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7156814機械特性と誘電特性に優れた液晶ポリエステル樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】機械特性と誘電特性に優れた液晶ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/60 20060101AFI20221012BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20221012BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221012BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221012BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221012BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
C08G63/60
C08L67/00
C08K3/013
C08K7/02
C08J5/18 CFD
B32B15/09 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018083325
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019189735
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】齋尾 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】谷水 はな
(72)【発明者】
【氏名】上野 博史
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-200034(JP,A)
【文献】特開2004-250620(JP,A)
【文献】特開2019-189737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
C08L67
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリエステル樹脂中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.01≦p≦7、
35≦q≦85、
5≦r≦30、および
5≦s≦30]
で表される繰返し単位を含み、
ArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を表し、
ASTM D638に準拠した23℃における引張強度が180MPa以上である、液晶ポリエステル樹脂。
【請求項2】
Arが式(1)で表される芳香族基であり、Arが式(1)および/または式(3)で表される芳香族基である、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項3】
ASTM D256に準拠したIzod衝撃強度が175J/m以上である、請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項4】
JIS C2565に準拠した空洞共振器摂動法で85mm×1.7mm×1.7mmの試験片を用いて10GHzにて測定した誘電率が3.60以下である、請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂と無機充填材および/または有機充填材を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
無機充填材および/または有機充填材が、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上である、請求項5に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂または請求項5および6のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品。
【請求項8】
成形品が、アンテナまたはコネクタである、請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂または請求項5および6のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成されるフィルム。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルムと金属層とを有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性に優れるとともに、高周波帯域における誘電特性に優れる液晶ポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においては、日常生活のマルチメディア化や、有料道路におけるETC装置やGPSに代表されるITS(高度道路交通システム、Intelligent Transport Systems)の利用が急速に進んでいる。これに伴う情報通信のトラフィックの爆発的な増加に対応するべく、情報を伝送する周波数の高周波化が進んでいる。
【0003】
このように高周波化された情報通信装置に用いられる材料としては、高周波帯域(特にギガヘルツ帯域)における誘電特性に優れ、生産性や軽量性に優れたエンジニアリングプラスチック材料が有望視されており、各種通信機器、電子デバイスなどの筐体やパッケージ、誘電体デバイス、フィルムと金属層を積層した多層プリント基板などの積層体への適用が期待されている。
【0004】
上述のエンジニアリングプラスチックの中でも、サーモトロピック液晶ポリエステル樹脂(以下、液晶ポリエステル樹脂またはLCPと略称する)は、
(1)比誘電率(εr)が使用周波数領域帯域で一定であり、誘電正接(tanδ)が低いなど、誘電特性に優れる、
(2)低膨張特性(環境寸法安定性)、耐熱性、難燃性、剛性等の機械物性など、種々の物性に優れている、
(3)成形時の流動性に優れ、薄肉部、微細部を有する成形品を容易に加工できる、
などの優れた性質を有することから、高周波用途において特に期待されている材料である。
【0005】
以上説明した液晶ポリエステル樹脂の中でも、誘電特性などが特に優れることから、特定の比率で6-オキシ-2-ナフトイル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位および芳香族ジカルボニル繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステルについて、近年、活発に開発が進んでいる(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-196930号公報
【文献】特開2005-272810号公報
【文献】特開2004-250687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、6-オキシ-2-ナフトイル繰返し単位を多量に含む液晶ポリエステルは、誘電特性は優れるものの、引張強度や耐衝撃強度などの機械特性に劣るものであり、日常の使用において落下などによる衝撃を受けやすい携帯電話やスマートフォンなどの部品には使用しにくいという問題があった。また、フィルムなど柔軟性を要する用途にも適さないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、引張強度や耐衝撃強度などの機械特性に優れ、高周波帯域での誘電特性に優れる液晶ポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の繰返し単位を構成成分とすることによって、高周波帯域における誘電特性に優れるとともに、引張強度や耐衝撃強度などの機械特性に優れる液晶ポリエステル樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、式(I)~(IV)
【化1】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリエステル樹脂中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
0.01≦p≦7、
35≦q≦90、
5≦r≦30、および
5≦s≦30]
で表される繰返し単位を含み、ASTM D638に準拠した23℃における引張強度が180MPa以上である、液晶ポリエステル樹脂に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、引張強度やIzod衝撃強度などの機械特性、および高周波帯域における誘電特性に優れるので、薄層化、高集積化したコネクタ、アンテナ、フィルムやプリント配線基板などの電気電子部品用の材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂と呼ばれる、異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルである。
【0013】
液晶ポリエステル樹脂の異方性溶融相の性質は、直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0014】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、式(I)~(IV)
【化2】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリエステル樹脂中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.01≦p≦7、
35≦q≦90、
5≦r≦30、および
5≦s≦30]
で表される繰返し単位を含む。
【0015】
式(I)に係る組成比pは、0.05~6モル%が好ましく、0.1~5モル%がより好ましい。
【0016】
式(II)に係る組成比qは、40~85モル%が好ましく、45~80モル%がより好ましい。
【0017】
式(III)に係る組成比rと式(IV)に係る組成比sは、それぞれ7~28モル%が好ましく、10~25モル%がより好ましい。rとsは、等モル量であるのが好ましい。
【0018】
上記の繰返し単位において、例えばAr(またはAr)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(III)(または(IV))で表される繰返し単位が液晶ポリエステル樹脂中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(III)に係る組成比r(または式(IV)に係る組成比s)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0019】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0021】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
なかでも、式(III)および式(IV)で表される繰返し単位に係るArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含む液晶ポリエステル樹脂が好ましい。
【化3】
【0024】
これらのなかでも、式(III)で表される繰返し単位に係るArとしては、式(1)で表される芳香族基が、得られる液晶ポリエステル樹脂の機械特性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことからより好ましい。
【0025】
これらの繰返し単位を与える単量体としては、テレフタル酸ならびにこのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
また、式(IV)で表される繰返し単位に係るArとしては、式(1)および/または式(3)で表される芳香族基が、重合時の反応性および得られる液晶ポリエステル樹脂の機械特性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことからより好ましい。
【0027】
これらの繰返し単位を与える単量体としては、ハイドロキノンおよび4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ならびにこれのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0028】
このなかでも、式(IV)で表される繰返し単位として、式(1)で表される芳香族基を含む繰返し単位および式(3)で表される芳香族基を含む繰返し単位の少なくとも2種が含まれる液晶ポリエステル樹脂が特に好ましく、この場合、式(IV)で表される繰返し単位100モル%中、式(3)で表される芳香族基を含む繰返し単位が、好ましくは80~99モル%、より好ましくは85~99モル%、さらに好ましくは90~99モル%である。
【0029】
本発明の液晶ポリエステル樹脂において繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含んでもよい。
【0030】
他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0031】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0033】
以下、本発明の液晶ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
本発明の液晶ポリエステル樹脂の製造方法には特に限定はなく、前記の単量体成分によるエステル結合を形成させる公知の重縮合法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0034】
溶融アシドリシス法とは、本発明の液晶ポリエステル樹脂を製造するのに適した方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリエステルを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0035】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0036】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリエステル樹脂を製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは、前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0037】
単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステル樹脂の製造時にモノマーに無水酢酸などのアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0038】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても、反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0039】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、二酸化チタン、三酸化アンチモン、有機チタン化合物(アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BFなど)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0040】
触媒の使用量は、モノマー質量に対し10~1000ppmが好ましく、20~200ppmがより好ましい。
【0041】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリエステル樹脂は、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、成形加工や溶融混練に供される。
【0042】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステル樹脂は、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または窒素やヘリウムなどの不活性ガスの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0043】
熱処理の温度は、液晶ポリエステル樹脂が溶融しない範囲において特に限定されないが、好ましくは260~350℃、より好ましくは280~320℃である。
【0044】
このようにして得られた本発明の液晶ポリエステル樹脂は、ASTM D638に準拠した23℃における引張強度が180MPa以上、好ましく190MPa以上、より好ましくは200MPa以上である。なお、本発明の液晶ポリエステル樹脂の引張強度は、通常300MPa以下である。
【0045】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂は、ASTM D256に準拠した23℃におけるIzod衝撃強度が175J/m以上、好ましく180J/m以上、より好ましくは185J/m以上である。なお、本発明の液晶ポリエステル樹脂のIzod衝撃強度は、通常300J/m以下である。
【0046】
また、JIS C2565に準拠した空洞共振器摂動法で85mm×1.7mm×1.7mmの試験片を用いて10GHzにて測定した誘電率が、好ましくは3.60以下、より好ましくは3.58以下、さらに好ましくは3.55以下である。なお、本発明の液晶ポリエステル樹脂の誘電率は、通常3.0以上である。
【0047】
上記のようにして得られた本発明の液晶ポリエステル樹脂は、無機充填材および/または有機充填材、添加剤や他の樹脂成分などを含有した液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0048】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が含有してもよい無機充填材および/または有機充填材の具体例としては、例えば、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられる。これらの充填材は単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0049】
これらのなかでは、タルクおよびガラス繊維が、機械物性とコストのバランスが優れている点で好ましい。
【0050】
無機充填材および/または有機充填材を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、1~150質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがより好ましい。
【0051】
無機充填材および/または有機充填材の含有量が1質量部以上であると、液晶ポリエステル樹脂組成物について機械特性の向上効果が得られやすい。無機充填材および/または有機充填材の含有量が150質量部を超えると、流動性が低下する傾向があり、また誘電特性の向上効果が不十分となる傾向がある。
【0052】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が含有してもよい他の添加剤の具体例としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10~25のものをいう)などの滑剤、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型剤、染料、顔料、カーボンブラックなどの着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0053】
これらの添加剤を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル樹脂の合計量100質量部に対する合計量として、0.01~10質量部が好ましく、0.1~3質量部がより好ましい。
【0054】
添加剤の含有量が0.01質量部未満であると、添加剤の機能が実現しにくくなる傾向があり、10質量部を超えると、液晶ポリエステル樹脂組成物の成形加工時の熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0055】
また、上記他の添加剤のうち、滑剤、離型剤などの添加剤を使用する場合は、液晶ポリエステル樹脂組成物を作製する際に添加してもよいし、成形加工の際に液晶ポリエステル樹脂のペレット表面に付着させてもよい。
【0056】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物が含有してもよい他の樹脂成分の具体例としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂成分は単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記他の樹脂成分の含有量は、液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1~100質量部が好ましく、0.5~80質量部がより好ましい。
【0058】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂、ならびに、無機充填材および/または充填材、添加剤または他の樹脂成分を混合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリエステル樹脂の結晶融解温度近傍から結晶融解温度+50℃の温度条件で溶融混練して得ることができる。
【0059】
このようにして得られた本発明の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、押出し成形、ブロー成形など公知の成形加工方法によって成形品に加工することができる。
【0060】
本発明の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステル樹脂組成物は、低誘電率であるという優れた誘電特性を有するため、電気電子部品として好適に使用することができる。
【0061】
このような電気電子部品としては、特に限定されないが、例えば、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、アンテナおよびチップアンテナなどが挙げられる。これらのなかでも、コネクタまたはアンテナに特に好適に使用することができる。
【0062】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステル樹脂組成物は、溶融押出成形法、プレス成形法など公知の方法でフィルムに加工することができる。押出成形法としては、例えば、Tダイ法やインフレーション法が挙げられる。
特にTダイ法により、無延伸フィルム、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムに加工することができる。
【0063】
一軸延伸フィルムの延伸倍率は、1.5~20倍であるのが好ましく、5~18倍であるのがより好ましく、10~15倍であるのがさらに好ましい。
【0064】
二軸延伸フィルムのMD方向(押出方向または長手方向)およびTD方向(MD方向に垂直な方向)の延伸倍率は、ともに1.1~20倍であるのが好ましい。
【0065】
インフレーション法において、インフレーションフィルムのMD方向のドローダウン比(バブル引取速度/樹脂吐出速度)は、1.5~30であるのが好ましく、5~20であるのがより好ましく、インフレーションフィルムのTDのブロー比(バブル径/環状スリット径)は、1.5~10であるのが好ましく、2~5であるのがより好ましい。
【0066】
本発明のフィルムの厚さは、5~100μmであるのが好ましく、10~75μmであるのがより好ましくは、15~75μmであるのがさらに好ましい。フィルムの厚さが5μm未満であると強度が不十分になる場合があり、100μmを超えると柔軟性が不十分になる場合がある。
【0067】
本発明のフィルムは、金属層と積層することにより、積層体とすることができる。本発明のフィルムに金属層を積層する方法としては、例えば、フィルムに金属箔を熱圧着する方法(プレス機、加熱ロールなどを使用)、フィルムに金属箔を接着剤で接着する方法(エポキシ基含有エチレン共重合体などの接着剤を使用)、フィルムに金属層を蒸着する方法(高周波スパッタリング、グロー放電法などによる蒸着法)が挙げられる。フィルムの金属層を積層する面には、接着力を高めるためコロナ放電処理、紫外線照射処理、またはプラズマ処理などを施してもよい。
【0068】
金属層に使用される金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。このような積層体は、液晶ポリエステル樹脂フィルムと金属層との二層構造、あるいはこれらを交互に積層させた多層構造であってよい。また、フィルムや積層体には、必要に応じて熱処理を施してもよい。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例中の溶融粘度、引張強度、Izod衝撃強度および誘電率は、以下に記載の方法で測定した。
【0070】
(1)溶融粘度
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec-1の条件下、350℃で測定した。
【0071】
(2)引張強度
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度350℃、金型温度70℃で、ASTM4号ダンベル試験片を成形し、これを用いてASTM D638に準拠して測定した。
【0072】
(3)Izod衝撃強度
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度350℃、金型温度70℃で、長さ127.0mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を成形した。この試験片の中央を長さ方向と垂直に切断し、得られた長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片を用いて、ASTM D256に準拠して測定した。
【0073】
(4)誘電率
射出成形機(日精樹脂工業(株)NEX-15-1E)を用いて、シリンダー設定温度350℃、金型温度80℃で、長さ85mm、幅1.7mm、厚さ1.7mmのスティック状試験片に成形した。
この試験片を用いて、JIS C2565に準拠した空洞共振器摂動法により、ネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製PNAシリーズE8316A)を使用して、誘電率(10GHz)を測定した。
【0074】
実施例において、下記の略号は以下の化合物を表す。
3HBA:3-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
TPA:テレフタル酸
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
【0075】
[実施例1]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、3HBA:4.5g(0.5モル%)、BON6:656.8g(53.7モル%)、TPA:247.3g(22.9モル%)、BP:253.0g(20.9モル%)およびHQ:14.3g(2モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定の攪拌トルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットを用いて上記の方法により、溶融粘度、引張強度、Izod衝撃強度および誘電率を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2、3および比較例1~3]
3HBA、BON6、TPA、BPおよびHQを表1に示す割合(モル%)となるように用いたこと以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。得られたペレットを用いて上記の方法により溶融粘度、引張強度、Izod衝撃強度および誘電率を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
各実施例における液晶ポリエステル樹脂(実施例1~3)は、引張強度が207~245MPa、Izod衝撃強度が185~197J/m、かつ誘電率が3.52~3.53であり、機械特性および誘電特性に優れるものであった。
【0078】
これに対して、3HBAから与えられる繰返し単位の含有量が本発明の範囲外である液晶ポリエステル樹脂(比較例1~3)は、引張強度およびIzod衝撃強度に劣るものであった。
【0079】
【表1】

本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕式(I)~(IV)
[化1]
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、q、rおよびsは、それぞれ、液晶ポリエステル樹脂中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす:
0.01≦p≦7、
35≦q≦90、
5≦r≦30、および
5≦s≦30]
で表される繰返し単位を含み、
ASTM D638に準拠した23℃における引張強度が180MPa以上である、液晶ポリエステル樹脂。
〔2〕ArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)
[化2]
で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を表す、〔1〕に記載の液晶ポリエステル樹脂。
〔3〕Arが式(1)で表される芳香族基であり、Arが式(1)および/または式(3)で表される芳香族基である、〔2〕に記載の液晶ポリエステル樹脂。
〔4〕ASTM D256に準拠したIzod衝撃強度が175J/m以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂。
〔5〕JIS C2565に準拠した空洞共振器摂動法で85mm×1.7mm×1.7mmの試験片を用いて10GHzにて測定した誘電率が3.60以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂と無機充填材および/または有機充填材を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔7〕無機充填材および/または有機充填材が、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および酸化チタンからなる群から選択される1種以上である、〔6〕に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔8〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂または〔6〕および〔7〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品。
〔9〕成形品が、アンテナまたはコネクタである、〔8〕に記載の成形品。
〔10〕〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂または〔6〕および〔7〕のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成されるフィルム。
〔11〕〔10〕に記載のフィルムと金属層とを有する積層体。