IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ジェイエスピーの特許一覧

<>
  • 特許-車両用シート 図1
  • 特許-車両用シート 図2
  • 特許-車両用シート 図3
  • 特許-車両用シート 図4
  • 特許-車両用シート 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20221012BHJP
   A47C 27/15 20060101ALI20221012BHJP
   A47C 27/00 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C27/15 A
A47C27/00 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019134291
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021017148
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀浩
(72)【発明者】
【氏名】大貫 丞二
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-115448(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0128490(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102017205146(DE,A1)
【文献】特開平10-229930(JP,A)
【文献】特開2019-093778(JP,A)
【文献】特開2010-252868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
A47C 27/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者の臀部および大腿部を支持するシート本体と、
前記シート本体の少なくとも上面を覆うシートカバーと
を備える車両用シートであって、
前記シート本体には、前記シートカバーの下方にクッション体が付設されており、
前記クッション体は、外側袋体と、該外側袋体の内部で所定位置に配置される複数の内側袋体であって、該袋体の内部に流動可能な状態でビーズ材が収容されている複数の内側袋体とを備えており、
前記複数の内側袋体は、いずれも前記外側袋体の内部において空気の流出および流入が可能であり、
ここで、前記内側袋体として:
(1)着座状態の着座者の臀部のうちの左右一対の坐骨結節部をそれぞれ受ける位置に配置される左右一対の第1の内側袋体;
(2)前記着座状態の着座者の臀部のうちの尾骨を受ける位置に配置される第2の内側袋体;および、
(3)前記着座状態の着座者の大腿部を受ける位置に配置される第3の内側袋体;
を少なくとも有することを特徴とする、車両用シート。
【請求項2】
着座者の着座荷重に応じて前記第2の内側袋体において発生する反力が、該着座者の着座荷重に応じて前記第1の内側袋体において発生する反力よりも小さくなるように構成されている、請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記左右一対の第1の内側袋体それぞれにおける該袋体容積に対する前記ビーズ材の充填率は、前記第2の内側袋体における該袋体容積に対する前記ビーズ材の充填率よりも高く設定されている、請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記ビーズ材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、および、熱可塑性エラストマー(TPE)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂製である、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記複数の内側袋体は、いずれも空気透過性を有し、且つ、エラストマーで形成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項6】
基準体重を70kgとした場合において、前記基準体重の着座者が着座した際における前記外側袋体の内部から外部への空気流出速度が30ml/秒以下に設定され、且つ、該空気流出に伴う前記外側袋体の1秒あたりの容積減少率(1秒あたりの空気流出量/外側袋体の全容積)が10%以下に設定されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。詳しくは、外側袋体の内部の所定位置に複数の内側袋体が配置されている構成のクッション体を備える車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載されるシート(車両用シート)には、長時間における快適な座り心地が求められている。例えば、着座状態の着座者の下半身を支持する着座部の構成は、主な研究対象の1つである。
【0003】
典型的な車両用シートは、着座部において、例えば、クッション性を有するシート本体と、シート本体を覆うシートカバーとを備えている。なかでも、シート本体は着座者が実際に着座するものであり、着座者の下半身(即ち、臀部および大腿部)を支持する主体である。例えば、特許文献1および2には、シート本体およびこれと併用し得るクッション体の構造に関する技術が開示されている。
具体的には、例えば、特許文献1の座面支持体(シート本体)は粒状体が充填された座面体(クッション体)を有している。また、特許文献1の当該座面体および特許文献2のパッド本体は、空気の送吸気が可能に設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-229930号公報
【文献】特開2013-23140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、着座者が着座すると、着座者の着座荷重は、着座部において着座者の坐骨結節、尾骨、および、大腿部をそれぞれ受ける部位にかかりやすい。また、かかる部位では、例えば痛み、圧迫感、および、疲労感等の不快感が着座者にもたらされるが、このような不快感の種類および程度は、上述したような部位によって異なることが知られている。例えば、上記特許文献1で開示される車両シートは、着座者の体重がかかることで粒状体が動いて座面体が着座者の体形に沿った形に変形する。これによって、着座者の体圧を均等に分散させることができると記載されている。
しかしながら、上記特許文献1のような構造のクッション部材では、着座者の坐骨結節、尾骨、および、大腿部のそれぞれに最適な着座環境を提供しているとはいえない。そのため、部位に応じて不快感をそれぞれに解消することは困難であり、この点においてまだまだ改善の余地があった。
【0006】
また、上記特許文献1および特許文献2で開示される車両用シートでは、シート本体(パッド)の材料としてポリウレタンフォームが使用されている。ポリウレタンフォームは、クッション性、耐久性、および、衝撃吸収性等に優れ、かつ、軽量であることから、快適な座り心地を実現する材料として一般的に好ましく採用されている材料である。
しかしながら、シート本体の材料として使用されるポリウレタンフォームは熱硬化性であることが多く、再生加工することが難しい。また、ポリウレタンフォームを原料等にまで低分子化することは困難である。したがって、上掲の特許文献で開示されるような従来の車両用シートはリサイクル性が低いといわざるを得ない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決すべく創出されたものであり、着座者が長時間着座する場合であっても、体圧分散性を向上させることによって、長時間の着座によりもたらされる不快感を緩和し、従来よりも快適な座り心地が向上された車両用シートを提供することを目的とする。また、従来の軟質ポリウレタンフォームの使用を低減させることによって、リサイクル性を顕著に向上させたシートクッションを備える車両用シートを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、着座者の臀部のうちの左右一対の座骨結節部、臀部のうちの尾骨、および、大腿部をそれぞれ受ける位置にビーズ材が収容された袋体を配置させておくことに加え、これらの袋体の構成を所定のものとすることによって、当該車両用シートに着座する際の快適性を著しく向上させ得ることを見出し、本発明を解決するに至った。
即ち、かかる目的を実現するべく、ここで開示される車両用シートは、着座者の臀部および大腿部を支持するシート本体と、上記シート本体の少なくとも上面を覆うシートカバーとを備える。
上記シート本体には、上記シートカバーの下方にクッション体が付設されている。上記クッション体は、外側袋体と、該外側袋体の内部で所定位置に配置される複数の内側袋体であって、該袋体の内部に流動可能な状態でビーズ材が収容されている複数の内側袋体とを備えている。上記複数の内側袋体は、いずれも上記外側袋体の内部において空気の流出および流入が可能である。
ここで、上記内側袋体として:
(1)着座状態の着座者の臀部のうちの左右一対の坐骨結節部をそれぞれ受ける位置に配置される左右一対の第1の内側袋体;
(2)上記着座状態の着座者の臀部のうちの尾骨を受ける位置に配置される第2の内側袋体;および、
(3)上記着座状態の着座者の大腿部を受ける位置に配置される第3の内側袋体;
を少なくとも有することを特徴とする。
【0009】
かかる構成の車両用シートは、シートカバーの下方に配置されたクッション体の外側袋体の内部に、流動可能な状態のビーズ材が収容された複数の内側袋体が収容されている。また、当該複数の内側袋体は、着座状態の着座者の臀部のうちの左右一対の座骨結節部、臀部のうちの尾骨、および、大腿部のそれぞれを受ける位置に配置されている。これにより、このような部位のそれぞれに、着座による不快感を緩和するための最適な着座環境を提供し、体圧分散性を向上することができる。
【0010】
好ましい一態様では、着座者の着座荷重に応じて上記第2の内側袋体において発生する反力が、該着座者の着座荷重に応じて上記第1の内側袋体に対する発生する反力よりも小さくなるように構成されている。これにより、車両用シートにおける着座時の快適性を向上させることができる。
また、好ましい一態様では、上記左右一対の第1の内側袋体それぞれにおける該袋体容積(圧縮時や膨張時のような外力が加わっていない自然状態の容積をいう。以下同じ。)に対する上記ビーズ材の充填率は、上記第2の内側袋体における該袋体容積に対する上記ビーズ材の充填率よりも高く設定されている。かかる構成により、各々の内側袋体における反力(反発力)を好適な状態で実現できる。
また、好ましい一態様では、上記ビーズ材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性ポリウレタン(TPU:熱可塑性ポリウレタンエラストマーともいう)、および、熱可塑性エラストマー(TPE)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂製である。かかる構成の樹脂製ビーズ材を採用することによって、車両用シートにおける着座時の快適性をいっそう向上させることができる。
【0011】
また、好ましい他の一態様では、上記複数の内側袋体は、いずれも空気透過性を有し、且つ、エラストマーで形成されている。かかる構成の内側袋体によると、荷重の付加に応じた内側袋体の内部から外部への空気の流出と、荷重の解放に応じた内側袋体の外部から内部への空気の流入が可逆的且つスムーズに行うことができる。
また、好ましい他の一態様では、基準体重を70kgとした場合において、上記基準体重の着座者が着座した際における上記外側袋体の内部から外部への空気流出速度が30ml/秒以下に設定され、且つ、該空気流出に伴う上記外側袋体の1秒あたりの容積減少率(1秒あたりの空気流出量/外側袋体の全容積)が10%以下に設定されている。
かかる構成によると、着座者が着座した際に、着座者の体重、および、臀部および大腿部の形状に応じてクッション体(即ち、内側袋体および外側袋体)が適切且つ適時に変形することができる。
【0012】
また、好ましい他の一態様では、上記外側袋体の厚みは、上記複数の内側袋体のいずれよりも厚くなるように形成されている。
かかる構成によって、外側袋体の内部において、複数の内側袋体の空気の流出入が好適な状態で行われる。また、外側袋体の外形にゆがみが生じるのを防止することができる。
【0013】
また、好ましい他の一態様では、上記外側袋体の内部であって上記複数の内側袋体の外部には、流動可能な状態でビーズ材が収容されている。
かかる構成によって、外側袋体の内部において、内側袋体間の隙間を充填することができる。これにより、複数の内側袋体の配置が安定し、着座者の臀部および大腿部を適切に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る車両用シートの全体を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示す車両用シートの着座部の構成を模式的に示す斜視図である。
図3図1に示す車両用シートの着座部および台座の構成を模式的に示す断面図である。
図4図1に示す車両用シートのクッション体の構成を模式的に示す斜視図である。
図5図4に示すクッション体に、着座状態の着座者の着座荷重が付加された状態を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を適宜参照しながら、ここで開示される車両用シートの好適な実施形態について説明する。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。また、図(具体的には、図2~5)中において上、下、左、右、前、後の向きは、それぞれ、U、D、L、R、F、Rrの矢印でそれぞれ表されている。
【0016】
<車両用シートの全体構成>
まず初めに、ここで開示される車両用シートの全体の構成について、図1を参照しつつ説明する。図1は、一実施形態に係る車両用シートの全体を模式的に示す斜視図である。
ここで開示される車両用シート1000は、着座者が着座する着座部100と、着座者の背もたれとなる背当部200と、着座者の頭部を後方から支持するヘッドレスト300と、台座400とを備える。図示されるように、着座部100は、台座400に取り付けられている。
【0017】
<着座部の構成>
次に、着座部100の構成について、図2および図3を参照しつつ詳細に説明する。図2は、図1に示す車両用シートの着座部の構成を模式的に示す斜視図である。また、図3は、図1に示す車両用シートの着座部および台座の構成を模式的に示す断面図である。
図示されるように、着座部100は、着座部100の骨格となる枠形状のシートフレーム40と、着座者の臀部および大腿部を支持するシート本体30と、シート本体30の少なくとも上面を覆うシートカバー10とを備えている。また、シート本体30には、シートカバー10の下方にクッション体20が付設されている。そして、シートカバー10と、クッション体20と、シート本体30とがシートフレーム40に取り付けられた状態で、台座400に取り付けられる。このとき、シートフレーム40は台座400の内部に取り付けられる。
台座400には通気口420が設けられている。通気口420は、クッション体20の外側袋体28の通気口282と接続されている。
【0018】
<シートフレーム>
シートフレーム40としては、この種の車両用シートに一般的に採用されるシートフレームを特に制限なく使用することができる。典型的には、例えば、シートフレーム40は、図2に示されるような枠形状(具体的には、例えば、略矩形状)であり、左右それぞれの端部において、前後方向に延伸する側方壁部42と、シートフレーム40の前方および後方にそれぞれ位置し、左右方向に延伸する前方壁部44および後方壁部46とに囲まれる天板部48を有する。天板部48は、シート本体30の下面を受ける受け面である。シートフレーム40の材質は特に限定されないが、例えば、剛性の材料(例えば、樹脂、木製、セラミックス、および金属等)である。
【0019】
<シートカバー>
シートカバー10は、例えば、表皮12と柔軟層14とからなる。
[表皮]
表皮12としては、この種の車両用シートに一般的に採用される表皮を特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な引裂強度、摩耗強度、柔軟性、および、肌触りを有する材質の表皮が好ましく、例えば、綿および麻等のセルロース繊維、羊毛および絹などのタンパク繊維、レーヨンおよびキュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテートおよびプロミックス等の半合成繊維、ならびに、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリウレタン、ポリビニリデン、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の合成繊維等を材料とする布地が挙げられる。また、表皮12は、良好な通気性を有することが好ましい。
[柔軟層]
柔軟層14は着座者の荷重に対して変形し、即ち良好なクッション性を有し、クッション体20に荷重を伝達できるものであることが好ましく、例えば、軟質のポリウレタンフォームからなる。そして、その厚さは2~15mm程度(より好ましくは5~10mm程度)であることが好ましい。
【0020】
<シート本体>
シート本体30は、例えば、前後方向に延伸する2つの吊り込み溝32と、左右方向に延伸する後方壁部34とを境界として、該2つの吊り込み溝32と、後方壁部34とに挟まれる天板部38と、左右両側に位置するサイドサポート部36とを有する。
吊り込み溝32は、詳細な図示は省略するが、天板部38から下方に窪んだ溝である。シートカバー10の当該吊り込み溝32の上に位置(対向)する部分は、吊り込み溝32に引き込まれて固定されている。シートカバー10を、吊り込み溝32を介して固定する方法は従来公知であるため、詳細な説明は省略する。
天板部38はクッション体20の受け面であり、着座者の臀部および大腿部を受ける。
サイドサポート部36は、図示されるように、天板部36から上方に土手状に盛り上がって形成されている。サイドサポート部36は、例えば、車両が旋回走行する際、シート幅方向(図中の左右方向)に作用する着座者の荷重を支える。
シート本体30の厚みは20~50mm程度であることが好ましい。
【0021】
[材質]
シート本体30としては、種々の熱可塑性エラストマー(TPE:例えば、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリエステル系、ビニル系、等)を好ましく用いることができる。なかでも、例えば、ハードセグメントがオレフィン系樹脂であるポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)が特に好ましい。また、ソフトセグメントとしてEPM、EPDM等のゴム成分を含有するポリプロピレン(PP)等を主体とする熱可塑性エラストマーを好ましく用いることができる。あるいは、良好なクッション性の観点から、例えば、発泡性のポリオレフィン樹脂材料が良好に使用され得る。好適例として発泡ポリプロピレン(EPP)、発泡ポリブチレン(EPB)、等が挙げられる。
【0022】
<クッション体>
次に、クッション体20の構成について、図2図3および図4を参照しつつ詳細に説明する。図4は、図1に示す車両用シートのクッション体の構成を模式的に示す斜視図である。
図示されるように、クッション体20は、外側袋体28と、該外側袋体28の内部で所定位置に配置される複数の内側袋体(図中、22、24、26の符号で表されている。)とを備えている。
【0023】
[外側袋体]
-構造および通気機構-
外側袋体28には通気口282が設けられており、外部への空気の流出および外部からの空気の流入が可能となっている。具体的には、例えば、通気口282には微細な孔を有する空気流量調節弁(図示せず)が設けられている。
例えば、着座者が着座部100に着座すると、外側袋体28(即ち、クッション体20)に着座荷重が作用する。この時、外側袋体28の内部においてビーズ材(後述するビーズ材281、および、複数の内側袋体の内部に収容されたビーズ材)が当該着座荷重によって圧縮されて変形し、移動する。そして、当該ビーズ材の圧縮変形および移動によって、外側袋体28の内部から外部へ空気が上記孔を介して流出する。上記空気流量調節弁を締めて空気の出入りを遮断したときには、外側袋体28が着座姿勢を形状記憶した状態でクッション体20の形状を保持することができる。
一方、上記空気流量調節弁が開放されると外側袋体28に空気が流入するが、外側袋体28の内部への空気の流入には、ビーズ材の復元力が関与する。詳しくは、着座者が着座部100への着座をやめると、ビーズ材が着座荷重の作用から解放される。この時、ビーズ材は、着座荷重作用前の形状に戻ろうとするため、復元力が発生する。このような復元力が発生すると、外側袋体28の内部が負圧となる。これによって、上記孔を介して外側袋体28の外部から内部へ空気が流入する。
上記微細な孔は、外側袋体28において、後述する空気流出速度および容積減少率を実現でき、かつ、ビーズ材が外部に零れ出ないようなものであればよく、特定の形状および数に限定されない。また、孔の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、ミシン針やレーザー等を用いて形成する方法が挙げられる。
【0024】
-空気流出速度および容積減少率-
ここで、着座者の基準体重を70kgとした場合において、基準体重の着座者が着座した際における外側袋体の内部から外部への空気流出速度が30ml/秒以下に設定されていることが好ましい。それに加えて、該空気流出に伴う外側袋体の1秒あたりの容積減少率(1秒あたりの空気流出量/外側袋体の全容積)が10%以下に設定されていることが好ましい。このような空気流出速度および容積減少率は外側袋体28に設けられた空気流量調節弁の構成および後述するビーズ材の構成(材質、充填率等)等により、好適な条件に設定される。これによって、クッション体20は、着座者の臀部および大腿部の形状に応じて変形することができ、かつ、該形状を記憶することができる。
【0025】
-構成材料-
外側袋体28は、着座者の着座者の臀部および大腿部を受けるため、可撓性材料で構成されていることが好ましい。また、外側袋体28は、通気口282以外によって、内部および外部と空気の流出入ができない、または、しにくく構成されていることが好ましい。その構成材料としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)製のフィルムを好ましく用いることができる。外側袋体28の厚み(即ち、フィルムの厚み)は、50~150μm(好ましくは、例えば100μm程度)であることが好ましい。
【0026】
-ビーズ材-
必要に応じて、外側袋体28の内部であって複数の内側袋体の外部には、流動可能な状態でビーズ材281を収容することもできる。このような場合、ビーズ材281は基本的には内側袋体の変形に関与しないことが好ましく、内側袋体22に使用するビーズ材よりも材質的または密度調整により柔らかいビーズ材を配置することが好ましい。
ビーズ材281は、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性エラストマー(TPE)のうちの少なくとも1種の樹脂製であることが好ましい。このようなビーズ材としては、嵩密度が15~30g/Lのポリエチレンや、嵩密度が20~50g/LのTPUが挙げられる。さらに、ビーズ材281は、略球状の、直径1~10mmの発泡体であることが好ましい。ビーズ材281は、後述する、複数の内側袋体の内部に収容されるビーズ材とは異なる材質であることが好ましい。
外側袋体28の内部におけるビーズ材281の充填率は、外側袋体28の容積のうち、複数の内側袋体の容積を除いた容積に対して、50~120%(好ましくは70~90%)であることが好ましい。例えば、外側袋体28の内部に空隙を生じさせるような大きさの複数の内側袋体が配置されている場合であっても、充填率が50%以上であることによって、クッション体20の形状にゆがみが生じるのを防止することができる。
なお、空気流通量を鋭敏に調整できるという観点からは、外側袋体28の内部であって複数の内側袋体の外部にはビーズ材281を含まないことが好ましい。
【0027】
-厚み-
外側袋体28の厚みは、外側袋体28の内部に複数の内側袋体が配置されていない状態で50mm以下(好ましくは、10~50mm)であることが好ましい。当該厚みが10mm以上あることによって、外側袋体28の内部でビーズ材281が適度に重なり合うことができる。また、厚みが50mm以下であることによって、例えば着座者の着座によってクッション体20が変形した場合であっても、変形した形状がもとの形状に復元しやすくなる。
また、外側袋体28の厚みは、複数の内側袋体のいずれよりも厚くなるように形成されている。これによって、外側袋体28の内部において、複数の内側袋体の内部から外部への空気の流出、外部から内部への空気の流入が好適な状態で行われる。また、内側袋体の配置によって、外側袋体28(即ち、クッション体20)の外形にゆがみが生じるのを防止することができる。
【0028】
[内側袋体]
複数の内側袋体として、
(1)着座状態の着座者の臀部のうちの左右一対の坐骨結節部をそれぞれ受ける位置に配置される左右一対の第1の内側袋体22;
(2)着座者の臀部のうちの尾骨を受ける位置に配置される第2の内側袋体24;および、
(3)着座者の大腿部を受ける位置に配置される第3の内側袋体26;
が外側袋体28に収容されている。以下、特に区別をつけないときは、単に「内側袋体」という。
図示されるように、いずれの内側袋体22,24,26の内部にもビーズ材221,241,261が収容されている。
内側袋体は、いずれも空気透過性を有し、且つ、エラストマーで構成されていることが好ましい。例えば、エラストマーとして、熱可塑性ポリウレタン(熱可塑性ポリウレタンエラストマー:TPU)を好ましく用いることができる。また、内側袋体に、例えばミシン針等で、ビーズ材が内側袋体の外部に零れ出ない程度の孔をあけることによって、空気透過性が実現される。当該孔の形状および数は、上述した外側袋体28からの空気の流出速度および容積減少率を実現できるように設定される限りは特に限定されない。内側袋体がこのような構成であることによって、着座者の体重、および、臀部および大腿部の形状に応じて容易に変形し得る。
【0029】
-着座時の相互作用-
ここで、着座者が、ここで開示される車両用シートに着座した際の、該車両用シートの着座部に対する着座荷重作用時における着座者の臀部と、クッション体との相互作用について、図5を用いて説明する。図5は、図4に示すクッション体に、着座状態の着座者の着座荷重が付加された状態を模式的に示す概略断面図である。なお、図5においては、クッション体について上記相互作用を説明するための要部のみを図示している。
着座者が着座部に着座すると、図示されるように、着座者の臀部Hを受けるクッション体において、着座者の着座荷重が作用する。具体的には、例えば、着座者の臀部Hにおける左右一対の座骨結節部T1を受ける左右一対の第1の内側袋体22それぞれにおいては、下方向に着座荷重W1が作用する。また、着座者の臀部Hにおける尾骨T2を受ける第2の内側袋体24においては、下方向に着座荷重W2が作用する。ここで、着座荷重W1およびW2に応じて、第1の内側袋体22および第2の内側袋体24は、臀部Hの形状に合わせて下方に撓んで変形する。この変形にともない、左右一対の第1の内側袋体22それぞれにおいては上方に反力F1、および、第2の内側袋体24においては上方に反力F2が発生する。
【0030】
着座者の着座荷重は反力F1およびF2によって支持されており、反力F1およびF2の大きさを適宜調整することによって快適な座り心地を実現することができる。具体的には、例えば、着座者の着座荷重W2に応じて第2の内側袋体24において発生する反力F2が、該着座者の着座荷重W1に応じて第1の内側袋体22において発生する反力F1よりも小さくなるように構成されることが好ましい。
反力F1が反力F2よりも大きくなるように調整することによって、左右一対の座骨結節部T1における支持性を高めることができる。また、反力F2が反力F1よりも小さくなるように調整することによって、着座者が座骨T2付近で感じる体圧が小さくなり、着座による不快感が低減される。
【0031】
-第1および第2の内側袋体-
例えば、第1の内側袋体22および第2の内側袋体24に収容されるビーズ材の種類、ビーズ材の充填率、および、内側袋体の厚み等を調製することによって、上述した反力F1およびF2のバランスを実現することができる。その具体的な例を以下、説明する。
・ビーズ材の材質
ビーズ材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、TPU、TPEのうちの何れか少なくとも1種の樹脂製が好ましい。
例えば、第1の内側袋体22には嵩密度が30~40g/L(より好ましくは36g/L程度)のポリエチレンが収容されることが好ましい。また、第2の内側袋体24には嵩密度が55~65g/L(より好ましくは62g/L程度)のTPUが収容されることが好ましい。ポリエチレンおよびTPUは、圧縮復元力が高いため好ましい。
【0032】
・ビーズ材の充填率
第1の内側袋体22および第2の内側袋体24の内部におけるビーズ材の充填率は、各々の内側袋体の容積に対して、例えば90~120%である。
具体的には、例えば、第1の内側袋体22におけるビーズ材221の充填率は105~115%(より好ましくは110%程度)が好ましい。また、第2の内側袋体24におけるビーズ材241の充填率は95~105%(より好ましくは100%程度)が好ましい。このように、左右一対の第1の内側袋体22それぞれにおける該袋体容積に対するビーズ材221の充填率を、第2の内側袋体24における該袋体容積に対するビーズ材241の充填率よりも高く設定することが好ましい。これにより、各々の内側袋体に対する着座者の着座荷重W1およびW2に応じて発生する反力F1およびF2の大きさを好適な条件で調整することができる。
【0033】
・第1および第2の内側袋体の厚み
ビーズ材が収容されない状態において、第1の内側袋体22および第2の内側袋体24の厚みは、30~50mm程度(例えば、40mm程度)であり、外側袋体の厚みより薄いことが好ましい。
【0034】
-第3の内側袋体(図3参照)-
次に、着座者の大腿部を支持する第3の内側袋体について説明する。
第3の内側袋体26に収容されるビーズ材261は、ポリエチレン、ポリプロピレン、TPU、TPEのうちの何れか少なくとも1種の樹脂製であることが好ましく、嵩密度が30~40g/L(より好ましくは36g/L程度)のポリエチレンであることが好ましい。また、第3の内側袋体26におけるビーズ材261の充填率は50~70%(より好ましくは60%程度)が好ましい。
また、第3の内側袋体26の厚みは20mm程度であることが好ましい。即ち、当該厚みは、第1の内側袋体22および第2の内側袋体24の厚みよりも薄いことが好ましい。これによって、着座者の大腿部の形状および動きに応じて第3の内側袋体26の内部においてビーズ材261が流動しやすくなる。
【0035】
<車両用シートの構築>
次に、ここで開示される車両用シートの構築プロセスの一例を説明する(図1図2および図3参照)。
例えば、まず初めに、台座400にヘッドレスト300が取り付けられた背当部200を取り付ける。次いで、台座400にフレーム40を取り付ける。次いで、フレーム40に、天板部48がシート本体30の下面を受けるように、シート本体30を配置する。次いで、シート本体30に、天板部38がクッション体20の下面を受けるように、クッション体20を配置する。この時、クッション体20における通気口282と、台座400の通気口420とを接続する。そして、シートカバー10をクッション体20とシート本体30の少なくとも上面を覆うように配置する。これにより、ここで開示される車両用シート1000が構築される。
【0036】
<作用効果1:着座時の快適性について>
以上のように、ここで開示される車両用シートでは、シート本体はシートカバーの下方にクッション体を備えている。また、当該クッション体は、外側袋体と、該外側袋体の内部で所定位置に配置される複数の内側袋体とを備えている。そして、外側袋体および内側袋体には、いずれも流動可能な状態でビーズ材が収容されて所定の構成を取っている。即ち、ここで開示される車両用シートは、着座状態の着座者の臀部(左右一対の座骨結節部および尾骨)、および、大腿部のそれぞれを好適な状態で支持することによって、体圧分散性が向上されている。これにより、着座者にとって快適な座り心地が実現されている。
【0037】
<作用効果2:環境負荷の軽減>
また、ここで開示される車両用シートは、シート本体として従来使用されていたポリウレタンフォームの代わりに、リサイクル可能な熱可塑性エラストマー(TPU)および熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)等が採用されている。このようにシート本体のリサイクル性を向上させることによって、環境負荷の軽減が実現されている。
【0038】
<作用効果3:軽量化>
さらに、ここで開示される車両用シートは、シート本体として熱可塑性エラストマーを採用し、その上方に所定のクッション体を配置することによって、軽量化が実現され得る。具体的には、例えば、当該車両用シートは、シート本体としてポリウレタンフォームが採用されている従来の車両用シートと比較して、10~40%程度は軽量となり得る。
【0039】
以上、ここで開示される車両用シートの一実施形態を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0040】
10 シートカバー
12 表皮
14 柔軟層
20 クッション体
22 第1の内側袋体
221 ビーズ材
24 第2の内側袋体
241 ビーズ材
26 第3の内側袋体
261 ビーズ材
28 外側袋体
281 ビーズ材
282 通気口
30 シート本体
32 吊り込み溝
34 後方壁部
36 サイドサポート部
38 天板部
40 シートフレーム
42 側方壁部
44 前方壁部
46 後方壁部
48 天板部
100 着座部
200 背当部
300 ヘッドレスト
400 台座
420 通気口
1000 車両用シート
F1 反力
F2 反力
T1 座骨結節部
T2 尾骨
W1 着座荷重
W2 着座荷重
図1
図2
図3
図4
図5