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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】半導体光素子及び光送受信モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/026 20060101AFI20221012BHJP
   G02F 1/017 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
H01S5/026 616
G02F1/017 503
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018145785
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2020021865
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 隆文
(72)【発明者】
【氏名】早川 茂則
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 康
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-038893(JP,A)
【文献】特開平11-238942(JP,A)
【文献】特開2005-064080(JP,A)
【文献】特開2007-043496(JP,A)
【文献】特開2009-087994(JP,A)
【文献】特開平07-211692(JP,A)
【文献】特開2003-060311(JP,A)
【文献】特開平10-012961(JP,A)
【文献】特開平08-236857(JP,A)
【文献】特開2004-342719(JP,A)
【文献】特開2001-352131(JP,A)
【文献】特開2006-245222(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0057202(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106785910(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
G02F 1/017 - 1/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メサストライプ型の半導体光素子であって、
メサストライプ構造の少なくとも下端部を構成するように、第1方向にストライプ状に延びる凸部を有する半導体基板と、
前記メサストライプ構造の一部を構成するように、前記凸部の上で前記第1方向にストライプ状に延びる量子井戸層と、
埋め込みヘテロ構造を構成するように、前記第1方向に直交する第2方向に、前記メサストライプ構造の両側に隣接して、前記半導体基板の上面に載る埋め込み層と、
を有し、
前記半導体基板の前記上面は、水平面に対して°を超えて12°以下の角度で前記凸部から前記第2方向に下がる勾配を有し、
前記メサストライプ構造は、前記水平面に対して45~55°の角度で前記半導体基板の前記上面から上がる勾配を有する傾斜面と、前記水平面に対して85~95°の角度で前記傾斜面から立ち上がる直立面と、を有し、
前記埋め込み層は、ルテニウムがドープされた半導体である単一材料からなり、前記量子井戸層の表面、前記半導体基板の前記上面並びに前記メサストライプ構造の前記傾斜面及び前記直立面に接触し、
前記傾斜面は、前記半導体基板の前記上面から前記量子井戸層の下面までの高さの80%以下であって0.3μm以上の高さを有することを特徴とする半導体光素子。
【請求項2】
請求項1に記載された半導体光素子であって、
前記量子井戸層は、多重量子井戸層であって、複数の量子井戸層及び隣同士の前記量子井戸層の間に介在する障壁層を含むことを特徴とする半導体光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された半導体光素子であって、
前記半導体基板の前記凸部の表面は、前記傾斜面の全体を含むことを特徴とする半導体光素子。
【請求項4】
請求項3に記載された半導体光素子であって、
前記半導体基板の前記凸部の前記表面は、前記メサストライプ構造の前記直立面の下端部を含むことを特徴とする半導体光素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記メサストライプ構造は、前記量子井戸層の上で前記第1方向にストライプ状に延びるクラッド層を含み、
前記クラッド層は、亜鉛がドープされた半導体からなることを特徴とする半導体光素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、
前記メサストライプ構造は、前記量子井戸層が活性層であって半導体レーザを構成するための第1メサストライプ構造と、前記量子井戸層が吸収層であって変調器を構成するための第2メサストライプ構造と、を含み、
前記半導体レーザ及び前記変調器がモノリシックに集積された変調器集積レーザとして構成されていることを特徴とする半導体光素子。
【請求項7】
入力された電気信号から変換された光信号を出力する光送信サブアセンブリと、
入力された光信号から変換された電気信号を出力する光受信サブアセンブリと、
を有し、
少なくとも前記光送信サブアセンブリが、請求項1から6のいずれか1項に記載された半導体光素子を内蔵することを特徴とする光送受信モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光素子及び光送受信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末やインターネットなどの通信機器の普及に伴い、光送受信モジュールに高速化及び大容量化が求められている。発振器から出射される連続光の変調には、電界吸収型変調器(EA(Electro-Absorption)変調器)が使用される。EA変調器は、変調器のチャープ(波動変調)が小さく、光信号のONレベルとOFFレベルの差である消光比が大きく、広域帯である、といった有利な特性を有することに加え、小型で低コストであることにより、幅広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、埋め込みヘテロ構造(Buried Heterostructure:以下、BH構造と記す)を有するEA変調器が集積されたEA変調器集積型半導体光素子が開示されている。BH構造は、活性層を含む多層からなるメサストライプ構造の両側に半絶縁性半導体層が埋め込まれている構造である。メサストライプ構造の形成プロセスは特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-19053号公報
【文献】特開2013-61632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EA変調器の特性向上のためには、帯域を広くすることが重要である。例えば、EA変調器の寄生容量を低減することで、帯域を広くすることができる。寄生容量の低減は、EA変調器のメサストライプ構造の埋め込み層を厚くする又はメサストライプ構造の高さを高くすることで可能になる。しかしながら、ボイドが発生するなど、埋め込み層が正常に形成されないことがある。
【0006】
また、埋め込み層にRuを不純物として添加することで、p型クラッド層の亜鉛(Zn)などのドーパントとの相互拡散を抑えることができ、高速応答性を実現することができる。しかしながら、Ruを添加した埋め込み層の形成は、低抵抗化を図るためには、低温で行うことが必要である。
【0007】
本発明は、半導体光素子の特性劣化の防止を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る半導体光素子は、メサストライプ型の半導体光素子であって、メサストライプ構造の少なくとも下端部を構成するように、第1方向にストライプ状に延びる凸部を有する半導体基板と、前記メサストライプ構造の一部を構成するように、前記凸部の上で前記第1方向にストライプ状に延びる量子井戸層と、埋め込みヘテロ構造を構成するように、前記第1方向に直交する第2方向に、前記メサストライプ構造の両側に隣接して、前記半導体基板の上面に載る埋め込み層と、を有し、前記半導体基板の前記上面は、水平面に対して0~12°の角度で前記凸部から前記第2方向に下がる勾配を有し、前記メサストライプ構造は、前記水平面に対して45~55°の角度で前記半導体基板の前記上面から上がる勾配を有する傾斜面と、前記水平面に対して85~95°の角度で前記傾斜面から立ち上がる直立面と、を有し、前記埋め込み層は、ルテニウムがドープされた半導体からなり、前記傾斜面及び前記直立面に接触し、前記傾斜面は、前記半導体基板の前記上面から前記量子井戸層の下面までの高さの80%以下であって0.3μm以上の高さを有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、メサストライプ構造の傾斜面が半導体基板の上面から緩やかに上がる形状になっているので、埋め込み層が正常に形成されやすく、半導体光素子の特性劣化を防止することができる。
【0010】
(2)(1)に記載された半導体光素子であって、前記量子井戸層は、多重量子井戸層であって、複数の量子井戸層及び隣同士の前記量子井戸層の間に介在する障壁層を含むことを特徴としてもよい。
【0011】
(3)(1)又は(2)に記載された半導体光素子であって、前記半導体基板の前記凸部の表面は、前記傾斜面の全体を含むことを特徴としてもよい。
【0012】
(4)(3)に記載された半導体光素子であって、前記半導体基板の前記凸部の前記表面は、前記メサストライプ構造の前記直立面の下端部を含むことを特徴としてもよい。
【0013】
(5)(1)から(4)のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、前記メサストライプ構造は、前記量子井戸層の上で前記第1方向にストライプ状に延びるクラッド層を含み、前記クラッド層は、亜鉛がドープされた半導体からなることを特徴としてもよい。
【0014】
(6)(1)から(5)のいずれか1項に記載された半導体光素子であって、前記メサストライプ構造は、前記量子井戸層が活性層であって半導体レーザを構成するための第1メサストライプ構造と、前記量子井戸層が吸収層であって変調器を構成するための第2メサストライプ構造と、を含み、前記半導体レーザ及び前記変調器がモノリシックに集積された変調器集積レーザとして構成されていることを特徴としてもよい。
【0015】
(7)本発明に係る光送受信モジュールは、入力された電気信号から変換された光信号を出力する光送信サブアセンブリと、入力された光信号から変換された電気信号を出力する光受信サブアセンブリと、を有し、少なくとも前記光送信サブアセンブリが、(1)から(6)のいずれか1項に記載された半導体光素子を内蔵することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る半導体光素子の平面図である。
図2図1に示す半導体光素子のII-II線断面図である。
図3図1に示す半導体光素子のIII-III線断面図である。
図4】マストランスポート現象を示す図である。
図5】実施形態に係る光送受信モジュールの分解斜視図である。
図6】実施形態に係る光送信サブアセンブリの内部構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0018】
図1は、実施形態に係る半導体光素子の平面図である。半導体光素子10は、発振器部12に駆動電流を注入することにより出射される連続光を変調器部14で変調して、信号光が出力されるようになっている。半導体光素子10は、発振器部12(例えば半導体レーザ)及び変調器部14が同一の半導体基板16(図2及び図3)上にモノリシックに集積された変調器集積型半導体光素子(例えば変調器集積レーザ)である。発振器部12は、分布帰還型半導体レーザ(Distributed Feedback Laser:DFBレーザ)である。変調器部14は、電界吸収型変調器(EA(Electro-Absorption)変調器)である。電界吸収型変調器は、チャープ(波動変調)が小さく、光信号のONレベルとOFFレベルの差である消光比が大きく、広域帯である、といった有利な特性を有することに加え、小型で低コストであることにより、幅広く用いられている。変調器長は100μmである。半導体光素子10は、EA変調器集積型DFBレーザ素子である。EA変調器集積型DFBレーザ素子は、例えば、1.55μm帯域での伝送速度40Gbps光伝送又は1.3μm帯で伝送速度25Gbps光伝送用に用いられる。
【0019】
図2は、図1に示す半導体光素子10のII-II線断面図である。図3は、図1に示す半導体光素子10のIII-III線断面図である。
【0020】
半導体光素子10は、埋め込みヘテロ構造(Buried Heterostructure:BH構造)を有している。BH構造とは、光導波路を有するメサストライプ構造Mの両側に半絶縁性半導体層が埋め込まれている構造をいう。BH構造は、横方向に光を閉じ込める効果が強く、FFP(Far Field Pattern)がより円形となるので、光ファイバとの結合効率が高いという利点があり、さらに、放熱性に優れており、広く用いられている。
【0021】
半導体光素子10は、半導体基板16を有する。半導体基板16は、n型の不純物がドープされた半導体(例えばn型InP)からなる。半導体基板16は凸部18を有する。凸部18は、第1方向D1にストライプ状に延びる。半導体基板16の上面は、水平面HPに対して0~12°の角度で凸部18から第2方向D2に下がる勾配を有する。凸部18は、メサストライプ構造Mの少なくとも下端部を構成する。メサストライプ構造Mは、発振器部12(半導体レーザ)を構成するための第1メサストライプ構造M1を含む。メサストライプ構造Mは、変調器部14を構成するための第2メサストライプ構造M2を含む。
【0022】
半導体光素子10は、凸部18の上で第1方向D1にストライプ状に延びる量子井戸層20を有する。量子井戸層20は、p型又はn型の不純物がドープされていない真正半導体からなる。量子井戸層20の層厚は、ここでは多重量子井戸構造であり、その合計膜厚が0.35μmである。量子井戸層20は、メサストライプ構造Mの一部を構成する。半導体レーザ(第1メサストライプ構造M1)では、量子井戸層20は活性層である。変調器部14(第2メサストライプ構造M2)では、量子井戸層20は吸収層である。量子井戸層20は、多重量子井戸(Multiple-Quantum Well:MQW)層である。MQW層に電界が印加されると、MQW層における光の吸収端が長波長側へシフトする量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confinement Stark Effect:QCSE)が得られる。EA変調器は、QCSEを利用して光を変調する。MQW層は、歪が導入された複数の量子井戸層(InGaAsP)及び隣同士の量子井戸層の間に介在する障壁層を含む。
【0023】
量子井戸層20の上下には、InGaAsPからなる光ガイド層(図示せず)が設けられる。発振器部12では、量子井戸層20(活性層)の上に回折格子層22が設けられる。回折格子層22は、InGaAsPからなる。メサストライプ構造Mは、量子井戸層20(発振器部12では回折格子層22)の上で第1方向D1にストライプ状に延びるクラッド層24を含む。クラッド層24は、p型の不純物である亜鉛(Zn)がドープされた半導体(p型InP)からなる。メサストライプ構造Mは、コンタクト層26を含む。コンタクト層26は、p型InGaAsP層及びp型InGaAs層からなり、それぞれ、p型の不純物(Zn)がドープされている。
【0024】
メサストライプ構造Mは、水平面HPに対して45~55°の角度で半導体基板16の上面から上がる勾配を有する傾斜面28を有する。傾斜面28は、0.3μm以上の高さhを有する。傾斜面28の高さhは、半導体基板16の上面から量子井戸層20の下面までの高さの80%以下である。傾斜面28の全体が、半導体基板16の凸部18の表面の一部である。メサストライプ構造Mは、水平面HPに対して85~95°の角度で傾斜面28から立ち上がる直立面30を有する。直立面30の下端部は、半導体基板16の凸部18の表面に含まれる。
【0025】
半導体光素子10は、埋め込み層32を有する。埋め込み層32は、ルテニウム(Ru)がドープされた半導体(例えばn型InP)からなる。Ruが添加されるInPは、半絶縁性半導体である。埋め込み層32は、半導体基板16の上面に載る。埋め込み層32は、メサストライプ構造Mの両側に、第1方向D1に直交する第2方向D2に隣接して、埋め込みヘテロ構造を構成する。半導体光素子10は、メサストライプ型である。埋め込み層32は、メサストライプ構造Mの傾斜面28及び直立面30に接触する。
【0026】
埋め込み層32の上面は、メサストライプ構造Mの上面に隣接して、(111)面の面方位に沿って傾斜する傾斜部34を有する。埋め込み層32の上面は、傾斜部34の外側に、水平面HPに平行に拡がる平坦部36を有する。
【0027】
本実施形態によれば、メサストライプ構造Mの傾斜面28が半導体基板16の上面から緩やかに上がる形状になっているので、埋め込み層32が正常に形成されやすく、半導体光素子10の特性劣化を防止することができる。
【0028】
メサストライプ構造M及び埋め込み層32は、パッシベーション膜38によって覆われている。パッシベーション膜38は、スルーホール40を有する。スルーホール40内には、メサストライプ構造M(コンタクト層26)の上面が露出し、これに隣接して埋め込み層32の上面の一部(傾斜部34)も露出する。パッシベーション膜38の上に、発振器部12の電極42及び変調器部14の電極44が載る。電極42,44は、スルーホール40内でコンタクト層26と電気的に接続している。電極44は、延伸部44a、パッド部44b及び接続部44cを含む。パッド部44bとパッシベーション膜38の間には、寄生容量を軽減するために、SiOからなる絶縁膜46が形成されている。半導体光素子10は、光が出射する端面には反射防止膜(図示せず)を有し、反対側の端面には高反射膜(図示せず)を有する。
【0029】
半導体光素子10の製造プロセスでは、図2に示す第1メサストライプ構造M1を形成するための第1結晶成長を行う。詳しくは、半導体基板16上に、光ガイド層、量子井戸層20(活性層)及び回折格子層22を有機金属気相成長法(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition:Mo-CVD)によって形成する。量子井戸層20(MQW層)は、InGaAsPからなる井戸層及び障壁層を交互に積層することによって形成する。井戸層には歪を導入する。発振器部12の量子井戸層20(活性層)のフォトルミネッセンス波長が1555nm付近になるように、MQW層のInGaAsPの組成を調整する。
【0030】
そして、プラズマ気相成長法(Plazma Chemical Vapor Deposition:プラズマCVD)によって、図示しない窒化シリコン膜(SiN膜)を形成し、第1メサストライプ構造M1となる領域のSiN膜が残るようにパターニングし、このSiN膜をエッチングマスクとして、ドライエッチング及びウエットエッチングを行う。
【0031】
半導体光素子10の製造プロセスでは、図3に示す第2メサストライプ構造M2を形成するための第2結晶成長を行う。詳しくは、半導体基板16上に、光ガイド層、量子井戸層20(吸収層)をMo-CVDによって形成する。変調器部14の量子井戸層20(吸収層)のフォトルミネッセンス波長が1495nm付近になるように、MQW層のInGaAsPの組成を調整する。変調器部14の量子井戸層20は、InGaAsp系材料を用いているが、InGaAlAs系材料を用いて形成してもよい。
【0032】
そして、プラズマCVDによってSiN膜を形成し、第1メサストライプ構造M1及び第2メサストライプ構造M2となる領域のSiN膜が残るようにパターニングし、このSiN膜をエッチングマスクとして、ドライエッチング及びウエットエッチングを行う。
【0033】
半導体光素子10の製造プロセスでは、発振器部12と変調器部14の間に、導波路部48の多層構造を形成するための第3結晶成長を行う。詳しくは、発振器部12と変調器部14の間に、パッシブな光導波路となるInGaAsP層を結晶成長する。発振器部12と導波路部48の間及び変調器部14と導波路部48の間は、公知のバットジョイントにより光学的に接続する。
【0034】
その後、発振器部12の回折格子層22に干渉露光法によって回折格子(grating)を形成する。回折格子を形成後、さらに、発振器部12、導波路部48及び変調器部14のそれぞれの一部を構成するように、クラッド層24及びコンタクト層26を形成する。p型ドーパントとしての不純物にZnを用いる。
【0035】
その後、発振器部12、導波路部48及び変調器部14を含むメサストライプ構造Mの上方にシリコン酸化膜(SiO膜)を形成する。その後、SiO膜をエッチングマスクとして、ドライエッチング又はウエットエッチングによって、半導体基板16の表層まで除去することにより、幅が1.3μmであるメサストライプ構造Mを形成する。例えば、量子井戸層20の下面から1.8μm下方まで、半導体基板16の表層を除去する。
【0036】
次に、メサストライプ構造Mの下部に傾斜面28を形成するために、熱処理によるマストランスポート現象を発生させる。熱処理の温度及び時間は、例えば、650℃、5分程度とする。これにより、半導体基板16の表面からリン(P)原子の離脱が生じることによって、インジウム(In)原子の表面拡散が広がり、表面エネルギーが最低になる形状に固体表面の形状が変化する。
【0037】
図4は、マストランスポート現象を示す図である。図4に示すように、マストランスポート現象によって、メサストライプ構造Mの下部に傾斜面28が形成され、傾斜面28は、熱処理時間の経過とともに高くなっていく。熱処理は、メサ表面部分のダメージ除去のためのincitu Clと兼ねてもよい。塩酸系ウエットエッチングによって、熱処理前にメサストライプ構造Mが順メサ形状である場合には、裾野形状のテーパ部を形成することができる。傾斜面28が、半導体基板16の上面から量子井戸層20の下面までの高さの80%以下であって0.3μm以上の高さを有するように、熱処理を行う。傾斜面が量子井戸層まで及んだ場合は、電流のリークが発生する要因となる。そのため、ウエハ全体の製造ばらつき等を加味すると傾斜面は半導体基板16の上面から量子井戸層20の下面までの高さの80%以下に留めることが望ましい。また傾斜面の高さが0.3μmより小さい場合は、メサストライプ構造Mの下部に埋め込み層32が十分に形成されずボイド等が発生する恐れがある。そのため、ある程度の裾野形状のテーパ部の大きさが必要であり、発明者らの鋭意検討により0.3μm以上が望ましいことが分かった。
【0038】
続いて、メサストライプ構造Mの両側に、Ruが不純物として添加されるInPからなる埋め込み層32をMO-CVDを用いて形成する。埋め込み層32が、メサストライプ構造Mのコンタクト層26の上面よりも高くなるように、結晶成長させる。メサストライプ構造Mの表面のダメージ除去のためのincitu Clを行った後に、埋め込み層32の形成を行ってもよい。
【0039】
本実施形態によれば、BH構造を有する半導体光素子10において、埋め込み層32にボイドが形成されるなどの成長異常がなくなり、特性が向上する。
【0040】
さらに、メサストライプ構造Mの最上層であるコンタクト層26のうち、導波路部48の領域を除去する。これにより、変調器部14のコンタクト層26と発振器部12のコンタクト層26とが電気的に絶縁される。それゆえ、除去されることにより生じる溝は、アイソレーション溝と呼ばれる。
【0041】
アイソレーション溝を形成後、ウエハの表面全体に、パッシベーション膜38を形成する。さらに、変調器部14の電極44のパッド部44bとなる領域を含むように、SiOからなる絶縁膜46を形成する。絶縁膜46によって、寄生容量が低減される。その後、パッシベーション膜38に、発振器部12及び変調器部14となる領域それぞれの一部の領域をウエットエッチングにより除去して、スルーホール40を形成する。発振器部12及び変調器部14それぞれのスルーホール40を覆うように、EB(Electron Beam)蒸着法及びイオンミリングにより、電極42,44をそれぞれ形成する。
【0042】
その後、ウエハの下面を、ウエハが100μm程度になるまで研磨加工し、電極50を形成し、ウエハ工程が完了する。さらに、ウエハをバー状に劈開し、変調器部14側の端面に反射防止膜を形成し、発振器部12側の端面に高反射膜を形成し、さらに、チップ状態に劈開することにより、半導体光素子10は完成する。
【0043】
図5は、実施形態に係る光送受信モジュールの分解斜視図である。光送受信モジュール100は、電気信号を光信号に変換するための光送信サブアセンブリ102(TOSA: Transmitter Optical Sub-Assembly)と、光信号を電気信号に変換するための光受信サブアセンブリ104(ROSA: Receiver Optical Sub-Assembly)と、を有する。送信側では図示しないホスト基板より送られる電気信号を、電気的インターフェース106を通して光送受信モジュール100内の回路に通して光信号に変換し、これを光学的インターフェース108から送信する。受信側では光信号を光学的インターフェース108から受信し、電気信号を電気的インターフェース106から図示しないホスト側基板へと出力する。
【0044】
図6は、実施形態に係る光送信サブアセンブリ102の内部構造を示す模式図である。光送信サブアセンブリ102は、パッケージ110を有する。パッケージ110は、金属素材をボックス型に加工したものである。パッケージ110は、熱伝導率が高いCuW合金の底板、FeNi合金からなるフレーム、電気信号をパッケージ110内部に伝達するために配線パターンを形成したセラミックフィールドスルー、リード端子、キャップをシーム溶接するためのシームリング、光を取り出す窓を気密封止するためのサファイヤガラス、レンズホルダや光ファイバを溶接固定するためのパイプ部材などの部品より構成されており、ろう材やAuSuはんだなどの接合材を用いて組み立てられている。
【0045】
光送信サブアセンブリ102は、上述した半導体光素子10を有する。半導体光素子10が、50Ω終端抵抗が付いた窒化アルミニウム(AlN)製のチップキャリア112に、AuSuはんだを用いて搭載されている。チップキャリア112は、温度調節手段であるペルチエ素子114の上側に搭載されており、それらは、パッケージ110に搭載されている。サーミスタ116、モニターフォトダイオード118、光アイソレータ120及び集光レンズ122が、さらに、パッケージ110に搭載されている。集光レンズ122は、光の出射先に接続される光ファイバ124へ光を集光するためのレンズである。
【0046】
光送信サブアセンブリ102の外部には、制御手段(図示せず)が設けられ、制御手段によって、光送信サブアセンブリ102に対して、APC(Auto Power Control)制御が行われる。すなわち、半導体光素子10の発振器部12側の端面に設ける高反射膜を、光の一部が透過するように形成し、半導体光素子10の後方端面より出力する後方出力光を、モニターフォトダイオード118は受光し、モニタ電流iとして制御手段へ出力する。モニタ電流iに対応して、半導体光素子10の発振器部12に、レーザ駆動電流iが供給される。APC制御により、光送信サブアセンブリ102の出力光Lの出力パワーを一定に保つことが可能となる。なお、半導体光素子10の変調器部14に対しては、変調器駆動信号Sが供給される。
【0047】
また、図示しない制御手段によって、光送信サブアセンブリ102に対して、ATC(Auto Temperature Control)制御が行われる。すなわち、サーミスタ116及び半導体光素子10の温度を検知し、その温度をモニタ温度Tとして、制御手段へ出力する。モニタ温度Tに対応して、ペルチエ素子114に対して、ペルチエ素子駆動電流iが供給される。ATC制御により、半導体光素子10の温度を一定に保つことが可能となる。
【0048】
以上、光送受信モジュール100の光送信サブアセンブリ102について説明したが、光受信サブアセンブリ104が上述した半導体光素子10を有していてもよい。
【0049】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、実施形態で説明した構成は、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0050】
10 半導体光素子、12 発振器部、14 変調器部、16 半導体基板、18 凸部、20 量子井戸層、22 回折格子層、24 クラッド層、26 コンタクト層、28 傾斜面、30 直立面、32 埋め込み層、34 傾斜部、36 平坦部、38 パッシベーション膜、40 スルーホール、42 電極、44 電極、44a 延伸部、44b パッド部、44c 接続部、46 絶縁膜、48 導波路部、50 電極、100 光送受信モジュール、102 光送信サブアセンブリ、104 光受信サブアセンブリ、106 電気的インターフェース、108 光学的インターフェース、110 パッケージ、112 チップキャリア、114 ペルチエ素子、116 サーミスタ、118 モニターフォトダイオード、120 光アイソレータ、122 集光レンズ、124 光ファイバ、D1 第1方向、D2 第2方向、HP 水平面、L 出力光、M メサストライプ構造、M1 第1メサストライプ構造、M2 第2メサストライプ構造、S 変調器駆動信号、T モニタ温度、i レーザ駆動電流、i モニタ電流、i モニタ電流、i ペルチエ素子駆動電流。

図1
図2
図3
図4
図5
図6