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特許7156796表刷り用リキッド印刷インキ組成物及び印刷物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】表刷り用リキッド印刷インキ組成物及び印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20221012BHJP
   C09D 11/08 20060101ALI20221012BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20221012BHJP
【FI】
C09D11/102
C09D11/08
C09D11/106
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018006438
(22)【出願日】2018-01-18
(65)【公開番号】P2019123823
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】寺川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 知生
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 敏生
(72)【発明者】
【氏名】田口 信吉
(72)【発明者】
【氏名】進藤 朋美
(72)【発明者】
【氏名】川島 康成
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-239593(JP,A)
【文献】特開2017-025256(JP,A)
【文献】特開2003-277669(JP,A)
【文献】特開2013-194081(JP,A)
【文献】特開2017-039896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/102
C09D 11/08
C09D 11/106
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールとポリイソシアネートとを反応原料とするポリウレタン樹脂(P1)、キレート架橋剤(A)、顔料(B)、及び有機溶剤(C)とを含有する表刷り用リキッド印刷インキ組成物であって、前記ポリオールがポリカプロラクトンポリオール(pp1)と、ポリエステルポリオール(pp2)又はポリエーテルポリオール(pe1)を含有することを特徴とする表刷り用リキッド印刷インキ組成物。
但し、前記ポリカプロラクトンポリオール(pp1)に対するポリエステルポリオール(pp2)又はポリエーテルポリオール(pe1)の質量%が、99:1~33:67の範囲である。
前記ポリエステルポリオール(pp2)は、ポリカプロラクトンポリオール(pp1)を除くものである。
更に前記有機溶剤(C)が、芳香族炭化水素系有機溶剤を含有せず、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした際の比蒸発速度が100以下であるアルコールを含有する。
【請求項2】
更にセルロース系樹脂(D)、及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(E)を含む請求項1に記載の表刷り用リキッド印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記ポリカプロラクトンポリオール(pp1)の数平均分子量が300~5000である請求項1又は2に記載の表刷り用リキッド印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記ポリオールが、数平均分子量が400~6000であるポリエーテルポリオール(pe1)または数平均分子量が400~6000であるポリエステルポリオール(pp2)を含有する請求項1~3のいずれかに記載の表刷り用リキッド印刷インキ組成物。
【請求項5】
更に脂肪酸アミド(F)を、表刷り用リキッド印刷インキ組成物全量に対し0.1~3.0質量%含有する請求項1~4の何れか1つに記載の表刷り用リキッド印刷インキ組成物。
【請求項6】
請求項1~の何れか1つに記載の表刷り用リキッド印刷インキ組成物を印刷してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟包装用リキッドインキとして使用可能な、表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
軟包装フィルムの被印刷体に美粧性、機能性を付与させる目的で、リキッドインキやフレキソインキ等のリキッドインキが広く用いられている。グラビア印刷やフレキソ印刷された被印刷体が、包装材料の中でも特に食品向けや衛生用品向け軟包材として用いられる場合、商品の包装には、内容物との接触を防ぐべく内容物に触れる包材側に当たる裏側には印刷せず、包材の外側のみにデザイン印刷する表刷り印刷が行われる。
そして、表刷り用リキッド印刷インキ組成物は、フィルム基材の表側に印刷されたインキ皮膜が、直接外力によって擦れたり、他の物質と接蝕する為に、その皮膜強度や各種耐性が要求される。
【0003】
即ち、各種フィルム基材に対する接着性、表の印刷面と印刷面、又は表の印刷面とフィルムの裏面とが密着した際に互いに接着する事のない耐ブロッキング性、塩化ビニル製テーブルクロス上に商品を置いた際、接着する事のない耐塩ビブロッキング性、印刷面にアルコール類が付着した際、絵柄が剥がれる事のない耐アルコール性、有機溶剤や油分が付着したり、梱包段階で食品中の油分が付着した際に絵柄が溶けたり剥がれる事のない耐油性等を兼ね備える事が望まれる。
そして、上記性能を保持しつつ、高速印刷においても小網点に当たるハイライト点が掠れる事なく網点再現性に優れ、絵柄のない非印刷部の印刷汚れが発生しにくいと言った優れた印刷適性を合わせ持つ事が望まれる。
例えば、ウレタン樹脂とセルロース誘導体を使用したグラビアインキ組成物の発明(例えば、特許文献1、及び2)、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ロジン、及びキレートを含む表刷りグラビアインキ組成物の発明(例えば、特許文献3、及び4)、エステル系樹脂及びエステル系分散剤を用いた表刷りグラビアインキ組成物の発明(例えば、特許文献5)が成されているが、いずれも種々耐性と前記印刷適性を両立できているとは言えず、中でも、耐油性、塩化ビニルに対する耐ブロッキング性及び印刷適性を両立させる事は決して容易でない。
【0004】
【文献】特開2007-246822号公報
【文献】特開2002-294128号公報
【文献】特開2012-012597号公報
【文献】特開2013-256551号公報
【文献】特開2017-039896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、基材フィルムへの基材接着性を始めとする優れた各種インキ塗膜特性に加えて、特に耐油性、塩化ビニルに対する耐ブロッキング性と高速印刷においても小網点に当たるハイライト点が掠れる事なく網点再現性に優れ、絵柄のない非印刷部の印刷汚れが発生しにくい印刷適性を兼備した表刷り用リキッド印刷インキ組成物、及び表刷り用リキッド印刷インキ組成物を印刷してなる印刷物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物は、ポリカプロラクトンポリオールを反応原料とするポリウレタン樹脂、キレート架橋剤、顔料、及び有機溶剤を含有する事で課題解決に有効であることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、ポリオールとポリイソシアネートとを反応原料とするポリウレタン樹脂(P1)、キレート架橋剤(A)、顔料(B)、及び有機溶剤(C)とを含有する表刷り用リキッド印刷インキ組成物であって、前記ポリオールがポリカプロラクトンポリオール(pp1)を含有する表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【0008】
更に、本発明は、セルロース系樹脂(D)、及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(E)を含む表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【0009】
更に、本発明は、前記ポリカプロラクトンポリオール(pp1)の数平均分子量が300~5000である表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【0010】
更に、本発明は、前記ポリオールが、数平均分子量が400~6000であるポリエステルポリオール(pp2)又はポリエーテルポリオール(pe1)を含有する表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【0011】
更に、本発明は、前記ポリカプロラクトンポリオール(pp1)に対するポリエステルポリオール(pp2)又はポリエーテルポリオール(pe1)の質量%が、100:0~5:95の範囲である表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【0012】
更に、本発明は、脂肪酸アミド(F)を、表刷り用リキッド印刷インキ組成物全量に対し0.1~3.0質量%含有する表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【0013】
更に、本発明は、前記有機溶剤(C)が、芳香族炭化水素系有機溶剤を含有せず、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした際の比蒸発速度が100以下であるアルコールを含有する表刷り用リキッド印刷インキ組成物に関する。
【0014】
更に、本発明は、該表刷り用リキッド印刷インキ組成物を印刷してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、基材フィルムへの基材接着性を始めとする優れた各種インキ塗膜特性に加えて、特に耐油性、塩化ビニルに対する耐ブロッキング性と高速印刷においても小網点に当たるハイライト点が掠れる事なく網点再現性に優れ、絵柄のない非印刷部の印刷汚れが発生しにくい印刷適性を兼備した表刷り用リキッド印刷インキ組成物、及び表刷り用リキッド印刷インキ組成物を印刷してなる印刷物を提供する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について詳細に説明する。なお以下の説明で用いる「インキ」とは全て「リキッド印刷インキ」を示す。また「部」とは全て「質量部」を、「%」は全て「質量%」を示す。
【0017】
本発明の表刷り印刷用リキッドインキ組成物は、ポリオールとポリイソシアネートとを反応原料とするポリウレタン樹脂(P1)、キレート架橋剤(A)、顔料(B)、及び有機溶剤(C)とを含有する表刷り用リキッド印刷インキ組成物であって、前記ポリオールがポリカプロラクトンポリオール(pp1)を含有することを特徴とする。
【0018】
(ポリウレタン樹脂(P1))
本発明で使用するポリウレタン樹脂(P1)の原料であるポリカプロラクトンポリオール(pp1)は特に限定はなく、例えば、ε-カプロラクトンと、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,2-ポリブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオールなどのジオールとを反応させて得られるポリカプロラクトンジオール等を使用することができる。
【0019】
前記ポリカプロラクトンポリオール(pp1)の数平均分子量(以下Mnと称する場合がある)は、300以上5000以下である事が好ましく、より好ましくは400以上4000以下である。前記ポリカプロラクトンポリオール(pp1)の数平均分子量が300以上5000以下であれば、特に耐油性が優れる傾向にある。
【0020】
本発明においては、ポリウレタン樹脂の原料としてポリカプロラクトンポリオール(pp1)を使用する以外は特に限定はなく公知の原料を用いてポリウレタン樹脂を製造することができる。
一般的にポリウレタン樹脂を得るには、ポリオールとポリイソシアネート、必要に応じて鎖伸張剤や反応停止剤等を、従来より公知の方法にて製造される。
【0021】
前記ポリオールとしては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知のポリオールを用いることができ、1種または2種以上を併用してもよい。
例えば、酸化メチレン、酸化エチレン、テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール類(1);
エチレングリコール、1,2―プロパンジオール、1,3―プロパンジオール、2メチル-1,3プロパンジオール、2エチル-2ブチル-1,3プロパンジオール、1,3―ブタンジオール、1,4―ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4-ブチンジオール、1,4―ブチレンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、ソルビトール、ペンタエスリトールなどの飽和または不飽和の低分子ポリオール類(2);
これらの低分子ポリオール類(2)と、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、こはく酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸あるいはこれらの無水物とを、脱水縮合または重合させて得られるポリエステルポリオール類(3);
環状エステル化合物、例えばポリバレロラクトン、ポリ(β-メチル-γ-バレロラクトン)等のラクトン類、を開環重合して得られるポリエステルポリオール類(4);
前記低分子ポリオール類(2)などと、例えばジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネートポリオール類(5);
ポリブタジエングリコール類(6);
ビスフェノールAに酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加して得られるグリコール類(7);
1分子中に1個以上のヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロプル、アクリルヒドロキシブチル等、或いはこれらの対応するメタクリル酸誘導体等と、例えばアクリル酸、メタクリル酸又はそのエステルとを共重合することによって得られるアクリルポリオール(8)などが挙げられる。
【0022】
尚、前記ポリエステルポリオール類(3)のなかで、ジオール類(グリコール類)と二塩基酸とから得られる高分子ジオールは、ジオール類のうち5モル%までを前記水酸基を3つ以上有する低分子ポリオール類(2)に置換することが出来る。
【0023】
前記ポリオールのうち、ポリエーテルポリオール類(1)またはポリエステルポリオール類(3)が好ましく、中でも、数平均分子量が400~6000であるポリエーテルポリオール(1)(以下ポリエーテルポリオール(pe1)と称す)、または数平均分子量が400~6000であるポリエステルポリオール(1)(以下ポリエステルポリオール(pp2)と称す)含有することが好ましい。
【0024】
ポリウレタン樹脂(A)の反応原料である前記ポリオール100質量部に対して、ポリカプロラクトンポリオール(pp1)の含有比率は、10~95質量部である事が好ましい。また、前記ポリカプロラクトンポリオール(pp1)に対するポリエステルポリオール(pp2)又はポリエーテルポリオール(pe1)の質量%は、100:0~5:95の範囲であることが、耐油性の点から好ましい。
【0025】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物におけるポリウレタン樹脂(P1)に使用されるジイソシアネート化合物としては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知の芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。例えば、1,5―ナフチレンジイソシアネート、4,4’―ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’―ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’―ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3―フェニレンジイソシアネート、1,4―フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン―1,4―ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4―トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサン―1,4―ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン―4,4’―ジイソシアネート、1,3―ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、mーテトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビス-クロロメチル-ジフェニルメタン-ジイソシアネート、2,6-ジイソシアネート-ベンジルクロライドやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等があげられる。これらのジイソシアネート化合物は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物におけるポリウレタン樹脂(P1)に使用される鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン―4,4’―ジアミンなどの他、2―ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピルジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2―ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなど分子内に水酸基を有するアミン類も用いることが出来る。これらの鎖伸長剤は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
また、反応停止を目的とした末端封鎖剤として、一価の活性水素化合物を用いることもできる。かかる化合物としてはたとえば、ジーnーブチルアミン等のジアルキルアミン類やエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類があげられる。更に、特にポリウレタン樹脂中にカルボキシル基を導入したいときには、グリシン、L-アラニン等のアミノ酸を反応停止剤として用いることができる。これらの末端封鎖剤は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物におけるポリウレタン樹脂(P1)は、例えば、ポリカプロラクトンポリオール(pp1)および併用するポリオールとジイソシアネート化合物とを、イソシアネート基が過剰となる割合で反応させ、末端イソシアネート基のプレポリマーを得、得られるプレポリマーに、適当な溶剤、すなわち、リキッドインキ用の溶剤として通常用いられる、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノールなどのアルコール系溶剤;トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;に混合した鎖伸長剤および(または)末端封鎖剤と反応させる二段法、あるいはポリプロピレングリコールおよび併用ポリオール、ジイソシアネート化合物、鎖伸長剤および(または)末端封鎖剤を上記のうち適切な溶剤中で一度に反応させる一段法により製造される。これらの方法のなかでも、均一なポリウレタン樹脂を得るには、二段法によることが好ましい。さらに近年、作業環境の観点から、トルエン、キシレンといった芳香族炭化水素系有機溶剤やケトン系溶剤を用いないことがより好ましい。
【0028】
このようにして得られるポリウレタン樹脂(P1)の重量平均分子量は、15,000~100,000の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは15,000~80,000の範囲である。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が15,000未満の場合には、得られるインキの組成物の耐ブロッキング性、印刷被膜の強度や耐油性などが低くなる傾向があり、100,000を超える場合には、得られるインキ組成物の粘度が高くなり、印刷被膜の光沢が低くなる傾向がある。
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物で使用するポリウレタン樹脂(P1)のインキにおける含有量は、インキの被印刷体への接着性を十分にする観点からインキの総質量に対して4質量%以上、適度なインキ粘度やインキ製造時・印刷時の作業効率の観点から25質量%以下が好ましく、更には6~15質量%の範囲が好ましい。
【0029】
(キレート架橋剤)
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物においては、キレート架橋剤(A)を含有する事を必須とする。中でも、凝集力向上を目的とするキレートタイプの金属有機化合物が好ましい。金属キレート化合物としては有機チタン系、有機ジルコニウム系、有機アルミニウム系を使用することが出来る。キレートタイプの金属有機化合物を用いれば、加温せずとも架橋反応が完結する一方で、常温での加水分解も起こり難く安定した架橋反応が得られ、特に分子中にアミンが存在する場合にその効果は大である。
【0030】
前述の通り、表刷り用リキッド印刷インキ組成物は、包材の表側に印刷される事からそのインキ皮膜は外部に曝される事となり、様々な物質と直接接触する。そのためフィルムへの基材密着性の他に、耐熱性、耐油性といった強靱な皮膜物性が要求される。特に近年、フィルム製袋時に於けるヒートシールに対する耐熱性や、食品に含有される油分に対する耐油性の強い表刷りインキが求められているが、本発明のインキはキレート架橋剤を含むので、強靭な皮膜物性を得ることができる。
【0031】
前記チタンキレートは、1分子中にTi-O-C結合を保有するものであり、このアルコキシ基を有する事によって樹脂の分子間又は分子内架橋結合を強固にする役割を持つ。チタンキレートとしては、チタンアルコキシド、チタンアシレート等が挙げられ。前記チタンアルコキシドとしては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートの他、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセテート、チタニウムエチルアセトアセテート、チタニウムラクテート、オクチレングリコールチタネート、チタンテトラアセチルアセテート、リン酸チタン化合物等を挙げる事ができる。有機チタン系の中でも、リン酸チタン化合物及びチタニウムアセチルアセテートが好ましい。市販品としてチタンTAAキレート剤(BORICA社製):チタニウムアセチルアセトネート CAS:17927-27-9等が挙げられる。
尚、キレート架橋剤の配合量は、表刷り用リキッド印刷インキ組成物全量の0.1~5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5~3.0質量%である。
【0032】
(顔料(B))
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物で使用する顔料(B)としては、着色顔料、白色顔料いずれでもよい。白色顔料を添加すれば、例えば表刷りリキッド印刷を例に挙げれば、絵柄の背景に相当する白インキとしても使用することができる。これら顔料を添加しなければオーバーコートニス用途として使用する事もできる。
【0033】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物に使用される着色顔料としては、一般のインキ、塗料、および記録剤などに使用されている有機顔料や染料を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。
【0034】
カラーインデックス名としては、
C.I.Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、42、74、83;
C.I.Pigment Orange 16;
C.I.Pigment Red 5、22、38、48:1、48:2、48:4、49:1、53:1、57:1、63:1、81、101;
C.I.Pigment Violet 19、23;
C.I.Pigment Blue 23、15:1、15:3、15:4、17:1、18、27、29
C.I.Pigment Green 7、36、58、59;
C.I.Pigment Black 7;
C.I.Pigment White 4、6、18などが挙げられる。
【0035】
藍インキにはC.I.Pigment Blue 15:3(銅フタロシアニン)、黄インキにはコスト・耐光性の点からC.I.Pigment Yellow83、紅インキにはC.I.Pigment Red 57:1を用いることが好ましい。墨インキにはカーボンブラック、金、銀インキにはアルミニウム、パールインキにはマイカ(雲母)を使用することがコストや着色力の点から好ましい。アルミニウムは粉末またはペースト状であるが、取扱い性および安全性の面からペースト状で使用するのが好ましく、リーフィングまたはノンリーフィングを使用するかは輝度感および濃度の点から適宜選択される
【0036】
また、本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物に使用される白色顔料としては、例えば、酸化チタン、硫化亜鉛、鉛白、亜鉛華、リトボン、アンチモンホワイト、塩基性硫酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、シリカ、等があげられる。
尚、前記顔料の平均粒径は、10~200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50~150nm程度のものである。
また前記顔料の添加量としては、十分な画像濃度や印刷画像の耐光性を得るため、インキ全量の1~20質量%の範囲で含有させることが好ましい。
【0037】
(有機溶剤(C))
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物で使用する有機溶剤(C)としては、特に制限はないが、たとえばトルエン、キシレン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の芳香族炭化水素系有機溶剤、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系の各種有機溶剤が挙げられる。また水混和性有機溶剤としてメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、シクロハキサノン等のケトン系、エチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、エチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル等のグリコールエーテル系の各種有機溶剤が挙げられる。これらを単独または2種以上を混合しても用いることができる。
【0038】
中でも、芳香族炭化水素系有機溶剤を含有せず、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした際の比蒸発速度が100以下であるアルコールを含有することが好ましい。
このようなアルコールとしては、例えば1-プロピルアルコール(CAS番号71-23-8、蒸発速度94)、イソブチルアルコール(CAS番号78-83-1、蒸発速度64)、1-ブタノール(CAS番号71-36-3、蒸発速度47)、2-ブタノール(CAS番号78-92-2、蒸発速度89)、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(CAS番号123-42-2、蒸発速度15)、エチレングリコールモノメチルエーテル(CAS番号109-86-4、蒸発速度53)、エチレングリコールモノエチルエーテル(CAS番号110-80-5、蒸発速度38)、エチレングリコールモノ-ノルマルブチルエーテル(CAS番号111-76-2、蒸発速度8)、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル(CAS番号7580-85-0、蒸発速度19)、3-メトキシ-3-メチルブタノール(CAS番号56539-66-3、蒸発速度7)、1-メトキシ-2-プロパノール(CAS番号107-98-2、蒸発速度71)、1-エトキシ-2-プロパノール(CAS番号1569-02-4、蒸発速度34)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(CAS番号1569-01-3、蒸発速度22)が挙げられる。
【0039】
比蒸発速度が100以下であるアルコールを含有する事で、網点面積10%以下のハイライト転移性の維持、及びハイライト向上が保持できる。
そのメカニズムは以下の2点が挙げられ、まず第一に、
1)インキがフィルムに転移後、約半分のインキがグラビア版のセル内に残る。
2)その残ったインキは再びインキパン内のインキに接するまで含有する溶剤が揮発し、半乾き状態になる。更に蒸発速度が速い溶剤から揮発する為、揮発速度が遅い溶剤がインキパン内に残る。
3)この際に、樹脂溶解性が高い溶剤が残っていると、その半乾きインキが再びインキに接した際に再溶解し、セル内でインキが固まることを防止する。
酢酸ブチルの蒸発速度を100とした際の比蒸発速度が100を超える汎用的なアルコールでは揮発速度が速いため、上記の様なメカニズムは機能する事が難しい傾向にある。
第二に、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした際の比蒸発速度が100以下であるアルコールは、アルコール1分子内に占める水酸基(アルコール基)の比率が低い事から、ポリウレタン樹脂の溶解性を高める傾向にある。
【0040】
尚、印刷時の作業衛生性と包装材料の有害性の両面から、酢酸エチル、酢酸プロピル、イソプロパノール、ノルマルプロパノールなどを使用し、トルエン等の芳香族溶剤やメチルエチルケトン等のケトン系溶剤を使用しない事がより好ましい。
中でもポリウレタン樹脂、硝化綿への溶解性の観点から、イソプロピルアルコール/酢酸エチル/酢酸ノルマルプロピル/メチルシクロヘキサンの混合液がより好ましい。また、乾燥調整のために組成物全量の10質量%未満であればグリコールエーテル類を添加する事も出来る。
【0041】
(セルロース系樹脂(D)や塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(E))
更に、本発明の表刷り印刷用リキッドインキ組成物では、更にセルロース系樹脂(D)、及び/又は塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(E)を含有してもよい。
【0042】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物で使用するセルロース系樹脂(D)としては、顔料の高い分散性が得られ、印刷インキ塗膜の耐熱性、耐油性を向上させることから好適である。
前記セルロース系樹脂(D)としては、窒素含有量が10~13質量%、平均重合度30~500が好ましく、より好ましくは窒素含有量が10~13質量%、平均重合度45~290である。セルロース系樹脂(D)の添加量としては、インキ固形分に対し、0.05~10質量%であることが好ましい。さらに好ましくは0.1~3質量%である。
【0043】
前記水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(E)としては、水酸基価が50~200mgKOH/gであり、かつ前記共重合体樹脂中の塩化ビニル成分の含有比率が80~95質量%である事が好ましい。
【0044】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物に用いられる水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(E)は、二種類の方法で得ることができる。一つは塩化ビニルモノマー、酢酸ビニルモノマーおよびビニルアルコールを適当な割合で共重合して得られる。もう一つは、塩化ビニルと酢酸ビニルを共重合した後、酢酸ビニルを一部ケン化することにより得られる。水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂は、塩化ビニル、酢酸ビニルおよびビニルアルコールのモノマー比率により樹脂被膜の性質や樹脂溶解挙動が決定される。即ち、塩化ビニルは樹脂被膜の強靭さや硬さを付与し、酢酸ビニルは接着性や柔軟性を付与し、ビニルアルコールは極性溶剤への良好な溶解性を付与する。
【0045】
(脂肪酸アミド(F))
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物は、更に脂肪酸アミド(F)を添加しポリウレタン樹脂と併用する事で、耐熱性、耐油性、耐塩ビブロッキング性を向上させることができ好ましい。
前記脂肪酸アミド(F)を表刷り用リキッド印刷インキ組成物全量の0.1~3.0質量%の範囲で添加する事が好ましく、0.5~2.0質量%であればより好ましい。含有量が0.1質量%未満であると耐塩ビブロッキング性が低下する可能性があり、3.0質量%以上の場合は、耐油性が低下する傾向にある。
【0046】
発明のリキッドインキ組成物に用いる脂肪酸アミド(F)としては、重合脂肪酸、各種植物性脂肪酸などのポリカルボン酸とポリアミンの重縮合物とする極一般的なものでよい。
【0047】
前記重合脂肪酸とは、炭素原子数が16~22の不飽和脂肪酸、又はそのエステルの重合により得られるもので、一塩基性脂肪酸、二量化重合脂肪酸、三量化重合脂肪酸等を含むものである。具体的にはダイマー酸、水添ダイマー酸等が挙げられる。
また各種植物性脂肪酸としては、前記重合脂肪酸とは、炭素原子数が16~22の不飽和脂肪酸、又はそのエステルの重合により得られるもので、一塩基性脂肪酸、二量化重合脂肪酸、三量化重合脂肪酸等を含むものである。具体的にはトール油脂肪酸、パーム油脂肪酸、やし油脂肪酸、大豆油脂肪酸、カカオ脂肪酸、米ぬか脂肪酸、及びこれら天然油脂の混合脂肪酸を反応原料とするものいずれでもよい。
【0048】
またポリアミンとして、脂肪族ジアミンであるエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が、脂肪族ポリアミンであるジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が、脂環族ジアミンであるシクロヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン等が、芳香脂肪族ジアミンであるキシリレンジアミン等が、芳香族ジアミンであるフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
また、一級および二級モノアミンとしては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン等のモノ-及びジ-アルキルアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等のモノ-及びジ-アルカノールアミンを挙げることができる。
また、一級または二級モノアミン成分としてアルカノールアミンを用いてなる分子内に水酸基を有するポリアミド樹脂を使用すれば、キレート剤との反応性がより増す傾向となり、その場合の水酸基価は0.5~10の範囲であることが好ましい。
【0049】
具体的には、ラウリン酸アミド(重量平均分子量199.3 CAS番号1120-16-7)等が、テーブルクロスに用いられる軟質塩化ビニルシートへの耐塩ビブロッキング性を向上させるために特に好ましい。
【0050】
また、数平均分子量500~10,000のポリアミド樹脂も好ましく使用することができる。数平均分子量は1,000~10,000であればより好ましい。
ポリアミド樹脂は、数平均分子量500未満であれば耐塩ビブロッキング性が低下する傾向があり、反対に10,000以上であると、インキ安定性、耐油性が低下する傾向となる。
高速印刷適性の面から、上記のポリウレタン樹脂とセルロース系樹脂の総量に対して20質量%以下とすることが好ましく、耐塩ビブロッキング性が維持できるのであれば10質量%以下であればさらに好ましい。
【0051】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物について、各々必用に応じて併用樹脂、体質顔料、顔料分散剤、レベリング剤、消泡剤、ワックス類、可塑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、難燃剤なども含むこともできる。中でも耐摩擦性、滑り性等を付与するためのパラフィン系ワックス、ポリエチレン系ワックス、カルナバワックス、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミド類及び印刷時の発泡を抑制するためのシリコン系、非シリコン系消泡剤及び顔料の濡れを向上させる各種分散剤等が有用である。
【0052】
(インキ組成物の製造方法)
本発明の表刷り印刷用リキッドインキ組成物の製造は、例えば、ポリウレタン樹脂、キレート架橋剤、顔料、脂肪酸アミド、有機溶剤、及び必要に応じて、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、可塑剤などの添加剤、インキ流動性および分散性を改良するための分散剤、界面活性剤、あるいはポリウレタン樹脂と相溶性を有する樹脂を、経時で増粘とゲル化が生じない範囲にて併用し、ボールミル、アトライター、サンドミルなどの通常の印刷インキ製造装置を用いて混練することによってなされる。特に、帯電防止剤の添加は、エステル系溶剤、ケトン系溶剤を使用時に発生しやすいヒゲ、雷筋と呼ばれる印刷時の静電気トラブルの抑制に効果的である。
【0053】
(印刷物)
本発明の印刷物は、表刷り用リキッド印刷インキ組成物を、プラスチックフィルム等に、グラビア印刷やフレキソ印刷等の公知の印刷方法で印刷することにより得られる。本発明のインキ組成物は表刷り用として使用することが好ましい。
【0054】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物に対応して使用できるプラスチックフィルムとしては、特に限定は無く、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂に代表される生分解性樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物等の熱可塑性樹脂よりなるフィルムやこれらの積層体が挙げられるが、中でも、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンからなるフィルムが好適に使用できる。これらの基材フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでも良く、その製法も限定されるものではない。また、基材フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常は1~500μmの範囲であればよい。
また、基材フィルムの印刷面には、コロナ放電処理がされていれば更に基材密着性を向上させる事ができ好ましい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよい。
【実施例
【0055】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。尚、実施例中の「部」は質量部を、「%」は質量%を表す。
尚、本発明におけるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリウレタン樹脂の数平均分子量、及び重量平均分子量(ポリスチレン換算)の測定は東ソー(株)社製HLC8220システムを用い以下の条件で行った。
分離カラム:東ソー(株)製TSKgelGMHHR-Nを4本使用。カラム温度:40℃。移動層:和光純薬工業(株)製テトラヒドロフラン。流速:1.0ml/分。試料濃度:0.4質量%。試料注入量:100マイクロリットル。検出器:示差屈折計。
また、ガードナー粘度計にて25℃におけるガードナー粘度を確認した。
【0056】
(合成例1:ポリウレタン樹脂溶液(Pu1)の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにポリカプロラクトンポリオール(数平均分子量2,000)229.37部とイソホロンジイソシアネート50.97部を仕込み、窒素気流下に90℃で5時間反応させた。反応終了後、酢酸ノルマルプロピル200部を加え、反応溶液を希釈した。反応液を45℃以下に冷却した後、イソプロピルアルコール200部を加えた。反応液を約35~40℃に保ち、イソホロンジアミン17.19部を酢酸エチル150部に溶解して滴下し、攪枠下に50℃で3時間反応させた。その後、シクロヘキシルアミン2.48部を添加し、攪枠下に50℃で30分反応させた。最後に酢酸エチル150部を加え、不揮発分30.0%、ガードナー粘度V-W(25℃)、重量平均分子量(以下Mwという)58,000のポリウレタン樹脂溶液(Pu1)を得た。
【0057】
(合成例2:ポリウレタン樹脂溶液(Pu2)の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにポリカプロラクトンポリオール(数平均分子量1,000)67.62部とアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールから得られる数平均分子量(Mn)2,000のポリエステルポリオール135.24部、イソホロンジイソシアネート69.12部を仕込み、窒素気流下に90℃で5時間反応させた。反応終了後、酢酸ノルマルプロピル200部を加え、反応溶液を希釈した。反応液を45℃以下に冷却した後、イソプロピルアルコール200部を加えた。反応液を約35~40℃に保ち、イソホロンジアミン25.34部を酢酸エチル150部に溶解して滴下し、攪枠下に50℃で3時間反応させた。その後、シクロヘキシルアミン2.68部を添加し、攪枠下に50℃で30分反応させた。最後に酢酸エチル150部を加え、不揮発分30.0%、ガードナー粘度U(25℃)、Mw40,000のポリウレタン樹脂溶液(Pu2)を得た。
【0058】
(合成例3:ポリウレタン樹脂溶液(Pu3)の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにポリカプロラクトンポリオール(数平均分子量1,000)175.37部と数平均分子量(Mn)1,000のポリプロピレングリコール37.58部、イソホロンジイソシアネート61.23部を仕込み、窒素気流下に90℃で5時間反応させた。反応終了後、酢酸ノルマルプロピル200部を加え、反応溶液を希釈した。反応液を45℃以下に冷却した後、イソプロピルアルコール200部を加えた。反応液を約35~40℃に保ち、イソホロンジアミン21.76部を酢酸エチル150部に溶解して滴下し、攪枠下に50℃で3時間反応させた。その後、ジ-n-ブチルアミン4.06部を添加し、攪枠下に50℃で30分反応させた。最後に酢酸エチル150部を加え、不揮発分30.0%、ガードナー粘度V(25℃)、Mw45,000のポリウレタン樹脂溶液(Pu3)を得た。
【0059】
(合成例4:ポリウレタン樹脂溶液(Pu4)の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにアジピン酸とネオペンチルグリコールから得られる数平均分子量(Mn)2,000のポリエステルポリオール(数平均分子量2,000)225.69部とイソホロンジイソシアネート52.65部を仕込み、窒素気流下に90℃で5時間反応させた。反応終了後、酢酸ノルマルプロピル200部を加え、反応溶液を希釈した。反応液を45℃以下に冷却した後、イソプロピルアルコール200部を加えた。反応液を約35~40℃に保ち、イソホロンジアミン17.97部を酢酸エチル150部に溶解して滴下し、攪枠下に50℃で3時間反応させた。その後、シクロヘキシルアミン3.69部を添加し、攪枠下に50℃で30分反応させた。最後に酢酸エチル150部を加え、不揮発分30.0%、ガードナー粘度U(25℃)、Mw46,000のポリウレタン樹脂溶液(Pu4)を得た。
【0060】
(合成例5:ポリウレタン樹脂溶液(Pu5)の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた四つロフラスコにアジピン酸と3-メチル-1,5-ペンタンジオールから得られるMn2,000のポリエステルポリオール(数平均分子量2,000)187.23部と数平均分子量(Mn)1,000のポリエチレングリコール40.12部、イソホロンジイソシアネート53.49部を仕込み、窒素気流下に90℃で5時間反応させた。反応終了後、酢酸ノルマルプロピル200部を加え、反応溶液を希釈した。反応液を45℃以下に冷却した後、イソプロピルアルコール200部を加えた。反応液を約35~40℃に保ち、イソホロンジアミン16.40部を酢酸エチル150部に溶解して滴下し、攪枠下に50℃で3時間反応させた。その後、ジ-n-ブチルアミン2.77部を添加し、攪枠下に50℃で30分反応させた。最後に酢酸エチル150部を加え、不揮発分30.0%、ガードナー粘度V(25℃)、Mw42,000のポリウレタン樹脂溶液(Pu5)を得た。
【0061】
前記ポリウレタン樹脂溶液(Pu1)~(Pu5)合成で使用する各々素材を質量部で表1に示す。表1中の数字は質量部である。
【0062】
【表1】
【0063】
表中、略語は以下の意味である。
ポリオールA:変性ポリカプロラクトンポリオール
数平均分子量(Mn):2000
ポリオールB:ポリカプロラクトンポリオール
数平均分子量(Mn):1000
ポリオールC:アジピン酸/3-メチル-1,5-ペンタンジオール=1/1からなる
ポリエステルポリオール。数平均分子量(Mn):2000
ポリオールD:ポリカプロラクトンポリオール
数平均分子量(Mn):1000
ポリオールE:ポリプロピレングリコール 数平均分子量(Mn):1000
ポリオールF :アジピン酸/ネオペンチルグリコール=1/1からなる
ポリエステルポリオール。数平均分子量(Mn):2000
ポリオールG :ポリエチレングリコール 数平均分子量(Mn):1,000
【0064】
(ニトロセルロース溶液Nの調整)
工業用硝化綿H1/2(ニトロセルロース、固形分30%、JIS K-6703により溶液濃度25.0%における粘度9.0~14.9%品 太平化学製品株式会社製)37.5部に、イソプロピルアルコール/酢酸エチル/酢酸ノルマルプロピル/メチルシクロヘキサン(質量比で25/25/13/10の比率)の混合液を62.5部加え、充分混合しニトロセルロース溶液Nを作製した。
【0065】
(塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂溶液Vの調整)
ポリウレタン樹脂と併用して用いる水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(樹脂モノマー組成が質量%で塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール=92/3/5、水酸基価(mgKOH)=64)を酢酸n-プロピルで15%溶液とし、これを塩酢ビ樹脂溶液(V)した。
【0066】
(ロジン樹脂溶液Rの調製)
ロジン樹脂(商品名:NEOCITE F-896、江南化成株式会社製)50部を、イソプロピルアルコール50部に溶解させて固形分50%のロジン樹脂溶液を得た。
【0067】
〔実施例1~3、比較例1、2:インキの調整法〕
表1に示すポリウレタン樹脂溶液Pu1~Pu5を用い、表2に記載の配合比率で混合した混合物を、マイティーミル(株式会社井上製作所製)を用いて混練し、実施例1~3及び比較例1、2に記載の藍インキを調製し、各々について以下の評価を実施した。
尚、金属キレート架橋剤としては、BORICA社製チタンTAAキレート剤(チタニウムアセチルアセトネート、CAS番号17927-27-9)を使用した。
【0068】
〔基材接着性〕
表2に記載の藍インキを、片面にコロナ放電処理を施した二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製 FOR 厚さ20μm)にバーコーター#10で塗布し、24時間放置して印刷物を作成した。
次いで、この印刷面にセロファンテープ(ニチバン社製)を貼り付けた後、素早くテープを引き剥がし、印刷面の状態を目視評価した。評価4以上が実用範囲である。
(評価基準)
5:印刷皮膜がフィルムから全く剥離しない。
4:印刷皮膜の面積比率として、20%未満がフィルムから剥離する。
3:印刷皮膜の面積比率として、20%以上、50%未満がフィルム
から剥離する。
2:印刷皮膜の面積比率として、50%以上、80%未満がフィルム
から剥離する。
1:印刷面の面積比率として、80%以上がフィルムから剥離する。
【0069】
〔耐ブロッキング性〕
表2に記載の藍インキを、インキ作製に使用した際と同一比率の酢酸エチル/酢酸ノルマルプロピル/シクロヘキサンからなる混合有機溶剤で希釈し、離合社製ザーンカップNo3で16秒になるように希釈した。それを、版深度25μmを有するレーザーグラビア版を取り付けたMD型グラビア印刷機(富士機械株式会社製)を用いて、片面にコロナ放電処理を施した二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製 FOR 厚さ20μm)の処理面に印刷を行った。
次に、得られた印刷物を、4cm×4cmの大きさに切りだし、このインキ塗工面と、これと同じ大きさに切った同フィルムの非処理面とを重ね合わせて、バイスで10kg/cmの荷重をかけ締め込み、40℃、湿度80%の雰囲気で24時間放置後、印刷面とプラスチックフィルムを手で引き剥がし、インキの剥離の程度から耐ブロッキング性を評価した。評価4以上が実用範囲である。
(評価基準)
5:印刷皮膜の剥離が全くなく、剥離抵抗も全く感じられない。
4:印刷皮膜の剥離が全くないが、剥離抵抗が若干感じられない。
3:印刷皮膜が少し剥離し、剥離抵抗が感じられる。
2:印刷皮膜が剥離し、剥離抵抗が強く感じられる。
1:印刷皮膜が殆ど剥離し、剥離抵抗が強く感じられる。
【0070】
〔耐塩ビブロッキング性〕
前記、耐ブロッキング性評価で使用したものと同じ各印刷物と同じ大きさに切った市の軟質塩化ビニルシート(ドイト社製)と印刷面とを重ね合わせて、0.5kg/cmの荷重をかけ、50℃湿度80%の雰囲気下で24時間放置後、印刷面とポリ塩化ビニルシートを引き剥がし、インキの剥離の程度から耐塩ビブロッキング性を評価した。
評価4以上が実用範囲である。
(評価基準)
5:印刷皮膜が全く剥離しなかったもの。
4:印刷皮膜がフィルムから剥離した面積が20%以上、50%未満のもの。
3:印刷皮膜がフィルムから剥離した面積が50%以上、75%未満のもの。
2:印刷皮膜がフィルムから剥離した面積が75%以上、90%未満のもの。
1:印刷皮膜がフィルムから剥離した面積が90%以上のもの。
【0071】
〔耐アルコール適性〕
各印刷物の印刷面を学振型耐摩擦試験機を用いて、エタノールをしみ込ませたあて布で200gの荷重下100回摩擦し、印刷面の変化からアルコール適性を評価した。
評価4以上が実用範囲である。
(評価基準)
5:印刷面、あて布ともに変化なし。
4:印刷面に変化はないが、あて布が着色する。
3:印刷面に筋状の傷が認められる。
2:印刷面に太く筋状の傷が認められる。
1:印刷面に面状の傷が認められる。
【0072】
〔耐熱性〕
表2に記載の藍インキを、片面にコロナ放電処理を施した二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製 FOR 厚さ20μm)にバーコーター#10で塗布し、24時間放置して印刷物を作製した。
次いで、この印刷面に各印刷面に、80~200℃の熱傾斜を有する熱板を備えたヒートシール試験機を用いて、印刷面とアルミ箔、印刷面と印刷面を2.0kg/cm2の圧力で、1秒間押圧した。印刷面のインキがアルミ箔に転移する最低温度から、耐熱性を評価した。
評価4以上が実用範囲である。
(評価基準)
5:180℃以上のもの。
4:160℃以上、180℃未満のもの。
3:140℃以上、160℃未満のもの。
2:120℃以上、140℃未満のもの。
1:120℃未満のもの。
【0073】
〔耐油性〕
各印刷物の印刷面を学振型耐摩擦試験機を用いて、食用サラダ油:バターを1:1でしみ込ませたあて布で200gの荷重下100回摩擦し、印刷面の変化から耐油性を評価した。評価4以上が実用範囲である。
(評価基準)
5:印刷面、あて布ともに変化なし。
4:印刷面に変化はないが、あて布が着色する。
3:印刷面に筋状の傷が認められる。
2:印刷面に太く筋状の傷が認められる。
1:印刷面に面状の傷が認められる。
【0074】
〔印刷適性試験:カスレ試験〕
表2に記載の藍インキを、インキ作製に使用した際と同一比率のイソプロピルアルコル:ノルマルプロピルアルコール:酢酸エチル:酢酸ノルマルプロピル:シクロヘキサン=(質量比率6部:5部:20部:15部:10部)からなる混合有機溶剤で希釈し、離合社製ザーンカップNo3で16秒になるように希釈した。それを、版深度25μmを有するレーザーグラビア版を取り付けたMD型グラビア印刷機(富士機械株式会社製)を用いて、片面にコロナ放電処理を施した二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製 FOR 厚さ20μm)の処理面に印刷を行った。
カスレ試験は、グラビア版の円周600mmφで200m/minの印刷速度した際のハイライト印刷部分(網点面積10%未満)におけるカスレの面積の割合と、非印刷部の汚れ具合を目視評価した。 評価4以上が実用範囲である。
(評価基準)
5:カスレが全くなく、非印刷部の汚れもない。
4:カスレが少し見られる 、若しくは非印刷部に汚れが少しみられる。
3:カスレが少し見られ 、且つ非印刷部に汚れが少し見られる。
2:カスレが見られ 、且つ非印刷部に汚れが見られる。
1:カスレが多く見られ、且つ非印刷部にも汚れが多く見られる。
【0075】
各藍インキの配合、及び評価結果を表2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表中、略語は以下の意味である。
・金属キレート架橋剤:BORICA社製チタンTAAキレート剤(チタニウムアセチルアセトネート、CAS番号17927-27-9)
【0078】
以上の結果から、本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物を使用した印刷物は、優れた各種インキ塗膜特性に加えて、特に耐油性、塩化ビニルに対する耐ブロッキング性と高速印刷においても小網点に当たるハイライト点が掠れる事なく網点再現性に優れ、絵柄のカスレや非印刷部の印刷汚れが発生しにくい印刷適性をも兼備した結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の表刷り用リキッド印刷インキ組成物は、各種リキッド表刷り印刷物として、食品包材・サニタリー・コスメ・電子部品等工業製品向け用途に幅広く展開され得る。