IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧 ▶ マーストリヒト ユニバーシティ メディカル センターの特許一覧

特許7157045心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン)
<>
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図1
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図2
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図3
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図4
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図5
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図6
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図7
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図8
  • 特許-心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン) 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】心房細動と脳卒中の評価における循環ESM-1(エンドカン)
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221012BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221012BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2019506405
(86)(22)【出願日】2017-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2017069864
(87)【国際公開番号】W WO2018024905
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】16182825.6
(32)【優先日】2016-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(73)【特許権者】
【識別番号】519037603
【氏名又は名称】マーストリヒト ユニバーシティ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン カール
(72)【発明者】
【氏名】ペーター カストナー
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト ラティーニ
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ マソン
(72)【発明者】
【氏名】ウルスラ-ヘンリケ ビーンフエス-テレン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ ツィーグラー
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル ディートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ショッテン
(72)【発明者】
【氏名】ビンツェント ロルニー
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-159356(JP,A)
【文献】特表2014-535047(JP,A)
【文献】特表2016-502659(JP,A)
【文献】特表2008-530571(JP,A)
【文献】Murat Kose et al.,Serum Endocan level and the Severity of Coronary Artery Disease: A Pilot Study,Angiology,2014年08月28日,Volume: 66 issue: 8,1-5
【文献】Tolga Cimen et al.,Human Endothelial Cell-Specific Molecule-1 (Endocan) and Coronary Artery Disease and Microvascular Angina,Angiology,2016年01月06日,Volume: 67 issue: 9,846-853
【文献】Sevket Balta et al.,Endocan: A novel inflammatory indicator in cardiovascular disease?,Atherosclerosis,2015年,243, 1,339-343
【文献】Sevket Balta et al.,Endocan-A Novel Inflammatory Indicator in Newly Diagnosed Patients With Hypertension: A Pilot Study,Angiology,2014年01月08日,Volume: 65 issue: 9,773-777
【文献】Chang Xiong et al.,Elevated Human Endothelial Cell-Specific Molecule-1 Level and Its Association With Coronary Artery Disease in Patients With Hypertension,Journal of Investigative Medicine,Volume 63, Issue 7,2015年,63(7),867-870
【文献】Xiang-sheng Wang et al.,Serum Endocan Levels Are Correlated with the Presence and Severity of Coronary Artery Disease in Patients with Hypertension,Genetic Testing and Molecular Biomarkers,2015年03月09日,Vol. 19, No. 3,124-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における心房細動を評価するための指標を提供する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、
b)前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより心房細動を評価するための指標が提供される工程
を含む方法。
【請求項2】
前記工程a)が、ナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程を含み、そして、前記工程b)が前記ナトリウム利尿ペプチド量を参考量と比較する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験体が心房細動を罹患している疑いがあり、そして前記心房細動の評価が心房細動の診断である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記参照量に比較して増加した被験体のサンプル中のESM-1量および/またはナトリウム利尿ペプチド量が、心房細動を罹患している被験体の指標であり、そして/または参照量に比較して減少した被験体のサンプル中のESM-1量および/またはナトリウム利尿ペプチド量が、心房細動を罹患していない被験体の指標である、請求項記載の方法。
【請求項5】
前記被験体のサンプル中の前記ESM-1量が参照量に比較して増加する、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量が工程a)において決定され、そして前記方法がc) 前記工程a)で決定されたESM-1量に対する前記工程a)で決定されたナトリウム利尿ペプチド量の比を算出し、そして前記算出された比を参照比と比較する追加の工程を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記参照比に比較して低減される比が、心房細動を罹患している被験体の指標である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記被験体が心房細動を罹患しており、そして心房細動の評価が、発作性心房細動と持続性心房細動との区別であり、ここで参照量に比較して増加した被験体のサンプル中のESM-1量が、持続性心房細動を罹患している被験体の指標であり、そして/または参照量に比較して減少した被験体のサンプル中のESM-1量が、発作性心房細動を罹患している被験体の指標である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記被験体が心房細動を罹患しており、そして前記心房細動の評価が心房細動に関連した有害事象のリスクの予測であり、ここで有害事象が心房細動の再発および脳卒中から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記参照量に比較して増加した被験体のサンプル中のESM-1量が、心房細動に関連した有害事象の発症リスクがある被験体の指標であり、そして/または前記参照量に比較して減少した被験体のサンプル中のESM-1量が、心房細動に関連した有害事象の発症リスクがない被験体の指標である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記心房細動の評価が心電図記録法(ECG)を受けるべきである被験体の同定である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記被験体が心房細動を罹患しており、かつ前記心房細動の評価が心房細動の治療法の評価である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
被験体において心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断するための指標を提供する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断するための指標が提供される工程
を含む方法。
【請求項14】
被験体のサンプルにおいて、a) 心房細動を評価するため、またはb)心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断するためまたは脳卒中の予測のための、
i) バイオマーカーESM-1、および/または
ii) ESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤
の使用。
【請求項15】
ナトリウム利尿ペプチド、および/またはナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの検出剤が使用される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
心房細動の評価を補助する方法であって、
a) 被験体から採取されたサンプル中のバイオマーカーESM-1量を決定する工程、および
b) 前記決定されたバイオマーカーESM-1量に関する情報を前記被験体の担当医に提供し、それにより前記被験体における心房細動の評価を補助する工程
を含む方法。
【請求項17】
前記工程b)が、前記サンプル中のナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程を含み、前記工程c)が、前記決定されたナトリウム利尿ペプチド量に関する情報を前記被験体の担当医に提供し、それにより前記被験体における心房細動の評価を補助する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
心房細動の評価を補助する方法であって、
a) バイオマーカーESM-1についての試験を提供する工程、および
b) 前記試験により得られたまたは得られる試験結果を心房細動の評価に利用するための指令を提供する工程
を含む方法。
【請求項19】
前記工程a)が、ナトリウム利尿ペプチドについての試験を提供する工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
被験体において脳卒中のリスクを予測するための指標を提供する方法であって、
a) 前記被験体のサンプル中のESM-1量を決定する工程、および
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより脳卒中のリスクを予測するための指標が提供される工程
を含む方法。
【請求項21】
前記脳卒中が心塞栓性脳卒中である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記脳卒中が心房細動に関連付けられる、請求項20または21記載の方法。
【請求項23】
被験体の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
c) 既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程、および
a) 前記ESM-1量を前記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される工程
を含む方法。
【請求項24】
前記被験体の臨床的脳卒中リスクスコアの決定を更に含んでなる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
被験体において脳卒中のリスクを予測するための指標を提供する方法であって、
a) 既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被験体からのサンプル中のESM-1量を測定する工程、および
b) 前記ESM-1量を前記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより前記被験体の脳卒中リスクを予測するための指標が提供される工程
を含む方法。
【請求項26】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための、被験体のサンプルにおけるバイオマーカーESM-1および/またはESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤の使用。
【請求項27】
被験体のサンプルにおいて、被験体が脳卒中を罹患するリスクを予測するため、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせた、
i) バイオマーカー ESM-1および/または
ii)ESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤
の使用。
【請求項28】
前記臨床的脳卒中リスクスコアがCHA2DS2-VAScスコアまたはCHADS2スコアである、請求項23~25のいずれか一項記載の方法または請求項26もしくは27の使用。
【請求項29】
ESM-1に特異的に結合する剤とナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する剤とを含むキット。
【請求項30】
前記ナトリウム利尿ペプチドがNT-プロBNPである、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記剤がモノクローナル抗体である、請求項29または30に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体における心房細動の評価方法であって、該被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、該ESM-1量を参照量と比較しそれにより心房細動を評価する工程とを含む方法に関する。更に、本発明は、心不全および/または心不全に関連する少なくとも1つの心臓の構造的または機能的異常を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動は心臓不整脈の最も一般的な種類であり、老齢人口の中で最も広汎性の症状の1つである。心房細動は不規則な拍動により特徴づけられ、しばしば短期間の異常な拍動から始まり、それは時間と共に増加して永続的状態になりうる。米国で推定2.7~6.1百万人、そして世界中では約33百万人(約3300万人)が心房細動(AF)に罹患している(Chugh S.S.他、Circulation 2014; 129: 837-47)。AF患者は高い脳卒中発症率を有し、洞調律状態の患者に比較してうっ血性心不全を発症するリスクが高い。
【0003】
心房細動のような心臓不整脈の診断は、典型的には不整脈の原因の判定と不整脈の分類を伴う。米国心臓病学会(the American College of Cardiology (ACC))、米国心臓協会(AHA)および欧州心臓病学会(European Society of Cardiology (ESC))に従った心房細動の分類のガイドラインは、主に簡易性と臨床関連性に基づいている。第一カテゴリーは「初発性AF」と呼ばれる。このカテゴリーに属する者は、最初にAFと診断され、未検知の発症(エピソード)を既に持っているかまたは持っていない。初発性症状の発生が1週間以内に自然停止するが、その後別の症状が発症する場合、カテゴリーは「発作性AF」へと移行する。このカテゴリーの患者は最大で7日間持続する発症を有し、発作性AFの大部分は、発症が24時間以内に停止するだろう。発症が1週間以上持続する場合、それは「持続性AF」に分類される。そのような発症が停止できない場合、即ち電気的または薬理学的除細動により停止できず、かつ一年以上持続する場合には、分類は「永続性AF」へと変わる。心房細動は脳卒中や全身塞栓症の重大な危険因子であるため、心房細動の早期診断が非常に望ましい(Hart他、Ann. Intern Med 2007; 146(12): 857-67; Go AS他 JAMA 2001; 285 (18): 2370-5)。
【0004】
ESM-1(エンドカンとしても知られる)は、20 kDaの成熟ポリペプチドと30 kDaのO-結合グリカン鎖とから構成されるプロテオグリカンである(Bechard D.他、J Biol Chem 2001; 276(51): 48341-48349)。該グリカン鎖のカルボキシレートとスルフェートは生理学的pHでは負に帯電しており、よって正に帯電したアミノ酸を含むシグナル伝達分子、例えば増殖因子やサイトカイン類のための結合部位を提供する(Roudnicky F.他、Cancer Res. 2013; 73:(3): 1097-106)。生物学的なESM-1の発現および内皮細胞からの放出は、血管新生メディエーターであるVEGF-A、VEGF-C、FGF-2、PI3Kおよび癌の進行に関与するサイトカイン類により高度に誘導されるだけでなく、炎症過程によっても誘導される(敗血症)(Kali A.他;Indian J. Pharmacol. 2014 46(6): 579-583)。ESM-1はFGF-2やHGFのようなプロ血管新生増殖因子に結合しそれをアップレギュレートし、それにより内皮細胞の遊走と増殖の増加を媒介する。グリカン鎖を欠くエンドカン変異体はHGF活性化を誘導することができず、このことはグリカンの役割を強調する(Delehedde M.他; Int J Cell Biol. 2013:705027)。ESM-1は、血液リンパ球、単球、Jurkat細胞の細胞表面上にあるLFA-1インテグリン(CD11a/CD18)に結合し、血中リンパ球を炎症部位に動員し、その結果LFA-1依存性白血球接着および活性化を誘導する。
【0005】
可溶性ESM-1は様々な癌型における内皮機能不全の危険因子マーカーとして発見された。加えて、該マーカーは様々な心血管状態もしくは疾患と関連して評価された。例えば、ESM-1は高血圧(Balta S.他、Angiology. 2014; 65(9):773-7)、冠動脈疾患並びに心筋梗塞(Kose M.他、Angiology. 2015, 66(8): 727-31)と関連して測定されている。更に、該マーカーは糖尿病患者においても測定された(Arman Y.他、Angiology. 2016 Mar; 67(3):239-44)。慢性腎臓病の種々の病期での測定は、このマーカーが心血管の事象と慢性腎臓病の死亡率を推測するのにも役立ちうるという結論を導き出した(Yilmaz MI.他、Kidney Int. 2014; 86(6):1213-20)。
【0006】
Mosevoll他(Springerplus. 2014 Sep 30; 3:571)は、深部静脈血栓症の疑いのある患者においてエンドカンとE-セレクチンを分析した。血漿エンドカンおよびE-セレクチンレベルは、血栓症患者、健常者対照、確証された血栓症を持たない患者(すなわち別の原因のそれらの症状を持つ患者、例えば様々な炎症および非炎症状態の患者)の間で差異はなかった。しかしながら、内因性バイオマーカーであるC反応性タンパク質とDダイマーの併用が、異なる頻度の静脈血栓症を有する患者サブセットを同定するために使用できた。広範肺塞栓症患者におけるエンドカンレベルの増加は、原発の血栓症および/または肺高血圧/右心不全を伴う悪性循環よりもむしろ塞栓症のためであった。該著者らは「広範肺塞栓症患者におけるエンドカンレベルの増加が、原発の血栓症および/または肺高血圧/右心不全を伴う悪性循環よりもむしろ塞栓症のためである」と結論付けた(Mosevoll他、SpringerPlus 2014, 3:571)。
【0007】
更に、血中へのエンドカン放出が、内皮機能不全、血管透過性の変化および敗血症の重症度のバイオマーカーであると考えられている(Chelazzi C.他; Crit Care. 2015; 19(1): 26)。炎症過程に続き、エンドカンが血管新生過程の間に発現されることも示された(Matano F.他、J Neurooncol. 2014 5月, 117(3): 485-91)。
【0008】
Menon他の会議要約は、マウスモデルでのESM-1ノックアウトの効果を記載している。該著者らは拡張した大動脈を観察した。更に、ノックアウト心臓におけるnppa, nppbおよびmyh7のアップレギュレーションも観察した。該著者らはESM-1の途絶が心機能不全を引き起こしうると結論付けた(要約19140:Targeted Disruption of Endothelial Specific Molecule (ESM)-1 Results in Atrioventricular Valve Malformations Leading to Cardiac Dysfunction. Prashanthi Menon, Katherine Spokes, David Beeler, Lauren Janes, and William Aird Circulation. 2012; 126: A19140 126巻、21号増補;2012年11月20/米国心臓協会(AHA)主催2012 Scientific Sessions and Resuscitation Science Symposiumuからの要約)。
【0009】
Xion他は、高血圧患者においてエンドカンレベルを測定した。該マーカーは非高血圧患者群に対して高血圧患者群で増加すると記載された。高血圧群の中で冠動脈疾患CAD患者は非CAD患者よりも高レベルを有した(Xiong C.他、Elevated Human Endothelia Cell-Specific Molecule-1 Level and Its Association With Coronary Artery Disease in Patients With Hypertension. J Investig Med. 2015 10月; 63(7): 867-70)。
【0010】
Qiu他は、急性STEMI心筋梗塞を有するII型糖尿病患者においてESM-1を測定した(Qiu CR.他、Angiology. 2017 1月; 68(1): 74-78)。該著者らは、STEMI(ST-segment elevation心筋梗塞)を有するII型糖尿病群と血管疾患を持たないII型糖尿病群との間の血清ESM-1レベルの差異を記載している。内皮機能不全の判定が心筋梗塞のような心血管リスクを予測する。
【0011】
Cimen他は、閉塞性冠動脈疾患(CAD)や微小血管狭心症(MVA)とエンドカンの血漿レベルとの関係を研究した(Cimen T.他、Angiology. 2016; 67(9): 846-853)。例えば心房細動を有する患者は分析されなかった。微小血管狭心症(MVA)を有するCAD患者は、CAD対照と比較してESM-1の増加を示した。前記著者らは、該マーカーが明確な心血管疾患以前の内皮機能不全の指標として役立ちうることを提唱した。
【0012】
Madhivathanan他は、心臓手術(バイパス手術並びに複雑な手術)の合併症としての急性肺損傷に関する心臓外科患者のエンドカンの薬物動態を分析した。著者らは、基準エンドカン濃度が重篤な冠状動脈狭窄症を有する高血圧患者で高く、エンドカン濃度が麻酔誘導後に増加するがCPBからの分離4時間後には減少するだろうと結論付けた(Madhivathanan PR他、Cytokine. 2016 Jul; 83:8-12)。
【0013】
WO1999/045028は、ESM-1を検出するための2つの特異的モノクローナル抗体を記載している。
【0014】
WO2002/039123は、ESM-1タンパク質を検出するためのキットと、免疫抑制化合物で処置した患者におけるESM-1タンパク質の試験管内(インビトロ)定量のためのおよび癌に罹患している患者におけるESM-1の試験管内生体外定量のための、ヒトの内皮血管壁の試験管内劣化を検出するためのESM-1の使用を記載している。
【0015】
WO2012/098219は、敗血症患者における呼吸不全、腎不全および血小板減少症のリスクを予測するためのマーカーとしてのESM-1を記載している。
【0016】
WO2014/135488は、妊娠に関連した症候群(例えば子癇前症やIUGR)を同定するためのマーカーとしてのESM-1を記載している。
【0017】
Latini R.他(J Intern Med. 2011 Feb; 269(2): 160-71)は、心房細動患者において種々の循環バイオマーカー(hsTnT、NT-プロBNP、MR-プロANP、MR-プロADM、コぺプチンおよびCT-プロエンドセリン-1)を測定した。
【0018】
心房細動の診断、心房細動患者のリスク層別化(例えば脳卒中の発生頻度)、心房細動の重症度の評価および心房細動患者の治療法の評価、をはじめとする心房細動の評価方法が必要とされている。
【0019】
本発明の根底となる技術的課題は、上記要求に応えるための方法の提供であると理解することができる。この技術的課題は、特許請求の範囲に特徴づけられ下記に記載される実施態様により解決される。
【0020】
有利には、本発明の研究の中で、被験体からのサンプル中のESM-1量の決定が、心房細動の改善された評価を可能にすることを見出した。本発明により、例えば被験体が心房細動を罹患しているかどうかを診断することができる。本発明はまた、脳卒中発症率予測の方法を提供する。更に、本発明は、心房細動の罹患患者において発作性心房細動と持続性心房細動とを区別することができる。
【0021】
従って、本発明は、被験体において心房細動を評価する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより心房細動を評価することができる工程
を含む方法に関する。
【0022】
本発明の方法の一態様では、該方法が、工程a)において被験体からのサンプル中のナトリウム利尿ペプチド量を決定することと、工程b)において前記ナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較することを更に含む。
【0023】
従って、本発明は、被験体において心房細動を評価する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記量を参照量と比較し、それにより心房細動を評価することができる工程
を含む方法に関する。
【0024】
心房細動(AF)の評価は、比較工程b)の結果に基づくだろう。
【0025】
従って、本発明は好ましくは、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量、および任意にナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、任意に前記ナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較する工程と、
c) 前記比較工程c)の結果に基づいて心房細動を評価する工程
を含む方法に関する。
【0026】
本発明に従って言及される方法は、上記工程から本質的に成る方法、または追加の工程を更に含む方法を包含する。更に、本発明の方法は、好ましくは、生体外(ex vivo)であり、より好ましくは試験管内(in vitro)法である。更に、該方法は明確に上述したものに加えて追加の工程を含んでもよい。例えば、追加の工程は、更なるマーカーの決定および/またはサンプル前処理または該方法により得られた結果の評価に関する。当該方法は、手動で実施してもよくまたは自動化により補助してもよい。好ましくは、工程(a), (b)および(c)が、全体的にまたは部分的に自動化により、例えば工程(a)における測定にまたは工程(b)におけるコンピューター実装計算に関して、適当なロボット設備やセンサー設備により補助されてもよい。
【0027】
本発明によれば、心房細胞が評価されるだろう。本明細書中で用いる用語「心房細胞を評価する」とは、心房細胞の診断、発作性心房細動と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測、心電図記録法(ECG)を受けるべき被験体の同定、または心房細動の治療法の評価のことを言う。
【0028】
当業者により理解される通り、本発明の評価は一般に、試験される被験体の100%に対して正しいというものではない。該用語は正確な評価(例えば本明細書中に言及されるような診断、区別、予測、同定または治療法の評価)が被験体の統計上有意な部分に対して実施できることを要求する。一部分が統計上有意であるかどうかは、様々な周知の統計評価ツール、例えば信頼性区間の決定、p値の決定、スチューデントt検定、Mann-Whitney検定等を使って、余計な労作なく当業者により判定することができる。詳細はDowdy & Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983中に見られる。好ましい信頼性区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は好ましくは0.4、0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。
【0029】
バイオマーカーは様々な疾病や障害において増加しうることが知られている。この事実は、例えば癌患者において増加することが知られているESM-1にも当てはまる。しかしながら、これは当業者により考慮される。従って、「心房細動の評価」は、心房細動の評価を補助すること、よって心房細動を診断するのを補助すること、発作性と持続性心房細動とを区別するのを補助すること、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測を補助すること、心電図記録法(ECG)を受けるべき被験体の同定を補助すること、または心房細動の治療法の評価を補助することと解釈される。
【0030】
本発明の好ましい態様では、心房細動の評価は心房細動の診断である。従って、被験体が心房細動を罹患しているかどうかが診断される。
【0031】
従って、本発明は、被験体において心房細動を診断する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、
b) 該ESM-1量を参照量と比較し、それにより心房細動を診断することができる工程
を含む方法に関する。
【0032】
一態様では、上記方法が
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、それにより心房細動を診断することができる工程
を含む。
【0033】
好ましくは、心房細動の診断方法に関連して試験される被験体は、心房細動を罹患している疑いのある被験体である。しかしながら、該被験体がAFを依然に罹患したことがあると既に診断されていること、および前診断が本発明の方法を実施することにより確認されることも考慮される。
【0034】
本発明の別の好ましい態様では、心房細動の評価が発作性心房細動と持続性心房細動との区別である。従って、被験体は発作性心房細動か持続性心房細動のいずれを罹患しているかが決定される。
【0035】
従って、本発明は、被験体において発作性心房細動と持続性心房細動とを区別する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を測定する工程と、
b) 該ESM-1量を参照量と比較し、それにより発作性心房細動と持続性心房細動とを区別することができる工程
を含む方法に関する。
【0036】
一態様では、上記方法が
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、それにより発作性心房細動と持続性心房細動とを区別することができる工程
を含む。
【0037】
本発明の別の好ましい態様では、心房細動の評価が、心房細動に関連した有害事象(例えば脳卒中)のリスクの予測である。従って、被験体は前記有害事象のリスクがあるかどうかおよび/またはリスクがないかどうかが予測される。
【0038】
従って、本発明は、被験体において心房細動に関連した有害事象のリスクを予測する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、
b) 該ESM-1量を参照量と比較し、それにより心房細動に関連した有害事象のリスクを予測することができる工程
を含む方法に関する。
【0039】
一態様では、上記方法が
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、それにより心房細動に関連した有害事象のリスクを予測することができる工程
を含む。
【0040】
様々な有害事象を予測できることが想定される。予測される好ましい有害事象は脳卒中である。
【0041】
従って、本発明は特に、被験体において脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を測定する工程と、
b) 該ESM-1量を参照量と比較し、それにより脳卒中のリスクを予測することができる工程
を含む方法に関する。
【0042】
一態様では、上記方法が
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、それにより脳卒中のリスクを予測することができる工程
を含む。
【0043】
上記方法は、工程b)の比較結果に基づいて脳卒中を予測する工程c)を更に含んでもよい。よって、工程a), b), c)は好ましくは次の通りである:
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を測定する工程、
b) 前記ESM-1量を参照量と比較する工程、および
c) 工程b)の比較結果に基づいて脳卒中のリスクを予測する工程。
【0044】
本発明の別の好ましい態様では、心房細動の評価が心房細動の治療法の評価である。
【0045】
従って、本発明は、被験体における心房細動の治療法の評価方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより心房細動の治療法を評価することができる工程を含む。
【0046】
ある態様では、上記方法が
a) 被験体からのサンプル中のESM-1とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、それにより心房細動の治療法を評価することができる工程
を含む。
【0047】
好ましくは、上記心房細動の区別、上記心房細動の予測および心房細動の治療法の評価に係る被験体は、心房細動を罹患している被験体、特に心房細動を罹患していることが分かっている(従って心房細動の既往歴を有することが分かっている)被験体である。しかしながら、上述した予測方法に関しては、被験体が心房細動の既往歴を全く持たないことも想定される。
【0048】
本発明の別の好ましい態様では、心房細動の評価が、心電図記録法(ECG)を受けるべきである被験体の同定である。従って、被験体は心電図記録法を受けるべき者が誰であるかが同定される。
【0049】
よって、本発明は、心電図記録法を受けるべきである被験体を同定する方法であって、
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量を決定する工程と、
b) 該ESM-1量を参照量と比較し、それにより被験体の誰が心電図記録法を受けるべきであるかが同定される工程
を含む方法に関する。
【0050】
一態様では、上記方法が
a) 被験体からのサンプル中のESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程と、
b) 前記ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、それにより被験体の誰が心電図記録法を受けるべきであるかが同定される工程
を含む。
【0051】
好ましくは、心電図記録法を受けるべきである被験体を同定する方法に係る被験体は、心房細動の既往歴を全く持たない被験体である。「心房細動の既往歴を全く持たない」という表現は、本明細書中のどこかに定義される。
【0052】
用語「心房細動」(AFまたはAFibと略記される)は当業界で周知である。本明細書中で用いる時、この用語は心房の機械機能の結果的悪化を伴う非協調性の心房興奮により特徴づけられる上室性頻拍性不整脈のことを言う。特に、この用語は、高頻発で不規則な拍動により特徴づけられる異常な心拍リズムを指す。それは心臓の2つの上室に関係する。正常な心拍リズムでは、洞房結節により発生するインパルスが心臓全体に広がり、心筋の収縮と血液のポンピングを引き起こす。心房細動では、洞房結節の正常な電気インパルスが無秩序で迅速な電気インパルスに置き換わり、これが不規則な心拍を引き起こす。心房細動の症候は、心臓の動悸、失神、息切れ、または胸痛である。しかしながら、大部分の発症は無症候である。心電図上では、心房細動は、振幅、形状およびタイミングが変動し、心房伝導が完全である時には不規則で高頻発の心室応答に関連付けられる、高速振動または細動興奮波による一貫したP波の置換により特徴づけられる。
【0053】
米国心臓病学会(the American College of Cardiology (ACC)、米国心臓協会(the American Heart Association (AHA))および欧州心臓病学会(The European Society of Cardiology (ESC))は、次のような分類法を提案している(Fuster V.他、Circulation 2006;114: (7): e257-354参照;これはその全内容が参考により援用される;論文中の図3を参照):初発性AF、発作性AF、持続性AF、および永続性AF。
【0054】
全てのAF患者は、最初は初発性AFと呼ばれるカテゴリーにある。しかし、患者は以前に未検知の発症を有しているかまたは有していなくてもよい。AFが一年より長く持続し、そして特に洞調律への復帰が起こらなければ(または治療介入を行った時のみ起こるならば)、被験体は永続性AFを罹患している。AFが7日より長く持続するならば、被験体は持続性AFを罹患している。被験体は、心房細動を停止させるには薬理学的または電気的介入のいずれかを必要とするだろう。好ましくは、持続性AFは症状を発症しているが、自発的には(すなわち治療介入無しには)洞調律に復さない。発作性心房細動とは、好ましくは、最大で7日間持続する心房細動の発症を指す。発作性AFの大部分の症例では、発症(エピソード)は最大で24時間持続する。心房細動の発症は自発的に、すなわち治療介入なしに停止する。従って、発作性心房細動の発症は好ましくは自発的に停止する一方で、持続性心房細動の発症は自発的には終結しない。好ましくは、持続性心房細動は、停止に電気的もしくは薬理学的除細動、または他の手法、例えばアブレーション技術を必要とする(Fuster V.他、Circulation 2006; 114: (7): e257-354)。持続性AFも発作性AFも共に再発することがあるが、発作性AFと持続性AFの違いはECG記録図により提示される:患者が2回以上の発症を有した時、AFは再発と見なされる。不整脈が自発的に停止するならば、AF、特に再発したAFは再発性AFと指定される。7日より長く持続するAFは持続性と指定される。
【0055】
本発明の好ましい態様では、用語「発作性心房細動」は自発的に停止するAFの発症として定義される。ここで前記発症は24時間未満持続する。別の態様では、自発的に停止する発症は最大で7日間持続するものである。
【0056】
本明細書中で言及される「被験体」は好ましくは哺乳類である。哺乳類には、非限定的に、家畜(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(たとえはヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギ、およびげっ歯類(例えばマウスやラット)が挙げられる。好ましくは、被験体はヒト被験体である。
【0057】
好ましくは、試験される被験体は任意の年齢の者であり、より好ましくは試験される被験体は年齢が50歳以上、より好ましくは60歳以上、最も好ましくは65歳以上である。更に、試験される被験体は年齢が70歳以上であることも想定される。
【0058】
更に、試験される被験体は年齢が75歳以上であると想定される。また、被験体は50~90歳であってもよい。
【0059】
心房細動を評価する方法の好ましい態様では、試験される被験体が心房細動を罹患している。従って、被験体は心房細動の既往歴を有するだろう。よって、被験体は試験サンプルを採取する前に心房細動の発症を経験しているだろうし、心房細動の前の発症の少なくとも1回が例えばECGによって診断されているだろう。例えば、心房細動の評価が発作性と持続性心房細動との区別である場合、または心房細動の評価が心房細動に関連した有害事象のリスクの予測である場合、または心房細動の評価が心房細動の治療法の評価である場合、患者は心房細動を罹患していると想定される。
【0060】
心房細動を評価する方法の別の好ましい態様では、例えば心房細動の評価が心房細動の診断であるかまたは心電図(ECG)を受けるべきである被験体の同定である場合、試験される被験体は心房細動を罹患している疑いがある。
【0061】
好ましくは、心房細動を罹患している疑いのある被験体は、心房細動を評価する方法を実施する前に心房細動の少なくとも1つの症状を示している被験体である。前記症状は、通常は一過性であり、数秒間起こることがあり、そしてすぐに消失する場合がある。心房細動の症状としては、眩暈、失神、息切れ、および特に心臓の動悸が挙げられる。好ましくは、被験体はサンプルを採取する前6か月以内に少なくとも1つの心房細動の症状を示している。
【0062】
あるいはまたは付加的に、心房細動を罹患している疑いのある被験体は年齢が70歳以上の被験体であろう。
【0063】
好ましくは、心房細動を罹患している疑いのある被験体は、心房細動の既往歴を全く持たないだろう。
【0064】
本発明によれば、心房細動の既往歴を全く持たない被験体は、好ましくは、以前に、すなわち本発明の方法を実施する前に(特に被験体からサンプルを採取する前に)、心房細動を罹患していると診断されたことがない被験体である。しかしながら、被験体は、心房細動の未診断の発症を有していてもいなくてもよい。
【0065】
好ましくは、用語「心房細動」は、全ての病型の心房細動を指す。従って、該用語は好ましくは発作性、持続性または永続性心房細動を包含する。しかしながら、本発明の一態様では、試験される被験体は永続性心房細動を罹患していない。よって、用語「心房細動」は発作性と持続性心房細動のみを指すのが好ましい。
【0066】
上述したように、バイオマーカーESM-1は心房細動以外の様々な疾患や障害においても増加しうる。本発明の一態様では、被験体がそのような疾患や障害を罹患していないと想定される。例えば、被験体は慢性腎疾患、糖尿病、癌、冠動脈疾患、高血圧、および/または透析が必要な腎不全を罹患していないだろうと想定される。一態様では、被験体が脳卒中の病歴を持たないと想定される。
【0067】
心房細動の評価の一態様では、心房細動の評価方法に従って評価される被験体は心不全を罹患していない。用語「心不全」は、心不全を診断する方法に関連して定義される。この定義を適宜適用する。
【0068】
心房細動の評価の別の態様では、被験体は心不全を罹患している可能性があるかまたは罹患している。
【0069】
試験される被験体は、サンプルを採取した時点で心房細動の発作(エピソード)を経験していてもいなくてもよい。よって、心房細動の評価(例えば心房細動の診断)の好ましい態様では、サンプルを採取した時点で心房細動の発症を経験していない。この態様では、被験体は、サンプルを採取した時点で正常な洞調律を有する(従って洞調律状態である)だろう。よって、心房細動の診断は心房細動の(一時的)欠測状態にあっても可能である。本発明の方法によれば、エンドカンの上昇が心房細動の発症後に保持され、よって心房細動を罹患している被験体の診断を提供するだろう。好ましくは、本発明の方法を実施した後(または更に正確に言えばサンプルを採取した後)約3日以内、約1か月以内、約3か月以内、または約6か月以内にAFの診断が行われる。好ましい態様では、発症後約6か月以内に心房細動の診断が実行可能である。好ましい態様では、発症後約6か月以内に心房細動の診断が実行可能である。従って、本明細書に言及されるような心房細動の評価、特に診断、心房細動の評価に関連して本明細書に言及されるようなリスクの予測または区別は、好ましくは、心房細動の最終発症後約3日以内、好ましくは約1か月以内、更により好ましくは約3か月以内、最も好ましくは約6か月以内に実施される。結果として、試験されるサンプルは、心房細動の最終発症の約3日後に、好ましくは約1か月後に、より好ましくは約1か月後に、更により好ましくは約3か月後に、最も好ましくは約6か月後に採取される。従って、心房細動の診断は、サンプルを採取する前の好ましくは約3日以内、より好ましくは約3か月以内、最も好ましくは約6か月以内に発生した心房細動の発症の診断も包含する。
【0070】
しかしながら、被験体はサンプルを採取した時点で心房細動の発症を経験していると想定される(例えば脳卒中の予測に関して)。
【0071】
本発明の方法はより多数の被験体群のスクリーニングにも使用することができる。従って、少なくとも100個体、特に少なくとも1000個体の被験体が心房細動に関して評価されると想定される。バイオマーカーの量は少なくとも100個体、または特に少なくとも1000個体の被験体からのサンプルにおいて測定される。更に、少なくとも10,000個体の被験体が評価されると想定される。
【0072】
用語「サンプル」は、体液のサンプル、分離した細胞のサンプル、または組織もしくは臓器からのサンプルを言う。体液のサンプルは周知方法により得ることができ、例えば血液、血漿、血清、尿、リンパ液、唾液、腹水のサンプル、または他の体液性分泌液もしくはその派生物のサンプルを包含する。組織または臓器サンプルは任意の組織または臓器から例えば生検により得ることができる。分離した細胞は、遠心分離や細胞選別法といった分離技術により体液からまたは組織もしくは臓器から得ることができる。例えば、細胞-、組織-または臓器サンプルは、バイオマーカーを発現または産生するそれらの細胞、組織または臓器から採取することができる。サンプルは凍結、新鮮、固定(例えばホルマリン固定)、遠心分離および/または包埋(例えばパラフィン包埋)サンプル等であってよい。細胞サンプルはもちろん、サンプル中のバイオマーカーの量を評価する前に、周知の様々な採取後調製・保存技術(例えば核酸および/またはタンパク質の抽出、固定、保存、凍結乾燥、限外ろ過、濃縮、蒸発、遠心分離等)に供することができる。
【0073】
本発明の好ましい態様では、サンプルは血液(すなわち全血)、血清または血漿サンプルである。血清は、血液を凝固させた後に得られる血液の液体画分である。血清を得るためには、血餅を遠心分離により除去し、上清を採集する。血漿は血液の無細胞液体部分である。血漿サンプルを得るためには、全血を抗凝固剤で処理したチューブ(例えばクエン酸処理またはEDTA処理したチューブ)中に採集する。遠心分離によりサンプルから細胞を除去し、上清(すなわち血漿サンプル)を得る。
【0074】
上述したように、被験体は洞調律状態にあるか、またはサンプルを取得する時点でAF調律の発症を有してもよい。
【0075】
バイオマーカーである内皮細胞特異的分子1(endothelial cell specific molecule 1; ESM-1と略記される)は、当業界で周知である。このバイオマーカーは、しばしばエンドカンとも呼ばれる。ESM-1は主にヒトの胚と腎組織の内皮細胞に発現される分泌型タンパク質である。パブリック・ドメイン・データは、甲状腺、肺および腎臓における発現だけでなく心臓組織での発現も示唆している。例えば、Protein Atlasデータベース(Uhlen M.他、Science 2015; 347 (6220): 1260419)中のESM-1に関する項目を参照のこと。この遺伝子の発現はサイトカインにより調節される。ESM-1は20 kDaの成熟ポリペプチドと30 kDaのO-結合グリカン鎖とから構成されるプロテオグリカンである(Bechard D他、J Biol Chem 2001; 276(51):48341-48349)。
【0076】
本発明の好ましい態様では、ヒトESM-1ポリペプチドの量が被験体のサンプルにおいて測定される。ヒトESM-1ポリペプチドの配列は当業界で周知であり(例えばLassale P.他、J. Biol. Chem. 1996; 271:20458-20464参照)、例えばUniprotデータベース(項目Q9NQ30(ESM1_HUMAN)参照)を介して評価することができる。ESM-1の2種のイソ型は、イソ型1(Uniprot識別子Q9NQ30-1を有する)とイソ型2(Uniprot識別子Q9NQ30-2を有する)を選択的スプライシングすることにより生産される。イソ型1は184アミノ酸の長さを有する。イソ型2では、イソ型1のアミノ酸101~150が欠失している。アミノ酸1~19がシグナルペプチド(開裂可能である)を形成する。
【0077】
好ましい態様では、ESM-1ポリペプチドのイソ型1の量が決定され、即ち、イソ型1はUniProt受入番号Q9NQ30-1の下に示される配列を有する。
【0078】
別の好ましい態様では、ESM-1ポリペプチドのイソ型2の量が決定され、即ち、イソ型2はUniProt受入番号Q9NQ30-2の下に示される配列を有する。
【0079】
別の好ましい態様では、ESM-1ポリペプチドのイソ型1とイソ型2の量、即ち全ESM-1の量が決定される。
【0080】
例えば、ESM-1の量は、ESM-1ポリペプチドのアミノ酸85~184に対するモノクローナル抗体(例えばマウス抗体)および/またはヤギポリクローナル抗体を用いて決定することができる。
【0081】
用語「ナトリウム利尿ペプチド」は、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型と脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型ペプチドを包含する。よって、本発明に係るナトリウム利尿ペプチドはANP型とBNP型ペプチドとそれらの変異体を含む(例えばBonow RO.他、Circulation 1996;93: 1946-1950参照)。
【0082】
ANP型ペプチドは、プレ-プロANP、プロANP、NT-プロANPおよびANPを含む。
BNP型ペプチドは、プレ-プロBNP、プロBNP、NT-プロBNPおよびBNPを含む。
【0083】
プレ-プロペプチド(プレ-プロBNPの場合は134アミノ酸)は、短鎖のシグナルペプチドを含み、該シグナルペプチドは酵素的に開裂されてプロペプチド(プロBNPの場合は108アミノ酸)を遊離する。プロペプチドは更にN末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-プロBNPの場合は76アミノ酸)と活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸、ANPの場合は28アミノ酸)へと開裂される。
【0084】
本発明に係る好ましいナトリウム利尿ペプチドはNT-プロANP、ANP、NT-プロBNP、BNPである。ANPとBNPは活性ホルモンであり、それらの各々の不活性相当物、NT-プロANPおよびNT-プロBNPよりも短い半減期を有する。BNPは血中で代謝されるが、一方NT-プロBNPは不活性分子として血中を循環し、それ自体のまま腎排出される。
【0085】
事前分析論は、NT-プロBNPに対してずっとロバスト(頑健)であり、中央検査室へのサンプルの輸送を容易にする(Mueller T, Gegenhuber A, Dieplinger B, Poels W, Haltmayer M. "Long-term stability of endogenous B-type natriuretic peptide (BNP) and amino terminal proBNP (NT-proBNP) in frozen plasma samples. Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4)。血液サンプルは室温で数日間保存でき、または回収損失を伴わずに送付または輸送することができる。対比して、室温でまたは4℃で48時間のBNPの保存は、少なくとも20%の濃度低下を引き起こした(Mueller T, Gegenhuber A他、Clin Chem Lab Med 2004; 42: 942-4; Wu A H, Packer M, Smith A, Bijou R, Fink D, Mair J, Wallentin L, Johnston N, Feldcamp C S, Haverstick D M, Ahnadi C E, Grant A, Despres N, Bluestein B, Ghani F. Analytical and clinical evaluation of the Bayer ADVIA Centaur automated B-type natriuretic peptide assay in patients with heart failure: a multisite study. Clin Chem 2004; 50: 867-73.)。従って、着目の経時変化または特性に依存して、ナトリウム利尿ペプチドの活性型または不活性型のいずれかの測定が有利であるに違いない。
【0086】
本発明に係る最も好ましいナトリウム利尿ペプチドはNT-プロBNPとBNP、特にNT-プロBNPである。上記に簡単に説明した通り、本発明に従って言及されるようなヒトNT-プロBNPは、好ましくは、ヒトNT-プロBNP分子のN末端部分に相当する長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトBNPとNT-プロBNPの構造は、従来技術、例えばWO 02/089657、WO 02/083913およびBonow RO.他、New Insights into the cardiac natriuretic peptides. Circulation 1996; 93: 1946-1950中にすでに詳細に記載されている。好ましくは、本発明で用いるヒトNT-プロBNPは、EP 0 648 228 B1中に開示されたようなヒトNT-プロBNPである。
【0087】
本明細書に言及されるようなバイオマーカー(ESM-1またはナトリウム利尿ペプチドのような)の量を「決定する」とは、本明細書中に記載の適当な検出方法を使った該バイオマーカーの定量を指し、例えばサンプル中の該バイオマーカーのレベルを測定することを言う。用語「測定する」と「決定する」は、本明細書中で相互に交換可能に用いられる。
【0088】
一態様では、バイオマーカーの量は、サンプルを該バイオマーカーに特異的に結合する剤と接触させ、それにより前記剤と前記バイオマーカーとの複合体を形成させ、形成された複合体の量を検出し、それによって前記バイオマーカーの量を測定することにより決定される。
【0089】
本明細書中で言及されるバイオマーカー(例えばESM-1)は、当業界で一般に既知である方法を使って検出することができる。検出方法は一般に、サンプル中のバイオマーカーの量を定量する方法(定量法)を含む。下記の方法のいずれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適当であるかは当業者に一般に分かる。サンプルは、例えばウエスタン法とイムノアッセイ、例えばELISA、RIA、蛍光および発光ベースのイムノアッセイ並びに近接拡張アッセイ(これらは商業的に入手可能である)を使って例えばタンパク質を便利にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するための更に適当な方法としては、ペプチドやポリペプチドに特異的な物理的または化学的性質、例えばそれの正確な分子量またはNMRスペクトルを測定することが挙げられる。前記方法は、例えばバイオセンサー、イムノアッセイに連結した光学装置、バイオチップ、質量分析器、NMR分析器またはクロマトグラフィー装置などの分析装置を含む。更に、該方法はマイクロプレートELISA法、完全に自動化されたまたはロボット利用のイムノアッセイ(例えばElecsysTMアナライザー上で利用可能)、CBA(酵素的コバルト結合アッセイCobalt Binding Assay;例えばRoche-HitachiTMアナライザー上で利用可能)およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTMアナライザー上で利用可能)を包含する。
【0090】
本明細書中で言及されるバイオマーカータンパク質の検出には、上記のようなアッセイ形式を使った広範なイムノアッセイ技術が利用可能である。例えば米国特許第4,016,043号、同第4,424,279号および同第4,018,653号明細書を参照のこと。その中には、従来型の競合結合アッセイだけでなく、非競合型の1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイが含まれる。それらのアッセイには標的バイオマーカーに対する標識抗体の直接結合も含まれる。
【0091】
電気化学発光標識を使用する方法も周知である。そのような方法は、酸化によって、励起状態から基底状態へと崩壊し、電気化学発光を発する、特殊金属錯体の能力を利用する。概説についてはRichter, M.M., Chem. Rev. 2004; 104: 3003-3036を参照のこと。
【0092】
一態様では、バイオマーカーの量を測定するために用いることができる検出抗体(またはそれの抗原結合性断片)は、ルテニウム化またはイリジウム化される。従って、抗体(またはそれの抗原結合性断片)がルテニウム標識を含むだろう。一態様では、ルテニウム標識がビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは抗体(またはそれの抗原結合性断片)がイリジウム標識を含むだろう。一態様では、前記イリジウム標識がWO 2012/107419に開示されたような錯体である。
【0093】
ESM-1の測定用のサンドイッチアッセイの一態様では、該アッセイがESM-1を特異的に結合するビオチン化一次モノクローナル抗体(捕捉抗体として)と、ESM-1を特異的に結合する二次モノクローナル抗体のルテニウム化F(ab’)2断片(検出抗体として)とを含む。この2抗体が、サンプル中のESM-1とサンドイッチ型イムノアッセイ錯体を形成する。
【0094】
ナトリウム利尿ペプチドの測定用のサンドイッチアッセイの一態様では、該アッセイがナトリウム利尿ペプチドを特異的に結合するビオチン化された一次モノクローナル抗体(捕捉抗体として)と、ナトリウム利尿ペプチドを特異的に結合する二次モノクローナル抗体のルテニウム化F(ab’)2断片(検出抗体として)とを含む。この2抗体が、サンプル中のナトリウム利尿ペプチドとサンドイッチ型イムノアッセイ錯体を形成する。
【0095】
ポリペプチド(例えばESM-1またはナトリウム利尿ペプチド)の量を決定することは、好ましくは、(a) 該ポリペプチドを前記ポリペプチドに特異的に結合する剤と接触させる工程、(b)(随意に)結合しなかった剤を除去する工程、(c) 結合した結合剤の量、すなわち工程(a)で形成された剤の複合体の量を測定する工程を含む。好ましい態様によれば、前記接触工程、除去工程および測定工程は、アナライザー装置により事前に形成されてもよい。ある態様によれば、前記工程が、前記システムの単一アナライザーユニットによって、または互いに動作可能な通信接続された複数のアナライザーユニットによって実施されてもよい。例えば、特定の態様では、本明細書に開示されるシステムが、前記接触工程と除去工程を実施するための第一のアナライザーユニットと、輸送ユニット(例えばロボットアーム)により前記第一のアナライザーユニットに動作可能に通信接続された第二のアナライザーユニットとを含むことができる。
【0096】
バイオマーカーを特異的に結合する剤(本明細書中では「結合剤」とも言及される)は、結合した剤の検出と測定を可能にする標識に共有結合的にまたは非共有結合的にカップリングされてもよい。標識は直接または間接法により実施可能である。直接標識は、第一の結合剤に標識を直接(共有結合的にまたは非共有結合的に)カップリングさせることを含む。間接標識は、第一の結合剤に第二の結合剤を(共有結合的にまたは非共有結合的に)結合させることを含む。第二の結合剤は、第一の結合剤に特異的に結合すべきである。前記第二の結合剤は適当な標識に連結されているか、そして/または第二の結合剤に結合する第三の結合剤の標的(レセプター)であることができる。適当な第二および更に高次の結合剤としては、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories, Inc.)が挙げられる。結合剤または基質は、当業界で既知であるような1または複数のタグで「タグ付けする(tagging)」こともできる。そのようなタグは、より高次の結合剤のための標的であってもよい。適当なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、Hisタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、mycタグ、A型インフルエンザウイルス血球凝集素(HA)、マルトース結合性タンパク質等が挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN末端および/またはC末端にある。適当な標識は、適当な検出法により検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的活性標識、放射性標識、磁気標識(例えば常磁性および超常磁性標識といった「磁気ビーズ」)、および蛍光標識が挙げられる。酵素的活性標識としては、例えば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。適当な検出用基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート;Roche Diagnostics社より既製の原液として入手可能)、CDP-StarTM (商標)(Amersham Biosciences社)、ECFTM(商標)Amersham Bioscience社)が挙げられる。適当な酵素-基質組み合わせは着色反応生成物、蛍光または化学発光をもたらしてもよく、それを当業界で既知の方法に従って測定することができる(例えば感光フィルムまたは適当な撮影システムを使って)。酵素反応の測定に関しては、上記に与えた基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては蛍光タンパク質(例えばGFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびアレキサ色素(例えばAlexa 568)が挙げられる。更なる蛍光標識は、例えばMolecular Probes社(Oregon)から入手可能である。蛍光標識としての量子ドットの使用も想定される。放射性標識は、既知であり適当である任意の方法、例えば感光フィルムまたは蛍光体撮影装置により検出することができる。
【0097】
ポリペプチドの量は、好ましくは次のように決定することもできる:(a) 本明細書中に記載のようなポリペプチドのための結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させ、そして(b) 前記支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドの量を測定する。支持体を製造するための材料は当業界で周知であり、特に、カラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド状金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップ、並びに表面、ニトロセルロース片、膜、シート、デュラサイト(duracytes)、反応トレーのウェルおよび壁、プラスチックチューブ等が含まれる。
【0098】
別の一態様では、サンプルは、形成された複合体の量の測定前に、結合剤と少なくとも1つのマーカーとの間で形成された複合体から除去される。従って、一観点では、結合剤は固体支持体上に固定化されてもよい。更に別の観点では、サンプルは、洗浄溶液を適用することにより、固体支持体上の形成された複合体から除去することができる。
【0099】
「サンドイッチアッセイ」は中でも最も有用でかつ汎用されているアッセイであり、サンドイッチアッセイ技術の多数のバリエーションを包含する。簡単には、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤を固体支持体上に固定化しまたは固定化することができ、そして試験すべきサンプルを前記捕捉結合剤と接触させる。結合剤-バイオマーカー複合体の形成を可能にするのに十分な時間にわたる適当なインキュベーション期間の後、検出可能なシグナルを生成することのできるレポーター分子で標識された第二の(検出用)結合剤を添加しそしてインキュベートし、結合剤-バイオマーカー-標識された結合剤というもう1つの複合体の形成に十分な時間をとる。任意の未反応の材料を洗い流し、検出用結合剤に結合したレポーター分子により生じたシグナルを観察することによって、バイオマーカーの存在が決定される。結果は、可視シグナルの単純観察により定性的であってよく、または既知量のバイオマーカーを含む対照サンプルとの比較により定量的であってもよい。
【0100】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーション工程は、必要かつ適当であるように変更することができる。そのようなバリエーションは、例えば2以上の結合剤とバイオマーカーを一緒にインキュベートする同時インキュベーションを含む。例えば、分析すべきサンプルと標識された結合剤とを、固定化された捕捉結合剤に同時に添加する。分析すべきサンプルと標識された結合剤とを最初にインキュベートし、その後で、固相に結合された抗体または固相に結合することのできる抗体に添加することも可能である。
【0101】
特異的結合剤とバイオマーカーとの間で形成された複合体は、サンプル中に存在するバイオマーカーの量に比例するはずである。適用される結合剤の特異性および/または感度は、特異的に結合することができるサンプル中に含まれる少なくとも1つのマーカーの割合の程度を限定する。測定をいかに実施できるかに関する詳細については本明細書の中に見つかる。形成された複合体の量は、サンプル中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量へと変換されるだろう。
【0102】
「結合剤」、「特異的結合剤」、「分析物-特異的結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する剤」という用語は、相互に交換可能に用いられる。好ましくは、該用語は対応するバイオマーカーを特異的に結合する結合成分を含む剤に関する。「結合剤」、「検出剤」、「剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学化合物である。好ましい剤は、測定すべきバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。「抗体」という語は、最も広範な意味で用いられ、そして様々な抗体構造を包含し、例えば非限定的に、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限りにおいて抗体断片(すなわちそれから誘導される抗原結合性断片)が含まれる。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(またはそれの抗原結合性断片)である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体(またはそれの抗原結合性断片)である。更に、本明細書に記載のように、ESM-1上の異なる位置に結合する2つのモノクローナル抗体が用いられる(サンドイッチアッセイにおいて)ことも想定される。よって、少なくとも1つの抗体がESM-1量の決定に用いられる。
【0103】
一態様では、少なくとも1つの抗体がマウスモノクローナル抗体である。別の態様では、少なくとも1つの抗体がウサギモノクローナル抗体である。更に別の態様では、抗体がヤギポリクローナル抗体である。更に別の態様では、抗体がヒツジポリクローナル抗体である。
【0104】
用語「特異的結合」または「特異的に結合する」とは、結合ペア分子が他の分子とは有意に結合しない条件下で互いに結合を示す結合反応のことを言う。用語「特異的結合」または「特異的に結合する」とは、バイオマーカーとしてタンパク質またはペプチドを指す場合、好ましくは結合剤が少なくとも107 M-1の親和性(「会合定数」Ka)で対応するバイオマーカーに結合する時の結合反応のことを指す。用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、その標的分子に対する、好ましくは少なくとも108 M-1の親和性、より好ましくは少なくとも109 M-1の親和性を指す。「特異的」または「特異的に」という語は、サンプル中に存在する他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に有意には結合しないことを指摘するために用いられる。
【0105】
一態様では、本発明の方法は、ヒトESM-1と非ヒトまたはキメラESM-1特異的結合剤とを含むタンパク質複合体を検出することに基づく。そのような態様では、本発明は、被験体の心房細動を評価する方法であって、前記方法は(a)前記被験体からのサンプルを非ヒトESM-1特異的結合剤と共にインキュベートする工程、(b)(a)で形成されたESM-1特異的結合剤とESM-1との複合体を測定する工程、および(c)前記測定された複合体の量を参照量と比較する工程を含む。参照量以上の複合体の量は、心房細動の診断(よって実在)の指標であり、ECGを受けるべきである被験体、または有害事象のリスクがある被験体の指標である。参照量より下の複合体の量は、心房細動の不在、発作性心房細動の存在、ECGを受けなくてもよい被験体、または有害事象のリスクがない被験体の指標である。
【0106】
本明細書中で用いる用語「量」とは、本明細書中で言及されるようなバイオマーカー(例えばESM-1またはナトリウム利尿ペプチド)の絶対量、前記バイオマーカーの相対量または濃度、並びにそれに相関するかまたはそれから誘導することのできる任意の値もしくはパラメーターを包含する。そのような値またはパラメーターは、直接測定により前記ペプチドから得られた全ての特定の物理的もしくは化学的性質の強度シグナル値、例えば質量スペクトルまたはNMRスペクトル中の強度値を含む。更に、本明細書中に詳述される間接測定により得られる全ての数値またはパラメーター、例えば該ペプチドに応答して生物学的読み出し(出力)装置から測定された応答量、または特異的に結合したリガンドから得られた強度シグナルも含まれる。あらゆる標準的な数学演算法により、上述した量またはパラメーターに相関する値も得ることができることは理解すべきである。
【0107】
本明細書中で用いる用語「比較する」とは、被験体のサンプル中のバイオマーカー(例えばESM-1およびナトリウム利尿ペプチド、例えばNT-プロBNPまたはBNP)の量を、本明細書中に特定されたバイオマーカーの参照量と比較することを言う。ここで用いる比較とは、対応するパラメーターや数値の比較を指し、例えば絶対量は絶対参照量に比較され、一方で濃度は参照濃度に比較され、またはサンプル中のバイオマーカーから得られた強度シグナルは参照試料から得られた同じ種類の強度シグナルと比較される。比較は手動であってもコンピューター補助であってもよい。よって、比較はコンピューター装置によって実施することができる。被験体のサンプル中のバイオマーカーの測定量または検出量の数値と参照量の数値を、例えば互いに比較することができ、そして前記比較は、比較用の演算を実行するコンピュータープログラムにより、自動的に実施することができる。前記評価を実装するコンピュータープログラムは、適当な出力形式で所望の評価を提供するだろう。コンピューター補助比較の場合、測定された量の値が、コンピュータープログラムによってデーターベース中に保管されている適当な参照に対応する値と比較される。コンピュータープログラムは、比較の結果を更に評価することができ、すなわち適当な出力形式で所望の評価を自動的に提供することができる。コンピューター補助評価の場合、測定された量の値が、コンピュータープログラムによってデーターベース中に保管されている適当な参照(リファレンス)に対応する値と比較される。コンピュータープログラムは、比較の結果を更に評価することができ、すなわち適当な出力形式で所望の評価を自動的に提供することができる。
【0108】
本発明によれば、バイオマーカーESM-1量および任意にナトリウム利尿ペプチド量が参照(リファレンス)と比較される。参照は好ましくは参照量である。用語「参照量」は当業者により十分理解される。参照量は本明細書に記載の心房細動の評価を可能するために用意されることを理解すべきである。例えば、心房細動を診断する方法との関連では、参照量は好ましくは、(i)心房細動を罹患している被験体群、または(ii)心房細動を罹患していない被験体群のいずれかへの被験体の割り付けを可能にする量のことを指す。適当な参照量は、試験サンプルと一緒に、すなわち同時にまたは連続的に、分析すべき参照サンプルから決定することができる。
【0109】
ESM-1の量をESM-1の参照量と比較し、一方でナトリウム利尿ペプチドの量をナトリウム利尿ペプチドの参照量と比較すると理解すべきである。2つのマーカーの量が決定される場合、ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量に基づいて、組み合わせスコアを計算することも想定される。その後の工程において、該スコアが参照スコアと比較される。
【0110】
参照量は、理論上、標準的な統計法を適用することにより、所定のバイオマーカーの平均値に基づいて、上記の被験体のコホートに対して算出することができる。特に、ある事象(イベント)の有無を診断することを目指す方法のような試験の精度は、それの受信者動作特性(ROC)により最善に記述される(特にZweig MH.他、Clin. Chem. 1993; 39: 561-577参照)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を連続的に変化させることから得られる全ての感度対特異度ペアのプロットである。診断法の臨床成績はその精度に依存し、すなわち或る一定の予後または診断法に被験体を正確に割り付ける能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について感度を1-(マイナス)特異度に対してプロットすることにより、2つの分布間のオーバーラップを示す。y軸は感度、すなわち真陽性率であり、これは真陽性の試験結果の数と偽陰性の試験結果の数との積に対する、真陽性の試験結果の数の比として定義される。x軸は偽陽性率、すなわち1-(マイナス)特異度であり、これは真陰性結果の数と偽陽性結果の数の積に対する偽陽性結果の数の比として定義される。それは特異性の指標であり、完全に非罹患の下位群から算出される。真陽性と偽陽性率は、2つの異なる下位群からの試験結果を使って完全に別々に計算されるため、ROCプロットは該コホートでの事象の有病率とは独立(無関係)である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に相当する感度/1-(マイナス)特異度ペアを表す。完全な区別を有する試験(2つの結果分布にオーバーラップが全くない)は、最上部の左端、それは真陽性率が1.0または100%(完全な感度)であり偽陽性率が0(完全な特異度)である点、を通過するROCプロットを有する。区別が全くない試験の閾値プロット(2つの群の結果が同一の分布を有する)は、より下側の左端から始まりより上側の右端まで伸びる45°の対角線である。大部分のプロットはこれらの2つの端の間に入る。ROCプロットが完全に45°対角線の下に入るならば、これは「陽性」の判定基準を「~より大きい」から「~未満である」へ(またはその反対)逆転させることより容易に修正される。定性的には、プロットが上側左端に近ければ近いほど、試験の全体精度が高くなる。所望の信頼区間に依存して、感度と特異度のそれぞれの適性バランスを使って、ROC曲線から閾値を誘導することができ、与えられた事象についての診断を可能にする。従って、好ましくは、上述したように前記コホートについてのROC曲線を作り、そしてそこから閾値量を誘導することにより、本発明の方法に使用できる参照(リファレンス)、すなわち心房細動の評価を可能にする閾値を作成することができる。例えば心房細動を罹患している被験体を排除する(すなわち除外する)ためには最適感度が所望され、一方で最適特異度は心房細動を罹患していると評価される被験体のために想定される。一態様では、本発明の方法は、被験体が心房細動および/または脳卒中の発生または再発といった心房細動に関連する有害事象のリスクがあるかどうかの予測を可能にする。
【0111】
好ましい態様では、用語「参照量」は、既定の値のことを指す。前記既定の値は、心房細動を評価することを可能にし、従って心房細動を診断し、発作性心房細動と持続性心房細動とを区別し、心房細動に関連する有害事象のリスクを予測し、心電図診断法(ECG)を受けるべき被験体を同定し、または心房細動の治療の評価を可能にするであろう。参照量は評価の種類に基づいて異なってよいことは理解すべきである。例えば、AFの識別のためのESM-1の参照量は、通常、AFの診断のための参照量よりも高いであろう。しかしながら、これは当業者により斟酌されるであろう。
【0112】
上述したように、用語「心房細動を評価する」という語は、好ましくは、心房細動の診断、発作性と持続性心房細動との区別、心房細動に関連する有害事象のリスクの予測、心電図(ECG)を受けるべきである患者の同定、または心房細動の治療の評価のことを言う。下記において、本発明の方法のこれらの実施態様をより詳細に説明する。上記の定義を適宜適用する。
【0113】
心房細動を診断する方法
本明細書中で用いる用語「診断する」は、本発明の方法に従って言及される時の被験体が心房細動(AF)を罹患しているかどうかを評価することを意味する。一態様では、被験体がAFを罹患していると診断される。好ましい態様では、被験体が発作性AFを罹患していると診断される。別の態様では、被験体がAFを罹患していないと診断される。
【0114】
本発明によれば、あらゆる型のAFを診断することができる。心房細動は発作性、持続性または永続性AFでありうる。好ましくは、特に永続性AFを罹患していない被験体において発作性または心房細動が診断される。
【0115】
被験体がAFを罹患しているかどうかの実際の診断は、診断の確認(例えばHolter-ECGのようなECGによる)といった追加の工程を含んでもよい。本発明は、患者が心房細動を罹患している尤度の評価を可能にする。参照量よりも上のESM-1量を有する被験体は、おそらく心房細動を罹患しており、一方で参照量より下のESM-1量を有する被験体はおそらく心房細動を罹患していない。従って、本発明の状況下で「診断する」という語は、被験体が心房細動を罹患しているかどうか医師が評価するのを助けることも含む。
【0116】
好ましくは、参照量(1または複数)に比較して増加した試験対象からのサンプル中のESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチド量)は、心房細動を罹患している被験体の指標であり、そして/または参照量(1または複数)に比較して減少した試験対象からのサンプル中のESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチド量)は、心房細動を罹患していない被験体の指標である。
【0117】
好ましい態様では、参照量、すなわちESM-1参照量と、ナトリウム利尿ペプチドが測定される場合にはナトリウム利尿ペプチドの参照量は、心房細動を罹患している被験体と心房細動を罹患していない被験体とを区別することを可能にするだろう。好ましくは、前記参照量は規定の値である。
【0118】
一態様では、本発明の方法は、心房細動を罹患している被験体の診断を可能にする。好ましくは、ESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチド量)が参照量よりも上であるならば、被験体はおそらく心房細動を罹患している。一態様では、ESM-1量が、参照量の或る百分位数(例えば99百分位数)の参照上限(URL)より上であるならば、被験体は心房細動を罹患していない。
【0119】
別の好ましい態様では、本発明の方法は、被験体が心房細動を罹患していないとの診断を可能にする。好ましくは、ESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチド量)が参照量の下である(ある百分位数URL)ならば、被験体はAFを罹患していない。よって、一態様では、用語「心房細動を診断する」が「心房細動を除外する」ことを指す。
【0120】
心房細動を除外することは、ECG検査のような心房細動の診断のための追加の診断試験を回避できるので、特に着目される。よって、本発明によって、不必要な医療コストを回避することができる。
【0121】
従って、本発明は心房細動を除外する方法であって、
a) 被験体のサンプル中のESM-1量を決定する工程、および
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより心房細動が除外される工程
を含む方法にも関する。
【0122】
好ましくは、参照量(例えば心房細動を除外するための参照)に比較して減少した被験体のサンプル中のバイオマーカーESM-1量が、心房細動を罹患していない被験体の指標であり、よってその被験体における心房細動を除外する指標である。例えば、ESM-1の参照量は、AFを罹患していない被験体のサンプルにおいて、またはその被験体群のサンプルから決定することができる。
【0123】
バイオマーカーESM-1およびナトリウム利尿ペプチドを組み合わせて決定すると、更により信頼性のある除外を達成することができる。従って、工程a)とb)は好ましくは次の通りである:
a) 被験体のサンプル中のESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程、および
b) ESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、それにより心房細動が除外される工程。
【0124】
好ましくは、各々の参照量(例えば心房細動を除外するための参照量)に比較して減少した被験体のサンプル中の、2つのバイオマーカーの量、即ちバイオマーカーESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量が、心房細動を罹患していない被験体の指標であり、従って被験体において心房細動を除外する指標である。例えば、ナトリウム利尿ペプチドの参照量は、AFを罹患していない被験体のサンプルにおいて、またはその被験体群のサンプルから決定することができる。
【0125】
心房細動を診断する方法の一態様では、前記方法は、診断結果に基づいて心房細動の治療法を推奨するおよび/または開始する工程を更に含む。好ましくは、被験体がAFを罹患していると診断された場合に治療法が推奨または開始される。好ましい心房細動の治療法は本明細書中に開示される。
【0126】
発作性心房細動と持続性心房細動を区別する方法
本明細書中で用いる用語「区別する」とは、被験体において発作性心房細動と持続性心房細動を区別することを意味する。本明細書中で用いる場合のこの用語は、好ましくは、被験体において発作性心房細動と持続性心房細動を鑑別診断することを含む。よって、本発明の方法は、心房細動を有する被験体が発作性心房細動を罹患しているのか持続性心房細動を罹患しているのかを評価することを可能にする。実際の区別は、区別の確認のような追加の工程を含んでもよい。よって、本発明に係る「区別」という語は、医師が発作性AFと持続性AFとを区別するのを助けることも含む。
【0127】
好ましくは、参照量(または複数の参照量)に比較して増加している被験体からのサンプル中のESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチド量)が、持続性心房細動を罹患している被験体の指標であり、そして/または参照量(または複数の参照量)に比較して減少している被験体からのサンプル中のESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチドの量)が、発作性心房細動を罹患していない被験体の指標である。両AF型(発作性と持続性)において、ESM-1量は非AF被験体の参照量に比較して増加する。
【0128】
好ましい態様では、参照量は、発作性心房細動を罹患している被験体と持続性心房細動を罹患している被験体とを区別できるようにするだろう。好ましくは前記参照量は規定の量である。
【0129】
発作性と持続性心房細動とを区別する前記方法の一態様では、被験体は永続性心房細動を罹患していない。
【0130】
心房細動に伴う有害事象のリスクを予測する方法
本発明の方法は、有害事象のリスクを予測する方法にも関する。
一態様では、本明細書に記載のような有害事象のリスクは、心房細動に関連した任意の有害事象の予測であることができる。好ましくは、前記有害事象は、心房細動の再発(例えば電気的除細動後の再発)および脳卒中から選択される。従って、将来、有害事象(脳卒中や心房細動の再発のような)を患う被験体(心房細動罹患者)のリスクが予測されるだろう。
【0131】
更に、心房細動に関連した前記有害事象が、心房細動の既往歴を全く持たない被験体における心房細動の発症であると予想される。
【0132】
特に好ましい態様では、脳卒中のリスクが予想される。
従って、本発明は、被験体における脳卒中のリスクを予想する方法であって、
a) 被験体のサンプル中のESM-1量を決定する工程、および
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより脳卒中のリスクを予測することができる工程
を含む方法に関する。
【0133】
好ましくは、本明細書中で用いる用語「リスクを予測する」は、被験体が本明細書中に言及されるような有害事象(例えば脳卒中)を罹患するだろうということに関する可能性(確率)を評価することに関する。典型的には、被験体が前記有害事象のリスクがある(高リスク)かリスクがない(低リスク)かが予測される。従って、本発明の方法は、前記有害事象を罹患するリスクがある被験体とリスクがない被験体とを区別することを可能にする。本発明の方法は低リスク、平均リスクまたは高リスクである被験体間を区別することを可能にする。
【0134】
上述した通り、前記有害事象を罹患するリスク(および可能性)が一定の時間帯(ウインドウ)で予測されるだろう。本発明の好ましい態様では、予測ウインドウが約3か月間、約6か月間または約1年間である。別の好ましい態様では、予測ウインドウが約5年の期間である(例えば脳卒中の予測の場合)。更に、予測ウインドウは約6年の期間であってもよい(例えば脳卒中の予測の場合)。あるいは、予測ウインドウが約10年の期間であってもよい。また、予測ウインドウが1~10年の期間も想定される。
【0135】
好ましくは、前記予測ウインドウは、本発明の方法の完了時から計算される。より好ましくは、前記予測ウインドウは、試験すべきサンプルを取得した時点から計算される。当業者により理解される通り、リスクの予測は一般に被験体の100%に正しいという意図ではない。しかしながら、この用語は、適切でかつ正しい方法で、被験体の統計上有意な部分について予測を行うことができることを要する。ある一部分が統計上有意であるかどうかは、当業者により更なる労作なく、周知の様々な統計評価法、例えば信頼性区間の決定、p値決定、スチューデント(Student)のt検定、マン-ホイットニー(Mann-Whitney)検定等を使って決定することができる。詳細はDowdy & Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983中に見つかる。好ましい信頼性区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である。p値は好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。
【0136】
好ましい態様では、「前記有害事象を罹患するリスクを予測する」という表現は、本発明の方法により分析される予定の被験体が、前記有害事象(例えば脳卒中)を罹患するリスクがある被験体の群か、または前記有害事象を罹患するリスクがない被験体の群かのいずれかに割り付けられることを意味する。よって、被験体が前記有害事象を罹患するリスクがあるかリスクがないかどちらであるかが予測される。本明細書中で用いられる「前記有害事象を罹患するリスクがある被験体」は、好ましくは、前記有害事象を罹患するリスクが高い(好ましくは予測ウインドウ内で)。好ましくは、被験体のコホート中の平均リスクに比較して前記リスクは高い。本明細書中で用いる「前記有害事象を罹患するリスクがない被験体」は、好ましくは、前記有害事象を罹患するリスクが低い(好ましくは予測ウインドウ内で)。好ましくは、被験体のコホート中の平均リスクに比較して前記リスクは低い。前記有害事象を罹患するリスクがある被験体は好ましくは、好ましくは約1年の予測ウインドウ内において、心房細動の再発または発症といった前記有害事象を罹患するリスクが少なくとも20%、またはより好ましくは少なくとも30%である。前記有害事象を罹患するリスクがない被験体は、好ましくは1年の予測ウインドウ内において、前記有害事象を罹患するリスクが12%未満、より好ましくは10%未満である。
【0137】
脳卒中の予測に関して、前記有害事象を罹患するリスクがある被験体は、好ましくは約5年の予測ウインドウ内で、特に約6年の予測ウインドウ内で、前記有害事象を罹患するリスクが少なくとも10%またはより好ましくは少なくとも13%である。前記有害事象を罹患するリスクがない被験体は、好ましくは約5年の予測ウインドウ内で、特に約6年の予測ウインドウ内で、前記有害事象を罹患するリスクが10%未満、より好ましくは8%未満、最も好ましくは5%未満である。該リスクは、被験体が抗凝固療法を受けない場合には更に高いだろう。これは当業者により参酌されるだろう。
【0138】
好ましくは、参照量(1または複数)に比較して増加している被験体からのサンプル中のESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチド量)が、心房細動に伴う有害事象のリスクがある被験体の指標であり、そして/または参照量(1または複数)に比較して減少している被験体からのサンプル中のESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチドの量)が、心房細動に伴う有害事象のリスクがない被験体の指標である。
【0139】
好ましい態様では、参照量は、本明細書に言及されるような有害事象のリスクがある被験体と前記有害事象のリスクのない被験体とを区別できるようにするだろう。好ましくは前記参照量は既定の値である。
【0140】
上記方法の好ましい態様では、脳卒中のリスクが予測される。好ましくは前記脳卒中が心房細動に関連するだろう。より好ましくは、脳卒中が心房細動により誘引される。
【0141】
好ましくは、脳卒中と心房細動の1つの発症の間に一時的関係があるならば、脳卒中は心房細動と関連がある。より好ましくは、脳卒中が心房細動によって誘発されうるならば、脳卒中は心房細動と関連がある。例えば、心房細動により心臓塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓性脳卒中とも呼称される)が誘引されうる。好ましくは、経口抗凝固療法によりAFに関連する脳卒中を予防できる。
予測できる脳卒中は好ましくは心臓塞栓性脳卒中である。
【0142】
同じく好ましくは、試験すべき被験体が心房細動を罹患しているおよび/またはそれの既往歴を有するならば、脳卒中が心房細動に関連すると考えられる。また、一態様では、被験体が心房細動を罹患している疑いがある場合、脳卒中が心房細動と関連していると考えられることがある。
【0143】
用語「比較する」、「量」、「被験体」および「決定する」等は本明細書中に定義される。これらの定義を適宜適用する。例えばサンプルは好ましくは血液、血清または血漿サンプルである。
【0144】
有害事象(例えば脳卒中)を予測する前記方法の好ましい一態様では、試験すべき被験体が心房細動を罹患している。より好ましくは、被験体が心房細動の既往歴を有する。有害事象を予測する方法によれば、被験体は好ましくは永続性心房細動を、より好ましくは持続性心房細動を、最も好ましくは発作性心房細動を罹患している。
【0145】
有害事象を予測する方法の一態様では、心房細動を罹患している被験体が、サンプルを採取する時点で心房細動の発症を経験している。有害事象を予測する方法の別の態様では、心房細動を罹患している患者はサンプルを採取する時点で心房細動の発症を経験していない(よって正常洞律動を有する)。更に、リスクを予測しようとする被験体が抗凝固療法を実施中であってもよい。
【0146】
有害事象を予測する方法の別の態様では、試験すべき被験体が心房細動の既往歴を全く持たない。特に被験体が心房細動を罹患していないと想定される。
【0147】
本発明を裏付ける研究では、ESM-1の測定が被験体の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善できることが更に証明された。よって、臨床的脳卒中リスクスコアとESM-1測定の組み合わせ測定が、単独のESM-1測定または単独の臨床的脳卒中リスクスコア測定に比較して、かなり高い信頼性の脳卒中予測を可能にする(実施例6参照)。
【0148】
従って、脳卒中リスクを予測する方法は、ESM-1量と臨床の脳卒中リスクスコアの組み合わせを更に含む。ESM-1量と臨床リスクスコアの組み合わせに基づいて、試験被験体の脳卒中の発症リスクが予測される。
【0149】
上記方法の一態様では、該方法がESM-1量と参照量との比較を更に含む。この場合、比較の結果が臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。
【0150】
従って、本発明は、特に、被験体の脳卒中発症リスクを予測する方法であって、
a) 被験体のサンプル中のESM-1量を決定する工程、および
b) 前記ESM-1量を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより前記被験体の脳卒中リスクを予測することができる工程
を含む方法に関する。
【0151】
この方法によれば、被験体は既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被験体であると想定される。従って、臨床的脳卒中リスクスコアの値は被験体に関して既知である。
【0152】
従って、該方法は臨床的脳卒中リスクスコアの値を獲得または提供することを含んでもよい。好ましくは、その値が数である。一態様では、臨床的脳卒中リスクスコアが一般に医師に入手可能な臨床ベースのツールの1つにより作成される。好ましくは、該値が被験体ごとに臨床的脳卒中リスクスコアの値を決定することにより提供される。より好ましくは、該値が患者記録データベースまたは被験体の医療歴から得られる。従って該スコアの値は、被験体の病歴データまたは公開データを使って決定することもできる。
【0153】
本発明によれば、ESM-1量が臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、ESM-1量の値が臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。従って、それらの値は、被験体が脳卒中を罹患するリスクを予測するために動作可能なように組み合わされる。値を組み合わせることによって、単一値を計算することができ、それ自体を予測に利用することができる。
【0154】
臨床的脳卒中リスクスコアは当業界で周知である。例えば前記スコアはKirchhof P.他(European Heart Journal 2016; 37: 2893-2962)中に記載されており、これはその全開示内容に関して参考により本明細書中に組み入れられる。一態様では、該スコアがCHA2DS2-VAScスコアである。別の態様では、該スコアがCHADS2スコア(Gage BF.他、JAMA, 285 (22) (2001), 2864-2870頁)およびABCスコア(Hijazi Z.他、Lancet 2016; 387 (10035): 2302-2311)である。
【0155】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法
本発明は更に、被験体の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a) サンプル中のESM-1量を決定する工程、および
b) 前記ESM-1量を臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される工程
を含む方法に関する。
【0156】
該方法は、c) 工程b)の結果に基づいて前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する工程を更に含んでもよい。
【0157】
心房細動を評価する方法、特に有害事象(例えば脳卒中)のリスクを予測する方法に関連して上記に与えられた定義と説明は、好ましくは上記方法にも同様に適用する。例えば、被験体は既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被験体であると想定される。あるいは、該方法は臨床的脳卒中リスクスコアの値を獲得または提供することを含んでよい。
【0158】
本発明によれば、ESM-1量が臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、ESM-1量の数値が臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。従って、それらの値は前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するために動作可能なように組み合わされる。
【0159】
心電図記録法(ECG)を受けるべきである患者を同定する方法
本発明の方法のこの態様によれば、バイオマーカーで試験する予定の被験体が心電図記録法(ECG)、すなわち心電図評価、を受けるべきであるかどうかが評価される。前記評価は、前記被験体において診断するために、すなわちAFの有無を検出するために実施されるだろう。
【0160】
ここで用いられる用語「被験体を同定する」とは、被験体のサンプル中のESM-1量に関連して作成された情報またはデータを利用して、ECGを受けるべきである患者を同定することを指す。同定された被験体は、AFを罹患している尤度が高い。ECG評価は確認として行われる。
【0161】
心電図記録法(ECGと略記される)は、適当なECGによる心臓の電気的活動を記録する方法である。ECG装置は、皮膚にまで体全体に広がる、心臓により発せられた電気シグナルを記録する。電気シグナルの記録は、被験体の皮膚に、ECG装置に含まれる電極を接続することにより達成される。記録を取得する方法は非侵襲性でかつ無リスクである。ECGは、例えば試験対象における心房細動の有無の評価のために、心房細動の診断を実施するために行われる。本発明の方法の一態様では、ECG装置が1リード装置(例えば1リードのハンドヘルド(手動操作)ECG装置)である。別の好ましい態様では、ECG装置が12リードのECG装置、例えばHolterモニターである。
【0162】
好ましくは、参照量(1または複数)に比較して増加された試験被験体のサンプル中のESM-1の量が、ECGを受けるべきである被験体の指標であり、そして/または参照量(1または複数)に比較して減少した被験体のサンプル中のESM-1の量が、ECGを受けなくてよい被験体の指標である。
【0163】
好ましい態様では、参照量はECGを受けるべきである被験体とECGを受けなくてよい被験体とを区別することを可能にするだろう。好ましくは、前記参照量が既定量である。
【0164】
心房細動の治療法の評価方法
本明細書中で用いる時、「心房細動の治療法を評価する」という語は、好ましくは心房細動を治療することを目指した治療法の評価を指す。
【0165】
評価される治療法は、心房細動を治療することを目指した任意の治療法であることができる。好ましくは、前記治療法が、少なくとも1つの抗凝固薬、洞調律維持(リズムコントロール)、心拍数調節(レートコントロール)、除細動、およびアブレーションから成る群より選択される。前記治療法は当業界で周知であり、例えばFuster V他、Circulation 2011; 123: e269-e367に概説されており、その全内容が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0166】
一態様では、該治療法は少なくとも1つの抗凝固薬の投与である。少なくとも1つの抗凝固薬の投与は、血液の凝固および関連する脳卒中を低減または予防することを目指すものである。一態様では、少なくとも1つの抗凝固薬がヘパリン、クマリン誘導体、例えばワルファリンまたはジクマロール、組織因子経路遮断薬(TFPI)、抗トロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子および第VIIIa因子の阻害剤、並びにトロンビン阻害剤(抗IIa型)である。
【0167】
好ましい態様では、心房細動の治療法の評価が前記治療法のモニタリングである。この態様では、参照量が、好ましくは初期に採取されたサンプル(すなわち工程aでの試験サンプルよりも以前に採取されたサンプル)におけるEMS-1量である。
任意に、ESM-1量に加えて、ナトリウム利尿ペプチドの量が決定される。
【0168】
従って、本発明は、被験体において心房細動の治療法をモニタリングする方法であって、前記被験体は好ましくは心房細動を罹患しており、該方法が
a) 前記被験体のサンプル中のESM-1量(および任意にナトリウム利尿ペプチド量)を決定する工程、および
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、ここで前記参照量が前記工程a)でのサンプルより以前に前記被験体より採取されたサンプル中のESM-1量であり、そして任意にナトリウム利尿ペプチド量を参照量と比較し、ここで前記参照量が前記工程a)でのサンプルより以前に前記被験体より採取されたサンプル中のナトリウム利尿ペプチド量である工程
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0169】
工程a)でのサンプルはここで「試験サンプル」と呼称され、そして工程b)でのサンプルはここで「参照サンプル」と呼称される。
【0170】
用語「モニタリング」は、好ましくは、本明細書中に言及されるような治療法の効果を評価することに関する。よって、治療法の効果(例えば抗凝固療法)がモニタリングされる。
【0171】
上述の方法は、工程c)で実施される、比較工程の結果に基づいて治療法をモニタリングする追加の工程を含んでもよい。当業者により理解される通り、リスクの予測は一般に被験体の100%について正しいというわけではない。しかしながら、この用語は、適切でかつ正しい方法で被験体の統計上有意な割合について予測を実施できることを要する。よって、実際のモニタリングは確認のような追加の工程を更に含んでよい。
【0172】
好ましくは、本発明の方法を実施することにより、被験体が前記治療法に応答するかどうかを評価することができる。被験体の状態が1回目と2回目のサンプルを採取する間に
改善するならば、該被験体はその治療法に応答する。好ましくは、1回目と2回目のサンプルを採取する間に状態が悪化した場合には、被験体はその治療法に応答しない。
【0173】
好ましくは、参照サンプルは前記治療法の開始前に得られる。より好ましくは、前記治療法の開始前の2週間以内に、特に1週間以内にサンプルが採取される。しかしながら、参照サンプルが前記治療法の開始後(ただし試験サンプルが得られる前)に得られることも想定される。この場合、施行中の治療法がモニタリングされる。
【0174】
よって、試験サンプルは参照サンプル後に得られるべきである。試験サンプルは前記治療法の開始後に得られると理解すべきである。
【0175】
更に、試験サンプルは参照サンプルを採取した後の適度な時間の後に採取される。本明細書中に記載のバイオマーカーの量は、即座に変化しない(例えば1分または1時間以内に)ことを理解すべきである。従って、この場合の「適度な」とは、バイオマーカーを調整できるような1回目のサンプルと試験サンプルを採取する間の間隔を言う。従って、試験サンプルは、好ましくは、前記参照サンプルの少なくとも1か月後、少なくとも3か月後、または特に前記参照サンプルの少なくとも6か月後に得られる。
【0176】
好ましくは、参照サンプル中のバイオマーカーの量に比較して、試験サンプル中のバイオマーカーの量、すなわちESM-1量と任意にナトリウム利尿ペプチド量の増加、より好ましくは有意な増加、最も好ましくは統計上有意な増加が、治療法に応答する被験体の指標である。その場合、該治療法は効果的である。同じく好ましくは、参照サンプル中のバイオマーカーの量に比較して、試験サンプル中のバイオマーカー量の減少、より好ましくは有意な減少、最も好ましくは統計上有意な減少が、治療法に不応答である被験体の指標である。この場合、該治療法は効果的でない。
【0177】
治療法が被験体の心房細動の再発リスクを低減するならば、被験体は該治療法に応答すると見なされる。治療法が被験体の心房細動の再発リスクを低減しないならば、被験体は該治療法に不応答であると見なされる。
【0178】
一態様では、被験体が治療法に応答しない場合、該治療法の強度が増加される。更に、被験体が治療法に応答する場合、該治療法の強度が低減される。例えば、投薬される薬剤の用量を増加させることにより、治療法の強度を増加させることができる。例えば、投薬される薬剤の用量を減少させることにより、治療法の強度を低減することができる。
【0179】
別の態様では、心房細動の治療法の評価が心房細動の治療法のガイダンスである。ここで用いられる用語「ガイダンス」は、好ましくは、バイオマーカー(例えばESM-1)の決定に基づいて、治療法の進行中に治療法の強度を調整すること、例えば経口抗凝固薬の用量を増加または減少させることに関する。
【0180】
更に好ましい態様では、心房細動の治療法の評価が、心房細動の治療法の層別化である。よって、被験体の誰が所定の心房細動の治療法に適格であるかが同定されるだろう。ここで用いる用語「層別化」とは、好ましくは、特定のリスク、特定の薬剤もしくは手順の同定された分子経路および/または期待される効能に基づいて、適切な治療法を選択することに関する。検出されるリスクに依存して、不整脈に関連する最少症状もしくは無症状を有する患者は、心拍数、電気的除細動またはアブレーションの制御の適格な対照になるであろう。前記のような患者はそうでなければ抗血栓療法のみを受けるであろう。
【0181】
用語「有意な」と「統計上有意な」は当業者により既知である。よって、増加または減少が有意または統計上有意であるかどうかは、周知の様々な統計評価ツールを使って、当業者により過度の労作なく決定することができる。例えば、有意な増加または減少は、少なくとも10%、特に少なくとも20%の増加または減少である。
【0182】
本発明は更に、心房細動の評価を助ける方法に関し、前記方法は
a) 心房細動を評価する方法に関連して本発明書に言及されるように被験体からサンプルを取得する工程、
b) 前記サンプル中のバイオマーカーESM-1量と任意にナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程、および
c) 前記決定されたバイオマーカーESM-1量と任意に前記決定されたナトリウム利尿ペプチド量に関する情報を被験体の担当医に提供し、それにより前記被験体における心房細動の評価を助ける工程
を含む。
【0183】
担当医は、バイオマーカーの決定を依頼した医師であるべきである。上述の方法は心房細動の評価に関して担当医を補助するだろう。よって、該方法は、心房細動を評価する方法に関連して上記に言及したような診断、予測、モニタリング、区別、同定を包含しない。
【0184】
サンプルを取得する上記方法の工程a)は、被験体からのサンプルの取り出し(採集)を含まない。好ましくは、前記被験体からサンプルを受け取ることによりサンプルを取得する。よって、サンプルは輸送されたものであることができる。
【0185】
一態様では、上記方法は、脳卒中の予測を補助する方法であって、
a) 心房細動を評価する方法に関連して、特に心房細動を予測する方法に関連して本明細書中に言及されるように被験体からサンプルを取得する工程、
b) 前記サンプル中のバイオマーカーESM-1量と任意にナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程、および
c) 前記決定されたバイオマーカー量と任意に前記決定されたナトリウム利尿ペプチド量に関する情報を被験体の担当医に提供し、それにより脳卒中の予測を助ける工程
を含む方法である。
【0186】
本発明は更に、
a) バイオマーカーESM-1についての試験と任意にナトリウム利尿ペプチドについての試験を提供する工程、および
b) 前記試験により得られたまたは得られる試験結果を心房細動の評価に利用するための指令を提供する工程
を含む方法に関する。
【0187】
上記方法の目的は、好ましくは心房細動の評価の補助である。
【0188】
前記指令は、上記のような心房細動の評価方法を実施するためのプロトコルを含むだろう。更に、前記指令は、ESM-1の参照量についての少なくとも1つの数値、および任意にナトリウム利尿ペプチドの参照量についての少なくとも1つの値を含むだろう。
【0189】
「試験」は好ましくは、心房細動を評価する方法を実施するのに適合したキットである。用語「キット」は下記に説明する。例えば、前記キットは、バイオマーカーESM-1用の少なくとも1つの検出剤、および任意にナトリウム利尿ペプチド用の少なくとも1つの検出剤を含む。それら2つのバイオマーカー用の検出剤は、単一のキット中にまたは2つの別個のキット中に提供することができる。
【0190】
前記試験により得られたまたは得られる試験結果は、バイオマーカー量についての値である。
【0191】
一態様では、工程b)は、前記試験により得られたまたは得られる試験結果を脳卒中の予測において利用する(本明細書に記載の通りに)ための指令を提供することを含む。
【0192】
更に、本発明は、被験体のサンプルにおいて心房細動を評価するための、
i) バイオマーカーESM-1および任意にナトリウム利尿ペプチド、および/または
ii) ESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤、および任意にナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの検出剤
の使用に関する。
【0193】
一態様では、本発明は、被験体のサンプルにおいて、脳卒中を評価するための、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせた、
i) バイオマーカーESM-1および/または
ii)ESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤
の使用に関する。
【0194】
本発明は更に、被験体のサンプルにおいて、脳卒中を罹患する被験体のリスクを予測するための、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせた、
i) バイオマーカーESM-1および/または
ii)ESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤
の使用に関する。
【0195】
また、本発明は、被験体のサンプルにおいて、臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための、i) バイオマーカーESM-1および/またはii) ESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤の使用に関する。
【0196】
上記使用に関連して言及される用語「サンプル」、「被験体」、「検出剤」、「ESM-1」、「特異的に結合する」、「心房細動」および「心房細動を評価する」は、心房細動を評価する方法に関連して既に定義されている。従ってその定義と説明を適宜適用する。
【0197】
好ましくは、上記使用は試験管内(インビトロ)使用である。更に、検出剤は好ましくはモノクローナル抗体のような抗体(またはそれの抗原結合性断片)である。
【0198】
更に、本発明の研究において、被験体からのサンプル中のESM-1量の決定が、心不全の診断および心不全に伴う心臓の構造的または機能的異常の診断を可能にすることが証明された。従って、本発明は、バイオマーカーESM-1に基づいて心不全および/または心不全に伴う少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法にも関する。
【0199】
上記に与えた定義は、変更すべきところは変更して下記に適用する(異なって言及される場合を除き)。
【0200】
従って、本発明は被験体において、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法であって、
a) 被験体のサンプル中のESM-1量を決定する工程、および
b) 前記ESM-1量を参照量と比較し、それにより心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断することができる工程
を含む方法に関する。
【0201】
本明細書中で用いる「診断」という用語は、本発明の方法に従って言及される被験体が心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を患っているかどうかを評価することを意味する。一態様では、被験体が心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を罹患していると診断される。別の態様では、被験体が心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を罹患していないと診断される(心不全および/または心臓の少なくとも1つの構造的および/または機能的異常から除外される)。
【0202】
被験体が心不全および/または前記少なくとも1つの異常を罹患しているかどうかの実際の診断は、診断の確証といった追加の工程を含んでもよい。よって、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常の診断は、心不全のおよび/または少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常の診断に役立つものと理解される。従って、本発明の状況下での「診断する」という用語は、被験体が心不全および/または前記少なくとも1つの異常を罹患しているかどうかを医師が評価するのを助けることも包含する。
【0203】
用語「心不全」(「HF」と略記される)は当業者に周知である。本明細書中で用いる場合、この用語は、好ましくは、当業者に既知であるような心不全の顕性症候に随伴する、心臓の収縮および/または拡張機能障害に関する。好ましくは、本明細書中で言及される心不全は慢性心不全でもある。本発明に係る心不全は、顕性および/または進行性心不全を包含する。顕性心不全では、被験体は当業者に知られるような心不全の症状を示す。
【0204】
本発明の一態様では、用語「心不全」は左心室駆出率が低下した心不全(HFrEF)のことを言う。
【0205】
本発明の別の態様では、用語「心不全」は左心室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)のことを言う。
【0206】
HFは様々な重症度に分類することができる。
【0207】
NYHA(New York Heart Association)分類によれば、心不全患者はNYHA I度、II度、III度およびIV度に属するものに分類される。心不全患者は、自身の心膜、心筋、冠循環または心臓弁に構造的および機能的変化をすでに経験している。患者は自身の健康を完全には回復できず、治療が必要である。NYHA I度の患者は、心血管疾患の明らかな徴候が全くないが、すでに機能障害の客観的エビデンスを有する。NYHA II度の患者は身体活動にわずかな制限がある。NYHA III度の患者は身体活動に顕著な制限がある。NYHA IV度の患者は、不快感なくどの身体活動も実施できない。それらの患者は休息時に心機能不全の症状を示す。
【0208】
この機能的分類は、米国心臓病学会および米国心臓協会による最近の分類法により補足された(J. Am. Coll. Cardiol. 2001; 38; 2101-2113参照(2005年に改訂)、J. Am. Coll. Cardiol.2005; 46; e1-e82参照)。4ステージA,B,C,Dが定義された。ステージAとBは、HFではないが「真に」HFを発症する前の初期に患者を同定するのに役立つと考えられる。ステージAとBの患者はHF発症のリスク因子を有する者として最善に定義される。例えば、損傷した左心室(LV)機能、肥大症または幾何学的室歪曲をまだ顕示していない、冠動脈疾患、高血圧または糖尿病を有する患者はステージAとして割り当てられ、一方で無症候性であるが損傷した左心室(LV)機能、肥大症または幾何学的室歪曲を顕示している、冠動脈疾患、高血圧または糖尿病を有する患者はステージBとして割り当てられる。次いでステージCは、根本的な器質的心臓疾患に関連したHFの現在または過去の症状を有する患者を意味し、そしてステージDは真に難治性のHFを有する患者を表す。
【0209】
本明細書中で用いる場合、用語「心不全」は、好ましくは、上述したACC/AHA分類のステージA、B、CおよびDを含む。また、この語はNYHA I度、II度、III度およびIV度を含む。よって、被験体は心不全の典型症状を示してもよく示さなくてもよい。
【0210】
好ましい態様では、用語「心不全」は、上述したACC/AHA分類に従った心不全ステージAまたは特に心不全ステージBを指す。それらの初期ステージの同定、特にステージAの同定は、不可逆的損傷が起こる前に治療を開始できるため、有利である。
【0211】
心不全に関連した心臓の少なくとも1つの構造的または機能的異常は、好ましくは心筋、心外膜、弁または冠循環の機能的および/または構造的損傷;低下したポンピング能力または充満能力、しばしば収縮または拡張障害;左心室の幾何学的変化;幾何学的室歪曲に伴う高血圧;左心室肥大;左心室肥大を伴うまたは伴わない左心室の構造的変化;増加した中隔径;増加した後壁径、同心性心筋肥大、偏心性心筋肥大、左心室機能不全、拡張期左心室機能不全から選択される。
【0212】
本発明の一態様では、心不全に伴う心臓の構造的または機能的異常は、左心室肥大である。
【0213】
本明細書に記載の通り、バイオマーカーESM-1は、心房細動以外の様々な疾病と障害において増加しうる。上記本発明方法の一態様では、被験体がそのような疾病や障害を罹患していないと想定される。例えば、被験体は慢性腎疾患、糖尿病、癌、冠動脈疾患、高血圧、および/または透析が必要な腎不全を罹患していないだろう。更に、被験体は脳卒中の病歴を持たないと想定される。
【0214】
心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法に従って試験される被験体は、好ましくは心房細動を罹患していない。しかしながら、被験体が心房細動を罹患していることも想定される。用語「心房細動」は心不全を評価する方法に関連して定義される。
【0215】
好ましくは、試験される被験体は、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を罹患している疑いがある。
【0216】
用語「参照量」は、心房細動を評価する方法に関連して既に定義されている。心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法に適用される参照量は、理論上、上述した通りに決定することができる。
【0217】
好ましくは、参照量に比較して増加している被験体のサンプル中のESM-1量が、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を罹患している被験体の指標であり、そして/または参照量(または複数の参照量)に比較して減少している被験体のサンプル中のESM-1量が、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を罹患していない被験体の指標である。
【0218】
被験体において心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法の一態様では、工程a)が被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチド量の決定を更に含む。該方法の工程b)において、決定されたこのマーカーの量が参照量と比較される。
【0219】
好ましくは、NT-プロBNP/ESM-1の比が、後述する通り、心房細動患者を心不全から区別する指標である。
【0220】
更に、本発明は、被験体のサンプルにおいて、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断するための、
i) バイオマーカーESM-1および任意にナトリウム利尿ペプチド、および/または
ii) ESM-1に特異的に結合する少なくとも1つの検出剤および任意にナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する少なくとも1つの検出剤
の使用に関する。
【0221】
本発明は更に、被験体において心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常の診断を補助する方法であって、
a) 被験体の心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法に関連して本明細書中に言及された通りに被験体からサンプルを取得する工程、
b) 前記サンプル中のバイオマーカーESM-1量および任意にナトリウム利尿ペプチド量を決定する工程、および
c) 前記決定されたバイオマーカーESM-1量と任意に前記決定されたナトリウム利尿ペプチド量に関する情報を前記被験体の担当医に提供し、それにより前記被験体の心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常の診断を補助する工程
を含む方法に関する。
【0222】
担当医はバイオマーカーの決定を依頼した医師である。上述の方法は心房細動の評価に関して担当医を助けるであろう。よって、該方法は、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法に関連して上記に言及したような診断、予測、モニタリング、区別、同定を包含しない。
【0223】
サンプルを取得する前記方法の工程a)は、被験体からのサンプルの抜き取りを含まない。好ましくは、サンプルは前記被験体からサンプルを受け取ることにより取得される。よって、前記サンプルは輸送されているだろう。
【0224】
本発明は更に、
a) バイオマーカーESM-1についての試験と任意にナトリウム利尿ペプチドについての試験を提供する工程、および
b) 前記試験により得られたまたは得られる試験結果を心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法において利用するための指令(指示)を提供する工程
を含む方法に関する。
【0225】
上記方法の目的は、好ましくは心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常の診断の補助である。
【0226】
前記指令は、上記のような心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常の診断方法を実施するためのプロトコルを含むだろう。更に、前記指令は、ESM-1の参照量についての少なくとも1つの数値、および任意にナトリウム利尿ペプチドの参照量についての少なくとも1つの数値を含むだろう。
【0227】
「試験」は好ましくは、心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法を実施するのに適合したキットである。用語「キット」は下記に説明する。例えば、前記キットは、バイオマーカーESM-1用の少なくとも1つの検出剤、および任意にナトリウム利尿ペプチド用の少なくとも1つの検出剤を含む。それら2つのバイオマーカー用の検出剤は、単一のキット中にまたは2つの別個のキット中に提供することができる。
【0228】
前記試験により得られたまたは得られる試験結果は、前記バイオマーカー量についての値である。
【0229】
本発明はキットにも関する。好ましくは、前記キットは、本発明の方法、すなわち心房細動を評価する方法または心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法、を実施するのに適合したキットである。前記キットはESM-1を特異的に結合する少なくとも1つの剤を含む。好ましい態様では、前記キットはナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合する剤(例えばNT-プロBNP)を更に含むだろう。場合により、前記キットは前記方法を実施するための指令を含む。
【0230】
本明細書中で用いる用語「キット」は、別々に提供されたまたは単一容器内に提供された、上記成分の集合を指す。容器は本発明の方法を実施するための指令も含む。それらの指令はマニュアルの形であってよく、または本発明の方法に関する計算と比較を実施することができ、かつコンピューター上にもしくはデータ処理装置上で実装した時に評価または診断をそれに基づいて確立することができる、コンピュータープログラム・コードにより提供されてもよい。コンピュータープログラム・コードは、データ記憶媒体もしくは装置、例えば光学記憶媒体(例えばコンパクトディスク;CD)上に提供されてもよくまたはコンピューターもしくはデータ処理装置上に直接提供されてもよい。更に、該キットは好ましくは、キャリブレーション用の標準量のバイオマーカーESM-1を含むことができる。好ましい態様では、該キットはキャリブレーション用の標準量のナトリウム利尿ペプチドを更に含む。
【0231】
一態様では、前記キットは試験管内(インビトロ)で心房細動を評価するために使用される。
【0232】
別の態様では、前記キットは試験管内で心不全および/または心不全に伴う少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断するために用いられる。
【0233】
ESM-1とナトリウム利尿ペプチドの比の計算
心房細動と心不全は、冠動脈疾患のような疾患にかかかりやすくする共通のリスク因子を共有する。心不全を有する患者がしばしば心房細動を発症すること(またはその逆)も確立された知見である。
【0234】
実施例は、ESM-1が心房細動と心不全の両方のマーカーであることを示す(図6参照)。よって、バイオマーカーは心不全の診断と心房細動の評価に利用することができる。例えば、ESM-1の決定に基づいて被験体における心不全または心房細動の存在を除外することができる(上述した通り)。
【0235】
ESM-1のレベルが参照量に比較して増加するならば、被験体は理論上心房細動もしくは心不全またはその両方を罹患している可能性がある。この場合、心不全と心房細動とを区別することが有利であろう。このような区別は、被験体のサンプル中のナトリウム利尿ペプチド(例えばNT-プロBNPまたはBNP)量と同被験体のサンプル中のESM-1量の比を算出することにより実施することができる。
【0236】
ナトリウム利尿ペプチドの量は心房細動罹患患者からのサンプル中で増加するけれども、一般にナトリウム利尿ペプチドの量は、心房細動患者からよりも心不全患者からのサンプルの方がずっと高い。例えば、心房細動を罹患している被験体からのサンプルでは、3000 pg/mLまでのレベルのNT-プロBNPが本発明の基礎となる研究において観察されたが、心不全罹患被験体のサンプルでは観察されなかった。対比して、心不全を罹患している被験体は15000 pg/mLまでのNT-プロBNPレベルを有した。
【0237】
心房細動を罹患している被験体と心不全を罹患している被験体との間でのナトリウム利尿ペプチド、特にNT-プロBNPのレベルの差異のために、増加したレベルのESM-1を有する被験体において(すなわち、参照量に比較して増加したサンプル中ESM-1量を有する被験体において)心不全と心房細動とを区別することが可能である。
【0238】
好ましくは、心不全または心房細動の診断は、前記心房細動を評価する方法の工程a)においてあるいは心不全および/または心不全に伴う少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法の工程a)において、ナトリウム利尿ペプチド量とESM-1量の比を算出する追加の工程を実施することにより、更に裏付けられるまたは確証される。追加の工程において、前記算出された比が参照比(ESM-1量に対するナトリウム利尿ペプチド量の比)と比較される。前記参照比は、心不全と心房細動との区別を可能にするだろう(特に増加した量のESM-1を有する被験体において)。
【0239】
従って、心房細動を評価する方法(例えば心房細動を診断する方法)並びに心不全および/または心不全に伴う少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常を診断する方法は、下記:
-工程a)で決定したナトリウム利尿ペプチド量と工程a)で決定したESM-1量との比を算出する工程、および
-前記算出された比を参照比と比較する工程
を更に含むことができる。
算出工程は好ましくは工程c)であり、比較工程は好ましくは工程d)である。
【0240】
工程c)とd)が実施される場合、心房細動を評価する方法および心不全を診断する方法の工程a)において、バイオマーカーESM-1量とナトリウム利尿ペプチド量が決定される。しかしながら、この場合、工程b)においてナトリウム利尿ペプチドの量を参照量に比較することは必要でない。本発明の方法は工程b)でのこの比較を伴ってまたは伴わずに実施することができる。
【0241】
それにより、心房細動の診断または心不全および/または心不全に伴う心臓の少なくとも1つの構造的もしくは機能的異常の診断は、検証され、確認されまたは裏付けされる。特に前記比は偽陽性の数を減少させる。
【0242】
上述した算出工程と比較工程は好ましくは、工程a)で決定されたサンプル中のESM-1量が参照量に比較して増加されている被験体において実施される。
【0243】
心房細動を評価する方法に関して、特に心房細動の診断に関して、以下を適用する:好ましくは、参照比に比較して減少した比は、心房細動を罹患している被験体の指標である。従って、そのような比は工程a)と工程b)に基づいた心房細動の診断を確証する。参照比に比較して増加した比は、心不全の指標である。よって、そのような比は被験体がおそらく心房細動を罹患していないだろうことを示す。よって、心房細動の診断のためのECGのような追加の診断手段が推奨されまたは開始される。
【0244】
心不全を診断する方法に関しては、以下を適用する:好ましくは、参照比に比較して増加した比は、心不全を罹患している被験体の指標である。従って、増加した比は工程a)と工程b)に基づいた心不全の診断を確証する。参照比に比較して減少した比は、被験体が心不全でないという診断の指標である。よって、そのような比は被験体が心房細動を罹患しないことを示す。
【0245】
よって、本発明は、被験体のサンプル中のESM-1量とNT-プロBNP量を決定する工程と、前記ESM-1量とNT-プロBNP量を比として比較する工程とを含む、被験体において前記両疾患を診断し前記リスク因子を検出する方法に関する。心不全を罹患している疑いのある被験体は、心房細動を罹患している被験体に比較して高いNT-プロBNP/ESM-1比を有するだろう。
【0246】
本明細書中に引用した全ての参考文献は、それらの全開示内容および本明細書中に具体的に言及された開示内容について参考として本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0247】
図面は以下を示す:
図1図1:マッピングコホートでのESM-1 ELISAの測定。
図2図2:マッピングコホートの発作性Afib群のESM-1のROC曲線;AUC=0.61。
図3図3:マッピングコホートの持続性Afib群のESM-1のROC曲線;AUC=0.89。
図4図4:PREDICTOR AFibサブパネルにおけるESM-1の診断値。
図5図5:PREDICTOR AFibサブパネルにおけるESM-1の診断値;AUC=0.68。
図6図6:心不全と心房細動との区別におけるESM-1。
図7図7:心不全の区別におけるESM-1;ESM-1についてのROC曲線;AUC=0.81。
図8図8:心房細動の区別におけるESM-1;Afib群でのESM-1についてのROC曲線;AUC=0.98。
図9図9:ベースラインESM-1測定値により限定された2つの群(<461 pg/mL 対 ≧461 pg/mL)についての重み付けKaplan-Meier生存率推定量。
【実施例
【0248】
本発明は次の実施例により単に例証される。本実施例は、何であれ本発明の範囲を限定する方法で解釈してはならない。
実施例1:マッピング試験-異なる循環ESM-1レベルに基づいて比較される心房細動患者の診断
【0249】
マッピング(MAPPING)検査は、開胸手術を受けた患者に関連した。麻酔と手術前にサンプルを採取した。多電極アレイを用いる高密度心外膜マッピングを利用して患者を電気生理学的に特徴づけた(高密度マッピング)。該試験は、考えられ得る限り最高に一致させた(年齢、性別、共存症に関して)、発作性心房細動患者14名、持続性心房細動患者16名、および対照30名を含んだ。マッピング試験のサンプル中のESM-1を測定した。心房細動を有する患者では対照に対比してESM-1レベルの上昇が観察された。発作性心房細動患者では対照に対比して、並びに持続性心房細動患者では一致させた対照に対比して、上昇したESM-1レベルが観察された。
【0250】
加えて、マッピングコホートからのサンプルにおいてバイオマーカーNT-proBNPを測定した。興味深いことに、ESM-1とNT-proBNPの組み合わせ測定が、持続性AF対SR(洞調律)間の区別についてAUCを0.91に増加させ得ることが証明された。
【0251】
実施例2:予測因子コホート-特に高齢者一般集団における心房細動患者のスクリーニングと同定
【0252】
予測因子試験は、高齢(≧65歳)の見かけ上健常な被験体(n=2001)における集団ベースの試験であった。参加者は、臨床試験と総合的ドップラー心エコー検査および心電図検査のために心臓病センターに紹介された者であった。患者は主にステージBの心不全を罹患していた。しかしながら、一部の患者はステージAまたはCの心不全を罹患していた。心房細動サブコホート(下位群)は、調査中に心房細動の進行中発症(エピソード)を有する患者40名と、一致させた対照116名を含んだ。33名の患者はHFステージAの危険因子を示し、そのうちの11名がサンプリング時点で継続中の心房細動を提示した。80名の患者が器質的心疾患、HFステージBを示し、そのうちの21名がサンプリング時点で継続中の心房細動を提示した。37名の患者がHFステージCを罹患しており、そのうちの6名がサンプリング時点で継続中の心房細動を提示した。
【0253】
予測因子(PREDICTOR)試験から選択された心房細動サブコホートにおいて、ESM-1とNT-プロBNPを測定した。進行中の心房細動を有する患者からのサンプルでは対照に対比して循環ESM-1レベルの上昇が観察された。構造的および機能的心筋異常(ステージCのHF)を有する患者では、対照に対比してわずかに上昇した循環ESM-1レベルが観察された。進行中の心房細動を有する患者では、対照に対比して、約120 pg/mL以上の上昇した循環NT-プロBNPレベルが観察された。ステージCのHFを有する患者では、対照に対比して120 pg/mL以上の上昇した循環NT-プロBNPレベルが観察された。
【0254】
実施例3:心不全パネル
心不全パネルは、慢性心不全を有する60名の患者を含んだ。ESCガイドライン判断基準に従って、典型的な症候と症状を有しかつ安静時に心臓の構造的または機能的異常の客観的エビデンスを有する患者において心不全を診断した。虚血性もしくは拡張型心筋症または重篤な弁膜症を有し、同意書にサインすることができた、18歳から80歳の患者がこの試験に含まれた。ここ6か月内に急性心筋梗塞、肺閉塞症または脳卒中を有する患者、更に重篤な肺性高血圧および末期の腎臓病を有する患者は除外された。患者は、大部分が心不全ステージNYHA II-IVを罹患していた。
【0255】
心房細動コホートは、高血圧と診断された患者および心疾患を有する患者を含む、10名の高齢患者(>60歳)を含んだ。
【0256】
健常者の対照コホートは56名の被験体を含んだ。健康状態を確認し、ECGとエコー心電図を得た。何らかの異常を有する参加者を除外した。心不全患者において、対照に対比して上昇したESM-1レベルが観察された。
【0257】
実施例4:GISSI AF試験
GISSI-AF試験は、最近6か月内にECGで確認された症候性心房細動の少なくとも2回以上の発症により、あるいは無作為化前の14日間~48時間の間の好結果の電気的または薬理学的除細動により実証された、心房細動の既往歴を有する洞調律状態の患者1442名を登録した二重盲目の無作為化プラセボ対照のマルチセンター試験である。
【0258】
この試験の理論的原理、設計および結果は、以前に詳細に(参照:Disertori M.他、J Cardiovasc Med. 2006; 7:29-38; 参照:Staszewsky L他、Cardiovasc Drugs Ther 2015; 29:551-561)およびClinical Trials. gov (識別子NCT00376272)のもとに既に発表されている。
【0259】
全ての患者は年齢>48歳であり、登録前少なくとも1か月間、心房細動のおよび心血管疾患の安定処置を受けていた。以前に処方されたACE阻害剤、β-遮断薬およびアミオダロンは、継続服用を許可された。患者はバルサルタンまたはプラセボを無作為化投与された。
【0260】
主試験の主要エンドポイントは、アンギオテンシンII型1受容体遮断薬であるバルサルタンの、(a)心房細動の最初の再発までの時間および(b) 1年間の観察期間中に心房細動の複数の発症を有する患者の割合に対する効果を評価することであった。バイオマーカー下位試験(N=382)は、12か月の追跡期間の間に再発心房細動を有する被験体203名と再発心房細動のない対照179名を含んだ(Masson S他、Heart. 2010;96:1909-14; Latini R他、J Intern Med. 2011; 269:160-71)。血液サンプルを無作為化時と追跡期間の6か月後と12か月後に採集した。
【0261】
バイオマーカーESM-1をバイオマーカー下位試験からのサンプルについて測定した。心房細動患者において、対照に比較してESM-1レベルの上昇が観察された(AUC 0.61)。
【0262】
実施例5:バイオマーカー測定
内皮細胞特異的分子1(ESM-1)に関する市販のマイクロタイタープレートアッセイにおいてESM-1を測定した;Abnova社(台湾)のELISAキット。
【0263】
実施例6:脳卒中の予測
分析アプローチ
脳卒中の発生リスクを予測する循環ESM-1の能力を、実証された心房細動を有する患者のプロスペクティブ多施設登録において評価した(Conen D., Forum Med Suisse 2012;12:860-862)。Borgan他(Borgan O.他、Lifetime Data Analysis 2000; 6: 39-58)に記載の層別ケースコホート研究デザインを使って、EDTA血漿中のESM-1を測定した。
【0264】
採血の間、持続性および発作性症例は主に洞調律状態にあり、永続性症例は心房細動状態にあった。
【0265】
サンプル材料はEDTA血漿であった。
追跡期間の間に脳卒中を経験した(「事象(イベント)」)70名の患者の各々について、2つの一致(2 matched)対照を選択した。対照は年齢、性別、高血圧の病歴、心房細動の病型、および心不全の病歴(CHF歴)の人口統計情報と臨床情報に基づいて一致(マッチング)させた。
【0266】
ESM-1結果は、事象(すなわち脳卒中)を有する69名のAF患者と事象を持たない138名のAF患者について取得した。合計207名の患者についてであった。血液サンプリング時点では、207名の患者のうち86名が発作性・持続性心房細動を有すると診断され、207名中50名が持続性心房細動、207名中71名が永続性AFを有すると診断された。
【0267】
それらの207名の被験体についての最大観察期間(追跡期間)は、それぞれ42%、24%および34%であり、発作性AF患者の大部分が採血時に洞調律状態であった。脳卒中の追跡期間は2615日間であった。追跡中央値は6年間、すなわち1450日間までであった。
【0268】
ESM-1の単変量予後値を定量するために、アウトカム脳卒中に関する比例ハザードモデルを使った。ESM-1の単変量予後値を、ESM-1により与えられる予後情報の2種の異なる投入法により評価した。第一の比例ハザードモデルは、中央値(461 pg/mL)で二値化されたESM-1を含み、従って中央値より下のESM-1を有する患者のリスクを中央値より上のESM-1を有する患者に対して比較することを含んだ。第二の比例ハザードモデルは、元のESM-1レベルを含むがlog2スケールに変換されたものであった。Log2変換は、より良いモデル検定を可能にするために実施した。ケースコントロール(症例対照)コホートに関する単純比例ハザードモデルからの推定値はバイアスが入る(対照に対する症例の割合の変化のため)ため、重み付け比例ハザードモデルを使用した。重みは、Mark他(Mark SD他、J Am Statistical Assoc 2006: 101: 460-471)に記載された通りのケースコントロールコホートに選出される各患者の逆確率に基づく。
【0269】
二値化されたベースラインESM-1測定値(<461 pg/mL対≧461 pg/mL)に基づいた2グループの絶対生存ラットについての推定値を得るために、Kaplan-Meierプロットの重み付けバージョンをMark他(Mark SD他、J Am Statistical Assoc 2006:101: 460-471)に記載の通りに作成した。
【0270】
ESM-1の予後値が既知の臨床的及び人口学的危険因子であるかどうかを評価するために、年齢、性別、CHF既往、高血圧の既往、脳卒中/TIA/血栓塞栓症既往、血管疾患歴および糖尿病歴といった変数を含む重み付け比例Coxモデルを計算した。
【0271】
脳卒中の予後の現リスクスコアを改善するESM-1の能力を評価するために、CHADS2を含む重み付け比例ハザードモデルにおいてCHA2DS2-VAScスコアとESM-1(log2変換後)をそれぞれ計算した。
【0272】
CHA2DS2-VAScスコアのc指数を、このモデルのc指数と比較した。ケースコホート設定でのc指数の計算には、Ganna他(Ganna A.他、Am J Epidemiol 2012; 175 (7) 715-724)に提唱された通りにc指数の重み付けバージョンを使用した。
【0273】
結果
表1は、二値化またはlog2変換後ESM-1を含む2種の単変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。脳卒中を経験するリスクとESM-1のベースライン値との間の関連性は両モデルにおいて高度に有意である。ベースラインESM-1≧461 pg/mLを有する患者群はベースラインESM-1<461 pg/mLを有する患者群に対して、二値化ESM-1のハザード比が2.78倍高い脳卒中発症リスクを暗示する。
【0274】
Log2変換された線形リスク予測因子としてESM-1を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換ESM-1値が脳卒中を発症するリスクに比例することを示唆する。2.92のハザード比は、ESM-1の2倍増加が脳卒中リスクの2.96増加と関連付けられるような方法で解釈することができる。
【0275】
【表1】
【0276】
表1.二値化およびlog2変換後のESM-1を含む、単変量重み付け比例ハザードモデルの結果
【0277】
図9は、ベースラインESM-1測定値<461 pg/mL対≧461 pg/mLを有する2つの患者群についての重み付けKaplan-Meier曲線を示す。容易に明らかなように、2つの患者群の脳卒中発症リスクは有意に異なる。
【0278】
表2は、臨床的変数と人口統計学的変数を組み合わせたESM-1(log2変換後)を含む比例ハザードモデルの結果を示す。その結果は、関連する臨床的変数と人口統計学的変数の予後効果に対して調整すると、ESM-1の予後効果が安定に維持されることを明らかに示す。
【0279】
【表2】
【0280】
表2:ESM-1および関連する臨床的変数と人口統計学的変数を含む、多変量比例ハザードモデル
【0281】
表3は、CHADS2スコアをESM-1(log2変換後)と組み合わせた重み付け比例ハザードモデルの結果を示す。このモデルでも、ESM-1はCHADS2スコアに予後情報を付加することができる。
【0282】
【表3】
【0283】
表3:CHADS2スコアをESM-1(log2変換後)と組み合わせた重み付け比例ハザードモデル
【0284】
表4は、CHA2DS2-VAScスコアをESM-1(log2変換後)と組み合わせた重み付け比例ハザードモデルの結果を示す。このモデルでも、ESM-1はCHA2DS2-VAScスコアに予後情報を付加することができる。
【0285】
【表4】
【0286】
表4:CHA2DS2-VAScスコアをESM-1(log2変換後)と組み合わせた重み付け比例ハザードモデル
【0287】
表5は、完全BEAT-AF試験(N=1537)におけるESM-1単独の、ケースコホート選別(N=207)におけるCHADS2とCHA2DS2-VAScスコアの、およびケースコホート選別におけるCHADS2スコアとCHA2DS2-VAScスコアをESM-1 (log2)と組み合わせた重み付け比例ハザードモデルの、それぞれの予測c値を示す。予想通り、完全コホートのCHADS2とCHA2DS2-VAScスコアのc指数は、ケースコントロールコホートの無作為サンプリングのためケースコホート選別のものとはある程度異なる。ケースコントロールコホートでは、CHA2DS2-VAScスコアへのESM-1の付加がc指数を0.057だけ改善し、これはリスク予測の臨床上意味深い改善と考えることができる。CHADS2スコアについては、c指数の改善は0.064である。
【0288】
改善は、永続性心房細動の予後値に観察される。発作性心房細動を有する患者では強力な改善が認められる。一方、持続性心房細動を有する患者群では最強の改善が顕れる。
【0289】
【表5】
【0290】
表5:ESM-1、CHADS2とCHA2DS2-VAScスコア、およびESM-1とそれらとの組み合わせのC指数。
【0291】
用途
本実施例に提供された結果は、ESM-1が新規患者について単独でまたは組み合わせとして、将来の脳卒中リスクを予測するためのまたは脳卒中リスクを予測する際の臨床スコア(例えばCHADS2とCHA2DS2-VASc)を顕著に改善するための幾つかの方法に利用できることを示唆する。新規患者には、ESM-1を測定しそれを既定のカットオフ(例えば461 pg/mL)と比較することができる。新規患者の測定値が既定のカットオフより上である場合、患者は脳卒中の経験のリスクが高いと見なされ、適当な臨床測定を開始することができる。
【0292】
増加したカットオフセットに基づいて2より多いリスク群を定義することも可能である。次いで患者は自身のESM-1測定値に基づいてリスク群の1つに割り当てられるだろう。脳卒中発症リスクは異なるリスク群に渡って異なる。
【0293】
あるいは、ESM-1の結果を、既定の適当な変換関数に基づいて連続リスクスコアに直接変換することも可能であろう。
【0294】
その上、ESM-1の値を臨床的および人口統計学的変数(例えばCHA2DS2-VASスコア)と組み合わせて使用し、それによりリスク予測の精度を改善することが可能である。
【0295】
新規患者に対しては、リスクスコアの値が適当な方法で測定されたESM-1値(潜在的にはlog2変換後)と組み合わされ評価され、例えばリスクスコア結果と適当な規定の重みを有するESM-1値との重み付けした総和を創出することにより評価されるだろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9