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特許7156802複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具および輸送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具および輸送方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/04 20060101AFI20221012BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
F16C41/04
F16C23/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018022668
(22)【出願日】2018-02-13
(65)【公開番号】P2018151065
(43)【公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2017044695
(32)【優先日】2017-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 夏海
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054149(WO,A1)
【文献】特開2005-350142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00-41/04
F16C 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中つばを有する複列自動調心ころ軸受の輸送時に、前記複列自動調心ころ軸受と共に梱包されて転動体の損傷を防止する損傷防止輸送治具であって、
前記複列自動調心ころ軸受の内輪の端部の外周面と外輪の端部の内周面との間に収まる内外径を持つリング状に形成され、一側面が前記複列自動調心ころ軸受の各転動体の端面に接触し他側面が前記内輪および外輪の側面よりも突出する形状を持ち、この損傷防止輸送治具は、前記複列自動調心ころ軸受の全重量を受けても前記他側面である治具端面が前記内輪および外輪の側面である軸受端面から突出し、前記転動体よりも軟質の材質を持ち、前記複列自動調心ころ軸受と共にこの損傷防止輸送治具を梱包することで、前記損傷防止輸送治具により前記転動体が前記中つばに押しつけられることで、前記損傷防止輸送治具・前記転動体・前記中つばの3点接触にて前記転動体を固定する複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具。
【請求項2】
請求項1に記載の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具において、材質がゴムである複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具。
【請求項3】
請求項1に記載の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具において、材質が樹脂である複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具において、横断面形状が、内径側が広がる台形である複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具において、横断面形状が、自然状態で円形ないし楕円形状である複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具。
【請求項6】
つばを有する複列自動調心ころ軸受を個別に梱包して輸送する方法であって、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具を、前記複列自動調心ころ軸受の両面に、転動体に接触する状態に配置し、前記複列自動調心ころ軸受を、内周面、外周面、および両側面に渡って、前記両側の損傷防止輸送治具と共に、フィルム状の梱包材で覆い、この梱包材により前記両損傷防止輸送治具の前記内輪および外輪の端面から突出する部分を軸受幅方向の中心側へ押しつけ状態とする複列自動調心ころ軸受の輸送方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具において、前記損傷防止輸送治具の横断面形状が自然状態で円形であり、下記式(1)、式(2)、式(3)および式(4)を充足する複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具。
L2-f(x)≧0 …式(1)
L2=r/tanθ+r/(cosθ×tanθ)+r-L1 …式(2)
θ=90°-α …式(3)
y=f(x) …式(4)
但し、r:損傷防止輸送治具の半径(mm)
L1:内輪小つば幅寸法(mm)
L2:内輪小つば外径に半径rの損傷防止輸送治具を設置したとき、この損傷防止輸送治具の軸方向端部と内輪の側面との軸方向距離(mm)
α:内輪小つば角度(°)
x:損傷防止輸送治具1mmあたりにかかる荷重(N)
y:損傷防止輸送治具の寸法変化量
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複列自動調心ころ軸受を輸送するに際して、転動体が振動等で損傷することを防止する損傷防止輸送治具に関し、特に、大型の複列自動調心ころ軸受の場合にも適用可能な複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置等に使用される大型自動調心ころ軸受は組立状態にて輸送されるが、転動体と内外輪間に隙間があるため、転動体が輸送中に動くことが可能な状態となっている。例えば、内輪と転動体との組み立て部品が外輪に対して動くことがある。この動きが輸送中に車両の振動等で繰り返して生じることで、フレッティング等の損傷が発生する恐れがある。
【0003】
中つばのない自動調心ころ軸受の損傷防止輸送方法として、すきまを管理したリング状のセパレータと呼ばれる治具を転動体端面に設置し、これらを共に梱包する方法、およびその治具が、特許文献1に挙げられている。この文献には、リング状治具に転動体抑えを追加し、保持器・転動体・治具にて固定する方法も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-90357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、輸送時の振動を防止して損傷を防止することができるが、すきま管理が必要になるため、リング状治具を製品型番毎に製作する必要がある。また、転動体と内外輪軌道面間にフィルム等を挟み込む方法も考えられるが、客先にて梱包を外す際に、前記フィルム等が異物として軸受内に残る可能性がある。
【0006】
この発明の目的は、輸送時の転動体の動きによる損傷を防止でき、かつ隙間管理が不要で複数種の軸受に使用でき、また軸受内に異物が残る恐れもない複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具および輸送方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具は、中つばを有する複列自動調心ころ軸受の輸送時に、前記複列自動調心ころ軸受と共に梱包されて転動体の損傷を防止する損傷防止輸送治具であって、
前記複列自動調心ころ軸受の内輪の端部の外周面と外輪の端部の内周面との間に収まる内外径を持つリング状に形成され、一側面が前記複列自動調心ころ軸受の各転動体の端面に接触し他側面が前記内輪および外輪の側面よりも突出する形状を持ち、前記転動体よりも軟質の材質を持つ。
【0008】
この構成によると、転動体の端面にリング状の損傷防止輸送治具を添えて共に梱包することで、転動体を中つばへ押さえ付け、中つば・転動体・損傷防止輸送治具の接触によって転動体の動きを防止する。そのため、すきま管理が不要となり、簡易な構造の治具にて対応が可能となる。また、径寸法さえ適合すれば、複数種の複列自動調心ころ軸受に適用することができ、軸受内に異物が残る危険性もない。
【0009】
この発明の損傷防止輸送治具は、材質がゴムまたは樹脂であっても良い。
治具の材質がゴムまたは樹脂であると、転動体に比べて柔らかくて、転動体を治具できづ付ける恐れがない。
【0010】
この発明の損傷防止輸送治具は、横断面形状が、内径側が広がる台形であっても良い。
複列自動調心ころ軸受の転動体の外側を向く側面は、軸受内径側が軸受幅の中心側に位置する傾斜面となっている。そのため、治具の横断面形状が、内径側が広がる台形であると、転動体の傾斜した端面に沿って接触し、転動体の端面の広範囲を押しつけることができて、押しつけ状態が安定する。
【0011】
この発明の損傷防止輸送治具は、横断面形状が、自然状態で円形ないし楕円形状であっても良い。「自然状態で」とは、物体が当たらず変形していない状態を言う。
この構成の場合、損傷防止輸送治具は、転動体の傾斜した端面に馴染むように変形して転動体を押えることになる。そのため、安定して転動体を押えることができる。
損傷防止輸送治具の横断面形状を円形ないし楕円形状とする場合は、上記のように変形を生じさせるため、ある程度軟質の材質が好ましい。
損傷防止輸送治具を前記台形とするか、前記円形ないし楕円形状とするかは、複列自動調心ころ軸受の大きさや形状に応じて適宜選択すれば良い。
【0012】
この発明の複列自動調心ころ軸受の輸送方法は、この発明の損傷防止輸送治具を、前記複列自動調心ころ軸受の両面に、転動体に接触する状態に配置し、前記複列自動調心ころ軸受を、内周面、外周面、および両側面に渡って、前記両側の損傷防止輸送治具と共に、フィルム状の梱包材で覆い、この梱包材により前記両損傷防止輸送治具の前記内輪および外輪の端面から突出する部分を軸受幅方向の中心側へ押しつけ状態とする。
この方法によると、この発明の損傷防止輸送治具と共に、軸受をフィルム状の梱包材で覆うため、輸送時の転動体の動きによる損傷を防止でき、軸受内に異物が残る恐れもない。また、同じ治具を複数種の軸受に使用できる。
【0013】
前記損傷防止輸送治具の横断面形状が自然状態で円形であり、下記式(1)、式(2)、式(3)および式(4)を充足するものであっても良い。
前記「自然状態で」とは、物体が当たらず変形していない状態を言う。
前記「横断面形状」とは、損傷防止輸送治具を軸受軸心を含む平面で切断して見た断面形状である。
L2-f(x)≧0 …式(1)
L2=r/tanθ+r/(cosθ×tanθ)+r-L1 …式(2)
θ=90°-α …式(3)
y=f(x) …式(4)
但し、r:損傷防止輸送治具の半径(mm)
L1:内輪小つば幅寸法(mm)
L2:内輪小つば外径に半径rの損傷防止輸送治具を設置したとき、この損傷防止輸送治具の軸方向端部と内輪の側面との軸方向距離(mm)
α:内輪小つば角度(°)
x:損傷防止輸送治具1mmあたりにかかる荷重(N)
y:損傷防止輸送治具の寸法変化量
【0014】
複列自動調心ころ軸受の損傷をより効果的に防止するためには、転動体の端面と中つばとの接触部にて損傷が発生しない荷重で且つより大きな力で転動体を押さえることが効果的であり、損傷防止輸送治具が軸受総重量を受け変形した際もこの損傷防止輸送治具が軸受端面(内輪および外輪の側面)から突出する状態である必要がある。
損傷防止輸送治具の寸法変化と軸受重量の関係について検討および調査を行ったところ、損傷防止輸送治具1mmあたりにかかる荷重をxとすると、この荷重xと、ある荷重を受けた際の損傷防止輸送治具(以後、単に「治具」と言う場合がある)の寸法変化量yは以下の相関関係にある。
y=f(x)
【0015】
ある複列自動調心ころ軸受Aの内輪小つばの外径面に、治具を添わせるように設置すると想定したとき、治具1mmあたりにかかる荷重xAおよび治具の寸法変化量yAは下記となる。
xA=治具全体で受ける荷重(N)/{内輪小つば外径寸法(mm)+治具直径(mm)/2}×π
yA=F(xA)
このとき、複列自動調心ころ軸受Aの全重量を治具が受けた場合、荷重方向の治具寸法は下記となる。
(荷重方向治具寸法(mm))=(無負荷時の治具寸法(mm))-y
【0016】
また、複列自動調心ころ軸受および使用する治具寸法を下記のように設定する。
r:治具の半径(mm)
L1:内輪小つば幅寸法(mm)
L2:内輪小つば外径に半径rの治具を設置したとき、この治具の軸方向端部と内輪の側面との軸方向距離(mm)
α:内輪小つば角度(°)
このとき、下記式が成り立つ。
θ=90°-α
L2=r/tanθ+r/(cosθ×tanθ)+r-L1
またL2-f(x)≧0となるような治具寸法にすることで、治具が軸受の全重量を受けても治具端面が軸受端面から突出している状態となる。これにより転動体の端面と中つばとの接触部にて損傷が発生しない荷重で且つより大きな力で転動体を押さえることができる。よって、複列自動調心ころ軸受の損傷をより効果的に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の複列自動調心ころ軸受の損傷防止輸送治具は、中つばを有する複列自動調心ころ軸受の輸送時に、前記複列自動調心ころ軸受と共に梱包されて転動体の損傷を防止する損傷防止輸送治具であって、前記複列自動調心ころ軸受の内輪の端部の外周面と外輪の端部の内周面との間に収まる内外径を持つリング状に形成され、一側面が前記複列自動調心ころ軸受の各転動体の端面に接触し他側面が前記内輪および外輪の側面よりも突出する形状を持ち、前記転動体よりも軟質の材質を持つため、輸送時の転動体の動きによる損傷を防止でき、かつ隙間管理が不要で複数種の軸受に使用でき、また軸受内に異物が残る恐れもない。
【0018】
この発明の複列自動調心ころ軸受の輸送方法は、この発明の損傷防止輸送治具を、前記複列自動調心ころ軸受の両面に、転動体に接触する状態に配置し、前記複列自動調心ころ軸受を、内周面、外周面、および両側面に渡って、前記両側の損傷防止輸送治具と共に、フィルム状の梱包材で覆い、この梱包材により前記両損傷防止輸送治具の前記内輪および外輪の端面から突出する部分を軸受幅方向の中心側へ押しつけ状態とするため、輸送時の転動体の動きによる損傷を防止でき、かつ隙間管理が不要で複数種の軸受に使用でき、また軸受内に異物が残る恐れもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の第1の実施形態に係る損傷防止輸送治具を用いて複列自動調心ころ軸受を梱包した状態を示す断面図である。
図2】同梱包状態の作用説明図である。
図3】この発明の他の実施形態に係る損傷防止輸送治具を用いて複列自動調心ころ軸受を梱包した状態を示す断面図である。
図4】同損傷防止輸送治具の寸法変化と複列自動調心ころ軸受との関係を拡大して示す拡大断面図である。
図5】同損傷防止輸送治具の寸法変化と軸受重量の関係について説明する図である。
図6】同損傷防止輸送治具の荷重と変位の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態を図1図2と共に説明する。この損傷防止輸送治具1は、複列自動調心ころ軸受2の輸送時に、複列自動調心ころ軸受2と共に梱包材3により梱包される治具である。輸送対象の複列自動調心ころ軸受2は、内輪4と外輪5との間に、たる形のころからなる転動体6が2列に介在し、外輪5の転走面5aが、両列に続く球面状であって、内輪4の中央に中つば4aを有する形式である。内輪4の両端部には、各列の転動体6,6の端面に臨む小つば4b,4bが設けられている。各列の転動体6,6は、互いに背合わせに配置された一対の保持器7,7により保持される。両列の保持器7,7は、互いに一体となった一つの保持器を構成していても良い。前記複列自動調心ころ軸受2は、例えば風力発電装置の主軸軸受として使用される軸受であり、大型軸受である。
【0021】
損傷防止輸送治具1は、複列自動調心ころ軸受2の内輪4の端部の外周面と外輪5の端部の内周面との間に収まる内外径を持つリング状に形成され、一側面が複列自動調心ころ軸受2の各列の転動体6,6の端面に接触し、他側面が内輪4および外輪5の端面よりも突出する形状を持つ。
【0022】
損傷防止輸送治具1は、転動体6よりも軟質の材質であり、例えば、ゴムまたは各種の合成樹脂等の樹脂材からなる一体成形品である。損傷防止輸送治具1の断面形状は、この例では、内径側が軸受内側へ広がる非等脚の台形である。台形における斜辺の傾斜の程度は、輸送対象となる損傷防止輸送治具1の基準状態における転動体6の端面の傾斜と同じとする。
【0023】
輸送方法を説明すると、上記損傷防止輸送治具1を2個準備して、それぞれ複列自動調心ころ軸受2の両面に、内輪4と外輪5との間に対応する径方向位置で、転動体6に接触する状態に配置する。この複列自動調心ころ軸受2を、その内周面、外周面、および両側面に渡って、両側の損傷防止輸送治具1,1と共に、梱包材3で覆う。梱包材3は、ビニール等の樹脂フィルムであり、幅広形状であっても、帯状であってもよく、例えば、螺旋状に巻き付ける。図1における線3aは、巻き付けられた梱包材3の各層部分の縁を示す。このように覆うことで、両側の損傷防止輸送治具1,1の、内輪4および外輪5の端面から突出する部分を、梱包材3により軸受幅方向の中心側へ押しつけ状態とする。
【0024】
この構成の損傷防止輸送治具1によると、次の利点が得られる。自動調心ころ軸受2は組立状態にて輸送されるが、転動体6と内外輪4,5との間にすきまがあるため、そのままでは転動体6が輸送中に動くことが可能であり、フレッティング等の損傷が発生する危険性がある。これに対して、この実施形態では、フィルム状の梱包材3を複列自動調心ころ軸受2に巻き付けて梱包する際に、リング状の損傷防止輸送治具1を転動体6の端面へ設置し、一緒に梱包することで損傷防止輸送治具1と複列自動調心ころ軸受2を固定する。
このように梱包することで、図2に矢印を付して概念的に示すように、損傷防止輸送治具1により転動体6は中鍔4aへ押しつけられる為、損傷防止輸送治具1・転動体6・中つば4aの3点接触にて転動体6を固定することが可能となり、損傷を防止することができる。
【0025】
損傷防止輸送治具1は、横断面形状を台形としているが、複列自動調心ころ軸受1の転動体6の外側を向く端面は、軸受内径側が軸受幅の中心側に位置する傾斜面となっている。そのため、治具1の横断面形状が、内径側が広がる台形であると、転動体6の傾斜した端面に沿って接触し、転動体6の端面の広範囲を押しつけることができて、押しつけ状態が安定する。
【0026】
[他の実施形態について]
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0027】
図3は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、図1に示す第1の実施形態において、損傷防止輸送治具1の断面形状を、自然状態で円形ないし楕円形としている。損傷防止輸送治具1の材質は、第1の実施形態と同じくゴムまたは樹脂製とするが、第1の実施形態とは異なり、硬さについては、転動体6への押しつけ状態で転動体6の端面の傾斜に馴染む程度に軟質とすることが好ましい。
【0028】
この実施形態の場合、損傷防止輸送治具1は、転動体6の傾斜した端面に馴染むように変形して転動体6を押えることになる。そのため、安定して転動体6を押えることができる。この実施形態におけるその他の構成効果は、第1の実施形態と同様である。
【0029】
図4は、損傷防止輸送治具1の寸法変化と複列自動調心ころ軸受2との関係を拡大して示す拡大断面図である。この例の損傷防止輸送治具1の横断面形状は、自然状態で円形である。
複列自動調心ころ軸受の損傷をより効果的に防止するためには、転動体6の端面と中つば4aとの接触部にて損傷が発生しない荷重で且つより大きな力で転動体6を押さえることが効果的であり、損傷防止輸送治具1が軸受総重量を受け変形した際もこの損傷防止輸送治具1が軸受端面(内輪4および外輪5の側面)から突出する状態である必要がある。下記式が成り立つようにすることで、複列自動調心ころ軸受の損傷防止の効果をより発揮することができる。
(荷重方向治具寸法(mm))-(ころ端面と軸受端面の寸法差(mm))≧0
【0030】
そのため、下記検討および調査を行った。
[治具寸法変化と軸受重量の関係 検討・調査]
環状の治具1mmあたりにかかる荷重をxとする。この荷重xと、ある荷重を受けた際の治具の寸法変化量yは相関関係にある。
y=f(x)
【0031】
ある複列自動調心ころ軸受Aの内輪小つばの外径面に、治具を添わせるように設置すると想定したとき、治具1mmあたりにかかる荷重xAおよび治具の寸法変化量yAは下記となる。
xA=治具全体で受ける荷重(N)/{内輪小つば外径寸法(mm)+治具直径(mm)/2}×π
yA=F(xA)
このとき、複列自動調心ころ軸受Aの全重量を治具が受けた場合、荷重方向の治具寸法は下記となる。
(荷重方向治具寸法(mm))=(無負荷時の治具寸法(mm))-y
【0032】
また、図5に示すように、複列自動調心ころ軸受および使用する治具寸法を下記のように設定する。
r:治具の半径(mm)
L1:内輪小つば幅寸法(mm)
L2:内輪小つば外径に半径rの治具を設置したとき、この治具の軸方向端部と内輪の側面との軸方向距離(mm)
α:内輪小つば角度(°)
このとき、下記式が成り立つ。
θ=90°-α
L2=r/tanθ+r/(cosθ×tanθ)+r-L1
またL2-f(x)≧0となるような治具寸法にすることで、治具が軸受の全重量を受けても治具端面が軸受端面から突出している状態となる。
【0033】
一例として、この治具にクロロプレンゴム(略称CR)から成るゴム丸紐を使用するとし、CRゴム丸紐の断面の直径が20mmであるφ20品、CRゴム丸紐の断面の直径が16mmであるφ16品の荷重と変位の関係を測定した。その結果を図6に示す。
また、ある複列自動調心ころ軸受Aを内輪小つば外径寸法900mm、内輪小つば幅寸法15mm、内輪小つば角度10°、軸受荷重1500kgと仮定し、φ20品を治具として使用するとする。
【0034】
このときの各値は以下の通りになる。
x≒5.15、f(x)≒2.5、L2≒6.9
よってL2-f(x)≒6.9-2.5=4.4≧0となるため、治具が軸受の全重量を受けても治具端面が軸受端面から突出している状態となる。これにより転動体の端面と中つばとの接触部にて損傷が発生しない荷重で且つより大きな力で転動体を押さえることができる。よって、輸送時のころ振動による発生するフレッティング損傷をより効果的に防止することが可能となる。
【0035】
[軸受総重量を片列のころと中つばとの接触面のみで支持した場合の損傷の危険性について]
軸受総重量を片列のころと中つばとの接触面のみで支持することに問題があるかどうかを検討した。製品を平置きした際、全重量を受けても治具が軸受端面より突出しているようにすると、平置き時に下側となるころ列と内輪中つばとの接触面にて全重量を支えることになる。このときのころ・中つば間の面圧を検討する。
【0036】
このときの面圧Pは下記となる。
P(MPa)=荷重(N)/面積(mm
={軸受総重量(kg)×重力加速度}/{ころと中つばとの接触面積(mm)×1列のころ個数}
風力発電機は許容安全率がGL規格にてS0≧2.0と規定されている。この許容安全率より概算すると許容接触面圧は約2800MPaのため、面圧Pは下記を満たす必要がある。
P≦2800MPa
【0037】
上記二式より、軸受総重量を片列のころと中つばとの接触面のみで負荷し、P=2800MPaとなる面積Sは下記を満たす必要がある。
min={軸受重量(kg)×重力加速度}/2800(MPa)≦S(mm
風車用大型複列自動調心ころ軸受の重量を最大3000kgとすると、Sminは下記となる。
min(mm)≒10.9
【0038】
複列自動調心ころ軸受の一列に30個のころを使用していると仮定すると、ころ一個当たりの中つばとの接触面の面積S´minは下記となる。
S´min(mm)≒10.9/30≒0.36
一方、風車用大型複列自動調心ころ軸受に使用されるころの端面の直径の最小が直径50mmであるとすると、下記が言える。
S´min≒0.36≦0.39≒0.0002×(ころ側面直径50mmの面積(mm))=S
これにより、ころと中つばとの接触面がころ側面全体の面積の約0.02%以下となるときに許容接触面圧である2800MPaとなるが、これは非常に小さい値であり、問題ないと判断できる。
【0039】
以上、実施例に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1:損傷防止輸送治具
2:複列自動調心ころ軸受
3:梱包材
4:内輪
4a…中つば
4b…小つば
5:外輪
6:転動体
7:保持器
図1
図2
図3
図4
図5
図6