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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】不織布用多層織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 11/00 20060101AFI20221012BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D03D1/00 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018248129
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105680
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】江川 徹
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 努
(72)【発明者】
【氏名】井上 佳祐
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-512502(JP,A)
【文献】特開平03-227806(JP,A)
【文献】国際公開第2020/138302(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/216149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、
下面側経糸と下面側緯糸とからなる下面側織物とが接結された不織布用多層織物であって、
前記上面側経糸は、前記上面側織物と前記下面側織物とを接結する第1の接結糸として機能する第1の経糸と、前記上面側緯糸のみに織り込まれる第3の経糸と、を有し、
前記下面側経糸が有する第2の経糸は、前記上面側織物と前記下面側織物とを接結する第2の接結糸として機能し、
前記第3の経糸および前記上面側緯糸の少なくとも一部に動摩擦係数が0.3~1.9の範囲の高摩擦糸が使用されている、
ことを特徴とする不織布用多層織物。
【請求項2】
前記第3の経糸は、前記上面側緯糸の上を通過した後に、隣接する前記上面側緯糸の下かつ前記下面側緯糸の上を通過することを特徴とする請求項1に記載の不織布用多層織物。
【請求項3】
前記上面側織物は、平織であることを特徴とする請求項2に記載の不織布用多層織物。
【請求項4】
完全組織における前記上面側経糸の数が前記下面側経糸の数よりも多いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の不織布用多層織物。
【請求項5】
前記上面側経糸の少なくとも一部が前記高摩擦糸で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の不織布用多層織物。
【請求項6】
前記第3の経糸の少なくとも一部が前記高摩擦糸で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の不織布用多層織物。
【請求項7】
前記上面側織物の上面側経糸密度が70~99[%]の範囲であり。
前記下面側織物の下面側経糸密度が30~65[%]の範囲である、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の不織布用多層織物。
【請求項8】
複数の前記上面側経糸のうち、一方の端部が他方の端部とループ接合する上面側経糸は、前記高摩擦糸が使用されていないことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の不織布用多層織物。
【請求項9】
前記上面側緯糸の少なくとも一部が前記高摩擦糸で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の不織布用多層織物。
【請求項10】
前記高摩擦糸で構成された上面側緯糸は、前記上面側経糸との交差部が該上面側経糸の上面から突出しないように織られていることを特徴とする請求項9に記載の不織布用多層織物。
【請求項11】
対となる前記第1の接結糸と前記第2の接結糸とを備え、
前記第1の接結糸は、前記下面側緯糸のうち2本以上の第1の下面側緯糸の下側を通って第1の下面側交差部を形成し、
前記第2の接結糸は、前記下面側緯糸のうち前記第1の下面側緯糸と異なる、2本以上の第2の下面側緯糸の下側を通って第2の下面側交差部を形成し、
前記第1の下面側交差部および前記第2の下面側交差部は、不織布の搬送方向に対して交互に並ぶように形成されている、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の不織布用多層織物。
【請求項12】
前記上面側織物の上面側経糸密度が50~90[%]の範囲であり。
前記下面側織物の下面側経糸密度が10~40[%]の範囲である、
ことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の不織布用多層織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布の搬送に用いられる多層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行する無端状のメッシュベルト上に繊維集合体を供給した後、当該繊維集合体を搬送しながら不織布を形成する装置が考案されている。近年、搬送速度の高速化に伴い、メッシュベルトに要求される性能の一つとして、メッシュベルト上に供給された繊維集合体が安定して搬送される(搬送時に繊維集合体が浮いたりずれたりしない)グリップ性が挙げられる。
【0003】
例えば、U字のポケットに溶融結合された熱可塑性ポリウレタン(「TPU」)インサートを有するポリエステルU字状単繊維を用いたU字状複合単繊維を用いることで、搬送中のシートにグリップ性を与える技術が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2006-512505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、不織布用多層織物において、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)を向上させることが好ましい。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、不織布の搬送に適したベルトとして用いられる織物の新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の不織布用多層織物は、上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる下面側織物とが接結された不織布用多層織物であって、上面側経糸が有する第1の経糸は、上面側織物と下面側織物とを接結する第1の接結糸として機能し、下面側経糸が有する第2の経糸は、上面側織物と下面側織物とを接結する第2の接結糸として機能し、上面側経糸および上面側緯糸の少なくとも一部に動摩擦係数が0.3~1.9の範囲の高摩擦糸が使用されている。
【0008】
この態様によると、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物の上面側経糸および上面側緯糸の少なくとも一部に高摩擦糸が使用されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0009】
上面側経糸は、上面側緯糸の上を通過した後に、隣接する上面側緯糸の下かつ下面側緯糸の上を通過する第3の経糸を有してもよい。これにより、下面側緯糸を織り込まない第3の経糸を高摩擦糸として使用することで、下面側織物が接触するローラ等による摩耗がなく、不織布のグリップ性を向上できる。
【0010】
上面側織物は、平織であってもよい。これにより、交点支持力が高くなり、繊維の刺さり込みが抑制される。
【0011】
完全組織における上面側経糸の数が下面側経糸の数よりも多い。これにより、不織布を搬送する側(表面側)の組織が密になり、繊維支持性、平滑性、ナックル交点支持性が高まるとともに、その反対側の裏面側が疎になり、通気性が高まる。
【0012】
上面側経糸の少なくとも一部が高摩擦糸で構成されていてもよい。上面側経糸の表面側は上面側緯糸の表面側よりも突出しているため、搬送される不織布に確実に接触するため、グリップ性が向上する。
【0013】
第3の経糸の少なくとも一部が高摩擦糸で構成されていてもよい。上面側経糸を構成する第1の接結糸や第2の接結糸といった接結糸は、下面側織物の裏面側よりも突出しているため、マシンやロールと常に接触する。一般的に高摩擦糸は摩耗しやすく耐摩耗性が低い。そのため、一部の接結糸を高摩擦糸とすることは耐摩耗性の観点から余り好ましくはない。そこで、上面側織物のみに織り込まれ、下面側織物には織り込まれない第3の経糸を高摩擦糸とすることで、高摩擦糸がマシンやロールとの接触により摩耗することが防止される。
【0014】
上面側織物の上面側経糸密度が70~99[%]の範囲であってもよい。下面側織物の下面側経糸密度が30~65[%]の範囲であってもよい。
【0015】
複数の上面側経糸のうち、一方の端部が他方の端部とループ接合する上面側経糸は、高摩擦糸が使用されていない。ループ接合する上面側経糸に高摩擦糸が使用されていると、ループ内をピントル線が通りにくくなるため、一方の端部が他方の端部とループ接合する上面側経糸に高摩擦糸を使用しないことで、ループ内をピントル線が通りやすくできる。
【0016】
上面側緯糸の少なくとも一部が高摩擦糸で構成されていてもよい。これにより、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。また、上面側緯糸は、上面側織物の表面側から突出していないため、高摩擦糸であっても、他の部材との摩擦による損耗を抑えられる。
【0017】
高摩擦糸で構成された上面側緯糸は、上面側経糸との交差部が該上面側経糸の上面から突出しないように織られていてもよい。これにより、上面側緯糸が不織布を搬送する表面側から突出しないこととなり、上面側経糸と比較して摩耗しにくくなる。
【0018】
対となる第1の接結糸と第2の接結糸とを備えてもよい。第1の接結糸は、下面側緯糸のうち2本以上の第1の下面側緯糸の下側を通って第1の下面側交差部を形成し、第2の接結糸は、下面側緯糸のうち第1の下面側緯糸と異なる、2本以上の第2の下面側緯糸の下側を通って第2の下面側交差部を形成し、第1の下面側交差部および第2の下面側交差部は、不織布の搬送方向に対して交互に並ぶように形成されていてもよい。これにより、下面側織物の裏面側においては、各接結糸が2本以上の下面側緯糸の下側を通って各下面側交差部を形成する。そのため、各接結糸は、下面側織物の裏面側において露出が多くなり、マシンやロールと擦れる(摩耗する)面積が大きくなる。その結果、耐摩耗性が大きくなり、多層織物をベルトとして使用する際の寿命を長くできる。
【0019】
上面側織物の上面側経糸密度が50~90[%]の範囲であってもよい。下面側織物の下面側経糸密度が10~40[%]の範囲であってもよい。
【0020】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、不織布の搬送に適したベルトを構成する新たな不織布用多層織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】スパンボンド法により不織布を製造する製造装置の概略構成を示す図である。
図2】ウェブ(不織布)に対する不織布用多層織物のグリップ性能を測定するための装置の概略構成を示す模式図である。
図3図3(a)は、糸の動摩擦係数を測定するための装置の概略構成を示す模式図、図3(b)は、図3(a)に示す錘を裏面側から見た図である。
図4】第1の実施の形態に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図5図4に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
図6】第3の経糸の上面と上面側緯糸の上面との高低差Hを示す模式図である。
図7】第1の実施の形態に係る不織布用多層織物の両端部におけるループ接合を説明するための図である。
図8】第2の実施の形態に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図9図8に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0024】
従来、不織布の製造方法として、スパンボンド法、メルトブロー法等の様々な方法が考案されている。例えば、スパンボンド法とは、溶融した樹脂ポリマーを延伸し、不織布用ベルト上でシートとして集積することで不織布を製造する方法である。図1は、スパンボンド法により不織布を製造する製造装置の概略構成を示す図である。
【0025】
図1に示す不織布製造装置10は、無端状の不織布用ベルト12と、不織布用ベルト12を支持し駆動する複数の駆動ローラ14と、不織布用ベルト12の上に溶融した樹脂ポリマーを紡糸延伸して吐出するエジェクター16と、不織布用ベルト12の上に吐出された樹脂ポリマーが繊維状の集合体として堆積したウェブ18を、不織布用ベルト12の裏面側から吸引する吸引装置20と、隣接する吸引装置20の間に不織布用ベルト12を挟むように配置されているプレスロール21と、ウェブ18を熱圧着してシート状の不織布22にエンボス加工するカレンダーロール24と、を備える。不織布用ベルト12は、不織布用多層織物の一方の端部を他方の端部とループ接合することで形成されている。
【0026】
このような不織布用ベルト12は、繊維の刺さり込みがないこと、防汚性、洗浄性、走行性、剛性、除電性能、ウェブの安定性(グリップ性)等の様々な特性が求められる。近年は不織布製造装置の高速化に伴い、ウェブの搬送安定性(グリップ性)が特に求められている。例えば、グリップ力が小さい場合、ウェブを不織布用ベルト上で搬送する際に、形成されるウェブが不織布用ベルト上で動くことで折れ込みが入ることがあり、不織布の良品率の低下を招くおそれがある。
【0027】
そこで、不織布用多層織物に要求される特性の一つであるグリップ力を向上するための構成として、本願発明者らは高摩擦糸に着目した。ここで、高摩擦とは、織物を構成する糸として一般的に知られているもの、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)よりも摩擦係数が高いことをいう。具体的には、後述する測定方法で測定された値に基づいて判断されるが、高摩擦糸として好適なものとして熱可塑性ポリウレタンが挙げられる。
【0028】
はじめに、高摩擦糸を用いた不織布用多層織物の効果を示すための評価方法、高摩擦糸の動摩擦係数の測定方法について説明する。
【0029】
[グリップ性評価方法]
図2は、ウェブ(不織布)に対する不織布用多層織物のグリップ性能を測定するための装置の概略構成を示す模式図である。
【0030】
測定装置100は、引張試験機102と、測定治具104と、を備える。引張試験機102は、精密万能試験機オートグラフAG-IS(株式会社島津製作所製)および引張試験機用ロードセル(100N)を用いた。測定治具104は、サクションボックス106を用いた。サクションボックス106は、不織布用多層織物108が載置される載置部106aと、不織布用多層織物108の裏面側から吸引するために載置部106aに形成された吸引穴106bと、水平方向に配置された不織布110の引っ張り方向を引張試験機102のチャック102aに向くようにするためのローラ106cと、を有する。
【0031】
測定方法は、はじめにサクションボックス106の載置部106aの上に不織布用多層織物108を載置する。測定に用いた不織布用多層織物108は、幅200mm、長さ300mmの帯状のものである。次に、不織布用多層織物108の上に不織布110を積載する。不織布110は、幅90mm、長さ600mmの帯状のものであり、一端をチャック102aに固定する。
【0032】
次に、吸引穴106bの下方から吸引装置で吸引する。吸引装置の吸引力は18.44kPa、風量は1.40m/minである。この状態で、引張試験機102による引張試験を開始する。試験条件は以下の通りである。
引張速度:100mm/min
ストローク:100mm
N数(測定回数):3回
測定結果の表示:応力
【0033】
[糸の乾式動摩擦係数の測定方法]
図3(a)は、糸の動摩擦係数を測定するための装置の概略構成を示す模式図、図3(b)は、図3(a)に示す錘を裏面側から見た図である。
【0034】
図3(a)に示す測定装置120は、引張試験機102と、摩擦係数測定用台122と、摩擦係数測定用台122の上に載置され、摩擦係数の測定対象である糸124の相手材となるセラミック板126と、糸124をセラミック板126に押し付けるための錘128と、を備える。引張試験機102は、精密万能試験機オートグラフAG-ISおよび引張試験機用ロードセル(5kN)を用いた。摩擦係数測定用台122は、端部にプーリー122aが設けられている。セラミック板126は、材質がアルミナA479G(京セラ株式会社製)であり、形状が幅80mm、長さ300mm、厚さ15mmの直方体である。セラミック板126の糸124と接触する側の上面126aは、鏡面仕上げされており、算術平均粗さRaは0.4μmである。板状の錘128は、重量が200gであり、端部に牽引用のフック128aが設けられている。
【0035】
測定方法は、以下の通りである。はじめに糸のヒートセット(180℃、5分)を行い、恒温恒湿室で24時間放置して測定対象である糸を準備する。なお、糸のヒートセットとは、繊維に張力を掛けた状態で熱処理することで形態や寸法安定性を保つようにする加工の一つであり、詳細な説明は省略する。次に、糸表面に塗布されている油剤を、アルコゾールを含ませた紙製ウエスで拭き取る。この糸124を、図3(b)に示すように、錘128の裏面128b側に両面テープを介して貼り付ける。貼り付ける場所は、錘128の左右端から内側へ20mm離れた位置であり、糸124の長手方向と引張方向が揃うように錘128に固定されている。
【0036】
次に、引張試験機102のロードセルにフレキシブルジョイント130を取り付ける。フレキシブルジョイント130の端部には牽引紐132であるアラミド繊維の一端が結ばれている。次に、アルコゾールを含ませた紙製ウエスでセラミック板126の表面を拭き取り、摩擦係数測定用台122の上に載せる。また、牽引紐132をプーリー122aに通す。
【0037】
その後、錘128の裏面128bがセラミック板126の上面126aと対向するように、錘128を糸124を介してセラミック板126の上に載せる。そして、錘128のフック128aに牽引紐132の他端を取り付ける。この状態で、引張試験機102による引張試験を開始する。試験条件は以下の通りである。
引張速度:500mm/min
ストローク:150mm
N数(測定回数):3回
【0038】
引張試験では、錘128による一定荷重がかけられた状態で糸124をセラミック板126上で滑走させ、このときの応力(kgf)が記録される。そして、応力の平均値を錘重量で規格化することによって動摩擦係数が算出される。以上の測定方法により算出された動摩擦係数の結果は以下の通りである。
A社製 φ0.40mm PET線 動摩擦係数0.177
B社製 φ0.40mm TPU高摩擦糸(1) 動摩擦係数0.789
B社製 φ0.40mm TPU高摩擦糸(2) 動摩擦係数1.092
C社製 φ0.43mm TPE高摩擦糸 動摩擦係数1.761
【0039】
次に、高摩擦糸を用いた不織布用ベルトを構成する不織布用多層織物について説明する。以下の説明において、「経糸」とは、不織布用多層織物をループ状の不織布用ベルトとした場合に、ウェブの搬送方向に沿って伸びている糸であり、「緯糸」とは、経糸に対して交差する方向に伸びている糸である。また、「上面側織物」とは、不織布用多層織物を不織布用ベルトとして利用する場合に、不織布用ベルトの両面のうちウェブが搬送される表面側に位置する織物であり、「下面側織物」とは、不織布用ベルトの両面のうち主として駆動ローラが当接する裏面側に位置する織物である。なお、単に「表面」とは、上面側織物や下面側織物の露出している側の面であり、上面側織物の「表面」とは、不織布用ベルトにおける表面側に相当するが、下面側織物の「表面」とは、不織布用ベルトにおける裏面側に相当する。
【0040】
また、「意匠図」とは織物組織の最小の繰り返し単位であって織物の完全組織に相当する。つまり、「完全組織」が前後左右に繰り返されて「織物」が形成される。また、「ナックル」とは経糸が1本または複数本の緯糸の上、または下を通って表面に突出した部分をいう。また、「オフスタック構造」とは、上下に配置される同じ方向の糸が垂直に重ならないよう配置されている構造を示している。
【0041】
また、「糸の交点支持力」とは、ナックル部における経糸と緯糸の相互間に掛かる力のことであり、一般に1本の糸に掛かるナックルは交点支持力が強く、複数の糸に掛かるロングナックルは交点支持力が低くなる傾向にある。そのため、交点支持力が最も高くなる組織は平織組織である。平織組織では、全てのナックルが1本の糸に掛かるナックルを構成するため、ナックル密度が最も高くなるためである。
【0042】
また、「接結糸」とは、上面側織物(または下面側織物)を構成する経糸の少なくとも一部の経糸であって、本来ならば上面側織物(または下面側織物)の緯糸のみを織り込むべき経糸が、下面側織物(または上面側織物)の緯糸を裏面側(または表面側)から織り込むことで、上面側織物と下面側織物を接結する糸である。
【0043】
また、繊維の刺さり込みとは、糸のナックル交点間に繊維が入り込んでしまう現象である。繊維の刺さり込みが生じると、(1)ウェブの欠点が発生したり、(2)刺さり込んだ部分の織物の通気度が低下することで、サクションによる吸引効果が低下し、ウェブのグリップ性が低下したりする、等の問題が発生する。
【0044】
なお、以下の織物を構成する上面側経糸および下面側経糸は、φ0.35~0.50mm程度の範囲が好ましいが、必ずしもこの範囲に限られない。同様に、上面側緯糸はφ0.40~0.50mm程度の範囲が好ましく、下面側緯糸はφ0.50~0.80mm程度の範囲が好ましいが、必ずしもこの範囲に限られない。
【0045】
[第1の実施の形態]
以下、第1の実施の形態に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。図4は、第1の実施の形態に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。図5は、図4に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。また図4において、経糸対C(4Uと4U’及び8Uと8U’)は、上面側経糸が並置されているため、便宜上2列に分けて記載してある。
【0046】
意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示す。緯糸は、ダッシュを付したアラビア数字、例えば1'、2'、3'・・・で示す。上面側糸はU、U’を付した数字、下面側糸はLを付した数字、例えば1'U、2'L等で示す。また、上面側織物と下面側織物とを接結する接結糸はbを付した数字で示した。
【0047】
また、意匠図において、▲印は、本来的には下面側経糸を構成する糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示し、×印は、上面側経糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示し、△印は、本来的には上面側経糸を構成する糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示し、○印は、下面側経糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示している。なお、図5において、上面側経糸は実線で、下面側経糸は点線で示している。
【0048】
図4に示す第1の実施の形態に係る不織布用多層織物30は、左側から1つの経糸対A(1Ubと1Lb)、2つの経糸対B(2Uと2L及び3Uと3L)、1つの経糸対C(4Uと4U’)、1つの経糸対A(5Ubと5Lb)、2つの経糸対B(6Uと6L及び7Uと7L)、1つの経糸対C(8Uと8U’)、及び上面側緯糸(1’U,2’U,3’U,4’U)と、下面側緯糸(1’L,2’L,3’L,4’L)によって構成された表面平織組織による多層織物である。
【0049】
また、図5に示すように、経糸対Aを構成する接結糸として機能する上面側経糸1Ubは、下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通って織り合わされている。
【0050】
また、経糸対Aを構成する接結糸として機能する下面側経糸1Lbは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通った後、下面側緯糸3’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通って織り合わされている。
【0051】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸2Uは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成するように織り合わされている。
【0052】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸2Lは、下面側緯糸1’Lの上側を通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸3’Lの上側を通った後、下面側緯糸4’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成するように織り合わされている。
【0053】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸3Uは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uの下側を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下を通って織り合わされている。
【0054】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸3Lは、下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸2’Lの上側を通った後、下面側緯糸3’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成した後、下面側緯糸4’Lの上を通って織り合わされている。
【0055】
また、経糸対Cを構成する上面側経糸4Uは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成するように織り合わされている。
【0056】
また、経糸対Cを構成する上面側経糸4U’は、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸2’Uの下側を通って、次いで上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下側を通って織り合わされている。
【0057】
また、経糸対Aを構成する接結糸として機能する上面側経糸5Ubは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通った後、下面側緯糸4’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。
【0058】
また、経糸対Aを構成する接結糸として機能する下面側経糸5Lbは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。
【0059】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸6Uは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uの下側を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下を通って織り合わされている。
【0060】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸6Lは、下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成した後、下面側緯糸2’Lの上側を通った後、次いで下面側緯糸3’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸4’Lの上側を通って織り合わされている。
【0061】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸7Uは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成している。
【0062】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸7Lは、下面側緯糸1’Lの上側を通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成した後、下面側緯糸3’Lの上側を通った後、次いで下面側緯糸4’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成している。
【0063】
さらに、経糸対Cを構成する上面側経糸8Uは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸2’Uの下側を通って、次いで上面側緯糸3’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下側を通って織り合わされている。
【0064】
さらに、経糸対Cを構成する上面側経糸8U’は、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成している。
【0065】
上述の構成を有することによって、第1の実施の形態に係る不織布用多層織物30は、表面側に平織組織が形成されている。表面に規則正しく平織組織が形成された不織布用多層織物30を利用した不織布用ベルトは、不織布(ウェブ)を支持する織物の繊維支持点数が多いため、ウェブサポート性を向上できる。また、平織の上面側織物は、交点支持力が高くなり、繊維の刺さり込みが抑制される。
【0066】
また、不織布用多層織物30は、上面側経糸(1Ub,2U,3U,4U,4U’,5Ub,6U,7U,8U,8U’)と上面側緯糸(1’U,2’U,3’U,4’U)とからなる上面側織物と、下面側経糸(1Lb,2L,3L,5Lb,6L,7L)と下面側緯糸(1’L,2’L,3’L,4’L)とからなる下面側織物とが接結されている。上面側経糸が有する第1の経糸(1Ub,5Ub)は、上面側織物と下面側織物とを接結する第1の接結糸として機能し、下面側経糸が有する第2の経糸(1Lb,5Lb)は、上面側織物と下面側織物とを接結する第2の接結糸として機能する。
【0067】
そして、上面側経糸の少なくとも一部に高摩擦糸が使用されている。本実施の形態に係る不織布用多層織物30においては、上面側経糸(2U,7U)に動摩擦係数が0.3~1.9の高摩擦糸が用いられている。また、動摩擦係数が0.3~1.5の高摩擦糸が好ましい。本実施の形態に係る高摩擦糸は熱可塑性ポリウレタンからなる。
【0068】
高摩擦糸を上面側経糸の一部に用いた不織布用多層織物30は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物の上面側経糸(2U,7U)に高摩擦糸が使用されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0069】
上面側経糸は、上面側緯糸の上を通過した後に、隣接する上面側緯糸の下かつ下面側緯糸の上を通過する第3の経糸(2U,3U,4U,4U’,6U,7U,8U,8U’)を有している。図6は、第3の経糸(2U,3U,・・・,8U,8U’)の上面と上面側緯糸(1’U~4’U)の上面との高低差Hを示す模式図である。図6に示すように、上面側緯糸(1’U,2’U,3’U,4’U)は、不織布を搬送する表面側から突出しないため、上面側経糸と比較して摩耗しにくくなる。換言すると、高摩擦糸である上面側経糸(2U,7U)の表面側は上面側緯糸の表面側よりも突出しているため、搬送される不織布に確実に接触し、グリップ性が向上する。なお、本実施の形態に係る高低差Hは280μm程度である。
【0070】
また、不織布用多層織物30は、完全組織における上面側経糸の数(10本)が下面側経糸の数(6本)よりも多い。これにより、不織布を搬送する側(表面側)の組織が密になり、繊維支持性、平滑性、ナックル交点支持性が高まるとともに、その反対側の裏面側が疎になり、通気性が高まる。
【0071】
なお、上面側経糸を構成する第1の接結糸(1Ub,5Ub)や第2の接結糸(1Lb,5Lb)といった接結糸は、下面側織物の裏面側よりも突出しているため、マシンやロールと常に接触する。そのため、不織布用多層織物30においては、接結糸を高摩擦糸とすることは耐摩耗性の観点から好ましくないため、接結糸(1Ub,1Lb,5Ub,5Lb)の材料としてはPET線を用いている。同様に、下面側経糸(2L,3L,6L,7L)の材料としてもPET線を用いている。つまり、上面側織物のみに織り込まれ、下面側織物には織り込まれない第3の経糸(2U,7U)を高摩擦糸とすることで、高摩擦糸がマシンやロールとの接触により摩耗することが防止される。
【0072】
なお、本実施の形態に係る不織布用多層織物30においては、上面側織物の上面側経糸密度が70~99[%]の範囲が好ましく、下面側織物の下面側経糸密度が30~65[%]の範囲が好ましい。
【0073】
[経糸密度]
経糸密度は、1inch(25.4mm)あたりに存在する上経糸と下経糸の合計の占有率である。また、以下の説明で目数(mesh)は、1inchあたりに存在する経糸/緯糸の本数(上面側織物と下面側織物で別々にカウントする)である。
【0074】
例えば、1inchあたり上面側経糸(上経糸+上接結糸)20本、下面側経糸(下経糸+下接結糸)20本の場合、上面側経糸目数20[mesh]、下面側経糸目数20[mesh]となる。
【0075】
また、経糸密度=[{(上面側経糸の占有距離X1)+(下面側経糸の占有距離X2)}/25.4]×100[%]で表される。なお、上面側経糸密度は=[(上面側経糸の占有距離X1)/25.4]×100[%]、下面側経糸密度は=[(下面側経糸の占有距離X1)/25.4]×100[%]で表される。
【0076】
具体的には、上面側経糸がφ0.40mm,30mesh、下面側経糸がφ0.40mm,20meshの経糸密度の場合、
上面側経糸の占有距離X1=0.40[mm/本]×30[本/inch]=12[mm/inch]、
下面側経糸の占有距離X2=0.40[mm/本]×20[本/inch]=8[mm/inch]、
X1+X2=20[mm/inch]となる。
したがって、経糸密度=[{(X1+X2)[mm/inch]/25.4[mm/inch]}×100=(20/25.4)×100=78.74[%]となる。
同様に、上面側経糸密度は47.24[%]、下面側経糸密度は31.50[%]となる。
【0077】
各糸の直径は、例えば、0.10~1.20の範囲が好ましい。例えば、第1の接結糸(1Ub,5Ub)は、直径が0.39mmφのカーボン線であり、糸から静電気を除電することが可能である。また、上面側経糸(3U,4U,4U’,6U,8U,8U’)および下面側経糸(2L,3L,6L,7L)は、直径が0.39~0.40mmφのPET線である。また、高摩擦糸である第3の経糸(2U,7U)は、直径が0.4mmφのTPU線である。
【0078】
このように、不織布用多層織物30は、上面側経糸密度が70~99[%]と高められていることで、ウェブサポート性を向上し繊維の刺さりを防止できる。一方、不織布用多層織物30は、下面側経糸密度が30~65[%]と低く通気性が確保されているため、吸引装置20の吸引によってウェブ18が上面側織物に引き付けられやすくなる。その結果、ウェブ18が上面側織物の表面から浮きにくくなり、ウェブサポート性が向上する。
【0079】
更に本実施の形態に係る不織布用多層織物30は、両端部をループ接合によって無端状とすることで不織布用ベルト12として用いられるが、両端部でどの経糸を用いてループを作るか否かには制約がある。図7は、第1の実施の形態に係る不織布用多層織物の両端部におけるループ接合を説明するための図である。
【0080】
図7に示すように、両端部の緯糸の外側には骨糸としての中間緯糸1’M,5’Mが追加されている。そして、一部の経糸は、中間緯糸1’M,5’Mの更に外側でループRを形成し、各ループRにピントル線Gを通すことで、不織布用多層織物30が無端状の不織布用ベルト12となる。
【0081】
本実施の形態に係る不織布用多層織物30においては、複数の上面側経糸のうち、一方の端部が他方の端部とループ接合する上面側経糸(3U,4U,4U’,6U,8U,8U’)は、高摩擦糸HGが使用されていない。ループ接合する上面側経糸に高摩擦糸が使用されていると、ループ内をピントル線が通りにくくなるため、一方の端部が他方の端部とループ接合する上面側経糸に高摩擦糸を使用しないことで、ループR内をピントル線Gが通りやすくできる。
【0082】
[第2の実施の形態]
以下、第2の実施の形態に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。図8は、第2の実施の形態に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。図9は、図8に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0083】
意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示す。接結糸はFを付した数字、非接結糸はSを付した数字で表す。緯糸は、ダッシュを付したアラビア数字、例えば1'、2'、3'・・・で示す。上面側緯糸はUを付した数字、下面側緯糸はLを付した数字、例えば1'U、2'L等で示す。
【0084】
また、意匠図において、■印は接結糸が上面側緯糸の上側に配置されていることを示し、□印は接結糸が下面側緯糸の下側に配置されていることを示し、×印は非接結糸が上面側緯糸の上側に配置されていることを示している。
【0085】
本実施の形態に係る不織布用多層織物40は、多層織物であり、上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重ならないよう配置されている。意匠図での糸の重なりは意匠図左部の糸を示す数字によって表現されている。
【0086】
図8に示す第2の実施の形態に係る不織布用多層織物40は、接結糸Fと、非接結糸Sと、上面側緯糸Uと、下面側緯糸Lによって構成された表面平織組織による多層織物である。
【0087】
図8に示すように、接結糸4Fは、上面側緯糸1’Uの上側を通って上面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸2’Lの上側を通った後、上面側緯糸3’Uの下側を通って、下面側緯糸4’Lと下面側緯糸6’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸7’Uの下側を通った後、下面側緯糸8’Lの上側を通っている。
【0088】
また、接結糸3Fは、隣接する接結糸4Fと対になっている。接結糸3Fは上面側緯糸5’Uの上側で上面側ナックルを形成している。そして、接結糸3Fおよび接結糸4Fの2本によって、上面側緯糸1’U及び上面側緯糸5’U上でナックルを形成しながら表面上に1本分の上面側経糸組織を形成している。
【0089】
非接結糸1Sは、上面側緯糸1’Uの上側を通って、上面側ナックルを形成し、次いで、上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸5’Uの上側を通って上面側ナックルを形成し、上面側緯糸7’Uの下側を通っている。
【0090】
第2の実施の形態に係る不織布用多層織物40においては、図8に示すように、接結糸F、非接結糸S共にそれぞれ2本1組となっており、非接結糸1S,2Sと接結糸3F,4Fとが組となり、非接結糸5S,6Sと接結糸7F,8Fとが組となっている。
【0091】
次に、図8に示す緯糸について説明する。上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)と下面側緯糸(2’L,4’L,6’L,8’L)の線径に制限はないが、下面側緯糸は織物の剛性を高めるため太径の糸が好ましく、上面側緯糸は表面密度を高めるために下面側緯糸よりも細いものが好ましい。また、不織布用多層織物40における上面側緯糸と下面側緯糸はオフスタック構造になっている。不織布用多層織物40は、オフスタック構造を採用することで、上面側緯糸と下面側緯糸の密着性が上がり、空間密度が小さくなるため、繊維の抜け落ちが抑制されている。
【0092】
また、不織布用多層織物40は、意匠図から明らかなように、表面側ナックルに対し裏面側ナックルが少ない構造となっている。
【0093】
上述のように、不織布用多層織物40は、上面側経糸(1S,2S,3F,5S,6S,7F)と上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)とからなる上面側織物と、下面側経糸(4F,8F)と下面側緯糸(2’L,4’L,6’L,8’L)とからなる下面側織物とが接結されている。上面側経糸が有する第1の経糸(3F,7F)は、上面側織物と下面側織物とを接結する第1の接結糸として機能し、下面側経糸が有する第2の経糸(4F,8F)は、上面側織物と下面側織物とを接結する第2の接結糸として機能する。また、上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)の少なくとも一部に動摩擦係数が0.3~1.9の範囲の高摩擦糸が使用されている。
【0094】
このように、不織布用多層織物40は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物の上面側緯糸の少なくとも一部に高摩擦糸が使用されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0095】
一方、上面側経糸は、上面側緯糸の上を通過した後に、隣接する上面側緯糸の下かつ下面側緯糸の上を通過する第3の経糸(1S,2S,5S,6S)を有している。これにより、上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)が不織布を搬送する表面側から突出しないこととなり、高摩擦糸であっても、リターンサイドのロールなどの部材による表面摩擦による損耗を抑えられる。
【0096】
また、不織布用多層織物40は、完全組織における上面側経糸の数(6本)が下面側経糸の数(2本)よりも多い。これにより、不織布を搬送する側(表面側)の組織が密になり、繊維支持性、平滑性、ナックル交点支持性が高まるとともに、その反対側の裏面側が疎になり、通気性が高まる。
【0097】
また、第2の実施の形態に係る不織布用多層織物40においても、図6に示す模式図と同様に、高摩擦糸で構成された上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)は、上面側経糸(1S,2S,5S,6S)との交差部が上面側経糸の上面から突出しないように織られている。
【0098】
不織布用多層織物40は、前述のように、対となる第1の接結糸3Fと第2の接結糸4Fとを備えている。第1の接結糸3Fは、2本以上の第1の下面側緯糸8’L,2’Lの下側を通って第1の下面側交差部を形成し、第2の接結糸4Fは、2本以上の下面側緯糸(4L’,6’L)の下側を通って第2の下面側交差部を形成する。第1の下面側交差部および第2の下面側交差部は、不織布の搬送方向に対して交互に並ぶように形成されている。
【0099】
このように、不織布用多層織物40の下面側織物の裏面側においては、各接結糸が2本以上の下面側緯糸の下側を通って各下面側交差部を形成する。そのため、各接結糸は、下面側織物の裏面側において露出が多くなり、マシンやロールと擦れる(摩耗する)面積が大きくなる。その結果、耐摩耗性が大きくなり、多層織物をベルトとして使用する際の寿命を長くできる。
【0100】
なお、本実施の形態に係る不織布用多層織物40においては、上面側織物の上面側経糸密度が50~90[%]の範囲が好ましく、下面側織物の下面側経糸密度が10~40[%]の範囲が好ましい。
【0101】
[グリップ性評価結果]
(1)第1の実施の形態に係る不織布用多層織物30の完全組織において、高摩擦糸を用いていない場合のグリップ力は、0.104[kgf]であった。
(2)第1の実施の形態に係る不織布用多層織物30の完全組織において、上面側経糸の一部に高摩擦糸を用いた場合のグリップ力は、0.120[kgf]であった。
(3)第2の実施の形態に係る不織布用多層織物40の完全組織において、高摩擦糸を用いていない場合のグリップ力は、0.086[kgf]であった。
(4)第2の実施の形態に係る不織布用多層織物40の完全組織において、上面側緯糸の一部に高摩擦糸を用いた場合のグリップ力は、0.108[kgf]であった。
【0102】
前述の(1)~(4)の結果から、不織布用多層織物の上面側織物を構成する糸の少なくとも一部に高摩擦糸を用いることで、ウェブサポート性が向上することがわかる。
【0103】
なお、上述の各実施の形態に係る経糸や緯糸に用いられる糸は、用途や使われる場所によって適宜選択すればよい。例えば、糸の断面形状は円形に限らず、四角形状や星型等の糸や、楕円形状、中空、芯鞘構造等の糸が使用できる。また、糸の材質としても、目的の特性を満たす範囲で自由に選択でき、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じて様々な物質をブレンドしたり含有させた糸を使用したりしてもよい。一般的に不織布用織物を構成する糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。
【0104】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0105】
10 不織布製造装置、 12 不織布用ベルト、 14 駆動ローラ、 18 ウェブ、 20 吸引装置、 22 不織布、 30,40 不織布用多層織物、 100 測定装置、 102 引張試験機、 104 測定治具、 106 サクションボックス、 110 不織布、 120 測定装置、 122 摩擦係数測定用台、 124 糸、 126 セラミック板、 128 錘。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9