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特許7157052筋緊張性ジストロフィーの治療のための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】筋緊張性ジストロフィーの治療のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20221012BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221012BHJP
   C12P 19/34 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20221012BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20221012BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20221012BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20221012BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
C12N15/09 110
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P19/34 A
C12N9/16 Z
A61K31/7088
A61K38/46
A61K48/00
A61P21/04
C12N15/55
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019522732
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2017077674
(87)【国際公開番号】W WO2018078134
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】16306427.2
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】591049848
【氏名又は名称】アンセルム
【氏名又は名称原語表記】INSERM
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】アナ・マリア・ブジ・ベッロ
(72)【発明者】
【氏名】ミレッラ・ロ・スクルダート
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/089354(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/089351(WO,A1)
【文献】特表2019-532662(JP,A)
【文献】国際公開第2015/173436(WO,A1)
【文献】RAN, F. Ann et al.,"In vivo genome editing using Staphylococcus aureus Cas9",Nature,2015年,Vol. 520,pp. 186-191, Supplementary Information,Published online: 2015 Apr 1
【文献】LO SCRUDATO, M. et al.,Genome Editing for Nucleotide Repeat Disorders: Towards a New Therapeutic Approach for Myotonic Dystrophy Type 1,Mol. Ther.,2016年05月,Vol. 24; Suppl. 1,pp. S129-S130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ゲノムDNA配列に相補的な配列に、塩基対形成により結合することができる第1および第2のsgRNA分子を含む、sgRNA分子の対であって、第1および第2のsgRNA分子は、DMPK遺伝子の3’非翻訳領域(3’-UTR)内に位置するヌクレオチドリピート伸長の、それぞれ5’側および3’側に位置し、
第1のsgRNA分子は、Cas9エンドヌクレアーゼの存在下、3’-UTR内で、ヌクレオチドリピート伸長の5’側において、2本鎖切断を誘導することができ;
第2のsgRNA分子は、Cas9エンドヌクレアーゼの存在下、3’-UTR内で、ヌクレオチドリピート伸長の3’側において、2本鎖切断を誘導することができ;
Cas9エンドヌクレアーゼは、黄色ブドウ球菌に由来するか(SaCas9)、またはCas9エンドヌクレアーゼはSaCas9の機能的変異体であり;
第2のsgRNA分子は、配列番号に示されるヌクレオチド配列からなるガイド配列を含む、sgRNA分子の対。
【請求項2】
第1のsgRNAが、配列番号7、配列番号8、配列番号9、または配列番号10に示されるヌクレオチド配列を含む、20~25ヌクレオチド長のガイド配列を含む、請求項1に記載のsgRNA分子の対。
【請求項3】
第1のsgRNAのガイド配列が、配列番号1~4および配列番号18から選択されるヌクレオチドからなる、請求項1または2に記載のsgRNA分子の対。
【請求項4】
DMPK遺伝子の3’-UTR内の、ヌクレオチドリピート伸長の5’側または3’側に位置する標的ゲノムDNA配列に相補的な配列に、塩基対形成により結合することができる配列を含む、sgRNAであって;
sgRNA分子が、黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼ(SaCas9)、またはSaCas9の機能的変異体であるCas9エンドヌクレアーゼの存在下、前記3’-UTR内で、前記ヌクレオチドリピート伸長の5’側または3’側のいずれかにおいて、2本鎖切断を誘導することができ;
sgRNA分子が、配列番号1~5および配列番号18からなる群から選択されガイド配列を含む、sgRNA。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載sgRNA分子の対をコードするまたは請求項4に記載のsgRNAをコードするベクターであって、好ましくは、プラスミドまたは、rAAVベクターまたはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターである、ベクター。
【請求項6】
請求項に記載のベクターをトランスフェクトまたは形質導入した標的細胞。
【請求項7】
請求項に記載の標的細胞を、前記sgRNAまたはsgRNA分子の対の生成を可能にする条件下で培養すること、および前記培養ステップからsgRNAまたはsgRNA分子の対を回収することを含む、sgRNAまたはsgRNA分子の対の生成方法。
【請求項8】
細胞内で、DMPK遺伝子の非翻訳領域内に位置するヌクレオチドリピートを切除するためのインビトロ法であって、細胞内に、請求項1~のいずれか一項に記載のsgRNA分子の対、または請求項に記載のベクター、および黄色ブドウ球菌由来のCRISPR/Cas9エンドヌクレアーゼを導入することを含む、方法。
【請求項9】
医薬として、黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼと組み合わせて用いるための、請求項1~のいずれか一項に記載のsgRNA分子の対、または請求項に記載のベクター。
【請求項10】
1型筋緊張性ジストロフィーを治療するための方法において、黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼと組み合わせて使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載のsgRNA分子の対、または請求項に記載のベクター。
【請求項11】
ヌクレオチドリピート伸長が、DMPK遺伝子の3’-UTR内に位置する、トリヌクレオチドリピート伸長である、請求項10に記載のsgRNA分子の対。
【請求項12】
ヌクレオチドリピート伸長が、20~10000リピートなど、より具体的には50~5000リピートなどの、20以上のリピートを含む、請求項11に記載のsgRNA分子の対。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載sgRNA分子もしくは請求項4に記載のsgRNA、または請求項に記載のベクター、または請求項に記載の細胞を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋緊張性ジストロフィーの治療のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヌクレオチドリピート伸長、特にトリヌクレオチドリピート伸長は、20を超える神経障害または発達障害に関与している。これらの疾病を治療するために提案されてきた1つのアプローチは、非常に特異的なヌクレアーゼを使用して、リピートを非病的長さまで短くすることである(総説については、Richard GF, Trends Genet. 2015 Apr; 31(4):177-186を参照)。
【0003】
メガヌクレアーゼ、ZFN、TALENおよびCRISPR-Cas9ヌクレアーゼなどの、非常に特異的なヌクレアーゼが、これらの戦略において使用されてきた。しかしながら、後者はトリヌクレオチドリピート伸長の切除には不適当であると当業者によって考えられていた(上記のRichardを参照)。全体的に見て、TALENがトリヌクレオチドリピートを短縮するためのより有望なツールと考えられていた。
【0004】
この強い偏見に反して、本発明者らは、本明細書において、CRISPR―Cas9システムが、DMPK遺伝子内のゲノムDNAからヌクレオチドリピート伸長を切除するために実行され、それによって筋緊張性ジストロフィーを治療するための強力かつ予想外のツールを提供し得ることを示す。より具体的には、本発明者らは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のCas9を用いて、DMPK遺伝子内のヌクレオチドリピート伸長の切除効率を改善する方法を発見した。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、上記で生じた強い偏見に反して、CRISPR-Cas9システムがヌクレオチドリピート伸長の切除に有効であり得ることを示した。本発明は、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のCRISPR-Cas9システムを、適切なシングルガイドRNA(sgRNA)と共に用いて、DMPK遺伝子内のヌクレオチドリピート伸長を切除するための改善されたツールに関する。
【0006】
ある局面では、DMPK遺伝子の3’-UTRから、ヌクレオチドリピート伸長、特にトリヌクレオチドリピート伸長を特異的に切除するのに有用な、シングルガイドRNA(sgRNA)分子が、本明細書で開示される。本明細書で開示されるsgRNA分子は、標的ヌクレオチド伸長の5’側または3’側にあるゲノムDNA標的(プロトスペーサー)配列に相補的な配列に、塩基対形成により結合することができ、かつ、Cas9エンドヌクレアーゼを、sgRNAとゲノムDNAとの間のハイブリダイゼーション部位またはその近傍に、動員することができる。より正確には、トリヌクレオチドリピート伸長を切除するために本明細書で用いられるCas9エンドヌクレアーゼは、黄色ブドウ球菌に由来する(SaCas9)。本発明のsgRNA分子は、相補性部位の近傍でSaCas9媒介二本鎖切断を誘導するのに適切な全ての配列要素を含む。特に、本出願は、DMPK遺伝子の3’非翻訳領域(3’-UTR)に存在するヌクレオチドリピート伸長の切除をもたらすのに適切なsgRNA対を開示しており、該sgRNA対は、ヌクレオチドリピート伸長の5’側に位置する標的ゲノムDNA配列に相補的である第1のsgRNAと、ヌクレオチドリピート伸長の3’側に位置する標的ゲノムDNA配列に相補的である第2のsgRNAとを含む。第1のsgRNA分子は、Cas9エンドヌクレアーゼの存在下、DMPK遺伝子の3’-UTR内で、ヌクレオチドリピート伸長の5’側において、2本鎖切断を誘導することができる。第2のsgRNA分子は、Cas9エンドヌクレアーゼの存在下、DMPK遺伝子の3’-UTR内で、ヌクレオチドリピート伸長の3’側において、2本鎖切断を誘導することができる。本発明の文脈において、Cas9エンドヌクレアーゼは黄色ブドウ球菌に由来する(SaCas9)か、またはCas9エンドヌクレアーゼはSaCas9の機能的変異体である。
【0007】
第2のsgRNA分子は、配列番号11に示されるヌクレオチド配列を含む、15~40ヌクレオチドのガイド配列を含む。特定の実施形態では、第2のsgRNAのガイド配列は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0008】
特定の実施形態では、第1のsgRNA分子は、配列番号7、配列番号8、配列番号9または配列番号10に示されるヌクレオチド配列を含む、15~40ヌクレオチド長のガイド配列を含む。
【0009】
本発明の別の局面は、DMPK遺伝子の3’-UTR内のヌクレオチドリピート伸長の5’側または3’側に位置する標的ゲノムDNA配列に相補的な配列に、塩基対形成により結合することができる配列を含むsgRNAに関し;
sgRNA分子は、黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼ(SaCas9)、またはSaCas9の機能的変異体であるCas9エンドヌクレアーゼの存在下、前記3’-UTR内で、前記ヌクレオチドリピート伸長の5’側または3’側のいずれかにおいて、2本鎖切断を誘導することができ;
sgRNA分子は、配列番号7~11からなる群から選択される配列を含む、15~40ヌクレオチドのガイド配列を含む。
【0010】
本明細書で開示される別の局面は、標的細胞のゲノムDNA内にあり、DMPK遺伝子の3’UTR内にある、ヌクレオチドリピート伸長を切除するための、CRISPR-Cas9システムの使用である。
【0011】
さらなる局面によると、細胞のゲノムDNAにおいて、DMPK遺伝子の3’-UTRからヌクレオチドリピート伸長を切除するための方法であって、CRISPR-Cas9システムを実行する方法が、本明細書で開示される。本方法は、細胞に、上述のsgRNA分子の対、および黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼまたは黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼの機能的変異体をコードする遺伝子を、導入することを含む。
【0012】
別の局面では、1型筋緊張性ジストロフィーを治療するための方法が、本明細書で開示され、ここでは、ヌクレオチドリピート伸長が、少なくとも1つの上述のsgRNA分子の対、および黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼまたは黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼの機能的変異体を用いて、DMPK遺伝子から切除される。
特定の実施形態では、切除されるヌクレオチドリピート伸長は、DMPK遺伝子の3’-UTR内に位置する、ビ、トリ、テトラ、ペンタまたはヘキサヌクレオチドリピート伸長であり、好ましくはトリヌクレオチドリピート伸長である。
特定の実施形態では、ヌクレオチドリピート伸長は、20~10000リピートなど、特に50~5000リピートなどの、20以上のリピートを含み得る。
【0013】
より具体的に言えば、本発明の使用および方法は、細胞、例えば、それを必要する対象の細胞に、以下を導入することを含む:
(i)第1のsgRNA分子;
(ii)配列番号11に示される配列を含む、15~40ヌクレオチド長の第2のsgRNA分子;および
(iii)黄色ブドウ球菌由来のCRISPR/Cas9エンドヌクレアーゼ、または黄色ブドウ球菌由来のCRISPR/Cas9エンドヌクレアーゼの機能的変異体;
ここで、第1および第2のsgRNAは、それぞれ、DMPK遺伝子の3’-UTR内のヌクレオチドリピート伸長の5’側および3’側に位置する配列に相補的であり、それにより、DMPK遺伝子の3’-UTR内の、ヌクレオチドリピート伸長の5’側に、2本鎖切断を誘導することによって、および、DMPK遺伝子の3’-UTR内の、ヌクレオチドリピート伸長の3’側に、2本鎖切断を誘導することによって、ヌクレオチドリピート伸長を切除するのに適切である。
【0014】
本発明は、1型筋緊張性ジストロフィー(DM1)の治療のための治療戦略を提供する。
【0015】
sgRNA分子は、DMPK遺伝子の3’-UTR内のゲノムDNA標的配列(単に、標的配列とも称する)の相補物(complement)に、塩基対形成により結合するように設計される。本標的配列は、プロトスペーサーと呼ばれ、PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)と呼ばれるヌクレオチドモチーフに隣接し、PAMは、実行された黄色ブドウ球菌Cas9エンドヌクレアーゼ(SaCas9)によって特異的に認識される。言い換えれば、sgRNA分子は、相補物をプロトスペーサーに結合させるために、プロトスペーサー配列に対応するガイドRNA配列を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、sgRNA分子は、ガイドRNA配列および足場(scaffold)配列を含み、ガイドRNA配列は、15~40ヌクレオチド、特に17~30ヌクレオチド、特に20~25ヌクレオチド、例えば20、21、22、23、24、または25ヌクレオチドを有する。特定の実施形態では、sgRNA分子は、21~24ヌクレオチドを有する。特定の実施形態では、sgRNA分子は、21または24ヌクレオチドからなるガイドRNA配列を含む。
【0017】
別の局面は、本明細書で提供されるsgRNAまたはsgRNA分子の対をコードするベクターに関し、ベクターは、好ましくはプラスミドまたはウイルスベクターであり、例えばrAAVベクターまたはレンチウイルスベクター、特にrAAVベクターである。
【0018】
いくつかの実施形態では、SaCas9エンドヌクレアーゼおよび/またはsgRNA分子は、1つまたは複数のベクター、例えば1つまたは複数のプラスミドまたはウイルスベクターから発現される。例えば、SaCas9エンドヌクレアーゼは、第1のベクターから発現され得、かつ第1および第2のsgRNA分子は、いずれも単一の第2のベクターから発現され得るか、または一方は第2のベクターから、他方は第3のベクターから発現され得る。別の実施形態では、CRISPR-Cas9システムを実行するのに必要な全ての要素が、単一のベクターに含まれている。別の実施形態では、SaCas9エンドヌクレアーゼおよびsgRNA分子は、インビトロでリボ核たんぱく質複合体(RNP)として組み立てられた後、トランスフェクション法によって細胞に送達される。さらなる実施形態では、精製された組換え型SaCas9エンドヌクレアーゼタンパク質およびsgRNA分子がインビトロで合成され、別々に細胞に送達される。
【0019】
別の実施形態では、上述のsgRNA分子の対は、別のsgRNA分子の対と組み合わせて用いられる。本実施形態では、組み合わせて用いられるsgRNA分子の対は、1つまたは複数のベクター、例えば1つまたは複数のプラスミドまたはウイルスベクターから発現され得る。
【0020】
別の局面は、本明細書に記載されるベクターを、トランスフェクトまたは形質導入した標的細胞に関する。
【0021】
さらなる局面では、SaCas9エンドヌクレアーゼ、またはSaCas9エンドヌクレアーゼの機能的変異体、および上述の第1および第2のsgRNA分子を含むキットが、本明細書で開示される。別の局面では、SaCas9エンドヌクレアーゼをコードするベクターおよび上述の第1および/または第2のsgRNA分子をコードするベクターを含むか、または、SaCas9エンドヌクレアーゼおよび一方または両方のsgRNA分子を発現する単一のベクターを含むキットが、本明細書で開示される。上述のように、キット内のベクターは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターであり得る。さらなる局面では、SaCas9エンドヌクレアーゼおよびRNA分子のリボ核たんぱく質複合体を含むキットが、本明細書で開示される。別の局面では、インビトロで別々に合成された、組換え型SaCas9エンドヌクレアーゼたんぱく質およびsgRNA分子を含むキットが、本明細書で開示される。さらに、本発明に記載されるキットは、本明細書に開示される方法および使用の実行において有用な、さらなる試薬(バッファー、および/または1つ以上のトランスフェクション試薬など)または装置を含んでよい。
【0022】
本発明の他の局面および実施形態は、以下の詳細な説明において、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】SaCas9およびSasgRNA発現カセット。Addgeneプラスミド61591およびその派生的プラスミドMLS43(元のCMVの代わりにより小さいプロモーターEFSを含む)およびMLS47(第2のsgRNAの発現のために、第2のカセットを含む)に由来する、黄色ブドウ球菌由来Cas9(SaCas9)の発現カセット。黄色ブドウ球菌由来のCas9の配列は、GenBank ID:CCK74173.1の配列である(Addgeneプラスミド61591)。
【0024】
図2】選択したsgRNAプロトスペーサー、それぞれのゲノム標的およびPAM、並びに切断効率。sgRNAのガイド配列に対応するsgRNAプロトスペーサーは、遺伝子DMPKのストップコドンからポリAシグナルに至る、CTGリピートの上流または下流のゲノム領域を標的とする。対応するゲノム標的配列およびSaCas9に特異的なPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)を提示している。全てのsgRNAを、そのゲノム標的でDNAを切断する能力について、試験した。オンラインプログラムTIDEにより解析した切断効率の結果を、表の最終列に示す。
【0025】
図3】DMPKの3’-UTRのCTGリピートを取り囲む、該遺伝子のストップコドン(ここでは、任意にヌクレオチド1と示す)から、ポリAまでの、ゲノム領域。DMPKの3’-UTR内の、全ての試験したsgRNAの位置を示す。SaCas9に特異的なそれぞれのPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)を、四角で囲んでいる。CTGリピート、並びにDMPKストップコドンおよびポリAシグナルに、下線を引いている。
【0026】
図4】HeLa細胞(A)およびDM1ヒト細胞(iPS由来MPC)(B)における、DMPKのCTGリピートの欠失。示した細胞株から抽出したgDNAから、DMPKの3’-UTR領域をPCR増幅して、PCR産物を1.5%アガロースゲルで分離した。細胞を、示したsgRNA対を含むプラスミドMLS43の派生体(derivative)でトランスフェクトした。下流のsgRNA23を、上流のsgRNA1、4、7および8Bのそれぞれと共に、試験した。SaCas9発現プラスミドのみでトランスフェクトした細胞、または、GFP発現プラスミドのみでトランスフェクトした細胞由来のgDNAを、コントロールとして用いた(ctrl)。欠失したPCRフラグメントの予想サイズを、アガロースゲルの写真の下部のパネルに示している。
【0027】
図5】DMPKのCTGリピート欠失を有するゲノム領域の配列決定による調査。CTGリピート欠失を含むものに対応するPCR産物(図4において矢印で示される)を、アガロースゲルから抽出し、精製し、標準的な配列決定により、配列決定した。非欠失ゲノム領域(WT)と欠失領域(Δの後に、sgRNA対のそれぞれの番号が続く)とのアラインメントは、SaCas9の正確な位置(すなわち、プロトスペーサーのヌクレオチドNとNとの間)を示す。
【0028】
図6】レンチウイルスベクターCRISPR-Cas9で処理したDM1細胞における、DMPKのCTGリピートの欠失とフォーカスの消失。A)それぞれ、CMVおよびU6プロモーターの発現下の、黄色ブドウ球菌(Sa)由来Cas9およびsgRNAレンチウイルスベクターの、二重システムの概略図。sgRNAのUPおよびDW:CTGリピートの上流および下流のゲノム領域を標的とするsgRNA。LTR:末端反復配列;CMV:サイトメガロウイルスプロモーター;NLS:核移行シグナル;HA:ヒトインフルエンザ血球凝集素エピトープ;pA:ポリアデニル化シグナル;U6:核内低分子RNAのヒトプロモーター;hPGK:ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター;GFP:増強緑色蛍光タンパク質。B)ゲノムPCRによる、DM1不死化筋芽細胞における、CTGリピート切除の検出。2600CTGリピートを有する患者由来の細胞を、MOIの増加したCas9およびsgRNAレンチウイルスベクター(4-23および8B-23の対、各アガロースゲル画像の左側に示す)で、形質導入した。編集された、および未編集のPCRアンプリコンを、それぞれ、黒および白の矢印で示している。CTGリピート欠失の割合の推定を、対応するPCRバンドの下部に示している(♯%DEL)。C)レンチウイルスベクターCRISPR-Cas9による処置後の、核内フォーカスを失ったDM1細胞の定量。
【0029】
図7】DM1筋芽細胞におけるCTGリピート伸長のゲノム切除の検出。A)EcoRI制限酵素部位、Alu多型、CTGリピート[(CTG)n]、本遺伝子のストップコドン(stop)、並びに、CTGリピートの上流および下流にあるsgRNA標的4および23に対するCas9切断位置(Cut UPおよびCut DW)の相対位置を示す、DMPK遺伝子地図。サザンブロットに用いたプローブは、エクソン13から15の領域に渡る。B)示した筋芽細胞から抽出し、EcoRIで切断し、上図に示した放射性プローブとハイブリダイズさせたDNAについての、サザンブロット画像。WTおよびDM1:レンチウイルスベクターCas9およびレンチウイルスベクターsgRNAを有する(+)、または有さない(-)、不死化した野生型およびDM1筋芽細胞。Ctrl1および2:2600CTGリピート伸長を有するDM1コントロールクローン;デルタ:CTG伸長の有無にかかわらず、両方の対立遺伝子にCTGリピートの欠失を有するDM1クローン。アスタリスク:2600CTGリピートを有するEcoRIフラグメント。C)各細胞型(WT、DM1、およびDM1デルタ)、2つの対立遺伝子(1および2)のそれぞれについてのCTGリピート[(CTG)n]の数、および、EcoRI切断ゲノムDNAバンドについてのそれぞれの予想サイズを示す表。筋芽細胞WTおよびDM1の両方において、2つの対立遺伝子の1つ(ここでは1として示される)は約1kbの長さのAlu多型を有する。
【0030】
図8】CTGリピート伸長の欠失は、DM1スプライシング異常を復帰させる。分化した筋芽細胞野生型(WT)およびDM1(CTGリピート伸長あり(ctrl1および2)とCTGリピート伸長なし(デルタ))における、示した転写産物のスプライシングプロファイル。(A)RT-PCRについてのアガロースゲル画像および(B)それらのそれぞれの定量化。ヒストグラムは、3回の独立した生物学的反復試験の平均値±標準偏差である。スチューデントt検定による統計解析:二峰性および不等分散。*:P<0.05;**:P<0.01;ns:有意差なし;DL:検出限界未満。
【0031】
図9】AAV-CRISPRによる、ヘテロ欠損DMSXLマウスにおける、DMPKのCTGリピート伸長のインビボでの欠失。A)それぞれ、SPc5-12およびU6プロモーターの発現下の、SaCas9およびsgRNAについてのAAV。ITR:末端逆位配列;SPc5-12:合成筋肉特異的プロモーター;Int:イントロン;NLS:核移行シグナル;HA:ヒトインフルエンザ血球凝集素エピトープ;pA:ポリアデニル化シグナル;Desm:デスミンプロモーター;eGFP-K=Kashペプチドに連結した、増強緑色蛍光タンパク質;U6:核内低分子RNAのヒトプロモーター;sgRNAのUPおよびDW:CTGリピートの上流および下流のゲノム領域を標的とするsgRNA。B)Cas9およびsgRNAについてのAAVベクターの筋肉内注射を受けたヘテロ欠損DMSXLマウスにおける、CTGリピート切除を示す、ゲノムPCR。Cas9およびsgRNAについてのAAVの、等量のウイルス粒子を、左TAに同時注射した(+):それぞれ、約0.6×1011および1×1011総Vg、3および6週齢(3-6w)。ネガティブコントロールとして、PBSを右TAに注射した(-)。C)非欠失PCR産物を示すゲノムPCR。黒矢印:欠失PCR産物(399bp)。白矢印:約1200のCTGリピートを有する非欠失PCR産物(約4527bp)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明者らは、本明細書において、黄色ブドウ球菌由来のCRISPR-Cas9システムが、DMPK遺伝子からヌクレオチドリピートを切り出すために効率的に用いられ、それによって1型筋緊張性ジストロフィー(DM1)の治療のための強力なツールを提供し得ることを、示す。
【0033】
従って、第1の局面において、以下が本明細書で開示される。
(i)DMPK遺伝子の3’UTR内に位置するヌクレオチドリピートの5’側に位置するゲノムDNAにおける標的配列(プロトスペーサー)に相補的な配列に、塩基対形成により結合することができる、第1のsgRNA分子。
(ii)DMPK遺伝子の3’UTR内に位置するヌクレオチドリピートの3’側に位置するゲノムDNAにおける標的配列(プロトスペーサー)に相補的な配列に、塩基対形成により結合することができる、第2のsgRNA分子。
(iii)DMPK遺伝子の3’UTR内に位置するヌクレオチドリピートの、それぞれ5’側および3’側に位置するゲノムDNAにおける標的配列に相補的な配列に、塩基対形成によりそれぞれ結合することができる、sgRNA分子の対。
【0034】
CRISPR-Cas9システム
クリスパー(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)(CRISPR)タイプIIシステムは、近年有望なゲノム編集ツールとして浮上しているRNA誘導エンドヌクレアーゼ技術である。本システムには、2つの異なる構成要素がある:(1)ガイドRNA、および(2)エンドヌクレアーゼ、この場合CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼ、Cas9である。ガイドRNAは、細菌性CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化型crRNA(tracrRNA)の組み合わせであり、シングルキメラガイドRNA(sgRNA)転写物として設計されている(Jinek et al., Science 2012 Aug 7; 337(6096):816-21)。sgRNAは、crRNAの標的特異性とtracrRNAの足場特性とを組み合わせて単一の転写物とされる。sgRNAおよびCas9が細胞内で発現されると、ゲノム標的配列は修飾され得るかまたは永久に破壊され得る。
【0035】
sgRNA/Cas9複合体は、sgRNAガイド配列と、ゲノムDNAの標的配列(プロトスペーサー)に対する相補物との間に、塩基対形成することにより、標的配列に動員される。Cas9の結合を成功させるために、ゲノム標的配列は標的配列の直後に正しいプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列も含まなければならない。gRNA/Cas9複合体の結合は、Cas9エンドヌクレアーゼが両方のDNA鎖を切断して2本鎖切断(DSB)を引き起こすことができるように、Cas9をゲノム標的配列に局在化させる。Cas9はPAM配列の上流の3番目と4番目のヌクレオチドの間を切断し得る。本発明で実行されるシステムによると、DSBはその後、非相同末端結合(NHEJ)修復経路を介して修復され得る。
【0036】
本発明は、1型筋緊張性ジストロフィー(DM1)に関連することが報告されているリピート配列を効率的に切除するための、本明細書において革新的な方法で改良されているこの強力なシステムの実行に関する。
【0037】
Cas9エンドヌクレアーゼ
タイプIICRISPR-CasシステムのDNAターゲティングメカニズムは、標的DNA上のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の存在に応じて、配列特異的な方法で、CAS9エンドヌクレアーゼが標的DNAを切断するように誘導する、ガイドRNAを包含する。
【0038】
PAM配列は、Cas9エンドヌクレアーゼが由来する細菌の種によって異なる。
【0039】
本発明の文脈において、Cas9エンドヌクレアーゼは、黄色ブドウ球菌に由来する(SaCas9)。それゆえ、DNAの切断はSaCas9に特異的なPAMの存在に依存している。SaCas9のコンセンサスPAM配列は、NNGRRTであり、RはAまたはGである(相補鎖ではAYYCNNであり、YはTまたはCである)(Ran FA et al, Nature 2015; Kleinstiver BP et al, Nat Biotech 2015)。
【0040】
本発明で用いられるCas9エンドヌクレアーゼはまた、SaCas9エンドヌクレアーゼの機能的変異体であってよい。
【0041】
「機能的変異体」とは、親のSaCas9エンドヌクレアーゼとは異なる配列を有し、親のSaCas9と同じプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を認識し、同じsgRNAの定常部分に適合することにより、DNAにおいて部位特異的2本鎖切断を誘導することができる、変異体Cas9エンドヌクレアーゼを意味する。前記変異体は、GenBank ID CCK74173.1を有するSaCas9か、Addgeneプラスミド61591によりコードされるSaCas9(配列番号42に示されるアミノ酸配列を有する)などの、親のSaCas9エンドヌクレアーゼに由来し得る。例えば、機能的変異体SaCas9エンドヌクレアーゼは、既知のSaCas9エンドヌクレアーゼと比較して、1つ以上のアミノ酸挿入、欠失、または置換を含み得、既知のSaCas9エンドヌクレアーゼと少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であり得る。
【0042】
ガイドRNA
黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼ、または黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼの変異体を用いて、DMPKからトリヌクレオチドリピート伸長を切除するために、特異的に設計されたシングルガイドRNA(すなわちsgRNA)が、本明細書で開示される。
【0043】
上述のように、sgRNAは、CRISPR-Cas9システムの一部であり、該システムにゲノムDNA標的特異性を提供する。標的ゲノムDNA配列は、15~40ヌクレオチド、特に20~30ヌクレオチド、特に20~25ヌクレオチド、例えば、20、21、22、23、24、25ヌクレオチドを含み、上述のように、その後に適切なプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)が続く。特定の実施形態では、sgRNA分子は、DMPK遺伝子の3’-UTR内のPAMの前の、15~40ヌクレオチド,特に20~30ヌクレオチド、特に20~25ヌクレオチド、例えば20、21、22、23、24、25ヌクレオチド、より詳細には21または24ヌクレオチドの、ゲノム配列の相補配列に相補的な、ガイドRNA配列を含む。
【0044】
特定の実施形態では、ガイドRNA配列は、DMPKの前記ゲノム配列に、同一であるか、または少なくとも80%同一であるか、好ましくは少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または少なくとも99%同一のいずれかであり、SaCas9に特異的なPAMの前の、15~40ヌクレオチド、特に20~30ヌクレオチド、特に20~25ヌクレオチド、例えば20、21、22、23、24、25ヌクレオチド、より詳細には21または24ヌクレオチドの前記ゲノム配列の相補配列にハイブリダイズすることができる。当業者には周知であるが、sgRNAはPAMモチーフを含まず、結果としてPAMに相補的な配列に結合しない。標的配列は、DMPK遺伝子の3’-UTR内で、ゲノムDNAのいずれの鎖上に存在してもよい。従って、本発明によると、標的配列全体およびPAMが、DMPK遺伝子の3’-UTR内に存在する。
【0045】
本発明の文脈において、「3’-UTR」は、DMPK遺伝子のストップコドンからDMPK遺伝子のポリアデニル化までのゲノム領域として定義される。
【0046】
以下のウェブツールによって提供されるツールなどの、適切なPAMを含む標的ゲノムDNA配列を同定するためのバイオインフォマティクスツールが、利用可能である:CRISPR Design(http://crispr.mit.edu)、E-CRISP(http://www.e-crisp.org/E-CRISP/designcrispr.html)、CasFinder(http://arep.med.harvard.edu/CasFinder/)、およびCRISPOR(http://tefor.net/crispor/crispor.cgi)。当業者はまた、Doench et al., Nat Biotechnol. 2014 Dec;32(12):1262-7 またはPrykhozhij et al., PLoS One. 2015 Mar 5;10(3):e0119372を参照することができ、CRISPR-Cas9システムに関する、および、適切なPAMを含む標的ゲノムDNAの同定に関する情報およびリソースを、さらに以下のウェブサイトhttp://www.cnb.csic.es/~montoliu/CRISPR/で見つけてもよい。あるいは、目的の遺伝子内で、BLASTまたはFASTAアルゴリズムなどの配列アラインメントツールにおいて、クエリーとして、これらの配列を使用することによって、PAM配列を同定することができる。
【0047】
しかし、本出願において、本発明者らは、DMPK遺伝子中のヌクレオチドリピートの下流の領域を標的とするsgRNAのうち、限られた数だけがこれらのリピートの効率的な切除を提供できることを示す。
【0048】
周知されているように、sgRNAはcrRNAとtracrRNAとの融合物であり、標的特異性(標的ゲノムDNA配列の相補配列に対する、ガイド配列塩基対形成により与えられる)およびCas9エンドヌクレアーゼに対する足場/結合能力の両方を提供する。言い換えれば、sgRNA分子は、ガイド配列(プロトスペーサーの相補物に結合するcrRNAの特異的部分に対応する)およびsgRNA定常部分(crRNAの非特異的部分、リンカーループ、およびtracrRNAを含む)を含む。両方とも黄色ブドウ球菌に由来するという意味で、sgRNA定常部分と選択されたCas9エンドヌクレアーゼは適合する。
【0049】
特定の実施形態では、sgRNAの定常配列(constant sequence)は、配列番号6に示されるSasgRNA定常部分(81ヌクレオチドの配列、Addgeneプラスミド61591由来)である。
【0050】
配列番号6:
GUUUUAGUACUCUGGAAACAGAAUCUACUAAAACAAGGCAAAAUGCCGUGUUUAUCUCGUCAACUUGUUGGCGAGAUUUUU
【0051】
別の実施形態では、sgRNAの定常配列は、配列番号6に示されるSasgRNA定常部分の機能的変異体であり、配列番号6に示される配列と少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一性を有し、SaCas9エンドヌクレアーゼまたはSaCas9エンドヌクレアーゼの機能的変異体に対する足場/結合能力を提供することができる。
【0052】
適切なプラスミドなどの、分子生物学キットおよびツールは、DMPKの標的ゲノムDNA配列およびSaCas9エンドヌクレアーゼの両方の観点から、所望の特異性を有するsgRNAを容易に生成するために、利用可能である。例えば、多くのプラスミドおよびツールが、Addgeneから利用可能である。特定の実施形態では、sgRNAまたはsgRNA対は、U6プロモーターの制御下で、プラスミドから発現される。特定の実施形態では、本発明のsgRNA対の両方のsgRNAは、2つのRNA足場を含有する単一の発現カセットから発現され、それぞれが、同じベクターのプロモーター、特にU6プロモーターの制御下にある(例えば、同じプラスミド内の、または、AAVゲノムまたはレンチウイルスなどの同じ組換え型ウイルスゲノム内の)。特定の実施形態では、2つのsgRNA足場は、逆位(すなわち、tail to tailの方向)またはタンデムで、特にタンデム(例えば、head to tailの方向)で提供される。別の実施形態では、SaCas9エンドヌクレアーゼ遺伝子をコードする遺伝子は、誘導性または構成的プロモーターなどのプロモーター、特にユビキタスまたは組織特異的プロモーター、特に筋特異的プロモーターに、作動可能に連結している。ユビキタスプロモーターには、例えば、EFS、CMV、SFFVまたはCAGプロモーターが含まれる。筋特異的プロモーターには、当業界で周知であるように、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、デスミンプロモーター、または合成C5.12プロモーターが含まれるが、これらに限定されない。さらに、SaCas9エンドヌクレアーゼの発現に用いられるプロモーターは、テトラサイクリン、タモキシフェン、エクジソン誘導性プロモーターなどの、誘導性プロモーターであり得る。
【0053】
第1および第2のsgRNA分子は、切除するべきDMPKのヌクレオチドリピート伸長のそれぞれ5’側および3’側にある領域に、それぞれ相補的である。したがって、sgNA分子は、PAMを伴うヌクレオチドリピート伸長の上流および下流の領域と特異的に結合するように設計されており、ここで標的配列全体およびPAMはDMPK遺伝子の3'UTR内にある。
【0054】
切除領域から標的配列(相同領域+PAM)までの距離は、重要でないかもしれないが、遺伝子構造の不安定化を最小限にするために、標的配列は、ヌクレオチドリピート伸長の最も近い末端から、500、400、300、200、100、90、80、70、60、50、40、30、20未満または10未満のヌクレオチド内にあるように選択され得る。例えば、ヌクレオチドリピート伸長の5’側でDSBの誘導を指示するように設計されたsgRNAを考慮すると、標的配列のPAMの最も3’側にあるヌクレオチドは、切除するべきヌクレオチドリピート伸長の第1の(5’から3’方向を考慮)ヌクレオチドである最も5’側のヌクレオチドから、500、400、300、200、100、90、80、70、60、50、40、30、20未満、または10未満のヌクレオチドの範囲内にある。
【0055】
sgRNA分子は、DMPK遺伝子の3’非翻訳領域内に位置するトリヌクレオチドリピート伸長を、SaCas9を用いて切除するために、設計される。本実施形態の特定の変異体において、本発明は、以下からなる群から選択される配列を含む、15~40ヌクレオチドのガイド配列を含むsgRNA分子に関する:
AGUCGAAGACAGUUC(配列番号7)
ACAACCGCUCCGAGC(配列番号8)
GGCGAACGGGGCUCG(配列番号9)
AGGGUCCUUGUAGCC(配列番号10)
AAUACCGAGGAAUGU(配列番号11)
【0056】
さらに特定の実施形態では、本発明は、以下からなる群から選択されるガイド配列を含む、sgRNA分子に関する:
GCCCCGGAGUCGAAGACAGUUC(配列番号1)
CAGUUCACAACCGCUCCGAGC(配列番号2)
GCGGCCGGCGAACGGGGCUCG(配列番号3)
GGCUCGAAGGGUCCUUGUAGCC(配列番号4)
GACAAUAAAUACCGAGGAAUGU(配列番号5)
【0057】
さらに特定の実施形態では、本発明は、以下からなる群から選択されるガイド配列を含む、sgRNA分子に関する:
【0058】
上記のように配列番号18では、GがU6プロモーターからの転写を開始するのに必要であるので、下線を引いたG塩基を、配列番号2と比較して導入した。しかしながら、当業者であれば、他のプロモーターがガイドコード配列(guide coding sequence)の直前のこの位置にGを必要としないこと、または当業界で周知であるように、1つ以上の他のヌクレオチド塩基を必要とし得ることを理解するであろう。
【0059】
本発明はさらに、配列番号1~5、および配列番号18からなる群から選択されるガイド配列を含むsgRNA分子をコードする配列を含む、上記に規定したベクターに関する。より特定の実施形態では、sgRNA分子をコードする配列はさらに、配列番号6に示されるsgRNA定常部分配列、または上記に規定したそれらの変異体をコードする配列を含む。より具体的には、sgRNA分子全体をコードする配列は、配列番号12~16からなる群から選択される。
【0060】
特定の実施形態では、sgRNA分子の対は、以下を含む一対のsgRNAである:
―DMPK遺伝子の3’UTR内に位置するトリヌクレオチドリピート伸長領域の上流(すなわち5’側)に、2本鎖切断(DSB)を誘導するために用いられる第1のsgRNA分子であって、ここで、上流のDSBは3’-UTR内に誘導される;
―DMPKのトリヌクレオチドリピート伸長領域の下流(すなわち3’側)にDSBを誘導するために用いられる第2のsgRNA分子であって、ここで、下流のDSBは3’-UTR内に誘導され、ここで、第2のsgRNA分子は、15~40ヌクレオチド長の、特に20~30ヌクレオチド、特に20~25ヌクレオチドの範囲であり、例えば20、21、22、23、24または25ヌクレオチドであり、特に21または24ヌクレオチドからなるガイド配列であって、かつ、配列番号11に示される配列を含むガイド配列を含む。
【0061】
さらに特定の実施形態では、第1のsgRNA分子は、15~40ヌクレオチド長,特に20~30ヌクレオチド、特に20~25ヌクレオチドの範囲の、例えば20、21、22、23、24または25ヌクレオチドからなる、特に21または24ヌクレオチドからなる、かつ、配列番号7~配列番号10から選択される配列を含む、ガイド配列を含む。好ましい実施形態では、第1のsgRNAのガイド配列は、配列番号1~4および配列番号18から選択されるヌクレオチド配列からなる。
【0062】
別の好ましい実施形態では、第2のsgRNAのガイド配列は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなる。
【0063】
別の実施形態では、本発明のsgRNA分子の対は、以下からなる群から選択される一対のガイド配列を含む:
-配列番号1および配列番号5;
-配列番号2(または配列番号18)および配列番号5;
-配列番号3および配列番号5;
-配列番号4および配列番号5;
【0064】
上述のように、本発明のsgRNAは、発現カセットから発現され得る。sgRNAの発現は、特に、U6プロモーターなどのプロモーターにより調節され得る。従って、本発明はまた、配列番号17に示されるU6プロモーターなどのプロモーターの制御下に置かれたsgRNAコード配列を含む、sgRNAの発現のためのカセットを含む。
【0065】
特定の実施形態では、発現カセットは、U6プロモーターからのsgRNAの発現のために、以下の配列を含む:
―5’から3’方向に、配列番号17、配列番号43および配列番号48の組み合わせ;
―5’から3’方向に、配列番号17、配列番号44および配列番号48の組み合わせ;
―5’から3’方向に、配列番号17、配列番号45および配列番号48の組み合わせ;
―5’から3’方向に、配列番号17、配列番号46および配列番号48の組み合わせ;または
―5’から3’方向に、配列番号17、配列番号47および配列番号48の組み合わせ。
【0066】
本発明の方法および使用
本発明は、SaCas9エンドヌクレアーゼおよびsgRNA分子を用いて、DMPKの標的ゲノムDNA配列に到達する様々な方法を企図している。いくつかの実施形態では、SaCas9エンドヌクレアーゼは、ポリペプチド形態で、細胞内に導入される。一変異体では、SaCas9エンドヌクレアーゼは、細胞透過性ペプチド(細胞への分子の取り込みを促進するペプチドである)にコンジュゲートまたは融合する。sgRNA分子はまた、直接的に、または、脂質誘導体、リポソーム、リン酸カルシウム、ナノ粒子などのトランスフェクション試薬、マイクロインジェクション、またはエレクトロポレーションを用いて、単離オリゴヌクレオチドとして、細胞に投与され得る。SaCas9エンドヌクレアーゼおよびsgRNA分子はまた、インビトロでリボ核たんぱく質複合体として予め組み立てられて、その後、直接的に、またはトランスフェクション試薬を用いて、細胞に送達されてもよい。
【0067】
別の実施形態では、本発明は、SaCas9エンドヌクレアーゼおよび/またはsgRNA分子を、標的細胞に、前記エンドヌクレアーゼおよび/またはsgRNA分子を発現するベクターの形態で、導入することを企図している。したがって、本発明はまた、本発明に記載のsgRNA分子またはsgRNA分子の対をコードするベクターに関する。細胞に遺伝子を導入し、発現させる方法は、当業界で知られている。発現ベクターは、物理的、化学的、または生物学的手段によって宿主細胞に移すことができる。発現ベクターは、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、微粒子銃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどの、既知の物理的方法を用いて、細胞に導入され得る。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、巨大分子複合体、ナノカプセル、微粒子、ビーズ、および脂質誘導体およびリポソームのようなコロイド分散系が含まれる。他の実施形態では、SaCas9エンドヌクレアーゼおよび/またはsgRNA分子は、生物学的手段、特にウイルスベクターにより、導入される。本発明の実施において有用な代表的なウイルスベクターには、アデノウイルス、レトロウイルス、特にレンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルス1型およびアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターが含まれるが、これらに限定されない。適切なウイルスベクターの選択は、当然、標的細胞およびウイルス親和性(tropism)によるであろう。
【0068】
ある実施形態では、SaCas9エンドヌクレアーゼおよびsgRNA分子は、異なるベクター内で提供される(例えば2つのベクターであって、1つ目がSaCas9エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子を含有し、2つ目が両方のsgRNA分子をコードしている;あるいは、3つのベクターであって、1つ目がSaCas9エンドヌクレアーゼをコードしており、かつ、それぞれのsgRNA分子について1つのベクターである)。別の実施形態では、DMPKからのトリヌクレオチドリピート伸長の切除に必要なSaCas9エンドヌクレアーゼおよび両方のsgRNA分子を含む、CRISPR-Cas9システムの全ての要素が、単一の発現ベクターから発現される。
【0069】
特定の実施形態では本発明のSaCas9エンドヌクレアーゼおよびsgRNA分子は、他のDM1治療薬と、同時にまたは連続的に組み合わせて使用される。特に、本発明のSaCas9エンドヌクレアーゼおよびsgRNA分子は、リピート伸長を切除するために、sgRNA分子の別の対、および別のまたは同じCas9エンドヌクレアーゼと、同時にまたは連続的に組み合わせて使用されてよい。
【0070】
特定の実施形態では、sgRNA分子の他の対は、EP16306426(参照によりその全体が組み込まれる)に開示された対から選択される。
【0071】
特定の実施形態では、sgRNA分子の他の対は、EP16306426の配列番号12に示されるヌクレオチド配列を含む、15~40ヌクレオチドのガイド配列を含むsgRNA分子を含む。
【0072】
特定の実施形態では、sgRNA分子の他の対は、第1のsgRNA分子を含み、第1のsgRNA分子はEP16306426の配列番号8、EP16306426の配列番号9、EP16306426の配列番号10、またはEP16306426の配列番号11に示されるヌクレオチド配列を含む、15~40ヌクレオチド長のガイド配列を含む。別の特定の実施形態では、sgRNA分子の他の対は、第1のsgRNA分子を含み、ここで第1のsgRNAのガイド配列は、EP16306426の配列番号1~4、およびEP16306426の配列番号20から選択されるヌクレオチド配列からなる。
【0073】
別の特定の実施形態では、sgRNA分子の他の対は、第2のsgRNA分子を含み、第2のsgRNA分子のガイド配列は、EP16306426の配列番号5、EP16306426の配列番号6、およびEP16306426の配列番号21から選択されるヌクレオチド配列からなる。
【0074】
ある局面では、本発明はまた、本発明のsgRNA分子または本発明のsgRNA対を含むか、あるいは、本発明のベクターでトランスフェクトまたは形質導入されている標的細胞に関する。場合により、標的細胞はさらに、例えば、本発明のsgRNA分子またはsgRNA対を発現するベクターと同じベクターから、SaCas9エンドヌクレアーゼを発現する。例えば、組換え型細胞は、iPS由来間葉系前駆細胞(MPC)、またはヒト胚性幹細胞(hESC)由来MPCから選択され得る。
【0075】
本発明のシステムは、DMPK遺伝子の3’非翻訳領域内で、ヌクレオチドリピート伸長、特にトリヌクレオチドリピートを切除するために、用いられる。特定の実施形態では、ヌクレオチドリピート伸長(例えば、トリヌクレオチドリピート伸長)は、ヌクレオチドモチーフの20~10000リピート、より具体的には50~5000リピートを含む。例えば、切除するべきヌクレオチドリピート伸長(例えば、トリヌクレオチドリピート伸長)は、任意の数のリピートを含んでよく、例えば、少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000リピート、または少なくとも2000リピートを上回るヌクレオチドモチーフを含んでよい。より具体的に言えば、リピートの数は、病的なリピートの数であり、これは、ヌクレオチドリピート(例えば、トリヌクレオチドリピート)が、病状に関連しているか、関連し得ることを意味する。特定の実施形態では、リピートは、DMPK遺伝子の3’非翻訳領域内のCTGリピートであり、20以上のリピートから、または50以上のリピートから、病的である。特定の実施形態では、ヌクレオチドリピート伸長は、20~10000リピート、より具体的には50~5000リピートを含む。特に、ヌクレオチドリピート伸長は、1000~3000リピート、より具体的には1200~2600リピートを含む。
【0076】
本明細書で用いられる場合、「治療すること」および「治療」という用語は、対象が、疾病の少なくとも1つの症状の軽減または疾病の改善を得るように、例えば有益な、または望ましい臨床結果を得るように、対象に組成物の有効量を投与することを指す。本発明の目的のために、有益な、または望ましい臨床結果には、検出可能か検出不能かにかかわらず、1つ以上の症状の軽減、疾病の程度の減少、疾病の安定(すなわち悪化しない)状態、疾病進行の遅延または緩徐、病状の回復または緩和、および寛解(部分的または完全かどうかにかかわらず)が含まれるが、これらに限定されない。治療することは、治療を受けていない場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することを指すことができる。あるいは、疾病の進行が低減または停止している場合に、治療は「有効」である。「治療」はまた、治療を受けていない場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することを意味することができる。治療を必要とするものには、ポリヌクレオチド配列の発現に関連する障害とすでに診断されているもの、並びに遺伝子感受性または他の要因によりそのような障害を発症する可能性があるものが含まれる。本明細書で用いられる場合、「治療すること」および「治療」はまた、疾病または障害の予防を指し、これらの疾病または障害の発症を遅延させるか、または予防することを意味する。
【0077】
本発明は、DMPK遺伝子の3’非翻訳領域内の、トリヌクレオチド(例えばCTG)リピート伸長に関連する、DM1であるヌクレオチドリピート伸長障害の治療を提供する。
【0078】
本発明はまた、医薬として用いるための、上述のsgRNA分子の対に関する。
【0079】
本発明はさらに、DM1を治療するための方法において用いるための、上述のsgRNA分子の対に関する。
【0080】
本発明はさらに、DM1の治療のための医薬の製造のための、上述のsgRNA分子の対の使用に関する。
【0081】
本発明はさらに、DM1を治療するための方法であって、上述のsgRNA分子の対
の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0082】
本発明に記載されるsgRNA分子、gRNA分子の対、組換え型SaCas9エンドヌクレアーゼたんぱく質、ベクター(1つ以上のsgRNA分子および/またはSaCas9エンドヌクレアーゼをコードするもの)および細胞は、それを必要とする対象において、sgRNA分子、sgRNA分子の対、ベクターおよび細胞と、その作用部位との接触を生じさせる任意の手段によって筋緊張性ジストロフィーを治療するために、製剤化され、投与され得る。
【0083】
本発明はまた、本発明のsgRNAもしくはsgRNA対、または、本発明の組換え型SaCas9エンドヌクレアーゼたんぱく質もしくはベクター(本発明のsgRNAまたはsgRNA対を、単独で、またはSaCas9エンドヌクレアーゼコード配列と共にコードするもの)、または、本発明の細胞を含む、医薬組成物を提供する。これらの組成物は、治療薬(本発明のsgRNA、ベクター、または細胞)の治療有効量および医薬的に許容できる担体を含む。具体的な実施形態では、「医薬的に許容できる」という用語は、動物およびヒトへの使用について、連邦政府または州政府の規制当局によって承認された、または米国または欧州薬局方または他の一般に認められている薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。これらの医薬担体は、水および油などの滅菌した液体であり得、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの、石油、動物、植物、または合成起源のものを含む。水は、医薬組成物を静脈内に投与する場合に、好ましい担体である。食塩水並びに水溶性デキストロースおよびグリセロール水溶液もまた、特に注射用溶液のための液体担体として使用することができる。好適な医薬品賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、グリセリンモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが含まれる。
【0084】
組成物は、所望であれば、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含み得る。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放製剤などの形態をとることができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含むことができる。好適な医薬担体の例は、E. W. Martinにより、「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。これらの組成物は、対象に適切に投与するための形態を提供するように、好適な量の担体と共に、好ましくは精製された形態の、治療有効量の治療薬を含有するであろう。
【0085】
医薬組成物は、哺乳動物、特にヒトへのあらゆる種類の投与に適しており、通例の手順に従って製剤化される。該組成物は、好適な従来の医薬担体、希釈剤および/または賦形剤を用いて、製剤化される。該組成物の投与は、標的組織がその経路を介して利用可能である限り、いずれの一般的な経路を介してもよい。これには、例えば経口投与、経鼻投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与または静脈内投与が含まれる。好ましくは、該組成物は、ヒトへの静脈内投与に適した医薬組成物として、製剤化される。一般的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌した、等張の、水性バッファー中の溶液である。必要に応じて、該組成物は可溶化剤、および注射部位の痛みを軽減するためにリグノカインなどの局所麻酔薬を含んでもよい。
【0086】
ヌクレオチドリピート伸長の治療において有効であろう、本発明の治療薬の量は、標準的な臨床技術により決定することができる。さらに、最適な投与量範囲を予測するのを助けるために、インビボおよび/またはインビトロアッセイを場合により使用してもよい。製剤化に使用される正確な投与量はまた、投与経路、および疾病の重篤度にも左右されるであろうし、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。必要とする対象に投与されるsgRNA、ベクターまたは細胞の投与量は、投与経路、対象の年齢または必要な治療効果を得るのに必要な発現レベルを含むが、これらに限定されない、いくつかの要因に基づいて、変化するだろう。当業者であれば、これらの要因やその他の要因に基づき必要とされる投与量範囲を、当業界の知識に基づいて、容易に決定することができる。
【実施例
【0087】
下記に、以下の実験部分および図において使用されるsgRNA番号と配列番号を対応させた表を提供する。

【0088】
材料および方法
プラスミド構築
黄色ブドウ球菌Cas9をコードするプラスミドは、プラスミドpX601-AAV-CMV::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::BsaI-sgRNA(MLS42)[Ran et al, 2015]に由来する。EFSプロモーターを、プライマーF-XhoI-MreI-EFS(MLS63)およびR-XmaI-NruI-EFS(MLS64)でPCR増幅し、プロモーターを欠いたpX601-AAV-::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::BsaI-sgRNAのXhoI/AgeI部位にクローニングして、pAAV-EFS::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::BsaI-sgRNA(MLS43)を得た。
【0089】
sgRNAの第2のカセット(U6::BbsI-sgRNA)を、プラスミドMLS43のAcc65I部位、第1のsgRNAカセットの上流に、タンデムにクローニングし、コンストラクトpAAV-EFS::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::BbsI-sgRNA;U6::BsaI-sgRNA(MLS47)を得た。既存のカセットU6::BsaI-sgRNAの同じ配列を用いたが、sgRNAプロトスペーサークローニング部位をBbsIに交換して、インサートU6::BbsI-sgRNAを、合成的に合成した(GeneCust)。
【0090】
ID番号nのSasgRNAプロトスペーサーを、順方向および逆方向のオリゴヌクレオチドの対として合成し(表2)、制限酵素部位BbsI(MLS47派生的プラスミドpAAV-EFS::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::n-DMPK-sgRNA;U6::BsaI-sgRNA)およびBsaI(プラスミドpAAV-EFS::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::n-sgRNA;U6::n-sgRNA_DMPK)へのクローニングに先立ち、インビトロでアニーリングした。
【0091】
レンチウイルスベクターは、pCCLプラスミド[pCC-hPGK.GFP(MLS87);Dr. Mario Amendolaから寛大にも譲渡]の主鎖を用いて構築した。インサートU6::4-sgRNA;U6::23-sgRNA_DMPKおよびU6::8B-sgRNA;U6::23-sgRNA_DMPK(酵素的に分解したプラスミドMLS93およびMLS95に由来)を、プラスミドMLS87のXhoI/EcoRV部位にクローニングして、pCCL-U6::4-sgRNA;U6::23-sgRNA_DMPK-hPGK.GFPおよびpCCL-U6::8B-sgRNA;U6::23-sgRNA_DMPK-hPGK.GFP(MLS100およびMLS102)を得た。プラスミドMLS42由来のCMVプロモーターを、プロモーターを欠いたpCCL-GFP(hPGKプロモーターを有さないMLS87)のXhoI/AgeI部位にクローニングし、pCCL-CMV-GFP(MLS107)を得た。
【0092】
SaCas9およびsgRNA対4-23に対するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを、配列決定ITRを有するpAAVプラスミド[Genethonプラスミドバンク]を用いて構築した。SaCas9を、鋳型としてプラスミドMLS42を用いて、プライマーF-PmeI-SaCas9(MLS146)およびR-NotI-SaCas9_3xHE(MLS147)によりPCR増幅した。pAAV-SPc5-12-SaCas9(MLS118)を得るために、ゲル精製したインサートSaCas9を、AAVプラスミドpC512-Int-smSVpolyA(MLS1)のPmeI/NotI部位にクローニングした。PCRインサートU6::4-23-sgRNA_DMPK[プライマーF-MCS-before-U6SasgRNA(MLS163)およびR-PmlI-EndSasgRNA-up(MLS166);鋳型としてMLS93]を、pAAV-Des-EGFP-KASH(MLS23/MLS27)の、AflII/MssI部位にクローニングすることにより、pAAV-Des-eGFP-KASH-U6::4-23-sgRNA_DMPK(MLS123)を得た。
【表1-1】

【表1-2】

【表1-3】

【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】
【0093】
sgRNAの設計
DMPKの3’-UTR内の全ての可能性のあるSaCas9標的を、手動で、およびプログラムCasBLASTR(http://www.casblastr.org/)およびCRISPOR(http://tefor.net/crispor)によって、スクリーニングした。PAM配列NNGRRTを、R=AまたはGで、スクリーニングに用いた(非コード鎖ではAYYCNN、Y=TまたはC[Ran et al, Nature 2015; Kleinstiver et al, Nat Biotech 2015].)。各sgRNAプロトスペーサーについて、潜在的オフターゲットの数を、ヒトゲノム「ホモサピエンス(Homo sapiens)(GRCh38/hg38)-ヒト(2014年4月2日更新)」に基づき、ミスマッチのカットオフの数≦4に設定して、プログラムCasOFFinder(http://www.rgenome.net/cas-offinder/)により計算した。潜在的オフターゲットはまた、ヒトゲノム「ホモサピエンス(Homosapiens)-ヒト-UCSC2013年12月(GRCh38/hg38)」に基づき、CRISPOR(http://tefor.net/crispor)によってもチェックした。
【0094】
sgRNAプロトスペーサーの選択は、それぞれの潜在的オフターゲット数とDMPKの3’-UTR領域内のそれらの標的位置を考慮して行った。各SasgRNAの長さは、21~24までで可変である。プロトスペーサーがGで始まっていない場合は常に、このヌクレオチドを配列の5’側に付加して、U6により駆動される転写を最適化した。
【0095】
細胞培養
HeLa細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS、Invitrogen)を添加した、高グルコールおよびGlutaMAX(Invitrogen)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で培養した。DM1細胞(iPS由来MPC)を、20%FBS、1%MEM Non-Essential Amino Acids Solution(Thermo Fisher Scientific)および1%GlutaMAX(商標)Supplement(Thermo Fisher Scientific)を添加したKnockOut DMEM(Thermo Fisher Scientific)で増殖させた。
【0096】
不死化したWTおよびDM1筋芽細胞を、15%FBSを添加した骨格筋細胞増殖培地(Promocell)、または199培地と混合し(1:4の比率;Life Technologies)、かつ20%FBS、25μg/mlフェツイン、0.5ng/mlbFGF、5ng/mlEGFおよび0.2μg/mlデキサメタゾン(Sigma-Aldrich)を添加したDMEMのいずれかで、培養した。
【0097】
筋芽細胞の分化は、コンフルエントな細胞において、増殖培地を分化培地(5μg/mlのインスリンを添加したDMEM)に置き換えることによって、誘導した。
37℃の標準温度および5%COを用いて細胞を増殖させ、培養細胞を維持した。
【0098】
トランスフェクション実験
細胞を、トランスフェクションの前日に、6または12ウェルプレートに播種し、70~90%の培養密度でトランスフェクトした。トランスフェクション試薬FuGENE HD(FuGENE-DNA比率3:1;Promega)、およびリポフェクタミン3000(Thermo Fisher Scientific)を用いて、それぞれHeLa細胞およびDM1 iPS由来MPC細胞を、トランスフェクトした。細胞を、トランスフェクションの2~3日後に遠心分離で回収し、細胞ペレットをゲノムDNA抽出まで-80℃で保管した。
【0099】
レンチウイルスベクターおよび形質導入実験
レンチウイルスベクターを、以前に記載されているように(Cantore et al,2015)、リン酸カルシウム沈殿による293T細胞の一過性の4-プラスミドトランスフェクションによって生成した。ベクター力価[1ml当たりのベクターゲノム(vg/ml)]を、感染したHCT116細胞のゲノムDNAに対する定量的PCRにより、決定した(ウイルス生成および力価測定は、それぞれGenethon Vector CoreおよびQualityコントロール Servicesによる)。
【0100】
DM1筋芽細胞を、形質導入の前日に、12ウェルプレートに播種し、培養密度70%で感染させた。形質導入前に増殖培地を除去し、最小容量(400μl/ディッシュ)の形質導入培地[10%FBSおよび4μg/mlポリブレンを添加した骨格筋基本培地(Promocell)またはDMEM]と交換した。ウイルスを、直接形質導入培地へ添加し、細胞を、5~6時間インキュベートした後に、完全増殖培地を添加した。形質導入後1日目に、細胞を6ウェルプレートに移し、2回継代培養してから、1)gDNA抽出のためにそれらを回収して凍結し、2)FISH/免疫蛍光分析のためにそれらを固定した。
【0101】
ゲノムDNA抽出およびゲノムPCR
ゲノムDNAを、HeLa細胞およびDM1 iPS由来MPC細胞から、GeneJet Genomic NA purification Kit(Thermo Fisher Scientific)またはQIAmp DNA Micro and Mini Kit QIAGEN)のいずれかを用いて、製造元の指示に従い抽出した。マウス筋肉由来の不死化DM1筋芽細胞からのgDNA抽出は同様に、MagNA Pure LC Total Nucleic Acid Isolation Kit(Roche)を用いたMagNA Pure 96システムによって行った。
【0102】
Platinum(登録商標) Taq DNA Polymerase High Fidelity(Invitrogen)を用いて、DMPKの3’-UTRを増幅した。PCRマスターミックスは、10%DMSOを添加して、製造元のプロトコール通りに調製した。鋳型としての150ngのgDNA、およびCas9予想切断部位の上流および下流にアニーリングするプライマー(表2)を用いて、PCRを行った。PCR条件は、以下の通りであった:95℃2分、[95℃30秒、52℃30秒、72℃30秒]×35、72℃10分。DMSXLマウス筋肉における長いCTGリピート伸長を増幅するには、より多くのサイクル(38)および、より長い伸長時間(5分)を用いた。GelRed DNA染色剤を含有する1.5~2%アガロースゲル中での電気泳動により、PCR産物を分離した。ゲル画像をUV露光時に撮影し、明るさおよびコントラストについて調整した。
【0103】
PCR産物をゲル抽出(NucleoSpin(登録商標) Gel and PCR Clean-up,Macheray Nageland)により精製し、サンガーDNA配列決定(Beckman Coulter Genomics)により配列決定した。
【0104】
DM1筋芽細胞における、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)および免疫蛍光
FISH実験は、いくつかの修正を加えて、Taneja KL[Taneja KL, 1998]により記載されているように行った[Denis Furling laboratory,Institut de Miologie,Paris]。簡単に説明すると、チャンバースライド(Corning)中で培養した細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定した。固定後、細胞をPBSで洗浄し、70%エタノール中、4℃で保管した。細胞をPBS中で水和させ、ハイブリダイゼーションバッファー(40%ホルムアミド、2×食塩水-クエン酸ナトリウム(saline-sodium-citrate)(SSC)、0.2%BSA)中で、プローブCy3標識2’OMe(CAG)7(Sigma-Aldrich)と共にインキュベートした。ハイブリダイゼーション後、顕微鏡スライドガラスを数回洗浄した後、細胞膜をPBS/0.25%TritonX-100中で透過処理した。SaCas9を、たんぱく質のC末端に位置するHAタグエピトープに対する抗体によって検出した。精製マウスモノクローナル抗HAタグ(Covance)を、5%BSA中で1/400の希釈度で一次抗体として使用し、室温で1時間30分間インキュベートした。ヤギ抗マウス633二次抗体(Themo Fisher Scientific)を、5%BSA中で1/1000の希釈度で使用し、室温で1時間インキュベートした。DAPIを含むマウント液(Mounting solution)(Southern Biotech)を用いて、カバーガラス付き顕微鏡スライドガラスを組み立てた。顕微鏡画像を共焦点顕微鏡(Leica DM 18)で取得し、Leica Application Suite Xソフトウェアで分析し、Adobe PhotoshopまたはImageJソフトウェアで処理した。
【0105】
サザンブロット解析
ゲノムDNAを、上述のWTおよびDM1不死化細胞株から抽出した。およそ5μgのgDNAを、EcoRI制限酵素により、37℃で一晩切断した。切断したDNAを、0.7%アガロースゲル上で、約16時間、50Vで分離した。移動後、アガロースゲルを1M NaOH溶液中で1時間インキュベートしてDNAを変性させ、次いで中和バッファー(1M Tris、3M NaCl pH8.5)中で2時間インキュベートした。ゲノムDNAフラグメントを、6×SSCバッファー中で、毛細管現象を介して、ゲルからGenescreen Plus Hybridization membrane(Perkin Elmer)に移し、Stratalinker UV架橋剤を用いてメンブレンを架橋した。DNAを、DMPK CTGリピートの領域をカバーする2×10 cpm/mLの1.4kb BamHIプローブ(B1.4)(Gourdon et al, 1997)と、ハイブリダイズさせた。プローブをHigh Prime DNA labeling Kit(Sigma)で予め標識し、50μg/ mLのHuman Cot-1 DNA(Thermo Fisher Scientific)を含むPerfectHyb Plus Hybridizationバッファー(Sigma)中で、68℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。シグナルは、Phosphorimagerを用いて出現させた。
【0106】
選択的スプライシングについてのRT-PCR
製造元のプロトコールに従って、TRIzol試薬(Life Technologies)を用いて全RNAを単離した。RT-PCRは、Arandelおよび同僚によって記載されたように(Arandel et al, 2017)、行った。簡単に説明すると、1μgのRNAをM - MLV逆転写酵素(Life Technologies)によって逆転写し、1μlのcDNA調製物を、表2に列挙したプライマーと共にPCR(ReddyMix、Thermo Fisher Scientific)に使用した。PCR産物を、2%アガロースゲル電気泳動によって分離し、UV曝露時にGelRedDNA染色で可視化した。ImageJソフトウェアを使用して各PCRバンドの光学密度(optical density)を定量化し、エクソンインクルージョン(exon inclusion)の割合を[エクソンインクルージョンバンド/(エクソンインクルージョンバンド+エクソンエクスクルージョン(exclusion)バンドの合計)]×100として計算した。
【0107】
動物およびAAVベクターの注射
DM1患者からクローニングした45kbのヒトゲノムDNAを有するDMSXLマウス(90% C57BL/6バックグラウンド)を、インビボ研究に使用した[Huguet et al, 2012]。トランスジェニック状態は、Gomes-Pereiraおよび共同研究者によって記載されているように[Gomes-Pereira et al,2007]、PCRによってアッセイした。マウスの飼育および取り扱いは、フランスの動物保護委員会によって定められたガイドライン「実験動物の管理および使用の手引き」に従って行われた:EEC86/609 Council Directive-Decree 2001-13。
【0108】
rAAVベクターを、以前に記載されているように(Ronzitti et al, 2016)、Genethon Vector Core and Quality Control Servicesによって、生成および力価測定した。
【0109】
ケタミン/キシラジン混合物で麻酔した、3および6週齢のDMSXLマウスに、筋肉内注射を行った。AAVウイルスを左TAに注射した(それぞれ、0.6×1011および1×1011総Vg/TA、3および6週);コントロールとして、PBSを右TAに注射した。注射の4週間後に、TA筋を回収し、液体窒素中で凍結した。
【0110】
結果
SaCas9およびsgRNA発現カセット
本研究で調べたCas9は、黄色ブドウ球菌由来のCas9(SaCas9)である。SaCas9はサイズが小さく、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに適合することができるので、本エンドヌクレアーゼは特に興味深い。SaCas9およびSasgRNA足場を含有する全てのプラスミドは、プラスミドpX601-AAV-CMV::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::BsaI-sgRNA(Feng Zhang Lab,Addegene番号61591、図1)に由来する。同じベクター内に、SaCas9と2つのsgRNAカセットを含めるために、当初のCMVプロモーターを、最初に、より小さいEFSに置き換えた(図1、MLS43)。SaCas9の発現およびその核局在化を、HAエピトープに対する抗体(Ab)を用いたウエスタンブロッティングおよび免疫蛍光によって検証した(データ不掲載)。次に、sgRNAについての第2のカセットを追加した。これは、既存のものと同じであるが、sgRNAプロトスペーサーのための異なるクローニング部位を伴う(図1、MLS47)。
【0111】
sgRNAプロトスペーサー(sgRNAのガイド配列に対応)は図2に挙げられており、それらは遺伝子DMPKのストップコドンからポリAシグナルに至る、CTGリピートの上流または下流のゲノム領域を標的としている。DMPKの3’-UTR内の試験した全てのsgRNAの位置を、図3に示す。
【0112】
sgRNAを、そのゲノム標的でDNAを切断する能力について、試験した。簡単に説明すると、HeLa細胞を、SaCas9およびたった1つのsgRNA(BbsI部位にクローニングしたプロトスペーサー)を有するプラスミドでトランスフェクトし、トランスフェクトの2~3日後に回収した。これらのトランスフェクトされた細胞から抽出したゲノムDNAを鋳型として用いて、各sgRNAのゲノム標的を囲むDMPKの3’-UTR領域を、PCR増幅した。PCR産物を、配列決定のために送り、トランスフェクトした細胞、およびトランスフェクトしていない細胞のクロマトグラムファイルを用いて、オンラインプログラムTIDE(http://tide-calculator.nki.nl/)により、切断効率を解析した。
【0113】
TIDE解析の結果は、図2の表の最終列に示している。
【0114】
この表の最終列は、試験したsgRNAプロトスペーサー間で、切断効率が異なることを示す。特に、試験した全ての上流プロトスペーサー(1、4、7、8B)は非常に効率的であり、42~47.4%の間に含まれる、TIDEによる切断率を有した。
【0115】
下流プロトスペーサーに関して、本発明者らは、驚くべきことにそれらのいくつかがCTGリピートの下流の領域を切断するのに、より効率的であることを見出した。特に、6個の下流プロトスペーサー(10、15B、22、17A、17Bおよび19)は1.1~7.9%の弱い切断率を有し、一方下流プロトスペーサー23は、DNAを切断するのに特に効率的であり、切断率は48.3%であった。
【0116】
これらの結果は、全てのsgRNAが、DNA切断に関して、全く同じ効率では挙動しないこと、そして予想外に、下流のsgRNA23が、CTGリピート伸長の下流でDNAを切断するのに特に有効であることを示す。
【0117】
ヒトDMPK遺伝子における、CTGリピートの、SaCas9媒介欠失
次に、病的CTG伸長の存在下で、ヒトDMPK遺伝子座において適切なsgRNAと組み合わせてSaCas9を用いた、CRISPR-Cas9システムの有効性を試験した。CTGリピート伸長を欠失させるために、同一のプラスミド内に、SaCas9および2つのsgRNAを有するコンストラクトを構築し、sgRNAの一つはCTGリピートより上流の領域を標的とし、もう一つはCTGリピートより下流の領域を標的とした(それぞれ、プラスミドMLS47のBbsIおよびBsaI部位にクローニングされている、図1参照)。
【0118】
単独での切断効率(TIDE解析、図2)に基づいて、sgRNA対を選択した。より詳細には、上流のsgRNA1、4、7および8Bを、それぞれ、下流のsgRNA10、15B、17A、17B、19および22と比較して最も高い切断率を示す、下流のsgRNA23と、試験した。
【0119】
SaCas9および示されたsgRNA対を有するプラスミドを用いて、HeLa細胞またはDM1細胞(i-Stem、Evryの、iPS由来MPC)をトランスフェクトした。DMPKの3’-UTRを、材料および方法に記載したようにPCR増幅し、PCR産物を、1.5%アガロースゲルで分離した(図4)。完全長の産物およびCTGリピート欠失を含む産物に対するバンドを、アガロースゲルから抽出し、配列決定により確認した。非欠失野生型DMPK3’-UTR領域と欠失した領域との間のアニーリングを図5に示し、試験したsgRNA対について切断部位を強調している(すなわち、プロトスペーサーのヌクレオチドNとNとの間)。
【0120】
まとめると、これらの結果は、記載されたSaCas9-sgRNAシステムが、ヒトDMPK遺伝子の3’-UTR領域からCTGリピートを効率的に切除するのに好適なことを示している。
【0121】
それはまた、下流のsgRNAの選択が、DMPK遺伝子の3’-UTR領域からのCTGリピートの効率的な切除を得るための、重要なパラメータであることも示している。
【0122】
要するに、本発明者らは、黄色ブドウ球菌由来のCas9エンドヌクレアーゼと共に用いた場合に、効率的な単独の切断効率につながる、特異的なsgRNAプロトスペーサーを、特定した。さらに本発明者らは、SaCas9エンドヌクレアーゼを適切なsgRNAと組み合わせて用いるCRISPR-Cas9システムが、DMPKの3’UTRからのCTGリピートの切除に、好適かつ効率的であることを証明した。
【0123】
DM1患者細胞株における、長いCTGリピート伸長の、CRISPR-Cas9媒介欠失。
長いCTGリピート伸長の欠失におけるCRISPR-Cas9の能力を試験するために、2600CTGリピートを有する患者由来の、不死化DM1細胞を使用した(Arandel et al, 2017)。SaCas9およびsgRNAについてのレンチウイルスベクターを構築した。これらのウイルスは、筋芽細胞を、高効率で形質導入することが知られている。レンチウイルスコンストラクトの図を、図6Aに図示する:SaCas9は、CMVプロモーターの制御下にあり、2つのsgRNAの対(CTGリピートの上流および下流の領域を標的とする。UPおよびDW)は、タンデムであり、共にU6プロモーターの制御下にある。細胞内のsgRNA発現を追跡するために、GFP発現カセットもsgRNAレンチウイルスベクターに含めた。
【0124】
DM1細胞は、Cas9およびsgRNAレンチウイルスベクターの感染効率(MOI、Multiplicity Of Infection)の上昇に伴い形質導入され、ゲノムPCRによりCTG欠失について試験した(図6B)。PCRは、材料および方法のセクションに記載したように、また、F1-DMPK-3UTRおよびR1-DMPK-3UTRのプライマー対を用いて行った。未処理細胞由来のgDNA(-/-)、または50MOIのsgRNAレンチウイルスベクターのみを形質導入した細胞由来のgDNA(-/50)を、ネガティブコントロールとして使用した。より低分子量のバンド(4-23対では303bp、8B―23対では414bp)は、伸長対立遺伝子と非伸長対立遺伝子とを区別することなく、CTGリピートのゲノム欠失を有するDNA産物を表す。より高分子量のバンドは、非伸長CTGリピートを有する、非欠失ゲノム領域のPCR産物を表す(870bp)。長さの程度のために、伸長非欠失CTGリピートをPCR増幅することはできなかった(2600リピートは、8600bpよりも長いPCR産物に相当する)。我々の結果は、接種したウイルス粒子の量とPCRバンドの強度との間に相関があることを示した:ベクターのMOIの上昇に伴い、CTG欠失に関するバンドの強度の増加と、非欠失PCR産物に関するバンドの強度の減少を、観察し得た。これらのデータは、Cas9と、選択されたsgRNA対4-23、および8B-23が、インビトロで、CTGリピートの効率的な欠失を導き得ることを示した。
【0125】
次に、CTG欠失が、核内フォーカスの存在に影響を与えるかどうかを理解することに興味を持った。したがって、我々は高いMOI(25および50)の両方のベクターで形質導入したDM1細胞を選択し、FISH分析を行った。未処理または2つのベクターのうち1つのみで処理したDM1細胞を、コントロールとして用いた。共焦点顕微鏡による画像取得の後、手動でフォーカスが消えた細胞の数を数え、この数を集団全体に対する割合として報告した(図6C)。注目すべきことに、すべての細胞が両方のレンチウイルスベクターに感染しているわけではないので、二重陽性細胞Cas9-sgRNAについて正規化した場合、図6Cに報告されている割合はより高くなるであろう。PCRの欠失について観察されたように、フォーカスの消失もまた、接種したウイルス粒子の量と相関し、本研究で用いられた最大のMOI(MOI50)において、フォーカスのない細胞の数が、より多かった。
【0126】
我々のデータは、CRISPR-Cas9媒介CTGリピート切除が、核へ移るフォーカスの消失を決定することを示した。
【0127】
ゲノムPCRにより得られた結果は、Cas9および選択されたsgRNAが、DMPK遺伝子の3’-UTRでCTGリピートを欠失させることができるが、非病的な数のCTGリピート(n=13)を有する対立遺伝子の欠失と、伸長CTGリピート(n=2600)を有する対立遺伝子の欠失とを区別しなかったことを示した。これらを区別するために、CRISPR-Cas9レンチウイルスベクターで処理した後にDM1シングルクローンを単離し、EcoRIで切断したゲノムDNAのサザンブロット解析を行った。DMPK内のEcoRI制限酵素部位、ならびにCas9の予想切断部位、およびサザンハイブリダイゼーションに使用される放射性プローブによって認識される領域の相対位置を、図7Aに表す。特に、本発明者らは、1)PCRによりCTGリピートの100%欠失を示し、かつ2)核内フォーカスの不在を示す、DM1デルタクローンを選択した。DM1クローンCtrl1(Cas9およびsgRNAについてネガティブ)およびCtrl2(Cas9についてネガティブだが、sgRNAについてポジティブ)を、コントロールとして用いた。非病的コントロールとして、5および14CTGリピートを有する不死化した野生型筋芽細胞(WT)もまた用いた。サザンブロット解析は、DM1デルタクローンが、伸長の有無にかかわらず、両方の対立遺伝子においてCTGリピート欠失を有することを示した(図7B)。2つの対立遺伝子の識別は、2つのEcoRI制限酵素部位間にAlu多型が存在するために可能であった。これは、EcoRIゲノムDNA切断により、サイズが約1kb異なる2つのバンドが得られることを意味し、1つはAlu多型を有する対立遺伝子(DM1細胞におけるCTG伸長を有する対立遺伝子に対応)のバンド、もう1つは、Aluを有さない対立遺伝子(DM1細胞におけるCTG伸長を有さない対立遺伝子、すなわち、非病的な数のCTGを有する対立遺伝子に対応)のバンドである。同じAlu多型はまた、野生型筋芽細胞に存在する。対立遺伝子当たりのCTGリピートの数[(CTG)n]、およびEcoRIバンドの予想サイズのリストを、図7Cに報告している。
【0128】
これらの結果は、Cas9および選択されたsgRNAが、DMPK遺伝子の両方の対立遺伝子、すなわち、非病的な数のCTGリピートを有する対立遺伝子および伸長CTGリピート(2600に等しい)を有する対立遺伝子の、3’-UTRにおいて、CTGリピートを欠失させることができることを、実証している。
【0129】
CTGリピート伸長のゲノム切除後の、DM1細胞におけるスプライシングプロファイル解析
サザンブロットによりCTG切除について解析したのと同じ細胞およびDM1クローン(図7)を、DM1患者の骨格筋、並びに患者の不死化DM1筋芽細胞において、調節解除されていることが知られているいくつかの転写産物(Arandel et al, 2017)の、選択的スプライシングプロファイルを解析するために使用した。細胞を筋管で分化させ(材料と方法を参照)、その後RNA抽出のために回収した。解析した転写産物に特異的なプライマーを、表2に挙げる。RT-PCRの結果を、図8に示している:各転写産物について、RT-PCRゲルの代表的画像を左側に報告し(図8A)、エクソンインクルージョンの定量化を右側に表している(図8B)。解析した6つの転写産物全てが、DM1デルタクローンにおいて、スプライシング異常の修正を示した。特に、転写産物LDB3、SERCA1、MBNL1およびDMDは、野生型(WT)と同じレベルに達する復帰(reversion)を示した。IRとBIN1の復帰はそれほど顕著ではなかったが、それでもDM1コントロールクローンCtrl1および2とは統計的に差があった。全体的に見て、これらの結果は、DM1細胞におけるCTG伸長の切除が、DM1スプライシング異常症(splicopathy)を復帰させることを示している。
【0130】
Cas9およびsgRNAについてのAAVは、DMSXLマウスにおいて、インビボで、CTGリピート伸長の欠失を誘導する。
我々のsgRNA対が、インビボで、CTGリピート欠失を誘導する能力を確認するために、DM1疾病の動物モデルとして、DMSXLマウスを選択する(Huguet et al, 2012)。DMSXLマウスは、約1200CTGリピートを有するヒトDMPK遺伝子の1コピーを有し、核内フォーカスの存在、スプライシングの欠陥、および筋力低下などの、ヒトの病態の多くの特徴を再現している。CRISPR-Cas9システムを、DMSXLマウスの筋肉組織に送達するために、SaCas9およびsgRNAについてのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを、構築した。AAVは効率的に筋肉に感染することが知られているが、約4.7kbの限られたパッケージング能力を有する(Warrington et al, 2006; Buj-Bello et al, 2008)。この理由により、2つのAAVを設計した。1つは、Cas9用であり、もう1つは、2つのタンデムなsgRNA用である。SaCas9は、筋肉内の導入遺伝子の良好な発現を推進する合成小型プロモーターである、SPc5-12の制御下にある(Li et al, 1999)。sgRNA対4-23およびそれらのU6プロモーターに関する配列を、図6に示す対応するレンチウイルスコンストラクトからPCR増幅し、AAVプラスミドの、デスミンプロモーター駆動eGFP-K発現カセット(Kは、核膜局在のためのKashペプチドである)のポリアデニル化配列の下流に、クローニングした(図9A)。
【0131】
Cas9およびsgRNA4-23の両方についてのAAVを、3および6週齢のヘテロ欠損DMSXLマウスの左前脛骨(TA)に同時注射した(0.6×1011および1×1011総Vg)。4週間後に、マウスを安楽死させ、筋肉を回収した。CTGリピートの欠失を検出するために、TAから抽出したゲノムDNAと、プライマーF1-DMPK-3UTRおよびR2-DMPK-3UTRを用いて、PCRを行った(材料および方法参照)。PBSのみを注射した、左TA由来のgDNAを、ネガティブコントロール(-)として用いた。ゲノムPCRの結果を図9Bに示す。AAVCas9-sgRNAを注射した全てのTA(+)が、CTGリピート欠失を有するアンプリコンの予想サイズ(399bp)に相当するPCRバンドを示した。非欠失CTGリピート伸長に関するPCR産物は、リピートの長さのためにほとんど増幅されず、図9Cに示している(予想サイズ4527bp)。
【0132】
我々の結果は、Cas9が、sgRNA対4-23と共同して、インビボで、DMSXLマウスモデルにおいて、ヒトDMPK遺伝子の3’-UTRにおける長いCTGリピート伸長を欠失できることを証明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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