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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】センサ素子およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20221012BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/419 327C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019043018
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020144087
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大石 雄太
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-281207(JP,A)
【文献】特開2010-164591(JP,A)
【文献】特開2003-279528(JP,A)
【文献】特開2014-052363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/409
G01N 27/419
G01N 27/416
G01N 27/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスに含まれる酸素を検出するセンサ素子であって、
板状の固体電解質体と、前記固体電解質体のうち第1面に形成される第1電極と、前記固体電解質体のうち第2面に形成される第2電極と、を備え、前記第1電極から前記第2電極に酸素を汲み入れるセンサセルと、
前記第1電極を覆うとともに、前記被測定ガスが前記第1電極に到達可能な多孔質状の通気部と、
前記第2電極を覆うとともに、前記被測定ガスおよび大気が通過不可能な緻密な材料で構成された緻密層と、
を備え、
前記通気部の気孔率は、45%以上65%以下の範囲内であり、
前記通気部のうち前記第1電極に当接する面から反対側の面までの厚さ寸法は、30μm以上100μm以下である
センサ素子。
【請求項2】
被測定ガスに含まれる酸素を検出するセンサ素子であって、
板状の固体電解質体と、前記固体電解質体のうち第1面に形成される第1電極と、前記固体電解質体のうち第2面に形成される第2電極と、を備え、前記第1電極から前記第2電極に酸素を汲み入れるセンサセルと、
前記第1電極を覆うとともに、前記被測定ガスが前記第1電極に到達可能な多孔質状の通気部と、
前記第2電極を覆うとともに、前記被測定ガスおよび大気が通過不可能な緻密な材料で構成された緻密層と、
を備え、
前記通気部の気孔率は、55%以上65%以下の範囲内であり、
前記通気部のうち前記第1電極に当接する面から反対側の面までの厚さ寸法は、30μm以上600μm以下である、
センサ素子。
【請求項3】
請求項1に記載のセンサ素子であって、
前記通気部の気孔率は、55~65%の範囲内である、
センサ素子。
【請求項4】
測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するセンサ素子を備えるガスセンサであって、
前記センサ素子として、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のセンサ素子を備える、
ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサ素子およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定ガスに含まれる酸素を検出するセンサ素子として、検知電極と基準電極とで固体電解質体を挟み込む構成のセンサ素子がある。
このようなセンサ素子の一例として、検知電極と基準電極との間に微小電流を通電して、検知電極から基準電極に酸素をポンピングする(汲み入れる)ことで、基準電極の酸素濃度を一定濃度にするように構成されたセンサ素子が知られている(特許文献1)。このセンサ素子は、基準電極の酸素濃度を基準として、検知電極に接する被測定ガスの酸素濃度の変化に応じて変動する検知信号を出力する。
【0003】
このセンサ素子は、例えば、内燃機関の排気ガスにおける酸素濃度の変化を検知する用途に利用することができる。このセンサ素子により検知した酸素濃度の変化状態は、例えば、内燃機関の空燃比制御に用いることができる。その場合、センサ素子は、例えば、ガスセンサに備えられて、ガスセンサとして内燃機関の排気管などに装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-052363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のセンサ素子は、微小電流の通電により検知電極の酸素を移動(ポンピング)させて基準電極を酸素の基準濃度に設定する構成であるため、検知電極への被測定ガスの供給量が低下すると、検知電極での酸素が不足して、酸素濃度の検知精度が低下する可能性がある。
【0006】
つまり、上記のセンサ素子は、検知電極への被測定ガスの供給量が低下して検知電極での酸素が不足すると、酸素濃度の変化に対する検知信号の変化状態が、本来の変化状態とは異なる状態となり、センサ素子の用途によっては、検知信号に基づく酸素濃度の検知精度が低下する可能性がある。
【0007】
例えば、酸素濃度が予め定められた基準濃度よりも高い場合と低い場合とで検知信号が異なる値を示すのが「本来の変化状態」であるセンサ素子においては、基準濃度を境界として酸素濃度が変化した場合に検知信号が変化するのが「本来の変化状態」である。なお、基準濃度を境界として酸素濃度が変化した場合とは、酸素濃度が基準濃度を超える方向に変化した場合や、酸素濃度が基準濃度を割り込む方向に変化した場合である。
【0008】
なお、検知電極への被測定ガスの供給量が低下して、酸素濃度の変化に対する検知信号の変化状態が変化したとしても、酸素の基準濃度を境界として酸素濃度が変化した場合に基準値を境界として検知信号が変化する範囲内の変化であれば、酸素検出は可能となる。
【0009】
しかし、酸素濃度の変化範囲が狭い用途では、検知信号の変化範囲が狭くなるため、僅かな検知信号の変化をも検知可能な検知精度が要求される。このような用途においては、検知電極への被測定ガスの供給量低下の影響により、酸素濃度の変化に対する検知信号の変化状態が変化してしまい、基準濃度を境界として酸素濃度が変化しても検知信号が変化せずに、基準濃度とは異なる値を境界として酸素濃度が変化した場合に検知信号が基準値を境界として変化することがある。つまり、酸素濃度の変化範囲が狭い用途では、このような「検知信号の変化状態の異常」が発生しやすいため、被測定ガスにおける酸素濃度の変化状態を正しく検知できず、酸素濃度の検知精度が低下する可能性がある。
【0010】
そこで、本開示の一局面においては、検知電極と基準電極との間に微小電流を通電して基準電極の酸素濃度を一定濃度にするように構成されたセンサ素子において、および、そのようなセンサ素子を備えるガスセンサにおいて、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一局面におけるセンサ素子は、被測定ガスに含まれる酸素を検出するセンサ素子であって、センサセルと、通気部と、緻密層と、を備える。
センサセルは、板状の固体電解質体と、第1電極と、第2電極と、を備える。センサセルは、第1電極から第2電極に酸素を汲み入れる。第1電極は、固体電解質体のうち第1面に形成される。第2電極は、固体電解質体のうち第2面に形成される。通気部は、第1電極を覆うとともに、被測定ガスが第1電極に到達可能な多孔質状に構成されている。緻密層は、第2電極を覆うとともに、被測定ガスおよび大気が通過不可能な緻密な材料で構成されている。
【0012】
通気部の気孔率は、45%以上80%未満の範囲内である。通気部のうち第1電極に当接する面から反対側の面までの厚さ寸法は、10μmより大きく、400μmより小さい。
【0013】
このセンサ素子は、通気部における気孔率および厚さ寸法が上記のように特定されているため、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても、検知電極への被測定ガスの供給量が低下することを抑制できる。
【0014】
よって、このセンサ素子は、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても、検知電極への被測定ガスの供給量が低下することを抑制でき、酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【0015】
本開示の他の一局面におけるセンサ素子は、被測定ガスに含まれる酸素を検出するセンサ素子であって、センサセルと、通気部と、緻密層と、を備える。
センサセルは、板状の固体電解質体と、第1電極と、第2電極と、を備える。センサセルは、第1電極から第2電極に酸素を汲み入れる。第1電極は、固体電解質体のうち第1面に形成される。第2電極は、固体電解質体のうち第2面に形成される。通気部は、第1電極を覆うとともに、被測定ガスが第1電極に到達可能な多孔質状に構成されている。緻密層は、第2電極を覆うとともに、被測定ガスおよび大気が通過不可能な緻密な材料で構成されている。
【0016】
通気部の気孔率は、55%以上80%未満の範囲内である。通気部のうち第1電極に当接する面から反対側の面までの厚さ寸法は、10μmより大きく、600μm以下である。
【0017】
このセンサ素子は、通気部における気孔率および厚さ寸法が上記のように特定されているため、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても、検知電極への被測定ガスの供給量が低下することを抑制できる。
【0018】
よって、このセンサ素子は、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても、検知電極への被測定ガスの供給量が低下することを抑制でき、酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【0019】
次に、上述のいずれかのセンサ素子においては、通気部の気孔率は、55~75%の範囲内であってもよい。
このセンサ素子は、通気部の気孔率が上記のように特定されているため、検知電極への酸素供給量が不足することを抑制できるとともに、通気部の物理的な強度を一定値以上に維持できる。よって、このセンサ素子は、検出精度の低下を抑制できるとともに、通気部の破損を抑制できる。
【0020】
次に、上述のいずれかのセンサ素子においては、通気部の厚さ寸法は、30μm~100μmの範囲内であってもよい。
このセンサ素子は、通気部の厚さ寸法が上記のように特定されているため、検知電極への酸素供給量が不足することを抑制できるとともに、通気部の物理的な強度を一定値以上に維持できる。よって、このセンサ素子は、検出精度の低下を抑制できるとともに、通気部の破損を抑制できる。
【0021】
次に、本開示の他の一局面におけるガスセンサは、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するセンサ素子を備えるガスセンサであって、センサ素子として上記のうちいずれかのセンサ素子を備える。
【0022】
このガスセンサは、上述のいずれかのガスセンサ素子を備えることで、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても、検知電極への被測定ガスの供給量が低下することを抑制でき、酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態の空燃比センサを軸方向に沿って破断して示す説明図である。
図2】第1実施形態におけるセンサ素子を示す斜視図である。
図3】第1実施形態におけるセンサ素子を分解して示す斜視図である。
図4】電極保護層の気孔率と、電極保護層の厚さ寸法と、特定空燃比sλとの相関関係に関する測定結果をグラフ形式で表した説明図である。
図5】電極保護層の気孔率と、電極保護層の厚さ寸法と、特定空燃比sλとの相関関係に関する測定結果、および電極保護層の強度に関する測定結果を表形式で表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、ガスセンサの一種である酸素センサのうち全領域空燃比センサ(以下単に、空燃比センサともいう)を例に挙げる。具体的には、自動車や各種内燃機関における空燃比フィードバック制御に使用するために、測定対象となる排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するガスセンサ素子(検出素子)が組み付けられるとともに、内燃機関の排気管に装着される空燃比センサを例に挙げて説明する。
【0025】
[1.第1実施形態]
[1-1.全体構成]
本実施形態のガスセンサ素子が使用される空燃比センサの全体の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、空燃比センサの内部構成を表す断面図である。なお、図1の下方を空燃比センサの先端側とし、その反対側を後端側として説明する。
【0026】
図1に示す様に、本実施形態の空燃比センサ1は、筒状のハウジング3と、略筒状の保持体5と、この保持体5を介してハウジング3内に保持される板状のセンサ素子7とを備えている。
【0027】
このうち、ハウジング3は、筒状の主体金具9と、金属製の外筒11と、筒状の金属製のプロテクタ13と、を備えて構成されている。
主体金具9は、その外周に雄ねじ部14を備えており、雄ねじ部14を内燃機関の排気管に形成された雌ねじ孔部(図示せず)に締着することにより、主体金具9自身が排気管に固定される。
【0028】
外筒11は、その先端開口部15が主体金具9の後端小径部17に嵌め合わされた状態で、レーザ溶接によって主体金具9に固着されている。
プロテクタ13は、内側プロテクタ19および外側プロテクタ21を備えた2重壁構造となっている。
【0029】
内側プロテクタ19は、後端開口部23が主体金具9の先端小径部25の外側から嵌め合わされた状態で、レーザ溶接によって主体金具9に固着されている。内側プロテクタ19は、側壁に複数の内側連通孔27が形成されている。外側プロテクタ21は、後端開口部28が内側プロテクタ19の外側から嵌め合わされた状態で、レーザ溶接によって内側プロテクタ19に固着されている。外側プロテクタ21は、側壁に複数の外側連通孔29が形成されている。
【0030】
また、保持体5は、金属カップ31と、セラミックホルダ33と、滑石リング35と、スリーブ37とを備えている。
セラミックホルダ33は、アルミナ製であり、金属カップ31内に嵌め込まれている。滑石リング35は、金属カップ31の内部及び主体金具9の内部の一部にわたり充填されている。スリーブ37は、アルミナ製であり、滑石リング35を後端側から押さえるように、主体金具9に嵌装されている。
【0031】
スリーブ37は、径方向の外向きに突出する大径部39を備えている。大径部39の後端には、円環状の金属パッキン41が配置されている。そして、主体金具9のカシメ部43が、金属パッキン41を介してスリーブ37の大径部39を先端側に向けて押圧するようにカシメられている。
【0032】
更に、センサ素子7は、その長手方向中間部位にて、保持体5により保持されている。センサ素子7は、後に詳述する様に、その先端側に、検出部45を有するとともに、後端側に、電極パッド47、49、51、53(図3参照)を備えている。なお、センサ素子7は、検出部45が保持体5より先端側(即ち被測定ガスが導入される空間内)に配置された状態で、保持体5により保持されている。
【0033】
また、空燃比センサ1は、ハウジング3の外筒11の内部に、セパレータ55およびグロメット57を備えている。
セパレータ55は、アルミナを用いて構成されており、センサ素子7の後端部を覆っている。セパレータ55は、内部に4つの接続端子(図1では2つの接続端子59、61のみを示す)を保持している。4つの接続端子は、空燃比センサ1の外部に引き出される4本の被覆導線(図1では2本の被覆導線63、65のみを示す)と各電極パッド47~53とをそれぞれ電気的に接続している。なお、セパレータ55は、自身の外周面と外筒11の内周面との間に嵌装された保持部材67により保持されている。
【0034】
グロメット57は、フッ素ゴムを用いて構成されており、外筒11の後端開口部69の内部に保持されている。グロメット57は、4つの挿通孔(図1では2つの挿通孔72のみを示す)を有する。4つの挿通孔に、セパレータ55から引き出された4本の被覆導線(図1では2つの被覆導線63、65のみを示す)が気密的に挿通されている。
【0035】
[1-2.センサ素子]
次に、空燃比センサ1の要部であるセンサ素子7について、図2および図3に基づいて説明する。
【0036】
図2に示すように、センサ素子7は、センサセル71と、ヒータ部材73と、を備えている。センサセル71は、酸素濃度の検出を行う板状の検出素子である。ヒータ部材73は、センサセル71に貼り合わされ、センサセル71を早期に活性化させるための加熱を行う板状のヒータ部材である。
【0037】
センサ素子7の先端側(図2の下方)には、検出部45の周囲を覆うように、多孔質のセラミック(例えばアルミナ)で形成された多孔質保護層75が設けられている。
一方、センサ素子7の後端側には、その表面及び裏面に、上述した電極パッド47~53が形成されている(図2では表面の電極パッド47、49のみを示す)。
【0038】
図3に示すように、センサセル71は、酸素イオン伝導性を有する板状の固体電解質体77を備えている。なお、図3では、図面右側を先端側、その反対側を後端側として説明する。
【0039】
固体電解質体77は、イットリア(Y)をジルコニア(ZrO)に添加して焼成した部分安定化ジルコニア(YSZ)から構成されている。なお、この部分安定化ジルコニア中のイットリアの添加量は、例えば5mol%である。
【0040】
また、センサセル71は、固体電解質体77の表面(以下、第1面ともいう。)に、絶縁層83を備えている。絶縁層83は、例えばアルミナを用いて形成された矩形状の緻密層であり、固体電解質体77の第1面に積層されている。固体電解質体77と絶縁層83との間には、中間層79および検知電極部81が備えられる。
【0041】
中間層79は、部分安定化ジルコニアを用いて形成されており、固体電解質体77の第1面に形成されている。なお、中間層79におけるイットリアの添加量は、例えば4.3mol%である。センサセル71においては、中間層79を省略してもよい。
【0042】
検知電極部81は、先端側に配置された矩形状の検知電極87と、検知電極87から後端側に線状に延出された検知電極リード89と、を備える。検知電極87および検知電極リード89は、主成分である貴金属にセラミックス等を添加した材料によって形成されている。具体的には、貴金属としては例えば白金(Pt)を用いるとともに、セラミックスとしては例えばジルコニアを用い、それらの割合は、例えば白金86質量%、ジルコニア16質量%である。
【0043】
検知電極リード89は、検知電極87から固体電解質体77の第1面に沿って後端側に向かって延出される。検知電極リード89は、絶縁層83のスルーホール部91を介して電極パッド49に接続されている。
【0044】
絶縁層83は、検知電極87に対応する位置に中空部83aを備えている。中空部83aには、電極保護層85が埋設されている。電極保護層85は、例えばアルミナを用いて形成された矩形状の多孔質層である。電極保護層85は、排ガスおよび酸素が通過可能な多孔質状に形成されている。電極保護層85は、検知電極87の被毒を防止するために、検知電極87の表面を覆うように形成されている。つまり、電極保護層85は、検知電極87を覆うとともに、排ガスが検知電極87に到達可能な多孔質状に形成されている。
【0045】
電極保護層85のうち検知電極87に当接する面から反対側の面までの厚さ寸法は、400μmである。電極保護層85の気孔率は、65%である。電極保護層85は、このような厚さ寸法および気孔率の多孔質状に形成されることで、排ガスおよび酸素が通過可能に構成されている。
【0046】
一方、センサセル71は、固体電解質体77の裏面(以下、第2面ともいう。)に、基準電極部93を備えている。基準電極部93は、通気性を有する多孔質体で形成されている。基準電極部93は、基準電極95と、基準電極リード97と、を備える。基準電極95は、固体電解質体77のうち先端側に配置されており、矩形状の多孔質体で構成されている。基準電極リード97は、基準電極95から後端側に線状に延出されており、多孔質体で構成されている。
【0047】
基準電極リード97は、基準電極95から固体電解質体77の第2面に沿って後端側に向かって延出されている。基準電極リード97は、固体電解質体77のスルーホール部99および絶縁層83のスルーホール部101を介して電極パッド47に接続されている。
【0048】
次に、ヒータ部材73の構成について説明する。
ヒータ部材73は、一対の絶縁層103、105と、ヒータ107と、を備えている。一対の絶縁層103、105は、それぞれ、例えばアルミナで構成されている。ヒータ107は、一対の絶縁層103、105の間に挟持されており、多孔質体を用いて構成されている。
【0049】
ヒータ107は、発熱体109と、一対の発熱体リード111、113と、を備える。発熱体109は、通電により発熱する多孔質体を用いて構成されている。発熱体109は、例えば、蛇行状或いはジグザグ状に形成されている。一対の発熱体リード111、113は、多孔質体を用いて構成されている。発熱体リード111、113は、それぞれ、発熱体109の両接続端部から後端側に向けて延出している。
【0050】
発熱体リード111は、絶縁層105のスルーホール部115を介し電極パッド51に接続されている。発熱体リード113は、絶縁層105のスルーホール部117を介し電極パッド53に接続されている。
【0051】
ヒータ部材73は、センサセル71のうち基準電極部93が形成される第2面に配置される状態で、センサセル71に積層される。これにより、絶縁層103は、基準電極95を覆う状態で配置される。絶縁層103は、アルミナを用いて構成されており、排ガスおよび大気が通過不可能な緻密な材料で構成されている。
【0052】
[1-3.センサ素子の製造方法]
次に、センサ素子7の製造方法について、図3に基づいて説明する。
まず、センサセル71に関しては、例えば特開2008-14764号公報に記載の様に、従来と同様な手法(例えばドクターブレード法)によって、センサセル71の製造に使用する絶縁層83や固体電解質体77のグリーンシートを作製する。例えばアルミナを主成分とする材料を用いて絶縁層83となるグリーンシートを作製し、部分安定化ジルコニアを主成分とする材料を用いて固体電解質体77となるグリーンシートを作製する。このとき、グリーンシートにおいて、焼成後にスルーホール部91、101、115、117や中空部83aとなる部分に、それぞれに応じた大きさの孔を形成する。
【0053】
次に、検知電極部81や基準電極部93を形成する材料を含有するペーストを用いて、例えばスクリーン印刷によって、固体電解質体77の第1面および第2面に検知電極部81や基準電極部93のパターンを形成する。
【0054】
検知電極部81のパターンを形成する際には、まず、検知電極リード89を構成する材料を用いて、固体電解質体77の第1面に検知電極リード89のパターンを形成する。その後、検知電極87を構成する材料を用いて、検知電極リード89のパターンの先端に検知電極87の一部が重なるようにして、固体電解質体77の第1面に検知電極87のパターンを形成する。検知電極87および検知電極リード89の材料としては、例えば、平均一次粒子径10μmの白金を86質量%、平均一次粒子径0.8μmのセラミック粉末(アルミナ、ジルコニア、またはそれらの混合粉末など)を14質量%含む材料に、分散剤、バインダ等を加えてペースト化したものを用いる。
【0055】
基準電極部93のパターンを形成する際には、まず、基準電極リード97を構成する材料を用いて、固体電解質体77の第2面に基準電極リード97のパターンを形成する。その後、基準電極95を構成する材料を用いて、基準電極リード97のパターンの先端に基準電極95の一部が重なるようにして、固体電解質体77の第2面に基準電極95のパターンを形成する。基準電極95および基準電極リード97を構成する材料としては、例えば、平均一次粒子径10μmの白金を86質量%、平均一次粒子径0.8μmのセラミック粉末(アルミナ、ジルコニア、またはそれらの混合粉末など)を14質量%含む材料に、分散剤、バインダ等を加えてペースト化したものを用いる。
【0056】
また、従来と同様な手法(例えばドクターブレード法)によって、焼成後に電極保護層85となる未焼成保護層用シートを作製する。この未焼成保護層用シートの作製においては、まず、セラミック粉末(アルミナ、ジルコニア、またはそれらの混合粉末など),気孔化剤(カーボン粉末など),分散剤,バインダ,可塑剤を湿式混合により分散したスラリーを生成する。可塑剤はブチラール樹脂及びDBPを有する。このスラリーをドクターブレード法によりシート状とし、混合溶媒を揮発させることで未焼成保護層用シートを作製する。このとき、スラリーにおける固形分の組成比、気孔化剤の添加量などを調整することで、焼成後の電極保護層85における気孔率を任意に調整することが可能となる。また、未焼成保護層用シートの厚さ寸法を調整することで、焼成後の電極保護層85における厚さ寸法を任意に調整することが可能となる。本実施形態では、焼成後の電極保護層85における気孔率および厚さ寸法が上述の数値となるように、未焼成保護層用シートにおける各種条件が調整されている。
【0057】
この未焼成保護層用シートは、絶縁層83となるグリーンシートのうち中空部83aとなる部位に埋め込まれることで、未焼成の電極保護層85となる。
次に、ヒータ部材73に関しては、従来と同様な手法(例えばドクターブレード法)によって、ヒータ部材73の製造に使用する絶縁層103、105のグリーンシートを作製する。例えばアルミナを主成分とする材料を用いて絶縁層103、105となるグリーンシートを作製する。
【0058】
次に、ヒータ107を形成する材料からなるペーストを用いて、例えばスクリーン印刷によって、絶縁層105の表面にヒータ107のパターンを形成する。まず、一対の発熱体リード111、113を構成する材料を用いて、絶縁層105に発熱体リード111、113のパターンを形成する。発熱体リード111、113を構成する材料としては、例えば、平均一次粒子径0.6μmの白金を94質量%、平均一次粒子径1.0μmのセラミック粉末(アルミナ、ジルコニア、またはそれらの混合粉末など)を6質量%含む材料に、分散剤、バインダ等を加えてペースト化したものを用いる。その後、発熱体109を構成する材料を用いて、各発熱体リード111、113のパターンの先端に発熱体109の一部が重なるようにして、絶縁層105に発熱体109のパターンを形成する。発熱体109構成する材料としては、例えば、平均一次粒子径3.0μmの白金を86質量%、平均一次粒子径0.4μmのジルコニアを14質量%含む材料に、有機材料等を加えてペースト化したものを用いる。
【0059】
その後、上述した未焼成の各グリーンシート、未焼成保護層用シート、その他必要な各材料(例えば中間層79の材料など)を、図3に示す様に積層し、所定の焼成温度で一体に焼成した。なお、電極パッド47~53などは、従来と同様に定法によって形成した。このようにして、センサ素子7を得ることができる。
【0060】
このセンサ素子7を、従来と同様の手法で各種部材(ハウジング3、保持体5など)に組み付けることにより、空燃比センサ1を製造できる。
[1-4.測定結果]
本開示のセンサ素子7を用いて、電極保護層85の気孔率と、電極保護層85の厚さ寸法と、センサ起電力EMFが450mVとなる時の内燃機関の空燃比(以下、特定空燃比sλともいう)と、の相関関係を測定した測定結果について説明する。なお、センサ起電力EMFは、センサ素子7のセンサ出力であり、電極パッド47、49の間に生じる電圧である。
【0061】
本測定では、センサ素子7を内燃機関の排ガスに晒して排ガス中の酸素濃度を検出する状態とし、内燃機関の空燃比を変化させて、センサ素子7のセンサ起電力EMFが450mVとなる時の内燃機関の空燃比(特定空燃比sλ)を測定した。本測定では、電極保護層85の気孔率および電極保護層85の厚さ寸法が異なる複数種類のセンサ素子7を用いることで、電極保護層85の気孔率と特定空燃比sλとの相関関係を測定した。なお、本測定では、電極保護層85の気孔率を30~80%の範囲内で変更し、電極保護層85の厚さ寸法を10から600μmの範囲内で変更した。
【0062】
複数種類のセンサ素子7のそれぞれについて、特定空燃比sλと理論値(sλ=1.0000)との差分絶対値Δsλ(=|sλ-1.0000|)を算出し、差分絶対値Δsλに基づき判定した評価結果について説明する。図4では、縦軸が差分絶対値Δsλで、横軸が電極保護層85の気孔率である座標平面において、本測定の測定結果を表している。図4では、電極保護層85の厚さ寸法ごとに異なる記号を用いて、複数種類のセンサ素子7のそれぞれの測定結果を表している。図5に、差分絶対値Δsλに基づいて複数種類のセンサ素子7について判定した評価結果を示す。具体的には、差分絶対値Δsλが予め定められた第1判定値λth1と同値または第1判定値λth1よりも小さい場合に「良好」(図5では、〇で表す。)と判定した。差分絶対値Δsλが予め定められた第2判定値λth2(第1判定値λth1よりも大きい値。)と同値または第2判定値λth2よりも小さい場合に「許可」(図5では、△で表す。)と判定した。差分絶対値Δsλが第2判定値λth2よりも大きい場合に「不可」(図5では、×で表す。)と判定した。
【0063】
測定結果によれば、電極保護層85の気孔率が45%以上80%未満であり、かつ、電極保護層85の厚さ寸法が10μmより大きく、400μm未満であるセンサ素子7であれば、「良好」(〇)または「許可」(△)の評価結果となる。このようなセンサ素子7は、雰囲気に応じた値を出力できるため、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度を検出可能となる。また、電極保護層85の気孔率が45%以上80%未満であり、かつ、電極保護層85の厚さ寸法が10μmより大きく、200μm未満であるセンサ素子7であれば、「良好」(〇)の評価結果となり、より精度良く酸素濃度を検出可能となる。
【0064】
なお、電極保護層85の厚さ寸法が10μm以下の場合には、厚さ寸法が不十分となり、検知電極87が昇華するなど、電極保護層85が保護層としての機能を発揮できない可能性がある。そのため、電極保護層85の厚さ寸法が10μmのセンサ素子7は、本測定での評価結果を「不可」(×)とした。また、電極保護層85の気孔率が80%以上の場合には、電極保護層85の機械的強度(物理的な強度)が不十分となる可能性がある。そのため、電極保護層85の気孔率が80%以上のセンサ素子7は、本測定での評価結果は「不可」(×)とした。
【0065】
上記の測定結果によれば、電極保護層85の気孔率が45%以上80%未満であり、かつ、電極保護層85の厚さ寸法が、10μmより大きく、400μm未満であるセンサ素子7は、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度を検出できるとともに、物理的な強度が十分なものとなる。さらに、電極保護層85の気孔率が45%以上80%未満であり、かつ、電極保護層85の厚さ寸法が10μmより大きく、200μm未満であるセンサ素子7は、より安定した酸素濃度検知が可能となり、さらに酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【0066】
また、上記の測定結果によれば、電極保護層85の気孔率が55%以上80%未満であり、かつ、電極保護層85の厚さ寸法が、10μmより大きく、600μm以下であるセンサ素子7は、より安定した酸素濃度検知が可能となり、さらに酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【0067】
[1-5.効果]
以上説明したように、本実施形態の空燃比センサ1(センサ素子7)においては、電極保護層85の厚さ寸法は400μmであり、電極保護層85の気孔率は65%である。つまり、電極保護層85の気孔率は、45%以上80%未満の範囲内であり、電極保護層85の厚さ寸法は、10μmより大きく、400μmより小さい。
【0068】
このセンサ素子7は、電極保護層85における気孔率および厚さ寸法が上記のように特定されているため、上記の測定結果に示すように、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても、検知電極87への排ガス(被測定ガス)の供給量が低下することを抑制できる。
【0069】
よって、センサ素子7および空燃比センサ1は、酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても、検知電極87への排ガスの供給量が低下することを抑制でき、酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【0070】
また、本実施形態の空燃比センサ1(センサ素子7)は、電極保護層85の気孔率が45%以上80%未満であり、かつ、電極保護層85の厚さ寸法が10μmより大きく、200μm未満である。さらに、本実施形態の空燃比センサ1(センサ素子7)は、電極保護層85の気孔率が55%以上80%未満であり、かつ、電極保護層85の厚さ寸法が、10μmより大きく、600μm以下である。
【0071】
このセンサ素子7は、電極保護層85における気孔率および厚さ寸法が上記のように特定されているため、上記の測定結果に示すように、より安定した酸素濃度検知が可能となり、さらに酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【0072】
[1-6.文言の対応関係]
ここで、文言の対応関係について説明する。
空燃比センサ1がガスセンサの一例に相当し、センサ素子7がセンサ素子の一例に相当する。センサセル71がセンサセルの一例に相当し、検知電極87が第1電極の一例に相当し、基準電極95が第2電極の一例に相当し、電極保護層85が通気部の一例に相当し、絶縁層103が緻密層の一例に相当する。
【0073】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
【0074】
例えば、上記実施形態では、通気部(電極保護層85)の厚さ寸法は400μmで、通気部の気孔率は65%であるセンサ素子について説明したが、通気部の厚さ寸法および気孔率はこのような数値に限られることはない。具体的には、通気部の厚さ寸法が400μmの場合には、通気部の気孔率を55%~75%の範囲内に設定することで、さらに酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。また、通気部の気孔率が65%の場合には、通気部の厚さ寸法を30μm~100μmの範囲内に設定することで、さらに酸素濃度の変化範囲が狭い用途においても酸素濃度の検知精度が低下するのを抑制できる。
【0075】
次に、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0076】
1…空燃比センサ、3…ハウジング、5…保持体、7…センサ素子、9…主体金具、11…外筒、13…プロテクタ、71…センサセル、73…ヒータ部材、75…多孔質保護層、77…固体電解質体、81…検知電極部、83…絶縁層、83a…中空部、85…電極保護層、87…検知電極、89…検知電極リード、93…基準電極部、95…基準電極、97…基準電極リード、103…絶縁層、105…絶縁層、107…ヒータ、109…発熱体。
図1
図2
図3
図4
図5