(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】燃料電池監視装置および燃料電池の状態を判定する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04664 20160101AFI20221012BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20221012BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221012BHJP
【FI】
H01M8/04664
H01M8/04537
H01M8/04492
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018221810
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 千晶
(72)【発明者】
【氏名】加藤 育康
(72)【発明者】
【氏名】畑▲崎▼ 美保
(72)【発明者】
【氏名】山本 和男
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 茂樹
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-203562(JP,A)
【文献】特開2017-45648(JP,A)
【文献】特開2009-129760(JP,A)
【文献】国際公開第2007/018294(WO,A1)
【文献】特開2013-239351(JP,A)
【文献】特開2010-92675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの状態を監視する燃料電池監視装置であって、
前記燃料電池スタックに交流信号を印加して、前記燃料電池セルごとの電圧と、前記燃料電池スタック全体の電圧と、前記燃料電池スタックの出力電流と、を検出し、前記燃料電池セルごとのインピーダンスと、前記燃料電池スタック全体のインピーダンスと、を計測するインピーダンス計測部と、
前記燃料電池セルごとのインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池セルの含水量に相関性を有する前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量推定値を算出し、前記燃料電池スタック全体のインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池スタックの含水量に相関性を有する前記燃料電池スタックのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池スタックのガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量を表す含水量基準推定値を算出する含水量推定部と、
前記含水量基準推定値に対する前記含水量推定値の大きさを判定することにより、前記燃料電池セルに含まれる触媒の劣化の発生、または、前記燃料電池セルに対する反応ガスの分配不良の発生、のうちの少なくとも一方を検出する判定部と、
を備える、燃料電池監視装置。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池監視装置であって、
前記判定部は、前記含水量推定値が、前記含水量基準推定値に対して、予め決められた許容範囲を越えて低くなっていることを含む判定条件が成立したときに、判定対象である前記燃料電池セルに前記触媒の劣化が生じていると判定する、燃料電池監視装置。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池監視装置であって、
前記判定部は、負電圧であることが検出され、かつ、前記含水量推定値が前記含水量基準推定値に対して前記許容範囲を越えて低くなっていることを含む前記判定条件が成立したときに、判定対象である前記燃料電池セルに前記触媒の劣化が生じていると判定する、燃料電池監視装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池監視装置であって、
前記判定部は、前記含水量推定値が前記含水量基準推定値より大きいときに、判定対象である前記燃料電池セルに対する反応ガスの供給不良が発生していると判定する、燃料電池監視装置。
【請求項5】
複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの状態を監視する燃料電池監視装置であって、
前記燃料電池スタックに交流信号を印加して、前記燃料電池セルごとの電圧と、前記燃料電池スタックの出力電流と、を検出し、前記燃料電池セルごとのインピーダンスを計測するインピーダンス計測部と、
前記燃料電池セルごとのインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池セルの含水量に相関性を有する前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量推定値を算出する含水量推定部と、
現在の前記燃料電池スタック全体の含水量に応じて変動する基準値に対する前記含水量推定値の大きさを判定することにより、前記燃料電池セルに含まれる触媒の劣化の発生を検出する判定部と、
を備える、燃料電池監視装置。
【請求項6】
複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの状態を監視する燃料電池監視装置であって、
前記燃料電池スタックに交流信号を印加して、前記燃料電池セルごとのインピーダンスを計測するインピーダンス計測部と、
前記燃料電池セルごとの前記インピーダンスの計測結果から、前記燃料電池セルの含水量に相関性を有するガス拡散抵抗を求め、前記ガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量推定値を算出する含水量推定部と、
判定対象となる複数の前記燃料電池セルについて、予め決められた順で、前記燃料電池セルに含まれる触媒の劣化の発生を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
最初の前記燃料電池セルについては、予め設定された初期値を基準値として用い、
2番目以降の前記燃料電池セルについては、先に判定され、前記触媒の劣化が検出されなかった前記燃料電池セルの前記含水量推定値を
前記基準値として用い、
前記基準値に対して、今回の判定対象である前記燃料電池セルの前記含水量推定値が、予め決められた許容範囲を超えて低くなっていることを含む判定条件が成立したときに、今回の判定対象である前記燃料電池セルに前記触媒の劣化が生じていると判定する、燃料電池監視装置。
【請求項7】
複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの状態を判定する方法であって、
発電中の前記燃料電池スタックに交流信号を印加して、前記燃料電池セルごとの電圧と、前記燃料電池スタックの出力電流と、を検出し、前記燃料電池セルごとのインピーダンスと、前記燃料電池スタック全体のインピーダンスと、を計測する工程と、
前記燃料電池セルごとのインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池セルの含水量に相関性を有する前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量推定値を算出する工程と、
前記燃料電池スタック全体のインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池スタックの含水量に相関性を有する前記燃料電池スタックのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池スタックのガス拡散抵抗を用いて算出された前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量基準推定値を算出する工程と、
前記含水量基準推定値に対する前記含水量推定値の大きさを判定することにより、前記燃料電池セルに含まれる触媒の劣化の発生、または、前記燃料電池セルに対する反応ガスの分配不良の発生、のうちの少なくとも一方を検出する工程と、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池監視装置および燃料電池の状態を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、交流インピーダンス法によって、燃料電池のインピーダンスを計測し、その計測結果を用いて、燃料電池の不良を検出する燃料電池監視装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池のインピーダンスは、種々の要因に対して相関性を有するパラメータである。そのため、単にインピーダンスの計測値と予め定められた閾値とを比較するのみでは、燃料電池に生じている不具合の要因を的確に特定できない場合がある。このように、インピーダンスの計測値を用いて燃料電池に生じている不良を検出する技術には依然として改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の技術は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)第1の形態は、複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの状態を監視する燃料電池監視装置として提供される。この形態の燃料電池監視装置は、前記燃料電池スタックに交流信号を印加して、前記燃料電池セルごとの電圧と、前記燃料電池スタック全体の電圧と、前記燃料電池スタックの出力電流と、を検出し、前記燃料電池セルごとのインピーダンスと、前記燃料電池スタック全体のインピーダンスと、を計測するインピーダンス計測部と、前記燃料電池セルごとのインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池セルの含水量に相関性を有する前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量推定値を算出し、前記燃料電池スタック全体のインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池スタックの含水量に相関性を有する前記燃料電池スタックのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池スタックのガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量を表す含水量基準推定値を算出する含水量推定部と、前記含水量基準推定値に対する前記含水量推定値の大きさを判定することにより、前記燃料電池セルに含まれる触媒の劣化の発生、または、前記燃料電池セルに対する反応ガスの分配不良の発生、のうちの少なくとも一方を検出する判定部と、を備える。
この形態の燃料電池監視装置によれば、インピーダンスの計測結果から算出されるガス拡散抵抗のうちで燃料電池セルや燃料電池スタックの含水量に対して高い相関性を有するものから含水量推定値および含水量基準推定値が導出される。含水量推定値は、燃料電池セルにおける触媒劣化、または、反応ガスの分配不良によって、含水量基準推定値に対する大きさが変化する特性を有している。この形態の燃料電池監視装置によれば、そうした含水量推定値の特性に基づいて、燃料電池に生じている不具合の要因を燃料電池セルにおける触媒劣化、または、反応ガスの分配不良の少なくとも一方に特定して、その発生を的確に検出できる。また、含水量基準推定値は、例えば燃料電池スタック全体の経年変化など、燃料電池スタック全体の現在の状態に応じて変化する値である。この形態の燃料電池監視装置では、燃料電池セルの状態の判定に、そうした燃料電池スタック全体の現在の状態に応じて変化する基準値が用いられているため、燃料電池スタック全体の状態変化に起因する判定精度の変動を抑制することができる。
(2)上記形態の燃料電池監視装置において、前記判定部は、前記含水量推定値が、前記含水量基準推定値に対して、予め決められた許容範囲を越えて低くなっていることを含む判定条件が成立したときに、判定対象である前記燃料電池セルに前記触媒の劣化が生じていると判定してよい。
この形態の燃料電池監視装置によれば、燃料電池セルにおける触媒の劣化の発生を的確に検出することができる。
(3)上記形態の燃料電池監視装置において、前記判定部は、負電圧であることが検出され、かつ、前記含水量推定値が前記含水量基準推定値に対して前記許容範囲を越えて低くなっていることを含む前記判定条件が成立したときに、判定対象である前記燃料電池セルに前記触媒の劣化が生じていると判定してよい。
この形態の燃料電池監視装置によれば、電圧による判定条件が加わるため、燃料電池セルにおける触媒の劣化の発生をより精度よく検出することができる。
(4)上記形態の燃料電池監視装置において、前記判定部は、前記含水量推定値が前記含水量基準推定値より大きいときに、判定対象である前記燃料電池セルに対する反応ガスの供給不良が発生していると判定してよい。
この形態の燃料電池監視装置によれば、燃料電池セルにおける反応ガスの供給不良の発生を的確に検出することができる。
(5)第2の形態は、複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの状態を監視する燃料電池監視装置として提供される。この形態の燃料電池監視装置は、前記燃料電池スタックに交流信号を印加して、前記燃料電池セルごとの電圧と、前記燃料電池スタックの出力電流と、を検出し、前記燃料電池セルごとのインピーダンスを計測するインピーダンス計測部と、前記燃料電池セルごとのインピーダンスの計測結果から、前記燃料電池セルの含水量に相関性を有する前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を求め、前記燃料電池セルごとのガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量推定値を算出する含水量推定部と、現在の前記燃料電池スタック全体の含水量に応じて変動する基準値に対する前記含水量推定値の大きさを判定することにより、前記燃料電池セルに含まれる触媒の劣化の発生を検出する判定部と、を備える。
この形態の燃料電池監視装置によれば、インピーダンスの計測結果から導出されるガス拡散抵抗を用いて算出される含水量推定値の特性を利用して、触媒劣化の発生を的確に検出することができる。また、触媒劣化の判定に用いられる基準値は、例えば、燃料電池スタック全体の経年変化など、燃料電池スタック全体の現在の発電性能に応じて変化するため、燃料電池セルの中で特に触媒劣化が進行しているものを的確に検出することができる。
(6)第3の形態は、複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックの状態を監視する燃料電池監視装置として提供される。この形態の燃料電池監視装置は、前記燃料電池スタックに交流信号を印加して、前記燃料電池セルごとのインピーダンスを計測するインピーダンス計測部と、前記燃料電池セルごとの前記インピーダンスの計測結果から、前記燃料電池セルの含水量に相関性を有するガス拡散抵抗を求め、前記ガス拡散抵抗を用いて前記燃料電池セルごとの含水量の推定値である含水量推定値を算出する含水量推定部と、
判定対象となる複数の前記燃料電池セルについて、予め決められた順で、前記燃料電池セルに含まれる触媒の劣化の発生を判定する判定部と、を備え、前記判定部は、先に判定され、前記触媒の劣化が検出されなかった前記燃料電池セルの前記含水量推定値を基準値として用い、前記基準値に対して、今回の判定対象である前記燃料電池セルの前記含水量推定値が、予め決められた許容範囲を超えて低くなっていることを含む判定条件が成立したときに、今回の判定対象である前記燃料電池セルに前記触媒の劣化が生じていると判定する。
この形態の燃料電池監視装置によれば、触媒劣化が発生していないとされた他の燃料電池セルにおける含水量推定値を基準値とした判定がおこなわれる。そのため、現在の燃料電池スタック全体の正常な含水量推定値の傾向を判定結果に反映させることができ、燃料電池スタック全体の状態変化に起因する判定精度の変動を抑制することができる。
本開示の技術は、燃料電池監視装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池スタックの状態を判定する方法や、燃料電池における触媒劣化の検出方法、燃料電池スタックにおける反応ガスの分配不良の検出方法、燃料電池監視装置の制御方法および制御装置、燃料電池監視装置を備える燃料電池システムおよびその制御方法、前述のいずれかの方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態の燃料電池監視装置を備える燃料電池システムを示す概略図。
【
図3】第1実施形態の監視処理のフローを示す説明図。
【
図5】プロトン移動抵抗およびガス反応抵抗を説明するための説明図。
【
図6】ガス拡散抵抗と含水量推定値との相関関係を表すマップの一例を示す説明図。
【
図7】第1実施形態の判定処理のフローを示す説明図。
【
図8】触媒劣化の発生の有無による含水量推定値の変化を示す説明図。
【
図9】ガス拡散抵抗と燃料電池セルの実際の含水量との関係を示す説明図。
【
図10】第2実施形態の監視処理のフローを示す説明図。
【
図11】第2実施形態の判定処理のフローを示す説明図。
【
図12】第2実施形態における判定処理の判定結果の一例を示す説明図。
【
図13】第3実施形態の判定処理のフローを示す説明図。
【
図14】第4実施形態の監視処理のフローを示す説明図。
【
図15】第4実施形態の判定処理のフローを示す説明図。
【
図16】反応ガスのストイキ比の変化に対する含水量推定値の精度の変化を示す説明図。
【
図17】ガス拡散抵抗と燃料電池セルの実際の含水量との関係を示す説明図。
【
図18A】比較例としてのセル電圧と反応ガスのストイキ比の時間変化の一例を示す説明図。
【
図18B】第4実施形態の監視処理を実行したときのセル電圧と反応ガスのストイキ比の時間変化の一例を示す説明図。
【
図19】第5実施形態の監視処理のフローを示す説明図。
【
図20】第5実施形態の判定処理のフローを示す説明図。
【
図21】第6実施形態の監視処理のフローを示す説明図。
【
図22】第6実施形態の判定処理のフローを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.第1実施形態:
1-1.燃料電池システム概要:
図1は、第1実施形態における燃料電池監視装置10を備える燃料電池システム100の構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、反応ガスである燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給を受けて発電する燃料電池スタック20を備え、外部負荷200からの要求に応じた電力を燃料電池スタック20に発電させる。燃料電池監視装置10は、発電中の燃料電池スタック20を監視し、燃料電池スタック20に生じている不具合を検出する。以下では、燃料電池監視装置10以外の燃料電池システム100の構成を説明した後に、燃料電池監視装置10について説明する。
【0008】
第1実施形態では、燃料電池システム100は、燃料電池車両に搭載され、燃料電池車両の走行に用いられる電力や、燃料電池車両の補機類や電装品において消費される電力を出力する。燃料電池システム100が出力する電力は、外部給電に用いられてもよい。なお、他の実施形態では、燃料電池システム100は、燃料電池車両に搭載されていなくてもよい。燃料電池システム100は、例えば、船舶などの移動体に搭載されてもよく、建物など施設内に固定的に設置されてもよい。
【0009】
1-2.燃料電池スタックの構成:
燃料電池スタック20は、固体高分子形燃料電池であり、燃料ガスである水素と、酸化剤ガスである酸素の電気化学反応によって発電する。燃料電池スタック20は、複数の燃料電池セル21が積層されたスタック構造を有する。燃料電池セル21は、それぞれが単体でも発電可能な発電要素である。燃料電池スタック20には、各燃料電池セル21に接続する反応ガスおよび冷媒のための分岐流路である図示しないマニホールドが設けられている。
【0010】
図2は、燃料電池セル21の構成を示す概略断面図である。燃料電池セル21は、発電体である膜電極接合体50を備える。膜電極接合体50は、電解質膜51と、2つの電極52,53と、を備える。電解質膜51は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質樹脂の薄膜である。電解質膜51は、例えば、フッ素系のイオン交換樹脂によって構成される。第1電極52と第2電極53とはそれぞれ、電解質膜51の両面に配置されている。第1電極52は、燃料ガスが供給されるアノードであり、第2電極53は、酸化剤ガスが供給されるカソードである。各電極52,53は、電解質膜51の表面に配置された触媒層54と、触媒層54の上に積層されたガス拡散層55と、を備える。触媒層54は、発電反応を促進するための触媒と、触媒を担持する導電性粒子と、を含む。触媒としては、例えば、白金(Pt)を採用できる。また、導電性粒子としては、例えば、カーボン粒子を採用できる。ガス拡散層55は、ガス拡散性および導電性を有する多孔質基材によって構成される。ガス拡散層55は、例えば、カーボンペーパによって構成することができる。
【0011】
燃料電池セル21は、さらに、膜電極接合体50を挟む2枚のセパレータ61,62を備える。第1セパレータ61は、第1電極52に面し、第2セパレータ62は、第2電極53に面する。各セパレータ61,62は、例えば、金属板など、導電性およびガス不透過性を有する板状部材によって構成される。各セパレータ61,62の膜電極接合体50側の面には、反応ガスを誘導するガス流路63を構成する溝が形成されている。各燃料電池セル21のガス流路63は、図示しないマニホールドに接続されている。第1セパレータ61のガス流路63には燃料ガスが流れ、第2セパレータ62のガス流路63には酸化剤ガスが流れる。各セパレータ61,62のガス流路63が設けられた面とは反対側の面には、冷媒が流れる冷媒流路64が設けられている。
【0012】
図1を参照する。燃料電池スタック20は、燃料電池セル21の積層方向における両端にそれぞれ、エンドプレート22を備える。各エンドプレート22は、例えば、金属板によって構成される。燃料電池セル21の積層体は、エンドプレート22を介して、図示しない締結部材によって締結される。また、エンドプレート22には、後述する反応ガスの流通のための配管32,36,41,44が接続される接続部が設けられている。
【0013】
各エンドプレート22と、燃料電池セル21の積層体との間には、集電板23と絶縁板24とが配置されている。集電板23は、導電性を有する板状部材によって構成される。集電板23は、燃料電池セル21の積層体に接触しており、各燃料電池セル21と電気的に導通する。集電板23は、ターミナルとして機能する。燃料電池スタック20は、集電板23を介して、モーターや補機類、電装品を含む外部負荷200に電気的に接続されている。絶縁板24は、集電板23とエンドプレート22との間に配置されて両者を電気的に絶縁する。
【0014】
1-3.燃料電池スタックの発電のための構成部:
燃料電池システム100は、さらに、燃料電池スタック20の運転を制御するシステム制御部25と、燃料電池スタック20に対する反応ガスの供給および排出をおこなう燃料ガス給排部30および酸化剤ガス給排部40と、を備える。燃料電池システム100は、その他に、燃料電池スタック20の冷媒流路64に冷媒を供給する冷媒供給部や、出力電流を制御するためのコンバータ、二次電池などを備えている。ただし、本明細書では、便宜上、その図示および詳細な説明は省略する。
【0015】
システム制御部25は、少なくとも1つのプロセッサと主記憶装置とを備えるECU(Electronic Control Unit)によって構成される。システム制御部25は、プロセッサが主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令を実行することによって燃料電池スタック20の発電を制御するための種々の機能を発揮する。システム制御部25の機能の少なくとも一部は、ハードウェア回路によって構成されてもよい。システム制御部25は、燃料電池監視装置10の上位の制御部としても機能する。システム制御部25は、燃料電池スタック20の出力電流や、スタック電圧Vs、セル電圧Vc、含水量推定値Wcなど、燃料電池監視装置10において計測される後述のパラメータを燃料電池スタック20の運転制御のために用いてもよい。
【0016】
燃料ガス給排部30は、燃料ガスの供給系として、高圧タンク31と、供給配管32と、開閉弁33と、レギュレータ34と、インジェクタ35と、を備える。高圧タンク31は、高圧の燃料ガスを貯蔵する。供給配管32は、高圧タンク31と、エンドプレート22に設けられた燃料電池スタック20のアノード側のマニホールド入口と、を接続し、高圧タンク31内の燃料ガスを燃料電池スタック20に導く。開閉弁33とレギュレータ34とインジェクタ35とは、供給配管32に設けられている。システム制御部25は、開閉弁33の開閉を制御して、高圧タンク31から供給配管32への燃料ガスの流入を制御する。レギュレータ34は、インジェクタ35の上流側の圧力を調整する。インジェクタ35は、システム制御部25の制御下において、燃料ガスを燃料電池スタック20のアノード側に向けて噴射する。
【0017】
燃料ガス給排部30は、さらに、燃料ガスの排出・循環系として、循環配管36と、循環ポンプ37と、排水配管38と、排水弁39と、を備える。循環配管36は、エンドプレート22に設けられた燃料電池スタック20のアノード側のマニホールド出口に接続されている。循環配管36には、循環ポンプ37が設けられている。燃料電池スタック20から排出されるアノード排ガスは、循環ポンプ37によって、循環配管36を通じて供給配管32へと送り出される。排水配管38は、図示しない気液分離器を介して、循環配管36に接続されている。排水配管38は、気液分離器においてアノード排ガスから分離され、貯留されている液体成分である排水を燃料電池車両の外部に排出する。排水弁39は排水配管38に設けられている。システム制御部25は、排水弁39の開閉を制御して、排水配管38からの排水の排出を制御する。
【0018】
酸化剤ガス給排部40は、酸化剤ガスの供給系として、供給配管41と、コンプレッサ43と、を備える。供給配管41の一端は、エンドプレート22に設けられた燃料電池スタック20のカソード側のマニホールド入口に接続されており、他端は、図示しない燃料電池車両のエアインテークに接続されている。コンプレッサ43は、供給配管41に設けられており、システム制御部25の制御下において、酸化剤ガスである酸素を含有する空気を取り込んで圧縮し、燃料電池スタック20に供給する。
【0019】
酸化剤ガス給排部40は、さらに、酸化剤ガスの排出系として、排出配管44と、背圧弁45と、を備える。排出配管44は、エンドプレート22に設けられた燃料電池スタック20のカソード側のマニホールド出口に接続されており、燃料電池スタック20から排出されるカソード排ガスを燃料電池車両の外部に導く。背圧弁45は、排出配管44に設けられている。システム制御部25は、背圧弁45の開度を制御して、燃料電池スタック20の背圧を調節する。
【0020】
1-4.燃料電池監視装置の構成:
燃料電池監視装置10は、燃料電池監視装置10全体を制御して燃料電池スタック20の状態を監視する監視処理を実行する監視装置制御部11を備える。監視装置制御部11は、少なくとも1つのプロセッサと、主記憶装置と、を備えるコンピュータによって構成される。監視装置制御部11は、システム制御部25を構成するECUの一部として構成されてもよい。監視装置制御部11は、プロセッサが主記憶装置上に読み込んだプログラムや命令を実行することによって監視処理を実行するための種々の機能を発揮する。
【0021】
監視装置制御部11は、監視処理を実行するための機能部として、インピーダンス計測部11iと、含水量推定部11wと、判定部11jと、を有する。インピーダンス計測部11iは、交流インピーダンス法により、燃料電池スタック20のインピーダンスを計測する。含水量推定部11wは、インピーダンス計測部11iの計測結果から後述するガス拡散抵抗を算出する拡散抵抗算出部11rを有する。含水量推定部11wは、拡散抵抗算出部11rにおいて算出されたガス拡散抵抗を用いて、燃料電池セル21に含まれる水分量の推定値である含水量推定値を算出する。判定部11jは、含水量推定部11wによって算出された含水量推定値を用いた判定により、燃料電池セル21の不具合の発生を検出する。第1実施形態では、判定部11jは、各燃料電池セル21における触媒の劣化の発生を検出する。含水量推定値の算出方法や、含水量推定値を用いた判定方法の詳細については後述する。
【0022】
燃料電池監視装置10は、さらに、燃料電池スタック20の状態を監視するためのハードウェアとして、信号重畳部12と、電流計測部13と、スタック電圧計測部14と、セル電圧計測部15と、を備える。信号重畳部12は、交流電源を備え、監視装置制御部11のインピーダンス計測部11iの制御下において、燃料電池スタック20の出力電流に交流信号を重畳する。電流計測部13は、燃料電池スタック20の出力電流を計測し、監視装置制御部11に出力する。スタック電圧計測部14は、燃料電池スタック20全体の電圧であるスタック電圧を計測して、監視装置制御部11に出力する。セル電圧計測部15は、各燃料電池セル21の電圧であるセル電圧を計測して、監視装置制御部11に出力する。
【0023】
1-5.監視処理:
図3は、第1実施形態における監視処理のフローを示す説明図である。燃料電池監視装置10は、燃料電池スタック20の発電中に、予め決められた周期で、この監視処理を実行する。第1実施形態の監視処理では、予め定められた判定対象の燃料電池セル21について、触媒劣化の発生の有無が判定される。ここでの「触媒劣化」とは、例えば、触媒層54に含まれるカーボンの酸化に起因する触媒の離脱や、触媒の凝集による反応面積の減少など、触媒層54において不可逆に進行する劣化を意味する。こうした触媒劣化は、燃料電池セル21において燃料ガスの供給量が不足した状態で発電が継続されたときに生じやすい。
【0024】
第1実施形態の監視処理において判定対象となるのは、燃料電池スタック20を構成する全ての燃料電池セル21である。他の実施形態では、燃料電池スタック20を構成するN個の燃料電池セル21のうち、任意のn個が判定対象として予め選択されていてもよい。N,nは、N>nを満たす任意の自然数である。なお、一部の燃料電池セル21のみを判定対象とする場合には、少なくとも、燃料電池スタック20の積層方向における端部に配置されている燃料電池セル21が判定対象に含まれていることが望ましい。触媒劣化は、そうした端部に配置された燃料電池セル21において発生しやすい傾向にあるためである。
【0025】
ステップS10では、インピーダンス計測部11iは、燃料電池スタック20に交流信号を印加する。第1実施形態では、インピーダンス計測部11iは、信号重畳部12によって、燃料電池スタック20の出力電流に、周波数が異なる2つの交流信号を重畳させる。インピーダンス計測部11iは、周波数が異なる2つの交流信号を同時に重畳させてもよいし、交互に重畳させてもよい。インピーダンス計測部11iは、燃料電池スタック20が出力している電流の大きさに応じた正弦波交流の信号を重畳させる。重畳される交流の実効値は、例えば、燃料電池スタック20の出力電流の5~10%程度としてよい。信号重畳部12が重畳する2つの交流信号の周波数のうち、高い方の周波数を「高周波数fH」と呼び、低い方の周波数を「低周波数fL」と呼ぶ。高周波数fHは、例えば0.8~1.2kHzであり、低周波数は、例えば18~22Hzである。ここでの高周波数fHおよび低周波数fLは、相対的な周波数の高低を区別するための名称であり、一般的な意味での「低周波」や「高周波」とは異なる概念である。
【0026】
ステップS20では、インピーダンス計測部11iは、信号重畳部12が交流信号を重畳させている間に、スタック電圧計測部14によって判定対象の燃料電池スタック20の出力電圧波形を計測し、セル電圧計測部15によって燃料電池セル21ごとの出力電圧波形を計測する。また、インピーダンス計測部11iは、電流計測部13によって燃料電池スタック20の出力電流波形を計測する。これによって取得されるセル電圧Vc、スタック電圧Vs、出力電流Isは、交流電流が重畳されたことによって発生する応答電流の電圧値・電流値である。
【0027】
インピーダンス計測部11iは、セル電圧Vcと出力電流Isとを用いて、判定対象の燃料電池セル21ごとのインピーダンスを算出する。また、インピーダンス計測部11iは、スタック電圧Vsと出力電流Isとを用いて、燃料電池スタック20全体のインピーダンスを算出する。インピーダンス計測部11iは、例えば高速フーリエ変換(FFT)法によって、高周波数fHおよび低周波数fLのそれぞれについて、判定対象の燃料電池セル21および燃料電池スタック20全体のインピーダンスの絶対値及び位相角を算出する。
【0028】
図4~
図6を参照して、ステップS30での含水量推定値算出処理を説明する。ステップS30では、含水量推定部11wは、ステップS20において判定対象の燃料電池セル21ごとに算出されたインピーダンスを用いて、判定対象の燃料電池セル21ごとの含水量推定値Wcを算出する。
【0029】
図4は、含水量推定値算出処理の工程を示す説明図である。ステップS31では、まず、含水量推定部11wの拡散抵抗算出部11rが、各燃料電池セル21のプロトン移動抵抗R
memおよびガス反応抵抗R
ctを算出する。
【0030】
図5を参照して、プロトン移動抵抗R
memおよびガス反応抵抗R
ctを説明する。
図5には、周波数とインピーダンスとの関係を複素平面上に示した特性図であるコールコールプロット図が図示されている。プロトン移動抵抗R
memは、高周波数f
Hにおけるインピーダンスの実軸の値に相当し、ガス反応抵抗R
ctは、円弧状のインピーダンスの軌跡と実軸とが交わる交点での実軸の値から高周波数f
Hにおけるインピーダンスの実軸の値を減じた値に相当する。
【0031】
プロトン移動抵抗Rmemは、抵抗過電圧を抵抗換算した成分である。抵抗過電圧は、電解質膜の乾燥に伴って増大する。プロトン移動抵抗Rmemは、高周波数fHの交流に対して取得されたインピーダンスを用いて算出される。具体的には、プロトン移動抵抗Rmemは、高周波数fHにおけるインピーダンスの絶対値R1及び位相θ1を、以下の数式F1に適用することによって算出される。
Rmem=R1・cosθ1 …(F1)
【0032】
ガス反応抵抗Rctは、活性化過電圧および濃度過電圧を抵抗換算した成分である。ガス反応抵抗Rctは、低周波数fLの交流に対して取得されたインピーダンスと、プロトン移動抵抗Rmemと、を用いて、以下のように算出される。まず、低周波数fL、高周波数fHそれぞれにおけるインピーダンスの絶対値R1,R2、および、位相θ2を、以下の数式F2,F3に適用して、低周波数fLにおけるインピーダンス中のガス反応抵抗Rctの特性を示す成分φ,Aを算出する。
φ=tan-1[(R2・sinθ2)/{(R2・cosθ2)-Rmem}] …(F2)
A=(R2・sinθ2)/sinφ …(F3)
【0033】
次に、前述の数式F2、F3によって得られたφ、及びAを、以下の数式F4に適用することによって、ガス反応抵抗Rctが算出される。
Rct=A/cosφ …(F4)
【0034】
図4を参照する。ステップS32~S35では、拡散抵抗算出部11rは、3つのガス拡散抵抗R
total,R
wet,R
dryを算出する。各ガス拡散抵抗R
total,R
wet,R
dryの単位は、「s/m」である。ガス拡散抵抗R
totalは、反応ガスの触媒層54への拡散の困難性を示すパラメータである。ガス拡散抵抗R
totalは、2つのガス拡散抵抗R
wet,R
dryの和に相当する。つまり、R
total=R
wet+R
dryである。
【0035】
ガス拡散抵抗Rwetは、燃料電池スタック20内部のフラッディングに依拠して変化する拡散特性を示すパラメータである。ガス拡散抵抗Rwetは、燃料電池セル21内部の水分状態に大きく影響を受けて変化する。ガス拡散抵抗Rdryは、ドライアップに依拠して変化する拡散特性を示すパラメータである。ガス拡散抵抗Rdryは、燃料電池セル21内部の乾燥状態に大きく影響を受けて変化する。
【0036】
ステップS32では、拡散抵抗算出部11rは、プロトン移動抵抗Rmemを用いて、ガス拡散抵抗Rdryを算出する。プロトン移動抵抗Rmemは、燃料電池セル21内部の湿度RHに対して、以下の数式F5に示される相関性を有する。拡散抵抗算出部11rは、数式F5の関係を表すマップM1を予め記憶しており、マップM1を参照して、プロトン移動抵抗Rmemを湿度RHに変換する。数式F5中の「a」および「b」は定数である。
RH∝a・(Rmem)-b …(F5)
【0037】
ガス拡散抵抗Rdryは、拡散係数Ddryに対して、以下の数式F6に示される相関性を有し、拡散係数Ddryに反比例する。拡散係数Ddryは、燃料電池セル21内部の湿度RHに対して、湿度RHが増加するほど大きくなる相関性を有する。拡散抵抗算出部11rは、湿度RHと拡散係数Ddryとの相関関係を表す予め記憶されているマップM2を用いて、湿度RHから拡散係数Ddryを算出する。拡散抵抗算出部11rは、その拡散係数Ddryを用いて、予め記憶されている下記の数式F6が表す相関関係に基づいて、ガス拡散抵抗Rdryを算出する。式中の「c」は定数であり、「δ」はガス拡散層55の厚みである。
Rdry∝c・(δ/Ddry) …(F6)
【0038】
ステップS33では、拡散抵抗算出部11rは、ガス拡散抵抗Rtotalの算出に用いられる限界電流密度Ilimを、下記の数式F7~F11を用いて算出する。数式中の「F」はファラデー定数、「R」は気体定数、「T」は温度、「n」は定数、「I」は電流密度、「Io」は交換電流密度、「E」は制御電圧、「Eo」は理論起電圧、「ηc」は濃度過電圧、「ηa」は活性化過電圧、「ηR」は抵抗過電圧、「q」は電荷移動係数を表す定数である。
Ilim={ep/(ep-1)}・I …(F7)
p=(ηc・n・F)/(2・R・T) …(F8)
ηc=Eo-E-ηa-ηR …(F9)
ηa=(R・T/2・q・F)ln(I/Io) …(F10)
ηR=I・Rmem …(F11)
【0039】
ステップS34では、拡散抵抗算出部11rは、予め記憶している関数である下記の数式F12に、ステップS31で求めたガス反応抵抗Rctと、ステップS33で算出した限界電流密度Ilimを適用して、ガス拡散抵抗Rtotalを算出する。式中の「ρ」及び「ξ」は、燃料電池セル21内の反応ガスのガス濃度を変化させた際の限界電流密度によって予め計測しておいたガス拡散抵抗の実測値と推定値とをフィッティングして設定する定数である。ガス拡散抵抗の推定値は、ガス反応抵抗Rct、および、限界電流密度Ilimから算出される。
Rtotal=ρ・(Rct・Ilim)ξ …(F12)
【0040】
ステップS35では、拡散抵抗算出部11rは、下記の数式F13に示すように、ガス拡散抵抗Rtotalからガス拡散抵抗Rdryを減算して、ガス拡散抵抗Rwetを算出する。
Rwet=Rtotal-Rdry …(F13)
【0041】
図6は、ガス拡散抵抗R
wetと燃料電池セル21における含水量推定値との相関関係を表すマップM3の一例を示す説明図である。このマップM3に表されている相関関係は、ガス拡散抵抗R
wetに対する燃料電池セル21の含水量の実測値をプロットすることによって得られる。
【0042】
ステップS36では、含水量推定部11wは、マップM3を予め記憶しており、マップM3を用いて、ステップS35で算出されたガス拡散抵抗R
wetに対する燃料電池セル21の含水量推定値Wcを取得する。ステップS36では、含水量推定部11wは、マップM3を用いる代わりに、
図6の相関関係を近似的に表す下記の数式F14を用いて、含水量推定値Wcを算出してもよい。
Wc=10
-8・R
wet
4-10
-7・R
wet
3-10
-5・R
wet
2+7・R
wet
-4 …(F14)
【0043】
このように、含水量推定部11wは、インピーダンスの計測値からガス拡散抵抗Rwetを導き出し、そのガス拡散抵抗Rwetに基づいて含水量推定値Wcを導出している。インピーダンスの計測値自体は、燃料電池セル21内の水分状態以外の要因でも変動するパラメータである。それに対して、ガス拡散抵抗Rwetは、インピーダンスの計測値から導出される成分のうちで、燃料電池セル21における含水量に対して高い相関性を有し、燃料電池セル21内部の水分状態に応じて高い感度で変動する成分である。よって、ガス拡散抵抗Rwetに基づき導出される含水量推定値Wcは、燃料電池セル21が正常な状態であれば、燃料電池セル21内部の実際の含水量を高い精度で示す。
【0044】
図3を参照する。ステップS40では、含水量推定部11wは、燃料電池スタック20全体のインピーダンスの計測結果から、燃料電池セル21ごとの含水量を表す含水量基準推定値Wsを次のように算出する。含水量推定部11wは、まず、ステップS20で計測した燃料電池スタック20全体のインピーダンスを用いて、
図4のステップS31と同様な演算処理によって、燃料電池スタック20全体でのプロトン移動抵抗およびガス反応抵抗を求める。含水量推定部11wは、それらプロトン移動抵抗およびガス反応抵抗を、燃料電池スタック20に含まれる燃料電池セル21の個数で除算することにより、燃料電池セル21あたりのプロトン移動抵抗R
memA、および、ガス反応抵抗R
ctAを算出する。次に、含水量推定部11wは、プロトン移動抵抗R
memA、および、ガス反応抵抗R
ctAを、燃料電池セル21ごとのプロトン移動抵抗R
memおよびガス反応抵抗R
ctの代わりに用いて、
図4のステップS32~S35と同様な演算処理によって、燃料電池スタック20のガス拡散抵抗R
wetAを取得する。含水量推定部11wは、
図6のマップM3を用いて、燃料電池スタック20のガス拡散抵抗R
wetAに対する含水量推定値を、含水量基準推定値Wsとして取得する。
【0045】
図7は、ステップS50Aにおいて判定部11jが実行する第1実施形態の判定処理のフローを示す説明図である。判定部11jは、判定対象である燃料電池セル21ごとにステップS101の判定を繰り返しおこなって、全ての判定対象の燃料電池セル21について触媒劣化の発生の有無を判定する。
【0046】
ステップS101では、判定部11jは、基準値である含水量基準推定値Wsに対する判定対象である燃料電池セル21の含水量推定値Wcの大きさを判定する。より具体的には、判定部11jは、含水量基準推定値Wsから判定対象の燃料電池セル21の含水量推定値Wcを減算した差分が、予め決められた正の閾値αより大きいか否かを判定する。Ws-Wc>αの関係が満たされた場合には、判定部11jは、ステップS102において、今回の判定対象である燃料電池セル21に触媒劣化が生じていると判定する。判定部11jは、触媒劣化の発生が検出されたことを示すフラグを、今回の判定対象である燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けて設定する。ステップS101において、Ws-Wc>αの関係が満たされない場合には、次の判定対象の燃料電池セル21について、ステップS101の判定をおこなう。
【0047】
図8は、触媒劣化の発生の有無による含水量推定値の精度の変化を検証した実験結果を示す説明図である。
図8には、燃料電池セルの含水量推定値を横軸とし、含水量の実測値を縦軸とする散布図が図示されている。
図8では、含水量推定値が含水量の実測値と一致する理想の分布位置を示す直線を一点鎖線によって図示し、含水量の実測値に対する含水量推定値の許容される誤差範囲を破線によって図示してある。この実験結果に示されているように、触媒劣化が生じていない多くの正常な燃料電池セルにおいて、含水量推定値と実測値との差は許容される誤差範囲内にほぼ収まった。これに対して、触媒劣化が生じている多くの燃料電池セルでは、含水量推定値が実測値に対して低い値として算出された。
【0048】
図9は、実験によって得られたガス拡散抵抗R
wetと燃料電池セルの実際の含水量との関係を示す説明図である。
図9のグラフG1は、正常な燃料電池セルにおいて得られたものであり、グラフG2,G3は触媒劣化が生じている燃料電池セルにおいて得られたものである。なお、グラフG3の燃料電池セルは、グラフG2の燃料電池セルよりも触媒劣化がより進行していた。これらのグラフが示すように、触媒劣化が進行しているものほど、同じ含水量WAに対するガス拡散抵抗R
wetの値が小さくなった。これは、触媒劣化が進行するほどガス反応抵抗R
ctが小さくなるためであると考えられる。
【0049】
図8および
図9の実験結果に示されているように、含水量推定値Wcには、触媒劣化が生じていると、燃料電池セル21の実際の含水量よりも低い値として算出される特性がある。ステップS101での判定は、その特性を利用し、含水量基準推定値Wsを実際の含水量に近い基準値として、判定対象の燃料電池セル21の含水量推定値Wcが、その基準値Wsよりも許容範囲を超えて低下しているか否かを判定するものである。判定条件での閾値αは、その許容範囲を定める値である。閾値αは、許容できない程度に進行した触媒劣化を検出できるように、理論的、あるいは、実験的に予め定められた値でよい。
【0050】
第1実施形態の判定処理では、燃料電池スタック20全体のインピーダンスの計測結果から求まる燃料電池セル21ごとの含水量を表す含水量基準推定値Wsを基準値として用いている。含水量基準推定値Wsは、燃料電池スタック20全体の発電性能の経年変化に応じて変動する値であり、現在の燃料電池スタック20の含水量に応じて変動する値である。そのため、燃料電池スタック20がそうした経年変化をした場合でも、燃料電池セル21の中で特に触媒劣化が進行しているものを的確に検出することができる。
【0051】
図3を参照する。ステップS60では、監視装置制御部11は、ステップS50Aの判定処理において設定されたフラグを検査して、判定対象の燃料電池セル21の中に触媒劣化の発生が検出されたものがあるか否かを判定する。触媒劣化の発生が検出された燃料電池セル21がない場合には、監視装置制御部11はそのまま監視処理を終了する。触媒劣化の発生が検出された燃料電池セル21がある場合には、監視装置制御部11は、ステップS70において、触媒劣化の進行を抑制するための処理を実行する。
【0052】
ステップS70では、監視装置制御部11は、例えば、燃料ガスの供給量を通常よりも増加させるように、システム制御部25に依頼する。燃料ガスの供給量が不足するときに触媒の劣化が進行しやすくなるためである。ステップS70では、監視装置制御部11は、燃料電池スタック20の出力電流を予め決められた値を超えないように制限するようにシステム制御部25に依頼してもよい。ステップS70では、監視装置制御部11は、予め決められた個数よりも多い燃料電池セル21に触媒劣化が検出された場合には、燃料電池スタック20の発電を停止するようにシステム制御部25に依頼してもよい。また、ステップS70では、監視装置制御部11は、燃料電池車両のユーザーに、触媒劣化の発生を報知する処理を実行してもよい。この報知処理では、触媒劣化が生じている燃料電池セル21の識別子を併せて報知してもよい。ステップS70の処理の実行後、監視装置制御部11は、監視処理を終了する。
【0053】
1-6.第1実施形態のまとめ:
以上のように、第1実施形態の燃料電池監視装置10によれば、インピーダンスの計測結果から求められるガス拡散抵抗Rwetから導出される含水量推定値Wcの特性に基づいて、一部の燃料電池セル21に生じている触媒劣化を精度よく検出することができる。よって、燃料電池監視装置10を備える燃料電池システム100によれば、触媒劣化の進行による不具合の発生を抑制することができる。その他に、第1実施形態の燃料電池監視装置10、それを備える燃料電池システム100、それらにおいて実現されている燃料電池セル21の状態の判定方法によれば、第1実施形態中で説明した種々の作用効果を奏することができる。
【0054】
2.第2実施形態:
図10は、第2実施形態の監視処理のフローを示す説明図である。第2実施形態の監視処理は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池監視装置10において実行される。燃料電池監視装置10は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池システム100に搭載されている。第2実施形態の監視処理のフローは、第1実施形態におけるステップS50Aの判定処理の代わりに、ステップS50Bの判定処理が実行される点と、ステップS52,S54の処理が追加されている点以外は、第1実施形態の監視処理のフローとほぼ同じである。監視装置制御部11は、第1実施形態で説明したのと同様に、ステップS10~S40において含水量推定値Wcと含水量基準推定値Wsとを算出した後、ステップS50Bの判定処理において、判定部11jにより、触媒劣化の発生の有無を判定する。
【0055】
図11は、ステップS50Bの判定処理のフローを示す説明図である。第2実施形態の判定処理では、燃料電池セル21における負電位の発生の有無によって、触媒劣化による不良と、水によるガス流路63の閉塞による不良と、が区別して検出される点が、第1実施形態の判定処理とは異なっている。判定部11jは、判定対象である燃料電池セル21ごとにステップS110~S116の処理を繰り返しおこなう。
【0056】
ステップS110では、判定部11jは、判定対象である燃料電池セル21のセル電圧Vcが負電位であるか否かを判定する。燃料電池セル21において触媒劣化、または、水によるガス流路63の閉塞が生じている場合には、その燃料電池セル21のセル電圧Vcは負電位となる。判定部11jは、判定対象である燃料電池セル21において負電位が検出されなかった場合には、判定対象の燃料電池セル21には、触媒劣化も水によるガス流路63の閉塞も生じていないと判定して、その燃料電池セル21についての判定を終了する。
【0057】
判定対象である燃料電池セル21における負電位の発生が検出された場合には、判定部11jは、ステップS111において、負電位の原因が触媒劣化によるものであるか否かを判定する。ステップS111では、判定部11jは、第1実施形態の判定処理のステップS101と同様に、含水量基準推定値Wsを基準値として用いて、含水量推定値Wcの大きさを判定する。
【0058】
含水量基準推定値Wsから含水量推定値Wcを減算した差分が予め定められた閾値αよりも大きい場合には、判定部11jは、ステップS115において、判定対象の燃料電池セル21に触媒劣化が発生していることを検出する。判定部11jは、その燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けられた、触媒劣化の発生が検出されたことを示すフラグを設定する。
【0059】
含水量基準推定値Wsから含水量推定値Wcを減算した差分が閾値αより小さい場合には、判定部11jは、判定対象の燃料電池セル21に水によるガス流路63の閉塞が発生していることを検出する。判定部11jは、ステップS116において、水によるガス流路63の閉塞の発生を検出していることを示すフラグを、今回の判定対象の燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けて設定する。
【0060】
図12は、第2実施形態における判定処理の判定結果の一例を示す説明図である。1~m+1番目の判定対象の燃料電池セル21についての含水量推定値Wcとセル電圧Vcとが示されている。判定対象の燃料電池セル21の個数をnとするとき、mは、n-1以下の任意の自然数である。
図12の例では、第2実施形態の判定処理において、負電位の発生のみが検出されたm-2番目の燃料電池セル21については、水によるガス流路63の閉塞の発生が検出される。負電位の発生と、含水量基準推定値Wsに対する含水量推定値Wcの許容範囲を超えた低下と、が検出されたm番目の燃料電池セル21については、触媒劣化が検出される。
【0061】
図10を参照する。ステップS52では、監視装置制御部11は、判定対象の燃料電池セル21の中に、水によるガス流路63の閉塞の発生が検出されたものがあるか否かを判定する。水によるガス流路63の閉塞の発生が検出されたものがある場合には、監視装置制御部11は、ステップS54において、ガス流路63を閉塞する水を吹き飛ばすために、反応ガスの流量を通常より増加させる処理をシステム制御部25に依頼する。
【0062】
続いて、ステップS60では、監視装置制御部11は、第1実施形態で説明したのと同様に、判定対象の燃料電池セル21の中に、触媒劣化の発生が検出されたものがあるか否かを判定する。触媒劣化の発生が検出されたものがある場合には、監視装置制御部11は、ステップS70において、第1実施形態で説明したような触媒劣化の進行を抑制するための処理の実行をシステム制御部25に依頼する。
【0063】
以上のように、第2実施形態の監視処理を実行する燃料電池監視装置10によれば、触媒劣化を検出するための判定として、セル電圧Vcによる判定が追加されているため、触媒劣化の検出精度が高められている。また、第2実施形態の燃料電池監視装置10によれば、触媒劣化による不良と、水によるガス流路63の閉塞による不良と、を区別して検出することができる。第2実施形態の燃料電池監視装置10を備える燃料電池システム100によれば、触媒劣化、または、水によるガス流路63の閉塞が、不良の発生要因として特定されるため、その不良の発生要因に応じた適切な対応処理を実行することできる。その他に、第2実施形態の燃料電池監視装置10、それを備える燃料電池システム100、および、それらにおいて実現されている燃料電池セル21の状態の判定方法によれば、上記の第1実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0064】
3.第3実施形態:
図13は、第3実施形態の監視処理において実行される判定処理のフローを示す説明図である。第3実施形態の監視処理は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池監視装置10において実行される。燃料電池監視装置10は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池システム100に搭載されている。第3実施形態の監視処理のフローは、判定部11jが実行する判定処理の内容が異なっている点以外は、第2実施形態の監視処理のフローとほぼ同じである。なお、第3実施形態では、ステップS20での燃料電池スタック20全体のインピーダンスを計測する処理と、ステップS40の含水量基準推定値Wsを算出する処理は省略されてもよい。
【0065】
第3実施形態の判定処理は、判定部11jが、ステップS111の代わりに、触媒劣化の有無を検出する判定条件が異なるステップS112の判定を実行する点以外は、第2実施形態で説明した判定処理とほぼ同じである。判定部11jは、判定対象である複数の燃料電池セル21のそれぞれについて予め決められた順で判定を繰り返す。第3実施形態では、判定対象の燃料電池セル21の判定順序は燃料電池スタック20において積層されている順である。
【0066】
判定部11jは、ステップS110において負電位が検出されなかった燃料電池セル21について、ステップS112の判定をおこなう。ステップ112では、先に判定され、触媒劣化が検出されなかった燃料電池セル21の含水量推定値Wcを基準値Wpとして用いて判定がおこなわれる。ステップS112の最初の判定では、基準値Wpには、予め設定された初期値が設定される。判定部11jは、その基準値Wpに対して、今回の判定対象である燃料電池セル21の含水量推定値Wcが、予め決められた許容範囲を超えて低下しているときに、今回の判定対象である燃料電池セル21に触媒劣化が生じていると判定する。ステップS112では、判定部11jは、基準値Wpから含水量推定値Wcを減算した値が、許容範囲として予め決められた正の閾値βより大きいときに、ステップS115において、その燃料電池セル21に触媒劣化が生じていると判定する。判定部11jは、触媒劣化の検出を示すフラグを、判定対象の燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けて設定する。一方、判定部11jは、基準値Wpから含水量推定値Wcを減算した値が閾値βより小さいときには、ステップS116において、ステップS110で当該燃料電池セル21において検出された負電位の原因として、水によるガス流路63の閉塞を検出する。判定部11jは、水によるガス流路63の閉塞の検出を示すフラグを、判定対象の燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けて設定する。
【0067】
ステップS117では、次のステップS112での判定に用いられる基準値Wpが設定される。ステップS112において触媒劣化が検出されなかった場合には、その判定対象の燃料電池セル21の含水量推定値Wcが、次の判定での基準値Wsとして設定される。一方、ステップS112において触媒劣化が検出された場合には、その燃料電池セル21の含水量推定値Wcは、触媒劣化の発生を示すものであるため、次の判定対象の判定に用いる基準値Wsとすることは好ましくない。そのため、この場合には、判定部11jは、基準値Wpを変更することなく、今回の判定で用いられた値をそのまま基準値Wpとして継続して使用する。
【0068】
第3実施形態の判定処理によれば、負電位を示し、かつ、含水量推定値Wcが、判定対象である燃料電池セル21全体の傾向から外れて顕著に低下しているものについて触媒劣化の発生が検出される。よって、含水量基準推定値Wsを算出しなくても、含水量基準推定値Wsを判定の基準値として用いた場合と同様に、他の燃料電池セル21に比較して触媒が顕著に劣化しているものを精度よく検出することができる。その他に、第3実施形態の燃料電池監視装置10、それを備える燃料電池システム100、および、それらにおいて実現されている燃料電池セル21の状態の判定方法によれば、上記の各実施形態において説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0069】
4.第4実施形態:
図14は、第4実施形態の監視処理のフローを示す説明図である。第4実施形態の監視処理は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池監視装置10において実行される。燃料電池監視装置10は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池システム100に搭載されている。燃料電池監視装置10は、燃料電池スタック20の発電中に、予め決められた周期で、この監視処理を実行する。
【0070】
第4実施形態の監視処理では、第1実施形態で説明したステップS10~S40の処理によって取得される含水量推定値Wcと、含水量基準推定値Wsと、を用いて、燃料電池スタック20の各燃料電池セル21に対する反応ガスの分配不良の発生を検出する。「反応ガスの分配不良」とは、燃料電池スタック20の発電中に、燃料電池セル21にマニホールドを通じて分配される反応ガスの供給量が基準量に満たないことによって生じる不具合を意味する。
【0071】
第4実施形態の監視処理において判定対象となるのは、燃料電池スタック20を構成する全ての燃料電池セル21である。他の実施形態では、燃料電池スタック20を構成する燃料電池セル21のうちの一部のみが判定対象として予め選択されていてもよい。一部の燃料電池セル21のみを判定対象とする場合には、少なくとも、燃料電池スタック20の積層方向における端部に配置されている燃料電池セル21が判定対象に含まれていることが望ましい。反応ガスの分配不良は、そうした端部に配置された燃料電池セル21のマニホールドに溜まった液水によって発生しやすい傾向にあるためである。第4実施形態の監視処理では、ステップS10~S40において、第1実施形態で説明したのと同様に、含水量推定値Wcおよび含水量基準推定値Wsが取得された後、ステップS50Dの判定処理が実行される。
【0072】
図15は、ステップS50Dにおいて判定部11jが実行する第4実施形態の判定処理のフローを示す説明図である。判定部11jは、判定対象である燃料電池セル21ごとにステップS121の判定を繰り返しおこなって、全ての判定対象の燃料電池セル21について反応ガスの分配不良の発生の有無を判定する。
【0073】
ステップS121では、判定部11jは、判定対象の燃料電池セル21の含水量推定値Wcが含水量基準推定値Wsより大きいか否かを判定する。Wc>Wsが満たされたとき、判定部11jは、ステップS122において、今回の判定対象の燃料電池セル21に反応ガスの分配不良が生じていることを検出する。判定部11jは、反応ガスの分配不良の発生が検出されたことを示すフラグを、今回の判定対象の燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けて設定する。ステップS121において、Wc>Wsが満たされない場合には、判定部11jは、今回の判定対象の燃料電池セル21についての判定を終了する。
【0074】
図16は、反応ガスのストイキ比の変化に対する含水量推定値の精度の変化を検証した実験結果を示す説明図である。
図16には、燃料電池セルの含水量推定値を横軸とし、含水量の実測値を縦軸とする散布図が図示されている。
図16では、
図8と同様に、含水量推定値が含水量の実測値と一致する理想の分布位置を示す直線を一点鎖線によって図示し、含水量の実測値に対する含水量推定値の許容される誤差範囲を破線によって図示してある。
【0075】
ここで、「反応ガスのストイキ比」とは、燃料電池スタック20の発電量に対して理論的に必要とされる反応ガスの供給量に対する実際の反応ガスの供給量の比率である。
図16の各グラフは、反応ガスのストイキ比を1.1,1.2,1.5,2.0,2.5としたときのプロットを、反応ガスのストイキ比ごとにつなげたものである。
図16では、そのグラフが得られたときの反応ガスのストイキ比を吹き出し内に示してある。この実験結果に示されているように、反応ガスのストイキ比が1.5より小さい場合には、含水量推定値は、含水量の実測値よりも高めの値が得られるようになり、その精度は許容範囲から外れた。
【0076】
図17は、実験によって得られたガス拡散抵抗R
wetと燃料電池セルの実際の含水量との関係を示す説明図である。
図17の各グラフは、反応ガスのストイキ比を1.2,1.3,2.0としたときに得られたものである。
図17には、そのグラフが得られたときの反応ガスのストイキ比を吹き出し内に示してある。同じ含水量WAに対するガス拡散抵抗R
wetの値は、反応ガスのストイキ比が小さくなるほど小さくなった。
【0077】
図16および
図17の実験結果に示されているように、含水量推定値Wcには、燃料電池セル21における反応ガスのストイキ比が低下するほど、実際の含水量よりも高い値として算出される特性がある。ステップS121では、含水量基準推定値Wsを、現在の燃料電池スタック20全体での反応ガスのストイキ比に対して求められる燃料電池セル21ごとの含水量の実際の値に近い基準値として用いている。ステップS121では、判定対象の燃料電池セル21の含水量推定値Wcが、含水量基準推定値Wsよりも大きいときに、その判定対象の燃料電池セル21において、反応ガスのストイキ比が、他の燃料電池セル21よりも低下しており、反応ガスの分配不良が発生していると判定される。
【0078】
図14を参照する。ステップS80では、監視装置制御部11は、判定対象の燃料電池セル21の中に、ステップS50Dの判定処理において設定されたフラグを検査して、反応ガスの分配不良の発生が検出されたものがあるか否かを判定する。反応ガスの分配不良の発生が検出された燃料電池セル21がない場合には、監視装置制御部11はそのまま監視処理を終了する。
【0079】
反応ガスの分配不良の発生が検出された燃料電池セル21がある場合には、監視装置制御部11は、ステップS82において、反応ガスの分配不良を解消するための処理を実行する。監視装置制御部11は、反応ガスの供給流量を一時的に通常よりも増加させる処理をシステム制御部25に依頼する。この処理は、反応ガスのストイキ比を一時的に通常よりも増加させる処理と言い換えてもよい。ステップS82では、監視装置制御部11は、燃料電池車両のユーザーに、反応ガスの分配不良の発生を報知する処理を実行してもよい。この報知処理では、反応ガスの分配不良が生じている燃料電池セル21の識別子を合わせて報知してもよい。ステップS82では、反応ガスの分配不良が検出された燃料電池セル21の数が多いほど、燃料電池スタック20の目標電流に対する反応ガスの供給量が増加されてもよい。
【0080】
図18Aは、比較例におけるセル電圧の時間変化と反応ガスのストイキ比の時間変化とを、時間軸を対応させて示す説明図である。
図18Aでは、ストイキ比についての実線グラフSsは、燃料電池スタック全体での反応ガスのストイキ比を示し、一点鎖線のグラフScは、反応ガスの分配不良の検出対象である燃料電池セル単体での反応ガスのストイキ比を示している。また、
図18Aではセル電圧についての実線グラフVcAは、燃料電池スタック全体でのセル電圧の平均値を示し、一点鎖線のグラフVcは、反応ガスの分配不良の検出対象である燃料電池セル単体でのセル電圧を示している。この比較例では、セル電圧Vcが予め定めた閾値Vthよりも低下したときに、反応ガスの分配不良が発生しているものとして、その不良を解消するために反応ガスのストイキ比を一時的に増加させる処理が実行される。
【0081】
比較例の処理では、セル電圧の低下が一時的な誤差変動によるものであるのか、反応ガスの分配不良によるものであるのか、の判別ができないため、セル電圧が閾値を超える顕著な低下を示すまで、反応ガスのストイキ比を増大させることはできない。また、そうしたセル電圧の低下が検出された後、反応ガスのストイキ比を増大させたとしても、セル電圧の顕著な低下が検出されるまでの間の比較的長い期間に、マニホールドに溜まった反応ガスの分配不良の原因である多量の液水を除去するのには時間がかかる。長期間にわたって反応ガスの流量を増大させると、電解質膜が乾燥し、グラフVcAに示されているように、一時的に、各燃料電池セルのセル電圧が低下してしまう可能性がある。
【0082】
図18Bは、第4実施形態の監視処理を実行した場合におけるセル電圧の時間変化の一例と、反応ガスのストイキ比の時間変化の一例とを、時間軸を対応させて示す
図18Aと同様な説明図である。第4実施形態の監視処理によれば、反応ガスのストイキ比の変化に対する感度が高い含水量推定値Wcを用いて判定するため、セル電圧Vcが顕著に低下してしまう前の早い段階で、反応ガスの分配不良を精度よく検出することができる。また、反応ガスの分配不良を早期に検出できるため、その反応ガスの分配不良を解消するために反応ガスのストイキ比を増大させる期間を、比較例の場合よりも短くすることができる。よって、反応ガスのストイキ比を一時的に増加させたときの電解質膜における乾燥の発生を抑制することができる。
【0083】
以上のように、第4実施形態の監視処理を実行する燃料電池監視装置10によれば、反応ガスのストイキ比の変化に応じて感度よく変動する含水量推定値Wcを用いて、燃料電池セル21における反応ガスの分配不良を早期に精度よく検出することができる。その他に、第4実施形態の燃料電池監視装置10、それを備える燃料電池システム100、および、それらにおいて実現されている燃料電池セル21の状態の判定方法によれば、上記の各実施形態で説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0084】
5.第5実施形態:
図19は、第5実施形態の監視処理のフローを示す説明図である。第5実施形態の監視処理は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池監視装置10において実行される。燃料電池監視装置10は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池システム100に搭載されている。燃料電池監視装置10は、燃料電池スタック20の発電中に、予め決められた周期で、この監視処理を実行する。第5実施形態の監視処理では、第1実施形態で説明したステップS10~S40の処理によって取得される含水量推定値Wcと、含水量基準推定値Wsと、を用いて、燃料電池セル21の不良の発生が検出される。また、検出された不良の発生要因が、触媒劣化と、反応ガスの分配不良のいずれであるのかが判定される。
【0085】
第5実施形態の監視処理において判定対象となるのは、燃料電池スタック20を構成する全ての燃料電池セル21である。他の実施形態では、燃料電池スタック20を構成する燃料電池セル21のうち、一部の燃料電池セル21が判定対象として予め選択されていてもよい。一部の燃料電池セル21のみを判定対象とする場合には、第1実施形態や第4実施形態で説明したように、少なくとも、燃料電池スタック20の積層方向における端部に配置されている燃料電池セル21が判定対象に含まれていることが望ましい。第5実施形態の監視処理では、ステップS10~S40において、第1実施形態で説明したのと同様に、含水量推定値Wcおよび含水量基準推定値Wsが取得された後、ステップS50Eの判定処理が実行される。
【0086】
図20は、ステップS50Eにおいて判定部11jが実行する第5実施形態の判定処理のフローを示す説明図である。判定部11jは、判定対象である燃料電池セル21ごとにステップ130~134の処理を繰り返しおこなって、全ての判定対象の燃料電池セル21について、触媒劣化と反応ガスの分配不良についての発生の有無を判定する。
【0087】
ステップS130では、判定部11jは、第1実施形態で説明したステップS101の処理と同様に、閾値αを用いて、判定対象の燃料電池セル21の含水量推定値Wcが、その基準値Wsよりも許容範囲を超えて低下しているか否かを判定する。Ws-Wc>αの関係が満たされた場合には、判定部11jは、ステップS133において、今回の判定対象である燃料電池セル21には触媒劣化が生じていることを検出する。判定部11jは、触媒劣化の発生を検出したことを示すフラグを、今回の判定対象の燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けて設定する。
【0088】
ステップS130の判定において、Ws-Wc>αの関係が満たされなかった場合には、判定部11jは、ステップS131において、第4実施形態で説明したステップS121の処理と同様に、判定対象の燃料電池セル21の含水量推定値Wcが含水量基準推定値Wsより大きいか否かを判定する。Wc>Wsが満たされたとき、判定部11jは、ステップS134において、今回の判定対象の燃料電池セル21に反応ガスの分配不良が生じていることを検出する。判定部11jは、反応ガスの分配不良の発生を示すフラグを、今回の判定対象の燃料電池セル21を特定する識別子に対応付けて設定する。ステップS131において、Wc>Wsが満たされなかった場合には、判定部11jは、今回の判定対象の燃料電池セル21には、触媒劣化も反応ガスの分配不良していないものとして、今回の判定対象の燃料電池セル21についての判定を終了する。
【0089】
図19を参照する。ステップS92では、監視装置制御部11は、判定対象の燃料電池セル21の中に、ステップS50Eの判定処理において設定されたフラグを検査して、反応ガスの分配不良の発生が検出されたものがあるか否かを判定する。反応ガスの分配不良の発生が検出された燃料電池セル21がある場合には、監視装置制御部11は、ステップS94において、反応ガスの分配不良を解消するために、反応ガスの供給流量を一時的に増大させる処理を実行する。
【0090】
ステップS96では、監視装置制御部11は、判定対象の燃料電池セル21の中に、ステップS50Eの判定処理において、触媒劣化の発生が検出されたものがあるか否かを判定する。触媒劣化の発生が検出された燃料電池セル21がない場合には、監視装置制御部11はそのまま監視処理を終了する。触媒劣化の発生が検出された燃料電池セル21がある場合には、監視装置制御部11は、ステップS98において、触媒劣化の進行を抑制するための処理を実行する。監視装置制御部11は、例えば、燃料ガスの供給量を通常よりも増加させるように、システム制御部25に依頼する。また、監視装置制御部11は、予め決められた個数よりも多い燃料電池セル21において触媒劣化が検出された場合には、燃料電池スタック20の発電を停止するようにシステム制御部25に依頼する。
【0091】
以上の処理により、監視装置制御部11は監視処理を終了する。なお、監視装置制御部11は、触媒劣化または反応ガスの分配不良のいずれかの発生が検出されていた場合には、その不良が発生した燃料電池セル21を特定する識別子と、その発生した不良の種類と、をユーザーに報知する処理を実行するものとしてもよい。
【0092】
第5実施形態の監視処理を実行する燃料電池監視装置10によれば、インピーダンスの計測結果から求められる含水量推定値Wcを用いて、燃料電池セル21に、触媒劣化と反応ガスの分配不良のいずれが発生しているのかが特定される。よって、その不良の発生要因に応じた適切な対応処理を実行することができる。その他に、第5実施形態の燃料電池監視装置10、それを備える燃料電池システム100、それらにおいて実現されている燃料電池セル21の状態の判定方法によれば、上記の各実施形態において説明したのと同様な種々の作用効果を奏することができる。
【0093】
6.第6実施形態:
図21は、第6実施形態の監視処理のフローを示す説明図である。第6実施形態の監視処理は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池監視装置10において実行される。燃料電池監視装置10は、第1実施形態で説明したのと同じ構成の燃料電池システム100に搭載されている。なお、第6実施形態の燃料電池監視装置10では、監視装置制御部11は、含水量推定部11wを備えていなくてもよく、インピーダンスの計測値からガス反応抵抗R
ctを算出する機能を有していればよい。
【0094】
第6実施形態の監視処理は、ステップS30,S40,S50Aの代わりに、ステップS30F,S40F,S50Fの処理が実行される点以外は、第1実施形態の監視処理とほぼ同じである。第6実施形態の監視処理は、インピーダンスの計測結果から求められるガス反応抵抗Rctを用いて、燃料電池セル21における触媒劣化の発生の有無が判定される点が第1実施形態の監視処理とは異なっている。
【0095】
ステップS30Fでは、監視装置制御部11は、ステップS10~S20で取得した燃料電池セル21ごとのインピーダンスの計測値を用いて、
図3のステップS31の処理と同様な方法により、燃料電池セル21ごとのガス反応抵抗R
ctを算出する。ステップS40Fでは、監視装置制御部11は、ステップS10~S20で取得した燃料電池スタック20全体のインピーダンスの計測値を用いて、燃料電池スタック20のガス反応抵抗R
ctAを算出する。ガス反応抵抗R
ctAは、燃料電池セル21あたりの値であり、燃料電池スタック20全体でのガス反応抵抗を、燃料電池セル21の個数で除した値に相当する。
【0096】
図22は、ステップS50Fにおいて判定部11jが実行する第6実施形態の判定処理のフローを示す説明図である。第6実施形態の判定処理は、ステップS101の代わりに、ガス反応抵抗R
ct,R
ctAを用いたステップS101Fの判定がおこなわれる点以外は、第1実施形態で説明した判定処理とほぼ同じである。第6実施形態では、判定部11jは、判定対象の燃料電池セル21のガス反応抵抗R
ctが、基準値である燃料電池スタック20全体のガス反応抵抗R
ctAよりも許容範囲を超えて低下しているか否かを判定する。より具体的には、判定部11jは、判定対象の燃料電池セル21のガス反応抵抗R
ctから燃料電池スタック20全体のガス反応抵抗R
ctAを減算した値が、前記の許容範囲として予め定めた閾値γよりも大きいか否かを判定する。判定部11jは、R
ct-R
ctA>γの関係が満たされる場合には、ステップS102において、今回の判定対象の燃料電池セル21において触媒劣化の発生を検出する。判定部11jは、R
ct-R
ctA>γの関係が満たされない場合には、今回の判定対象の燃料電池セル21についての判定を終了する。
【0097】
ガス反応抵抗Rctは、触媒に起因する電気化学反応の起こりにくさを示すパラメータである。よって、ガス反応抵抗Rctを用いたステップS50Fの判定処理によれば、触媒劣化の発生を精度よく検出することができる。また、基準値として燃料電池スタック20全体のガス反応抵抗RctAを用いているため、燃料電池スタック20の触媒全体が経年変化しているような場合でも、一部の燃料電池セル21の触媒劣化による性能低下を精度よく検出することができる。
【0098】
以上のように、第6実施形態の監視処理を実行する燃料電池監視装置10によれば、インピーダンスの計測値から含水量推定値Wcを求めるまでもなく、ガス反応抵抗Rctによって、燃料電池セル21における触媒劣化の発生を精度よく検出することができる。また、第6実施形態の燃料電池監視装置10を備える燃料電池システム100によれば、触媒劣化の進行を適切に抑制することができ、触媒劣化の進行による不具合の発生を抑制することができる。
【0099】
7.他の実施形態:
上記の各実施形態で説明した種々の構成は、例えば、以下のように改変することが可能である。以下に説明する他の実施形態はいずれも、上記の各実施形態と同様に、本開示の技術を実施するための形態の一例として位置づけられる。
【0100】
(1)他の実施形態1:
上記の各実施形態において、触媒劣化の発生を検出するために用いられる含水量基準推定値Wsは、燃料電池スタック20全体のインピーダンスの計測結果から導出されている。これに対して、触媒劣化の発生を検出するための含水量推定値Wcの大きさを判定する基準値は、含水量基準推定値Ws以外の値が用いられてもよい。当該基準値としては、燃料電池スタック20全体の現在の含水量に応じて変動する値が用いられればよい。例えば、判定対象である燃料電池セル21ごとの含水量推定値Wcの平均値が、その基準値として用いられてもよい。あるいは、燃料電池スタック20における発電量と反応ガスの供給量と排水量とから算出された燃料電池セル21ごとの含水量推定値が用いられてもよい。
【0101】
(2)他の実施形態2:
図13に示す上記第3実施形態の判定処理において、ステップS110の負電位による判定は省略されてもよい。この場合には、第1実施形態の判定処理のように、判定対象である燃料電池セル21での触媒劣化の発生のみが検出されてよい。
【0102】
8.その他:
上記実施形態において、ソフトウェアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ハードウェアによって実現されてもよい。また、ハードウェアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ソフトウェアによって実現されてもよい。ハードウェアとしては、例えば、集積回路、ディスクリート回路、または、それらの回路を組み合わせた回路モジュールなど、各種回路を用いることができる。
【0103】
本開示の技術は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須ではないと説明されているものに限らず、その技術的特徴が本明細書中に必須であると説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0104】
10…燃料電池監視装置、11…監視装置制御部、11i…インピーダンス計測部、11j…判定部、11r…拡散抵抗算出部、11w…含水量推定部、12…信号重畳部、13…電流計測部、14…スタック電圧計測部、15…セル電圧計測部、20…燃料電池スタック、21…燃料電池セル、22…エンドプレート、23…集電板、24…絶縁板、25…システム制御部、30…燃料ガス給排部、31…高圧タンク、32…供給配管、33…開閉弁、34…レギュレータ、35…インジェクタ、36…循環配管、37…循環ポンプ、38…排水配管、39…排水弁、40…酸化剤ガス給排部、41…供給配管、43…コンプレッサ、44…排出配管、45…背圧弁、50…膜電極接合体、51…電解質膜、52…第1電極、53…第2電極、54…触媒層、55…ガス拡散層、61…第1セパレータ、62…第2セパレータ、63…ガス流路、100…燃料電池システム、200…外部負荷、M1…マップ、M2…マップ、M3…マップ