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特許7156797電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用電解液及び電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
H01G9/035
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018010200
(22)【出願日】2018-01-25
(65)【公開番号】P2018125529
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-07-17
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017014324
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芝 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】田邊 史行
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝夫
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】畑中 博幸
【審判官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/02
H01G 9/022
H01G 9/035
H01G 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸(a)とアミン(b)との塩(A)、及び、溶剤(B)を含有する電解コンデンサ用電解液であって、前記カルボン酸(a)がジカルボン酸(e)と1~8価のアルコール(d)とのエステル化合物(a1)を含有し、前記ジカルボン酸(e)がオクテニルコハク酸及びドデセニルコハク酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であって、前記アルコール(d)が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種であって、前記アミン(b)が炭素数2~8の2級アミンであって、前記エステル化合物(a1)が、カルボキシ基を有するエステル化合物である電解コンデンサ用電解液(C)。
【請求項2】
請求項1に記載の電解コンデンサ用電解液を含有する電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解コンデンサ用電解液及び前記電解コンデンサ用電解液を含有する電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサに代表される電解コンデンサは、誘電体が設けられている陽極と、集電用の陰極と、陽極及び陰極の間に配置された電解液を保持したセパレータとが、密封ケース内に収納された構造を有しており、巻回型、積層型の形状のものが広く知られている。
【0003】
近年、電解コンデンサが使用される周辺環境の高温化に伴い、電導度及び火花電圧が高く、高温でのそれらの特性劣化が小さい電解液が要望されている。
【0004】
特に中高圧級の電解コンデンサには、エチレングリコール等の極性溶剤に、1,6-デカンジカルボン酸等の酸のアンモニウム塩を溶解させたものが、高い火花電圧が得られる電解質として広く使用されている(例えば特許文献1)。
しかし、火花電圧は十分でなく、また、高温では性能劣化が起こる問題があった。
【0005】
これに対して、高い火花電圧が得られ、耐熱性が良い電解質として、アルケニルコハク酸又はその塩を用いた電解液が提案されている(例えば特許文献2)。
しかしながら、アルケニルコハク酸又はその塩を電解質として用いた電解液は、火花電圧には優れるが、低温で固化し易く、電解コンデンサの使用できる温度領域が狭く、寒冷地では使用できないという問題がある。また耐熱性も近年求められる長寿命の電解コンデンサ向けとしては不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-76974号公報
【文献】特開2000-314628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、火花電圧が高く、低温環境下で固化しにくく、耐熱性が十分に高い電解コンデンサ用電解液、及び、前記電解コンデンサ用電解液を含有する電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、カルボン酸(a)とアミン(b)又はアンモニアとの塩(A)、及び、溶剤(B)を含有する電解コンデンサ用電解液であって、前記カルボン酸(a)がジカルボン酸(e)と1~8価のアルコール(d)とのエステル化合物(a1)を含有し、前記エステル化合物(a1)が、カルボキシ基を有するエステル化合物である電解コンデンサ用電解液(C);前記電解コンデンサ用電解液を含有する電解コンデンサである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電解コンデンサ用電解液を使用した電解コンデンサは、火花電圧が高く、低温環境下でも固化しにくいため、寒冷地でも十分使用できるのみならず、高温環境下での比電導度の減少を抑制できるため、寿命が長くなるといった効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電解コンデンサ用電解液は、カルボン酸(a)とアミン(b)又はアンモニアとの塩(A)、及び、溶剤(B)を含有する。
前記の塩(A)において、前記のカルボン酸(a)に由来する成分が、塩(A)のアニオン成分を構成し、前記のアミン(b)又はアンモニアに由来する成分が、塩(A)のカチオン成分を構成する。
そして、前記のカルボン酸(a)は、ジカルボン酸(e)と1~8価のアルコール(d)とのエステル化合物(a1)を含有する。ここで、前記のエステル化合物(a1)は、カルボキシ基を有するエステル化合物である。
【0011】
前記のジカルボン酸(e)としては、鎖状脂肪族ジカルボン酸(e1)、脂環式ジカルボン酸(e2)及び芳香族ジカルボン酸(e3)が挙げられる。
【0012】
前記の鎖状脂肪族ジカルボン酸(e1)としては、飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸(e11)及び不飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸(e12)がある。
前記の飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸(e11)としては、炭素数2~18の飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸及び1,6-デカンジカルボン酸等が挙げられる。
前記の不飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸(e12)としては、炭素数4~22の不飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、オクテニルコハク酸及びドデセニルコハク酸等が挙げられる。
【0013】
前記の脂環式ジカルボン酸(e2)としては、炭素数5~22の脂環式ジカルボン酸が挙げられ、具体的には、1,2-シクロプロパンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,3-ノルボルナンジカルボン酸及びデカヒドロ-1,4-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0014】
前記の芳香族ジカルボン酸(e3)としては、炭素数8~22の芳香族ジカルボン酸が挙げられ、具体的には、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4-メチルフタル酸、4-メトキシフタル酸、3-フルオロフタル酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及びベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸等が挙げられる。
【0015】
これらのジカルボン酸(e)の内、溶剤(B)に対する溶解性の観点から好ましいのは、不飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸(e12)及び芳香族ジカルボン酸(e3)であり、更に好ましいのは不飽和鎖状脂肪族ジカルボン酸(e12)である。
【0016】
また、前記ジカルボン酸(e)の内、耐熱性の観点から好ましいのは、ジカルボン酸(e)が有するカルボキシル基が結合している炭素原子の内、少なくとも1個の炭素原子が、3級炭素原子であるカルボン酸である。
このようなジカルボン酸(e)としては、オクテニルコハク酸及びドデセニルコハク酸等が挙げられる。
【0017】
前記の1~8価のアルコール(d)は、前記のジカルボン酸(e)と反応してカルボキシ基を有するエステル化合物を形成するためのアルコールであって、以下の脂肪族アルコール(d1)及び芳香族アルコール(d2)等が挙げられる。
【0018】
前記の脂肪族アルコール(d1)としては、以下のアルコールがあげられる。
1価のアルコールとしては、炭素数1~10のアルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、メチルセロゾルブ及びメトキシエトキシエタノール等が挙げられる。
2価のアルコールとしては、炭素数2~30のアルコールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール及びポリプロピレングリコール等が挙げられる。
3価のアルコールとしては、炭素数3~30のアルコールが挙げられ、具体的には、グリセリン及びトリメチロールプロパン等が挙げられる。
4価のアルコールとしては、炭素数3~30のアルコールが挙げられ、具体的には、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
5価のアルコールとしては、炭素数3~30のアルコールが挙げられ、具体的には、キシリトール等が挙げられる。
6価のアルコールとしては、炭素数3~30のアルコールが挙げられ、具体的には、ソルビトール及びマンニトール等が挙げられる。
7価のアルコールとしては、炭素数3~30のアルコールが挙げられ、具体的には、ポリグリセリン(5量体)等が挙げられる。
8価のアルコールとしては、炭素数3~30のアルコールが挙げられ、具体的には、スクロース等が挙げられる。
【0019】
前記の芳香族アルコールと(d2)しては、以下のアルコールがあげられる。
1価のアルコールとしては、炭素数6~15のアルコールが挙げられ、具体的には、フェノール、2-ナフトール、4-メトキシフェノール、p-クレゾール及びo-クレゾール等が挙げられる。
2価のアルコールとしては、炭素数6~15のアルコールが挙げられ、具体的には、ヒドロキノン、カテコール、レソルシノール、1,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等が挙げられる。
3価のアルコールとしては、炭素数6~15のアルコールが挙げられ、具体的には、フロログルシノール、1,2,6-トリヒドロキシナフタレン及びピロガロール等が挙げられる。
【0020】
前記のアルコール(d)の内、粘度を低くするという観点から好ましいのは脂肪族アルコール(d1)であり、更に好ましくは、1~6価の脂肪族アルコールであり、特に好ましくは2価の脂肪族アルコール及び3価の脂肪族アルコールであり、とりわけ好ましくは炭素数2~6の2価の脂肪族アルコール及び炭素数2~6の3価の脂肪族アルコールであり、最も好ましくは炭素数2~6の2価の鎖状脂肪族アルコール及び炭素数2~6の3価の鎖状脂肪族アルコールである。
粘度が高すぎると、コンデンサ作成時、素子への含浸ができないという不具合がある。
前記のアルコール(d)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記のエステル化合物(a1)を構成するジカルボン酸(e)が有するカルボキシ基のモル数と、前記のエステル化合物(a1)を構成するアルコール(d)が有する水酸基のモル数との比[(e)が有するカルボキシ基のモル数/(d)が有する水酸基のモル数]は、比電導度の観点から1.25/1~3/1であることが好ましく、更に好ましくは、1.5/1~2.5/1である。
【0022】
前記のエステル化合物(a1)は、公知の方法で、ジカルボン酸(e)と、1~8価のアルコール(d)とをエステル化反応することにより得ることができる。
また、前記のエステル化合物(a1)は、ジカルボン酸(e)の代わりに、ジカルボン酸(e)の酸無水物(f1)を用いて、1~8価のアルコール(d)とエステル化反応することで得ることもできる。
また、ジカルボン酸(e)の代わりに、エステル交換が容易なジカルボン酸(e)の低級(炭素数1~4が好ましい)アルキルエステル(f2)を用いて、1~8価のアルコール(d)とエステル交換反応することで得ることもできる。
【0023】
前記のエステル化合物(a1)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明におけるカルボン酸(a)は、前記のエステル化合物(a1)以外のその他のカルボン酸(a’)を併用してもよい。
前記のその他のカルボン酸(a’)としては、鎖状脂肪族カルボン酸(a’1)、脂環式カルボン酸(a’2)及び芳香族カルボン酸(a’3)等が挙げられる。
【0025】
前記の鎖状脂肪族カルボン酸(a’1)としては、炭素数1~22の鎖状脂肪族モノカルボン酸[酢酸、1-プロピオン酸、1-ブタン酸、1-ペンタン酸、1-ヘキサン酸、1-ヘプタン酸及び1-オクタン酸等]及び炭素数2~22の鎖状脂肪族ポリカルボン酸[シュウ酸、マロン酸、ジプロピルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、グルタル酸、2-メチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2,4-ジメチルグルタル酸、3-メチルグルタル酸、3,3-ジメチルグルタル酸、3-エチル-3-メチルグルタル酸、アジピン酸、3-メチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2,6,6-テトラメチルピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、1,6-デカンジカルボン酸、ペンタデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸及びエイコサン二酸等]等が挙げられる。
これらの鎖状脂肪族カルボン酸(a’1)の内、火花電圧及び比電導度の観点から好ましいのは、1,6-デカンジカルボン酸である。
前記の鎖状脂肪族カルボン酸(a’1)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記の脂環式カルボン酸(a’2)としては、炭素数4~20の脂環式モノカルボン酸[シクロプロパンカルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸及びシクロヘプタンカルボン酸等]及び炭素数5~22の脂環式ポリカルボン酸[シクロプロパンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸、ジシクロヘキシル-4,4’-ジカルボン酸及びショウノウ酸等]等が挙げられる。
前記の鎖状脂肪族カルボン酸(a’2)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記の芳香族カルボン酸(a’3)としては、炭素数7~22の芳香族モノカルボン酸[安息香酸、p-トルイル酸及びナフタレンカルボン酸等]及び炭素数8~22の芳香族ポリカルボン酸[テレフタル酸、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸、4,4-スチルベンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4-ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸及びジフェニルスルホンジカルボン酸等]等が挙げられる。
これらの芳香族カルボン酸(a’3)の内、火花電圧及び比電導度の観点から好ましいのは、安息香酸である。
前記の芳香族カルボン酸(a’3)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記のカルボン酸(a)が含有するエステル化合物(a1)の重量割合は、比電導度の観点から、10~100重量%であることが好ましい。
【0029】
本発明における電解質のカチオン成分としてのアミン(b)としては、炭素数2~10の1級アミン(ブチルアミン及びエタノールアミン等)、炭素数2~10の2級アミン(ジメチルアミン、エチルメチルアミン及びジエチルアミン等)及び炭素数3~12の3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルジメチルアミン及びジエチルメチルアミン等)等が挙げられる。
前記の塩(A)のカチオン成分となるアミン(b)及びアンモニアの内、耐熱性の観点から好ましいのは炭素数2~8の2級アミンである。
また、前記の塩(A)のカチオン成分となるアミン(b)及びアンモニアの内、比電導度の観点から好ましいのはアンモニアである。
【0030】
本発明における塩(A)は、カチオン成分としてアミン(b)を用いる場合は、アミン(b)と、対応するカルボン酸(a)とを公知の方法で中和することで、製造することができる。
また、カチオン成分としてアンモニアを用いる場合は、溶剤(B)中で対応するカルボン酸(a)を分散させながら、アンモニアガスを吹き込み、中和を行いながら溶解させることで、製造することができる。
【0031】
塩(A)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0032】
本発明における溶剤(B)としては、アルコール溶剤[メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びポリエチレングリコール(Mn:600以下)等]、アミド溶剤(N-メチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド及びN,N-ジメチルホルムアミド等)、ラクトン溶剤(α-アセチル-γ-ブチロラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン及びδ-バレロラクトン等)、ニトリル溶剤(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、アクリロニトリル、メタクリルニトリル及びベンゾニトリル等)、スルホキシド溶剤(ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド及びジエチルスルホキシド)及びスルホン溶剤(スルホラン及びエチルメチルスルホン等)等が挙げられる。
これらの溶剤(B)の内、コンデンサの封口ゴムを劣化させないという観点から好ましいのはアルコール溶剤及びラクトン溶剤であり、更に好ましいのはエチレングリコール及びγ-ブチロラクトンであり、特に好ましいのはエチレングリコールである。
これらの溶剤(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の電解コンデンサ用電解液には、必要により、電解コンデンサ用電解液に一般的に用いられる種々の添加剤(D)を添加することができる。
駆動中に発生する水素ガスを吸収させる目的で、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール及びp-ニトロフェノール等)等が添加される。
また、耐電圧を高めるために、ホウ酸及びポリビニルアルコール等が添加される。
【0034】
本発明の電解コンデンサ用電解液が含有する塩(A)の重量割合は、火花電圧及び比電導度の観点から、電解コンデンサ用電解液の重量に基づいて、3~25重量%であることが好ましく、更に好ましくは3~20重量%であり、更に好ましくは5~15重量%である。
【0035】
本発明の電解コンデンサ用電解液が含有する溶剤(B)の重量割合は、火花電圧及び比電導度の観点から、電解コンデンサ用電解液の重量に基づいて、75~97重量%であることが好ましく、更に好ましくは78~95重量%であり、更に好ましくは80~90重量%である。
【0036】
本発明の電解コンデンサ用電解液が含有する添加剤(D)の重量割合は、比電導度及び電解液への溶解度の観点から、電解コンデンサ用電解液の重量に基づいて、5重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは0.1~2重量%である。
【0037】
本発明の電解コンデンサ用電解液の製造方法は、特に限定はされない。
例えば、前記の塩(A)、溶剤(B)及び必要に応じてその他の添加剤(D)を、20~150℃の温度範囲で、公知の機械的混合方法(メカニカルスターラー又はマグネティックスターラーを用いる方法等)を用いることによって均一混合することで、製造することができる。
【0038】
本発明の電解コンデンサ用電解液は、電解コンデンサ用(特に、アルミニウム電解コンデンサ用)に最適である。
前記のアルミニウム電解コンデンサとしては、特に限定されず、例えば、捲き取り形の電解コンデンサであって、陽極表面に酸化アルミニウムが形成された陽極(酸化アルミニウム箔)と陰極アルミニウム箔との間に、セパレータを介在させて捲回することにより構成されたコンデンサが挙げられる。
本発明の電解コンデンサは、本発明の電解コンデンサ用電解液を駆動用電解液としてセパレータに含浸し、陽陰極と共に、有底筒状のアルミニウムケースに収納した後、アルミニウムケースの開口部を封口ゴムで密閉して電解コンデンサを構成することで得ることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%を示す。なお、以下において、実施例1、7、10、12~14は、それぞれ参考例1~6である。
【0040】
製造例1 [カルボン酸(a1-1)の製造]
オクテニルコハク酸無水物(f1-1)420重量部(2mol)にエチレングリコール(d-1)62重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。プロトン核磁気共鳴装置(H-NMR)チャートと酸価測定により、オクテニルコハク酸2分子とエチレングリコール1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-1)が得られたことを確認した。
【0041】
製造例2 [カルボン酸(a1-2)の製造]
オクテニルコハク酸無水物(f1-1)420重量部(2mol)にプロピレングリコール(d-2)76重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。H-NMRチャートと酸価測定により、オクテニルコハク酸2分子とプロピレングリコール1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-2)が得られたことを確認した。
【0042】
製造例3 [カルボン酸(a1-3)の製造]
オクテニルコハク酸無水物(f1-1)420重量部(2mol)にポリオキシエチレングリコール[三洋化成工業(株)製、PEG-200](d-3)200重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。H-NMRチャートと酸価測定により、オクテニルコハク酸2分子とPEG-200が1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-3)が得られたことを確認した。
【0043】
製造例4 [カルボン酸(a1-4)の製造]
オクテニルコハク酸無水物(f1-1)630重量部(3mol)にグリセリン(d-4)92重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。H-NMRチャートと酸価測定により、オクテニルコハク酸3分子とグリセリン1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-4)が得られたことを確認した。
【0044】
製造例5 [カルボン酸(a1-5)の製造]
オクテニルコハク酸無水物(f1-1)420重量部(2mol)にグリセリン(d-4)92重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。H-NMRチャートと酸価測定により、オクテニルコハク酸2分子とグリセリン1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-5)が得られたことを確認した。
【0045】
製造例6 [カルボン酸(a1-6)の製造]
オクテニルコハク酸無水物(f1-1)1260重量部(6mol)にマンニトール(d-5)182重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。H-NMRチャートと酸価測定により、オクテニルコハク酸6分子とマンニトール1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-6)が得られたことを確認した。
【0046】
製造例7 [カルボン酸(a1-7)の製造]
ドデセニルコハク酸無水物(f1-2)532重量部(2mol)にエチレングリコール(d-1)62重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。H-NMRチャートと酸価測定により、ドデセニルコハク酸2分子とエチレングリコール1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-7)が得られたことを確認した。
【0047】
製造例8 [カルボン酸(a1-8)の製造]
コハク酸無水物(f1-3)200重量部(2mol)にエチレングリコール(d-1)62重量部(1mol)を添加し、150℃、3時間撹拌して反応させた。H-NMRチャートと酸価測定により、コハク酸2分子とエチレングリコール1分子とのエステル化合物(a1)であるカルボン酸(a1-8)が得られたことを確認した。
【0048】
実施例1、13、14及び比較例1
表1に記載したカルボン酸(a)と、溶剤(B)とを、表1に記載した配合部数(重量部)で配合した後に混合し、次いでアンモニアガスを表1に記載した配合部数(重量部)吹き込み、中和し、電解コンデンサ用電解液(C-1)、(C-13)及び(C-14)並びに比較用の電解コンデンサ用電解液(C’-1)を得た。
【0049】
実施例2~12及び比較例2~6
表1に記載したカルボン酸(a)と、溶剤(B)とを、表1に記載した配合部数(重量部)で配合した後に混合し、次いでアミン(b)を表1に記載した配合部数(重量部)滴下して中和をし、電解コンデンサ用電解液(C-2)~(C-12)及び比較用の電解コンデンサ用電解液(C’-2)~(C’-6)を得た。
なお、ポリビニルアルコール(D-1)及び/又はほう酸(D-2)を含有しているものに関しては、上記の中和操作後に、ポリビニルアルコール(D-1)及びほう酸(D-2)を表1に記載の配合部数(重量部)添加し、120℃で加熱溶解を行った。
また、ポリビニルアルコール(D-1)は、商品名「JP-05」[日本酢ビ・ポバール(株)製]のものを用いた。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1~14及び比較例1~6で得られた電解コンデンサ用電解液及び比較用の電解コンデンサ用電解液について、以下に示す方法で、pH、火花電圧、高温処理前と高温処理後の比電導度、耐熱性及び低温特性を測定・評価した。それらの結果を表1に示す。
【0052】
<pH>
電解液を25℃に温調し、pHメーターを用いてpHを測定した。pH測定用電極として、東亜ディーケーケー製のDST-5421Cを用いて測定した。
【0053】
<火花電圧>
陽極及び陰極として高圧用エッチングアルミニウム箔を用い、85℃にて定電流(電流密度:10mA/cm)を負荷したときに電圧の降下(ショート)がみられたときの電圧値を読みとって火花電圧とした。直流安定化電源として高砂製作所製のGP650-05Rを用いて測定した。
【0054】
<比電導度>
電解液を測定用セルに15ml入れて、恒温槽中で30℃に温調し、比電導度を測定し、この値を高温処理前の比電導度d(mS/cm)とした。比電導度測定用セルとしては、東亜ディーケーケー製のCT-57101Bを用いた。
更に、耐熱容器に電解液を入れ、125℃恒温乾燥器中で500時間高温処理した電解液についても、比電導度を測定し、この値を高温処理後の比電導度d500(mS/cm)とした。
【0055】
<耐熱性>
比電導度の変化率を下記の数式(1)で計算した。
比電導度の低下率(%)=(d-d500)/d×100 (1)
【0056】
<低温特性>
電解液を透明のガラス瓶に入れ、-20℃の恒温槽で24時間放置した後、-20℃の状態でガラス瓶を傾けて目視で観察し、下記の判定基準で評価した。
○:透明であり、析出物なく、傾けると流動性がある
×:透明でない、析出物がある、又は傾けても流動性がないかのいずれか
【0057】
本発明の実施例2~12の電解液は、火花電圧が高く、低温特性が良好であり、更に耐熱性に優れていることが分かる。
また、実施例1、13及び14の電解液も、火花電圧が高く、低温特性が良好であり、耐熱性についても、カチオン成分として同じくアンモニアを用いた比較例1の電解液と比較すると、実施例1、13及び14の電解液の方が優れていることが分かる。
一方、本発明におけるエステル化合物(a1)に代えて、カルボン酸(a’-1)又は(a’-2)を用いている比較例1~5の電解液は、低温特性が悪く、耐熱性も不十分である。
また、エステル化合物(a1)に代えて、カルボン酸(a’-3)を用いている比較例6は、耐電圧が低く、耐熱性も悪い。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の電解コンデンサ用電解液は、火花電圧が高く、低温特性及び耐熱性が優れているため、高い信頼性が求められている電解コンデンサ向けの電解液として有用である。