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特許7156787車輪用軸受装置およびこの車輪用軸受装置を備えた車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置およびこの車輪用軸受装置を備えた車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 7/00 20060101AFI20221012BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20221012BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20221012BHJP
   H02K 7/08 20060101ALI20221012BHJP
   H02K 21/22 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B60K7/00
B60K1/00
F16C19/18
H02K7/08 Z
H02K21/22 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017200806
(22)【出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2019048613
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2017173300
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】川村 光生
(72)【発明者】
【氏名】西川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】井木 泰介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康之
(72)【発明者】
【氏名】藪田 浩希
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163037(JP,A)
【文献】特開2007-182194(JP,A)
【文献】特開2017-94844(JP,A)
【文献】特開2014-187730(JP,A)
【文献】特開2000-166146(JP,A)
【文献】特開2006-67753(JP,A)
【文献】特開2013-147177(JP,A)
【文献】特開2008-307917(JP,A)
【文献】特表2017-519680(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102005055597(DE,A1)
【文献】特開2002-340922(JP,A)
【文献】特開2006-316904(JP,A)
【文献】特開2005-231564(JP,A)
【文献】山中建二,山根直人,“中型車両のマイルドハイブリッド化における低燃費効果とその検証”,パワーエレクトロニクス学会誌,日本,パワーエレクトロニクス学会,2017年03月31日,42巻,pp.89-97,ISSN:1884-3239(online),1348-8538(print),DOI:10.5416/jipe.42.89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 7/00, 1/00,
F16C 19/18,
H02K 7/08,21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪、およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて車両の車輪が取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
前記固定輪に取付けられたステータ、および前記回転輪に取付けられたロータを有する動力装置と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記動力装置は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であり、
前記動力装置の全体が、前記回転輪に取り付けられたブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記動力装置における前記回転輪のアウトボード側に設けられたハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置し、
前記ロータは、前記動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭磁性体に設けられた永久磁石とを備え、
前記ハブフランジの外周面に、前記ロータのアウトボード側の内周面が固定され、
前記ハブフランジの外周面および前記ロータのアウトボード側の内周面のいずれか一方に半径方向に凹む凹み部を備え、他方に前記凹み部に嵌合する凸部を備え、
前記凹み部と前記凸部が嵌合した状態で、前記凸部の先端面が前記凹み部の底面に嵌合固定され、前記ハブフランジの外周面に前記ロータの内周面が嵌合固定されている車輪用軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪用軸受装置において、前記車輪用軸受が、前記車両の主駆動源と機械的に非連結である従動輪を支持する軸受である車輪用軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車輪用軸受装置において、前記車輪用軸受が、前記車両の主駆動源と機械的に連結された駆動輪を支持する軸受である車輪用軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置において、前記車輪用軸受の前記固定輪が外輪、前記回転輪が内輪である車輪用軸受装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置において、前記動力装置の回転駆動用の駆動電圧または回生電圧が100V以下である車輪用軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置において、前記凹み部と前記凸部が嵌合した状態で、前記ハブフランジのアウトボード側端面と前記ロータのアウトボード側面が前記ブレーキロータに当接している車輪用軸受装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置を備えた車両。
【請求項8】
車輪用軸受に設置される電動発電機から成る動力装置であって、
前記車輪用軸受の固定輪に取付けられるステータと、前記車輪用軸受の回転輪に取付けられるロータとを備え、
この動力装置は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であり、
この動力装置の全体が、前記回転輪に取り付けられたブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、この動力装置における前記回転輪のアウトボード側に設けられたハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置し、
前記ロータは、この動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭
磁性体に設けられた永久磁石とを備え、
前記ハブフランジの外周面に、前記ロータのアウトボード側の内周面が固定され、
前記ハブフランジの外周面および前記ロータのアウトボード側の内周面のいずれか一方に半径方向に凹む凹み部を備え、他方に前記凹み部に嵌合する凸部を備え、
前記凹み部と前記凸部が嵌合した状態で、前記凸部の先端面が前記凹み部の底面に嵌合固定され、前記ハブフランジの外周面に前記ロータの内周面が嵌合固定されている動力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪用軸受装置およびこの車輪用軸受装置を備えた車両に関し、車輪用軸受の車体への取付構造を大きく変えることなく、少ない部品点数で、より出力の得られる動力装置を実装することができる技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪の中にモータを組み込むインホイールモータ構造(特許文献1,2)は、モータを動作させるインバータおよび電池を車体に搭載する必要があるものの、動力ユニットを車体内に搭載する必要がない。このため、車体容積を占有することなく車両に動力を付与でき、車体設計の自由度も高い。しかしながら、モータ出力はモータ体積と比例するため、大きな出力トルクを得るためにはモータを大きくするか、減速機構等が必要となる。モータ体積が大きいものまたは減速機構を有するインホイールモータはホイール内に収めることが難しく、従来と同様の車輪用軸受の搭載方法を使うことができず、車体の足回りの構造変更が避けられない。
【0003】
図11図13に示すように、一般的な車輪用軸受は、外輪60と一体に設けられた取付用フランジ60aを備え、この取付用フランジ60aがナックル61に取付けられる。前記取付用フランジ60aは、車体外側(アウトボード側)からナックル61と当接し、前記ナックル61と車体内側(インボード側)から挿通されたボルト62により締結される。車輪用軸受は、車両メーカにより取り付けられるため、組み付け性の良さが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4694147号公報
【文献】特許第4724075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車輪用軸受とブレーキロータ内に収まるインホイールモータのみで車体の動力を賄うにはモータ体積が小さい。このため、出力トルクを増大するために減速機構を備える必要またはモータサイズを大きくする必要がある。しかし、大きなモータをホイール内に収めることは難しく、特にモータを軸方向に大きくした場合、従来の車輪用軸受の固定方法のようなナックル面とフランジ面をボルトで締結する方法を用いることができず、車体の足回りの構造変更が避けられない。
【0006】
一方、内燃機関等の他の動力機構を主動力手段とするハイブリッドシステムの動力補助システムとしてインホイールモータを搭載することが考えられる。この場合、インホイールモータのみで車体の動力を賄う必要はなく、車両の走行状態または主動力手段の状態に合わせてインホイールモータを駆動、回生制動・充電することで、省燃費化および車両の動力性能の向上を図ることができるが、要求機能および費用対効果の面から以下の課題がある。
【0007】
・周辺部品の構造の改造が不要
・従来の車輪用軸受と同等の実装性
・部品点数の削減
・制限された空間における出力トルクの高出力化
この発明の目的は、車輪用軸受の車体への取付構造を大きく変えることなく、少ない部品点数で、より出力の得られる動力装置を実装することができる車輪用軸受装置およびこの車輪用軸受装置を備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の車輪用軸受装置は、固定輪、およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて車両の車輪が取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
前記固定輪に取付けられたステータ、および前記回転輪に取付けられたロータを有する動力装置と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記動力装置は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であり、
前記動力装置の全体が、前記回転輪に取り付けられたブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記動力装置における前記回転輪のアウトボード側に設けられたハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置し、
前記ロータは、前記動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭磁性体に設けられた永久磁石とを備えている。
【0009】
この構成によると、動力装置のロータが車輪用軸受の回転輪に取付けられたダイレクトドライブ形式であるため、動力装置の部品点数が少なく構成が簡易で省スペースで済み、車両重量の増加も抑えられる。
動力装置の全体が、ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、動力装置におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、ハブフランジと車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置するため、ブレーキロータ内に動力装置を設置するスペースを確保してこの動力装置をコンパクトに収めることができる。
【0010】
動力装置は、ロータがステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であるため、インナーロータ型よりもロータとステータとが対向する面積を増やすことができる。これにより、限られた空間内で出力トルクを最大化することが可能となる。
一般的なアウターロータ型の電動発電機は、外気に曝されるため耐泥水性および飛び石等に耐える強度が必要となり、外径部にケースを別途配置して保護する。この場合、前記ケースの空間分だけ電動発電機を小径にしなければならない。
この構成では、ロータが、動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭磁性体に設けられた永久磁石とを備える。換言すれば、外郭磁性体にケースとしての機能を兼用させ、この外郭磁性体自体をアウターロータとして回転させるため、アウターロータの強度を確保し且つコスト低減を図ると共に、一般的なアウターロータ型の構造等よりも、部品点数の低減を図りロータおよびステータの大径化を図ることができる。これにより、より出力の得られる動力装置を安価に実装することができる。
【0011】
前記外郭磁性体は、前記回転輪と同心の円筒形状であり、前記動力装置は、前記外郭磁性体の内周面に前記永久磁石が設けられた表面磁石型永久磁石モータであってもよい。
一般的に、加減速を伴う電動発電機は、磁束の変化に伴い鉄損が発生する。
この構成によると、表面磁石型永久磁石モータを採用することで、損失を少なくすることができ、また鉄損が生じ難い。
【0012】
前記ハブフランジの外周面に、前記ロータのアウトボード側の内周面が固定されたものであってもよい。この場合、ブレーキロータの軸方向位置を変更せずにロータを構成し得る。またロータの固定のために軸方向寸法が増えることがなく、外輪の外周における空間をより広く動力装置の設置に利用することができる。
【0013】
前記ハブフランジの外周面および前記ロータのアウトボード側の内周面のいずれか一方に半径方向に凹む凹み部を備え、他方に前記凹み部に嵌合する凸部を備えたものであってもよい。この場合、ロータの軸方向および径方向の位置決め精度を高めることができる。
【0014】
前記車輪用軸受が、前記車両の主駆動源と機械的に非連結である従動輪を支持する軸受であってもよい。この場合、動力装置が簡易で省スペースで済む構成であるため、車体の足回りの構造等を変更することなく、この動力装置を従動輪に簡単に設置することができる。
【0015】
前記車輪用軸受が、前記車両の主駆動源と機械的に連結された駆動輪を支持する軸受であってもよい。前述のように、動力装置の部品点数が少なく構成が簡易で省スペースで済むことから、車体の足回りの構造等を変更することなく、この動力装置を駆動輪に簡単に設置することができる。
【0016】
前記車輪用軸受の前記固定輪が外輪、前記回転輪が内輪であってもよい。
前記内輪の前記外輪に対する回転速度または回転角度を検出する回転検出器が、前記外輪における前記ハブフランジ側の端部と前記内輪との間に設けられていてもよい。この場合、回転検出器で検出した回転速度を動力装置の制御に用いることができる。回転角度からは容易に回転速度を算出することができ、算出した回転速度は動力装置の制御やアンチロックブレーキシステムに使用してもよい。なおシステムの構成により、回転速度または回転角度のいずれか一方または両方が必要となる。例えば、動力装置のトルク制御(電流制御)を行う場合は回転角度と回転速度の両方が必要となり、消費電力、回生電力を算出するにはトルクと回転速度が必要である。アンチロックブレーキシステムは回転速度が必要である。
【0017】
前記動力装置の回転駆動用の駆動電圧または回生電圧が100V以下であってもよい。この場合、乗員またはメンテナンス作業者等への感電の危険性を低くすることができる。内燃機関のみ備えた既存の車両に、この車輪用軸受装置と、動力装置用のバッテリーとして100V以下の中電圧バッテリーとを搭載することで、車両の大幅な改造をすることなく、マイルドハイブリッド車両にすることができる。
【0018】
この発明の車両は、いずれかに記載の車輪用軸受装置を備えている。この構成によると、車体の足回りの構造変更を行うことなく車輪用軸受装置を車両に設けることができる。この車輪用軸受装置により燃費を低減することができる。
【0019】
この発明の動力装置は、車輪用軸受に設置される電動発電機から成る動力装置であって、
前記車輪用軸受の固定輪に取付けられるステータと、前記車輪用軸受の回転輪に取付けられるロータとを備え、
この動力装置は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であり、
この動力装置の全体が、前記回転輪に取り付けられたブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、この動力装置における前記回転輪のアウトボード側に設けられたハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置し、
前記ロータは、この動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭磁性体に設けられた永久磁石とを備えている。
【0020】
この構成によると、動力装置のロータが車輪用軸受の回転輪に取付けられたダイレクトドライブ形式であるため、動力装置の部品点数が少なく構成が簡易で省スペースで済み、車両重量の増加も抑えられる。
動力装置の全体が、ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、動力装置におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、ハブフランジと車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置するため、ブレーキロータ内に動力装置を設置するスペースを確保してこの動力装置をコンパクトに収めることができる。
【0021】
動力装置は、ロータがステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であるため、インナーロータ型よりもロータとステータとが対向する面積を増やすことができる。これにより、限られた空間内で出力トルクを最大化することが可能となる。
特に、ロータが、動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭磁性体に設けられた永久磁石とを備える。換言すれば、外郭磁性体にケースとしての機能を兼用させ、この外郭磁性体自体をアウターロータとして回転させるため、アウターロータの強度を確保し且つコスト低減を図ると共に、一般的なアウターロータ型の構造等よりも、部品点数の低減を図りロータおよびステータの大径化を図ることができる。これにより、より出力の得られる動力装置を安価に実装することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の車輪用軸受装置は、固定輪、およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて車両の車輪が取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、前記固定輪に取付けられたステータ、および前記回転輪に取付けられたロータを有する動力装置と、を備えた車輪用軸受装置において、前記動力装置は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であり、前記動力装置の全体が、前記回転輪に取り付けられたブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記動力装置における前記回転輪のアウトボード側に設けられたハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置し、前記ロータは、前記動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭磁性体に設けられた永久磁石とを備えている。このため、車輪用軸受の車体への取付構造を大きく変えることなく、少ない部品点数で、より出力の得られる動力装置を実装することができる。
【0023】
この発明の車両は、いずれかに記載の車輪用軸受装置を備えているため、車輪用軸受の車体への取付構造を大きく変えることなく、少ない部品点数で、より出力の得られる動力装置を実装することができる。
【0024】
この発明の動力装置は、車輪用軸受に設置される電動発電機から成る動力装置であって、前記車輪用軸受の固定輪に取付けられるステータと、前記車輪用軸受の回転輪に取付けられるロータとを備え、この動力装置は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であり、この動力装置の全体が、前記回転輪に取り付けられたブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、この動力装置における前記回転輪のアウトボード側に設けられたハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車輪用軸受のインボード側の車体取り付け面との間の軸方向範囲に位置し、前記ロータは、この動力装置の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体と、この外郭磁性体に設けられた永久磁石とを備えている。このため、車輪用軸受の車体への取付構造を大きく変えることなく、少ない部品点数で、より出力の得られる動力装置を実装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明の実施形態に係る車輪用軸受装置の断面図である。
図2】同車輪用軸受装置の分解斜視図である。
図3】同車輪用軸受装置の動力装置の分解斜視図である。
図4】同動力装置の組立状態を示す斜視図である。
図5】この発明の他の実施形態に係る車輪用軸受装置の断面図である。
図6】同車輪用軸受装置の動力装置の分解斜視図である。
図7】同動力装置の組立状態を示す斜視図である。
図8】いずれかの車輪用軸受装置を備えた車両の車両用システムの概念構成を示すブロック図である。
図9】同車両用システムを搭載した車両の一例となる電源系統図である。
図10】同車輪用軸受装置を備えた他の車両の車両用システムの概念構成を説明する図である。
図11】従来例の車輪用軸受等の断面図である。
図12】同車輪用軸受とブレーキロータとナックルを分解した側面図である。
図13】同車輪用軸受とブレーキロータとナックルを分解した斜視図である。
図14】この発明のさらに他の実施形態に係る車輪用軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の実施形態に係る車輪用軸受装置を図1ないし図4と共に説明する。
図1に示すように、この車輪用軸受装置1は、車輪用軸受2と、動力装置3とを備える。
【0027】
<車輪用軸受2について>
車輪用軸受2は、固定輪である外輪4と、複列の転動体6と、回転輪である内輪5とを有する。外輪4に複列の転動体6を介して内輪5が回転自在に支持されている。内外輪5,4間の軸受空間には、グリースが封入されている。内輪5は、外輪4よりも軸方向のアウトボード側に突出した箇所にハブフランジ7を有する。外輪4は、ハブフランジ7とは反対側(インボード側)の端部である車体取り付け面において、ナックル等の足回りフレーム部品8にボルト9で取付けられ、車体の重量を支持する。なおこの明細書において、車輪用軸受装置1が車両に搭載された状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の車幅方向の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0028】
ハブフランジ7のアウトボード側の側面には、車輪のリム(図示せず)とブレーキロータ12とが軸方向に重なった状態で、ハブボルト13により取り付けられている。前記リムの外周にタイヤが取付けられている。
【0029】
<ブレーキ17について>
図2に示すように、ブレーキ17は、ディスク式のブレーキロータ12と、ブレーキキャリパ16(図8)とを備える摩擦ブレーキである。ブレーキロータ12は、平板状部12aと、外周部12bとを有する。平板状部12aは、ハブフランジ7に重なる環状で且つ平板状の部材である。外周部12bは、平板状部12aから外輪4の外周側へ延びる。外周部12bは、平板状部12aの外周縁部からインボード側に円筒状に延びる円筒状部12baと、この円筒状部12baのインボード側端から外径側に平板状に延びる平板部12bbとを有する。
【0030】
図1に示すように、前記ブレーキキャリパは、ブレーキロータ12の平板部12bbを挟み付ける摩擦パッド(図示せず)を有する。前記ブレーキキャリパは、足回りフレーム部品8に取付けられている。前記ブレーキキャリパは、油圧式および機械式のいずれであってもよく、また電動モータ式であってもよい。
【0031】
<動力装置3等について>
この例の動力装置3は、車輪の回転で発電を行い、給電されることによって車輪を回転駆動可能な走行補助用の電動発電機である。動力装置3は、内輪5のハブフランジ7に取付けられたロータ19と、外輪4の外周面に取付けられたステータ18とを有する。動力装置3は、ロータ19がステータ18の半径方向外方に位置するアウターロータ型である。また、動力装置3のロータ19が、車輪用軸受2の回転輪である内輪5に取付けられたダイレクトドライブ形式である。
【0032】
<SPMモータ構成例>
図3に示すように、この動力装置3は、アウターロータ型の表面磁石型永久磁石モータ、すなわちSPM(Surface Permanent Magnet)同期モータ(もしくはSPMSM(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)と標記)である。同期モータにおいては、ステータ18の巻き線形式として分布巻、集中巻の各形式が採用できる。
【0033】
ステータ18は、コア18aと、このコア18aの各ティースに巻回されたコイル18bとを有する。コア18aは、例えば、電磁鋼板、圧粉磁心、またはアモルファス合金等から構成される。ロータ19は、この動力装置3の外郭となる軟磁性材料から成る外郭磁性体15と、この外郭磁性体15の内周面に設けられる複数の永久磁石14とを備える。外郭磁性体15は、内輪5(図1)と同心の円筒形状であり、一体の軟磁性材料(金属部品)で形成されており、この動力装置3のケースの機能を兼ねている。
【0034】
ところで、車両のように速度変化を伴う場合、ロータ側には磁束の変化に伴い鉄損が生じるため、電磁鋼板または圧粉磁心を使用するのが一般的である。また、モータが高速回転で運転される場合においても、電源周波数が高くなるため、鉄損の発生を防止するためにロータとステータを電磁鋼板、圧粉磁心等で構成する必要がある。鉄損はヒステリシス損と渦電流損に分けられ、ヒステリシス損は電源周波数に比例して、渦電流損は電源周波数の二乗で大きくなる。
【0035】
本モータである動力装置3はダイレクトドライブで車輪用軸受2(図1)と接続されており、搭載される車両のタイヤ径に影響されるが、モータ回転速度は車速が時速200kmであっても約2000min-1程度となる。その際、2000min-1の回転速度で運転時のモータに入力される電源周波数は、例えば、本図3等に記載の12極のモータであれば、100Hzとなる。極数の増加に伴い電源周波数も増えるが、ダイレクトドライブでタイヤの回転速度と同期する本構成では、運転時の電力の周波数は概ね500Hz以下で必要性能を満たすため、大きな鉄損が発生せず、ロータ19を一体の軟磁性材料(金属部品)で構成してもよい。
【0036】
このようにロータ19を一体の軟磁性材料(金属部品)で構成することで、アウターロータの強度を確保し、且つ、安価なロータ19の構造とし得る。ロータ19は、一体の金属部品で切削または鋳造等を用いて製作してもよく、もしくは、複数の分割構造体で製作後、これら分割構造体を、例えば、溶接、接着等で固定してもよい。
【0037】
外郭磁性体15の内周面に円周方向一定間隔おきに複数の凹み部15aが形成され、図4に示すように、各凹み部15aに永久磁石14が嵌り込んで接着等により固定されている。
図1に示すように、外郭磁性体15はハブフランジ7に取付けられている。ハブフランジ7の外周面に、例えば、嵌合、溶接、または接着等により、外郭磁性体15のアウトボード側の内周面が固定されている。この場合、ブレーキロータ12の軸方向位置を変更せずにロータ19を構成し得る。また外郭磁性体15の固定のために軸方向寸法が増えることがなく、外輪4の外周における空間をより広く動力装置3の設置に利用し得る。
【0038】
動力装置3は、その全体の径方向範囲L2が、ブレーキロータ12の外周部12bよりも小径である。さらに動力装置3におけるハブフランジ7への取付部を除く全体が、ハブフランジ7と、車輪用軸受2のインボード側の車体取付面との間の軸方向範囲L1に位置する。すなわち、動力装置3は、ブレーキロータ12の外周部12bと外輪4の外周との間の径方向範囲に収められ、軸方向範囲L1については、ブレーキロータ12の外周部12bにおける円筒状部12baに、動力装置3の一部(アウトボード側半部)が入っている。
【0039】
<シール構造について>
外郭磁性体15のインボード側端部には、動力装置3および車輪用軸受2内部への水および異物の侵入を防ぐ環状のシール23が設けられている。このシール23は、外郭磁性体15と足回りフレーム部品8との間の開口部を密封するシールであって、足回りフレーム部品8の一部に対しラジアル方向に摺接する。この環状のシール23は、シール本体23a、立板部23bおよびリップ23cを有し、これらシール本体23a、立板部23bおよびリップ23cは一体に形成されている。シール本体23aは、外郭磁性体15のインボード側端部に固着され、前記開口部付近で水および異物の侵入を防ぐ。シール本体23aの内周面におけるインボード側から立板部23bが半径方向内方に延びる。立板部23bのインボード側面と足回りフレーム部品8との間に、所定の隙間が形成され、この隙間により異物等の侵入をさらに防止し得る。立板部23bの内周側の先端縁部からリップ23cが突出するように形成されている。同リップ23cにより異物等の侵入をより確実に防止し得る。
【0040】
<作用効果>
以上説明した車輪用軸受装置1によれば、動力装置3のロータ19が車輪用軸受2の内輪5に取付けられたダイレクトドライブ形式であるため、動力装置3の部品点数が少なく構成が簡易で省スペースで済み、車両重量の増加も抑えられる。
モータの出力は入力電力および構成する部材が等しければ、モータ体積で略決まる。そのため、設計上モータを構成している容積が大きい方が、モータ出力増加のために望ましい。
【0041】
本構成では、動力装置3の全体の径方向範囲L2が、ブレーキロータ12の外周部12bよりも小径であり、動力装置3におけるハブフランジ7への取付部を除く全体が、ハブフランジ7と、車輪用軸受2のインボード側の車体取付面との間の軸方向範囲L1に位置するため、ブレーキロータ12内に動力装置3を設置するスペースを確保してこの動力装置3をコンパクトに収めることができる。
【0042】
動力装置3は、ロータ19がステータ18の半径方向外方に位置するアウターロータ型であるため、インナーロータ型よりもロータ19とステータ18とが対向する面積を増やすことができる。これにより、限られた空間内で出力トルクを最大化することが可能となる。
外郭磁性体15は、一体の軟磁性材料(金属部品)で形成され、この動力装置3のケースの機能を兼ねているため、以下の機能が向上する。
・部品点数の削減
・アウターロータの強度確保
・アウターロータの加工精度および組付け精度の向上
・モータ出力の増加
つまり外郭磁性体15にケースとしての機能を兼用させ、この外郭磁性体15自体をアウターロータとして回転させるため、アウターロータの強度を確保し且つコスト低減を図ると共に、一般的なアウターロータ型の構造等よりも、部品点数の低減を図りロータ19およびステータ18の大径化を図ることができる。これにより、より出力の得られる動力装置3を安価に実装することができる。また、一体の金属部品で形成された外郭磁性体15は、例えば、複数の分割構造体が接着等で固定された外郭磁性体よりも、アウターロータの加工精度および組付け精度の向上を図れる。
【0043】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0044】
図5図7に示すように、外郭磁性体15が有底円筒状から成る構造であってもよい。この外郭磁性体15は、磁性体底部15bと、磁性体円筒状部15cとを有し、これら磁性体底部15bと、磁性体円筒状部15cとは一体もしくは別体で形成されている。図5に示すように、磁性体底部15bは、ブレーキロータ12の平板状部12aと、ハブフランジ7との間に挟まれる平板状で且つ環状の部材である。この磁性体底部15bの外周縁部からインボード側に磁性体円筒状部15cが円筒状に延びる。
【0045】
この構成によると、外郭磁性体15の磁性体底部15bが内輪5のハブフランジ7に重なることから、外郭磁性体15の剛性を上げることができる。これによりロータ19の回転精度を向上させることができる。
【0046】
各実施形態では、車輪用軸受2として、回転輪である内輪5がハブフランジ7を有する、所謂第3世代ハブベアリングを適用しているが、複列の転走面を有する外輪とナックル等への取付部材が別部材で形成される所謂第2世代ハブベアリングでもよいし、第2世代ハブベアリングに対して、複列の転走面を有する内輪とハブフランジ部とが別部品で構成される第1世代ハブベアリングを適用してもよい。
動力装置3は、アウターロータ型のIPM同期モータであってもよい。
【0047】
図14に示すように、ハブフランジ7の外周面に、ロータ19における外郭磁性体15のアウトボードの内周面が固定される構造において、環状の凹み部69および環状の凸部70を有する嵌合部を備えてもよい。ハブフランジ7の外周面のうち、アウトボード側外周に段差を付けることで、環状の凹み部69が形成される。この凹み部69は、ハブフランジ7の外周面に半径方向内方に所定長さ凹む。外郭磁性体15のアウトボードの内周面には、前記凹み部69に嵌合する環状の凸部70が形成されている。
【0048】
これら凹み部69と凸部70が互いに嵌合された嵌合状態で、凹み部69の底面に凸部70の先端面が嵌合固定されると共に、ハブフランジ7の外周面7aに外郭磁性体15の内周面15dが嵌合固定される。また前記嵌合状態で、ハブフランジ7のアウトボード側面(「ハブフランジ面」とも言う)と外郭磁性体15のアウトボード側面とが略同一平面に設定され、これらの面がブレーキロータ12の平板状部12aに当接するように設けられている。
【0049】
この構成によると、ハブフランジ7の外周面7aに、ロータ19における外郭磁性体15のアウトボードの内周面15aが固定されるため、ハブフランジ面で外郭磁性体15を支持する構造(図5)よりも、ロータ19の軸方向寸法を抑えることができる。また凹み部69と凸部70が互いに嵌合される嵌合部を備えるため、ハブフランジ7に対し、ロータ19の軸方向の位置を固定することができる。さらに凹み部69の底面に凸部70の先端面が嵌合固定されると共に、ハブフランジ7の外周面7aに外郭磁性体15の内周面15dが嵌合固定される(内径側、外径側の二面で嵌合固定される)ため、ロータ19の径方向の位置決め精度も高めることができる。
【0050】
図示しないが、円筒状の回転ケースに磁性体が設けられ、この磁性体の内周面にSPM型の永久磁石が取付けられる構造において、ハブフランジの外周面に、前記回転ケースのアウトボードの内周面が固定されてもよい。前記ハブフランジの外周面、前記回転ケースのアウトボードの内周面に、凹み部および環状の凸部を有する嵌合部を備えてもよい。
【0051】
外郭磁性体15の内周面に凹み部を形成し、この凹み部に嵌合する凸部をハブフランジ7の外周面に備えてもよい。
図14の実施形態において、凹み部69および凸部70は環状に形成されているが、円周方向に一つまたは複数形成してもよい。
凹み部69と凸部70とを有する嵌合部、およびハブフランジ7の外周面7aと外郭磁性体15の内周面15dとの嵌合部のいずれか一方または両方に接着剤等を塗布してもよい。
【0052】
<車両用システムについて>
図8は、いずれかの実施形態に係る車輪用軸受装置1を用いた車両用システムの概念構成を示すブロック図である。
この車両用システムにおいて、車輪用軸受装置1は、主駆動源と機械的に非連結である従動輪10を持つ車両において、従動輪10に対して搭載される。車輪用軸受装置1における車輪用軸受2(図1)は、従動輪10を支持する軸受である。
【0053】
主駆動源35は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン等の内燃機関、または電動発電機(電動モータ)、または両者を組み合わせたハイブリッド型の駆動源である。前記「電動発電機」は、回転付与による発電が可能な電動モータを称す。図示の例では、車両30は、前輪が駆動輪10、後輪が従動輪10となる前輪駆動車であって、主駆動源35が内燃機関35aと駆動輪側の電動発電機35bとを有するハイブリッド車(以下、「HEV」と称することがある)である。
【0054】
具体的には、駆動輪側の電動発電機35bが48V等の中電圧で駆動されるマイルドハイブリッド形式である。ハイブリッドはストロングハイブリッドとマイルドハイブリッドとに大別されるが、マイルドハイブリッドは、主要駆動源が内燃機関であって、発進時や加速時等にモータで走行の補助を主に行う形式を言い、EV(電気自動車)モードでは通常の走行を暫くは行えても長時間行うことができないことでストロングハイブリッドと区別される。同図の例の内燃機関35aは、クラッチ36および減速機37を介して駆動輪10のドライブシャフトに接続され、減速機37に駆動輪側の電動発電機35bが接続されている。
【0055】
この車両用システムは、従動輪10の回転駆動を行う走行補助用の動力装置(電動発電機)である発電機3Aと、この発電機3Aの制御を行う個別制御手段39と、上位ECU40に設けられて前記個別制御手段39に駆動および回生の制御を行わせる指令を出力する個別電動発電機指令手段45とを備える。発電機3Aは、蓄電手段に接続されている。この蓄電手段は、バッテリー(蓄電池)またはキャパシタ、コンデンサ等を用いることができ、その形式や車両30への搭載位置は問わないが、この実施形態では、車両30に搭載された低電圧バッテリー50および中電圧バッテリー49のうちの中電圧バッテリー49とされている。
【0056】
従動輪用の発電機3Aは、変速機を用いないダイレクトドライブモータである。発電機3Aは、電力を供給することで電動機として作用し、また車両30の運動エネルギーを電力に変換する発電機としても作用する。
発電機3Aは、ハブ輪である内輪5(図1)にロータ19(図1)が取付けられているため、発電機3Aに電流を印加すると内輪5(図1)が回転駆動され、逆に電力回生時には誘起電圧を負荷することで回生電力が得られる。この発電機3Aの回転駆動用の駆動電圧または回生電圧が100V以下である。
【0057】
<車両30の制御系について>
上位ECU40は、車両30の統合制御を行う手段であり、トルク指令生成手段43を備える。このトルク指令生成手段43は、アクセルペダル等のアクセル操作手段56およびブレーキペダル等のブレーキ操作手段57からそれぞれ入力される操作量の信号に従ってトルク指令を生成する。この車両30は、主駆動源35として内燃機関35aおよび駆動輪側の電動発電機35bを備え、また二つの従動輪10,10をそれぞれ駆動する二つの発電機3A,3Aを備えるため、前記トルク指令を各駆動源35a,35b,3A,3Aに定められた規則によって分配するトルク指令分配手段44が上位ECU40に設けられている。
【0058】
内燃機関35aに対するトルク指令は内燃機関制御手段47に伝達され、内燃機関制御手段47によるバルブ開度制御等に用いられる。駆動輪側の発電電動機35bに対するトルク指令は、駆動輪側電動発電機制御手段48に伝達されて実行される。従動輪側の発電機3A,3Aに対するトルク指令は、個別制御手段39,39に伝達される。前記トルク指令分配手段44のうち、個別制御手段39,39へ出力する部分を個別電動発電機指令手段45と称している。この個別電動発電機指令手段45は、ブレーキ操作手段57の操作量の信号に対して、発電機3Aが回生制動により制動を分担する制動力の指令となるトルク指令を個別制御手段39へ与える機能も備える。個別電動発電機指令手段45および個別制御手段39により、発電機3Aを制御する制御手段68が構成される。
【0059】
個別制御手段39はインバータ装置であり、中電圧バッテリー49の直流電力を三相の交流電圧に変換するインバータ41と、前記トルク指令等によりインバータ41の出力をPWM制御等で制御する制御部42とを有する。インバータ41は、半導体スイッチング素子等によるブリッジ回路(図示せず)と、発電機3Aの回生電力を中電圧バッテリー49に充電する充電回路(図示せず)とを備える。なお個別制御手段39は、二つの発電機3A,3Aに対して個別に設けられるが、一つの筐体内に収められ、制御部42を両個別制御手段39,39で共有する構成であってもよい。
【0060】
図9は、図8に示した車両用システムを搭載した車両の一例となる電源系統図である。同図の例では、バッテリーとして低電圧バッテリー50と中電力バッテリー49とが設けられ、両バッテリー49,50は、DC/DCコンバータ51を介して接続されている。発電機3Aは二つあるが、代表して一つで図示している。図8の駆動輪側の電動発電機35bは、図9では図示を省略しているが、従動輪側の発電機3Aと並列に中電力系統に接続されている。低電圧系統には低電圧負荷52が接続され、中電圧系統には中電圧負荷53が接続される。低電圧負荷52および中電圧負荷53は、それぞれ複数あるが、代表して一つで示している。
【0061】
低電圧バッテリー50は、制御系等の電源として各種の自動車一般に用いられているバッテリーであり、例えば12Vまたは24Vとされる。低電圧負荷52としては、内燃機関35aのスタータモータ、灯火類、上位ECU40およびその他のECU(図示せず)等の基幹部品がある。低電圧バッテリー50は電装補機類用補助バッテリーと称し、中電圧バッテリー49は電動システム用補助バッテリー等と称しても良い。
【0062】
中電圧バッテリー49は、低電圧バッテリー50よりも電圧が高く、かつストロングハイブリッド車等に用いられる高圧バッテリー(100V以上、例えば200~400V程度)よりも低く、かつ作業時に感電による人体への影響が問題とならない程度の電圧であり、近年マイルドハイブリッドに用いられている48Vバッテリーが好ましい。48Vバッテリー等の中電圧バッテリー49は、従来の内燃機関を搭載した車両に比較的容易に搭載することができ、マイルドハイブリッドとして電力による動力アシストや回生により、燃費低減することができる。
【0063】
前記48V系統の中電圧負荷53は前記アクセサリー部品であり、前記駆動輪側の電動発電機35bである動力アシストモータ、電動ポンプ、電動パワーステアリング、スーパーチャージャ、およびエアーコンプレッサなどである。アクセサリーによる負荷を48V系統で構成することで、高電圧(100V以上のストロングハイブリッド車など)よりも動力アシストの出力が低くなるものの、乗員やメンテナンス作業者への感電の危険性を低くすることができる。電線の絶縁被膜を薄くすることができるので、電線の重量や体積を減らすことができる。また、12Vよりも小さな電流量で大きな電力量を入出力することができるため、電動機または発電機の体積を小さくすることができる。これらのことから、車両の燃費低減効果に寄与する。
【0064】
この車両用システムは、こうしたマイルドハイブリッド車のアクセサリー部品に好適であり、動力アシストおよび電力回生部品として適用される。なお、従来よりマイルドハイブリッド車において、CMG、GMG、ベルト駆動式スタータモータ(いずれも図示せず)などが採用されることがあるが、これらはいずれも、内燃機関または動力装置に対して動力アシストまたは回生するため、伝達装置および減速機などの効率の影響を受ける。
【0065】
これに対してこの実施形態の車両用システムは従動輪10に対して搭載されるため、内燃機関35aおよび電動モータ(図示せず)等の主駆動源とは切り離されており、電力回生の際には車体の運動エネルギーを直接利用することができる。また、CMG、GMG、ベルト駆動式スタータモータなどを搭載する際には、車両30の設計段階から考慮して組み込む必要があり、後付けすることが難しい。
【0066】
これに対して、従動輪10内に収まるこの車両用システムの発電機3Aは、完成車であっても部品交換と同等の工数で取り付けることができ、内燃機関35aのみの完成車に対しても48Vのシステムを構成することができる。内燃機関35aのみ備えた既存の車両に、いずれかの実施形態に係る車輪用軸受装置1と、発電機用のバッテリーとして前記中電圧バッテリー49とを搭載することで、車両の大幅な改造をすることなく、マイルドハイブリッド車両にすることができる。この実施形態の車両用システムを搭載した車両に、図8の例のように別の補助駆動用の電動発電機35bが搭載されていても構わない。その際は車両30に対する動力アシスト量や回生電力量を増加させることができ、さらに燃費低減に寄与する。
【0067】
図10は、いずれかの実施形態に係る車輪用軸受装置1を、前輪である駆動輪10および後輪である従動輪10にそれぞれ適用した例を示す。駆動輪10は内燃機関からなる主駆動源35により、クラッチ36および減速機7を介して駆動される。この前輪駆動車において、各駆動輪10および従動輪10の支持および補助駆動に、車輪用軸受装置1が設置されている。このように車輪用軸受装置1を、従動輪10だけでなく、駆動輪10にも適用し得る。
【0068】
図8に示す車両用システムは、発電を行う機能を有するが、給電による回転駆動をしないシステムとしてもよい。この場合、発電機3Aが発電した回生電力を中電圧バッテリー49に蓄えることにより、制動力を発生させることができる。機械式のブレーキ操作手段57と併用や使い分けで、制動性能も向上させることができる。このように発電を行う機能に限定した場合、個別制御手段39はインバータ装置ではなく、AC/DCコンバータ装置
(図示せず)として構成することができる。前記AC/DCコンバータ装置は、3相交流電圧
を直流電圧に変換することで、発電機3Aの回生電力を中電圧バッテリー49に充電する機能を備え、インバータと比較すると制御方法が容易であり、小型化が可能となる。
【0069】
加えて、本願における車輪用軸受装置1は、回転輪として、一つの部分内輪が嵌合されたハブ輪を備え、固定輪である外輪と、ハブ輪および部分内輪の嵌合体で構成された第3世代構造としているが、これに限定するものではない。
ハブフランジを有するハブと、転動体の軌道面を有する部材とを合わせた構造体が請求項でいう回転輪となる。例えば、主に固定輪である外輪と、ハブフランジを有するハブの外周面に嵌合された内輪とを備えた第1世代構造であってもよい。固定輪である外輪と、ハブフランジを有するハブの外周面に嵌合された内輪とを備えた内輪回転形式の第2世代構造であってもよい。これらの例では、前記ハブと前記内輪とが組み合わさったものが請求項でいう「回転輪」に相当する。ハブフランジを有する回転輪である外輪と、固定輪である内輪とを備えた外輪回転形式の第2世代構造であってもよい。
【0070】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
2…車輪用軸受
3…動力装置
4…外輪(固定輪)
5…内輪(回転輪)
6…転動体
7…ハブフランジ
10,10…駆動輪,従動輪
12…ブレーキロータ
12b…外周部
14…永久磁石
15…外郭磁性体
18…ステータ
19…ロータ
69…凹み部
70…凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14