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特許7156759ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体及びその組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体及びその組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20221012BHJP
   A61K 8/58 20060101ALI20221012BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/695 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20221012BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20221012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C07F7/08 X CSP
A61K8/58
A61Q19/00
A61P17/00
A61P25/04
A61P29/02
A61K31/695
A61K47/54
A61K47/34
A61P43/00 123
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020571843
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 US2020033918
(87)【国際公開番号】W WO2021080648
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】62/925,945
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508129090
【氏名又は名称】ジェレスト, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アークルズ, バリー シー.
(72)【発明者】
【氏名】ゴフ, ジョナサン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ミン, テウ
(72)【発明者】
【氏名】パン, ユーリン
(72)【発明者】
【氏名】エイベル‐ロバーマン, タチヤナ
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-535238(JP,A)
【文献】国際公開第18/148787(WO,A1)
【文献】国際公開第18/096504(WO,A1)
【文献】特表2004-505006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)又は(F)
【化1】

【化2】

[式中、R 、R 及びR は、独立して、SiMe(OSiMe 又はSiMe (OSiMe CH CH CH CH である]
を有する、ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体。
【請求項2】
式(II):
【化3】

を有する、請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体。
【請求項3】
式(III):
【化4】

を有する、請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体。
【請求項4】
式(IV):
【化5】

を有する、請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体。
【請求項5】
式(V):
【化6】

を有する、請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体。
【請求項6】
基本製剤と、式(A)、(B)、(C)、(D)、(E)又は(F)を有する、少なくとも1種のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体とを含む、化粧用又は局所用組成物。
【化7】

【化8】

[式中、R 、R 及びR は、独立して、SiMe(OSiMe 又はSiMe (OSiMe CH CH CH CH である]
【請求項7】
ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体が、式(II):
【化9】

を有する、請求項6に記載の化粧用又は局所用組成物。
【請求項8】
ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体が、式(III):
【化10】

を有する、請求項6に記載の化粧用又は局所用組成物。
【請求項9】
ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体が、式(IV):
【化11】

を有する、請求項6に記載の化粧用又は局所用組成物。
【請求項10】
ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体が、式(V):
【化12】

を有する、請求項6に記載の化粧用又は局所用組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を製造するための方法であって、カンナビジオールのイソプロペニル基をヒドロシリル化して、前記ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を形成するステップを含む、方法。
【請求項12】
請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を製造するための方法であって、カンナビジオールをハロゲン化アリルと溶媒中で反応させて、アリルオキシカンナビジオール中間体を形成するステップと、前記アリルオキシカンナビジオール中間体をシラン化合物及び触媒と反応させて、前記ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を形成するステップとを含む、方法。
【請求項13】
請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を製造するための方法であって、塩素含有シロキサン化合物を、ヒドロキシル基と、塩基受容体の存在下で反応させることにより、カンナビジオール分子にシリル化アルキルエーテルを形成するステップを含む、方法。
【請求項14】
請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を製造するための方法であって、水素化物含有シロキサンの脱水素カップリングにより、カンナビジオール分子にシリル化アルキルエーテルを形成するステップを含む、方法。
【請求項15】
請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を製造するための方法であって、中間体アルカリ金属アルコキシドを形成すること及びそれに続く、ケイ素-水素化物又はケイ素-塩素含有化合物との反応により、カンナビジオール分子にシリル化アルキルエーテルを形成するステップを含む、方法。
【請求項16】
請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体と、ヘンプオイルから抽出された少なくとも1種の植物性化学物質とを含む、組成物。
【請求項17】
請求項1に記載のケイ素ベースのカンナビジオール誘導体と、シロキサンとを含む、組成物であって、前記組成物が薄膜に展延し、前記薄膜が水分との反応時にカンナビジオールを形成する、組成物。
【請求項18】
請求項17に記載の組成物が注入された、シリコーンエラストマー又は流体。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[0002]本出願は、2019年10月25日に出願された同時係属中の米国特許仮出願第62/925,945号の優先権を主張するものであり、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の背景]
[0003]カンナビジオールは、抗炎症活性を有すると考えられている植物性カンナビノイドである。カンナビジオールは、生物学的作用を呈するが、一方で神経精神薬理学的効果をほとんど又は全く呈さない、構造的に関連する化合物のファミリーの1つのメンバーである(D.L.Boggs Neuropsychopharmacology;43(1):142~154;2018)。カンナビジオールは、以下に示す2-[(1R,6R)-3-メチル-6-(1-メチルエテニル)-2-シクロヘキセン-1-イル]-5-ペンチル-1,3-ベンゼンジオールの指定名である:
【化1】
【0003】
[0004]カンナビジオールの局所用製剤は、掻痒並びに他の局在している疼痛及び不快感を低減させる際に明らかな治療的利益を有することが報告されている(Karsakら、Science、316、1494~1497;(2007))。純粋なカンナビジオールは、固体であって、展延性が不良であり、局所用及びパーソナルケア用途において一般的に使用されるビヒクル中への溶解性が限定される。したがって、溶解性が改善されたカンナビノイド誘導体が望ましいであろう。
【0004】
[発明の概要]
[0005]本開示の実施形態に従うケイ素ベースのカンナビジオール誘導体は、式(I):
【化2】

を有するカンナビジオール分子と結合されている、Si-O-Si結合を含有する少なくとも1つのケイ素ベースの官能基を含む。
【0005】
[0006]本開示の実施形態に従う化粧用又は局所用組成物は、基本製剤と、式(I):
【化3】

を有するカンナビジオール分子と結合されている、Si-O-Si結合を含有する少なくとも1つのケイ素ベースの官能基を含む少なくとも1つのケイ素ベースのカンナビジオール誘導体とを含む。
【0006】
[発明の詳細な説明]
[0007]本開示は、局所用医薬品及びパーソナルケア製品への製剤化を含む種々の用途に有用なカンナビジオール(CBD)のシリコーン可溶性誘導体を含有する組成物、並びに該組成物の調製のための方法に関する。本明細書において記述されているカンナビジオールのケイ素ベースの誘導体は、カンナビジオールをシロキサン骨格に結合させることによって形成される独自のハイブリッド有機ケイ素化合物であり、カンナビジオール分子と結合されている、Si-O-Si結合を含有する少なくとも1つのケイ素ベースの官能基を含む分子としても記述されている。カンナビジオール置換基は、シロキサン骨格に皮膚処置特性を付加し、一方、シロキサン成分は、カンナビジオールの皮膚軟化性スリップ(emolliency slip)及び皮膚感触を改善する。この独自の構造は、有機ケイ素変性カンナビノイド化合物が、鉱物及び植物性ワックスを含む若干数の化粧用ビヒクル、並びに非誘導体化カンナビノイドにおいて、可溶化剤として挙動することを可能にする。このことは、非誘導体化カンナビノイド化合物の局所用製剤の溶解性の欠如及び不良な展延性が、所望の組成及び活性の均一な薄膜を塗布することへの障害となることから、重要である。本明細書において記述されている組成製品は、経表皮活性を呈しても呈さなくてもよいが、カンナビノイドの均一な分布のためのビヒクルとして作用する該組成製品の能力は、より低いレベル及びより均一な経皮活性を可能にすることによって、エンドカンナビノイド受容体に関連する非変性カンナビノイドの薬理活性を向上させる可能性を有する。
【0007】
[0008]本開示の化合物の好ましい実施形態は、シランベースの基がカンナビジオール分子のフェノール性ヒドロキシル基(ベンゼンジオール環中)のうちの一方又は両方を介して結合されている、カンナビジオールのトリシロキサニル誘導体、(1つ又は複数の)ケイ素基が、(1つ又は複数の)ヒドロキシル基の水素の置き換えによってカンナビジオール分子のベンゼノイド環に結合している誘導体、及び、ケイ素ベースの基がカンナビジオールのテルペニル(イソプロペニル)基と結合されている(例えば、不飽和結合のヒドロシリル化及びケイ素-炭素結合の形成によって)誘導体を含む。カンナビジオール誘導体が、カンナビジオールのテルペニル基における1つの基及び2つのフェノール性ヒドロキシル基を介して結合されている2つの基などの3つのケイ素含有基を含有することも、本開示の範囲内であり、但し、そのような誘導体は、十分な溶解性を有する。
【0008】
[0009]本明細書において使用される場合、用語「カンナビジオール」は、特に別段の指定がない限り、自然に又は合成的に見られる化合物のようなすべてのカンナビジオール異性体、及びカンナビジオール酸などの該カンナビジオール異性体の誘導体(化粧用及び局所用製剤における使用のために調製された誘導体を含む)を包含することが意図されている。
【0009】
[0010]ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体は、上記で注記した通り、官能基として少なくとも1つのケイ素ベースの基を有する、本明細書において定義されている通りの自然発生又は合成カンナビジオールのうちのいずれかであってもよい、式(I)に示されるようなカンナビジオール分子を含む。最も好ましくは、ケイ素ベースの基は、シロキサニル基又はトリアルコキシシラン含有基である。
【0010】
[0011]本明細書において記述されている好ましいカンナビジオール誘導体は、上記の式(I)に従う構造を有し、式中、(1つ又は複数の)フェノール性ヒドロキシル基又はテルペノイド炭素基は、2つ以上のケイ素原子、好ましくは3つ以上のケイ素原子、最も好ましくは約3~約10個のケイ素原子を含有する、シロキサン部分と結合されている。
【0011】
[0012]本開示の実施形態に従うカンナビジオール誘導体は、一般式(A)、(B)及び(C)、(D)、(E)及び(F)を有し、式(A)、(B)及び(C)を有する化合物は、1つのケイ素ベースの官能基を含有し、式(D)及び(E)を有する化合物は、2つのケイ素ベースの官能基を含有し、式(F)を有する化合物は、3つのケイ素ベースの官能基を含有する。「Me」がCHであるこれらの式において、R、R及びRは、それぞれ独立して、例えば及び限定されないが、SiMe(OSiMe又はSiMe(OSiMeCHCHCHCHであってもよい。しかしながら、本開示の範囲内である式(A)~(F)を有する化合物は、これらの置換基に限定されず、当技術分野において公知である又は開発されるSi-O-Si結合を有する他のケイ素含有官能基も、R、R及びRに好適であろう。
【0012】
【化4】

【化5】
【0013】
[0013]故に、本開示の実施形態に従うケイ素ベースのカンナビジオール誘導体は、例えば、(カンナビジオールオキシプロピル)ヘプタメチルトリシロキサン(式(II))、(カンナビジオールオキシ)ヘプタメチルトリシロキサン(式(III))、カンナビジオールオキシプロピルトリエトキシシラン、及びカンナビジオールオキシプロピル終端ポリジメチルシロキサン(式(IV))などの最も好ましい化合物を含む多種多様な誘導体化された化合物を含み、これらのうちの3つを以下に示す:
【化6】
【0014】
[0014]カンナビジオール(一般式(E))に2つのケイ素基を有する例示的な化合物は、特定の式(V):
【化7】

を有する。
【0015】
[0015]故に、本開示の実施形態に従う化合物は、ケイ素含有官能基とカンナビジオール分子のフェノール性ヒドロキシル基との間に直接エーテル結合(直接Si-O結合)を含有してもよく、又は、カンナビジオールのイソプロペニル基とケイ素ベースの基におけるケイ素分子との間に炭化水素架橋(直接Si-C結合)を含有してもよい。
【0016】
[0016]本明細書において記述されている化合物は、スキンケア及びカラー化粧品の製剤化において典型的に使用される材料への広範囲の溶解性及び該材料との相溶性を有する。本明細書において記述されている化合物は、製剤化中に悪臭を放つこと又は着色されることに対してより抵抗性であるという追加の利点も有する。具体的に、一実施形態において、カンナビジオールの(1つ又は複数の)フェノール性酸素における置換は、化合物が悪臭を放つ傾向を低減させる。これは、置換酸素にラジカル種を遮断する能力がないことによる及び/又は材料の酸素透過性の増大によるものであることがある。
【0017】
[0017]直接-Si-O-結合を含む誘導体(すなわち、架橋されていない誘導体)のうちのある特定のものに関して、(1つ又は複数の)フェノール性酸素は、ケイ素と直接結合されており、この結合は、この実施形態のカンナビジオール誘導体がゆっくりと加水分解及び遊離カンナビジオールを放出することを可能にし、真皮の炎症を低減させることを潜在的にもたらす。有利なことに、シリル化(架橋)誘導体(すなわち、カンナビジオール環にシリル化アルキル(-Si-C-)結合を有するもの)は、加水分解的に安定である。
【0018】
[0018]加えて、誘導体のうちのある特定のもの(例えば、シロキサニルカンナビジオール)は、皮膚上に薄膜で展延すると、ゆっくりと加水分解して、抗炎症活性が報告されているカンナビジオールを遊離させる。フェノール性シロキシ化合物は、加水分解的に安定ではない。フェノール性シロキシ化合物の水分への曝露は、緩徐な分解をもたらすことになり、カンナビジオール及び低分子量シロキサンを形成する。故に、該化合物は、貯蔵安定であるが、使用中には、生物活性を潜在的に実証することができる。
【0019】
[0019]多くのシリコーン及びシリコーン誘導体とは異なり、本明細書において記述されている化合物は、ヒマシ油などの一連の極性化合物及び様々な化粧用エステルへの溶解性により、スキンケア並びに口紅及びファンデーションを含むカラー化粧品などの化粧用製品に容易に組み込まれる。該化合物は、カンナビジオール及びシリコーンのための共溶媒として作用することもできる。さらに、そのような溶解性により、これらの誘導体は、他の可能な用途の中でも、生物活性物、カンナビジオール及びシリコーンのための相溶化剤として有用となることができる。
【0020】
[0020]本明細書において記述されているカンナビジオール誘導体は、種々の手法で調製されてもよい。本開示の一実施形態に従って、化合物は、誘導体化基とカンナビジオールのフェノール性ヒドロキシル基との間に直接エーテル結合を形成することによって、又はカンナビジオールのイソプロペニル(テルペニル)基とケイ素ベースの基におけるケイ素分子との間に炭化水素架橋を形成することによって、調製されてもよい。ケイ素ベースの官能基がSi-O架橋でカンナビジオールと結合されている、本明細書において記述されている誘導体は、イソプロペニル基のヒドロシリル化によって、又はカンナビジオールのベンゼンジオール環のヒドロキシル基をハロゲン化アリルと溶媒中で反応させて、ヒドロキシル基の位置に直接エーテル結合を有するアリルオキシカンナビジオール中間体を形成すること、及び、次いで中間体をシラン化合物及び触媒と反応させて、ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体を形成することによって調製されてもよい。
【0021】
[0021]カンナビジオールにおいてシリル化エーテル(-Si-O-C)を形成すること又はカンナビジオールにおける炭化水素架橋(-Si-O-)なしにシリル化エーテルを形成することも、本開示の範囲内である。-Si-O-C結合は、塩素含有シロキサン化合物(-Si-Cl)の、ヒドロキシル基HO-Cとの、塩基受容体の存在下での反応、又は水素化物含有シロキサン(-Si-H)のヒドロキシル基との脱水素カップリングなどのシリル化反応を介するC-OH基の反応によって形成されてもよい。Si-O-C結合を形成する別の可能な方法は、C-O-Naなどの中間体アルカリ金属アルコキシドを形成し、該中間体をSi-Cl又はSi-H含有化合物のいずれかと反応させることによるものである。炭化水素架橋を形成するための反応は、ヒドロシリル化反応による、C=C二重結合にわたる水素化物含有シロキサン(-Si-H)の付加によって進む。
【0022】
[0022]上述した反応において使用されるシラン化合物は、多種多様なケイ素ベースの化合物のうちのいずれかであってもよく、アルキルシラン、アルコキシシラン、アルキルシロキサン及びアルコキシシロキサン並びにそれらの誘導体化又は官能基化された対応物を好ましくは含む。一般に、局所用クリーム及び軟膏に好適な溶解性及び展延特性を提供するために、置換中に2つ以上のケイ素原子を有することが好ましい。例は、限定されないが、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)エチルシラン、ビス(トリメチルシロキシ)プロピルシラン、ビス(トリエチルシロキシ)メチルシラン、ビス(トリエチルシロキシ)エチルシラン、ビス(トリエチルシロキシ)プロピルシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリプロピルシラン、ビス(トリプロピルシロキシ)メチルシラン、ビス(トリプロピルシロキシ)エチルシラン、ビス(トリプロピルシロキシ)プロピルシラン及び同様の化合物を含む。
【0023】
[0023]当技術分野において公知である又は開発されるような、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジプロピルシロキサン、ポリメチルエチルシラン、ポリメチルプロピルシロキサン及び他のポリアルキル-又はポリアルケニル-シロキサンなどの上記で注記したシランモノマー構造と同様の反応性能力を有するポリマー性ケイ素含有分子も、本明細書におけるシラン化合物として有用である。鎖長は変動し得るが、カンナビジオールにおいてポリマー性ケイ素ベースの誘導体基を形成するために使用されるポリマー性シラン化合物の分子量(Mn)は、100~約5000、最も好ましくは約500~約2000であることが好ましい。この範囲の上下における分子量の変動は本開示の範囲内であること、及び異なる鎖長を有する成分はそれに応じて異なる性質をもたらすことに留意すべきである。例えば、一般的に、より低分子量の鎖は、より軟化した性質となる傾向にあるであろうし、一方、より高分子量の鎖は、皮膚上で耐久性のある及び洗い流しに対してより抵抗性であるという観点から、より実質的となる傾向にあるであろう。
【0024】
[0024]本明細書において記述されている誘導体は、純粋なカンナビジオールを使用して製造されてもよいことも理解されるべきである。代替として、誘導体は、植物性カンナビノイド及び/又は他の植物性化学物質混合物の成分として形成及び提供されてもよい。例えば、ヘンプオイル及びヘンプオイル抽出物のカンナビジオール誘導体は、純粋なカンナビジオール成分を単離することなく、形成されることがある。本開示に従うカンナビジオール誘導体は、約1%未満の、ヘンプオイル又はヘンプオイル抽出物などの生成物を含んでもよい。さらに、本開示に従う組成物は、本明細書において記述されている1種又は複数の誘導体及びヘンプオイルから抽出された1種又は複数の植物性化学物質を含有してもよい。
【0025】
[0025]本明細書において記述されているケイ素ベースのカンナビジオールは、基本製剤中にケイ素化合物又はシリコーンベースのポリマーを有するものを好ましくは含む、種々の化粧用及び局所用組成物において使用されてもよく、何故なら、誘導体は、製剤内におけるそのような化合物への相溶性及び溶解性を助長にするからである。しかしながら、本開示は、これらの化粧用組成物に限定されず、ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体が有用である任意の化粧用組成物を含んでもよい。本開示の化粧用及び局所用組成物は、上述した通りの任意の好適な化粧用又は局所用基本製剤であってもよい化粧用基本製剤と、本明細書において記述されている少なくとも1種の、ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体とを含む。ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体は、カンナビジオール分子又はその市販の若しくは天然の誘導体を含み、ベンゼンジオール基によって、より特定すると環の酸素原子を介して又は上述した通りのイソプロペニル(テルペニル)基を介してカンナビジオール分子(又はその誘導体)と結合しているケイ素ベースの基を含む。
【0026】
[0026]本明細書において記述されているケイ素ベースのカンナビジオール誘導体とともに使用するための典型的な化粧用基本製剤は、限定されないが、クリーム、ローション、日焼け防止剤、口紅、クリームアイシャドウ、頬紅、老化防止クリーム、日焼け止めクリーム、セルフタンニングローション、ファンデーション及びヘア化粧品を含む。
【0027】
[0027]そのような製剤に組み込まれる場合、ケイ素ベースのカンナビジオール誘導体は、製剤の重量に基づき、約0.01重量パーセント~約20重量パーセント、好ましくは約0.5重量パーセント~約5重量パーセント及び最も好ましくは約0.5~約1.0重量パーセントの量で存在することが好ましい。
【0028】
[0028]ケイ素化合物又はシリコーンポリマーが製剤に追加で含まれる場合、当技術分野において公知である又は開発されるような、有機ポリシロキサンポリマー又は架橋エラストマーなどの化合物又はポリマーを含んでもよい。しかしながら、天然か合成かにかかわらず、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、寒天、グアーガム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン及びデンプン誘導体、アルブミン、カゼイン、ゼラチン、ポリアクリレート及びその塩、ポリアクリル酸アミド、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、マレイン酸ポリマー、ポリアミドなどを含む、他のポリマーベースの材料が、基本製剤において使用されてもよい。
【0029】
[0029]化粧用基本製剤において使用するための他の成分は、金属酸化物、ポリオレフィン、UVA及び/又はUVB吸収材(有機及び無機)などの日焼け防止活性剤;シリコーン油などの油、油エマルション(油中水型、シリコーン中水型、それらの組合せ);天然脂肪、脂肪酸、脂肪油及びアルコール(アボカド油、アーモンド油、オリーブ油、ゴマ種子油、米油、コーン油、サフラワー油、大豆油、菜種油、パーム油、ヒマシ油、高オレイン酸ヒマワリ油、ココナツ油、獣脂油、メドウフォーム及び同様の化合物、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、トリイソステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、クエン酸イソステアリル、クエン酸トリイソステアリル、ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸ソルビタン、ステアリン酸オシルドセシル、リノール酸、セチルアルコール、イソステアリルアルコール、セテアレス、セテアレスアルコール、デカノール、オクチルドデカノール);ワックス(ホホバ油、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、米ぬかワックス、ラノリン、ビーズワックス、モンタンワックス、微結晶性ワックス、セレシン及び同様のワックス)、乳化剤及び基本配合剤(base formulator)(非イオン性、アニオン性、カチオン性、両性イオン性及び両性の界面活性剤及び乳化剤、パラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、並びにポリオキシアルキレンポリマー及びコポリマー、ポリエーテル、ポリエーテルポリオール、ポリグリコール、ポリアルキレングリコール、ポリグリセリン、ポリジメチコンなどのポリマー性材料、並びに同様のポリマー及び混合物、それらの組合せ及びコポリマーを含む);糖(マンニトール、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリトリトール、エリトリトール、グルコース、スクロース、フルクトース、ラクトースなど)、並びに、ミクロスフェア、保湿剤、角質除去剤、皮膚軟化剤、ゲル化剤、アミノ酸、酵素及びペプチド、タンパク質、ポリソルベート、アルキルアミン、他のカンナビジオール、トコトリエノール及びそれらの誘導体を含む、他のビタミン及びビタミン誘導体、抗ニキビ成分、フラボノイド、EDTA及びその塩、皮膚鎮静剤、香料、着色剤(天然か合成かにかかわらず、種々の色組合せでの顔料及び染料、金属酸化物)、ハーブ成分及び抽出物、天然又は合成油、雲母、タルク及び他の同様の充填剤、酸化防止剤、キレート剤、抗真菌剤、抗菌剤、抗微生物剤、防腐剤及び医薬などの添加剤を含むがこれらに限定されない。これらの成分の量及び比率は、製剤の性質又は化粧用製剤の使用目的により異なることがあり、成分及びその量は、本明細書において限定されることは意図されていない。
【0030】
[0030]本開示の態様は、本明細書において記述されているケイ素ベースのカンナビジオールと、N-アルキルヘプタメチルトリシロキサン、例えば、限定されないが、メチルヘプタメチルトリシロキサン、エチルヘプタメチルトリシロキサン、n-プロピルヘプタメチルトリシロキサン、ブチルヘプタメチルトリシロキサンなどとを含有する、組成物にも関する。ケイ素カンナビジオールが可溶性である代替的なシロキサン材料を含むことも、本開示の範囲内である。現在好ましいシロキサンは、n-プロピルヘプタメチルトリシロキサンである。これらの組成物は、薄膜に展延し、薄膜は(皮膚又は空気からのような)水分に曝露されると、CBDを放出及び改質することが分かっている。
【0031】
[0031]そのような「徐放性カンナビジオール組成物」は、シリコーンエラストマー、シリコーン流体、他のシリコーンゲルマトリックス及び他のシリコーンベースの製剤などの種々のシリコーン基材に注入されてもよい。これらの注入された材料が皮膚に塗布されると、皮膚又は空気からの水分がCBDを放出して、有効な軟質皮膚接着剤、瘢痕低減処置、経皮パッチ、シワ防止フェイスマスク及びパッチ、並びに他の同様の用途を提供する。加水分解時における、シリル化CBDが注入されたシリコーンゲルエラストマーからのCBDの放出を、下記の概略図において示す。
【化8】
【0032】
[0032]ここで、下記の非限定的な例と関連付けて、本発明について記述する。
実施例1:2-[(1R,6R)-3-メチル-6-(1-メチル-2-(ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル)エチル)-2-シクロヘキセン-1-イル]-5-ペンチル-1,3-ベンゼンジオールの合成
【化9】

[0033]ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(21.36g、0.10mol)及びカルステッド触媒(キシレン中2%Pt濃度、1mL)を反応器に投入した。トルエン(21.89g)中のカンナビジオール(25.16g、0.08mol)の溶液を、ポット温度を30℃未満に保ちながら、30分間かけて滴下添加した。得られた反応混合物を室温で2時間撹拌し、次いで、シリカゲル(80g)に通して濾過し、トルエン(800g)で洗浄した。濾液を真空中で濃縮した。残留物は、橙色油としての生成物(32.0g、74%)であった。分析データ:25℃におけるR.I. 1.488;H NMR(400MHz,CDCl)δ6.23(bs,2H)、6.00(bs,1H)、5.52(s,1H)、4.63(bs,1H)、3.81(dd,J=6.0,2.4Hz,1H),2.47~2.41(m,2H)、2.23~2.05(m,1H)、1.76~1.73(m,3H)、1.62~1.55(m,6H)、1.38~1.25(m,6H)、0.90~0.82(m,6H)、0.146(dd,J=14.0,12.4Hz,1H)、0.08(s,9H)、0.07(s,9H)、0.00(s,3H);FTIR(cm-1):3435、2956、2929、2873、2858、1628、1582、1514、1443、1377、1251、1218、1039、1025;GC-MS m/z:536(M)、521(M-Me)、446(M-OSiMe)。
【0033】
実施例2:2-[(1R,6R)-3-メチル-6-(1-メチル-2-(1-ブチル-1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキシ-ジメチルシリル)エチル)-2-シクロヘキセン-1-イル]-5-ペンチル-1,3-ベンゼンジオール(III)の合成
【化10】

[0034]1-ブチル-1,1,3,3,5,5,7,7,9,9-デカメチルペンタシロキサン(34.89g、0.08mol)及びカルステッド触媒(キシレン中2%Pt濃度、1mL)を反応器に投入した。トルエン(17.78g)中のカンナビジオール(20.44g、0.07mol)の溶液を、ポット温度を50℃未満に保ちながら、30分間かけて滴下添加した。得られた反応混合物を40℃で3~5時間加熱し、シリカゲル(50g)に通して濾過し、トルエン(400g)で洗浄した。濾液を真空中で濃縮した。残留物は、所望の生成物(III)及び副産物(V)(比率9:1、46.7g)を粘性橙色液体として含有していた。分析データ:25℃におけるR.I. 1.462;d:1.019g/mL;H NMR(400MHz,CDCl)δ6.26(bs,1H)、6.15(bs,1H)、6.01(bs,1H)、5.52(s,1H)、5.12(bs,1H)、3.84~3.81(m,1H)、2.46~2.41(m,2H)、2.15~2.06(m,1H)、1.76~1.55(m,9H)、1.35~1.25(m,12H)、0.9~0.87(m,12H)、0.56~0.52(m,3H)、0.12~0.03(m,32H);FTIR(cm-1):3451、2958、2926、1628、1583、1444、1257、1219、1022。
【0034】
実施例3:2-[(1R,6R)-3-メチル-6-(1-メチルエテニル)-2-シクロヘキセン-1-イル]-5-ペンチル-1-(ビス(トリメチルシロキシ)メチルシロキシ)-3-オール-ベンゼン(IV)の合成
【化11】

[0035]ナトリウム(0.77g、0.03mol)及びテトラヒドロフラン(13.42g)を反応器に投入した。テトラヒドロフラン(37.98g)中のカンナビジオール(5.03g、0.02mol)の溶液を、ポット温度を70℃未満に保ちながら、30分間かけて滴下添加した。得られた反応混合物を、すべてのナトリウムが消費されるまで、室温で撹拌した。ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(14.24g、0.06mol)を70℃で10分間かけて滴下添加し、次いで、反応混合物を110~120℃で10時間加熱した。反応混合物をシリカゲル(40g)に通して濾過し、テトラヒドロフラン(400g)で洗浄した。濾液を真空中で濃縮し、次いで、残留物をフラッシュオーバー蒸留(flash-over distillation)によって精製した。留出物は、生成物及び未反応のカンナビジオール(9:1混合物、8.4g)を透明な粘性液体として含有していた。分析データ:25℃におけるR.I. 1.453;d=1.001g/mL;FTIR(cm-1):3458、2958、2927、2857、1622、1574、1436、1376、1251、1037。
【0035】
実施例4:溶解性の研究
[0036]式(I)を有するカンナビジオール単離物(CBD)並びに上記の実施例1、2及び3で記述した通りの3つのシリル化CBD誘導体を、若干数の最も一般的な油及びシリコーンへの溶解性について室温で評価し、データを以下の表1にまとめる(「S」=可溶性、「I」=不溶性)。CBD単離物はすべての油に可溶性であり、すべてのシリコーン及び水に不溶性であったと結論付けることができる。CBD誘導体は水に不溶性であり、油及びシリコーンの両方に可溶性であった(実施例1の誘導体については加熱が必要とされた)。実施例2の誘導体は、ヒマシ油に部分的にのみ可溶性であった(部分加熱しながらでも)。故に、ケイ素含有基の存在は、試験したすべてのシリコーンにおいてCBDの溶解性を増大させた。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例5:徐放性カンナビジオール組成物の調製及び分析
[0037]実施例3において調製された5gのトリシロキサニル-カンナビジオール生成物(IV)及び5gのn-プロピルヘプタメチルトリシロキサン(Gelestから市販されている)を20mlのバイアルに添加することによって、溶液を調製した。試料1は、一片のシリコーンエラストマー(1.5cm×2.5cm、0.35g、Gelestから市販されている)を、溶液を含有する20mlのバイアルに挿入し、バイアルを、蓋を閉めて30分間静置して、溶液をエラストマーに吸収させることによって、調製した。試料2(対照)は、同一のシリコーンエラストマー片であり、このエラストマーを、ヘンプシードオイルを含有する20mlのバイアルに挿入し、蓋を閉めて30分間静置して、ヘンプオイルをエラストマーに吸収させた。
【0038】
[0038]30分後、試料1及び2をバイアルから取り出し、ティッシュペーパーを使用して過剰な溶液を除去し、得られたシリコーン片を秤量及び目視検証した。試料1は、不透明から黄色を帯びた透明に変色し、重量を400%だけ増大させ(現在1.41gの重量である)、2×3cmに膨張した。試料2は、色、重量又はサイズのいずれも変化させなかった。
【0039】
[0039]試料1を水中で3回連続して洗浄した。各洗浄について、10gのDI水を含有するバイアルに試料を入れ、10秒間振とうした。各洗浄液からの水を収集し、ヘキサン中20%酢酸エチルを使用する基本的な薄層クロマトグラフィー(TLC)方法を使用して、CBDの存在について分析した。CBD単離物を、トリシロキサニル-カンナビジオール生成物(IV)の加水分解された試料及び3つすべての洗浄液と比較した。プレートは、CBD単離カラム中に1つの暗褐色の点を示した。他のすべての試料は、他の4つの点に加えて、非誘導体化CBDの形成を指し示すCBD単離出発材料のような褐色の点を示した。これは、すべての洗浄液が、上記の概略図に示されている通り、シリル化カンナビジオールが加水分解を受けてCBDを放出したことの証拠である、CBDを含有していることを証明した。
【0040】
[0040]当業者には、上述した実施形態に、実施形態の幅広い発明概念から逸脱することなく、変更を加え得ることが分かるであろう。また、本開示に基づき、当業者は、上記で例証されている成分の相対的割合が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、変動し得ることをさらに認識するであろう。したがって、本発明は、開示されているその特定の実施形態に限定されず、添付の請求項によって定義される通りの本発明の趣旨及び範囲内に修正形態を網羅することが意図されていると理解される。