(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221012BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221012BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/133
(21)【出願番号】P 2019007197
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 守
(72)【発明者】
【氏名】小形 眞一
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-164832(JP,A)
【文献】特開2015-090858(JP,A)
【文献】特開2011-249058(JP,A)
【文献】特開2002-352803(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109467539(CN,A)
【文献】Zhao-Ming Xue et al.,New lithium salts with croconato-complexes of boron for lithium battery electrolytes,Journal of Power Sources,2007年,Vol.171,PP.944-947
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、
オキソ酸
またはオキソ酸のアルカリ金属塩と、
オキソカーボン酸と、を含有
し、
前記オキソ酸が、ホウ酸である、
リチウムイオン二次電池用負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はリチウムイオン二次電池用負極を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
小型、軽量、高エネルギー密度であるリチウムイオン二次電池は、従来から有機溶媒を含む非水電解液を用いる場合がある。有機溶媒は可燃性であるため、過充電等の電池異常により電池温度が上昇した場合、電池構成材料の燃焼や活物質の熱分解反応が生じ電池が熱暴走し、最終的に発煙、発火を起こす可能性がある。
【0003】
このような事態を回避し、電池の安全性を確保するために、種々の安全化技術が提案されている。例えば、特許文献1には、シュウ酸等の第1化合物と、ホウ酸等の第2化合物とを含む添加剤を、負極に添加することにより、発熱反応を抑制できることが記載されている。特許文献2には、所定の難溶性化合物であるKBOB又はNaBOB(BOB:bis(oxalato)borate、ホウ素にシュウ酸2分子が配位したもの)を負極に含むことにより、発熱反応を抑制できることが記載されている。特許文献3には、非水電解質二次電池の内部に感温性マイクロカプセルを含有し、電池温度の上昇に伴い重合性物質を放出し電解液を重合させることにより、電池反応を停止できることが記載されている。特許文献4には、リチウムイオン二次電池のセパレータに、炭酸ガス発生剤が混合された不織布セパレータを用いることにより、電池の異常発熱時に該セパレータから炭酸ガスを発生させて電池内圧を上昇させ、弁機構を開放させることにより、早期に電池内圧を低下させることで電池の破裂を回避できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5625487号公報
【文献】特許第5666225号公報
【文献】特開平10-270084号公報
【文献】特開2018-28986号公報
【文献】特開2016-164832号公報
【文献】特開2009-21229号公報
【文献】特開2008-262900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、特許文献1~4に記載の発明は、電池の安全性を確保するための技術である。ここで、特許文献1、2に記載されているような電池の発熱反応の抑制は、電池の長期利用の観点から特に重要であると考えられる。そのため、電池の発熱反応を抑制可能なより良い構成が望まれている。
【0006】
そこで、本願では電池の発熱反応を抑制可能なリチウムイオン二次電池用負極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、オキソ酸とオキソカーボン酸とを負極に含有させることにより、電池の発熱反応を抑制可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
特許文献5~7に記載されているように、オキソカーボン酸(クロコン酸又はその塩)は電池のサイクル特性の向上に寄与することが知られている。しかしながら、電池の発熱反応の抑制のためにオキソカーボン酸は用いられていない。
【0009】
以上より、本願は上記課題を解決するための一つの手段として、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、オキソ酸と、オキソカーボン酸と、を含有する、リチウムイオン二次電池用負極を開示する。
【発明の効果】
【0010】
本願が開示するリチウムイオン二次電池用負極によれば、電池の発熱反応を抑制可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0012】
[リチウムイオン二次電池用負極]
本開示のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、オキソ酸と、オキソカーボン酸と、を含有することを特徴とする。これにより、電池の発熱反応を抑制可能である。
【0013】
このような効果がえられる理由は明らかでないはないが、以下のように推測される。まず、オキソ酸とオキソカーボン酸とは、電池の初回充電時に負極活物質上で分解等して安定なSEI(Solid Electrolyte Interphase)を形成すると考えられる。負極中のオキソ酸、オキソカーボン酸、負極活物質は混合されているため、これらはそれぞれ近傍に存在している。よって、SEIは負極活物質を覆う被膜となると考えられる。そして、該被膜によって負極活物質と非水電解液との発熱反応を抑制できていると考えられる。
【0014】
オキソカーボン酸からプロトンが脱離して形成されるアニオンは、電荷が共鳴構造や芳香族性により安定化される。そのため、このようなアニオンの安定化が被膜の安定性に寄与していると考えられる。さらに、オキソカーボン酸とともに、無機酸であるオキソ酸を添加することにより、有機無機の両方の成分が混合された被膜が形成され、これが被膜の安定化に寄与していると考えられる。より具体的には、OH(ヒドロキシ基)を有するオキソ酸と、該OHと水素結合可能なC=O(カルボニル基)を有するオキソカーボン酸とを組み合わせることにより、安定な被膜が形成されると考えられる。
【0015】
負極活物質は上記したように炭素材料を含む。好ましくは、負極活物質は炭素材料からなる。炭素材料としては、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため好ましい。
【0016】
オキソ酸としては、周期表の12族、13族、14族、15族のうちの非金属元素からなる群のうちの1種以上の元素についてのオキソ酸又はオキソ酸のアルカリ金属塩を挙げることができる。具体的にはホウ酸、リン酸、ケイ酸、ホウ酸リチウム、リン酸リチウム、ケイ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、リン酸カリウム、ケイ酸カリウム、ホウ酸ルビジウム、リン酸ルビジウム、ケイ酸ルビジウム、ホウ酸セシウム、リン酸セシウム、ケイ酸セシウムからなる群から選ばれる1種以上のオキソ酸又はオキソ酸のアルカリ塩であることが好ましい。このうち、ホウ酸やリン酸、ケイ酸などがより好ましい。より安定な被膜が形成されやすく、負極活物質の発熱反応をより抑制することができると考えられるからである。さらに好ましくは、ホウ酸である。
【0017】
オキソカーボン酸としては、次の化学式(1)に示された化合物を用いることができる。化学式(1)におけるnは1~5である。n=1~5における化合物の具体的な名称は、n=1のときデルタ酸(三角酸)であり、n=2のときスクアリン酸(四角酸)であり、n=3のときクロコン酸(五角酸)であり、n=4のときロジゾン酸(六角酸)であり、n=5のときヘプタゴン酸(七角酸)である。
【0018】
【0019】
リチウムイオン二次電池用負極における負極活物質の含有量は特に限定されず、80重量%~99重量%とすることができる。ただし、負極活物質の含有量は高いほど好ましい。
【0020】
リチウムイオン二次電池用負極におけるオキソ酸及びオキソカーボン酸の合計の含有量は特に限定されず、1重量%~20重量%とすることができる。ただし、オキソ酸及びオキソカーボン酸の合計の含有量は低いほど好ましい。具体的には、1重量%~10重量%とすることが好ましい。また、オキソ酸及びオキソカーボン酸の割合は、モル比で3:1~1:3であることが好ましく、1:1~1:3であることがより好ましく、1:2であることが特に好ましい。
【0021】
リチウムイオン二次電池用負極には、必要に応じて、さらに公知の結着材や導電助材等の添加物を含むことができる。結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を挙げることができる。リチウムイオン二次電池用負極に含むことができる添加物の詳しい説明については、特許文献1の記載を引用する。
【0022】
このようなリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造することができる。例えば、リチウムイオン二次電池用負極を構成する材料を、所定の溶媒に溶かしてスラリーとし、該スラリーを集電体に塗布し乾燥させることで作製することができる。
【0023】
[リチウムイオン二次電池]
次に、上記のリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上記のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導する非水電解液を備える。また、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。
上記リチウムイオン二次電池の詳しい構成及び製造方法については、特許文献1の記載を引用する。
【実施例】
【0024】
以下、本開示のリチウムイオン二次電池用負極について、実施例を用いて詳しく説明する。
【0025】
[試験用電池の作製]
人造黒鉛(負極活物質)と、PVDF(結着材)を重量比で95:5となるように秤量し、これらを混合した。得られた混合物と、表1の添加剤とを重量比で90:10となるように秤量し、混合し、さらにペレット成形して負極とした。
また、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30:40:30の割合で混合した混合溶媒にLiPF61mol/Lとなるように溶解し、非水電解液を作製した。
そして、負極と、リチウム金属からなる正極と、非水電解液とを用いて、二極式セルを作製した。
【0026】
なお、表1の比較例1は、負極に添加剤を用いていない例である。すなわち、比較例1は人造黒鉛とPVDFとの混合物をそのままペレット化し、負極としている。
【0027】
[DSC測定試験]
上記により作製した二極式セルを25℃の温度条件下で、0.3mAの低電流で0.01Vまで充電し、次いで、0.3mAの低電流で1.2Vまで放電した。そして、再度、0.3mAの低電流で0.01Vまで充電した。
上記充電後のセルをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに移して解体し、負極と上記非水電解液とをステンレスパンに密閉した。そして、該ステンレスパンを用いて、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scaning Calorimetory)を実施した。評価は添加剤を用いていない比較例1の100℃~150℃における発熱の最大値を1.00として比較した。結果を表1に示した。
【0028】
なお、温度範囲を100℃~150℃に設定した理由は、この温度範囲において発熱が抑制できると、発熱反応の連鎖などを防止することができ、電池の安全性を向上させることができるためである。
【0029】
【0030】
表1より、添加剤を添加していない比較例1は、発熱が非常に大きかった。ホウ酸のみを添加した比較例2は、比較例1よりも発熱は抑えられていたが、大きく抑制できてはいなかった。オキソカーボン酸のみを添加した比較例3、4は、比較例2よりも発熱は抑えられていたが、まだまだ不十分であった。また、シュウ酸を含む添加剤を用いた比較例4、5は、比較例1~4よりも発熱は抑えられていたが、まだまだ不十分であった。シュウ酸のみを用いた比較例7は、比較例1よりも発熱は抑えられていたが、大きく抑制できてはいなかった。
【0031】
一方で、オキソ酸及びオキソカーボン酸からなる添加剤を用いた実施例1、2は、発熱を大きく抑制することができた。
実施例1よりも実施例2の方が発熱反応を抑制できた理由については定かではないが、次のように考えられる。スクアリン酸の固体は水素結合により分子が平面に配列したシート構造をしている。一方で、クロコン酸の固体も同様にシート構造を取るが、シートが折れ曲がった蛇腹構造となっている。また、ホウ酸のOHと水素結合可能なC=Oがスクアレン酸は2つ、クロコン酸は3つである。このような違いが、形成された被膜の安定性に影響を及ぼしていると考えられる。
以上のことから、負極にオキソ酸及びオキソカーボン酸を添加することにより、負極活物質と非水電解液との発熱反応を大きく抑制することができることが分かった。