(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】バクテリオファージの保存のための組成物またはマトリックス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20221012BHJP
C12N 7/00 20060101ALI20221012BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221012BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20221012BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221012BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20221012BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20221012BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20221012BHJP
C12N 11/12 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12N7/00
C12Q1/02
A61K35/76
A61P43/00
A61K9/10
A61K9/70
A61K47/38
C12N11/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019152284
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2021-03-09
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】スクルニク ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】キリユネン サイヤ
(72)【発明者】
【氏名】パトパティア シータル
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン マルクス
(72)【発明者】
【氏名】パーソネン ラウリ
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-519791(JP,A)
【文献】特表2013-541956(JP,A)
【文献】Biomacromolecules, 2011,Vol.12, No.4, pp.970-976
【文献】Cellulose, 2017, Vol.24,pp.4581-4589
【文献】Biomacromolecules,2013年,Vol.14,pp.613-617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
C12Q
A61K 9
A61K 47
A61L 15
A61K 35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージおよびナノフィブリルセルロースを湿潤または乾燥状態で含み、前記ナノフィブリルセルロースが、天然ナノフィブリルセルロースを含む、または天然ナノフィブリルセルロースである、
バクテリオファージを保存、培養、輸送および/または送達するための組成物またはマトリックス。
【請求項2】
前記組成物またはマトリックスが湿潤状態であり、ヒドロゲルまたは膜の形態である、請求項1に記載の組成物またはマトリックス。
【請求項3】
前記組成物またはマトリックスが乾燥状態であり、任意に膜の形態である、請求項1または2に記載の組成物またはマトリックス。
【請求項4】
前記バクテリオファージが、前記マトリックス中のバクテリオファージ粒子として2次元または3次元配置で少なくとも部分的に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物またはマトリックス。
【請求項5】
バクテリオファージを保存、培養、輸送および/または送達するための製品であって、固体支持体、および前記固体支持体上に配置された湿潤または乾燥状態でのナノフィブリルセルロースを含む組成物またはマトリックスを含み、前記ナノフィブリルセルロースが、天然ナノフィブリルセルロースを含む、または天然ナノフィブリルセルロースである、製品。
【請求項6】
固体支持体と、前記固体支持体上に配置された請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物またはマトリックスとを含む、製品。
【請求項7】
前記固体支持体がマルチウェルプレートであり、前記組成物またはマトリックスが前記マルチウェルプレートの1つ以上のウェルに配置されている、請求項5または6に記載の製品。
【請求項8】
前記製品が医療用多層製品であり、前記固体支持体が層の形態であり、前記組成物またはマトリックスが前記固体支持体上の層として配列されるか、または前記固体支持体内に含浸される、請求項5または6に記載の製品。
【請求項9】
バクテリオファージを貯蔵、培養、輸送および/または送達するための方法であって、前記方法が、前記バクテリオファージをナノフィブリルセルロースと混合するステップを含み、前記ナノフィブリルセルロースが、天然ナノフィブリルセルロースを含む、または天然ナノフィブリルセルロースである、方法。
【請求項10】
前記方法が、組成物またはマトリックスを乾燥するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物もしくはマトリックス、または請求項6~8のいずれか一項に記載の製品を調製する方法であって、前記方法は、バクテリオファージをナノフィブリルセルロースと混合するステップを含む、方法。
【請求項12】
バクテリオファージを増殖させ、かつ/またはバクテリオファージが原核細胞に感染する能力を試験する方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物もしくはマトリックス、または請求項6~8のいずれか一項に記載の製品の前記組成物もしくはマトリックスに原核細胞を添加するステップと、
原核細胞を培養するのに適した条件で前記組成物、マトリックスまたは製品を維持し、それによって前記バクテリオファージが前記原核細胞に感染することを可能にするステップと
を含む、方法。
【請求項13】
バクテリオファージを貯蔵、培養、輸送および/または送達するための、ナノフィブリルセルロースを含む組成物またはマトリックスの、湿潤または乾燥状態での使用であって、
前記ナノフィブリルセルロースが、天然ナノフィブリルセルロースを含む、または天然ナノフィブリルセルロースである、前記使用。
【請求項14】
治療に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物もしくはマトリックス、または請求項6~8のいずれか一項に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物またはマトリックス、組成物またはマトリックスの配列、方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージについては、研究の対象および生物学的防除のための潜在的な薬剤としての関心が高まっている。例えば、バクテリオファージの使用は、抗生物質の使用に取って代わるかまたは補足することを意図した新たな治療分野である。効果的なバクテリオファージ処置には、標的細菌株に感染することができる適切なバクテリオファージの使用が必要である。バクテリオファージライブラリーは、適切なバクテリオファージをスクリーニングするために使用することができる。
【0003】
このような用途のためには、バクテリオファージの生存性を維持しながら、長期間にわたってさえもバクテリオファージを保存し、輸送、すなわち、ある場所から別の場所へ出荷することができることが重要である。バクテリオファージは、保存中および出荷中も生存し、尚生存可能であるべきである。
【0004】
塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、トリスおよびゼラチンを含むSM緩衝液は、バクテリオファージの保存に使用されている。バクテリオファージを長期間にわたってさえも保存し、維持し、送達するための改良された方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
湿潤または乾燥状態におけるバクテリオファージおよびナノフィブリルセルロースまたはその誘導体を含む組成物またはマトリックスを開示する。
【0006】
添付の図面は、実施形態のさらなる理解を提供し、本明細書の一部を構成するために含まれ、様々な実施形態を例示する。図面中:
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、GrowDex(登録商標)の存在下での大腸菌123789(#5507)成長の例示的結果を示す。
【
図2】
図2は、黄色ブドウ球菌株19A2(#6433)においてGrowDex(登録商標)中に保存されたΦEBHTの例示的結果を示す。
【
図4】
図4は、異なるバクテリオファージの生存性に及ぼす湿式1%GrowDexおよびSM緩衝液中での保存の影響を示す。
【
図5】
図5は、乾燥GrowDex(登録商標)中に保存された黄色ブドウ球菌株19A2に感染するΦEBHTの例示的結果を示す。
【
図6】
図6は、1%および0.5%NFC中ならびにSM緩衝液中に24時間および8週間保存されたfRuSau02の例示的結果を示す。
【
図7】
図7は、大腸菌123738(#5521)におけるfHoEco02および黄色ブドウ球菌19A2(#6433)におけるΦEBHTの輸送試験の結果を示す。
【
図8】
図8は、細菌成長に対する他の市販のヒドロゲルの効果を示す。
【
図9】
図9は、他の市販のヒドロゲル中およびGrowDex(登録商標)中に保存された黄色ブドウ球菌株13KPに感染するfRuSau02の例示的結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
湿潤または乾燥状態におけるバクテリオファージおよびナノフィブリルセルロースまたはその誘導体を含む組成物またはマトリックスを、開示する。
【0009】
ナノフィブリルセルロースまたはその誘導体の存在は、たとえ長期間であっても、種々のバクテリオファージを保存することを可能にするようである。したがって、例えば、スクリーニングおよび治療目的のために、バクテリオファージを保存し、中央ファージライブラリー研究室から臨床研究室へ出荷することが可能であろう。
【0010】
当該組成物またはマトリックスの取り扱いも比較的容易であり、例えば組成物またはマトリックスを取り扱うか、保存するかまたは輸送する場合の汚染および交差汚染のリスクを低減することができる。
【0011】
当該組成物またはマトリックスおよび方法は、種々の異なるタイプのバクテリオファージに適し得る。
【0012】
さらに、当該組成物またはマトリックスを用いて、医学および治療目的で対象にバクテリオファージを送達してもよい。組成物またはマトリックスは、植物由来の材料または微生物に由来する材料に基づくことができ、したがって必ずしも動物に由来するいかなるものも含まなければならないわけではない。
【0013】
当該組成物またはマトリックスは、例えば、ある種の他のゲル様材料、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムを含むヒドロゲルおよび他の成分、例えばアルギン酸カルシウムまたはプロピレングリコールよりも有意に良好に作用することが見出されている。
【0014】
ナノフィブリルセルロースは、組成物またはマトリックス上またはその中の細菌の増殖に有意な影響を及ぼさないようである。したがって、組成物またはマトリックスは、例えば原核細胞懸濁液、例えば細菌懸濁液の形態の原核細胞、例えば細菌を添加し、続いて成長および/または増幅させる媒体として使用することができる。組成物またはマトリックス上またはその中の原核細胞の成長を観察することによって、バクテリオファージが原核細胞に感染することができるか否かを決定することが可能であり得る。
【0015】
用語「バクテリオファージ」および「ファージ」は、互換的に使用され得る。それらは、原核細胞、すなわち細菌および/または古細菌に感染することができるウイルスを指し得る。バクテリオファージの形状および遺伝物質はさまざまであり得る。例えば、バクテリオファージは、正二十面体、八面体または繊維状であるキャプシドを有し得る。バクテリオファージはまた、頭尾構造を有し得、例えば正二十面体キャプシド(頭部)、尾部、および任意に他の部分、例えばカラーを含むことができる。用語「バクテリオファージ(a bacteriophage)」または「バクテリオファージ(the bacteriophage)」は、1種以上のバクテリオファージの種、および/または1種以上のバクテリオファージ粒子を指し得る。
【0016】
本明細書の文脈において、原核細胞は、細菌および/または古細菌を含んでもよく、またはそれであってもよい。原核細胞は、それらがバクテリオファージのための宿主細胞として機能することができるように選択され得る。
【0017】
本組成物またはマトリックスが好適であり得るバクテリオファージの例には、カウドウイルス目(ミオウイルス科、シホウイルス科、ポドウイルス科を含む)およびリガメンウイルス目(Ligamenvirales)(リポトリクスウイルス科、リジウイルス科);ならびにアンプルアウイルス科、ビコーダウイルス科、クラバウイルス科、コルチコウイルス科、シストウイルス科、フセルロウイルス科、グロブロウイルス科、ガットウイルス科、イノウイルス科、レビウイルス科、ミクロウイルス科、プラズマウイルス科、および/またはテクチウイルス科が含まれる。組成物またはマトリックス、方法および使用は、バクテリオファージのいかなる目、科または種にも特に限定されない。しかし、ある種のバクテリオファージには他のバクテリオファージよりも良好に適しているかもしれない。
【0018】
バクテリオファージは、原核細胞に感染し、その後その中で増幅することができる場合には生存可能であると考えられ得る。バクテリオファージの生存性は、例えば、実施例に記載されているように試験することができる。
【0019】
ナノフィブリルセルロースは、植物由来のセルロース原料から調製することができる。原料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づくことができる。植物材料は、例えば、木材であってもよい。木材は、軟材木、例えばトウモロコシ、松、モミ、カラマツ、ダグラスモミもしくはヘムロックから、または硬材木、例えばカバ、アスペン、ポプラ、アルダー、ユーカリ、オーク、ブナシもしくはアカシアから、または軟材と硬材の混合物からであってもよい。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例として、広葉樹はシラカバである。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、軟材パルプから得られる。
【0020】
ナノフィブリルセルロースは植物材料でできていてもよい。一例として、フィブリルは、非実質植物材料から得られる。このような場合には、フィブリルは二次細胞壁から得られてもよい。このようなセルロースフィブリルの豊富な供給源の1つは、木繊維である。植物起源のセルロースパルプの最小セルロース実体、例えば木材は、セルロース分子、エレメンタリーフィブリル、およびマイクロフィブリルを含む。マイクロフィブリル単位は、表面の自由エネルギーを減少させる機構として、物理的に条件付けされた合体によって引き起こされるエレメンタリーフィブリルの束である。
【0021】
ナノフィブリルセルロースは、化学パルプであり得る木材由来の繊維状原料を均質化することによって製造することができる。セルロース繊維を崩壊させて、直径が200nmまで、または50nmまで、例えば1~200nmまたは1~100nmの範囲であり得、水中にフィブリルの分散を与えるフィブリルを作製することができる。フィブリルは、大部分のフィブリルの直径が2~20nmの範囲にある規模に縮小することができる。二次細胞壁に由来するフィブリルは本質的に結晶性であり得、結晶性の程度は少なくとも55%である。このようなフィブリルは、一次細胞壁に由来するフィブリルとは異なる性質を有し得る。例えば、二次細胞壁に由来するフィブリルの脱水は、より困難であろう。
【0022】
本明細書の文脈において、「ナノフィブリルセルロース」という用語は、セルロースベースの繊維原料から分離されたセルロースフィブリルまたはフィブリル束を指すことができる。これらのフィブリルは高いアスペクト比(長さ/直径)を特徴とし、長さは1μmを超過し得、一方直径は典型的に200nmより小さいままである。最小のフィブリルはいわゆるエレメンタリーフィブリルのスケールにあり、その直径は典型的には2~12nmの範囲である。フィブリルの寸法およびサイズ分布は、精製方法および効率に依存し得る。ナノフィブリルセルロースは、粒子(フィブリルまたはフィブリル束)の長さの中央値が50μm以下、例えば1~50μmの範囲で、粒子径が1μm未満、例えば2~500nmの範囲で、セルロース系材料として特徴づけられ得る。天然のナノフィブリルセルロースの場合、一実施形態において、フィブリルの平均直径は、5~100nmの範囲、例えば10~50nmの範囲である。無傷の非フィブリル化ミクロフィブリル単位が、ナノフィブリルセルロースに存在し得る。本明細書の文脈において、用語「ナノフィブリルセルロース」は、非フィブリル状、棒状セルロースナノ結晶またはウィスカーを包含することを意味しない。
【0023】
ナノフィブリルセルロースに関連する命名法は現在のところ一様ではなく、文献では用語が一貫して使用されていない可能性がある。例えば、以下の用語は、ナノフィブリルセルロースの同義語として使用されている可能性がある:セルロースナノファイバー(CNF)、ナノフィブリルセルロース、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、ナノセルロース、ナノスケールフィブリル化セルロース、ミクロフィブリルセルロース、セルロースミクロフィブリル、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)、およびフィブリルセルロース。
【0024】
ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積と強い水素結合形成能を特徴とする。水分散において、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、淡い、または濁ったゲル様物質のいずれかとしての外見を呈する。繊維原料にもよるが、ナノフィブリルセルロースには、他の木材成分、例えばヘミセルロースまたはリグニンも少量含まれ得る。その量は植物源に依存する。
【0025】
ナノフィブリルセルロースの異なるグレードは、(i)サイズ分布、長さおよび直径;(ii)化学組成;ならびに(iii)レオロジー特性の3つの主要な特性に基づいて分類することができる。グレードを完全に記述するために、特性を並行して使用することができる。異なるグレードの例としては、天然(または非修飾)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFCおよびカチオン化NFCが挙げられ得る。これらの主要な等級の中には、例えば、極度に良好にフィブリル化されている対中等度にフィブリル化されている、高度の置換対低度、粘度が低い対粘度が高いなど、下位等級も存在し得る。フィブリル化技術および化学的前修飾は、フィブリル径分布に影響を及ぼし得る。典型的には、非イオン性グレードは、より広いフィブリル直径(例えば、10~100nm、または10~50nmの範囲)を有し得、一方、化学的に修飾されたグレードは、より薄くなり得る(例えば、2~20nmの範囲)。フィブリル寸法の分布は、改良グレードについてもより狭い可能性がある。ある種の修飾、特にTEMPO酸化は、より短いフィブリルを生じる可能性がある。
【0026】
本明細書の文脈において、「ナノフィブリルセルロース」という用語は、ナノフィブリルセルロースの誘導体を指すものとして理解することもできる。
【0027】
原料源、例えば広葉樹(HW)対軟材(SW)パルプに依存して、種々の多糖類組成物が最終的なナノフィブリルセルロース生成物中に存在し得る。一般的に、非イオン性グレードは、高いキシレン含有量(25重量%)を生じ得る、白化したシラカバパルプから調製される。改良グレードは、HWまたはSWパルプのいずれかから調製され得る。このような改良されたグレードでは、ヘミセルロースもセルロースドメインと共に修飾され得る。変形例は均一でないことがある。すなわち、ある部分は他の部分よりも大きい程度に変形され得る。したがって、詳細な化学分析は可能ではないかもしれない-修飾された生成物は、典型的には種々の多糖構造の複雑な混合物である。
【0028】
フィブリルまたはフィブリル束の寸法は、原料および崩壊法に依存し得る。セルロース原料の機械的崩壊は、任意の適切な装置、例えば精製機、粉砕機、分散機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、ピンミル、回転子-回転子ディスペルガーター、超音波破砕機、流動化器、例えばマイクロ流動化器、マクロ流動化器または流動化器型ホモジナイザーで実施することができる。崩壊処理は、繊維間の結合の形成を防止するのに十分な水が存在する条件で行うことができる。
【0029】
一実施形態では、少なくとも1つのロータ、ブレード、または類似の移動する機械的部材、例えば回転子-回転子ディスペルガーターを有する分散機を用いて崩壊を行う。回転子-回転子ディスペルガーターの一例は、Atrex装置である。
【0030】
崩壊に適した装置の別の例は、ピンミル、例えばマルチペリフェラルピンミルである。このような装置の一例は、米国特許第6202946 B1号に記載されている。
【0031】
一実施形態では、ホモジナイザーを用いて崩壊を行う。
【0032】
本明細書の文脈において、「フィブリル化」という用語は、一般に、粒子に適用される作業によって機械的に繊維材料を崩壊させ、それによって、繊維または繊維断片からセルロースフィブリルが分離されることを指し得る。作業は、種々の作用、例えば粉砕(grinding)、粉砕(crushing)もしくはせん断、またはこれらの組み合わせ、または粒子径を減少させる別の対応する作用に基づいてもよい。精製作業にかかるエネルギーは、通常、加工される原料量当たりのエネルギーの用語において、例えば、kWh/kg、MWh/トン、またはこれらに比例した単位で表すことができる。「崩壊」または「崩壊処理」という表現は、「フィブリル化」と同義に使用することができる。繊維化に供される繊維材料分散体は、繊維材料と水(または水溶液)との混合物であってよく、本明細書では「パルプ」とも呼ばれる。繊維材料分散体は、一般に、それらから分離された全繊維、部分(断片)、フィブリル束、または水と混合されたフィブリルを指し得、典型的には、水性繊維材料分散体は、そのような要素の混合物であり、成分間の比率は、加工の程度または処理段階、例えば、同一バッチの繊維材料の処理の回数または「ローパスフィルタ」に依存する。
【0033】
水性環境において、ナノフィブリルセルロースの分散体またはその誘導体は、粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成することができる。ゲルは、比較的低濃度、例えば0.05~0.2%(w/w)の、分散および水和した絡み合ったフィブリルで形成され得る。NFCヒドロゲルの粘弾性は、例えば、動的振動レオロジー測定によって特徴づけられ得る。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示し得る。例えば、それらは、せん断間引き(shear-thinning)または偽可塑性の物質であり、その粘度は材料が変形する速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメータで粘度を測定すると、せん断間引き挙動はせん断速度の増加に伴う粘度の減少として見られる。ヒドロゲルは可塑的挙動を示し、物質が容易に流れ始める前に一定のせん断応力(力)が必要であることを意味する。この臨界せん断応力は、しばしば降伏応力と呼ばれる。降伏応力は、応力制御レオメーターで測定した定常状態流曲線から決定できる。粘度を応用せん断応力の関数としてプロットすると、臨界せん断応力を超えた後に粘度の劇的な低下が見られる。ゼロせん断粘度および降伏応力は、材料の懸濁力を記述するための最も重要なレオロジーパラメータであり得る。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを至って明確に分離し、したがって、グレードの分類を可能にし得る。
【0034】
ナノフィブリルセルロースはまた、平均直径(もしくは幅)、または粘度、例えばブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度と共に平均直径によって特徴づけられる。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、1~100nmの範囲のフィブリルの数平均直径を有する。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲のフィブリルの数平均直径を有する。一実施形態では、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースのように、2~15nmの範囲のフィブリルの数平均直径を有する。フィブリルの直径は、いくつかの技術、例えば顕微鏡検査を用いて測定することができる。フィブリルの厚さおよび幅の分布は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、例えば低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像解析によって測定することができる。一般に、AFMおよびTEMは、フィブリル直径分布が狭いナノフィブリルセルロースグレードに良好に適し得る。
【0035】
ナノフィブリルセルロースの粘度は、レオメータを用いて測定することができる。一例において、ナノフィブリルセルロース分散液のレオメーター粘度を、直径30mmの円筒状試料カップに狭いギャップベーン形状(直径28mm、長さ42mmのベーン)を備えた応力制御回転式レオメーター(AR-G2、TA Instruments、英国)で22℃で測定する。サンプルをレオメーターに負荷した後、測定を開始する前に5分間安静にさせる。定常状態の粘度は、次第に増加するせん断応力(印加トルクに比例)で測定し、せん断速度(角速度に比例)を測定する。一定のせん断応力で報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に達した後、または2分の最大時間の後に記録される。せん断速度が1000s-1を超えると測定が停止する。この方法は、ゼロせん断粘度の測定に使用できる。
【0036】
一例において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散させると、1000~100000Pa・sの範囲、例えば5000~50000Pa・sの範囲のゼロせん断粘度(小さいせん断応力で一定の粘度の「プラトー」)、および水性媒体中の0.5重量%(w/w)のコンシステンシーでの回転式レオメーターによって決定して1~50Paの範囲、例えば3~15Paの範囲の降伏応力(せん断ひずみが始まるところのせん断応力)を提供する。
【0037】
ナノフィブリルセルロースは、水中0.5w%の濃度に分散した場合、0.3~50Paの範囲の保存弾性率を有し得る。例えば、保存係数は、水中0.5w%の濃度に分散させた場合、1~20Paの範囲、または2~10Paの範囲にあり得る。
【0038】
濁度とは、一般に肉眼では見えない個々の粒子(総浮遊物または溶解物)に起因する流体の混濁または濁り(haziness)である。濁度の測定にはいくつかの実用的な方法があり、最も直接的な方法は、水のサンプルカラムを通過するときの光の減衰(すなわち、強度の低下)の何らかの尺度である。代替的に使用されるJackson Candle方法(単位:Jackson Turbidity UnitまたはJTU)は、本質的に、それを通して見たロウソク火炎を完全に不明瞭にするのに必要な水柱の長さの逆測定である。
【0039】
濁度は、光学濁度測定機器を用いて定量的に測定することができる。濁度を定量的に測定する市販の濁度計がいくつかある。本場合においては、比濁法に基づく方法を用いた。検量された比濁計からの濁度の単位を、比濁度単位(Nephelometric Turbidity Units:NTU)と呼ぶ。測定装置(濁度計)は、標準の校正サンプルで校正および制御し、続いて希釈されたNFCサンプルの濁度を測定する。濁度測定法では、ナノフィブリルセルロース試料を水で希釈し、前記ナノフィブリルセルロースのゲル点より低い濃度にし、希釈試料の濁度を測定してもよい。ナノフィブリルセルロース試料の濁度を測定する濃度は、0.1%であり得る。濁度の測定には、50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計を使用してもよい。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物を測定し、乾燥物として計算した試料0.5gを測定容器に負荷することができ、それを500gまで水道水で満たし、約30秒間振り混ぜて激しく混合することができる。水性混合物を遅らせずに、5つの測定容器に分けることができ、それを濁度計に挿入する。各容器について3回の測定を行うことができる。得られた結果から平均値および標準偏差を算出し、最終結果をNTU単位で表すことができる。
【0040】
ナノフィブリルセルロースを特徴づける1つの方法は、粘度および濁度の両方を定義することである。低濁度は、小フィブリルが光をあまり散乱しないので、小径のようなフィブリルの小サイズと相関し得る。一般にフィブリル化度が増すにつれて粘度は増加し、同時に濁度は減少する。しかしながら、これはある時点まで起こり得る。フィブリル化がさらに続くと、フィブリルは最終的に破れ始め、これ以上強固なネットワークを形成することはできない。したがって、この時点以降、濁度および粘度の両方が低下し始め得る。
【0041】
一例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は90NTUよりも低く、例えば、水性媒体中で0.1%(w/w)のコンシステンシーで測定して、比濁法によって測定して3~90NTU、例えば5~60、例えば8~40である。一例において、天然のナノフィブリルセルロースの濁度は、さらに200NTUを上回ってもよく、例えば、水性媒体中で0.1%(w/w)のコンシステンシーで測定して、比濁法によって測定して10~220NTU、例えば20~200NTU、例えば50~200であってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴づけるために、これらの範囲を、ナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わせることができる。
【0042】
組成物またはマトリックスの調製のための出発物質は、上記繊維原料の一部の崩壊から直接得られるか、または得ることができるナノフィブリルセルロースであってもよく、崩壊条件により水中に均一に比較的低濃度で均一に分布するものであってもよい。出発物質は、0.2~10%(w/w)の濃度の水性ゲルであってもよい。
【0043】
組成物またはマトリックスは、ナノフィブリルセルロースまたはその誘導体の0.1~99.9%(w/w)を含み得る。組成物またはマトリックスのコンシステンシーまたはナノフィブリルセルロース含有量は、例えば、それが湿潤状態か乾燥状態かに依存し得る。乾燥状態の場合、組成物またはマトリックスは、例えば96~98%(w/w)のナノフィブリルセルロースを含み得る。組成物またはマトリックスのコンシステンシーまたはナノフィブリルセルロース含有量は、付加的または代替的に、その意図された用途に依存し得る。例えば、輸送目的のために、約0.8%以上、または約1%以上のコンシステンシーは、例えばヒドロゲルの形態で、または乾燥状態で、湿潤状態によく適していてもよい。このような組成物またはマトリックスは、充分な粘度を有し、したがって例えば固体支持体に良好に付着する。
【0044】
一実施形態では、組成物またはマトリックスは、湿潤状態にある。用語「湿潤状態」とは、本明細書の文脈において、組成物またはマトリックスが水および/または水溶液を含み、したがってナノフィブリルセルロースまたはその誘導体が水または水溶液と混合または分散する状態を指すことができる。例えば、組成物またはマトリックスは、10%(w/w)を超える水および/または水溶液を含み得る。代替的または追加的に、組成物またはマトリックスは、水および/または水溶液の20%(w/w)以上、または30%(w/w)以上、または40%(w/w)以上、または50%(w/w)以上を含み得る。水/水溶液含有量は、その後の使用および/または他の条件のための組成物またはマトリックスの湿潤度に依存し得る。水溶液は、バクテリオファージに適合する任意の水溶液、例えば緩衝溶液または生理食塩水(NaCl溶液)であってもよい。バクテリオファージと適合する緩衝液の例としては、SM緩衝液(100mM NaCl、10mM MgSO4、50mM Tris-HCl、pH7.5、0.002%(w/v)ゼラチン)およびファージ緩衝液(10mM Tris-HCl、pH7.5、10mM MgCl2、68mM NaCl)が挙げられる。例えば、緩衝液中のバクテリオファージは、得られた組成物またはマトリックスが、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルに由来する水または水溶液に加えてある量の緩衝溶液を含むように、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルと混合または懸濁され得る。一例において、緩衝液中のバクテリオファージを、1:2の体積比(すなわち、緩衝液中のファージの1体積およびヒドロゲルの2体積)でナノフィブリルセルロースヒドロゲルと混合または懸濁させることができる。さらなる実施形態では、Mg2+イオンは、組成物またはマトリックス中に含まれてもよく、それは、ファージの安定性を増強することができる。
【0045】
湿潤状態では、組成物またはマトリックスのコンシステンシーは特に限定されない。例えば、0.1~1.5%(w/w)の範囲のコンシステンシーは良好に適しているが、より高いコンシステンシーも考えられる。
【0046】
湿潤状態では、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルまたはその誘導体は、分散体の形態であってもよい。したがって、組成物またはマトリックスは、水または水溶液中のナノフィブリルセルロースヒドロゲルまたはその誘導体の水性分散体であってよく、任意に他の成分を含んでもよい。
【0047】
すでに述べたように、水性環境では、ナノフィブリルセルロースの分散液が粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成し得る。したがって、組成物またはマトリックスは、ヒドロゲルの形態であってもよい。このような実施形態では、バクテリオファージを単にヒドロゲルと混合または懸濁させることができる。
【0048】
組成物またはマトリックスは、一実施形態では湿潤状態であってもよく、ヒドロゲルまたは膜の形態であってもよい。
【0049】
一実施形態では、湿潤状態における組成物またはマトリックスは、層、コーティング、フィルム、シート、または膜の形態である。
【0050】
組成物またはマトリックスは、例えば、組成物またはマトリックスを湿潤状態で含む製品であってもよい。そのような生成物は、例えば、対象にバクテリオファージを送達する際に使用することを意図し得る医療組成物または製品であり得る。
【0051】
そのような組成物、マトリックスまたは生成物は、噴霧可能であり得る;その目的のために、組成物、マトリックスまたは生成物は、噴霧に適したコンシステンシーを有し得る。例えば、1.5%(w/w)まで、または0.1~1.5%(w/w)の範囲、または0.2~1%(w/w)の範囲のコンシステンシーが好適であり得る。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、高度にせん断間引きであり、したがってそれらは、比較的高いコンシステンシーでも噴霧可能であろう。このような組成物、マトリックスまたは製品は、例えば、局所処置に適していてもよい。それを、対象に噴霧し、バクテリオファージを含む薄層にすることができる。対象に組成物またはマトリックスを噴霧することは、対象にとって、例えばパッチまたは包帯を適用することよりも痛みが少ない可能性がある。他の実施形態では、組成物またはマトリックスは、例えば、局所的、経口的、舌下的、眼内的、腸管的、直腸的、皮下的、非経口的または粘膜付着的適用のためのヒドロゲルであり得る。
【0052】
組成物またはマトリックスは、一実施形態では、膜の形態であってもよい。
【0053】
このような膜は、バクテリオファージと緩衝液、例えば生理食塩水の混合物中にナノフィブリルセルロースを含む膜を湿潤させることによって調製することができる。このような膜はまた、例えば、バクテリオファージをナノフィブリルセルロース、例えばナノフィブリルセルロースと混合または懸濁させ、混合物の膜を形成することによって形成することができる。所望により、または必要であれば、混合物から水を除去してもよい。
【0054】
膜は、例えば、1~50%(w/w)のナノフィブリルセルロースを含んでもよい。膜の厚さは、例えば意図した用途に依存して変化し得る。例えば、膜の厚さは、1μm~5mm、1~1000μm、5~500μm、または50~300μmであってもよい。医療用品または医療用品の一部、例えば創傷治癒目的を形成する膜の厚さは、約10~100μmであり得る。このような膜は、固体支持体がない場合であっても、取扱い、保存、出荷等に適し得る。膜が、固体支持体上に、例えば多層医療用品の一部として、コーティングまたは層として、またはマルチウェルプレートのような固体支持体上に配置される実施形態では、膜の厚さは、わずか1~5μmであり得る。しかしながら、他の厚さもまた意図され得る。
【0055】
一実施形態では、組成物またはマトリックスは、乾燥状態にある。
【0056】
用語「乾燥状態」は、本明細書の文脈において、組成物またはマトリックスが水および/または10%(w/w)未満の水溶液を含む状態を指すことができる。言い換えれば、乾燥状態における組成物またはマトリックスの水分含量は、10%(w/w)よりも低い可能性がある。しかしながら、乾燥組成物またはマトリックスは、ある量の水分、例えば、1~10%(w/w)、または5~10%(w/w)、または1~5%(w/w)を尚含んでもよい。
【0057】
乾燥状態は、例えば、バクテリオファージとナノフィブリルセルロースの混合物を風乾することによって単純に達成することができる。様々な乾燥手順および/または手段が、代替的または追加的に使用され得る。乾燥中の温度および他の条件は変化し得るが、バクテリオファージの生存性が低下しないか、または有意に低下しないように条件を選択することができる。
【0058】
しかし、一部のバクテリオファージでは、他のバクテリオファージよりも乾燥が良好に作用し得る。例えば、比較的小さいファージは、大きなファージよりも良好に乾燥に耐えることができる。
【0059】
乾燥状態では、組成物またはマトリックスは、取り扱い、保存、輸送などがより容易であろう。その体積は減少し得、組成物またはマトリックスからの汚染のリスクは減少し得る。
【0060】
乾燥状態におけるそのような組成物またはマトリックスは、例えば、膜の形態であってもよい。そのような膜は、例えば、膜の形態で湿潤状態にある組成物またはマトリックスを乾燥させることによって得ることができる。このような膜は、固体支持体がない場合であっても、取扱い、保存、出荷等に適し得る。
【0061】
一実施形態では、乾燥状態における組成物またはマトリックスは、層、コーティング、フィルム、シート、または膜の形態である。
【0062】
一実施形態では、組成物またはマトリックスは、噴霧乾燥粒子の形態である。
【0063】
組成物またはマトリックスは、追加的または代替的に、噴霧可能な製品、組合せ製品、インプラント、経皮パッチまたは経口、舌下、局所、眼内、腸管、直腸、皮下、非経口もしくは粘膜付着用の製剤であってもよい。
【0064】
ナノフィブリルセルロースは、組成物またはマトリックス内に相互接続された細孔を有するNFCマトリックスを形成することができる。バクテリオファージは、マトリックス中のバクテリオファージ粒子として、2次元または3次元配置で少なくとも部分的に存在し得る。バクテリオファージ粒子は、マトリックス中に均一にまたは不均一に分布していてもよい。バクテリオファージ粒子の分布は、例えば、それらが組成物またはマトリックス中にどれだけ徹底的に懸濁または混合されるかに依存し得る。バクテリオファージ粒子は、比較的小さな物理的寸法を有し、例えば哺乳動物細胞よりも有意に小さいため、マトリックス内に比較的容易に分布し得る。同様に、それらは、マトリックスから比較的容易に放出され得る。バクテリオファージ粒子を放出するためにマトリックスを分解するためのいかなる特定の手順も使用する必要は何らないが、いくつかの実施形態では、使用することができる。
【0065】
崩壊した繊維状セルロース原料は、改質または非改質繊維状原料とすることができる。改質繊維原料とは、セルロースナノフィブリルが繊維からより容易に分離できるように、繊維が改質処理によって影響を受ける原料を意味する。改変は、液体、例えばパルプ中に懸濁液として存在する繊維状セルロース原料に対して実施することができる。
【0066】
繊維に対する修飾処理は、化学的または物理的であり得る。化学修飾では、セルロース分子の化学構造は、化学反応(セルロースの「誘導体化」)によって変化し、例えば、その結果、セルロース分子の長さは影響を受けないが、官能基はポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に付加される。セルロースの化学修飾はある変換度で起こり得、これは反応物の用量および反応条件に依存し、多くの場合、それは、セルロースがフィブリルとして固体形態にとどまり、水に溶解しないように完全ではない。物理的修飾では、アニオンもしくは非イオン性の物質、またはこれらのいずれかの組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着され得る。修飾処理は酵素的であってもよい。セルロースのイオン電荷は繊維の内部結合を弱める可能性があり、後にナノフィブリルセルロースへの崩壊を促進し得るため、繊維中のセルロースは、修飾後に特にイオン的に荷電し得る。イオン電荷は、セルロースの化学的または物理的修飾によって達成され得る。繊維は、出発原料に比べて修飾後のアニオン電荷が高い可能性がある。アニオン電荷を作製するために一般的に使用される化学修飾方法は、酸化を含み得、ここで水酸基がアルデヒドおよびカルボキシル基に酸化され、スルホン化およびカルボキシメチル化される。
【0067】
セルロースが酸化され得る。セルロースの酸化において、セルロースの第一ヒドロキシル基は、複素環式ニトロキシル化合物、例えば、一般に「TEMPO」と呼ばれる2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカルによって触媒的に酸化され得る。セルロース系β-D-グルコピラノース単位の第一水酸基(C6-水酸基)の少なくともいくつかは、カルボン酸基に選択的に酸化され得る。いくつかのアルデヒド基はまた、第一級水酸基から形成され得る。セルロースは、導電率滴定によって決定して0.6~1.4mmol COOH/gパルプの範囲、または0.8~1.2mmol COOH/gパルプ、例えば1.0~1.2mmol COOH/gパルプの酸化セルロース中のカルボン酸含有量を有するレベルに酸化され得る。このようにして得られた酸化セルロースの繊維を水中で崩壊させると、例えば幅3~5nmであり得る個別化されたセルロースフィブリルの安定した透明な分散体を与えることができる。
【0068】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースまたはその誘導体は、天然ナノフィブリルセルロースを含むか、またはそれである。天然のナノフィブリルセルロースは、バクテリオファージに良好に適しているようである。
【0069】
ナノフィブリルセルロースまたはその誘導体は、天然ナノフィブリルセルロースと、1つ以上の他のナノフィブリルセルロースの型またはグレードとの混合物でもよい。
【0070】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースなどの化学的に修飾されたナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースである。一実施形態では、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、酸化されたナノフィブリルセルロースである。一実施形態では、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、スルホン化されたナノフィブリルセルロースである。一実施形態では、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。
【0071】
組成物またはマトリックスは、さらに、他の成分、例えば生理活性剤または薬剤を含むことができる。そのような成分は、組成物もしくはマトリックスと混合されてもよく、またはマトリックス中に包含されてもよい。生物活性剤は、例えば、国際公開第2013/072563号(例えば、p.13、l.5~p.20、l.2)に開示されている生物活性剤のいずれか1つであり得、これは、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0072】
組成物またはマトリックスが抗感染剤または抗生物質を一切含んでいない場合が有益であり得る。一実施形態では、組成物またはマトリックスは中性である。一実施形態では、組成物またはマトリックスのpHは、5~9の範囲、または6~8の範囲である。
【0073】
バクテリオファージを保存、培養、輸送および/または送達するための配列が開示される。配列は、固体支持体と、固体支持体上に配列された湿潤または乾燥状態でナノフィブリルセルロースまたはその誘導体を含む組成物またはマトリックスとを含む。
【0074】
この配列との関連において、組成物またはマトリックスは、ナノフィブリルセルロースを含む任意の組成物もしくはマトリックス、または本明細書に記載されたその誘導体であってもよい。しかしながら、この文脈では、組成物またはマトリックスは必ずしもバクテリオファージを含んでいない-それを、保存、培養、輸送および/または送達のために後に添加してもよい。
【0075】
配列も開示されており、配列は、固体支持体と、固体支持体上に配列された本明細書に開示した1つ以上の実施形態による組成物またはマトリックスとを含む。
【0076】
以下に記載される任意の特徴は、上記の構成のうちの任意の1つに関連するものとして理解され得る。
【0077】
配列の固体支持体は、組成物またはマトリックスの取り扱い、出荷等を容易にし得る。それはまた、組成物またはマトリックスによる更なる動作を容易にすることができる。例えば、原核細胞懸濁液を、固体支持体上の組成物またはマトリックスに添加してもよい。次いで、配列上の原核細胞を成長および増幅させることができ、配列を観察して、組成物またはマトリックス中のバクテリオファージが原核細胞に感染し得るかどうかを決定することができる。
【0078】
固体支持体の形状、サイズおよび/または体積は、特に制限されない。例えば、それは、チューブ、バイアル、容器、シリンジ、またはボトルなどのレセプタクルであってもよい。このようなチューブおよびバイアルの例は、市販されている様々な形状およびサイズのプラスチックチューブおよびバイアルであってもよい。このようなチューブおよびバイアルは、例えば、スクリューキャップまたはスナップキャップを備えてもよい。例としては、15および50mlの遠心管、エッペンドルフ管、0.5~2mlのマイクロ遠心管などが挙げられ得る。レセプタクルのさらなる例は、例えば、マルチウェルプレート、バイオリアクター、足場、または3-Dマイクロ流体培養チップなどのプレートを含むことができる。
【0079】
固体支持体、例えばレセプタクルは、組成物またはマトリックスを受け、および/または含有するためのくぼみ、または複数のくぼみを有することができる。
【0080】
他の実施形態では、固体支持体は、単に、組成物またはマトリックスが配列され得る領域を有し得る。
【0081】
他の実施形態では、組成物またはマトリックスは、以下に説明するように、固体支持体、例えばガーゼに含浸させてもよい。
【0082】
6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレート、1536ウェルプレートなどのマルチウェルプレートが市販されており、固体支持体として良好に適し得る。このようなマルチウェルプレートは、プラスチック、例えばポリスチレンのような様々な材料で作ることができる。ウェルは、様々な異なる形状を有し得、例えば、それらは、丸い底部または平らな底部またはV底部を有し得る。
【0083】
一実施形態では、組成物またはマトリックスは、固体支持体上の複数の位置に配置される。異なるバクテリオファージを、個々の位置で組成物またはマトリックスに添加することができる。または、別の実施形態では、異なるバクテリオファージを含む複数の組成物またはマトリックスを、固体支持体上の個々の位置に配置することができる。一実施形態では、固体支持体はマルチウェルプレートであり、組成物またはマトリックスは、マルチウェルプレートの1つ以上のウェルに配置される。このような配列では、各々がバクテリオファージを含む複数の組成物またはマトリックスを、個々のウェルが異なるバクテリオファージを含むことができるように、マルチウェルプレートのウェル内に配置してもよい。
【0084】
このような配列は、従って、例えばバクテリオファージライブラリーを含むことができる。配列は、このように、例えば、バクテリオファージライブラリーを輸送および出荷するために、および/または、例えば、バクテリオファージのもの(複数可)が懸濁液(複数可)中の原核細胞に感染することができるスクリーニングのために、個々の組成物(複数可)またはマトリックス(複数可)に原核細胞懸濁液または複数の異なる原核細胞懸濁液を加えるために良好に適している。
【0085】
固体支持体、例えばレセプタクルは、組成物(複数可)またはマトリックス(複数可)を受け、および/または含有し、続いて原核細胞懸濁液および/または複数の異なる原核細胞懸濁液を受け、および/または含有するための、くぼみ、または複数のくぼみを有することができる。そのような実施形態では、原核細胞懸濁液(複数可)は、固体支持体および組成物(複数可)またはマトリックス(複数可)に直接添加することができ、その結果、組成物(複数可)またはマトリックス(複数可)中のバクテリオファージ(複数可)が原核細胞に感染することができる。
【0086】
配列は、バクテリオファージ(複数可)による拡散および/または汚染を防止するために、閉鎖可能であり、任意にまた密封可能であってもよい。例えば、マルチウェルプレートは、マルチウェルプレートのウェル(複数可)内にバクテリオファージ(複数可)を保持し、それがマルチウェルプレートの他のウェルを汚染する(交差汚染)ことを防止するために、閉鎖可能であり、かつ任意に密封可能であり得る。配列は、固体支持体のためのカバーをさらに含むことができる。例えば、マルチウェルプレートは、カバーまたは蓋を備えることができ、そのようなカバーまたは蓋は、例えば交差汚染を防止するために、ウェル(複数可)の端に適合するように適切に成形され得る。チューブ、ボトル、容器、またはバイオリアクターのような種々のレセプタクルには、例えば、レセプタクルを閉鎖するためのカバー、蓋、コルク、栓、キャップ、または他の適切な手段を設けることができる。
【0087】
組成物は、いくつかの実施形態において、湿潤状態または乾燥状態のいずれかで、膜または層の形態であり得る。
【0088】
組成物、マトリックスまたは配列は、医療用品であってもよい。
【0089】
一実施形態では、配列は医療用多層製品であり、固体支持体は層の形態であり、組成物またはマトリックスは固体支持体上に層として配列されるか、または固体支持体中に含浸される。
【0090】
本明細書に記載されている医療用品は、いくつかの用途で使用され得る。1つの特定の分野は、医療用途であり、医療用品は、皮膚などの生きている組織に適用され得る。医療用品は、例えば、パッチ、包帯、絆創膏、もしくはフィルターであってもよく、または上記のように、それは、噴霧可能なヒドロゲルの形態であってもよい。また、医療用品は、医薬を含有する治療用パッチなどの治療用製品であってもよい。組成物またはマトリックスを含む医療用品の表面は、その使用中に皮膚に接触することを意図してもよい。対象、例えば、対象の皮膚へのバクテリオファージの送達に良好に適した製品であることに加えて、ナノフィブリルセルロースまたはその誘導体を含む組成物またはマトリックスの表面が、対象の皮膚に直接接触している場合に有益な効果を提供することができる。例えば、それは、創傷または皮膚上の他の損傷の治癒を促進し得る;それは、バクテリオファージおよび/または他の物質の医療用品から皮膚への送達を促進し得る;またはそれは、細菌感染を処置または制御し得る。
【0091】
固体支持体は、例えば、ガーゼの層を含むかまたはそれであってもよい。
【0092】
組成物またはマトリックスは、バクテリオファージをナノフィブリルセルロースまたはその誘導体と混合することによって調製することができる。次いで、ガーゼの層を、組成物またはマトリックスで処理、例えば含浸させることができる。これは、たらい等に組成物またはマトリックスを設け、組成物またはマトリックスにガーゼを浸すかまたは浸漬することによって行うことができる。ガーゼは、組成物またはマトリックスがガーゼを含浸させるのに適した期間、組成物またはマトリックス中に保持することができ、次いで、ガーゼを組成物またはマトリックスから除去することができる。用語「含浸」とは、本明細書の文脈において、ガーゼが、ナノフィブリルセルロースを含む組成物またはマトリックスで、全体的に、または実質的に全体的に充填または浸漬されるプロセスを指すことができる。含浸において、ガーゼは、部分的または完全に、組成物またはマトリックスで充填し、染み込ませ、浸透させまたは飽和させてもよい。次に、湿潤ガーゼを押圧して過剰な組成物またはマトリックスおよび液体を除去し、組成物またはマトリックスのガーゼの構造への浸透を容易にすることができる。ガーゼは、織物、布または繊維を含む類似の材料のような任意の適切なガーゼであってもよい。ガーゼは、織布もしくは不織布、滅菌もしくは非滅菌、単純もしくは含浸、または有窓の(穿孔した、もしくはスリットを伴う)、またはそれらの組み合わせであり得る。ガーゼは、ガーゼシートもしくは布として、または同様の構造として提供され得る。そのような医療用品およびそれを調製するための方法は、例えば、国際公開第2017/174874号に記載されており、これは本明細書に全体として組み込まれる。
【0093】
固体支持体のための種々の他の固体支持体および材料を意図することができる。種々の合成ポリマー、生体化合物および天然ポリマーが好適であり得る。適切な材料の例としては、例えば、国際公開第2013/072563号(p.25、l.12~p.26、l.19)に記載されている支持材料があり、これらは全体として本明細書に組み込まれる。
【0094】
組成物またはマトリックスまたは配列が抗感染剤または抗生物質を一切含んでいない場合が有益であり得る。一実施形態では、組成物またはマトリックスは中性である。一実施形態では、組成物またはマトリックスのpHは、5~9の範囲、または6~8の範囲である。
【0095】
組成物、マトリックスまたは配列は、付加的または代替的に、医療機器、組合せ製品、インプラント、経皮パッチまたは経口、舌下、局所、眼内、腸管、直腸、皮下、非経口もしくは粘膜付着用の処方物であってもよい。
【0096】
バクテリオファージを保存、培養、輸送および/または送達するための方法が開示される。本方法は、バクテリオファージをナノフィブリルセルロースまたはその誘導体と混合し、それによってバクテリオファージおよびナノフィブリルセルロースまたはその誘導体を含む組成物またはマトリックスを得ることを含み得る。
【0097】
バクテリオファージを培養するために、バクテリオファージに適した原核細胞を組成物またはマトリックスに添加してもよい。好適な原核細胞は、バクテリオファージが感染することができ、かつそれらが増幅することができる原核細胞であってもよい。
【0098】
組成物またはマトリックスは、固体支持体上に配置してもよい。固体支持体は、本明細書に記載される任意の固体支持体であってもよい。
【0099】
一実施形態では、組成物またはマトリックスは、固体支持体上の複数の位置に配置される。種々のバクテリオファージを、組成物またはマトリックスに個々の位置で添加することができる。または、別の実施形態では、種々のバクテリオファージを含む複数の組成物またはマトリックスを、個々の位置に配置することができる。一実施形態では、固体支持体はマルチウェルプレートであり、組成物またはマトリックスは、マルチウェルプレートの1つ以上のウェルに配置される。このような配列では、各々がバクテリオファージを含む複数の組成物またはマトリックスを、個々のウェルが種々のバクテリオファージを含むことができるように、マルチウェルプレートのウェル内に配置してもよい。本方法は、したがって、バクテリオファージライブラリーを保存、培養、輸送および/または送達するのに適している。
【0100】
このような配列は、従って、例えばバクテリオファージライブラリーを含むことができる。
【0101】
本方法は、さらに、原核細胞懸濁液または複数の異なる細菌懸濁液を個々の組成物(複数可)またはマトリックス(複数可)に添加するステップを含むことができる。これにより、バクテリオファージの1つが懸濁液(複数可)中の原核細胞に感染することができるスクリーニングが可能となり得る。
【0102】
本方法は、組成物またはマトリックスを乾燥するステップをさらに含むことができる。乾燥は、例えば風乾により、すなわち組成物またはマトリックスを風乾させることにより行われ得る。乾燥中の温度および他の条件は変化し得るが、バクテリオファージの生存性が低下しないか、または有意に低下しないように条件を選択することができる。例えば、乾燥は室温で行うことができるが、例えばバクテリオファージに依存して、より低いまたはより高い温度も用いることができる。乾燥に要する時間は、例えば組成物またはマトリックスのコンシステンシー、その体積、条件等に依存し得る。10μlのような比較的少量であれば、室温で2時間以上乾燥すれば十分であろう。
【0103】
当該方法は、さらに、以下の1つ以上を含むことができる。
組成物もしくはマトリックスを保存するステップ;
バクテリオファージを培養するステップ;
組成物もしくはマトリックスを輸送するステップ;および/または
組成物もしくはマトリックスから目的箇所もしくは対象にバクテリオファージを送達するステップ。目的箇所は、例えば、原核細胞培養物であってもよい。
【0104】
組成物またはマトリックスは、例えば、室温または周囲温度、0~10℃、または2~8℃で保存することができる。室温よりも低い温度、例えば4℃での保存は、より高い温度、例えば室温での保存よりもファージの生存性をより良好に保存し得る。本明細書の文脈において、「室温」とは、18~25℃の範囲の温度、例えば20~22℃を指すことができる。
【0105】
本明細書に記載した1以上の実施形態による組成物もしくはマトリックスを調製する方法、または本明細書に記載した1以上の実施形態による配列を、開示する。本方法は、バクテリオファージをナノフィブリルセルロースまたはその誘導体と混合するステップを含み得る。バクテリオファージおよびナノフィブリルセルロースまたはその誘導体を含む組成物またはマトリックスを、それによって得ることができる。
【0106】
組成物またはマトリックスは、固体支持体上に配列させてもよい。固体支持体は、本明細書に記載する任意の固体支持体であってもよい。
【0107】
一実施形態では、組成物またはマトリックスは、固体支持体上の複数の位置に配置される。種々のバクテリオファージを、組成物またはマトリックスに個々の位置で添加することができる。または、別の実施形態では、種々のバクテリオファージを含む複数の組成物またはマトリックスを、個々の位置に配置することができる。一実施形態では、固体支持体はマルチウェルプレートであり、組成物またはマトリックスは、マルチウェルプレートの1つ以上のウェルに配置される。このような配列では、各々がバクテリオファージを含む複数の組成物またはマトリックスを、個々のウェルが種々のバクテリオファージを含むことができるように、マルチウェルプレートのウェル内に配置してもよい。このような配列は、従って、例えばバクテリオファージライブラリーを含むことができる。
【0108】
本方法は、組成物またはマトリックスを乾燥するステップをさらに含むことができる。
【0109】
バクテリオファージを増幅させる方法および/またはバクテリオファージが原核細胞に感染する能力を試験する方法も、開示する。本方法は、以下を含み得る。
本明細書に記載する1つ以上の実施形態による組成物もしくはマトリックス、または本明細書に記載する1つ以上の実施形態による配列の組成物もしくはマトリックスに原核細胞を添加するステップ、および
原核細胞を培養するのに適した条件で組成物、マトリックスまたは配列を維持し、それによってバクテリオファージが原核細胞に感染することを可能にするステップ。
【0110】
原核細胞は、細菌および/または古細菌を含んでもよく、またはそれらであってもよい。
【0111】
バクテリオファージを保存、培養、輸送および/または送達するための、ナノフィブリルセルロースまたはその誘導体を含む組成物またはマトリックスの湿潤または乾燥状態での使用を、開示する。
【0112】
本明細書に記載した1以上の実施形態による組成物もしくはマトリックス、または治療に使用するための本明細書に記載した1以上の実施形態による配列を、開示する。
【0113】
皮膚などの組織の損傷、傷害、疾患もしくは障害の処置に使用するための本明細書に記載した1以上の実施形態による組成物もしくはマトリックス、または本明細書に記載した1以上の実施形態による配列を、開示する。皮膚のこのような損傷または傷害には、例えば、開放創または閉鎖創が含まれ得る。
【0114】
細菌感染の処置に使用するための本明細書に記載した1つ以上の実施形態による組成物もしくはマトリックス、または本明細書に記載した1つ以上の実施形態による配列を、開示する。
【0115】
治療における本明細書に記載した1以上の実施形態による組成物もしくはマトリックス、または本明細書に記載した1以上の実施形態による配列の使用を、開示する。
【0116】
組織の損傷、傷害、疾患もしくは障害、または細菌感染の処置における本明細書に記載した1つ以上の実施形態による組成物もしくはマトリックス、または本明細書に記載した1つ以上の実施形態による配列の使用を、開示する。
【0117】
上述の方法および使用のいずれか1つとの関連において、組成物またはマトリックス、配列、およびバクテリオファージは、本明細書に記載する任意の具体的な実施形態を含めて、本明細書に記載する任意の組成物またはマトリックス、配列、またはバクテリオファージであり得ることが理解されるべきである。
【実施例】
【0118】
以下、種々の実施形態について詳細に参照し、その一例を添付の図面に例示する。
【0119】
以下の説明は、当業者が開示に基づいて実施形態を利用することができるような、いくつかの実施形態を詳細に開示する。本明細書に基づいて当業者にとって多くのステップまたは特徴が自明であろうので、実施形態の全てのステップまたは特徴が詳細に議論されるわけではない。
【0120】
例1-材料
以下の実施例では、「GrowDex」または「GrowDex(登録商標)」という用語は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルを指す。これらの実施例で使用されるGrowDexは、天然のナノフィブリルセルロースヒドロゲルである。
【0121】
天然NFC(GrowDex(登録商標))は、フィブリル化のための産業的流動化装置を用いた高圧均質化により、白化セルロースパルプから作られた。原料はパルプミルから無菌的に採取し、滅菌装置で均質化する前に徹底的に精製した。したがって、微生物純度は全製造工程を通じて維持された。精製したパルプ繊維を、フィブリル化前に滅菌した超高品質水で希釈した。ナノファイバーヒドロゲルは、フィブリル化直後に高圧蒸気滅菌した(121℃/20分)。実験に用いたGrowDexのコンシステンシーは1.5%(w/w)であった。
【0122】
実験に用いたバクテリオファージは、以下の通りであった。
fRuSau02(完全な名称vB_SauM_fRuSau02;Leskinen et.al.Viruses 2017,9,258;doi:10.3390/v9090258に記載されている)
ΦEBHT.出典:DSMZ,Germany(Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microgranisms and Cell Cultures)
fHoEco02(完全な名称vB_EcoM_fHoEco02;Kiljunen et al.2018,Genome Announc 6:e00401-18;https://doi.org/10.1128/genomeA.00401-18))
fTu-Eco01(未公表、本発明者らのコレクションより、下水から分離)
【0123】
バクテリオファージおよび実験に用いた組成物またはマトリックスを、SM緩衝液または必要に応じて0.9%NaClで希釈した。以下のバクテリオファージを、以下の細菌に用いた。
黄色ブドウ球菌13KP(#5676):fRuSau02の宿主
黄色ブドウ球菌19A2(#6433);ΦEBHTの宿主
大腸菌123738(#5521)、fHoEco02の宿主
大腸菌123789(#5507)、fTu-Eco01の宿主
【0124】
他の細菌株は、患者、感染源HUSLabから分離されるが、19A2は、ヘルシンキ大学獣医学部のAnnamari Heikinheimoによって健康なブタから分離された。
【0125】
例2-細菌成長に対するNFCヒドロゲルの効果
NFCヒドロゲルを、SM緩衝液または0.9%NaClのいずれかで、0(対照)、0.1、0.5、1.0および1.5%(w/w)のコンシステンシーに希釈した。希釈液の10μl滴を、96ウェルプレートのウェル上に分注した。細菌(大腸菌株123738(#5521)および123789(#5507)ならびに黄色ブドウ球菌株13KP(#5675)および19A2(#6433)の希釈一晩培養の200μlを、ウェル上に添加した。OD600を5時間追跡することにより細菌増殖をモニターした。
【0126】
図1は、大腸菌123789(#5507)の例示的な結果を示す。
【0127】
試験したすべての細菌は、すべてのGrowDexのコンシステンシーおよびNFC希釈剤として使用した両方の緩衝液において同等に良好に成長することがわかった。このことは、使用したコンシステンシーのNCFヒドロゲルが細菌の成長を阻害しないことを示している。
【0128】
例3-スポット試験におけるバクテリオファージの生存性に及ぼすNFCヒドロゲルの影響
バクテリオファージをSM緩衝液または0.9%NaClのいずれかで1:100に希釈し、両方のファージ希釈液を0.1、0.5、1.0および1.5%(w/w)のコンシステンシーでGrowDexヒドロゲルと混合した。SM緩衝液および0.9%NaClに保存したファージを、対照として用いた。得られた組成物を4℃で約2時間保存した。組成物を、SM緩衝液中または0.9%NaCl中で、それぞれ連続希釈(10-4、10-5、10-6および10-7)として希釈した。希釈した組成物の滴を、ペトリ皿で寒天上で成長させた細菌のローン上に置いた。ファージの細菌感染能を観察した。
【0129】
GrowDexを含む組成物の希釈は、SM緩衝液または0.9%NaClに保存したファージの希釈と同程度に生存可能であることがわかった。
図2は、黄色ブドウ球菌株19A2(#6433)におけるΦEBHTの例示的な結果を示す。したがって、ファージは希釈するとGrowDexマトリックスから良好に放出され、細菌に感染することができることがわかった。細菌に対するファージの特異性は、GrowDexの存在に影響されなかった。加えて、ファージ生存率は、SM緩衝液または0.9%NaClを希釈剤として用いたか否かに依存しなかった。
【0130】
例4-液体アッセイにおけるバクテリオファージの生存性に及ぼすNFCヒドロゲルの影響
実験設定の概略を
図3に示す。
【0131】
ファージ希釈液(1:100)を、GrowDex(1%、0.5%もしくは0.1%)またはSM緩衝液(対照)と、1:2の体積比で混合した。各混合液(組成物/マトリックス)10μlをマルチウェルプレートのウェルにピペットし、そのように保存する(湿潤GrowDex)か、層板内で室温で2~3時間風乾させた。湿潤組成物/マトリックスを有する板または乾燥した板を4℃で約2時間保存した後、各ウェルの組成物/マトリックスに希釈細菌液培養液200μlを加えた。細菌培養に対するファージの効果は、プレートを37℃でインキュベートし、0~5時間の間に各ウェル中のOD600を測定することによって観察した。
【0132】
湿式1%GrowDexおよびSM緩衝液の結果を
図4に示す。ファージを持たない細菌は良好に成長し、5時間以内に約0.5~0.7のOD600に達したが、バクテリオファージを添加したウェルでは目に見える細菌成長はなかった。このことは、ファージが使用した条件下で感染力を保持し、細菌培養物を加えるとNFCヒドロゲルから放出されることを示している。
【0133】
異なるコンシステンシーで湿潤GrowDexで同様の結果が観察された。
【0134】
例5-ファージ-NFCヒドロゲル混合物の乾燥がバクテリオファージの生存率に及ぼす影響
ファージ-NFCヒドロゲル混合物の乾燥の効果を、他の点では実施例4と同様の方法でマルチウェルプレート上で試験したが、10μl滴を、プレートを4℃で保存する前に、RTで2時間、バイオセーフティキャビネット内で風乾させた。黄色ブドウ球菌株19A2に感染するΦEBHTの例示的な結果を
図5に示す。24時間保存後、ファージは細菌成長を完全に阻害することができた。1週間および8週間の保存後、成長阻害は1%NFCに保存されたファージではあまり明白ではなかったが、0.5%組成物のファージおよびSM緩衝液ではなお明白であった。しかし、異なるファージは乾燥に対して異なった耐性を示し、その過程で不活性化されるファージもある。
【0135】
例6-長期保存がバクテリオファージの生存率に及ぼす影響
長期保存の影響は、実施例4と同様の方法でマルチウェルプレート上で試験した。GrowDex濃度1.0%、0.5%および0%を用い、SM緩衝液で希釈した。組成物/マトリックスは以下のように保存した。
- 湿潤ペレット(96ウェルプレート10μl、ホイル/プラスチックシールドで覆う)
- 液体形態(2mlマイクロ遠心管に保存)
【0136】
各配列は24時間、1週間、2週間、4週間、8週間または6か月間保存した。ここでも細菌培養を加え、OD600を0~5時間測定した。
【0137】
試験したすべてのファージはGrowDexでその生存性を良好に維持した。6か月の時点で、プレート上に保存された10μlの滴は乾燥し、ビッグミオウイルス(fHoEco02およびfRuSau02)はそれらの感染能を失った。しかし、この時点でさえ、2mlの管に保存されたファージはすべて完全に感染性であった。1%および0.5%NFC中ならびにSM緩衝液中に24時間および8週間保存したfRuSau02の例示的結果を
図6に示す。対照として、ファージを持たない宿主細菌黄色ブドウ球菌13KPの成長を示す。
【0138】
例7-出荷試験
上記のように調製したマルチウェルプレート(1%GrowDex、4つのテストファージ(黄色ブドウ球菌に特異的なファージ2つ、大腸菌に特異的なファージ2つ)を郵便で送付し、輸送には約3日を要した。7日後に測定した。輸送および保存中、プレートは室温、+4℃および-15℃で一部保存した。
【0139】
ファージの生存性を上記のように試験した。すべての試験ファージは完全に感染性であることがわかった。大腸菌123738(#5521)におけるfHoEco02および黄色ブドウ球菌19A2(#6433)におけるΦEBHTの結果を
図7に示す。
【0140】
例8-市販のヒドロゲルが細菌成長およびバクテリオファージ生存性に及ぼす影響
3種類の異なるヒドロゲル(GrowDex(登録商標)、Intrasite、およびPurilon(登録商標))の効果を、実施例2と同様の方法でマルチウェルプレート上で試験した。黄色ブドウ球菌株13KPの例示的結果を
図8に示す。GrowDexおよびIntrasiteは細菌成長に影響を及ぼさなかったが、Purilonは明らかな成長阻害を示した。同様の結果が、試験した4種類の細菌株すべてについて得られた。
【0141】
液体アッセイにおけるバクテリオファージ生存性に及ぼすヒドロゲルの影響を、実施例4と同様の方法で試験した。ファージおよびGrowDexを含むマルチウェルプレートを4℃で、ファージを他の2つのゲル(IntrasiteおよびPurilon)と共にRTで保存し、メーカーの推奨に従った。ファージ生存性試験前の保存時間は1週間であった。黄色ブドウ球菌株13KPに感染するfRuSau02の例示的結果を
図9に示す。1週間の保存後、NFC中4℃で保存したファージ(1%および0.5%)は完全に感染性であり、細菌成長を完全に阻害した。しかし、他のゲルにRTで保存されたファージはその感染能を失っていた。図はPurilonゲルによる13KPの成長阻害を示しているが、この阻害はおそらくゲル自体によるものであり、上述のようなファージによるものではない。
【0142】
技術の進歩に伴い、基本的な考え方が様々な方法で実施され得ることは、当業者にとって自明である。したがって、実施形態は、上記の実施例に限定されるものではなく、代わりに、特許請求の範囲内で変化し得る。
【0143】
前述の実施形態は、互いに任意の組み合わせで使用することができる。いくつかの実施形態を組み合わせて、さらなる実施形態を形成することができる。本明細書に開示した方法、製品、システム、または使用は、前述の実施形態の少なくとも1つを含み得る。上述の利益および利点は、1つの実施形態に関連し得るか、またはいくつかの実施形態に関連し得ることが理解されるであろう。実施形態は、記載した問題のいずれかもしくは全てを解決するもの、または記載した利益および利点のいずれかもしくは全てを有するものに限定されない。「1つの」項目への言及は、それらの項目の1つ以上を指すことが更に理解されるであろう。用語「含む」は、1以上の追加の特徴または作用の存在を除外することなく、その後に続く特徴(複数可)または作用(複数可)を含むことを意味するために本明細書において使用される。