式中、nは、1から15までの整数である)(配
列番号15)を含む、項目1に記載の方法。
(項目23)
前記リンカーが、[EAAAK](式中、nは、3または9である整数である)(配
列番号10~11)を含む、項目1に記載の方法。
(項目24)
前記リンカーが、グリシン、セリン、アラニンまたはロイシンのうちの1つまたは複数
を含む、項目1に記載の方法。
(項目25)
前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列
番号12)、[P](式中、nは、1から30までの整数である)(配列番号13)ま
たは[EAAAK](式中、nは、1から15までの整数である)(配列番号15)の
うちの1つまたは複数を含む、項目1に記載の方法。
(項目26)
前記リンカーが、切断可能である、項目1に記載の方法。
(項目27)
前記リンカーが、酵素により切断可能である、項目1に記載の方法。
(項目28)
前記ネイティブでない機能性ポリペプチドが、放出可能である、項目1に記載の方法。
(項目29)
前記リンカーが、
【化3】


である、項目1に記載の方法。
(項目30)
前記ネイティブでない機能性ポリペプチドが、治療用ポリペプチド、診断用ポリペプチ
ド、組織結合性ポリペプチド、細胞結合性ポリペプチド、抗菌性ポリペプチド、抗がん性
ポリペプチド、抗炎症性ポリペプチド、ポリマー結合性ポリペプチド、代謝産物結合性ポ
リペプチド、標的化ポリペプチドまたは分子の結合対の第1の対であるポリペプチドであ
る、項目1に記載の方法。
(項目31)
前記細菌細胞がNissle 1917株(EcN)であり、前記リンカーが[GGG
S](式中、nは、3、6、または12である整数である)(配列番号5~7)である
、項目1に記載の方法。
(項目32)
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の天然に存在しない融合物であって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、
2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、融合物。
(項目33)
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする核酸配列であって、前記リンカーが、[GGGS](式中、n
は、2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、核酸配列。
(項目34)
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする核酸配列を含むベクターであって、前記リンカーが、[GGGS
(式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、ベクター。
(項目35)
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を含む細菌細胞であって、前記リンカーが、[GG
GS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、細菌細
胞。
(項目36)
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする核酸配列を含むベクターを含む細菌細胞であって、前記リンカー
が、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含
む、細菌細胞。
(項目37)
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を発現する細菌細胞であって、前記リンカーが、[
GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、細
菌細胞。
(項目38)
ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を発現する細菌細胞を含むバイオフィルムであって
、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列
番号12)を含、バイオフィルム。
(項目39)
細菌細胞を生物内の組織に送達する方法であって、
前記生物に、組織結合性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を発現する細菌細胞を導入するステップであって、
前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番
号12)を含む、ステップを含み、
前記細菌細胞が、前記組織に前記組織結合性ポリペプチドによって付着し、それにより
、前記細菌細胞が前記組織に局在化する、方法。
(項目40)
前記細菌細胞が増殖し、前記組織に付着する、細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが
形成される、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記細菌細胞がNissle 1917株(EcN)である、項目39に記載の方法。
(項目42)
前記組織結合性ポリペプチドが、CP15、P8、A1、T18、TTF1、TTF2
またはTTF3である、項目39に記載の方法。
(項目43)
前記生物内の組織が、胃腸管上皮組織である、項目39に記載の方法。
(項目44)
前記生物内の組織が、パイエル板である、項目39に記載の方法。
(項目45)
前記生物内の組織が、感染部位である、項目39に記載の方法。
(項目46)
前記生物内の組織が、上皮の損傷を受けた領域である、項目39に記載の方法。
(項目47)
前記生物内の組織が、腫瘍組織である、項目39に記載の方法。
(項目48)
前記生物内の組織が、炎症部位である、項目39に記載の方法。
(項目49)
前記生物内の組織が、結腸癌細胞を含む、項目39に記載の方法。
(項目50)
前記生物内の組織が、腸粘膜である、項目39に記載の方法。
(項目51)
前記生物内の組織が、M細胞を含む、項目39に記載の方法。
(項目52)
胃腸管の炎症を有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、組織結合性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を発現するNissle 1917株(EcN)細
菌細胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2
から20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が、胃腸管の組織に前記組織結合性
ポリペプチドによって付着し、それにより、前記Nissle 1917株(EcN)細
菌細胞が前記組織に、炎症を軽減する様式で局在化する、方法。
(項目53)
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が増殖し、前記組織に付着した、N
issle 1917株(EcN)細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが形成される、
項目52に記載の方法。
(項目54)
前記組織結合性ポリペプチドが、CP15、P8、A1、T18、TTF1、TTF2
またはTTF3である、項目52に記載の方法。
(項目55)
前記炎症が、炎症性腸疾患に由来する、項目52に記載の方法。
(項目56)
前記炎症が、クローン病または潰瘍性大腸炎に由来する、項目52に記載の方法。
(項目57)
胃腸管の炎症を有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、抗炎症性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質
の融合物をコードする外来核酸配列を発現するNissle 1917株(EcN)細菌
細胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2か
ら20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が前記胃腸管内で増殖し、前記抗炎
症性ポリペプチドを含む、Nissle 1917株(EcN)細菌細胞の集団を含むバ
イオフィルムが、炎症を軽減する様式で形成される、方法。
(項目58)
前記抗炎症性ポリペプチドが、TTF1、TTF2またはTTF3である、項目57に
記載の方法。
(項目59)
前記炎症が、炎症性腸疾患またはクローン病に由来する、項目57に記載の方法。
(項目60)
前記抗炎症性ポリペプチドが放出される、項目57に記載の方法。
(項目61)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、前記リン
カーの切断によって放出される、項目57に記載の方法。
(項目62)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、酵素によ
る前記リンカーの切断によって放出される、項目57に記載の方法。
(項目63)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、炎症の結
果として産生されるプロテアーゼによる前記リンカーの切断によって放出される、項目5
7に記載の方法。
(項目64)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、MMPプ
ロテアーゼによる前記リンカーの切断によって放出される、項目57に記載の方法。
(項目65)
胃腸管のがんを有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、抗がんポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質の
融合物をコードする外来核酸配列を発現するNissle 1917株(EcN)細菌細
胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から
20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が胃腸管内で増殖し、抗がんポリペ
プチドを含む、Nissle 1917株(EcN)細菌細胞の集団を含むバイオフィル
ムが、がんの増殖を低減する様式で形成される、方法。
(項目66)
前記抗がんポリペプチドが、成長阻害性の生物学的製剤である、項目65に記載の方法

(項目67)
前記抗がんポリペプチドが放出される、項目65に記載の方法。
(項目68)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗がんポリペプチドが、前記リンカ
ーの切断によって放出される、項目65に記載の方法。
(項目69)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗がんポリペプチドが、酵素による
前記リンカーの切断によって放出される、項目65に記載の方法。
(項目70)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗がんポリペプチドが、胃腸管内の
酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目65に記載の方法。
(項目71)
胃腸管内に微生物病原体を有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、抗微生物性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を発現するNissle 1917株(EcN)細
菌細胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2
から20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が胃腸管内で増殖し、前記抗微生物
性ポリペプチドを含む、Nissle 1917株(EcN)細菌細胞の集団を含むバイ
オフィルムが、前記微生物病原体の増殖を低減する様式で形成される、方法。
(項目72)
前記微生物病原体がClostridium difficileである、項目71に
記載の方法。
(項目73)
前記抗微生物性ポリペプチドが、コプリシン、ツリシンCD、ランチビオティクス(la
nibiotic)、ナイシン、アクタガルジン(actagardine)、カテリシジンまた
はLL-37である、項目71に記載の方法。
(項目74)
前記抗微生物性ポリペプチドが放出される、項目71に記載の方法。
(項目75)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、前記リ
ンカーの切断によって放出される、項目71に記載の方法。
(項目76)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、酵素に
よる前記リンカーの切断によって放出される、項目71に記載の方法。
(項目77)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、胃腸管
内の酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目71に記載の方法。
(項目78)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、胃腸管
内のプロテアーゼCD2830による前記リンカーの切断によって放出される、項目71
に記載の方法。
(項目79)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、微生物
病原体に曝露すると放出される、項目71に記載の方法。
(項目80)
診断用ポリペプチドを生物の胃腸管に送達する方法であって、
前記生物に、診断用ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質の
融合物をコードする外来核酸配列を発現するNissle 1917株(EcN)細菌細
胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から
20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が胃腸管内で増殖し、前記診断用ポ
リペプチドを含む、Nissle 1917株(EcN)細菌細胞の集団を含むバイオフ
ィルムが形成される、方法。
(項目81)
前記診断用ポリペプチドを検出する、項目80に記載の方法。
(項目82)
前記診断用ポリペプチドが、造影剤または色素をさらに含む、項目80に記載の方法。
(項目83)
前記診断用ポリペプチドが放出される、項目80に記載の方法。
(項目84)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記診断用ポリペプチドが、前記リンカ
ーの切断によって放出される、項目80に記載の方法。
(項目85)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記診断用ポリペプチドが、酵素による
前記リンカーの切断によって放出される、項目80に記載の方法。
(項目86)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記診断用ポリペプチドが、胃腸管内の
酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目80に記載の方法。
(項目87)
生物の胃腸管内の標的を結合捕捉する方法であって、
前記生物に、捕捉剤ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質の
融合物をコードする外来核酸配列を発現するNissle 1917株(EcN)細菌細
胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から
20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が胃腸管内で増殖し、前記捕捉剤ポ
リペプチドを含む、Nissle 1917株(EcN)細菌細胞の集団を含むバイオフ
ィルムが形成され、
前記捕捉標的が前記捕捉剤ポリペプチドに結合する、方法。
(項目88)
結合した捕捉標的を含むバイオフィルムが前記生物から排出される、項目87に記載の
方法。
(項目89)
結合した捕捉標的を含むバイオフィルムが組織から除去され、前記生物から排出される
、項目87に記載の方法。
(項目90)
結合した捕捉標的を含むバイオフィルムが天然のプロセスによって組織から除去され、
前記生物から排出される、項目87に記載の方法。
(項目91)
前記捕捉剤ポリペプチドが放出される、項目87に記載の方法。
(項目92)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記捕捉剤ポリペプチドが、前記リンカ
ーの切断によって放出される、項目87に記載の方法。
(項目93)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記捕捉剤ポリペプチドが、酵素による
前記リンカーの切断によって放出される、項目87に記載の方法。
(項目94)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記捕捉剤ポリペプチドが、胃腸管内の
酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目87に記載の方法。
(項目95)
機能性薬剤を生物の胃腸管に送達する方法であって、
前記生物に、分子の結合対の第1のメンバーであるポリペプチドにリンカーによって連
結されたCsgAタンパク質の融合物をコードする外来核酸配列を発現するNissle
1917株(EcN)細菌細胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GG
GS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステッ
プであって、
前記Nissle 1917株(EcN)細菌細胞が胃腸管内で増殖し、分子の結合対
の第1のメンバーを含む、Nissle 1917株(EcN)細菌細胞の集団を含むバ
イオフィルムが形成される、ステップと、
機能性薬剤が付着した、前記分子の結合対の第2のメンバーを胃腸管に導入するステッ
プと、を含み、
前記分子の結合対の第1のメンバーおよび第2のメンバーが互いと結合し、それにより
、前記機能性薬剤が前記バイオフィルムに付着する、方法。
(項目96)
CsgAタンパク質をコードするネイティブな配列を欠くように遺伝子改変された細菌
細胞。
(項目97)
E.coliである、項目96に記載の細菌。
(項目98)
Nissle 1917株(EcN)である、項目96に記載の細菌。
(項目99)
CsgAタンパク質をコードするネイティブな配列を欠くように遺伝子改変されており
、ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を含む細菌細胞であって、前記リンカーが、[GG
GS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、細菌細
胞。
(項目100)
CsgAタンパク質をコードするネイティブな配列を欠くように遺伝子改変されており
、ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする核酸配列を含むベクターを含む細菌細胞であって、前記リンカー
が、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含
む、細菌細胞。
(項目101)
CsgAタンパク質をコードするネイティブな配列を欠くように遺伝子改変されており
、ネイティブでない機能性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質融合物をコードする外来核酸配列を発現する細菌細胞であって、前記リンカーが、[G
GGS](式中、nは、2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、細菌
細胞。
(項目102)
胃腸管の炎症を有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、組織結合性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を発現するE.coli細菌細胞を導入するステッ
プであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数であ
る)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記E.coli細菌細胞が、胃腸管の組織に前記組織結合性ポリペプチドによって付
着し、それにより、前記E.coli細菌細胞が前記組織に、炎症を軽減する様式で局在
化する、方法。
(項目103)
前記E.coli細菌細胞が増殖し、前記組織に付着した、E.coli細菌細胞の集
団を含むバイオフィルムが形成される、項目102に記載の方法。
(項目104)
前記組織結合性ポリペプチドが、CP15、P8、A1、T18、TTF1、TTF2
またはTTF3である、項目102に記載の方法。
(項目105)
前記炎症が、炎症性腸疾患に由来する、項目102に記載の方法。
(項目106)
前記炎症が、クローン病または潰瘍性大腸炎に由来する、項目102に記載の方法。
(項目107)
胃腸管の炎症を有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、抗炎症性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質
の融合物をコードする外来核酸配列を発現するE.coli細菌細胞を導入するステップ
であって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である
)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記E.coli細菌細胞が前記胃腸管内で増殖し、前記抗炎症性ポリペプチドを含む
、E.coli細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが、炎症を軽減する様式で形成され
る、方法。
(項目108)
前記抗炎症性ポリペプチドが、TTF1、TTF2またはTTF3である、項目107
に記載の方法。
(項目109)
前記炎症が、炎症性腸疾患またはクローン病に由来する、項目107に記載の方法。
(項目110)
前記抗炎症性ポリペプチドが放出される、項目107に記載の方法。
(項目111)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、前記リン
カーの切断によって放出される、項目107に記載の方法。
(項目112)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、酵素によ
る前記リンカーの切断によって放出される、項目107に記載の方法。
(項目113)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、炎症の結
果として産生されるプロテアーゼによる前記リンカーの切断によって放出される、項目1
07に記載の方法。
(項目114)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗炎症性ポリペプチドが、MMPプ
ロテアーゼによる前記リンカーの切断によって放出される、項目107に記載の方法。
(項目115)
胃腸管のがんを有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、抗がんポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質の
融合物をコードする外来核酸配列を発現するE.coli細菌細胞を導入するステップで
あって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)
(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記E.coli細菌細胞が胃腸管内で増殖し、抗がんポリペプチドを含む、E.co
li細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが、がんの増殖を低減する様式で形成される、
方法。
(項目116)
前記抗がんポリペプチドが、成長阻害性の生物学的製剤である、項目115に記載の方
法。
(項目117)
前記抗がんポリペプチドが放出される、項目115に記載の方法。
(項目118)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗がんポリペプチドが、前記リンカ
ーの切断によって放出される、項目115に記載の方法。
(項目119)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗がんポリペプチドが、酵素による
前記リンカーの切断によって放出される、項目115に記載の方法。
(項目120)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗がんポリペプチドが、胃腸管内の
酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目115に記載の方法。
(項目121)
胃腸管内に微生物病原体を有する生物を処置する方法であって、
前記生物に、抗微生物性ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク
質の融合物をコードする外来核酸配列を発現するE.coli細菌細胞を導入するステッ
プであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数であ
る)(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記E.coli細菌細胞が胃腸管内で増殖し、前記抗微生物性ポリペプチドを含む、
E.coli細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが前記微生物病原体の増殖を低減する
様式で形成される、方法。
(項目122)
前記微生物病原体がClostridium difficileである、項目121
に記載の方法。
(項目123)
前記抗微生物性ポリペプチドが、コプリシン、ツリシンCD、ランチビオティクス、ナ
イシン、アクタガルジン、カテリシジンまたはLL-37である、項目121に記載の方
法。
(項目124)
前記抗微生物性ポリペプチドが放出される、項目121に記載の方法。
(項目125)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、前記リ
ンカーの切断によって放出される、項目121に記載の方法。
(項目126)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、酵素に
よる前記リンカーの切断によって放出される、項目121に記載の方法。
(項目127)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、胃腸管
内の酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目121に記載の方法。
(項目128)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、胃腸管
内のプロテアーゼCD2830による前記リンカーの切断によって放出される、項目12
1に記載の方法。
(項目129)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記抗微生物性ポリペプチドが、微生物
病原体に曝露すると放出される、項目121に記載の方法。
(項目130)
診断用ポリペプチドを生物の胃腸管に送達する方法であって、
前記生物に、診断用ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質の
融合物をコードする外来核酸配列を発現するE.coli細菌細胞を導入するステップで
あって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)
(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記E.coli細菌細胞が胃腸管内で増殖し、前記診断用ポリペプチドを含む、E.
coli細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが形成される、方法。
(項目131)
前記診断用ポリペプチドを検出する、項目130に記載の方法。
(項目132)
前記診断用ポリペプチドが、造影剤または色素をさらに含む、項目130に記載の方法

(項目133)
前記診断用ポリペプチドが放出される、項目130に記載の方法。
(項目134)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記診断用ポリペプチドが、前記リンカ
ーの切断によって放出される、項目130に記載の方法。
(項目135)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記診断用ポリペプチドが、酵素による
前記リンカーの切断によって放出される、項目130に記載の方法。
(項目136)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記診断用ポリペプチドが、胃腸管内の
酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目130に記載の方法。
(項目137)
生物の胃腸管内の標的を結合捕捉する方法であって、
前記生物に、捕捉剤ポリペプチドにリンカーによって連結されたCsgAタンパク質の
融合物をコードする外来核酸配列を発現するE.coli細菌細胞を導入するステップで
あって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、2から20までの整数である)
(配列番号12)を含む、ステップを含み、
前記E.coli細菌細胞が胃腸管内で増殖し、前記捕捉剤ポリペプチドを含む、E.
coli細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが形成され、
前記捕捉標的が前記捕捉剤ポリペプチドに結合する、方法。
(項目138)
結合した捕捉標的を含むバイオフィルムが前記生物から排出される、項目137に記載
の方法。
(項目139)
結合した捕捉標的を含むバイオフィルムが組織から除去され、前記生物から排出される
、項目137に記載の方法。
(項目140)
結合した捕捉標的を含むバイオフィルムが天然のプロセスによって組織から除去され、
そして前記生物から排出される、項目137に記載の方法。
(項目141)
前記捕捉剤ポリペプチドが放出される、項目137に記載の方法。
(項目142)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記捕捉剤ポリペプチドが、前記リンカ
ーの切断によって放出される、項目137に記載の方法。
(項目143)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記捕捉剤ポリペプチドが、酵素による
前記リンカーの切断によって放出される、項目137に記載の方法。
(項目144)
前記リンカーが、切断可能なリンカーであり、前記捕捉剤ポリペプチドが、胃腸管内の
酵素による前記リンカーの切断によって放出される、項目137に記載の方法。
(項目145)
機能性薬剤を生物の胃腸管に送達する方法であって、
前記生物に、分子の結合対の第1のメンバーであるポリペプチドにリンカーによって連
結されたCsgAタンパク質の融合物をコードする外来核酸配列を発現するE.coli
細菌細胞を導入するステップであって、前記リンカーが、[GGGS](式中、nは、
2から20までの整数である)(配列番号12)を含む、ステップであって、
前記E.coli細菌細胞が胃腸管内で増殖し、分子の結合対の第1のメンバーを含む
、E.coli細菌細胞の集団を含むバイオフィルムが形成される、ステップと、
機能性薬剤が付着した、前記分子の結合対の第2のメンバーを胃腸管に導入するステッ
プと、を含み、
前記分子の結合対の第1のメンバーと第2のメンバーが互いと結合し、それにより、前
記機能性薬剤が前記バイオフィルムに付着する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、培養スポットが赤く染色されることによって細胞外アミロイドファイバの存在が示される、コンゴーレッドプレートアッセイの結果を示す。データは、LSR10株から得たものである。
図2図2は、FLAGタグ機能性についての全細胞イムノドットブロット分析の結果を示す。種々のリンカードメインを有するCsgA-FLAGキメラ上の利用可能なFLAGエピトープを、蛍光DyLight 680とコンジュゲートした抗FLAG抗体を使用してプローブした。データは、LSR10株から得たものである。
図3図3は、機能性ポリペプチド(「材料」)性能に対する最適化されたリンカーの影響を示す、最適化されたリンカーデザインのための戦略を示す概略図である。最適化されていないリンカードメインは、機能的ドメインに対する結合性部位をふさぐこと、いずれかのドメインの適切なフォールディングを妨げること、アミロイドファイバのアセンブルを妨害すること、または分泌を妨害することにより、バイオフィルムに基づく材料の性能を妨害する可能性がある。最適化されたリンカーでは、これらの問題が最小限になり、それにより、材料全体の所望の機能が改善される。
図4図4は、種々の長さの柔軟なリンカードメインを有する種々のCsgA-TFF構築物についてのCR吸光度アッセイによって決定された、トレフォイルファクタータンパク質と融合したcurliナノファイバーの発現を示すグラフである。データは、PHL628株から得たものである。
図5図5は、特定の腸管組織に結合することが示されている4つの異なるペプチドと融合したCsgAと比較した、野生型CsgAのコンゴーレッド結合アッセイを使用した、腸管結合性の短鎖ペプチドドメインと融合したcurliナノファイバーの発現を示すグラフである。データは、PHL628株から得たものである。
図6図6は、腸管結合性ドメインを有するLSR10細胞のCaco-2細胞への接着を示すグラフである。F48リンカーを有し、トレフォイルドメインTTF1、TTF2、およびTTF3、または低分子ペプチドT18、A1、CP15およびP8を含有する構築物を、in vitroにおけるCaco-2単層への結合について試験した。結合した細胞を回収し、CFU分析によって定量化した。
図7図7は、操作されたcurliファイバを産生するPHL628細胞のCaco-2細胞単層への接着を示すグラフである。curliが産生されない場合、接着が有意に減少し、これにより、野生型curliファイバが上皮表面への接着において役割を果たし得ることが示唆される。TTF1およびTTF3により上皮表面への接着が増大する。
図8A図8A~8Dは、Nissle 1917のcsgA欠失突然変異体の構築を示す図である。図8Aは、NissleにおいてcsgA遺伝子を欠失させるためのLamda red組換え戦略を示す。図8Bは、csgA遺伝子座におけるクロラムフェニコールカセット挿入のPCRによる検証により、2つの陽性クローンが同定される(黒色の矢印)ことを示す。図8Cは、これらの2つのクローンを265bp、158bp、および1113bpのアンプリコンの存在について検証したことを示す。図8Dは、csgA遺伝子に隣接する領域の配列決定による検証により、上首尾のCATカセット組み込みが示される(黄色で強調表示されている)(配列番号2)ことを示す。
図8B図8A~8Dは、Nissle 1917のcsgA欠失突然変異体の構築を示す図である。図8Aは、NissleにおいてcsgA遺伝子を欠失させるためのLamda red組換え戦略を示す。図8Bは、csgA遺伝子座におけるクロラムフェニコールカセット挿入のPCRによる検証により、2つの陽性クローンが同定される(黒色の矢印)ことを示す。図8Cは、これらの2つのクローンを265bp、158bp、および1113bpのアンプリコンの存在について検証したことを示す。図8Dは、csgA遺伝子に隣接する領域の配列決定による検証により、上首尾のCATカセット組み込みが示される(黄色で強調表示されている)(配列番号2)ことを示す。
図8C図8A~8Dは、Nissle 1917のcsgA欠失突然変異体の構築を示す図である。図8Aは、NissleにおいてcsgA遺伝子を欠失させるためのLamda red組換え戦略を示す。図8Bは、csgA遺伝子座におけるクロラムフェニコールカセット挿入のPCRによる検証により、2つの陽性クローンが同定される(黒色の矢印)ことを示す。図8Cは、これらの2つのクローンを265bp、158bp、および1113bpのアンプリコンの存在について検証したことを示す。図8Dは、csgA遺伝子に隣接する領域の配列決定による検証により、上首尾のCATカセット組み込みが示される(黄色で強調表示されている)(配列番号2)ことを示す。
図8D図8A~8Dは、Nissle 1917のcsgA欠失突然変異体の構築を示す図である。図8Aは、NissleにおいてcsgA遺伝子を欠失させるためのLamda red組換え戦略を示す。図8Bは、csgA遺伝子座におけるクロラムフェニコールカセット挿入のPCRによる検証により、2つの陽性クローンが同定される(黒色の矢印)ことを示す。図8Cは、これらの2つのクローンを265bp、158bp、および1113bpのアンプリコンの存在について検証したことを示す。図8Dは、csgA遺伝子に隣接する領域の配列決定による検証により、上首尾のCATカセット組み込みが示される(黄色で強調表示されている)(配列番号2)ことを示す。
図9図9は、腸管結合性TFFを有するNissle PBP17のCaco-2細胞への接着を示すグラフである。F48リンカーを有し、トレフォイルドメイン(TFF1、TFF2、およびTFF3)を含有する構築物をNissle ΔcsgA突然変異体(PBP17)において発現させ、in vitroにおけるCaco-2単層への結合について試験した。結合した細胞を回収し、CFU分析によって定量化し、データを最初の接種物と比較したパーセント結合として示す。
図10図10は、合成およびスクリーニングされるCsgA-リンカー-AMP構築物の図である。Secは、輸送後に切断されるペリプラズム分泌タグである。N22は、外膜分泌タグである。CsgAは、タンパク質のアミロイド形成領域である。リンカーは、一般的な配列(GGS)XXXX(式中、n=3、4、または5であり、XXXX=PPP、PPIP、またはPPVPである)(配列番号3)を有する。総パネルサイズは9メンバーであり、融合したドメインは22アミノ酸から28アミノ酸までにわたる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(詳細な説明)
本開示の態様は、リンカードメインによって相互接続した自己アセンブルドメインと可
変性機能性ドメインとを有する構造を対象とする。一態様によると、自己アセンブルドメ
インは、細菌マトリックスタンパク質である。一態様によると、自己アセンブルドメイン
は、アミロイド形成タンパク質である。
【0017】
一態様によると、自己アセンブルドメインは、アミロイド形成タンパク質、CsgAで
ある。本明細書で使用される場合、「CsgA」(操作されたCsgAポリペプチドとは
区別される)とは、curliの主要な構造サブユニットを指す。いくつもの種における
CsgAおよびそのホモログの配列が公知であり、例えば、E.coli CsgAの配
列が公知である(NCBI遺伝子ID番号:949055;配列番号1(ポリペプチド)
)。
【化1】
【0018】
一部の実施形態では、「CsgA」とは、E.coli CsgAを指す。一部の実施
形態では、「CsgA」とは、配列番号1に対して少なくとも80%の相同性(例えば、
80%またはそれ超の相同性、90%またはそれ超の相同性、または95%またはそれ超
の相同性)を有するポリペプチド、例えば、CsgAの自然に生じた突然変異もしくはバ
リアント、CsgAのホモログ、またはCsgAの操作された突然変異もしくはバリアン
トを指す。本明細書で使用される場合、「操作されたCsgAポリペプチド」とは、Cs
gAに、CsgAポリペプチドの配列を中断させることなくC末端またはN末端またはそ
の両方において付着したリンカーおよび機能性ポリペプチドを含むCsgAポリペプチド
を指す。
【0019】
一態様によると、本開示による構造は、CsgAタンパク質、リンカーおよび機能性ポ
リペプチドを含む。一態様によると、CsgAタンパク質は、リンカーによって機能性ポ
リペプチドに付着している。一態様によると、機能性ポリペプチドは、異種性のペプチド
またはタンパク質ドメインである。一態様によると、機能性ポリペプチドは、異種性のペ
プチドまたはタンパク質ドメインを発現させる細菌細胞に対して外来のものである、異種
性のペプチドまたはタンパク質ドメインである。一態様によると、CsgAタンパク質、
リンカーおよび機能性ポリペプチドは、連続して付着しており、例えば、CsgA-リン
カー-機能性ポリペプチドの構造を有する。一態様によると、CsgAタンパク質および
機能性ポリペプチドは、リンカーを通じて一緒に結合しながら、それぞれ機能性を示す。
一態様によると、リンカーおよび機能性ポリペプチドの全て合わせた長さは、10~50
0アミノ酸、10~450アミノ酸、10~400アミノ酸、10~350アミノ酸また
は10~300アミノ酸の範囲内であり得る。
【0020】
一態様によると、細菌を、CsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造をコードする
核酸を含むように改変する。核酸を細菌細胞に導入する方法は、当業者に公知である。改
変された細菌は、CsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造を分泌し、その結果、c
urliファイバ産生、その後、バイオフィルム形成がもたらされる。CsgA、リンカ
ーおよび機能性タンパク質の構造は、操作されたまたは天然に存在しない細菌によって産
生され、CsgAおよび機能性タンパク質は、適切なフォールディングを示し、機能性を
示す。一態様によると、細菌を、細菌から移出され、細胞外アミロイドファイバにアセン
ブルするCsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造を産生するように操作するための
方法が提供される。分泌後、CsgAは核形成して細胞表面にアミロイドを形成し、次い
で、長いファイバに重合し続け、最終的に細胞を封入し、構造支持体を有するバイオフィ
ルムをもたらす。融合物として、各CsgAにリンカーおよび機能性ポリペプチドが付着
している。構造は分泌され、機能性ポリペプチドが細胞外アミロイドネットワークの表面
上にディスプレイされる。ドメインは、それらがバイオフィルム全体の性質を変化させる
か、または増強することが可能な機能を有し得るように選択し、リンカーは、ドメインが
それらの特定の機能を有することが可能になるように選択する。
【0021】
本開示の範囲内に入る機能性ポリペプチドは、所望の機能を有するペプチドまたはタン
パク質を含む。そのような機能としては、触媒機能、認識機能または構造的機能が挙げら
れる。例示的な機能性ポリペプチドとして、ターゲティングドメインが挙げられる。例示
的な機能性ポリペプチドとして、治療用ポリペプチドが挙げられる。例示的な機能性ポリ
ペプチドとして、診断用ポリペプチドが挙げられる。例示的な機能性ポリペプチドとして
、抗がん性ポリペプチドが挙げられる。例示的な機能性ポリペプチドとして、抗菌性ポリ
ペプチドが挙げられる。例示的な機能性ポリペプチドとして、抗炎症性ポリペプチドが挙
げられる。例示的な機能性ポリペプチドとして、ポリマー結合性ポリペプチドが挙げられ
る。例示的な機能性ポリペプチドとして、代謝産物結合性ポリペプチドが挙げられる。例
示的な機能性ポリペプチドとして、標的化ポリペプチドが挙げられる。例示的な機能性ポ
リペプチドとして、組織または細胞または基質に結合する機能性ポリペプチドが挙げられ
る。例えば、公知のスチール結合能を有するドメインをCsgAに付け加えることにより
、スチール表面に接着する能力を有するバイオフィルムが産生されるが、野生型バイオフ
ィルムはこの能力を有さない。例示的な機能性ポリペプチドとして、公知の結合対の第1
のメンバーが挙げられる。発現すると、結合対の第1のメンバーは、例えば治療目的また
は診断目的で機能性ポリペプチドを付着させたものであり得る結合対の第2のメンバーと
の結合に利用可能である。このように、例えば機能性ポリペプチドの特性を有するバイオ
フィルムをもたらすために、結合対の第2のメンバーに伴う機能性ポリペプチドをバイオ
フィルムと接触させて機能性ポリペプチドをバイオフィルムに付加することができる。例
示的な機能性ポリペプチドは、官能基を直接またはリンカーを通じて共有結合により付着
させることができるポリペプチドである。例えば、CsgAに、自発的な共有結合性の修
飾を受けることが可能なペプチドを付け加えることによって、その後目的のタンパク質ま
たは目的の化合物を付加することにより表面を任意の目的のタンパク質または目的の化合
物で修飾することが可能なバイオフィルムを創出することができる。
【0022】
例示的な治療用ポリペプチドとして、治療的機能を有する操作されたポリペプチド、抗
炎症生理活性を有するポリペプチド(トレフォイルファクター-例えば、TFF1-3、
インターロイキン-例えば、IL-10、他の抗炎症性サイトカイン、抗TNFα因子)
、抗微生物生理活性を有するポリペプチド(例えば、コプリシン(coprisin)、
カテリシジン、LL-37、ツリシン(thuricin)CD、ランチビオティクス)
、抗がん生理活性を有するポリペプチド(成長を阻害する生物学的製剤)が挙げられる。
【0023】
例示的な診断用ポリペプチドとしては、当業者に公知であり、文献検索により同定され
るポリペプチドが挙げられる。
【0024】
例示的な抗がん性ポリペプチドとしては、抗がん生理活性を有するポリペプチド(成長
を阻害する生物学的製剤)が挙げられ、また、抗がん性ポリペプチドとしては、当業者に
公知であり、文献検索により同定されるポリペプチドが挙げられる。
【0025】
例示的な抗菌性ポリペプチドとしては、コプリシン、カテリシジン、LL-37、ツリ
シンCD、ランチビオティクス、および当業者に公知であり、文献検索により同定される
抗菌性ポリペプチドが挙げられる。
【0026】
例示的な抗炎症性ポリペプチドとしては、トレフォイルファクター-例えば、TFF1
-3、インターロイキン-例えば、IL-10、他の抗炎症性サイトカイン、抗TNFα
因子、および当業者に公知であり、文献検索により同定される抗炎症性ポリペプチドが挙
げられる。
【0027】
例示的なポリマー結合性ポリペプチドとしては、当業者に公知であり、文献検索により
同定されるポリペプチドが挙げられる。
【0028】
例示的な代謝産物結合性ポリペプチドとしては、当業者に公知であり、文献検索により
同定されるポリペプチドが挙げられる。
【0029】
例示的な標的化ポリペプチドとしては、当業者に公知であり、文献検索により同定され
るポリペプチドが挙げられる。
【0030】
例示的な組織結合性ポリペプチドとしては、T18、CP15、および当業者に公知で
あり、文献検索により同定されるポリペプチドが挙げられる。
【0031】
例示的な細胞結合性ポリペプチドとしては、T18、CP15、および当業者に公知で
あり、文献検索により同定されるポリペプチドが挙げられる。
【0032】
分子の結合対の第1の対である例示的なポリペプチドとしては、SynZips、Tr
p-Zipドメインなどのコイルドコイルドメイン、FLAGなどのアフィニティータグ
など、および当業者に公知であり、文献検索により同定されるポリペプチドが挙げられる
【0033】
本開示の範囲内に入るリンカーは、アミノ酸含有量、長さ、剛性および二次構造に関し
て特徴付けられる。本開示の範囲内に入るリンカーは、アミロイドドメインと機能性ポリ
ペプチドドメインとを分離し、各ドメインの適切なフォールディングおよび機能を可能に
するものである。このように、リンカーは、特定のアミロイドドメインおよび特定の機能
性ポリペプチドドメインに対して調整することができる。一態様によると、細菌細胞の移
出およびアセンブルプロセスの間のドメイン間の立体的な干渉を制限するために、構造ド
メイン(すなわち、CsgA)および融合(異種性)ドメインの機能的独立を適切なリン
カーによって最大化する。一態様によると、型(GGGS)(配列番号4)のより長く
より柔軟なリンカーが例示的なものである。追加的な態様によると、融合物タンパク質の
全体の長さを制限することによって細胞ストレスを最小化にする。より長いリンカー配列
およびより高い誘導レベルにより、細胞の生合成機構にストレスがかかり、それにより、
細胞増殖が阻害され、極度の場合には細胞溶解に至る。
【0034】
本開示の範囲内に入るリンカーは、CsgAドメインおよび機能性ペプチドドメインの
機能を容易にするものである。本開示の範囲内に入るリンカーは、効率的なタンパク質プ
ロセシングを可能にし、細菌のcurli分泌機構を通じて移出し、ならびに、アミロイ
ドおよび機能的ドメインの適切な空間的および物理化学的分離をもたらして、それらのそ
れぞれの機能を保持させるものである。
【0035】
本開示の範囲内に入るリンカーは、アミノ酸残基を含む。アミノ酸残基は、任意の天然
に存在するアミノ酸残基であってよい。アミノ酸残基は、当業者に公知の合成アミノ酸で
あってもよい。リンカーに使用することができる代表的なアミノ酸としては、グリシン、
アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、システイン、セレノシステイン、
トレオニン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒ
スチジン、リシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、および
グルタミンが挙げられる。
【0036】
本開示の範囲内であるリンカーは、切断部位を含む。切断部位および切断用の酵素は、
当業者に公知である。この実施形態によると、例えば治療目的または診断目的で、機能性
ポリペプチドをリンカーから切断し、周囲の環境に放出させることができる。例示的な酵
素としては、独自の認識配列を有するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のフ
ァミリーに由来する酵素、C.difficile由来のCD2830などの、病原体か
ら分泌されるプロテアーゼなどが挙げられる。
【0037】
本開示の範囲内に入るCsgAは、アミロイド構造に自己アセンブルするアミロイドド
メインを含む。ある特定の態様によると、リンカーをC末端またはN末端のいずれかに付
着させることもでき、別々のリンカーをC末端およびN末端の両方に付着させることもで
きる。
【0038】
一態様によると、リンカーの長さは、CsgAタンパク質と機能性ポリペプチドとを連
結した場合に細菌細胞などの細胞から発現させることができる任意の長さであってよい。
一態様によると、機能性ポリペプチドの長さは、リンカーによってCsgAタンパク質と
連結した場合に、細菌細胞などの細胞から発現させることができる任意の長さであってよ
い。一態様によると、リンカーと機能性ポリペプチドとの組合せは、500以下のアミノ
酸を含む。一部の実施形態では、リンカーと機能性ポリペプチドとの組合せは、400以
下のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカーと機能性ポリペプチドとの組合せは
、300以下のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカーと機能性ポリペプチドと
の組合せは、200以下のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカーと機能性ポリ
ペプチドとの組合せは、100以下のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカーと
機能性ポリペプチドとの組合せは、50以下のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、リ
ンカーと機能性ポリペプチドとの組合せは、40以下のアミノ酸を含む。一部の実施形態
では、リンカーと機能性ポリペプチドとの組合せは、30以下のアミノ酸を含む。
【0039】
一態様によると、リンカー配列は、少なくとも7、8、9、10、11、12、24、
48またはそれ超のアミノ酸のポリペプチド配列である。一部の実施形態では、リンカー
配列は、約7アミノ酸~約250アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は
、約7アミノ酸~約200アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約7
アミノ酸~約150アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約7アミノ
酸~約100アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約12アミノ酸~
約250アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約12アミノ酸~約2
00アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約12アミノ酸~約150
アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約12アミノ酸~約100アミ
ノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約24アミノ酸~約100アミノ酸
を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約48アミノ酸~約250アミノ酸を含
む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約48アミノ酸~約200アミノ酸を含む。
一部の実施形態では、リンカー配列は、約48アミノ酸~約150アミノ酸を含む。一部
の実施形態では、リンカー配列は、約48アミノ酸~約100アミノ酸を含む。一部の実
施形態では、リンカー配列は、約7アミノ酸~約30アミノ酸を含む。一部の実施形態で
は、リンカー配列は、約20アミノ酸~約50アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リ
ンカー配列は、約30アミノ酸~約50アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー
配列は、約40アミノ酸~約50アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は
、約6アミノ酸~約20アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、約7~
約10アミノ酸を含む。一部の実施形態では、リンカー配列は、柔軟なポリペプチド、例
えば、剛性の二次構造および/または三次構造を有さないポリペプチドを含む。一部の実
施形態では、リンカー配列は、グリシン残基およびセリン残基を含む。一部の実施形態で
は、リンカー配列に含まれるアミノ酸の少なくとも50%がグリシン残基またはセリン残
基であり、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくと
も80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはそれ超がグリシン残基またはセ
リン残基である。一部の実施形態では、リンカー配列は、グリシン残基およびセリン残基
からなる。
【0040】
機能性ポリペプチドとしては、バイオフィルム中に存在すると、バイオフィルムに、ポ
リペプチドの活性の非存在下では有さない性質、機能、または活性が付与されるような活
性または機能を有するポリペプチドが挙げられる。したがって、活性ポリペプチドは、例
えば、別の分子、結合性ドメイン、別の分子(例えば、リガンドまたはエピトープ)が結
合したペプチドなどに結合する酵素、ポリペプチドであり得る。活性ポリペプチドとして
使用するためのポリペプチドの例としては、これらだけに限定されないが、金属結合性ド
メイン(MBD);SpyTag;グラフェン結合性(GBP);炭素ナノチューブ結合
性(CBP);金結合性(A3);CT43;FLAG;Z8;E14;QBP1;CL
P12;およびAFP8が挙げられる。
【0041】
ある特定の態様によると、操作されたCsgAポリペプチドの一部として存在する場合
の機能性ポリペプチドは、機能性である。ポリペプチドが、単離されたポリペプチドとし
て有する活性(例えば、酵素活性または結合活性)の少なくとも約50%を保持すれば、
そのポリペプチドは「機能性」であると言えるまたは「機能性」ポリペプチドと表される
。当業者は、例えば質量分析(例えば、とりわけ、MADLI/TOF、SELDI/T
OF、LC-MS、GC-MS、HPLC-MSなどを含むMS)を使用して反応産物の
増大を検出することおよび/もしくは反応基質の減少を検出すること、または、例えばイ
ムノアッセイによって結合パートナーとの結合の増大または減少を検出することが容易に
できる。一部の実施形態では、機能活性ポリペプチドは、単離されたポリペプチドの活性
の少なくとも50%、例えば、活性の50%もしくはそれ超、活性の60%もしくはそれ
超、活性の75%もしくはそれ超、また単離されたポリペプチドの活性の90%もしくは
それ超を保持し得る。
【0042】
一部の実施形態では、機能性ポリペプチドは、コンジュゲーションドメインであってよ
い。そのような実施形態では、例えば、標的タンパク質が、CsgAとの融合物として発
現させるには大きすぎる場合に、標的タンパク質をバイオフィルム中に固定化することが
可能になり得る。操作されたCsgAポリペプチド上に存在するコンジュゲーションドメ
インは、標的タンパク質の一部としてパートナーコンジュゲーションドメインに特異的に
結合することができ、それにより、標的タンパク質がバイオフィルム中に組み入れられる
。そのようなコンジュゲーションドメインは、本明細書では、分子の結合対の第1のメン
バーおよび分子の結合対の対の第2のメンバーとも称される。本明細書で使用される場合
、「コンジュゲーションドメイン」は、例えば、バイオフィルムの成長に適した条件下で
パートナーコンジュゲーションドメインに特異的に結合し得る、および/またはパートナ
ーコンジュゲーションドメインが特異的に結合し得るポリペプチドを包含する。コンジュ
ゲーションドメインは、例えば、約100アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約75ア
ミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約50アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約40ア
ミノ酸もしくはそれ未満、またはより小さなサイズであり得る。パートナーコンジュゲー
ションドメインは、コンジュゲーションドメインとほぼ同じまたはより大きなサイズであ
り得、例えば、パートナーコンジュゲーションドメインは、約4000アミノ酸もしくは
それ未満のサイズ、約3000アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約2000アミノ酸
もしくはそれ未満のサイズ、約1000アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約500ア
ミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約200アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約10
0アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約75アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約5
0アミノ酸もしくはそれ未満のサイズ、約40アミノ酸もしくはそれ未満、またはより小
さなサイズであり得る。一部の実施形態では、コンジュゲーションドメインとパートナー
コンジュゲーションドメインとの結合は共有結合である。コンジュゲーションドメインの
例は、当技術分野で公知であり、それらとして、これらだけに限定されないが、SpyT
ag;ビオチンアクセプターペプチド(BAP);ビオチンカルボキシル担体タンパク質
(BCCP);およびLPXTG(配列番号30)モチーフを含むペプチドが挙げられる
。同様に、パートナーコンジュゲーションドメインは、当技術分野で公知であり、それら
として、これらだけに限定されないが、それぞれ、SpyCatcher、ストレプトア
ビジン;ストレプトアビジン;およびアミノグリシンを含むペプチドが挙げられる。コン
ジュゲーションドメインとパートナーコンジュゲーションドメインとを含むコンジュゲー
ション系のさらなる考察は、例えば、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込
まれるMaoら、J Am Chem Soc、2004年、126巻:2670~1頁;Zakeriら、P
NAS、2012年、109巻:E690~E697頁;およびMaedaら、Appl Environ M
icrobil、2008年、74巻:5139~5145頁に見いだされる。
【0043】
機能性ポリペプチドがコンジュゲーションドメインである場合、パートナーコンジュゲ
ーションドメインを含む標的ポリペプチドは、機能性薬剤をさらに含んでよい。機能性薬
剤は、バイオフィルム中に存在すると、バイオフィルムに、ポリペプチドの非存在下では
有さない性質、機能、または活性が付与されるような活性または機能を有する。機能性薬
剤は、任意のサイズのものであってよく、操作されたCsgAポリペプチドの一部ではな
い。例示的な機能性薬剤としては、例えば、酵素、別の分子、抗体、治療剤、診断剤、金
属、抗菌剤、抗炎症剤、抗がん剤などに結合するポリペプチドが挙げられる。一部の実施
形態では、機能化ポリペプチドおよびコンジュゲーションドメインを含むポリペプチドは
、細胞外局在化タグ、例えば、ポリペプチドを発現する細胞にポリペプチドを分泌させる
配列をさらに含んでよい。
【0044】
機能化した操作されたCsgAポリペプチドまたは機能化したバイオフィルムは、コン
ジュゲーションドメインを含む操作されたCsgAポリペプチド(またはそのポリペプチ
ドを含む細胞および/もしくはバイオフィルム)を、パートナーコンジュゲーションドメ
インを含むポリペプチドと接触させることによってもたらすことができる。一部の実施形
態では、操作されたCsgAポリペプチドとパートナーコンジュゲーションドメインを含
むポリペプチドとを、ある期間にわたって接触させて維持する、すなわち、「結合ステッ
プ」。一部の実施形態では、結合ステップの後に、例えば過剰な結合していないポリペプ
チドを除去するために、洗浄ステップを続ける。
【0045】
一部の実施形態では、コンジュゲーションドメインを含む操作されたCsgAポリペプ
チドは、アルブミンの存在下でパートナーコンジュゲーションドメインと結合している(
または結合する)(すなわち、「結合ステップ」)。一部の実施形態では、アルブミンは
BSAである。一部の実施形態では、アルブミンは、約0.1%~約10%で存在する。
一部の実施形態では、アルブミンは、約0.5%~約5%で存在する。一部の実施形態で
は、アルブミンは、約1%~約2%で存在する。一部の実施形態では、結合ステップは、
少なくとも約2時間、例えば、約2時間もしくはそれ超、約6時間もしくはそれ超、約1
2時間もしくはそれ超、または約24時間もしくはそれ超にわたって進行させる。一部の
実施形態では、結合ステップは、アルブミンの存在下で進行させる。
【0046】
一部の実施形態では、洗浄ステップは、約10分~約6時間にわたって進行する。一部
の実施形態では、洗浄ステップは、約30分~約3時間にわたって進行する。一部の実施
形態では、洗浄ステップは、約90分にわたって進行する。一部の実施形態では、洗浄ス
テップの間、ポリペプチドをかきまぜる(例えば、振とうする)。一部の実施形態では、
洗浄ステップは、ポリペプチドをアルブミンの溶液中で洗浄することを含む。一部の実施
形態では、アルブミンはBSAである。一部の実施形態では、アルブミンは、約0.01
%~約3%で存在する。一部の実施形態では、アルブミンは、約0.1%~約1%で存在
する。一部の実施形態では、アルブミンは、約0.3%で存在する。一部の実施形態では
、洗浄ステップは、2回またはそれ超の連続的な洗浄を含む。一部の実施形態では、洗浄
ステップは、3回の連続的な洗浄を含む。
【0047】
「特異的な結合」は、2つの分子、化合物、細胞および/または粒子の間の化学的相互
作用を含み、ここで、第1の実体は、第2の標的実体に、標的でない第3の実体に結合す
るよりも高い特異性および親和性で結合する。一部の実施形態では、特異的な結合とは、
第1の実体の第2の標的実体に対する親和性が、第3の標的外実体に対する親和性の少な
くとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくと
も1000倍またはそれ超であることを指し得る。所与の標的に特異的な試薬とは、利用
するアッセイの条件下でその標的に対する特異的な結合を示す試薬である。
【0048】
一態様では、本明細書に記載の操作されたCsgAポリペプチドをコードする核酸配列
が本明細書に記載される。一態様では、本明細書に記載の操作されたCsgAポリペプチ
ドをコードする核酸配列を含むベクターが本明細書に記載される。「ベクター」は、宿主
細胞への送達または異なる宿主細胞間の移行のためにデザインされた核酸構築物を含む。
ベクターは、ウイルスベクターであっても非ウイルスベクターであってもよい。遺伝子を
標的細胞に移行させるために有用な多くのベクターが利用可能であり、例えば、ベクター
は、エピソームベクター、例えば、プラスミド、ウイルスに由来するベクターであっても
よく、相同組換えまたはランダムな組み込みによって標的細胞ゲノムに組み込むこともで
きる。一部の実施形態では、ベクターは発現ベクターであってよい。「発現ベクター」は
、細胞に異種核酸断片を組み入れ、それを発現させる能力を有するベクターであってよい
。発現ベクターは、追加的なエレメントを含んでよく、例えば、発現ベクターは、複製系
を2つ有してよく、したがって、発現ベクターを2つの生物において維持することが可能
になる。ベクターに組み入れられる核酸は、発現制御配列によりそのポリヌクレオチド配
列の転写および翻訳が制御および調節される場合、発現制御配列に作動可能に連結してい
てよい。
【0049】
一部の実施形態では、操作されたCsgAポリペプチドをコードする核酸は、プラスミ
ドの一部内に存在し得る。プラスミドベクターとしては、これらだけに限定されないが、
pBR322、pBR325、pACYC177、pACYC184、pUC8、pUC
9、pUC18、pUC19、pLG339、pR290、pKC37、pKC101、
SV 40、pBluescript II SK +/-またはKS +/-(参照に
より本明細書に組み込まれる「Stratagene Cloning Systems」、Catalog(1993年
)、Stratagene、La Jolla、Califを参照されたい)、pQE、pIH821、pGEX
、pETシリーズ(その全体が参照により本明細書に組み込まれるStudierら、「Use of
T7 RNA Polymerase to Direct Expression of Cloned Genes」、Gene Expres
sion Technology、185巻(1990年)を参照されたい)を挙げることができる。
【0050】
「ウイルスベクター」は、ウイルス起源のエレメントを少なくとも1つ含み、ウイルス
ベクター粒子内にパッケージングすることが可能な核酸ベクター構築物であり得る。ウイ
ルスベクターは、必須ではないウイルス遺伝子の代わりにトランスジェニック遺伝子を含
有し得る。ベクターおよび/または粒子は、in vitroまたはin vivoのい
ずれかにおいて任意の核酸を細胞内に移行させるために利用することができる。例えば、
ラムダベクター系gt11、gt WES.tB、Charon 4など、多数のウイル
スベクターが当技術分野で公知であり、細胞内への核酸の担体として使用することができ
る。
【0051】
一部の実施形態では、操作されたCsgAポリペプチドをコードする核酸を構成的に発
現させることができる。一部の実施形態では、操作されたCsgAポリペプチドをコード
する核酸を構成的プロモーターに作動可能に連結することができる。一部の実施形態では
、操作されたCsgAポリペプチドをコードする核酸を誘導的に発現させることができる
。一部の実施形態では、操作されたCsgAポリペプチドをコードする核酸を誘導性プロ
モーターに作動可能に連結することができる。一部の実施形態では、操作されたCsgA
ポリペプチドをコードする核酸をネイティブなCsgAプロモーターに作動可能に連結す
ることができる。
【0052】
「誘導性プロモーター」は、誘導因子または誘導剤の存在下、それによる影響下、また
はそれとの接触下にある場合に、誘導因子または誘導剤の存在下、それによる影響下、ま
たはそれとの接触下にない場合と比較して、転写活性を開始または増強することを特徴と
するプロモーターであり得る。「誘導因子」または「誘導剤」は、誘導性プロモーターか
らの転写活性の誘導において活性になるように投与される、内在性、または通常は外因性
の化合物またはタンパク質であり得る。一部の実施形態では、誘導因子または誘導剤、例
えば、化学薬品、化合物またはタンパク質は、それ自体が誘導性プロモーターの制御下に
ある、それ自体が核酸配列の転写または発現の結果であり得る(例えば、誘導因子は、転
写抑制因子タンパク質であり得る)。誘導性プロモーターの非限定的な例としては、これ
らだけに限定されないが、lacオペロンプロモーター、窒素感受性プロモーター、IP
TG誘導性プロモーター、塩誘導性プロモーター、およびテトラサイクリン、ステロイド
応答性プロモーター、ラパマイシン応答性プロモーターなどが挙げられる。原核生物の系
において使用するための誘導性プロモーターは、当技術分野で周知であり、例えば、ベー
タ.-ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系(Changら、Nature、275巻:6
15頁(1978年)、参照により本明細書に組み込まれる);Goeddelら、Nature、2
81巻:544頁(1979年)、参照により本明細書に組み込まれる)、araBAD
プロモーターを含むアラビノースプロモーター系(Guzmanら、J . Bacteriol.、174
巻:7716~7728頁(1992年)、参照により本明細書に組み込まれる;Guzman
ら、J. Bacteriol.、177巻:4121~4130頁(1995年)、参照により本明
細書に組み込まれる;SiegeleおよびHu、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94巻:8
168~8172頁(1997年)、参照により本明細書に組み込まれる)、ラムノース
プロモーター(Haldimannら、J. Bacteriol.、180巻:1277~1286頁(19
98年)、参照により本明細書に組み込まれる)、アルカリホスファターゼプロモーター
、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel、Nucleic Acids Res.、8巻:
4057頁(1980年)、参照により本明細書に組み込まれる)、PLtetO-1プ
ロモーターおよびPlac/are-1プロモーター(LutzおよびBujard、Nucleic Aci
ds Res.、25巻:1203~1210頁(1997年)、参照により本明細書に組み込
まれる)、ならびにtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーター(deBoerら、Pr
oc. Natl. Acad. Sci. USA、80巻:21~25頁(1983年)、参照により本明
細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0053】
本明細書に開示されている方法および系において有用な誘導性プロモーターは、pH、
温度、放射線、浸透圧、生理食塩水勾配、細胞表面結合、および1つまたは複数の外因性
または内因性の誘導剤の濃度の変化などの1つまたは複数の生理的条件によって誘導され
得る。外因性誘導因子または誘導剤は、アミノ酸およびアミノ酸類似体、糖類および多糖
、核酸、タンパク質転写活性化因子および抑制因子、サイトカイン、毒素、石油に基づく
化合物、金属を含有する化合物、塩、イオン、酵素基質類似体、ホルモン、ならびにこれ
らの組合せを含み得る。特定の実施形態では、誘導性プロモーターは、化学薬品の濃度、
金属、温度、放射線、栄養素の変化またはpHの変化などの環境条件の変化に応答して活
性化または抑制される。したがって、本明細書に開示されている方法および系において有
用な誘導性プロモーターは、ファージ誘導性プロモーター、栄養素誘導性プロモーター、
温度誘導性プロモーター、放射線誘導性プロモーター、金属誘導性プロモーター、ホルモ
ン誘導性プロモーター、ステロイド誘導性プロモーター、ならびに/またはこれらのハイ
ブリッドおよび組合せであり得る。適切な環境誘導因子としては、これらだけに限定され
ないが、熱(すなわち、熱的パルスまたは一定の熱への曝露)、種々のステロイド化合物
、二価カチオン(Cu2+およびZn2+を含む)、ガラクトース、テトラサイクリン、
IPTG(イソプロピル-β-Dチオガラクトシド)、ならびに他の天然に存在するおよ
び合成の誘導剤および無償の誘導因子への曝露を挙げることができる。
【0054】
本明細書に開示されている方法および系において有用な誘導性プロモーターは、環境、
外部の薬剤、または別の遺伝子の産物の作用によって不活化を受ける「転写抑制因子」に
よって抑制されるプロモーターも包む。そのような誘導性プロモーターは、「抑制可能な
プロモーター」と称することもでき、本明細書に記載の生物学的スイッチコンバーターの
所与のモジュールまたは成分内の他の型のプロモーター間で区別することが必要である。
本発明において使用するための好ましい抑制因子は、生理的に良性の薬剤による不活化に
対して感受性である。したがって、lacOオペレーター配列を含有するように操作され
たプロモーター配列の発現を制御するためにlac抑制因子タンパク質を使用する場合、
IPTGを用いて宿主細胞を処理することにより、lacOオペレーター配列を含有する
操作されたプロモーターからのlac抑制因子の解離が引き起こされ、転写が開始される
。同様に、tetOオペレーター配列を含有するように操作されたプロモーター配列の発
現を制御するためにtet抑制因子を使用する場合、テトラサイクリンを用いて宿主細胞
を処理することにより、操作されたプロモーターからのtet抑制因子の解離が引き起こ
され、操作されたプロモーターの下流の配列の転写が開始される。
【0055】
一態様では、操作されたCsgAポリペプチドを含む、および/またはそのようなポリ
ペプチドをコードするベクターまたは核酸を含む操作された微生物細胞が本明細書に記載
される。
【0056】
一部の実施形態では、操作されたCsgAポリペプチドは、コンジュゲーションドメイ
ンを含む機能性ポリペプチドを含んでよい。一部の実施形態では、操作されたCsgAポ
リペプチドをコードする、および/またはそれを含む細胞は、パートナーコンジュゲーシ
ョンドメインおよび機能化ポリペプチドを含む第2の操作されたポリペプチドをさらにコ
ードし得る、および/または含み得るコンジュゲーションドメインを含む活性ポリペプチ
ドを含んでよい。一部の実施形態では、コンジュゲーションドメインを含む活性ポリペプ
チドを含む操作されたCsgAポリペプチドをコードする、および/またはそれを含む第
1の細胞型、ならびにパートナーコンジュゲーションドメインおよび機能化ポリペプチド
を含む第2の操作されたポリペプチドをコードする、および/またはそれを含む第2の細
胞型の2つの細胞型を含む細胞の集団が本明細書に記載される。すなわち、本明細書では
、単一の細胞が、コンジュゲーションドメインを有するCsgAポリペプチドを含み、か
つ、そのCsgAポリペプチドに結合する、および/またはそのCsgAポリペプチドが
結合するポリペプチドも含んでよいこと、または、第1の細胞がコンジュゲーションドメ
インを有するCsgAポリペプチドを含み、第2の細胞がそのCsgAポリペプチドに結
合する、および/またはそのCsgAポリペプチドが結合するポリペプチドを含んでよい
ことが企図されている。さらに、コンジュゲーションドメインを有する操作されたCsg
Aポリペプチドを、パートナーコンジュゲーションドメインおよび機能化ポリペプチドを
含む第2のポリペプチドと接触させることができることが企図されており、例えば、Cs
gAポリペプチドが細胞表面上に存在する、および/またはバイオフィルム中に存在する
場合、例えば、第2のポリペプチドを産生(例えば、細菌または真核細胞によって)およ
び/または合成(および場合によって単離または精製)し、次いで、操作されたCsgA
ポリペプチドと接触させる。
【0057】
本明細書に記載の方法および組成物の細菌細胞は、あらゆる種のいずれのものであって
もよい。細菌細胞は、培養および遺伝子操作を行うことができる種および/または株のも
のであることが好ましい。一部の実施形態では、細菌細胞は、グラム陽性菌細胞であって
よい。一部の実施形態では、細菌細胞は、グラム陰性菌細胞であってよい。一部の実施形
態では、本明細書に記載されている技術の細菌細胞の親株は、タンパク質の発現用に最適
化された株であってよい。本技術における使用に適した細菌の種および株の非限定的な例
としては、Escherichia coli、E.coli BL21、E.coli
Tuner、E.coli Rosetta、E.coli JM101、および前述
のいずれかの誘導体が挙げられる。タンパク質の発現用の細菌株は、例えば、EXPRE
SS(商標)Competent E.coli(カタログ番号C2523;New E
ngland Biosciences;Ipswich、MA)など、市販されている
。一部の実施形態では、細胞は、E.coli細胞である。
【0058】
一部の実施形態では、操作されたCsgAポリペプチドをコードする核酸を、野生型C
sgAを発現する細胞に含める。一部の実施形態では、操作されたCsgAポリペプチド
をコードする核酸を、例えば細胞が野生型CsgAを発現しないような、野生型CsgA
遺伝子の突然変異および/または欠失を有する細胞に含める。一部の実施形態では、操作
されたCsgAポリペプチドをコードする核酸を、細胞に、相同組換えにより、例えば、
細胞において操作されたCsgAポリペプチドをコードする核酸により野生型CsgA遺
伝子が置き換えられるように導入する。
【0059】
一態様では、1つまたは複数の操作されたCsgAポリペプチドを含む、および/また
はそのようなポリペプチドをコードするベクターもしくは核酸を含む、操作された微生物
細胞を含むバイオフィルムが本明細書に記載される。本明細書で使用される場合、「バイ
オフィルム」とは、表面に接着することができるまたは接着している微生物の集団を指す
。バイオフィルムは、これらだけに限定されないが、細胞外DNA、タンパク質、糖ペプ
チド、および多糖を含む、細胞外ポリマー物質のマトリックスを含む。バイオフィルムの
構造および組成などの性質は、バイオフィルム中に存在する特定の細菌の種に左右され得
る。バイオフィルム中に存在する細菌は、一般に、単離された細菌またはコロニー中の細
菌などの、バイオフィルム中に存在しない対応する細菌とは遺伝的にまたは表現型的に異
なる。
【0060】
一部の実施形態では、本明細書に記載されている技術は、操作されたCsgAポリペプ
チドを含む(および/またはそのようなポリペプチドをコードするベクターまたは核酸を
含む)操作された微生物細胞をバイオフィルムの産生に適した条件下で培養することによ
って産生されるバイオフィルムに関する。バイオフィルムの産生に適した条件は、これら
だけに限定されないが、微生物細胞が対数成長および/またはポリペプチド合成できる条
件を含み得る。条件は、選択される微生物細胞の種および株に応じて変動し得る。微生物
細胞を培養するための条件は当技術分野で周知である。バイオフィルム産生は、当技術分
野で周知の方法、例えば、細胞を阻害濃度未満のベータ-ラクタム系もしくはアミノグリ
コシド系抗生物質と接触させること、細胞を流体の流れに曝露すること、細胞を外因性ポ
リ-N-アセチルグルコサミン(PNAG)と接触させること、または細胞をクオラムセ
ンシングシグナル分子と接触させることによって誘導および/または増強することができ
る。一部の実施形態では、バイオフィルムの産生に適した条件は、例えば、CsgDを外
因的に発現させることによってCsgAの発現および分泌を増大させる条件も含み得る。
【0061】
一部の実施形態では、バイオフィルムは、バイオフィルムを産生した細胞を含み得る。
一部の実施形態では、本明細書に記載の操作されたCsgAポリペプチドを含む組成物が
本明明細書に記載される。
【0062】
CsgA単位は、curliを形成することができる細胞、例えばCsgA、CsgB
、CsgC、CsgD、CsgE、CsgF、およびCsgGまたはその一部のサブセッ
トを発現する細胞によって発現されると、アセンブルしてcurliフィラメント、例え
ば、CsgAのポリマー鎖を形成する。一部の実施形態では、ポリペプチドのフィラメン
トが組成物中に存在し得る。一部の実施形態では、フィラメントは、タンパク質性ネット
ワークの一部、例えば、例えば互いと混交、オーバーラップ、および/または接触し得る
多数のフィラメントであり得る。一部の実施形態では、タンパク質性ネットワークは、追
加的なバイオフィルム成分、例えば、E.coliバイオフィルムに一般に見いだされる
材料を含み得る。バイオフィルム成分の非限定的な例としては、バイオフィルムタンパク
質(例えば、FimA、FimH、Ag43、AidA、および/またはTibA)およ
び/または非タンパク質性バイオフィルム成分(例えば、セルロース、PGAおよび/ま
たはコラン酸(colonic acid))を挙げることができる。一部の実施形態では、組成物
は、操作されたCsgAポリペプチドを含む、および/またはそのようなポリペプチドを
コードするベクターまたは核酸を含む操作された微生物細胞をさらに含み得る。
【0063】
一態様では、操作されたCsgAポリペプチドを含む(および/またはそのようなポリ
ペプチドをコードするベクターまたは核酸を含む)細胞、組成物、またはバイオフィルム
の、ポリペプチドを、例えば、バイオフィルム内、組成物内、および/または細胞表面上
にディスプレイするための使用が本明細書に記載される。本明細書で使用される場合、「
ディスプレイする」とは、ポリペプチド(例えば、活性ポリペプチドとして)を、細胞外
の環境と接触するように発現させることを指す。ディスプレイされたポリペプチドは、結
合パートナーと結合すること、酵素反応を触媒すること、および/または単離されたポリ
ペプチドとして発揮する任意の他の活性を発揮することが可能であり得る。
【0064】
本明細書では、バイオフィルム内でディスプレイされるポリペプチド(例えば、活性ポ
リペプチドおよび/または機能化ポリペプチド)は、そのポリペプチドの可溶性型を超え
る活性を保持することが企図されている。本明細書では、バイオフィルム内でディスプレ
イされるポリペプチド(例えば、活性ポリペプチドおよび/または機能化ポリペプチド)
は、例えば、高pHまたは低pH、有機溶媒、乾燥、高温または低温、放射線などの活性
低下条件に曝露した際に、そのポリペプチドの可溶性型を超える活性を保持することが企
図されている。
【0065】
一態様では、操作されたCsgAポリペプチドを含む(および/またはそのようなポリ
ペプチドをコードするベクターまたは核酸を含む)細胞、組成物、またはバイオフィルム
の、生体触媒;工業的な生体触媒;固定化された生体触媒;化学的生成;濾過;水溶液か
らの分子の単離;水濾過;バイオレメディエーション;ナノ粒子合成;ナノワイヤー合成
;光学的に活性な材料のディスプレイ;バイオセンサー;表面コーティング;治療用バイ
オマテリアル;生物学的足場;物体の構造的補強;および治療剤の送達系からなる群から
選択される適用における使用が本明細書に記載される。そのような適用およびそれに使用
するための特異的活性ポリペプチドの例示的な、非限定的な実施形態は、本明細書の実施
例に記載されている。
【0066】
本明細書では、細胞、組成物および/またはバイオフィルムは、多数の異なる操作され
たCsgAポリペプチドを含んでよく、そのそれぞれが、異なる活性ポリペプチド、例え
ば、酵素活性ポリペプチドを含む操作されたCsgAポリペプチドおよび結合性ドメイン
活性ポリペプチドを含む操作されたCsgAポリペプチドを含むことが企図されている。
細胞、組成物、および/またはバイオフィルムは、1種または複数の操作されたCsgA
ポリペプチド、例えば、1種、2種、3種、4種、5種、6種、またはそれ超の操作され
たCsgAポリペプチドを含んでよい。
【0067】
「増大(increased)」、「増大する(increase)」、「増強する(
enhance)」、または「活性化する(activate)」という用語は全て、本
明細書では、統計学的に有意な量の増大を意味するために使用される。一部の実施形態で
は、「増大(increased)」、「増大する(increase)」、「増強する
(enhance)」、または「活性化する(activate)」という用語は、参照
レベルと比較して少なくとも10%の増大、例えば、少なくとも約20%、もしくは少な
くとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは
少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もし
くは少なくとも約90%もしくは100%を含めて100%までの増大、または参照レベ
ルと比較して10~100%の任意の増大、または、参照レベルと比較して少なくとも約
2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5
倍もしくは少なくとも約10倍の増大、または2倍から10倍もしくはそれ超の間の増大
を意味し得る。
【0068】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、本
明細書では、隣接する残基のアルファ-アミノ基とカルボキシ基の間のペプチド結合によ
って互いと接続された一連のアミノ酸残基を示すために互換的に使用される。「タンパク
質」および「ポリペプチド」という用語は、そのサイズまたは機能にかかわらず、修飾さ
れた(例えば、リン酸化された、糖化された、グリコシル化されたなど)アミノ酸および
アミノ酸類似体を含むアミノ酸のポリマーを指す。「タンパク質」および「ポリペプチド
」は、多くの場合、比較的大きなポリペプチドに関して使用され、「ペプチド」という用
語は、多くの場合、小さなポリペプチドに関して使用されるが、当技術分野におけるこれ
らの用語の使用は重複する。「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、本明
細書では、遺伝子産物およびその断片について言及する場合、互換的に使用される。した
がって、例示的なポリペプチドまたはタンパク質としては、遺伝子産物、天然に存在する
タンパク質、ホモログ、オルソログ、パラログ、断片ならびに前述のものの他の等価物、
バリアント、断片、および類似体が挙げられる。
【0069】
「核酸」または「核酸配列」とは、リボ核酸、デオキシリボ核酸またはその類似体の単
位が組み入れられる任意の分子、好ましくはポリマー分子であってよい。核酸は、一本鎖
であっても二本鎖であってもよい。一本鎖核酸は、変性した二本鎖DNAの一方の核酸鎖
であってよい。あるいは、一本鎖核酸は、いかなる二本鎖DNAにも由来しない一本鎖核
酸であってよい。一態様では、核酸はDNAであってよい。別の態様では、核酸はRNA
であってよい。適切な核酸分子は、ゲノムDNAまたはcDNAを含むDNAである。他
の適切な核酸分子は、mRNAを含むRNAである。
【0070】
細胞生物学および分子生物学における一般用語の定義は、The Encyclopedia of Mol
ecular Biology、Blackwell Science Ltd.より出版、1994年(ISBN 0-632-02182
-9);Benjamin Lewin、Genes X、Jones & Bartlett Publishingより出版、200
9年(ISBN-10:0763766321);Kendrewら(編)、Molecular Biology and Biotechnol
ogy: a Comprehensive Desk Reference、VCH Publishers, Inc.より出版、199
5年(ISBN 1-56081-569-8)およびCurrent Protocols in Protein Sciences、20
09年、Wiley Intersciences、Coliganら編において見出すことができる。
【0071】
別段の指定のない限り、本発明は、例えば、全てその全体が参照により本明細書に組み
込まれる、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第3版)、Cold
Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、USA(2001年
);Davisら、Basic Methods in Molecular Biology、Elsevier Science Publishi
ng, Inc.、New York、USA(1995年);またはMethods in Enzymology: Guide
to Molecular Cloning Techniques152巻、S. L. BergerおよびA. R. Kimmel編
、Academic Press Inc.、San Diego、USA(1987年);およびCurrent Protocols
in Protein Science (CPPS)(John E. Coliganら編、John Wiley and Sons,
Inc.)に記載されている標準の手順を使用して実施した。
【0072】
本開示の実施形態についての記載は、網羅的なものでもなく、開示されている形態その
ものに本開示を限定するものでもない。本開示の特定の実施形態、および実施例が例示目
的で本明細書に記載されているが、当業者には理解される通り、本開示の範囲内に入る種
々の等価の改変が可能である。例えば、方法のステップまたは機能は所与の順序で示され
ているが、代替的な実施形態では、機能を異なる順序で実施することもでき、機能を実質
的に同時に実施することもできる。本明細書で提供される開示の教示は、必要に応じて他
の手順または方法に適用することができる。本明細書に記載の種々の実施形態を組み合わ
せてさらなる実施形態をもたらすことができる。本開示の態様は、必要であれば、上記の
参考文献および適用の組成物、機能および概念を用いるように改変して、本開示のなおさ
らなる実施形態をもたらすことができる。さらに、生物学的機能の同等性の考察から、生
物学的または化学的作用の種類および量に影響を及ぼすことなく、タンパク質の構造にい
くらかの変更を行うことができる。これらおよび他の変更は、本開示に対して、詳細な説
明を踏まえて行うことができる。そのような改変は全て、添付の特許請求の範囲の範囲内
に含まれるものとする。
【0073】
前述の実施形態のいずれかの特定の要素を他の実施形態における要素と組み合わせるま
たはそれで置換することができる。さらに、本開示のある特定の実施形態に付随する利点
がこれらの実施形態の状況で記載されているが、他の実施形態でもそのような利点が示さ
れ得、また、本開示の範囲内に入るために全ての実施形態がそのような利点を示す必要は
ない。
【0074】
以下の実施例は、本開示の代表的なものとして記載されている。これらおよび他の等価
の実施形態は本開示、図面および付随する特許請求の範囲を考慮すれば明らかであるので
、これらの実施例は本開示の範囲の限定とは解釈されない。
【実施例
【0075】
(実施例I)
リンカーのデザイン
アミロイドドメイン(CsgA)と機能性ペプチドドメイン(FLAG)との間の種々
のリンカーデザインを試験するために、試験アミロイドキメラタンパク質ライブラリーを
構築した。CsgAタンパク質は、細菌Escherichia coliから分泌され
、次いで、当該タンパク質が自己アセンブルして、直径約4~7nmの高度にロバストな
機能性アミロイドナノファイバーになる。これらのアミロイドファイバは「curli」
として公知であり、細胞を封入する、延長した絡み合ったネットワークとして存在する。
FLAGドメインは、アフィニティークロマトグラフィーおよびエピトープ-タグを付け
たタンパク質検出のために使用されるオクタペプチドポリペプチドタグである。
【0076】
以下の表1に記載の通り、CsgAとFLAGドメインとを接続するリンカーとして6
種の異なるドメインをデザインした。
【表1】
【0077】
一態様によると、リンカーは、7アミノ酸~50アミノ酸を含み得る。一態様によると
、リンカーは、8アミノ酸~50アミノ酸を含み得る。一態様によると、リンカーは、9
アミノ酸~50アミノ酸を含み得る。一態様によると、リンカーは、10アミノ酸~50
アミノ酸を含み得る。一態様によると、リンカーは、11アミノ酸~50アミノ酸を含み
得る。一態様によると、リンカーは、12アミノ酸~50アミノ酸を含み得る。一態様に
よると、リンカーは、15アミノ酸~50アミノ酸を含み得る。一態様によると、リンカ
ーは、20アミノ酸~50アミノ酸を含み得る。一態様によると、リンカーは、24アミ
ノ酸~50アミノ酸を含み得る。一態様によると、リンカーは、45アミノ酸~50アミ
ノ酸を含み得る。
【0078】
一態様によると、リンカーは、柔軟なリンカーまたは剛性のリンカーであり得る。リン
カーは、1つまたは複数のまたは複数の反復アミノ酸サブユニットを含み得る。
【0079】
一態様によると、リンカーは、疎水性または親水性であり得る。
【0080】
一態様によると、リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、1
2、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25
、26、27、28、29もしくは30またはそれ超のアミノ酸サブユニットを含み得る
。一態様によると、リンカーは、2反復サブユニットもしくはそれ超、3反復サブユニッ
トもしくはそれ超、4反復サブユニットもしくはそれ超、5反復サブユニットもしくはそ
れ超、6反復サブユニットもしくはそれ超、7反復サブユニットもしくはそれ超、8反復
サブユニットもしくはそれ超、9反復サブユニットもしくはそれ超、10反復サブユニッ
トもしくはそれ超、11反復サブユニットもしくはそれ超、12反復サブユニットもしく
はそれ超、13反復サブユニットもしくはそれ超、14反復サブユニットもしくはそれ超
、または15反復サブユニットもしくはそれ超を含み得る。一態様によると、複数のアミ
ノ酸サブユニットにより、柔軟なリンカーがもたらされる。柔軟なリンカーは、溶液中で
固有の二次構造または三次構造を欠く配列を有するリンカーを含み得る。一態様によると
、複数のアミノ酸サブユニットにより、剛性リンカーがもたらされる。剛性リンカーは、
溶液中で定義済みのコンフォメーションを維持することを可能にする二次構造または三次
構造を有する配列を有するリンカーを含み得る。
【0081】
例示的なアミノ酸サブユニットは、GGGS(配列番号4)である。一態様によると、
リンカーは構造[GGGS](式中、nは、1から20までの整数である)(配列番号
12)を有する。nの例示的な値としては、3、6、および12が挙げられる。一態様に
よると、複数のGGGS(配列番号4)サブユニットを有するリンカーは、全体的または
部分的に柔軟なリンカーである。
【0082】
例示的なアミノ酸サブユニットはPである。一態様によると、リンカーは、構造[P]
(式中、nは、1から30までの整数である)(配列番号13)を有する。一態様によ
ると、Pの反復を有するリンカーは、延長されたII型トランスへリックスを含む。nの
例示的な値としては、12および24が挙げられる。一態様によると、複数のPサブユニ
ットを有するリンカーは、全体的または部分的に剛性のリンカーである。
【0083】
例示的なアミノ酸サブユニットは、EAAAK(配列番号14)などのアルファヘリッ
クスモチーフである。一態様によると、リンカーは、構造[EAAAK](式中、nは
、1から15までの整数である)(配列番号15)を有する。nの例示的な値としては、
3および9が挙げられる。一態様によると、複数のEAAAK(配列番号14)サブユニ
ットを有するリンカーは、全体的または部分的に剛性のリンカーであり、親水性部分およ
び疎水性部分を含む。
【0084】
例示的なアミノ酸残基としては、12もしくはそれ超のアミノ酸、24もしくはそれ超
のアミノ酸または48もしくはそれ超のアミノ酸が挙げられる。一態様によると、アミノ
酸は、柔軟なアミノ酸である。一態様によると、アミノ酸は、グリシン、セリン、アラニ
ンまたはロイシンのうちの1つまたは複数である。一態様によると、対応する細胞外cu
rliファイバの増大は、リンカーの長さの増大によりもたらされる。一態様によると、
対応する機能性ドメイン利用可能性の増大は、リンカーの長さの増大によりもたらされる
【0085】
例示的なリンカーとしては
【化2】

が挙げられる。
【0086】
(実施例II)
アミロイドナノファイバー産生の分析
種々の介在リンカーを有するCsgA-リンカー-FLAGキメラを、curliナノ
ファイバーへの最適な自己アセンブルについて試験した。種々のリンカーを有するタンパ
ク質ライブラリーのcurliナノファイバーへの自己アセンブルを、アミロイドの比色
定量検出のために使用される標準の染色であるコンゴーレッド(CR)を使用して検出し
た。首尾よく分泌され、アミロイドナノファイバーへの自己アセンブルに関してコンピテ
ントな融合タンパク質を発現するE.coli細胞のみが赤色に染色される。図1に示さ
れている通り、柔軟なリンカー(F12、F24、およびF48)の全てで、いくらかの
中間のレベルのCR染色が示され、最長のリンカーで最大の量が示される。剛性リンカー
に関しては、より長いポリプロリンリンカーではCR染色が示されず、EK3リンカーに
ついて最大量のCR染色が得られた。より長い剛性リンカーを有するポリプロリンおよび
EAAAK(配列番号14)リンカーにより、より少ない染色がもたらされる傾向がみら
れる。これは単に代表的な実施形態であること、および、プロリンを24個有するポリプ
ロリンリンカーが所与の機能性ポリペプチドに対して有用なリンカーであり得ることが理
解されるべきである。
【0087】
(実施例III)
ペプチドドメイン機能性の決定
FLAGエピトープタグが利用可能であり、抗FLAG抗体に結合するというその規定
された機能を適正に果たすことができるかどうかを決定するために、全細胞培養物試料の
イムノブロット分析を実施した。柔軟なリンカーを有するCsgA-リンカー-FLAG
構造では、リンカーの長さに応じて蛍光の単調な増大が実証された。ポリプロリン剛性リ
ンカーを有するCsgA-リンカー-FLAG構造では蛍光がなかった。科学的理論に縛
られることを望むものではないが、これらの疎水性リンカーは、ペプチドタグの適切な機
能を妨害する可能性がある。アルファヘリックスEAAAK(配列番号14)リンカーを
有するCsgA-リンカー-FLAG構造では、EK9構築物よりも多くのCR染色を有
したEK3リンカー構築物(図1を参照されたい)では蛍光がより少ないことが示された
。対照的に、CR結合がより少ないEK9リンカー構築物では蛍光シグナルが高く、これ
により、FLAGエピトープタグの利用可能性がより大きいことが示される。図2を参照
されたい。
【0088】
(実施例IV)
リンカーのデザインを最適化する方法
本開示の態様は、CsgAと機能性ポリペプチドとを連結するためのリンカーのデザイ
ンを最適化する方法を対象とする。この態様によると、CsgAと連結するための機能性
ポリペプチドを選択する。次いで、リンカーのデザインを選択してCsgA-リンカー-
機能性ポリペプチド構造を形成する。次いで、細菌を、CsgA-リンカー-機能性ポリ
ペプチド構造をコードする核酸配列を含むように改変する。次いで、改変された細菌を増
殖させて細菌の集団にし、CsgA-リンカー-機能性ポリペプチド構造の発現について
アッセイする。次いで、改変された細菌を増殖させて細菌の集団にし、CsgA-リンカ
ー-機能性ポリペプチド構造のバイオフィルムの形成についてアッセイする。バイオフィ
ルムを、機能性ポリペプチドの機能特性についてアッセイすることができる。したがって
、本明細書に記載の例示的なリンカーにより、自己アセンブルが可能になり、CsgA-
リンカー-機能性ポリペプチド構造の機能的ドメインが互いに干渉せずに作動または機能
することが可能になる。バイオフィルム形成および機能性ポリペプチドの機能特性に対す
るリンカーの影響を決定する例示的な方法を図3に示す。最適化されていないリンカード
メインは、機能的ドメインに対する結合性部位をふさぐこと、CsgAもしくは機能性ポ
リペプチドドメインの適切なフォールディングを妨げること、アミロイドファイバのアセ
ンブリを妨害すること、または分泌を妨害することにより、バイオフィルムに基づく材料
の性能を妨害する可能性がある。最適化されたリンカーでは、これらの問題が最小限にな
り、バイオフィルムの所望の機能が改善される。最適化されたリンカードメインにより、
広範囲の条件下(極度の温度、極度のpH、好ましくない溶媒の存在下、屋外での適用に
おける要素への曝露など)での優れた機械的および生物物理学的安定性を有するバイオフ
ィルムに基づく材料の製作が容易になる。最適化されたリンカードメインにより、各機能
性ペプチドドメインが独立に作動することが可能になり、マイクロスケールまたはマクロ
スケールでの所望の挙動に寄与する材料中の機能性ペプチドドメインの数が有効に増大す
る。例えば、バイオフィルムに基づく材料の所望の機能が金属結合性である場合、不適切
なリンカードメインによって生じる分子の混み合いまたは望ましくない分子間相互作用が
原因で材料の安定性または金属結合親和性が阻害される。最適化されたリンカードメイン
により、望ましくない分子間相互作用が起こることが減り、最終的に材料の性能が増強さ
れる。
【0089】
(実施例V)
腸管上皮結合
本開示の態様は、健康であるか疾患にかかっているかにかかわらず、特定の組織または
細胞に結合する異種ドメインを有するバイオフィルムを創出するための、操作された細菌
の使用方法を対象とする。一態様によると、細菌は、非病原性細菌である。例示的な非病
原性細菌としては、Nissle 1917株(EcN)、MG1655、K12由来株
、PHL628、LSR10、LSR6などが挙げられる。Mutaflorという商品
名でプロバイオティクスとして販売されている野生型EcNは、経口的に送達することが
でき、上部胃腸管を生きて移行し、次いで、回腸および結腸で最初の投与から数日間、一
過性に定着する。この定着プロセスの間に、EcNはcurliファイバを産生する。
【0090】
例示的な結合性ドメインとしては、以下の表2において同定されるものが挙げられる。
【表2-1】

【表2-2】
【0091】
本発明者らは、異なる融合ドメインのそれぞれについて、最適なcurliファイバ形
成を導くリンカー配列と培養条件との特定の組合せを同定し、以下の表3に提示する。
【表3A】
【0092】
機能性ポリペプチドとしては、胃腸(GI)管の上皮表面に対する結合親和性を示すポ
リペプチドまたはタンパク質配列が挙げられる。例示的なポリペプチドまたはタンパク質
配列は、当業者に公知であるか、または生体組織におけるファージディスプレイから、天
然に存在する生物に存在する配列から、もしくは特定の表面に結合するようにいくつかの
他のやり方で操作された配列から、決定することができる。例えば、胃腸管に関連する組
織または細胞に対する親和性を有する例示的なポリペプチドまたはタンパク質配列は、腸
管上皮の構造を模倣するマイクロ流体系から決定することができる。そのような系は、「
Gut on a CHIP」と称することができる。そのような系では、蠕動を模倣す
るために流れおよび周期的ひずみの動きを組み入れる。腸管結合性官能基を有する本明細
書に記載の操作された細菌株をそのような系に導入することができ、系におけるマイクロ
スケールでの局在化および滞留時間をモニタリングして、CsgA-リンカー-機能性ポ
リペプチドの発現を通じた細胞の系への結合を決定することができる。そのような系は、
その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Lab Chip、2012年、12巻、21
65~2174頁に記載されている。
【0093】
胃腸管に関連する組織または細胞に対する親和性を有する例示的なポリペプチドまたは
タンパク質配列は、マウスモデルにおける時空間分布をモニタリングまたは決定すること
から決定することができる。この態様によると、操作されたNissle株などの操作さ
れた細菌株を、健康なマウス腸管に、例えば単回投与などで、経口投与し、その後、通常
の給餌の期間をおく。操作された株の滞留時間を毎日採集する糞便試料からのCFU計数
によって測定する。腸管内の空間的局在化を、腸管組織を採取し、切片作製し、操作され
た株の存在をホモジナイズした組織からのCFU計数および組織学的な組織切片の免疫染
色から追跡することによってモニタリングする。
【0094】
腸管上皮に局在化した様式で結合することが分かっているポリペプチドドメインのライ
ブラリーにおいて、いくつかのリンカーを試験した。トレフォイルファクター(TFF)
として公知であるこのポリペプチドファミリーは、胃腸粘膜から分泌され、胃腸管の異な
る領域に差次的に結合する3種の同定されたペプチド(TFF1、TFF2、およびTF
F3)からなる。全てのトレフォイルファクターが共通して、3つの保存されたジスルフ
ィド結合からなるトレフォイルドメインを有する。操作してCsgA-リンカーにした各
TFF構築物についての配列が上の表2に示されている。
【0095】
TFF1は、60アミノ酸の単一のトレフォイルドメインを含有する。TFF2は、2
つの相同なトレフォイルドメインを含有し、その結果、合計6つのジスルフィド結合が生
じており、長さは100アミノ酸を超える。前述の実験において同定された柔軟なリンカ
ーを介してTFF2と融合したCsgAを含有する種々の構築物を作製した。単一のトレ
フォイルドメイン構築物(TFF1)に関しては、より長い柔軟なリンカードメインによ
り、定量的コンゴーレッド結合アッセイによって測定される発現レベルの顕著な改善がも
たらされた(図4)。
【0096】
TFF1では、柔軟なリンカーの長さを24残基から48残基まで増大させたところ、
ほぼ5倍の増大が示された。対照的に、TFF2では、リンカーの長さの関数としての改
善は示されず、これは、タンパク質の複雑さ(6つのジスルフィド)または長さがより大
きいこと(>100アミノ酸)に起因する可能性がある。
【0097】
表4に示されているF48リンカーを使用して種々の短いペプチド(7~12アミノ酸
)を試験した。
【表3B】
【0098】
これらのペプチドは、腸粘膜への結合についてファージディスプレイ技法によって同定
された。図5に示されている通り、これらの短いペプチド構築物の全てで、野生型Csg
Aと同等の移出およびcurli-自己アセンブルレベルが実証された。
【0099】
これらの種々の腸管結合性ドメイン(TFFおよび短いペプチド)が、curliナノ
ファイバー上にディスプレイされた際にそれらの組織ホーミング機能を保持するかどうか
を決定するために、Caco-2細胞単層への細菌の結合についての標準のin vit
roアッセイを実施した。Caco-2細胞株は、ヒト小腸を裏打ちする腸内円柱上皮細
胞と表現型的に類似している。これらの細胞株は、モデルin vitro系として研究
所において広く使用されている。全てF48リンカードメインを含有する種々のCsgA
構築物をE.coli LSR10株において発現させた。このE.coliの株は、他
の細胞外細胞小器官(セルロース、鞭毛、線毛など)を産生しない実験室用K-12株で
あり、したがって、機能を明白に見分けることが可能になる。図6は、腸管結合性ドメイ
ンを有するCsgA構築物を発現するLSR10細胞のCaco-2細胞への接着を示す
。全てF48リンカードメインを含有する種々のCsgA構築物をE.coli PHL
628株において発現させた。図7は、腸管結合性ドメインを有するCsgA構築物を発
現するPHL628細胞のCaco-2細胞への接着を示す。
【0100】
構築物の発現および結合を、curliナノファイバーを発現するE.coliのプロ
バイオティクス株であるNissle 1917においてさらに試験した。Nissle
株は、WWI中に、感染性腸管病原性下痢に対して抵抗性であった兵士の糞便試料から単
離された。さらなる試験により、Nissle株が胃浸潤性細菌からの保護能力を有する
重大なプロバイオティクスであること、ならびに、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、およ
びクローン病などの他の胃腸障害を好転させることが示された。したがって、本開示の態
様は、Nissle E.coliの腸管組織への付着を対象とする。
【0101】
Lambda Redゲノム欠失技法を使用して内在性CsgA遺伝子をNissle
株から除去し、それにより、的確なcsgA欠失を伴うNissleの操作された株をも
たらした(Nissle突然変異体、PBP17)。図8A~8Dは、Nissle 1
917のCsgA欠失突然変異体の構築を示す。図8Aは、Nissleにおいてcsg
A遺伝子を欠失させるためのlambda red組換え戦略を示す。図8Bは、csg
A遺伝子座におけるクロラムフェニコールカセット挿入のPCRによる検証により、2つ
の陽性クローンが同定されることを示す(黒色の矢印)。図8Cは、265bp、158
bp、および113bpのアンプリコンの存在について検証された2つのクローンを示す
図8Dは、csgA遺伝子に隣接する領域の配列決定による検証により、上首尾のCA
Tカセット組み込みが示されることを示す(黄色で強調表示されている)。PBP17に
おいて発現させた種々の構築物の接着機能性を試験するために、Caco-2細胞へのi
n vitroにおける結合試験を上記の通り実施した。F48リンカーを有し、トレフ
ォイルドメイン(TFF1、TFF2、およびTFF3)を含有する構築物をNissl
e ΔcsgA突然変異体(PBP17)において発現させ、in vitroにおける
Caco-2単層への結合について試験した。結合した細胞を回収し、CFU分析によっ
て定量化し、データを図9において、Caco-2単層に接着したままであった総接種細
菌細胞の%として示す。
【0102】
例示的な構造として、
CsgA-(GGGS)-TTF1(式中、nは、3、6または9である)(配列番
号41)
CsgA-(GGGS)-TTF2(式中、nは、3、6または9である)(配列番
号41)
CsgA-(GGGS)-TTF3(式中、nは、3、6または9である)(配列番
号41)
CsgA-(GGGS)-T18(式中、nは、3、6または9である)(配列番号
41)
CsgA-(GGGS)-CP15(式中、nは、3、6または9である)(配列番
号41)
CsgA-(GGGS)-P8(式中、nは、3、6または9である)(配列番号4
1)
が挙げられる。
【0103】
(実施例VI)
腸管の慢性炎症性疾患の処置
本開示の態様は、炎症性腸疾患およびクローン病などの腸管の慢性炎症性疾患を、それ
を必要とする個体に本明細書に記載されているある特定の操作された細菌株(単数または
複数)を投与することによって処置する方法を対象とする。一態様によると、細菌株に、
CsgA-リンカー-抗炎症性ポリペプチド構築物を発現させる。
【0104】
細菌株に、CsgA-リンカー-抗炎症性ポリペプチド構築物を発現させ、抗炎症性ポ
リペプチドにより腸管の慢性炎症性疾患を処置する。
【0105】
一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-結合対ポリペプチドの第1のメンバ
ー構築物を発現させる。次いで、抗炎症性化合物に付着した結合対の第2のメンバーを投
与する。結合対の第1のメンバーと結合対の第2のメンバーとを結合させ、それにより、
抗炎症性化合物を、胃腸管の慢性炎症性疾患の処置のために、例えば腸管に局在化させる
【0106】
一態様によると、細菌株は、Nissle株または例えばMG1655、K12由来株
などの当業者に公知の任意の他の非病原性株などの非病原性細菌株である。
【0107】
抗炎症性化合物は、腸管における炎症プロセスを抑止することが可能なタンパク質配列
であってよい。例示的なタンパク質配列としては、ペプチドのトレフォイルファクターフ
ァミリー(TFF)が挙げられ、これは、TFFが哺乳動物の腸管における内在性シグナ
ル伝達分子であり、診療所におけるIBDおよびクローン病の処置における有効性が実証
されており、それらの可溶性の形態がこれらの適応症に対する生物学的製剤として開発中
であることが理由である。
【0108】
一態様によると、抗炎症性化合物、タンパク質またはポリペプチドは、操作されたcu
rliファイバに付着したまま、その効果を発揮し得る。一態様によると、抗炎症性化合
物、タンパク質またはポリペプチドは、プロテアーゼによってcurliファイバから切
断された後に可溶性タンパク質または化合物としてその効果を発揮し得る。MMPファミ
リーのいくつかのプロテアーゼ(MMP2、MMP9など)は、炎症中に上方制御され、
抗炎症性化合物、タンパク質またはポリペプチドをリンカードメインから切断するために
使用することができる。
【0109】
一態様によると、生理活性のあるタンパク質およびペプチドを、炎症を起こした腸管に
局所的に送達するための方法が提供される。一態様によると、生理活性のあるタンパク質
およびペプチドを、特定の炎症のキューに応答して、炎症を起こした腸管に局所的に送達
するための方法が提供される。
【0110】
抗炎症性化合物、タンパク質またはポリペプチドは、TTFドメインに関して下に記載
されている例示的な方法によって同定することができる。2D培養物中で成長させたCa
co-2腸上皮細胞を、TFFドメインをディスプレイする精製されたcurliファイ
バを用いて処理する。TFFは細胞遊走を促進することが公知であるので、細胞遊走のス
ピードなどの、TFF生理活性を示すバイオマーカーをモニタリングする。wt-Csg
A(陰性対照)、CsgA-TFF、または可溶性TFF(陽性対照)のいずれかで構成
されるアセンブルしたcurliファイバについて遊走スピードを比較する。遊走スピー
ドは、集密的な単層における創傷治癒アッセイを使用して測定する。TFFが活性であれ
ば、遊走スピードが増大し、可溶性TFFに匹敵する。
【0111】
別の方法によると、3つの細胞集団におけるCOX-2発現のレベルをウエスタンブロ
ットによって比較する。陰性対照を上回る発現により、curliと結合したTFFの生
理活性が確認される。
【0112】
別の方法によると、より生理的に関連するモデル系を使用してcurliと結合したT
FFの生理活性を測定するために、Gut-on-a-Chip系を使用する。上皮層、
内皮層、および循環免疫細胞を含有するチップに炎症性薬剤(例えば、LPS)を添加す
ることにより、慢性炎症をシミュレートする。Kimら、LabChip、12巻、2165頁(2
012年)およびKimら、Integrative biology:quantitative Biosciences from na
no to Macro、5巻、1130頁(2013年)を参照されたい。次いで、curli
と結合したTFFを用いた処理に応答した、重要な炎症マーカー(NF-κB、IL-1
β、IL-8、COX-2、EGFR活性化など)の発現をモニタリングする。
【0113】
別の方法によると、小腸炎の確立されたマウスモデル(DSS、IL-10ノックアウ
トなど)を使用して、curliと結合したTFFの抗炎症効果を試験する。炎症反応の
抑止を組織学的検査によって定性的に測定し、重要な炎症性サイトカインのqPCRを用
いて定量的に測定する。
【0114】
(実施例VII)
腸管のがんの処置
本開示の態様は、胃腸管のがんなどのがんを、それを必要とする個体に本明細書に記載
されているある特定の操作された細菌株(単数または複数)を投与することによって処置
する方法を対象とする。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-がん処置用ポ
リペプチド構築物を発現させる。ある特定のがん処置用ポリペプチドとしては、例えばベ
バシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブなどの成長阻害因子を含めた、がんに対する公
知の活性を有するものが挙げられる。
【0115】
細菌株に、CsgA-リンカー-がん処置用ポリペプチド構築物を発現させ、がん処置
用ポリペプチドにより、がん組織またはがん細胞を処置する。一態様によると、細菌株に
、CsgA-リンカー-結合対ポリペプチドの第1のメンバー構築物を発現させる。細菌
株に、CsgA-リンカー-結合対ポリペプチドの第1のメンバー構築物を発現させる。
次いで、がん治療用化合物に付着した結合対の第2のメンバーを投与する。結合対の第1
のメンバーと結合対の第2のメンバーとを結合させ、それにより、がん治療用化合物を、
胃腸管のがんなどのがんの処置のために、例えば腸管に局在化させる。
【0116】
有用な細菌株としては、例えばE.coli Nissle 1917(EcN)、M
G1655、K12由来株などの非病原性E.coliが挙げられる。
【0117】
一態様によると、がん処置用タンパク質またはポリペプチドは、操作されたcurli
ファイバに付着したまま、その効果を発揮し得る。一態様によると、がん処置用タンパク
質またはポリペプチドドメインは、プロテアーゼによってcurliファイバから切断さ
れた後に可溶性タンパク質としてその効果を発揮し得る。MMPファミリーのいくつかの
プロテアーゼは、炎症中に上方制御され、がん処置用ポリペプチドをリンカードメインか
ら切断するために使用することができる。
【0118】
本開示のこの実施形態のin vitro活性およびin vivo活性のどちらも上
記の方法を使用して確認することができる。
【0119】
(実施例VIII)
診断方法
本開示の態様は、マーカーなどの診断剤を、哺乳動物内の部位に、哺乳動物に本明細書
に記載されているある特定の操作された細菌株(単数または複数)を投与することによっ
て送達する方法を対象とする。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-診断用
ポリペプチド構築物を発現させる。
【0120】
細菌株に、CsgA-リンカー-診断用ポリペプチド構築物を発現させ、診断用ポリペ
プチドを検出する。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-結合対ポリペプチ
ドの第1のメンバー構築物を発現させる。細菌株に、CsgA-リンカー-結合対ポリペ
プチドの第1のメンバー構築物を発現させる。次いで、診断用化合物に付着した結合対の
第2のメンバーを投与する。診断用化合物としては、造影剤または色素を挙げることがで
きる。結合対の第1のメンバーと結合対の第2のメンバーとを結合させ、それにより、診
断用化合物を腸管などの目的の場所に局在化させる。
【0121】
有用な細菌株としては、例えばNissle株、MG1655、K12由来株などの非
病原性E.coliが挙げられる。
【0122】
一態様によると、診断用ポリペプチドまたは診断用化合物は、操作されたcurliフ
ァイバに付着したままであってよい。一態様によると、診断用ポリペプチドまたは診断用
化合物は、プロテアーゼによってcurliファイバから切断することができる。MMP
ファミリーのいくつかのプロテアーゼは、炎症中に上方制御され、診断用ポリペプチドま
たは診断用化合物をリンカードメインから切断するために使用することができる。
【0123】
一態様によると、診断用ポリペプチドまたは診断用化合物は、プロテアーゼにより切断
可能なリンカーを使用してcurliファイバから放出させることができる。この態様に
よると、リンカードメインが、プロテアーゼ酵素によって認識および切断されるアミノ酸
配列を含む、CsgA-リンカー-診断用ポリペプチドの組換え構築物を作製する。その
ようなアミノ酸配列および関連するプロテアーゼ酵素は当業者に公知であり、それらとし
て、MMP、CD2830などが挙げられる。リンカーは、炎症の部位において局所的に
産生される酵素(MMP2、MMP9など)による切断を受けやすいように選択すること
ができる。本開示のこの実施形態のin vitro活性およびin vivo活性のど
ちらも上記の方法を使用して確認することができる。
【0124】
(実施例IX)
腸管媒介性病原体の処置
本開示の態様は、腸管媒介性病原体を、それを必要とする個体に本明細書に記載されて
いるある特定の操作された細菌株(単数または複数)を投与することによって処置する方
法を対象とする。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-抗菌性ポリペプチド
構築物を発現させる。ある特定の抗菌性ポリペプチドまたはタンパク質は、抗菌活性を有
する任意のポリペプチドまたはタンパク質配列を含む。治療的な状況において使用するた
めの抗菌性ペプチドは、当業者に公知である。Cotter, P. D.、Ross, R. P.およびHi
ll, C. Bacteriocins - a viable alternative to antibiotics? Nat Rev Mi
cro、11巻、95~105頁(2012年);Hing, T. C.ら、The antimicrobial
peptide cathelicidin modulates Clostridium difficile-associated colitis an
d toxin A-mediated enteritis in mice. Gut、62巻、1295~1305頁(
2013年);Nuding, S.、Frasch, T.、Schaller, M.、Stange, E. F.およびZabe
l, L. T. Synergistic Effects of Antimicrobial Peptides and Antibiotics
against Clostridium difficile. Antimicrobial Agents and Chemotherapy、5
8巻、5719~5725頁(2014年);Rea, M. C.ら、Thuricin CD, a post
translationally modified bacteriocin with a narrow spectrum of activity
against Clostridium difficile. Proc Natl Acad Sci USA、107巻、935
2~9357頁(2010年);Petrof, E. Probiotics and Gastrointestinal Di
sease:Clinical Evidence and Basic Science. AIAAMC、8巻、260~269頁
(2009年);Kang、J. K.ら、The Insect Peptide Coprisin Prevents Clostr
idium difficile-Mediated Acute Inflammation and Mucosal Damage through S
elective Antimicrobial Activity. Antimicrobial Agents and Chemotherapy、5
5巻、4850~4857頁(2011年);およびOstaff, M. J.、Stange, E. F.
およびWehkamp, J.、Antimicrobial peptides and gut microbiota in homeostas
is and pathology.、EMBO Mol Med、5巻、1465~1483頁(2013年)を
参照されたい。
【0125】
一態様によると、腸管媒介性病原体としては、Clostridium diffic
ile、Salmonella typhimurium、Enteropathoge
nic E.coli(腸管病原性大腸菌)、Helicobacter pylori
などが挙げられる。
【0126】
細菌株に、CsgA-リンカー-抗菌性ポリペプチド構築物を発現させ、抗菌性ポリペ
プチドにより、腸管媒介性病原体を、腸管媒介性病原体が減少するまたは排除される様式
で処置する。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-組織または細胞結合性ポ
リペプチド構築物を発現させる。細菌株に、CsgA-リンカー-組織または細胞結合性
ポリペプチド構築物を発現させ、細菌株により、腸管媒介性病原体を、腸管媒介性病原体
が減少するまたは排除される様式で処置する。一態様によると、細菌株に、CsgA-リ
ンカー-結合対ポリペプチドの第1のメンバー構築物を発現させる。細菌株に、CsgA
-リンカー-結合対ポリペプチドの第1のメンバー構築物を発現させる。次いで、抗菌性
化合物に付着した結合対の第2のメンバーを投与する。結合対の第1のメンバーと結合対
の第2のメンバーとを結合させ、それにより、抗菌性化合物を、腸管媒介性病原体が減少
するまたは排除される様式で腸管媒介性病原体を処置するために、腸管に局在化させる。
【0127】
有用な細菌株としては、例えばE.coli Nissle 1917(EcN)、M
G1655、K12由来株などの非病原性E.coliが挙げられる。
【0128】
一態様によると、抗菌性タンパク質またはポリペプチドは、操作されたcurliファ
イバに付着したまま、その効果を発揮し得る。一態様によると、抗菌性タンパク質または
ポリペプチドは、プロテアーゼによってcurliファイバから切断された後に可溶性タ
ンパク質としてその効果を発揮し得る。MMPファミリーのいくつかのプロテアーゼは、
炎症中に上方制御され、生理活性ドメインをリンカードメインから切断するために使用す
ることができる。
【0129】
一態様によると、抗菌性タンパク質またはペプチドは、プロテアーゼにより切断可能な
リンカーを使用してcurliファイバから放出させることができる。この態様によると
、リンカードメインが、プロテアーゼ酵素によって認識および切断されるアミノ酸配列を
含む、CsgA-リンカー-抗菌薬の組換え構築物を作製する。そのようなアミノ酸配列
および関連するプロテアーゼ酵素は、当業者に公知である。リンカーは、炎症の部位にお
いて局所的に産生される酵素(MMP2、MMP9など)による切断を受けやすいように
選択することができる。一態様によると、抗菌性タンパク質を、タンパク質分解性ビルレ
ンス因子CD2830による切断を受けやすいリンカーを介してcurliファイバと融
合する。一態様によると、抗菌性タンパク質は、C.difficileビルレンス因子
の存在下でのみ、腸管の内側に放出される。抗菌性タンパク質を局所的に送達して、侵入
している病原体を死滅させる。
【0130】
本開示のこの実施形態のin vitro活性およびin vivo活性のどちらも上
記の方法を使用して確認することができる。
【0131】
ツリシンCD、ナイシンおよびアクタガルジンのようなランチビオティクス、カテリシ
ジン、ならびにLL-37を含む、C.difficileに対する活性が実証されてい
る抗菌性タンパク質の例がいくつか存在する。
【0132】
1つの例示的な抗菌性タンパク質は、最近、C.difficile感染に対する処置
としての見込みが示されている、Copris tripartitus(朝鮮フンコロ
ガシ)から最初に単離されたペプチドであるコプリシンである。コプリシンは、C.di
fficileに対して高い効力を有し(MICが、バンコマイシンでは3.0μg/m
Lであるのと比較して、1.5μg/mLである)、Lactobacillusおよび
Bifidobacteriumのような一般的な腸管共生生物に対しては活性を欠く。
完全なコプリシンペプチドは43アミノ酸であるが、9アミノ酸の短縮された類似体(L
LCIALRKK)(配列番号29)がより高い抗生物質活性を示す。コプリシン由来の
配列を、感染中にC.difficileから分泌されるプロテアーゼビルレンス因子の
存在下で切断を受けやすいリンカーを通じてCsgAと融合する。Hensbergen, P. J.
ら、A novel secreted metalloprotease (CD2830) from Clostridium difficile
cleaves specific proline sequences in LPXTG (SEQ ID NO:30) cell surf
ace proteins. Molecular & Cellular Proteomics、13巻、1231~1244頁
(2014年)を参照されたい。CD2830は、C.difficileによって細胞
外空間に活発に分泌されるメタロプロテアーゼであり、上皮細胞表面に結合する接着を切
断することにより、病原体の運動性において役割を果たすと考えられている。重要なこと
に、CD2830は、プロリンリッチ配列、特にPro-Proおよびソルターゼ様LP
XTG(配列番号30)配列の切断に対して特異性を示すことが公知である。
【0133】
CsgA-リンカー-コプリシンバリアントのパネルを、ペプチド挿入断片の直接合成
(Integrated DNA Technologiesによる)とオーバーラップ
伸長PCRとの組合せを使用して構築する。この遺伝子パネルは、移出および切断に最適
な配列を同定するために、図10に示されている通り、リンカー領域の長さおよび配列を
変動させたものである。Hensbergenらにより報告された、CD2830に供し
た際の最も速い切断速度に基づいて、プロリンリッチ領域を選択した。図10は、合成お
よびスクリーニングのためのCsgA-リンカー-AMP構築物の図である。Secは、
輸送後に切断されるペリプラズム分泌タグである。N22は、外膜分泌タグである。Cs
gAは、タンパク質のアミロイド形成領域である。リンカーは、一般的な配列(GGS)
XXXX(式中、n=3、4、または5であり、XXXX=PPP、PPIP、または
PPVPである)(配列番号31)を有する。総パネルサイズは9メンバーであり、融合
したドメインは22アミノ酸から28アミノ酸までにわたる。
【0134】
これらの遺伝子を、以前報告されたプロトコールを使用して適切なプラスミドに組み入
れる。プラスミドは、抗生物質による選択のためのアンピシリン耐性遺伝子を有し、Cs
gA融合タンパク質をコードする遺伝子は、IPTG誘導性プロモーターの制御下におく
【0135】
遺伝子構築物を作製し、EcNに導入し、リンカー-AMPドメインをディスプレイす
るcurliファイバを合成し、分泌し、アセンブルさせるEcNの能力を試験する。C
sgA-リンカー-AMP構築物をコードするプラスミドを、csgA遺伝子のゲノムコ
ピーを欠失させ、抗生物質による選択マーカーで置き換えたEcNの突然変異体(EcN
-ΔcsgA)に形質転換する。この突然変異体は、それ自体のcurliファイバを産
生することができず、したがって、プラスミドによる形質転換後に得られるcurliに
関連するシグナルはいずれも、操作されたcurli構築物から生じるものである。コン
ゴーレッド染色を使用して、操作されたE.coliバリアントにおけるcurli産生
について迅速にスクリーニングする。さらに、curli産生を、誘導されたEcN-Δ
csgA形質転換体を膜で濾過し、抗CsgA抗体を用いて直接プローブする全細胞EL
ISAアッセイを使用してアッセイする。SEMを使用して形質転換体を特徴付けて、改
変されたcurliファイバの形態が野生型ファイバと定性的に同様であることを確認す
る。リンカー-AMPドメインが分泌およびアセンブルプロセスの間、インタクトなまま
であり、分解されていないことを確認するために、確立された精製プロトコールを使用し
て純粋なcurliファイバを得、それを脱アセンブルさせ、MALDI-質量分析に供
す。最小培地における種々の形質転換体およびEcN-ΔcsgAの成長速度の比較を、
適応度に対する代用物として使用する。
【0136】
一態様によると、生理活性のあるペプチドは、プロテアーゼに応答して切断され、cu
rliファイバから放出する。適切なプロテアーゼは、プロテアーゼCD2830により
例示される以下の方法を使用して同定することができる。CD2830プロテアーゼは、
C.difficileによって活発に分泌され、病原体によって産生される宿主タンパ
ク質結合性接着を切断し、それにより、運動性の表現型を促進することによってビルレン
ス因子としての機能を果たすとされている。CD2830は、プロリンリッチ配列を切断
する。したがって、リンカードメインは、1つまたは複数のプロリンを含む。
【0137】
CD2830をE.coliにおいて組換えにより発現させ、精製する。バイオフィル
ムを種々の条件に供するため、およびバイオフィルムからの可溶性実体の捕捉または放出
をモニタリングするために、96ウェルフィルタープレートアッセイを使用する。操作さ
れたEcNバリアントのパネルを浮遊培養物中で成長させ、誘導し、次いで、それらの関
連するcurliファイバを用いてフィルタープレート上に固定化する。バイオフィルム
を洗浄して全ての可溶性または弱く結合した生体分子を除去する。バイオフィルムを種々
の濃度の組換えCD2830で処理する。様々な時点でAMPの放出をモニタリングして
、アセンブルしたcurliファイバからの切断の速度論的パラメータを決定する。AM
P放出を、プロテアーゼ処理後に採集した画分のLC-MS分析によってモニタリングす
る。生きたC.difficile株(ATCC43255)を用い、濾過したバイオフ
ィルムを嫌気性チャンバーの内部の病原体を曝露することによって同様の放出試験を実施
する。
【0138】
改変されたcurliファイバの2つの異なるアッセイ-従来の最小発育阻止濃度(M
IC)アッセイを模倣する一方のアッセイ、およびC.difficile細胞の細胞傷
害性を、改変されたcurliファイバの存在下で培養した後にモニタリングする他方の
アッセイによる、コプリシンなどの抗菌性タンパク質の抗菌活性。第1のアッセイでは、
組換えCD2830に応答して活性なAMPを放出するそれらの能力について選択された
EcNバリアントをYESCA培地において誘導して、改変されたcurliファイバを
形成させる。誘導された細胞培養物をOD600=1まで成長させ、次いで、熱処理して
EcN細胞を死滅させた後、嫌気性チャンバーに移す。C.difficile培養物を
、嫌気条件下で一晩、定常期まで成長させることによって調製する。次いで、それらを、
種々の濃度の、AMPをディスプレイするcurliファイバと一緒に様々な時間にわた
ってインキュベートする。最後に、生存可能なC.difficile細胞を、適切な成
長培地を有する寒天プレート上に段階希釈物をプレーティングし、コロニー形成単位(C
FU)を計数することによって計数する。第2のアッセイでは、操作されたEcNバリア
ントの、ヒト上皮細胞層を増殖性C.difficileによる浸潤から保護する能力を
試験する。公開されたプロトコールを使用して、結腸直腸がん由来のCaco-2細胞株
(ATCC HTB37)を96ウェルプレートにおいて集密度まで成長させる。Wagner
, R. D.、Johnson, S. J.およびCerniglia, C. E.、In Vitro Model of Colon
ization Resistance by the Enteric Microbiota: Effects of Antimicrobial
Agents Used in Food-Producing Animals.、Antimicrobial Agents and Chemothe
rapy、52巻、1230~1237頁(2008年);Banerjee, P.、Merkel, G. J.
およびBhunia, A. K.、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus B-30892 ca
n inhibit cytotoxic effects and adhesion of pathogenic Clostridium diff
icile to Caco-2 cells. Gut Pathog、1巻、8頁(2009年)を参照されたい。
次いで、細胞株を、操作されたEcNバリアントと一緒に3時間インキュベートした後、
細胞培養培地で洗浄して接着していない細胞を除去する。細胞単層を好気条件下で増殖性
C.difficile細胞に曝露し、3時間共インキュベートする。LIVE/DEA
D蛍光染色アッセイと細胞計数の画像に基づく検出とを組み合わせて細胞傷害性をモニタ
リングする。
【0139】
変更されたCsgA遺伝子をEcNのゲノムに組み入れる。lambda Red組換
え技法を使用することによってcsgA遺伝子が抗生物質による選択マーカーで置き換え
られ、csgA遺伝子座に特異的な相同性ドメインに挟まれた所望の選択マーカーを含有
する二本鎖DNA挿入断片が、lambda Red組換え因子と一緒に細菌細胞に導入
された、EcNの突然変異体を生成する。Datsenko, K. A.およびWanner, B. L. On
e-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using
PCR products.、Proc Natl Acad Sci USA、97巻、6640~6645頁(20
00年)を参照されたい。ゲノムが編集されたクローンを、抗生物質選択的プレート上で
プレーティングすることにより選択し、正確な挿入の存在をPCRおよび配列決定によっ
て確認する。結果得られる、EcN-ΔcsgAと称される株は、curliファイバを
産生しない。同様のLambda Red組換え戦略を使用して、野生型EcNのcsg
A遺伝子をCsgA-リンカー-AMPバリアントをコードする遺伝子で置き換える。遺
伝子挿入カセットは、キメラ配列、および首尾よく編集されたクローンを選択するための
抗生物質耐性マーカーの両方を含有する。耐性遺伝子は、軽度の熱によって処理した際に
自己切除可能なフリッパーゼ認識標的(FRT)ドメインに挟まれている。そのような方
法により、csgAバリアントの「傷跡のない」挿入がもたらされる。
【0140】
首尾よく編集されたクローンを、様々な特徴付けプロトコールに供して、それらのクロ
ーンがcurliファイバを産生することを確実にする。全細胞ELISAを使用して、
ファイバ内にアセンブルしたCsgAが存在することを確認する。SEMを使用して、操
作されたファイバの全体の形態が野生型curliファイバの形態と類似していることを
確認する。精製されたcurliファイバのMALDI-MS分析を使用して、リンカー
およびAMPドメインが分泌およびアセンブルプロセスの間に分解されないことを確認す
る。最後に、野生型EcN、EcN-ΔcsgA、およびCsgA-リンカー-AMP構
築物のそれぞれについて浮遊培養物中での成長速度をモニタリングする。
【0141】
健康なマウス腸管におけるEcNゲノム突然変異体の生存能力を試験する。操作された
EcN突然変異体は、マウス腸管において、宿主を害することなく生存し、一過性に定着
する。ゲノムが変更されたEcN突然変異体を健康なマウスに約108のCFU値で与え
る。接種を1回行い、マウスに通常の食餌を10日間与える。マウス腸管における操作さ
れたEcNバリアントの滞留時間を、糞便試料を毎日採集し、Macconkey寒天プ
レート上で適切な抗生物質による選択を用いて生存可能なコロニーを計数することによっ
てモニタリングする。細菌感染の症状がないことを確認するために、マウスを観察し、体
重を毎日測定する。実験終了時に、EcN細胞の空間的分布を決定するために、マウスを
屠殺し、その器官を採取する。胃腸管の上部切片、下部切片、および中央切片の切片作製
を行い、ホモジナイズした後、選択プレート上の段階希釈によってCFUを計数する。浸
潤性の表現型を確認するために、同様のプロトコールを肝臓および脾臓に適用する。
【0142】
C.difficile感染後の腸管炎症に対する操作されたEcNバリアントの治療
効果を、Kangらによって開発された、他の利用可能なモデルと比較してヒト疾患応答
によりよく似ている、抗生物質により誘導されるC.difficile関連疾患(CD
AD)のマウスモデルを使用してモニタリングする。同様の試験群内のマウスを一緒に収
容し、抗生物質(適切な投与量のゲンタマイシン、メトロニダキソール、バンコマイシン
(vancmycin)、およびコリスチン)のカクテルを含有する水を用いて前処置する。対照
マウスには、クリンダマイシン(10mg/kg)を腹腔内に単回投与し、実験マウスに
は、腹腔内へのクリンダマイシンに加えて、10CFUの操作されたEcNバリアント
を経口強制飼養によって与える。1日後、全てのマウスに、C.difficile株V
PI 10463(5×10CFU/ml)の懸濁液0.5mlを経口強制飼養するこ
とによって感染させる。対照マウスには、さらに飲料水を単独で与え、実験マウスには、
さらにEcNバリアントを6日間経口投与し、体重減少および生存についてモニタリング
する。糞便試料を毎日採集し、組織を10日目に採集し、EcNの局在化をCFU計数お
よび免疫組織化学的検査によって測定する。
【0143】
(実施例X)
有害な薬剤、毒素または代謝産物の選択的捕捉
本開示の態様は、有害な薬剤、毒素または代謝産物などの捕捉標的を、それを必要とす
る個体に本明細書に記載されているある特定の操作された細菌株(単数または複数)を投
与することによって捕捉する方法を対象とする。一態様によると、細菌株に、CsgA-
リンカー-捕捉剤ポリペプチド構築物を発現させる。ある特定の捕捉剤および関連する捕
捉標的としては、コレステロールおよびコレステロール結合性ペプチド、リン酸およびリ
ン酸結合性ペプチド、グリアジンおよびグリアジン結合性ペプチドなど、ならびに文献検
索によって容易に同定されるものが挙げられる。代表例を以下の表5に示す。
【表5-1】

【表5-2】
【0144】
細菌株に、CsgA-リンカー-捕捉剤ポリペプチド構築物および捕捉標的に結合する
捕捉剤を発現させる。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-結合対ポリペプ
チドの第1のメンバー構築物を発現させる。次いで、捕捉剤に付着した結合対の第2のメ
ンバーを投与する。結合対の第1のメンバーと結合対の第2のメンバーとを結合させ、そ
れにより、捕捉剤を細菌細胞に局在化させる。
【0145】
有用な細菌株としては、例えばNissle株、MG1655、K12由来株などの非
病原性E.coliが挙げられる。
【0146】
一態様によると、捕捉剤タンパク質またはポリペプチドは、操作されたcurliファ
イバに付着したまま、その効果を発揮し得る。一態様によると、捕捉剤タンパク質または
ポリペプチドは、プロテアーゼによってcurliファイバから切断された後に可溶性タ
ンパク質としてその効果を発揮し得る。MMPファミリーのいくつかのプロテアーゼは、
炎症中に上方制御される、または上方制御されなくても胃腸管内で利用可能であり、生理
活性ドメインをリンカードメインから切断するために使用することができる。
【0147】
一態様によると、捕捉剤タンパク質またはペプチドは、プロテアーゼにより切断可能な
リンカーを使用してcurliファイバから放出させることができる。この態様によると
、リンカードメインが、プロテアーゼ酵素によって認識および切断されるアミノ酸配列を
含む、CsgA-リンカー-捕捉剤の組換え構築物を作製する。そのようなアミノ酸配列
および関連するプロテアーゼ酵素は、当業者に公知である。リンカーは、炎症の部位にお
いて局所的に産生される酵素(MMP2、MMP9など)による切断を受けやすいように
選択することができる。本開示のこの実施形態のin vitro活性およびin vi
vo活性のどちらも上記の方法を使用して確認することができる。
【0148】
(実施例XI)
生診断薬としての操作された細菌
本開示の態様は、マーカーなどの診断剤を、哺乳動物内の部位に、哺乳動物に本明細書
に記載されているある特定の操作された細菌株(単数または複数)を投与することによっ
て送達する方法を対象とする。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-診断用
ポリペプチド構築物を発現させる。
【0149】
細菌株に、CsgA-リンカー-診断用ポリペプチド構築物を発現させ、診断用ポリペ
プチドを検出する。一態様によると、細菌株に、CsgA-リンカー-結合対ポリペプチ
ドの第1のメンバー構築物を発現させる。細菌株に、CsgA-リンカー-結合対ポリペ
プチドの第1のメンバー構築物を発現させる。次いで、診断用化合物に付着した結合対の
第2のメンバーを投与する。結合対の第1のメンバーと結合対の第2のメンバーとを結合
させ、それにより、診断用化合物を腸管などの目的の場所に局在化させる。
【0150】
有用な細菌株としては、例えばNissle株、MG1655、K12由来株などの非
病原性E.coliが挙げられる。
【0151】
一態様によると、診断用ポリペプチドまたは診断用化合物は、操作されたcurliフ
ァイバに付着したままであってよい。一態様によると、診断用ポリペプチドまたは診断用
化合物は、プロテアーゼによってcurliファイバから切断することができる。MMP
ファミリーのいくつかのプロテアーゼは、炎症中に上方制御され、診断用ポリペプチドま
たは診断用化合物をリンカードメインから切断するために使用することができる。
【0152】
一態様によると、診断用ポリペプチドまたは診断用化合物は、プロテアーゼにより切断
可能なリンカーを使用してcurliファイバから放出させることができる。この態様に
よると、リンカードメインが、プロテアーゼ酵素によって認識および切断されるアミノ酸
配列を含む、CsgA-リンカー-診断用ポリペプチドの組換え構築物を作製する。その
ようなアミノ酸配列および関連するプロテアーゼ酵素は、当業者に公知である。リンカー
は、炎症の部位において局所的に産生される酵素(MMP2、MMP9など)による切断
を受けやすいように選択することができる。本開示のこの実施形態のin vitro活
性およびin vivo活性のどちらも上記の方法を使用して確認することができる。
【0153】
(実施例XII)
追加的な適用
本開示の態様では、生体触媒として、CsgAタンパク質とネイティブでない機能性ポ
リペプチドとがリンカーによって連結した融合物を発現する、改変された細胞を利用する
。この態様によると、本明細書に記載のcurliに由来する材料およびバイオフィルム
を、工業への適用(水の精製、バイオ燃料の生成など)および医薬への適用(薬物中間体
の合成)において化学的変換を実施するために使用する酵素などの酵素の固定化のための
機能化可能な表面として使用するための方法が提供される。CsgA-リンカー-固定化
酵素は、本明細書に記載のリンカーを含む。
【0154】
追加的な態様によると、金属を除去または回収するための方法が提供される。この態様
によると、本明細書に記載のcurliに由来する材料およびバイオフィルムを、金属の
固定化のための機能化可能な表面として使用するための方法が提供される。CsgA-リ
ンカー-金属結合性ポリペプチドまたは薬剤は、本明細書に記載のリンカーを含む。金属
結合性ポリペプチドまたは薬剤は、イオン形態および金属形態の特定の金属に結合し得る
【0155】
追加的な態様によると、アフィニティー精製マトリックスをもたらすことによるものな
どの、バイオレメディエーションのため、および精製のための方法が提供される。
【0156】
本明細書に記載のcurli系は、別の化学的または生物学的実体を特異的に固定する
ように、または特異的な結合性を示すようにプログラミングすることが可能な、生物学的
に産生されるペプチド-機能化表面コーティングである。ディスプレイされたペプチドは
、他の外因的に付加された機能性成分、例えば、無機ナノ粒子(特に興味深い光電子性も
しくは磁気応答性を有するもの)、炭素に基づくナノ構造(すなわち、伝導率を付与し得
るグラフェンもしくはナノチューブ)、または環境毒素(すなわち、ホルモンもしくは毒
性金属)への結合性などの内因的性質を有し得る。操作されたバイオフィルムは、無機材
料または有機材料の形成の鋳型となるペプチドをディスプレイするために使用することも
できる、異なる材料に特異的に結合するペプチドを用いてバイオフィルムを機能化するこ
とにより、これらの材料を遺伝的にプログラム可能な様式で表面コーティングすることが
可能になる。さらに、生バイオフィルムを使用して任意のタンパク質を固定し、提示する
適用は、生体触媒、バイオテンプレーティング、またはバイオセンシング適用に有用であ
り得るので、特に企図されている。一態様によると、本明細書に記載の材料の合成および
アセンブルは、プログラミングされたナノ材料を産生するための工場として機能する細菌
細胞によって完全に実現される。
【0157】
追加的な特定の適用として、ペプチド/固定化されたタンパク質自体から、または鋳型
化された材料を誘導することによって、プログラム可能な、光学的性質、磁気抵抗性また
は半導体の性質を有する生物学的に産生されたナノ材料が挙げられる。触媒ペプチドまた
は酵素をcurliバイオフィルム上にディスプレイすることにより、種々の固定化基質
をバイオフィルムの接着に使用することができ、任意のバイオリアクターデザインにおい
て使用することができる高効率の固定化された生体触媒の系がもたらされる。ペプチド/
固定化されたタンパク質は、バイオフィルムが組織足場またはワクチン送達材料としての
機能を果たすことを可能にする生物学的に活性な生体分子もコードし得る。合成ホルモン
、小分子、または毒性金属などの環境毒素に結合するまたはそれを酵素的に中和するペプ
チド/固定化されたタンパク質の発現を、バイオレメディエーションのための、バイオフ
ィルムに基づく技術として使用する。本明細書に記載のバイオフィルム上の金、銀、白金
、およびロジウムなどの貴金属に特異的に結合し得るペプチドを発現させることにより、
そのような貴重な材料を有益に回収するための活性表面積がもたらされる。curliナ
ノファイバーは、本質的に伝導性のペプチド/タンパク質をディスプレイすることによっ
て、または伝導性の材料を鋳型化/固着することによって、多数の進歩した材料の適用の
ための伝導性ナノワイヤーとして工学的に作製することができる。FePOなどの伝導
性または半伝導性材料を鋳型化することが可能なペプチドのcurliバイオフィルム上
での発現に基づいてエネルギー貯蔵のためのナノワイヤーを生成するための細菌の使用が
提供される。細菌は、具体的に、ディスプレイされたペプチドにより、スチール、ガラス
、または金などの特定の基質に強力に結合するように操作することができる。そのような
材料に特異的な結合により、バイオフィルムに基づくバイオセンシング器具をもたらすこ
とができる。curliナノファイバーマトリックスはまた、別の材料の機械的特性を増
強するまたは変化させるために、他の分子と相互作用するペプチド/タンパク質をディス
プレイするように操作することもできる。curliを、特定の材料に接着するように操
作することにより、バイオフィルムは、多種多様な固定化基質上の生体触媒などの適応性
および再生利益、材料への腐食抵抗性、微生物燃料電池への適用のための、バイオフィル
ムによる被覆度の増強をもたらすことが可能な生コーティングとしての機能を果たし得る
、または環境応答性の有機(バイオフィルム)-無機の(基質)材料としての機能を果た
し得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
【配列表】
0007156726000001.app