IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-耐熱部材 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】耐熱部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/119 20060101AFI20221012BHJP
【FI】
C04B35/119
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019056839
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020158320
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】豊田 諭史
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】竹之下 英博
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-070216(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098767(WO,A1)
【文献】特開2015-050312(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156831(WO,A1)
【文献】特開2007-230821(JP,A)
【文献】国際公開第2012/015015(WO,A1)
【文献】特開2011-241131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアルミナ結晶および複数のジルコニア結晶と、ガラスとを含有し、
構成される全成分100質量%のうちの含有量が、AlがAl換算で50質量%以上84質量%以下であり、ZrがZrO換算で5質量%以上20質量%以下であり、SiをSiO 、CaをCaO、MgをMgOに換算した値の合計が11質量%以上45質量%以下であり、複数の前記ジルコニア結晶の少なくとも1つが、異なる傾きのラメラ構造の異傾ラメラ結晶である耐熱部材。
【請求項2】
前記ジルコニア結晶のうち、前記異傾ラメラ結晶が占める個数割合は、40%以上である請求項1に記載の耐熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
高温での使用が前提となる製品、例えば、自動車の車内暖房に使われるヒータ等には、600℃程度の温度で使用しても破損するおそれが少ない耐熱部材が使用されている。
【0003】
ここで、耐熱部材の材料には、アルミナ質セラミックスが広く採用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-2464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、使用温度が1000℃程度となる製品が想定されているため、このような製品に使用される耐熱部材には、優れた耐熱衝撃性を備えていることが求められている。
【0006】
本開示は、このような事情を鑑みて案出されたものであり、優れた耐熱衝撃性を有する耐熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の耐熱部材は、複数のアルミナ結晶および複数のジルコニア結晶と、ガラスとを含有する。また、構成される全成分100質量%のうちの含有量が、AlがAl換算で50質量%以上84質量%以下であり、ZrがZrO換算で5質量%以上20質量%以下であり、SiをSiO 、CaをCaO、MgをMgOに換算した値の合計が11質量%以上45質量%以下である。そして、複数の前記ジルコニア結晶の少なくとも1つが、異なる傾きのラメラ構造の異傾ラメラ結晶である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の耐熱部材は、優れた耐熱衝撃性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の耐熱部材の拡大断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の耐熱部材について、図1を用いて、以下詳細に説明する。
【0011】
本開示の耐熱部材は、図1に示すように、アルミナ結晶1およびジルコニア結晶2をそれぞれ複数含有する。そして、構成される全成分100質量%のうちの含有量が、AlがAl換算で50質量%以上84質量%以下であり、ZrがZrO換算で5質量%以上20質量%以下である。
【0012】
このような組成比であることで、本開示の耐熱部材は、比較的安価であるとともに、大気環境下で加熱されても劣化しにくく、優れた機械的強度を有する。ここで、優れた機械的強度とは、JIS R 1601-2008に準拠した、室温(25℃)での3点曲げ強度の値が280MPa以上のことである。
【0013】
なお、本開示の耐熱部材が、アルミナ結晶1およびジルコニア結晶2を含有しているか否かは、以下の方法で確認すればよい。まず、本開示の耐熱部材を粉砕した後、X線回折装置(XRD)を用いて測定する。そして、得られた2θ(2θは、回折角度である。)の値よりJCPDSカードを用いて同定を行なうことにより、アルミナ結晶1およびジルコニア結晶2の存在を確認することができる。
【0014】
また、本開示の耐熱部材を構成する成分の含有量は、以下の方法で確認すればよい。まず、ICP発光分光分析装置(ICP)を用いて、耐熱部材の含有成分の定量分析を行なう。そして、ICPで測定したアルミニウム(Al)およびジルコニウム(Zr)の含有量から、それぞれを酸化物換算して算出すればよい。
【0015】
また、本開示の耐熱部材において、複数のジルコニア結晶2の少なくとも1つが、異なる傾きのラメラ構造の異傾ラメラ結晶2aである。ここで、ラメラ構造とは、図1に示すように、断面視した際に、第1方向に沿って延び、第1方向に交わる第2方向に並ぶ、複数の層を有する領域Aが存在する構造のことである。ここで、各層は、立方晶、正方晶または単斜晶のいずれかの結晶構造からなり、隣り合う層同士の面方向は異なっていると推察される。
【0016】
また、異傾ラメラ結晶2aとは、図1に示すように、断面視した際に、第2方向に並ぶラメラ構造の領域Aと、第2方向に交わる第3方向に並ぶラメラ構造の領域Bとを有するジルコニア結晶2のことである。
【0017】
ここで、ジルコニア結晶2の熱膨張係数は、一般的にアルミナ結晶1の熱膨張係数よりも大きい。そして、ラメラ構造のジルコニア結晶や異傾ラメラ結晶2aではないジルコニア結晶(以下、単なるジルコニ結晶と記載する)は、その熱膨張係数に異方性があり、特定方向の熱膨張係数が特に大きい。一方、ラメラ構造のジルコニア結晶や異傾ラメラ結晶2aは、隣り合う層同士の面方向が異なる構造であることから、単なるジルコニア結晶に比べて、熱膨張係数の異方性が小さい。特に、異傾ラメラ結晶2aは、上述した構成であることで、熱膨張係数の異方性がより小さい。よって、異傾ラメラ結晶2aであれば、単なるジルコニア結晶に比べて、急激な温度変化に伴う、アルミナ結晶1の熱膨張係数差に起因して発生する応力が小さくなり、亀裂または欠けが発生しにくくなる。よって、本開示の耐熱部材は、優れた耐熱衝撃性を有する。
【0018】
また、優れた耐熱衝撃性とは、水中投下試験における耐熱温度が250℃以上であることである。ここで、水中投下試験における耐熱温度とは、T2(℃)に加熱した、3mm×4mm×36mmの試験片を、T2よりも低い温度であるT1(℃)の水中へ投下したときに、試験片に亀裂または欠けが発生しない温度差T2-T1(℃)の最大値のことである。
【0019】
ここで、耐熱部材が、異傾ラメラ結晶2aを有するか否かは、以下の方法で確認すればよい。まず、耐熱部材を切断し、クロスセクションポリッシャー(CP)を用いて研磨することで研磨面を得る。次に、この研磨面を観察面として、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、観察面の特定視野を約1万倍の倍率で観察する。このとき、アルミナ結晶1は白色を呈し、ジルコニア結晶2は黒色を呈することから、アルミナ結晶1とジルコニア結晶2とは、目視で判別可能である。そして、ジルコニア結晶2において、上述した異傾ラメラ結晶2aの特徴を有する結晶が有るか無いか確認すればよい。なお、異傾ラメラ結晶2aの特徴の1つである、隣り合う層同士の面方向は異なっているかは、耐熱部材を切断し、集束イオンビーム(FIB)で加工した加工面において、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて約3万倍の倍率でジルコニア結晶2を観測し、得られた電子回折パターンに
おいて、2重回折が観測されるか否かで確認すればよい。
【0020】
また、本開示の耐熱部材は、ジルコニア結晶2のうち、異傾ラメラ結晶2aが占める個数割合は、40%以上であってもよい。これは、例えば、100個のジルコニア結晶2が存在した場合、その内の40個以上のジルコニア結晶2が異傾ラメラ結晶2aであることを意味する。そして、このような構成を満足するならば、異傾ラメラ結晶2aにより、本開示の耐熱部材の耐熱衝撃性は向上する。
【0021】
ここで、異傾ラメラ結晶2aが占める個数割合は、以下の方法で算出すればよい。まず、上述した特定視野におけるジルコニア結晶2の個数をX、異傾ラメラ結晶2aの個数をYとし、Y/X×100の計算式により1つの特定視野における個数割合を求める。これを、異なる計5カ所の特定視野に対して行ない、得られたそれぞれの個数割合から平均値を求めればよい。
【0022】
また、本開示の耐熱部材は、ガラスを含有し、構成される全成分100質量%のうちの含有量が、SiをSiO、CaをCaO、MgをMgOに換算した値の合計が11質量%以上45質量%以下であってもよい。ここで、ガラスとは、酸化珪素(SiO)に酸化カルシウム(CaO)および酸化マグネシウム(MgO)を含む、混合ガラスである。
【0023】
このような構成を満足するならば、優れた耐熱衝撃性を有するガラスを構成する成分を上述の量含有していることで、本開示の耐熱部材は、機械的強度を維持しつつ、耐熱衝撃性が向上する。
【0024】
ここで、本開示の耐熱部材がガラスを含有しているか否かは、以下の方法で確認すればよい。まず、本開示の耐熱部材を粉砕した後、XRDを用いて測定する。そして、得られた2θ(2θは、回折角度である。)の値よりJCPDSカードを用いて同定を行ない、低角度側のハローパターンの存在によりガラスの有無を確認することができる。
【0025】
また、ガラスの有無の他の確認方法としては、耐熱部材を切断し、CPを用いて研磨した研磨面を観察面する。次に、この観察面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEMに付設のエネルギー分散型分析装置(EDS)により、結晶以外の非晶質部分が確認されればその部分がガラスであり、その部分に電子線を照射して発生した蛍光X線を解析することにより、珪素、カルシウム、マグネシウムおよび酸素を含むガラスであるか否かを確認できる。
【0026】
また、ICPを用いて、耐熱性部材の含有成分の定量分析を行ない、ICPで測定した珪素(Si)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)の含有量から、それぞれを酸化物換算して算出すればよい。
【0027】
なお、構成される全成分100質量%のうち、SiのSiO換算での含有量と、CaのCaO換算での含有量と、MgのMgO換算での含有量との合計は、11質量%以上45質量%以下であるが、SiのSiO換算での含有量は6質量%以上25質量%以下、CaのCaO換算での含有量は3質量%以上14質量%以下、MgのMgO換算での含有量は1質量%以上8質量%以下であってもよい。
【0028】
また、本開示の耐熱部材は、Al、Zr、Si、Ca、Mg、O以外に、例えば、不可避不純物を合計で0.3質量%以下含有してもよい。不可避不純物としては、例えば、Na、Fe、Tiであり、構成される全成分100質量%のうちの含有量が、NaがNaO換算で0.01質量%以上0.1質量%以下、FeがFe換算で0.01質量%以上0.1質量%以下、TiがTiO換算で0.01質量%以上0.1質量%以下であ
ってもよい。
【0029】
また、本開示の耐熱性部材は、上述したように、優れた耐熱衝撃性を有していることから、車両内の暖房に用いられる急速昇温可能なヒータ用部材、高温高圧の気体等を流すための流路部材等の様々な技術分野において広く利用することができる。
【0030】
次に、本開示の耐熱性部材の製造方法について以下に説明する。
【0031】
まず、酸化アルミニウム(Al)粉末、安定化していない酸化ジルコニウム(ZrO)粉末を準備する。
【0032】
次に、AlがAl換算で50質量%以上84質量%以下、ZrがZrO換算で5質量%以上20質量%以下となるように、酸化アルミニウム粉末と酸化ジルコニウム粉末とを秤量するとともに混合し、混合粉末を得る。
【0033】
次に、混合粉末をボールミル等の公知の方法で湿式粉砕し、公知の有機バインダを添加し、噴霧乾燥等の公知の方法で造粒し、造粒体を得る。
【0034】
次に、得られた造粒体を、金型を用いたプレス成形等の公知の方法で成形し、成形体を得る。
【0035】
次に、水素ガスを1体積%以上50体積%以下含有する還元雰囲気下で、成形体を焼成する。このとき、焼成時の最高温度を1300℃以上1500℃以下とし、最高温度での保持時間は1時間以上10時間以下とする。このように、水素ガスを用いて焼成することにより、ジルコニア結晶の少なくとも1つが、異なる傾きのラメラ構造の異傾ラメラ結晶となり、本開示の耐熱部材を得る。なお、還元雰囲気に含まれる水素ガス以外のガスの種類は、窒素ガスまたはアルゴンガス等の不活性ガスである。
【0036】
また、ジルコニア結晶のうち、異傾ラメラ結晶が占める個数割合が40%以上である耐熱部材を得るには、水素ガスを4体積%以上20体積%以下含有する還元雰囲気下で焼成すればよい。
【0037】
また、ガラスを含有し、SiをSiO、CaをCaO、MgをMgOに換算した値の合計が11質量%以上45質量%以下である耐熱部材を得るには、以下の方法で作製すればよい。まず、酸化アルミニウム粉末および酸化ジルコニウム粉末の他に、酸化珪素(SiO)粉末、炭酸カルシウム(CaCO)粉末および炭酸マグネシウム(MgCO)粉末を準備する。次に、AlがAl換算で50質量%以上84質量%以下、ZrがZrO換算で5質量%以上20質量%以下となるとともに、SiをSiO、CaをCaO、MgをMgOに換算した値の合計が11質量%以上45質量%以下となるように、酸化アルミニウム粉末、酸化ジルコニウム粉末、酸化珪素粉末、炭酸カルシウム粉末および炭酸マグネシウム粉末を秤量するとともに混合し、混合粉末を得る。次に、この混合粉末から造粒体を得て、造粒体から成形体を得て、焼成することで耐熱部材を得ればよい。
【符号の説明】
【0038】
1 :アルミナ結晶
2 :ジルコニア結晶
2a:異傾ラメラ結晶
図1