(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】土壌の化学性分析方法及び化学性分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
(21)【出願番号】P 2022096432
(22)【出願日】2022-06-15
【審査請求日】2022-06-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170646
【氏名又は名称】国土防災技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢治
(72)【発明者】
【氏名】上野 直哉
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096432(JP,A)
【文献】特開2017-075809(JP,A)
【文献】国際公開第02/090973(WO,A1)
【文献】特開2003-194798(JP,A)
【文献】特開2007-187486(JP,A)
【文献】特開2004-279119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/75-G01N 21/83
G01N 21/00-G01N 21/61
G01J 3/00-G01J 3/52
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Agriknowledge
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌の化学性分析対象物を含む試料液を所定の呈色反応試薬と反応させ、反応後の呈色状態により化学性分析対象物の濃度を定量する土壌の化学性分析方法において、
予め、
複数の異なる既知濃度の化学性分析対象物の溶液を準備し、
それぞれの化学性分析対象物の溶液を前記所定の呈色反応試薬と反応させ、
反応後の呈色状態のそれぞれを、光の三原色である
R値,G値及びB値として測定し、
前記異なる複数の既知濃度と測定された
R値,G値及びB値とに基づいて
R値,G値及びB値に対する化学性分析対象物の濃度の関係を示す検量線を
濃度C=a+bR+cG+dB(a~dは変量解析にて求められた定数)として生成し、
土壌の化学性を分析する場合には、
分析すべき土壌を含む試料液を前記所定の呈色反応試薬と反応させ、
反応後の呈色状態の
R値,G値及びB値を測定し、
測定された
R値,G値及びB値と前記検量線とを照合して濃度を定量する土壌の化学性分析方法。
【請求項2】
土壌の化学性分析対象物を含む試料液を所定の呈色反応試薬と反応させ、反応後の呈色状態により化学性分析対象物の濃度を定量する土壌の化学性分析装置において、
光の三原色である
R値,G値及びB値を測定するRGB測定器と、
予め、異なる複数の既知濃度の化学性分析対象物を準備し、それぞれの化学性分析対象物を前記所定の呈色反応試薬と反応させ、反応後の呈色状態のそれぞれを、
R値,G値及びB値として測定し、前記異なる複数の既知濃度と測定された
R値,G値及びB値とに基づいて生成された、
R値,G値及びB値に対する濃度の関係を示す
、濃度C=a+bR+cG+dB(a~dは変量解析にて求められた定数)で表される検量線を記憶する記憶器と、
土壌の化学性を分析する場合に、分析すべき土壌を含む試料液を前記所定の呈色反応試薬と反応させ、反応後の呈色状態について、前記RGB測定器により測定された
R値,G値及びB値と、前記記憶器に記憶された前記検量線とを照合して濃度を定量する演算器と、を備える土壌の化学性分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中に含まれる窒素,リン酸,カリウムなどの栄養塩の成分濃度を測定し、土壌の化学性を分析する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌中に含まれる窒素,リン酸及びカリウムは植物の枝・葉・つぼみ・花の発育に欠かせない成分であるため、土壌の化学性を分析して、その濃度を測定することが行われている。この種の成分濃度を簡易に測定できるものとして、呈色反応試薬(発色試薬)を利用した簡易分析具が提案されている(特許文献1)。この簡易分析具は、合成樹脂で形成されたチューブに、分析対象物質に反応して発色するように調合された発色試薬が密封されたものである。使用時において、分析対象物質を溶かした溶液をチューブ内に入れると、分析対象溶液が発色試薬と化学反応して発色するので、分析者が、この発色の色目と、予め濃度毎に色分けされた標準色列とを目視で比較し、最も近い色に対応する数値を読み取ることにより、分析対象溶液に含まれている分析対象物質の濃度が求められる。
【0003】
上記従来の簡易分析具を用いた濃度の測定は、標準色列との比色による官能評価である。すなわち、比色に用いる標準色列は段階的に選択された濃度に対応する標準色から構成されているため、得られる濃度の測定値が非連続・離散的な値にならざるを得ないという問題がある。また、分析者が目視で比色するため、測定値が主観的になる傾向があり、分析者の個人差により測定精度に信頼性がないという問題がある。
【0004】
そのため、上記簡易分析具に分析対象溶液を入れ、発色した状態で特定波長の単色光を透過させ、このときの吸光度を吸光度計で測定する濃度分析方法が提案されている(特許文献2)。特定波長の単色光が透過したときの吸光度は、光路長と分析対象溶液の濃度に比例するので、光路長を一定にして測定すれば、吸光度から濃度が求められるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO02/090973パンフレット
【文献】特開2017-75809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記吸光度を利用した従来の濃度分析方法では、可視光線を特定の単色光に分光する分光器が必要となり、また換気測定具のチューブ自体の吸光度を相殺するために特定の単色光とは異なる波長の単色光を透過させたときの吸光度を測定する必要がある。したがって、簡便な装置構成で、連続的かつ客観的な濃度測定値が得られる方法及び装置の開発が希求されていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、簡便な装置構成で、連続的かつ客観的な濃度測定値が得られる土壌の化学性分析方法及び化学性分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、土壌の化学性分析対象物を含む試料液を所定の呈色反応試薬と反応させ、反応後の呈色状態により化学性分析対象物の濃度を定量する土壌の化学性分析方法において、予め、複数の異なる既知濃度の化学性分析対象物の溶液を所定の呈色反応試薬と反応させ、反応後の呈色状態のそれぞれのR値,G値及びB値を測定することでR値,G値及びB値に対する化学性分析対象物の濃度の関係を示す、濃度C=a+bR+cG+dB(a~dは変量解析にて求められた定数)で表される検量線を生成しておき、土壌の化学性を分析する場合には、分析すべき土壌を含む試料液を前記所定の呈色反応試薬と反応させ、反応後の呈色状態のR値,G値及びB値を測定し、測定されたR値,G値及びB値と前記検量線とを照合して濃度を定量することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、予め、RGB測定器と既知濃度の化学性分析対象物とを用いてRGB値-濃度の検量線を生成しておき、分析現場では、未知濃度の化学性分析対象物のRGB値を測定し、これを検量線に照合することで濃度を定量する。これにより、簡便な装置構成で、連続的かつ客観的な濃度測定値が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る土壌の化学性分析方法の一実施の形態を示す工程図である。
【
図2】本発明に係る土壌の化学性分析装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【
図3A】
図2のステップS11,S12の内容を説明するための図である。
【
図3B】
図2のステップS13の内容を説明するための図である。
【
図4A】
図2のステップS21の内容を説明するための図である。
【
図4B】
図2のステップS22の内容を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態例を説明する。
図1は、本発明に係る土壌の化学性分析方法の一実施の形態を示す工程図、
図2は、本発明に係る土壌の化学性分析装置の一実施の形態を示すブロック図、
図3Aは、
図2のステップS11,S12,S21の内容を説明するための図、
図3Bは、
図2のステップS13,S22の内容を説明するための図である。
【0012】
本実施形態の土壌の化学性分析方法及び化学性分析装置は、土壌に含まれ、植物の枝・葉・つぼみ・花の発育に欠かせない成分である窒素,リン酸又はカリウムの含有濃度を測定することで、その土壌の特質を分析し、今後の土壌改良などに利用するものである。そのため、本実施形態では、化学性分析対象物である窒素,リン酸又はカリウム等の栄養塩類と反応することで濃度に応じた色彩を呈色する試薬を用いる。この試薬は特に限定されず、適宜の組成物を用いることができる。
【0013】
背景技術の欄で説明したとおり、従来の濃度測定方法では、反応後の呈色状態を、予め濃度毎に色分けされた標準色列と目視で比較することで濃度を特定するが、本実施形態では、こうした人為的な判断を排除するために、RGB測定器11にて測定したRGB値を利用して濃度を定量する。
【0014】
すなわち、
図1に示すように、本実施形態の土壌の化学性分析装置1は、RGB測定器11と、演算器12と、記憶器13と、表示器14とを備える。
【0015】
RGB測定器11は、化学性分析対象物2のRGB値を測定し、これを演算器12に出力する。RGB値とは、色を指定・特定するための連続的な物理量であり、光の三原色である赤色と緑色と青色のそれぞれを、0~255の値で示し、その組み合わせによって色が特定される。たとえば、(R,G,B)の組合せが、(255,255,255)の場合は白色を示し、(0,0,0)の場合は黒色を示し、(255,0,0)の場合は赤色を示し、(0,255,0)の場合は緑色を示し、(0,0,255)の場合は青色を示す。本実施形態のRGB測定器11の仕様は特に限定されず、RGB値が測定できれば適用することができる。ただし、後述する検量線を生成する際に使用するRGB測定器11と、実際の濃度測定で用いるRGB測定器11とは、同じ個体を用いることが、測定精度の観点から好ましいといえる。
【0016】
演算器12及び記憶器13は、CPU又はMPUなどの演算処理装置とROM及びRAMなどの記憶装置とを含むパーソナルコンピュータなどで構成され、演算器12が演算処理装置に相当し、記憶器13が記憶装置に相当する。演算器12は、ROMに格納された濃度測定用プログラムを読み出し、RGB測定器11から出力されたRGB値を、後述する手順で記憶器13に記憶された検量線データと照合することで、目的とする化学性分析対象物2の濃度を定量する。
【0017】
表示器14は、ディスプレイやプリンタなどの出力装置又は記録装置で構成され、化学性分析対象物2、RGB測定器11から出力されたRGB値、定量された濃度などが表示又は媒体に記録されて出力される。
【0018】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、本実施形態の土壌の化学性分析方法を説明する。
図2に示すように、本実施形態の土壌の化学性分析方法は、実際の土壌分析を実施する前に、前準備として化学性分析対象物に応じた呈色反応試薬の検量線を生成する(ステップS1(S11~S14))。たとえば、化学性分析対象物2が、窒素,リン酸又はカリウムのどれであるかによって呈色反応試薬の種類が異なり、また化学性分析対象物2が同じでも、複数種類の呈色反応試薬が使用できることもあるため、目的とする化学性分析対象物2とこれに使用する呈色反応試薬とに応じた検量線を生成する。そして、目的とする化学性分析対象物2とこれに使用する呈色反応試薬とが同じ場合に、予め生成された検量線を用いて濃度を定量する(ステップS2(S21~S23))。
【0019】
ステップS11からステップS14の前準備(ステップS1)では、まずステップS11において、
図3Aに示すように、複数の異なる既知濃度の化学性分析対象物2の溶液を準備する。たとえば、化学性分析対象物2がリン酸である場合、土壌に含まれるリン酸の濃度が最大Xppmであると考えられる場合、0~Xppmの間の濃度であって、互いに異なる複数の既知濃度(X1,X2,X3…ppm)の化学性分析対象物2の溶液を調製し、準備する。
【0020】
次のステップS12において、
図3Aに示すように、選定された所定の呈色反応試薬31が貼り付けられた試験紙3を、ステップS11にて調製して準備した化学性分析対象物2の溶液に浸し、化学性分析対象物2の溶液と呈色反応試薬31とを反応させる。反応が停止して呈色が安定するまで所定時間を要する場合は、それまで放置する。
【0021】
次のステップS13において、化学性分析対象物2の溶液と呈色反応試薬31との反応が停止して呈色が安定したら、試験紙3を化学性分析対象物2の溶液から引き上げ、乾燥させたのち、
図3Bに示すように、RGB測定器11を用いて呈色反応試薬31の呈色状態をRGB値として測定し、これを演算器12へ出力する。演算器12は、化学性分析対象物2の既知濃度と、測定されたRGB値とを関連付けて記憶器13に記憶する。
【0022】
以上のステップS12とS13との処理を、準備した全ての既知濃度の化学性分析対象物2について行い、演算器12は、それぞれの化学性分析対象物2の既知濃度と、測定されたRGB値とを関連付けて記憶器13に記憶する。
【0023】
次のステップS14において、複数の異なる既知濃度の化学性分析対象物2の溶液に対して測定されたそれぞれのRGB値に基づいて、RGB値と濃度との関係を示す検量線を生成する。この検量線の生成手法としては、3つの独立変量であるR値,G値,B値に対する濃度Cを近似する重回帰分析を用いることができる。ただし、本発明の検量線は、重回帰分析以外の多変量解析法を用いて要約してもよい。
【0024】
ステップS14において、たとえば検量線が濃度C=a+bR+cG+dB(a~dは変量解析にて求められた定数)として求められたら、演算器12はこれを記憶器13に記憶し、実際に行われる土壌分析に備える。
【0025】
以上のステップS1(S11~S14)にて前準備が終了したら、次のステップS2(S21~S23)において実際の土壌分析を行う。
【0026】
まずステップS21において、目的とする土壌を採取し、
図4Aに示すように採取した土壌21を純水などの溶液に入れ、撹拌する。これにより土壌中に含まれた化学性分析対象物2が溶液に溶解するので、この溶液に、選定された所定の呈色反応試薬31が貼り付けられた試験紙3を浸し、化学性分析対象物2の溶液と呈色反応試薬31とを反応させる。反応が停止して呈色が安定するまで所定時間を要する場合は、それまで放置する。
【0027】
次のステップS22において、化学性分析対象物2の溶液と呈色反応試薬31との反応が停止して呈色が安定したら、試験紙3を化学性分析対象物2の溶液から引き上げ、乾燥させたのち、
図4Bに示すように、RGB測定器11を用いて呈色反応試薬31の呈色状態をRGB値として測定し、これを演算器12へ出力する。
【0028】
次のステップS23において、演算器12は、RGB測定器11から出力されたRGB値を、記憶器13に記憶された検量線に照合することで濃度を定量する。すなわち、たとえば検量線が濃度C=a+bR+cG+dB(a~dは変量解析にて求められた定数)として記憶されている場合は、測定されたRGB値のそれぞれを当該検量線に代入し、濃度Cを演算により求める。
【実施例】
【0029】
図2のステップS11において、化学性分析対象物をリン酸とし、7個の異なる既知のリン酸濃度溶液を準備し、ステップS12及びS13を実施した。そして、これにより得られた7個の濃度とそれぞれのRGB値とを用い、ステップS14において、重回帰分析法により、RGB値と濃度との関係を示す検量線を生成したところ、濃度C(mg/L)=7.8920R-13.4883G+1.9549B+933.5903となった。この重回帰式(検量線)の相関係数Rは0.98807538、決定係数R
2は0.9661380、R値のp値は0.8883%、G値のp値は0.1713%、B値のp値は4.5924%、切片のp値は0.0002%であった。
【0030】
この検量線を用い、実際の土壌を採取して10個のサンプルを準備し、
図2のステップS21~S23を実施して10個のサンプルのリン酸濃度(mg/L)を定量したところ、下表1のとおりの結果になった。
【0031】
【0032】
以上のとおり、本実施形態の土壌の化学性分析方法及び化学性分析装置によれば、呈色の判断を分析者の官能評価により行うのではなく、RGB測定器11を用いて光学的・機械的に行うので、客観的で信頼性の高い濃度測定値を得ることができる。
【0033】
また、本実施形態の土壌の化学性分析方法及び化学性分析装置によれば、自然光などを単色光に分光する必要なく濃度が測定できるので、RGB測定器11とコンピュータ12,13という極めて簡便な構成で分析装置1を提供することができる。
【0034】
また、本実施形態の土壌の化学性分析方法及び化学性分析装置によれば、昼間・夜間といった測定環境の光量の大小にかかわらず、安定した濃度測定値を定量することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…化学性分析装置
11…RGB測定器
12…演算器
13…記憶器
14…表示器
2…化学性分析対象物(化学性分析対象物の溶液)
21…土壌
3…試験紙
31…試薬
【要約】 (修正有)
【課題】簡便な装置構成で、連続的かつ客観的な濃度測定値が得られる土壌の化学性分析方法及び分析装置を提供する。
【解決手段】分析対象物2を含む試料液を所定の呈色反応試薬31と反応させ、反応後の呈色状態により分析対象物2の濃度を定量し、土壌の化学性分析を行う。前準備では(S1)、複数の異なる既知濃度の分析対象物の溶液を準備し(S11)、それぞれの分析対象物の溶液を所定の呈色反応試薬と反応させ(S12)、反応後の呈色状態のそれぞれを、光の三原色であるRGB値として測定し(S13)、異なる複数の既知濃度と測定されたRGB値とに基づいてRGB値に対する分析対象物の濃度の関係を示す検量線を生成し(S14)、土壌分析では(S2)、分析すべき土壌を含む試料液を所定の呈色反応試薬と反応させ(S21)、反応後の呈色状態のRGB値を測定し(S22)、測定されたRGB値と検量線とを照合して濃度を定量する(S23)。
【選択図】
図2