(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】補体価測定用試薬及びそれを用いた補体価の測定値の安定化方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20221012BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20221012BHJP
G01N 33/544 20060101ALI20221012BHJP
G01N 33/555 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01N33/53 R
G01N33/531 B
G01N33/544 A
G01N33/555
(21)【出願番号】P 2018110637
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 公彦
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-301612(JP,A)
【文献】特開平07-140147(JP,A)
【文献】国際公開第03/068150(WO,A2)
【文献】特開昭60-006869(JP,A)
【文献】特表平02-501067(JP,A)
【文献】特表平11-507873(JP,A)
【文献】特表2005-506964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝液中に懸濁された感作赤血球または感作リポソームを含む補体価測定用試薬において、
粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子
、又は表面にシランを共有結合している、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子を含むことを特徴とする補体価測定用試薬。
【請求項2】
前記シリカ粒子
又は表面にシランを共有結合しているシリカ粒子の濃度が、試薬全量を基準として75~80重量%である請求項
1記載の試薬。
【請求項3】
測定値安定化剤としてシリカ粒子を緩衝液に添加することから成
り、前記シリカ粒子が、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子
、又は表面にシランを共有結合している、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子である、緩衝液中に懸濁された感作赤血球または感作リポソームを含む補体価測定用試薬を用いた補体価の測定値の安定化方法。
【請求項4】
前記シリカ粒子
又は表面にシランを共有結合しているシリカ粒子の濃度が、試薬全量を基準として75~80重量%である請求項
3記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体価測定用試薬及びそれを用いた補体価測定値の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス、細菌等の病原体に対する補体結合性抗体は、病原体が感染するとその補体価は上昇又は下降する。補体価の測定は、各種疾患における診断や治療効果の判断及び免疫能力の指標として重要なものとなっている。
【0003】
従来の補体価測定方法では、ヒツジ赤血球に抗ヒツジ赤血球抗体を結合させた感作ヒツジ赤血球、および至適倍数に段階希釈した補体を含む溶液(血清など)とを混合して37℃6分間反応させ、補体の作用によって赤血球が破裂した結果溶液中に漏出する赤血球中のヘモグロビンを吸光度法により測定することによって、赤血球の溶血率をグラフより計算し補体価を求めるメイヤー法が一般的であった。近年では、ヘモグロビンを測定する替わりに、残存赤血球の濁度を光学的に測定することにより赤血球の溶血率を計算し補体価を求める自動化学分析装置で測定するオート法が一般的になってきている。オート法では自動化学分析装置に予め撹拌した試薬をセットして測定するが、試薬をセットしてから測定までの時間が長い場合には、試薬中の赤血球が徐々に沈降する。その結果、そのまま自動分析装置が試薬を採取すると、測定に必要な所定量の赤血球を採取できず正確に測定することができなかった。したがって、正確な測定を行うためには測定直前に、又は測定の間隔が空いた場合に、その都度試薬を撹拌する必要があり、測定作業が煩雑であった。
【0004】
また、試薬中の赤血球の沈降を防ぐ手段として、シュクロースとエピクロロヒドリンの共重合体を配合する方法がある(特許文献1)。この方法は、12時間にわたって試薬中の赤血球の沈降を防ぐことができ、それまでの技術に比べればかなり改善されたものであったが、12時間を超える、1日~数日といった長時間にわたり赤血球の沈降を防ぐことができないため、測定作業の煩雑さを緩和するには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、試薬の調製から測定までの時間が長い場合であっても、試薬中の赤血球が沈降せず、測定直前に撹拌しなくても正確な測定が可能である補体価測定用試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、従来の補体価測定用試薬にシリカ粒子を配合することにより、試薬の調製から測定までの時間が長い場合あっても、試薬中の赤血球が沈降せず、測定直前に撹拌しなくても正確な測定が可能であることを見出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本願発明は、以下のものを提供する。
(1) 緩衝液中に懸濁された感作赤血球または感作リポソームを含む補体価測定用試薬において、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子、又は表面にシランを共有結合している、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子を含むことを特徴とする補体価測定用試薬。
(2) 前記シリカ粒子又は表面にシランを共有結合しているシリカ粒子の濃度が、試薬全量を基準として75~80重量%である(1)記載の試薬。
(3) 測定値安定化剤としてシリカ粒子を緩衝液に添加することから成り、前記シリカ粒子が、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子、又は表面にシランを共有結合している、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子である、緩衝液中に懸濁された感作赤血球または感作リポソームを含む補体価測定用試薬を用いた補体価の測定値の安定化方法。
(4) 前記シリカ粒子又は表面にシランを共有結合しているシリカ粒子の濃度が、試薬全量を基準として75~80重量%である(3)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
下記実施例及び比較例により実験的に示された通り、本発明の補体価測定用試薬を用いると、試薬の調製から測定までの時間が長い場合であっても、試薬中の赤血球が沈降せず、測定直前に撹拌を行えば、その後長時間撹拌しなくても正確な測定が可能となる。従って、本発明の試薬を用いると、試薬を装置にセット前に一度撹拌を行えば、測定の都度に人手で撹拌する必要がなくなり、補体価の自動測定に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】下記実施例1において測定された、本発明の試薬を用いた場合における、赤血球懸濁液の静置時間と濁度との関係を示す図である。
【
図2】下記実施例2において測定された、本発明の試薬を用いた場合における、赤血球懸濁液の静置時間と濁度との関係を示す図である。
【
図3】下記比較例1において測定された、公知の試薬を用いた場合における、赤血球懸濁液の静置時間と濁度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記の通り、本発明の補体価測定用試薬は、試薬の調製から測定までの時間が長い場合あっても、試薬セット時に予め撹拌しておけば、長期間にわたり試薬中の赤血球が沈降せず、測定直前に撹拌しなくても連続して正確な測定を可能とするために、緩衝液中にシリカ粒子を含むことを特徴とする。シリカ粒子としては、特に限定されないが、粒子径が15nm~30nmのシリカ粒子が好ましく、好ましい具体例として、パーコール(Percoll)又はパーコールプラス(Percoll PLUS)の商品名でGE HealthcareLife Sciencesから市販されているものを挙げることができる。シリカ粒子は特にその表面にシランが共有結合されているものが好ましい。表面にシランが共有結合されているシリカ粒子はとしては、上記のパーコールプラス(Percoll PLUS)(商品名)が挙げられる。
【0012】
配合するシリカ粒子の濃度は、緩衝液中に感作赤血球又は感作リポソームを含む試薬全量を基準として、75~80重量%であることが好ましく、さらに76~79重量%であることが好ましい。
【0013】
上記したシリカ粒子を含むこと以外は、試薬の組成及びそれを用いた測定方法は従来から使用されているものと同じでよい。すなわち、補体を含む検体を希釈液で希釈した後、感作赤血球を緩衝液中に懸濁させた試薬を希釈した検体を添加し反応させる。検体中の補体価に依存した数の赤血球が溶血するので、遠心処理後、上清の吸光度を測定するか、又は、溶血した赤血球は検体中の補体価に比例し濁度を失うため、波長600~700nmにおける濁度を測定することにより、検体中の補体価を測定することができる。自動化装置では、後者の濁度を測定する方法が広く採用されている。なお、感作赤血球懸濁緩衝液としては、特に限定されないが、アルブミン及びグルコースを含むリン酸緩衝液が用いられており、本発明でもこの緩衝液を好ましく用いることができる。なお、感作赤血球に代えて感作リポソームを用いてもよい。感作リポソームを用いる方法もこの分野において周知である。
【0014】
上記した本発明の補体価測定用試薬を用いて検体中の補体価を測定すると、試薬(赤血球懸濁液)の調製から測定までの間、長時間に亘って試薬が放置された場合でも、調製直後に測定を行った場合と測定値がほとんど変化しない。すなわち、上記シリカ粒子を配合することにより、測定値が安定化される。従って、本発明は、また、測定値安定化剤としてシリカ粒子を緩衝液に添加することから成る、緩衝液中に懸濁された赤血球を含む補体価測定用試薬を用いた補体価の測定値の安定化方法をも提供するものである。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0016】
実施例1
アルブミン(試薬全量に対し0.5重量%)、グルコース(試薬全量に対し1重量%)を含むリン酸緩衝液に、試薬全量に対する濃度が78重量%となるようパーコール(商品名)を添加した。ヒツジ赤血球に抗体を結合させた感作ヒツジ赤血球を、上記緩衝液に懸濁させた。この感作ヒツジ赤血球懸濁液を撹拌した後に自動化学分析装置(日立7180型)にセットし、生理食塩水を試料とし、測定した。すなわち、試料1.5μlにカルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含むベロナール緩衝液(濃度:カルシウム0.0022重量%、マグネシウム0.011重量%)195μl加え試料を希釈し、更に上記赤血球懸濁液23μlを加え、37℃で6分間反応させた後波長660nmにおける濁度を測定(0時間)した。次に上記ヒツジ赤血球懸濁液を所定の時間(24、48、72、96、120、192時間)静置後、同様(0時間)な測定を行い波長660nmにおける濁度を測定した。赤血球が沈降すれば濁度の測定値は経時的に低下する。結果を
図1に示す。
【0017】
図1から明らかなように、120時間経過後も赤血球の沈降を抑えることができた。本発明の補体価測定用試薬を用いれば、感作ヒツジ赤血球懸濁液を撹拌後、長時間、自動分析装置に静置した後に測定を行っても、撹拌直後に測定した場合とほとんど同じ測定値が得られることがわかる。
【0018】
実施例2
パーコール(商品名)の代わりに、パーコールプラス(商品名)を、試薬全量に対して76重量%の濃度で添加した試薬を用いたこと以外は実施例1と同じ操作を行った。結果を
図2に示す。
【0019】
図2から明らかなように、192時間経過後も赤血球の沈降を抑えることができた。本発明の補体価測定用試薬を用いれば、感作ヒツジ赤血球懸濁液を撹拌後に長時間、自動分析装置に静置した後に測定を行っても、撹拌直後に測定した場合とほとんど同じ測定値が得られることがわかる。
【0020】
比較例1
実施例1におけるパーコール(商品名)の代わりに、特許文献1に記載されているフィコール(商品名)を試薬全量に対して15重量%の濃度で添加した試薬を調製し、実施例1と同じ操作を行った。結果を
図3に示す。
【0021】
図3から明らかなように、フィコール(商品名)を添加した従来の方法では、試薬の調製から測定までの静置時間が48時間経過後には赤血球はほぼ沈降した。