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特許7156755粘着性基板及び該粘着性基板から対象物を分離する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】粘着性基板及び該粘着性基板から対象物を分離する方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20221012BHJP
   C09J 127/12 20060101ALI20221012BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20221012BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20221012BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J127/12
C09J183/04
B32B27/30 D
B32B25/04
C09J7/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018080075
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2019189675
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(72)【発明者】
【氏名】入澤 有次
(72)【発明者】
【氏名】初見 俊明
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062373(JP,A)
【文献】特開2008-171934(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063405(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00-7/50
B32B 27/30
B32B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の上層に形成された、耐熱性エラストマー層と、を備える粘着性基板であって、
前記基材は、厚みが0.2mm以上2mm以下であり、可撓性を有する金属板又は樹脂板であり、前記基材のヤング率が、20GPa以上250GPa以下であり、
前記耐熱性エラストマー層の膜厚が、1μm以上50μm未満であり、
前記耐熱性エラストマー層を構成するエラストマーが、フッ素系エラストマー又はシリコーンエラストマーから選択され、
複数の半導体チップが樹脂により封止されて一体化された対象物を前記耐熱性エラストマー層で保持した後、対象物を上側から固定させた状態で、前記粘着性基板の端部を下側に物理的に剥がし始めることにより、前記対象物を物理的に分離する方法に用いられる粘着性基板。
【請求項2】
前記耐熱性エラストマー層を構成するエラストマーのゴム硬度が、1以上30以下である、請求項1に記載の粘着性基板。
【請求項3】
前記複数の半導体チップが樹脂により封止されて一体化された対象物を、粘着性基板の耐熱性エラストマー層で保持した後、前記対象物を上側から固定させた状態で、粘着性基板の端部を下側に物理的に剥がし始めることにより、請求項1又は2に記載の粘着性基板から対象物を物理的に分離する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を保持した後に、対象物を分離可能な粘着性基板及び該粘着性基板から対象物を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、デジタルカメラ、携帯電話等様々な電子機器の小型化や高性能化に伴い、半導体素子においても更なる小型化、薄型化、及び高密度化への要求が急速に高まっている。このような中で、チップサイズパッケージ(CSP)といった高密度実装技術が開発されており、これらの中でも、ボンディング・ワイヤによる内部配線を行わず、半導体の一部が露出したままのウエハレベルCSP(WLCSP)が注目を集めている。
【0003】
このような、WLCSPは、面積が小さいため、外部接続が可能な端子の数が限られたものとなるが、近年では、高集積化と、より多くの外部接続等が要求されており、そのような要求を満たすものとして、eWLB(Embedded Wafer Level Ball Grid Array;組み込み型ウエハレベルボールグリッドアレイ)が開発されている。このようなパッケージの作製方法においては、従来、半導体チップを支持基材上に粘着フィルムを用いて保持し、エポキシ樹脂等の封止樹脂により、その半導体チップを封止する手法が取られている。
【0004】
半導体チップをエポキシ樹脂等により封止する際に使用される粘着フィルムとしては、
例えば、特許文献1には、熱発泡剤含有粘着剤層の少なくとも基材の一方面に形成された両面粘着テープ又は両面粘着シートと、熱発泡剤含有粘着剤層を加熱して発泡させる発熱体とからなる解体構造用の剥離型粘着シートが提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、紫外線照射して、半導体ウェハ加工用粘着テープを剥離することを前提とした基材フィルムの少なくとも一方の面に粘着剤層を有する半導体ウェハ加工用粘着テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-118776号公報
【文献】特開2017-171896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の粘着シートは、剥離時の加熱や紫外線照射により粘着剤の粘着力が低下してしまうため、樹脂により封止された半導体チップから剥離された後は廃棄されることが想定されている、一回使用型のものであり、繰り返しの使用は不可能であった。したがって、本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、対象物を保持する状態と、対象物を分離する状態を容易に転換でき、繰り返し使用可能な粘着性基板及び該粘着性基板から対象物を分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、所定の厚みである可撓性を有する基材と、基材の上層に形成された、耐熱性エラストマー層を有する粘着性基板によれば、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
(1)本発明の第1の態様は、基材と、前記基材の上層に形成された、耐熱性エラストマー層と、を備える粘着性基板であって、前記基材は、厚みが0.2mm以上2mm以下であり、可撓性を有し、対象物を前記耐熱性エラストマー層で保持した後、対象物を上側から固定させた状態で、前記粘着性基板の端部を下側に物理的に剥がし始めることにより、前記対象物を物理的に分離する方法に用いられる粘着性基板である。
【0010】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の粘着性基板であって、前記基材のヤング率が、2Gpa以上300Gpa以下であることを特徴とするものである。
【0011】
(3)本発明の第3の態様は、(1)又は(2)に記載の粘着性基板であって、前記耐熱性エラストマー層を構成するエラストマーのゴム硬度が、1以上30以下であることを特徴とするものである。
【0012】
(4)本発明の第4の態様は、(1)から(3)のいずれかに記載の粘着性基板であって、前記耐熱性エラストマー層を構成するエラストマーが、フッ素系エラストマー又はシリコーンエラストマーから選択されることを特徴とするものである。
【0013】
(5)本発明の第5の態様は、(1)から(4)のいずれかに記載の粘着性基板であって、耐熱性エラストマー層の膜厚が、1μm以上50μm以下であることを特徴とするものである。
【0014】
(6)本発明の第6の態様は、対象物を、粘着性基板の耐熱性エラストマー層で保持した後、対象物を上側から固定させた状態で、粘着性基板の端部を下側に物理的に剥がし始めることにより、(1)から(5)のいずれかに記載の粘着性基板から対象物を物理的に分離する方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の粘着性基板は、厚みが0.2mm以上2mm以下の可撓性を有する基材と、基材の上層に形成された、耐熱性エラストマー層とを備えるため、耐熱性エラストマー層の粘着力により、対象物を保持することができる。そして、基材は、厚みが0.2mm以上2mm以下であり、可撓性を有するため、耐熱性エラストマー層で保持した後において、対象物を上側から固定させた状態で、粘着性基板の端部を下側に物理的に剥がし始めることにより、粘着性基板から対象物を物理的に容易に分離することができる。
このように、対象物を分離するに際して、加熱や紫外線照射を要さないため、耐熱性エラストマー層の粘着力低下が抑制され、かつ、基材が可撓性を有することにより、分離後の粘着剤基板は元の状態に戻るため、対象物を分離した粘着性基板は、対象物の保持のために、繰り返し再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の粘着性基板に用いる耐熱性エラストマー層に対象物を保持した態様を示す平面図である。
図2】本発明の粘着性基板に用いる耐熱性エラストマー層に対象物を保持した態様を示す正面図である。
図3】押さえ板を用いずに対象物を分離する方法(第一の分離方法)の態様を正面視で示した図面である。
図4図3の態様を平面視で表した図面である。
図5】押さえ板を用いて対象物を分離する方法(第二の分離方法)の態様を正面視で示した図面である。
図6図5の態様を平面視で表した図面である。
図7】剥離冶具を用いた第二の分離方法の一連の流れを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
<粘着性基板>
図1は、本発明の粘着性基板1に用いる耐熱性エラストマー層2に対象物4を保持した態様を示す平面図である。図2は、本発明の粘着性基板1に用いる耐熱性エラストマー層2に対象物4を保持した態様を示す正面図である。本発明の粘着性基板1は、厚みが0.2mm以上2mm以下の可撓性を有する基材3と、その上層に形成された耐熱性エラストマー層2とを有するものであり、対象物4を耐熱性エラストマー層2で保持した後、対象物4を上側から固定させた状態で、粘着性基板1の端部を下側に物理的に剥がし始めることにより、粘着性基板1から対象物4を物理的に分離する方法に用いられるものである。
なお、粘着性基板1の端部から下側に物理的に剥がし始めるに際し、後述する第一の分離方法のように粘着性基板1の端部を直接的に下側に引張ることにより剥がし始めてもよいし、第二の分離方法のように押さえ板7を用いて間接的に剥がし始めてもよい。
対象物4を上側から固定させた状態で、粘着性基板1の端部から下側に物理的に剥がし始めることにより、対象物4を分離できるようにするために、粘着性基板1の構成としては、基材3の面積と耐熱性エラストマー層2の面積が略同一で、かつ、基材3と耐熱性エラストマー層2が略重複する態様(図1及び図2に示す態様)、または、基材3の面積が耐熱性エラストマー層2の面積よりも大きく、基材3の端部が耐熱性エラストマー層2の外方に位置する態様、のいずれかとなり、さらに、対象物4の面積は、耐熱性エラストマー層2の面積よりも小さく、対象物4の端部が耐熱性エラストマー層2の内方に位置することが好ましい。
【0019】
[基材]
本発明の粘着性基板1に用いる基材3の厚みは0.2mm以上2mm以下であり、基材3は可撓性を有する。基材3の厚みを、上記の範囲にすることにより、粘着性基板1の物理的強度を維持しつつ、適度な可撓性を与えることができる。基材3の厚みは0.2mm以上2mm以下であることが好ましく、0.3mm以上1mm以下であることがより好ましい。
また、基材3が可撓性を有することにより、粘着性基板1の端部に、下側に物理的な力を加えることで(例えば、粘着性基板1の端部を下側に引張ることで)、基材3と耐熱性エラストマー層2がともに撓み始め、その撓み始めた箇所から、耐熱性エラストマー層2と対象物4との間に容易に空隙が生じることで、粘着性基板1の端部が下側に物理的に剥がれ始め、この空隙がきっかけとなり少ない力で容易に対象物4を物理的に分離することができる。このように、加熱や紫外線照射を要さずに容易に物理的に対象物4を分離することができるため、耐熱性エラストマー層2の粘着力低下を抑制することができ、また、分離後の粘着性基板1は元の状態に戻るため、粘着性基板1は繰り返し使用できるものとなる。
【0020】
基材3としては、上記範囲の厚みとしたときに、可撓性を有するとともに、十分な物理的強度と、耐久性を備えるものであれば、任意の材料を使用することができるが、好ましくは、可撓性を有する金属板又は樹脂板であることが好ましい。可撓性を有する金属板としては、SUSステンレス鋼、銅、チタン合金、鉄ニッケル等からなる金属板を挙げることができる。また、樹脂板としては、適度な可撓性及び樹脂封止時における耐熱性を有する、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ガラスエポキシ樹脂、ポリアセタールなどの各種樹脂を材料とした樹脂板を挙げることができる。これらの中でも、適度な可撓性を有し、物理的強度及び耐久性に優れるSUSステンレス鋼からなる金属板を用いることが好ましい。
【0021】
また、基材3のヤング率が、2GPa以上300GPa以下であることが好ましい。基材3のヤング率は、20GPa以上250GPa以下であることがより好ましい。上記のように、基材3の厚みに加えて、基材3のヤング率を調整することにより、剥離時に基材3を曲げて対象物4を剥離できるだけでなく、樹脂封止時に対象物4を載せて金型内に搬送して設置する際に、基材3の撓みによる不具合(部品ズレ、材料漏れ等)を避けることができる。
【0022】
基材3の端部には、下側へ引張る際に利用する、ケーブル6を結び付けたり、フックをひっかけたりするための穴やクランプを取り付けるための窪みを設けることが好ましい。
【0023】
[耐熱性エラストマー層]
本発明の粘着性基板1は、基材3の上層に耐熱性エラストマー層2を有する。耐熱性エラストマー層2に使用されるエラストマーとしては、シリコーンエラストマー又はフッ素系エラストマーを使用することが一般的である。
【0024】
シリコーンエラストマーとしては、例えば、信越化学工業社製のKR3700、KR3701、X-40-3237-1、X-40-3240、X-40-3291-1、X-40-3229、X-40-3270、X-40-3306;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSR1512、TSR1516、XR37-B9204;及び東レ・ダウコーニング社製のSD4584、SD4585、SD4560、SD4570、SD4600PFC、SD4593等を挙げることができる。
【0025】
フッ素系エラストマーとしては、フルオロシリコーンゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレンゴム、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンゴム、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンゴム、フッ素化ポリエーテル等を挙げることができる。
【0026】
これらの中でも、ゴム硬度が、1以上30以下のエラストマーであることが好ましく、1以上10以下のゴム硬度を有するエラストマーであることがより好ましい。ゴム硬度の低いエラストマーを使用することにより、エラストマー自体の粘着性で、対象物4を良好に保持することができるようになる。また、対象物4の汚染を最小限に抑える観点からは、フッ素系エラストマーを使用することが好ましく、フッ素化ポリエーテルを使用することが最も好ましい。
【0027】
耐熱性エラストマー層2の膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。耐熱性エラストマー層2の膜厚を上記の範囲内のものとすることにより、対象物4を十分に保持可能な耐久性を備えるとともに、対象物4との分離性を良好に維持することができる。
【0028】
[対象物]
本発明の粘着性基板1は、対象物4を耐熱性エラストマー層2で保持した後、対象物4を上側から固定させた状態で、粘着性基板1の端部を下側に物理的に剥がし始めることで、粘着性基板1から対象物4を物理的に分離する方法に用いられる。ここで、本発明の粘着性基板1が保持する対象物4としては、特に限定されるものではないが、樹脂により封止されて一体化された半導体チップであることが好ましい。
【0029】
半導体チップの封止に用いられる封止樹脂としては、従来公知の有機樹脂を挙げることができ、より具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができるが、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0030】
対象物4を保持した粘着性基板1から、対象物4を分離する際には、対象物4を上側から固定させた状態で、粘着性基板1の端部に、下側に物理的な力を加えることで(例えば、粘着性基板1の端部を下側に引張ることで)、分離すればよい。
【0031】
なお、対象物4が、樹脂により封止されて一体化された半導体チップである場合、一体化された半導体チップは、切断により個別化され、研削されて半導体素子に加工される。
【0032】
<粘着性基板から対象物を分離する方法>
本発明の別の実施形態は、対象物4を上記の粘着性基板1に用いる耐熱性エラストマー層2で保持した後、対象物4を上側から固定させた状態で、粘着性基板1の端部を下側に物理的に剥がし始めることにより、粘着性基板1から対象物4を物理的に分離する方法である。
【0033】
(第一の分離方法)
図3は、押さえ板7を用いずに対象物を分離する方法(第一の分離方法)の態様を正面視で示した図面であり、図4は、図3の態様を平面視で表した図面である。
第一の分離方法としては、図3及び図4に示すように、対象物4を耐熱性エラストマー層2に保持させた状態で、上側から固定手段5で対象物4を固定させ、基材3の端部に設けた穴や窪みを介してケーブル6を用いて、基材3の端部を下側に引っ張ることで、基材3とともに耐熱性エラストマー層2が撓み始め、その撓み始めた箇所から、耐熱性エラストマー層2と対象物4との間に容易に空隙が生じ、この空隙をきっかけとして粘着性基板1の端部が下側に剥がれ始めることで、粘着性基板1から対象物4を物理的に分離する方法である。なお、固定手段5としては、特に限定されないが、陰圧にすることにより対象物4を固定可能な吸引盤を用いることが好ましい。また、ケーブル6としては、強度に優れるステンレスワイヤーを用いることが好ましい。
後述する第二の分類方法では、押さえ板7を用い、さらに、剥離冶具10(図7参照)を用いて、対象物4を分離するが、第一の分離方法でも、押さえ板7を用いない点以外は第二の分離方法と同様に、剥離冶具10を用いて、基材3を下側に引張ることで、対象物を分離することができる。
【0034】
(第二の分離方法)
図5は、押さえ板7を用いて対象物を分離する方法(第二の分離方法)の態様を正面視で示した図面である。図6は、図5の態様を平面視で表した図面である。
第二の分離方法としては、図5及び図6に示すように、対象物4を耐熱性エラストマー層2に保持させた状態で、上側から固定手段5で対象物4を固定させ、対象物4と粘着性基板1が厚さ方向で重複していない領域における、耐熱性エラストマー層2の表面に押さえ板7を設置し、押さえ板7の端部を下側に引っ張ることで、基材3と耐熱性エラストマー層2がともに撓み始め、その撓み始めた箇所から、耐熱性エラストマー層2と対象物4との間に容易に空隙が生じることで、この空隙をきっかけとして粘着性基板1の端部が下側に物理的に剥がれ始め、粘着性基板1から対象物4を物理的に分離する方法である。
【0035】
第一の分離方法及び第二の分離方法において、対象物4の分離は手作業で行ってもよいが、図7に示すように、剥離冶具10を用いたほうが、作業効率・正確性が向上するため好ましい。図7を用いて、剥離冶具10を用いた第二の分離方法の一連の流れをより具体的に説明する。なお、図7において、固定手段5は所定の方向(図7における矢印Xの方向)に進行する。押さえ板7の端部を下側に引張る態様として、図7に示すように、ケーブル6を用いる方法が挙げられる。ケーブル6を用いる方法としては、押さえ板7の端部に穴を空けておき、穴にケーブル6を直接結び付けることにより、または、ケーブル6の先端にフック設けたうえで当該フックを穴に引っ掛けることにより、ケーブル6を下側に引張ることができる。また、押さえ板7に穴を設けなくても、ケーブル6の先端にクリップやクランプ等を用い、クリップやクランプ等で押さえ板7の端部を把持して、ケーブル6を下側に引張ることもできる。
なお、押さえ板7には、基材3と同様に、可撓性、十分な物理的強度、耐久性を備える必要があり、押さえ板7には基材3と同様の素材を用いることができ、その厚みは0.2mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0036】
図7(b)から図7(f)には、対象物4が分離される過程が示されている。固定手段5が進行する速度と、回転駆動部8の回転速度は略同一であり、その速度は、剥離開始時と作業効率のバランスの観点から50mm/分以上300mm/分以下であることが好ましい(以下、当該速度を剥離速度と称する)。固定手段5が進行する方向(図7における矢印Xの方向)とケーブル6により下側に引張られる方向(図7において矢印Yの方向)がなす角は5度以上30度以下であることが好ましい(以下、当該角度を剥離角度と称する)。剥離角度を上記の範囲にすることにより、粘着性基板1に対する負荷を抑えながら、対象物4を分離することができる。
固定手段5が対象物4を上側から固定している状態で所定の方向に進むと同時に、回転駆動部8がケーブル6を巻き取りながら固定手段5の進行速度と略同一の速度で回転する。ケーブル6が回転駆動部8に巻き取られることにより、押さえ板7が下側に引張られることで、粘着性基板1の端部が下側に物理的に剥がれ始める。具体的には、押さえ板7が下側に引張られると同時に基材3がローラー9を軸として撓みながら、耐熱性エラストマー層2とともに下側に移動する。このようにして、対象物4の分離が進み、最終的に図7(e)に示すように、粘着性基板1から対象物4が分離され、図7(f)に示すように、固定手段5による対象物4の固定を解除することにより、対象物4を得ることができる。なお、粘着性基板1と押さえ板7を分離することにより、粘着性基板1を再利用することができる。
【0037】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例
【0038】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
直径300mm、厚さ0.5mmのSUSステンレス鋼からなる基材上に厚さ20μm、硬度5のフッ素系エラストマー層を形成させた粘着性基板を作成した。この粘着性基板上に厚さ0.5mmで5mmのウエハーチップを約600個粘着固定させた。そのまま金型内に投入して直径280mm、厚さ0.6mmのエポキシ樹脂封止を行った。
金型から取り出し冷却後に、剥離治具(図7参照)に設置した。押さえ板は厚さ0.3mmのSUSステンレス鋼を用いた。このSUSステンレス鋼は予め直径290mmの穴が開けてあり、エポキシ基材に触れずに0.5mmの基材のみを抑えるように設計しておいた。
これを剥離角度15度、剥離速度100mm/分で移動させたところ、エポキシ樹脂成型品(対象物)を剥離して、粘着性基板も回収できた。この粘着性基板は繰返しの使用が可能であった。
【0040】
<実施例2>
硬度30のシリコーンエラストマーを使用する以外は実施例1と同様の条件で試験を実施したところ問題なく剥離して、粘着性基板も再利用可能であった
【0041】
<実施例3>
厚さ0.25mmで、端部に穴の開いた基材に変更した以外は、実施例1と同様の条件でエポキシ樹脂封止を行った。その後、剥離をする際に押さえ板を使用せず、あらかじめ基材に開けた穴にフックを掛けて剥離角度30度にて試験を実施したところ問題なく剥離して、粘着性基板も再利用可能であった
【0042】
<実施例4>
実施例1における基材を厚さ2.0mmの基材に変更し、フッ素系エラストマーを5μmの厚みで形成した後、実施例1と同様の条件でエポキシ樹脂封止を行った。
その後、厚さ0.3mmの押さえ板を使用して、剥離角度5度、剥離速度50mm/分で試験を実施したところ問題なく剥離して、粘着性基板も再利用可能であった。
【0043】
<比較例1>
実施例1における基材を厚さ0.1mmの基材に変更し、フッ素系エラストマーを20μmの厚みで形成した後、実施例1と同様の条件でエポキシ樹脂封止を行った。
剥離角度を40度にして剥離する以外は実施例1と同様の条件で試験を実施したところ、剥離は可能であったが、基材に反りが発生して再利用は困難であった。
【0044】
<比較例2>
実施例1における基材を厚さ3.0mmの基材に変更してシリコーンエラストマーを100μmの厚みで形成した後、実施例1と同様の条件でエポキシ樹脂封止を行った。
その後、剥離をする際に押さえ板を使用せず、あらかじめ基材に開けた穴にフックを掛けて剥離角度5度、剥離速度50mm/分で剥離したところ、吸引固定が耐え切れず吸引盤(固定手段)から脱落して剥離ができなかった。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【符号の説明】
【0047】
1 粘着性基板
2 耐熱性エラストマー層
3 基材
4 対象物
5 固定手段
6 ケーブル
7 押さえ板
8 回転駆動部
9 ローラー
10 剥離冶具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7