(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】大腸菌コロニーの計数方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20221012BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N1/20 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021113207
(22)【出願日】2021-07-08
(62)【分割の表示】P 2018549134の分割
【原出願日】2016-12-06
【審査請求日】2021-08-06
(32)【優先日】2015-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】マッハ,パトリック エー.
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-507524(JP,A)
【文献】国際公開第2005/064016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/06
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養乳製品中に存在するガス産生大腸菌群を計数する方法であって、
既定量の前記乳製品
と、既定容量の
MOPSを含む希釈剤
とを含む混合物を形成することと、
前記混合物を薄膜培養デバイスに接種して、大腸菌群を増殖させるための栄養培地、有効濃度のラクトース、及び有効濃度のMOPSを含むヒドロゲルを形成することと、
大腸菌群の増殖を促進する条件下で前記接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることと、
前記接種済み培養デバイスに存在するガス産生コロニーを特定し計数することと
を含
み、
前記ヒドロゲル中のラクトースの前記有効濃度が0.5%(w/v)以上であり、前記ヒドロゲル中のMOPSの前記有効濃度が16mM以上である、方法。
【請求項2】
前記ヒドロゲル中のMOPSの前記有効濃度が40mM以下である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記希釈剤中の前記MOPSの前記濃度が25mM以上であり、かつ45mM以下である、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養乳製品が、ヨーグルト、サワークリーム、バターミルク、カード、レベン、カルピス、ケフィア、アイラン、カティーク、凝乳、及びカッテージチーズからなる群から選択される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロゲル中のラクトースの前記有効濃度が1.25%(w/v)以下である、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
ガス産生コロニーを計数することが、セラチア属のコロニーを計数することを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記薄膜培養デバイスに接種した後に、前記ヒドロゲルが、大腸菌群の増殖を促進する栄養培地を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記薄膜培養デバイスに接種した後に、前記ヒドロゲルが、非大腸菌群の増殖を阻害する選択剤を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記薄膜培養デバイスに接種する前に、前記培養デバイスが前記選択剤を含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記薄膜培養デバイスが、基材と、カバーシートと、前記基材と前記カバーシートとの間に配置された乾燥した再水和可能な冷水可溶性ゲル化剤とを備え、前記混合物を前記薄膜培養デバイスに接種して前記ヒドロゲルを形成することが、前記デバイスの前記カバーシート及び前記基材に接触する前記ヒドロゲルを形成することを含み、ガス産生コロニーを特定することが、前記ヒドロゲル中の前記コロニーに近接した空隙を観察することを含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒドロゲル中の前記空隙を観察することが、空隙を貫通する直線に沿って少なくとも0.5mmの寸法を有する空隙を観察することを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記空隙が、前記ヒドロゲル中で視覚的に検出可能な細菌コロニーから1.5mm以下離れて配置されている、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
ガス産生コロニーを計数することが、自動コロニー計数装置を使用して前記ガス産生コロニーを計数することを含む、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年12月7日に出願された米国仮特許出願第62/263,932号の優先権を主張するものであり、この開示内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
大腸菌群は、代謝的に関連した微生物の多様な一群である。この群は、乳汁中に見られる二糖であるラクトースを発酵させて、二酸化炭素ガスを含む一群の代謝副産物にする能力があることによって定義される。したがって、試料中の大腸菌群を直接かつ正確に計数する能力は、細菌の単離されたコロニーによるガス産生を検出する能力に左右される。
【0003】
薄膜培養デバイスは、好都合なことに、例えば、寒天培地を含有するペトリ皿を使用する従来の微生物計数技術の代わりに使用される。そのような薄膜培養デバイスのいくつかの例は、Hansenらの米国特許第4,565,783号及びMachらの同第5,364,766号に記載されており、これらの両特許は、参照によりその全体が本明細書に援用される。Hansenらによって報告された典型的なデバイスでは、ゲル化剤及び微生物増殖栄養素を含有する冷水可溶性の乾燥粉末が、防水性の基材にコーティングされる。このコーティングされた基材に、指示染料及び粉末状ゲル化剤を含有するアクリレート接着剤で表面がコーティングされた透明なリードスルー(read-through)カバーシートが取り付けられる。
【0004】
このデバイスを使用するときは、通常、コーティングされた基材に所定量の水性試料を接触させ、カバーシートを試料及び基材の上に置く。この水性試料が可溶性乾燥粉末を水和することで、可溶性乾燥粉末は、微生物の増殖を支えることのできるゲル化培地を形成する。増殖期間中、カバーシートに接着した指示薬の染料が生存可能な微生物の存在下で反応して、培養デバイスで増殖する細菌コロニーの可視化を可能にする検出可能な応答をもたらす。
【0005】
ガス産生細菌(例えばCO2産生大腸菌群)の検出については、Hansenらのデバイスの構成は、有利なことに、基材とカバーシートとの間のゲル化培地中のガス産生コロニーの近くに生体起源ガスを閉じ込める。
【発明の概要】
【0006】
本開示は一般に、大腸菌群に属する微生物の培養及び計数の方法に関する。加えて、本開示は、試料中の微生物を計数するためのデバイスに関する。特に、本開示は、薄膜培養デバイスにおいてガス産生大腸菌群を検出及び計数する改善された方法に関する。
【0007】
本開示は、培養乳製品中に存在するガス産生大腸菌群を計数する方法を提供する。本方法は、既定量の乳製品及び既定容量の希釈剤を含む混合物を形成することと、この混合物を薄膜培養デバイスに接種して、大腸菌群を増殖させるための栄養培地、有効濃度のラクトース、及び有効濃度のMOPSを含むヒドロゲルを形成することと、大腸菌群の増殖を促進する条件下で接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることと、接種済み培養デバイスに存在するガス産生コロニーを特定し計数することとを含み得る。
【0008】
本方法のいずれかの実施形態では、希釈剤は、MOPSを含み得る。いずれかの実施形態では、希釈剤中のMOPSの濃度は、20mM以上かつ50mM以下であり得る。
【0009】
「好ましい」及び「好ましくは」という語は、ある特定の状況下である特定の利益をもたらし得る本発明の実施形態を指す。しかしながら、同じ又は他の状況において他の実施形態が好ましい場合もある。更に、1つ以上の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを含意するものではなく、他の実施形態を本発明の範囲から排除することを意図するものでもない。
【0010】
本明細書において使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも1つの(at least one)」、及び「1つ以上(one or more)」は、互換的に使用される。したがって、例えば、「1つの(a)」微生物を検出する方法は、その方法が「1つ以上の(one or more)」微生物を検出し得ることを意味するものと解釈することができる。
【0011】
「及び/又は」という用語は、列記される要素のうちの1つ若しくは全て、又は列記される要素のうちの任意の2つ以上の組合せを意味する。
【0012】
また、本明細書において、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0013】
「薄膜培養デバイス」とは、本明細書で使用される場合、シート状のカバーシートに取り付けられたシート状の基材を備える培養デバイスを指し、この基材及びカバーシートはそれぞれ、内向き主表面及び外向き主表面を有する。基材及び/又はカバーシートの内向き主表面には、冷水可溶性ゲル化剤を含む実質的に水を含まないコーティングが接着している。任意に、基材及び/又はカバーシートの内向き主表面には、栄養培地を含む実質的に水を含まないコーティングが接着している。任意に、栄養培地及び/又はゲル化剤は、基材及び/又はカバーシート上にコーティングされた接着剤層に接着していてもよい。任意に、本薄膜培養デバイスは、基材又はカバーシートの内向き表面に接着した、薄い穴の空いたスペーサを更に備えていてもよい。薄膜培養デバイスの非限定的な例は、米国特許第4,565,783号、同第5,089,413号、同第5,137,812号、及び同第5,232,838号に開示されており、これらの特許は全て、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0014】
「乳製品」とは、本明細書で使用される場合、乳汁を含有する製品及び/又は乳汁由来の製品を指す。「培養乳製品」とは、本明細書で使用される場合、例えばラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、又はロイコノストック(Leuconostoc)属に属する細菌等の乳酸菌で発酵されている酪農食品を指す。培養乳製品としては、培養バターミルク、サワークリーム、チーズ、カッテージチーズ、ヨーグルト、及びアシドフィルスミルクが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
「MOPS緩衝液」、「MOPS希釈剤」、「MOPSを含む希釈剤」、及び「MOPSを含む水溶液」とは、本明細書で使用される場合、(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)を含む組成物を指す。特定のpHに調整されているとき、「MOPS緩衝液」、「MOPS希釈剤」、又は「MOPSを含む水溶液」は、MOPSの共役塩基を更に含む。
【0016】
「大腸菌群」とは、本明細書で使用される場合、食品、水、及び飲料の衛生的品質を示すのに使用される大腸菌の細菌群に属する微生物を指す。この群に分類される細菌は、ラクトースを発酵させて酸及びガス生成物にするそれらの能力によって定義される。大腸菌群の非限定的な例としては、シトロバクター(Citrobacter)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、ハフニア(Hafnia)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、及びエシェリキア(Escherichia)属に分類される種が挙げられる。
【0017】
本発明の特徴及び利点は、発明を実施するための形態、及び添付の特許請求の範囲を考慮することで理解される。本発明のこれら並びに他の特徴及び利点は、本発明の様々な例証となる実施形態との関連で後述され得る。
【0018】
上記本発明の概要は、開示される本発明の各実施形態又は全ての実現形態を記載することを意図するものではない。続く図面及び発明を実施するための形態は、例証となる実施形態をより具体的に例示するものである。他の特徴、目的、及び利点は、発明を実施するための形態及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示による培養乳製品中に存在するガス産生大腸菌群を計数する方法の一実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示のいずれかの実施形態を詳細に説明する前に、本発明はその適用において、以下の説明に記載されているか又は以下の図面に例証されている構成の詳細及び構成要素の配置に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実践又は実行することができる。また、本明細書において使用される表現及び用語は説明を目的とするものであり、限定とみなされるべきではないことも理解されたい。本明細書における「含む(including)」、「備える(comprising)」、又は「有する(having)」、及びそれらのバリエーションの使用は、その前に列記された項目及びそれらの均等物、並びに追加的な項目を包含することを意味する。別途特定又は限定されない限り、「接続される(connected)」及び「連結される(coupled)」という用語、並びにそれらのバリエーションは、広い意味で使用されるものであり、直接的及び間接的な接続及び連結の両方を包含する。更に、「接続される」及び「連結される」は、物理的又は機械的な接続又は連結に制限されない。本開示の範囲を逸脱することなく他の実施形態を利用することができ、構造上又は論理上の変更を加えることもできることを理解されたい。更に、「前」、「後」、「上」、「下」等の用語は、各要素の互いに対する関係を説明するためにのみ使用されるものであり、装置の特定の向きを示すこと、装置の必要若しくは必須な向きを指示若しくは示唆すること、又は本明細書に記載される発明が使用時にどのように使用、装着、表示、若しくは配置されるかを指定することを目的とするものでは決してない。
【0021】
大腸菌群は、食品及び飲料(例えば、乳汁及び水を含む)の衛生的品質を示すのに使用される。大腸菌群は水中、植物、及び土壌の環境に見出され得るが、その存在は、温血動物による糞便汚染の指標であり得る。大腸菌群は一般的に、35~37℃でインキュベートしたときに酸及びガスの産生を伴うラクトースを発酵させるその能力により、食品又は水の試料中で検出される。大腸菌群には、例えば、シトロバクター、エンテロバクター、ハフニア、クレブシエラ、セラチア、及びエシェリキアをはじめとする多様な属の種が含まれる。
【0022】
大腸菌群を計数する方法は公知である。大腸菌群を計数する例示的な方法は、Bacteriological Analytical Manual(P.Feng et al.;2002;「Enumeration of Escherichia coli and the Coliform Bacteria」;Bacteriological Analytical Manual,Chapter 4;これは参照によりその全体が本明細書に援用される)に見出すことができる。この方法は、寒天培地上又はPETRIFILMという乾燥した再水和可能な培養デバイス中で試験試料を培養する直接計数法を含む。この方法は、ブロス培地中で試験試料を培養することにより得られる最確数(MPN)推定値を更に含む。いくつかの規制機関は、大腸菌群の同一性を確認するためにラクトースからのガス産生の検出を必要とする。
【0023】
薄膜培養デバイスにおいて大腸菌群を培養するために使用される少なくとも1つの選択的栄養培地(例えば、バイオレットレッド胆汁ラクトース培地(VRBL))では、ある特定の大腸菌群(例えばセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens))によるラクトースの発酵からのガスの産生が、培養乳製品を含有する試料中で実質的に低減し得ることが現在では公知である。本発明の方法は、薄膜培養デバイスにおける培養乳製品の阻害作用を排除するために特定の緩衝液の使用に依拠し、それにより、培養乳製品が試料中に存在する場合であっても大腸菌群の正確な計数が可能になる。
【0024】
本開示は、薄膜培養デバイスを使用して培養乳製品中に存在する大腸菌群のコロニー形成単位を計数する改善された方法を提供する。本方法は、CO2ガスの産生が結果として生じるラクトースの発酵を促進するためのMOPS緩衝液の使用を含む。驚くべきことに、MOPS緩衝液では、同様の強度及びpHの他の緩衝液よりも、培養乳製品試料中のある特定の大腸菌群によるガス産生が改善する。
【0025】
図1は、薄膜培養デバイスにおいて培養乳製品中に存在する大腸菌群のコロニー形成単位を計数する改善された方法の一実施形態のブロック図を示す。方法100は、培養乳製品及び希釈剤を含む混合物を形成する工程10を含む。いずれかの実施形態では、既定量の乳製品を既定容量の希釈剤と混合することで、混合物が形成され得る。したがって、培養乳製品を希釈剤に希釈し、希釈係数を記録し、これを使用して、元の培養乳製品1グラム又は1mL当たりの大腸菌群(存在する場合)の数を計算することができる。
【0026】
いずれかの実施形態では、混合物中の培養乳製品の希釈係数は、例えば約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:10、約1:100、約1:1000、約1:10000、又は約1:100000であり得る。
【0027】
培養乳製品は、多様な培養乳製品のうちの任意のものであってよい。本方法を使用して試験することのできる培養乳製品の非限定的な例としては、ヨーグルト、チーズ、サワークリーム、バターミルク、カード、レベン、カルピス、ケフィア、アイラン、カティーク、凝乳、及びカッテージチーズが挙げられる。
【0028】
食品及び飲料試料を懸濁及び/又は希釈するために使用される希釈剤は当該技術分野において公知であり、例えば、蒸留水、緩衝液、食塩溶液、栄養培地、及びそれらの混合物が挙げられる。本開示による好ましい希釈剤は、(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)(以下「MOPS」)を含む緩衝水溶液である。MOPSは、遊離酸形態及び/又は遊離酸形態のMOPSの塩(例えばナトリウム塩)として希釈剤中に存在してもよい。本開示による好ましい希釈剤は、薄膜培養デバイスにおいて増殖する大腸菌群のコロニーによるガスを発生させるラクトース発酵を促進するのに有効な濃度のMOPSを含む水性緩衝液である。いずれかの実施形態では、希釈剤は、20mM以上のMOPSを含み得る。いずれかの実施形態では、希釈剤は、50mM以下のMOPSを含み得る。いずれかの実施形態では、希釈剤は、約20~50mM(両端の値を含む)のMOPSを含み得る。本開示によるMOPSを含む水性緩衝液は、例えば、大腸菌群の増殖を促進するための栄養素、及び/又は非大腸菌群の増殖を阻害するための選択剤等の他の成分を任意に含んでもよいことが企図される。
【0029】
いずれかの実施形態では、MOPSを含む希釈剤は、培養乳製品と混合される前に所定のpHを有し得る。希釈剤中のMOPSの濃度及び希釈剤のpHの両方が混合物のpHに影響する。いずれかの実施形態では、所定のpHは、5超とすることができる。いずれかの実施形態では、所定のpHは、8未満とすることができる。いずれかの実施形態では、所定のpHは、5超とすることができる。いずれかの実施形態では、所定のpHは、5.5以上かつ7.5以下とすることができる。いずれかの実施形態では、所定のpHは、およそ7.0とすることができる。
【0030】
希釈剤が培養乳製品と混合されるため、混合物中のMOPSの濃度は、希釈剤中のMOPSの濃度よりも低くてよい。例えば、20mMのMOPSを含む希釈剤を培養乳製品と混合して、培養乳製品が1:5に希釈されている混合物を生成するとき、混合物中のMOPSの濃度は約16mMである。したがって、50mMのMOPSを含む希釈剤を培養乳製品と混合して、乳製品が1:5に希釈されている混合物を生成するとき、混合物中のMOPSの濃度は約40mMである。
【0031】
いずれかの実施形態では、混合物は容器(例えば、希釈ボトル、ホモジナイザーバッグ)内で形成されてもよい。いずれかの実施形態では、微生物が正確に計数され得るように、希釈剤、試料、そして存在する場合はあらゆる微生物をより一様に分布させるために、(例えば、当該技術分野で公知の混合装置を使用して)混合物を均質化してもよい。
【0032】
いずれかの実施形態では、混合物を形成することは、既定範囲内のpHを有する混合物を形成することを含み得る。例えば、いずれかの実施形態では、既定範囲内のpHを有する混合物を形成することは、5超のpHを有する混合物を形成することを含み得る。いずれかの実施形態では、既定範囲内のpHを有する混合物を形成することは、8未満のpHを有する混合物を形成することを含み得る。いずれかの実施形態では、5.5~7.5のpHを有する混合物を形成することである。
【0033】
再び
図1を参照すると、方法100は、混合物(すなわち、培養乳製品及び希釈剤を含むもの)を薄膜培養デバイスに接種して、大腸菌群を増殖させるための栄養培地、有効濃度のラクトース、及び有効濃度のMOPSを含むヒドロゲルを形成する工程20を更に含む。いずれかの実施形態では、接種済み薄膜培養デバイスを形成することは、既定容量の混合物を薄膜培養デバイス内に置くことを最低でも含む。接種前の薄膜培養デバイスは、大腸菌群を増殖させるための栄養培地及び/又はラクトースを含んでいてもよい。接種前の薄膜培養デバイスが栄養培地及び/又はラクトースを含まない場合、それらは混合物中で(例えば希釈剤の成分として)提供されてもよいし、又は薄膜培養デバイス内に(例えばピペットによって)置かれ、デバイス内で混合物と混合されてもよい。
【0034】
例えば、PETRIFILM(商標)大腸菌(E. coli)/大腸菌群数測定用プレート(品番6404、ミネソタ州セントポールの3M Companyから入手可能)、PETRIFILM(商標)大腸菌群数測定用プレート(品番6410、3M Companyから入手可能)、及びPETRIFILM(商標)高感度大腸菌群数測定用プレート(品番6405、3M Companyから入手可能)の商品名で販売されている薄膜培養デバイスはいずれも、本開示の方法における使用に好適である。前述の薄膜培養デバイスはいずれも、ラクトース、大腸菌群を増殖させるための栄養培地、及び非大腸菌群の増殖を阻害する選択剤(胆汁塩)を含む。接種前には、ラクトース、栄養培地の成分、及び選択剤は全て、実質的に水を含まない。既定容量の水性試料で再水和すると(例えば、培養乳製品及び希釈剤を含む混合物を薄膜培養デバイスに接種すると)、接種済みデバイスにおいてヒドロゲルが形成される。このヒドロゲルは、本開示の方法による有効濃度のラクトース及び有効濃度のMOPSを含む。
【0035】
薄膜培養デバイスの作製は、例えば、米国特許第4,565,783号、同第5,089,413号、同第5,137,812号、及び同第5,232,838号に記載されている。参照により全体が本明細書に援用される国際公開第WO 2012/161992(A1)号に記載されているように、有効量のMOPS又はその塩を接種前のかかる薄膜培養デバイスに組み込んでもよい。さもなければ、本明細書の実施例に記載されるように、培養乳製品と混合した希釈剤にMOPSを供給してもよい。
【0036】
薄膜培養デバイスは、基材(例えば、自己支持型基材)と、カバーシート(例えば、デバイスの内部を観察することができるカバーシート)と、基材とカバーシートとの間に(例えばコーティングにおいて)配置された乾燥した再水和可能な冷水可溶性ゲル化剤(例えば、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、又はそれらの混合物)とを備え得る。任意に、接種前の薄膜培養デバイスは、基材とカバーシートとの間に(例えばコーティングにおいて)配置された栄養素、選択剤、及び/又は指示試薬を更に含んでいてもよい。
【0037】
いずれかの実施形態では、接種済み薄膜培養デバイスを形成することは、培養乳製品及び希釈剤を含む混合物を薄膜培養デバイスの基材とカバーシートとの間に(例えばピペットによって)置くことを含む。上述のように、MOPS緩衝液は、薄膜培養デバイスの成分として供給してもよいし、又は本明細書に記載の方法100の工程10において混合物を形成するために使用される希釈剤の成分として供給してもよい。あるいは、MOPS(例えば水溶液中での)を混合物とは別々に薄膜培養デバイス内に(例えばピペットによって)置き、その後、混合物と混合してから、接種済み薄膜培養デバイスを閉じてもよいことが企図される。
【0038】
更に、接種済み薄膜培養デバイスを形成することが、大腸菌群の増殖を促進するための栄養素及び/又は非大腸菌群の増殖を阻害するための選択剤を薄膜培養デバイス内に(例えばピペットによって)置くことを更に含み得ることが企図される。栄養素及び/又は選択剤は、1つ以上の溶液中に存在してもよく、この溶液は、薄膜培養デバイス内に置かれた後でデバイスが閉じられる前に混合物と混合されてもよい。
【0039】
大腸菌群を含み得る水性培地(例えば、希釈剤及び培養乳製品の混合物)の接種後、薄膜培養デバイスの冷水可溶性ゲル化剤が培地に接触し、ヒドロゲルを形成する。ヒドロゲルは一定量の大腸菌群を有し、この大腸菌群は、混合物中に存在する場合、ヒドロゲル中で繁殖してコロニーを形成し、ヒドロゲル中のラクトースを発酵させ、それによって酸及びガス生成物を産生する。このガスは、ヒドロゲル中で各ガス産生コロニーに近接して捕捉され、ヒドロゲル中でガスを産生したコロニーに近接した観察可能なガス気泡を形成する。栄養素及び/又は選択剤は、接種前の薄膜培養デバイスに存在するか、又は接種中に薄膜培養デバイス内に置かれるかにかかわらず、ヒドロゲル中に拡散して、大腸菌群の増殖を培養乳製品中に存在し得る他の微生物(例えば乳酸菌)と比べて向上させる栄養培地を形成する。
【0040】
薄膜培養デバイスの接種後にヒドロゲルが形成される場合、ヒドロゲルは、カバーシートと基材との間に挟まれる。
【0041】
本方法のいずれかの実施形態では、混合物を薄膜培養デバイスに接種してヒドロゲルを形成することは、有効濃度のMOPSを有するヒドロゲルを形成することを含む。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中のMOPSの有効濃度は、16mM以上とすることができる。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中のMOPSの有効濃度は、40mM以下とすることができる。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中のMOPSの有効濃度は、16~40mM(両端の値を含む)とすることができる。
【0042】
混合物を薄膜培養デバイスに接種してヒドロゲルを形成することは、有効濃度のラクトースを有するヒドロゲルを形成することを含む。ラクトースの有効濃度は、薄膜培養デバイスにおいて増殖する大腸菌群のラクトース発酵コロニー形成単位に観察可能なガス気泡を形成するのに十分なものである。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中のラクトースの有効濃度は、0.5%(w/v)以上とすることができる。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中のラクトースの有効濃度は、1.25%(w/v)以下とすることができる。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中のラクトースの有効濃度は、0.5%~1.25%(w/v)以下(両端の値を含む)とすることができる。
【0043】
再び
図1を参照すると、混合物を薄膜培養デバイスに接種した後、方法100は、大腸菌群の増殖を促進する条件下で接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートする工程30を更に含む。当業者であれば、大腸菌群の増殖を促進する条件下で接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることが、周囲温度よりも高い温度で接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることを含み得ることを理解するであろう。好ましくは、接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることは、30℃以上かつ44℃以下の温度で培養デバイスをインキュベートすることを含む。いずれかの実施形態では、接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることは、35~37℃の範囲(両端の値を含む)の温度で培養デバイスをインキュベートすることを含む。
【0044】
いずれかの実施形態では、大腸菌群の増殖を促進する条件下で接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることは、大腸菌群の観察可能なコロニーを形成させるのに十分な期間にわたって培養デバイスをインキュベートすることを含む。観察可能なコロニーを形成させるための期間は、約4時間~約48時間(両端の値を含む)、好ましくは約16~約26時間(両端の値を含む)、より好ましくは約18~約24時間であり得る。本開示による薄膜培養デバイスは、指示試薬(例えば、トリフェニルテトラゾリウムクロリド等のレドックス染料、例えば5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド等の発色性酵素基材)、又は蛍光発生酵素基材(例えば4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシド)を含んでいてもよく、これは、大腸菌群と反応して、コロニーの観察を容易にする、有色かつ/又は蛍光性の生成物を形成する。通常、薄膜培養デバイスにおいて増殖する大腸菌群のコロニーによって産生された観察可能なガス気泡の蓄積は、インキュベーションの16~18時間以内に起こる。ガス気泡のサイズは、18時間より長いインキュベーション期間中にある程度まで継続して増加し得る。
【0045】
大腸菌群の増殖を促進する条件下で一定期間にわたって接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートした後、方法100は、接種済み培養デバイスに存在するガス産生コロニーを特定し計数する工程40を更に含む。
【0046】
接種済み培養デバイスに存在するコロニーを特定することは、薄膜培養デバイスにおいて形成されたヒドロゲルを細菌コロニーの指標に関して観察することを含み得る。薄膜培養デバイスにおけるコロニーは、例えば、上述のようにコロニー内の細菌と指示試薬との反応に関連したヒドロゲルの色の変化によって特定することができる。
【0047】
接種済み培養デバイスに存在するガス産生コロニーを特定することは、薄膜培養デバイスの基材とカバーシートとの間に挟まれたヒドロゲルの一部分を生体起源ガス気泡が動かしたことによって生じたヒドロゲル中の空隙を観察することを含み得る。生体起源ガス気泡は、通常、それを産生するコロニーに近接して存在する。空隙は、ヒドロゲル中の実質的に無色で高度に光透過性の領域として観察され得る。薄膜培養デバイスにおける生体起源ガス気泡の観察は、例えば、参照により全体が本明細書に援用される国際公開第WO 2014/099644号(A1)に記載されている。
【0048】
PETRIFILM E.coli/大腸菌群数測定用プレートの使用のために製造元から提供されているThe Interpretation Guideは、薄膜培養デバイスに観察されるガス気泡が特定のコロニーに関連しているかどうかの判定に関する指針を提供する。部分的には、この指針は、微生物コロニーへのガス気泡への近接性に関する。一般に、特定の微生物コロニーに接触しているガス気泡は、そのコロニーに関連した(すなわち、そのコロニーによって産生された)ものとみなされる。加えて、約3コロニー径に等しい距離内に位置しているガス気泡は、そのコロニーに関連した(すなわち、そのコロニーによって産生された)ものとみなされる。したがって、0.5mmの直径を有するコロニーは、コロニーから最大約1.5mm離れた位置にあるガス気泡を産生し得る。いずれかの近接した微生物コロニーに対するガス気泡(例えば、ヒドロゲル中の空隙として観察されるもの)の位置は、そのコロニーを形成する微生物によってガス気泡が産生されたかどうかを判定するために使用される。
【0049】
ヒドロゲル中の空隙を観察することは、最小寸法を有する空隙を観察することを含み得る。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中の空隙を観察することは、空隙を貫通する直線に沿って少なくとも0.5mmの寸法を有する空隙を観察することを含む。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中の空隙を観察することは、空隙を貫通する直線に沿って少なくとも1.0mmの寸法を有する空隙を観察することを含む。いずれかの実施形態では、ヒドロゲル中の空隙を観察することは、空隙を貫通する直線に沿って最大3mmの寸法を有する空隙を観察することを含む。
【0050】
いずれかの実施形態では、接種済み培養デバイスに存在するガス産生コロニーを特定し計数することは、培養乳製品中に存在する大腸菌群コロニー形成単位に関連した大腸菌群のコロニーを特定し計数することを含み得る。したがって、本開示の方法で使用される薄膜培養デバイスにおけるガス産生コロニーの存在は、培養乳製品中の大腸菌群の存在を示し得る。
【0051】
本開示による方法のいずれかの実施形態では、ガス産生コロニーを計数することは、ガス産生コロニーを手作業で計数することを含む。本明細書で使用される場合、ガス産生コロニーを手作業で計数することには、薄膜培養デバイスの照明及び/又は拡大を行うデバイス(例えば、Quebec Colony Counter)を用いてコロニーを計数することが含まれる。あるいは、本開示の方法のいずれかの実施形態では、ガス産生コロニーを計数することは、例えば、3M Company(ミネソタ州セントポール)から入手可能なPETRIFILMプレートリーダー等の自動コロニー計数装置を使用してガス産生コロニーを計数することを含む。
【0052】
本開示による方法は、大腸菌群のある特定の種を検出するために使用することができ、ここで、薄膜培養デバイスにおけるガス最終生成物(例えばCO2)へのラクトース発酵は、培養デバイスに接種するために使用される試料中の培養乳製品の存在によって抑制される。そのような大腸菌群の非限定的な例としては、セラチア・リクファシエンス(Serratia liquefaciens)種のメンバーが挙げられる。ラクトース発酵からのガス産生が培養乳製品によって抑制され得る他の大腸菌群としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)種(別称、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans))のメンバーが挙げられる。
【0053】
上述され、図に示された実施形態は、単に例として提示されるものであり、本開示の概念及び原理における限定を意図するものではない。このように、本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく、要素並びにそれらの構成及び配置における様々な変更が可能であることは、当業者であれば理解するであろう。
【0054】
本明細書において引用された参考文献及び公開文献は全て、参照によりその全体が本開示に明示的に援用される。
【0055】
以下の実施形態は、本開示の例証を意図するものであり、限定するものではない。
【0056】
例示的な実施形態
実施形態Aは、培養乳製品中に存在するガス産生大腸菌群を計数する方法であって、
既定量の乳製品及び既定容量の希釈剤を含む混合物を形成することと、
この混合物を薄膜培養デバイスに接種して、大腸菌群を増殖させるための栄養培地、有効濃度のラクトース、及び有効濃度のMOPSを含むヒドロゲルを形成することと、
大腸菌群の増殖を促進する条件下で接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることと、
接種済み培養デバイスに存在するガス産生コロニーを特定し計数することと
を含む、方法である。
【0057】
実施形態Bは、ヒドロゲル中のMOPSの有効濃度が16mM以上である、実施形態Aの方法である。
【0058】
実施形態Cは、ヒドロゲル中のMOPSの有効濃度が40mM以下である、実施形態Bの方法である。
【0059】
実施形態Dは、希釈剤がMOPSを含む、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0060】
実施形態Eは、希釈剤中のMOPSの濃度が20mM以上である、実施形態Dの方法である。
【0061】
実施形態Fは、希釈剤中のMOPSの濃度が50mM以下である、実施形態Eの方法である。
【0062】
実施形態Gは、希釈剤中のMOPSの濃度が25mM以上であり、かつ45mM以下である、実施形態Fの方法である。
【0063】
実施形態Hは、混合物が5超のpHを有する、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0064】
実施形態Iは、混合物が8未満のpHを有する、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0065】
実施形態Jは、混合物が5.5以上かつ7.5以下のpHを有する、実施形態Iの方法である。
【0066】
実施形態Kは、ヨーグルト、サワークリーム、バターミルク、カード、レベン、カルピス、ケフィア、アイラン、カティーク、凝乳、及びカッテージチーズからなる群から選択される培養乳製品である。
【0067】
実施形態Lは、ヒドロゲル中のラクトースの有効濃度が0.5%(w/v)以上である、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0068】
実施形態Mは、ヒドロゲル中のラクトースの有効濃度が1.25%(w/v)以下である、実施形態Lの方法である。
【0069】
実施形態Nは、ガス産生コロニーを計数することが、セラチア属のコロニーを計数することを含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法である。
【0070】
実施形態Oは、薄膜培養デバイスに接種した後に、ヒドロゲルが、大腸菌群の増殖を促進する栄養培地を含む、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0071】
実施形態Pは、薄膜培養デバイスに接種する前に、培養デバイスが、栄養培地の少なくとも1種の栄養素を含む、実施形態Oの方法である。
【0072】
実施形態Qは、少なくとも1種の栄養素が薄膜培養デバイスにおいて実質的に水を含まない組成物として存在する、実施形態Pの方法である。
【0073】
実施形態Rは、薄膜培養デバイスに接種した後に、ヒドロゲルが、非大腸菌群の増殖を阻害する選択剤を含む、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0074】
実施形態Sは、薄膜培養デバイスに接種する前に、培養デバイスが選択剤を含む、実施形態Nの方法である。
【0075】
実施形態Tは、薄膜培養デバイスに接種する前に、選択剤が薄膜培養デバイスにおいて実質的に水を含まない組成物として存在する、実施形態Sの方法である。
【0076】
実施形態Uは、大腸菌群の増殖を促進する条件下で接種済み薄膜培養デバイスをインキュベートすることが、35~37℃の範囲(両端の値を含む)の温度で薄膜培養デバイスをインキュベートすることを含む、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0077】
実施形態Vは、薄膜培養デバイスが、基材と、カバーシートと、基材とカバーシートとの間に配置された乾燥した再水和可能な冷水可溶性ゲル化剤とを備え、混合物を薄膜培養デバイスに接種してヒドロゲルを形成することが、デバイスのカバーシート及び基材に接触するヒドロゲルを形成することを含み、ガス産生コロニーを特定することが、ヒドロゲル中のコロニーに近接した空隙を観察することを含む、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0078】
実施形態Wは、ヒドロゲル中の空隙を観察することが、空隙を貫通する直線に沿って少なくとも0.5mmの寸法を有する空隙を観察することを含む、実施形態Vの方法である。
【0079】
実施形態Xは、空隙が、ヒドロゲル中で視覚的に検出可能な細菌コロニーから1.5mm以下離れて配置されている、実施形態Wの方法である。
【0080】
実施形態Yは、ガス産生コロニーを計数することが、ガス産生コロニーを手作業で計数することを含む、前述の実施形態のいずれか1つの方法である。
【0081】
実施形態Zは、ガス産生コロニーを計数することが、自動コロニー計数装置を使用してガス産生コロニーを計数することを含む、実施形態A~Yのいずれか1つの方法である。
【実施例】
【0082】
参照例1~9。Butterfield希釈剤に希釈したセラチア・リクファシエンス添加培養乳製品の計数。
【0083】
これらの実施例で使用した薄膜培養デバイス(PETRIFILM(商標)高感度大腸菌群数測定用プレート)は、3M Companyから入手した。本明細書に記載される実験では、American Type Culture Collection(バージニア州マナサス)から入手した大腸菌群(セラチア・リクファシエンス)(ATCC 51814)を使用した。Butterfield希釈剤はEdge Biologicals(テネシー州メンフィス)から入手した。様々な培養乳製品(表1に示す)を小売元から入手した。
【0084】
各乳製品1部を希釈剤(Butterfield希釈剤)4部と別々に混合した。したがって、培養乳製品の全希釈係数は1:5であった。セラチア・リクファシエンス(S.liquefaciens)の一晩培養物をButterfield希釈剤に希釈し、希釈した培養乳製品の各容器に小容量の希釈培養物を加えて、希釈乳製品及びおよそ50コロニー形成単位(colony-forming unit、CFU)のセラチア・リクファシエンスを含有する混合物を得た。この混合物をホモジナイズして、混合物中の乳製品及び細菌をより一様に分散させた。pHを測定するために、この混合物の一部分を取り出した。
【0085】
製造元の指示に従い、各混合物1mLを使用して別々のPETRIFILM(商標)高感度大腸菌群数測定用プレートに接種した。接種後、35℃でおよそ24時間にわたってプレートをインキュベートした。インキュベーション後、製造元の指示に従い、プレート内のガス産生コロニーである大腸菌コロニーを手作業で特定し、各プレートで観察されたコロニーの数を記録した。
【0086】
参照対照(Reference Control)は、培養乳製品1部及びButterfield希釈剤4部を用いて細菌添加混合物を調製する代わりに、Butterfield希釈剤5部を用いて「混合物」を調製したことを除いては、参照例に記載したように調製した(すなわち、これらの試料中に培養乳製品は存在しなかった)。参照対照は、試料中の培養乳製品の存在が原因で生じ得るいかなる障害もない場合に、どれだけ多くの細菌が試料中で観察され得るかを示す。
【0087】
表2は、各参照例のpH、及び試験した各試料中で観察されたガス産生コロニーの数の一覧である。このデータは、試料のそれぞれに1mL当たり約35CFUのセラチア・リクファシエンスを添加したことを示す(参照対照を参照されたい)。このデータは更に、各試料への培養乳製品の添加が、試料混合物のpHを約7.8から約4.0~5.2に低下させたことを示す。加えて、このデータは、培養乳製品を含有する試料中で観察されたCFUの平均数が、同じ希釈剤を有するが培養乳製品を有しない参照対照よりも約25CFU低かった(すなわち約70%低かった)ことを示す。
【0088】
【0089】
表2.Butterfield希釈剤に希釈した培養乳製品を含有する試料中のセラチア・リクファシエンスの計数。参照例1~9におけるプレート毎のCFUの平均数はおよそ10であった。各参照例中の培養乳製品は表1に列記されている。CFUの報告値は、各条件につき2つの複製試料の平均を表す。
【表2】
【0090】
比較例1~9。Butterfield希釈剤に希釈したセラチア・リクファシエンス添加培養乳製品の計数。
【0091】
これらの例で使用した薄膜培養デバイス、大腸菌群、Butterfield希釈剤、及び培養乳製品は、参照例1~9で使用したものと同じであった。培養乳製品、Butterfield希釈剤、及び大腸菌群を含む混合物を参照例1~9に記載したように調製したが、培養乳製品を希釈剤と混合した後に混合物のpHを約7.0に調整するために小容量(1mL以下)の0.1N NaOHを混合物に加えたことを除く。
【0092】
参照例1~9に記載したように薄膜培養デバイスの接種及びインキュベーションを行った。インキュベーション期間後、参照例1~9に記載のように、薄膜培養デバイスにおけるガス産生コロニーを特定し、計数した。
【0093】
比較対照(Comparative Control)Aは、培養乳製品1部及びButterfield希釈剤4部を用いて細菌添加混合物を調製する代わりに、Butterfield希釈剤5部を用いて「混合物」を調製したことを除いては、比較例1~9に記載したように調製した(すなわち、これらの試料中に培養乳製品は存在しなかった)。比較対照Aは、試料中の培養乳製品の存在が原因で生じ得るいかなる障害もない場合に、どれだけ多くの細菌が試料中で観察され得るかを示す。
【0094】
表3は、各比較例のpH、及び試験した各試料中で観察されたガス産生コロニーの数の一覧である。このデータは、試料のそれぞれに1mL当たり約35CFUのセラチア・リクファシエンスを添加したことを示す(比較対照Aを参照されたい)。このデータは、培養乳製品を含有する試料中で観察されたCFUの平均数が、同じ希釈剤を有するが培養乳製品を有しない比較対照Aよりも約11CFU低かった(すなわち約35%低かった)ことを示す。
【0095】
表3.Butterfield希釈剤に希釈した後にpH調整を行った培養乳製品を含有する試料中のセラチア・リクファシエンスの計数。比較例1~9におけるプレート毎のCFUの平均数はおよそ19であった。比較例のそれぞれにおける培養乳製品は表1に列記されている。CFUの報告値は、各条件につき2つの複製試料の平均を表す。
【表3】
【0096】
比較例10~18。20mMリン酸塩を含む希釈剤に希釈したセラチア・リクファシエンス添加培養乳製品の計数。
【0097】
これらの例で使用した薄膜培養デバイス、大腸菌群、及び培養乳製品は、参照例1~9で使用したものと同じであった。試薬グレードのリン酸水素二カリウムを使用して希釈剤(20mMリン酸カリウム、pH7.05)を調製した。培養乳製品、リン酸緩衝希釈液、及び大腸菌群を含む混合物を、参照例1~9に記載したように調製した。
【0098】
参照例1~9に記載したように薄膜培養デバイスの接種及びインキュベーションを行った。インキュベーション期間後、参照例1~9に記載のように、薄膜培養デバイスにおけるガス産生コロニーを特定し、計数した。
【0099】
比較対照Bは、培養乳製品1部及び20mMリン酸緩衝希釈液4部を用いて細菌添加混合物を調製する代わりに、20mMリン酸緩衝希釈液5部を用いて「混合物」を調製したことを除いては、比較例10~18に記載したように調製した(すなわち、これらの試料中に培養乳製品は存在しなかった)。比較対照Bは、試料中の培養乳製品の存在が原因で生じ得るいかなる障害もない場合に、どれだけ多くの細菌が試料中で観察され得るかを示す。
【0100】
表4は、各比較例のpH、及び試験した各試料中で観察されたガス産生コロニーの数の一覧である。このデータは、試料のそれぞれに1mL当たり約29CFUのセラチア・リクファシエンスを添加したことを示す(比較対照Bを参照されたい)。このデータは、培養乳製品を含有する試料中で観察されたCFUの平均数が、同じ希釈剤を有したが培養乳製品を有しなかった比較対照Bよりも約15CFU低かった(すなわち約52%低かった)ことを示す。
【0101】
表4.20mMリン酸緩衝希釈液に希釈した培養乳製品を含有する試料中のセラチア・リクファシエンスの計数。比較例10~18におけるプレート毎のCFUの平均数はおよそ14であった。比較例のそれぞれにおける培養乳製品は表1に列記されている。CFUの報告値は、各条件につき2つの複製試料の平均を表す。
【表4】
【0102】
比較例19~27。35mMリン酸塩を含む希釈剤に希釈したSerratia liquefaciens添加培養乳製品の計数。
【0103】
これらの例で使用した薄膜培養デバイス、大腸菌群、及び培養乳製品は、参照例1~9で使用したものと同じであった。試薬グレードのリン酸水素二カリウムを使用して希釈剤(35mMリン酸カリウム、pH7.01)を調製した。培養乳製品、リン酸緩衝希釈液、及び大腸菌群を含む混合物を、参照例1~9に記載したように調製した。
【0104】
参照例1~9に記載したように薄膜培養デバイスの接種及びインキュベーションを行った。インキュベーション期間後、参照例1~9に記載のように、薄膜培養デバイスにおけるガス産生コロニーを特定し、計数した。
【0105】
比較対照Cは、培養乳製品1部及び35mMリン酸緩衝希釈液4部を用いて細菌添加混合物を調製する代わりに、35mMリン酸緩衝希釈液5部を用いて「混合物」を調製したことを除いては、比較例19~27に記載したように調製した(すなわち、これらの試料中に培養乳製品は存在しなかった)。比較対照Cは、試料中の培養乳製品の存在が原因で生じ得るいかなる障害もない場合に、どれだけ多くの細菌が試料中で観察され得るかを示す。
【0106】
表5は、各比較例のpH、及び試験した各試料中で観察されたガス産生コロニーの数の一覧である。このデータは、試料のそれぞれに1mL当たり約33CFUのセラチア・リクファシエンスを添加したことを示す(比較対照Cを参照されたい)。このデータは、培養乳製品を含有する試料中で観察されたCFUの平均数が、同じ希釈剤を有するが培養乳製品を有しない比較対照Cよりも約21CFU低かった(すなわち約64%低かった)ことを示す。
【0107】
表5.35mMリン酸緩衝希釈液に希釈した培養乳製品を含有する試料中のセラチア・リクファシエンスの計数。比較例19~27におけるプレート毎のCFUの平均数はおよそ12であった。比較例のそれぞれにおける培養乳製品は表1に列記されている。CFUの報告値は、各条件につき2つの複製試料の平均を表す。
【表5】
【0108】
実施例1~9。20mM MOPSを含む希釈剤に希釈したセラチア・リクファシエンス添加培養乳製品の計数。
【0109】
これらの例で使用した薄膜培養デバイス、大腸菌群、及び培養乳製品は、参照例1~9で使用したものと同じであった。試薬グレードのMOPS遊離酸及びMOPSナトリウム塩を使用して希釈剤(20mM MOPS、pH7.04)を調製した。培養乳製品、MOPSを含む希釈剤、及び大腸菌群を含む混合物を、参照例1~9に記載したように調製した。
【0110】
参照例1~9に記載したように薄膜培養デバイスの接種及びインキュベーションを行った。インキュベーション期間後、参照例1~9に記載のように、薄膜培養デバイスにおけるガス産生コロニーを特定し、計数した。
【0111】
実施例対照(Example Control)1は、培養乳製品1部及び20mM MOPS希釈剤4部を用いて細菌添加混合物を調製する代わりに、20mM MOPS希釈剤5部を用いて「混合物」を調製したことを除いては、実施例1~9に記載したように調製した(すなわち、これらの試料中に培養乳製品は存在しなかった)。実施例対照1は、試料中の培養乳製品の存在が原因で生じ得るいかなる障害もない場合に、どれだけ多くの細菌が試料中で観察され得るかを示す。
【0112】
表6は、各実施例のpH、及び試験した各試料中で観察されたガス産生コロニーの数の一覧である。このデータは、試料のそれぞれに1mL当たり約29CFUのセラチア・リクファシエンスを添加したことを示す(実施例対照1を参照されたい)。このデータは、培養乳製品を含有する試料中で観察されたCFUの平均数が、同じ希釈剤を有するが培養乳製品を有しない実施例対照1よりも約7CFUのみ低かった(すなわち約24%低かった)ことを示す。
【0113】
表6.20mM MOPS緩衝希釈剤に希釈した培養乳製品を含有する試料中のセラチア・リクファシエンスの計数。実施例1~9におけるプレート毎のCFUの平均数はおよそ22であった。実施例のそれぞれにおける培養乳製品は表1に列記されている。CFUの報告値は、各条件につき2つの複製試料の平均を表す。
【表6】
【0114】
実施例10~18。35mM MOPSを含む希釈剤に希釈したセラチア・リクファシエンス添加培養乳製品の計数。
【0115】
これらの例で使用した薄膜培養デバイス、大腸菌群、及び培養乳製品は、参照例1~9で使用したものと同じであった。試薬グレードのMOPS遊離酸及びMOPSナトリウム塩を使用して希釈剤(35mM MOPS、pH7.03)を調製した。培養乳製品、MOPSを含む希釈剤、及び大腸菌群を含む混合物を、参照例1~9に記載したように調製した。
【0116】
参照例1~9に記載したように薄膜培養デバイスの接種及びインキュベーションを行った。インキュベーション期間後、参照例1~9に記載のように、薄膜培養デバイスにおけるガス産生コロニーを特定し、計数した。
【0117】
実施例対照2は、培養乳製品1部及び35mM MOPS希釈剤4部を用いて細菌添加混合物を調製する代わりに、35mM MOPS希釈剤5部を用いて「混合物」を調製したことを除いては、実施例10~18に記載したように調製した(すなわち、これらの試料中に培養乳製品は存在しなかった)。実施例対照2は、試料中の培養乳製品の存在が原因で生じ得るいかなる障害もない場合に、どれだけ多くの細菌が試料中で観察され得るかを示す。
【0118】
表7は、各実施例のpH、及び試験した各試料中で観察されたガス産生コロニーの数の一覧である。このデータは、試料のそれぞれに1mL当たり約46CFUのセラチア・リクファシエンスを添加したことを示す(実施例対照2を参照されたい)。このデータは、培養乳製品を含有する試料中で観察されたCFUの平均数が、同じ希釈剤を有するが培養乳製品を有しない実施例対照2よりも約4CFUのみ低かった(すなわち約9%低かった)ことを示す。
【0119】
表7.35mM MOPS緩衝希釈剤に希釈した培養乳製品を含有する試料中のセラチア・リクファシエンスの計数。実施例10~18におけるプレート毎のCFUの平均数はおよそ42であった。実施例のそれぞれにおける培養乳製品は表1に列記されている。CFUの報告値は、各条件につき2つの複製試料の平均を表す。
【表7】
【0120】
本明細書に引用される全ての特許、特許出願、及び公開文献、並びに電子的に入手可能な資料の全開示内容が、参照により援用される。本出願の開示内容と参照により本明細書に援用されたいずれかの文書の開示内容との間に何らかの矛盾が存在する場合には、本出願の開示内容が優先するものとする。前述の詳細な説明及び実施例は、理解しやすいように示したものにすぎない。これによって不必要な限定がなされるものではない。本発明は図示及び記載された細部そのものに限定されず、当業者に明白なバリエーションは、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれる。
【0121】
全ての見出しは読者の便宜のためのものであり、見出しに続く文言の意味を限定することが明記されていない限りそのように使用されるものではない。
【0122】
本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な修正を行うことができる。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれる。