(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-11
(45)【発行日】2022-10-19
(54)【発明の名称】衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 31/06 20190101AFI20221012BHJP
A41D 13/002 20060101ALI20221012BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20221012BHJP
【FI】
A41D31/06 100
A41D13/002
A41D31/02 G
(21)【出願番号】P 2020214028
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2020-12-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398056827
【氏名又は名称】株式会社ファーストリテイリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 雅彦
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134976(JP,A)
【文献】特開2013-044075(JP,A)
【文献】特表2016-509138(JP,A)
【文献】特開2019-069035(JP,A)
【文献】特開2014-139352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 31/06
A41D 13/002
A41D 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に複数のパック(P)が配置された衣服(1)において、
前記複数のパック(P)は、同一面(31a)上に配置され、かつ、互いに一部重複するように配置され
、
前記複数のパック(P)は、第1パック(PA)と、前記第1パック(PA)の直上に配置された第2パック(PB)と、を含み、
前記第1パック(PA)及び前記第2パック(PB)は、それぞれ、
外生地(31)と、内生地(32)と、充填材(30)と、を有し、
前記外生地(31)と前記内生地(32)との間に形成される空間(S)であって、前記外生地(31)と前記内生地(32)との接合線(LA、LB)で区画された空間(S)に、充填材(30)が配置され、
前記第2パック(PB)は、前記同一面(31a)における前記第2パック(PB)の側辺を規定する側部接合線(LC)の下部において、前記内生地(32)が折り重ねられた状態で、前記第1パック(PA)の前記内生地(32)に接合される
ことを特徴とする衣服(1)。
【請求項2】
前記同一面(31a)における前記第1パック(PA)の上辺を規定する上部接合線(LA)が、前記第2パック(PB)の下端(BE)よりも上部にある
ことを特徴とする請求項1に記載の衣服(1)。
【請求項3】
前記同一面(31a)における前記第2パック(PB)の下辺を規定する下部接合線(LB)が、前記第2パック(PB)の下端(BE)よりも上部にある
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の衣服(1)。
【請求項4】
前記第1パック(PA)の前記内生地(32)と、前記第2パック(PB)の前記内生地(32)とは、一連の生地である
ことを特徴とする請求項
1~3のいずれか一項に記載の衣服(1)。
【請求項5】
内部に複数のパック(P)が配置された衣服(1)において、
前記複数のパック(P)は、同一面(31a)上に配置され、かつ、互いに一部重複するように配置され、
内部側から順に、メッシュ生地(M)と中綿(30B)と外生地(31)とを積層した構造を有するメッシュ領域(R3、R7)が配置された
ことを特徴とする衣服(1)。
【請求項6】
内部に複数のパック(P)が配置された衣服(1)において、
前記複数のパック(P)は、同一面(31a)上に配置され、かつ、互いに一部重複するように配置され、
後身頃(11)及び肩部(14)を備え、
メッシュ領域(R3、R7)が、前記後身頃(11)のうち着用者の背中から腰を覆う背面部分、及び前記肩部(14)の、少なくともいずれか一方に配置された
ことを特徴とする衣服(1)。
【請求項7】
後身頃(11)を備え、
前記メッシュ領域(R3)が、前記後身頃(11)のうち着用者の背中から腰を覆う背面部分に直線状に配置され、
前記外生地(31)は、前記背面部分のうち、前記着用者の首裏に相当する箇所(18a)に、空気孔(17)を有する
ことを特徴とする請求項
5に記載の衣服(1)。
【請求項8】
フード(15)をさらに備え、
前記中綿(30B)は、吸湿発熱機能を有し、
前記外生地(31)は、前記空気孔を開閉可能なカバー(18b)を有し、
前記カバー(18b)は、着用者が前記フード(15)を被る場合に前記空気孔(17)を開状態とし、前記フード(15)を被らない場合に前記空気孔(17)を閉状態とする
ことを特徴とする請求項
7に記載の衣服(1)。
【請求項9】
前記パック(P)に内包される充填材は、ダウン、フェザー又は中綿である
ことを特徴とする請求項1~
8のいずれか一項に記載の衣服(1)。
【請求項10】
前身頃(10)、後身頃(11)、袖部(12)及び脇部(13)を備えた上衣であり、
前記前身頃(10)の全体、前記後身頃(11)の上部(11a)、及び前記袖部(12)の全体は、前記内部に、ダウンが内包された前記複数のパック(P)が配置され、
前記脇部(13)の全体及び前記後身頃(11)の下部(11b)は、生地に中綿(30A)が内包された
ことを特徴とする請求項1~
9のいずれか一項に記載の衣服(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
防寒用の衣服として、例えばダウンジャケットのように、表生地と裏生地との間にダウン等の充填材を配置したものがある。この種の生地は、表生地と裏生地とを縫い合わせて袋状に形成されたパックに充填材が内包されるため、保温性に富む。しかし、表生地と裏生地とを縫い合わせた接合箇所においては、充填材が配置されなかったりつぶれたりして、生地の厚みが減り、保温性が低くなる。
【0003】
このような接合箇所における保温性低下に対処するための提案がなされている(例えば、特許文献1、2参照。)。特許文献1は、表生地、中生地、裏生地とを積層し、各生地間に保温材を入れた防寒衣服において、表生地と中生地とを縫い合わせる縫い目と、中生地と裏生地とを縫い合わせる縫い目とを、互いに対向しない異なる位置に設けることを開示する。特許文献2は、第1のシートと第2のシートとの間に充填材を備えた保温性物品において、第1のシートと第2のシートとの複数の接合部を、互いに離間して点在させることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5879139号公報
【文献】国際公開第2016/121492号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の技術によれば、防寒衣服又は保温性物品自体における保温性の低下は緩和され得るものの、生地と生地との接合箇所(縫い目)における保温性は、依然として、接合箇所以外における保温性には及ばない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、生地と生地との接合箇所における保温性を向上させた衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る衣服(1)は、内部に複数のパック(P)が配置された衣服(1)において、前記複数のパック(P)が、同一面上に配置され、かつ、互いに一部重複するように配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生地と生地との接合箇所における保温性を向上させた衣服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る衣服について、図面を用いて説明する。以下に説明する構成は、本発明の実施形態としての一例であり、本発明はこれに限定されず、本発明の範囲内で変形が可能である。
【0011】
図1は、本実施形態の衣服1の正面図であり、
図2は、衣服1の背面図である。本実施形態の衣服1は、例えばジャケット、パーカー或いはコートである。
【0012】
衣服1は、前身頃10と、後身頃11と、袖部12と、脇部13と、肩部14及びフード15を備えている。
【0013】
前身頃10、後身頃11、袖部12、脇部13、肩部14及びフード15の各部分は、防寒素材が内包された防寒領域を有している。
【0014】
図3は、開いた状態の衣服1を内側から見た展開図であり、前身頃10、後身頃11、脇部13、及び肩部14の各部分に設けられた防寒領域及びメッシュ領域を模式的に示している。各部分の防寒領域には、防寒素材であるダウン又は綿素材のいずれかが充填材として内包されている。メッシュ領域には、ダブルラッセルなどのメッシュ素材が衣服1の内部に設けられている。衣服1の内部は、衣服1を着用した状態で着用者に面する部分である。
【0015】
ダウンは、詳しくは後述するが、例えば衣服1の外生地と内生地との間に空隙を設け、その空隙にダウンを入れて縫製等で閉じることにより内包されている。言い換えれば、ダウンは、外生地と内生地との間に形成され外生地と内生地とが接合されて区画された空間に、充填材として配置されたパックとして、所定の領域に配置される。綿素材は、例えばシート状に形成され、衣服1の内生地と外生地との間に挟み込まれ互いに縫製されることにより内包されている。なお、本開示において「上」、「下」、「上下」、「左右」は、
図1~
図3に示した衣服1を基準にした方向である。
【0016】
ここで、ダウンは、羽毛又は羽根毛(フェザー)の少なくともいずれかを含む素材である。綿素材は、綿を含む素材又は、綿と略同質の化学繊維、例えばレーヨン繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維、アクリレート系繊維などの繊維を含む素材である。ダウンは、綿素材よりも軽量で保温性に優れており、綿素材は、ダウンよりも強度が高く、水にも強い。さらに、綿素材には、機能綿の吸湿発熱綿を使用してもよい。
【0017】
図3に示すように前身頃10は、ダウンが内包されたダウン領域R1を有している。ダウン領域R1は、右前身頃10aと左前身頃10bのそれぞれに設けられている。ダウン領域R1は、右前身頃10aと左前身頃10bにおける上下方向に長い略長方形領域である。
【0018】
ダウン領域R1は、例えば前身頃10の裾部20と、前立て部21を除いた、上部と下部を含むほぼ全体にわたり設けられている。前立て部21は、右前身頃10aと左前身頃10bを合わせて互いに固定するためのボタンやファスナーが付いている部分であって、右前身頃10aと左前身頃10bの中央側の端部に設けられた上下方向に細長い部分である。ダウン領域R1は、衣服1の着用者の胸部、腹部、下腹部を覆うように設けられている。
【0019】
後身頃11は、例えば衣服1の着用者の背中を覆う上部11aと、着用者の臀部を覆う下部11bを有している。後身頃11は、その上部11aにおいて、左右側に配置されダウン素材が内包されたダウン領域R2と、左右のダウン領域R2間(中央)に上下方向に沿って直線状に配置され内側にメッシュ素材が設けられたメッシュ領域R3とを有している。また後身頃11は、その下部11bに、綿素材が内包された綿領域R4を有している。
【0020】
ダウン領域R2は、後身頃11の上部11aにおける左右側の略長方形領域に配置され、メッシュ領域R3は、後身頃11の上部11aにおける中央の、着用者の背骨に沿う、上下方向に長い略長方形領域に配置される。メッシュ領域R3は、上部から下部に向けて幅がやや狭まる形状を有する。綿領域R4は、後身頃11の下部11bの略長方形領域に配置されている。
【0021】
メッシュ領域R3は、後身頃11の上部11aにおける左右のダウン領域R2間において、境界線D1から上端T2までの領域に設けられている。境界線D1は、ダウン領域R2及びメッシュ領域R3(上部11a)と綿領域R4(下部11b)との間において、左右方向に延びる直線状に形成されている。
【0022】
綿領域R4は、後身頃11の下部11bにおける裾部20を除く下端T1から境界線D1までの領域に設けられている。
【0023】
境界線D1は、下端T1から、上端T2側に向けて、後身頃11の上下方向の全長L1の10%以上60%以下、好ましくは15%以上40%以下離れた位置に設けられている。メッシュ領域R3及びダウン領域R2(上部11a)の上下方向の全長L2は、例えば35cm以上70cm以下、好ましくは45cm以上60cm以下に設定されている。また、綿領域R4(下部11b)の上下方向の全長L3は、例えば10cm以上40cm以下、好ましくは15cm以上35cm以下に設定されている。
【0024】
さらに後身頃11の上部11aと下部11bとの全長比(L2対L3)は、例えば6~0.8対1の範囲に設定されている。
【0025】
図1及び
図2に示す袖部12は、その全体に、ダウン素材が内包されたダウン領域(図示せず)を有している。なお、ここでいう「袖部12の全体」は、実質的な全体であればよく、例えば袖部12の表面積の90%以上をいう。袖部12のダウン領域は、後述するダウン領域R1、R2と同様の構成を有する。
【0026】
図3に示す脇部13は、前身頃10と後身頃11の左右方向の間であって袖部12の下方に位置している。脇部13は、その全体に、綿素材が内包された綿領域R5を有している。
【0027】
なお、ここでいう「脇部13の全体」は、実質的な全体であればよく、例えば脇部13の表面積の90%以上をいう。例えば脇部13の裾部20には綿領域R5が設けられていなくてもよい。綿領域R5は、前身頃10、後身頃11及び袖部12に囲まれた上下方向に長い略長方形領域に配置されている。
【0028】
脇部13と右前身頃10aとの間、脇部13と左前身頃10bとの間には、メッシュ素材が設けられたメッシュ領域R6がそれぞれ配置される。メッシュ領域R6は、脇部13と右前身頃10aとの間、脇部13と左前身頃10bとの間から、右側、左側の袖部12にわたる各位置(着用者の脇下部分の位置)に延在する。
【0029】
肩部14は、着用者の背面側において、袖部12から襟に向かって帯状に形成されている。肩部14は、例えば後身頃11側の側端縁14aと、フード15側の上端縁14bと、袖部12側の下端縁14cとからなる外縁を有している。
【0030】
肩部14の側端縁14aは、袖部12の基端縁と、それより衣服1の中央側にある襟部15bの下端縁15cとを接続し、袖部12の基端縁から襟部15bの下端縁15cに向かって、次第に上がるように斜めに延設されている。
図3に示すように肩部14は、その全体に、メッシュ素材が設けられたメッシュ領域R7を有している。
【0031】
図1及び
図2に示すようにフード15は、本体部15aと襟部15bを有している。本体部15aは、少なくとも頂部15eを含む部分であり、着用者の頭部を覆うようにドーム状に形成されている。本体部15aの前側において、例えば着用者の顔のうち少なくとも目と鼻を外部に露出させる略長方形状の開口部15dが設けられている。開口部15dの上端に沿って、鍔部15fが設けられている。
【0032】
襟部15bは、前身頃10、後身頃11、肩部14及び本体部15aに囲まれた部分であって、着用者の首回りを覆うような帯状に形成されている。本体部15aは、綿素材が内包された綿領域を有している。襟部15bは、ダウン素材が内包されたダウン領域を有している。
【0033】
なお、例えばフード15の鍔部15fや前部15gには、防寒領域が形成されていなくてもよい。フード15は、衣服1の本体に対し取り外し自在であってもよいし、衣服1の本体に常に固定されていてもよい。フード15は着用者の頭部を覆うものであればよく、形状は前述のものに限定されない。
【0034】
<ダウン領域R1、R2>
図3に示すように、衣服1のダウン領域R1、R2において、内部に複数のパックPが配置されている。パックPは、袋状の生地に充填材としてダウンを内包したものである。複数のパックPは、同一面上に配置され、かつ、互いに一部重複するように配置される。衣服1の袖部12にも、ダウン領域R1、R2と同様のダウン領域が形成される。
【0035】
図4は、
図3におけるA部分の拡大図である。
図4において、下側のパックP(以下、第1パックPAとも称する)の上辺を規定する上部接合線LAが、上側のパックP(以下、第2パックPBとも称する)に覆われて、上部接合線LAと第2パックPBの下端BEとの間の領域が複数のパックPの重複部分となっている。この重複部分において、複数のパックPの間には、デッドエアDA(動かない空気)が形成されるため、上部接合線LAにおける保温効果が向上する。
図3に示すように、ダウン領域R1、R2において、上下方向に沿って、複数のパックPが、上述のように、互いに一部重複するように配置される。
【0036】
図5~
図8を参照して、複数のパックPの重複部分について詳細に説明する。以下、一例として、第1パックPAと第2パックPBとの重複部分について説明するが、他のパックPについても同様である。
図5は、
図3におけるB部分の拡大斜視図であり、第1パックPAと第2パックPBとの重複部分を下方から視た様子を示す。
図6は、
図3におけるB部分の説明図であり、
図7及び
図8はそれぞれ
図6の7-7断面図及び8-8断面図である。
図5及び
図6に示すように、綿領域R4の上側に隣接するダウン領域R2は、第1パックPAと、第1パックPAの直上に配置された第2パックPBとを含む。綿領域R4は、
図7に示すように、内生地33と外生地31との間に、例えばシート状に形成された綿素材からなる中綿30Aが配置される。
【0037】
第1パックPA及び第2パックPBは、
図7に示すように、それぞれ、外生地31と、内生地32と、充填材30としてのダウンと、を有する。外生地31と内生地32との間には空間Sが形成され、この空間Sに充填材30が配置される。空間Sは、外生地31と内生地32との接合線(上部接合線LA、下部接合線LB)で区画された空間である。接合線は、縫合、熱圧着、接着等によって実質的に線状とされた接合箇所を意味し、連続した接合箇所だけでなく、非連続の接合箇所が一方向に延在するものも含む。上部接合線LAは、同一面31aにおける第1パックPAの上辺を規定し、下部接合線LBは、同一面31aにおける第2パックPBの下辺を規定する。外生地31と内生地32、33とは、直接接合されてもよいし、充填材30又は他の部材を介在させて接合されてもよい。
【0038】
外生地31及び内生地32、33は、種々の生地を利用可能であるが、一例として高密度ナイロン素材を用いることができる。外生地31及び内生地32、33として例えば高密度ナイロン素材等の編目が詰まった素材を用いることにより、いわゆるダウンパックのような、充填材30を封入するための布袋が不要となり、軽量化が可能となる。外生地31及び内生地32、33は、それぞれ異なる素材でもよいし、同じ素材でもよい。外生地31は、ダウン領域R2と綿領域R4とで一連の生地を用いることができる。内生地32、33は、一連の生地を用いることができる。
【0039】
第1パックPA及び第2パックPBは、正面視略長方形状を有し、第1パックPA及び第2パックPBの各空間Sは、外生地31と内生地32との間において、上部接合線LA及び下部接合線LBによって上辺及び下辺が規定される。本実施形態において、第1パックPAの上部接合線LAは第2パックPBの下部接合線LBと共用される。すなわち、一の接合線によって、第1パックPAと第2パックPBとの境界が規定されている。また、第1パックPA及び第2パックPBの各空間Sは、メッシュ領域R3との境界をなす側部接合線LC(
図5、
図6参照)によって一方の側辺が規定され、綿領域R5との境界をなす側部接合線によって他方の側辺が規定される。綿領域R5は、綿領域R4と同様に構成される。
【0040】
図6に示すように、同一面31aにおける第1パックPAの上辺を規定する上部接合線LAが、第2パックPBの下端BEよりも上部にある。また、同一面31aにおける第2パックPBの下辺を規定する下部接合線LBが、第2パックPBの下端BEよりも上部にある。なお、
図5において、第2パックPBの下端BEの一部(第2パックPBの膨らんだ部分)が第1パックPAの上部接合線LA(第2パックPBの下部接合線LB)よりも上に位置するように見えるが、これは、第2パックPBの膨らんだ部分を下方から視ているためである。
【0041】
図7に示すように、第1パックPA及び第2パックPBにはそれぞれ充填材30が封入されて、第2パックPBは内生地32が内側の下方に向けて膨らんでいる。膨らんだ第2パックPBの下端BEは、第1パックPAの内生地32から離間している。第2パックPBの内生地32のうち、下端BEから下部接合線LBまでの部分と、第1パックPAの内生地32のうち、内外方向に視て第2パックPBで覆われる(第2パックPBと重複する)部分との間に、空隙が設けられる。言い換えれば、外生地31の同一面31aから内外方向に視て、第2パックPBの内生地32の下方(下端BEを含む一部)と第1パックPAの内生地32の上方(上部接合線LAの直下を含む一部)とが、空隙を挟んで対向する。この空隙において、デッドエアDAが形成され、温められた空気が動かず留まるため、保温性が向上する。
【0042】
このように、第1パックPAの上部接合線LA(内生地32と外生地31との接合箇所)は、第2パックPBに覆われ、かつ、第1パックPAと第2パックPBとの間にデッドエアDAが形成されるので、接合箇所における保温性を向上できる。
【0043】
図8に示すように、第2パックPBは、同一面31aにおける側辺を規定する側部接合線LCの下部において、内生地32が折り重ねられた状態(折り重ね部Fを設けた状態)で、第1パックPAの内生地32に接合される。第2パックPBの側辺の下部において内生地32が折り返されて、第1パックPAの内生地32に接合されるので、第1パックPAと第2パックPBとの重複状態を維持して、デッドエアDAを確実に形成できる。
【0044】
第2パックPBの折り重ね部Fにおいて、内生地32は、第1パックPAの上部接合線LAの位置と、第2パックPBの下端BEの位置とで屈曲された状態で、すなわちZ字状(蛇腹状)に折り重ねられた状態で、外生地31に接合される。ダウン領域R1、R2のそれぞれにおいて、複数のパックPの内生地32として一連の生地を用い、この生地を各パックPの下端で蛇腹状に折り重ねた状態で、外生地31に縫着することで、簡易な方法で、保温性を向上した衣服1を実現できる。
【0045】
(メッシュ領域R3、R7、R6)
図9は、メッシュ領域R3、R7の厚み方向における断面図である。メッシュ領域R3、R7は、着用者に面する内部側(内側)から順に、メッシュ生地Mと、中綿30Bと、外生地31とを積層した三層構造を有する。メッシュ生地Mは、例えばダブルラッセル等のメッシュ素材からなる。中綿30Bは、例えばシート状に形成された綿素材からなる。中綿30Bは、綿領域R4、R5の中綿30Aと同じ素材でもよいし異なる素材でもよい。外生地31は、例えば高密度ナイロン素材からなる。
【0046】
メッシュ領域R3、R7において、着用者にメッシュ生地Mが接することで通気性を向上し、かつ、中綿30B及び外生地31で保温性を維持できる。
【0047】
メッシュ領域R3は、後身頃11のうち着用者の背中から腰を覆う背面部分において、着用者の背骨に沿って直線状に配置され、メッシュ領域R7は、肩部14に配置される。このようにメッシュ領域R3、R7を、発汗しやすい箇所、体温が高くなりやすい箇所に配置することで、内部にこもった空気の効率のよい循環を促すことができる。
【0048】
また、中綿30Bとして、吸湿発熱機能を有する綿素材を用いることで、中綿30Bが、衣服1の内部にこもった湿気を吸収して発熱する。すなわち、メッシュ領域R3、R7を、メッシュ生地M、吸湿発熱機能を有する中綿30B、及び外生地31の三層構造とすることで、衣服1内部の湿気を積極的に除去して着用者の快適さを保ちつつ、暖かさを向上できる。
【0049】
メッシュ領域R6は、
図9に示す構造において、中綿30Bが除外された二層構造を有する。メッシュ領域R6の外生地31は、脇部13と右前身頃10aとの間及び脇部13と左前身頃10bとの間から右側及び左側の袖部12にわたる各位置に設けられた通気口と、この通気口を覆う開閉部16(
図1参照)と、を有する。この通気口は、スライドファスナー等の開閉部16によって開閉可能とされる。開閉部16が開かれると、メッシュ領域R6は、メッシュ生地Mが外部に露出した状態となり、衣服1の内部と外部とがメッシュ生地Mを介して連通する。一方、開閉部16が閉じられると、通気口が閉じられ、衣服1内部の空気が保持される。したがって、着用者は、開閉部16を開閉することで、所望の通気性及び/又は保温性を得ることができる。メッシュ領域R6において、メッシュ生地Mを二枚重ねとすることで、通気性を維持しつつ、開閉部16を開放した状態における耐久性を向上できる。
【0050】
(空気孔17)
図10A及び
図10Bは、空気孔17の説明図であり、着用者の首裏に相当する箇所18aの周辺を背面側から視た図である。
図10Aは着用者がフード15を被っている状態を示し、
図10Bは着用者がフード15を被らない状態を示す。尚、
図10Bにおいて、フード15の開口部15d及び鍔部15fは図示を省略する。後身頃11の外生地31は、着用者の首裏に相当する箇所18aにおいて、空気孔17を有する。外生地31は、空気孔17を開閉可能なカバー18bを有する。着用者の背中から腰を覆うように直線状に設けられたメッシュ領域R3を通過する空気は、空気孔17から衣服1の外部に放出される。内部にこもった空気を空気孔17から外部に放出することで、空気の循環を一層促進できる。
【0051】
空気孔17は、フード15によって覆われる位置に設けられる。この構成により、カバー18bは、着用者がフード15を被る場合に空気孔17を
図10Aに示す開状態とし、フード15を被らない場合に空気孔17を
図10Bに示す閉状態とする。
【0052】
衣服1は、ダウン領域R1、R2において同一面31aに複数のパックPが重複して配置され、デッドエアDAが形成されることにより、保温力(暖かさ)が極めて高い。この衣服1が、例えば-15℃~-20℃といった低温環境で着用された場合において着用者がフード15を被ると、頭部が覆われることで暖かさが増すが、汗ばむほどの暖かさとなり得る。そこで、着用者がフード15を被った時には、カバー18bが開状態となるようにしている。開状態とされた空気孔17を介して衣服1の内部と外部とが連通するので、着用者の背面部分近傍の湿気を含む空気がメッシュ領域R3及び空気孔17を通って外部に放出される。この構成により、着用者がフード15を着用した時の暖かさの向上と、衣服1内部の湿気を除去することによる快適さの向上とを両立できる。
【0053】
メッシュ領域R3の中綿30Bとして吸湿発熱機能を有する綿素材を用いることで、メッシュ領域R3において内部にこもった湿気を積極的に吸収し、内部の空気を空気孔17から外部に放出して、空気の循環を促すことができる。
【0054】
一方、着用者がフードを被らない時には空気孔17がカバー18b及びフード15によって塞がれることで、空気孔17を介して衣服1の内部と外部とが連通せず、衣服1内部の保温性が維持される。
【0055】
本実施の形態によれば、前身頃10の全体、及び後身頃11の上部11aにおける左右側に設けられたダウン領域R1、R2(袖部12におけるダウン領域も含む。以下同様。)において、複数のパックPが同一面31a上に配置され、かつ、互いに一部重複するように配置される。これにより、互いに重複した複数のパックP(第1パックPA、第2パックPB)間にデッドエアDAが形成されるため、パックPの重複部分における保温性(保温効果)が向上する。すなわち、生地と生地とを接合して形成されたパックPの縁である接合箇所における保温性を向上できる。
【0056】
ダウン領域R1、R2において、同一面31aにおける第1パックPAの上辺を規定する上部接合線LAが、第2パックPBの下端BEよりも上部にある。これにより、第2パックPBの下端BEと第1パックPAの上部接合線LAとの間に、デッドエアDAが形成される。このため、第1パックPAの上辺の嵩が低い部分(コールドスポット)を、デッドエアDA及び第2パックPBで覆って、保温効果を向上できる。
【0057】
ダウン領域R1、R2において、同一面31aにおける第2パックPBの下辺を規定する下部接合線LBが、第2パックPBの下端BEよりも上部にある。これにより、第2パックPBの下端BEと第1パックPAの上部接合線LAとの間に、デッドエアが形成される。このため、第2パックPBの下辺の嵩が低い部分を、デッドエアDA及び第2パックPBで覆って、保温効果を向上できる。
【0058】
ダウン領域R1、R2において、第2パックPBの側辺を規定する側部接合線LCの下部において、内生地32が折り重ねられた状態で、第1パックPAの内生地に接合される。すなわち、第2パックPBの側辺の下部において内生地32が折り返されて、第1パックPAの内生地32に接合される。これにより、第1パックPAと第2パックPBとの重複状態を維持して、デッドエアDAを確実に形成できる。
【0059】
ダウン領域R1、R2において、第1パックPAの内生地32と、第2パックPBの内生地32とは、一連の生地である。これにより、例えば、一枚の内生地32を蛇腹状に折り曲げて外生地31に縫着するといった、簡易な方法で、保温性を向上した衣服1を実現できる。
【0060】
メッシュ領域R3、R6、R7が配置されることにより、通気性を向上できる。メッシュ領域R3、R6、R7は、複数のパックPが重複配置されてデッドエアDAが形成されたダウン領域R1、R2に近接した位置に配置されることで、体温が高くなりやすい箇所における通気性を向上できる。これにより、保温性及び通気性の双方を向上させた防寒着を実現できる。
【0061】
メッシュ領域R3、R7は、内部側から順に、メッシュ生地Mと中綿30Bと外生地31とを積層した構造を有する。これにより、着用者にメッシュ生地Mが接することで通気性を向上し、かつ、中綿30B及び外生地31で保温性を維持できる。
【0062】
メッシュ領域R3、R7が、後身頃11のうち着用者の背中から腰を覆う背面部分、及び肩部14の、少なくともいずれか一方に配置される。このように、発汗しやすい箇所、体温が高くなりやすい箇所にメッシュ領域を配置することで、内部にこもった空気を効率よく外部に放出させて空気の循環を促すことができる。
【0063】
衣服1は、ダウン領域R1、R2においてデッドエアDAが形成されるので、保温性が高い。そこで、体温が高くなりやすい箇所にメッシュ領域R3、R7、R6を設けることで、通気性を向上して、暖かさと快適さとを両立できる。
【0064】
外生地31は、メッシュ領域R3が配置された背面部分のうち着用者の首裏に相当する箇所18aに、空気孔17を有する。これにより、内部にこもった空気を空気孔17から外部に放出することで、空気の循環を一層促進できる。
【0065】
メッシュ領域R3において、中綿30Bが吸湿発熱機能を有し、外生地31が空気孔17を開閉可能なカバー18bを有し、カバー18bは、着用者がフード15を被る場合に空気孔17を開状態とし、フード15を被らない場合に空気孔17を閉状態とする。これにより、着用者がフード15を被らない時(それほど寒くない時)には空気孔17がカバー18b及びフード15によって塞がれることで保温力が維持される。
【0066】
一方、着用者がフード15を被った場合には、開状態とされた空気孔17を介して衣服1の内部と外部とが連通するので、着用者の背面部分からの湿気を含む空気がメッシュ領域R3及び空気孔17を通って外部に放出される。内部にこもった空気を空気孔17から外部に放出することで、空気の循環を一層促進できる。
【0067】
上記実施の形態において、パックPに内包される充填材30は、ダウンに限らず、フェザー又は中綿であってもよい。また、充填材30は、ダウン、フェザー及び中綿のうち、いずれか二つ、又は三つを混合したものを含んでもよい。
【0068】
ダウン領域R1、R2において、第1パックPAの上部接合線LAと、第2パックPBの下部接合線LBとは、別々の接合線であってもよい。上記実施の形態のように第1パックPAの上部接合線LAと第2パックPBの下部接合線LBとを共用することにより、ダウン領域の構造を簡素化できる。
【0069】
衣服1の外生地31として通気コントロール素材を用いることで、例えば、衣服1内部の湿度に応じて、低湿度状態では生地の編目が閉じて通気を抑制し、高湿度状態では編目が開いて通気性を向上させる。これにより、衣服1の内部の湿気を、メッシュ領域R3、R7、R6を介して外部に放出しやすくできる。
【0070】
上記実施の形態において、後身頃11は、その下部11bに、綿素材が内包された綿領域R4を有している。綿素材はダウンよりも強度が高いので、例えば衣服1の着用者が着座するたびに後身頃11の下部11bが着用者の臀部で踏まれても、衣服1の防寒機能が劣化したり衣服1の形状が変化することを抑制することができる。
【0071】
また、綿素材はダウンに比べて水に強いため、着用者が濡れた場所に座っても衣服1の防寒機能や耐久性が劣化することを抑制することができる。この構成は、アウトドア用、スキー、スケートボードなどのスポーツ用の衣服1に特に適している。
【0072】
脇部13は、その全体に綿領域R5を有しているので、衣服1の着用者が脇を締めて腕を十分に閉じて身体に着けることができる。よって、衣服1の着用者のシルエットをスリム化することができる。
【0073】
フード15は、少なくとも頂部15eを含む本体部15aに、綿素材が内包された綿領域を有するので、フード15が雨や雪などにより濡れた場合でもダウンに比べてフード15の防寒機能が劣化することを抑制することができる。
【0074】
フード15の襟部15bは、ダウンが内包されたダウン領域を有しているので、フード15の防寒性及び軽量性を確保することができる。
【0075】
肩部14は、メッシュ生地Mと中綿30Bとが積層されたメッシュ領域R7を有している。肩部14にメッシュ生地Mが配置されることで、体温が高くなりやすい(発汗しやすい)肩における通気性を向上できる。肩部14に中綿30Bが配置されることで、肩部14が雨や雪などにより濡れた場合でもダウンに比べて肩部14の防寒機能が劣化することを抑制することができる。また、肩部14に中綿30Bが配置されることで、リュックなどを背負ったときの紐により肩部14の防寒素材が劣化することを抑制することができる。この構成は、アウトドア用、スキー、スケートボードなどのスポーツ用の衣服1に特に適している。
【0076】
上記実施の形態において、後身頃11は、メッシュ領域R3及び綿領域R4がなく、後身頃11全体が、複数のパックPが重複配置されたダウン領域R2であってもよい。この場合、衣服1の保温性、軽量性を向上することができる。
【0077】
上記実施の形態において、肩部14は、メッシュ領域R3の代わりにダウン領域又は綿領域を有していてもよい。またフード15は、本体部15aと襟部15bの両方が、綿領域であってもよいし、ダウン領域であってもよい。
【0078】
さらに衣服1は、前身頃10が上部と下部とに区分され、上部にダウン領域R1が配置され、下部に綿領域が配置されてもよい。前身頃10の上部は、例えば衣服1の着用者の胸部と腹部を覆う部分であり、下部は、衣服1の着用者の下腹部を覆う部分である。
【0079】
以上の実施の形態における衣服1は、他の形状を有するものであってもよい。フード15はあってもなくてもよい。複数のパックPが同一面上に重複配置されてデッドエアが形成される衣服1は、ジャケット、コート、パーカー、インナーダウン等の上衣に限定されず、パンツ等の下衣であってもよいし、帽子、手袋等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、生地と生地との接合箇所における保温性を向上させた衣服を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 衣服
10 前身頃
11 後身頃
12 袖部
13 脇部
14 肩部
15 フード
R1 ダウン領域
R2 ダウン領域
R3 メッシュ領域
R4 綿領域
R5 綿領域
R6 メッシュ領域
R7 メッシュ領域