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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】抗肥満剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20221012BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/655 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/501 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A23L33/10 ZNA
A61P3/04
A61P43/00 111
A61K45/00
A61K31/655
A61K31/501
A61P3/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018154991
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2020028239
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 桂一
(72)【発明者】
【氏名】中川 崇
(72)【発明者】
【氏名】戸辺 一之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 喜子
(72)【発明者】
【氏名】恒枝 宏史
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 利安
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/088712(WO,A1)
【文献】特表2018-510884(JP,A)
【文献】国際公開第2017/205595(WO,A1)
【文献】J. Proteome. Res.,2014年,13(11),pp.5106-5119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
CAplus,MEDLINE,FSTA (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミナーゼ阻害剤を有効成分として含有する抗肥満剤。
【請求項2】
グルタミナーゼ阻害剤がDON又はCB-839である請求項1に記載の抗肥満剤。
【請求項3】
前記肥満が内臓脂肪型肥満又は皮下脂肪型肥満である、請求項1又は2に記載の抗肥満剤。
【請求項4】
メタボリックシンドロームの予防、改善又は治療のために用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗肥満剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗肥満剤を含有する、内臓脂肪又は皮下脂肪蓄積予防又は改善用飲食品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗肥満剤を含有する、内臓脂肪又は皮下脂肪蓄積予防、改善又は治療用医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満を抑制する効果に優れる抗肥満剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣及び食生活の変化に伴い、世界的に肥満は増加の一途をたどっている。世界保健機関(WHO)によると、2016年に体重指数(BMI)として6500万人(13%)の成人が肥満であった。肥満者の数は1975年以来ほぼ3倍に増加している(非特許文献1)。
【0003】
肥満は、種々の疾患の原因になり得るとされており、特に、内臓脂肪型肥満は、メタボリックシンドロームの判定基準の1つとされている。メタボリックシンドロームは、エネルギーの利用及び貯蔵の障害であり、心血管疾患、特に心不全及び糖尿病を発症するリスクを増加させる(非特許文献2)。
【0004】
メタボリックシンドロームに関しては、体重の増加が、冠状動脈性心臓病、2型糖尿病、癌(例えば、子宮内膜、乳房及び結腸)、高血圧、異常脂質血症、脳卒中、睡眠時無呼吸、呼吸障害、変形性関節症、婦人科系の問題(例えば、月経不順及び不妊)のリスクとなることが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
上記実情から肥満の新しい治療戦略の開発が望まれており、効果的な治療の最善の時期であると考えられる病気前段階の治療が特に必要とされている。肥満に対する従来のアプローチとして、例えばメタボリックシンドロームの各症状である高血糖症、高血圧症及び異常脂質血症を別個に標的とする薬剤を用いたアプローチがなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】World Health Organization,Obesity and overweight:Fact sheet,2018
【文献】Ballantyne CM,et al.,Int J Obes (Lond).,2008,32(Suppl 2):S21-24.doi:10.1038/ijo.2008.31.
【文献】Skrypnik K,et al.,Acta Sci Pol Technol Aliment.,2017,16(1):83-91.doi:10.17306/J.AFS.2017.0442.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、肥満のような複雑な疾患の治療は、上述したような各症状を別個に標的とするような従来のアプローチのみでは困難であると考えられる。したがって、本発明は、肥満の予防、改善又は治療に有効な抗肥満剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、グルタミナーゼ阻害剤が抗肥満作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下の通りである。
1.グルタミナーゼ阻害剤を有効成分として含有する抗肥満剤。
2.グルタミナーゼ阻害剤がDON又はCB-839である前記1に記載の抗肥満剤。
3.前記肥満が内臓脂肪型肥満又は皮下脂肪型肥満である、前記1又は2に記載の抗肥満剤。
4.メタボリックシンドロームの予防、改善又は治療のために用いられる、前記1~3のいずれか1に記載の抗肥満剤。
5.前記1~4のいずれか1に記載の抗肥満剤を含有する飲食品。
6.前記1~4のいずれか1に記載の抗肥満剤を含有する医薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗肥満剤によれば、摂取カロリーが高くとも、体重増加、特に内臓脂肪及び皮下脂肪の増加を抑制できる。本発明の抗肥満剤は、従来の対症療法とは対照的に、病状を発症する前の状態に対する予防薬及び先制薬としても優れた効果を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、通常食(以下、NDとも略す。)を摂取させた場合の、コントロール群(ND+CV)及びCB-839投与群(ND+CB)についてのマウスの代表的な画像及び体重のグラフを示す。また、図1Bは、高脂肪食(以下、HFDとも略す。)を摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びCB-839投与群(HFD+CB)についてのマウスの代表的な画像及び体重のグラフを示す。コントロール群との比較において、*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。データは平均±S.Dを示す。
図2図2Aは、NDを摂取させた場合の、コントロール群(ND+CV)及びCB-839投与群(ND+CB)における、体重に対する食物摂取量と体重に対する水分摂取量の比率を示す。図2Bは、HFDを摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びCB-839投与群(HFD+CB)における、体重に対する食物摂取量と体重に対する水分摂取量の比率を示す。データは平均±S.Dを示す。
図3図3A~Dは、HFDを摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びCB-839投与群(HFD+CB)における、各組織の画像及び体重に対する各組織の質量比を示す。図3Aは内臓脂肪組織(eWAT)、図3Bは皮下脂肪組織(iWAT)、図3Cは褐色脂肪組織(BAT)、図3Dは肝臓の結果を示す。HFD+CVとの比較において、*p<0.05。データは平均±S.Dを示す。
図4図4Aは、NDを摂取させた場合の、コントロール群(ND+CV)及びDON投与群(ND+DON)におけるマウスの体重を示す。図4Bは、HFDを摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びDON投与群(HFD+DON)におけるマウスの体重を示す。HFD+CVとの比較において、*p<0.01;**p<0.001。データは平均±S.Dを示す。
図5図5A~Eは、HFDを摂取させた場合のコントロール群(CV)及びCB-839投与群(CB)における各mRNA発現量と内部標準に用いた18S遺伝子発現の比をRT-PCRにより分析した結果を示す。図5AはTNF-α/18S、図5BはMCP-1/18S、図5CはF4/80/18S、図5DはCD11c/18S、図5EはCD206/18Sの結果である。CVとの比較において、*p<0.05。データは平均±S.Dを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において、「抗肥満」とは、肥満を予防すること、及び肥満を改善することのいずれも包含する概念である。
【0013】
本発明は、その一態様において、グルタミナーゼ阻害剤を含有する、抗肥満剤に関する。グルタミナーゼ阻害剤は、グルタミンからグルタミン酸を生成する酵素であるグルタミナーゼを阻害する化合物であればよい。阻害態様は特に限定されない。
【0014】
グルタミナーゼ阻害剤としては、特に限定されず、公知のグルタミナーゼ阻害剤が挙げられる。例えば、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン[(S)-2-アミノ-6-ジアゾ-5-オキソカプロン酸又はその塩(DON)]、CB-839、ビス-2-(5-フェニルアセトアミド-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)エチルスルフィド(BPTES)、エブセレン(Ebselen)、Compound 968、GlutaDON(登録商標)(PEG-PGA+DON)(New Medical Enzymes AG社製)、GlutaChemo(PEG-PGA+理想的候補)(New Medical Enzymes AG社製)が挙げられる。グルタミナーゼ阻害剤は1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0015】
グルタミナーゼ阻害剤は、体重増加抑制作用、体重低減作用、内臓脂肪及び皮下脂肪の蓄積抑制作用、内臓脂肪及び皮下脂肪の低減作用、抗炎症作用などを有することから、抗肥満剤[例えば、飲食品、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(例えば、サプリメントなど)、食品添加剤など]の有効成分として、利用することができる。グルタミナーゼ阻害剤は、これをそのまま、又は慣用の成分とともに抗肥満剤となして、非ヒト動物及びヒトに適用(例えば、投与、摂取、接種など)できる。
【0016】
グルタミナーゼ阻害剤は、特に内臓脂肪及び皮下脂肪の蓄積抑制作用、内臓脂肪及び皮下脂肪の低減作用などを有する。したがって、グルタミナーゼ阻害剤を抗内臓脂肪型肥満用又は抗皮下脂肪型肥満用の各種剤、組成物などへ適用することができる。
【0017】
内臓脂肪は特に制限されないが、例えば、腹部の臓器周辺の内臓脂肪、好ましくは臍周囲の腹部に一部又は全部が存在している臓器(例えば、腸、腎臓など)周囲の内臓脂肪などが挙げられる。また、皮下脂肪は特に制限されないが、例えば、腹部、腰部、臀部、大腿部などの皮下に存在する脂肪が挙げられる。
【0018】
本発明に係る抗肥満剤は、例えば内臓脂肪又は皮下脂肪の蓄積の予防、改善又は治療に有効な飲食品、医薬に用いることができる。内臓脂肪蓄積が伴う疾患、症状としては、例えば、高血圧、糖代謝異常、脂質代謝異常などが挙げられる。また、皮下脂肪蓄積が伴う疾患又は症状としては、例えば、肥満、セルライト、たるみ(例えば、皮膚老化、弾力低下)、浮腫(むくみ)などが挙げられる。本発明の抗肥満剤は内臓脂肪又は皮下脂肪の蓄積を抑えることで、このような疾患又は症状の発症を予防、改善又は治療することができる。
【0019】
また、内臓脂肪型肥満又は皮下脂肪型肥満の症状を抱える場合、軽度から重篤に至る様々な疾患又は症候群に進行する場合がある。内臓脂肪型肥満が原因となる疾患又は症候群として、例えば、動脈硬化、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症が挙げられる。また、皮下脂肪型肥満が原因となる疾患又は症候群として、例えば、睡眠時無呼吸症候群、頻尿、無毛症、月経異常、ホルモン低下による発育不良、貧血、卵巣がん、子宮がん、乳がん、不妊症、肝硬変、痔、深部静脈血栓症、肺塞栓症、静脈血栓塞栓症などが挙げられる。本発明の抗肥満剤はこのような疾患又は症候群の発症を予防、改善又は治療することもできる。
【0020】
本発明の抗肥満剤の適用形態については、特に制限されないが、例えば、経口、経皮、経腸、経粘膜、経静脈、経動脈、皮下、筋肉内等の任意の適用形態で使用できる。本発明の抗肥満剤は、任意の適用形態で使用して抗肥満作用を発揮できるので、飲食品、医薬、飼料、ペットフード等の各種製品に適用することができる。本発明の抗肥満剤は、サプリメント等としてそのまま摂取(投与)してもよいし、飲食品等の組成物に抗肥満作用を付与するための添加剤として使用してもよい。
【0021】
また、本発明の抗肥満剤の剤型は、固形状、半固形状、液状等のいずれであってもよく、当該製品の種類や用途に応じて適宜設定される。本発明の抗肥満剤には、その形態等に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等の添加剤を含有してもよい。
【0022】
また、本発明の抗肥満剤は、その形態や用途等に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の抗肥満成分を配合してもよい。このような抗肥満成分としては、例えば、ニコチン酸又はその誘導体、コレステロール合成阻害剤、プロブコール、膨潤性食物繊維等の各種植物抽出物等、シブトラミン等の食欲抑制剤、サノレックス(一般名:マジンドール)等の中枢性摂食調整剤、セチリスタット等の消化吸収阻害剤、オルリスタット等のリパーゼ阻害剤、カプサイシン等の熱産生亢進剤等が挙げられる。これらの配合量については、本発明の効果を損なわない限り限定されない。
【0023】
本発明の抗肥満剤を飲食品に用いる場合、グルタミナーゼ阻害剤を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調整して、前記所望の効果を奏する飲食品として提供される。
【0024】
このような飲食品としては、一般の飲食品の他、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメントを包含し、疾病リスク低減表示を付した食品などの保健機能食品(例えば、特定保険用食品、栄養機能性食品及び機能性表示食品等)、病者用食品が挙げられる。
【0025】
これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的にはドリンク類、スープ類、非アルコール飲料、アルコール飲料、ゼリー状飲料及び機能性飲料等の液状食品;ゼリー及びヨーグルト等の半固形状食品;みそ及び発酵飲料等の発酵食品;クッキー及びケーキ等の洋菓子類、饅頭及び羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、グミ、冷菓並びに氷菓等の各種菓子類;食用油、ドレッシング、マヨネーズ及びマーガリンなどの油分を含む製品;飯類、餅類、麺類、パン類及びパスタ類等の炭水化物含有食品;ハム及びソーセージ等の畜産加工食品;かまぼこ、干物、塩辛等の水産加工食品;漬物等の野菜加工食品;カレー、あんかけ及び中華スープ等のレトルト製品;インスタントスープ及びインスタントみそ汁等のインスタント食品;電子レンジ対応食品;卵を用いた加工品、及び魚介類又は畜肉の加工品;調味料;等が挙げられる。さらには、粉末、穎粒、錠剤、カプセル剤、液状、ペースト状又はゼリー状に調製された健康飲食品も挙げられる。これらの飲食品は、前述する用途に供することが出来る。また、前記病者用食品は、肥満症状及び肥満性の予防、改善又は治療が必要とされる患者用として提供される。
【0026】
本発明の抗肥満剤を飲食品に使用する場合、飲食品に対するグルタミナーゼ阻害剤の配合量については、飲食品の形態等に応じて異なるが、当業者であれば使用するグルタミナーゼ阻害剤に応じて、既知情報や動物試験等に基づいて効果を予測しつつ、適切に設定することができる。そのようにして設定することのできるグルタミナーゼ阻害剤の配合量としては、例えば、好ましくは0.00001~100質量%、より好ましくは0.0001~100質量%、更に好ましくは0.001~100質量%、特に好ましくは0.01~100質量%となる範囲が挙げられる。
【0027】
更に、本発明の抗肥満剤を飲食品に使用する場合、本発明の抗肥満剤を単独で、又は他の成分と組み合わせて、抗肥満用の食品用添加剤として提供することもできる。本発明の抗肥満剤を食品用添加剤として使用する場合、当該食品用添加剤中のグルタミナーゼ阻害剤の含有量、飲食品に対する当該食品用添加剤の添加量等は、添加対象となる飲食品中でグルタミナーゼ阻害剤が前述する含有量を充足できるように適宜設定すればよい。
【0028】
また、本発明の抗肥満剤を医薬に使用する場合、本発明の抗肥満剤を単独で、又は他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤や添加成分等と組み合わせて所望の形態に調整して、前記所望の効果を奏する医薬として提供される。
【0029】
このような医薬の形態としては、特に制限されないが、具体的には、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、シロップ剤等の経口投与製剤;液剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、噴霧剤、貼付剤、吸入剤、坐剤等の経皮又は経粘膜投与製剤;注射剤等が挙げられる。
【0030】
本発明の抗肥満剤を医薬に使用する場合、医薬に対するグルタミナーゼ阻害剤の配合割合は、医薬の形態等に応じて異なるが、当業者であれば使用するグルタミナーゼ阻害剤に応じて、既知情報や動物試験等に基づいて効果を予測しつつ、適切に設定することができる。そのようにして設定することのできるグルタミナーゼ阻害剤の配合量としては、例えば、好ましくは0.00001~100質量%、より好ましくは0.0001~100質量%、更に好ましくは0.001~100質量%、特に好ましくは0.01~100質量%となる範囲が挙げられる。
【0031】
本発明の抗肥満剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)は、その効果を発現する有効量であれば特に制限されず、通常、有効成分のグルタミナーゼ阻害剤の質量として、一般に一日あたり好ましくは10mg~30g、より好ましくは50mg~10g、さらに好ましくは200mg~5gである。上記適用量は1日1回以上(例えば、1日1~3回)に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例
【0032】
以下に実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]階層クラスタリング解析及びKEGGパスウェイ解析
野生型C57BL/6雄性マウス(三協ラボサービス社製)について、通常食(以下、NDとも略す。)を摂取させた普通餌群(20匹)及び脂肪含有量が60kcal%である高脂肪食(以下、HFDとも略す。)(Research Diets社製、D12492)を摂取させた高脂肪食群(20匹)を調製した。0、3、6及び10日目にマウス(肥満や耐糖能異常は未発症)各5匹の脂肪組織に関して、網羅的な発現変動遺伝子を抽出し、マイクロアレイを用いて階層クラスタリング解析を行った。その結果、初期段階(3日目)で普通餌群と高脂肪食群を振り分け可能なGroup12を検出した。
【0034】
Group12には83個のKEGGパスウェイがヒットした。ヒットした83個のKEGGパスウェイに関して、PubMedにて「obesty(肥満)」、「diabetes(糖尿病)」で検索した結果、「グルタミナーゼ」のパスウェイが含まれていた。「グルタミナーゼ」のパスウェイについては、肥満及び糖尿病の領域での報告がなく、グルミナーゼと肥満との関連は初めて見出されたものであった。
【0035】
[実施例2]動物実験を用いたCB-839投与による効果の解析
動物実験により、CB-839の投与による効果を解析した。5週齢雄性野生型C57BL/6マウス(三協ラボサービス社製)を12時間の明暗サイクルを一定にして制御された温度で維持した。マウスには食物と水を自由に摂取させた。
【0036】
食物として、ND又はHFDを用いた。食物としてHFDを摂取させたマウス(以下、肥満C57BL/6マウスとも略す。)は、5週齢から開始して、HFDに自由にアクセスさせた。
【0037】
CB-839(200mg/kg)(Arctom Chemicals社製)又は対照ビヒクルを週に2回経口投与した後の体重及び食物及び水の摂取量を測定した。対照ビヒクルは、10mmol/Lクエン酸塩(pH2)中の25%(w/v)ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD;富士フィルム和光純薬社製)からなるものとした。CB-839は、対照として20mg/mL(w/v)の溶液として処方した[Rossmeisl M, et al., Diabetes, 2003, 52(8): 1958-1966.]。実験は、国立大学法人富山大学の動物実験委員会による承認後、動物倫理を念頭に置いて行った。
【0038】
図1Aに、食物としてNDを摂取させた場合の、コントロール群(ND+CV)及びCB-839投与群(ND+CB)についてのマウスの代表的な画像及び体重のグラフを示す。また、図1Bは、HFDを摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びCB-839投与群(HFD+CB)についてのマウスの代表的な画像及び体重のグラフを示す。
【0039】
図1Aに示すように、NDを摂取させた場合、コントロール群とCB-839投与群との間に体重の差異は観察されなかった。また、図1Bに示すように、HFDの摂取によって誘発された体重の増加は、CB-839によって有意に減少した。この結果から、CB-839の投与により、高脂肪食を摂取したマウスの体重増加が減弱することがわかった。
【0040】
図2Aに、食物としてNDを摂取させた場合の、コントロール群(ND+CV)及びCB-839投与群(ND+CB)における、体重に対する食物摂取量と体重に対する水分摂取量の比率を示す。図2Bは、HFDを摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びCB-839投与群(HFD+CB)における、体重に対する食物摂取量と体重に対する水分摂取量の比率を示す。
【0041】
図2A及び図2Bに示すように、CB-839投与群は、コントロール群と比較して体重に対する食物摂取量と体重に対する水分摂取量に有意差は見られなかった。
【0042】
食物としてHFDを摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びCB-839投与群(HFD+CB)における、各組織の画像及び体重に対する各組織の質量比を図3A~Dに示す。
【0043】
図3A、B及びDに示すように、HFDを摂取させたマウスでは、CB-839投与群では対照群よりも体重に対するeWAT、iWATの比が有意に低かった。
【0044】
また、図3A~Cに示すようにCB-839投与群では対照群と比較して、eWAT、iWAT、BATにおける肥大の抑制が観察された。さらに、図3Dに示すように、CB-839投与群ではコントロール群と比較して、肝臓がより透明な赤色状態であった。
【0045】
[実施例3]動物実験を用いたDON投与による効果の解析
動物実験により6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(DON)の投与による効果を解析した。4週齢の野生型C57BL/6雄性マウス(三協ラボサービス社製)を12時間の明暗サイクルを一定にして制御された温度で維持した。マウスには食物と水を自由に摂取させた。
【0046】
肥満C57BL/6マウスは、4週齢から開始して、HFDに自由にアクセスさせた。
【0047】
DON(シグマ社製)又はPBSからなる対照ビヒクルの腹腔内注射後、体重及び食物及び水の摂取を測定した。DONは2.5mg/mL(w/v)の溶液として処方した。全ての群の用量は0.5mg/マウスとした。これらの実験は、国立大学法人富山大学の動物実験委員会の承認を経て動物倫理を念頭に置いて行った。
【0048】
図4Aに、NDを摂取させた場合の、コントロール群(ND+CV)及びDON投与群(ND+DON)におけるマウスの体重を示す。また、図4Bに、HFDを摂取させた場合の、コントロール群(HFD+CV)及びDON投与群(HFD+DON)におけるマウスの体重を示す。
【0049】
図4Aに示すように、食物としてNDを摂取させた場合において、DON投与群の体重は、コントロール群と比較して有意に低かった。また、図4Bに示すように、食物としてHFDを摂取させた場合において、DON投与群の体重は、コントロール群と比較して有意に低かった。
【0050】
[実施例4]リアルタイムRT-PCR
RT-PCRにより、CB-839の免疫学的効果を調べた。TRISure(日本ジェネティクス社製)を用いて、凍結eWATからtotal RNAを単離した。組織(100mg)を300μLのTRISureでホモジナイズした。TRISure(600μL)とクロロホルム(200μL)を加え、十分に混合した。
【0051】
室温にて3分間インキュベートした後、混合物を4℃にて12000rpmで15分間遠心分離した。遠心分離後、RNAは水相に存在し、DNA及びタンパク質は間期及びフェノール相に存在した。水相を新鮮なマイクロチューブに移し、500μLのイソプロパノールと混合し、12000rpmで4℃にて20分間遠心分離した。
【0052】
上清を除去し、75%エタノールを添加してRNAペレットを洗浄した。ペレットを再び7500rpm、4℃にて5分間遠心分離した。上清を除去し、RNAペレットを室温(約15分間)で乾燥させた。RNAペレットを20μLのRNAseフリー水に溶解した。
【0053】
抽出したtotal RNAをNanoDrop 2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で確認し、RNaseフリー水で250ng/μLに希釈した。cDNA合成は、PrimerScript RT試薬キットを用いて行った。リアルタイムPCR(RT-PCR)は、MX3000P及びMX3005P(アジレント・テクノロジー社製)で行った。
【0054】
RT-PCRに使用したプライマーの配列を表1に示す。変性工程の後、95℃にて10秒間の40~50サイクルのPCR増幅及び62℃にて20秒間のアニーリング、次いで72℃における伸長反応を15秒間とした。Mx proソフトウェアバージョン4.10を使用して結果を分析した。
【0055】
【表1】
【0056】
図5A~Eは、HFDを摂取させた場合のコントロール群(CV)及びCB-839投与群(CB)における各mRNA発現量と内部標準に用いた18S遺伝子発現の比をRT-PCRにより分析した結果を示す。図5AはTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)、図5BはMCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)、図5CはF4/80、図5DはCD11c、図5EはCD206に対する18Sの比の結果である。two-tailed Student’s t検定を用いて、コントロール群とCB-839投与群とについて結果を比較した。データは、平均±S.Eとして示す。差はp<0.05である場合に、統計的に有意とした。
【0057】
図5A~Eに示すように、eWATにおける、TNF-α、MCP1/18s、F4/80/18s、CD11c/18s、CD206/18sについてのmRNAの発現比はそれぞれCB-839投与群とコントロール群とで有意に異なっていた。
【0058】
図5Aに示すようにTNF-αの発現比はCB-389投与群ではコントロール群よりも有意に低く、CB-389の摂取により炎症が阻害されたことが示唆された。
【0059】
また、図5Bに示すようにMCP1/18sの発現比はCB―389投与群ではコントロール群よりも有意に低く、CB-839の摂取により脂肪炎症が抑制されたことが示唆された。
【0060】
さらに、図5C~Eに示すように、F4/80/18s、CD11c/18s及びCD206/18s発現比はCB―389投与群ではコントロール群よりも有意に低く、CB-839の摂取によりマクロファージ、マクロファージ-1及びマクロファージ-2の発現がそれぞれ減少したことが示唆された。
【0061】
従って、これらの結果から、CB-839は、脂肪組織における炎症を阻害し得ることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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