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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 29/02 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
D05B29/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018097330
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019201728
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】立川 充宏
(72)【発明者】
【氏名】ホー ゴック カーン
(72)【発明者】
【氏名】岡村 昌彦
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-187417(JP,A)
【文献】特開2009-011544(JP,A)
【文献】特開2006-158497(JP,A)
【文献】特開2016-158972(JP,A)
【文献】特開2010-131175(JP,A)
【文献】特開2006-102396(JP,A)
【文献】中国実用新案第207276934(CN,U)
【文献】特開2010-081982(JP,A)
【文献】特開平9-41258(JP,A)
【文献】特開昭63-275397(JP,A)
【文献】特開平7-096094(JP,A)
【文献】特開2010-158291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B1/00-97/12
D05C9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い針を上下動させる針上下動機構と、
被縫製物を保持枠で保持して移動させる移動機構と、
前記保持枠に保持された被縫製物の上側で中押さえを上下動させる中押さえ装置と、
一連の縫製における針落ち位置を順番に定めた縫製データに基づいて前記移動機構を制御する制御装置とを備えるミシンにおいて、
前記中押さえの高さを検出する高さ検出部を備え、
前記制御装置は、前記縫製データに従う縫製開始前に、当該縫製データに定められた一又は複数の針落ち位置において、前記保持枠に保持された被縫製物の上面まで前記中押さえを下降させて、前記高さ検出部により、前記中押さえの高さを検出し、前記被縫製物の厚さの適否を判定することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記高さ検出部は、磁気センサーを含むことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記縫製データは、被縫製物の厚さの情報を有し、
前記制御装置は、前記高さ検出部により検出した前記中押さえの高さを前記縫製データの被縫製物の厚さの情報と照合して、前記検出した前記中押さえの高さが前記被縫製物の設定値に基づく適正範囲内であるか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
前記縫製データに基づく一連の縫製は、複数の縫製パターンから構成され、
前記縫製データは、それぞれの前記縫製パターンごとに被縫製物の厚さの情報を有し、
前記制御装置は、それぞれの前記縫製パターンごとに、一箇所又は複数箇所について、前記保持枠に保持された被縫製物の上面まで前記中押さえを下降させて、前記高さ検出部により、前記中押さえの高さを検出し、前記被縫製物の厚さの適否を判定することを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中押さえを備えるミシンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各針落ちごとに針落ち位置が定められた一乃至複数の任意の縫製パターンからなる一連の縫製について各針落ち位置を記録した縫製データに従って縫製を行うミシンとして、いわゆる、電子サイクル縫いミシンが知られている。
この電子サイクル縫いミシンは、被縫製物を保持する保持枠を水平面に沿って任意に移動位置決めして縫製を行うため、いわゆる、本縫いミシンのような縫製中に被縫製物を押さえたままの状態となる布押さえの替わりに中押さえを備えている。
中押さえは、保持枠で移動する被縫製物の妨げとならないように、針板に届かない高さで、縫い針よりも小さいストロークで上下動を行い、被縫製物のばたつきを押さえて、上昇する縫い針を被縫製物から円滑に引き抜くことができるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-327120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、エアバッグのように、複数の被縫製物を重ねて縫製を行う場合に、針落ち位置によって縫い合わせる被縫製物の枚数が異なる場合がある。
この場合、保持枠は、予め定められた配置で、複数の被縫製物を重ねた状態で保持させて縫製が行われるが、保持枠にセットする際の被縫製物の配置を誤ったり、一部の被縫製物を重ね忘れたりすると、不良品が発生してしまう。
このような不良品の発生の抑止、低減が縫製の現場で求められていた。
【0005】
本発明は、適正な縫製を行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ミシンにおいて、
縫い針を上下動させる針上下動機構と、
被縫製物を保持枠で保持して移動させる移動機構と、
前記保持枠に保持された被縫製物の上側で中押さえを上下動させる中押さえ装置と、
一連の縫製における針落ち位置を順番に定めた縫製データに基づいて前記移動機構を制御する制御装置とを備えるミシンにおいて、
前記中押さえの高さを検出する高さ検出部を備え、
前記制御装置は、前記縫製データに従う縫製開始前に、当該縫製データに定められた一又は複数の針落ち位置において、前記保持枠に保持された被縫製物の上面まで前記中押さえを下降させて、前記高さ検出部により、前記中押さえの高さを検出し、前記被縫製物の厚さの適否を判定することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のミシンにおいて、
前記高さ検出部は、磁気センサーを含むことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載のミシンにおいて、
前記縫製データは、被縫製物の厚さの情報を有し、
前記制御装置は、前記高さ検出部により検出した前記中押さえの高さを前記縫製データの被縫製物の厚さの情報と照合して、前記検出した前記中押さえの高さが前記被縫製物の設定値に基づく適正範囲内であるか否かを判定することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載のミシンにおいて、
前記縫製データに基づく一連の縫製は、複数の縫製パターンから構成され、
前記縫製データは、それぞれの前記縫製パターンごとに被縫製物の厚さの情報を有し、
前記制御装置は、それぞれの前記縫製パターンごとに、一箇所又は複数箇所について、前記保持枠に保持された被縫製物の上面まで前記中押さえを下降させて、前記高さ検出部により、前記中押さえの高さを検出し、前記被縫製物の厚さの適否を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、縫製データに従う縫製開始前に、保持枠に保持された被縫製物の上面まで中押さえを下降させて、高さ検出部により、中押さえの高さを検出し、被縫製物の厚さの適否を判定することで不良品の発生を抑止、低減し、適正な縫製を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るミシンを示す斜視図である。
図2】ミシンの保持枠や中押さえの近傍を示す拡大斜視図である。
図3】ミシンアーム部内の中押さえ装置の正面図である。
図4】ミシンアーム部内の中押さえ装置の正面図であって、図3よりも中押さえを高く調節した状態を示す。
図5】中押さえ装置の一部の構成を示す分解斜視図である。
図6】中押さえ装置の他の一部の構成を示す分解斜視図である。
図7】ミシンの制御系を示すブロック図である。
図8】被縫製物の構成及び複数の縫製パターンを示す平面図である。
図9】縫製データのデータ構成を示す説明図である。
図10】厚さ検出制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の実施形態の概要]
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの実施の形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。
図1はミシン100の斜視図、図2は縫い針周辺の拡大斜視図である。
電子サイクルミシンは、複数枚重ねられた被縫製物を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持された複数の被縫製物に所定の縫製データに基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0013】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100という)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられミシン本体101を操作するためのペダルRと、ミシンテーブルTの上部に備えられ、ユーザによる入力操作を行うための操作パネル300等を備えている。
【0014】
[ミシンフレーム及び主軸]
図1図2に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし、Y軸方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし、Y軸方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する立胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配置され、回動自在でY軸方向に延びる主軸及び下軸(いずれも図示略)を有している。主軸はミシンアーム部102aの内部において回転可能に支持され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部において回転可能に支持されている。
【0015】
主軸は、ミシンモーター2a(図7参照)に接続され、このミシンモーター2aにより回転力が付与される。また、下軸(図示省略)は、タイミングベルト及びギア(図示省略)を介して主軸と連結されており、主軸が回転すると、主軸の動力がタイミングベルト及びギアを介して下軸側へ伝達し、下軸が主軸の二倍速で回転するようになっている。
【0016】
下軸(図示省略)の前端には、釜装置(図示省略)が設けられている。主軸とともに下軸が回転すると、縫い針108と釜装置の外釜(図示省略)との協働により縫い目が形成される。
釜装置は、下軸の前端部に固定装備された外釜と、外釜の内側でボビンを要する内釜と、を備えている。釜装置の構成は周知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0017】
[針上下動機構]
ミシンアーム部102aの前端部には、縫い針108を下端部に保持した針棒108aが上下動可能に支持されている。ミシンアーム部102aの前端部内側において、主軸の前端に固定装備された針棒クランクと、針棒108aに固定装備された針棒抱きと、針棒クランクと針棒抱きと連結するクランクロッドとが設けられている。
【0018】
針棒クランクは、主軸と共に回転を行う。クランクロッドは、その一端部がY軸回りに回転可能に針棒クランクの回転円周上に連結され、他端部がY軸回りに針棒抱きに連結されている。従って、主軸がミシンモーター2aによって回転すると、クランクロッドの一端部が周回運動を行い、他端部には周回運動のZ軸方向成分となる上下動のみが伝わって、針棒108aに上下動を付与することができる。
即ち、上記ミシンモーター2a、主軸、針棒クランク、針棒抱き、クランクロッド、針棒108aは、縫い針108を上下動させる針上下動機構を構成している。
なお、針上下動機構は、周知の構成と同様のものなので、各構成についてはいずれも図示を省略している。
【0019】
[移動機構]
図1図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上側に布保持部としての保持枠111が配置されている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの下側に配置された取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド部102b内に配置された図示しないベルト機構を介してX軸モーター76a及びY軸モーター77aが連結されている(図7参照)。
保持枠111は、被縫製物を挟持し、X軸モーター76a及びY軸モーター77aの駆動に伴い、保持した被縫製物を前後左右方向に移動させる。そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することにより、被縫製物に所定の縫製データに記録された複数の針落ち位置に基づく縫い目が形成される。
【0020】
上記保持枠111は、布押さえと下板とから構成されている。
また、取付部材113は、保持枠111の布押さえを昇降可能に支持しており、ミシンアーム部102a内に配置された布押さえモーター79aの駆動により、布押さえに昇降動作を付与する。布押さえは、下降移動により、下板との間で被縫製物を挟持して保持するようになっている。
そして、これら保持枠111、取付部材113、ベルト機構、X軸モーター76a、Y軸モーター77a及び布押さえモーター79a等が、被縫製物をX軸方向及びY軸方向に沿って任意に移動位置決めする移動機構として機能する。
【0021】
[ペダル]
ペダルRは、ミシン100を駆動させ、針棒108a及び縫い針108を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。
ペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するためのセンサーが組み込まれており、センサーからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置120に入力される。
制御装置120は、その操作位置に応じた操作信号によって、ミシン100の駆動、その他の各動作を実行する制御を行う。
【0022】
[操作パネル]
また、ミシン100には、ユーザによる操作入力を行うための操作パネル300が設けられており、操作パネル300に入力された各種データや操作信号は、後述する制御装置120に入力される。
なお、操作パネル300は、液晶表示パネルからなる表示部300bと当該表示部300bの表示画面上に設けられたタッチセンサー300cとを備えて構成されており、液晶表示パネルに表示される各種操作キー等をタッチ操作することにより、タッチパネルがタッチ指示された位置を検出し、検出した位置に応じた操作信号を後述する制御装置120に出力するようになっている。
【0023】
[中押さえ装置]
図3及び図4はミシンアーム部102a内の中押さえ装置1の正面図、図5は中押さえ装置1の一部の構成を示す分解斜視図、図6は中押さえ装置1の残る一部の構成を示す分解斜視図である。
中押さえ装置1は、ミシンアーム部102aの前端部において、縫い針108の上下動による被縫製物の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の被縫製物の上方へのばたつきを押さえる中押さえ29を有している。なお、中押さえ装置1の本体はミシンアーム部102aの内部に配設され、中押さえ29は、ミシンアーム部102aの前端部の下方に配置されている。そして、中押さえ29は、円形枠を有し、縫い針108がその内側に遊挿されている。
【0024】
中押さえ装置1は、図3図6に示すように、中押さえ29と、主軸の回転により上下動する縫い針108に合わせて中押さえ29を上下動させる中押さえ上下動機構M1と、中押さえ29の下降動作阻害時に中押さえ上下動機構M1に対する過剰負荷回避用の逃げ動作を可能とする過剰負荷回避機構M2と、中押さえ29を退避位置に上昇させる中押さえ退避機構M3と、ミシンモーター2aによる中押さえ29の上下動の動作範囲全体の高さを調節する中押さえ高さ調節機構M4と、を備えている。
【0025】
[中押さえ装置:中押さえ上下動機構]
中押さえ上下動機構M1は、針上下動機構の主軸の回転から中押さえ29の上下動の動力を得ている。
即ち、中押さえ上下動機構M1は、主軸に設けられた偏心カムと、当該偏心カムを一端部で回転可能に保持するコンロッドと、往復回動を行うY軸方向に沿った揺動軸6と、揺動軸6からZ軸方向に向かって延出された揺動アームとからなる往復動作機構を備えている。
上記コンロッドの他端部は、揺動アームの延出端部に対してY軸回りに回動可能に連結されている。これにより、主軸が全回転を行うと、偏心カムによってコンロッドの一端部がY軸回りに周回動作を行い、他端部はX軸方向に沿って往動する。そして、揺動アームの延出端部にもX軸方向に沿った往動が伝わり、当該揺動アームを軸支する揺動軸6は主軸の回転と同じ周期で往復回動を行う。
なお、偏心カムを用いた往復動作機構は、周知の機構なので、揺動軸6を除いた各構成については図示を省略している。
【0026】
さらに、揺動軸6の他端部には、図6に示すように、中押さえ29の上下方向D1の移動量を調節する中押さえ調節腕7の基端部が固定されている。中押さえ調節腕7にはカム溝7aが形成されている。このカム溝7aは弧状の長孔になっており、このカム溝7aの所望の位置で第1リンク8の上端部が調節ナット9と段ねじ10によりY軸回りに軸支されている。第1リンク8の上端部の固定位置は揺動軸6の中心に対して接離移動調節可能であり、中心からの距離に比例して第1リンク8に付与する往復動作量、即ち、中押さえ29の上下動作量を増減調節することができる。
【0027】
第1リンク8の下端部は、図6に示すように、第2リンク11の長手方向略中間部に段ねじ12よりY軸回りに回動自在に連結されている。ここで、調節ナット9が係合するカム溝7aは、中押さえ29が上下往復運動の下死点にあるときに、段ねじ12の軸心を中心とした円弧の一部となるように形成されている。つまり、カム溝7aにおける第1リンク8の位置調節を行うことで、中押さえ29の下死点位置を不動状態のままストローク調節を行うことができる。
【0028】
そして、第2リンク11の左端部は、後述する位置決めリンク13に対して段ネジ18によりY軸回りに軸支されている。
また、第2リンク11の右端部は、図6に示すように、第3リンク20の上端部に段ねじ21によりY軸回りに回動自在に連結されている。第3リンク20の下端部には、第4リンク22の上端部が段ねじ23によりY軸回りに回動自在に連結されている。
【0029】
第4リンク22の下端部には、リンク中継板25が段ねじ26によりY軸回りに連結されている。リンク中継板25には中押さえ棒抱き27が固定されており、中押さえ棒抱き27にはZ軸方向に延びる中押さえ棒28が保持されている。中押さえ棒28の下端部には、縫製時に被縫製物の上昇を抑える中押さえ29が取り付けられている。中押さえ棒28には中押さえ棒抱き27が固定装備されている。そして、中押さえ棒28の上側には、ボルト31、ナット32及びばね支軸301に支持された押圧バネ30が設けられ、当該押圧バネ30により、中押さえ棒28及び中押さえ29が常時下方に押圧されている。
【0030】
そして、本実施形態では、往復動作機構、揺動軸6、中押さえ調節腕7、第1リンク8、第2リンク11、第3リンク20、第4リンク22、中押さえ棒抱き27、中押さえ棒28、押圧バネ30、ボルト31、ナット32及び段ねじ37等により、中押さえ上下動機構M1が構成されている。
【0031】
[中押さえ装置:中押さえ高さ調節機構]
前述した段ねじ23は、角駒33及び案内部材34と共に第3リンク20と第4リンク22とを連結している。すなわち、第4リンク22の前側には案内部材34が設けられ、角駒33は案内部材34の長手方向に沿って滑動可能に支持されている。
【0032】
案内部材34は、長手方向が概ねZ軸方向に沿った状態で、その上端部34tが段ねじ35によりミシン筐体(ミシンフレーム102)にY軸回りに回動自在に支持されている。従って、案内部材34は、その下端部が左右に揺動し、その長手方向を左右に傾けることができる。
案内部材34の下端部近傍には、その長手方向に沿って長尺な長孔34aが形成されている。この長孔34aは、内側に角駒33がスライド可能に嵌めこまれている。このため、案内部材34は、角駒33を介して、第3リンク20と第4リンク22の連結部を長孔34aに沿って移動可能としている。
【0033】
また、図6に示すように、案内部材34には、当該案内部材34をそのX軸方向に揺動させる移動リンク36の右端部が、段ねじ37により長孔34aの上部近傍にY軸回りに回動自在に連結されている。移動リンク36の左端部には偏心カム38が連結されており、この偏心カム38は可変軸39の前端部に固定支持されている。
可変軸39は、Y軸方向に沿って配置され、ベアリング40によってY軸回りに回転可能に支持されている。また、可変軸39の途中部分にはかさ歯車41、後端部には従動歯車391が固定装備されている。
【0034】
一方、可変軸39の後方には、出力軸を前方に向けた中押さえモーター42が配置されており、その出力軸は主動歯車421が固定装備されている。この主動歯車421は、可変軸39の従動歯車391に噛合しており、中押さえモーター42の駆動により、可変軸39を回転させることができる。
【0035】
つまり、中押さえモーター42の駆動が、可変軸39、偏心カム38、移動リンク36の順に伝達され、移動リンク36が案内部材34を回動させるようになっている。
中押さえモーター42は、正逆方向に回転駆動させることができ、その回動量及び駆動のタイミングが制御装置120により制御可能となっている。
また、中押さえモーター42には、その出力軸の軸角度を検出するエンコーダ81が併設されている。このエンコーダ81は、いわゆる、アブソリュート型であり、出力軸の軸角度の絶対的な位置を検出可能とし、原点センサーを必要としない。なお、エンコーダ81として、インクリメンタル型を使用して、原点センサー及びパルスカウンタを有する構成としてもよい。
そして、中押さえモーター42、主動歯車421、従動歯車391、可変軸39、偏心カム38、移動リンク36、案内部材34及び角駒33等が、ミシンモーター2aによる中押さえ29の上下動の動作範囲全体の高さを上下方向に推移させる中押さえ高さ調節機構M4として機能する。
【0036】
[中押さえ装置:過剰負荷回避機構]
前述した位置決めリンク13は、その中央部近傍で段ねじ14によりミシン筐体としてのミシンフレーム102にY軸回りに回動自在に取り付けられている。そして、Y軸方向から見た段ねじ14の位置は、中押さえ29が下死点にあるときの段ねじ12の位置と一致する。
【0037】
位置決めリンク13の右端部にはばね掛け13aが形成されており、当該ばね掛け13aには引っ張りばね16の上端部が連結され、引っ張りばね16の下端部は、ミシンフレーム102に固定されているばね掛15に連結されている。従って、位置決めリンク13の右端部は下方に常に張力を受けている。
【0038】
そして、位置決めリンク13はその後面側に一体的にストッパ17が重ねて装備されており、当該ストッパ17の左端部の上方には規制部材19が当接している。このため、位置決めリンク13は、右端部に付与された引っ張りばね16からの下方の張力によって、その左端部がストッパ17を介して規制部材19に圧接した状態となり、段ねじ14を中心とする時計方向の回動が規制された状態にある。
【0039】
これにより、中押さえ29の高さを低く調節し過ぎたために、中押さえ29の下降時に被縫製物に圧接した場合に、第2リンク11を支持する位置決めリンク13の右端部が引っ張りばね16に抗して持ち上げられ、第1リンク8から第2リンク11に付される下方の押圧力を逃がすことができる。
つまり、引っ張りばね16、ばね掛け15、ストッパ17、位置決めリンク13、規制部材19が、中押さえ29の下降動作阻害時に中押さえ上下動機構M1に対する過剰負荷回避用の逃げ動作を可能とする過剰負荷回避機構M2として機能する。
【0040】
[中押さえ装置:中押さえ退避機構]
図5に示すように、かさ歯車41には、かさ歯車43が歯合されており、中押さえモーター42の駆動を可変軸39の軸方向と直交する方向D4を中心とする回転方向に出力することができるようになっている。かさ歯車43の右方にはベアリング44、中押さえ昇降カム45等がX軸方向に沿った同軸上に連結されている。
【0041】
中押さえ昇降カム45は、外周カムである。中押さえ昇降カム45の外周は、軸回り180°の範囲は外径が一定であり(以下、維持部という)、残りの一部の角度範囲は外径が漸増する形状(以下、変化部という)となっている。
この中押さえ昇降カム45は、中押さえ29を縫製終了後の退避位置に上昇させる中押さえ上げ部材46の一端部46aを上下に昇降させるものであり、当該中押さえ昇降カム45の外周には、中押さえ上げ部材46を回動させるZ軸方向に沿った梃子部材461の上端部に設けられた円筒状のコロ47が摺接する。
【0042】
梃子部材461は、Z軸方向の中間部において、ピン462によって軸支され、X軸回りに回動可能となっている。
そして、梃子部材461の下端部は、Y軸方向に沿った伝達リンク463の後端部にX軸回りに回動可能に連結されている。
また、梃子部材461の下端部近傍には、前方に張力を付与する引っ張りばね464の後端部が連結されており、これによって、梃子部材461の上端部のコロ47が中押さえ昇降カム45の外周に圧接させられている。
【0043】
中押さえ上げ部材46はX軸方向から見て略L字状を呈しており、屈曲部においてピン48によって軸支され、X軸回りに回動可能となっている。
リンク中継板25を下から係止して中押さえ29を上昇させる中押さえ上げ部材46の一端部46aは、屈曲部から前方に延出されている。また、屈曲部から上方に延出された中押さえ上げ部材46の他端部46bは、伝達リンク463の前端部にX軸回りに回動可能に連結されている。
【0044】
上記構成により、中押さえモーター42が駆動すると、中押さえ昇降カム45が回動し、中押さえ昇降カム45の維持部にコロ47が摺接しているときに、中押さえ高さ調節機構M4において中押さえ29の上下動の動作範囲全体の高さを上下方向に推移させる。そして、中押さえ昇降カム45の変化部にコロ47が摺接しているときに、梃子部材461の下端部が引っ張りばね464に抗して後方に回動し、伝達リンク463を介して中押さえ上げ部材46に時計方向の回動を付勢し、その一端部46aにより中押さえ29を上方の退避位置まで引き上げる。
つまり、かさ歯車41,43、中押さえ昇降カム45、コロ47、梃子部材461、伝達リンク463、引っ張りばね464及び中押さえ上げ部材46等により、中押さえ退避機構M3が構成されている。
【0045】
[高さ検出部]
ミシン100は、中押さえ29の高さを検出する高さ検出部49を備えている。この高さ検出部49は、図3及び図4に示すように、前述した中押さえ29及び中押さえ棒28と一体的に上下動を行うリンク中継板25に固定装備された被検出体としての磁石491と、ミシンアーム部102aの前端部におけるリンク中継板25の左側近傍に装備された磁気センサー492とを備えている。
磁気センサー492は、Z軸方向について磁気強度の大きさの変化を検出可能であり、これによって磁石491の高さを検出することができる。
磁気センサー492としては、コイル、ホール素子、磁気抵抗効果素子、磁気インピーダンス素子等を使用することができる。
【0046】
[縫製時における中押さえの動作]
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ上下動機構M1の動作について説明する。
ミシンモーター2aの駆動により主軸が回転すると、往復動作機構により、揺動軸6は往復回動を行う。これにより、中押さえ調節腕7が上下に揺動し、第1リンク8を介して、第2リンク11の右端部は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に揺動し、第3リンク20及び第4リンク22は、その直列方向(上下方向)D2に揺動する。これに伴い、中押さえ棒28は上下方向D1に沿って上下方向に移動するため、中押さえ29は縫い針108の上下動に同期して上下方向に往動する。
【0047】
[中押さえ装置による中押さえの高さの調節動作]
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ高さ調節機構M4による中押さえ29の高さの調節動作について説明する。
中押さえモーター42の駆動は、主動歯車421及び従動歯車391を介して可変軸39に伝達され、可変軸39及び偏心カム38が回動し、案内部材34は、概ねX軸方向に沿って揺動する。これにより、角駒33を介して第3リンク20と第4リンク22は、連結部において屈曲角度が変化して中押さえ29の高さが変動する。このとき、角駒33は、案内部材34の長孔34aに沿って上下動を行うので、中押さえ29は上下動を行いつつ、中押さえ29の上下動の動作範囲全体の高さが変動する。従って、中押さえ高さ調節機構M4により、中押さえ29の上下動における下死点の高さを調節することができる。
【0048】
[ミシンの制御系:制御装置]
図7はミシン100の制御系を示すブロック図である。
ミシン100は、上述した各部の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置120を備えている。そして、制御装置120は、縫製プログラム70a及び厚さ検出制御プログラム70bが格納されたプログラムメモリ70と、縫製データ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、プログラムメモリ70内の各プログラム70a,70bを実行するCPU73とを備えている。
【0049】
また、CPU73は、インターフェイス300aを介して操作パネル300に接続されている。かかる操作パネル300は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部300bと表示部300bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサー300cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル300で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部300bで表示され、タッチセンサー300cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
また、操作パネル300は、縫製データ71aの設定パラメータを任意に設定する機能や複数ある縫製データ71aの中から所望のデータを選択する機能も有している。
【0050】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、ミシンモーター2aを駆動するミシンモーター駆動回路75bに接続され、ミシンモーター2aの回転を制御する。なお、ミシンモーター2aはエンコーダ2bを備えている。
なお、ミシンモーター2aには、例えば、サーボモーターを適用することができる。
【0051】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき被縫製物を保持する保持枠111に備えられるX軸モーター76a及びY軸モーター77aをそれぞれ駆動するX軸モーター駆動回路76b及びY軸モーター駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
【0052】
また、CPU73は、インターフェイス78を介して、ミシンモーター2aによる中押さえの上下動の上死点位置と下死点高さ位置を調節する中押さえモーター42を駆動する中押さえモーター駆動回路78bが接続され、中押さえ装置1の動作を制御する。なお、前述したように、中押さえモーター42の出力軸にはモーター軸角度検出手段としてのエンコーダ81が設けられている。
【0053】
また、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえ(図示省略)を上下に移動する布押さえモーター79aを駆動する布押さえモーター駆動回路79bが接続され、布押さえの動作を制御する。
なお、X軸モーター76a及びY軸モーター77a、中押さえモーター42、布押さえモーター79aには、例えば、ステッピングモーターを適用することができる。
【0054】
また、CPU73は、インターフェイス492aを介して、磁気センサー492が接続され、中押さえ29の高さを検出することができる。
【0055】
[縫製データ]
図8は縫製の一例を示す被縫製物の平面図である。
図8の例のように、一部の大きさや形状が異なる複数の被縫製物C1~C4を重ねて縫製を行う場合、縫製範囲の針落ち位置に応じて、被縫製物の枚数が異なる区間が存在する。
例えば、図9は上記のような被縫製物の枚数が異なる区間が存在する場合の縫製データ71aの一例を示している。
この縫製データ71aは、図8の第1~第3の縫製パターンP1~P3を含む一連の縫製を行うためのデータである。縫製パターンP1は二枚の被縫製物C1,C2に縫製を行い、縫製パターンP2は三枚の被縫製物C1~C3に縫製を行い、縫製パターンP3は四枚の被縫製物C1~C4に縫製を行う。
【0056】
縫製データ71aは、縫製中に実行される各種の動作、例えば、「中押さえの高さ変更」、「針落ち位置への被縫製物の移動」、「糸切り」等の指令が実行順に記録されている。なお、糸切り装置の図示は省略している。
中押さえ29は、上下動の下死点高さが重ねられた被縫製物の高さに略一致する高さとなるように高さ調節が行われる。
従って、縫製データ71aには、縫製パターンP1の縫製開始時に、中押さえ29の下死点高さが被縫製物C1,C2からなる二枚分の高さとなるように、「中押さえの高さ変更」の指令が設定されている。そして、それ以降は、縫製パターンP1を縫うように順番に針落ち位置を示した被縫製物の移動指令が設定されている。
また、縫製パターンP2の縫製開始時には、中押さえ29の下死点高さが被縫製物C1~C3からなる三枚分の高さとなるように、「中押さえの高さ変更」の指令が設定され、それ以降は、縫製パターンP2を縫うように順番に針落ち位置を示した被縫製物の移動指令が設定されている。
さらに、縫製パターンP3の縫製開始時には、中押さえ29の下死点高さが被縫製物C1~C4からなる四枚分の高さとなるように、「中押さえの高さ変更」の指令が設定され、それ以降は、縫製パターンP3を縫うように順番に針落ち位置を示した被縫製物の移動指令が設定されている。
【0057】
[縫製制御]
ミシン100の制御装置120のCPU73は、プログラムメモリ70内の縫製プログラム70aに基づいて、縫製データ71aに定められた指令を順番に実行することにより、各縫製パターンP1~P3の縫製を行う縫製制御を実行する。
例えば、図9の縫製データ71aに基づいて縫製を行う場合、CPU73は、まず、縫製パターンP1で縫製を行うために、上下動を行う中押さえ29の下死点の高さが設定値「6」(被縫製物二枚分の高さ)となるように中押さえモーター42を制御する。
その後は、CPU73は、ミシンモーター2aの駆動を開始すると共に、毎針の規定の主軸角度で縫製パターンP1を順番に辿るようにX軸モーター76a及びY軸モーター77aを制御して各被縫製物を移動させる。そして、縫製パターンP1の最終針落ち位置に針落ちを終えると、糸切りを実行する。
そして、CPU73は、縫製パターンP2で縫製を行うために、中押さえ29の下死点の高さを設定値「9」(被縫製物三枚分の高さ)に調節し、縫製パターンP2の全ての針落ち位置に針落ちを行い、糸切りを実行する。
同様に、CPU73は、縫製パターンP3で縫製を行うために、中押さえ29の下死点の高さを設定値「12」(被縫製物四枚分の高さ)に調節し、縫製パターンP3の全ての針落ち位置に針落ちを行い、糸切りを実行する。
このように、縫製プログラム70aを実行するCPU73は、縫製データ71aに定められた指令を読み込んで順番に実行することで、ミシン100の各構成を制御して、縫製データに含まれた縫製パターンに従って縫製を実行する。
【0058】
[厚さ検出制御]
ミシン100の制御装置120のCPU73は、プログラムメモリ70内の厚さ検出制御プログラム70bに基づいて、縫製プログラム70aによる縫製を実行する直前に縫製パターンP1~P3のそれぞれの一部の針落ち位置に対して被縫製物の枚数を確認する厚さ検出制御を実行する。
【0059】
前述した縫製データ71aでは、縫製パターンP1~P3ごとに中押さえ29の下死点高さが設定されている。この縫製データ71aに設定されている中押さえ29の下死点高さは、重ねられた被縫製物の一番上の被縫製物の上面の高さに略一致する高さに設定される。従って、縫製データ71aに含まれる中押さえ29の下死点高さを被縫製物の厚さの情報として被縫製物の上面高さ、即ち、被縫製物が何枚重ねられているかを認識することができる。
【0060】
図9に示すように、縫製データ71aの中押さえ29の下死点高さは、縫製パターンP1~P3ごとに設定されているので、各縫製パターンP1~P3のいずれかの針落ち位置において、保持枠111に保持された被縫製物に対して被縫製物の厚さを検出し、検出された厚さと前述した縫製データ中の中押さえ29の下死点高さと比較することにより、被縫製物が適正な枚数で重ねられているか(被縫製物C1~C4のいずれかの入れ忘れ等が生じていないか)を判定することができる。
【0061】
被縫製物の厚さは、中押さえ29の高さを検出する磁気センサー492により検出することができる。
具体的には、制御装置120のCPU73は、各縫製パターンP1~P3のいずれかの針落ち位置、例えば、各縫製パターンP1~P3における第一針目の針落ち位置に保持枠111を位置決めする。
そして、中押さえモーター42を中押え29が下方へ移動するように駆動させ、中押さえ29は底部が被縫製物に接するまで下降する。従って、このときの中押さえ29の高さを磁気センサー492により検出することにより、被縫製物の厚さを求めることができる。
被縫製物のバラつきを考慮して、縫製データ71aに定められた中押さえ29の下死点高さに対して、所定の係数を加減算した数値範囲を適正範囲とし、この適正範囲に磁気センサー492により検出された中押さえ29の高さが入らない場合には、被縫製物が適正な枚数ではない状態、つまり、一部の被縫製物の入れ忘れ或いは一部の被縫製物にズレが生じているものとして、操作パネル300の表示部300bに、被縫製物が適正にセットされていない旨の報知表示を行い、縫製動作を開始しないで中止状態とする。
【0062】
[厚さ検出制御プログラムによる処理]
厚さ検出制御プログラム70bによりCPU73が行う制御について図10のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
まず、保持枠111に被縫製物C1~C4がセットされた状態で、縫製開始の指示が入力されると(ステップS1)、制御装置120のCPU73は、縫製データ71aの読み込みを開始する(ステップS3)。
即ち、CPU73は、縫製データ71aに記録されている各種の縫製動作の指令を順番に読み込み、「中押さえの高さ変更」の指令を探索する(ステップS5)。
【0063】
そして、「中押さえの高さ変更」の指令が見つけられた場合には(ステップS5:YES)、CPU73は、「中押さえの高さ変更」の指令の直近に設定されている「針落ち位置への被縫製物の移動」の指令に定められた針落ち位置を読み込み、当該針落ち位置に保持枠111が位置決めされるようにX軸モーター76a及びY軸モーター77aを制御する(ステップS7)。
【0064】
さらに、中押さえモーター42を中押え29が下方へ移動するよう駆動させ、中押さえ29を被縫製物の上面に当接するまで下降させる(ステップS9)。
被縫製物に当接した時の中押さえ29の高さを磁気センサー492により検出し(ステップS11)、この検出高さが「中押さえの高さ変更」の指令に定められた中押さえ高さの設定値に基づく適正範囲内であるか否かを判定して、検出高さに基づく被縫製物の高さ(枚数)が適正か否かを判定する(ステップS13)。
【0065】
上記判定において、中押さえ29の検出高さが中押さえ高さの適正範囲内である場合には(ステップS13:YES)、ステップS5に処理を戻して、次の「中押さえの高さ変更」の指令を探索する。
また、中押さえ29の検出高さが中押さえ高さの適正範囲内ではない場合には(ステップS13:NO)、CPU73は、操作パネル300の表示部300bに、被縫製物が適正にセットされていない旨の報知表示を行い、縫製動作を開始しないで中止状態とする(ステップS15)。
【0066】
また、ステップS5において、縫製データ71a中の全ての指令が探索完了した場合には、縫製プログラム70aに基づく縫製制御に処理が引き継がれて、縫製制御が実行される。
【0067】
[実施形態の効果]
以上のように、ミシン100では、中押さえ29の高さを検出する高さ検出部49を備え、制御装置120は、厚さ検出制御により、縫製データ71aに従う縫製開始前に、保持枠111に保持された一番上の被縫製物の上面まで中押さえ29を下降させて、高さ検出部49により、中押さえ29の高さを検出し、被縫製物の厚さの適否を判定している。
このため、被縫製物C1~C4を複数重ねて縫製する場合等に、一部の被縫製物C1~C4のいずれかについて保持枠111にセットし忘れた場合やいずれかの被縫製物C1~C4についてズレを生じていた場合等に、高さ検出部49によって検出することが可能である。
これにより、一部の被縫製物C1~C4のいずれかについての保持枠111へのセットし忘れや被縫製物C1~C4のズレを効果的に検出することが可能となり無駄な縫製を低減することが可能となる。
【0068】
また、高さ検出部49は、磁気センサー492を含む構成なので、光学的に検出する場合に比べて、ミシンフレーム102内の糸くず、埃や塵芥、潤滑油の汚れなどの影響を受けにくく、良好な被縫製物の厚さ検出を安定的に行うことが可能となる。
【0069】
また、縫製データ71aは、被縫製物C1~C4の厚さの情報として「中押さえの高さ変更」の指令を含んでいる。
これにより、被縫製物C1~C4の厚さの情報を別途用意する必要がなく、処理の簡略化、情報記憶容量の低減を図ることが可能となる。
【0070】
また、縫製データ71aに基づく一連の縫製は、複数の縫製パターンP1~P3から構成され、縫製データ71aは、それぞれの縫製パターンP1~P3ごとに被縫製物の厚さの情報として「中押さえの高さ変更」の設定情報を有し、制御装置120は、それぞれの縫製パターンP1~P3ごとに、一部の針落ち位置(各縫製パターンの第一針目の針落ち位置)について、保持枠111に保持された被縫製物の上面まで中押さえ29を下降させて、高さ検出部49により、中押さえ29の高さを検出し、被縫製物の厚さの適否を判定している。
このため縫製に要する縫製データ71aを利用して、各被縫製物C1~C4の厚さ(枚数)の適否を判定することができ、既存のミシン100を利用して被縫製物C1~C4のいずれかについての保持枠111へのセットし忘れや被縫製物C1~C4のズレを効果的に検出することが可能となる。また、適正な被縫製物の枚数や厚さのデータを別途記憶する記憶部を新たに設ける必要がない。
【0071】
[その他]
前述した厚さ検出制御プログラム70bに基づく厚さ検出制御では、適正な被縫製物の厚さの情報を縫製データ71a中の中押さえ29の高さの設定値から取得しているが、縫製データ71aとは別に、被縫製物の厚さの情報を用意してもよい。
また、それぞれの縫製パターンP1~P3に対して一箇所のみで被縫製物の厚さ検出を行っているが、それぞれの縫製パターンP1~P3に対して複数箇所で被縫製物の厚さ検出を行ってもよい。
さらに、縫製データ71aでは、各縫製パターンP1~P3ごとに被縫製物の厚さが個別に設定され、それぞれの縫製パターンP1~P3を構成する各針落ち位置では被縫製物の厚さが一定となる場合を例示したがこれに限定されない。
例えば、縫製パターンによる区分がなく、縫製データに定める一連の縫製が行われる過程の途中で一乃至複数回の「中押さえの高さ変更」が行われるような縫製データの場合には、「中押さえの高さ変更」が行われてから次の「中押さえの高さ変更」が行われるまでの間が被縫製物の厚さ(枚数)が一定となる区間となるので、そのような区間ごとに被縫製物の枚数を検出し、設定された被縫製物の枚数と照合して適否を判定しても良い。
【0072】
また、高さ検出部49において、被検出体である磁石491は、リンク中継板25に装備されているが、中押さえ29又は中押さえ29と共に上下動を行う他の部材に設けてもよい。
また、高さ検出部49の被検出体を検出するセンサーは、磁気センサー492に限らず、光学式の距離センサーや超音波式の距離センサー、リニアセンサー等、中押さえ29の高さを検出可能な種々のセンサーを利用することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 中押さえ装置
2a ミシンモーター
2b エンコーダ
29 中押さえ
30 押圧バネ
49 高さ検出部
491 磁石
492 磁気センサー
70a 縫製プログラム
70b 厚さ検出制御プログラム
71a 縫製データ
100 ミシン
108 縫い針
108a 針棒
110 針板
111 保持枠
120 制御装置
C1~C4 被縫製物
M1 中押さえ上下動機構
M2 過剰負荷回避機構
M3 中押さえ退避機構
M4 中押さえ高さ調節機構
P1~P3 縫製パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10