(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】水面浮遊型農薬製剤用拡展剤及び農薬製剤
(51)【国際特許分類】
A01N 25/00 20060101AFI20221012BHJP
A01N 47/38 20060101ALI20221012BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20221012BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01N47/38 A
A01P13/00
A01N25/12
(21)【出願番号】P 2018165534
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直也
(72)【発明者】
【氏名】西本 剛
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-351701(JP,A)
【文献】特開2002-128603(JP,A)
【文献】特開2016-098226(JP,A)
【文献】イソノニルアルコール,2017年版 16817の化学商品,2017,p.436-437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤(X)を含む水面浮遊型農薬製剤用拡展剤であって、
前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるR
1中のメチル基の1分子あたりの数平均個数が
3.0以上であり、
前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるnの1分子あたりの数平均n
Aが2~15である水面浮遊型農薬製剤用拡展剤。
R
1O-(AO)
nB (1)
[一般式(1)中、R
1は炭素数8~11のアルキル基を表し;n個あるAOはそれぞれ独立に炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し;nは0~200の整数であり;Bは-R
2又は-COR
2を表し;R
2は炭素数1~2のアルキル基を表す。
一般式(1)中、(AO)
n
が[(C
3
H
6
O)
p
-(C
2
H
4
O)
q
]であり、pが0~100の整数であり、qが0~100の整数であり、前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるpの1分子あたりの数平均p
A
が1~3であり、前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるqの1分子あたりの数平均q
A
が4~8である。]
【請求項2】
一般式(1)において、R
1が3,5,5-トリメチルヘキサン-1-イル基である請求項
1に記載の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤及び農薬原体を含有する農薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水面浮遊型農薬製剤用拡展剤及び農薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、専業農家の減少、農家の高齢化及び区画整理に伴う大規模圃場の増大が進んでいる背景を受けて、農薬製剤には施用時の省力化が求められている。
例えば、水田等の水が存在する農地へ施用する場合、水田等に入らずに畦畔から投げ込むだけで散布可能な投げ込み型農薬製剤として、水面浮遊型農薬製剤が使用されている。この、水面浮遊型農薬製剤においては、1回の施用で広範囲に防除効果を発現できるよう、高濃度に原体を含有した水面浮遊型農薬製剤が、水面を拡展、拡散する設計の工夫が求められている。
【0003】
そこで、水面浮遊型農薬製剤の拡展を補助するための薬剤(水面浮遊型農薬製剤用拡展剤)として、ポリオキシアルキレン鎖を有するエステル化合物(特許文献1)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は拡展性が十分でなく、農薬施用の更なる省力化の観点から、改善が要望されている。
そこで、本発明は従来技術に比して、拡展性に優れる水面浮遊型農薬製剤用拡展剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはこれらの問題を解決すべく誠意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤(X)を含む水面浮遊型農薬製剤用拡展剤であって、
前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるR1中のメチル基の1分子あたりの数平均個数が2.0以上であり、
前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるnの1分子あたりの数平均nAが2~15である水面浮遊型農薬製剤用拡展剤;水面浮遊型農薬製剤用拡展剤及び農薬原体を含有する農薬製剤である。
R1O-(AO)nB (1)
[一般式(1)中、R1は炭素数8~11のアルキル基を表し;n個あるAOはそれぞれ独立に炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し;nは0~200の整数であり;Bは-R2又は-COR2を表し;R2は炭素数1~2のアルキル基を表す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は、農薬製剤と併用することで優れた拡展性を付与することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は、一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤(X)を含む水面浮遊型農薬製剤用拡展剤であって、前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるR1中のメチル基の1分子あたりの数平均個数が2.0以上であり、前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるnの1分子あたりの数平均nAが2~15である。
R1O-(AO)nB (1)
【0009】
一般式(1)中、R1は炭素数8~11のアルキル基を表す。
【0010】
炭素数8~11のアルキル基としては、メチル基を1個有する(r1)、メチル基を2個有するアルキル基(r2)、メチル基を3個有するアルキル基(r3)、メチル基を4個有するアルキル基(r4)及びメチル基を5個以上有するアルキル基(r5)等が挙げられる。
【0011】
前記のメチル基を1個有するアルキル基(r1)としては、オクタン-1-イル基、ノナン-1-イル基、デカン-1-イル基及びウンデカン-1-イル基等が挙げられる。
【0012】
前記のメチル基を2個有するアルキル基(r2)としては、オクタン-2-イル基、2-エチルヘキサン-1-イル基、6-メチルヘプタン-1-イル基、ノナン-2-イル基、7-メチルオクタン-1-イル基、8-メチルノナン-1-イル基及び9-メチルデカン-1-イル基等が挙げられる。
【0013】
前記のメチル基を3個有するアルキル基(r3)としては、3-メチルヘプタン-3-イル基、3,5-ジメチルヘキサン-1-イル基、2-メチルノナン-3-イル基及び2-メチルデカン-2-イル基等が挙げられる。
【0014】
前記のメチル基を4個有するアルキル基(r4)としては、3,5,5-トリメチルヘキサン-1-イル基及び2,6-ジメチルヘプタン-4-イル基、2,3,5-トリメチルヘキサン-1-イル基、3,5,5-トリメチルヘプタン-1-イル基及び3,5,5-トリメチルオクタン-1-イル基等が挙げられる。
【0015】
前記のメチル基を5個以上有するアルキル基(r5)としては、2,2-ジメチル-5-メチルヘキサン-4-イル基等が挙げられる。
【0016】
これらのR1の内、拡展性の観点から好ましいのは、前記のメチル基を2個以上有するアルキル基(r2)~(r5)であり、更に好ましいのはメチル基を3個以上有するアルキル基(r3)~(r5)、特に好ましいのはメチル基を4個有するアルキル基(r4)であり、最も好ましいのは3,5,5-トリメチルヘキサン-1-イル基である。
【0017】
前述の通り、前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるR1が有するメチル基の数平均個数は2.0以上である。
メチル基の数平均個数が2.0未満であると、拡展性が悪化する。
また、メチル基の数平均個数は、例えば、(X)を合成する際(合成方法については後に詳述)に用いた原料のR1に水酸基が結合したアルコールについて、1H-NMR測定及びガスクロマティー測定することにより、算出することができる。
【0018】
一般式(1)中、n個あるAOはそれぞれ独立に炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表す。
炭素数2~4のアルキレンオキシ基としては、エチレンオキシ基、1,2-プロピレンオキシ基、1,3-プロピレンオキシ基、1,2-ブチレンオキシ基及び1,4-ブチレンオキシ基等が挙げられる。
【0019】
一般式(1)中、nは0~200の整数であり、前記の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるnの1分子あたりの数平均nAは2~15である。
nAが2未満又は15を超えると拡展性が悪化する。特に、水面浮遊型農薬製剤中に一般式(1)で表される非イオン性界面活性剤(X)を1%未満しか含有しない時に著しく悪化する。
【0020】
一般式(1)中、Bは-R2又は-COR2を表し、R2は炭素数1~2のアルキル基を表す。R2の内、拡展性の観点から好ましいのは、メチル基である。
【0021】
一般式(1)中、(AO)nは、[(C3H6O)p/(C2H4O)q]であることが好ましい。なお、[(C3H6O)p/(C2H4O)q]は、p個あるプロピレンオキシ基と、q個あるエチレンオキシ基の結合順序が任意であることを表す。また、pは0~100の整数であり、qは0~100の整数である。
ここで、前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるpの1分子あたりの数平均pAは、拡展性の観点から、0~5であることが好ましく、0~3であることが更に好ましい。
また、前記水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する全ての(X)におけるqの1分子あたりの数平均qAは、拡展性の観点から、1~10であることが好ましく、2~8であることが更に好ましい。
また、pAとqAの関係としては、拡展性の観点からpA≦qAであることが好ましい。
【0022】
本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は、拡展性の観点から、一般式(1)においてnが2~15である分子を含有していることが好ましい。
また、更に拡展性を高める観点からは、本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は、一般式(1)において、(AO)nが[(C3H6O)p/(C2H4O)q]であり、かつ、pが0~5であり、かつqが1~10である分子を含有していることが好ましく、一般式(1)において、(AO)nが[(C3H6O)p/(C2H4O)q]であり、かつ、pが0~3であり、かつqが2~8である分子を含有していることが更に好ましい。
【0023】
[(C3H6O)p/(C2H4O)q]のプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基の付加形式は、拡展性の観点から[(C3H6O)p-(C2H4O)q][即ち、「R1O」にp個の(C3H6O)が結合し、続いてq個の(C2H4O)が結合する付加形式]又は[(C2H4O)q-(C3H6O)p][即ち、「R1O」にq個の(C2H4O)qが結合し、続いてp個の(C3H6O)が結合する付加形式]であることが好ましく、[(C3H6O)p-(C2H4O)q]であることが更に好ましい。
【0024】
前記の非イオン性界面活性剤(X)は、公知の方法により製造することができ、例えば、以下の方法で製造することができる。
前記のR1に水酸基が結合したアルコールに、アルカリ触媒(水酸化カリウム等)又は酸触媒(三フッ化ホウ素等)を加え窒素雰囲気下にてエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを付加反応させ、アルコールのアルキレンオキサイド付加物を得る。
その後、Williamson反応によるエーテル化、無水酢酸によるアセチル化、又は、Ficherエステル化反応によるエステル化を実施することで、目的の非イオン性界面活性剤(X)を得ることができる。
なお、前記のR1に水酸基が結合したアルコールとしては、エクソンモービル社製「エクサール9S」、「エクサール10」及び「エクサール11」、並びに、KHネオケム(株)製「オキソコール900」、「ノナノール」及び「デカノール」等として市場から入手することができる。
【0025】
本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は、非イオン性界面活性剤(X)以外にも、(X)以外の非イオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤等を含有していても良い。また、本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は、後述の水面浮遊型農薬製剤に用いる成分(崩壊分散剤及び結合剤等)を含有していても良い。
前記の(X)以外の非イオン性界面活性剤としては、炭素数8~18のアルコール(3,5,5-トリメチルヘキサノール、2-エチルヘキサノール、ドデカノール及びオクタデカノール等)への炭素数2~4のアルキレンオキサイド1~40モル付加物、アルキルフェノール(オクチルフェノール及びノニルフェノール等)への炭素数2~4のアルキレンオキサイド1~40モル付加物及び脂肪酸(オレイン酸及びステアリン酸等)への炭素数2~4のアルキレンオキサイド1~40モル付加物等が挙げられる。
前記のアニオン性界面活性剤としては、スルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びテトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、硫酸塩(ラウリル硫酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等)及びアルキル脂肪酸塩(ラウリン酸モノエタノールアミン塩及びラウリン酸ジエタノールアミン塩等)等が挙げられる。
【0026】
本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤が含有する非イオン性界面活性剤(X)の重量割合は、拡展性の観点から、水面浮遊型農薬製剤用拡展剤の重量を基準として、50~100重量%であることが好ましい。
【0027】
水面浮遊型農薬製剤は、本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤及び農薬原体(有効成分)を必須成分として含有し、これら以外に浮遊助剤、崩壊分散剤、結合剤及び増量剤等を含有してもよい。
【0028】
農薬原体は水面施用が可能であれば液体でも固体でも良く、殺虫剤、殺菌剤、除草剤及び植物調節剤等が挙げられる。
【0029】
殺虫剤としては、イソキサチオン、ダイアジノン、ダイスルフォトン、プロパホス、トリクロルフォン、ホルモチオン、ジメトエート、モノクロトフォス、アセフェート、カルボフラン、カルボスルファン、チオシクラム、カルタップ、ベンスルタップ、ベンフラカルブ、フラチオカルブ、ブプロフェジン、フェノブカルブ、メトールカルブ、プロポクシュア、イミダクロプリド、ニッテンピラム、アセタミプリド、シクロプロトリン、エトフェンプロックス及びシラフルオフェン等が挙げられる。
【0030】
殺菌剤としては、プロベナゾール、イソプロチオラン、イプロベンフォス、トリシクラゾール、ピロキロン、カルプロパミド、オリブライト、アゾキシストロビン、フルトラニル、メプロニル、チフルザミド、フラメトピル及びテクロフタラム等が挙げられる。
【0031】
除草剤としては、ピラゾレール、ベンゾフェナップ、ピラゾキシフェン、ピリブチカルブ、ブロモプチド、ブタミホス、メフェナセット、アニロホス、ブタクロール、チオベンカルブ、クロルニトロフェン、ダイムロン、ビフェノックス、ナプロアニリド、オキサジアゾン、オキサジアルギル、ベンタゾン、モリネート、ピペロホス、ジメピペレート、エスプロカルブ、ジチオピル、カフェンストロール、プレチラクロール、シメトリン、ベンスルフロンメチル、キンクロラック、ペントキサゾン、テニルクロール、エトベンザニド、ジメタメトリン及びインダノファン等が挙げられる。
【0032】
植物調節剤としては、イナベンフィド、パクロブトラゾール、ウニコナゾール及びトリアペンテノール等が挙げられる。
【0033】
前記の浮遊助剤としては、農薬製剤を水面に浮かせるものであればよく、中空性ガラス(発泡シラス及び発泡パーライト等)、発泡軽石、焼成バーミキュライト、コルク、木粉、発泡スチロール、合成樹脂粉末及びプラスチック中空体等が挙げられる。
【0034】
崩壊分散剤としては、農薬製剤を水面又は水中で崩壊させ、農薬原体を水中に懸濁、分散させるものであればよく、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩とホルマリンとの縮合物、フェノールスルホン酸塩、フェノールスルホン酸塩とホルマリンとの縮合物、スチレンスルホン酸塩及びその重合物、ポリアクリル酸塩、アクリル酸とマレイン酸の共重合物の塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。
【0035】
結合剤としては、造粒して得られた粒状の農薬製剤に硬度を付与するものであればよく、でんぷん及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースの塩、ポリビニルアルコール、リグニンスルホン酸塩、アラビアゴム及びモンモリロナイト等が挙げられる。
なお、結合剤には、崩壊分散剤として機能する化合物(ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースの塩及びリグニンスルホン酸塩等)も含まれる。
【0036】
増量剤としては、液状の農薬原体を吸収させたり、固状の農薬原体を希釈できれば良く、タルク、クレー(ベントナイト等)、珪藻土、非晶質シリカ、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
水面浮遊型農薬製剤は、水面浮遊型農薬製剤用拡展剤を、拡展性の観点から、水面浮遊型農薬製剤の重量を基準として非イオン性界面活性剤(X)の重量割合が0.01~10重量%となるように含有していることが好ましく、更に好ましくは0.1~8重量%である。
水面浮遊型農薬製剤が含有する農薬原体の重量割合は、防除効果の観点から、水面浮遊型農薬製剤の重量を基準として0.1~80重量%であることが好ましく、更に好ましくは1~50重量%である。
水面浮遊型農薬製剤が含有する浮遊助剤の重量割合は、拡展性の観点から、水面浮遊型農薬製剤の重量を基準として1~80重量%であることが好ましく、更に好ましくは10~50重量%である。
水面浮遊型農薬製剤が含有する崩壊分散剤及び結合剤の合計重量の割合は、崩壊性及び製剤強度等の観点から、水面浮遊型農薬製剤の重量を基準として0.01~30重量%であることが好ましく、更に好ましくは0.05~20重量%である。
水面浮遊型農薬製剤が含有する増量剤の重量割合は、ハンドリング性の観点から、水面浮遊型農薬製剤の重量を基準として1~80重量%であることが好ましく、更に好ましくは2~50重量%である。
【0038】
水面浮遊型農薬製剤は公知の方法で調製できる。例えば、
1)本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤、農薬原体、浮遊助剤、崩壊分散剤、結合剤、増量剤及び水を混合機で混練した後、造粒機を用いて造粒し、乾燥する方法、
2)本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤、浮遊助剤、崩壊分散剤、結合剤、増量剤及び水を混合機で混練した後、造粒機を用いて造粒し、その造粒物に農薬原体を含浸、吸着させ、乾燥する方法等が挙げられる。
なお、前記の混合機としては、ナウターミキサー、リボンミキサー、ロータリーブレンダー及びV型混合機等を適用できる。
また、前記の造粒機としては、押し出し造粒機、混合造粒機及び転動造粒機等が適用できる。
【0039】
前記の水面浮遊型農薬製剤は、一般的な農薬粒剤と同様、手撒き散布、機械散布、振込散布及び額縁散布等の方法で散布できる。
また、前記の水面浮遊型農薬製剤は、水溶紙に分包して畦から投げ込むこともできる。投げ込み施用に用いる水溶紙は、水中での溶解性又は分散性を有するフィルム又はシートであり、ポリビニルアルコール又はその誘導体、プルラン、カルボキシメチルセルロース塩及びセルロース等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお実施例3~6及び10は、それぞれ、参考例1~5である。
【0041】
製造例1
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール144重量部(1モル部)、水酸化カリウム0.5重量部を加え撹拌を開始し窒素封入し100℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。次いで130℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でプロピレンオキサイド58重量部(1モル部)を5時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した(1段階目)。次いでエチレンオキサイド176重量部(4モル部)を3時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した(2段階目)。その後60℃に冷却し、吸着処理剤[キョーワード600:協和化学工業(株)製]10部を投入し、60℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過して3,5,5-トリメチルヘキサノールPO1モル-EO4モル付加物(PX-1)を得た。
【0042】
製造例2
製造例1において、エチレンオキサイド176重量部(4モル部)を352重量部(8モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、3,5,5-トリメチルヘキサノールPO1モル-EO8モル付加物(PX-2)を得た。
【0043】
製造例3
製造例1において、プロピレンオキサイド58重量部(1モル部)を290重量部(5モル部)に、エチレンオキサイド176重量部(4モル部)を440重量部(10モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、3,5,5-トリメチルヘキサノールPO5モル-EO10モル付加物(PX-3)を得た。
【0044】
製造例4
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール144重量部(1モル部)、水酸化カリウム0.5重量部を加え撹拌を開始し窒素封入し100℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。次いで130℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でエチレンオキサイド264重量部(6モル部)を5時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、吸着処理剤[キョーワード600:協和化学工業(株)製]10部を投入し、60℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過して3,5,5-トリメチルヘキサノールEO6モル付加物(PX-4)を得た。
【0045】
製造例5
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール144重量部(1モル部)、水酸化カリウム0.5重量部を加え撹拌を開始し窒素封入し100℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。次いで130℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でエチレンオキサイド264重量部(6モル部)を3時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した(1段階目)。次いでプロピレンオキサイド116重量部(2モル部)を5時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した(2段階目)。その後60℃に冷却し、吸着処理剤[キョーワード600:協和化学工業(株)製]10部を投入し、60℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過して3,5,5-トリメチルヘキサノールEO6モル-PO2モル付加物(PX-5)を得た。
【0046】
製造例6
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール144重量部(1モル部)、水酸化カリウム0.5重量部を加え撹拌を開始し窒素封入し100℃に昇温した後、圧力-0.1MPaGで1時間脱水した。次いで130℃に昇温し、圧力0.3MPaG以下でエチレンオキサイド264重量部(6モル部)とプロピレンオキサイド116重量部(2モル部)を同時に5時間かけて逐次滴下し、同温度で圧平衡になるまで1時間撹拌した。その後60℃に冷却し、吸着処理剤[キョーワード600:協和化学工業(株)製]10部を投入し、60℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過して3,5,5-トリメチルヘキサノールPO2モル/EO6モル付加物(PX-6)を得た。
【0047】
製造例7
製造例1において、3,5,5-トリメチルヘキサノール144部をエクサール9S(エクソンモービル社製)144部に変更した以外は製造例1と同様に製造し、化合物(PX-7)を得た。
なお、エクサール9Sは、1H-NMR及びガスクロマトグラフィーによる分析の結果、前記のR1に水酸基が結合したアルコールであった。また、R1の炭素数は9.0であり、R1中のメチル基の1分子あたりの数平均個数は3.0であった。
【0048】
製造例8
製造例1において、3,5,5-トリメチルヘキサノール144部をデカノール[KHネオケム(株)製]158部に変更し、エチレンオキサイド176重量部(4モル部)を264重量部(6モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、化合物(PX-8)を得た。
なお、デカノールは、1H-NMR及びガスクロマトグラフィーによる分析の結果、前記のR1に水酸基が結合したアルコールであった。また、R1の炭素数は10.0であり、R1中のメチル基の1分子あたりの数平均個数は3.5であった。
【0049】
製造例9
製造例1において、3,5,5-トリメチルヘキサノール144部をエクサール11(エクソンモービル製)172部に変更し、エチレンオキサイド176重量部(4モル部)を352重量部(8モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、化合物(PX-9)を得た。
なお、エクサール11は、1H-NMR及びガスクロマトグラフィーによる分析の結果、前記のR1に水酸基が結合したアルコールであった。また、R1の炭素数は11.0であり、R1中のメチル基の1分子あたりの数平均個数は3.7であった。
【0050】
製造例10
製造例1において、3,5,5-トリメチルヘキサノール144部を2-エチルヘキサノール130部に変更し、エチレンオキサイド176重量部(4モル部)を88重量部(2モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、化合物(PX-10)を得た。
【0051】
製造例11
撹拌機、温度計、圧力計、耐圧滴下ボンベ、減圧及び窒素導入ラインの付いた2Lオートクレーブ中に、(PX-1)378重量部(1モル部)及び水酸化ナトリウム60重量部(1.5モル部)を投入し、窒素置換後密閉し、20℃に冷却した。メチルクロライド71重量部(1.4モル部)を温度が20℃となるよう調整しながら10時間かけて滴下した後、20℃で10時間熟成した。次いで水を500部投入し、20℃で1時間攪拌し、静置後、分層した上層を回収し、非イオン性界面活性剤(X-1)を得た。
【0052】
製造例12
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-2)554重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-2)を得た。
【0053】
製造例13
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-3)874重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-3)を得た。
【0054】
製造例14
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-4)408重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-4)を得た。
【0055】
製造例15
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-5)524重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-5)を得た。
【0056】
製造例16
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-6)524重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-6)を得た。
【0057】
製造例17
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-7)378重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-7)を得た。
【0058】
製造例18
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-8)480重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-8)を得た。
【0059】
製造例19
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-9)582重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-9)を得た。
【0060】
製造例20
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX-10)276重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、非イオン性界面活性剤(X-10)を得た。
【0061】
製造例21
製造例12において、メチルクロライド71重量部(1.4モル部)をエチルクロライド86重量部(1.4モル部)に変更した以外は製造例12と同様に製造し非イオン性界面活性剤(X-11)を得た。
【0062】
製造例22
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ロート備えた反応容器に、(PX-2)554重量部(1モル部)を投入し、滴下ロートに酢酸無水物112重量部(1.1モル部)を投入した。窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、無水酢酸を2時間かけて滴下し、8時間熟成後、1時間減圧し酢酸60部(1モル部)と未反応の酢酸無水物10部(0.1モル部)を留去し、非イオン性界面活性剤(X-12)を得た。
【0063】
製造例23
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ロート備えた反応容器に、(PX-2)554重量部(1モル部)を及びメタンスルホン酸0.5部を投入し、滴下ロートにプロピオン酸74重量部(1モル部)を投入した。窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、プロピオン酸を2時間かけて滴下した。同温度で減圧下で脱水しながら8時間反応後、非イオン性界面活性剤(X-13)を得た。
【0064】
比較製造例1
製造例1において、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール144重量部(1モル部)を、1-オクタノール130重量部(1モル部)に変更し、プロピレンオキサイド58重量部(1モル部)を116重量部(2モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、1-オクタノールPO2モル-EO4モル付加物(PX’-1)を得た。
【0065】
比較製造例2
製造例1において、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール144重量部(1モル部)を、1-デカノール158重量部(1モル部)に変更し、プロピレンオキサイド58重量部(1モル部)を232重量部(4モル部)に変更し、エチレンオキサイド176重量部(4モル部)を264重量部(6モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、1-デカノールPO4モル-EO6モル付加物(PX’-2)を得た。
【0066】
比較製造例3
製造例4において、エチレンオキサイド264重量部(6モル部)を、704重量部(16モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、3,5,5-トリメチルヘキサノールEO16モル付加物(PX’-3)を得た。
【0067】
比較製造例4
製造例4において、エチレンオキサイド264重量部(6モル部)を、44重量部(1モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、3,5,5-トリメチルヘキサノールEO1モル付加物(PX’-4)を得た。
【0068】
比較製造例5
製造例1において、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール144重量部(1モル部)を、トリデカノール[KHネオケム(株)製] 200重量部(1モル部)に変更し、プロピレンオキサイド58重量部(1モル部)を116重量部(2モル部)に変更し、エチレンオキサイド176重量部(4モル部)を220重量部(5モル部)に変更した以外は製造例1と同様に製造し、化合物(PX’-5)を得た。
なお、トリデカノールは、1H-NMR及びガスクロマトグラフィーによる分析の結果、炭素数13のアルキル基に水酸基が結合したアルコールであった。トリデカノールからOH基を除いた残基中のメチル基の1分子あたりの数平均個数は4.0であった。
【0069】
比較製造例6
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX’-1)422重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、比較用の非イオン性界面活性剤(X’-1)を得た。
【0070】
比較製造例7
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX’-2)654重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、比較用の非イオン性界面活性剤(X’-2)を得た。
【0071】
比較製造例8
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX’-3)848重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、比較用の非イオン性界面活性剤(X’-3)を得た。
【0072】
比較製造例9
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX’-4)188重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、比較用の非イオン性界面活性剤(X’-4)を得た。
【0073】
比較製造例10
製造例11において、(PX-1)378重量部(1モル部)を(PX’-5)536重量部(1モル部)に変更した以外は製造例11と同様に製造し、比較用の非イオン性界面活性剤(X’-5)を得た。
【0074】
比較製造例11
撹拌機及び加熱冷却装置を備えた反応容器に、オクタン酸144重量部(1モル部)及びトリエチレングリコールモノメチルエーテル197gをディーンスターク脱水装置がついた反応容器に仕込み、触媒としてメタンスルホン酸1.82g及び次亜リン酸50%水溶液0.37gを加えた。撹拌下に反応温度を120~150℃に維持し、生成する水を留去しつつエステル化反応を行った。留去液が18mlへ達した時点で反応を終了した。約50℃まで冷却した後、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液を2.9g加えて中和した。水154gを加え、撹拌した後、60~80℃にて成層分離し、油層を得た。得られた油層を80~100℃で減圧下に脱水して比較用の非イオン性界面活性剤(X’-6)を得た。
【0075】
<実施例1~16及び比較例1~8>
水面浮遊型農薬製剤用拡展剤として表1記載の本発明の非イオン性界面活性剤(X-1)~(X-13)又は比較用の非イオン性界面活性剤(X’-1)~(X’-6)、農薬原体としてカフェンストロール、浮遊助剤として中空性ガラス[東海工業(株)製、「CEL-STAR Z-27」]及び増量剤としてベントナイト[クニミネ工業(株)製、「クニゲルV1」]を表2の配合量で混合し、その混合物に水40部を加えて充分混練した。得られた混練物を目開き1.0mmのスクリーンを装着したバスケット型造粒機に供して成型し、切断した後、50℃の循風乾燥機で乾燥した。得られた乾燥物を長さ約3mmに整粒して、本発明の水面浮遊型農薬製剤(P-1)~(P-16)及び比較用の水面浮遊型農薬製剤(P’-1)~(P’-8)を得た。
【0076】
【0077】
【0078】
<拡展性試験>
縦200cm、横10cm、深さ4cmのステンレス製直方容器の横方向に3.3cm間隔、縦方向に10cm間隔で、直径2cm、高さ5cmの円筒形障害物を合計38本設置した。容器内に深さ2cmまで水を入れ、容器の縦方向一端中央部から水面浮遊型農薬製剤0.2gを投入し、2分後の縦方向の拡展距離を測定した。結果を表2に記載した。
【0079】
表2に示されるように、本発明の非イオン界面活性剤(X-1)~(X-13)を用いた実施例1~13の水面浮遊型農薬製剤は、比較用の非イオン性界面活性剤(X’-1)~(X’-6)を用いた比較例1~8の水面浮遊型農薬製剤と比べ拡展距離が長く、拡展性に優れていた。
また、実施例14~16と比較例7~8との比較から、本発明の非イオン性界面活性剤(X)を面浮遊型農薬製剤用拡展剤として用いた場合は、水面浮遊型農薬製剤用拡展剤の配合量が少ない場合でも拡展性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の水面浮遊型農薬製剤用拡展剤は、障害物が存在する水面での拡展性に優れ、1度の施用で広範囲に農薬原体を広げることができるため、防除作業の省力に貢献する。