(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】滑り軸受とその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/10 20060101AFI20221012BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F16C33/10 Z
F16C17/02 Z
F16C33/10 D
(21)【出願番号】P 2022072865
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2022-05-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396024129
【氏名又は名称】翁 登茂二
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】翁 登茂二
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特許第6723623(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/202911(WO,A1)
【文献】特開2016-077939(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044671(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材を支承する
金属材料又は樹脂材料の円筒状の軸受本体から成る滑り軸受であって、前記軸受本体の表面には複数の円弧状の有底の窪みが形成され、
前記窪みは、周縁の形状が矩形に形成され、前記中心軸方向と平行な中心線を有する前記円弧状の底面を有して形成され、
前記窪みは、所定のピッチで前記軸受け本体の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に配列され、前記窪みに軸受用潤滑剤が充填され、
前記軸受本体の前記中心軸方向であって、前記力が作用する下流側に、前記軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部を備え、
前記軸部材と前記軸受本体との相対的な回転により、前記軸受用潤滑剤を回転方向に広げるとともに、前記軸受本体の前記中心軸方向の力が、前記傾斜により前記軸受用潤滑剤に作用し、前記軸受用潤滑剤を前記中心軸方向に広げることを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
軸部材を支承する円筒状の支持スリーブを備えた滑り軸受であって、前記軸部材の表面には複数の円弧状の有底の窪みが形成され、
前記窪みは、周縁の形状が矩形に形成され、前記中心軸方向と平行な中心線を有する前記円弧状の底面を有して形成され、
前記窪みは、所定のピッチで前記軸部材の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に配列され、前記窪みに軸受用潤滑剤が充填され、
前記軸部材の前記中心軸方向であって、前記力が作用する下流側に、前記軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部を備え、
前記軸部材と前記支持スリーブとの相対的な回転により、前記軸受用潤滑剤を回転方向に広げるとともに、前記軸部材の前記中心軸方向の力が、前記傾斜により前記軸受用潤滑剤に作用し、前記軸受用潤滑剤を前記中心軸方向に広げることを特徴とする滑り軸受。
【請求項3】
前記軸受用潤滑剤は、軸受用潤滑油であり、前記軸受本体又は前記軸部材の前記中心軸方向であって、前記力が作用する上流側に、前記軸受用潤滑油を補給する潤滑剤補給部を備える請求項1又は2記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記窪みに充填された前記軸受用潤滑剤は、軸受用固体潤滑剤である請求項1又は2記載の滑り軸受。
【請求項5】
複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミルをその中心軸回りに回転させ、金属材料又は樹脂材料からなる円筒状の軸受本体の表面に、前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃を当てるとともに、前記凹凸刃状エンドミルを前記軸受本体の表面で相対的に連続的に移動させ、
前記外周刃の回転により、前記軸受本体の表面に、前記外周刃の個々の凸部に対応した窪みを形成し、各々の前記窪みは、前記軸受本体の表面の1回の切削で一つの前記窪みを形成し、
前記外周刃の回転により、前記軸受本体の表面に、所定のピッチで前記軸受け本体の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に複数の前記窪みを形成し、
前記窪みは、周縁の形状が矩形に形成され、前記中心軸方向と平行な中心線を有する前記円弧状の底面を有して形成し、
前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃に形成された凹部は、前記凹凸刃状エンドミルの周面に多条ネジ状に形成され、
前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃により切削される前記窪みは、前記軸受本体の環状の表面の全周長と、前記凹凸刃状エンドミルの回転数と、前記軸受本体と前記外周刃の相対速度から、前記窪みの位置を計算して設定し、前記窪みが前記軸受本体の環状の表面の切削開始位置と切削終了位置とで不連続とはならず連続するように形成し、
前記軸受本体の前記中心軸方向であって、前記力が作用する下流側に、前記窪みを形成しないことにより、前記軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部を形成し、
前記窪みに軸受用潤滑剤を充填することを特徴とする滑り軸受の製造方法。
【請求項6】
複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミルをその中心軸回りに回転させ、軸部材の表面に前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃を当てるとともに、前記凹凸刃状エンドミルを前記軸部材の表面で相対的に連続的に移動させ、
前記外周刃の回転により、前記軸部材の表面に、前記外周刃の個々の凸部に対応した窪みを形成し、各々の前記窪みは、前記軸部材の表面の1回の切削で一つの前記窪みを形成し、
前記外周刃の回転により、前記軸部材の表面に、所定のピッチで前記軸部材の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に複数の前記窪みを形成し、
前記窪みは、周縁の形状が矩形に形成され、前記中心軸方向と平行な中心線を有する前記円弧状の底面を有して形成し、
前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃に形成された凹部は、前記凹凸刃状エンドミルの周面に多条ネジ状に形成され、
前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃により切削される前記窪みは、前記軸部材の環状の表面の全周長と、前記凹凸刃状エンドミルの回転数と、前記軸部材と前記外周刃の相対速度から、前記窪みの位置を計算して設定し、前記窪みが前記軸部材の環状の表面の切削開始位置と切削終了位置とで不連続とはならず連続するように形成し、
前記軸部材の前記中心軸方向であって、前記力が作用する下流側に、前記窪みを形成しないことにより、前記軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部を形成し、
前記窪みに軸受用潤滑剤を充填
して、前記窪みの形成箇所に円筒状の支持スリーブを嵌合することを特徴とする滑り軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転軸に対して面接触する摺動面により軸部材を支持する滑り軸受とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力部を備えた機械装置の回転部分には、軸部材である回転軸を支持する軸受が用いられ、近年装置の大小にかかわらず、軸受の軽量化や回転抵抗の低減による可動部分でのエネルギー損失の低減が求められている。
【0003】
一般に軸受には転がり軸受と滑り軸受があり、転がり軸受は回転抵抗が小さいが構造が比較的複雑であり、金属球や金属ローラーを用いるため重量も重くなりやすいものである。一方、滑り軸受は、構造がシンプルであり軽量化も容易であり、転がり軸受と比較して摺接部分の単位面積当たりの荷重は小さいが、回転部分との接触面積が大きく、回転抵抗が大きくなりやすいので、大負荷低速回転の装置に用いられる傾向がある。
【0004】
その他、転がり軸受は、潤滑油をボールやローラーの受圧付近に保持するが、受圧部分の圧力が大きいので潤滑効果が出にくく、受圧部分の面積が小さいので冷却効果も低い。これに対して、滑り軸受は、受圧面積が大きいので、潤滑経路を十分に確保できれば、摺動部分の面積が大きいことによる効果的な放熱が可能であり、冷却効果も大きい。
【0005】
滑り軸受としては、従来、特許文献1,2に開示されているように、回転軸を支承する円筒部を備え、前記円筒部に複数の貫通穴が設けられ、前記貫通穴に潤滑油と高分子材料とを含む固形潤滑剤が充填されている滑り軸受がある。特に、特許文献1は、前記円筒部の内径面又は外径面に前記貫通穴に連通する1本以上の溝が設けられ、潤滑剤が良好に広がるようにしたものである。また、特許文献2は、複数種類の固体潤滑剤を用いて、粘度の異なる潤滑油により潤滑性能を向上させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-269455号公報
【文献】特開2017-101808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に開示された滑り軸受は、円筒状の軸受本体に貫通孔を有し、この貫通孔に固体潤滑剤を充填しているものであるが、貫通孔に充填された潤滑剤のうち、潤滑に寄与する部分は、回転軸との間で滑りが生じている部分のみであり、貫通孔内の固体潤滑剤が、摺動面に効果的に広がるものではない。さらに、回転軸表面に接した固体潤滑剤が消耗しても、貫通孔内の固体潤滑剤が摺動面に効果的に広がることができない。特許文献1、2に開示された滑り軸受は、貫通孔に潤滑剤を充填するために、軸受本体の厚みがある程度必要であり、厚みを薄くすると固体潤滑剤が外側に漏れないように外筒を嵌合する必要もあり、滑り軸受の構造が複雑化し重量が重くなると言う問題もある。従って、回転抵抗の低減と重量の軽量化という問題を、効果的に解決可能な構造ではない。
【0008】
さらに、滑り軸受の場合、摺動抵抗の低減のために摺動面に満遍なく固体潤滑剤や潤滑油が行き渡る必要があり、上記特許文献1,2の構成では、摺動面を効果的に均一に潤滑することができないものである。
【0009】
以上より、滑り軸受は構造が簡単であり軽量化に適しているが、未だこの種の滑り軸受を利用可能な駆動装置等は種類が限られている。特に、自動車やドローン等の移動する機械装置の軽量化が求められており、軸受装置の軽量化のニーズは大きい。従って、軸受の軽量化と回転抵抗の低減は、駆動効率やエネルギー効率の向上には欠かせない。
【0010】
この発明は、上記従来技術に鑑みて成されたもので、軽量で効率的な潤滑が可能であり摺動抵抗が小さく、製造も容易な滑り軸受とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、軸部材を支承する円筒状の軸受本体から成る滑り軸受であって、前記軸受本体の表面には複数の円弧状の有底の窪みが形成され、前記窪みは、所定のピッチで前記軸受け本体の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に配列され、前記窪みに軸受用潤滑剤が充填され、前記軸部材と前記軸受本体との相対的な回転により、前記軸受用潤滑剤を回転方向に広げるとともに、前記軸受本体の前記中心軸方向の力が、前記傾斜により前記軸受用潤滑剤に作用し、前記軸受用潤滑剤を前記中心軸方向に広げる滑り軸受である。
【0012】
またこの発明は、軸部材を支承する円筒状の支持スリーブを備えた滑り軸受であって、前記軸部材の表面には複数の円弧状の有底の窪みが形成され、前記窪みは、所定のピッチで前記軸部材の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に配列され、前記窪みに軸受用潤滑剤が充填され、前記軸部材と前記支持スリーブとの相対的な回転により、前記軸受用潤滑剤を回転方向に広げるとともに、前記軸部材の前記中心軸方向の力が、前記傾斜により前記軸受用潤滑剤に作用し、前記軸受用潤滑剤を前記中心軸方向に広げる滑り軸受である。
【0013】
前記窪みは、周縁の形状が矩形に形成され、前記中心軸方向と平行な中心線を有する前記円弧状の底面を有して形成されている。前記窪みに充填された前記軸受用潤滑剤は、軸受用潤滑油である。
【0014】
前記軸受本体又は前記軸部材の前記中心軸方向であって、前記力が作用する上流側に、前記軸受用潤滑油を補給する潤滑剤補給部を備えている。前記軸受本体又は前記軸部材の前記中心軸方向であって、前記力が作用する下流側に、前記軸受用潤滑油の流出を止めるシーリング部を備えている。前記窪みに充填された前記軸受用潤滑剤は、軸受用固体潤滑剤でもよい。又は、前記軸受本体又は前記軸部材の前記中心軸方向であって、前記力が作用する下流側に、流動化した前記軸受用固体潤滑剤の流出を止めるシーリング部を備えていても良い。
【0015】
またこの発明は、複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミルをその中心軸回りに回転させ、金属材料又は樹脂材料からなる円筒状の軸受本体の表面に、前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃を当てるとともに、前記凹凸刃状エンドミルを前記軸受本体の表面で相対的に連続的に移動させ、前記外周刃の回転により、前記軸受本体の表面に、前記外周刃の個々の凸部に対応した窪みを形成し、各々の前記窪みは、前記軸受本体の表面の1回の切削で一つの前記窪みを形成し、前記外周刃の回転により、前記軸受本体の表面に、所定のピッチで前記軸受け本体の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に複数の前記窪みを形成し、前記窪みに軸受用潤滑剤を充填する滑り軸受の製造方法である。
【0016】
またこの発明は、複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミルをその中心軸回りに回転させ、軸部材の表面に前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃を当てるとともに、前記凹凸刃状エンドミルを前記軸部材の表面で相対的に連続的に移動させ、前記外周刃の回転により、前記軸部材の表面に、前記外周刃の個々の凸部に対応した窪みを形成し、各々の前記窪みは、前記軸部材の表面の1回の切削で一つの前記窪みを形成し、
前記外周刃の回転により、前記軸部材の表面に、所定のピッチで前記軸部材の中心軸方向に対して非対称に傾斜して螺旋状に複数の前記窪みを形成し、前記窪みに軸受用潤滑剤を充填する滑り軸受の製造方法である。
【0017】
前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃に形成された凹部は、前記凹凸刃状エンドミルの周面に多条ネジ状に形成され、前記凹凸刃状エンドミルを用いて前記軸受本体又は前記軸部材の表面に前記窪みを形成する滑り軸受の製造方法である。
【0018】
さらに、前記凹凸刃状エンドミルの前記外周刃により切削される前記窪みは、前記軸受本体又は前記軸部材の環状の表面の全周長と、前記凹凸刃状エンドミルの回転数と、前記軸受本体又は前記軸部材と前記外周刃の相対速度から、前記窪みの位置を計算して設定し、前記窪みが前記軸受本体又は前記軸部材の表面で連続するように形成するとよい。
【発明の効果】
【0019】
この発明の滑り軸受とその製造方法によれば、構造が簡単で軽量であり、構成部品が最小限の滑り軸受を形成することができる。しかも、効率的な潤滑が可能で摺動抵抗が小さく、製造も容易な滑り軸受を提供することができる。さらに、各種の動力装置の軽量化を図ることができ、省エネルギー性能も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の一実施例の金属製本体の滑り軸受の写真(a)、他の実施例の写真(b)である。
【
図2】この実施例の滑り軸受の製造方法を示す概念図である。
【
図3】この実施形態の凹凸刃状エンドミルによる窪みを、軸受本体の内周面側の表面に形成する切削加工を示す概念図(a)と、軸部材の外周面側の表面に形成する切削加工を示す概念図(b)である。
【
図4】この発明の他の実施例の樹脂製本体の滑り軸受の写真である。
【
図5】この発明のさらに他の実施例の樹脂製本体の滑り軸受の写真である。
【
図6】この発明のさらに他の実施例の樹脂製本体の滑り軸受の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の一実施形態について
図1に示す実施例を基に説明する。この実施例の滑り軸受10は、
図1(a)に示すように、軸受け本体12の内周面の表面に、浅い窪み14を規則的に形成したものである。窪み14は、軸受本体12の内周面に、軸受本体12の中心軸のZ軸方向に対して、螺旋状に傾斜した一定の角度で、複数列が等間隔で形成されている。窪み14は、Z軸方向と平行な中心線を有する円弧状の底面を有する。従って、窪み14は、所定のピッチで軸受け本体12のZ軸方向の中心軸に対して、非対称に一方向に傾斜して螺旋状に配列されている。
【0022】
さらに、窪み14は、
図1(a)に示すように、傾斜した列方向に各端部14aが互いに接していても良く、
図1(b)に示すように、窪み14が各々独立して、端部14aが互いに離れて形成されていても良い。
【0023】
窪み14には、軸受用潤滑油や軸受用固体潤滑剤の軸受用潤滑剤が充填されている。軸受用潤滑剤には、図示しない回転軸等の軸部材に装着された状態で、回転軸と軸受本体12との相対的な回転により、窪み14内の軸受用潤滑剤に対して、所定の前記傾斜の角度によるZ軸方向の分力F1が作用する。即ち、回転軸の回転により、回転方向Rの力F0が軸受用潤滑剤に作用して、軸受用潤滑剤を回転方向Rに広げるとともに、軸受本体12の中心軸方向であるZ軸方向の一方向の分力F1が、前記傾斜により軸受用潤滑剤に作用し、軸受用潤滑剤をZ軸方向に広げる。そして、窪み14の複数の列は、一方向に傾斜して複数列が形成されているので、Z軸方向の分力F1は、軸受本体12の内周面において、一方向のみに作用する。
【0024】
軸受本体12の回転中心軸方向であるZ軸方向の、分力F1が作用する上流側には、軸受用潤滑油を補給する図示しない既存の潤滑剤補給部を備えていると良い。潤滑剤補給部は、軸受本体12の端部に設けられた給油用の貫通孔や、端部から軸受本体12の内周面に連通した給油用の開口や切り欠きでも良い。潤滑剤補給部からは、軸受用潤滑油等の潤滑剤が適宜供給される。
【0025】
さらに、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側には、
図1に示すように、軸受用潤滑油等の流動する軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部16を備えている。シーリング部16は、軸受本体12の内周面の一方の端部であって、窪み14が端部全周に亘り形成されていない部分であり、潤滑油等の流出を阻止する部分として形成されている。これにより、流動する潤滑剤に作用する一方向の分力F
1により、潤滑油に所定の圧力が作用するが、容易に軸受け本体12の外部に流出しない。なお、潤滑剤に分力F
1が作用することにより、僅かながら潤滑剤の流出が生じるが、流出分の潤滑剤を上記潤滑剤補給部から適宜又は常時補給することにより、軸受本体12の摺動面には、常時軸受用潤滑剤が介在し、良好な滑りを担保することができる。
【0026】
また、
図1(a)に示す実施例のように、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側に、窪み14が連続した連続部14bが形成されていても良く、連続部14bの外側に、シーリング部16が位置すると良い。さらに、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する上流側にも、連続部14bとシーリング部16が形成されていても良い。これにより、滑り軸受10の両端部から軸受用潤滑剤が漏れるのを防止し、軸受用潤滑剤の溜まり部になる連続部14bがZ軸方向の分力F
1が作用する上流側と下流側に設けられ、効果的に滑り軸受10の潤滑が行われ、摺動摩擦抵抗を軽減し、潤滑剤の漏れも防ぐことができる。
【0027】
ここで、本願発明に利用することができる軸受用潤滑剤の例を述べる。この発明に利用可能な軸受用潤滑剤は、特に種類を問わないが、固体潤滑剤としては、PTFE、黒鉛、二硫化モリブデンなどを用いることができる。さらに、潤滑剤含有ポリマとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂の群から選定された合成樹脂に、潤滑剤として、ポリα-オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油のようなエーテル油、フタル酸エステルのようなエステル油等の何れか単独若しくは混合油の形で混合して調製した原料を、樹脂の融点以上で加熱して可塑化し、その後冷却することで固形状にしたものを用いることができる。さらに、必要に応じて潤滑剤の中に予め酸化防止剤、錆止め剤、摩耗防止剤、泡消し剤、極圧剤等の各種添加剤を加えて成形してもよい。潤滑剤含有ポリマの組成比は、全質量に対してポリオレフィン系樹脂10~50質量%、潤滑剤90~50質量%、好ましくはポリオレフィン系樹脂20~40質量%、潤滑剤80~60質量%である。
【0028】
軸受用潤滑油は、ISO粘度グレード番号32以下の低粘度の潤滑油や、ISO粘度グレード番号100以上の高粘度の潤滑油、又はその間の粘度の潤滑油を適宜選択して用いることができる。
【0029】
次に、この発明の一実施形態の滑り軸受10の製造方法について説明する。製造には、複数の切れ刃から成る外周刃を有した凹凸刃状エンドミル20を用いる。凹凸刃状エンドミル20は、
図2(a)に示すように、軸受本体12内で中心軸回りに回転し、金属材料又は樹脂材料からなる円筒状の軸受本体12の内周面の表面に、凹凸刃状エンドミル20の外周刃を当てるとともに、凹凸刃状エンドミル20を軸受本体12の表面で相対的に連続的に回転移動させる。そして、凹凸刃状エンドミル20の外周刃の切れ刃の回転の内の、軸受本体12の内周面の表面を切削する1回の回動のみで、軸受本体12の内周面の表面に部分的に、外周刃の個々の凸部に対応した複数列の窪み14を形成する。回転する凹凸刃状エンドミル20の外周刃の複数の切れ刃が切削した軸受本体12の表面には、部分的に縦横に多数の窪み14が形成される。窪み14は、上記のように一定の間隔を開けて連続してZ軸方向に対して傾斜して形成される。この後、窪み14に、軸受用潤滑剤を充填する。
【0030】
また、
図2(b)に示すように、回転軸等の軸部材22の表面に1周に亘り窪み14を形成し、その窪み14が形成された軸部材22の部分の周囲に、図示しない筒状の支持スリーブを嵌合させて、軸受構造としても良い。この場合、支持スリーブが軸受の一部となるが、滑り軸受としての構造は、軸部材22に形成された窪み14と支持スリーブの界面が軸受構造の滑り面となるので、軸部材22の窪み14と図示しない支持スリーブとにより滑り軸受が構成され、この発明の滑り軸受には、この構造も含むものである。
【0031】
次に、外周刃に回転方向の溝状の凹部が形成されたラフィングエンドミル等の凹凸刃状エンドミル20を用いて、滑り軸受10の軸受け本体12の内側表面に、窪み14を切削加工する場合について以下に具体的に説明する。
【0032】
凹凸刃状エンドミル20の外周刃は、切れ刃を残した凸部と、切れ刃を横断する溝状の凹部をそれぞれ等間隔で交互に複数備えている。外周刃のすくい面の形状は、台形又は矩形状に凸部と凹部が交互に形成されたものが好ましい。これにより、矩形の窪みが形成される。その他、凸部の角にRを付けた形状でも良い。この場合、楕円状の窪み14が形成される。
【0033】
なお、凹凸刃状エンドミル20の外周刃の凸部と凹部は、刃部の中心軸に沿って螺旋状に形成されている。1条ネジ状に凸部と凹部を、外周刃と交差する方向に形成した凹凸刃状エンドミル20と、多条ネジ状に形成された凹凸刃状エンドミル20がある。好ましくは、凹凸刃状エンドミル20の前記凹部は、凹凸刃状エンドミル20の中心軸方向に多条ネジ状に前記凹部が形成され、多条ネジ状の凹凸刃状エンドミル20を用いて軸受本体12の表面に窪み14を形成すると良い。
【0034】
次に、凹凸刃状エンドミル20を用いた滑り軸受の製造において、凹凸刃状エンドミル20の回転による1回の切削で形成される窪み14について、以下に説明する。窪み14の形成は、軸受け本体12の表面に対して一定の位置で円を描くように相対的に移動させ、凹凸刃状エンドミル20の外周刃により、軸受け本体12の内周面の表面に対して、極浅く微小な円弧状に切削を行う。この移動は、凹凸刃状エンドミル20を、軸受け本体12の表面上で相対的に回転移動させるもので、回転移動は、凹凸刃状エンドミル20と軸受け本体12のいずれか又は両方でも良く、その移動方向は正負の何れも採り得る。さらに、凹凸刃状エンドミル20の切削方向の回転も、後述するように、アップカット方向、ダウンカット方向の何れでも良い。
【0035】
この実施形態の凹凸刃状エンドミル20を用いた滑り軸受の製造方法では、エンドミルの外周刃の一つの切れ刃である凸部により、軸受け本体12の表面上での1回の回動による1回の切削で一つの窪み14を形成するものである。即ち、一つの窪み14は、切れ刃の1つの凸部の1回の切削のみで形成するもので、切れ刃の凸部が複数回切削して窪み14を形成するものではない。凹凸刃状エンドミル20を用いた場合には、軸受け本体12の表面に、凹凸刃状エンドミル20の中心軸方向の幅以内で、軸受け本体12の移動範囲に、多数の極浅い窪み14を縦横に整列して形成する。
【0036】
このときの凹凸刃状エンドミル20の外周刃の切れ刃20aにおいて、一つの切れ刃20aの凸部による切削を、
図3に基づいてさらに詳しく説明する。ここでは、簡易的に、軸受本体12の内周面を展開した状態で示し、外周刃の切れ刃20aの螺旋状の形状による、紙面と垂直方向の位置の差を無視したものとする。
【0037】
切削時の凹凸刃状エンドミル20の外周刃の外径の半径をr、回転速度を角速度でω(rad/sec)とする。一つの窪み14を形成するために、凹凸刃状エンドミル20が回動した角度をθ(rad)、軸受け本体12の表面の凹凸刃状エンドミル20の切れ刃20aに対する相対的な移動速度である相対速度をV(m/sec)、窪み14の切削開始(t0)から終了(t1)までの切削時間をt、切削時間tでの凹凸刃状エンドミル20に対する軸受け本体12の移動距離をL0、窪み14の深さをRd、窪み14の切削表面方向長さL1とすると、以下に式が成り立つ。
Rd=r(1-cos(θ/2))(1)
t=θ/ω (2)
L1=L0+S (3)
S=2r・sin(θ/2) (4)
L0=F・t (5)
【0038】
即ち、角速度ωで回転する凹凸刃状エンドミル20と、軸受本体12の表面での切れ刃20aの移動方向と逆方向を正の値とする相対速度Vで、軸受け本体12が移動する場合、深さRdの窪み14を形成する場合、長さがL1の窪み14が形成される。このときの切削をアップカットと称す。また、軸受け本体14の移動方向が、外周刃の回転方向と軸受本体12の表面で同方向の場合は、相対速度Vが負の値になり、同様に上記式が成り立つ。このときの切削をダウンカットと称す。この場合、上記式(3)より、窪み14の長さL
1は、凹凸刃状エンドミル20の円弧の
図3に示す弦の長さSよりも短いものになる。ここで、この実施形態における窪み14の深さRdは、数μm~数十μm程度のものである。また、軸受け本体12の大きさは問わないもので、任意の大きさに対応可能なものである。
【0039】
実際の加工においては、求める窪み14の深さRdを設定して、加工条件を設定するもので、窪み14の長さや面積も上記各式により予め設定することができる。また、窪み14の、凹凸刃状エンドミル20の中心軸方向の幅やピッチは、凹凸刃状エンドミル20の切れ刃20aの凸部の幅とピッチにより決定され、窪み14の配列方向も凹凸刃状エンドミル20の切れ刃20aの凸部の螺旋の捻れ角と、凹凸刃状エンドミル20の切れ刃20aと軸受け本体12との移動速度の差である相対速度Vにより決定される。
【0040】
また、この実施形態の窪み14は、計算により窪み14の繋ぎ目が不連続にならないように形成することも可能である。窪み14の位置は、軸受本体12の環状の内周面の表面の全周長La、凹凸刃状エンドミル20の回転数N、及び軸受本体12の表面と外周刃の切れ刃20aとの相対的な移動速度の差である上記相対速度Vから計算することができ、窪み14が軸受本体12の表面で連続するように形成することができる。軸受本体12の環状の表面の全周長Laと相対速度Vから、切れ刃20aが軸受本体12を1周するのに要する時間tnは、以下の式(6)の通りである。
tn=La/V (6)
切れ刃20aが軸受本体12の環状の表面の全周長Laを1周する際の凹凸刃エンドミル20の回転の回数nは、
n=N・tn (7)
このときnが整数となるように例えば相対速度Vや凹凸刃エンドミル20の回転数Nを設定すれば、螺旋状に斜めに形成された窪み14は、軸受本体12の環状の表面の切削開始位置と切削終了位置とで不連続とはならず、連続するように繋がる。
【0041】
この実施形態の滑り軸受10とその製造方法によれば、構造が簡単で軽量であり、部品点数が少なく、最小限の構成部品で軸受を形成することができる。しかも効率的な潤滑が可能であり、摺動抵抗が小さく、製造も容易な滑り軸受10を提供することができる。これにより、各種の動力装置の軽量化を図ることができ、省エネルギー性能も向上させることができる。
【0042】
なお、この発明の滑り軸受は、上記実施形態に限定されるものではなく、軸受本体の内周面の表面に窪みを形成する他、外周面の表面に窪みを形成しても良い。この場合、筒状の軸部材や支持スリーブを軸受本体に嵌合させて、軸受本体と筒状の軸部材等の間で回動による滑りが生じる動作を行うものである。また、軸受本体の外周表面に窪みを形成して、回転軸又はその他の軸部材に軸受本体を嵌合させて固定し、その外側に相対的に摺動回転する筒体である支持スリーブを嵌合させて、軸受機能を持たせても良い。
【0043】
また、軸受本体12の外周面に窪み14を形成した場合や、
図2(b)に示す軸部材22の外周面に窪み14を形成した場合も、
図3を基に説明した窪み14の形成メガニズム及び上述の理論は成立するものである。窪み14の繋ぎ目が不連続にならないように形成する場合も、上記軸受本体12の内周面の表面を、回転軸等の軸部材等の外周面の表面に置き換えて、環状の表面の全周長Laと、凹凸刃状エンドミル20の回転数Nを基に、上記の式から、窪み14が軸受本体の外周面又は軸部材の表面で連続するように形成することができる。
【実施例】
【0044】
次に、この発明の滑り軸受とその製造方法により作成した滑り軸受の実施例について、
図1、
図4~
図6を基にして以下に説明する。
【0045】
図1は、この発明の軸受け本体である金属製の滑り軸受10であり、真鍮等の銅合金の筒により試作したものである。試作においては、比較的加工しやすい金属材料を用いたが、実際の製品の滑り軸受においては、耐摩耗性等を考慮して、SUSやその他の好適な金属を選択することができる。
【0046】
この実施例においては、窪み14は回転軸の回転方向に長い楕円状に形成され、
図1(a)に示す滑り軸受10においては、傾斜した列方向に互いの端部14aが互いに接している。これにより、各窪み14間に充填された軸受用潤滑剤の流動がより容易になり、回転軸の軸表面に満遍なく接することができる。さらに、回転による分力F
1による軸受用潤滑剤の流動により、回転軸方向であるZ軸方向の流動による潤滑も満遍なく行われる。また、
図1(b)に示すように、窪み14が各々独立して形成されている場合、大荷重で回転数が少ない場合等に利用可能である。
【0047】
また、この実施例の滑り軸受10の端部には、
図1に示すように、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側には、軸受用潤滑油等の流動する軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部16を備えている。シーリング部16は、流動する潤滑剤に作用する一方向の分力F
1による潤滑剤の外部への流出を阻止する部分として形成される。なお、潤滑剤に分力F
1が作用することにより、僅かながら潤滑剤の流出が生じるが、上記実施形態の説明の通り、流出分の潤滑剤を上記潤滑剤補給部から適宜又は常時補給することにより、軸受本体12の摺動面には、常時軸受用潤滑剤が介在し、良好な滑りを担保することができる。さらに、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側には、窪み14が連続した連続部14bが形成されている。連続部14bの外側にシーリング部16が位置して、連続部14bで潤滑剤の溜まり部が形成される。
【0048】
図4~
図6は、この発明の軸受け本体である樹脂製の滑り軸受10であり、アクリル樹脂の筒により試作したものである。試作においては、透明で内周表面が見やすい材料を用いたが、実際の製品の滑り軸受においては、耐摩耗性等を考慮して、好適な樹脂材料やその他の材質を選択することができる。
【0049】
図4は、窪み14が回転軸の回転方向に長い楕円状に形成されたもので、窪み14の端部が互いに離れて形成されている。さらに、この実施例の滑り軸受10の端部にも、
図4に示すように、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側に、軸受用潤滑油等の流動する軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部16を備えている。
【0050】
図5は、窪み14が矩形に形成されたもので、窪み14の端部が互いに接続している。さらに、この実施例の滑り軸受10の端部にも、図示するように、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側には、軸受用潤滑油等の流動する軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部16を備えている。さらに、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側には、窪み14が連続した連続部14bが形成されている。
【0051】
図6は、窪み14が矩形に形成されたもので、窪み14の端部が互いに離れて形成されている。さらに、この実施例の滑り軸受10の端部にも、
図6に示すように、軸受本体12の回転中心軸方向のZ軸方向であって、分力F
1が作用する下流側には、軸受用潤滑油等の流動する軸受用潤滑剤の流出を止めるシーリング部16を備えている。
【0052】
なお、滑り軸受10に用いる樹脂組成物は、射出成形可能な超高分子量PE樹脂をベース樹脂とし、添加剤としてPTFE樹脂、および無機充填材を含むものでも良い。射出成形可能なPE樹脂をベース樹脂とし、これにPTFE樹脂を添加した樹脂組成物を用いることで、PTFE樹脂による潤滑膜形成と、超高分子量PE樹脂の自己潤滑性が発揮され、非含油で低摩擦係数が得られる。さらに無機充填材を添加することで、耐摩耗性の向上および軸受摺動面の接触面積を安定維持することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 滑り軸受
12 軸受本体
14 窪み
14a 端部
14b 連続部
16 シーリング部
20 凹凸刃状エンドミル
F0 力
F1 分力
R 回転方向
【要約】
【課題】軽量で効率的な潤滑が可能であり摺動抵抗が小さく、製造も容易な滑り軸受とその製造方法を提供する。
【解決手段】軸部材を支承する円筒状の軸受本体12を有し、軸受本体12の表面には複数の有底の窪み14を備える。窪み14は、所定のピッチで軸受け本体12の中心軸方向に対して非対称な形状で、螺旋状に配列されている。窪み14は、回転軸と平行な中心線を有する円弧状の底面を備え、軸受用潤滑剤が充填されている。回転軸の回転により、軸受用潤滑剤を回転方向Rに広げるとともに、軸受本体12の中心軸方向の力F
1が軸受用潤滑剤に作用し、軸受用潤滑剤を回転軸の中心軸方向に広げる。軸受本体12の中心軸方向であって、力F
1が作用する上流側に、軸受用潤滑油を補給する潤滑剤補給部を備える。軸受本体12の中心軸方向であって、力F
1が作用する下流側に、軸受用潤滑油の流出を止めるシーリング部16を備える。
【選択図】
図1