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特許7156950酸化物介在物が低減されたニッケル-チタン-イットリウム合金ワイヤー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】酸化物介在物が低減されたニッケル-チタン-イットリウム合金ワイヤー
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/18 20060101AFI20221012BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20221012BHJP
   C22C 14/00 20060101ALI20221012BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20221012BHJP
   C22B 9/04 20060101ALI20221012BHJP
   C22B 9/16 20060101ALI20221012BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C22F1/18 H
C22F1/10 G
C22C14/00 Z
C22C19/03 A
C22B9/04
C22B9/16
C22F1/00 625
C22F1/00 630G
C22F1/00 630L
C22F1/00 675
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018555544
(86)(22)【出願日】2017-04-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 US2017028388
(87)【国際公開番号】W WO2017184750
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-09
(31)【優先権主張番号】62/325,283
(32)【優先日】2016-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518368087
【氏名又は名称】フォート ウェイン メタルズ リサーチ プロダクツ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】カイ,ソング
(72)【発明者】
【氏名】シャファー,ジェレミー イー.
(72)【発明者】
【氏名】グリーベル,アダム ジェイ.
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-038531(JP,B1)
【文献】特公昭48-038532(JP,B1)
【文献】特開平08-060277(JP,A)
【文献】特開昭61-210142(JP,A)
【文献】特開昭60-251241(JP,A)
【文献】特表2013-508556(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1536097(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/18
C22F 1/10
C22C 14/00
C22C 19/00 - 19/03
C22B 9/04
C22B 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不可避不純物を含む、ニッケル、チタン及びイットリウムから成るニッケル-チタン(NiTi)合金ワイヤーの製造方法であって、
50重量%のニッケル~60重量%のニッケルを提供すること;
純度が99.8%である40重量%のチタン~50重量%のチタンを提供すること;
0.01重量%のイットリウム~0.15重量%のイットリウムを提供すること;並びに
前記構成要素を0.67Paの真空圧で真空融解し、前記ニッケル、前記チタン及び前記イットリウムから成るインゴットを製造し、
前記インゴットを、1%の歪み振幅においては100万サイクルの繰り返しに耐えるような疲労耐久性を有する、最大1mmの直径に成形したワイヤーに成形する工程であって、熱間加工、冷間加工及び焼なましのサイクルを繰り返すことで達成される、超弾性の機械的特性を付与するための熱処理工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記インゴットを、反復する冷間成形及び焼なましサイクルによって、ロッド、ワイヤー、管、シート又はプレートのうちの1つを含む中間構造物に成形すること、をさらに含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2016年4月20日出願の米国特許仮出願第62/325,283号、発明の名称「NICKEL-TITANIUM-YTTRIUM ALLOYS WITH REDUCED OXIDE INCLUSIONS」の利益を主張し、その開示全体を参照により本願に明示的に援用する。
【0002】
本開示は、形状記憶合金及びその製造方法に関し、特に、疲労性能が増強されたニッケル-チタン形状記憶合金に関する。
【背景技術】
【0003】
外科用インプラント用途向けの特殊合金が開発されてきた。このような合金の1つは、ニチノール(一般的に「NiTi」とも称される)として知られ、外科用インプラント(例えば、ステント、並びに植込み除細動器又はペースデバイスから心臓まで心臓ペーシングパルスを中継するように適応されたペーシングリードなど)に使用するためのバー又はワイヤー形態に製造される。NiTi及び類似の三元、四元、及び五元合金は、アクチュエータ、又は自動車、航空宇宙及び医療機器並びに機械において、軸方向、曲げ、又は回転運動用のモーターに代わって使用できるソリッドステートサーマルモーターとしての使用も想定される。
【0004】
外科用インプラント用途に使用するための鍛錬用NiTi合金の標準規格及び化学的性質は、ASTM F2063に見ることができ、その開示全体を参照により本願に援用する。ASTM F2063に従って製造された材料の材料構成を表1に示す。
【0005】
【表1】
【0006】
場合によっては、NiTi合金の疲労性能は、融解及び固化の間に形成される酸化物及び炭化物などの介在物(図1Aに示され、縮尺9による縮尺で描かれている)によって制限され得る。炭化物は、サイズが比較的小さく、一般的に真空誘導溶解(VIM)に使用される黒鉛るつぼからの炭素汚染により形成される。対照的に、酸化物は、通常、鋳放し条件において炭化物よりも実質的に大きい。酸化物は、加工中(例えば、熱間成形又は冷間成形プロセスの間)に分解して、ストリンガーを形成することがある。図1は、二元NiTi合金から成形されたインゴット1の微小構造を示し、画像の右下隅に示された目盛が20μmに相当するような倍率となっている。図1Aの画像に示すように、介在物5は、合金の微小構造3の中に形成され、合金が加工されるときに、ストリンガーの形成に寄与する。
【0007】
酸化物の割合を低下させるための公知の方法としては、より高純度の原料の使用、ゾーン精製、プラズマ又は電子ビーム法などの高エネルギー再溶解、並びにインゴット溶解及び固化の際の高真空(すなわち、大気圧の数分の一未満)の使用などが挙げられる。高純度原料金属及び/又は高エネルギー溶解(高真空法など)の組み合わせを用いる方法は、高額であり、高いエネルギー消費量とそれに伴う高い製造コストから、実用的に魅力的ではない。上記の方法などのその他の酸化物低減法も、高いインプットコスト及び/又は低いプロセス収率を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7,989,703号明細書
【文献】米国特許第8,840,735号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Jeremy E. Schaffer, “Structure-Property Relationships in Conventional and Nanocrystalline NiTi Intermetallic Alloy Wire,” Journal of Materials Engineering and Performance(米)18, 2009, p.582-587
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記に対する改善が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、最大で0.15重量%の量のイットリウムを含み、合金の残部を、ほぼ同じ比率のニッケルとチタンとすることによって、チタンリッチな酸化物介在物を全く又は実質的に含まないように製造された、ニッケル-チタン合金に関する。例えば、NiTiY合金は、全合金重量を基準とする重量%で:50重量%~60重量%のニッケル;0.01~0.15重量%のイットリウム;及び残部のチタンを含む組成を有してもよい。得られる合金は、引抜きにより様々な形態(例えば、微細な医療グレードワイヤー)にすることができ、その際、許容できないほどの表面欠陥を生じる傾向又は冷間引抜き若しくは鍛造の間に破壊若しくは亀裂を生じる傾向を示さない。得られる最終的な形態は、好ましい疲労強度及び耐疲労特性を示す。
【0012】
本開示はさらに、本明細書に記載の新規合金のいずれかを含む製造物品に関する。かかる製造物品の例としては、バー、ワイヤー、管、外科用インプラントデバイス、外科用インプラントデバイスの構成要素、植込み型除細動器、植込み型除細動器の構成要素、植込み型ペースメーカー、植込み型ペースメーカーの構成要素、ペーシングリード、及び血管用又は非血管用ステントなどが挙げられる。製造物品がバー又はワイヤーの場合、物品は、ASTM標準規格F2063により外科用インプラント用途への使用が認定されたものであってもよい。
【0013】
本開示は、さらに、合金の製造方法に関し、当該方法は、上記の化学的性質を有するインゴットを作製することを含む。方法の特定の実施形態では、インゴットは、炭化物及びチタンリッチな酸化物の介在物を全く又は実質的に含まない。方法は、インゴットを、バー、ワイヤー、及び管のうちの1つに加工することも含み、これをさらに加工して、本明細書に記載の製造物品にしてもよい。
【0014】
本開示は、その一形態において、50重量%のニッケル~60重量%のニッケル;40重量%のチタン~50重量%のチタン;及び0.01重量%のイットリウム~0.15重量%のイットリウムを含む、ニッケル-チタン(NiTi)合金を提供する。
【0015】
本開示は、その別の形態において、少なくとも20重量%のニッケル;35重量%のチタン~55重量%のチタン;0.01重量%のイットリウム~0.15重量%のイットリウム;並びに、次のうちの少なくとも1つ:1重量%~10重量%の銅を、等量のニッケルの代わりに;1重量%~15重量%のニオブを、等量のチタンの代わりに;0.5重量%~50重量%のハフニウムを、等量のチタンの代わりに;0.5重量%~35重量%のジルコニウムを、等量のチタンの代わりに;0.1重量%~5重量%のコバルトを、等量のチタン、ニッケル、又はチタンとニッケルとの組み合わせの代わりに;0.1重量%~1重量%のクロムを、等量のチタンの代わりに;並びに0.1重量%~10重量%の鉄を、等量のチタン、ニッケル、又はチタンとニッケルとの組み合わせの代わりに;含む、ニッケル-チタン(NiTi)合金を提供する。
【0016】
本開示は、そのさらに別の形態において、50重量%のニッケル~60重量%のニッケルを提供すること;40重量%のチタン~50重量%のチタンを提供すること;0.01重量%のイットリウム~0.15重量%のイットリウムを提供すること;ニッケル、チタン及びイットリウムを含むインゴットを成形すること、を含む、ニッケル-チタン(NiTi)合金の製造方法を提供する。
【0017】
さらにまた別の形態において、本開示は、少なくとも20重量%のニッケルを提供すること;35重量%のチタン~55重量%のチタンを提供すること;0.01重量%のイットリウム~0.15重量%のイットリウムを提供すること;少なくとも1種の追加元素を提供すること;並びに、ニッケル、チタン及びイットリウムを含むインゴットを成形すること、を含む、ニッケル-チタン(NiTi)合金の製造方法を提供し、ここで、インゴットは、銅、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、コバルト、クロム及び鉄のうちの少なくとも1つをさらに含む。追加元素は、次のうちのいずれかであってもよい:等量のニッケルの代わりに1重量%~10重量%の銅;等量のチタンの代わりに1重量%~15重量%のニオブ;等量のチタンの代わりに0.5重量%~50重量%のハフニウム;等量のチタンの代わりに0.5重量%~35重量%のジルコニウム;等量のチタン、ニッケル、又はチタンとニッケルとの組み合わせの代わりに0.1重量%~5重量%のコバルト;等量のチタンの代わりに0.1重量%~1重量%のクロム;及び等量のチタン、ニッケル、又はチタンとニッケルとの組み合わせの代わりに0.1重量%~10重量%の鉄。
【0018】
本発明の上記及びその他の特徴及び目的、並びにそれを達成する方法は、以下の本発明の実施形態の説明を、添付図面と共に参照することによって、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】公知のNiTi合金のインゴットの鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図1B】0.04重量%のイットリウムを用いて本開示に従って製造したNiTiY合金のインゴットの鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図2A】0.01重量%のイットリウムを用いて本開示に従って製造した別のNiTiY合金のインゴットの鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図2B】0.02重量%のイットリウムを用いて本開示に従って製造した別のNiTiY合金のインゴットの鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図2C】0.16重量%のイットリウムを用いて本開示に従って製造した別のNiTiY合金のインゴットの鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図2D】0.3重量%のイットリウムを用いて本開示に従って製造した別のNiTiY合金のインゴットの鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図3A】NiTiNb合金のインゴットの鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図3B】0.1重量%のイットリウムを用いて本開示に従って製造したNiTiNb合金の微細構造の鋳放し条件における画像であり、インゴット及びそれに付随する微小構造の特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図4図2BのNiTiY合金の縦方向断面部の画像であり、ここで、ワイヤーの特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図5】2,996,258サイクルの疲労試験後の、図4のNiTiY合金の試料の破壊面を示す画像であり、ここで、ワイヤーの特徴は、図の右下隅にマイクロメートル単位で示されている目盛に従う縮尺で示されている。
図6】直径Dを有するブレイデッドステントの幾何学形状を示す立面図であり、ステントは、本開示に従い、編み目の管状スキャフォールドに成形されたワイヤーエレメントを備える。
図7A】潤滑された引抜きダイを使用するモノリシックワイヤーの代表的な成形プロセスを示す概略図である。
図7B】潤滑された引抜きダイを使用するコンポジットワイヤーの代表的な成形プロセスを示す概略図である。
図7C】最終的な冷間加工プロセスの前の、本開示によるワイヤーの立面図である。
図7D】最終的な冷間加工プロセスの後の、本開示によるワイヤーの立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
対応する参照文字は、複数の図を通して、対応する部分を示す。本明細書に記載する例証は、本発明の実施形態を例示するが、以下に開示する実施形態は、包括的であることを意図するものではなく、又は本発明の範囲を、開示された厳密な形態に限定するものと解釈すべきではない。
【0021】
本開示の合金は、特定の実施形態において、合金中に存在するイットリウムの特定の濃度に応じて、大幅に改善された特性を示す、ニッケル-チタン-イットリウム(NiTiY)合金である。例えば、ごく少量(例えば、0.15重量%未満)のイットリウムを有する本発明のNiTiY合金は、従来のNiTi合金と比較して改善された耐疲労性を示し、特に、合金が、ペーシングリード及びその他の外科用インプラント用途における使用に望ましくなり得る、直径の小さい微細引抜きワイヤーの形態であるときに、従来のNiTi合金と比較して大幅に低い破壊率から利益を受ける。
【0022】
用語
本明細書で使用するとき、「ワイヤー」又は「ワイヤー製品」は、連続的に製造され、後で分与及び使用するためにスプール上に巻き取られていてもよい、連続ワイヤー又はワイヤー製品、例えば、円形の断面を有するワイヤー及びフラットワイヤー又はリボンなどの非円形の断面を有するワイヤーなどを包含する。「ワイヤー」又は「ワイヤー製品」は、ストランド、ケーブル、コイル、管材などのその他のワイヤーベースの製品も包含し、これらは、具体的な用途に応じて、特定の長さで製造されてもよい。いくつかの例示的実施形態では、本開示によるワイヤー又はワイヤー製品は、最大で2.5mmの直径を有する。本開示の原理は、ワイヤー及びワイヤー製品に加え、2.5mmを超え20mmまでの直径を有するロッド材料などの他の材料形態の製造に使用できる。薄い材料のシートも製造できる。例示的な管材構造は、内径が0.5mm~4.0mmの範囲であり、壁厚が0.100mm~1.00mmの範囲であるワイヤー形態又はロッド形態であってもよい。「微細ワイヤー」は、外径が1mm未満のワイヤーを指す。
【0023】
本明細書で使用するとき、「疲労強度」は、材料が破壊するまでの負荷サイクルの数が所与の数以上となる負荷レベルを指す。本明細書で、負荷レベルは、変位又は歪みを制御した疲労試験の標準と同様に交番歪みとして与えられ、したがって、参照によりその全体が本明細書に援用される、ASTM E606で与えられた条件と一致する。
【0024】
「ニチノール」は、約50原子%のニッケル及び残部のチタンを含む形状記憶合金の商標名で、これはNiTiとしても知られ、医療機器産業で高弾性金属性インプラント用に一般的に使用されている。
【0025】
超弾性材料は、無視できるほどの塑性変形で2%を超える歪みを受けることができる材料であり、当該材料は、変形後に、永久的な損傷を生じることなく元の寸法に戻ることができる。
【0026】
「DFT」(登録商標)は、Fort Wayne Metals Research Products Corp.(Fort Wayne,IN)の登録商標であり、金属又は合金の2つ以上の同心層を含むバイメタル又は多金属コンポジットワイヤー製品を指し、通常少なくとも1つの外層が、中実の金属ワイヤーコアエレメントの上に管又は複数の管層を引抜くことによって形成されるコアフィラメントの上に配置されている。
【0027】
「NiTi酸化物」は、二元NiTi合金に関して、15原子%もの酸素含有量のTiNi金属間化合物から生成されたTiNi粒子である。酸素は、NiTi製造に使用される原料中に存在することもあり、又は溶解及びインゴット成形中に大気中から引抜かれることもある。合金中の酸素の総量は、ほとんどの場合、きわめて少ない(例えば、約200ppm)が、本発明者らは、酸素はNiTi二元合金中に溶解せず、したがって、固化の間に金属間TiNiの部分になり、TiNi酸化物粒子の形態で可溶化することを認識している。これらの安定化されたNiTi酸化物は、均質化によって溶解することはできず、Tiリッチ、Niリッチ、及び実質的に等原子、すなわち、等しい原子比率で、二元NiTi合金中に存在することは避けられない。TiNiCu及びTiNiNbのような三元NiTi合金は、例えば、Ti(Cu,Ni)又は(Ti,Nb)Niの形態をとる酸化物を形成してもよく、これらの及びその他の三元酸化物は、本明細書で使用するとき「NiTi酸化物」の範囲に入り得ることは理解される。
【0028】
「不純物」、「付随的不純物」及び「微量不純物」は、所与の元素に関して500ppm又は0.05重量%未満で材料中に存在する材料構成要素であるが、イットリウムは本開示の文脈において不純物とみなされない。
【0029】
ニッケル及びチタンと合金化したイットリウム
上で図1A(目盛9の縮尺で描かれている)に関して記載したように、 酸化物介在物が、インゴット1の微小構造内に生成し得る。かかる介在物は、従来の二元NiTi合金の疲労寿命に悪影響を及ぼす可能性があるという認識の下、本開示により製造される材料を、製造及び試験して、かかる変動性に対する解決策の提示及び/又は材料の機械的特性の強化を行った。かかる材料の具体例は、以下の実施例に記載されている。
【0030】
驚くべきことに、ほんの少量のイットリウムを含めてニッケル-チタン-イットリウム(NiTiY)合金を形成することで、合金の中及び周囲に存在する酸素の量を低下させるために高額な従来方法を使用することなく、溶解及び固化中に合金内に存在する酸化物介在物の数が減少することが見出された。上記のように、2種のこのような高額な従来方法は、きわめて高純度の原材料、例えば、純度99.9995%のニッケル及び純度99.9995%のチタンを使用すること、及び非常に高い真空、例えば10-2Pa(0.07mTorr)でNiTi合金を形成することを含む。
【0031】
対照的に、かつ以下及び実施例にさらに詳細に記載するように、本発明の分類のNiTiY合金は、純度99.95%のニッケル、純度99.8%のチタン及び約0.67Pa(5mTorr)の減圧で、上記の高額な代替品と少なくとも同程度に有効である。
【0032】
本開示のニッケル-チタン-イットリウム合金の実施形態は、従来のNiTi合金の化学的性質とは異なる化学的性質を有する。これらの化学的差異は、ASTM F2063による医療グレードのNiTi合金に対する広義の化学的要件を満足するが、従来のNiTi合金中には存在しない量のイットリウムをさらに含む合金をもたらす。本開示が指向する改質NiTiY合金における化学的性質の違いは、合金における望ましくない酸化物介在物の生成を阻害することが見出された。これは次に、合金をバー及びワイヤー形態に加工するための加工性を改善し、合金及び当該合金から製造される製品の耐疲労性を強化する。
【0033】
さらに、本明細書に記載のNiTiY合金の性能及び特質の改善が観察され、それは合金中のTiNi酸化物介在物の存在の大幅な減少又は排除に対応する。合金の特性は、合金中のイットリウムの濃度に応じて変動する。
【0034】
加えて、炭化物介在物(上記)は、黒鉛るつぼを使用しない「コールドウォール」法(真空アーク再溶解(VAR)、誘導スカル溶解(ISM)など)を用いることによって、又は水冷銅るつぼを使用するレビテーション溶解を用いることによって、合金材料中で制限されてもよい。
【0035】
本発明のNiTiY合金中のイットリウム濃度は、低くは0.01重量%、0.02重量%若しくは0.03重量%、及び多くは0.08重量%、0.12重量%又は0.15重量%であってもよく、又は上記値のいずれかによって画定される任意の範囲の濃度であってもよい。例えば、本発明のNiTiY合金中のイットリウム濃度は:
-0.01重量%~0.02重量%のイットリウム;
-0.01重量%~0.03重量%のイットリウム;
-0.01重量%~0.08重量%のイットリウム;
-0.01重量%~0.12重量%のイットリウム;
-0.01重量%~0.15重量%のイットリウム;
-0.02重量%~0.03重量%のイットリウム;
-0.02重量%~0.08重量%のイットリウム;
-0.02重量%~0.12重量%のイットリウム;
-0.02重量%~0.15重量%のイットリウム;
-0.03重量%~0.08重量%のイットリウム;
-0.03重量%~0.12重量%のイットリウム;
-0.03重量%~0.15重量%のイットリウム;
-0.08重量%~0.12重量%のイットリウム;
-0.08重量%~0.15重量%のイットリウム;又は
-0.12重量%~0.15重量%のイットリウムである。
【0036】
さらに、本発明のNiTiY合金に使用されるイットリウムの量は、供給原料の予想される又は実際の酸素不純物とも関係する場合があり、比較的純度の高いNi及びTi供給原料には、より低いY濃度で十分であり、比較的純度の低いNi及びTi供給原料には、より高い濃度が必要である。
【0037】
上記の三元NiTiY合金では、ニッケル及びチタンの量はほぼ等しく、合金の残部を形成する。本発明のNiTiY合金中のニッケル濃度は、低くは50重量%、52重量%若しくは54.5重量%であり、多くは57重量%、58.5重量%若しくは60重量%であってもよく、又は上記値のいずれかによって画定される任意の範囲の濃度であってもよい。例えば、本発明のNiTiY合金中のニッケル濃度は:
-50重量%~52重量%;
-50重量%~54.5重量%;
-50重量%~57重量%;
-50重量%~58.5重量%;
-50重量%~60重量%;
-52重量%~54.5重量%;
-52重量%~57重量%;
-52重量%~58.5重量%;
-52重量%~60重量%;
-54.5重量%~57重量%;
-54.5重量%~58.5重量%;
-54.5重量%~60重量%;
-57重量%~58.5重量%;
-57重量%~60重量%;又は
-58.5重量%~60重量%である。
【0038】
チタンは、その後、合金の残部を形成してもよい。したがって、チタンは39.85重量%~49.99重量%の任意の組成であってもよく、上記の範囲のNi及びYのいずれかから形成される任意の合金の残部を形成してもよい。
【0039】
さらに、本発明のNiTiY材料は、さまざまな潜在的用途の必要又は要求に応じて、他の材料とさらに合金化されてもよい。本開示の範囲内のさらなる合金化元素の例としては、以下の量で、任意の組み合わせ又は順序の以下の元素が挙げられるが、ただし、ニッケルを以下の元素に置き換えることができるのは、最終的な合金中の最小ニッケル濃度が20重量%に維持される範囲に限られる。
-等量のニッケルの代わりに1重量%~10重量%の銅;
-等量のチタンの代わりに-1重量%~15重量%のニオブ;
-等量のチタンの代わりに0.5重量%~50重量%のハフニウム;
-等量のチタンの代わりに0.5重量%~35重量%のジルコニウム;
-等量のチタン、ニッケル、又はチタン及びニッケルの組み合わせの代わりに0.1重量%~5重量%のコバルト;
-等量のチタンの代わりに0.1重量%~1重量%のクロム;及び/又は
-等量のチタン、ニッケル、又はチタン及びニッケルの組み合わせの代わりに0.1重量%~10重量%の鉄。
【0040】
図1B(目盛90の縮尺で描かれている)を参照すると、本開示に従うNiTiY合金から作製され、イットリウム濃度が0.04重量%のインゴット10の微小構造が、鋳放し条件で示されており、その倍率は、図の右下の目盛90がインゴット表面(又は断面内)の20μmの長さを示すようになっている。見てわかるように、インゴット10は、合金の微小構造30の中に存在する微小介在物50を含む。無傷の粒界70も示されている。図1Bに存在する介在物50は、図1Aに示されている介在物と比較して、サイズ及び体積分率が小さい。
【0041】
具体的には、介在物50は一般的に、インゴット10から成形されたワイヤー又はその他の構造物と比較して小さく、ワイヤーが微細ワイヤー(例えば、図7A図7Dに示され、以下にさらに詳細に述べるワイヤー730又は731)の場合でもそれが言える。例示的実施形態では、例えば、介在物50は、ASTM F2063に定義されるように、インゴット10の任意の寸法において39μm以下であり、インゴット10がASTM F2063に従って熱間圧延コイルに加工された後で、任意の寸法において10μm以下である。特定の例示的実施形態の1つでは、冷間引抜きワイヤー中の介在物50の横断方向(すなわち、ワイヤーの縦軸に垂直に測定した)の範囲は2μm未満であり、介在物50がかかるワイヤーの疲労耐久性に与える影響は最小限に抑えられている。これらの例示的実施形態によると、図1Bは、0.04重量%の量のイットリウムの添加は、NiTiY合金材料から大きな介在物5(図1A)の存在を実質的になくし、例えば、横断方向直径が約1μmである小さいNiTiY介在物50のみを含むことを例示する。介在物50の横断方向寸法が小さいことで、特に合金10を、本明細書で論じるような微細ワイヤーに加工するときに、合金の疲労寿命10の強化が促進される。
【0042】
図2A(目盛190の縮尺で描かれている)を参照すると、本開示に従うTi合金から作製され、イットリウム濃度が0.01重量%のインゴット100の微小構造が示されており、その倍率は、図の右下の目盛190がインゴット表面(又は断面内)の40μmの長さを示すようになっている。見てわかるように、インゴット100は、無傷の粒界170及び合金の微小構造130の中に存在する介在物150を含む。図1Aに示す介在物と比較して、図2Aに存在する介在物150は、より小さく、親材料に対する全体積分率がより少ない。特に、介在物150は、平均横断方向寸法が、図1Bの介在物と実質的に同じである。したがって、介在物150は、許容できるほど小さいサイズ及び程度であるために、合金の疲労耐久性に対する影響がきわめて少ないと予想でき、特に、合金100が本明細書で論じるような微細ワイヤーに加工される場合にそれが言える。
【0043】
図2B(目盛290の縮尺で描かれている)を参照すると、本開示に従うNiTiY合金から作製され、イットリウム濃度が0.02重量%のインゴット200の微小構造であり、その倍率は、図の右下の目盛290がインゴット表面(又は断面内)の40μmの長さを示すようになっている。見てわかるように、インゴット200は、無傷の粒界270及び合金の微小構造230の中に存在する微小介在物250を含む。介在物250は、図1Aに示す介在物と比較して、サイズ及び体積分率が制御されている。特に、介在物250は、図1A及び図1Bの介在物と実質的に同じ平均横断方向寸法を有する。したがって、介在物250は、許容できるほど小さいサイズ及び程度であるために、合金の疲労耐久性に対する影響がきわめて少ないと予想でき、特に、合金10が本明細書で論じるような微細ワイヤーに加工される場合にそれが言える。
【0044】
ここで図2C(目盛390の縮尺で描かれている)を参照すると、本開示に従うNiTiY合金から作製され、イットリウム濃度が0.16重量%のインゴット300の微小構造が示されており、その倍率は、図の右下の目盛390がインゴット表面(又は断面内)の20μmの長さを示すようになっている。見てわかるように、インゴット300は、合金の微小構造330の中に存在する介在物350を有する。図1Aに示すインゴット1の介在物5と比較して、介在物350は、より小さく、材料の体積分率が低い。特に、介在物350は、平均横断方向寸法が、図1B図2A、及び図2Bの介在物と実質的に同じであり、その結果、介在物350は、インゴット300の材料の疲労性能に対して最小限の影響を有すると予想できる。
【0045】
ただし、図2Cの合金の微小構造330内の粒界のいくつかに沿って、亀裂370も存在する。亀裂370は、インゴット300を微細形態、例えば、下記の微細ワイヤー730、731に加工する妨げとなる。特に、インゴット300をかかる微細形態に加工する試みは、亀裂370及び/又は亀裂370から生じる材料破壊の伝播を生じる。
【0046】
ここで図2D(目盛490の縮尺で描かれている)を参照すると、本開示に従うNiTiY合金から作製され、イットリウム濃度が0.30重量%のインゴット400の微小構造が示されており、その倍率は、図の右下の目盛490がインゴット表面(又は断面内)の40μmの長さを示すようになっている。図2Dを見てわかるように、インゴット400は、合金の微小構造430の中に存在する介在物450を有する。介在物450は、平均横断方向寸法が、図1B図2A、及び図2Bの介在物と実質的に同じであり、その結果、介在物450は、インゴット400の材料の疲労性能に対して最小限の影響を有すると予想できる。
【0047】
ただし、合金の微小構造430内の粒界のいくつかに沿って、亀裂470も存在する。亀裂470は、図2Cに示す亀裂370と同様に、伝播又は亀裂470及び/若しくは亀裂470から生じる材料破壊を生じることなく、インゴット400を微細形態、例えば、下記の微細ワイヤー730、731に加工することを妨げる。
【0048】
上記の知見により、発明者らは、NiTiY合金中のイットリウム濃度を0.01重量%~0.16重量%未満(例えば、0.15重量%以下)に維持することで、図2A図2Cに示すように、平均横断方向介在物寸法が縮小され、それに対応する粒子/介在物の全体積分率の減少がもたらされると判断した。この有益な結果と同時に、亀裂の防止及び材料の脆性の最小化も達成され、それにより、得られる合金インゴットの全体的な延性及び加工性が保持される。
【0049】
逆に、NiTiY合金のイットリウム濃度が0.16重量%以上まで上昇すると、鋳放し条件のインゴットは脆くなりすぎて亀裂を生じ、直径1mm未満のワイヤーのような微細形態への加工ができなくなる。特に、イットリウムが0.16重量%を超えるNiTiYは、図2C及び図2Dに示すように、亀裂370、470を生じ、冷間加工法の使用を妨げる。これらの高いイットリウム濃度は、二元NiTi合金と比較したときの平均横断方向介在物寸法及び体積分率の減少を確かに生じるが、得られる合金の全体的な有用性は、その脆性により損なわれることが見出されている。
【0050】
上記のように、イットリウムを、他のNiTi系形状記憶合金システムと共に使用して、上記の三元NiTiY合金と類似の利益を得ることもできる。少量(例えば、最大で0.15重量%)のイットリウムの添加の利益を受けやすい例示的な四元及び五元材料としては、Ni-Ti-Hf-Zr、Ni-Ti-Cr-Co-C、Ni-Ti-Fe-Co、Ni-Ti-Nb、Ni-Ti-Zr、Ni-Ti-Co、Ni-Ti-Cr、及びNi-Ti-Cuが挙げられる。
【0051】
例えば、図3A図3Bの比較から、NiTiNb合金は、上に詳述した二元NiTiと同様に、イットリウムの使用から恩恵を受けることができることがわかる。図3A(目盛590の縮尺で描かれている)は、イットリウムを含まないNiTiNb合金から作製された、対照インゴット500の微小構造を示す。図3Aの画像は、図の右下隅の目盛590がインゴット表面(又は断面内)の40μmの長さを示す倍率で示されている。図示されるとおり、インゴット500は、合金の微小構造530の中に介在物550を含む。介在物550は、合金の疲労寿命の大きなばらつきの原因となり得るという点で、インゴット1の介在物5と類似している。
【0052】
図3B(目盛690の縮尺で描かれている)を参照すると、本開示に従って製造されたNiTiNbYインゴット600の微小構造が例示され、このインゴット600のイットリウム濃度は0.1重量%である。図3Bの画像は、図の右下隅の目盛690がインゴット表面(又は断面内)の40μmの長さを示す倍率で示されている。見てわかるように、インゴット600は、合金の微小構造630の中に存在する介在物650を有する。
【0053】
図1Bに示す三元NiTiY合金の介在物50と同様に、本発明の四元NiTiNbY合金の介在物650は、総じてサイズが小さく、平均横断方向介在物寸法は、対照インゴット500中の介在物550よりも実質的に小さい。介在物650の横断方向寸法は、インゴット600の材料を引抜きして、以下にさらに記載するような微細ワイヤーとした場合でも、当該材料の疲労耐久性に対する影響が最小限となるほど十分に小さい。さらに、インゴット600の微小構造630の中には、明らかな亀裂は、ほとんど又は全く存在しない。それ故、本発明者らは、少量のY、例えば、0.1重量%のYを、公称47重量%のNi、37重量%のTi、及び16重量%のNbの合金に添加することによって、イットリウムを含まない合金(図3Aに示す)中のTi酸化物介在物を、鋳造インゴットから実質的に排除することができる。
【0054】
NiTiYを含むワイヤー構造物
例示的な実施形態の1つでは、本開示に従って製造されたNiTiY材料は、図6に示すような、微細な医療グレードワイヤー730、731に成形されてもよい。このワイヤー730、731を、次に、編んで総直径Dを有するステント700するなど、医療機器に成形又は統合してもよい。ワイヤー730、731はそれぞれ、例えば、1mm未満のワイヤー外径Dを有し得る。
【0055】
本開示による合金は、最初に、従来の鋳造方法によるなどして、バルクに成形されてもよい。このバルク材料を、次いで、熱間加工して所望のプリフォームサイズ及び形状にすることによって、好適なプリフォーム材料(例えば、ロッド、プレート、又は中空管)を成形してもよい。本開示の目的で、熱間加工は、材料を室温よりも高温に加熱し、材料を高温に保ちながら、所望の形状付与及び成形操作を実施することによって実施される。得られるプリフォーム材料(例えば、インゴット)は、反復する冷間成形-焼きなましサイクルによって、ロッド、ワイヤー、管、シート又はプレートなどの中間形態にさらに加工される。
【0056】
この中間材料は、例えば、引抜き及び焼きなまし工程によって、最終加工できる状態の初期粗大ワイヤー構造を作製することで、製造されてもよい。その後、ワイヤー730又は731(図6及び図7A図7D)を、最終的な冷間加工の状態調節工程、及び場合により、以下にさらに記載するような最終ワイヤー製品に所望の機械的特性を付与するための最終熱処理工程に供してもよい。
【0057】
図7Aに示す例示的実施形態の1つでは、NiTiY材料(三元NiTiY並びにその他のNiTiY合金)で出来たモノリシックワイヤー731を、最初に従来方法を用いて製造してもよく、当該方法は、最終加工の前に、プリフォーム材料(インゴット又はロッド)を所望の直径のワイヤーに変換するための引抜き及び焼きなまし工程を含む。すなわち、プリフォーム材料は、ダイ736(図7A)を通して引抜きされることで、中間材料の外径がわずかに縮小すると同時に材料が伸長され、その後、材料を焼きなまして、引抜きプロセスによって材料に付与された内部応力(すなわち、残留冷間加工)を緩和する。この焼きなまし処理された材料を、次いで、より小さい仕上げ直径を有する新たなダイ736に通して引抜き、材料の直径をさらに縮小するとともに、材料をさらに伸長する。材料のさらなる焼きなまし及び引抜きは、材料が、ワイヤー731への最終加工ができる状態のワイヤー構造物になるまで繰り返される。
【0058】
DFT(登録商標)のようなコンポジットワイヤー730(図7B)を成形するために、コア734をシェル732の中に挿入して、中間構造物を成形し、この中間構造物の端部を、次に、引抜きダイ736(図7B)に入れやすくするためにテーパー加工する。次に、引抜きダイ736を通って突き出た端部を把持して、ダイ736を通して引張り、構造物の直径を縮小するとともに、シェル732の内面をコア734の外面にしっかりと物理的に接触させる。より具体的には、初期引抜きプロセスはシェル732の内径を縮小し、シェル732はコア734の外径で閉じ、シェル732の内径はコア734の外径と等しく、それにより、断面を見た時に、図7Bに示すように、内側のコア734は、外側のシェル732を完全に満たすであろう。
【0059】
例示的コンポジットワイヤー730は、本開示に従って製造されたNiTiY合金(三元NiTiY並びにその他のNiTiY合金)をシェル732に用い、白金(Pt)又はタンタル(Ta)のいずれかをコア734に用いて成形されてもよい。かかる材料の添加は、微細ワイヤー形態のニチノールのX線不透過性、すなわち、X線下での可視性に寄与する。
【0060】
対象ワイヤー730又は731を引抜いて冷間加工する工程。本開示の目的で、冷間加工法は、室温又は室温付近、例えば20~30℃における材料変形に影響する。コンポジットワイヤー730の場合、引抜きは、シェル732及びコア734の両方に冷間加工を付与し、両材料の断面積の減少を伴う。引抜き工程の間にワイヤー730又は731に付与された全冷間加工は、下記の数式1で表される次式(I)を特徴とする。式中、「cw」は、当初の材料面積の減少によって定義される冷間加工であり、「D2S」は、引抜き(1回又は複数)後の断面外径であり、「D1S」は、同じ引抜き(1回又は複数)前の断面外径である。
【0061】
【数1】
【0062】
図7A及び図7Bを参照すると、冷間加工工程は、例示した引抜きプロセスによって実施されてもよい。図に示すように、ワイヤー730又は731は、出口外径D2Sを有する潤滑ダイ736を通して引抜きされ、D2Sは、引抜き工程前のワイヤー 730又は731のD1Sよりも小さい。したがって、ワイヤー730又は731の外径は、引抜き前の直径D1Sから引抜き直径D2Sに縮小され、それにより、冷間加工cwを付与する。
【0063】
あるいは、冷間加工は、冷間スウェージング、ワイヤー圧延、(例えば、平坦なリボンへの、又はその他の形状への)、押出し、曲げ、フローフォーミング、又はピルガ圧延などの他のプロセスによって、ワイヤー730又は731に累積し得る。冷間加工は、本明細書に記載の技法を含む複数の技法の任意の組み合わせによっても付与でき、例えば、冷間スウェージングの後に潤滑ダイを通る引抜きを行い、リボン若しくはシート形態又はその他の形状付与されたワイヤー形態に冷間圧延することで仕上げされてもよい。例示的実施形態の1つでは、ワイヤー730の直径がD1SからD2Sへと縮小される冷間加工工程は、1回の引抜きで実施され、別の実施形態では、ワイヤー730の直径がD1SからD2Sへと縮小される冷間加工工程は、間に焼きなまし工程を挟まずに連続的に実施される複数回の引抜きによって実施されてもよい。上記の式(I)を用いて冷間加工を計算する場合、材料に冷間加工を付与するプロセスの後に、焼きなましは実施されないと仮定する。
【0064】
引抜きプロセスが、焼きなましを介さずにコンポジットワイヤー730に繰り返されるプロセスにおいて、後続の引抜き工程のそれぞれで、ワイヤー730の断面が比例的に減少し、ワイヤー730の全断面積が減少したときに、ワイヤー730の全断面積に対するシェル732及びコア734の断面積の比が公称上保持される。図7Bを参照すると、引抜き前のコア外径D1Cの引抜き前のシェル外径D1Sに対する比は、対応する引抜き後の比と同じである。別の言い方をすると、D1C/D1S= D2C/D2Sである。
【0065】
熱応力除去は、当該技術分野で焼きなまし(アニーリング)として知られ、ワイヤー材料(又は、コンポジットワイヤーの場合、第1又は第2のいずれかの材料)の融点を超えない公称温度において、引抜き工程と引抜き工程との間に、完全に密なコンポジットの延性を改善し、それによってその後の引抜き工程によるさらなる塑性変形を可能にするために使用される。ワイヤー引抜きに関するさらなる詳細は、本発明の譲受人に譲渡され、その開示の全体を参照により本明細書に援用する、特許文献1(米国特許第7,989,703号、2011年8月2日発行、発明の名称「Alternating Core Composite Wire」 )で論じられている。
【0066】
ワイヤー730を、結晶粒の再結晶化を引き起こすのに十分な温度まで加熱することで、累積冷間加工が排除される。各反復冷間加工プロセスによって付与される冷間加工は、引抜きと引抜きとの間に材料を完全に焼きなましすることによって除去され、それにより、次の反復冷間加工プロセスが実施可能となる。完全焼きなましでは、冷間加工された材料を、材料内に貯蔵された内部応力を実質的に完全に除去するのに十分な温度まで加熱し、それによって貯蔵された冷間加工を除去し、冷間加工をゼロに「リセット」する。
【0067】
他方、後続の焼きなましプロセスなしで引抜き又はその他の機械的処理が施されたワイヤー730又は731は、ある量の冷間加工が残留する。残留する加工の量は、D1SからD2Sへの直径縮小全体に依存し、付与された冷間加工の結果としての材料内の個々の結晶粒の変形に基づいて定量化されてもよい。図7Cを参照すると、例えば、ワイヤー731は、焼きなまし後状態で示され、結晶粒12は実質的に等軸として示されている。すなわち、結晶粒12は、概ね回転楕円体形状を画定し、当該形状において、結晶粒12の全長G1の測定値は、測定方向にかかわらず実質的に同じである。ワイヤー731の引抜き(上記)の後、等軸粒12は、伸長粒14(図7D)に変わり、この結晶粒14は、伸長粒長さG2(すなわち、結晶粒14に画定される最長寸法)及び粒幅G3(すなわち、結晶粒14によって画定される最短寸法)を画定する縦長構造である。結晶粒14の伸長は、冷間加工プロセスの結果生じ、図7Dに示すように、結晶粒14の縦軸は、概して、図の方向に揃っている。
【0068】
引抜き後のワイヤー731の残留冷間加工は、伸長粒長さG2の幅G3に対する比として表すことができ、この比が大きいことは、より「延伸された」結晶粒を意味し、したがって、残留冷間加工の量がより大きいことを意味する。対照的に、中間引抜きプロセス後にワイヤー731を焼きなましすると、材料が再結晶化し、伸長粒14が等軸粒12に戻り、残留冷間加工比を1:1(すなわち、残留冷間加工なし)に「リセット」する。
【0069】
本発明のNiTiY材料の場合、完全焼きなましは、約500~800℃の温度で、薄いワイヤー(すなわち、0.000127平方mm~0.5平方mmの小さい断面積を有する)の場合は少なくとも数秒間、より厚い材料(すなわち、1平方mm~125平方mmのより大きい断面積を有する)の場合は数十分間で達成され得る。あるいは、完全焼きなましは、700℃~1100℃などの、より高い温度で、より短時間、例えば、数ミリ秒~5分未満など(これも材料の断面積によって異なる)で実施できる。当然、比較的高温の焼きなましプロセスを比較的短時間用いて、完全焼きなましを達成することができ、比較的低い温度の場合、一般的に、比較的長時間を用いて完全焼きなましを達成する。さらに、焼きなましのパラメータは、ワイヤー直径の変動に対して変動すると予想でき、より小さい直径では、所与の温度での焼きなまし時間が短くなる。完全焼きなましが達成されたか否かは、当該技術分野で周知の多数の方法で確認することができ、その例としては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた微細構造観察、延性、強度、弾性などの機械的試験、その他の方法などがある。
【0070】
冷間加工及び焼きなまし方法の更なる議論は、その開示全体を参照により本明細書に援用する、特許文献2(米国特許第8,840,735号、2014年9月23日発行、発明の名称「FATIGUE DAMAGE RESISTANT WIRE AND METHOD OF PRODUCTION THEREOF」)に見ることができる。
【0071】
得られる粗大ワイヤー材料を、次いで、最終加工して、ステント又はその他の医療機器への組み込みに好適な微細ワイヤーなどの最終形態にしてもよい。例示的なワイヤー構造物を、以下に更に詳細に記載する。
【0072】
ワイヤー特性
上に詳述したように、本発明のNiTiY合金の疲労耐久性は、合金に添加するイットリウムの濃度に応じて強化できる。例えば、下の実施例1からわかるように、NiTiYワイヤーは、制御可能な外部要因(例えば、微小構造の欠陥につながる引抜きダイの欠陥、又は製造むら)不在下で、0.1%の歪み振幅で10サイクルの「ランアウト」疲労寿命を示し得る。本開示の目的で、「ランアウト」疲労とは、その数を超えると、対象材料が、いかなる数の追加サイクルでも疲労破壊を起こさないと予想される疲労サイクルの数である。
【0073】
本発明のNiTiYワイヤー材料のこの強化された疲労耐久性により、合金を、血管用(例えば、心臓)及び非血管用(例えば、胃腸、泌尿器)ステントを含むステントなどの生体内用途に使用できるようになる。ステント及び類似の生体内用途に使用する合金は、多数のサイクルを経験し得ることから、本発明のワイヤーは、理想的には、高屈曲領域(すなわち、四肢)に植え込まれるステント及びその他の要求の厳しい用途への使用に適する。
【0074】
本発明のNiTiYワイヤー材料の耐疲労性以外の材料特性は、類似の二元NiTi材料の特性と同等である。したがって、本発明のNiTiY材料は、ステント、ペーシングリードなど、NiTiが現在使用されている医療機器用途に好適である。
【0075】
以下の非限定的実施例は、本発明のさまざまな特徴及び特性を例証するが、本発明はこれらに限定されるとみなされるべきではない。
【0076】
これらの実施例において、本開示に従う例示的なモノリシックNiTiY合金ワイヤーを製造し、特に材料加工性及び機械的強度について、試験及び特性評価した。
【0077】
次いで、各冷間加工試料について、機械的性能を、Instron(Norwood,Massachusetts、米国)より入手可能なInstron Model 5565試験機での単軸引張試験により評価した。より具体的には、ワイヤー材料の破壊的単軸引張試験を用いて、候補材料の極限強さ、降伏強さ、軸方向剛性及び延性を、その開示全体を参照により明示的に本願に援用する非特許文献1に記載の方法を用いて定量化した。これらの試験は、サーボ制御式のインストロンロードフレームを使用して、金属性材料の張力試験に関する業界標準に従って実施される。
【0078】
本明細書の実施例に従う回転ビーム疲労試験用に、ワイヤー試料を約118mmの長さ(例えば、直径0.33mmのワイヤーの場合)に切断し、その後、その軸方向端部を回転可能なジョーに固定する。ジョーとジョーとの間のワイヤーのフリー部分を曲げて、「ピーク」又は曲げの最も外側の部分において、所望の引張り歪みを導入する。この曲げのピークの直接の反対側において、ワイヤーは、引張歪みと等しい圧縮歪みを経験し、引張り歪みと圧縮歪みの両方の公称値をここで「歪み振幅」と呼ぶ。次いで、ジョーを同時に回転(すなわち、各ジョーを同じ速度で同じ方向に回転)し、最大引張り歪みの領域が、ワイヤー「ピーク」の周りを回転し、ジョー及びワイヤーが180度回転するたびに、最大圧縮歪みの領域に移行するようにした。回転ビーム疲労試験は、ASTM E2948-14に更に記載されており、その開示全体を参照により本明細書に明示的に組み込む。
【実施例1】
【0079】
Y含有量が低いNiTiY合金を、真空誘導溶解し、直径2インチのロッドの形態のインゴットに鋳造した。その微小構造を図2Bに示す。NiTiY合金は、本開示に従って作製され、56.78重量%のNi、43.06重量%のTi、0.02重量%のY、0.03重量%のOの濃度を有し、残部は付随的不純物であった。この合金を、1000℃で72時間均質化し、次いで、直径0.144インチのロッドに熱間加工した。これを次に、上記のように、標準的なワイヤー引抜き法に従って、直径0.0128インチに冷間引抜きし、500℃で5分間焼きなまして、超弾性特性を達成した。図4(目盛790の縮尺で描かれている)に示すように、得られる合金3Aの微小構造分析により、介在物5Aが1mm未満の平均横断方向寸法を有することが明らかになった。
【0080】
回転ビーム疲労試験を、超弾性ワイヤー試料で実施した。合金の試料13点を試験した。試験は、1%の歪み振幅及び60Hzの回転周波数で実施した。ワイヤーを、37℃の精製(逆浸透膜により)水浴内に保持し、10サイクルの「ランアウト」レベルに達するか、又はワイヤーが破壊するか、いずれかが先に起こるまでサイクルを繰り返した。13点の試料のうち、12点が10サイクルの「ランアウト」レベルに達した。1点の試料は、2,996,258サイクルで破壊した(例えば、図5の断裂1A参照。目盛990の縮尺で描かれている)。
【0081】
本発明の実施例の合金に関するデータは、標準的な(Yを含まない)NiTi(実施例2参照)と比べて遜色なく、本発明のNiTiY材料は、疲労寿命において、一貫して二元NiTiの性能を上回る。
【実施例2】
【0082】
56.23重量%のNi、43.75重量%のTi、及び付随的不純物を有する標準的な二元NiTi合金のワイヤーを、引抜きにより直径0.0128インチのワイヤーとし、焼きなまして、超弾性特性を達成した。
【0083】
回転ビーム疲労試験を実施した。合金の試料10点を試験した。試験は、1%の歪み振幅及び60Hzの回転周波数で実施した。ワイヤーは、37℃の精製(逆浸透膜により)水浴内に保持し、10サイクルの「ランアウト」レベルに達するか、又はワイヤーが破壊するか、いずれかが先に起こるまでサイクルを繰り返した。上記の10点の試料は、破壊に達するまでのサイクル数の平均は18,452サイクルで、最大は21,805サイクル、最小は14,936サイクルであった。
【0084】
したがって、この二元NiTiワイヤーは、本開示に従って製造されたNiTiYワイヤーと比較して、低い耐疲労性を示した。
【実施例3】
【0085】
Y含有量が高いNiTiY合金を、真空誘導溶解し、直径2インチのロッドの形態のインゴットに鋳造した。NiTiY合金は、本開示に従って作成され、56.74重量%のNi、43.05重量%のTi、0.16重量%のY、0.03重量%のOの濃度を有し、残部は付随的不純物であった。鋳放し条件のインゴット(その微小構造を図2Cに示す)は、脆く、微小構造に亀裂が見られた。亀裂により、合金をワイヤーに加工することができなかった。
【0086】
したがって、低濃度のイットリウム(すなわち、0.15重量%以下)を有するNiTiYワイヤーは、より高濃度(すなわち、0.16重量%)の試料と比べて、卓越した加工性を示した。
【0087】
本発明を、例示的設計を有するものとして記載してきたが、本発明は、本開示の精神及び範囲内でさらに変更できる。したがって、本願は、その一般的原理の任意の変形、使用、又は適応も網羅することを意図する。更に、本願は、本発明が関係し、添付の特許請求の範囲に入る公知の又は慣習的な実施法の範囲内となるような本開示からの逸脱を網羅することを意図する。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D