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  • 特許-鋼製部品の焼入方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】鋼製部品の焼入方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/18 20060101AFI20221012BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20221012BHJP
   C21D 1/64 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C21D1/18 J
C21D1/00 F
C21D1/64
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018219082
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020084257
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
(72)【発明者】
【氏名】山田 茂則
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172714(JP,A)
【文献】特開2012-126961(JP,A)
【文献】実開昭58-034949(JP,U)
【文献】特開2004-052004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/18
C21D 1/63
C21D 1/64
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油を貯留する焼入槽と、前記焼入槽内の油を撹拌する撹拌手段と、鋼製部品を前記焼入槽内で移動させる鋼製部品移動手段と、を備えた焼入装置を用いる鋼製部品の焼入方法であって、前記焼入槽に多数の前記鋼製部品が浸漬され、前記多数の鋼製部品の上方かつ油面より下方に天板が設置され、前記天板の中央部に開口部が設けられ、前記油が前記多数の鋼製部品の下方側から上方側へ向けて流動することを特徴とする鋼製部品の焼入方法。
【請求項2】
前記天板から前記焼入槽の油面までの距離h1は、前記鋼製部品から前記天板までの距離h2よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の鋼製部品の焼入方法。
【請求項3】
前記鋼製部品から前記天板までの距離h2は、50mm以上300mm未満であることを特徴とする請求項2に記載の鋼製部品の焼入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を貯留した焼入槽内で自動車部品等の被処理物(鋼製部品)を焼入処理する焼入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に自動車部品に代表される機械部品(鋼製部品)を焼入処理する際には、冷媒(油等)を満たした焼入槽に機械部品を浸漬させる。その際、処理効率の観点から複数の部品を積載した状態で焼入槽に浸漬させるため、積載されている部品の位置によって焼入槽内の油の流れは異なる。
【0003】
例えば、焼入槽の内壁に位置する部品と積載された部品群の中央位置にある部品との間には自ずから油の流速に違いが生じる。焼入れ時において、部品の付近を流れる油の流速の違いが発生すると、機械部品の冷却速度も異なる。その結果、積載されている部品群の位置によって焼入効果の差異が生じる。
【0004】
そのため、油を用いた焼入処理においては焼入処理を行う部品の付近を通過する油の流速を正確に把握して、複数の部品間で冷却速度の差異をなるべく解消することが求められる。そのような部品間の冷却速度をなるべく均一にする方法としては、例えば、特許文献1では焼入槽内の冷却液を下方から上方へ向けて吐出する吐出口を備えた冷却槽の底部に備えて、吐出口からの冷却液の流れを被処理物の中央へ導く焼入装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、焼入槽内で積載される位置が上方であるか、もしくは下方であるかによって生じる焼入油の流速の違いによって生じる冷却効果を均一にするために、焼入槽の上部に断面形状がくさび形の整流板を設置する焼入装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-7146号公報
【文献】特開2016-211026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、被処理物(鋼製部品)をカゴ等の被処理物移動手段に挿入して焼入処理する際、被処理物の充填量が多いと下部に設置された被処理物と上部に設置された被処理物における油の流れとの間には流速の差(違い)が顕著に発生する。特に、カゴの上部中央付近では油が滞留する傾向にあるので、油の流速が低下して、結果として上部に設置された被処理物の硬さは下部に設置された被処理物に比べて低下する。
【0008】
これは、焼入処理後の被処理物の硬さは焼入処理時の冷却液の流速によって大きく影響を受けるので、一定以上の流速が確保できれば被処理物の焼入効果、すなわち硬化深さを安定にすることができる。一方、カゴの下部に設置された被処理物の周囲は油の流速がカゴの上部に比べて速いため、上部に設置された被処理物の硬さに比べて焼入硬化が一層広がる要因ともなっていた。
【0009】
そこで、本発明においては被処理物(鋼製部品)の充填量が多い場合でもカゴ上部の中央付近に必要十分な油の流れを供給することできて、かつ油が被処理物を避けるように被処理物の周囲で流速が大きくなることを抑制できて、被処理物の冷却速度を均一にできる、鋼製部品の焼入方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するために、本発明は油を貯留する焼入槽と、焼入槽内の油を撹拌する撹拌手段と、鋼製部品(被処理物)を焼入槽内で移動させる鋼製部品移動手段を備えた焼入装置を用いた焼入方法において、開口部を有した天板を用いて鋼製部品の上方を覆いながら鋼製部品の焼入処理を行う鋼製部品の焼入方法とした。また、この開口部は天板の中央部に設けてもよい。
【0011】
さらに、天板から焼入槽の油面までの距離h1は、鋼製部品から天板までの距離h2よりも短くすることができる。また、鋼製部品から天板までの距離h2については50mm以上300mm未満の範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鋼製部品の焼入方法は、被処理物の充填量が多い場合でもカゴ上部の中央付近に必要十分な油の流れを供給して、かつ油が被処理物を避けるように被処理物の周囲で流速が大きくなることを抑制できて、被処理物の冷却速度を均一にできる。被処理物が焼入槽内の設置位置によらず均一に冷却されるので、焼入処理後の被処理物の黒皮除去(表面の切削代)の縮減も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の焼入方法に用いる焼入槽1内の模式平面図である。
図2図1に示す焼入槽1内のA-A線断面図である。
図3】本発明の別形態を示す焼入槽1A内の模式平面図である。
図4図3に示す焼入槽1A内のB-B線断面図である。
図5】本発明の別形態を示す焼入槽1B内の模式平面図である。
図6図5に示す焼入槽1B内のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の一例について図面を用いて説明する。本発明の焼入方法に用いる焼入槽1内の模式平面図を図1図1のA-A線断面図を図2にそれぞれ示す。本発明の焼入方法に用いる焼入装置を構成する焼入槽1には、図1および図2に示すように多数の鋼製部品Wが整然と浸漬されており、それらの鋼製部品Wの上方には天板Tが所定の間隔を空けて設置されている。
【0015】
また、天板Tには中央部に直径φdの開口部2が設けられている。図示しない焼入装置の撹拌手段(撹拌機器)から圧送されて来た油が、図示しない鋼製部品移動手段により焼入槽内に浸漬された鋼製部品Wの下方側より上方側へ向けて流動する。その際、圧送された油は各鋼製部品Wの間を縫うように流れるとともに、図1に示す焼入槽1の中央部にも流れ込む。その中央部を流れる油の一部が、天板Tの開口部2を通過して油面へ流れ込む。
【0016】
さらに、焼入槽1内における天板Tの設置位置は、焼入槽1の深さ方向で自在に調整できるものとする。図1に示す形態において、油面から最も近い位置にある鋼製部品Wから油面までの距離(深さ)は図2に示すように、天板Tの厚さを無視した場合に天板Tから焼入槽1の油面までの距離h1と油面から最も近い位置にある鋼製部品Wから天板Tまでの距離(鋼製部品Wから天板Tまでの最短距離)h2の和(h1+h2)となる。
【0017】
この場合、天板Tから焼入槽1の油面までの距離h1は、油面から最も近い位置にある鋼製部品Wから天板Tまでの距離h2よりも短くする(h1<h2)。これは、前述したように図1に示す形態で油槽1の中央部を流れる油を、鋼製部品Wの上部ではなく、油面側へより多く移動させるためである。
【0018】
図1および図2に図示した形態の他に、本発明の別形態を示す焼入槽1A、1B内の模式平面図を図3および図5に示す。また、図3に示す焼入槽1A内のB-B線断面図を図4図5に示す焼入槽1B内のC-C線断面図を図6にそれぞれ示す。なお、図3ないし図6において鋼製部品Wの図示は省略した。
【0019】
図3および図4に示す焼入槽1A内の天板T1には、幅w1の四角形状の開口部2A~2Dが4箇所設けられている。図1および図2に示す天板Tの形態に対して、開口部がより多く設けられているため、焼入れ時に鋼製部品から発生する気泡をより速やかに油面側へ導くことができる点で有効である。
【0020】
また、図5および図6に示す焼入槽1B内の天板T2には、幅w2の四角形状の開口部2E~2Gが3箇所設けられている。この天板T2の両側(開口部2E、2Gの外方側)は油面方向に向かって傾斜しており、さらに天板T2の縁部分は油面とは逆側(焼入槽1Bの底部側)に向かって傾斜している。
【0021】
焼入槽内の天板を図5および図6に示す形態とすることで、図1ないし図4に示す天板の形態に比べて、焼入れ時に鋼製部品から発生する気泡が天板の下面に沿って移動するので、図示しない撹拌機の軸からなるべく遠くに気泡を導き、気泡の巻き込みが抑えられる点で有効である。
【0022】
なお、油槽1の底部から流れ込む油が、その流速を保ったまま油面まで到達できる距離(深さ)を考慮した場合、鋼製部品Wから天板Tまでの距離h2は50mm以上300mm未満とすることが望ましい。
【0023】
また、本実施形態では天板Tの開口部2の形状は図1で図示した円形の場合および図3、5に図示した四角形の場合を示したが、その他に楕円形や三角形等の多角形など他の形状であっても構わない。さらに、天板には鋼製部品Wの形状および(または)荷姿に応じて任意に複数の開口部を設けることもできる。
【符号の説明】
【0024】
1,1A,1B 焼入槽
2,2A~2G 開口部
T,T1,T2 天板
W 鋼製部品(被処理物)
h1 天板から焼入槽の油面までの距離
h2 鋼製部品から天板までの距離
φd 開口部の直径
w1,w2 開口部の大きさ
図1
図2
図3
図4
図5
図6